(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101185
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
F16J15/34 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001639
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000171919
【氏名又は名称】佐竹マルチミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102749
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 紀一
(74)【代理人】
【識別番号】100081787
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 輝晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 好一
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BA04
3J041BB05
3J041BC03
3J041DA20
(57)【要約】
【課題】従来の軸封装置のメカニカルシールは、回転環と固定環が接触した場合に、摺動抵抗が大きいという欠点があった。
【解決手段】本発明のメカニカルシールは、回転軸が回転自在に貫通するケーシングをシールするための軸封装置に設けられるメカニカルシールよりなり、該メカニカルシールは、前記回転軸の外周面に固定される鍔状の回転環と、前記ケーシングに設けられる、前記回転環に対向した、前記回転軸の軸方向に移動自在な筒体状の固定環と、前記固定環を、前記回転環に押圧する押圧手段と、シール部が構成される、対向する前記回転環の端面と固定環の端面との間に、シール液を注入するシール液注入手段とよりなり、前記シール部を構成する、前記回転環の端面と前記固定環の端面とが対向する対向面積よりも、該回転環の端面と、固定環の端面とを接触させた時の接触面積が、少なくなるように、前記回転環の端面の形状と固定環の端面の形状を形成することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が回転自在に貫通するケーシングをシールするための軸封装置に設けられるメカニカルシールよりなり、
該メカニカルシールは、前記回転軸の外周面に固定される鍔状の回転環と、
前記ケーシングに設けられる、前記回転環に対向した、前記回転軸の軸方向に移動自在な筒体状の固定環と、
前記固定環を、前記回転環に押圧する押圧手段と、
シール部が構成される、対向する前記回転環の端面と固定環の端面との間に、シール液を注入するシール液注入手段とよりなり、
前記シール部を構成する、前記回転環の端面と前記固定環の端面とが対向する対向面積よりも、
該回転環の端面と、固定環の端面とを接触させた時の接触面積が、少なくなるように、前記回転環の端面の形状と固定環の端面の形状を形成することを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記回転環の端面に対向する、前記固定環の環状の端面が、対向する前記回転環の端面に対して、外周から内周に向かって傾斜した面から形成されることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記回転環の端面は、前記回転軸の軸方向に直交する平坦面により構成され、
前記回転環の端面に対向する、前記固定環の環状の端面は、外周から内周に向かって、前記回転環から離間する方向に傾斜した面から形成されることを特徴とする請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記固定環の端面は、該端面の半径方向の線が直線状になるように形成され、該固定環の端面の傾斜角度は、0.5度から5度の範囲内に形成されることを特徴とする請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記回転環の端面、及び、固定環の端面の少なくとも一方の端面には、凹部が形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記回転環の端面、及び、該端面に対向する、前記固定環の端面は、それぞれ回転軸の軸方向に直交する平坦面に形成されると共に、
前記固定環の端面に、凹部が形成されることを特徴とする請求項5に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記凹部は、複数の溝、又は、複数のくぼみであることを特徴とする請求項5又は6に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、回転軸が貫通するケーシングをシールするための軸封装置に設けられるメカニカルシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、固形物を含むスラリー等を処理する、回転軸を有する分散機、ポンプ、粉砕機、撹拌機等においては、該回転軸が回転自在に貫通する、前記分散機等のケーシング(ハウジング)の軸孔をシールするための軸封装置にメカニカルシールを用いる場合がある。
【0003】
該メカニカルシールは、回転軸に固定される回転環と、該回転環に押し付けられるケーシング側の固定環と、前記回転環と前記固定環との間にシール液を注入するシール注入手段とよりなり、該シール液を介して対向し摺動する前記回転環の端面と前記固定環の端面とにより構成されるシール部(摺動部)により、ケーシング内に異物の侵入を阻止するようにしている。
