(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101223
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】コンベヤベルトの縦裂き検出装置および方法
(51)【国際特許分類】
B65G 43/02 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
B65G43/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001712
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕輔
【テーマコード(参考)】
3F027
【Fターム(参考)】
3F027AA02
3F027DA27
3F027FA01
(57)【要約】
【課題】高い汎用性を有して低コストでありながら、精度よくコンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を検出できる検出装置および方法を提供する。
【解決手段】コンベヤベルト17に長手方向に間隔をあけて埋設された各埋設体2が、コンベヤベルト17の幅方向一端部に配置されるパッシブ型のICタグ3と、ICタグ3に接続されてコンベヤベルト17の幅方向一端部から他端部に延在してループ回路9を形成する線状の検出素子7とを有し、検出器10からICタグ3に向かって送信電波W1を発信し、この送信電波W1に応じてICタグ3から発信される返信電波W2によって検出器10に送信されるICタグ3からの情報を用いて、演算部13によりループ回路9の通電の有無を判断し、この判断結果に基づいて、ループ回路9が埋設された範囲でのコンベヤベルト17の縦裂きの発生の有無を検出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤベルトに埋設される埋設体と、前記コンベヤベルトに非接触で前記埋設体と無線通信する検出器と、この検出器に接続された演算部とを備えたコンベヤベルトの縦裂き検出装置において、
前記埋設体が、パッシブ型のICタグと、前記ICタグに接続されて前記ICタグの外部で前記コンベヤベルトの幅方向に延在してループ回路となる線状の検出素子とを有し、
前記検出器から前記ICタグに向かって送信電波が発信されて、この送信電波に応じて前記ICタグから発信される返信電波によって前記検出器に送信される前記ICタグからの情報を用いて、前記演算部により前記ループ回路の通電の有無が判断されて、この判断結果に基づいて、前記ループ回路が埋設された範囲での前記コンベヤベルトの縦裂きの発生の有無が検出される構成にしたコンベヤベルトの縦裂き検出装置。
【請求項2】
前記検出素子が、導電ゴム、導電ペーストまたは金属線のいずれかである請求項1に記載のコンベヤベルトの縦裂き検出装置。
【請求項3】
1個の前記ICタグに対して独立した前記ループ回路が複数接続されていて、独立したそれぞれの前記ループ回路が、前記コンベヤベルトの長手方向に間隔をあけて埋設される請求項1または2に記載のコンベヤベルトの縦裂き検出装置。
【請求項4】
前記コンベヤベルトの心体層が多数本のスチールコードを幅方向に並列させて構成されていて、前記ICタグの埋設向きが、前記検出器により受信される前記返信電波の強さが予め設定された閾値よりも高くなる特定の方向に設定されている請求項1~3のいずれかに記載のコンベヤベルトの縦裂き検出装置。
【請求項5】
コンベヤベルトに埋設された埋設体と前記コンベヤベルトに非接触で前記埋設体と無線通信する検出器と、この検出器に接続された演算部とを用いたコンベヤベルトの縦裂き検出方法において、
前記埋設体が、パッシブ型のICタグと、前記ICタグに接続されて前記ICタグの外部で前記コンベヤベルトの幅方向に延在してループ回路となる線状の検出素子とを有して、
前記検出器から前記ICタグに向かって送信電波を発信し、この送信電波に応じて前記ICタグから発信される返信電波によって前記検出器に送信される前記ICタグからの情報を用いて、前記演算部により前記ループ回路の通電の有無を判断し、この判断結果に基づいて、前記ループ回路が埋設された範囲での前記コンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を検出するコンベヤベルトの縦裂き検出方法。
【請求項6】
