IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧

特開2023-101198光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法
<>
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図1
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図2
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図3
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図4
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図5
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図6
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図7
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図8
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図9
  • 特開-光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101198
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/361 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
G02F1/361
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001664
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 高一郎
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA02
2K102AA36
2K102BA18
2K102BC01
2K102BD09
2K102CA28
2K102DA01
2K102DD01
2K102EB11
2K102EB20
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】テラヘルツ波の発生・検出が可能であり、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能な光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法を提供する。
【解決手段】光学部材30は、有機非線形光学材料31と賦形剤32との混合物を含む成形体からなる。テラヘルツ波発生素子20及び/又はテラヘルツ波検出素子40は、光学部材30と、光学部材30を支持する支持部材35と、を備える。光学部材30の製造方法は、有機非線形光学材料31と賦形剤32とを混合して混合物を構成する第1工程と、第1工程の後に、混合物に圧力を加えることにより混合物の成形体を形成する第2工程と、を備える。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機非線形光学材料と賦形剤との混合物を含む成形体からなるテラヘルツ用の光学部材。
【請求項2】
前記混合物は、前記有機非線形光学材料の結晶を部分的に含む、
請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記賦形剤は、ポリエチレン及び/又はテフロンを含む、
請求項1又は2に記載の光学部材。
【請求項4】
レーザ光の照射を受けてテラヘルツ波を放射する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項5】
テラヘルツ波の照射を受け、当該テラヘルツ波を検出する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学部材と、
前記光学部材を支持する支持部材と、
を備える光学素子。
【請求項7】
前記支持部材は、前記光学部材の中央部分を露出させつつ前記光学部材の周縁部を支持するように環状に形成されている、
請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記支持部材は、レンズであり、
前記光学部材は、前記レンズの光入射面又は光出射面に設けられている、
請求項6に記載の光学素子。
【請求項9】
前記光学部材の表面に設けられた防湿フィルムを備える、
請求項6~8のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項10】
テラヘルツ用の光学部材の製造方法であって、
有機非線形光学材料と賦形剤とを混合して混合物を構成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記混合物に圧力を加えることにより前記混合物の成形体を形成する第2工程と、
