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特開2023-101125ジャックナイフ抑制装置、ジャックナイフ抑制方法、およびジャックナイフ抑制プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101125
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】ジャックナイフ抑制装置、ジャックナイフ抑制方法、およびジャックナイフ抑制プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 9/00 20060101AFI20230712BHJP
   B62D 12/02 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B62D9/00
B62D12/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001525
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
(72)【発明者】
【氏名】新田 宣広
(57)【要約】
【課題】ジャックナイフ状態となることを抑制できるようにしたジャックナイフ抑制装置を提供する。
【解決手段】PU52は、ヒッチ角βおよび転舵角θtに基づき、未来のヒッチ角βを予測する。そして、PU52は、未来のヒッチ角βに基づき、ジャックナイフが生じる転舵角を算出する。PU52は、ジャックナイフが生じる転舵角と転舵角θtの最大値との差の大きさに基づき、ジャックナイフが生じるリスクが大きいか否かを判定する。PU52は、リスクが大きいと判定する場合、表示装置82を操作して、その旨を報知する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラと、を備える連結車両に適用され、
取得処理、予測処理、判定処理、および対処処理を実行するように構成され、
前記取得処理は、前記トラクタの前後方向と前記トレーラの前後方向とのなす角度であるヒッチ角を示す変数であるヒッチ角変数、および前記トラクタの転舵角を示す変数である転舵角変数を取得する処理であり、
前記予測処理は、前記ヒッチ角変数、および前記転舵角変数を入力として前記ヒッチ角の予測値を算出する処理であり、
前記判定処理は、前記予測値および前記転舵角変数を入力としてジャックナイフが生じるリスクが大きいか否かを判定する処理であり、
前記対処処理は、前記リスクが大きいと判定する場合、前記ジャックナイフが生じることを抑制すべく、所定のハードウェアを操作する処理であるジャックナイフ抑制装置。
【請求項2】
前記取得処理は、前記ヒッチ角変数として、前記ヒッチ角を検出するセンサの検出値を取得する処理を含む請求項1記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項3】
前記予測処理は、前記検出値を入力として未来の前記ヒッチ角を算出する処理を実行した後、前記算出した未来の前記ヒッチ角に基づきより未来の前記ヒッチ角を算出する処理を1回以上実行することによって、最終的に算出された前記未来の前記ヒッチ角を前記予測値とする処理である請求項2記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項4】
前記取得処理は、車速を取得する処理を含み、
前記予測処理は、前記車速が基準値以上の場合、取得した前記車速で前記連結車両が所定期間走行する場合の前記予測値を算出して且つ、前記車速が前記基準値未満の場合、予め想定されたゼロよりも大きい車速で前記連結車両が前記所定期間走行する場合の前記予測値を算出する処理を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項5】
前記判定処理は、
前記予測値を入力として前記ジャックナイフが生じる前記転舵角変数の値である閾値を設定する閾値設定処理と、
前記閾値の大きさを前記転舵角変数の値の取り得る最大値が上回る量が規定値以下の場合に前記リスクが大きいと判定するリスク判定処理と、を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項6】
前記予測処理は、前記予測値を入力として前記ジャックナイフが生じる前記転舵角変数の値である閾値を設定する閾値設定処理を含んで且つ、前記閾値が所定値となるまで前記予測値の算出を継続する処理であり、
前記判定処理は、前記閾値が前記所定値となるまでの予測時間が所定時間以下の場合に前記リスクが大きいと判定するリスク判定処理を含む請求項3記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項7】
前記リスクが大きいと判定する基準に対するユーザの意思を受け付ける受付処理と、
前記受付処理によって受け付けられた前記意思に応じて前記基準を設定する設定処理と、を実行する請求項1~6のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項8】
前記対処処理は、前記連結車両のユーザにリスクが大きい旨を報知する報知処理を含む請求項1~7のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項9】
前記トレーラの転舵角を自動で操作する自動操舵処理を実行し、
前記対処処理は、前記自動操舵処理のゲインを大きくするゲイン増大処理を含む請求項1~8のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項10】
前記トレーラの転舵角を自動で操作する自動操舵処理を実行し、
前記対処処理は、前記自動操舵処理による前記連結車両の走行軌跡を変更する軌跡変更処理を含む請求項1~9のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項11】
