(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101061
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】保険金支払い審査システム、プログラムおよび保険金支払い審査方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/08 20120101AFI20230712BHJP
【FI】
G06Q40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001386
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 苑子
(72)【発明者】
【氏名】山本 知史
(72)【発明者】
【氏名】森脇 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 光
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB61
(57)【要約】
【課題】予測ミスを伴うインシデントによる損害の補償を可能とする。
【解決手段】保険金支払い審査システム10は、インシデントに対する保険の保険金の請求を受理し、インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に請求を承認する判定部114を備える。判定部114は、保険の対象に対する保守作業の記録を参照し、保険の対象に対する所定の保守作業が施されていない場合には、請求を拒否してもよい。保険金支払い審査システム10は、保険の対象に対する保守作業の記録を参照し、インシデントの発生を検出する検出部113をさらに備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インシデントに対する保険の保険金の請求を受理し、
前記インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に前記請求を承認する判定部を備える
保険金支払い審査システム。
【請求項2】
前記インシデントの発生予測確率を算出するインシデント予測部をさらに備える
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項3】
前記判定部は、
前記インシデントの発生予測確率を算出するインシデント予測装置によって算出された発生予測確率が記録される分散型台帳を参照して前記発生予測確率を取得する
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項4】
前記判定部は、
前記保険の対象に対する保守作業の記録を参照し、前記保険の対象に対する所定の保守作業が施されていない場合には、前記請求を拒否する処理を行う
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項5】
前記保険の対象に対する保守作業の記録を参照し、前記インシデントの発生を検出する検出部をさらに備える
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項6】
前記保守作業の記録は、分散型台帳に記録される
請求項4または5に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項7】
前記インシデントの発生予測確率の精度を算出する予測精度算出部をさらに備える
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項8】
前記インシデントの発生予測確率は、前記保険の対象に故障が発生する確率に基づく
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項9】
前記インシデントは、送電線の事故であり、
当該インシデントの発生予測確率は、前記送電線と樹木との接触時期予測に基づくものである
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項10】
前記インシデントは、停電であり、
当該インシデントの発生予測確率は、電力需要予測に基づくものである
請求項1に記載の保険金支払い審査システム。
【請求項11】
コンピュータに、
インシデントに対する保険の保険金の請求を受理し、
前記インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に前記請求を承認する処理を
ブロックチェーンネットワーク上でスマートコントラクトとして実行するステップを
実行させるためのプログラム。
【請求項12】
保険金支払い審査システムの保険金支払い審査方法であって、
前記保険金支払い審査システムが、
インシデントに対する保険の保険金の請求を受理するステップと、
前記インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に前記請求を承認するステップとを実行する