を備える光学部材の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程の前において、前記有機非線形光学材料の少なくとも一部を結晶化する第3工程を備える、
請求項10に記載の光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多孔質粒子状酸化ケイ素を主成分とし,さらにテラヘルツ波を放射可能なテラヘルツ波放射化合物を含むことを特徴とする粒子状組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-104289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、高強度、且つ広帯域なテラヘルツ波を発生・検出可能な光学部材に対する要求がある。そのような光学部材の一例として、例えばDAST(4-N,N-Dimethyl-Amino-4‘-N’-methyl-Stilbazolium 4-Toluenesulfonate)といった有機非線形光学材料を結晶化して得られる板状の光学部材がある。このような光学部材によれば、効率よくテラヘルツ波を発生させ、且つ、検知できるものとされている。しかしながら、テラヘルツ波発生用の有機非線形光学材料は、その結晶化に時間及び労力を要することから、一般に非常に高価であり、また歩留まりも低い。
【0005】
そこで、本開示は、テラヘルツ波の発生・検出が可能であり、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能な光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る光学部材は、有機非線形光学材料と賦形剤との混合物を含む成形体からなるテラヘルツ用の光学部材である。
【0007】
この光学部材は、有機非線形光学材料と賦形剤との混合物の成形体からなる。本発明者の知見によれば、このような成形体は、有機非線形光学材料を結晶化して得られる光学部材と同様に、テラヘルツ波の発生及び検出が可能となる。一方、この光学部材では、有機非線形光学材料を単一部材へと結晶化する手間が省けるので、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能である。
【0008】
本開示に係る光学部材では、混合物は、有機非線形光学材料の結晶を部分的に含んでもよい。このように、この光学部材では、例えば有機非線形光学材料の合成時等に生じた結晶が一部含まれていてもよい。この場合であっても、例えば有機非線形光学材料を合成後に結晶化して単一部材を構成する場合と比較して、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能である。
【0009】
本開示に係る光学部材では、賦形剤は、ポリエチレン及び/又はテフロン(登録商標)を含んでもよい。このように、賦形剤としてポリエチレンやテフロンを用いることにより、成形体の構成が容易化される。
【0010】
本開示に係る光学部材では、レーザ光の照射を受けてテラヘルツ波を放射してもよい。或いは、テラヘルツ波の照射を受け、当該テラヘルツ波を検出してもよい。このように、本開示に係る光学部材は、テラヘルツ波の放射や検出に利用することが可能である。
【0011】
本開示に係る光学素子は、上記の光学部材と、光学部材を支持する支持部材と、を備えてもよい。この場合、光学部材の取り扱いが容易となる。
【0012】
本開示に係る光学素子では、支持部材は、光学部材の中央部分を露出させつつ光学部材の周縁部を支持するように環状に形成されていてもよい。この場合、光学部材の取り扱いを容易化しつつ、光学部材のうちの支持部材から露出された部分を光の入出射部として利用することが可能となる。
【0013】
本開示に係る光学素子では、支持部材は、レンズであり、光学部材は、レンズの光入射面又は光出射面に設けられていてもよい。この場合、光学部材の取り扱いを容易化しつつ、光学部材への入射光をレンズにより集光したり、光学部材からの出射光の広がりをレンズにより抑制したりすることが可能となる。
【0014】
本開示に係る光学素子では、光学部材の表面に設けられた防湿フィルムを備えてもよい。この場合、光学部材の潮解が抑制される。
【0015】
本開示に係る光学部材の製造方法は、テラヘルツ用の光学部材の製造方法であって、有機非線形光学材料と賦形剤とを混合して混合物を構成する第1工程と、第1工程の後に、混合物に圧力を加えることにより混合物の成形体を形成する第2工程と、を備える。
【0016】
この光学部材の製造方法では、有機非線形光学材料と賦形剤との混合物を構成した後に、当該混合物に圧力を加えて成形体を形成する。本発明者の知見によれば、このような成形体は、有機非線形光学材料を結晶化して得られる光学部材と同様に、テラヘルツ波の発生及び検出が可能となる。一方、この光学部材の製造方法では、有機非線形光学材料を結晶化して単一部材とする工程が省けるので、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能である。
【0017】
