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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101251
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】フェルール設置装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20230712BHJP
   E04B 1/48 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B23K9/20 C
E04B1/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001770
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】松原 則夫
(72)【発明者】
【氏名】内海 祥人
(72)【発明者】
【氏名】松山 俊樹
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA13
2E125AC14
2E125CA79
2E125EA11
(57)【要約】
【課題】簡易な加工により容易に製造が可能であり、且つ、フェルールの設置を連続的に安定して実施することが可能なフェルール設置装置を提供する。
【解決手段】円筒状の設置パイプと、設置パイプの内部に配置される掛止バネ及びピンと、を有し、設置パイプは、長さの異なる長尺パイプ部材と短尺パイプ部材を含み、長尺パイプ部材及び短尺パイプ部材には周面において互いに対向する位置にピン挿通孔が形成され、長尺パイプ部材及び短尺パイプ部材のいずれか一方の部材には掛止バネの一部を突出させた状態で係止させる長孔が周面において互いに対向する位置に形成され、他方の部材には掛止バネを周方向において位置決めさせる切欠きが形成され、長尺パイプ部材及び短尺パイプ部材のいずれか一方の部材が他方の部材に挿入され、且つ、いずれか一方の部材端部が他方の部材端部から下方に向けて突出する突出部を有する、フェルール設置装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルールの設置を行うフェルール設置装置であって、
円筒状の設置パイプと、当該設置パイプの内部に配置される掛止バネ及びピンと、を有し、
前記設置パイプは、長さの異なる長尺パイプ部材と短尺パイプ部材を含み、
前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材には周面において互いに対向する位置にピン挿通孔が形成され、
前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材のいずれか一方の部材には前記掛止バネの一部を突出させた状態で係止させる長孔が周面において互いに対向する位置に形成され、他方の部材には前記掛止バネを周方向において位置決めさせる切欠きが形成され、
前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材のいずれか一方の部材が他方の部材に挿入され、且つ、いずれか一方の部材端部が他方の部材端部から下方に向けて突出する突出部を有することを特徴とする、フェルール設置装置。
【請求項2】
前記掛止バネは、中央に位置するピン挿通部と、前記ピン挿通部の両側側部に所定の角度を成して延設されるフック部と、を含み、
前記フック部には、内側から順に、所定の角度屈曲する第1屈曲部及び第2屈曲部が形成されることを特徴とする、請求項1に記載のフェルール設置装置。
【請求項3】
前記ピンは、前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材のいずれか一方の部材が他方の部材に挿入された状態で前記ピン挿通孔に挿通され、且つ、前記ピン挿通部に挿通され、前記設置パイプの内部に前記掛止バネが係止されることを特徴とする、請求項2に記載のフェルール設置装置。
【請求項4】
前記掛止バネは鋼線材からなるキックバネで構成され、前記ピンは表面に凹凸が形成される全ネジボルトで構成されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェルール設置装置。
