(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101205
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】保全改善支援装置および保全改善支援方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20230712BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20230712BHJP
【FI】
G06Q10/06
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001681
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 敏明
(72)【発明者】
【氏名】渡部 潤也
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA10
5L049CC15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】保全業務のシミュレーションを適切に行う保全改善支援装置及び保全改善支援方法を提供する。
【解決手段】保全改善支援装置100において、シミュレーション設定生成部111は、保全業務の実行記録である保全業務ログデータベース130に基づいて、保全業務のシミュレーションを行うための設定情報300を生成する。シミュレーション部113は、アセットエージェントおよび作業員エージェントを用いてシミュレーションを実行する。作業担当欠損対応処理部114、エージェント合体処理部115及び過大作業解消処理部116は、業務知識データベース140にある規定に反するアセットエージェント又は作業員エージェントの状態を検出して設定情報300を修正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保全業務における保全対象であるアセット、前記保全業務を担当する作業員、および当該作業員が当該アセットに対して行う前記保全業務であるタスクを含み、前記保全業務の実行記録である保全業務ログデータベースに基づいて、前記保全業務のシミュレーションを行うための設定情報を生成するシミュレーション設定生成部と、
前記アセットを示すエージェントであるアセットエージェント、および前記作業員を示すエージェンである作業員エージェントを用いて前記保全業務のシミュレーションを実行するシミュレーション部と、
前記保全業務を実行するときの規定を含む業務知識データベースにある前記規定に反する前記アセットエージェントまたは前記作業員エージェントの状態を検出して前記設定情報を修正する再現性向上処理部とを備える
保全改善支援装置。
【請求項2】
前記シミュレーション設定生成部は、
前記保全業務ログデータベースから、前記アセットと、当該アセットに発生する故障のパターンと、当該故障に対応する前記作業員が行う前記タスクとが関連付けられた設定情報であるタスク設定情報を生成し、
前記保全業務ログデータベースから、前記作業員と、当該作業員が行う前記タスクの対象である前記アセットと、当該タスクとが関連付けられた設定情報である作業担当設定情報を生成する
請求項1に記載の保全改善支援装置。
【請求項3】
前記シミュレーション部は、
前記タスク設定情報に含まれる故障のパターンに従って、前記アセットエージェントに当該故障が発生し、
当該故障に対応するタスクについて、前記作業担当設定情報に含まれ、当該アセットエージェントに対応するアセットおよび当該タスクに関連付けられた作業員に対応する作業員エージェントへの割り当てが決定し、
当該作業員エージェントが、当該アセットエージェントに対して当該タスクを行うシミュレーションを実行する
請求項2に記載の保全改善支援装置。
【請求項4】
前記保全業務ログデータベースは、
前記アセットの設置場所、前記アセットの機種、および、前記タスクの種別のうち何れか少なくとも1つを含み、
前記シミュレーション設定生成部は、
前記アセットの設置場所が同一または近い、前記アセットの機種が同一または近い、前記タスクの種別が同一または近い前記作業担当設定情報を併合して、前記作業担当設定情報の件数を削減する
請求項2に記載の保全改善支援装置。
【請求項5】
前記再現性向上処理部は、
シミュレーション実行中の前記エージェントの活動量が、所定値より小さい場合は当該エージェントを削除するエージェント合体処理部を備える
請求項1に記載の保全改善支援装置。
【請求項6】
前記再現性向上処理部は、
シミュレーション実行中の前記エージェントの活動量が、前記業務知識データベースにある規定に反して規定の値より小さい場合には、前記活動量が当該規定より小さい他のエージェントと合体するエージェント合体処理部を備える
請求項1に記載の保全改善支援装置。
【請求項7】
前記再現性向上処理部は、
シミュレーション実行中の前記作業員エージェントの活動量が、前記業務知識データベースにある規定に反して規定の値より大きい場合には、前記作業担当設定情報に含まれる当該作業員エージェントに対応する作業員が行うタスクとその対象であるアセットとを、当該作業員とは異なり、当該規定より活動量が小さい作業員の作業担当設定情報に追加する過大作業解消処理部を備える
請求項3に記載の保全改善支援装置。
【請求項8】
前記再現性向上処理部は、
シミュレーション実行中の前記アセットエージェントに対する前記タスク設定情報にある故障が発生してから対応するタスクが行われない期間が、前記業務知識データベースの規定より大きい場合には、当該タスクを行う前記作業員を示すエージェントを探索し、当該作業員を示すエージェントに対応する作業員の作業担当設定情報に、当該タスクと当該アセットエージェントに対応するアセットとを追加する作業欠損対応処理部を備える
請求項3に記載の保全改善支援装置。
【請求項9】
前記シミュレーション部は、
前記アセットおよび前記作業員の将来の増減計画である計画データベースに基づいて、前記アセットエージェントおよび前記作業員エージェントの増減を行う
請求項3~8の何れか1項に記載の保全改善支援装置。
【請求項10】
前記作業担当設定情報への追加の履歴を表示する評価部を備える
請求項7または8に記載の保全改善支援装置。
【請求項11】
保全改善支援装置が、
保全業務における保全対象であるアセット、前記保全業務を担当する作業員、および当該作業員が当該アセットに対して行う前記保全業務であるタスクを含み、前記保全業務の実行記録である保全業務ログデータベースに基づいて、前記保全業務のシミュレーションを行うための設定情報を生成するステップと、
前記アセットを示すエージェントであるアセットエージェント、および前記作業員を示すエージェンである作業員エージェントを用いて前記保全業務のシミュレーションを実行するステップと、
前記保全業務を実行するときの規定を含む業務知識データベースにある前記規定に反する前記アセットエージェントまたは前記作業員エージェントの状態を検出して前記設定情報を修正するステップとを実行する
保全改善支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保全業務の改善施策を提示する保全改善支援装置および保全改善支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフラ、鉄道、産業機器、医療機器など多くの分野では、設備や機器などのアセットの導入後に修理や定期点検などの保全を継続的に行う。保全を継続することで、アセットは所定の機能や性能を維持することができる。保全においては対象アセットの状態や保全の実行状況を分析し、適切な保全業務設計を立案して実行する必要がある。また、保全業務が実際の事業で計画どおりに実行されるように、保全組織や保全用設備まで含めた設計・計画が必要となる。