保険金支払い審査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保険金支払いの可否を審査する保険金支払い審査システム、プログラムおよび保険金支払い審査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
保険業務では、ドローンを用いた自然災害による損害の調査や、音声認識技術を用いたコールセンタ業務の自動化、機械学習技術を用いた保険金支払い審査の自動化などの導入が進んでいる。また、人や設備、機械など保険対象のデータを収集してリスクを予測し、保険料金を決定する保険が広がることが予測される。
【0003】
特許文献1に記載の発明によれば、技術エンティティの誤動作を予測することができ、コンポーネントタイプに依存せずに将来の任意の時点での誤動作の確率を計算することができる。また特許文献2に記載の発明によれば、保険業界標準によって非常に手早く請求を評価し、承認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/026680号
【特許文献2】特表2011-505047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機器の故障などの予期しないインシデントを避けるために、特許文献1に記載の発明のような予測技術を用いて、機器の運用者は予測結果に基づいて機器を保守することができる。しかしながら、予測外のインシデントが生じる可能性は排除できない。ここで予測外(予測ミス)とは、発生する確率が低いと予測されたインシデントが発生するという意味である。予測結果に基づいて誤動作が予測される機器を保守する場合、予測ミスが多い(予測精度が低い)と適切な保守ができなくなるため、損害が生じる。
特許文献2のような、保険契約または債務保護契約の下における請求の妥当性を評価する自動損失検証システムでは、予測ミスによる損害は補償しない。
【0006】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであり、予測ミスによる損害の補償を可能とする保険金支払い審査システム、プログラムおよび保険金支払い審査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明に係る保険金支払い審査システムは、インシデントに対する保険の保険金の請求を受理し、前記インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に前記請求を承認する判定部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、予測ミスによる損害の補償を可能とする保険金支払い審査システム、プログラムおよび保険金支払い審査方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る保険金支払い審査システムの全体構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るインシデント予測データベースのデータ構成図である。
【
図3】第1実施形態に係る保守データベースのデータ構成図である。
【
図4】第1実施形態に係る保険金支払い審査処理のフローチャートである。
【
図5】第1実施形態の変形例に係る保険金支払い審査システムの全体構成図である。
【
図6】第2実施形態に係る保険金支払い審査システムの全体構成図である。
【
図7】第2実施形態の変形例に係る保険金支払い審査システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態(実施形態)における保険金支払い審査システムを説明する。保険金支払い審査システムは、保険対象である設備/機器の保険金支払いの請求について、発生する確率が低いと予測されたインシデントが発生して損害が生じたことを確認して当該請求を承認する。
【0011】
このような保険金支払い審査システムによれば、保守がなされて発生確率が低いと予測されるインシデントによって生じた損害を補償する保険金が支払われるようになる。既存の保険には、インシデントの発生予測をミスしたことによる損害を補償する保険は存在しなかった。本発明により、保守作業の判断の根拠となるインシデント発生予測のミスによる損害を補償する保険を提供することができるようになる。このような保険を利用することにより、設備/機器の運用者は、インシデント発生予測に従って保守作業をしやすくなる。例えば運用者は、発生確率が高いと予測されたインシデントに対応する保守を重点的に行い、発生確率が低いと予測されたインシデントには保険で対応することができ、効率的な保守が可能となる。
【0012】
≪保険金支払い審査システムの全体構成≫
図1は、第1実施形態に係る保険金支払い審査システム10の全体構成図である。保険金支払い審査システム10は、インシデント予測装置210、保守管理装置220、および保険金支払い審査装置100を含んで構成される。インシデント予測装置210、保守管理装置220、および保険金支払い審査装置100は、ネットワーク280を介して相互に通信可能である。
