(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101249
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】杭基礎構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20230712BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20230712BHJP
E02D 5/48 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D27/34 Z
E02D5/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001756
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】久積 和正
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】内藤 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
【Fターム(参考)】
2D041CA03
2D046CA03
2D046DA18
(57)【要約】
【課題】地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる。
【解決手段】液状化地盤G1上に構築される構造物を支持する基礎杭2と、基礎杭2の周囲に形成される地盤改良体3と、を備え、地盤改良体3は、地盤改良体3の下端が前記液状化地盤G1の下に位置する非液状化層G2に根入れされた状態で設けられ、基礎杭2の軸部には、地盤改良体3との間でずれ止めとして機能する凹凸形状のずれ止め部21が設けられ、ずれ止め部21の少なくとも一部は、改良体底部3aとの間に圧縮トラスTを形成する軸部の領域に配置されている杭基礎構造を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化地盤上に構築される構造物を支持する基礎杭と、
前記基礎杭の周囲に形成される地盤改良体と、を備え、
前記地盤改良体は、該地盤改良体の下端が前記液状化地盤の下に位置する非液状化層に根入れされた状態で設けられ、
前記基礎杭の軸部には、前記地盤改良体との間でずれ止めとして機能する凹凸形状のずれ止め部が設けられ、
前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記地盤改良体の改良体底部との間に圧縮トラスを形成する前記軸部の領域に配置されていることを特徴とする杭基礎構造。
【請求項2】
前記圧縮トラスが形成されるための前記改良体底部とのなす傾斜角となる圧縮トラス形成角が30~60度の範囲であり、
前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記改良体底部の外縁部を通る前記圧縮トラスと前記基礎杭の軸部との交点が位置する高さ以下の領域に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の杭基礎構造。
【請求項3】
前記圧縮トラス形成角は、45度であることを特徴とする請求項2に記載の杭基礎構造。
【請求項4】
前記地盤改良体は、改良体頂部の外径が前記改良体底部の外径以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項5】
前記地盤改良体は、上方から下方に向けて外径が大きくなる多段柱状体をなしていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項6】
前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記多段柱状体の段部の前記基礎杭を向く内側角部を通る前記圧縮トラスと前記基礎杭の軸部との交点が位置する高さ以下の領域に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の杭基礎構造。
【請求項7】
前記地盤改良体は、上方から下方に向けて漸次、外径が大きくなるコーン柱状体をなしていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項8】
前記基礎杭は、鋼管杭であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項9】
前記基礎杭は、段付鋼管、或いはディンプル鋼管であることを特徴とする請求項8に記載の杭基礎構造。
【請求項10】
前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に窪みとして成形されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項11】
前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に固着された溶接ビードにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項12】
前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に圧延にて形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤上に構築される構造物を支持する基礎杭を備えた杭基礎構造では、大地震時に基礎杭に大きな水平力が作用することから、杭基礎構造として変位・応力ともに厳しい要求性能が求められている。そのため、基礎杭の水平耐力を向上させることを目的とし、本来は別の工法である基礎杭工法と地盤改良工法とを組み合わせた構造・工法が多く提案されている。
【0003】
例えば、基礎杭の周囲に地盤改良体を形成することで、杭と地盤改良体とから構成される合成杭の径を大きく形成することにより水平耐力を向上させる方法が知られている。このような杭基礎構造では、地盤がもつ水平抵抗特性を利用するものであり、合成杭の杭径を大きくして水平方向の反力面積を増大させることで、杭の水平耐力を高め、変形を抑制するとともに、杭に発生する応力を低減することを可能にしている。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1、2に示されるような、基礎杭とその基礎杭の周囲に形成された地盤改良体を備え、改良体によって基礎構造自体を拡径した構造にすることで水平方向の圧力抵抗をもたせる杭基礎構造が知られている。また、この場合には、改良体の深さ方向の長さを基礎杭の長さよりも短くし、水平抵抗に寄与が大きい上部に集中させることにより地盤改良範囲を限定的としてコストを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-065579号公報
