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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101237
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂接合体
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/04 20060101AFI20230712BHJP
   F16B 4/00 20060101ALI20230712BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230712BHJP
   B32B 7/08 20190101ALI20230712BHJP
   B29C 65/56 20060101ALI20230712BHJP
   B29C 65/08 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
F16B5/04 B
F16B4/00 N
B32B5/28 Z
B32B7/08
B29C65/56
B29C65/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001740
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】華 国飛
(72)【発明者】
【氏名】小永井 祐平
【テーマコード(参考)】
3J001
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA06
3J001HA02
3J001HA07
3J001JD05
3J001JD07
3J001KA21
3J001KB01
4F100AB03B
4F100AD11A
4F100AK48A
4F100BA02
4F100DC11B
4F100DD01A
4F100DH02A
4F100EC10
4F100EJ25
4F100GB32
4F211AD16
4F211AD19
4F211AG03
4F211TA01
4F211TA06
4F211TC03
4F211TD02
4F211TH17
4F211TN03
4F211TN23
4F211TN75
4F211TQ05
(57)【要約】
【課題】かしめ加工する突起部よりも、接合する相手部材に設ける貫通孔が大きい場合に、突起部の高さを高くせずに、強固に固定された繊維強化樹脂接合体を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂を含む部材Aと、少なくとも1つの貫通孔h1を有する部材Bとを含む繊維強化樹脂接合体であって、
前記突起部は、前記貫通孔h1を貫通しており、かつ前記貫通孔h1から突き出した部分にかしめ部を有し、
前記貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとし、前記部材Bの前記かしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、S<Sである、繊維強化樹脂接合体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂を含む部材Aと、少なくとも1つの貫通孔h1を有する部材Bとを含む繊維強化樹脂接合体であって、
前記突起部は、前記貫通孔h1を貫通しており、かつ前記貫通孔h1から突き出した部分にかしめ部を有し、
前記貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとし、前記部材Bの前記かしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、S<Sである、繊維強化樹脂接合体。
【請求項2】
前記部材Bは、前記かしめ部に覆われている領域に、前記貫通孔h1よりも小さい貫通孔h2を少なくとも1つ有する、請求項1に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項3】
前記貫通孔h1の周縁に少なくとも1つの切欠き部c1を有し、前記切欠き部c1が前記かしめ部に覆われている領域に存在する、請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項4】
前記部材Bは、前記かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部が粗面化処理されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項5】
前記部材Bは、前記かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部に凹部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項6】
厚み方向から見た前記貫通孔h1の形状が、楕円形及び多角形のいずれでもない、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂接合体、及びその製造方法に関わるものである。さらに詳しくは、かしめ部を有する繊維強化樹脂接合体に関わるものであり、自動車に代表される構造部品に好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に用いられる材料分野では、軽量化を考慮してマルチマテリアル化が進んでおり、鋼板、アルミ合金のほか、樹脂と炭素繊維などの強化繊維を含む、いわゆる繊維強化樹脂が注目されている。マルチマテリアル化が進む中、異種材料を接合する様々な技術開発が進められているが、接着剤を用いた化学的な接合や、リベット等を用いた機械的な締結が主流となっている。マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた繊維強化樹脂を接合する場合には、予め設けた突起部の先端を熱で変形させることで、かしめにより接合する手法を利用することができ、ピール方向(接合面に対して垂直な方向)に高い接合強度を得られる。また、かしめの際の加熱方法として熱や超音波といった様々な手法を採用できるなどの理由で、各種の産業分野で広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、ピール方向の接合強度に優れた、かしめ部を有する繊維強化樹脂接合体が記載されている。
【0004】
特許文献2には、金属系部材と繊維強化樹脂系部材との異種材料の接合において、繊維強化樹脂系部材の樹脂が溶け込み凝固収縮した際に、金属系部材側の接合部に抜け防止の役割をする形状の穴を設けることを特徴とする接合部形状と接合方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、一方面から他方面に向かって貫通孔が形成された第1部材と、前記貫通孔に挿通される突起を有する第2部材と、を接合する接合方法であって、前記貫通孔の孔径よりも大きな内径を有する筒状部と該筒状部の内部に摺動自在に配置される可動部とを用意する準備工程と、前記貫通孔に前記突起を挿通させて前記第2部材を前記第1部材の一方面に配置すると共に、前記筒状部の内部と前記貫通孔とが連通するように該筒状部を前記第1部材の他方面と当接させて配置する配置工程と、前記筒状部内で前記可動部を前記突起へ向かって移動させ、該可動部を該突起と衝接させて該突起を変形させて前記第2部材を前記第1部材に係止するアンカー部を形成するアンカー部形成工程と、を含む接合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/146846号
【特許文献2】特開2016-016592号公報
【特許文献3】特開2015-186870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かしめを行う場合、通常であればかしめ加工する突起部の大きさに対して、接合する相手部材に設ける貫通孔の部材板厚方向の投影面積は大きくても突起部の投影面積に対して1.2倍程度であり(より具体的な大きさに言い換えると、貫通孔の大きさは、突起部の太さに対して1.10倍程度以内の太さであり)、出来る限り隙間を小さくする。
一般的に、大型成形品に複数のかしめ部を設けて固定する場合などにおいて、成形品の個体差による反りや寸法ばらつきの影響を回避するために、ボスやリブといったかしめ部を加工する突起部の大きさに対して、接合する相手部材に設ける貫通孔の寸法を大きく採る必要があり、接合する2つの部材間の隙間が大きくなる。このため、かしめ加工した際に、かしめ加工する材料で隙間を十分に充填させることができず、部材同士を強固に固定することができないという問題があった。
