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特開2023-101005音響制御部材及び音響制御部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101005
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】音響制御部材及び音響制御部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20230711BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/16 160
H04R1/02 101E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081428
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2021512141の分割
【原出願日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019073126
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221926
【氏名又は名称】東北パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大介
(72)【発明者】
【氏名】早坂 伸一
(57)【要約】
【課題】スピーカからの放音における音質を更に向上させることが可能な音響制御部材及び当該音響制御部材の製造方法を提供する。
【解決手段】スピーカの背面側に且つ当該背面から間隔を空けて配置される音響制御マットSであって、スピーカからの放音に起因してアウターパネルに発生する振動を抑制する制振層2と、制振層2のスピーカ側の面に積層され且つ吸音材料を含む吸音層1と、を備え、吸音層1のスピーカ側の面に、スピーカ側から見て凹形状の凹領域1Bと、スピーカ側から見て凸形状の凸領域1Aと、が形成されており、凹領域1Bにおける吸音材料の密度と、凸領域1Aにおける吸音材料の密度と、が異なっている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカの背面側に且つ当該背面から間隔を空けて配置される音響制御部材において、
前記スピーカからの放音に起因して、前記音響制御部材が取り付けられる被取付部材に発生する振動を抑制する制振層と、
当該制振層の前記スピーカ側の面に積層され且つ吸音材料を含む吸音層と、
を備え、
前記吸音層の前記スピーカ側の面に、当該スピーカ側から見て凹形状の凹領域と、当該スピーカ側から見て凸形状の凸領域と、が形成されており、
当該凹領域における前記吸音材料の密度と、当該凸領域における前記吸音材料の密度と、が異なっており、
前記凹領域と前記凸領域との間に位置する斜面部の表層部における前記吸音材料の密度が、当該斜面部の内部における前記吸音材料の密度より高くなっていることを特徴とする音響制御部材。
【請求項2】
請求項1に記載の音響制御部材において、
前記吸音層の前記スピーカ側の面に、表面層を更に備えることを特徴とする音響制御部材。
【請求項3】
請求項2に記載の音響制御部材において、
前記表面層が前記吸音材料と同類の材料からなることを特徴とする音響制御部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の音響制御部材において、
前記制振層が弾性材料からなることを特徴とする音響制御部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の音響制御部材において、
前記凹領域における前記吸音材料の密度が前記凸領域における前記吸音材料の密度より大きいことを特徴とする音響制御部材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の音響制御部材において、
前記吸音層が、前記吸音材料を含む基材に対する加熱プレス加工により形成されていることを特徴とする音響制御部材。
【請求項7】
スピーカの背面側に且つ当該背面に対して間隔を空けて配置される音響制御部材を製造する音響制御部材の製造方法において、
吸音材料を含む基材に対して加熱プレス加工を施し、表面に凹領域と凸領域とを有する吸音層を形成する吸音層形成工程と、