【0003】
しかしながら保全事業では、多数・多種のアセットや広域に配置されたアセットに対して、様々な保全作業を実行する必要があるため、適正な保全組織の規模や配置の設計は容易ではない。特に近年はIoT(Internet of Things)技術の効果や運用を踏まえた、従来とは異なる保全のプロセスを導入する必要がある。これに伴い人員数や必要な技能、器具などの保全の業務リソースが大きく変化するため、保全業務設計の複雑さが増大している。
【0004】
適正な保全業務設計が立案されなかった場合、作業員の不足や不適切な保全実行間隔、あるいはアセット状態の不適切な診断によって必要な作業が実行されず、安全や運用上の問題が発生する可能性がある。あるいは過剰な保全により費用が増大することで事業の収益性が悪化し、結果としてアセットの継続的な利用が不可能となることが考えられる。このため適切な保全業務設計を支援する技術が必要となっている。
【0005】
アセットの運転や保全の業務改善計画の立案と効果の見積りとを支援する技術の例としては、特許文献1,2に記載のものがある。特許文献1には、プラントにおけるアセットの導入計画を立案するために、過去の運転データから将来の運転のコストなどをシミュレーションし、プラント導入計画立案に用いるプラント運転管理支援システムが記載されている。特許文献2には、プラントにおいて、アセットを運転する運転条件と運転員の組み合わせによる運転コストと保全コストを予測し、最適な組み合わせを提示するプラント用生涯コスト管理支援システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-258816号公報
【特許文献2】特開2006-244288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
保全業務設計では、保全組織の具体的な人員数や保全作業の項目と詳細、IoTの導入内容と規模などを、保全作業が確実に実行されるようにしつつ、収益性も確保できる適正な規模に定める必要がある。しかしながら保全業務では、故障の発生や保全作業時の遅延などに偶然性が高く、また導入したIoTの効果は多数の作業内の兼ね合いで定まるために、実際に適正な業務設計を行うことは難しい。
そこで、現状の保全業務のシミュレーションモデルを構築して事業の再現を可能としたうえで、シミュレーションモデルに将来の事業計画やIoT導入計画を組み込むことで、適正な事業設計が行われているかを検証することが考えられる。保全業務をシミュレーションするためには、業務の対象となるアセットや業務を担当する作業員、IoTなどの各種要素を再現する設定を作成する。また、アセットや作業内容、作業員の関係性なども逐次設定する必要があり、設定を作成する工数や難易度が高い。
【0008】
そこで、既存の保全業務(保全作業)のログ(履歴)や設備・人員の台帳からシミュレーション設定を生成する手法が考えられる。しかしながら、保全業務ログには記録の欠損や、記録期間が短いことで記録が残らない保全作業があるため、シミュレーション設定の生成が適正に実行できないことがある。すると、不正確なシミュレーションが実行されるリスクや、個々の保全作業量は小さいが大量のアセットが抽出されて計算量が膨大になるといった問題が生じる。このため、シミュレーション設定の欠損や非効率性を抽出して改善し、設定を適切に行うことが望まれる。
【0009】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、保全業務のシミュレーションを適切に行う保全改善支援装置および保全改善支援方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、本発明に係る保全改善支援装置は、保全業務における保全対象であるアセット、前記保全業務を担当する作業員、および当該作業員が当該アセットに対して行う前記保全業務であるタスクを含み、前記保全業務の実行記録である保全業務ログデータベースに基づいて、前記保全業務のシミュレーションを行うための設定情報を生成するシミュレーション設定生成部と、前記アセットを示すエージェントであるアセットエージェント、および前記作業員を示すエージェンである作業員エージェントを用いて前記保全業務のシミュレーションを実行するシミュレーション部と、前記保全業務を実行するときの規定を含む業務知識データベースにある前記規定に反する前記アセットエージェントまたは前記作業員エージェントの状態を検出して前記設定情報を修正する再現性向上処理部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保全業務のシミュレーションを適切に行う保全改善支援装置および保全改善支援方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る保全改善支援装置の機能ブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る保全業務ログデータベースのデータ構成図である。
【
図3】本実施形態に係る業務知識データベースのデータ構成図である。
【
図4】本実施形態に係る計画データベースのデータ構成図である。
【
図5】本実施形態に係るシミュレーション設定生成処理のフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係るシミュレーション設定画面の画面構成図である。
【
図7】本実施形態に係るアセット設定情報のデータ構成図である。
【
図8】本実施形態に係るタスク設定情報のデータ構成図である。
【
図9】本実施形態に係る作業員設定情報のデータ構成図である。
【
図10】本実施形態に係る作業担当設定情報のデータ構成図である。
【
図11】本実施形態に係るエージェントデータのデータ構成を示す図である。
【
図12】本実施形態に係る作業担当欠損対応処理のフローチャートである。
【
図13】本実施形態に係るエージェント合体処理のフローチャートである。
【
図14】本実施形態に係る過大作業解消処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪保全改善支援装置の概要≫
以下に本発明を実施するための形態(実施形態)における保全改善支援装置について説明する。保全改善支援装置は、保全業務(保全作業)の履歴である保全業務ログデータベースから保全業務のシミュレーション実行に必要な設定情報を生成する。設定情報には、アセット設定情報やタスク設定情報、作業員設定情報、作業担当設定情報がある。次に保全改善支援装置は、設定情報に基づいてエージェント方式のシミュレーション(マルチエージェントシミュレーション)を実行する。
【0014】
保全業務ログデータベースには、現実のアセットや作業員に係る全ての情報が含まれているとは限らず、設定情報に欠損や不完全な情報が含まれる。保全改善支援装置は、シミュレーションを実行しながら、アセットの故障期間が長い、作業が集中している作業員がいるなどの保全業務上の規定に反する状態を検出して設定情報を修正する。修正した設定情報を用いることで、保全業務シミュレーションを適切に実行することができる。また、設定情報の修正内容は、作業員の増員や将来に作業員が担当する必要がある保全作業(タスク)を含んでおり、保全業務の計画立案の参考情報とすることができる。
【0015】
≪保全改善支援装置の構成≫
図1は、本実施形態に係る保全改善支援装置100の機能ブロック図である。保全改善支援装置100はコンピュータであり、制御部110、記憶部120、および入出力部180を備える。入出力部180には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。入出力部180が通信デバイスを備え、他の装置とのデータ送受信が可能であってもよい。また入出力部180にメディアドライブが接続され、記録媒体を用いたデータのやり取りが可能であってもよい。