また、上記隙間を充填するため、かしめ加工する材料の体積を大きくすることも考えられ、体積を増やすためにリブやボスなどの突起部の高さを高く設計することも考えられるが、突起部の高さを高くすると、成形時に突起部のショートショットや脱型不良が発生しやすくなり不良率が高くなる問題があった。
【0008】
本発明の課題は、かしめ加工する突起部よりも、接合する相手部材に設ける貫通孔が大きい場合に、突起部の高さを低く保ったまま、強固に固定された繊維強化樹脂接合体を提供することにある。
【0009】
より具体的には、貫通孔の部材板厚方向の投影面積が、突起部の投影面積に対して1.2倍以上のとき(更には1.5倍以上のとき)、上記課題は顕著な課題として現れる。
例えば、突起部が円柱形であって、その底面の直径が6mmであった場合、貫通孔の大きさが6.6mm超の場合に上記課題は顕著な課題となり、貫通孔の大きさが10mmとなったときに更に顕著な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討し、下記手段により、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
[1]
少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂を含む部材Aと、少なくとも1つの貫通孔h1を有する部材Bとを含む繊維強化樹脂接合体であって、
前記突起部は、前記貫通孔h1を貫通しており、かつ前記貫通孔h1から突き出した部分にかしめ部を有し、
前記貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとし、前記部材Bの前記かしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、S<Sである、繊維強化樹脂接合体。
[2]
前記部材Bは、前記かしめ部に覆われている領域に、前記貫通孔h1よりも小さい貫通孔h2を少なくとも1つ有する、[1]に記載の繊維強化樹脂接合体。
[3]
前記貫通孔h1の周縁に少なくとも1つの切欠き部c1を有し、前記切欠き部c1が前記かしめ部に覆われている領域に存在する、[1]又は[2]に記載の繊維強化樹脂接合体。
[4]
前記部材Bは、前記かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部が粗面化処理されたものである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂接合体。
[5]
前記部材Bは、前記かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部に凹部を有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂接合体。
[6]
厚み方向から見た前記貫通孔h1の形状が、楕円形及び多角形のいずれでもない、[1]~[5]のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂接合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貫通孔の部材板厚方向の投影面積が、突起部の投影面積に対して1.2倍以上の場合に、突起部の高さを低く保ったまま、強固に固定され初期剛性の高い繊維強化樹脂接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の繊維強化樹脂接合体の一例を模式的に示す断面図。
図2】本発明の繊維強化樹脂接合体の一例に含まれる部材Bの平面図。
図3】かしめ部を形成する前の部材Aに相当する部材Aaと部材Bとを、部材Aaの突起部A1が部材Bの貫通孔h1を貫通するように重ねた際の模式図。
図4】本発明の繊維強化樹脂接合体の一例に含まれる部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の模式図。
図5】本発明の繊維強化樹脂接合体の一例に含まれる部材Bの平面図。
図6図5のK3-K4断面図。
図7】本発明の繊維強化樹脂接合体の一例に含まれる部材Bの平面図。
図8図7の領域Tの拡大図。
図9】実施例の繊維強化樹脂接合体に用いた部材Bの貫通孔h1とその周辺を模式的に表す平面図。(e)についてはE-E断面図も併記してある。
図10】従来の繊維強化樹脂接合体の一例を模式的に示す断面図。
図11】従来の繊維強化樹脂接合体の一例に含まれる部材Gの平面図。
図12】かしめ部を形成する前の部材Fに相当する部材Faと、部材Gとを、部材Faの突起部F1が部材Gの貫通孔を貫通するように重ねた際の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の繊維強化樹脂接合体は、
繊維強化樹脂を含み、少なくとも1つの突起部を有する部材Aと、少なくとも1つの貫通孔h1を有する部材Bとを含む繊維強化樹脂接合体であって、
前記突起部は、前記貫通孔h1を貫通しており、かつ前記貫通孔h1から突き出した部分にかしめ部を有し、
前記貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとし、前記部材Bの前記かしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、S<Sである、繊維強化樹脂接合体である。
【0015】
以下、本発明について説明するが、まず初めに、従来の繊維強化樹脂接合体の典型的な例について説明する。
【0016】
<かしめ加工を用いた従来の繊維強化樹脂接合体>
図10は、従来の繊維強化樹脂接合体の一例を模式的に示す断面図である。
図10の従来の繊維強化樹脂接合体30は、部材Fと部材Gとの接合体である。部材Fは繊維強化樹脂を含む。部材Fは少なくとも1つの突起部F1を有する。部材Gは少なくとも1つの貫通孔を有する。部材Fの突起部F1は、部材Gの貫通孔を貫通しており、かつ貫通孔から突き出した部分にかしめ部F2を有する。
【0017】
従来の繊維強化樹脂接合体30に含まれる部材Gの平面図(z方向から見た図)を図11に示す。図11に示すように、部材Gの貫通孔j1は、z方向(厚み方向)から見た場合、真円形である。
【0018】
図12に、かしめ部を形成する前の部材Fに相当する部材Faと、部材Gとを、部材Faの突起部F1が部材Gの貫通孔を貫通するように重ねた際の模式図を示す。
図10の従来の繊維強化樹脂接合体30を製造するには、図12に示すように、部材Faと部材Gとを、部材Faの突起部F1が部材Gの貫通孔を貫通するように重ねて、突起部F1の貫通孔から突き出した部分をかしめ加工する。かしめ加工する前の突起部F1の形状は特に限定されないが、典型的には円柱である。
【0019】
貫通孔の部材板厚方向の投影面積Sxと、突起部の投影面積Syとが、Sx>Sy×1.2の場合、従来の繊維強化樹脂接合体30は、部材Fの突起部F1と部材Gの貫通孔のクリアランスが大きくなりすぎて、このクリアランスに繊維強化樹脂材料を充填させることができないため、部材Fと部材Gとのせん断引張方向の初期剛性が弱いという問題があった。
また、前述のように、部材Faの突起部F1をより高くし、かしめ加工する際に突起部F1と貫通孔との隙間を埋めることも考えられるが、突起部の高さを高くすると、部材Faの成形時の突起部のショートショットや脱型不良が発生しやすくなり不良率が高くなるという問題があった。
【0020】
<本発明の繊維強化樹脂接合体>
これに対して、本発明の繊維強化樹脂接合体は、部材同士が強固に固定されており、優れたせん断引張方向の初期剛性を有する。その理由について以下に詳しく説明するが、部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとし、部材Bのかしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合に、S<Sであることによるものである。
なお、図10の従来の繊維強化樹脂接合体30では、部材Gの貫通孔j1の最大内接円柱の側面積をSとし、部材Gのかしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合に、S=Sである。
せん断引張方向とは、板厚方向に垂直な方向と、その反対方向であり、例えば、図1のx方向と、その反対方向である。
【0021】
本発明の繊維強化樹脂接合体は、部材Bのかしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超60°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をST1とした場合に、S<ST1であることが好ましく、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超45°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をST2とした場合に、S<ST2であることがより好ましく、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超30°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をST3とした場合に、S<ST3であることが更に好ましい。
