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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010116
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】流路切替装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113998
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】吉川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 訓一
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 学
【テーマコード(参考)】
3H106
【Fターム(参考)】
3H106DA08
3H106DA11
3H106DA23
3H106DA34
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC09
3H106DC19
3H106DD05
3H106EE48
3H106GB09
3H106GC03
3H106KK03
(57)【要約】
【課題】パイロット流体の漏出を低減できる技術を提供する。
【解決手段】外部から流体が流入するXポート521と、P1ポート523、P2ポート524とに対して移動可能に隣接し、変位することでP1ポート523、P2ポート524のうちのいずれかとXポート521とが切替可能に連通するスプール51と、Xポート521がP1ポート523、P2ポート524のうちの所定流路と連通する連通状態となるように、スプール51を付勢するコイルスプリング56aとを備えた。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から流体が流入する流入流路と、複数の作動流路とに対して移動可能に隣接し、変位することで前記複数の作動流路のうちのいずれかと前記流入流路とが切替可能に連通するスプールと、
前記流入流路が前記複数の作動流路のうちの所定流路と連通する連通状態となるように、前記スプールを付勢する付勢部と
を備えることを特徴とする流路切替装置。
【請求項2】
前記スプールは駆動部からの駆動力が作用することにより変位し、
前記付勢部の前記スプールに対する付勢力は、前記駆動部の前記スプールに対する駆動力よりも小さい
ことを特徴とする請求項1記載の流路切替装置。
【請求項3】
前記スプールに前記駆動力が作用しない場合、前記付勢部により前記連通状態が維持される
ことを特徴とする請求項2記載の流路切替装置。
【請求項4】
前記スプールに前記駆動力が作用しない場合における該スプールの位置を調節する調節部
を更に備えることを特徴とする請求項2または請求項3記載の流路切替装置。
【請求項5】
前記付勢部は、前記スプールの軸方向一方側部分に取り付けられて軸方向他方側に前記スプールを付勢する第1付勢部材と、前記スプールの軸方向他方側部分に取り付けられて軸方向一方側に前記スプールを付勢する第2付勢部材とを有し、
前記第1付勢部材と前記第2付勢部材とにより双方向から付勢されることにより、前記スプールが前記連通状態となる位置に位置付けられる
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項記載の流路切替装置。
【請求項6】
前記流路切替装置は、パイロットサーボ弁である
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項記載の流路切替装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、流体の流路を切り替えることにより、主弁を作動させる流路切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流路切替装置としては、パイロット弁が知られている。パイロット弁は、大形の油圧機器などの大流量の制御が必要とされる油圧回路の一部として組み込まれる絞り弁に広く使用されている。パイロット弁は、内挿されたスプールによってパイロット流体が流入する流路を切り替えることにより、絞り弁に内挿された主弁を変位させて対象流路の開閉を行う。パイロット弁には、電磁式や空気式の切替弁タイプやサーボ弁タイプのものがあり、特にサーボ弁は高い応答性を有して緻密な開閉制御が必要な場合に有用である。
【0003】
パイロット弁は、絞り弁等に内蔵された主弁の位置制御が不要なとき(以後、「非作動状態」と呼ぶ)中立状態、即ちスプールのランドにより流路が閉塞されてパイロット流体がいずれの流路にも流入しない(パイロット圧が印加されない)状態となることが一般的である。しかしながら、中立状態であったとしても、特にパイロット弁にサーボ弁を用いた場合、その構造上・機能上からパイロット流体に漏れが発生し、それを補うためアキュムレータ等で加圧し続ける必要があった。