【0004】
そして、例えば、スラリーを処理する分散機等では、ケーシングに設けられた回転軸の軸封装置として、前記メカニカルシールを回転軸の軸方向に一対、離間して配置し、該一対のメカニカルシール間にシール液を注入して、回転環と固定環とのシール部(摺動部)の潤滑と冷却を行うダブルメカニカルシールが多く採用されている。
【0005】
図3及び
図4は、前記従来のダブルメカニカルシールを有する軸封装置1を示す。該軸封装置1は、分級機等のケーシング2の軸孔2aに貫通して固定された、回転軸3が回転自在に貫通する孔4を有する筒体状の軸封本体5と、前記ケーシング2を挟んで、前記回転軸3の軸方向に離間して設けられた一対のメカニカルシール6、7と、該一対のメカニカルシール6、7間にシール液を注入するシール注入手段8とよりなる。
【0006】
そして、前記ケーシング2内側に配置された前記メカニカルシール6は、例えば、
図4に示すように、前記ケーシング2内側において前記回転軸3の外周面に設けられたスリーブ3aの外周面に固定された鍔状の回転環9と、前記筒体状の軸封本体5のケーシング内側の一端面5aに形成された円環状に形成された溝部10と、該溝部10内に挿入され、回転軸の軸方向に移動自在に設けられた、前記回転環9の他端面9aを押圧可能な円環状の一端面11aを有する円筒体状の固定環11と、該固定環11を、前記回転環9側に押し付けるバネ等の押圧手段12とよりなる。
【0007】
なお、前記回転環9の他端面9aと、該他端面9aに対向し摺動する、前記固定環11の円環状の一端面11aは、それぞれ回転軸3の軸方向に直交した平坦面により形成され、前記シール部を構成する、前記回転環9の他端面9aと前記固定環11の一端面11aとが対向する対向面積は、該シール部から、固形物などの異物の侵入を防ぐために、所望の大きさの面積になるように設計される。
【0008】
また、前記ケーシング2外側に配置されたメカニカルシール7も、前記メカニカルシール6と同様に、前記ケーシング2外側において前記回転軸3の外周面に設けられたスリーブ3aの外周面に固定された鍔状の回転環13と、前記筒体状の軸封本体5のケーシング外側の他端面5bに形成された円環体状に形成された溝部14と、該溝部14内に挿入され、回転軸3の軸方向に移動自在に設けられた、前記回転環13の一端面13aを押圧可能な円環状の他端面15aを有する円筒体状の固定環15と、該固定環15を、前記回転環13側に押し付けるバネ等の押圧手段(図示せず)とよりなる。
【0009】
なお、前記回転環13の一端面13aと、該一端面13aに対向し摺動する、前記固定環15の円環状の他端面15aも、前記回転環9の他端面9aと、前記固定環11の一端面11aと同様に、それぞれ回転軸の軸方向に直交した平坦面により形成され、また、前記シール部を構成する、前記回転環13の一端面13aと前記固定環15の他端面15aとが対向する対向面積は、該シール部から、固形物などの異物の侵入を防ぐために、所望の大きさの面積になるように設計される。
【0010】
また、前記シール液注入手段8は、例えば、
図3に示すように、前記溝10、14内に連通したシール液注入口16及びシール液注出口17と、シール液貯蔵タンク18と、ポンプ19とよりなる。
【0011】
そして、ケーシング内の圧力よりも、軸封装置1内の圧力が高くなるように、前記タンク18内のシール液が、前記ポンプ19により、前記シール液注入口16に供給され、該シール液は、前記溝10、14を通じて、前記回転環9、13と前記固定環11、15とのシール部に注入され、該シール部において、潤滑と冷却がなされ、また、残りのシール液は、前記シール液注出口17から、前記タンク18に戻され、そして、前記タンク18内のシール液は、前記軸封装置内を循環されるようになる。
【0012】
なお、20、21は、Oリング等の漏れ防止手段を示す。
【0013】
なお、
図5に示すように、前記従来の軸封装置1の筒体状の固定環11の一端部を、外周方向に拡開した台形筒体状のテーパー部を形成し、前記固定環11を本体部11bとテーパー部11cとにより形成し、前記回転環9の他端面9aに対向し摺動する、前記テーパー部11cの一端面11aを、前記固定環11の本体部11bの径よりも大径となるように形成して、軸封装置1内のシール液により、前記固定環11の回転環9への押圧力よりも、固定環11の引き離し力を大になるようして、シール液を前記回転環9と固定環11とのシール部を通じて、ケーシング内側に流すようにして、安定したシール効果を持たせたものもある。
【0014】
前記メカニカルシールとしては、例えば、特許文献1(
図1~
図6)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010-164118号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、前記従来のメカニカルシールは、前記シール部において、シール液により潤滑、冷却されるが、特に、起動時において、回転環と固定環とが接触してしまう場合があり、前記回転環と固定環との接触面積が大きいので、摺動抵抗が大きくなり、起動時に過大なトルクを必要としていた。
【0017】
そのため、回転軸を回転させるモータの選別に影響を与え、また、初期起動不良などの原因になった。
【0018】