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
本発明の繊維強化樹脂接合体の代表的な実施形態として、以下の態様が挙げられる。
第一の態様:部材Bが、かしめ部に覆われている領域に、貫通孔h1よりも小さい貫通孔h2を少なくとも1つ有する態様。
第二の態様:部材Bが、かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部に凹部を有する態様。
第三の態様:貫通孔h1の周縁に少なくとも1つの切欠き部c1を有し、切欠き部c1が、かしめ部に覆われている領域に存在する態様。
第四の態様:部材Bは、かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部が粗面化処理されたものである態様。
【0024】
(第一の態様)
本発明の繊維強化樹脂接合体の一例である第一の態様について説明する。
第一の態様は、部材Bが、かしめ部に覆われている領域に、貫通孔h1よりも小さい貫通孔h2を少なくとも1つ有する態様である。
貫通孔h2は、貫通孔h1の周りにあることが好ましい。
図1は、本発明の繊維強化樹脂接合体の一例(第一の態様)を模式的に示す断面図(図2のK1-K2断面図)である。
図1の繊維強化樹脂接合体10は、部材Aと部材Bとを含む接合体である。部材Aは繊維強化樹脂を含む。部材Aは少なくとも1つの突起部A1を有する。部材Bは少なくとも1つの貫通孔h1を有する。部材Aの突起部A1は、部材Bの貫通孔h1を貫通しており、かつ貫通孔h1から突き出した部分にかしめ部A2を有する。部材Bの厚みはCである。部材Bのかしめ部A2に覆われている領域に、貫通孔h1とは異なる貫通孔h2を少なくとも1つ有する。貫通孔h2には部材Aの繊維強化樹脂が入り込んでいる。
【0025】
z方向(厚み方向)から見た場合の部材Bの貫通孔h1の形状は特に限定されず、円形(真円形又は楕円形)でもよいし、多角形でもよい。z方向(厚み方向)から見た場合の部材Bの貫通孔h1の形状は、楕円形及び多角形のいずれでもないことが好ましく、真円形であることが特に好ましい。
【0026】
図1の繊維強化樹脂接合体10に含まれる部材Bの平面図(z方向から見た図)を図2に示す。
図2に示すように、第一の態様における部材Bの貫通孔h1は、z方向(厚み方向)から見た場合、真円形である(この円の直径をRh1とする)。
【0027】
図2に示すように、第一の態様における部材Bは、貫通孔h1の周りに、貫通孔h1よりも小さい貫通孔h2を少なくとも1つ有する。なお、第三の態様における切欠き部c1とは異なり、貫通孔h2は貫通孔h1とはつながっていない。
【0028】
貫通孔h2の数は特に限定されないが、2個以上であることが好ましく、4個以上であってもよい。貫通孔h2の数の上限は特に限定されないが、例えば100個以下とすることができ、50個以下とすることができ、30個以下とすることができる。
【0029】
z方向(厚み方向)から見た場合の部材Bの貫通孔h2の形状は特に限定されず、円形(真円形又は楕円形)でもよいし、多角形でもよい。貫通孔h2は長細い孔(長孔)とすることもでき、貫通孔h1の形状に沿った長孔とすることもできる(図9の(b)参照)。
【0030】
z方向(厚み方向)から見た場合の貫通孔h2の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さLh2が、貫通孔h1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さLh1よりも小さいことが好ましい。
h1/Lh2は1より大きいことが好ましく、1.5以上とすることができ、2以上とすることができる。また、Lh1/Lh2は100以下とすることができ、50以下とすることができる。
貫通孔h2が複数ある場合、複数のLh2は同一でも異なっていてもよい。
貫通孔h2の形状が真円形である場合、Lh2は貫通孔h2の直径(Rh2)となる。貫通孔h1の形状が真円形である場合、Lh1は貫通孔h1の直径(Rh1)となる。
【0031】
図2に示すように、第一の態様における貫通孔h2は、z方向(厚み方向)から見た場合、真円形である(この円の直径をRh2とする)。複数のRh2は同一でも異なっていてもよい。
【0032】
h1/Rh2は1より大きく、1.5以上とすることができ、2以上とすることができる。また、Rh1/Rh2は100以下とすることができ、50以下とすることができる。
【0033】
図1の繊維強化樹脂接合体10を製造するには、かしめ加工する前の突起部A1を有する繊維強化樹脂成形体である部材Aaと、部材Bとを、部材Aaの突起部A1が部材Bの貫通孔h1を貫通するように重ねて、突起部A1をかしめ加工することが好ましい。
図3に、部材Aaと部材Bとを、部材Aaの突起部A1が部材Bの貫通孔h1を貫通するように重ねた際の模式図を示す。
【0034】
かしめ加工は、突起部A1の貫通孔h1から突き出した部分に熱を加えて圧縮することにより実施することができる。
かしめ加工の際に、突起部A1の繊維強化樹脂の一部が溶融して流動し、少なくとも1つの貫通孔h2の中に入る。このようにして、かしめ部A2につながっている部位が貫通孔h2に入り込んだ構造とすることができ、図1の繊維強化樹脂接合体10が製造される。
繊維強化樹脂接合体10は、貫通孔h2に、かしめ部A2につながっている部位の繊維強化樹脂が入り込んでいるため、せん断引張方向の初期剛性が高い。なお、図1では、貫通孔h2の内部の全体に繊維強化樹脂が充填されているが、板厚方向から見た時の、貫通孔h1と突起部A1の間に観察されるクリアランス面積と比べて、貫通孔h2の面積が小さいため、かしめられた樹脂で容易に充填されやすく、せん断引張方向に高い初期剛性(初期せん断引張剛性)が発現しやすい。
また、本発明では、複数の貫通孔h2の全ての内部の全体に繊維強化樹脂が充填されていなくてもよく、少なくとも一部分に繊維強化樹脂が入っていればよい。
【0035】
ここで、図1の繊維強化樹脂接合体10において、部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱を考える。
図4に、図1の繊維強化樹脂接合体10に含まれる部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱20の模式図を示す。部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱20の高さはCであり、底面の直径はRh1である。したがって、部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱20の側面積をSとすると、S=πRh1である。πは円周率である。
また、部材Bのかしめ部A2に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、SはSに貫通孔h2の最大内接円柱の側面積(πRh2×貫通孔h2の個数)を加えたものとなる。したがって、S<Sである。
【0036】
(第二の態様)
本発明の繊維強化樹脂接合体の一例である第二の態様について説明する。
第二の態様は、部材Bが、かしめ部に覆われている領域の少なくとも一部に凹部を有する態様である。
図5に第二の態様に含まれる部材Bの一例の平面図(厚み方向から見た図)を示す。
【0037】
図5の部材Bは、図2の部材Bの貫通孔h2に代えて、凹部d1を有する。すなわち、図5の部材Bは、貫通孔h1の周りに、貫通孔h1よりも小さい凹部d1を少なくとも1つ有する。
【0038】
凹部d1の数は特に限定されないが、2個以上であることが好ましく、4個以上であってもよい。凹部d1の数の上限は特に限定されないが、例えば100個以下とすることができ、50個以下とすることができ、30個以下とすることができる。
【0039】
凹部d1のz方向(厚み方向)から見た場合の形状は特に限定されず、円形(真円形又は楕円形)でもよいし、多角形でもよい。凹部d1は長細いくぼみ(溝)とすることもでき、貫通孔h1の形状に沿った細長いくぼみ(溝)とすることもできる。
【0040】
z方向(厚み方向)から見た場合の1つの凹部d1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さLd1が、1つの貫通孔h1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さLh1(貫通孔h1の形状が真円形である場合、直径Rh1)よりも小さいことが好ましい。