前記凸領域及び前記凹領域が形成された前記吸音層の前記表面と反対の表面に、弾性部材を含む制振層であって前記スピーカからの放音により前記音響制御部材が取り付けられる被取付部材に発生する振動を抑制する制振層を形成する制振層形成工程と、
前記凸領域及び前記凹領域が形成された前記吸音層の前記表面に表面層を形成する表面層形成工程と、
を含み、
前記凹領域における前記吸音材料の密度と、当該凸領域における前記吸音材料の密度と、が異なっており、
前記凹領域と前記凸領域との間に位置する斜面部の表層部における前記吸音材料の密度が、当該斜面部の内部における前記吸音材料の密度より高くなっており、
前記表面層が形成されている前記音響制御部材の側が前記スピーカ側に配置されることを特徴とする音響制御部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、音響制御部材及び音響制御部材の製造方法の技術分野に属する。より詳細には、スピーカの背面側に且つ当該背面から間隔を空けて配置される音響制御部材及び当該音響制御部材の製造方法の技術分野に属する。
背景技術
【0002】
従来、車両に搭載されるスピーカに対する音質の向上が求められている。この要望に関連する従来技術の一例として、下記特許文献1に記載された技術がある。この特許文献1に記載されている技術では、スピーカからの放音に起因した振動を抑制する制振部材の製造方法として、ウレタン材料の表面にポリウレタン膜を被膜形成する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-232735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スピーカ自体における近年の性能の向上を鑑みたとき、これを車両等の狭い空間に配置するに当たっては、当該空間の形状や大きさに起因した音質の低下を防止することで、聴感上の音質の更なる向上が求められている。
【0005】
そこで本願は、上記の要請に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、車内におけるスピーカの音質の低下を防止することが可能な音響制御部材及び当該音響制御部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、スピーカの背面側に且つ当該背面から間隔を空けて配置される音響制御部材において、前記スピーカからの放音に起因して、前記音響制御部材が取り付けられる被取付部材に発生する振動を抑制する制振層と、当該制振層の前記スピーカ側の面に積層され且つ吸音材料を含む吸音層と、を備え、前記吸音層の前記スピーカ側の面に、当該スピーカ側から見て凹形状の凹領域と、当該スピーカ側から見て凸形状の凸領域と、が形成されており、当該凹領域における前記吸音材料の密度と、当該凸領域における前記吸音材料の密度と、が異なっており、前記凹領域と前記凸領域との間に位置する斜面部の表層部における前記吸音材料の密度が、当該斜面部の内部における前記吸音材料の密度より高くなっているように構成される。
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項7に記載の発明は、スピーカの背面側に且つ当該背面に対して間隔を空けて配置される音響制御部材を製造する音響制御部材の製造方法において、吸音材料を含む基材に対して加熱プレス加工を施し、表面に凹領域と凸領域とを有する吸音層を形成する吸音層形成工程と、前記凸領域及び前記凹領域が形成された前記吸音層の前記表面と反対の表面に、弾性部材を含む制振層であって前記スピーカからの放音により前記音響制御部材が取り付けられる被取付部材に発生する振動を抑制する制振層を形成する制振層形成工程と、前記凸領域及び前記凹領域が形成された前記吸音層の前記表面に表面層を形成する表面層形成工程と、を含み、前記凹領域における前記吸音材料の密度と、当該凸領域における前記吸音材料の密度と、が異なっており、前記凹領域と前記凸領域との間に位置する斜面部の表層部における前記吸音材料の密度が、当該斜面部の内部における前記吸音材料の密度より高くなっており、前記表面層が形成されている前記音響制御部材の側が前記スピーカ側に配置されるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の音響制御部材の構成を示す拡大部分正面図である。
図2】実施例の音響制御マットの使用状態を示す側視概念図である。
図3】実施例の音響制御マットの構造を示す平面図等であり、(a)は当該平面図であり、(b)は当該構造を示す正面図である。