本発明は上記の欠点を除くようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の目的を達成すべく、本発明のメカニカルシールは、回転軸が回転自在に貫通するケーシングをシールするための軸封装置に設けられるメカニカルシールよりなり、該メカニカルシールは、前記回転軸の外周面に固定される鍔状の回転環と、前記ケーシングに設けられる、前記回転環に対向した、前記回転軸の軸方向に移動自在な筒体状の固定環と、前記固定環を、前記回転環に押圧する押圧手段と、シール部が構成される、対向する前記回転環の端面と固定環の端面との間に、シール液を注入するシール液注入手段とよりなり、前記シール部を構成する、前記回転環の端面と前記固定環の端面とが対向する対向面積よりも、該回転環の端面と、固定環の端面とを接触させた時の接触面積が、少なくなるように、前記回転環の端面の形状と固定環の端面の形状を形成することを特徴とする。
【0020】
また、前記回転環の端面に対向する、前記固定環の環状の端面が、対向する前記回転環の端面に対して、外周から内周に向かって傾斜した面から形成されることを特徴とする。
【0021】
また、前記回転環の端面は、前記回転軸の軸方向に直交する平坦面により構成され、前記回転環の端面に対向する、前記固定環の環状の端面は、外周から内周に向かって、前記回転環から離間する方向に傾斜した面から形成されることを特徴とする。
【0022】
また、前記固定環の端面は、該端面の半径方向の線が直線状になるように形成され、該固定環の端面の傾斜角度は、0.5度から5度の範囲内に形成されることを特徴とする。
【0023】
また、前記回転環の端面、及び、固定環の端面の少なくとも一方の端面には、凹部が形成されることを特徴とする。
【0024】
また、前記回転環の端面、及び、該端面に対向する、前記固定環の端面は、それぞれ回転軸の軸方向に直交する平坦面に形成されると共に、前記固定環の端面に、凹部が形成されることを特徴とする。
【0025】
また、前記凹部は、複数の溝、又は、複数のくぼみであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シール部を構成する、前記回転環の端面と前記固定環の端面とが対向する対向面積は、従来と同様の大きさであるので、シールの安定性を確保できると共に、回転環と固定環とが接触してしまう場合でも、その接触面積は小さいので、例えば、起動時における摺動抵抗を小さくできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のメカニカルシールの説明用縦断側面図である。
【
図2】本発明のメカニカルシールの他の実施例の説明用縦断側面図である。
【
図3】従来のメカニカルシールを有する軸封装置の縦断側面図である。
【
図4】従来のメカニカルシールを有する軸封装置の要部の縦断側面図である。
【
図5】従来のメカニカルシールを有する軸封装置の他の実施例の要部の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態の実施例を以下に示す。
【0029】
なお、背景技術と同じ部分には同じ符号を付け、説明を省略する。
【実施例0030】
【0031】
本発明においては、前記従来の軸封装置1において、例えば、
図1に示すように、前記メカニカルシール6の回転環9に対向し摺動する、前記固定環11の円環状の一端面11aを、回転軸の軸方向に直交する平坦面に形成する代わりに、外周から内周に向かうに従って、前記回転環9から離間する方向に傾斜した、中央に向かうに従ってくぼんだ漏斗状の面となるように形成するようにする。
【0032】
なお、前記円環状の一端面11aは、例えば、前記一端面11aの半径方向の線が、直線状に傾斜するように形成され、該傾斜の角度θの範囲は、装置の種類等により異なるが、殆ど傾斜がない場合には、始動時に摺動部の全面が接触してしまい効果が少なく、また、あまり傾斜をつけすぎると、回転環と固定環のシール部の内端が離れすぎてしまい、固形物の入り込みなどを防ぐなどのシールの安定性を保つことができない場合があるので、該傾斜角度は、例えば、0.5度~5度の範囲内に形成されるのが好ましい。
【0033】
本発明によれば、起動時などにおいて、固定環と回転環とが接触しても、接触する部分は、回転環と固定環のシール部の外端部分のみとなり、接触面積が小さいので、摺動抵抗が小さく、起動時などにおいて、過大なトルクを不要とすることができるようになる。
【0034】
また、前記シール部を構成する、前記回転環の端面と前記固定環の端面とが対向する対向面積は、従来と同様の面積を確保できるので、シールの安定性を保つことができる。
【0035】
なお、前記一端面11aの傾斜は、半径方向の線が直線状に形成されなくてもよく、例えば、曲線状、階段状であってもよい。
【0036】
また、前記一端面11aは、外周から内周に向かうに従って、前記回転環から接近する方向に傾斜するようにしてもよい。
【0037】
また、前記固定環11の一端面11aを、回転軸3の軸方向に直交する面とし、回転環9の他端面9a側を傾斜するようにしてもよい。
【0038】
即ち、回転環9の他端面9aに対して、固定環11の一端面11aを、外周から内周に向かうに従って、所望量傾斜するように形成してもよい。
【0039】
なお、前記は、メカニカルシール6についての説明であるが、メカニカルシール7についても同様である。
なお、前記凹部22の大きさ、深さ(高さ)、形状、量、範囲は、シール部に、固形物の入り込みなどを防ぐなどのシールの安定性を保つことができる範囲で自由に形成される。
本発明の第2の実施例においても、起動時などにおいて、固定環と回転環が接触しても、凹部部分は、接触しないため、接触面積が小さいので、摺動抵抗が小さく、起動時などにおいて、過大なトルクを不要とすることができるようになる。