【0016】
≪保全改善支援装置:記憶部≫
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部120には、保全業務ログデータベース130、業務知識データベース140、計画データベース150、エージェントデータ160、設定情報300、およびプログラム128が記憶される。
【0017】
プログラム128は、後記する作業担当欠損対応処理(後記する
図12参照)、エージェント合体処理(後記する
図13参照)および過大作業解消処理(後記する
図14参照)の手順の記述を含む。エージェントデータ160および設定情報300については、制御部110と合わせて後記する。以下、保全業務ログデータベース130、業務知識データベース140、および計画データベース150を説明する。
【0018】
≪記憶部:保全業務ログデータベース≫
図2は、本実施形態に係る保全業務ログデータベース130のデータ構成図である。保全業務ログデータベース130は、設備や機器などのアセットに対して行った故障対応や定期点検などの保全業務(保全作業)を記録している。保全業務ログデータベース130は、例えば表形式のデータであって、1つの行(レコード)は保全作業(タスク)を示し、識別情報(
図2ではIDと記載)、作業種別、タスク、アセット、機種、場所、作業員、拠点、開始日時、および終了日時の列(属性)を含む。
【0019】
識別情報は個々の保全作業に割り振られた識別番号である。作業種別は保全作業の種別である。タスクは保全作業の名称であり、作業種別の細目となる。アセットは保全作業の対象であるアセットの識別情報であり、機種はアセットの機種、場所はアセットの設置場所である。作業員は保全作業を行った作業員の識別情報であり、拠点は作業員の所属する拠点である。開始日時は保全作業の開始日時であり、終了日時は保全作業の終了日時である。
【0020】
識別番号が「2」である2つのレコードは、「オフィスA」を拠点とする「作業員2」および「作業員3」が、「サイトA」にあり機種が「ATM-A」で識別番号が「ATM2」であるアセットに対して「故障対応2」で識別される保全作業(タスク)を、2020年1月1日に18時から20時にかけて行ったことを示している。
【0021】
≪記憶部:業務知識データベース≫
図3は、本実施形態に係る業務知識データベース140のデータ構成図である。業務知識データベース140は、保全業務実行上のルールや方針、アセットや作業員の状態を判断するための情報(規定)が保存されている。
保全業務のシミュレーションは、業務知識データベース140にある規定を満たすように実行される。逆に言えば、シミュレーション実行中に規定を満たさない状態が生じた場合には、当該状態を解消するような処理(後記する
図12~
図14参照)が開始される。
【0022】
≪記憶部:計画データベース≫
図4は、本実施形態に係る計画データベース150のデータ構成図である。計画データベース150には、将来のアセットの追加・廃棄計画、作業員の増員・減員の計画、作業員が担当する保全作業の変更計画など、将来の保全事業の変更計画が含まれる。
【0023】
≪保全改善支援装置:制御部≫
図1に戻って、制御部110の説明を続ける。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、シミュレーション設定生成部111、エージェント生成部112、シミュレーション部113、作業担当欠損対応処理部114、エージェント合体処理部115、および過大作業解消処理部116が備わる。以下、順に説明する。
【0024】
なお、本実施形態では保全業務のシミュレーションの方式として、マルチエージェントシミュレーションを採用する。詳しくは、アセットや作業員などの実世界に存在するオブジェクトの動作を個別に模擬するエージェントが生成される。各エージェントは、それぞれの規定の動作を行いつつ、他のエージェントとの関係をもって時間発展することで保全業務の再現を行う。
【0025】
≪保全改善支援装置:制御部:シミュレーション設定生成部≫
シミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130を参照して保全業務のシミュレーション実行に必要な設定情報300(
図1参照)を生成する。設定情報300とは、後記するアセット設定情報320(
図7参照)、タスク設定情報330(
図8参照)、作業員設定情報340(
図9参照)および作業担当設定情報350(
図10参照)である。
【0026】
図5は、本実施形態に係るシミュレーション設定生成処理のフローチャートである。
図5を参照しながら、シミュレーション設定生成部111の処理を説明する。
ステップS11においてシミュレーション設定生成部111は、シミュレーション設定画面310(後記する
図6参照)を入出力部180に接続されるディスプレイに表示して、参照する保全業務ログデータベース130の範囲やシミュレーションの範囲を利用者から取得する。
【0027】
図6は、本実施形態に係るシミュレーション設定画面310の画面構成図である。領域311には、保全業務ログデータベース130を参照する期間が指定される。領域312には、シミュレーション対象となるアセットの種別が指定される。領域313には、シミュレーション対象となるアセットが設置してある地域が指定される。領域314には、シミュレーションを行う期間が指定される。「開始」ボタンが押されると、設定情報300の生成の後にシミュレーションが始まる。
なお、
図6では領域312でアセットの種別が指定されているが、アセット個体の識別情報でもよい。また、領域313の地域指定の替わりに作業員ないしは作業員所属の会社名(保全組織名称)などが指定されてもよい。
【0028】
図5に戻って、ステップS12においてシミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130(
図2参照)にアクセスして、領域311(
図6参照)に指定された期間のレコード(保全作業記録、保全作業履歴)を取得する。
【0029】
ステップS13においてシミュレーション設定生成部111は、アセット設定情報320(後記する
図7参照)を生成する。
図7は、本実施形態に係るアセット設定情報320のデータ構成図である。アセット設定情報320は、例えば表形式のデータであって、1つの行(レコード)はアセットを示し、アセットの識別情報、機種、および設置された場所の列(属性)を含む。シミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130(
図2参照)のなかのアセット、機種、場所の属性を抽出して、アセット設定情報320を生成する。
【0030】
図5に戻って、ステップS14においてシミュレーション設定生成部111は、タスク設定情報330(後記する
図8参照)を生成する。
図8は、本実施形態に係るタスク設定情報330のデータ構成図である。タスク設定情報330は、例えば表形式のデータであって、1つの行(レコード)はタスク(保全作業)を示し、保全対象のアセットの機種、作業種別、タスク(タスクの名称)、発生パターン、および作業時間の列(属性)を含む。
【0031】
シミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130(
図2参照)のなかの機種、作業種別、タスクの属性を抽出して、タスク設定情報330の機種、作業種別、タスクの属性を生成する。またシミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130のなかの開始日時、終了日時の属性を抽出して作業時間を算出し、タスク設定情報330の作業時間の属性を生成する。
【0032】