図4】実施例の音響制御マットの構造を示す、図3(a)のA-A’部断面図である。
図5】実施例の音響制御マットの構造を示す拡大部分正面図等であり、(a)は図3(b)におけるα部の拡大部分正面図であり、(b)は当該音響制御マットの構造を示す外観斜視図であり、(c)は当該音響制御マットの構造による効果の一例を示す拡大部分正面図である。
図6】実施例の音響制御マットの製造工程等を示す図であり、(a)は当該製造工程を示すフローチャートであり、(b)は当該音響制御マットの製造装置の構成を示す側視概念図である。
図7】第1変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等であり、(a)は当該平面図であり、(b)は当該構造を示す正面図である。
図8】第2変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等であり、(a)は当該平面図であり、(b)は当該構造を示す正面図である。
図9】第3変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等であり、(a)は当該平面図であり、(b)は当該構造を示す正面図である。
図10】第4変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等であり、(a)は当該平面図であり、(b)は当該構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本願を実施するための形態について、図1を用いて説明する。なお図1は、実施形態の音響制御部材の構成を示す拡大部分正面図である。
【0010】
図1に示すように、実施形態に係る音響制御部材Sは、スピーカの背面側に且つ当該背面から間隔を空けて配置される音響制御部材であり、制振層2と、吸音層1と、を備える。なお図1において、実施形態の音響制御部材Sからみたスピーカの方向は、白抜き矢印で示されている。
【0011】
以上の実施形態の音響制御部材Sにおいて、制振層2は、スピーカからの放音に起因して、音響制御部材Sが取り付けられる被取付部材に発生する振動を抑制する。
【0012】
一方、吸音層1は、制振層2のスピーカ側の面に積層され且つ吸音材料を含む。
【0013】
そして、吸音層1のスピーカ側の面に、当該スピーカ側から見て凹形状の凹領域1Bと、当該スピーカ側から見て凸形状の凸領域1Aと、が形成されており、当該凹領域1Bにおける吸音材料の密度である凹領域密度と、当該凸領域1Aにおける吸音材料の密度である凸領域密度と、が異なっており、凹領域1Bと凸領域1Aとの間に位置する斜面部の表層部における吸音材料の密度が、当該斜面部の内部における吸音材料の密度より高くなっている。
【0014】
以上説明したように、実施形態の音響制御部材Sの構成によれば、制振層2と、吸音層1と、を備え、吸音層1のスピーカ側の面に凹領域1Bと凸領域1Aとが形成されており、凹領域1Bと凸領域1Aとで吸音材料の密度が異なっているので、当該密度の違いによる吸音効果の違いにより音響制御部材S全体としての吸音効果の向上が可能となり、スピーカが設置されている環境内の音質劣化要因が取り除かれる(即ち、音質の低下が防止される)ことで、スピーカからの放音を聴取する際の音質の向上が図られる。
【実施例0015】
次に、上述した実施形態に対応する具体的な実施例について、図2乃至図6を用いて説明する。なお以下に説明する実施例は、例えば車両のドアの内部に取り付けられる音響制御マットであって、車内に取り付けられるスピーカの音質劣化の原因となる事象(例えば、当該スピーカが取り付けられるドアの不要な共振)の影響を抑制するためにドアの内部に取り付けられる音響制御マットに対して本願を適用した場合の実施例である。
【0016】
また、図2は実施例の音響制御マットの使用状態を示す側視概念図であり、図3は当該音響制御マットの構造を示す平面図等であり、図4は当該音響制御マットの構造を示す、図3(a)のA-A’部断面図である。更に、図5は当該音響制御マットの構造を示す拡大部分正面図等であり、図6は当該音響制御マットの製造工程等を示す図である。このとき図2乃至図5では、図1に示した実施形態の音響制御部材Sにおける各構成部材に対応する実施例の構成部材それぞれについて、当該音響制御部材Sにおける各構成部材と同一の部材番号を用いている。
【0017】