前記対処処理は、車速を小さい側に制限する処理を含む請求項1~10のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置における各処理を実行するステップを有するジャックナイフ抑制方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置における各処理をコンピュータに実行させるジャックナイフ抑制プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャックナイフ抑制装置、ジャックナイフ抑制方法、およびジャックナイフ抑制プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、ヒッチ角が最大操舵角を超える場合にジャックナイフ状態を検出する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/001920号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記装置は、現在の状態がジャックナイフ状態か否かを識別する装置である。そのため、ジャックナイフ状態に陥る前に、ジャックナイフ状態となることを回避する措置を講ずることができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラと、を備える連結車両に適用され、取得処理、予測処理、判定処理、および対処処理を実行するように構成され、前記取得処理は、前記トラクタの前後方向と前記トレーラの前後方向とのなす角度であるヒッチ角を示す変数であるヒッチ角変数、および前記トラクタの転舵角を示す変数である転舵角変数を取得する処理であり、前記予測処理は、前記ヒッチ角変数、および前記転舵角変数を入力として前記ヒッチ角の予測値を算出する処理であり、前記判定処理は、前記予測値および前記転舵角変数を入力としてジャックナイフが生じるリスクが大きいか否かを判定する処理であり、前記対処処理は、前記リスクが大きいと判定する場合、前記ジャックナイフが生じることを抑制すべく、所定のハードウェアを操作する処理であるジャックナイフ抑制装置である。
【0006】
ヒッチ角変数および転舵角変数によれば、未来のヒッチ角の推移を予測できる。そして、未来のヒッチ角の推移によれば、近い将来にジャックナイフが生じるリスクが大きいか否かを判定できる。そのため、上記構成では、予測処理、および判定処理を実行する。そして、ジャックナイフが生じるリスクが大きい場合、対処処理を実行することにより、実際にジャックナイフ状態となることを抑制できる。
【0007】
2.前記取得処理は、前記ヒッチ角変数として、前記ヒッチ角を検出するセンサの検出値を取得する処理を含む上記1記載のジャックナイフ抑制装置である。
上記構成では、ヒッチ角の検出値を用いて未来のヒッチ角を予測することにより、負荷の小さい演算によって、予測処理に用いるヒッチ角の初期値の精度を高めることができる。
【0008】
3.前記予測処理は、前記検出値を入力として未来の前記ヒッチ角を算出する処理を実行した後、前記算出した未来の前記ヒッチ角に基づきより未来の前記ヒッチ角を算出する処理を1回以上実行することによって、最終的に算出された前記未来の前記ヒッチ角を前記予測値とする処理である上記2記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0009】
未来のヒッチ角と現在のヒッチ角との関係は非線形な関係である。そのため、未来のヒッチ角を現在のヒッチ角から一度に予測する場合、未来のヒッチ角を線形近似によって求めることとなる。これに対し、上記のように、予測したヒッチ角を用いてさらに先の未来を予測することにより、最終的に予測されるヒッチ角の精度を、線形近似によるものよりも高めることができる。
【0010】
4.前記取得処理は、車速を取得する処理を含み、前記予測処理は、前記車速が基準値以上の場合、取得した前記車速で前記連結車両が所定期間走行する場合の前記予測値を算出して且つ、前記車速が前記基準値未満の場合、予め想定されたゼロよりも大きい車速で前記連結車両が前記所定期間走行する場合の前記予測値を算出する処理を含む上記1~3のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0011】
車速がゼロの場合、ヒッチ角は変化しない。そのため、車速が過度に小さい場合には、ヒッチ角の予測値の変化が過度に小さくなるおそれがある。そのため、車両が極低速または停止した状態においては、車両が加速した直後にジャックナイフが生じるか否かを予測することが困難となる。そこで上記構成では、車速が基準値未満の場合、予め想定されたゼロよりも大きい車速を用いてヒッチ角を予測する。これにより、車両が加速した場合にジャックナイフが生じるか否かを予測できる。
【0012】
5.前記判定処理は、前記予測値を入力として前記ジャックナイフが生じる前記転舵角変数の値である閾値を設定する閾値設定処理と、前記閾値の大きさを前記転舵角変数の値の取り得る最大値が上回る量が規定値以下の場合に前記リスクが大きいと判定するリスク判定処理と、を含む上記1~3のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0013】
ジャックナイフが生じる転舵角の大きさを転舵角の最大値が上回る量が大きい場合、転舵角の変更によって、ヒッチ角を左右双方に変更することができる。そしてこれにより、ジャックナイフを回避することができる。一方、上記上回る量がゼロとなると、転舵角の変更方向が制限される。そのため、ヒッチ角の変化方向も制限される。これにより、ジャックナイフを回避するように転舵角を操作することができなくなるおそれがある。そのため、上記構成では、ジャックナイフが生じる転舵角の大きさを転舵角の最大値が上回る量に応じてリスクを判定する。
【0014】