シミュレーション設定生成部111は、アセットごとにタスクの頻度を集計することで、タスクの発生パターンを生成する。この際にアセットの個体で見た場合、例えば故障率が低いなどにより発生率が低いタスクの発生パターンは、参照する保全業務記録の期間内に十分なサンプルがないなどの理由で、正確に発生パターンを見積もることが困難である可能性がある。このためシミュレーション設定生成部111は、アセットの機種や設置地域の区分ごとに集計を取ることで、正確なパターンを得てもよい。またシミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130以外のアセットに係る情報源にアクセスして、利用者の区分、アセットの利用期間などの区分ごとに集計を取ることで、正確なパターンを得てもよい。
【0033】
発生パターンとしては、例えば、保全業務記録において「故障対応1」となっているタスクは、その発生頻度をカウントすることで、ランダムなタスク発生と設定する。例えば1番目のレコードは、機種が「ATM-A」であるアセットについて、平均2000時間に1回の割合で「故障対応1」のタスクが発生することを示し、当該故障の平均故障間隔が2000時間であることを示している。また、定期点検の場合は、点検周期の平均を周期とする。なお故障の発生頻度や定期点検周期が、導入経過後の期間(年数)によって変化する場合には、導入経過年数に応じた発生パターンが含まれてもよい。
【0034】
図5に戻って、ステップS15においてシミュレーション設定生成部111は、作業員設定情報340(後記する
図9参照)を生成する。
図9は、本実施形態に係る作業員設定情報340のデータ構成図である。作業員設定情報340は、例えば表形式のデータであって、1つの行(レコード)は作業員を示し、作業員の識別情報、および拠点の列(属性)を含む。シミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130のなかの作業員および拠点の属性を抽出して、作業員設定情報340を生成する。
【0035】
図5に戻って、ステップS16においてシミュレーション設定生成部111は、作業担当設定情報350(後記する
図10参照)を生成する。
図10は、本実施形態に係る作業担当設定情報350のデータ構成図である。作業担当設定情報350は、例えば表形式のデータであって、1つの行(レコード)は作業員が担当するタスク(保全作業)を示し、作業員の識別情報、アセット、およびタスクの列(属性)を含む。シミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130のなかの作業員、アセットおよびタスクの属性を抽出して、作業担当設定情報350を生成する。
【0036】
≪保全改善支援装置:制御部:エージェント生成部≫
図1に戻って、エージェント生成部112は、シミュレーション設定生成部111が生成した設定情報300に従って、各アセットや各作業員のエージェント200(後記する
図11参照)をエージェントデータ160内に生成する。
【0037】
図11は、本実施形態に係るエージェントデータ160のデータ構成を示す図である。エージェント生成部112は、アセット設定情報320(
図7参照)に示される各アセットに対応して、アセットエージェント210を生成する。またエージェント生成部112は、作業員設定情報340(
図9参照)に示される各作業員に対応して、作業員エージェント220を生成する。他にエージェント生成部112は、タスクを作業員に割り当てる作業計画エージェント230や、各アセットへの定期点検作業依頼を生成する定期点検作業生成エージェント240を生成する。アセットエージェント210、作業員エージェント220、作業計画エージェント230、および定期点検作業生成エージェント240を総称してエージェント200と記す。エージェント200の構成の詳細については、後記する。
【0038】
エージェント生成部112は、計画データベース150(
図4参照)にある、アセットや作業員の追加・削除や担当変更の計画に従った、アセットエージェント210や作業員エージェント220の追加、削除、変更を行う。これは、後記するシミュレーション部113でのシミュレーション内時間に基づいて、計画データベース150にある発生日時に実行される。なお、シミュレーションの実行開始後のアセットエージェント210や作業員エージェント220の追加、削除、変更は、シミュレーション部113が行ってもよい。
【0039】
≪保全改善支援装置:制御部:シミュレーション部≫
シミュレーション部113は、エージェント生成部112が生成したエージェントデータ160にあるエージェント200を操作して、保全業務のシミュレーションを実行する。シミュレーション部113は、各エージェント200の時間更新処理を実行する。これに駆動されて、エージェント200の内部状態の更新やエージェント200間での作用などの処理が実行される。
【0040】
なおエージェント200はエージェントデータ160に記憶されるデータであるが、シミュレーション部113に操作されて、内部状態が変わり、他のエージェント200への作用がある。このため、シミュレーション部113が行う処理を、エージェント200が主体となって行う処理のように記す場合がある。例えば「アセットエージェント210が作業計画エージェント230に故障対応のタスクを依頼する」「アセットエージェント210の状態更新部211が内部状態を更新する」などと記す。このような記載は、後記する作業担当欠損対応処理部114、エージェント合体処理部115、および過大作業解消処理部116についても同様であって、これらの機能部が行う処理をエージェント200が行う処理のように記載する場合がある。また、設定情報300に含まれるアセットとアセットエージェント210とを同一視して記載したり、作業員と作業員エージェント220とを同一視して記載したりする場合がある。
【0041】
≪シミュレーション部:アセットエージェント≫
エージェント200(
図11参照)は、アセットエージェント210や作業員エージェント220などの型により構成や動作が異なる。アセットエージェント210の状態更新部211は、アセットごとの故障対応タスクが設定され、タスクの確率的な発生処理を行う。例えば、機種「ATM-A」に対応するアセットエージェント210では、シミュレーション部113でのシミュレーション内時間で2000時間に1回の割合でランダムに「故障対応1」のタスクが発生する(
図8参照)。また、タスク発生と同時に故障発生状態になったとみなし、状態更新部211は内部状態を「故障状態」に更新する。
【0042】
アセットエージェント210の相互作用部212は、状態更新部211で発生したタスクに対する対応依頼を作業計画エージェント230へ通知する。また相互作用部212は、後記する作業員エージェント220がアセットエージェント210に対してタスクを実行すると、これを状態更新部211に通知する。すると状態更新部211は、故障対応タスクが実行され、アセットが運用可能となったと判断して、内部状態を「正常状態」に更新する。このように相互作用部212は、他のエージェント200との連携処理を行う。なおアセットエージェント210の状態監視部213と再現性向上部214については後記する。
上記した説明ではアセットエージェント210が主体で、状態更新部211や相互作用部212が機能するように記載したが、保全改善支援装置100上の処理ではシミュレーション部113がアセットエージェント210のデータにアクセスして処理を行う。
【0043】
≪シミュレーション部:定期点検作業生成エージェント≫
定期点検作業生成エージェント240は、各アセットエージェント210に対する定期点検のタスクの発生処理を行う。詳しくは、定期点検作業生成エージェント240は、タスク設定情報330(