【0004】
関連する技術に、外部からの電気の供給を受けて励磁される電磁弁コイルと、前記電磁弁コイルの通電でこの電磁弁コイルの中心軸に沿って変位する可動鉄心と、前記可動鉄心の先端に設けられてパイロット弁座から離間されるパイロット弁体と、前記電磁弁コイルを形成するコイル導線を被覆する耐熱温度200℃以上の絶縁材と、を備えることを特徴とするパイロット弁がある(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-062996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、パイロット流体の漏出を低減できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る流路切替装置は、外部から流体が流入する流入流路と、複数の作動流路とに対して移動可能に隣接し、変位することで前記複数の作動流路のうちのいずれかと前記流入流路とが切替可能に連通するスプールと、前記流入流路が前記複数の作動流路のうちの所定流路と連通する連通状態となるように、前記スプールを付勢する付勢部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パイロット流体の漏出を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るパイロット弁を備える絞り弁の閉状態を示す概略縦断面図である。
図2】実施形態に係るパイロット弁を備える絞り弁の開状態を示す概略縦断面図である。
図3】実施形態に係るパイロット弁の閉鎖連通状態を示す概略縦断面図である。
図4】実施形態に係るパイロット弁の開放連通状態を示す概略縦断面図である。
図5】実施形態に係るパイロット弁の作動状態における中立状態を示す概略縦断面図である。
図6】実施形態に係るパイロット弁の非作動状態における回路を示す記号図である。
図7】実施形態に係るパイロット弁の作動状態における回路を示す記号図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本実施形態においては、本発明に係る流路切替装置をパイロット弁に組み込み、当該パイロット弁を備える絞り弁を例にとり説明を行う。なお、当該絞り弁による流量制御対象となる対象流体とパイロット流体とは同じ油とする。
【0011】
(装置構成)
先ず、本実施形態に係る絞り弁の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係るパイロット弁を備える絞り弁の閉状態、開状態をそれぞれ示す概略縦断面図である。なお、ここでの閉状態とは対象流体が流れる対象流路を閉鎖した状態を示し、開状態はその対象流路が開放された状態を示す。これらの図に示される絞り弁は、メインスプールの軸方向とこの紙面の上下方向が一致するようにした状態とし、図1及び図2は、そのような状態におけるメインスプールの軸心と平行に切断してなる切断面を見た概略図となっている。
【0012】
本実施形態に係る絞り弁1は、絞りの対象となる流路であるメインラインが形成された不図示のマニホールドブロックに組み付けられる、所謂カートリッジサーボ弁であり、図1に示されるように、主としてメインスプール2と、スリーブ3と、ベース4と、パイロット弁5とを備える。
【0013】
メインスプール2は、その軸が上下方向に延在する中空円筒状に形成されており、その外周略中央よりやや上方に位置する部分に鍔状のランド21が径外方向に突出して形成されている。メインスプール2はスリーブ3及びベース4に摺動可能に内挿されており、軸方向に沿って円滑に摺動するよう、ランド21を含めたメインスプール2の外周面、つまりスリーブ3及びベース4との当接面が平滑な表面仕上げが施されている。メインスプール2は、ランド21より下方側の外径と上方側の外径とがほぼ等しくなるよう形成されている。メインスプール2の中空部22は、上下の両端面に形成された開口に連通しており、当該開口を介してメインスプール2の上端面とベース4とで画成される背圧室23と、スリーブ3に形成されるポート3Aとに連通する。
【0014】
メインスプール2の上端部内周壁にはコア24の下端部を支持する支持部25が形成されている。コア24は、下方部分が上方部分よりも太径となった略円柱状に形成されており、本実施形態においては磁性体により構成される。コア24は、その下端部が支持部25に支持されており、下端部の上方部分が背圧室23を貫通してメインスプール2から突き出る形でセンサコイル26下方部分の中空内にまで達している。したがってコア24はメインスプール2と一体的に軸方向に沿った変位可能となっており、センサコイル26に対しては遊挿状態となっている。センサコイル26は、その中空部に一部内挿されたコア24の変位を検知するものであり、検知したコア24の位置を検知信号(電流)として不図示の信号線を介して後に詳述する制御装置6(図6参照)に出力する。
