(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010122
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】表面処理方法、表面処理キット
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20230113BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230113BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230113BHJP
C09D 183/08 20060101ALI20230113BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230113BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D5/00 Z
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302L
C09D183/08
C09D7/63
C09K3/18 102
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114010
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】303042349
【氏名又は名称】株式会社BTO
(74)【代理人】
【識別番号】100127764
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 泰州
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正典
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB64Z
4D075BB79Z
4D075CA09
4D075CA36
4D075CA37
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB40
4D075DC24
4D075EA05
4D075EB16
4D075EB37
4D075EB42
4D075EB51
4D075EC01
4D075EC08
4D075EC30
4D075EC37
4H020BA12
4H020BA36
4J038DL071
4J038DL161
4J038JA36
4J038JA43
4J038KA04
4J038KA15
4J038MA09
4J038NA05
4J038NA07
4J038PB08
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】 本発明は、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を付与することができるうえ、手指の滑り性を向上することができる新規な表面処理方法、及び表面処理キットを提供することを目的とする。
【解決手段】 被処理物の表面に、ポリシラザンを含有するガラスコート用液剤を塗布するガラスコート工程と、パーフルオロポリエーテルシランを含有するフッ素コート用液剤を塗布するフッ素コート工程と、を順に実行することによって被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成するための表面処理方法であって、
前記被処理物の表面に、
ポリシラザンを含有するガラスコート用液剤を塗布するガラスコート工程と、
パーフルオロポリエーテルシランを含有するフッ素コート用液剤を塗布するフッ素コート工程と、
を順に実行することを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理方法において、
前記ガラスコート工程の実行後、且つ、前記フッ素コート工程の実行前に、前記被処理物における前記ガラスコート用液剤を塗布した表面に水分を付与する水処理工程を実行する表面処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理方法において、
前記フッ素コート工程の実行時に、パーフルオロポリエーテルシランの被膜形成を促進するための第一触媒を前記フッ素コート用液剤に配合する表面処理方法。
【請求項4】
被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成するための表面処理キットであって、
ポリシラザンを含有するガラスコート用液剤と、
パーフルオロポリエーテルシランを含有するフッ素コート用液剤と、
を具備してなることを特徴とする表面処理キット。
【請求項5】
請求項4に記載された表面処理キットにおいて、
更に、パーフルオロポリエーテルシランの被膜形成を促進するための第一触媒を含む反応促進用液剤を具備してなる表面処理キット。
【請求項6】