ネットワーク280を介して保険金支払い審査装置100と通信可能な端末270が接続されていてもよい。保険対象である設備/機器にインシデントが発生して損害が生じた場合に、保険契約者は端末270を用いて保険金を請求してもよい。
【0013】
インシデント予測装置210に備わるインシデント予測部211は、保険対象である設備/機器に所定のタイミングでインシデントが発生する確率を予測する。所定のタイミングとは、例えば1月内、1月以上2月内などである。インシデント予測部211は、例えば設備/機器の種別・使用年数・使用環境・保守状況・故障率などに基づいて、インシデントが発生する確率を予測する。またインシデント予測部211は、予測結果であるインシデント予測データ131(後記する
図2参照)を保険金支払い審査装置100に、例えば定期的に送信する。以下の説明では、1月周期で送信するとして説明する。
【0014】
上記したように保険金支払い審査システム10は、インシデントの発生予測確率を算出するインシデント予測部211を備える。
このように、インシデントの発生予測確率は、保険の対象に故障が発生する確率(故障率)に基づく。
【0015】
保守管理装置220に備わる保守管理部221は、保険対象である設備/機器に対して実行された保守作業の記録である保守管理票141(後記する
図3参照)を取得し、保険金支払い審査装置100に送信する。送信するタイミングは、定期的であってもよいし、保守作業の記録を取得したタイミングであってもよい。
【0016】
≪保険金支払い審査装置の機能構成≫
保険金支払い審査装置100はコンピュータであり、処理部110、記憶部120、および入出力部180を備える。入出力部180には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。入出力部180は通信デバイスを備え、インシデント予測装置210や保守管理装置220とのデータ送受信が可能である。また入出力部180にメディアドライブが接続され、記録媒体を用いたデータのやり取りが可能であってもよい。保険金支払い審査装置100は複数の物理装置で1つの論理的な装置を構成するクラウドサーバの形態をとってもよい。
【0017】
≪保険金支払い審査装置:記憶部≫
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部120には、インシデント予測データベース130(後記する
図2参照)、保守データベース140(後記する
図3参照)、補償対象データベース121、およびプログラム128が記憶される。
補償対象データベース121には、設備/機器と、当該設備/機器で保険の補償対象となるインシデントが関連付けられて記憶される。プログラム128には、保険金支払い審査処理(後記する
図4参照)の処理の記述が含まれる。
【0018】
≪保険金支払い審査装置:インシデント予測データベース≫
図2は、第1実施形態に係るインシデント予測データベース130のデータ構成図である。インシデント予測データベース130には、1月周期でインシデント予測装置210から送信されるインシデント予測データ131が格納される。インシデント予測データ131は表形式のデータであって、1つの行(レコード)はインシデントの発生確率の予測値を示す。詳しくは、1つの行はインシデント、設備/機器(
図2では設備と記載)、1月内、2月内、3月内などの列(属性)を含む。設備/機器は設備/機器の識別情報であり、インシデントは当該設備/機器に発生するインシデントの識別情報(例えば名称)である。1月内は設備/機器にインシデントが1月内に発生する確率の予測値であり、2月内は1月以上2月内に発生する確率の予測値である。3月内、4月内などについても同様である。
【0019】
≪保険金支払い審査装置:保守データベース≫
図3は、第1実施形態に係る保守データベース140のデータ構成図である。保守データベース140には、保守管理装置220から送信された保守管理票141が格納される。保守管理票141の「保守対象」の項目には、保守対象である保険対象の機器/設備の識別情報が含まれる。また保守管理票141には、保守作業の契機となった「現象」、「現象発生日時」、「保守作業名」、「保守日時」などの情報が含まれる。「現象」の項目には、定期メンテナンスの時期であることを示す「一定期間経過」や、火災というインシデントの発生を示す「火災発生」という記載が含まれる。
【0020】
≪保険金支払い審査装置:処理部≫
図1に戻って、処理部110の説明を続ける。処理部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、取得部111、予測精度算出部112、検出部113、および判定部114が備わる。
取得部111は、インシデント予測装置210からインシデント予測データ131を受信して、インシデント予測データベース130に格納する。また取得部111は、保守管理装置220から保守管理票141を受信して、保守データベース140に格納する。
【0021】
予測精度算出部112は、インシデント予測データベース130および保守データベース140にあるデータを参照して、インシデント予測装置210が算出した予測確率の精度を算出する。例えば予測精度算出部112は、保守データベース140にあるデータを参照して、同一ないしは類似する機種、使用年数が近い設備/設備ごとにグループ分けしてグループごとのインシデント発生頻度を算出する。予測精度算出部112は、この発生頻度と、当該グループに属する設備/機器の予測確率とを比較して、予測確率の精度を算出する。