6.前記予測処理は、前記予測値を入力として前記ジャックナイフが生じる前記転舵角変数の値である閾値を設定する閾値設定処理を含んで且つ、前記閾値が所定値となるまで前記予測値の算出を継続する処理であり、前記判定処理は、前記閾値が前記所定値となるまでの予測時間が所定時間以下の場合に前記リスクが大きいと判定するリスク判定処理を含む上記3記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0015】
ジャックナイフが生じる転舵角の大きさを転舵角の最大値が上回る量が大きい場合、転舵角の変更によって、ヒッチ角を左右双方に変更することができる。そしてこれにより、ジャックナイフを回避することができる。一方、上記上回る量がゼロとなると、転舵角の変更方向が制限される。これにより、ヒッチ角の変化方向も制限される。そのため、ジャックナイフを回避するように転舵角を操作することができなくなるおそれがある。そのため、上記構成では、閾値が所定値となるまでの時間によって、リスクを定量化する。
【0016】
7.前記リスクが大きいと判定する基準に対するユーザの意思を受け付ける受付処理と、前記受付処理によって受け付けられた前記意思に応じて前記基準を設定する設定処理と、を実行する上記1~6のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0017】
ジャックナイフが生じるリスクが大きいとする基準を厳しく設定する場合、運転スキルによってはジャックナイフを生じることなく走行可能な状況であるにもかかわらず、運転に制約を生じさせるおそれがある。一方、同基準を緩くする場合、運転スキルが高くないユーザが運転する場合にリスクが大きい旨の判定が遅れてジャックナイフが生じるおそれがある。そこで上記構成では、基準に対するユーザの意思を受け付ける。これにより、ユーザが自分の運転スキルに応じて基準を定めることができる。
【0018】
8.前記対処処理は、前記連結車両のユーザにリスクが大きい旨を報知する報知処理を含む上記1~7のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
上記構成では、ユーザにリスクが大きい旨を報知することにより、ユーザは、ジャックナイフのリスクが大きいことを認知できる。そのため、上記構成では、ユーザに、ジャックナイフを生じさせない運転をするように促すことができる。
【0019】
9.前記トレーラの転舵角を自動で操作する自動操舵処理を実行し、前記対処処理は、前記自動操舵処理のゲインを大きくするゲイン増大処理を含む上記1~8のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0020】
上記構成では、ジャックナイフのリスクが大きい場合、ゲイン増大処理が実行される。これにより、制御の応答性を高めることができることから、ジャックナイフが生じることを抑制できる。
【0021】
10.前記トレーラの転舵角を自動で操作する自動操舵処理を実行し、前記対処処理は、前記自動操舵処理による前記連結車両の走行軌跡を変更する軌跡変更処理を含む上記1~9のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
【0022】
上記構成では、ジャックナイフのリスクが大きい場合、自動操舵処理による走行軌跡を変更する。これにより、ジャックナイフが生じにくい走行軌跡に変更することができる。したがって、上記構成によれば、ジャックナイフが生じることを抑制できる。
【0023】
11.前記対処処理は、車速を小さい側に制限する処理を含む上記1~10のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置である。
車速が小さい場合には大きい場合と比較して、ジャックナイフが生じない転舵角へと変更する時間的猶予を確保しやすい。そこで上記構成では、ジャックナイフのリスクが大きい場合、車速を小さい側に制限する。これにより、ジャックナイフを回避するうえで必要な転舵角の操作が容易となる。
【0024】
12.上記1~11のいずれか1つに記載のジャックナイフ抑制装置における各処理を実行するステップを有するジャックナイフ抑制方法である。
13.上記1~11のいずれか1項に記載のジャックナイフ抑制装置における各処理をコンピュータに実行させるジャックナイフ抑制プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施形態にかかる連結車両の構成を示す斜視図である。
図2】同実施形態にかかる制御システムの構成を示すブロック図である。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態にかかる連結車両のモデルを示す図である。
図5】同実施形態にかかるリスクの大小を説明するための図である。
図6】(a)および(b)は、同実施形態の作用を説明するための図である。
図7】第2の実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図8】第3の実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図9】第4の実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「連結車両の構成」
図1に示すように、連結車両10は、トラクタ20およびトレーラ30を有している。図1には、トラクタ20として、小型貨物自動車の一種であるピックアップトラックを例示する。トラクタ20は、前輪22および後輪24を備える。前輪22は右前輪および左前輪の2輪を含み、後輪24は右後輪および左後輪の2輪を含む。また、図1には、トレーラ30として、箱型のトレーラを例示する。トレーラ30は、車輪32を有している。車輪32は、右車輪および左車輪の2輪を含む。
【0027】
トレーラ30は、ボールジョイント40を介してトラクタ20の後部に連結されている。ボールジョイント40は、トレーラ30を、トラクタ20に対して軸42を中心として回転可能に連結する部材である。軸42は、トラクタ20の高さ方向に沿って延びる。
【0028】