初めに、実施例の音響制御マットSの具体的な構造等について説明する前に、当該音響制御マットSの使用状態について、図2を用いて説明する。図2に示すように、実施例の音響制御マットSは、例えば車両用のドアDのインナーパネルIPに車室内に向けて取り付けられるスピーカSPの背面側に且つ当該背面から間隔を空けてドアDのアウターパネルOPの内側に例えば貼り付けられて配置される。実施例の音響制御部材Sは、スピーカSとの上記位置関係において、図2に示すように、(i)スピーカSの放音により上記背面に放出される音波の吸音機能、(ii)当該音波の反射/拡散機能、及び(iii)当該音波によりアウターパネルOPに発生する不要な振動の抑制機能、の三つの機能を有している。
【0018】
そして、上記の各機能を実現すべく、実施例の音響制御マットSは、図3乃至図5に示すように、制振層2と、音響制御マットSにおいて制振層2のスピーカSP側の面に積層され且つ吸音材料を含む吸音層1と、当該吸音層1のスピーカSP側の面に積層された表面層3と、を備えている。
【0019】
この構成において、制振層2は、上記(iii)の機能を担うと共に、音響制御マットSをアウターパネルOPの内側に固定する機能を担う。このような制振層2として具体的には、例えば、弾性材料としてのゴム系のシート材の他、金属(具体的には、アルミニウム、銅又は鉛等)系のシート材、高密度の樹脂材、又はブチル系材料のシート材等が用いられる。また、吸音層1と反対の側の制振層2の面が例えば接着テープ等を用いてアウターパネルOPの内側に固定されることで、音響制御マットSが当該アウターパネルOPに固定される。
【0020】
次に吸音層1は、上記(i)の機能を担う。このため、当該吸音層1のスピーカSP側の面には、いわゆる「くさび形状」として、当該スピーカ側から見て凹形状の凹領域1Bと、当該スピーカ側から見て凸形状の凸領域1Aと、がそれぞれ複数形成されている。そして、各凹領域1B及び各凸領域1Aのそれぞれにおいて、凹領域1Bにおける吸音材料の密度と、凸領域1Aにおける吸音材料の密度と、が異ならされている。ここで、上記吸音材料の「密度」とは、凹領域1Bにおける吸音材料と、凸領域1Aにおける吸音材料とで同じ体積の材料片(例えば一辺5ミリメートルの立方体の試験片)を用いて、例えば以下の式(1)により算出される。
【0021】
密度(単位:kg/m3)=(m/V)×106 …(1)
但し、「m」は上記材料片の質量(単位:g)であり、「V」は上記材料片の体積(単位:mm3)である。
【0022】
そして、凹領域1Bにおける吸音材料の上記密度と、凸領域1Aにおける吸音材料の上記密度と、が異ならされている点についてより具体的には、例えば図5(a)に示す拡大正面図において、一の凹領域1Bにおける吸音材料の密度が、当該一の凹領域1Bと隣接する凸領域1Aにおける吸音材料の密度よりも高くなっている。このとき、凹領域1Bの図5(a)における底部(突端部)にある、当該密度が最も高い部分の層厚は、例えば0.5ミリメートル程度である。また、当該一の凹領域1Bと、当該一の凹領域1Bと隣接する凸領域1Aそれぞれと、の間に形成されている斜面部における表層部の吸音材料の密度が、当該斜面部の内部の吸音材料の密度よりも高くなっている。以上の吸音層1における吸音材料の密度の部分的な相違は、後述するように、吸音層1が加熱プレス工程により成形/製造されることに起因して生じるものである。そして、当該密度の相違により、吸音層1により吸音される音波の周波数が、当該密度が均一である場合よりも広くなる。即ち、一般的に、吸音材料の密度が高いほど吸音できる音波の周波数が高くなるため、当該密度の違いがある実施例の吸音層1の方が、当該密度が均一の吸音層よりも幅広い周波数の音波を吸収でき、結果的に上記(i)の機能がより向上すると言える。なお、吸音層1の上記吸音材料として具体的には、例えば、発泡ウレタン材(低密度/高密度ウレタンフォーム材)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)系材料、又は発泡ポリエチレン材等が用いられる。なお、多少硬質であっても、発泡倍率の高い(即ち低密度の)材料であれば、吸音層1の吸音材料として使用可能である。
【0023】