このように、保険金支払い審査システム10に備わる保険金支払い審査装置100は、インシデントの発生予測確率の精度を算出する予測精度算出部112を備える。
【0022】
検出部113は、保守データベース140にある保守管理票141を参照することで、インシデントが発生したことを検出し、発生したインシデントを特定する。例えば検出部113は、「現象」および「保守作業名」から発生したインシデントを検出し、「保守対象」や「現象発生日時」からインシデントが発生した設備/機器や発生日時を特定する。
このように、保険金支払い審査システム10に備わる保険金支払い審査装置100は、保険の対象に対する保守作業の記録(保守データベース140参照)を参照し、インシデントの発生を検出する検出部113を備える。
【0023】
≪保険金支払い審査装置:判定部≫
判定部114は、保険金支払い請求を受け付けると、当該保険金支払い請求の審査を実行する。保険金支払い請求には、インシデントが発生した設備/機器の識別情報が含まれる。判定部114は、検出部113に指示して設備/機器に発生したインシデントを取得して、当該インシデントが補償対象か否かを、補償対象データベース121を参照して判定する。
【0024】
なお検出部113は、取得部111が保守データベース140に格納した保守管理票141を参照してインシデントの発生を検出した場合に、判定部114に当該インシデントや当該インシデントが発生した設備/機器を通知してもよい。判定部114は、当該インシデントが補償対象か否かを、補償対象データベース121を参照して判定する。
【0025】
判定部114は、インシデントが発生した設備/機器が「保守対象」となっている保守管理票141を参照することで、保険対象である設備/機器に対してどのような保守が実行されたかを特定して、保守が適切であるか否かを判定する。例えば判定部114は、設備/機器に応じた「定期メンテナンス」の保守作業が所定のタイミングで実行されていない場合には、適切な保守が施されていないと判定する。また判定部114は、設備/機器のインシデントの発生予測確率が所定値以上であるのに、当該インシデントに対応する保守が実行されていない場合には、適切な保守が施されていないと判定する。
【0026】
判定部114は、保険金支払い請求が虚偽でないことを確認する。例えば判定部114は、保険金支払い請求があったにもかかわらず、該当する保守作業の保守管理票141が保守データベース140にない場合には、虚偽と判定する。
判定部114は、インシデントの発生予測確率が所定値以下であり、予測ミスであることを確認する。例えば判定部114は、最新のインシデント予測データ131を参照して、設備/機器にインシデントが発生する確率の予測値が所定値以下であれば、予測ミスであると判定する。換言すると予測ミスとは、例えば、発生する確率が低い(発生確率が所定値以下)と予測されたインシデントが発生する場合である。
【0027】
判定部114は、インシデントが補償対象であり、適切な保守が施されており、保険金支払い請求が虚偽でなく、インシデントの発生が予測ミスであれば、保険金支払い請求を承認する。判定部114は、インシデントが補償対象でない場合や、適切な保守が施されていない場合、保険金支払い請求が虚偽の場合、インシデントの発生が予測ミスではない場合には、保険金支払い請求を拒否する(拒否する処理を行う、後記する
図4のステップS17参照)。
【0028】
このように保険金支払い審査システム10に備わる保険金支払い審査装置100は、インシデントに対する保険の保険金の請求を受理し、インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に前記請求を承認する判定部114を備える。
また判定部114は、保険の対象に対する保守作業の記録(保守データベース140参照)を参照し、保険の対象に対する所定の保守作業が施されていない場合には、請求を拒否する。
【0029】
≪保険金支払い審査処理≫
図4は、第1実施形態に係る保険金支払い審査処理のフローチャートである。保険金支払い審査装置100が、端末270から保険金支払い請求を受け付けた場合に保険金支払い審査処理が開始される。また、インシデントに対応した保守の保守管理票141を受信したときには、検出部113がこれを検出して判定部114に通知する。判定部114は保険金支払い請求を受け付けたものとして、保険金支払い審査処理を開始する。
【0030】
ステップS11において判定部114は、保険金支払い請求に含まれる設備/機器、および当該設備/機器に発生したインシデントが補償対象か否かを判定する。判定部114は、補償対象であれば(ステップS11→YES)ステップS12に進み、補償対象でなれば(ステップS11→NO)ステップS17に進む。
ステップS12において判定部114は、設備/機器に対する保守が適切であるか否かを判定する。判定部114は、適切であれば(ステップS12→YES)ステップS13に進み、適切でなれば(ステップS12→NO)ステップS17に進む。