前記コンベヤベルトの心体層が多数本のスチールコードを幅方向に並列させて構成されていて、前記ICタグの埋設向きと前記検出器により受信される前記返信電波の強さとの関係を予め把握しておき、前記検出器により受信される前記返信電波の強さが予め設定された閾値よりも高くなる前記埋設向きを特定し、この特定した前記埋設向きで前記ICタグを前記コンベヤベルトに埋設しておく請求項5に記載のコンベヤベルトの縦裂き検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトの縦裂き検出装置および方法に関し、さらに詳しくは、高い汎用性を有して低コストでありながら、精度よくコンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を検出できる検出装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベヤ装置に掛け回されて走行するコンベヤベルトは、様々な搬送物を搬送先に搬送する。コンベヤベルトには、様々な搬送物が投入されるので、これら搬送物などが原因になってコンベヤベルトの長手方向に延在する亀裂(いわゆる縦裂き)が発生することがある。このようなコンベヤベルトの縦裂きを検出する装置が種々提案されている。
【0003】
従来、コンベヤベルトに発生した縦裂きを検出するには例えば、コンベヤベルトに埋設されたループコイルと、コンベヤベルトの近傍に配置された検出装置とを備えたシステムが提案されている(特許文献1を参照)。このシステムでは、検出装置の送信部が発信した高周波により形成した高周波磁界の中を通過するループコイルには誘導電流が流れ、この誘導電流によって検出装置の受信部には誘導起電力が発生する。ループコイルが破断していると、受信部には誘導起電力が発生しないので、この誘導起電力の発生の有無によって縦裂きの発生の有無が判断される。
【0004】
ところが、高周波を発信して誘導起電力を検出する検出装置は高価である。また、特殊品(専用部品)になるループコイルも高価であり、コンベヤベルトに多数埋設することが難しく、これに伴い、縦裂きの発生を精度よく検出するには不利になる。さらには、発信する高周波の強度を高くすると、ループコイルが破断していても誘導電流が流れることがあるため、縦裂きを誤検知することがある。それ故、高い汎用性を有して低コストでありながら、精度よくコンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を検出するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い汎用性を有して低コストでありながら、精度よくコンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を検出できるコンベヤベルトの縦裂き検出装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のコンベヤベルトの縦裂き検出装置は、コンベヤベルトに埋設される埋設体と、前記コンベヤベルトに非接触で前記埋設体と無線通信する検出器と、この検出器に接続された演算部とを備えたコンベヤベルトの縦裂き検出装置において、前記埋設体が、パッシブ型のICタグと、前記ICタグに接続されて前記ICタグの外部で前記コンベヤベルトの幅方向に延在してループ回路となる線状の検出素子とを有し、前記検出器から前記ICタグに向かって送信電波が発信されて、この送信電波に応じて前記ICタグから発信される返信電波によって前記検出器に送信される前記ICタグからの情報を用いて、前記演算部により前記ループ回路の通電の有無が判断されて、この判断結果に基づいて、前記ループ回路が埋設された範囲での前記コンベヤベルトの縦裂きの発生の有無が検出される構成にしたことを特徴とする。
【0008】
本発明のコンベヤベルトの縦裂き検出方法は、コンベヤベルトに埋設された埋設体と前記コンベヤベルトに非接触で前記埋設体と無線通信する検出器と、この検出器に接続された演算部とを用いたコンベヤベルトの縦裂き検出方法において、前記埋設体が、パッシブ型のICタグと、前記ICタグに接続されて前記ICタグの外部で前記コンベヤベルトの幅方向に延在してループ回路となる線状の検出素子とを有して、前記検出器から前記ICタグに向かって送信電波を発信し、この送信電波に応じて前記ICタグから発信される返信電波によって前記検出器に送信される前記ICタグからの情報を用いて、前記演算部により前記ループ回路の通電の有無を判断し、この判断結果に基づいて、前記ループ回路が埋設された範囲での前記コンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記埋設体がパッシブ型のICタグと、前記ICタグに接続されて前記ICタグの外部でコンベヤベルトの幅方向に延在してループ回路となる線状の検出素子とを有する簡素な構成である。したがって、前記埋設体を汎用部品によって構成することができ、コストを低減するにも有利になっている。また、前記検出器は前記埋設体との間で無線通信できる仕様であればよいので、汎用部品で構成することができ、コストを低減するにも有利である。