【0015】
スリーブ3は、メインスプール2外周を囲繞する中空円筒状に形成されており、具体的にはスリーブ3の中空部に、メインスプール2が軸方向(上下方向)に摺動可能に内挿される。メインスプール2は、その上端部がスリーブ3から上方に突出しており、当該突出部分がベース4に内挿されることとなる。スリーブ3の外径は、下端部から上端部にかけて小径、中径、大径の3段階の径を有するように形成されている。スリーブ3の中径部分に該当する周壁には、マニホールドブロックのメインラインBに連通して流量の制御対象となる油等の対象流体を絞り弁1外部に流出するためのポート3Bが外周中径部分の軸心を境に左右方向に分離するように穿設されている。スリーブ3の大径部分はベース4の第2流路形成部43の中空部に気密に嵌挿されて相対移動不能となっている。
【0016】
スリーブ3の内径は、下端部から上端部にかけて、小径,大径,中径,太径の順に形成されており、ここでの太径は中径より大きく大径より小さいことを示す。小径部分はメインスプール2着座のためにメインスプール2の下端側外径より小さく形成され、マニホールドブロックのメインラインAに連通して対象流体が絞り弁1内に流入させるためのポート3Aとなる。大径部分は、ポート3B確保のためにメインスプール2の下端側外径より大きく、中径部分は摺動のためにメインスプール2の下端側外径より僅かに大きく、太径部分は摺動のためランド21の外径より僅かに大きく形成される。
【0017】
スリーブ3の内周中径部分と内周太径部分との間には、溝部31が周設されており、当該溝部31はランド21の下方に位置するメインスプール2外周部分と協働して環状の受圧室311を形成する。また、スリーブ3の内周太径部分の上方部分には、溝部32が設けられており、当該溝部32はランド21の上方に位置するメインスプール2外周部分と協働して環状の受圧室321を形成する。つまり、スリーブ3の内周がランド21によって仕切られることにより、下方に受圧室311、上方に受圧室321が画成される。
【0018】
また、スリーブ3には、ベース4内部を経由して受圧室311に至るパイロットラインP1と、ベース4内部を経由して受圧室321に至るパイロットラインP2とが穿孔形成されている。メインスプール2とスリーブ3とにより画成される受圧室311はパイロットラインP1にのみ、受圧室321はパイロットラインP2にのみ連通し、これらパイロットラインP1,P2を介してパイロット弁5からパイロット流体が受圧室311,321に流入してパイロット圧が印加されることとなる。
【0019】
スリーブ3の下端部における小径部分のうち大径部分との境界段差に移る角部には、メインスプール2が下方に変位した際に、その下端面の周縁角部が当接し、これを着座させるための面取りが施されてなるシート33が形成されている。メインスプール2が下方に変位してシート33に着座した状態においては、図1に示されるようにスリーブ3における内周小径部分のポート3Aとその上方に位置するポート3Bとが遮断される。一方、メインスプール2が上方に変位してシート33から離間した状態においては、図2に示されるように、ポート3Aとポート3Bとが連通する。
【0020】
ベース4は、軸心部41と、第1流路形成部42と、第2流路形成部43とを備える。軸心部41は略中空円筒状に形成され、その中空部にコア24が内挿される。コア24は、その太径部分が軸心部41の中空部下方の内周壁と摺動可能となっており、小径部分が軸心部41の中空部上方の内周壁と摺動可能となっている。これにより太径部分上方においてコア24の小径部分と軸心部41とにより背圧室411が画成され、軸心部41と、第1流路形成部42と、第2流路形成部43とを経由して一端が外部の油タンクに連通するコントロールラインYが穿孔形成されており、コントロールラインYは背圧室411とパイロット弁5とにも連通している。
【0021】
第1流路形成部42は、略中空円筒状に形成されて、その中空部に軸心部41とセンサコイル26とが気密に嵌挿され相対移動不能に固定されている。また、第1流路形成部42は、内部にコントロールラインYの一部が穿孔形成されている。第1流路形成部42の外周面には、溝部が周設されており、第2流路形成部43の内周壁と協働して環状の流路が上下方向に2つ画成される。上方の流路が第2流路形成部43内のコントロールラインYと連通し、下方の流路が第2流路形成部43内のパイロットラインP1と連通する。
【0022】