【請求項5】
前記フェルール設置装置は、前記設置パイプの内部において前記掛止バネを下方から支持するワッシャーと、前記突出部の下端に取り付けられるキャップ材と、を更に含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェルール設置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築・土木構造物等におけるスタッド工法(スタッド溶接)で用いられるフェルールの設置を行うためのフェルール設置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築・土木構造物等の構築において、鉄骨梁の上にスタッドを打ち付けて溶接し、鉄骨梁とコンクリートスラブ(コンクリート床版)との接続を行ういわゆるスタッド工法(スタッド溶接)が知られている。スタッド溶接を行う際には、鉄骨梁上において溶接補助材としてフェルールが用いられることが知られており、フェルールによって溶接金属をせき止めてカラー(余盛)を形成させて溶接が行われる。
【0003】
フェルールは、作業員が鉄骨梁等上のスタッド溶接の施工箇所に一つ一つ直接設置しているが、この設置作業は、作業員にとって負担が大きかった。そこで、作業負担の軽減や作業時間の短縮のために、例えば、特許文献1にはスタッド溶接に用いられるフェルールやその設置方法が開示されている。特許文献1に記載のフェルール設置装置は、パイプ状のロッド9とカム装置13との間に設けられたリリースピン31(T字状ピン)によってフェルール3の係止及び係止解除を行う機構である。この構成では、ロッド9に通されたフェルール3を、ロッド9を押すことで押しバネ29によって押し出し、設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US 2009/0126321 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、例えば特許文献1に開示されたフェルール設置装置を用いてフェルールを鉄骨梁等に設置し、スタッド溶接を行うことでコンクリートスラブと鉄骨梁等との接続材であるスタッドが打ち付けられる。しかしながら、特許文献1に開示されたフェルール設置装置においては、カム装置13の製造にあたり丸棒材の側面に対する長孔や溝等の切削加工や、T字状ピンのための斜め形状のT字孔の形成といった複雑な加工が求められる(特許文献1の図6図9等参照)。即ち、部材に対し複雑な加工が高精度で求められるため、製造コストの増加や生産性の低下が懸念される。
【0006】
そこで、本発明者らは、より簡易な加工により製造され、且つ、1つずつ確実にフェルールの設置を行うことが可能なフェルール設置装置について鋭意検討し、スタッド溶接の更なる生産性向上の実現を図ることとした。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、簡易な加工により容易に製造が可能であり、且つ、フェルールの設置を連続的に安定して実施することが可能なフェルール設置装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、フェルールの設置を行うフェルール設置装置であって、円筒状の設置パイプと、当該設置パイプの内部に配置される掛止バネ及びピンと、を有し、前記設置パイプは、長さの異なる長尺パイプ部材と短尺パイプ部材を含み、前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材には周面において互いに対向する位置にピン挿通孔が形成され、前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材のいずれか一方の部材には前記掛止バネの一部を突出させた状態で係止させる長孔が周面において互いに対向する位置に形成され、他方の部材には前記掛止バネを周方向において位置決めさせる切欠きが形成され、前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材のいずれか一方の部材が他方の部材に挿入され、且つ、いずれか一方の部材端部が他方の部材端部から下方に向けて突出する突出部を有することを特徴とする、フェルール設置装置が提供される。