【特許文献2】特開2014-066010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1、2に示されるような従来の杭基礎構造では、基礎杭の周囲に改良体を設けることで水平抵抗性能を向上させるものであり、すなわち改良体の側面抵抗を利用したものである。このような従来技術では、基礎杭や改良体周囲の地盤が一定の強度を有する場合を対象とし、水平抵抗を発揮できることを前提とした技術である。そのため、液状化地盤においては、液状化時に地盤の水平抵抗が喪失する、或いは極めて低下してしまい、水平抵抗が得られずに本技術の目的を達成し得る杭基礎構造として機能しなくなるおそれがある。
このように、従来の杭基礎構造では、水平方向の圧力抵抗に期待して改良体を設置するものであり、液状化地盤においてその機能が十分に確保されているものではないことから、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点を鑑みてなされたもので、地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる杭基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る杭基礎構造は、液状化地盤上に構築される構造物を支持する基礎杭と、前記基礎杭の周囲に形成される地盤改良体と、を備え、前記地盤改良体は、該地盤改良体の下端が前記液状化地盤の下に位置する非液状化層に根入れされた状態で設けられ、前記基礎杭の軸部には、前記地盤改良体との間でずれ止めとして機能する凹凸形状のずれ止め部が設けられ、前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記地盤改良体の改良体底部との間に圧縮トラスを形成する前記軸部の領域に配置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る杭基礎構造によれば、基礎杭の軸部に凹凸形状のずれ止め部を設け、このずれ止め部に起因して生じる圧縮トラスが形成される範囲に地盤改良体が存在することで、基礎杭に作用する水平力が、ずれ止め部から基礎杭の周囲に形成される地盤改良体を介して改良体底部へ伝達する。そして、改良体底部に伝達された水平力は、非液状化層に根入れされた改良体底部の支圧反力により抵抗することができる。このため、本発明では、非液状化層における支圧反力を利用していることから、地震時に液状化地盤が液状化した時においても改良体底部の支圧反力による優れた水平抵抗効果が得られる。
このように、本発明では、地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化層においても、改良体底部の支圧反力を活用することで、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる。
【0010】
また、本発明に係る杭基礎構造では、改良体底部の支圧反力により基礎杭の水平力に抵抗することを期待する。すなわち、本発明では、改良体側面の水平抵抗により基礎杭の水平力に抵抗することを期待する必要がなくなることから、地盤改良体における圧縮トラスが形成されない部分の断面積(外径)を必要最小限に小さくしてスリム化を行うことができる。地盤改良体のスリム化を行った場合には、液状化時に基礎杭に作用する流動力を抑制することが可能となる。このように地盤改良体の体積を削減することができ、コストの低減を図ることができる。
【0011】
本発明に係る杭基礎構造は、前記圧縮トラスが形成されるための前記改良体底部とのなす傾斜角となる圧縮トラス形成角が30~60度の範囲であり、前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記改良体底部の外縁部を通る前記圧縮トラスと前記基礎杭の軸部との交点が位置する高さ以下の領域に配置されていることが好ましい。
【0012】
この場合には、圧縮トラスが形成する傾斜角である圧縮トラス形成角を30~60度の範囲に設定することで、地盤改良体に圧縮トラスを十分に形成することができ、改良体底部の支圧反力による水平抵抗効果を確実に得ることができる。そのため、現場条件や施工機器などの条件によって一般的な圧縮トラス形成角である45度に設定できない場合であっても、地盤改良体に圧縮トラスを確実に形成することができる。
【0013】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記圧縮トラス形成角は、45度であることを特徴としてもよい。
【0014】
このような構成とすることにより、圧縮トラス形成角を45度とすることで、基礎杭に作用する水平力をずれ止め部から改良体底部に伝達できる圧縮トラスを確実に形成することができ、改良体底部の支圧反力による水平抵抗効果を得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記地盤改良体は、改良体頂部の外径が前記改良体底部の外径以下であることを特徴としてもよい。
【0016】
このような構成とすることにより、基礎杭にかかる水平力を地盤改良体の側面の水平抵抗へ過度に期待しない構成となることから、液状化地盤に設けられる地盤改良体の断面積(外径)を小さく抑えることによるスリム化を行うことができる。これにより、液状化時に基礎杭が受ける液状化地盤の流動力を抑制することも可能である。
【0017】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記地盤改良体は、上方から下方に向けて外径が大きくなる多段柱状体をなしていることを特徴としてもよい。
【0018】
この場合には、地盤改良体を多段柱状体とし、改良体頂部の外径を最も小さくすることにより、改良体底部の支圧反力を確保し、かつ液状化時に基礎杭が受ける液状化地盤の流動力を抑制することができる。
また、本発明では、地盤改良体の上部の断面形状をスリム化することで改良体体積を低減することができ、コストを低下させることができる。
【0019】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記多段柱状体の段部の前記基礎杭を向く内側角部を通る前記圧縮トラスと前記基礎杭の軸部との交点が位置する高さ以下の領域に配置されていることを特徴としてもよい。
【0020】
この場合には、多段柱状体からなる地盤改良体に効率よく圧縮トラスを形成することができ、改良体底部の支圧反力を確保し、かつ液状化時に基礎杭が受ける液状化地盤の流動力を抑制することができる。
【0021】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記地盤改良体は、上方から下方に向けて漸次、外径が大きくなるコーン柱状体をなしていることを特徴としてもよい。
【0022】