第2流路形成部43は、略中空円筒状に形成され、その中空部が下端から上端にかけて大径、小径に形成される。大径部分にはスリーブ3の上端部が相対移動不能に内挿され、小径部分における上方部分には第1流路形成部42が相対移動不能に内挿されると共に、その下方部分にはメインスプール2の上端部が相対移動可能に内挿されている。第2流路形成部43は、上述したパイロットラインP1,P2とコントロールラインYとの他に、パイロット弁5に対してパイロット流体を流入させるためのコントロールラインXが穿孔形成されている。コントロールラインXは不図示のアキュムレータを介して不図示の油圧ポンプに接続されており、油圧ポンプから設定圧力以上となるように適宜油がアキュムレータに流入され、アキュムレータからパイロット弁5にパイロット流体が圧油として流入、即ちパイロット圧が印加される。
【0023】
(絞り弁の動作)
次に、本実施形態に係る絞り弁1の動作について簡単に説明する。メインスプール2を閉状態から開状態に変位させる場合、図1に示される閉状態において、パイロット弁5からパイロットラインP1を介して圧油が受圧室311に供給されパイロット圧が印加されると、受圧室311が受圧室321より高圧となる。これによりメインスプール2が上昇してシート33と離間すると共に、受圧室311が拡張され、受圧室321、背圧室23,411が圧縮されて図2に示される開状態、即ちメインラインAとメインラインBとがポート3A,3Bを介して連通した状態となる。この状態おいてメインラインAからメインラインBに又はその逆に圧油が流動することができる。なお、圧縮時における受圧室321内の油は、パイロットラインP2からパイロット弁5を介してコントロールラインYに流入し、背圧室411の油は直接コントロールラインYに流入して油タンクに排出される。
【0024】
一方、メインスプール2を開状態から閉状態に変位させる場合、図2に示される開状態において、パイロット弁5からパイロットラインP2を介して圧油が受圧室321に供給されパイロット圧が印加されると、受圧室321が受圧室311より高圧となる。これによりメインスプール2が下降してシート33に接近すると共に、受圧室311が圧縮され、受圧室321、背圧室23,411が拡張されて図1に示される閉状態、即ちメインラインAとメインラインBとがメインスプール2により遮断した状態となる。なお、圧縮時における受圧室311内の油は、パイロットラインP1からパイロット弁5を介してコントロールラインYに流入し油タンクに排出される。また、拡張時における背圧室411の油はコントロールラインYから流入される。
【0025】
(パイロット弁5の構成)
次に、本実施形態に係るパイロット弁5の構成について、詳細に説明する。図3図4図5は、それぞれ本実施形態に係るパイロット弁の閉鎖連通状態、開放連通状態、作動状態における中立状態を示す概略縦断面図である。なお、図3図5は、スプールの軸心と平行に切断してなる切断面を見た概略図となっている。また、説明上、図1及び図2に示されるドレンラインDRに連通するポートは省略している。
【0026】
本実施形態に係るパイロット弁5は、センサコイル26の検知信号に応じてメインスプール2を変位させるよう、自身のスプールを連続的に変位可能な所謂パイロットサーボ弁であり、図3に示されるように、主としてスプール51と、メインベース52と、カバーベース53と、作動部材54と、駆動装置55、コイルスプリング56a,56bと、キャップ58、位置センサ59とを備える。
【0027】
スプール51は、その軸が上下方向に延在する略円柱状に形成されており、メインベース52の中空部に内挿されて軸方向に摺動可能となっている。スプール51の周面には、径外方向に突出してなるランド511a~511dが軸方向に沿って4つ互いに離間するように形成されており、スプール51が変位する際にはこれらランド511a~511dがメインベース52内における中空部内周壁と周接することとなる。以後、これらランド511a~511dを区別しない場合はランド511と称して説明を行う。
【0028】
メインベース52は、その軸が上下方向に延在する略中空円筒状に形成されており、その中空部にスプール51が軸方向に摺動可能に内挿される。メインベース52の周壁には、パイロット弁5が絞り弁1のベース4に組み付けられた際に、一端がコントロールラインXと気密に接続することで流体的に連通するXポート521と、それぞれ一端がコントロールラインYと気密に接続することで流体的に連通する2つのYポート522と、一端がパイロットラインP1と気密に接続することで流体的に連通するP1ポート523と、一端がパイロットラインP2と気密に接続することで流体的に連通するP2ポート524とが穿孔形成されている。各ポートの他端は、メインベース52の中空部に連通している。メインベース52の中空部の内径は、各ポートに対応した位置が大径となっており、大径内周壁間が小径となっている。この大径内周壁とスプール51とが協働して流体が流入可能な環状空間が画成される。2つのYポート522に対応する環状空間は接続ライン525により互いに連通している。小径内周壁はランド511と摺動するためにランド511より僅かに大きい径となっており、これによりXポート521とその他のポートとの連通を切り替え可能としている。