図2に、トラクタ20が備える部材の一部を示す。図2に示すように、トラクタ20は、制御装置50を備えている。制御装置50は、制御対象としての連結車両10の制御量を制御すべく、転舵系60、駆動系62、および制動系64を操作する。制御量は、車速、走行方向、およびヒッチ角等である。ヒッチ角は、トラクタ20の前後方向とトレーラ30の前後方向とのなす角度である。
【0029】
転舵系60は、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを含む。転舵輪は、たとえば、図1に示す前輪22である。なお、転舵系60に転舵アクチュエータを操作する転舵制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が転舵系60を操作する」とは、制御装置50が転舵制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0030】
駆動系62は、車両の推力生成装置としての、内燃機関および回転電機の2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、駆動系62に、内燃機関および回転電機を制御対象とする駆動制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が駆動系62を操作する」とは、制御装置50が駆動制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0031】
制動系64は、摩擦力によって車輪の回転を減速させる装置と、車輪の動力を電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置との2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置は、駆動系の回転電機と共有されていてもよい。なお、制動系64に、車輪の回転を減速させる装置を制御対象とする制動制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が制動系62を操作する」とは、制御装置50が制動制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0032】
制御装置50は、制御量を制御すべく、舵角センサ70によって検出される転舵輪の転舵角θt、およびヨーレートセンサ72によって検出されるヨーレートyrを参照する。転舵角θtは、右旋回および左旋回のうちのいずれか一方の符号が正、他方の符号が負となる値である。転舵角θtは、タイヤの切れ角である。なお、たとえば転舵系60がラックアンドピニオン機構を備える場合、舵角センサ70をピニオン角を検出するセンサとしてもよい。ただし、その場合、制御装置50がピニオン角をタイヤの切れ角に変換する処理を実行する。以下では、説明の便宜上、タイヤの切れ角が上記変換する処理によって得られたものであっても、舵角センサ70の検出値と見なす。
【0033】
また制御装置50は、ヒッチ角センサ74によって検出されるヒッチ角βと、車輪速センサ76によって検出される車輪速度ωw1~ωw4と、を参照する。ヒッチ角βは、トラクタ20の後方から前方に進む方向とトレーラ30の後方から前方に進む方向とのなす角度に応じて正、負の双方の符号を取り得る。たとえば、トラクタ20の後方から前方に進む方向に対してトレーラ30の後方から前方に進む方向が反時計回りに180°未満ずれる場合のヒッチ角βの符号を、正としてもよい。車輪速度ωw1,ωw2は、それぞれ、右側の前輪22の回転速度、および左側の前輪22の回転速度である。車輪速度ωw3,ωw4は、それぞれ、右側の後輪24の回転速度、および左側の後輪24の回転速度である。制御装置50は、制御量の制御を、ユーザインターフェース80の操作状態に応じて設定する。ユーザインターフェース80は、自動運転および手動運転の2つのうちのいずれか1つを選択する等、ユーザの意思を制御装置50に伝達するためのものである。
【0034】
制御装置50は、PU52および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。記憶装置54には、ジャックナイフ抑制プログラム54aおよび後退アシストプログラム54bが記憶されている。
【0035】
ジャックナイフ抑制プログラム54aは、PU52に、ジャックナイフを抑制する処理を実行させる指令を規定するプログラムである。後退アシストプログラム54bは、PU52に、連結車両10の自動運転による後退制御を実行させる指令を規定するプログラムである。
【0036】
「ジャックナイフを抑制するための処理」
図3に、ジャックナイフを抑制するための処理の手順を示す。図3に示す処理は、PU52がジャックナイフ抑制プログラム54aをたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0037】
図3に示す一連の処理において、PU52は、まず手動後退モードであるか否かを判定する(S10)。換言すれば、後退アシストプログラム54bが実行されることなくユーザが連結車両10を後退させるように運転するモードであるか否かを判定する。
【0038】
PU52は、手動後退モードであると判定する場合(S10:YES)、転舵角θtおよびヒッチ角βを取得する(S12)。そして、PU52は、転舵角θtおよびヒッチ角βをローパスフィルタ処理することによって、高周波成分を除去する(S14)。次にPU52は、連結車両10の後輪車速VB1を取得する(S16)。ここで後輪車速VB1は、後述の図4に示すモデルにおける後輪B1の車速である。後輪車速VB1は、トラクタ20が前進走行する際の符号が正となり、後退する際の符号が負となる。後輪車速VB1は、車輪速度ωw1~ωw4の少なくとも1つに基づきPU52によって算出される。後輪車速VB1は、たとえば車輪速度ωw3,ωw4の平均値を並進速度に変換した値であってもよい。
【0039】