請求項5に記載された表面処理キットにおいて、
前記第一触媒がトリフルオロ酢酸である表面処理キット。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の表面処理キットにおいて、
前記ガラスコート用液剤中にポリシラザンの硬化反応を促進するための第二触媒が配合されてなる表面処理キット。
【請求項8】
請求項7に記載の表面処理キットにおいて、
前記第二触媒が金属系触媒である表面処理キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成するための表面処理方法、並びに表面処理キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシラザンコートやシリコーンオリゴマーコート、或いはパーフルオロアルキルシランコートなど、被処理物の表面に撥水性を付与する手段は多く開発されている。
【0003】
しかしながら、スマートフォンやカーナビなど、最近の工業製品にはタッチパネルが搭載されているものが多く、前記ポリシラザンコートや前記シリコーンオリゴマーコートによる撥水性の付与だけでは指紋汚れ等の脂の付着に効果的に対処することができない。
【0004】
この点につき、前記パーフルオロアルキルシランコートによれば、被処理物に対して撥油性も付与することができるため、タッチパネルに付着した脂を容易に拭い取ることができる。
【0005】
なお、前記パーフルオロアルキルシランコートにはガラス面以外に形成させ難い性質があるが、前記ポリシラザンコートをプレコートした後に前記パーフルオロアルキルシランコートをトップコートすることによって、塗装面や既にフッ素コートされたガラス面などに対しても表面処理が可能となる(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記パーフルオロアルキルシランコートは摩擦係数が高い(最大静止摩擦係数(μ0):0.23以上)ため、スマートフォンの操作中に良く行われるフリックやスワイプなどの画面上で指を滑らせるコマンド入力を円滑に行うことができなくなる。
【0008】
本発明は、前記技術的課題に鑑みて完成されたものであり、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を付与することができるうえ、手指の滑り性を向上することができる新規な表面処理方法、及び表面処理キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するための本発明の表面処理方法は、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成するための表面処理方法であって、前記被処理物の表面に、ポリシラザンを含有するガラスコート用液剤を塗布するガラスコート工程と、パーフルオロポリエーテルシランを含有するフッ素コート用液剤を塗布するフッ素コート工程と、を順に実行することを特徴とする(以下、「本発明処理方法」と称する。)。
【0010】
前記本発明処理方法においては、前記ガラスコート工程の実行後、且つ、前記フッ素コート工程の実行前に、前記被処理物における前記ガラスコート用液剤を塗布した表面に水分を付与する水処理工程を実行することが好ましい態様となる。
【0011】
前記本発明処理方法においては、前記フッ素コート工程の実行時に、パーフルオロポリエーテルシランの被膜形成を促進するための第一触媒を前記フッ素コート用液剤に配合することが好ましい態様となる。
【0012】
前記技術的課題を解決する本発明の表面処理キットは、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成するための表面処理キットであって、ポリシラザンを含有するガラスコート用液剤と、パーフルオロポリエーテルシランを含有するフッ素コート用液剤と、を具備してなることを特徴とする(以下、「本発明処理キット」と称する。)。
【0013】
前記本発明処理キットにおいては、更に、パーフルオロポリエーテルシランの被膜形成を促進するための第一触媒を含む反応促進用液剤を具備してなるものが好ましい態様となる。
【0014】
前記本発明処理キットにおいては、前記第一触媒がトリフルオロ酢酸であるものが好ましい態様となる。
【0015】
前記本発明処理キットにおいては、前記ガラスコート用液剤中にポリシラザンの硬化反応を促進するための第二触媒が配合されてなるものが好ましい態様となる。
【0016】
前記本発明処理キットにおいては、前記第二触媒が金属系触媒であるものが好ましい態様となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を付与することができるうえ、手指の滑り性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<本発明処理キット>
本発明処理キットは、「ガラスコート用液剤」と、「フッ素コート用液剤」と、を具備する。なお、本実施形態の本発明処理キットには、更に、「反応促進用液剤」が具備されている。