【0029】
具体的には、図3に示されるような閉鎖連通状態では、Xポート521に対応する環状空間とP2ポート524に対応する環状空間とが連通し、Xポート521に対応する環状空間上方の小径内周壁とランド511cとが周接することで当該環状空間とP1ポート523に対応する環状空間との連通を遮断している。一方、P2ポート524に対応する環状空間下方の小径内周壁とランド511bとが周接することで当該環状空間と下方のYポート522に対応する環状空間との連通を遮断している。したがって閉鎖連通状態では、Xポート521からP2ポート524に圧油が流入することとなり、図1に示されるような閉状態にメインスプール2を移行、即ち下方に変位させることができる。この時、P1ポート523と上方のYポート522も連通し、P1ポート523からの圧油が上方のYポート522に流入することができる。
【0030】
同様に、図4に示されるようなスプール51が上方に変位した開放連通状態では、Xポート521に対応する環状空間とP1ポート523に対応する環状空間とが連通し、P1ポート523に対応する環状空間上方の小径内周壁とランド511cとが周接することで当該環状空間とYポート522に対応する環状空間との連通を遮断している。一方、Xポート521に対応する環状空間下方の小径内周壁とランド511bとが周接することで当該環状空間とP2ポート524に対応する環状空間との連通を遮断している。したがって開放連通状態では、Xポート521からP1ポート523に圧油が流入することとなり、図2に示されるような開状態にメインスプール2を移行、即ち上方に変位させることができる。この時、P2ポート524と下方のYポート522も連通し、P2ポート524からの圧油が下方のYポート522に流入することができる。
【0031】
また、ランド511の軸方向長さは、環状空間の軸方向長さと同等か短くされている。これにより、図5に示されるような状態では、ランド511bによりP2ポート524を閉塞し、ランド511cによりP1ポート523を閉塞することができる。この状態が絞り弁1のメインスプール2の現状位置を維持する中立状態となる。
【0032】
図3に示されるように、スプール51の上端部はメインベース52内に達しており、そこで略円柱状の作動部材54の下端部と連結支持されている。作動部材54は、駆動装置55により軸方向に変位されるものであり、作動部材54の変位によりこれと一体に連結されているスプール51が変位する。作動部材54は下端部が小径に形成され、その上方部分が大径となっており、その境において径外方向に突出した円盤部分が形成されている。駆動装置55は、このような形状の作動部材54の周面を囲繞するように設けられており、外部から通電されて可動すると共に制御装置6(図6及び図7参照)からの制御信号に基づいて作動部材54を軸方向に変位させる。駆動装置55は、スプール51を無段階で連続的に変位させて制御信号に応じた位置とする緻密な動作が可能なサーボ機構を実現するものであり、そのような装置としてはボイスコイルモータ等が挙げられる。なお、サーボ機構を実現可能なものであれば、どのような装置を用いても良い。
【0033】
作動部材54の上端面にはコイルスプリング56aの一端が連結されており、コイルスプリング56aの他端は、カバーベース53により支持される調節部材57の円盤部572下面に連結されている。コイルスプリング56aは、適度に圧縮された状態で配設されており、したがって作動部材54を介してスプール51を常時下方に付勢する。この付勢により、少なくとも絞り弁1のメインスプール2の位置制御が不要な非作動状態、つまり駆動装置55の制御信号が入力されない(サーボOFF)等により、作動部材54に対して駆動力が作用されない非作動状態においては、図3に示されるようにXポート521とP2ポート524とが連通する位置にスプール51を位置付けることができる。その結果、Xポート521とP2ポート524とが連通してパイロット圧を受圧室321に常時印加することができる。換言すれば、コイルスプリング56aは、Xポート521がP2ポート524と連通する閉鎖連通状態となるようにスプール51を付勢するものである。このようなコイルスプリング56aによれば、非作動状態においてはパイロット圧が受圧室321に常時印加されるため、絞り弁1のメインスプール2は閉状態となるよう下方に付勢される状態を維持することとなる。
【0034】