h1/Ld2は1より大きいことが好ましく、1.5以上とすることができ、2以上とすることができる。また、Lh1/Ld2は100以下とすることができ、50以下とすることができる。
凹部d1が複数ある場合、複数のLd1は同一でも異なっていてもよい。
【0041】
h1/Ld1は1より大きいことが好ましく、1.5以上とすることができ、2以上とすることができる。また、Rh1/Ld1は100以下とすることができ、50以下とすることができる。
【0042】
図6に、図5のK3-K4断面図(x方向から見た模式図)を示す。図6に示すように、凹部d1の内壁面は厚み方向(z方向)に平行ではなく、厚み方向(z方向)に対してθ1の角度傾斜した方向(f1方向)に平行な面Sd1と、厚み方向(z方向)に対してθ2の角度傾斜した方向(f2方向)に平行な面Sd2とを含む。θ1は0°超90°未満であり、θ2は0°超90°未満である。θ1とθ2は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
図5の部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとすると、S=πRh1である。Cは部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の高さ(部材Bの厚み)である。
また、部材Bのかしめ部A2に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、SはSに凹部d1の内壁面の面積(面Sd1及び面Sd2を含む全ての内壁面の面積の総和)を加えたものとなる。したがって、S<Sである。
【0044】
第二の態様の繊維強化樹脂接合体を製造する場合も、前述の第一の態様の繊維強化樹脂接合体を製造する場合と同様に、かしめ加工の際に、突起部A1の繊維強化樹脂の一部が溶融して流動し、少なくとも1つの凹部d1の中に入る。このようにして、かしめ部A2につながっている部位が凹部d1に入り込んだ構造とすることができ、第二の態様の繊維強化樹脂接合体が製造される。第二の態様の繊維強化樹脂接合体は、凹部d1に、かしめ部A2につながっている部位の繊維強化樹脂が入り込んでいるため、せん断引張方向の初期剛性が高い。なお、凹部d1の内部の全体に繊維強化樹脂が充填されていなくてもよく、少なくとも一部分に繊維強化樹脂が入っていればよい。
【0045】
(第三の態様)
本発明の繊維強化樹脂接合体の一例である第三の態様について説明する。
第三の態様は、貫通孔h1の周縁に少なくとも1つの切欠き部c1を有し、切欠き部c1が、かしめ部に覆われている領域に存在する態様である。
切欠き部c1は貫通孔h1の周縁に存在し、かつ貫通孔h1とつながっている(一体となっている)。
【0046】
切欠き部c1の数は特に限定されないが、2個以上であることが好ましく、4個以上であってもよい。切欠き部c1の数の上限は特に限定されないが、例えば100個以下とすることができ、50個以下とすることができ、30個以下とすることができる。
【0047】
図7に、第三の態様に含まれる部材Bの一例の平面図(厚み方向から見た図)を示す。
図7の部材Bは、貫通孔h1の周縁に少なくとも1つの切欠き部c1を有する。切欠き部c1はかしめ部に覆われている領域に存在する。
【0048】
z方向(厚み方向)から見た場合の切欠き部c1を有する貫通孔h1の形状は特に限定されず、例えば、花形でもよいし、星形でもよい。
z方向(厚み方向)から見た場合の切欠き部c1の形状は特に限定されず、例えば、半円形でもよいし、多角形でもよい。また、切欠き部c1は線状(長細い形状)であってもよい。
図7では、z方向(厚み方向)から見た場合の形状が真円形(この円の直径をRh1とする。)の貫通孔の周縁に三角形の切欠き部c1を8個有し、貫通孔と切欠き部c1とが一体となっている。
【0049】
z方向(厚み方向)から見た場合の1つの切欠き部c1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さLc1が、1つの貫通孔h1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さLh1よりも小さいことが好ましい。
図8に、図7の領域Tの拡大図を示す。図7の切欠き部c1におけるLc1図8に示すとおりである。
切欠き部c1が複数ある場合、複数のLc1は同一でも異なっていてもよい。
h1>Lc1は1より大きいことが好ましく、1.5以上とすることができ、2以上とすることができる。また、Lh1>Lc1は100以下とすることができ、50以下とすることができる。
【0050】
図7の部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとすると、S=πRh1である。Cは部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の高さ(部材Bの厚み)である。
また、部材Bのかしめ部A2に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、Sは切欠き部c1の内壁面の面積を考慮すると、S<Sとなる。
【0051】
第三の態様の繊維強化樹脂接合体を製造する場合、かしめ加工の際に、突起部A1の繊維強化樹脂の一部が溶融して流動し、少なくとも1つの切欠き部c1の内壁面に接触する。このようにして、かしめ部A2につながっている部位が切欠き部c1の内壁面に接触した構造とすることができ、第三の態様の繊維強化樹脂接合体が製造される。第三の態様の繊維強化樹脂接合体は、切欠き部c1の内壁面に、かしめ部A2につながっている部位の繊維強化樹脂が接触しているため、せん断方向の強度が高い。なお、切欠き部c1の内壁面の全体に繊維強化樹脂が接触していなくてもよく、少なくとも一部分に繊維強化樹脂が接触していればよい。
【0052】
また、2つの切欠き部c1の間の部分が厚み方向(z方向)に曲がっている(隆起している)形状であってもよい(図9の(e)参照)。
【0053】
(第四の態様)
本発明の繊維強化樹脂接合体の一例である第四の態様について説明する。
第四の態様は、部材Bのかしめ部に覆われている領域の少なくとも一部が粗面化処理されたものである態様である。
粗面化処理は特に限定されないが、例えば、サンディングにより行うことができる。サンディングペーパーの粗さは特に限定されないが、せん断引張方向への引っ掛かりが大きいほうが有利であるため、#320よりも荒いサンドペーパーを使用することが好ましく、#100よりも荒いサンドペーパーを使用することがより好ましい。サンドペーパーの表面の目の粗さは番手といわれ「#」を付けた数字で表される。#は粒度とも言われ研磨剤の粒子のサイズで、数字が小さいほど粗目になる。サンディング以外にもサンドブラスト、化成品処理やレーザー加工による細孔処理なども挙げられる。
【0054】
第四の態様の部材Bは粗面化処理されているため、表面に細かい凹凸や溝が形成されている。
【0055】
第四の態様の部材Bの貫通孔h1の形状が直径Rh1の真円形である場合、貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとすると、S=πRh1である。Cは部材Bの貫通孔h1の最大内接円柱の高さ(部材Bの厚み)である。
また、部材Bのかしめ部A2に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、SはSに粗面化処理により形成された凹凸や溝の内壁面の面積を加えたものとなる。したがって、S<Sである。
【0056】
第四の態様の繊維強化樹脂接合体を製造する場合、かしめ加工の際に、突起部A1の繊維強化樹脂の一部が溶融して流動し、粗面化処理により形成された凹凸や溝の内壁面に接触する。このようにして、かしめ部A2につながっている部位が粗面化処理により形成された凹凸や溝の内壁面に接触した構造とすることができ、第四の態様の繊維強化樹脂接合体が製造される。第四の態様の繊維強化樹脂接合体は、粗面化処理により形成された凹凸や溝の内壁面に、かしめ部A2につながっている部位の繊維強化樹脂が接触しているため、せん断引張方向の初期剛性が高い。なお、粗面化処理により形成された凹凸や溝の内壁面の全体に繊維強化樹脂が接触していなくてもよく、少なくとも一部分に繊維強化樹脂が接触していればよい。
【0057】
次に、本発明の繊維強化樹脂接合体に含まれる部材A及び部材Bについて上記した以外の事項(含まれる成分など)を説明する。
【0058】
<部材A>
部材Aは、繊維強化樹脂を含む部材であり、繊維強化樹脂成形体であることが好ましい。
部材Aは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んでなることが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂をマトリクスとし、そのマトリクス中に強化繊維が含有されていることが好ましい。