本開示に係る光学部材の製造方法は、第1工程の前において、有機非線形光学材料の少なくとも一部を結晶化する第3工程を備えてもよい。このように、この光学部材の製造方法では、例えば有機非線形光学材料の合成時等のように、部分的に結晶化される工程が含まれていてもよい。この場合であっても、例えば有機非線形光学材料を合成後に結晶化して単一部材を構成する工程を実施する場合と比較して、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能である。
【発明の効果】
【0018】
テラヘルツ波の発生・検出が可能であり、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能な光学部材、光学素子、及び、光学部材の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係るテラヘルツ波測定装置を示す模式図である。
図2図2は、図1に示された光学素子としてのテラヘルツは発生素子を示す平面図である。
図3図3は、図2に示された光学部材の光学特性を示すグラフである。
図4図4は、比較例としてのDASC結晶と本実施形態に係る光学部材との比較を示すグラフである。
図5図5は、光学部材を回転させたときのテラヘルツ波の時間波形を示すグラフである。
図6図6は、光学部材における賦形剤の粒径と光学特性との関係を示すグラフである。
図7図7は、賦形剤を用いた場合と用いない場合との光学特性を比較するためのグラフである。
図8図8は、本実施形態に係る光学部材の製造方法の一工程を示すフローチャートである。
図9図9は、式(3)で示される有機非線形光学材料を含む光学部材の光学特性を示すグラフである。
図10図10は、式(4)で示される有機非線形光学材料を含む光学部材の光学特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示に係る一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は相当する図面には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0021】
図1は、一実施形態に係るテラヘルツ波測定装置を示す模式図である。図1に示されたテラヘルツ波測定装置2は、テラヘルツ波を用いて透過測定法により測定対象物Sの情報を取得するものである。テラヘルツ波測定装置2は、光源11、分岐部12、チョッパ13、光路長差調整部14、偏光子15、テラヘルツ波発生素子(光学素子)20、テラヘルツ波検出素子(光学素子)40、1/4波長板51、偏光分離素子52、光検出器53a、光検出器53b、差動増幅器54、及びロックイン増幅器55を備える。
【0022】
光源11は、一定の繰返し周期でパルス光を出力するものであり、例えばパルス幅がフェムト秒程度であるパルスレーザ光を出力するフェムト秒パルスレーザ光源であってもよい。光源11から出力される光の波長は、例えば700~1600nmであってもよい。
【0023】
分岐部12は、例えばビームスプリッタであり、光源11から出力されてミラーM1を介して入射したパルス光を2分岐して、その2分岐したパルス光のうち一方のパルス光をポンプ光Paとしてテラヘルツ波発生素子20側へ出力し、他方のパルス光をプローブ光PbとしてミラーM4側へ出力する。
【0024】
チョッパ13は、分岐部12とテラヘルツ波発生素子20との間のポンプ光Paの光路上に設けられ、一定の周期でポンプ光Paの通過および遮断を交互に繰り返す。分岐部12から出力されチョッパ13を通過したポンプ光Paは、レンズL1を介してテラヘルツ波発生素子20に入力される。レンズL1は、ポンプ光Paをテラヘルツ波発生素子20に向けて集光する。分岐部12からテラヘルツ波発生素子20に到るまでのポンプ光の光学系を、以下では「ポンプ光学系」という場合がある。
【0025】
テラヘルツ波発生素子20は、ポンプ光Paを入力することでパルステラヘルツ波Tを発生し出力する。パルステラヘルツ波Tは、一定の繰返し周期で発生し、パルス幅が数ピコ秒程度である。テラヘルツ波発生素子20にて発生されたパルステラヘルツ波Tは、ミラーM2の第1放物面で反射されることにより平行光とされつつ、測定対象物Sに照射される。測定対象物Sを透過したパルステラヘルツ波Tは、ミラーM3の第2放物面により集光されつつ、テラヘルツ波検出素子40に向けて集光される。なお、テラヘルツ波発生素子20は他の電気光学結晶であってもよく、テラヘルツ波発生素子20及びテラヘルツ波検出素子40の少なくとも一方に本発明に係る光学素子が用いられ得る。
【0026】
テラヘルツ波測定装置2では、ポンプ光学系における光源11、分岐部12、チョッパ13、レンズL1、ミラーM1、ミラーM2、及び、テラヘルツ波発生素子20により、テラヘルツ波発生装置1が構成されているテラヘルツ波発生装置1は、光源11及びテラヘルツ波発生素子20を有し、光源11から出力されたパルス光がテラヘルツ波発生素子20に入力されるように構成されていればよく、テラヘルツ波発生装置1のその他の構成は任意である。
【0027】
テラヘルツ波測定装置2では、測定対象物Sを透過したパルステラヘルツ波Tをテラヘルツ波検出素子40にて検出する。そして、測定対象物Sが配置されていない場合の信号を参照信号とし、測定対象物Sを透過した信号を測定信号として解析することで、測定対象物Sの情報(例えば、吸収係数、屈折率)を検出する。テラヘルツ波としては、一例として、0.01THz~100THz程度の範囲の周波数を有する電磁波が想定され得る。