コイルスプリング56aの付勢力は、作動部材54に作用される駆動装置55からの駆動力よりも小さい。そのためコイルスプリング56aは、絞り弁1のメインスプール2の位置制御のためにスプール51を変位させる場合、駆動装置55がコイルスプリング56aの付勢力に抗してスプール51を変位させることができ、スプール51の変位を阻害することはない。これは後述するコイルスプリング56bにおいても同様である。なお、スプール51を付勢するものとしてはコイルスプリング56aに限定するものではなく、ゴム部材等のその他の弾性体でもよく、駆動装置55とは別に電気的にスプール51を付勢可能な装置を別途設けるようにしてもよい。その他、絞り弁1が非作動状態となる場合であっても駆動装置55を常時可動させ、駆動装置55によりXポート521とP2ポート524とが連通するようにスプール51を付勢してもよい。
【0035】
カバーベース53は内部に収容空間を有する中空部材であり、収容空間内に作動部材54、駆動装置55、コイルスプリング56a、及び調節部材57の下端が収容されている。調節部材57は、その軸が上下方向に延在する円柱状に形成されてその周面にネジ溝が設けられたネジ部571と、ネジ部571下端に設けられてネジ部571より大径の円盤部572とにより構成されている。ネジ部571は、カバーベース53の上端に穿孔され内周壁にネジ溝が設けられた支持孔526に螺合することでカバーベース53に支持されており、コイルスプリング56aの付勢力ではカバーベース53に対して移動しない程度に支持孔526に締着されている。円盤部572はその径がカバーベース53の上端部分内径より僅かに小さくされており、摺動可能となっている。このように形成された調節部材57は、支持孔526に対して回動させることにより、円盤部572の軸方向位置を移動させることができるため、コイルスプリング56aの付勢力を調節でき、延いては非作動状態におけるスプール51の基準位置の微調整等を行うことができる。なお、本実施形態においては、基準位置はコイルスプリング56aにより付勢されてスプール51が閉鎖連通状態にある位置である。
【0036】
スプール51の下端部は、4つの被検知部512a~512dが設けられており、コイルスプリング56b中空部を貫通して、上端部がメインベース52に固定されたキャップ58の中空部に内挿されている。キャップ58はその上端部分内径が、下方部分の内径よりも大径に形成されることで段差部が形成されており、コイルスプリング56bの下端部が当該段差部に連結支持されると共に、上端部がスプール51のランド511a下面に連結されてスプール51を上方に付勢する。したがって本実施形態においては、スプール51はコイルスプリング56a,56bにより上下双方向から付勢されることで、非作動状態においてXポート521とP2ポート524とが連通する閉鎖連通状態に維持される。
【0037】
なお、コイルスプリング56bを設けず、コイルスプリング56aのみでも非作動状態において閉鎖連通状態に維持することは可能である。しかしながら、非作動状態におけるスプール51の基準位置を調節部材57により調節可能とする場合は、コイルスプリング56bを設けることが好ましい。また、コイルスプリング56bは、コイルスプリング56aと同様に、ゴム部材等のその他の弾性体でもよく、駆動装置55とは別に電気的にスプール51を付勢可能な装置を別途設けるようにしてもよい。
【0038】
キャップ58内には、スプール51の変位位置を検知可能な位置センサ59が設けられている。位置センサ59は、スプール51の被検知部512a~512dを非接触で検知するものであり、これによりスプール51の変位位置を検知し、検知結果を不図示の信号線により電気的に接続された制御装置6に検知信号として出力する。このようなセンサとしては、被検知部512a~512dを金属等により構成してホール効果を用いて位置検知を行うホール素子が一例として挙げられる。その他、作動トランス方式の接触型変位センサや、ポテンショメータなどを用いてもよく、スプール51の変位位置を検知可能であればどのようなセンサであってもよい。
【0039】
本実施形態においては、制御装置6(図6及び図7参照)に位置センサ59の検知信号が出力される。制御装置6は取得した検知信号に基づいて、スプール51の位置が予め設定された許容範囲内(所定範囲)にあるか否か、換言すればスプール51が何らかの外因により所望の位置に位置付けられていないエラー状態であるか否かを判定する。制御装置6は、許容範囲外にスプール51が位置すると判定した場合、エラー信号をPC(Personal Computer)等の外部装置に出力する。ここでの許容範囲は、Xポート521とP2ポート524とが連通する閉鎖連通状態にあるスプール51の位置範囲である。
【0040】
