(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010108
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】真空装置への試料搬送導入装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20230113BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G01N1/00 101C
G01N1/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113973
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】300032123
【氏名又は名称】公益財団法人 佐賀県産業振興機構
(71)【出願人】
【識別番号】597120204
【氏名又は名称】真空光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
(72)【発明者】
【氏名】明角 淳志
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD52
2G052CA05
2G052CA16
2G052GA18
2G052JA05
(57)【要約】
【課題】真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができると共に、製作及び維持コストのさらなる低減、並びに軽量化を図ることができる真空装置への試料搬送導入装置を提供する。
【解決手段】丸棒状のロッド10と、ロッド10を貫通するロッド貫通孔21を有するロッド受け20と、ロッド10の先端部分に着脱可能に取り付けられる試料ホルダー格納部30と、ロッド受け20に固定され、試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とのはめ合いで試料ホルダーを収容する収容槽43を形成する収容容器40とを備える。ロッド10の外周面には雄ネジ部11が設けられ、ロッド貫通孔21の内周面には雄ネジ部11とネジ結合可能な雌ネジ部22が設けられ、雄ネジ部11は、試料ホルダー受け板31と収容容器40とがはめ合いとなる位置において雌ネジ部22にネジ結合するように限定的に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置へ試料を搬送し導入する試料搬送導入装置であって、
丸棒状のロッドと、
前記ロッドを貫通するロッド貫通孔を有するロッド受けと、
前記ロッドの先端部分に着脱可能に取り付けられる試料ホルダー格納部と、
前記ロッド受けに固定され、前記試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板とのはめ合いで試料ホルダーを収容する収容槽を形成する収容容器とを備え、
前記ロッドの外周面には雄ネジ部が設けられ、前記ロッド貫通孔の内周面には前記雄ネジ部とネジ結合可能な雌ネジ部が設けられ、
前記雄ネジ部は、前記試料ホルダー受け板と前記収容容器とがはめ合いとなる位置において前記雌ネジ部にネジ結合するように限定的に設けられている、試料搬送導入装置。
【請求項2】
前記収容容器はシール部を介して前記ロッドに装着され、前記シール部は、太さ及び断面形状の異なる二重のOリングを有する、請求項1に記載の試料搬送導入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空を用いた装置へ試料を搬送し導入する試料搬送導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、真空を用いた分析装置として、光電子分光、オージェ電子分光や軟X線吸収分光装置が広く利用されている。通常、分析する試料は大気中で試料ホルダーに取り付け、その後、真空を用いた分析装置にセットする。しかしながら、触媒や電池材料など表面が大気の成分に対して活性な材料は、試料を大気にさらすと表面が酸化や汚染されてしまう。そこで、従来から、試料を大気にさらすことなく真空装置へ搬送し導入することができるようにするための試料搬送導入装置が種々提案されており、本発明者らも下記特許文献1に記載の試料搬送導入装置を提案している。
【0003】