【0009】
前記掛止バネは、中央に位置するピン挿通部と、前記ピン挿通部の両側側部に所定の角度を成して延設されるフック部と、を含み、前記フック部には、内側から順に、所定の角度屈曲する第1屈曲部及び第2屈曲部が形成されても良い。
【0010】
前記ピンは、前記長尺パイプ部材及び前記短尺パイプ部材のいずれか一方の部材が他方の部材に挿入された状態で前記ピン挿通孔に挿通され、且つ、前記ピン挿通部に挿通され、前記設置パイプの内部に前記掛止バネが係止されても良い。
【0011】
前記掛止バネは鋼線材からなるキックバネで構成され、前記ピンは表面に凹凸が形成される全ネジボルトで構成されても良い。
【0012】
前記フェルール設置装置は、前記設置パイプの内部において前記掛止バネを下方から支持するワッシャーと、前記突出部の下端に取り付けられるキャップ材と、を更に含んでも良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な加工により容易に製造が可能であり、且つ、フェルールの設置を連続的に安定して実施することが可能なフェルール設置装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】フェルール設置装置の概略正面図である。
図2】フェルール設置装置の分解図である。
図3】長孔及びピン挿通孔に関する概略説明図である。
図4】掛止バネの概略説明図である。
図5】フェルールの概略側面図である。
図6】フェルールの設置方法の概略説明図である。
図7】フェルールの設置方法の概略説明図である。
図8】フェルールの設置方法の概略説明図である。
図9】フェルールの設置方法の概略説明図である。
図10】第1変形例に係るフェルール設置装置の概略説明図である。
図11】第1変形例に係るフェルール設置装置の分解図である。
図12】第2変形例に係る概略説明図である。
図13】第3変形例に係るフェルール設置装置の概略説明図である。
図14】第3変形例に係るフェルール設置装置の分解図である。
図15】第4変形例に係るフェルール設置装置の概略説明図である。
図16】第4変形例に係るフェルール設置装置の分解図である。
図17】第5変形例に係る概略説明図である。
図18】第6変形例に係る概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
<フェルール設置装置の全体構成>
図1は本発明の実施の形態に係るフェルール設置装置1の概略正面図である。また、図2は本発明の実施の形態に係るフェルール設置装置1の分解図であり、(a)が各部材の概略正面図、(b)が各部材の概略側面図である。即ち、図1は、図2に示す複数の部材を組み付けた状態を表している。なお、図1にはフェルール設置装置1にフェルール5を挿入させた状態を図示している。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るフェルール設置装置1は、内部が中空である長尺パイプ部材10と、内部が中空である短尺パイプ部材20を含む。これら長尺パイプ部材10と短尺パイプ部材20を組み合わせて円筒状の設置パイプ2が構成される。設置パイプ2の内部には掛止バネ30と、当該掛止バネ30を固定するためのピン40が配置される。長尺パイプ部材10及び短尺パイプ部材20の素材は、耐腐食性を有する金属材料であることが好ましく、例えばアルミニウムやステンレスであっても良い。
【0018】
図2(a)、(b)に示すように、長尺パイプ部材10には掛止バネ30を掛止させるための長孔14と、ピン40を挿通させるピン挿通孔16a(16)が形成されている。長孔14は、円筒状のパイプ周面において互いに対向する位置(即ち、2箇所)に形成される。同様に、ピン挿通孔16aは、円筒状のパイプ周面において互いに対向する位置(即ち、2箇所)に形成される。長孔14とピン挿通孔16aとの位置関係はピン40の形状等に基づき設計され、例えば、対向する長孔14同士を結ぶ線と、対向するピン挿通孔16a同士を結ぶ線と、は平面視で所定の角度で交わるように構成されても良い。
【0019】