この場合には、コーン柱状体からなる地盤改良体の形状が、圧縮トラスが形成される地盤改良体の三角形部分と類似するため、圧縮トラスの傾斜角に合わせて地盤改良範囲を縮小することができ、コストの低減を図ることができる。
【0023】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記基礎杭は、鋼管杭であることを特徴としてもよい。
【0024】
この場合には、基礎杭が鋼管杭であるため、ずれ止め部の設置や形成を容易に行うことができる。
【0025】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記基礎杭は、段付鋼管、或いはディンプル鋼管であることを特徴としてもよい。
【0026】
この場合には、段付鋼管、或いはディンプル鋼管を採用することにより、基礎杭の軸部に設けられるずれ止め部が凹んだ状態で形成される。そのため、杭外周面と地盤改良体との付着により一体性を確保でき、改良体底部の支圧反力による水平抵抗の効果を十分に得ることができる。
また、本発明では、基礎杭の鋼管内面にコンクリート等の充填材を充填した場合には、鋼管内面と充填材との付着により一体性を確保でき、基礎杭の水平抵抗をさらに高めることができる。
そして、鋼管にディンプルを設けたディンプル鋼管の場合には、窪み付きであるにも関わらず鋼管内部に充填材を充填しない場合においても鋼管杭直管と同等の圧縮性能と曲げ性能を発揮することができ、優れた効果を発揮できる。
【0027】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に窪みとして成形されていることを特徴としてもよい。
【0028】
この場合には、基礎杭の軸部に設置されるずれ止め部が窪みであることで,杭外周面と地盤改良体との付着により一体性を確保でき、改良体底部の支圧反力による水平抵抗の効果が得られる。また、基礎杭の杭内面にコンクリート等の充填材を充填した場合には、杭内面と充填材との付着により一体性を確保でき、基礎杭の水平抵抗をさらに高めることが可能である。
そして、ずれ止め部を窪みとして形成することにより、優れた加工性や杭の施工性が得られる。
【0029】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に固着された溶接ビードにより形成されていることを特徴としてもよい。
【0030】
この場合には、杭外周面に溶接ビードを設置することにより容易に凸状部の形成が可能であるので、優れた加工性や杭の施工性をもたせることができる。
【0031】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に圧延にて形成されていること特徴としてもよい。
【0032】
この場合には、基礎杭の軸部に設けられるずれ止め部が製造時に杭外周面に対して製造ラインにて形成された螺旋状の圧延形成により効率よく、かつ安定した形状で加工することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の杭基礎構造によれば、地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図2】(a)~(c)は、基礎杭のずれ止め部の一例を示す図である。
【
図3】
図1の杭基礎構造の水平力伝達メカニズムを説明するための図である。
【
図5】(a)、(b)は圧縮トラス形成角の範囲を説明するための図である。
【
図6】(a)、(b)は、杭基礎構造の第1施工方法の施工手順を示す図である。
【
図7】(a)~(c)は、
図6(b)に続く杭基礎構造の第1施工方法の施工手順を示す図である。
【
図8】(a)、(b)は、杭基礎構造の第1施工方法の施工手順を示す図である。
【
図9】(a)~(c)は、
図8(b)に続く杭基礎構造の第2施工方法の施工手順を示す図である。
【
図10】第2実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図11】第3実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図12】第4実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図13】第5実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図14】
図13に示す杭基礎構造の基礎杭のずれ止め部の一例を示す図である。
【
図15】(a)は
図13に示す杭基礎構造の基礎杭のずれ止め部の一例を示す側面図、(b)は
図15(a)に示すA-A線断面図である。
【
図16】変形例によるずれ止め部を有する杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図17】(a)、(b)は、
図16に示す基礎杭のずれ止め部を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態による杭基礎構造について、図面に基づいて説明する。
【0036】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態による杭基礎構造1は、液状化のおそれがある砂質層などの軟弱層からなる液状化地盤G1に構築されている構造物(図示省略)の基礎構造を、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭2の水平抵抗を効率よく強化することを可能にした構造である。
本実施形態では、液状化地盤G1の下層に非液状化層G2があり、さらに非液状化層G2の下方には支持層(図示省略)を有している。
【0037】
杭基礎構造1は、液状化地盤G1上に構築される構造物を支持する基礎杭2と、基礎杭2の周囲に形成される地盤改良体3と、を備えている。
【0038】
基礎杭2は、
図2(a)、(b)に示す段付鋼管2A、2Bや、
図2(c)に示すディンプル鋼管2C等の鋼管杭が採用されている。基礎杭2としては、現場打ち杭でも既成杭でもよい。また、基礎杭2の材料は、RC系(コンクリート杭)やスチール系でもよい。ただし、鋼管杭を採用した方が後述するずれ止め部21の凹凸の設置(形成)する加工が容易となる利点がある。
【0039】
図2(a)に示す段付鋼管2Aは、管軸Oに直交する周方向に沿って延び、杭外周面2aより窪んだ周溝21aが管軸方向に間隔をあけて配置された形状をなしている。
図2(b)に示す段付鋼管2Bは、側面視して管軸Oに交差する方向に沿って傾斜し、杭外周面2aより窪んだ傾斜溝21bが管軸方向に間隔をあけて配置された形状をなしている。
図2(c)に示すディンプル鋼管2Cは、杭外周面2aに複数の凹溝21cが周方向及び管軸方向に間隔をあけた形状をなしている。
上記の周溝21a、傾斜溝21b及び凹溝21cは、鋼管製造時に成形された窪みであって、後述するずれ止め部21に相当する。