【0028】
ここで、分岐部12から出力されたプローブ光Pbは、ミラーM4~M8により順次に反射され、偏光子15を通過する。偏光子15を通過したプローブ光Pbは、レンズL2を介してテラヘルツ波検出素子40に入力される。レンズL2は、プローブ光Pbをテラヘルツ波検出素子40に向けて集光する。4つのミラーM4~M7は、光路長差調整部14を構成している。
【0029】
テラヘルツ波検出素子40では、パルステラヘルツ波Tとプローブ光Pbとの間の相関が検出される。テラヘルツ波検出素子40は、他の電気光学結晶を含んでいてもよい。
【0030】
偏光分離素子52は、テラヘルツ波検出素子40から出力され、1/4波長板51を経たプローブ光Pbを入力し、入力したプローブ光Pbを互いに直交する2つの偏光成分に分離して出力する。偏光分離素子52は、例えばウォラストンプリズムであってもよい。光検出器53a,53bは、例えばフォトダイオードを含み、偏光分離素子52により偏光分離されたプローブ光Pbの2つの偏光成分のパワーを検出して、その検出したパワーに応じた値の電気信号を差動増幅器54へ出力する。
【0031】
差動増幅器54は、光検出器53a,53bそれぞれから出力された電気信号を入力し、両電気信号の値の差に応じた値を有する電気信号をロックイン増幅器55へ出力する。ロックイン増幅器55は、チョッパ13におけるポンプ光の通過および遮断の繰返し周波数で、差動増幅器54から出力される電気信号を同期検出する。このロックイン増幅器55から出力される信号は、テラヘルツ波の電場強度に依存する値を有する。このようにして、測定対象物Sを透過したパルステラヘルツ波Tとプローブ光Pbとの間の相関を検出し、パルステラヘルツ波Tの電場振幅を検出して、測定対象物Sの情報を得ることができる。ロックイン増幅器55の出力は、任意のコンピュータであるPC56に提供される。
【0032】
図2は、図1に示された光学素子としてのテラヘルツ波発生素子を示す平面図である。図2に示されるテラヘルツ波発生素子20は、テラヘルツ用の光学部材30と光学部材30を支持する支持部材35とを有する。光学部材30は、例えば板状(ここでは円板状)のペレットとして成形された成形体である。支持部材35は、平面視において(すなわち、ポンプ光Paの光軸方向からみたとき)環状を呈しており、光学部材30の周縁部30aを支持している。より具体的には、支持部材35は、例えば金属により円環状に形成されており、その内側面が光学部材30の周縁部30aに接することにより光学部材30を支持している。したがって、ここでは、支持部材35は、光学部材30の中央部分を含む光入出射面の全面を露出しつつ光学部材30を支持している。なお、平面視における光学部材30の形状は、円形状に限らず、矩形状や三角形状といった多角形状であってもよい。平面視における光学部材30の形状が円形状であると、後述するようにペレットを作製する際に、ペレット全体に圧力を均一に付加しやすいため好適である。
【0033】
光学部材30は、レーザ光であるポンプ光Paの照射を受け、テラヘルツ波を放射する。なお、図1に示されたテラヘルツ波検出素子40も同様の構成を有し得る。この場合、光学部材30は、テラヘルツ波の照射を受け、当該テラヘルツ波を検出することとなる。
【0034】
光学部材30は、有機非線形光学材料31と賦形剤32とを含む。有機非線形光学材料31は、高い二次非線形光学定数を有し、高強度なテラヘルツ波を発生し、広帯域なテラヘルツ波の発生・検出が可能な任意の物質であり、一例として、下記式(1)で表されるDAST(4-ジメチルアミノ-N-メチル-4-スチルバゾリウムトシレート)又は下記式(2)で表されるDASC(4-ジメチルアミノ-N-メチル-4-スチルバゾリウムp-クロロベンゼンスルホネート)である。
【化1】

【化2】
【0035】
一方、賦形剤32は、例えばポリエチレン及び/又はテフロンを含む。光学部材30は、以上の有機非線形光学材料31と賦形剤32との混合物を含む成形体からなる。有機非線形光学材料31と賦形剤32との混合物とは、賦形剤32の粒子中に有機非線形光学材料31の粒子が(機械的・物理的に)分散された状態を示す。
【0036】
具体的な製造方法については後述するが、光学部材30は、有機非線形光学材料を合成した後に、当該有機非線形光学材料と賦形剤とを混合して混合物を作製し、当該混合物を加圧成形することによりペレット状に形成されることで得られる。つまり、光学部材30は、有機非線形光学材料を所望のサイズの板状結晶に成長させることなく製造され得る。なお、光学部材30は、有機非線形光学材料の結晶を部分的に含んでいてもよい。
【0037】
図3は、図2に示された光学部材の光学特性を示すグラフである。図3の(a)は、光学部材30から放射されたテラヘルツ波の時間波形であり、図3の(b)は、光学部材30から放射されたテラヘルツ波のスペクトルを示す。図3図5の例では、有機非線形光学材料としてDASC(25wt%)が用いられ、賦形剤としてポリエチレン(75wt%)が用いられている。図3に示されるように、DASCとポリエチレンとの混合物の成形体である光学部材30によれば、広帯域なテラヘルツ波の放射が確認された。なお、光学部材30における有機非線形光学材料の重量比は、10wt%以上50wt%以下が好適であり、20wt%以上30wt%以下であるとさらに好適である。