また、図2(a)のように、短尺パイプ部材20のパイプ周面には、互いに対向する位置(即ち、2箇所)にピン挿通孔16b(16)が形成される。ピン挿通孔16bは、長尺パイプ部材10と短尺パイプ部材20を組み合わせた設置パイプ2において、上記ピン挿通孔16aと少なくとも一部が重複するように形成され、ピン挿通孔16aと16bが重なった状態でピン挿通孔16が構成される。また、図2(b)のように、短尺パイプ部材20の上端には、掛止バネ30を周方向において位置決めさせるための切欠き22が形成されている。
【0020】
本実施の形態に係る構成では、長尺パイプ部材10の径W1が短尺パイプ部材20の径W2よりも大きく構成されている(即ち、W1>W2)。そして、長尺パイプ部材10の内部に短尺パイプ部材20が挿入され、その状態で内部に掛止バネ30及びピン40が固定される。具体的には、長尺パイプ部材10の内部において、長孔14に掛止バネ30を掛止させた状態でピン40をピン挿通孔16に挿通させることで掛止バネ30が固定される。ピン40は例えば表面に凹凸を有する全ネジボルトであっても良く、当該全ネジボルトに挿通された掛止バネ30のピン挿通孔16の内側からナット等で挟み込むようにして固定させても良い。その際には、掛止バネ30が所望の位置に固定される。
【0021】
また、長尺パイプ部材10の内部に短尺パイプ部材20が挿入された状態において、短尺パイプ部材20の下端部が突出部24として長尺パイプ部材10の下端部から突出している。この状態で内部に掛止バネ30及びピン40が固定される。突出部24は、掛止バネ30の弾性変形に併せて長尺パイプ部材10の内部に押し込むことが可能に構成される。
【0022】
<長孔及びピン挿通孔の位置構成>
図3は長孔14及びピン挿通孔16に関する概略説明図であり、(a)が長尺パイプ部材10の説明図、(b)が短尺パイプ部材20の説明図である。なお、図3には説明のため、各パイプ部材の上面図も併せて図示している。
【0023】
図3(a)に示すように、ピン挿通孔16aは、長尺パイプ部材10の円筒状のパイプ周面において互いに対向する位置(即ち、2箇所)に形成される。ピン挿通孔16aには略円筒状のピン40を挿通させることから、略円形に形成される。長孔14は、長尺パイプ部材10の円筒状のパイプ周面において互いに対向する位置(即ち、2箇所)に形成される。長孔14には掛止バネ30の両側側部に構成されるフック部の一部(後述するフック部34の第2屈曲部36)が突出した状態で係止されることから、鉛直方向に所定の長さをし、縦方向に長径を有する略楕円形状に形成される。なお、掛止バネ30の詳細な形状・構成については図面を参照して後述する。
【0024】
長尺パイプ部材10において、対向する長孔14同士を結ぶ線と、対向するピン挿通孔16a同士を結ぶ線とは平面視で完全には直交しない(図中、一点鎖線参照)。例えば、長孔14同士を結ぶ線に対し、ピン挿通孔16a同士を結ぶ線は略直交から約10°程度傾斜するような位置関係となる。これは、後述する掛止バネ30の形状に起因しており、掛止バネ30のフック部(後述するフック部34)が、掛止バネ30のコイル部(後述するピン挿通部32)の中心からずれた位置で延びており、そのずれた位置分を考慮している。ピン挿通孔16a同士を結ぶ線を略直交から約10°程度傾斜させた線を中心線とした孔を形成することで、一回の工程で孔を開けることができる。即ち、ピン挿通孔16は、掛止バネ30の両側側部のフック部の位置関係によって好適に設計される。
【0025】
また、図3(b)に示すように、ピン挿通孔16bは、短尺パイプ部材20のパイプ周面において互いに対向する位置(即ち、2箇所)に形成される。ピン挿通孔16bは、短尺パイプ部材20の突出部24の長尺パイプ部材10への押し込みに応じてピン40が孔内に遊嵌されるよう構成され、縦方向に長径を有する略楕円形状に形成される。また、短尺パイプ部材20の上端には、上端周方向において互いに対向する位置(即ち、2箇所)に、掛止バネ30を周方向において位置決めさせるための切欠き22が形成される。
【0026】