【0020】
‐ガラスコート用液剤‐
前記ガラスコート用液剤は、ポリシラザンを含有する。本発明においてポリシラザンは、(SiR2NR)を基本ユニットとする高分子化合物(R:水素基、アルキル基、又はビニル基)を意味する。本実施形態においては、市販の無機ポリシラザン(メルク株式会社製 商品名:NL120A‐20)を0.3重量%の配合量(ポリシラザンの正味量)となるように溶媒(ジブチルエーテル+石油系溶剤)に溶かすことによって前記ガラスコート用液剤を得た。なお、前記ガラスコート液剤中には、ポリシラザンの硬化反応を促進するための第二触媒(本実施形態においては、金属系触媒)が配合されている。
【0021】
‐フッ素コート用液剤‐
前記フッ素コート用液剤は、パーフルオロポリエーテルシランを含有する。本発明においてパーフルオロポリエーテルシランは、パーフルオロポリエーテルの末端にシリル基(シリル基誘導体を含む。)が結合した構造を有する化合物を意味する。本実施形態においては、市販のパーフルオロポリエーテルシラン(ユニケム株式会社製 商品名:UEC‐001M)を0.5重量%の配合量(パーフルオロポリエーテルシランの正味量)となるように溶媒(ハイドロフルオロエーテル)に溶かすことによって前記フッ素コート用液剤を得た。
【0022】
‐反応促進用液剤‐
前記反応促進用液剤は、シロキサン結合反応を促進するための第一触媒を含有する。本実施形態においては、前記第一触媒としてトリフルオロ酢酸を選択し、これを1.0重量%の配合量(トリフルオロ酢酸の正味量)となるように溶媒(ハイドロフルオロエーテル)に溶かすことによって前記反応促進用液剤を得た。
【0023】
<本発明処理方法>
以下、前記本発明処理キットを用い、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を有する被膜を形成するための本発明処理方法を実行する。前記本発明処理方法は、「ガラスコート工程」と、「フッ素コート工程」と、を実行する。
【0024】
‐ガラスコート工程‐
前記ガラスコート工程では、被処理物の表面に前記ガラスコート用液剤を塗布する。本実施形態においては、前記被処理物としてカーナビ用ディスプレイ(ポリビニルアルコール製液晶画面 画面サイズ:7インチ)を選択し、前記被処理物の表面(画面)に対するポリシラザンの正味の塗布量が0.12g/m2となるように、前記ガラスコート用液剤を塗布することによって前記ガラスコート工程を実行した。
【0025】
前記ガラスコート工程の実行により、前記被処理物の表面にガラス被膜(シリカガラス)が形成される。これは、前記被処理物の表面に塗布された前記ガラスコート用液剤中のポリシラザンが空気中の水分(H2O)と接触することによって自動的に起こる反応である。本実施形態においては、この反応を速やかに進めるべく、前記ガラスコート工程の実行後(且つ、前記フッ素コート工程の実行前に)、「水処理工程」を実行した。
【0026】
‐水処理工程‐
前記水処理工程では、前記被処理物における前記ガラスコート用液剤を塗布した表面に水分を付与する。本実施形態においては、水を0.4g含ませた不織布にて前記被処理物の表面を拭くことによって前記水処理工程を実行した。
【0027】
‐フッ素コート工程‐
前記フッ素コート工程では、(前記ガラスコート工程がなされた)前記被処理物の表面に前記フッ素コート用液剤を塗布する。本実施形態においては、前記被処理物の表面(画面)に対するパーフルオロポリエーテルシランの正味の塗布量が0.35g/m2となるように、前記フッ素コート用液剤を前記被処理物の表面に塗布することによって前記フッ素コート工程を実行した。なお、本実施形態においては、前記フッ素コート工程の実行時、前記フッ素コート用液剤に前記反応促進用液剤を混合することによって第一触媒が配合されたフッ素コート用液剤を得、この第一触媒が配合されたフッ素コート用液剤を前記被処理物の表面に塗布した。
【0028】
前記フッ素コート工程の実行により、前記被処理物の表面にパーフルオロポリエーテルシランの被膜が形成される。これは、パーフルオロポリエーテルシランのシリル基が、前記被処理物の表面に形成されたガラス被膜に残存するシラザン基と反応してシロキサン結合を生じさせるからと予想されている。即ち、本発明処理方法では、前記ガラスコート工程の実行によって前記被処理物の表面にガラス被膜が形成(プレコート)されているため、続くフッ素コート工程の実行によってパーフルオロポリエーテルシランの被膜を安定的に形成することができる。これより、本発明処理方法は、被処理物の素材を選ぶことなく実行することができる。
【0029】
又、前記本発明処理方法によって表面処理がなされた被処理物の表面には、最上層に存するパーフルオロポリエーテルシランの被膜によって撥水性及び撥油性が付与される。これより、前記本発明処理方法によって表面処理がなされた被処理物の表面には良好な防汚性が生じる。
【0030】