部材Aにおけるマトリクスの存在量(含有量)は、下記で述べるマトリクスの種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではないが、通常、強化繊維100質量部に対して3質量部~1000質量部の範囲内である。より好ましくは30~200質量部、更に好ましくは30~150質量部である。
部材Aは、例えば、平面部を有し、その断面が四角形などの多角形である平板、角柱、多面体などであって、通常は、当該平面部上に、その平面部に対して垂直方向に、突起部を有するものがよい。当該平面部の厚みは同一でも異なっていてもよいが、機械強度の点で同一であるのがよい。かかる平面部の厚みとしては、1~20mmの範囲内であることが好ましい。
また、部材Aが平板である場合、かかる平板の厚みは1~20mmの範囲内で一定であっても異なる部分があってもよい。
【0059】
(強化繊維)
強化繊維の種類は、特に限定されるものではない。
強化繊維は、無機繊維又は有機繊維のいずれであっても好適に用いることができる。
無機繊維としては、例えば、炭素繊維、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。
金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維を挙げることができる。
ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等の樹脂材料からなる繊維を挙げることができる。
【0060】
本発明においては、2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。
複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
【0061】
強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた繊維強化樹脂接合体を得ることができるからである。
炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100~600GPaの範囲内であることが好ましく、200~500GPaの範囲内であることがより好ましく、230~450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000~10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000~8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0062】
本発明に用いられる強化繊維は、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維及びマトリクスの種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
本発明に用いられる強化繊維の形態としては特に制限はなく、例えば織物、編物、一方向材、連続繊維、特定長の不連続繊維、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0063】
強化繊維の繊維長は、特に限定されるものではない。本発明においては目的に応じて連続繊維を用いてもよく、不連続繊維を用いてもよい。または連続繊維と不連続繊維との組み合わせて用いてもよい。不連続繊維を用いる場合、平均繊維長は、通常、0.1mm~500mmの範囲内であることが好ましく、1mm~100mmの範囲内であることが特に好ましい。
【0064】
繊維強化樹脂成形体は、例えば射出成形、圧縮成形(プレス成形)などにより製造されたものであることが好ましい。射出成形の場合、成形材料(好ましくはペレットの形態)に含まれる強化繊維の長さとしては、0.1~10mmの範囲が好ましい。圧縮成形の場合には、成形材料(好ましくはシート材料)に含まれる強化繊維としては、長さ1~100mmの範囲の不連続繊維、織物、編み物、一方向材などの連続繊維を挙げることができる。当該シート材料は、1枚であってもよいし、複数枚積層して用いてもよい。
【0065】
繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、強化繊維は、繊維長分布に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、繊維強化樹脂成形体から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式に基づいて求めることができる。繊維強化樹脂成形体からの強化繊維の抽出は、例えば、繊維強化樹脂成形体に対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
個数平均繊維長:Ln=ΣLi/j
(Li:強化繊維の単糸の繊維長、j:強化繊維の本数)
重量平均繊維長:Lw=(ΣLi)/(ΣLi)
なお、ロータリーカッターで切断した場合など、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。
本発明において個数平均繊維長、重量平均繊維長のいずれを採用しても構わないが、繊維強化樹脂材の物性をより正確に反映できるのは、重量平均繊維長であることが多い。
【0066】
本発明に用いられる強化繊維の繊維径は、強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
例えば、強化繊維として炭素繊維が用いられる場合、平均繊維径は、通常、3μm~50μmの範囲内であることが好ましく、4μm~12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm~8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
一方、強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均繊維径は、通常、3μm~30μmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記平均繊維径は、強化繊維の単糸の直径を指すものとする。したがって、強化繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する強化繊維(単糸)の直径を指す。
強化繊維の平均繊維径は、例えば、JIS R7607:2000に記載された方法によって測定することができる。
本発明に用いられる強化繊維は、その種類の関わらず単糸からなる単糸状であってもよく、複数の単糸からなる繊維束状であってもよい。
本発明に用いられる強化繊維は、単糸状のもののみであってもよく、繊維束状のもののみであってもよく、両者が混在していてもよい。ここで示す繊維束とは2本以上の単糸が集束剤や静電気力等により近接していることを示す。繊維束状のものを用いる場合、各繊維束を構成する単糸の数は、各繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
本発明に用いられる強化繊維が繊維束状である場合、各繊維束を構成する単糸の数は特に限定されるものではないが、通常、10本~100000本の範囲内とされる。
【0067】
強化繊維として炭素繊維束を開繊して用いる場合、開繊後の繊維束の開繊程度は特に限定されるものではないが、繊維束の開繊程度を制御し、特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ未満の炭素繊維(単糸)及び/又は炭素繊維束を含むことが好ましい。この場合、具体的には、下記式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)と、それ以外の開繊された炭素繊維、すなわち単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束とからなることが好ましい。
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0068】
繊維強化樹脂成形体中の炭素繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が0Vol%超99Vol%未満であることが好ましく、20Vol%以上99Vol未満であることがより好ましく、30Vol%以上95Vol%未満であることがさらに好ましく、50Vol%以上90Vol%未満であることが最も好ましい。
【0069】