図8参照)を参照して、各アセットエージェント210に対する定期点検タスクの周期的な発生処理を行う。次に定期点検作業生成エージェント240が、定期点検のタスク発生をアセットエージェント210に通知すると、アセットエージェント210の状態更新部211は状態を「定期点検待ち状態」に更新する。また定期点検作業生成エージェント240は、当該定期点検タスクに対する対応依頼を作業計画エージェント230へ通知する。
【0044】
≪シミュレーション部:作業計画エージェント≫
作業計画エージェント230は、アセットエージェント210からの故障対応タスクの依頼や定期点検作業生成エージェント240からの定期点検タスクの依頼に基づいて、各タスクの必要人数や担当作業員またはスキル、および実行開始日と終了日などの制約と、作業員に既に割り当てられているタスクを考慮して、作業員エージェント220にタスクを割り当て、割り当てたタスクを作業員エージェント220へ通知する。
【0045】
≪シミュレーション部:作業員エージェント≫
作業員エージェント220の状態更新部221は、作業計画エージェント230からタスクの通知を受け取ると、当該タスクを作業担当情報として記憶する。また状態更新部221は、故障対応タスクや定期点検タスクなどタスクの実行予定がない時間は「待機/休息状態」にある。状態更新部221は、割り当てられたタスクを実行する際に「タスク実行状態」へ遷移する。「タスク実行状態」では、相互作用部222を通じて、アセットエージェント210に対してタスクを実行する。するとアセットエージェント210の状態更新部211は、内部状態を「故障状態」や「定期点検待ち状態」から「正常状態」に更新する。作業員エージェント220における、状態監視部223と再現性向上部224については後記する。
【0046】
上記に説明したように、アセットエージェント210で故障対応のタスクが発生し、作業計画エージェント230に通知される。また定期点検作業生成エージェント240で定期点検のタスクが発生し、アセットエージェント210や作業計画エージェント230に通知される。作業計画エージェント230は、タスクを作業員エージェント220に割り当て、割り当てられた作業員エージェント220がアセットエージェントにタスクを実行することで、故障対応タスクや定期点検タスクが完了する。アセットエージェント210の状態更新部211の状態は「正常状態」に戻る。このようにエージェント200が動作することで(より正確には、シミュレーション部113がエージェント200を操作することで)保全業務のシミュレーションが実行される。
【0047】
換言すれば、シミュレーション部113が実行するシミュレーションは、以下のように進む。(1)タスク設定情報330に含まれる故障のパターンに従ってアセットエージェント210で故障が発生する。(2)この故障に対応するタスクについて、当該アセットエージェント210(アセット)および当該タスクを担当するように作業担当設定情報350において設定された作業員エージェント220(作業員)への当該タスクの割り当てが決定する。(3)当該作業員エージェント220が当該アセットエージェント210に対して当該タスクを行う。
【0048】
しかしながら、シミュレーション上の欠陥がなく、精度が高いシミュレーションを行うためには、いくつかの問題点が存在している。主な問題点としては、シミュレーションの設定情報300の欠損に起因するもの、計算量などの計算効率に関わるもの、および作業員への過大な作業集中がある。以下ではこれらの問題を解消するための再現性向上処理として、作業担当欠損対応処理、エージェント合体処理、過大作業解消処理を説明する。
【0049】
≪保全改善支援装置:制御部:作業担当欠損対応処理部≫
第1の問題として作業担当設定情報350(
図10参照)に欠損がある場合がある。すると、アセットエージェント210が故障対応タスクの依頼を出しても、作業計画エージェント230が作業員エージェント220を割り当てることができず、タスクが実行されない。このような作業担当設定情報350の欠損に対して、作業担当欠損対応処理部114が作業担当欠損対応処理を実行して対応する。
【0050】
図12は、本実施形態に係る作業担当欠損対応処理のフローチャートである。作業担当欠損対応処理部114(再現性向上処理部)は、シミュレーション部113と並行して、エージェント200を操作して作業担当欠損対応処理を実行する。
ステップS21においてアセットエージェント210の状態監視部213は、状態更新部211内の内部状態を監視して、一定時間「故障状態」や「定期点検待ち状態」が更新されない場合(ステップS21→YES)にはステップS22に進む。このような状態更新部211の内部状態が更新されない状態になるのは、作業担当設定情報350(
図10参照)に欠損があり、故障対応タスクや定期点検タスクが実行されない場合である。なお上記の一定時間は、業務知識データベース140(
図3参照)で「タスク実行待ち最大時間」として規定されている。
【0051】
以下の処理で、アセットエージェント210と作業員エージェント220とは、相互作用部212,222を介して依頼やスコアをやり取りするものとする。後記するエージェント合体処理や過大作業解消処理でも、アセットエージェント210と作業員エージェント220とは、相互作用部212,222を介して他のエージェント200とのやり取りものとする。
ステップS22においてアセットエージェント210の再現性向上部214は、自身(アセットエージェント210)の故障対応タスクや定期点検タスクを担当することの可否を、全ての作業員エージェント220に問い合わせる。
【0052】
ステップS23において各作業員エージェント220の再現性向上部224は、問い合わせを受けたタスクの担当可能性のスコアを算出して、アセットエージェント210に返答する。スコアの算出方法としては、例えば、作業員エージェント220の担当済のタスクに問い合わせを受けたタスクと同種のタスクが含まれていれば、高いスコアとする。また、アセットエージェント210の場所(
図7記載のアセット設定情報320の場所参照)と作業員エージェント220の拠点(
図9記載の作業員設定情報340の拠点参照)との距離が近ければ高いスコアとする。他に、作業員エージェント220の状態監視部223が算出する当月の作業時間が、業務知識データベース140(
図3参照)ある月当たり標準作業時間より小さいほど余力があるとして高いスコアとする。また当月の作業時間が、業務知識データベース140ある月当たり標準作業時間と月当たり残業時間の和を超えていた場合には、最低のスコアとする。
【0053】
ステップS24においてアセットエージェント210の再現性向上部214は、受け取ったスコアのなかで一定値よりもスコアが高い作業員エージェント220にタスクの担当を依頼する。
ステップS25において作業員エージェント220の再現性向上部224は、自身が記憶する作業担当情報、および作業担当設定情報350(
図10参照)にタスクを追加する。この追加の修正により作業担当設定情報350の欠損が解消される。
【0054】
ステップS24におけるスコアの一定値は、予め設定された値であるが、作業員エージェント220が担当済のタスク(作業員の作業担当設定情報350にあるタスク)に対するスコアから算出してもよい。詳しくは、ステップS23において再現性向上部224は、問い合わせにあるタスクの他に、アセットエージェント210が担当済タスクに対するスコアを算出して返答する。ステップS24において再現性向上部214は、受け取った担当済タスクに対するスコアの平均値あるいは一定比率の値を一定値とする。
【0055】
≪作業担当欠損対応処理部の特徴≫