なお、本実施形態においては、Xポート521とP2ポート524とが連通し始めるスプール51の位置から下方にスプール51が位置していれば、閉鎖連通状態となる。そのため許容範囲は、その連通し始める位置を許容開始位置と設定し、許容開始位置より下方の位置が許容範囲に含まれると設定すればよい。例えば、許容開始位置における検知信号として電圧0Vが出力され、且つスプール51がさらに下方に変位してフルストローク時においても閉鎖連通状態が維持される形態での当該フルストローク位置の検知信号が-10Vである場合、0V~-10Vの範囲が許容範囲となる。当然フルストローク時に閉鎖連通状態が維持されない場合は、閉鎖連通状態が維持される限界の位置を許容限界位置として設定し、許容開始位置~許容限界位置を許容範囲とすればよい。スプール51は、作動状態においては駆動装置55により当該閉鎖連通状態以外の状態にも当然なり得る。そのため制御装置6は、常時スプール51の位置検知を行うようにしてもよいが、非作動状態において位置検知を行い、許容範囲内にあるか否かを判定するようにしてもよい。
【0041】
許容範囲は適宜設定可能であり、任意の位置を許容範囲として予め設定することができる。例えば本実施形態においては、コイルスプリング56aによりスプール51を下方に付勢している。しかしながらコイルスプリング56aが設けられておらず、非作動状態においてパイロット弁が中立状態となる形態であれば、中立状態にあるスプール51の位置を許容範囲として設定することにより、非作動状態においてスプール51が中立状態であるか否かを判定することができる。
【0042】
(パイロット弁5の動作)
次に、パイロット弁5の動作について説明する。図6は本実施形態に係るパイロット弁の非作動状態における回路を示す記号図であり、図7は作動状態における回路を示す記号図である。図6及び図7に示される符号6はパイロット弁5の駆動装置55の駆動制御を行う制御装置を示し、符号551は、制御信号に基づいて駆動装置55の駆動制御をする駆動装置55のサーボアンプを示し、信号線により制御装置6からの制御信号Eが入力可能となっている。
【0043】
図6に示されるように、制御装置6は、センサコイル26から出力される検知信号Dがフィードバック信号として入力され、当該検知信号Dに示されるメインスプール2の検知位置と上位コントローラまたは設定器等から入力された開度指令信号Cに示される位置とを比較する。制御装置6は、それらの差が無くなるような制御信号E(駆動電流)を演算生成してサーボアンプ551に出力し、駆動装置55を駆動させてパイロット弁5のスプール51を変位させて開度指令信号Cに示される開度となるようにメインスプール2の位置を制御する。また、制御装置6は、位置センサ59からの検知信号Fが入力され、検知信号Fに示されるスプール51の検知位置が設定範囲内にあるか否かを判定し、検知位置が設定範囲外にあると判定された場合にはエラー信号GをPC等の外部装置や、上位コントローラ、設定器等に出力する。なお、非作動状態では開度指令信号Cが制御装置6に入力されないため、当然制御装置6からは制御信号Eが出力されず、駆動装置55が非作動状態となる。
【0044】
このような制御装置6の機能は、制御装置6が有するCPU(Central Processing Unit)やメモリが協働することにより実現される。なお、設定範囲は、予めメモリに記憶されるようにすることが好ましく、適宜使用状況に応じて書き換え可能である。
【0045】
図6に示されるように、パイロット弁5が非作動状態となっている場合は、図3に示されるようにコイルスプリング56aによりスプール51が付勢されて閉鎖連通状態が維持され、これにより図1及び図6に示されるようにメインスプール2が閉状態となる。この閉鎖連通状態が維持されることにより、スプール51が中立状態にある場合と比較して、パイロット流体の望まないポートへの漏出を低減することができる。
【0046】
非作動状態や作動状態において、メインスプール2を現状位置から変位させる開度指令信号Cが制御装置6に入力されると、制御装置6は検知信号Dに基づいて制御信号Eを演算生成する。この時、制御信号Eがスプール51を閉鎖連通状態から開放連通状態に、つまり上方に変位させる信号である場合、駆動装置55はスプール51を上方に変位させて図3に示される閉鎖連通状態から、図4に示される開放連通状態に移行させる。開放連通状態に移行されたパイロット弁5は、パイロットラインP1に圧油を流入して受圧室311を加圧することによりメインスプール2を上方に変位させる。一方、制御信号Eがスプール51を開放連通状態から閉鎖連通状態に、つまり下方に変位させる信号である場合、駆動装置55はスプール51を下方に変位させて図4に示される開放連通状態から、図3に示される閉鎖連通状態に移行させる。閉鎖連通状態に移行されたパイロット弁5は、パイロットラインP2に圧油を流入して受圧室321を加圧することによりメインスプール2を下方に変位させる。その後、所定周期で検知信号Dの入力、制御信号Eの生成がなされることにより、メインスプール2が開度指令信号Cに応じた位置となるように制御される。なお、スプール51が閉鎖連通状態に移行されてメインスプール2を閉状態とする場合の記号図は図6と同様となり、スプール51が開放連通状態に移行されてメインスプール2を開状態とする場合の記号図は図7となる。