短尺パイプ部材20において、対向するピン挿通孔16b同士を結ぶ線と、対向する切欠き22同士を結ぶ線とは平面視で完全には直交しない(図中、一点鎖線参照)。例えば、ピン挿通孔16b同士を結ぶ線に対し、切欠き22同士を結ぶ線は略直交から約10°程度傾斜するような位置関係となる。これは、後述する掛止バネ30の形状に起因しており、掛止バネ30のフック部(後述するフック部34)が、掛止バネ30のコイル部(後述するピン挿通部32)の中心からずれた位置で延びており、そのずれた位置分を考慮している。ピン挿通孔16b同士を結ぶ線を略直交から約10°程度傾斜させた線を中心線とした孔を形成することで、一回の工程で孔を開けることができる。即ち、ピン挿通孔16や切欠き22は、掛止バネ30の両側側部のフック部の位置関係によって好適に設計される。
【0027】
<掛止バネの構成>
図4は掛止バネ30の概略説明図であり、(a)は掛止バネ30の正面図、(b)は掛止バネ30の側面図である。図4に示すように、掛止バネ30は、中央に位置するピン挿通部32と、その両側側部に所定な角度を成して延設されるフック部34(34a、34b)を含み、例えば弾性変形を伴うキックバネとして構成される。フック部34は、ピン挿通部32の側方斜め上方に向かって延設され、その内側から順に第1屈曲部35(35a、35b)と、第2屈曲部36(36a、36b)が形成されている。第1屈曲部35、第2屈曲部36の曲げ角度は任意であり、例えば、第1屈曲部35は、ピン挿通部32から延設された鋼線材に対し約30°内側に向けて屈曲するように形成され、第2屈曲部36は第1屈曲部35から延設された鋼線材に対し約90°内側に向けて屈曲するように形成される。
【0028】
本発明においては、例えば、従来からあるキックバネの弾性変形を利用することで、ピン挿通部32の幅B1は長尺パイプ部材10の内径W1及び短尺パイプ部材20の内径W2のいずれよりも小さく設計される。また、第1屈曲部35aと35bとの間の距離B2は、長尺パイプ部材10の内径W1及び短尺パイプ部材20の内径W2のいずれよりも大きく設計される。このような構成により、キックバネの弾性変形を利用して、フック部34の第1屈曲部35から第2屈曲部36にかけての部分が、長尺パイプ部材10の長孔14の内周壁に押圧されて、当該長孔14から出入りする。
【0029】
図4に示すように構成された掛止バネ30を用い、当該掛止バネ30を長尺パイプ部材10の内部に配置し、長孔14に掛止バネ30を掛止させた状態でピン40をピン挿通孔16に挿通させることで、掛止バネ30が長尺パイプ部材10の内部に固定される。ピン40は例えば表面に凹凸を有する全ネジボルトであり、ピン挿通部32にピン40を挿通させることで、ピン40長手方向に掛止バネ30が移動するのを防止する。ピン40はピン挿通孔16bに対し遊嵌されており、短尺パイプ部材20の突出部24が、掛止バネ30の弾性変形に併せて長尺パイプ部材10の内部に押し込まれる際に、ピン40もピン挿通孔16bに沿って動くように構成される(図1参照)。
【0030】
<フェルール5の構成>
図5はフェルール5の概略側面図である。図5に示すように、フェルール5は2種類の内径を有する部分が繋がった中空の略円筒形状の部材である。フェルール5の全体高さをMとした場合に、上端から上下方向長さM1の範囲が小径D1に構成され、当該範囲を除く下端から上下方向長さM2(=M‐M1)の範囲が大径D2に構成される。
【0031】
フェルール5の形状や寸法は、スタッド溶接においてアークと溶接部を大気から保護・保温することも目的として任意に設計される。また、フェルール5は、例えば耐熱性の磁器で構成され、スタッド溶接においてアーク発生中に溶接金属の鋳型として機能し、且つ、衝撃・振動によって容易に破壊や除去が可能なように構成される。
【0032】
<フェルール設置方法>
次に本実施の形態に係るフェルール設置装置1を用いたフェルール5の設置方法について説明する。図6図9はフェルール5の設置方法の概略説明図であり、フェルール5の設置状況を順に示す正面図である。
【0033】
図6に示すように、先ず、フェルール設置装置1にフェルール5が挿入される。フェルール5は、例えば設置パイプ2の上端から挿入される。また、フェルール5は複数挿入されても良く、ここでは、2つのフェルール5(第1のフェルール5aと第2のフェルール5b)が挿入される場合を図示する(図7~9参照)。
【0034】
図7に示すように、設置パイプ2に挿入されたフェルール5において、最も下に位置するフェルール5(以下、第1のフェルール5aとも記載)が、第1のフェルール5a内周の小径D1の部分と大径D2の部分との境界で長尺パイプ部材10の長孔14から外向きに突出(露出)した状態の掛止バネ30の第2屈曲部36に引っかかって係止される。