炭素繊維の開繊程度は、繊維束の開繊条件を調整することにより目的の範囲内とすることができる。例えば、繊維束に空気を吹き付けて繊維束を開繊する場合は、繊維束に吹き付ける空気の圧力等をコントロールすることにより開繊程度を調整することができる。この場合、空気の圧力を強くすることにより、開繊程度が高く(各繊維束を構成する単糸数が少なく)なり、空気の圧力を弱くすることより開繊程度が低く(各繊維束を構成する単糸数が多く)なる傾向がある。
本発明において強化繊維として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0070】
炭素繊維の場合、上記Nは通常1<N<12000の範囲内とされることが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
0.6×10/D<N<1.0×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0071】
炭素繊維の平均繊維径が5μmの場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数は240~4000本未満の範囲となるが、なかでも300~2500本であることが好ましい。より好ましくは400~1600本である。また、炭素繊維の平均繊維径が7μmの場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数は122~2040本の範囲となるが、中でも150~1500本であることが好ましく、より好ましくは200~800本である。
【0072】
(マトリクス)
一般的に、繊維強化樹脂成形体に用いられる代表的なマトリクスとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が知られており、本発明でもこれらを用いることが好ましい。また、本発明においてはマトリクスとして、熱可塑性樹脂を主成分とする範囲において、熱硬化性樹脂を併用してもよい。
部材Aを製造するための繊維強化樹脂成形体を構成するマトリクスとして熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、本発明の繊維強化樹脂接合体の用途等に応じた優れた機械特性や生産性などを考慮しつつ、所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃~350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0073】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
【0074】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。
ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。
変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を挙げることができる。
ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂を挙げることができる。
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0075】
熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0076】
繊維強化樹脂成形体中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0077】
強化繊維とマトリクスである熱可塑性樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクス樹脂の選択に加え、炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクスとの密着強度を高める方法などで改善することができる。
【0078】
(繊維強化樹脂成形体の製造方法)
繊維強化樹脂成形体を製造する方法は特に制限はなく、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形などが挙げられる。射出成形、プレス成形の場合には、強化繊維を含むマトリクスを成形直前に加熱して可塑化し、金型へ導入する。加熱する方法としては、射出成形の場合はエクストルーダーなどが用いられ、プレス成形の場合は熱風乾燥機や赤外線加熱機などが用いられる。
【0079】
マトリクスとして用いる熱可塑性樹脂が高い吸水性を示す場合には、成形前にあらかじめ乾燥しておくことが好ましい。成形時に加熱する熱可塑性樹脂の温度は溶融温度+15℃以上かつ分解温度-30℃以下であることが好ましい。加熱温度がその範囲以下であると、樹脂が溶融しないため成形しにくく、またその範囲を超えると樹脂の分解が進むことがある。
【0080】
射出成形の場合には、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、長繊維ペレット、すなわち溶融した熱可塑性樹脂を所定の粘度に調整し連続繊維状の強化繊維に含浸させた後切断する工程で得られたペレットを用いて射出成形機で所定の形状に製造する方法が挙げられる。
【0081】
上記以外の方法として、例えば金型内に、連続繊維のストランドを並行に引き揃えた一方向配列シート(UDシート)、織物、不連続の強化繊維などの基材を設置し、ついで熱可塑性樹脂を注入し溶融含浸させたり加熱溶融した熱可塑性樹脂を注入し含浸させたのち、冷却する方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂として、そのフィルム等を強化繊維と一緒に金型内に配置して加熱し、プレスする方法も挙げられる。また、前記したような、熱可塑性樹脂を包含する基材を所定の温度に設定した金型内に入れ、プレスする方法も好ましい。加熱温度としては熱可塑性樹脂の溶融温度+15℃以上かつ分解温度-30℃以下の範囲がよい。
【0082】
プレス成形により製造するには、例えば、強化繊維からなる織物、編物、連続繊維のストランドを並行に引き揃えた一方向配列シート(UD材)、不連続繊維からなる抄造シート、連続または不連続繊維からなるシートやマット(以下、あわせて強化繊維マットということがある)、さらには必要に応じて熱可塑性樹脂からなる粉末状、繊維状、塊状、フィルム状、シート状、または不織布等が、上記織物、編物、UD材、抄造シート、強化繊維マットに含有された基材を、単層または複数層に積層して加熱加圧する。ついで、熱可塑性樹脂を溶融させ強化繊維間に含浸させることで熱可塑性樹脂をマトリクスとする繊維強化樹脂成形体を製造することができる。この場合の熱可塑性樹脂は、強化繊維のマットの製造時に供給したものでもよいが、この強化繊維マットの製造後に、かかる強化繊維マットの少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂からなる層(フィルム、不織布、シート等)を積層し、これらを加熱加圧し、この強化繊維マット中に熱可塑性樹脂を含浸させることによっても製造することができる。すなわち、上記繊維強化樹脂成形体は、同一または異なる2種以上の基材をプレス成形により一度形成させたのち、さらに同一または異なる他の基材や層を積層して再度プレス成形して製造してもよい。
繰り返しになるが、強化繊維マットに熱可塑性樹脂が含まれる態様としては、例えば、強化繊維マット内に粉末状、繊維状、または塊状の熱可塑性樹脂が含まれる態様や強化繊維マットに熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層が搭載または積層された態様を挙げることができる。ここで、上記熱可塑性樹脂層は粉末状、繊維状、または塊状等の熱可塑性樹脂が堆積されてなるものであってもよく、シート状またはフィルム状の熱可塑性樹脂からなるものであってもよい。
強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてシート状またはマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が面内方向においてランダムに分散した2次元等方性の強化繊維マットや、強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向がxyzの各方向においてランダムに分散している3次元等方性の強化繊維マットが例示される。
【0083】
基材は1枚の基材中に、異なる配列状態の強化繊維が含まれていてもよい。
1枚の基材中に異なる配列状態の強化繊維が含まれる態様としては、例えば、(i)基材の面内方向に配列状態が異なる強化繊維が配置されている態様、(ii)基材の厚み方向に配列状態が異なる強化繊維が配置されている態様を挙げることができる。また、基材が複数の層からなる積層構造を有する場合には、(iii)各層に含まれる強化繊維の配列状態が異なる態様を挙げることができる。さらに、上記(i)~(iii)の各態様を複合した態様も挙げることができる。