【0040】
図1に示すように、基礎杭2は、液状化地盤G1及び非液状化層G2に埋設され、非液状化層G2を貫通して支持層に到達した状態で打ち込まれている。基礎杭2は、例えば不図示の杭打機を使用して地表面に対して垂直に設置され、地中に貫入することにより打設される。このように構成された基礎杭2は、支持層まで到達しているため、基礎杭2を介して鉛直力を支持層で受けることができ、鉛直方向に十分な強度を有している。すなわち、構造物の鉛直荷重を基礎杭2にもたせることができる。
そして、地震時に基礎杭2が構造物や液状化地盤G1より受ける水平力の一部は、後述するように地盤改良体3の根入れ部3c(改良体底部3a)を介して非液状化層G2に伝達されその非液状化層G2で負担される。
【0041】
地盤改良体3は、液状化地盤G1の上下方向でほぼ全域に設けられ、下端(改良体底部3a)が液状化地盤G1の下に位置する非液状化層G2に根入れされた状態で設けられている。地盤改良体3は、上方から下方に向けて外径が大きくなる多段柱状体をなしている。本実施形態による地盤改良体3は1段の柱状体である。すなわち、地盤改良体3は、地表面付近の改良体頂部3bの外径が改良体底部3aの外径より小さくなっている。
【0042】
地盤改良体3は、基礎杭2の周囲に形成され、例えば土砂をセメントミルク等のセメント系固化剤で固化させることにより形成される。地盤改良体3は、高さ方向の略中央部より下側に位置する円柱状の下柱状体31と、下柱状体31より小径で上側に位置する円柱状の上柱状体32と、を有する2段構造となっている。上柱状体32の外径は、少なくとも基礎杭2の外径よりも大きく設定されている。そして、下柱状体31の下部である改良体底部3aが、上述したように所定の厚みで非液状化層G2に侵入した状態で根入れされている。
【0043】
このように地盤改良体3は、底部(下柱状体31)において大きな径を有し,その底部における支圧反力F2を最大化できる構造となっている。また、改良体上部(上柱状体32)は下柱状体31に比べて縮径され、改良体の幅(径)が縮小化している。これにより、地盤改良体3は、液状化時においても基礎杭2同士の間を液状化地盤G1が流動するすり抜け現象を阻害することなく、地盤の流動力を受けにくい構造を実現できる。
【0044】
地盤改良体3は、基礎杭2を地盤に打ち込む際に基礎杭2の周囲の土砂を掘削ロッド4(
図6(b)、
図7(b)参照)の掘削用羽根41で掘削し、掘削した土砂にセメントミルクを混合して固化させることにより所定の地盤領域に形成される。
【0045】
このように本実施形態の杭基礎構造1では、基礎杭2の周囲の液状化地盤G1及び非液状化層G2にセメントミルクで固化した地盤改良体3が形成されている。杭基礎構造1は、地盤改良体3が基礎杭2より大きな外径で補強されているため剛性が大きく、かつ基礎杭2に作用する水平力を非液状化層G2に根入れされている地盤改良体3によって十分に対抗することができる。このときの杭基礎構造1に作用する荷重伝達のメカニズム(荷重伝達機構)の詳細については後述する。
【0046】
図3及び
図4に示すように、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3の下部から一定の範囲に、地盤改良体3との間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3の改良体底部3aとの間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
【0047】
基礎杭2の軸部の杭外周面2aに設置されたずれ止め部21は、基礎杭2に水平力F1や曲げモーメントMが作用した場合において、その荷重を当該ずれ止め部21の凹凸部分から地盤改良体3に伝達する機能を有する。
ずれ止め部21は、改良体底部3aとなす傾斜角(圧縮トラス形成角θ)が60度以下となる圧縮トラスTと基礎杭2の軸部との交点Pに位置する高さ以下の領域に配置されている。なお、圧縮トラス形成角θは、好ましくは30~60度の範囲であり、より好ましくは45度である(
図5(a)参照)。ここで、
図5(a)に示す圧縮トラスT1はθが45度であり、圧縮トラスT2はθが60度、圧縮トラスT3はθが30度である。
【0048】
ずれ止め部21は、基礎杭2の杭外周面2aに上述した
図2(a)~(c)に示すような窪みとして成形されている。
【0049】
次に、本実施形態の杭基礎構造1の荷重伝達機構について
図3及び
図4を用いて具体的に説明する。
地盤改良体3の内部では、基礎杭2の軸部と、その表面(杭外周面2a)に設置されたずれ止め部21から伝達された荷重は、改良体底部3aへ伝達され、非液状化層G2の地盤における支圧反力(符号F2)に支持されることになる。このとき基礎杭2と改良体底部3aに挟まれる地盤改良体3の内部には圧縮トラスTが形成される。そして、この圧縮トラスTが形成されることによって荷重伝達が効率的に行われる。また、圧縮トラスTに伴う荷重伝達は圧縮応力を基本としているため、引張強度を有しない地盤改良体3であっても確実に荷重が伝達される。
【0050】
ここで、
図3に示す符号は、以下の通りである。
r
o:基礎杭2の半径
R
B:改良体底部3aの半径
R
t:改良体頂部3bの半径
ΔR:地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ部3cの半径(ΔR=R
B-r
o)
h:地盤改良体3の高さ(定義に要注意,全長ではない)
l:ずれ止め部21が設置(形成)される深さ方向の長さ(=上述した交点Pから改良体底部3aまでの長さ)
θ:圧縮トラス形成角(tanθ=l/ΔR)
d
e:地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ深さ
【0051】
図4に示すように、圧縮トラスTは、形成される改良体底部3aとの傾斜角(圧縮トラス形成角θ)が45度となることが好ましい。すなわち、圧縮トラスTの圧縮トラス形成角θが45度の場合には、少なくともずれ止め部21が形成される軸部の深さ方向の長さ範囲l(改良体底部3aの外縁部3dを通る圧縮トラスTが基礎杭2の軸部と交差する交点Pから改良体底部3aまでの長さ)は、地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ部3cの半径方向の長さΔRと同等となる。
また、例えば圧縮トラス形成角θが45度から60度で改良体底部3aの外縁部3dを通る場合には、基礎杭2の軸部における交点Pが圧縮トラス形成角θが45度の交点Pよりも上側の位置となるので、ずれ止め部21の少なくとも一部が設けられる範囲の上限位置も、圧縮トラス形成角θが45度のときの上限位置より上側になる。すなわち、ずれ止め部21が形成される軸部の深さ方向の長さ範囲lが大きくなる。
【0052】