【0031】
ステップS13において判定部114は、保険金支払い請求が虚偽か否かを判定する。判定部114は、虚偽でなければ(ステップS13→NO)ステップS14に進み、虚偽であれば(ステップS13→YES)ステップS17に進む。
ステップS14において判定部114は、インシデントの発生予測がミスか否かを判定する。判定部114は、予測ミスであれば(ステップS14→YES)ステップS15に進み、予測ミスでなければ(ステップS14→NO)ステップS17に進む。
【0032】
ステップS15において判定部114は、保険金支払い請求に関連するインシデント予測データ131や保守管理票141のアクセス権を制御する。例えば判定部114は、保険金支払いを請け負う保険会社がある場合に、当該保険会社が当該インシデント予測データ131や当該保守管理票141にアクセスできるようにアクセス権を変更する。インシデント予測データ131について、インシデント発生時の予測確率だけではなく、発生後の予測確率にアクセスできるようにしてもよい。
【0033】
ステップS16において判定部114は、支払い承認を通知する。例えば判定部114は、保険金支払いを請け負う保険会社がある場合には、当該保険会社に保険金の支払いを承認したことを通知する。また、端末270から保険金支払い請求を受け付けた場合には、端末270に支払い承認を通知する。
ステップS17において判定部114は、支払い拒否を通知する。例えば判定部114は、端末270から保険金支払い請求を受け付けた場合には、端末270に支払い拒否を通知する。
【0034】
≪保険金支払い審査装置の特徴≫
保険金支払い審査装置100は、保守がなされて発生確率が低いと予測されたインシデントによって生じた損害に対する保険金を支払うように審査する。既存の保険では対象外である予測ミスによる損害を補償できるようになるため、設備/機器の運用者がインシデント発生予測を判断の根拠とした保守作業をしやすくなる。
【0035】
≪変形例:分散型台帳≫
上記した実施形態ではインシデント予測データ131は、インシデント予測装置210が保険金支払い審査装置100に送信し、インシデント予測データベース130に蓄積されている。また保守管理票141は、保守管理装置220が保険金支払い審査装置100に送信し、保守データベース140に蓄積されている。インシデント予測データ131や保守管理票141が、個々に送信されデータベースに蓄積される替わりに、分散型台帳技術(ブロックチェーンネットワーク)を用いて、インシデント予測装置210、保守管理装置220、および保険金支払い審査装置100間で共有されるようにしてもよい。
【0036】
図5は、第1実施形態の変形例に係る保険金支払い審査システム10Aの全体構成図である。保険金支払い審査システム10Aでは、インシデント予測装置210A、保守管理装置220A、および保険金支払い審査装置100Aは、ブロックチェーンネットワーク290Aのノードであり、ブロックチェーンネットワーク290Aを介して接続されている。インシデント予測データや保守管理票は、分散型台帳190,218,228に記録されてアクセスされる。
【0037】
このように、保険金支払い審査システム10Aに備わる保険金支払い審査装置100Aの判定部114は、インシデントの発生予測確率を算出するインシデント予測装置210Aによって算出された発生予測確率が記録される分散型台帳(分散型台帳190,218,228)を参照して発生予測確率を取得する。
また、保守作業の記録は、分散型台帳に記録される。
【0038】
≪第2実施形態≫
第1実施形態における保険金支払い審査装置100は、保険金支払い請求を受け付ける、もしくはインシデントによる保守作業を検出すると、保険金支払い審査を行う。審査結果が承認であれば、例えば保険会社に通知し、保険会社が保険金を支払う。保険契約の締結、保険契約内容の管理、保険金支払いなどの保険に係る一連の処理、または一部の処理がブロックチェーンネットワーク上のスマートコントラクトとして実行されてもよい。例えば、インシデント予測データや保守管理票がブロックチェーンネットワーク(分散型台帳)に記録され、保険金支払い請求が発生した場合、もしくはインシデントによる保守作業の検出があった場合に、ブロックチェーンネットワーク上で保険金支払い審査処理が行われ、審査結果が承認であれば保険金支払いまでブロックチェーンネットワーク上でスマートコントラクトとして実行されてもよい。
【0039】
スマートコントラクトとは、契約の締結や履行がコンピュータによって実行される契約、システム、または仕組みのことである。スマートコントラクトにおいて契約の締結や履行に伴う手続き/処理、契約内容は、ソースコードやデータとして記述/設定され、実行の際にはプログラムとして実行される。なおこのソースコードやデータは契約内容を反映しており、ソースコードやデータをスマートコントラクトと呼ぶ場合もある。また実行されるプログラムが、スマートコントラクトと呼ばれる場合もある。
第2実施形態における保険金支払い審査システムにおいて、保険金支払いの審査の手続き(
図4記載の保険金支払い審査処理参照)を行うプログラムは、ブロックチェーンネットワーク上のトランザクションとして実行される。