【0084】
基材の少なくとも1枚を、圧縮成形(プレス成形)することにより、繊維強化樹脂成形体を製造することができる。強化繊維の配向状態は、一方向配列又は2次元ランダムに分散のいずれであってもよい。また、一方向配列と2次元ランダム分散の中間の無規則配列(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配列しておらず、かつ完全にランダムでない分散状態)であってもよい。さらに、強化繊維の繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が基材全体の面内方向に対して角度を有するように分散していてもよく、繊維が綿状に絡み合うように配列していてもよく、さらには繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙等のように分散していてもよい。
なかでも、強化繊維が、長軸方向が一方向に配列した一方向配列の基材や、上記長軸方向が面内方向において2次元ランダムに分散した配向状態にある等方性の基材が好適である。
【0085】
部材Aの製造に用いる繊維強化樹脂成形体の突起部を成形するにあたり、その成形性の点から、少なくとも一方の上記基材の表面、特に突起部を有する面は、強化繊維が2次元ランダムに配列していることが好ましい。
【0086】
基材内における強化繊維の配向態様は、例えば、基材の任意の方向、及びこれと直交する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定することで確認できる。弾性率の比が1に近いほど、強化繊維が2次元等方的に分散していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.3を超えないときは等方性に優れていると評価される。本発明における基材としては、このような等方性に優れた基材(等方性基材)を用いると、成形性、金型への賦形追従性、機械的特性などに優れ、良好は接合強度を有する本発明の接合体を得ることできるので好適に用いられる。なお、等方性基材を用いた場合における強化繊維の配向態様は、繊維強化樹脂成形体でも維持される。
【0087】
基材における強化繊維の目付量は、特に限定されるものではないが、通常、25g/m~10000g/mである。
【0088】
基材の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm~100mmの範囲内が好ましく、0.01mm~10mmの範囲内が好ましく、0.1~5mmの範囲内がより好ましい。
基材が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した基材全体の厚みを指すものとする。
【0089】
基材は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、又は複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
基材が積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、又は互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。
また、基材が積層構造を有する態様としては、相互に強化繊維の配列状態が異なる層が積層された態様であってもよい。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配列している層と、強化繊維が2次元ランダム配列している層を積層する態様を挙げることができる。
3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。
【0090】
(繊維強化樹脂成形体の突起部)
部材Aを製造する際に用いる繊維強化樹脂成形体は少なくとも一つの突起部を有する。この突起部は部材Bの貫通孔h1に挿入され、この貫通孔h1より上に突き出した部分がかしめられて、かしめ部となる。
【0091】
かしめ部は、繊維強化樹脂成形体の突起部が部材Bの貫通孔h1に挿入されて、この貫通孔h1より上に突き出した部分(繊維強化樹脂成形体の上方に飛び出した部分)が加熱、加圧されて傘型のように変形した形状の部位をいう。かしめ部は通常、傘のような形状なので、「傘部」と呼ぶことがある。
【0092】
突起部の形状に特に限定は無いが、具体的には円柱状、円錐状、角柱状、角錐状、台形状などを挙げることができる。なかでも、円柱状、円錐状、角錐状、台形状は成形時の金型の抜き角に依存する要素が少なくなり、好適に使用できる。一例を挙げると、突起部が円柱状の場合、直径は4~12mmの範囲から選択し、部材Bの貫通孔h1から突き出た部分の高さは6~15mmの範囲から選択するのがよい。なお、突起部は部材Bの貫通孔h1から突き出てかしめられるため、このときの部材Bの貫通孔h1から突き出した部分の高さとしては、一例をあげると、突起部が円柱状の場合、円柱の直径の0.8~1.2倍の範囲が好ましい。
【0093】
<部材B>
部材Bの素材は特に制限はないが、例えば、金属、樹脂、セラミックスなどを挙げることができる。金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅、チタン及びそれらの合金などを挙げることができる。樹脂としては、合成樹脂や非合成樹脂(天然素材高分子)があり、合成樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性(型)樹脂のいずれも用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、アクリル樹脂などの汎用プラスチック類、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル(PET、PBT等)、環状ポリオレフィン(COP)などのエンジニアリングプラスチック類、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン、熱可塑性ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチック類を挙げることができる。熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、硬化性ポリイミド樹脂などを挙げることができる。
上記樹脂中には、強化繊維として、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維を含んでいてもよい。
部材Bは繊維強化樹脂成形体であってもよく、前述の部材Aの説明で記載した繊維強化樹脂成形体と同様のものが挙げられる。
【0094】
(部材Bの貫通孔h1)
部材Bは、少なくとも1つの貫通孔h1を有する。貫通孔h1の大きさおよび形状は、部材Aとなる繊維強化樹脂成形体の突起部が完全に挿入でき、更にかしめられる程度に貫通孔h1から突き出すことができればよい。貫通孔h1の形状としては、突起部の形状に対応して選択すればよく、突起部よりも大きく設計するのが好ましい。
貫通孔h1を得る方法としては、特に制限はないが、例えば、ドリル、エンドミル、ウォータージェット、レーザなどにより穴あけ加工する方法、金型にあらかじめ貫通孔h1にあたる部分を打ち抜き刃を用いて基材をプレス成形する方法などが挙げられる。
【0095】
厚み方向から見た場合の部材Bの貫通孔h1の形状は特に限定されず、円形(真円形又は楕円形)でもよいし、多角形でもよい。厚み方向から見た場合の部材Bの貫通孔h1の形状は、楕円形及び多角形のいずれでもないことが好ましく、真円形であることが特に好ましい。
【0096】
次に、本発明の繊維強化樹脂接合体及びその製造方法について上記した以外の事項を説明する。
【0097】
<繊維強化樹脂接合体>
本発明の繊維強化樹脂接合体は、その形状に特に制限はなく、例えば、面状(板状)や棒状の部材Aと、同形状の部材Bとから構成されていてもよい。また、部材Aが2以上の突起部を有し、それらの突起部全てを部材Bの2以上の貫通孔h1にすべて挿入されてかしめられてもよい。さらには、1以上の突起部を有する部材Aの1つの突起部が、1つ以上の突起部と1つ以上の貫通孔h1とを有する部材Bにおける、1つの貫通孔h1に挿入してかしめられ、部材Bの1以上の突起部が、第三の成形体の貫通孔に挿入されかしめられていてもよい。
【0098】
かしめ部は、部材Aとなる繊維強化樹脂成形体の突起部を加熱、圧縮することによりかしめられてなることが好ましい。加熱、圧縮によって、繊維強化樹脂成形体の突起部の、部材Bの貫通孔h1から突き出した部分(突出部)は溶融してかしめられ、傘型状のかしめ部が形成される。