【0038】
図4は、比較例としてのDASC結晶と本実施形態に係る光学部材との比較を示すグラフである。図4に示されるように、本実施形態に係る光学部材30によれば、DASC結晶と比較して信号の減少はみられるものの、使用可能な十分なSN比が確保され、また、DASC結晶と比較しても遜色なく広帯域性が確保されることが理解される。
【0039】
図5は、光学部材を回転させたときのテラヘルツ波の時間波形を示すグラフである。図5に示される0degは、基準となる値を示し、100degは、ポンプ光Paの光軸を中心に100°だけ光学部材を回転させたときの値を示す。図5に示されるように、光学部材30によれば、信号強度の角度依存性は認められず、ポンプ光Paの偏光を制御することで結晶回転なしに簡単に放射テラヘルツ波の偏光を制御可能であると考えられる。
【0040】
なお、光学部材30における賦形剤の粒径は任意であるが、賦形剤の粒径は光学特性に影響し得る。図6は、光学部材における賦形剤の粒径と光学特性との関係を示すグラフである。図6の(a)は、光学部材30から放射されたテラヘルツ波の時間波形であり、図6の(b)は、光学部材30から放射されたテラヘルツ波のスペクトルを示す。図6に示されるように、賦形剤としてのポリエチレンの粒径が7μmと相対的に小径であった場合には、粒径が53μm~75μmの範囲で混在して相対的に大径である場合と比較して、強い信号が得られた。これは、ポリエチレンの粒径が小さいことにより、光学部材30の表面がより滑らかになり(鏡面化され)、表面での光散乱の影響が低減されるためであると考えられる。
【0041】
また、一般的に、ポリエチレンといった賦形剤は、テラヘルツ波を散乱するため、特に高周波域でテラハルツ波の透過性が低下することが知られている。このため、従来では、広帯域なテラヘルツ波の発生・検出に用いる光学部材として、ポリエチレンといった賦形剤との混合物の成形体を利用することは試みられていなかった。これに対して、図7に示されるように、本発明者によれば、有機非線形光学材料とポリエチレンとの混合物の成形体により光学部材30を構成した場合(図7のPellet_DASC with PE)、ポリエチレンを用いない場合(図7のPellet_DASC 100%)よりも、テラヘルツ波の出力が強くなるとことが確認された。
【0042】
引き続いて、本実施形態に係る光学部材30の製造方法について説明する。図8は、本実施形態に係る光学部材の製造方法の一工程を示すフローチャートである。図8に示されるように、まず、有機非線形光学材料を合成する(工程S101)。この際、有機非線形光学材料の結晶が生じ得る。続いて、工程S101により得られた有機非線形光学材料の結晶化を行う(工程S102:第3工程)。この工程S102では、従来のように有機非線形光学材料を所望のサイズの良質な板状結晶を形成する必要はなく、有機非線形光学材料の少なくとも一部を結晶化することで足りる。また、この工程S102は省略されてもよい。
【0043】
続いて、工程S101,S102で得られた有機非線形光学材料と賦形剤との混合物を構成する(工程S103、第1工程)。具体的には、工程S101,S102で得られた有機非線形光学材料と、賦形剤の粒子とを乳鉢に導入して混合することで、当該混合物を得ることができる。
【0044】
その後、工程S103で得られた混合物に圧力を加えることにより混合物の成形体を形成する(工程S104、第2工程)。より具体的には、この工程S104では、工程S103で得られた混合物を支持部材35内に配置し、2Tプレス機で上下方向にプレスする。これにより、例えば直径約7mm、厚さ200μm程度のサイズのペレット状の成形体が得られる。得られた成形体は、光学部材30として、支持部材35と共に(支持部材35から取り外すことなく)テラヘルツ波発生素子20及び/又はテラヘルツ波検出素子40として利用可能となる。なお、ここでの成形体(光学部材30)のサイズは、例えば、直径5mm~20mm程度、厚さ0.1mm~0.5mm程度とすることができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る光学部材30は、有機非線形光学材料31と賦形剤32との混合物の成形体からなる。本発明者の知見によれば、このような成形体は、有機非線形光学材料を結晶化して得られる光学部材と同様に、テラヘルツ波の発生及び検出が可能となる。一方、この光学部材30では、有機非線形光学材料を単一部材へと結晶化する(良質な結晶を構成する)手間が省け、また、結晶の質に捉われないため、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能である。
【0046】
また、本実施形態に係る光学部材30では、混合物は、有機非線形光学材料31の結晶を部分的に含んでもよい。このように、この光学部材30では、例えば有機非線形光学材料31の合成時等に生じた結晶が一部含まれていてもよい。この場合であっても、例えば有機非線形光学材料31を合成後に結晶化して単一部材を構成する場合と比較して、価格を抑えつつ歩留まりを向上可能である。
【0047】