なお、ずれ止め部21は、圧縮トラスTの圧縮トラス形成角θの角度によって決められる上記設置範囲(ずれ止め機能領域21A)より上側に外れた領域にずれ止め部21が設けられていてもよい。例えば、圧縮トラスTによる基礎杭2に作用する水平力を改良体底部3aの支圧反力によって抵抗する伝達機能が作用しないまでも、地盤改良体3とのずれ止め機能を発揮させたり、あるいは基礎杭2の内側に充填されるコンクリートとのずれ止めの機能をもたせることを目的として、ずれ止め機能領域21Aの領域外にずれ止め部21を設けることも可能である。
【0053】
ずれ止め部21によって形成される圧縮トラスTの形成範囲は、確実に地盤改良体3に含まれている。このことから幾何学的には、改良体底部3a、基礎杭2の軸部におけるずれ止め機能領域21A、及び改良体底部3aの外縁部3dと基礎杭2の軸部とを結ぶ圧縮トラスTの傾斜線によって定義される三角形部分よりも大きい範囲(径方向外側)の地盤改良体3が必要となる。
【0054】
なお、
図5(a)、(b)に示すように、圧縮トラス形成角θは一般的には45度であり、これに基づいた形状、大きさの地盤改良体3に設定される。
そして、現場条件や施工機器などの条件に基づき、必要に応じて圧縮トラス形成角θを30~60度の範囲に限定する方が良い。この角度以外では圧縮トラスTは十分に形成されず、十分な効果が得られない。
【0055】
図5(b)は、下柱状体31の高さが小さいケースを示した一例である。この場合、圧縮トラスTは、多段柱状体をなす地盤改良体3の段部33の基礎杭2を向く内側角部33aを通り、基礎杭2の軸部との交点Pが位置する高さ以下の領域に配置されている。
図5(b)では、改良体底部3aの外縁部3dと内側角部33aを通る圧縮トラスT1(
図5(b)の実線)の圧縮トラス形成角θが45度である。改良体底部3aの外縁部3dを通る60度の圧縮トラスT2(
図5(b)の二点鎖線)は、線全体が地盤改良体3に含まれていないため、圧縮トラスT2の一部が地盤改良体3の外に位置してしまい、この圧縮トラスT2において基礎杭2が受ける水平力は改良体底部3aには伝達されない。
【0056】
次に、上述した杭基礎構造1の施工方法として、2つ施工例(第1施工方法、第2施工方法)について説明する。
第1施工方法について、
図6(a)、(b)及び
図7(a)~(c)に基づいて説明する。第1施工方法は、杭後施工方式である。
【0057】
先ず、
図6(a)に示すように、掘削ロッド4を施工箇所の地上部に設置する。掘削ロッド4は、ロッド40と、ロッド40の下端に配置され拡径可能かつ縮径可能な掘削用羽根41と、掘削用羽根41の上方に配置される攪拌用羽根42と、を備えている。
【0058】
次に、
図6(b)に示すように、ロッド40を回転させ、掘削用羽根41と攪拌用羽根42の回転により地盤を掘削する。本第1実施形態では、地盤改良体3が多段柱状体であり、上柱状体32と下柱状体31とから形成される。そのため、上柱状体32の領域において掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を所定の長さに縮径させた状態で掘削し、下柱状体31の領域では掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を上柱状体32の領域のときよりも大きく拡径した状態で掘削する。そして、掘削ロッド4によって非液状化層G2に根入れする深さまで掘削した後、掘削ロッド4の下端部に設けられる注出口(図示省略)よりセメントミルクを周囲に注出して掘削した土砂と攪拌・混合させながら掘削ロッド4を引き上げる。これにより、
図7(a)に示すように、改良体底部3aが非液状化層G2に根入れされた根入れ部3cを形成した所定の形状(第1実施形態では多段柱状体)の地盤改良体3が築造される。
【0059】
次に、
図7(b)に示すように、予め杭外周面2aの所定領域にずれ止め部21が設けられている基礎杭2を、築造した地盤改良体3に打ち込む。具体的には、基礎杭2を地盤改良体3及び地盤改良体3より下方の地盤に貫入させ、基礎杭2の先端を支持層に到達させる(
図7(c)参照)。基礎杭2は、打ち込む長さに応じて継ぎ足して所定長とする。
図7(c)に示すように、基礎杭2を所定深度まで打ち込むことで、基礎杭2のずれ止め部21も所定の高さの位置に配置されることになる。これにより施工が完了となる。
このようにして基礎杭2を設けることにより、基礎杭2が鉛直方向の支持力を得ることができ、さらに液状化地盤G1における基礎杭2の周囲が地盤改良体3によって覆われた状態となって基礎杭2に作用する水平力を地盤改良体3の改良体底部3aに伝達する杭基礎構造1が構築される。
【0060】
次に、第2施工方法について、
図8(a)、(b)及び
図9(a)~(c)に基づいて説明する。第2施工方法は、杭同時施工方式である。
【0061】
先ず、
図8(a)に示すように、予め杭外周面2aの所定領域にずれ止め部21が設けられている基礎杭2を装備した状態の掘削ロッド4を施工箇所の地上部に設置する。掘削ロッド4の構成は上述した第1施工方法で使用したものと同様のものである。基礎杭2は、杭内にロッド40を挿通させた状態で、攪拌用羽根42より上の位置でセットされる。そして、掘削用羽根41と攪拌用羽根42とは、縮径したときに基礎杭2の内側を通過可能である。
【0062】
次に、
図8(b)に示すように、基礎杭2を装備した掘削ロッド4において、ロッド40を回転させ、掘削用羽根41と攪拌用羽根42の回転により地盤を掘削する。本第1実施形態では、地盤改良体3が多段柱状体であり、上柱状体32と下柱状体31とから形成される。そのため、上柱状体32の領域において掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を所定の長さに縮径させた状態で掘削し、下柱状体31の領域では掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を上柱状体32の領域のときよりも大きく拡径した状態で非液状化層G2に根入れする深さまで掘削する。このとき、掘削ロッド4の地盤への貫入とともに、基礎杭2も掘削した地盤中に貫入される。
【0063】
そして、第2施工方法では、掘削ロッド4による掘削と同時に、掘削ロッド4の下端部に設けられる注出口(図示省略)よりセメントミルクを周囲に注出して掘削した土砂と攪拌・混合させることで、
図9(a)に示すような改良体底部3aが非液状化層G2に根入れされた根入れ部3cを形成した所定の形状(第1実施形態では多段柱状体)の地盤改良体3が築造される。
続いて、掘削ロッド4とともに地盤に貫入された基礎杭2を残置させた状態で、掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を縮径させた掘削ロッド4を基礎杭2の内側を通過させて地上に引き抜く。
【0064】
次に、
図9(b)に示すように、予め杭外周面2aの所定領域にずれ止め部21が設けられている基礎杭2を、さらに築造した地盤改良体3とその下方の非液状化層G2に打ち込む。具体的には、基礎杭2を地盤改良体3及び地盤改良体3より下方の地盤に貫入させ、基礎杭2の先端が支持層に到達させる(