【0010】
そして、コンベヤベルトに縦裂きが発生した位置に前記ループ回路が埋設されていると、そのループ回路は破断するので、そのループ回路を形成している前記検出素子が接続されている前記ICタグでは、前記ループ回路の通電の有無を把握できる。したがって、前記返信電波によって前記検出器に送信される前記ICタグからの情報を用いることで、前記演算部により前記ループ回路の通電の有無を精度よく判断できる。そのため、この判断結果に基づいて、前記ループ回路が埋設された範囲での前記コンベヤベルトの縦裂きの発生の有無を精度よく検出できる。埋設体の低コスト化に伴って、コンベヤベルトに対する前記埋設体の埋設ピッチを、従来のループアンテナなどに比して十分に小さくできるので、縦裂きの発生の有無を精度よく検出するには益々有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】コンベヤ装置に設置されたコンベヤベルトの縦裂き検出装置の実施形態をコンベヤベルトの側面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1のコンベヤベルトを横断面視で拡大して例示する説明図である。
【
図4】
図3のコンベヤベルトを平面視で例示する説明図である。
【
図5】
図4の埋設体を平面視で例示する説明図である。
【
図6】
図4の埋設体を正面視で例示する説明図である。
【
図7】埋設体の変形例を平面視で例示する説明図である。
【
図8】
図7の埋設体が埋設されたコンベヤベルトを平面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のコンベヤベルトの縦裂き検出装置および方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1~
図4に例示するコンベヤベルトの縦裂き検出装置1(以下、検出装置1という)の実施形態は、コンベヤ装置15に設置されて、コンベヤベルト17の長手方向Lに延在する亀裂(いわゆる縦裂き)の発生を検出する。図中の矢印Lはコンベヤベルト17の長手方向、矢印Wはコンベヤベルト17の幅方向を示している。
図4では、スチールコード19を一部の範囲で省略して記載している。
【0014】
コンベヤ装置15は、一対のプーリ15a、15bと、プーリ15a、15b間に張設されるコンベヤベルト17とを備えている。コンベヤベルト17は、プーリ15a、15b間では多数の支持ローラ16によって支持される。
【0015】
コンベヤベルト17は、上カバーゴム20と、下カバーゴム21と、両者の間に配置された心体層18とが一体化して構成されている。心体層18は、長手方向Lに延在する多数本のスチールコード19が幅方向Wに並列され、これらスチールコード19がコートゴム(接着ゴム)を介して接合されて形成されている。心体層18はスチールコード19に限らず、帆布などで構成される繊維層の場合もある。コンベヤベルト17には必要に応じてその他の部材が備わる。
【0016】
コンベヤ装置15のキャリア側(
図1、2では上側)では、コンベヤベルト17の下カバーゴム21が支持ローラ16によって支持されることで、コンベヤベルト17は幅方向Wの中央部が下方に突出したトラフ状になる。搬送物Cは上カバーゴム20の上面に投入されて搬送される。コンベヤ装置15のリターン側(
図1、2では下側)では、コンベヤベルト17の上カバーゴム20が支持ローラ16によってフラットな状態で支持される。
【0017】
検出装置1は、コンベヤベルト17に埋設される埋設体2と、検出器10と、演算部13とを備えている。この実施形態ではさらに警告器14が備わっている。警告器14は任意で設けることができる。埋設体2は、パッシブ型のICタグ3と、ICタグ3に接続された線状の検出素子7とを有している。検出器10は、送信部11と受信部12とを有している。
【0018】
図5、
図6に例示するようにICタグ3は、ICチップ4と、ICチップ4に接続されたアンテナ部5とを有している。ICチップ4およびアンテナ部5は、基板6の上に配置されている。ICチップ4およびアンテナ部5は絶縁層6aによって覆われていて、ICタグ3の全体は外部と電気的に絶縁されている。ただし、ICタグ3と検出素子7とは電気的に通電可能に接続されている。絶縁層6aは例えば絶縁ゴム、ポリエステルなどの樹脂、天然繊維などの公知の絶縁材料によって形成される。
【0019】