【0035】
そして、図8に示すように、短尺パイプ部材20の突出部24(図8には図示せず)をフェルール設置対象面(例えば鉄骨梁等の表面)に対し押し付け、フェルール5を下方に落下させる。この時、長尺パイプ部材10の下端部が下方に向けてスライドする。これにより、長尺パイプ部材10の長孔14の位置が下方にずれ、フック部34の第1屈曲部35と第2屈曲部36が長尺パイプ部材10内に収まることで、フェルール5が落下する。
【0036】
次いで、図9に示すように、フェルール設置装置1をフェルール設置対象面から上方に引き上げると、掛止バネ30の力によって短尺パイプ部材20が下方に押し戻され、長尺パイプ部材10が上方の位置に戻り、掛止バネ30のフック部34の第1屈曲部35と第2屈曲部36も長孔14から突出した状態に戻る。この時、第1のフェルール5aのみがフェルール設置対象面に設置され、第2のフェルール5bは長孔14まで落下することで、フック部34の突出が制限されて、フック部34により第2のフェルール5bが内側から押さえられ、所定の位置に留まる。
【0037】
掛止バネ30の第1屈曲部35と第2屈曲部36との間の鉛直方向距離C1(図4参照)は、フェルール5の小径D1を有する範囲の高さM1(図5参照)とほぼ同じ寸法に設計することが好ましい。これにより、フェルール設置時に、フック部34の広範囲を第2のフェルール5bの内側に当接させることができる。このような寸法関係に設計することで、上述したようにフェルール5の設置を行う際に、確実に1つずつフェルール5を落下させ設置することが可能となる。
【0038】
<作用効果>
以上説明したように本実施の形態に係るフェルール設置装置1は、長尺パイプ部材10、短尺パイプ部材20、掛止バネ30、及びピン40を含む構成である。フェルール設置装置1は、パイプ状の鋼製部材であり、長尺パイプ部材10と短尺パイプ部材20で構成される設置パイプ2に長孔14、ピン挿通孔16、切欠き22を形成させるような加工を行い、当該設置パイプ2の内部に掛止バネ30を配置するといった平易な構成で製造される。そのため、従来に比べ高度な加工技術を要さずに製造を行うことができ、コスト削減が図られる。特に、長孔14、ピン挿通孔16及び切欠き22を、対向する2箇所の孔や切欠きが同じ中心線上に位置するような配置構成とすることで容易に加工を行うことができる。
【0039】
また、本実施の形態に係るフェルール設置装置1においては、掛止バネ30を中央に位置するピン挿通部32と、その両側側部に延設されるフック部34を含むように構成している。また、フック部34には第1屈曲部35と、第2屈曲部36が形成されている。そして、フェルール設置装置1とフェルール5の寸法関係が所定の関係となるように掛止バネ30の設計を行っている。加えて、掛止バネ30が所望の位置に固定されるよう、短尺パイプ部材20に切欠き22を形成している。このように設置パイプ2や掛止バネ30の構成や設計を好適にすることで、フェルール5設置時に第1のフェルール5aのみを落下させ、第2のフェルール5bを確実に所定の位置に保持させて安定してフェルール5を1つずつ設置することが可能となる。即ち、図6図9を参照して上述した工程を繰り返し行うことで、複数のフェルール5を連続的に安定して設置することができる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。以下、本発明の変形例について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において上記実施の形態と同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。
【0041】
<第1変形例>
上記実施の形態では、フェルール設置装置1が長尺パイプ部材10、短尺パイプ部材20、掛止バネ30及びピン40を含む場合について図示し説明したが、更にワッシャー及びキャップ材を含む構成でも良い。図10は、本発明の第1変形例に係るフェルール設置装置1aの概略説明図である。また、図11は第1変形例に係るフェルール設置装置1aの分解図である。
【0042】