次にPU52は、後輪車速VB1の絶対値が基準値VB1b以上であるか否かを判定する(S18)。PU52は、上記絶対値が基準値VB1b未満であると判定する場合(S18:NO)、後述の予測処理に用いる変数としての後輪車速VB1に基準値VB1bを代入する(S20)。PU52は、S20の処理を完了する場合と、S18の処理において肯定判定する場合と、には、予測ヒッチ角βeにS12の処理によって取得したヒッチ角βを代入する(S22)。この処理は、後述するヒッチ角βの予測処理における初期値を定める処理である。
【0040】
次にPU52は、変数iが規定数N以下であるか否かを判定する(S24)。変数iは、後述のS26の処理の実行回数をカウントする変数である。変数iの初期値は、ゼロである。一方、規定数Nは、「1」以上の自然数である。PU52は、上記規定数N以下であると判定する場合(S24:YES)、単位時間だけ未来のヒッチ角としての予測ヒッチ角βeを算出する(S26)。以下、これについて説明する。
【0041】
図4に、ヒッチ角βの予測に用いるモデルを示す。図4に示すモデルは、トラクタ20の一対の前輪22を前輪C0として且つ、トラクタ20の一対の後輪24を後輪B1とする。すなわち、トラクタ20について2輪モデルを採用している。また、トレーラ30の一対の車輪32を車輪B2とする。前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線と、ヒッチ点C1および車輪B2によって定まる線とのなす角が、ヒッチ角βである。ヒッチ点C1は、図1の軸42部分に相当する。また、前輪C0の速度である前輪速度VC0は、転舵角αの方向に進むベクトルとしている。ヒッチ角βは、前輪C0の進む方向と、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線とのなす角度としてモデル化されている。後輪車速VB1の方向は、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線に平行である。また、後輪車速VB1の方向と、図4のx方向とのなす角は、角度θ1である。また、車輪B2とヒッチ点C1とを結ぶ線とx方向とのなす角は、角度θ2である。また、前輪C0および後輪B1間の距離l1と、後輪B1およびヒッチ点C1間の距離h1と、ヒッチ点C1および車輪B2間の距離l2とを定義する。
【0042】
図4に示すモデルにおいて、ヒッチ角βの時間微分dβ/dtは、以下の式(c1)にて表現される。
dβ/dt
=-(VB1/l2)・sinβ
-{VB1/(l1・l2)}・(l2+h1・cosβ)・tanα …(c1)
上記の式において、時間微分dβ/dtを単位時間当たりの差分として表現することにより、予測ヒッチ角βeに関する以下の更新式が得られる。PU52は、S26の処理において、以下の更新式を用いて予測ヒッチ角βeを算出する。
【0043】
βe←βe-(VB1/l2)・sinβe
-{VB1/(l1・l2)}・(l2+h1・cosβe)・tanα
図3に戻り、PU52は、S26の処理を実行すると、変数iを「1」だけ増加させる(S28)。そしてPU52は、S24の処理に戻る。
【0044】
一方、PU52は、変数iが規定数Nよりも大きいと判定する場合(S24:NO)、ジャックナイフが生じる最小の転舵角である閾値αthを算出する(S30)。詳しくは、PU52は、閾値αthに、「arctan{-l1・sinβe/(l2+h1・cosβe)}」を代入する。これは、閾値αthを、上記の式(c1)において時間微分dβ/dtをゼロとしたときの転舵角とする処理である。すなわち、ジャックナイフが生じる場合、左旋回および右旋回のいずれの操舵をしても、ヒッチ角βは増加する。そのため、ジャックナイフが生じる下限の大きさを有する転舵角αは、上記の式(c1)において時間微分dβ/dtをゼロとしたときの転舵角となる。
【0045】
図5に示すように、ヒッチ角βが「0°」である場合、転舵角θtが右旋回側の値である場合にトレーラ30が右旋回する一方、転舵角θtが左旋回側の値である場合にトレーラ30が左旋回する。一方、ヒッチ角βが「50°」である場合、転舵角θtが右旋回側の値であるか左旋回側の値であるかにかかわらず、トレーラ30が左旋回する。すなわち、転舵角θtの操作によってヒッチ角βの大きさを小さくする制御をすることができない。
【0046】
図3に戻り、PU52は、閾値αthの絶対値を最大転舵角θtmaxが上回る量Δが規定値Δth以下であるか否かを判定する(S32)。最大転舵角θtmaxは、転舵角θtの大きさの最大値である。ここで、規定値Δthは、ジャックナイフが生じるおそれがある旨判定する下限値に設定されている。
【0047】
図5においては、ヒッチ角βが「50°」である場合にヒッチ角βの速度であるヒッチ角速度がゼロ以上であることを示した。そのため、ヒッチ角速度がゼロとなる転舵角θtの大きさが最大転舵角θtmaxと一致する。したがって、ヒッチ角βが「50°」となると、もはやジャックナイフを回避できない。これに対し、たとえば、ヒッチ角βが「0°」の場合、ヒッチ角速度がゼロとなる転舵角が「0°」となる。そのため、閾値αthの絶対値と最大転舵角θtmaxとの間に大きな差がある。したがって、ジャックナイフが生じるまでに余裕がある。したがって、閾値αthの絶対値を最大転舵角θtmaxが上回る量Δが小さいほど、ジャックナイフが生じるリスクが大きいことを意味する。したがって、上回る量Δは、ジャックナイフが生じるリスクの度合いを示す変数となる。
【0048】
図3に戻り、PU52は、規定値Δth以下であると判定する場合(S32:YES)、表示装置82を操作することによって、警告処理を実行する(S34)。詳しくは、PU52は、表示装置82に表示される所定のオブジェクトの画像を点滅させる。ここで、PU52は、上回る量Δの大きさに応じて画像を点滅させる周期を変更する。具体的には、PU52は、上回る量Δが大きい場合の周期が、上回る量Δが小さい場合の周期以上となるようにする。この処理は、たとえば、記憶装置54に、マップデータが記憶された状態で、PU52が上回る量Δに基づき周期をマップ演算することによって実現できる。ここで、マップデータは、上回る量Δを入力変数として且つ、周期を出力変数とするデータである。なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0049】