ICチップ4には、そのICタグ3の識別番号などのタグ固有情報、ICタグ3に接続される検出素子7を特定する素子識別情報、その他に必要な情報が任意で記憶されている。アンテナ部5は公知の種々のタイプを用いることができるが、この実施形態ではICチップ4から左右対称に延在するダイポールアンテナが採用されている。このアンテナ部5は、限られたスペースで延在長さを大きくするように適宜折り返した形状になっている。
【0020】
ICタグ3には一般に流通している仕様が採用され、例えばRFIDタグを用いることができる。ICタグ3の面積は例えば、2cm2以上70cm2以下、より好ましくは、3cm2以上34cm2以下、さらに好ましくは3cm2以上27cm2以下、厚さは0.5mm以下が好ましく例えば0.01mm以上0.4mm以下、より好ましくは0.03mm以上0.15mm以下にする。このようにICタグ3のサイズは極力小さくして、耐熱温度は200℃程度の仕様にする。
【0021】
検出素子7は、接続されたICタグ3の外部でコンベヤベルト17の幅方向Wに延在してループ回路9を形成する。検出素子7(ループ回路9)は、心体層18の全幅を網羅するように延在させることが好ましい。検出素子7は、導電性を有する線状体であり、例えば、導電ゴム、導電ペーストまたは金属線などの公知に材料により形成される。検出素子7の外径(幅)は例えば0.5mm~2.0mm程度である。検出素子7は、単純な断面円形の線材でもよいが、扁平した線状体(帯状の線材)にすることもできる。
【0022】
検出素子7は、外周面が絶縁体8により被覆されていて、検出素子7は外部と電気的に絶縁されている。絶縁体8は、絶縁層6aと同様に公知の絶縁材料によって形成される。
【0023】
検出素子7の長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、ICチップ4と通電可能に接続されている。ICタグ3(基板6)には、ICチップ4に接続された多数の一対の端子が設けられている。検出素子7の長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、この一対の端子に接続されることでICチップ4と電気的に接続されている。検出素子7と一対の端子とは、ハトメおよび圧着端子を用いて接続したり、導電性接着剤、溶接、ハンダなどで接続する。この実施形態では、一対の端子が5つ設けられているが、ICタグ3(基板6)に設けられる一対の端子の数は特に限定されず1個でもよい。スペースの制約があるため、1つのICタグ3(基板6)に設けられる一対の端子の数は、例えば1個~6個程度である。
【0024】
多数の埋設体2が長手方向Lに間隔P(埋設ピッチP)をあけてコンベヤベルト17に埋設される。それぞれのICタグ3はコンベヤベルト17の幅方向端部に埋設することが好ましい。この実施形態では、コンベヤベルト17の幅方向一方端部にそれぞれのICタグ3が埋設されていて、検出素子7(ループ回路9)が心体層18の幅方向他方端部まで延在している。それぞれのICタグ3は、幅方向一方端部と幅方向他方端部とに分散して(例えば千鳥配置で)埋設することもできる。
【0025】
ICタグ3は、コンベヤベルト17の幅方向Wの中央部に埋設して、幅方向両端部に向かって検出素子7(ループ回路9)を延在させることもできる。しかし、ICタグ3をコンベヤベルト17の幅方向端部に埋設することで、搬送物Cによる衝撃などから保護するには有利になる。また、この実施形態ではICタグ3(埋設体2)は、下カバーゴム21に埋設されているが、上カバーゴム20に埋設された仕様にすることもできる。ICタグ3を搬送物Cの衝撃などから保護するには、上カバーゴム20よりも下カバーゴム21に埋設することが望ましい。
【0026】
検出器10としては、パッシブ型のRFIDタグなどとの間で無線通信を行うことができる一般に流通している仕様が採用される。これにより、ICタグ3と検出器10とがRFID(RadioFrequencyIDentification)システムを構成する。
【0027】
検出器10は、コンベヤベルト17の近傍位置に配置されて、コンベヤベルト17に非接触でそれぞれの埋設体2(ICタグ3)と無線通信する。検出器10を構成する送信部11は、ICタグ3に向かって送信電波W1を発信する。検出器10を構成する受信部12は、送信電波W1に応じてICタグ3から発信される返信電波W2を受信する。ICチップ4に記憶されている情報が返送電波W2によって送信されて、受信部12により受信されることで検出器10により取得される。
【0028】
本発明において無線通信に用いる電波の周波数は主にUHF帯(国によって異なるが860MHz以上930MHz以下の範囲、日本では915MHz以上930MHz)であり、HF帯(13.56MHz)を用いることもできる。使用する電波は、直線偏波であっても円偏波であってもよい。