上記説明したように作業担当欠損対応処理部114は、シミュレーション実行中のアセットエージェント210に対するタスク設定情報330にある故障が発生してから対応するタスクが行われない期間が、業務知識データベース140の規定より大きい場合には、当該タスクを行う作業員エージェント220を探索し、作業担当設定情報350に当該タスクと当該アセットとを追加する。再現性向上部214,224(より正確には作業担当欠損対応処理部114)は、作業担当設定情報350の欠損を検出し、作業担当設定情報350を修正することになる。
【0056】
このように保全改善支援装置100は、保全業務を実行するときの規定を含む業務知識データベース140にある規定に反するアセットエージェント210の状態を検出して設定情報(作業担当設定情報350)を修正する作業担当欠損対応処理部114(再現性向上処理部)を備える。ここで業務知識データベース140(
図3参照)にある規定に反するとは、故障が発生してから対応するタスクが行われない期間が「タスク実行待ち最大時間」以上であることである。
【0057】
このような手法を用いることで、アセットや作業員が計画データベース150の設定で頻繁に変更される場合や、保全業務ログデータベース130の品質が低く、生成される担当設定情報の欠損が多く修正が困難な場合であっても、シミュレーション実行中に再現性向上部214,224により作業担当設定情報350が改善され、欠陥のないシミュレーションが実現できるようになる。
【0058】
≪保全改善支援装置:制御部:エージェント合体処理部≫
第2の問題は、シミュレーション設定生成部111が生成したアセット設定情報320(
図7参照)に含まれるアセット数が非常に多くなる場合に発生する。アセット数が多いと、シミュレーションの計算量が大きくなり、実用的な時間やメモリ消費量でのシミュレーション実行が困難になる。このような第2の問題は、個々の故障率は非常に低いアセットが大量に存在している状況で生じる。例えば、ネットワーク機器やタブレット機器などの電子端末は、オフィスや工場全体をカバーするために多数の同一種類の装置が設置されたり、個人に配布されたりするために台数が多くなる。工場の製造装置やATMなどの精密機械と比べて数的に多いが、故障率は低いので故障対応は少なく、定期点検もされない。
【0059】
このような大量のアセットに対して、エージェント合体処理部115がエージェント合体処理を実行してアセットエージェント210を削減する。エージェント合体処理部115は、アセットエージェント210において、複数の同一種類と判断されるアセットエージェント210を合併して1つのアセットエージェント210に置き換えるエージェント合体処理を行う。この処理によりアセットエージェント210が消費する計算量やメモリ消費量を削減できる。
【0060】
図13は、本実施形態に係るエージェント合体処理のフローチャートである。エージェント合体処理部115(再現性向上処理部)は、シミュレーション部113と並行して、エージェント200を操作してエージェント合体処理を実行する。
ステップS31においてアセットエージェント210の状態監視部213は、状態更新部211を監視し、作業員エージェント220による故障対応タスクや定期点検タスクの実行頻度、および「故障状態」や「定期点検待ち状態」となる頻度との合計(活動量)を算出する。状態監視部213は、算出した頻度が業務知識データベース140(
図3参照)に定義された低タスク実行頻度閾値より低頻度であれば(ステップS31→YES)ステップS32に進む。このような状態になるのは、アセットエージェント210に対する保全作業が実行されることが稀であるためである。
【0061】
ステップS32においてアセットエージェント210の再現性向上部214は、他のアセットエージェント210に対して自身が合体処理を希望する通知を送信する。このときに他のアセットエージェントも同時に自身が合体処理を希望していれば、同様に希望を通知していることになる。なお通知には、アセットエージェント210の識別情報や状態更新部211に含まれるモード(状態)などが含まれてもよい。
ステップS33においてアセットエージェント210の再現性向上部214は、他のアセットエージェント210からの通知があれば(ステップS33→YES)ステップS34に進み、通知がなれば(ステップS33→NO)エージェント合体処理を終了する。
【0062】
ステップS34において再現性向上部214は、合体の可否を判断する。判断基準としては、アセットエージェント210が同一の機種(
図7記載の機種参照)であること、あるいは状態更新部211に含まれるモード(状態)が同一であることなどがある。また、アセットエージェント210の設置場所(
図7記載の場所参照)が同一または地理的に近い場合は合体可と判断することが考えられる。
再現性向上部214は、合体が可ならば(ステップS34→YES)ステップS35に進み、不可ならば(ステップS34→NO)エージェント合体処理を終了する。
【0063】
ステップS35において再現性向上部214は、合体可能なアセットエージェント210と合体する。詳しくは、再現性向上部214は自身と合体対象であるアセットエージェント210の状態更新部211内のモードを継承し、合体前の合計の故障発生率や定期点検要求をもつ新しいアセットエージェント210を生成する。また再現性向上部214は、アセット設定情報320(
図7参照)を変更する。例えば機種が同一の場合は、故障モードの故障発生頻度を合計値(平均故障間隔の調和平均)に変更して合体してもよい。また再現性向上部214は、作業担当設定情報350(
図10参照)の合体前のアセットに関する情報を、新しいアセットエージェント210に書き換える。
【0064】
≪エージェント合体処理の特徴≫
エージェント合体処理により、合体対象のアセットエージェント210は1つのアセットエージェント210になるため、計算量とメモリ使用量を削減できる。この処理はタスクの実行頻度、および「故障状態」や「定期点検タスク」となる頻度の合計が低タスク実行頻度閾値より低頻度となる間は繰り返し実行される。このため、最小限のアセットエージェント210数となるまでアセットエージェント210が少なくなり、計算量とメモリ使用量を削減することができる。
【0065】
以上説明したように保全改善支援装置100は、保全業務を実行するときの規定を含む業務知識データベースにある規定に反するアセットエージェントの状態を検出して設定情報(アセット設定情報320、作業担当設定情報350)を修正するエージェント合体処理部115(再現性向上部214、再現性向上処理部)を備える。ここで業務知識データベース(
図3参照)にある規定に反するとは、故障対応タスクや定期点検タスクの実行頻度、および「故障状態」や「定期点検待ち状態」となる頻度の合計が業務知識データベース140(
図3参照)に定義された「低タスク実行頻度閾値」より低頻度であるということである。
【0066】
≪保全改善支援装置:制御部:過大作業解消処理部≫
第3の問題は、作業員エージェント220の生成数が過小、あるいは少数の作業員エージェント220にタスクが集中してしまい、作業員エージェント220のタスク実行時間が異常に大きくなること(過大作業)である。これは、保全業務ログデータベース130(
図2参照)が有限期間のデータであるために、実際にはアセットに対する保全業務を10人で担当していても、その期間では例えば半数以下の記録しか残らないといった状況があるために発生する問題である。一般には作業員が実行可能な作業時間には法律や身体的な上限があるために、異常に長い作業時間を再現するシミュレーションは正確ではなく、事業計画への利用には問題がある。
【0067】
このような少数の作業員に対して、過大作業解消処理部116が過大作業解消処理を実行して対応する。過大作業解消処理部116は、作業員エージェント220を加増して、タスク実行時間が異常に大きくなることを解消する。
【0068】
図14は、本実施形態に係る過大作業解消処理のフローチャートである。過大作業解消処理部116(再現性向上処理部)は、シミュレーション部113と並行して、エージェント200を操作して過大作業解消処理を実行する。