そして、パーフルオロポリエーテルシランの被膜は摩擦係数が低いため(最大静止摩擦係数μ0:0.08以下、動摩擦係数μ:0.08以下。但し、μ0>μ)、前記本発明処理方法によって表面処理がなされた被処理物の表面は手指の滑り性が良好となる。これより、スマートフォンやカーナビなどのタッチパネルに本発明処理方法を実行すれば、フリックやスワイプなどの画面上で指を滑らせるコマンド入力を円滑に行うことができるようになる。
【0031】
ところで、本実施形態においては前記ガラスコート用液剤として、0.3重量%の無機ポリシラザン溶液(溶媒:ジブチルエーテル+石油系溶剤)を用いているが、前記ガラスコート用液剤に含有させるポリシラザンは有機置換基を有するポリシラザン(有機ポリシラザン)でも良い。又、前記ガラスコート用液剤におけるポリシラザンの配合量は、0.05~2.0重量%(より好ましくは0.1~1.0重量%)とすることが好ましい。
【0032】
なお、本実施形態においては、前記ガラスコート用液剤中にポリシラザンの硬化反応を促進するための第二触媒(本実施形態においては、金属系触媒)が配合されているが、ポリシラザンの硬化反応は、空気中の水分と接触することによって自動的に起こる反応であることから、前記ガラスコート用液剤には必ずしも前記第二触媒の配合を要しない。
【0033】
但し、前記第二触媒の配合によってポリシラザンの硬化反応が促進されるため、本発明においては前記ガラスコート用液剤に前記第二触媒を配合することが好ましい。第二触媒としては、金属系触媒の他、N‐ヘテロ環状化合物、アミン類、有機酸、又は、無機酸を適宜選択して使用することができる。
【0034】
本実施形態においては前記フッ素コート用液剤として、0.5重量%のパーフルオロポリエーテルシラン溶液(溶媒:ハイドロフルオロエーテル)を用いているが、前記フッ素コート用液剤に含有させるパーフルオロポリエーテルシランは有機置換基を有するものであっても良い。又、前記フッ素コート用液剤におけるパーフルオロポリエーテルシランの配合量は、0.05~2.0重量%(より好ましくは0.1~1.0重量%)とすることが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態においては、前記本発明処理キットに前記反応促進用液剤を含ませているが、前記反応促進用液剤は本発明処理キットに必須の構成要素ではない。
【0036】
但し、前記フッ素コート用液剤に前記反応促進用液剤を混合することによって、パーフルオロポリエーテルシランの被膜形成が促進されるため、本発明処理キットに前記反応促進用液剤を含ませることが好ましい。前記反応促進用液剤に配合する第一触媒としては、トリフルオロ酢酸のような有機酸の他、無機酸などを使用することができる。前記フッ素コート用液剤に対する前記反応促進用液剤の混合量は、前記フッ素コート用液剤中に存するパーフルオロポリエーテルシラン単位g当たり、前記第一触媒の量が0.01~1.0g(より好ましくは、0.02~0.5g)とすることが好ましいことが確認されている。
【0037】
又、本実施形態においては、前記ガラスコート工程の実行時に、前記被処理物の表面(画面)に対するポリシラザンの正味の塗布量が0.12g/m2となるように前記ガラスコート用液剤を塗布しているが、前記ガラスコート工程の実行によって前記被処理物の表面に塗布されるポリシラザンの塗布量については、0.02g/m2以上(より好ましくは0.05~0.3g/m2)とすることが好ましいことが確認されている。
【0038】
なお、本実施形態においては、前記ガラスコート工程の実行後に前記水処理工程を実行しているが、前記水処理工程は本発明処理方法における必須の工程ではない。
【0039】
但し、前記水処理工程を実行すれば、被処理物の表面に対し均質なガラス被膜を形成できることが確認されている。特に、本発明処理方法において前記水処理工程を実行するにあたり、第二触媒として金属カルボン酸塩、アセチルアセトナ錯体或いは金属微粒子等の金属系触媒を選択すれば、より一層均質なガラス被膜が形成されることが確認されている。前記水処理工程実行時における被処理物の表面に対する水の施用量は、1~200g/m2(より好ましくは5~50g/m2)とすることが好ましいことが確認されている。
【0040】
更に、本実施形態においては、前記フッ素コート工程の実行時に、前記被処理物の表面(画面)に対するパーフルオロポリエーテルシランの正味の塗布量が0.35g/m2となるように前記フッ素コート用液剤を前記被処理物の表面に塗布しているが、前記フッ素コート工程の実行によって前記被処理物の表面に塗布されるパーフルオロポリエーテルシランの塗布量は、0.07g/m2以上(より好ましくは0.1~0.7g/m2)とすることが好ましいことが確認されている。
【0041】
なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施することができる。そのため、上述の実施形態(実施例)はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、被処理物の表面に撥水性及び撥油性を付与する手段として好適に利用することができる。