【0040】
図6は、第2実施形態に係る保険金支払い審査システム10Bの全体構成図である。保険金支払い審査システム10Bでは、インシデント予測装置210B、保守管理装置220B、保険管理装置230B、および保険金支払い審査装置100Bは、ブロックチェーンネットワークのノードであり、ブロックチェーンネットワーク290Bを介して接続されている。インシデント予測データや保守管理票、保険金支払い審査の結果は、分散型台帳190,218,228,238に記録される。保険管理装置230Bは、保険金支払い審査の結果が承認であれば、保険契約に従って保険金を支払う。
【0041】
図7は、第2実施形態の変形例に係る保険金支払い審査システム10Cの全体構成図である。保険管理装置230Cは、保険契約が締結されると、保険契約を反映したスマートコントラクト298をブロックチェーンネットワーク290Cにデプロイする。
【0042】
スマートコントラクト298は、保険金支払い審査処理を実行する判定部114のソースコードや、保険金支払い審査処理に必要なデータ(補償対象データベース121参照)を含む。スマートコントラクト298は、保守管理票を参照してインシデントの発生を検出する検出部113のソースコードや、保険金支払い請求を受け付けるソースコード、保険金支払いのソースコード、これらのソースコードが参照するデータを含んでもよい。
【0043】
このように、スマートコントラクト298は、コンピュータに、インシデントに対する保険の保険金の請求を受理し、インシデントの発生予測確率が所定値以下である場合に請求を承認する処理をブロックチェーンネットワーク290C上で(仕組みとしての)スマートコントラクトとして実行するステップを実行させるためのプログラムである。
【0044】
なお、保険金支払いに係る一連の手続き/処理以外の手続き/処理をスマートコントラクトとして処理してもよい。例えば、保険契約内容が決まった後の契約締結や保険料金の支払いなどの手続きがスマートコントラクトを用いて処理されてもよい。このように保険金支払い審査システムとして、保険契約の締結から履行まで手続きがブロックチェーンネットワーク上のスマートコントラクトとしてトランザクション処理されてもよい。
このように保険金支払い審査がスマートコントラクトとして実行されることで、審査の透明性を確保できるようになる。
【0045】
≪適用例≫
上記実施形態における設備/機器は、電力供給に係る設備/機器であってもよい。この場合のインシデントとして、例えば樹木が送電線に接触して発生する事故がある。このような事故は、樹木の成長を予測して送電線との接触時期を予測することでインシデントの発生予測確率が算出できる。他のインシデントの例として電力の需給バランスの崩壊による停電があり、例えば電力需要予測に基づいてこのような停電の発生確率が予測できる。
電力供給に係る設備/機器に対する保守としては、定期保守、部品の交換、送電線周辺の樹木の手入れ、予備電力の起動などがある。
【0046】
なお、例えば送電線と樹木との接触による火災は補償するが、地震による火災は補償しないというように、補償の対象とするインシデントの取り決めがあってもよい。取り決めた内容は、補償対象データベース121に記憶されており、
図4記載のステップS11において取り決めにあるか否かが判定される。
【0047】
上記したように電力供給に係る設備/機器に係る保険金支払い審査システム10において、インシデントは、送電線の事故であり、インシデントの発生予測確率は、前記送電線と樹木との接触時期予測に基づくものである。またインシデントは、停電であり、インシデントの発生予測確率は、電力需要予測に基づくものである。
【0048】
≪その他の変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。例えば、インシデント予測装置210や保守管理装置220は、保険金支払い審査装置100とは別の装置であったが、1つの装置であってもよい。
【0049】
上記した実施形態において保険金支払い審査処理(
図4参照)は、判定部114が実行しているが、一部の処理において人の判断を含めてもよい。例えばステップS12において設備/機器に対する保守が適切であるか否かを判定する際に判定部114は、関連する保守管理票141を表示して、人が判定した結果を取得して判定してもよい。他にインシデントに対応した保守の保守管理票141を受信して保険金支払い審査処理を開始する際に、判定部114は当該保守管理票141を表示して、人による開始指示を受け付けて、保険金支払い審査処理を開始してもよい。
【0050】
本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10,10A,10B,10C 保険金支払い審査システム
100,100A,100B,100C 保険金支払い審査装置
111 取得部
112 予測精度算出部
113 検出部
114 判定部
130 インシデント予測データベース
140 保守データベース
190,218,228,238 分散型台帳
290A,290B,290C ブロックチェーンネットワーク
298 スマートコントラクト(プログラム)