また、PU52は、駆動系62および制動系64を操作することによって、連結車両10の車速を小さい側に制限する(S36)。すなわち、PU52は、ユーザのアクセル操作等によって連結車両10が予め定められた上限速度を超えないように、駆動系62が生成する駆動力を制限するか、制動力を付与する。
【0050】
なお、PU52は、S36の処理を完了する場合と、S10の処理において否定判定する場合と、には、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0051】
図6に、ヒッチ角βの変位を例示する。詳しくは、図6(a)は、転舵角θtを右旋回側に切っている状態であって且つ、ヒッチ角βの大きさが小さくなる方向に変位する場合を示す。その場合、ジャックナイフが生じるリスクが小さい。
【0052】
これに対し、図6(b)は、転舵角θtを左旋回側に切っている状態であって且つ、ヒッチ角βの大きさが大きくなる方向に変位する場合を示す。その場合、ジャックナイフが生じるリスクが大きい。そのため、PU52は、ジャックナイフが生じる可能性が大きい旨、ユーザに報知する。
【0053】
具体的には、PU52は、閾値αthの絶対値を最大転舵角θtmaxが上回る量Δが小さい場合に、ジャックナイフが生じる可能性が大きい旨、判定する。ここで、閾値αthは、予測ヒッチ角βeに応じて算出される。これに対し、図6には、現在のヒッチ角βを用いて算出される閾値αth0を併せて記載している。図6(b)に示すように、閾値αthが最大転舵角θtmaxに達する時刻t1は、閾値αth0が最大転舵角θtmaxに達する時刻t2よりも早い。そのため、本実施形態によれば、ジャックナイフが生じるリスクを早期に検知して警告をすることができる。
【0054】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1-1)PU52は、ヒッチ角βを入力として単位時間だけ未来の予測ヒッチ角βeを算出する処理を実行した後、これに基づき単位時間だけさらに未来の予測ヒッチ角βeを算出する処理を1回以上実行した。そして、PU52は、最終的に算出された予測ヒッチ角βeを用いて閾値αthを算出した。これにより、閾値αthの算出に用いる予測ヒッチ角βeの精度を、線形近似によるものよりも高めることができる。
【0055】
(1-2)後輪車速VB1がゼロの場合、上記の式(c1)によれば、ヒッチ角βは変化しない。そのため、後輪車速VB1が過度に小さい場合には、予測ヒッチ角βeの変化が過度に小さくなるおそれがある。そのため、たとえば、連結車両10が停止している状態から発進した場合、その直後にジャックナイフが生じるか否かを予測することが困難となる。そこで、PU52は、後輪車速VB1が基準値VB1bよりも小さい場合、予測ヒッチ角βeの算出処理の入力となる後輪車速VB1に基準値VB1bを代入した。これにより、連結車両10が極低速から加速した場合にジャックナイフが生じるか否かを予測できる。
【0056】
(1-3)ジャックナイフが生じる転舵角θtを最大転舵角θtmaxが上回る量が大きい場合、転舵角θtの変更によって、ヒッチ角βを左右双方に変更することができる。そしてこれにより、ジャックナイフを回避することができる。一方、ジャックナイフが生じる転舵角θtを最大転舵角θtmaxが上回る量がゼロとなると、転舵角θtの変更方向が制限される。これにより、ヒッチ角の変化方向も制限される。そのため、ジャックナイフを回避するように転舵角を操作することができなくなるおそれがある。そこで、PU52は、閾値αthの絶対値を最大転舵角θtmaxが上回る量が所定値Δth以下の場合にリスクが大きいと判定した。これにより、ジャックナイフが生じるリスクが大きいか否かを判定できる。
【0057】
(1-4)PU52は、ジャックナイフが生じるリスクが大きい場合、その旨を報知した。これにより、ユーザは、ジャックナイフが生じるリスクが大きいことを認知できる。そのため、ユーザに、ジャックナイフを生じさせない運転をするように促すことができる。
【0058】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0059】
上記第1の実施形態では、ジャックナイフが生じる可能性の大小の基準を予め設定した。これに対し、本実施形態では、ユーザが基準を変更できるようにする。
図7に、基準の変更に関する処理の手順を示す。図7に示す処理は、PU52がジャックナイフ抑制プログラム54aをたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0060】
図7に示す一連の処理において、PU52は、まず、ユーザインターフェース80に対する、上記基準の変更の意思を示す入力操作があるか否かを判定する(S40)。PU52は、入力操作があると判定する場合(S40:YES)、基準変更の入力を受け付ける(S42)。この処理は、次のようにして行えばよい。まずPU52は、基準の変更の仕方について、いくつかの選択肢を表示装置82に表示する。具体的には、たとえば、デフォルトで与えられた基準に対して、ユーザが自身の運転スキルに対して抱いている感覚に応じて、より早期に危険と判定する選択肢、およびより危険と判定しにくい選択肢を提示する。ここで、たとえば、より早期に危険と判定する選択肢を複数通り設けてもよい。また、たとえば、より危険と判定しにくい選択肢を複数通り設けてもよい。
【0061】
そして、PU52は、選択肢に応じて、基準を変更する(S44)。ここで、PU52は、運転スキルに対する不安に応じて規定値Δthを設定する。ここでは、運転スキルに対する不安が大きい場合の規定値Δthを、小さい場合の規定値Δth以上とする。なお、PU52は、上回る量Δが規定値Δth以下である場合、上回る量Δが同一であっても、点滅の周期を、運転スキルに対する不安に応じて設定する。ここでは、運転スキルに対する不安が大きい場合の周期を、小さい場合の周期以下とする。