本発明の繊維強化樹脂接合体は、上記の如くかしめられているので、優れた接合強度を有するものであるが、用途によっては、他の接合方法、例えば、接着剤等によってかしめ部をさらに補強してもよい。
かしめ部は、部材Bの表面と接触していることが好ましいが、接合強度が保てるのであれば接触していなくてもよい。また、突起部は、部材Bの貫通孔h1の内面とは接触していても接触していなくてもよい。
【0099】
<繊維強化樹脂接合体の製造方法>
本発明の繊維強化樹脂接合体は、繊維強化樹脂成形体の突起部を、部材Bの貫通孔h1に挿入し、突き出した部分(突出部)をかしめることで製造することができる。かしめる際には、突出部を加熱しつつ加圧することが好ましく、変形が完了した後に冷却、固化することによって製造することができる。
突出部を加熱する方法として特に限定はないが、例えば、熱板等のヒーターを接触させることで加熱する方法、赤外線により加熱する方法、超音波で振動することで加熱する方法などがある。なかでも、赤外線により加熱する方法では、突出部の変形させたい部分を選択的に加熱することができる。また、超音波により加熱する方法は、短時間でかしめることができ好適に用いることができる。この時、繊維強化樹脂成形体と部材Bの位置を固定してかしめ位置を固定する場合、アンビルという治具を用いることが多い。
かしめ後のかしめ部の傘形状としては、かしめに用いる治具の形状によって決めることができる。治具の体積はかしめに用いる突出部の体積と調整して定める。具体的には突出部のかしめ可能部分はかしめに用いる治具の1.1~1.2倍になるのが好ましい。
本発明の繊維強化樹脂接合体は、かしめ部分が1つでもよいが、2つ以上あってもよい。
【実施例0100】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
(1.1 繊維強化樹脂成形体の製造)
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした帝人社製の炭素繊維(CF)“テナックス”(登録商標)STS40-24K(平均繊維径7μm、単繊維数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂(PA6)A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合材料を作成した。得られた複合材料を270℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、幅250mm×長さ250mm×平均厚み2.5mmの板状の繊維強化樹脂成形体を得た。
板状の繊維強化樹脂成形体に含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、炭素繊維体積割合(Vf)は35%、炭素繊維の繊維長は一定長であり、重量平均繊維長は20mmであった。
【0102】
(1.2 突起部を有する繊維強化樹脂成形体の製造)
円柱状の突起部(円柱の底面の直径6mm、円柱の高さ12mm)を有する200mm×100mmの平板が作成できる金型を準備し、コールドプレス成形で円柱状の突起部を有する平板を成形した。この平板から25mm×100mmのサイズの突起部付き平板の試験片を切り出した。コールドプレスの成形条件としては、上記で製造した繊維強化樹脂成形体を300℃に加熱し、150℃に加熱した金型にチャージし、20MPaの成形圧力で30秒間保持した。
【0103】
(2 部材Bの製造)
厚み1mmのSPCC(Steel Plate Cold Commercial)を25mm×100mmのサイズで切出した板を準備した。この板の長手方向の端から25mm、短手方向中央の点を中心点として、貫通孔h1として直径10mmの孔をあけた。また、図9の(a)に示すように、貫通孔h1の周りに直径1.5mmの貫通孔h2を8個あけた。貫通孔h1の周縁から貫通孔h2の周縁までの最短距離は1mmとした。
【0104】
(3 繊維強化樹脂接合体の製造)
繊維強化樹脂成形体の突起部を部材Bの貫通孔h1に貫通させて重ね合わせた。具体的には、突起部である円柱の軸と貫通孔h1の軸が同一直線状になるように重ね合わせ、治具で固定し、突起部の貫通孔h1から突き出した部分のかしめ加工を行った。かしめ加工は超音波溶着装置(日本エマソン株式会社製Branson2000Xd)を用いて、加振する周波数20kHz、振幅60μm、加圧力1300Nの条件で所定の位置まで加振させた。かしめ部の傘の最大径は16mmとした。
【0105】
(4 評価方法)
評価は上記で製造した繊維強化樹脂接合体を、万能試験機(インストロン社製)でせん断引張試験を行い、試験時の初期剛性で評価した。具体的には、変位が0.2mmの際の応力を測定し、下記式(1)で初期剛性を算出した。
初期剛性が1000N/mm未満のものを“C”、1000N/mm以上、2000N/mm未満のものを“B”、2000N/mm以上のものを“A”として評価した。
初期剛性[N/mm] = 応力[N] / 変位[mm] ・・・式(1)
【0106】
[実施例2]
直径1.5mmの貫通孔h2の代わりに、図9の(b)に示すように、貫通孔h1に沿って長孔(短手方向の幅1.5mm)を4個あけた以外は、実施例1と同じ方法で繊維強化樹脂接合体を製造し、評価した。
【0107】
[実施例3]
直径1.5mmの貫通孔h2の代わりに、図9の(c)に示すように、貫通孔h1の周りの表面を#80のサンディングペーパーで荒らした以外は、実施例1と同じ方法で繊維強化樹脂接合体を製造し、評価した。
【0108】
[実施例4]
直径1.5mmの貫通孔h2の代わりに、図9の(d)に示すように、貫通孔h1の周縁から外側(貫通孔h1の周縁から中心点に向かう方向とは反対の方向)に向かって切欠き部c1(厚み方向から見た場合の1つの切欠き部c1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さは2.5mmである。)を8個設けた以外は、実施例1と同じ方法で繊維強化樹脂接合体を製造し、評価した。
【0109】
[実施例5]
直径1.5mmの貫通孔h2の代わりに、図9の(e)に示すように、貫通孔h1の周縁から外側に向かって切り込み(切り込みの長さは2.5mmとした。)を8個入れ、切り込みを入れた部分について板厚方向に曲げて隆起させた以外は、実施例1と同じ方法で繊維強化樹脂接合体を製造し、評価した。なお、繊維強化樹脂接合体の製造時には、繊維強化樹脂成形体の突起部が突出している方向と、部材Bの切り込みを入れた部分が隆起した方向とをあわせて繊維強化樹脂成形体と部材Bとを重ね合わせた。
【0110】
[比較例1]
繊維強化樹脂成形体の突起部の高さを9mmとし、部材Bに直径1.5mmの貫通孔h2を設けなかった以外は、実施例1と同じ方法で繊維強化樹脂接合体を製造し、評価した。
【0111】
[比較例2]
直径1.5mmの貫通孔h2を設けなかった以外は、実施例1と同じ方法で繊維強化樹脂接合体を製造し、評価した。
【0112】
貫通孔h1の最大内接円柱の側面積をSとし、部材Bのかしめ部に覆われている領域における、厚み方向に平行な面の面積及び厚み方向に対して0°超90°未満傾斜した方向に平行な面の面積の合計をSとした場合、実施例1~5ではS<Sであり、比較例1~2ではS=Sである。
【0113】
結果を下記表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1に示した結果より、実施例1~5の繊維強化樹脂接合体は、初期剛性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の繊維強化樹脂接合体は、優れた接合強度を有しており、例えば、自動車の構造部品等の優れた溶着強度が要求される用途などに用いることが可能である。
特に、繊維強化樹脂を含む部材Aと部材Bとを接合する際に、かしめによる接合と接着剤による接合を併用する場合、部材Aと部材Bとを治具に固定することなく安定した寸法精度で接着剤を硬化させることができコストを大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0117】
A:部材A
B:部材B
A1:突起部
A2:かしめ部
h1:貫通孔h1
h2:貫通孔h2
:部材Bの厚み
10:繊維強化樹脂接合体
Aa:部材Aa
h1:貫通孔h1の直径
20:貫通孔h1の最大内接円柱
d1:凹部
Sd1:凹部の内壁面
Sd2:凹部の内壁面
f1:凹部の内壁面Sd1に平行な方向
f2:凹部の内壁面Sd2に平行な方向
θ1:厚み方向とf1方向とのなす角
θ2:厚み方向とf2方向とのなす角
c1:切欠き部
c1:1つの切欠き部c1の外形線上の任意の2点を結んだ線分のうち最長の線分の長さ
F:部材F
G:部材G
F1:突起部
F2:かしめ部
30:従来の繊維強化樹脂接合体
j1:貫通孔
Fa:部材Fa
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12