図9(c)参照)。基礎杭2は、打ち込む長さに応じて継ぎ足して所定長とする。
図9(c)に示すように、基礎杭2を所定深度まで打ち込むことで、基礎杭2のずれ止め部21も所定の高さの位置に配置されることになる。これにより施工が完了となる。
このようにして基礎杭2を設けることにより、基礎杭2が鉛直方向の支持力を得ることができ、さらに液状化地盤G1における基礎杭2の周囲が地盤改良体3によって覆われた状態となって基礎杭2に作用する水平力を地盤改良体3の改良体底部3aに伝達する杭基礎構造1が構築される。
【0065】
次に、上述した杭基礎構造1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図2に示すように、本実施形態による杭基礎構造1では、基礎杭2の軸部に凹凸形状のずれ止め部21を設け、このずれ止め部21に起因して生じる圧縮トラスTが形成される範囲に地盤改良体3が存在することで、基礎杭2に作用する水平力が、ずれ止め部21から基礎杭2の周囲に形成される地盤改良体3を介して改良体底部3aへ伝達する。そして、改良体底部3aに伝達された水平力は、非液状化層G2に根入れされた改良体底部3aの支圧反力により抵抗することができる。このため、本実施形態では、非液状化層G2における支圧反力を利用していることから、地震時に液状化地盤G1が液状化した時においても改良体底部3aの支圧反力による優れた水平抵抗効果が得られる。
このように、本実施形態では、地盤改良体3の側面の水平抵抗が期待できない液状化層においても、改良体底部3aの支圧反力を活用することで、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭2の水平抵抗を強化することができる。
【0066】
また、本実施形態では、改良体底部3aの支圧反力により基礎杭2の水平力に抵抗することを期待する。すなわち、本実施形態では、改良体側面の支圧反力により基礎杭2の水平力に抵抗することを期待する必要がなくなることから、地盤改良体3における圧縮トラスTが形成されない部分の断面積(外径)を必要最小限に小さくしてスリム化を行うことができる。地盤改良体3のスリム化を行った場合には、液状化時に基礎杭2に作用する流動力を抑制することが可能となる。このように地盤改良体3の体積を削減することができ、コストの低減を図ることができる。
【0067】
また、本実施形態では、圧縮トラスTが形成する傾斜角である圧縮トラス形成角θを30~60度の範囲に設定することで、地盤改良体3に圧縮トラスTを十分に形成することができ、改良体底部3aの支圧反力による水平抵抗効果を確実に得ることができる。そのため、現場条件や施工機器などの条件によって一般的な圧縮トラス形成角θである45度に設定できない場合であっても、地盤改良体3に圧縮トラスTを確実に形成することができる。
とくに圧縮トラス形成角θを45度とすることで、基礎杭2に作用する水平力をずれ止め部から改良体底部3aに伝達できる圧縮トラスTを確実に形成することができ、改良体底部3aの支圧反力による水平抵抗効果を得ることができる。
【0068】
また、本実施形態では、地盤改良体3が改良体頂部3bの外径が改良体底部3aの外径以下であるため、基礎杭2にかかる水平力を地盤改良体3の側面3eの水平抵抗へ過度に期待しない構成となる。このことから、液状化地盤G1に設けられる地盤改良体3の断面積(外径)を小さく抑えることによるスリム化を行うことができる。これにより、液状化時に基礎杭2が受ける液状化地盤G1の流動力を抑制することが可能である。
【0069】
また、本実施形態では、地盤改良体3を多段柱状体とし、改良体頂部3bの外径を最も小さくすることにより、改良体底部3aの支圧反力を確保し、かつ液状化時に基礎杭2が受ける液状化地盤G1の流動力を抑制することができる。そして、本実施形態では、地盤改良体3の上部の断面形状をスリム化することで改良体体積を低減することができ、コストを低下させることができる。
【0070】
しかも、本実施形態では、圧縮トラスTが多段柱状体の段部の基礎杭2を向く内側角部を通り、基礎杭2の軸部との交点が位置する高さ以下の領域(ずれ止め機能領域21A)に配置されている。これにより、多段柱状体からなる地盤改良体3に効率よく圧縮トラスTを形成することができ、改良体底部3aの支圧反力を確保し、かつ液状化時に基礎杭2が受ける液状化地盤G1の流動力を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では、基礎杭2が鋼管杭であるため、ずれ止め部21の設置や形成を容易に行うことができる。
【0072】
また、本実施形態では、段付鋼管2A、2B(
図2(a)、(b)参照)、或いはディンプル鋼管2C(
図2(c)参照)を採用することにより、基礎杭2の軸部に設けられるずれ止め部21が凹んだ状態で形成される。そのため、杭外周面2aと地盤改良体3との付着により一体性を確保でき、改良体底部3aの支圧反力による水平抵抗の効果を十分に得ることができる。
【0073】
また、本実施形態では、基礎杭2の鋼管内面にコンクリート等の充填材を充填した場合には、鋼管内面と充填材との付着により一体性を確保でき、基礎杭2の水平抵抗をさらに高めることができる。
そして、鋼管にディンプルを設けたディンプル鋼管2C(
図2(c)参照)の場合には、窪み付きであるにも関わらず鋼管内部に充填材を充填しない場合においても鋼管杭直管と同等の圧縮性能と曲げ性能を発揮することができ、優れた効果を発揮できる。
そして、本実施形態では、ずれ止め部21を窪みとして形成することにより、優れた加工性や杭の施工性が得られる。
【0074】
上述した本実施形態による杭基礎構造1では、地盤改良体3の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤G1において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭2の水平抵抗を強化することができる。
【0075】
(第2実施形態)
図10に示すように、第2実施形態による杭基礎構造1Aは、地盤改良体3Aの形状として深さ方向の全体にわたって一定した外径の柱状体をなす構造である。すなわち、地盤改良体3Aは、改良体頂部3bの外径と改良体底部3aの外径は略同一である。この場合も、地盤改良体3Aは、非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成されている。
【0076】
基礎杭2は、上述した第1実施形態の構成と同様である。すなわち、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3Aの下部から一定の範囲に、地盤改良体3Aとの間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3Aの改良体底部3aとの間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