ステップS41において作業員エージェント220の状態監視部223が、状態更新部221を監視して、「タスク実行状態」にある時間を算出して過大作業であるならば(ステップS41→YES)ステップS42に進む。統計からの過大作業を検出する手法としては例えば、タスクの実行時間から残業とみなされる勤務時間帯外の時間を算出して月当たり残業時間を算出し、業務知識データベース140(
図3参照)に記録された上限値を超えている場合は、過大作業と判断する。
【0069】
ステップS42において作業員エージェント220の再現性向上部224は、担当するタスクの委譲可否を他の作業員エージェント220に対して問い合わせる。問い合わせには、当該タスクの名前や種別、当該タスクの対象となるアセットエージェント210の機種などが含まれてもよい。
【0070】
ステップS43において問い合わせを受けた作業員エージェント220の再現性向上部224は、作業の移譲が可能性を示すスコアを返答する。スコアの算出手法としては、作業員エージェント220の月当たり作業時間や残業時間が業務知識データベース140に記録された上限値との差が大きいほどスコアを大きくする手法がある。また、問い合わせた作業員エージェント220との拠点が近いほどスコアを大きくしてもよい。他に、対象のアセットエージェント210の機種やタスクの種類の類似性が高いほど高いスコアを返すことにしてもよい。また当月の作業時間が、業務知識データベース140ある月当たり標準作業時間と月当たり残業時間の和を超えていた場合には、最低のスコアとする。
【0071】
ステップS44において問い合わせた作業員エージェント220の再現性向上部224は、移譲の可否を判断する。詳しくは、再現性向上部224は返ってきたスコアが何れも所定値に満たないならば場合は、移譲不可と判断して(ステップS44→NO)ステップS45に進む。再現性向上部224は所定値以上のスコアが返ってきた場合は、移譲可と判断して(ステップS44→YES)ステップS46に進む。
ステップS45において問い合わせた作業員エージェント220の再現性向上部224は、新規の作業員エージェント220を生成する。次に再現性向上部224は、この新規の作業員エージェント220の作業担当設定情報350が自身の作業担当設定情報350の全てあるいは一部をもつようにする。
【0072】
ステップS46において問い合わせた作業員エージェント220の再現性向上部224は、受け取ったスコアが最も高い作業員エージェント220(以下、移譲先候補と記載)に追加する作業担当設定情報350(
図10参照)を決定する。詳しくは、再現性向上部224は、自身の作業担当設定情報350と、移譲先候補の作業担当設定情報350とを比較して、移譲先候補が担当していないアセットとタスクとがあった場合、自身の作業担当設定情報350のうちで最も作業量が大きい(
図8記載のタスク設定情報330の作業時間が長い)タスク、あるいはランダムに選定した作業担当設定情報350のなかのタスクを、移譲先候補に追加すると決定する。
【0073】
ステップS47において問い合わせた作業員エージェント220の再現性向上部224は、移譲先候補の作業員エージェント220に、タスクの追加を依頼する。
ステップS48において移譲先候補の作業員エージェント220の再現性向上部224は、自身の作業担当設定情報350にタスクを追加する。このことで移譲先候補は、以降はそのタスクも担当することになる。
【0074】
≪過大作業解消処理の特徴≫
過大作業解消処理では、作業員エージェント220の活動量が、業務知識データベース140にある規定より大きい場合には、作業担当設定情報350に含まれる作業員エージェント220(作業員)が行うタスクとその対象であるアセットとを、当該作業員エージェント220とは異なり、規定より活動量が小さい作業員エージェント220の作業担当設定情報に追加する。この過大作業解消処理によって、過大な保全作業を実行していた作業員エージェント220の負担が分散され、作業量が適正化される。過大作業解消処理が、作業員エージェント220に過大な作業量が検出されなくなるまで繰り返されることによって、過大な作業が生じる作業員エージェント220をなくすことができる。保全業務ログデータベース130の欠陥から生じる作業員設定情報340や作業担当設定情報350の不備が修正されることで、適切な保全業務シミュレーションを実行することができる。
【0075】
このように保全改善支援装置100は、保全業務を実行するときの規定を含む業務知識データベースにある規定に反する作業員エージェントの状態を検出して設定情報(作業担当設定情報350)を修正する過大作業解消処理部116(再現性向上処理部)を備える。ここで業務知識データベース(
図3参照)にある規定に反するとは、「タスク実行状態」にある時間から算出される残業時間が、業務知識データベース140(
図3参照)ある「作業員月当たり残業時間」という規定の値以上(または、より大きい)であることである。
【0076】
≪保全改善支援装置の特徴≫
シミュレーション設定生成部111は、保全業務ログデータベース130から保全業務のシミュレーション実行に必要な設定情報300を生成する。設定情報300とは、アセット設定情報320、タスク設定情報330、作業員設定情報340、作業担当設定情報350を含む。次にエージェント生成部112は、設定情報に基づいてエージェント200を生成する。続いてシミュレーション部113は、エージェント200を動作させて(操作して)シミュレーションを実行する。
【0077】
保全業務ログデータベース130には、現実のアセットや作業員に係る全ての情報が含まれているとは限らず、設定情報に問題がある場合がある。作業担当欠損対応処理部114は、アセットエージェント210の「故障状態」または「定期点検待ち状態」が一定時間続く場合に、作業担当設定情報350の欠損を解消する。エージェント合体処理部115は、アセットエージェント210における点検タスクの実行頻度や故障状態の頻度が低い場合に、アセットエージェント210を合体して、シミュレーションの計算量とメモリ使用量を削減する。過大作業解消処理部116は、作業員エージェント220のタスク量が過大である場合に、作業員エージェント220を新規に追加したり、既存の作業員エージェント220の作業担当設定情報350にタスクを追加したりして、タスクが作業員エージェント220間で分散化できるようにする。
【0078】
このように、故障状態が一定時間以上続くなどの問題が検出されなくなるまで作業担当欠損対応処理やエージェント合体処理、過大作業解消処理が繰り返されることによって、適切な設定情報300が生成される。延いては、適切な保全業務シミュレーションを実行することができる。
【0079】
≪変形例:評価部≫
シミュレーション部113は、タスクの開始・終了やアセットエージェント210の状態の変化をイベントログとして保存するようにしてもよい。このとき同時に、設定情報300の修正もイベントログとして保存してもよい。また保全改善支援装置100は、イベントログの統計処理および可視化処理を行い、利用者に提示する評価部を備えてもよい。例えば評価部は、故障発生から故障対応タスク完了までの時間、作業員の平均残業時間・最大残業時間・最大連続作業時間などを算出して利用者に提示してもよい。また評価部は、作業員設定情報340や作業担当設定情報350の修正履歴/修正内容(追加されたタスク、追加の履歴)を利用者に提示してもよい。
【0080】
作業員設定情報340や作業担当設定情報350の修正は、計画データベース150にあるアセットの追加・削除や作業員の増員・減員など保全事業状況の変化に伴う、作業員が担当する保全作業(タスク)の対象となるアセットや種別(作業種別)の変化を示している。またイベントログは、保全事業状況の変化に伴う、アセットに適切に保全が行われなくなった状況を示しており、作業員設定情報340や作業担当設定情報350の修正は、その際に必要となる対策を提示していることになる。これによって保全改善支援装置100の利用者は、将来のアセットの追加または廃棄の計画や作業員の雇用・教育計画を立案することが可能となる。