次に、表面層3は、上記(ii)の機能を担う。このため表面層3は、例えば吸音層1の吸音材料と同じ材料が、吸音層1のスピーカSP側の表面に、後述するように塗料として塗布されて乾燥されることにより製造される。ここで、実施例の吸音層1が後述する加熱プレス工程により成型/製造されていることから、表面層3の材料が塗布される段階では、吸音層1の表面層3側の表面は孔の少ない密な状態となっている(即ち、いわゆるスキン層化している)。これにより、表面層3の材料を塗布してもこれが吸音層1内に染み込むことを抑制し、効果的且つ効率的に表面層3が形成される。これにより、図5(c)に破線矢印で例示するように、上記(ii)の音波の反射/拡散機能が効率的に実現される。なお、表面層3の材料として具体的には、例えば、吸音層1に含まれる吸音材料と同類のウレタン塗料、植毛塗料、エマルジョン系材料、又は制振塗料等の各種機能性塗料が用いられる。また、表面層3の形成手法としては、上記塗布の他に、水圧転写法等が用いられる。
【0024】
以上のように、実施例の音響制御マットSは、スピーカSP側から見て、表面層3と、それぞれを形成する吸音材料の密度が異なり且つくさび形状の凹領域1B及び凸領域1Aを備える吸音層1と、制振層2と、を備えることで、上記(i)の機能乃至(iii)の機能が効果的に実現されている。
【0025】
次に、実施例の音響制御マットSの製造工程及びその製造装置について、図6を用いて説明する。
【0026】
即ち、図6(a)に示すように、実施例の音響制御マットSは、上記吸音材料を含んで実施例の吸音層1となる基材を当該吸音層1としての大きさ及び厚さにカットする工程(ステップS1)、加熱プレス法により当該基材から実施例の吸音層1(即ち、上述したような特性/構造の凹領域1B及び凸領域1Aを備える吸音層1)を成形/製造する工程(ステップS2)、成形/製造された吸音層1の表面(即ち、上記凹領域1B及び上記凸領域1Aが形成されている表面)に表面層3となる材料を塗料として塗布して乾燥させる工程(ステップS3)、及び、成形/製造された吸音層1の表面層3が塗布された表面と反対の表面に制振層2を貼り合わせる工程(ステップS4)を経て製造される。このとき、上記ステップS2の加熱プレス工程では、図6(b)に例示するように、吸音層1の表面の上記凹領域1B及び上記凸領域1Aの形状に対して例えばメス型となる表面形状の成形型MDを用いて、吸音層1となる基材MTを加熱しつつプレスすること(図6(b)白抜き矢印参照)が行われる。
【0027】
以上のような加熱プレス工程(ステップS2)により、実施例の吸音層1としての上記吸音材料の密度差、及び、表面層3が形成される表面のスキン層化が可能となる。
【0028】
以上説明したように、実施例の音響制御マットSの構造によれば、制振層2と、吸音層1と、を備え、吸音層1のスピーカSP側の面に凹領域1Bと凸領域1Aとが形成されており、凹領域1Bと凸領域1Aとで吸音材料の密度が異なっているので、当該密度の違いによる吸音効果の違いにより音響制御マットS全体としての吸音効果の向上が可能となり、これにより更なる音質の向上が図られる。即ち、スピーカSPが設置されているドアDの音質劣化要因が取り除かれる(即ち、音質の低下が防止される)ことで、スピーカSPからの放音を聴取する際の音質の向上が図られ、上記(i)の機能及び上記(iii)の機能の向上が図られる。
【0029】
また、吸音層1のスピーカSP側の面に表面層3を更に備えるので、スピーカSPからの音波の反射効果を向上させることができる。即ち、上記(ii)の機能の向上が図られる。
【0030】
なお、上記の各効果について、本願の発明者らによる試聴の結果としては、以下の(ア)乃至(エ)の聴感上の効果が確認された。
【0031】
(ア)スピーカSPから発せられる音の低域が締まり、いわゆるアタック感が出た。
(イ)上記音の中低域に厚みが出て、中高域のクリア感が向上した。
(ウ)自然な音像定位が得られた。
(エ)上記音に「艶」が出て、その質感が向上した。
【0032】
更に、表面層3と吸音層1とを同類の材料から形成する場合には、音響制御マットSとしての製造工程を簡略化することができる。なお、上述した実施例では、吸音層1の製造後に表面層3を例えば塗布により形成する構成としたが、これ以外に、上記加熱プレス工程(図6(a)ステップS2参照)における吸音層1のスピーカSP側の表面の加熱温度を上げることで、当該表面の吸音材料を溶かして薄膜化させ、当該薄膜を実施例の表面層3として用いるように構成してもよい。
【0033】
更にまた、制振層2を弾性材料により形成する場合は、スピーカSPからの放音に起因するアウターパネルOPの振動を効果的に抑制することができる。
【0034】