本変形例に係るフェルール設置装置1aは、上記実施の形態で説明した構成に加え、ワッシャー50及びキャップ材60を含む。図10、11に示すように、ワッシャー50は例えば短尺パイプ部材20の内径よりわずかに小さく、内部に収まるような径を有する略円板状部材であり、中央に小径の円形孔51を有する。ワッシャー50は、キャップ材60の上端に位置し、設置パイプ2の内部において内部空間を塞ぐように配置され、短尺パイプ部材20が長尺パイプ部材10内部上方にスライドした際に、キャップ材60の上端部にワッシャー50があることで、掛止バネ30を下方から支持して、掛止バネ30のずれを抑制する。例えば、ピン挿通部32の下方を円形孔51にはめ込むようにして支持しても良い。
【0043】
また、キャップ材60は短尺パイプ部材20の突出部24の下端に取り付けられ、パイプ内挿入部61とクッション部62からなる。パイプ内挿入部61は短尺パイプ部材20の内径とほぼ同じ外径を有する略円筒形状の部材であり、クッション部62は短尺パイプ部材20の外径とほぼ同じ外径を有する略円板形状の部材である。キャップ材60はこれらパイプ内挿入部61とクッション部62が一体化されて構成され、素材はゴム等の弾性体であることが好ましい。
【0044】
本変形例に係るフェルール設置装置1aによれば、短尺パイプ部材20の突出部24をフェルール設置対象面(例えば鉄骨梁等の表面)に対し押し付けたときに、キャップ材60が取り付けられた短尺パイプ部材20が上方にスライドするに際しキャップ材60があることで当該短尺パイプ部材20が上方に移動しすぎるのが抑えられる。加えて、短尺パイプ部材20の押し戻しに伴う掛止バネ30の戻り(弾性変形)がスムーズに行われ、バネ機能の消耗が抑制される。また、ワッシャー50に掛止バネ30のピン挿通部32が当接することで、設置パイプ2内での掛止バネ30の移動を抑えることができる。
【0045】
<第2変形例>
また、上記第1変形例において、フェルール設置装置1aがワッシャー50及びキャップ材60を含む場合について説明したが、このような構成に限定されるものではない。図12は本発明の第2変形例に係る概略説明図であり、キャップ材60の各種変形例を図示したものである。
【0046】
図12(a)に示すように、中央にネジ穴を有する金属からなるパイプ挿入部61aと、その下方に位置するゴム製又はナイロン製のクッション部62aを頭付きネジ63によって結合させ、溝64aを構成させた部材をキャップ材60aとして用いても良い。また、図12(b)~(e)に示すように、金属、硬質ウレタン、ナイロンバー等からなる部材に対し削り出しを行い、ワッシャーとキャップ材を一体化させたキャップ材60b~60eを用いても良い。図12(b)~(d)のようにキャップ材60b~60dには、その上部に種々の形状の溝64b~64dが形成される。溝64bは側面視で略矩形形状、溝64cは側面視で曲線形状を有するいわゆるお椀型形状、溝64dは側面視で略三角形状、を有する。また、図12(e)に示すように、キャップ材60eには、鉛直方向に貫通する通し孔65が形成される。
【0047】
<第3変形例>
また、上記実施の形態では、設置パイプ2を構成する長尺パイプ部材10と短尺パイプ部材20に関し、長尺パイプ部材10の内径W1が短尺パイプ部材20の内径W2よりも大きく構成されている(即ち、W1>W2)ものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
図13は、本発明の第3変形例に係るフェルール設置装置1bの概略説明図である。また、図14は第1変形例に係るフェルール設置装置1bの分解図であり、(a)が各部材の概略正面図、(b)が各部材の概略側面図である。なお、図14には説明のため、各パイプ部材の上面図も併せて図示している。
【0049】
本変形例に係るフェルール設置装置1bにおいては、長尺パイプ部材10の内径W1が短尺パイプ部材20の内径W2より小さく構成されている(即ち、W1<W2)。即ち、短尺パイプ部材20の内部に長尺パイプ部材10が挿入され、その状態で内部に掛止バネ30及びピン40が固定される。その際、短尺パイプ部材20の下端部が突出部24として長尺パイプ部材10の下端部から突出している。図14に示すように、本変形例に係る構成では、短尺パイプ部材20に長孔14及びピン挿通孔16が形成され、長尺パイプ部材10にピン挿通孔16及び切欠き22が形成される。
【0050】