【0047】
以上に説明した本実施形態によれば、駆動装置55による駆動力がスプール51に作用していない状態において、スプール51を閉鎖連通状態となるように付勢することでパイロット流体の漏出を低減することができ、省エネルギを実現できる。また、当該漏出が低減することにより、コントロールラインXに圧油するアキュムレータを設定圧力以上に保つ油圧ポンプのON/OFF回数を低減することができる。また、本実施形態においてはパイロット弁5がメインスプール2の閉状態を維持するようにスプール51を付勢するため、絞り弁1の先(例えばメインラインBの先)にシリンダなどのアクチュエータがある場合、アクチュエータに不要な負荷が加わらない安全な状態を保つことができる。
【0048】
さらに、本実施形態によれば、位置センサ59によりスプール51の変位位置を検知、認識することができる。そのため、絞り弁1が非作動状態にあるがスプール51が閉鎖連通状態とならない位置にある場合、それを検知でき、その場合にはエラー信号Gを出力することができる。このことからメインスプール2を開閉するための圧油をパイロット弁5に印加するに先立って、スプール51の位置が正常位置、つまり許容範囲内の位置にあるか、許容範囲外の異常位置にあるかを判断することができる。
【0049】
例えば、何らかの異常によりパイロット弁のスプールが、メインスプール2を開ける位置に位置している場合、これを知らずにパイロット圧を印加するとメインスプール2がさらに開状態へ移行することとなる。また、例えば何らかの異常によりパイロット弁のスプールが、メインスプール2を開ける位置に位置して固着されている場合、これを知らずにパイロット圧を印加するとメインスプール2がさらに開状態を維持してしまい、メインスプール2を閉じることができない。これらの場合、絞り弁1の先にシリンダ等のアクチュエータがある場合、アクチュエータに不要な負荷を与えて故障の原因となる可能性がある。一方、これらのような状態であっても、本実施形態によればエラー信号Gが出力されることにより事前に認識、回避することができる。換言すれば、エラー信号Gが出力されないことを確認した後にパイロット弁5にパイロット圧を印加することにより、絞り弁1の先にあるアクチュエータの安全性を保つことができる。
【0050】
また、メインスプール2,51の位置をそれぞれ検知することができるため、各検知信号を監視することにより、故障予知や予防保全も可能となる。例えば検知信号を、故障時の検知信号と比較する手法などが考えられる。
【0051】
なお、本実施形態においては、絞り弁1のメインスプール2を閉状態とするとして、パイロット弁5のスプール51をXポート521とP2ポート524とが連通するように下方に付勢すると説明した。しかしながら、これに限定するものではない。絞り弁1のメインスプール2を開状態とし、パイロット弁5のスプール51をXポート521とP1ポート523とが連通するように上方に付勢しても、パイロット流体の漏出は低減可能である。即ち、絞り弁1の非作動状態を閉状態または開状態のどちらにするかは適宜設定すればよく、その非作動状態を維持するポートを連通させる方向にスプール51を付勢すれば同等の効果を奏することができる。なお、パイロット弁5のスプール51をXポート521とP1ポート523とが連通するように上方に付勢する形態では、当然位置センサ59はXポート521とP1ポート523とが連通する状態にあるスプール51の位置を許容範囲とすることとなる。
【0052】
また、本実施形態においてはパイロット弁5がサーボ弁であるとして説明を行ったが、これに限定するものではない。パイロット弁5は無段階でのスプール制御が可能、または中立状態を維持可能な弁であればよく、例えば電気信号によりスプールを無段階に調節可能なできる電磁弁である比例制御弁としてもよい。
【0053】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 絞り弁(作動体)
2 スプール(作動体)
5 パイロット弁(流路切替装置)
51 スプール
521 Xポート(流入流路)
523 P1ポート(作動流路、所定流路)
524 P2ポート(作動流路、所定流路)
55 駆動装置(駆動部)
56a,56b コイルスプリング(付勢部、第1付勢部材、第2付勢部材)
57 調節部材(調節部)
59 位置センサ(検知部)
6 制御装置(判定部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7