また、図6に例示する製造方法によれば、スピーカSPの背面側に配置される音響制御マットSの吸音層1の表面に、加熱プレス工程により凹領域1Bと凸領域1Aとが形成されるので、結果的に、凹領域1Bにおける吸音材料の密度と凸領域1Aにおける吸音材料の密度とが異なることとなる。よって、この密度の違いによる吸音効果の違いにより音響制御マットS全体としての吸音効果の向上が可能となり、上記音質劣化要因が取り除かれることで、スピーカSPからの放音を聴取する際の音質の向上が図られ、上記(i)の機能及び上記(iii)の機能の向上が図られる。
[変形例]
【0035】
次に、実施形態に対応する変形例について、図7乃至図10を用いて説明する。なお各変形例において、実施例の音響制御マットSと同様の構成部材については、同様の部材番号を用いて、細部の説明は省略する。
【0036】
(I)第1変形例
初めに、第1変形例について、図7を用いて説明する。なお図7は、第1変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等である。
【0037】
第1変形例の音響制御マットS1を構成する吸音層10としては、実施例の音響制御マットSにおける、くさび形状の凹領域1B及び凸領域1Aが図3(a)に平面図を示すように45度で交差する表面形状に代えて、図7に示すように、凹領域10Bと凸領域10Aとが並行して形成された表面形状を備える。このとき、第1変形例の凸領域10Aにおける吸音材料の密度と凹領域10Bにおける吸音材料の密度との間の相違は、実施例の凸領域1Aにおける吸音材料の密度と凹領域1Bにおける吸音材料の密度との間の相違と同様である。
【0038】
(II)第2変形例
次に、第2変形例について、図8を用いて説明する。なお図8は、第2変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等である。
【0039】
第2変形例の音響制御マットS2を構成する吸音層11としては、実施例の音響制御マットSにおける上記表面形状に代えて、図8に示すように、平面視が方形で且つ千鳥状に配置された凸領域11Aと、当該各凸領域11Aの間に(結果的に)形成される凹領域11Bと、を含む表面形状を備える。このとき、第2変形例の凸領域11Aにおける吸音材料の密度と凹領域11Bにおける吸音材料の密度との間の相違も、実施例の凸領域1Aにおける吸音材料の密度と凹領域1Bにおける吸音材料の密度との間の相違と同様である。
【0040】
(III)第3変形例
次に、第3変形例について、図9を用いて説明する。なお図9は、第3変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等である。
【0041】
第3変形例の音響制御マットS3を構成する吸音層12としては、実施例の音響制御マットSにおける上記表面形状に代えて、図9に示すように、断面が△形状の凸領域12Aと、当該凸領域12Aの間に形成される凹領域12Bと、が、並行して形成された表面形状を備える。このとき、第3変形例の凸領域12Aにおける吸音材料の密度と凹領域12Bにおける吸音材料の密度との間の相違も、実施例の凸領域1Aにおける吸音材料の密度と凹領域1Bにおける吸音材料の密度との間の相違と同様である。
【0042】
(IV)第4変形例
最後に、第4変形例について、図10を用いて説明する。なお図10は、第4変形例の音響制御マットの構造を示す平面図等である。
【0043】
第4変形例の音響制御マットS4を構成する吸音層13としては、実施例の音響制御マットSにおける上記表面形状に代えて、図10に示すように、全体(立体)形状がピラミッド形状(換言すれば、四角錐形状)の凸領域13Aと、当該凸領域13Aの間に形成される凹領域13Bと、が、碁盤目状に並んだ表面形状を備える。このとき、第4変形例の凸領域13Aにおける吸音材料の密度と凹領域13Bにおける吸音材料の密度との間の相違も、実施例の凸領域1Aにおける吸音材料の密度と凹領域1Bにおける吸音材料の密度との間の相違と同様である。
【0044】
以上説明した構造を備える第1変形例の音響制御マットS1乃至第4変形例の音響制御マットS4によっても、実施例の音響制御マットSと同様の、上記(i)の機能乃至上記(iii)の機能が実現可能である。
【符号の説明】
【0045】
1、10、11、12、13 吸音層
1A、10A、11A、12A、13A 凸領域
1B、10B、11B、12B、13B 凹領域
2 制振層
3 表面層
S 音響制御部材(音響制御マット)
SP スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10