【0029】
埋設体2の埋設ピッチPは、5m以上20m以下の範囲にすることが好ましく、さらに等ピッチにするとよい。縦裂きの検出精度とコストなどを考慮すると、埋設体2の埋設ピッチPは10m程度が適切である。尚、図面では埋設ピッチPが本来よりも短く記載されている。
【0030】
この実施形態では、検出器10はコンベヤ装置15のリターン側に配置されているがキャリア側に配置することもできる。検出器10とICタグ3(アンテナ部5)とが最も近づいた時の両者の離間距離は例えば1m以内に設定される。即ち、ICタグ3(アンテナ部5)が検出器10の前を通過した時に、ICタグ3(アンテナ部5)との離間距離が1m以下になる位置に検出器10が設置されることが好ましい。
【0031】
演算部13は、検出器10と有線または無線を通じて通信可能に接続されている。演算部13としては公知のコンピュータ等が用いられる。演算部13には、検出器10により取得された情報が入力される。また、演算部13には、それぞれのICタグ3のコンベヤベルト17における埋設位置情報(少なくとも長手方向Lの位置データ)が、それぞれのICタグ3を特定するタグ固有情報と紐付けられて記憶されている。さらに、それぞれの検出素子7(それぞれの検出素子7により形成されたループ回路9)の接続されているICタグ3に対する位置情報(少なくとも長手方向Lの位置データ)が、それぞれの検出素子7を特定する素子識別情報と紐付けられて演算部13に記憶されている。
【0032】
警告器14としては、警報機、警告灯、警告表示機などを例示できる。警告器14は、有線または無線を通じて演算部13と通信可能に接続されていて、その動作は演算部13によって制御される。演算部13は、縦裂きが発生したと判断した場合に警告器14を作動させる。
【0033】
コンベヤベルト17を製造する際には、成形工程において未加硫の下カバーゴム21または上カバーゴム20の中に埋設体2を配置した後、加硫工程を経ることで、コンベヤベルト17に埋設した埋設体2を下カバーゴム21または上カバーゴム20と一体化させる。成形工程での作業効率を向上させるため、例えば埋設体2を上下に未加硫ゴムシートで挟んだユニットを予め形成しておき、成形工程では、このユニットを下カバーゴム21または上カバーゴム20の中に配置するとよい。
【0034】
スチールコード19は、検出器10とICタグ3との間の電波通信具合に大きな影響を与える。そのため、心体層18が多数本のスチールコード19を幅方向に並列させて構成されている場合は、ICタグ3の埋設向きを、検出器10により受信される返信電波W2の強さが予め設定された閾値よりも高くなる特定の方向に設定した仕様にする。
【0035】
そこで、ICタグ3の埋設向きと検出器10により受信される返信電波W2の強さとの関係を、事前テストなどを行って予め把握しておく。例えば、コンベヤベルト17或いはそのカットサンプルにICタグ3の埋設向きだけを異ならせて埋設したテスト品を作製する。それぞれのテスト品のICタグ3の真上の位置に検出器10を配置して、送信部11からICタグ3に向かって送信電波W1を発信する。そして、この送信電波W1に応じてICタグ3から発信されて受信部12により受信される返信電波W2の強さを測定して、ICタグ3の埋設向きと返信電波W2の強さとの関係を把握する。そして、検出器10により受信される返信電波W2の強さが予め設定された閾値よりも高くなる埋設向きを特定する。この閾値は、検出器10とICタグ3と間で実務上、安定した無線通信を行える値に設定すればよい。
【0036】
ICタグ3をコンベヤベルト17に埋設する際には、この特定した埋設向きでICタグ3を埋設する。この実施形態では、アンテナ部5としてダイポールアンテナが使用されているので、
図4、
図5に例示するように、平面視でアンテナ部5が延在する左右方向が、スチールコード19の延在方向(即ち、長手方向L)と直交するようにICタグ3をコンベヤベルト17に埋設する。このような埋設方向にすることで、検出器10とICタグ3との間の通信状態が良好になって安定した無線通信を行うことができる(通信可能距離をより長くすることができる)。
【0037】
心体層18が帆布などで構成される繊維層の場合は、心体層18が、検出器10とICタグ3との間の電波通信具合に大きな影響を与えることはない。それ故、ICタグ3の埋設向きを厳格に特定する必要はないが、上述したように埋設向きを特定するとよい。
【0038】