【0077】
図10に示す点線の圧縮トラスTの線は、地盤改良体3Aの改良体底部3aにおける外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。第2実施形態では、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスTが基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部3aまでの領域(ずれ止め機能領域21A)にずれ止め部21が設けられている。なお、ずれ止め部21は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域21Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域21Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域21A以外の領域(ここでは、ずれ止め機能領域21Aより上側の領域)にもずれ止め部21が設けられていてもよい。
【0078】
第2実施形態による杭基礎構造1Aでは、地盤改良体3Aに非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成され、かつ基礎杭2にずれ止め部21が設けられいるので、圧縮トラスTによる改良体底部3aによる支圧反力F2が得られ基礎杭2に作用する水平力F1を非液状化層G2で負担することが可能である。
【0079】
一方、第2実施形態による杭基礎構造1Aでは、上述した第1実施形態の杭基礎構造1のように地盤改良体3の上部断面が縮径されて小さくなっていない。つまり、液状化地盤G1の上部に大きな円柱状の地盤改良体3Aが存在していることから、上記第1実施形態のように上部断面が小さい場合に比べて液状化時における基礎杭2間の地盤がすり抜け現象を阻害する可能性があり、地盤の流動力を受けやすい構成となる。
【0080】
(第3実施形態)
図11に示すように、第3実施形態による杭基礎構造1Bは、液状化地盤G1の深さ方向の下部のみに柱状体からなる地盤改良体3Bを設けた構成である。
すなわち、地盤改良体3Bは、上述した第1実施形態の上柱状体32(
図1参照)が省略されて下柱状体31のみを設けた構成と同等であり、改良体頂部3bの外径と改良体底部3aの外径は略同一である。この場合も、地盤改良体3Bは、非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成されている。
【0081】
基礎杭2は、上述した第1実施形態の構成と同様である。すなわち、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3Bの下部から一定の範囲に、地盤改良体3Bとの間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3Bの改良体底部3aとの間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
図11では、ずれ止め部21が基礎杭2の軸部における地盤改良体3Bに接するほぼ全域に設けられている。
【0082】
図11に示す点線の圧縮トラスT1の線は、地盤改良体3Bの改良体底部3aにおける外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。第3実施形態では、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスTが基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部3aまでの領域(ずれ止め機能領域21A)にずれ止め部21が設けられている。なお、ずれ止め部21は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域21Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域21Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域21A以外の領域にもずれ止め部21が設けられていてもよい。
【0083】
第3実施形態による杭基礎構造1Bでは、地盤改良体3Bに非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成され、かつ基礎杭2にずれ止め部21が設けられいるので、圧縮トラスTによる改良体底部3aによる支圧反力が得られ基礎杭2に作用する水平力を非液状化層G2で負担することが可能である。
【0084】
また、第3実施形態の杭基礎構造1Bは、上述した第1実施形態の杭基礎構造1のような上柱状体32が存在しないため、液状化地盤G1の上部の地盤改良が不要となり、さらなるコストの低減を図ることができる。
【0085】
(第4実施形態)
図12に示す第4実施形態による杭基礎構造1Cは、上方から下方に向けて漸次、外径が大きくなるコーン柱状体をなす地盤改良体3Cを設けた構成である。
地盤改良体3Cは、上述した第1実施形態と同様に液状化地盤G1の上下方向でほぼ全域に設けられ、下端(改良体底部3a)が非液状化層G2に根入れされた状態で設けられている。すなわち、地盤改良体3Cは、地表面付近の改良体頂部3bの外径が改良体底部3aの外径より小さくなっている。
【0086】
基礎杭2は、上述した実施形態の構成と同様である。すなわち、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3Cの下部から一定の範囲に、地盤改良体3Cとの間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3Bの改良体底部3aとの間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
【0087】
図12に示す点線の圧縮トラスTの線は、地盤改良体3Cの改良体底部3aにおける外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。第4実施形態では、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスTが基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部3aまでの領域(ずれ止め機能領域21A)にずれ止め部21が設けられている。なお、ずれ止め部21は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域21Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域21Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域21A以外の領域(ここでは、ずれ止め機能領域21Aより上側の領域)にもずれ止め部21が設けられていてもよい。