この特許文献1の試料搬送導入装置によれば、各種の試料ホルダーを取り扱うことができ、製作や改良及び修理も容易であって、作業性に優れ、製作及び維持コストを低減することができるという効果が得られ、販売実績も複数ある。ところが、特許文献1の試料搬送導入装置では、可動パイプが直進運動により前進及び後退する直線導入機を使用しており、この直線導入機が高価かつ重量物であることから、試料搬送導入装置全体として製作及び維持コストのさらなる低減、並びに軽量化の要望があった。また、特許文献1の試料搬送導入装置に使用している直線導入機は、可動パイプを回転させながら前進又は後退させる構成であるため、真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができると共に、製作及び維持コストのさらなる低減、並びに軽量化を図ることができる真空装置への試料搬送導入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る試料搬送導入装置は、真空装置へ試料を搬送し導入する試料搬送導入装置であって、丸棒状のロッドと、前記ロッドを貫通するロッド貫通孔を有するロッド受けと、前記ロッドの先端部分に着脱可能に取り付けられる試料ホルダー格納部と、前記ロッド受けに固定され、前記試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板とのはめ合いで試料ホルダーを収容する収容槽を形成する収容容器とを備え、前記ロッドの外周面には雄ネジ部が設けられ、前記ロッド貫通孔の内周面には前記雄ネジ部とネジ結合可能な雌ネジ部が設けられ、前記雄ネジ部は、前記試料ホルダー受け板と前記収容容器とがはめ合いとなる位置において前記雌ネジ部にネジ結合するように限定的に設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
このように本発明では、丸棒状のロッドをロッド受けのロッド貫通孔に貫通させるという簡単な構成によりロッドを前進又は後退させることができるので、上述の特許文献1のような直線導入機を使用する場合に比べ、製作及び維持コストを大幅に低減することができると共に軽量化も図ることができる。また、試料ホルダー受け板と収容容器とがはめ合いとなって試料ホルダーを収容する収容槽を形成するときには、ロッドの外周面には設けられた雄ネジ部がロッド貫通孔の内周面に設けられた雄ネジ部とネジ結合するようになっているから、収容槽の密封性は十分に確保することができる。さらに雄ネジ部は、試料ホルダー受け板と収容容器とがはめ合いとなる位置において雌ネジ部にネジ結合するように限定的に設けられているから、真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができ、またロッドを前進又は後退させる操作を容易に行うことができる。
【0008】
本発明において収容容器はシール部を介してロッドに装着することが好ましく、この場合、シール部は太さ及び断面形状の異なる二重のOリングを有するものとすることがさらに好ましい。このように、収容容器をシール部を介してロッドに装着することで、収容槽の密封性を確実に保持することができる。また、シール部に太さ及び断面形状の異なる二重のOリングを使用することで、収容槽の密封性をより確実に保持できると共にシール部におけるロッドの可動性を十分に確保できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の試料搬送導入装置によれば、真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができると共に、製作及び維持コストのさらなる低減、並びに軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である試料搬送導入装置の縦断面図で、(a)は試料ホルダー受け板と収容容器とがはめ合いとなり収容槽が形成された状態を示し、(b)は(a)の状態からロッドを前進限まで前進させた状態を示す。
【
図2】試料ホルダー格納部に複数個の試料ホルダーを並列させて格納できるようにする場合の構成例を示し、(a)はその縦断面図、(b)は(a)のA-A断面図。
【
図3】収容容器を二重構造とする場合の構成例を示し、(a)はその縦断面図、(b)は(a)のB-B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の一実施形態である試料搬送導入装置を縦断面により示している。同図に示す試料搬送導入装置は、ロッド10、ロッド受け20、試料ホルダー格納部30、及び収容容器40を備えている。
【0012】
ロッド10は丸棒状であり、その先端部分に試料ホルダー格納部30が着脱可能に取り付けられている。また、ロッド10の基端部分には円盤状のノブ50が取り付けられている。さらに、ロッド10の基端側にはストッパー60が取り付けられている。そして、ロッド10の中間部分の外周面には雄ネジ部11が限定的に設けられている。
【0013】
ロッド受け20は円板状であり、その中央部にロッド10を貫通するロッド貫通孔21を有する。ロッド貫通孔21の内周面には雄ネジ部11とネジ結合可能な雌ネジ部22が設けられている。また、ロッド受け20の基端側にはロッド10を支持する軸受け70が取り付けられている。