コンベヤベルト17に対するICタグ3の埋設位置および埋設向きは決まっているので、検知器10とICタグ3との間の無線通信具合を良好にするには、円偏波よりも直線偏波を用いることがより好ましい。この場合は、直線偏波の偏波の向き(垂直偏波の向き)を、アンテナ部5が延在する左右方向と一致させて(即ち、平行にして)、走行するICタグ3が検知器10の前を通過する際に、検知器10とICタグ3とが正面で対向する位置になるように検知器10を配置する。円偏波を使用する場合も、走行するICタグ3が検知器10の前を通過する際に、検知器10とICタグ3とが正面で対向する位置になるように検知器10を配置するとよい。
【0039】
次に、検出装置1を用いて縦裂きの発生の有無を検出する方法の手順の一例を説明する。
【0040】
図1~
図4に例示するようにコンベヤ装置15の稼働中(コンベヤベルト17の走行中)に、検出器10は、検出器10の前(正面)を通過するICタグ3(アンテナ部5)に向かって送信部11から送信電波W1を発信する。ICタグ3は送信電波W1を受信すると、この送信電波W1に応じて返信電波W2を受信部12に発信する。
【0041】
詳述すると、埋設体2(ループ回路9)が健全であれば、アンテナ部5で受信された送信電波W1によってICチップ4に電気が入力されて起動する。ICチップ4が起動すると、電気が検出素子7の一端部からループ回路9を経由して検出素子7の他端部に流れてICチップ4に入力される。これにより、ICチップ4では、ループ回路9が通電したことが把握される。そして、ICチップ4に記憶されているICタグ3のタグ固有情報と、そのループ回路9を形成している検出素子7の素子識別情報とが呼び出される。そして、アンテナ部5から返信電波W2が発信される際に、呼び出されたICタグ3のタグ固有情報および検出素子7の素子識別情報が返信電波W2によって送信されて受信部12に受信される。
【0042】
受信部12はこの返信電波W2を受信することで、返信電波W2によって送信されたICチップ4からの情報(タグ固有情報および素子識別情報)を取得する。検出器10により取得された情報(タグ固有情報および素子識別情報)は演算部13に入力される。演算部13では、取得されたそれぞれのICタグ3のタグ固有情報を用いて、予め記憶されているそのタグ固有情報に紐付けされたそのICタグ3のコンベヤベルト17での埋設位置情報が特定される。また、取得されたそれぞれの検出素子7の素子識別情報を用いて、予め記憶されているその素子識別情報に紐付けされたその検出素子7(その検出素子7により形成されているループ回路9)の接続されているICタグ3に対する位置情報が特定される。
【0043】
このように演算部13によって、接続されているICタグ3に対する位置情報が特定された検出素子7は健全であり、この検出素子7により形成されたループ回路9は通電していると判断される。そして、この検出素子7が接続されているICタグ3のコンベヤベルト17での埋設位置情報が特定されているので、この検出素子7により形成されたループ回路9のコンベヤベルト17で埋設範囲が特定できる。それ故、この特定されたループ回路9の埋設範囲ではコンベヤベルト17の縦裂きが発生していないと演算部13により判断される。即ち、この場合は、縦裂きの発生は検出されない。
【0044】
コンベヤベルト17に縦裂きが発生した場合は、縦裂きが発生した範囲では、ループ回路9が破断する。この場合、アンテナ部5で受信された送信電波W1によってICチップ4に電気が入力されて起動しても、ループ回路9には電気が流れないので、ICチップ4では、ループ回路9が通電していないことが把握される。そのため、ICチップ4に記憶されているICタグ3のタグ固有情報は呼び出されても、そのループ回路9を形成している検出素子7の素子識別情報は呼び出されない。そして、アンテナ部5から返信電波W2が発信される際に、呼び出されたICタグ3のタグ固有情報は返信電波W2によって送信されて受信部12に受信されるが、そのループ回路9を形成している検出素子7の素子識別情報は受信部12に受信されることはない。
【0045】
即ち、検出器10により取得された情報(タグ固有情報)は演算部13に入力されて、演算部13では、取得されたそれぞれのICタグ3のタグ固有情報を用いて、予め記憶されているそのタグ固有情報に紐付けされたそのICタグ3のコンベヤベルト17での埋設位置情報が特定される。しかし、そのICタグ3に接続されている検出素子7の素子識別情報は存在しないので、その検出素子7により形成されたループ回路9は破損していると判断される。即ち、この場合は縦裂きの発生が検出される。
【0046】
尚、縦裂きの発生などによってICタグ3が破損している場合は、送信部11から送信電波W1をICタグ3に発信しても、受信部12はそのICタグ3のタグ固有情報もそのICタグ3に接続されている検出素子7の素子識別情報も受信しない。したがって、コンベヤベルト17に異常が生じていると判断することができる。