また、本変形例における掛止バネ30aの構成は上記実施の形態と概ね同じであるが、フック部34の延設方向が異なっており、ピン挿通部32の側方斜め下方に向かって延設される。そして、上記実施の形態と同様に、その内側から順に第1屈曲部35(35a、35b)と、第2屈曲部36(36a、36b)が形成される。
【0051】
本変形例に係るフェルール設置装置1aにあっては、上記実施の形態と同様に、複数のフェルール5を連続的に安定して設置することができる。更に、長尺パイプ部材10の内径W1を短尺パイプ部材20の内径W2より小さく構成することで、長尺パイプ部材10の内径W1を短尺パイプ部材20の内径W2より大きく構成する場合に比べコストダウンを図ることができる。
【0052】
<第4変形例>
図15は、本発明の第4変形例に係るフェルール設置装置1cの概略説明図である。また、図16は第4変形例に係るフェルール設置装置1cの分解図であり、(a)が各部材の概略正面図、(b)が各部材の概略側面図である。なお、図16には説明のため、各パイプ部材の上面図も併せて図示している。
【0053】
本変形例に係るフェルール設置装置1cにおいては、長尺パイプ部材10の内径W1が短尺パイプ部材20の内径W2より小さく構成されている(即ち、W1<W2)。即ち、短尺パイプ部材20の内部に長尺パイプ部材10が挿入され、その状態で内部に掛止バネ30及びピン40が固定される。その際、短尺パイプ部材20の下端部が突出部24として長尺パイプ部材10の下端部から突出している。
【0054】
その他、本変形例における掛止バネ30、長孔14、ピン挿通孔16の配置構成は上記実施の形態と概ね同じである。本変形例に係るフェルール設置装置1cにあっては、上記実施の形態と同様に、複数のフェルール5を連続的に安定して設置することができる。更に、上記第3変形例と同様に、コストダウンを図ることができる。
【0055】
<第5変形例>
また、上記実施の形態において、掛止バネ30は中央に位置するピン挿通部32と、その両側側部に延設されるフック部34を含み、例えば鋼線材からなるキックバネを曲げ加工して製造される場合を図示して説明したが、これに限定されるものではない。図17は本発明の第2変形例に係る概略説明図であり、掛止バネ30の各種変形例を図示したものである。
【0056】
掛止バネ30として、例えば図17(a)~(c)に示す断面形状の板バネを用いても良い。その場合であっても、上記実施の形態と同様に、中央のピン挿通部32と、その両側側部に延設されるフック部34を含むことが望ましい。また、図17(c)、(d)に示すように、フック部34の第1屈曲部35及び第2屈曲部36は、断面視において曲率を有する曲線形状により形成されても良い。
【0057】
<第6変形例>
また、上記実施の形態において、ピン40は例えば表面に凹凸を有する全ネジボルトであるとして説明したが、これに限定されるものではない。図18は本発明の第6変形例に係る概略説明図であり、ピン40の各種変形例を図示したものである。
【0058】
図18(a)に示すように、ピン40は一般的な丸棒からなる平行ピンでも良い。また、図18(b)に示すように、溝付きスプリングピンでも良い。また、図18(c)に示すように、ずれ止め溝ピンでも良い。また、図18(d)に示すように、ずれ止め溝削りピンでもよい。また、図18(e)に示すように、ずれ止め溝削り全ネジでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、建築・土木構造物等におけるスタッド工法(スタッド溶接)で用いられるフェルールの設置を行うためのフェルール設置装置に適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1…フェルール設置装置
1a~1c…(変形例に係る)フェルール設置装置
5…フェルール
10…長尺パイプ部材
14…長孔
16…ピン挿通孔
20…短尺パイプ部材
22…切欠き
24…突出部
30…掛止バネ
32…ピン挿通部
34…フック部
35…第1屈曲部
36…第2屈曲部
40…ピン
50…ワッシャー
60…キャップ材
60a~60e…(変形例に係る)キャップ材
図1
図2
図3
図4
図5
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