【0062】
なお、PU52は、S44の処理を完了する場合と、S40の処理において否定判定する場合とには、図7に示す一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、以下の作用および効果が得られる。
【0063】
(2-1)ジャックナイフが生じるリスクが大きいとする基準を厳しく設定する場合、運転スキルによってはジャックナイフを生じることなく走行可能な状況にもかかわらず、運転に制約を生じさせるおそれがある。一方、同基準を緩くする場合、運転スキルが高くないユーザが運転する場合にリスクが大きい旨の判定が遅れてジャックナイフが生じるおそれがある。そこでPU52は、基準に対するユーザの意思を受け付ける。これにより、ユーザが自分の運転スキルに応じて基準を定めることができる。
【0064】
(2-2)PU52は、上回る量Δが同一であっても、運転スキルに対する不安の大小に応じて点滅の周期を設定した。これにより、規定値Δthをリスクが大きい旨を通知する基準として、上回る量Δが規定値Δthよりも小さくなるにつれて点滅の周期を適切に小さくしていくことができる。
【0065】
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0066】
上記第1の実施形態sでは、閾値αthの絶対値を最大転舵角θtmaxが上回る量Δに応じてジャックナイフが生じるリスクを定量化した。これに対し、本実施形態では、ジャックナイフが生じると判定される転舵角θtである上記閾値αthの絶対値が最大転舵角θtmaxとなるまでに要する時間に応じて、リスクを定量化する。
【0067】
図8に、本実施形態にかかるジャックナイフを抑制するための処理の手順を示す。図8に示す処理は、PU52がジャックナイフ抑制プログラム54aをたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、図8において、図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付与してその説明を省略する。
【0068】
図8に示す一連の処理において、PU52は、S22の処理を完了する場合、S26,S30の処理を順次実行する。そして、PU52は、S26,S30の処理を実行した回数を示す変数iを「1」だけ増加させる(S50)。変数iの初期値は「0」である。そしてPU52は、閾値αthの絶対値が、最大転舵角θtmax以上であるか否かを判定する(S52)。PU52は、上記最大転舵角θtmax未満であると判定する場合(S52:NO)、S26の処理に戻る。一方、PU52は、最大転舵角θtmax以上であると判定する場合(S52:YES)、変数iが閾値ith以上であるか否かを判定する(S54)。閾値ithは、ジャックナイフが生じるリスクが大きいと判定する下限値に応じて設定されている。そして、PU52は、閾値ith以上であると判定する場合(S54:YES)、S34,S36の処理を実行する。
【0069】
なお、PU52は、S34の処理において、変数iの値に応じて点滅の周期を変更する。ここで、PU52は、変数iの値が小さい場合の周期を、変数iの値が大きい場合の周期以下とする。
【0070】
なお、PU52は、S10,S54の処理において否定判定する場合と、S36の処理を完了する場合と、には、図8に示す一連の処理を一旦終了する。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0071】
本実施形態では、連結車両10の自動運転による後退制御を実行する際に、ジャックナイフが生じることを抑制する処理を実行する。
図9に、本実施形態にかかるジャックナイフを抑制するための処理の手順を示す。図9に示す処理は、PU52がジャックナイフ抑制プログラム54aをたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、図9において、図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付与してその説明を省略する。
【0072】
図9に示す一連の処理において、PU52は、まずアシストモードであるか否かを判定する(S10a)。そして、PU52は、アシストモードであると判定する場合(S10a:YES)、S12~S32の処理を実行する。
【0073】
そしてPU52は、規定値Δth以下であると判定する場合(S32:YES)、ジャックナイフが生じるリスクを軽減する処理を実行する(S34a)。ここで、PU52は、連結車両10の走行軌跡を、その曲率が小さくなるように変更する。これは、ジャックナイフが生じないような転舵角θtの制御を容易とするための設定である。ただし、PU52は、曲率の変更が困難であると判定する場合、制御ゲインを増大させる。ここで、制御ゲインは、転舵角θtを目標転舵角にフィードバック制御するためのゲインであってもよい。また、制御ゲインは、走行軌跡を目標走行軌跡にフィードバック制御するためのゲインであってもよい。この際、PU52は、ジャックナイフが生じるリスクが高まったことからそれに対処する処理に切り替えたことをユーザに伝えるべく、表示装置82を操作して警告処理を実行してもよい。ただし、PU52は、意図的にジャックナイフが生じるリスクがある程度高くなる走行軌跡を設定している場合等には、警告を行わないことが望ましい。なお、警告を発する場合であっても、警告を発する際のリスクを、手動運転時と比較して高い場合に限ってもよい。
【0074】
そして、PU52は、S36の処理に移行する。
なお、PU52は、S36の処理を完了する場合と、S10a,S32の処理において否定判定する場合と、には、図9に示す一連の処理を一旦終了する。