【0047】
縦裂きが発生していると判断されると警告器14が作動して、縦裂きの発生が周囲に知らされる。接続されている検出素子7の素子識別情報が取得できないICタグ3のコンベヤベルト17での埋設位置情報が特定されているので、その特定されている埋設位置情報によって縦裂きが発生しているコンベヤベルト17の位置(範囲)は判明する。
【0048】
縦裂きの発生を認識した管理者は、適宜のタイミングでコンベヤベルト17の走行を停止させて、縦裂きが発生した範囲の修理などの対処を行う。この対処が完了した後に、コンベヤベルト17の走行が再開される。
【0049】
この検出装置1は、埋設体2がパッシブ型のICタグ3と、ICタグ3に接続されてコンベヤベルト17の幅方向Wに延在してループ回路9となる線状の検出素子7とを有する簡素な構成である。それ故、埋設体2を汎用部品によって構成することができ、コストを低減するには有利である。また、検出器10は埋設体2との間で無線通信できる仕様であればよいので、汎用部品で構成することができ、コストを低減するには有利である。
【0050】
そして、上述したように、返信電波W2によって検出器10に送信されるICタグ3からの情報を用いることで、演算部13によりループ回路9の通電の有無を精度よく判断できる。そのため、ループ回路9の通電の有無の判断結果に基づいて、ループ回路9が埋設された範囲でのコンベヤベルト17の縦裂きの発生の有無を精度よく検出できる。埋設体2の低コスト化に伴って、コンベヤベルト17に対する埋設体2の埋設ピッチPを、従来のループアンテナなどに比して十分に小さくできるので、縦裂きの発生の有無を精度よく検出するには益々有利になる。
【0051】
検出素子7(ループ回路9)は、幅方向Wに平行に延在させるだけでなく、幅方向Wに対して前後方向(長手方向L)に傾斜させて延在させることもできる。検出素子7(ループ回路9)をこのように傾斜させて延在させると、検出素子7が幅方向Wに平行して延在する場合(傾斜角度がゼロの場合)に比して、コンベヤベルト17がプーリ15a、15bの周りを通過する際の曲げ剛性の変化をより小さくする(滑らかに変化させる)には有利になる。検出素子7として、導電ゴムや導電ペーストを使用すると、金属線よりも剛性が低いので、コンベヤベルト17がプーリ15a、15bの周りを通過する際の曲げ剛性をより小さくできる。
【0052】
また、検出素子7を単純な断面円形の細線材にすると、鋭利な搬送物Cがコンベヤベルト17に投入された時に、縦裂きは発生しなくても、その搬送物Cの鋭利な部分で検出素子7が切断されることがある。そうすると、縦裂きが実際に発生していなくても、その検出素子7により形成されているループ回路9が破断しているので、演算部13によって縦裂きが発生していると判断されて誤検知となる。
【0053】
そこで、検出素子7として、扁平した線状体(帯状の線材)を用いるとよい。平面視で帯状の検出素子7を用いることで、上述した誤検知を回避するには有利になる。扁平した検出素子7の幅は例えば5mm~10mm程度にする。
【0054】
図7に例示する埋設体2を用いることもできる。この埋設体2は、1個のICタグ3に対して複数本(5本)の検出素子7a~7eが接続されている。それぞれの検出素子7a~7eの外周面は絶縁体8により被覆されている。それぞれの検出素子7a~7eは、独立したループ回路9a~9eを形成している。したがって、1個のICタグ3には独立したループ回路9が複数(5つ)接続されている。
【0055】
図8に例示するように、この埋設体2は、独立したそれぞれのループ回路9a~9eが、コンベヤベルト17の長手方向Lに間隔をあけた状態で埋設される。尚、
図8では、スチールコード19を一部の範囲で省略して記載している。独立したそれぞれのループ回路9a~9eの長手方向Lの埋設間隔は、例えば1m以上3m以下の範囲にして、それぞれを等間隔にするとよい。
【0056】
この埋設体2を用いると、
図5に例示する埋設体2に比して、1つの埋設体2で縦裂きを検知できる範囲を広く(長く)できる。そのため、コンベヤベルト17の全体に埋設する埋設体2の数を削減するには有利になる。
【符号の説明】
【0057】
1 検出装置
2 埋設体
3 ICタグ
4 ICチップ
5 アンテナ部
6 基板
6a 絶縁層
7(7a、7b、7c、7d、7e) 検出素子
8 絶縁体
9(9a、9b、9c、9d、9e) ループ回路
10 検出器
11 送信部
12 受信部
13 演算部
14 警告器
15 コンベヤ装置
15a、15b プーリ
16 支持ローラ
17 コンベヤベルト
18 心体層
19 スチールコード
20 上カバーゴム
21 下カバーゴム
C 搬送物