【0088】
第4実施形態による杭基礎構造1Cでは、地盤改良体3Cに非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成され、かつ基礎杭2にずれ止め部21が設けられているので、圧縮トラスTによる改良体底部3aによる支圧反力F2が得られ、基礎杭2に作用する水平力F1を非液状化層G2で負担することが可能である。
【0089】
また、第4実施形態の杭基礎構造1Bは、上述した第1実施形態の杭基礎構造1と同様に地盤改良体3Cの上部の断面積が小さく、縮径されているので、液状化地盤G1の上部の地盤改良を低減することができ、コストの低減を図ることができる。
【0090】
さらに、第4実施形態による杭基礎構造1Cでは、地盤改良体3Cがコーン形状であるので、施工時に順次、一定量で拡径を行いながら効率よく施工を行うことができる。
しかも、本実施形態では、コーン柱状体からなる地盤改良体3Cの形状が、圧縮トラスTが形成される地盤改良体3Cの三角形部分と類似するため、圧縮トラス形成角θに合わせて地盤改良範囲を縮小することができ、コストの低減を図ることができる。
【0091】
(第5実施形態)
次に、
図13に示すように、第5実施形態による杭基礎構造1Dは、上述した第1実施形態において基礎杭2の軸部に設けられる凹凸形状のずれ止め部22が杭外周面2aから外側に突出する構成としたものである。地盤改良体3の形状は、第1実施形態と同様に多段柱状体をなしている。すなわち、地盤改良体3は、下端(改良体底部3a)が非液状化層G2に根入れされた状態で設けられている。
基礎杭2は、ずれ止め部22以外の構成は第1実施形態と同様であり、不図示の支持層に到達している。
【0092】
図13に示す点線の圧縮トラスTの線は、地盤改良体3の改良体底部3aにおける外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。ずれ止め部22は、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスT1が基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部3aまでの領域(ずれ止め機能領域22A)に設けられている。なお、ずれ止め部22は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域22Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域22Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域22A以外の領域(ここでは、ずれ止め機能領域22Aより上側の領域)にもずれ止め部22が設けられていてもよい。
【0093】
突起状のずれ止め部22としては、例えば、
図14に示すような基礎杭2の杭外周面2aに固着された溶接ビード22aを形成したものを採用できる。この場合には、杭外周面2aに溶接ビード22aを設置することにより容易に凸状部を形成することが可能であるので、優れた加工性や杭の施工性をもたせることができる。
【0094】
また、
図15(a)、(b)に示すように、基礎杭2の杭外周面2aに対して圧延にて形成された突起22bであってもよい。このような圧延の製造ラインによって突起状のずれ止め部22を形成するものは、基礎杭2の軸部のずれ止め部を効率よく、かつ安定した形状で設けることができる。なお、
図15(a)、(b)における符号22c(軸方向中央に位置する突起22b同士の間の線)は、圧延にて形成された突起22bを有する鋼板を用いて基礎杭2を造管する際の溶接線を示している。
【0095】
さらに、突起状となる他のずれ止め部22として、鉄筋や丸鋼、平鋼等をリング状に曲げ加工した部材を基礎杭2の杭外周面2aに設置して溶接等で固着して形成したものであってもよい。
【0096】
また、
図16及び
図17(a)、(b)に示すように、変形例による杭基礎構造1Dでは、他の突起状のずれ止め部22として、基礎杭2の杭外周面2aにおいて軸方向に沿って延在する孔あき鋼板23を周方向に間隔をあけて複数設けたものを採用することも可能である。孔あき鋼板23は、帯状の鋼板に複数(例えば、
図17(a)では4枚、
図17(b)では8枚)の貫通穴23aが延在方向に配列した構成である。孔あき鋼板23は、貫通穴23aの中心軸が基礎杭2の軸方向に直交する方向に向けるとともに、鋼鈑の板面が基礎杭2に対して放射方向となるように配置されている。
【0097】
以上、本発明による杭基礎構造の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0098】
例えば、基礎杭2の外径、長さ、材質は、地盤条件や支持する構造物の荷重等の条件に合わせて適宜設定することができる。
【0099】
また、上述した実施形態では、地盤改良体の形状として多段柱状体、1断面の柱状体、コーン柱状体等を例示し、基礎杭の軸部に形成される凹凸形状のずれ止め部として窪み、溶接ビードや圧延形成による突起、孔あき鋼板を例示したが、種々の形状からなる地盤改良体と、種々の構成からなる基礎杭のずれ止め部との組み合わせは適宜設定することが可能である。
【0100】
なお、上述した第3実施形態を除いた他の実施形態では、地盤改良体3、3A、3C、3Dが、液状化地盤G1の上方まで全域に設ける構成としているが、この範囲であることに限定されるものではない。すなわち、上記の第3実施形態の地盤改良体3Bのように、液状化地盤G1の上方に地盤改良体が形成されない部分があってもよい。
【0101】
また、地盤改良体の形状についても、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば上記の第1実施形態の多段柱状体からなる地盤改良体3では、下柱状体31と上柱状体32からなる1段の段部33が形成された形状であるが、2段、あるいは3段以上の段部が形成されていてもよい。
【0102】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0103】
1、1A~1D 杭基礎構造
2 基礎杭
2a 杭外周面
2A、2B 段付鋼管
2C ディンプル鋼管
21、22 ずれ止め部
21A、22A ずれ止め機能領域
21a 周溝
21b 傾斜溝
21c 凹溝
22a 溶接ビード
22b 突起
23 孔あき鋼板
3、3A~3D 地盤改良体
3a 改良体底部
3b 改良体頂部
3c 根入れ部
31 下柱状体
32 上柱状体
G1 液状化地盤
G2 非液状化層
T 圧縮トラス
Ta 圧縮トラス形成領域