【0014】
試料ホルダー格納部30は、試料ホルダー(図示省略。以下同じ。)を設置するための凹状の試料ホルダー設置部32を試料ホルダー受け板31上に有する。また、試料ホルダー受け板31には試料ホルダーの一部を囲むように側板33が設けられている。このように側板33を設け、かつ試料ホルダー設置部32を凹状に形成することにより、試料ホルダーをスムーズに設置でき、転倒を確実に防止できる。側板33の基端側には上板部材34が設けられており、この上板部材34をロッド10の先端部分にネジ35を介して着脱可能に取り付けている。なお、試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31には、後述する収容容器40の周壁42の先端部に対応する位置にシール手段としてOリング36が配置されている。
【0015】
収容容器40は、シール部80を介してロッド10に装着されると共に、連結ロッド90を介してロッド受け20に連結固定されている。なお、連結ロッド90はロッド受け20及び収容容器40の周方向に間隔をおいて例えば3本配置されるが、
図1では1本のみ示している。また、収容容器40はシールフランジ41を有し、上述のシール部80及び連結ロッド90はシールフランジ41に取り付けられる。さらにシールフランジ41には円筒状の周壁42が固定されており、この周壁42の先端部が試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とOリング36を介してはめ合うことで、
図1(a)に示すように試料ホルダーを収容する収容槽43が形成される。ここで、ロッド10の雄ネジ部11は、試料ホルダー受け板31と収容容器40とがはめ合いとなる位置においてロッド受け20の雌ネジ部22にネジ結合するように限定的に設けられている。
【0016】
収容容器40のシールフランジ41にはOリング101を介して変換フランジ100が着脱可能に装着されている。変換フランジ100の真空側は規格化したものなので、真空装置側に専用のポートを設けることなく真空装置に装着可能である。
【0017】
シール部80は、太さ及び断面形状の異なる二重のOリング81,82を有する。すなわち、上段のOリング81の太さは下段のOリング82の太さより大きい。また、上段のOリング81の断面形状は円形であるのに対し、下段のOリング82の断面形状は四角形である。このように、シール部80が太さ及び断面形状の異なる二重のOリング81,82を有することで、収容槽43の密封性を確実に保持できると共に、シール部80におけるロッド10の可動性を十分に確保できる。なお、シール部80は同種の二重のOリングを有する構成としてもよい。因みにシール部80の先端側にはロッド10を支持する軸受け83が取り付けられている。
【0018】
以上の構成において、試料を設置した試料ホルダーを真空装置へ搬入し導入する際には、
図1(b)に示すように、ロッド10を前進させ試料ホルダー格納部30を前進させた状態とし、例えばグローブボックス内で、試料を設置した試料ホルダーを試料ホルダー格納部30の試料ホルダー設置部32にセットする。このとき、ロッド10の雄ネジ部11は、ロッド受け20の雌ネジ部22にネジ結合していないので、ロッド10を回転させることで試料ホルダー設置部32の向きを自由に変更することができる。そのため、試料を設置した試料ホルダーを試料ホルダー格納部30の試料ホルダー設置部32に簡単にセットすることができる。なお、ロッド10の前進限は、ストッパー60が軸受け70に突き当たることで規定される
【0019】
その後、ロッド10を後退させて、
図1(a)に示すように試料ホルダー受け板31と収容容器40とがはめ合いとなり収容槽43が形成されるようにする。このように、試料ホルダー受け板31と収容容器40とがはめ合いとなって試料ホルダーを収容する収容槽43を形成するときには、ロッド10の雄ネジ部11がロッド受け20の雌ネジ部22とネジ結合するようになっているから、収容槽43の密封性を十分に確保し保持することができる。
【0020】
その後、試料搬送導入装置を真空装置まで搬送し、変換フランジ100を介して真空装置に装着する。装着後、真空装置を真空引きした後、ロッド10を前進させ試料ホルダー格納部30を前進させた状態にし(
図1(b))、試料ホルダーを真空装置へ導入する。このとき、ロッド10の雄ネジ部11は、ロッド受け20の雌ネジ部22にネジ結合していないので、ロッド10を回転させることで試料ホルダーの向きを自由に変更することができる。そのため、試料ホルダーを真空装置へ簡単に導入することができる。以上のようにして、試料を大気にさらすことなく真空装置へ搬送し導入することができる。