また、本実施形態に係る光学部材30では、賦形剤32は、ポリエチレン及び/又はテフロンを含んでいる。このように、賦形剤32としてポリエチレンやテフロンを用いることにより、成形体の構成が容易化される。
【0048】
また、本実施形態に係る光学部材30では、レーザ光(ポンプ光Pa)の照射を受けてパルステラヘルツ波Tを放射するテラヘルツ波発生素子20や、パルステラヘルツ波Tの照射を受け、当該パルステラヘルツ波Tを検出するためのテラヘルツ波検出素子40に用いられ得る。このように、本実施形態に係る光学部材30は、パルステラヘルツ波Tの放射や検出に利用することが可能である。
【0049】
また、本実施形態に係るテラヘルツ波発生素子20及び/又はテラヘルツ波検出素子40には、上記の光学部材30と、光学部材30を支持する支持部材35と、を備えている。このため、光学部材30の取り扱いが容易となる。
【0050】
さらに、本実施形態に係るテラヘルツ波発生素子20及び/又はテラヘルツ波検出素子40では、支持部材35は、光学部材30の中央部分を露出させつつ光学部材30の周縁部30aを支持するように環状に形成されている。このため、光学部材30の取り扱いを容易化しつつ、光学部材30のうちの支持部材35から露出された部分を光の入出射部として利用することが可能となる。
【0051】
以上の実施形態は、本開示の一側面を説明したものである。したがって、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、任意に変形され得る。引き続いて、変形例について説明する。
【0052】
まず、上記実施形態では、光学部材30に用いられる有機非線形光学材料31として、上記式(1)で示されるDAST、及び、上記式(2)で示されるDASCを例示した。しかし、光学部材30では、これらに代えて、下記式(3)で示される物質(有機非線形光学材料)を利用することができる。下記式(3)で示される物質は、結晶化によりテラヘルツ波の発生が困難である。換言すれば、下記式(3)で示される物質は、テラヘルツ波の放射が可能な結晶作成が困難な物質である。
【化3】
【0053】
図9は、式(3)で示される有機非線形光学材料を含む光学部材の光学特性を示すグラフである。図9の(a)は、上記式(3)で示される有機非線形光学材料を用いた光学部材30から放射されたテラヘルツ波の時間波形であり、図9の(b)は、当該光学部材30から放射されたテラヘルツ波のスペクトルを示す。図9に示されるように、テラヘルツ波の放射が可能な結晶作成が困難な上記式(3)で示される物質であっても、賦形剤との混合物の成形体(ペレット)として光学部材30を構成することにより、テラヘルツ波の放射源(及びテラヘルツ波の検出素子)となり得ることが確認された。なお、ここでは、上記式(3)の物質を合成・乾燥後に、緑色の微結晶粉末をペレット化しテラヘルツ波の放射実験を行っている。
【0054】
同様に、光学部材30では、DASTやDASCに代えて、下記式(4)で示される物質(有機非線形光学材料)を利用することができる。
【化4】
【0055】
図10は、式(4)で示される有機非線形光学材料を含む光学部材の光学特性を示すグラフである。図10の(a)は、上記式(4)で示される有機非線形光学材料を用いた光学部材30から放射されたテラヘルツ波の時間波形であり、図10の(b)は、当該光学部材30から放射されたテラヘルツ波のスペクトルを示す。図10に示されるように、上記式(4)で示される物質であっても、賦形剤との混合物の成形体(ペレット)として光学部材30を構成することにより、テラヘルツ波の放射源(及びテラヘルツ波の検出素子となり得ることが確認された。なお、ここでは、上記式(4)の物質を合成・乾燥後に、緑色の微結晶粉末をペレット化しテラヘルツ波の放射実験を行っている。
【0056】
なお、上記実施形態では、テラヘルツ波発生素子20及び/又はテラヘルツ波検出素子40として、(プレス機に利用可能な)環状の支持部材35を用いて光学部材30を支持する態様について説明した。しかし、光学部材30の支持部材はこれに限定されない。例えば、光学部材30の支持部材として、レンズを用いることが可能である。この場合、当該レンズの光入射面又は光出射面に光学部材30を設けることで、レンズにより光学部材30を支持することができる。レンズの光入射面に光学部材30を設けることで、光学部材30から放射されたパルステラヘルツ波Tの広がりをレンズにより抑えることが可能である。また、レンズの光出射面に光学部材30を設けることにより、光学部材30への入射光をレンズにより集光することも可能である。
【0057】
また、レンズに代えて透明基板等を支持部材として利用してもよい。さらに、支持部材を用いなくてもよい。
【0058】
また、有機非線形光学材料を溶媒(メタノール等)に溶かした後に析出することで精製した有機非線形光学結晶の粒と賦形剤との混合物を用いることも可能である。
【0059】
さらに、光学部材30の表面に防湿フィルムを設けてもよい。この場合、光学部材の潮解を抑制可能である。
【符号の説明】
【0060】
20…テラヘルツ波発生素子(光学素子)、30…光学部材、30a…周縁部、31…有機非線形光学材料、32…賦形剤、35…支持部材、40…テラヘルツ波検出素子(光学素子)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10