【0075】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,2,12]取得処理は、S12の処理に対応する。ヒッチ角変数は、ヒッチ角βに対応する。転舵角変数は、転舵角θtに対応する。予測処理は、図3,9のS18~S28の処理、図8のS18~S22,S26,S30,S50,S52の処理に対応する。判定処理は、図3,9のS30,S32の処理と、図8のS54の処理と、に対応する。[3]S24の処理において、規定数Nが「1」以上であることに対応する。[4]取得処理は、S16の処理に対応する。予測処理は、S20の処理によって設定された基準値VB1bを用いた処理に対応する。予測値は、S24の処理において否定判定されたときの予測ヒッチ角βeに対応する。[5]閾値設定処理は、図3,9のS30の処理に対応する。リスク判定処理は、図3,9のS32の処理に対応する。[6]図8のS18~S22,S26,S30,S50,S52の処理に対応する。予測値は、予測ヒッチ角βeに対応する。予測時間は、S52の処理において肯定判定された時点の変数iの値に対応する。[7]受付処理は、S42の処理に対応する。設定処理は、S44の処理に対応する。[8]報知処理は、S34,S34aの処理に対応する。[9]S10aの処理によって肯定判定される場合の処理に対応する。換言すれば、後退アシストプログラムをPU52が実行することによって実現される処理に対応する。ゲイン増大処理は、S34aの処理に対応する。[10]S10aの処理によって肯定判定される場合の処理に対応する。換言すれば、後退アシストプログラムをPU52が実行することによって実現される処理に対応する。軌跡変更処理は、S34aの処理に対応する。[11]対処処理は、S36の処理に対応する。[13]コンピュータは、PU52に対応する。
【0076】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0077】
「取得処理について」
・S12の処理では、転舵角変数として、舵角センサ70によって検出される転舵角θtを取得したが、これに限らない。たとえば、ヨーレートセンサによって検出されるヨーレートと、車速とを取得してもよい。すなわち、ヨーレートセンサの検出値と車速との組を、転舵角変数として取得してもよい。また、たとえば左右の車輪の速度差、または左右の車輪のそれぞれの速度の組を、転舵角変数として取得してもよい。
【0078】
・S26の処理では、ヒッチ角βの初期値を、ヒッチ角センサ74によって検出されるヒッチ角βとしたが、これに限らない。たとえば、推定値であってもよい。これは、たとえば、車両の直進走行状態におけるヒッチ角をゼロと見なして、S26の処理と同様の処理によって、都度、ヒッチ角βを推定することによって実現できる。換言すれば、取得処理によって取得するヒッチ角変数の値は、検出値に限らない。
【0079】
「予測処理について」
図3および図9のS26の処理では、現在の後輪車速VB1を用いて予測ヒッチ角βeを算出したが、これに限らない。たとえば予め定められた車速を用いてもよい。またたとえば、図8のS26の処理において、現在の後輪車速VB1に代えて予め定められた車速を用いて予測ヒッチ角βeを算出してもよい。すなわち、予測処理の入力にとって、現在の後輪車速VB1は必須ではない。
【0080】
図3および図9の処理においては、Nを「1」以上の整数としたが、これに限らず、「0」としてもよい。その場合、S26の処理における単位時間を大きい値に設定することが望ましい。
【0081】
・予測ヒッチ角βeを算出する処理としては、図4に例示したモデルに基づく処理に限らない。たとえば、転舵角変数の値およびヒッチ角変数の値を入力として予測ヒッチ角βeの値を出力する学習済みモデルとしての回帰モデルを用いてもよい。ここで、回帰モデルとしては線形回帰モデル、またはニューラルネットワークモデルを用いることができる。
【0082】
「報知処理について」
・上記実施形態では、ジャックナイフが生じるリスクの大きさに応じて表示装置82に表示されるオブジェクトの点滅の周期を変更したが、これに限らない。
【0083】
・上記実施形態では、表示装置82に表示されるオブジェクトの点滅によってジャックナイフのリスクが大きい旨を報知したが、これに限らない。たとえば、警報音によってジャックナイフのリスクが大きい旨を報知してもよい。この際、ジャックナイフが生じるリスクの大きさに応じて警報音の種類、警報音を発する周期の少なくとも1つを変更してもよい。
【0084】
・ジャックナイフが生じるリスクが大きい旨報知する処理としては、視覚信号および聴覚信号の少なくとも一方を出力する処理に限らない。たとえば、ステアリングホイールの反力を大きくする処理であってもよい。またたとえば、ステアリングホイールに振動を加える処理であってもよい。
【0085】
「ゲイン増大処理について」
・上記実施形態では、軌跡の変更が困難と判定される場合にゲインを増大したが、これに限らない。たとえば、S32の処理において肯定判定される場合、ゲインを増大させる処理を常時実行してもよい。この際、軌跡を変更する処理を含めなくてもよく、また含めてもよい。
【0086】
「対処処理について」
・S36の処理では、車速を、予め定められた一定の車速以下に制限したが、これに限らない。たとえば、閾値αthの絶対値を最大転舵角θtmaxが上回る量Δに応じて、上限値となる車速を変更してもよい。その場合、上回る量Δが大きい場合の上限値を小さい場合の上限値以上とする。
【0087】
・S32の処理において肯定判定される場合、駆動系62および制動系64を操作することによって車両を停車させてもよい。
「制御装置について」
・制御装置としては、PU52と記憶装置54とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0088】
「車両について」
・連結車両としては、図1に例示した車両に限らない。車両としては、連結車両に限らない。
【符号の説明】
【0089】
10…連結車両
20…トラクタ
22…前輪
24…後輪
30…トレーラ
32…車輪
40…ボールジョイント
42…軸
50…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9