【0081】
≪変形例:エージェントによるシミュレーション実行≫
上記した実施形態ではシミュレーション部113や作業担当欠損対応処理部114、エージェント合体処理部115、過大作業解消処理部116が、エージェント200のデータ(エージェントデータ160)を操作して、シミュレーションや再現性向上処理を実行している。これに対して、エージェント200が処理モジュールを備え、シミュレーションや再現性向上処理を実行するようにしてもよい。また、その他のエージェントシミュレーションの実行形態であってもよい。
【0082】
≪変形例:設定情報の修正≫
上記した実施形態では再現性向上処理によって、設定情報300が修正されている。アセットエージェント210や作業員エージェント220それぞれが、自身に係る機種やタスクなどの情報をエージェント内部に保持し、シミュレーションや再現性向上処理の実行に伴い当該情報を修正するようにしてもよい。エージェントに係る情報の保持形態については、エージェントシミュレーションの実行形態に応じて適切な形態を採用すればよい。
【0083】
≪変形例:タスク設定情報≫
保全業務ログデータベース130にはタスク(作業種別の細目)が記録されており、シミュレーション設定生成部111は、このタスク別にタスク設定情報330(
図8参照)を生成している。しかしながら故障対応については、作業開始時点では故障内容が未確定である、あるいは、調査や修理・交換作業の内容に不確定性が大きいために、詳細な分類コードであるタスク(作業種別の細目)が記録されていない可能性がある。
【0084】
このような場合、本発明では最終的に保全作業の実行状況をシミュレーション評価することを目的とするため、発生パターンと各タスクの負荷の片方あるいは両方を基準として、タスク定義を分けて生成することで、詳細なタスクの定義を細分化してシミュレーション精度を向上することが考えられる。例えば、作業時間の短・中・長で階級化する、あるいは作業時間をクラスタリングすることで、類似の時間のタスクに分類することが考えられる。また、作業を実行に必要な作業員の数は、シミュレーションにおいて作業員割り当てを実行する際に区別する必要があるため、必要な人員数ごとに定規のタスクの細分化を行うことが必要である。
【0085】
≪変形例:作業担当設定情報≫
作業担当設定情報350(
図10参照)は、作業員が担当するアセットとタスクを示しているが、簡略化してもよい。例えば個別のアセットではなく、その設置された場所で集約してもよいし、機種で集約してもよい。また個別のタスクではなく、作業種別やスキルなどで区別して簡略化してもよい。例えば、アセットの設置場所が同一または近い、アセットの機種が同一または近い、タスクの種別が同一または近い作業担当設定情報のレコードを併合して、作業担当設定情報のレコード数を削減してもよい。このように設定情報300を削減することでシミュレーション実行の効率が向上される。
【0086】
また、作業担当設定情報350は、保全業務ログデータベース130に基づいて生成される。このために、ある作業員が実際の保全事業設計上は担当しているアセットやタスクが保全業務ログデータベース130になく、作業担当設定が生成されない可能性がある。そこで、担当するアセットとタスクとの類似性が高い作業員同士は、保全業務設計上は同一のアセットとタスクの担当範囲をもつものと推定して、双方の担当するアセットとタスクとの集合和を求めて欠損した作業担当設定を補完してもよい。類似のアセットやタスクの記録がある作業員同士をクラスタリングすることで、より現実に近く抜け漏れがない作業担当設定情報350を生成することができる。
【0087】
≪変形例:定期点検タスク≫
上記した実施形態では、定期点検作業生成エージェント240が定期点検のタスク発生処理を行っているが、各アセットエージェント210が行ってもよい。例えばアセットエージェント210の状態更新部211が、前回の定期点検からの現時点までの時間カウントを行い、定期点検周期を超えた場合は点検未了のため運転不可と考えてアセットエージェントの内部状態を「定期点検待ち状態」に更新する。さらに状態更新部211は、相互作用部212を介して作業計画エージェント230に定期点検を依頼するようにしてもよい。
【0088】
≪変形例:エージェント合体処理≫
上記した実施形態では、点検タスクや定期点検タスクの実行頻度および「故障状態」や「定期点検待ち状態」となる頻度が低いアセットエージェント210に対して、エージェント合体処理部115がエージェント合体処理を行う。頻度が所定値より低くシミュレーションへの影響が小さいと考えられる場合には、エージェント合体処理部115は、合体ではなく単に当該アセットエージェント210を削除することとして、アセット設定情報320から削除してもよい。
【0089】
作業員エージェント220についてエージェント合体処理部115は、タスクの実行頻度(活動量)が低い作業員エージェント220で、拠点(
図9記載の作業員設定情報340の拠点参照)が同一または近い作業員エージェント220を合体して1つの作業員エージェント220としてもよい。タスクの実行頻度が低いか否かは、例えば業務知識データベース140(
図3参照)にある「作業員月当たり標準作業時間」あるいは「作業員月当たり標準作業時間」の所定値を乗じた時間を基準に判断してもよい。また、頻度が所定値より低くシミュレーションへの影響が小さいと考えられる場合には、エージェント合体処理部115は合体ではなく、単に当該作業員エージェント220を削除することとして、作業員設定情報340から削除してもよい。
【0090】
このようにエージェント合体処理部115は、シミュレーション実行中のアセットエージェント210や作業員エージェント220の活動量が、業務知識データベース140にある規定に反して規定の値より小さい場合には、活動量が当該規定より小さい他のアセットエージェント210ないしは作業員エージェント220と合体する。またエージェント合体処理部115は、シミュレーション実行中のアセットエージェント210や作業員エージェント220の活動量(タスクの実行頻度)が所定値より小さい場合は当該アセットエージェント210または作業員エージェント220を削除するようにしてもよい。アセットエージェント210または作業員エージェント220の合体や削除によりシミュレーションの計算量やメモリ使用量を削減でき、処理時間が短縮できる。
【0091】
≪その他変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。例えば保全改善支援装置100は、保全業務ログデータベース130や業務知識データベース140、計画データベース150を記憶しているが、外部装置にあるこれらの情報にアクセスしてもよい。作業担当欠損対応処理部114、エージェント合体処理部115および過大作業解消処理部116は、1つの機能部(再現性向上処理部)であってもよい。
【0092】
本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
100 保全改善支援装置
111 シミュレーション設定生成部
112 エージェント生成部
113 シミュレーション部
114 作業担当欠損対応処理部(再現性向上処理部)
115 エージェント合体処理部(再現性向上処理部)
116 過大作業解消処理部(再現性向上処理部)
130 保全業務ログデータベース
140 業務知識データベース
150 計画データベース
210 アセットエージェント
220 作業員エージェント
300 設定情報
320 アセット設定情報
330 タスク設定情報
340 作業員設定情報
350 作業担当設定情報