【0021】
このように本実施形態によれば、丸棒状のロッド10をロッド受け20のロッド貫通孔21に貫通させるという簡単な構成によりロッド10を前進又は後退させることができるので、上述の特許文献1のような直線導入機を使用する場合に比べ、製作及び維持コストを大幅に低減することができると共に軽量化も図ることができる。また、試料ホルダー受け板31と収容容器40とがはめ合いとなって試料ホルダーを収容する収容槽43を形成するときには、ロッド10の外周面には設けられた雄ネジ部11がロッド貫通孔21の内周面に設けられた雄ネジ部22とネジ結合するようになっているから、収容槽43の密封性は十分に確保することができる。さらに雄ネジ部11は、試料ホルダー受け板31と収容容器40とがはめ合いとなる位置において雌ネジ部22にネジ結合するように限定的に設けられているから、真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができ、またロッド10を前進又は後退させる操作を容易に行うことができる。
【0022】
図2に、試料ホルダー格納部30に複数個の試料ホルダーを並列させて格納できるようにする場合の構成例を示している。この構成例では
図2(b)に表れているように、試料ホルダー受け板31上に3個の試料ホルダー設置部32を三角形状に配置して3個の試料ホルダーを並列させて格納できるようにしている。このように複数個の試料ホルダーを並列させて格納する場合であっても、本実施形態では上述のとおり真空装置へ導入する際に試料ホルダーの向きを自由に変更することができるから、複数個の試料ホルダーをそれぞれ真空装置へ簡単に導入することができる。なお、
図2の構成例では収容容器40のシールフランジ41に、収容槽43に連通する引口44をバルブ45を介して設けた場合、引口44に真空排気手段を接続することで、収容槽43を真空引きすることができるようにしている。
【0023】
図3に、収容容器40を二重構造とする場合の構成例を示している。この構成例では、収容容器40の周壁42を二重構造とすると共に試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31も二重構造としている。具体的には、二重の周壁42の先端部が突き当たる試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31にOリング36を二重に配置し、この二重のOリング36を介して収容容器40が試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とのはめ合いで収容槽43を形成するようにしている。そして、収容容器40の二重の周壁間の真空槽42aに連通する引口46をバルブ47を介して設け、引口46に真空排気手段を接続することで、真空槽42aを真空排気可能としている。なお、二重構造の試料ホルダー受け板31は
図3(b)に表れているように天板31aによって一体構造となっており、天板31aに貫通孔31bを適宜設けることで、二重構造の試料ホルダー受け板31の真空槽31cが収容容器40の二重の周壁間の真空槽42aに連通している。したがって真空槽42aを真空引きすると真空槽31cも真空引きされる。
さらに
図3の構成例では、ロッド10の周囲にシールパイプ110を配置することで、ロッド10の周囲に、収容槽43に通じる隙間111を設けている。そして、この隙間111に連通する引口48をバルブ49を介して設け、引口48に真空排気手段を接続することで、収容槽43を真空排気可能としている。
このように
図3の構成例では、収容容器40を2重シール構造としたうえで、収容槽43を真空排気することで、収容槽43の到達圧力をさらに低くすることができ、さらに収容槽43の保温あるいは保冷も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、真空分析装置への試料搬送導入装置として好適に利用できるほか、各種の真空装置への試料搬送導入装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 ロッド
11 雄ネジ部
20 ロッド受け
21 ロッド貫通孔
22 雌ネジ部
30 試料ホルダー格納部
31 試料ホルダー受け板
31a 天板
31b 貫通孔
31c 真空槽
32 試料ホルダー設置部
33 側板
34 上板部材
35 ネジ
36 Oリング
40 収容容器
41 シールフランジ
42 周壁
42a 真空槽
43 収容槽
44,46,48 引口
45,47,49 バルブ
50 ノブ
60 ストッパー
70 軸受け
80 シール部
81,82 Oリング
83 軸受け
90 連結ロッド
100 変換フランジ
101 Oリング
110 シールパイプ
111 隙間