(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101268
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20230712BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230712BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230712BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230712BHJP
H01B 17/60 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C08G59/40
C08K3/38
C08K5/098
C08L63/00 C
H01B17/60 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001799
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】井上 智裕
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
5G333
【Fターム(参考)】
4J002CD01X
4J002CD02X
4J002CD05W
4J002CD06W
4J002CH02X
4J002ED037
4J002FD027
4J002FD02X
4J002FD14X
4J002FD156
4J002GJ01
4J002GJ02
4J002GQ01
4J002GQ05
4J036AA05
4J036AB01
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4J036AB03
4J036AB07
4J036AD01
4J036AD08
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4J036AJ02
4J036AJ03
4J036AJ05
4J036AJ08
4J036AJ11
4J036DC19
4J036FA10
4J036FA11
4J036FB03
4J036FB05
4J036FB12
4J036FB16
4J036GA06
4J036GA12
4J036JA06
4J036JA07
4J036JA15
5G333AB01
5G333BA01
5G333CB01
5G333DA04
5G333DC02
(57)【要約】
【課題】絶縁シートに対し高い含浸性を有し、硬化後はクラックなどを生じない機械特性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】グリシジルエーテル化合物(a)、希釈剤(b)、ならびに、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素アミン錯体、およびオクチル酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の潜在性硬化剤(c)を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記グリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対して、前記希釈剤(b)の量は1質量部以上30質量部未満であり、前記潜在性硬化剤(c)の量は0.0005~5質量部である、熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルエーテル化合物(a)、希釈剤(b)、ならびに、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素アミン錯体、およびオクチル酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の潜在性硬化剤(c)を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記グリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対して、前記希釈剤(b)の量は1質量部以上30質量部未満であり、前記潜在性硬化剤(c)の量は0.0005~5質量部である、
熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記グリシジルエーテル化合物(a)が芳香族グリシジルエーテル化合物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族グリシジルエーテル化合物が、ビスフェノール型エポキシ化合物、およびフェノールノボラック型エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
絶縁シートへの含浸性が20重量%以上であり、
110℃でのゲルタイムが60分以上であり、かつ
DSCにより測定される硬化発熱量が300J/g以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
使用直前に混合する二液硬化型である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
第1液と第2液とを組み合わせた熱硬化性樹脂組成物であって、
前記第1液は、前記グリシジルエーテル化合物(a)の少なくとも一部を含み、
前記第2液は、前記希釈剤(b)の少なくとも一部、および前記潜在性硬化剤(c)の少なくとも一部を含む、
請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
電気絶縁部材用の、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
RIP(Resin Impregnated Paper:樹脂含浸紙)コンデンサブッシング用の、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物。
【請求項10】
曲げ歪み率が5%以上であり、応力緩和性が25℃で5%以上、60℃で10%以上、かつ80℃で15%以上である、
請求項9に記載の硬化物からなる電気絶縁部材。
【請求項11】
RIP(Resin Impregnated Paper:樹脂含浸紙)コンデンサブッシングである、請求項10に記載の電気絶縁部材。
【請求項12】
IEC60137に適合する、請求項11に記載の電気絶縁部材。
【請求項13】
グリシジルエーテル化合物(a)の少なくとも一部を含む第1液と、
希釈剤(b)の少なくとも一部、および潜在性硬化剤(c)の少なくとも一部を含む第2液とを混合する工程を含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により熱硬化性樹脂組成物を製造する工程、および、
該熱硬化性樹脂組成物を100℃以上で硬化させる工程
を含む、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その良好な機械特性や高い比抵抗のため、電気絶縁用部材、半導体封止材料、接着剤などの用途に用いられる。このうち、変圧器ブッシングなどの屋外電気絶縁用途においては、成形品の大きさが10mを超えることがあり、硬化時のひずみの影響が表れやすいため、部材には十分な機械特性が求められる。また、ブッシングを構成するコンデンサコアは、アルミ箔と絶縁シートからなる積層体に樹脂を含浸させて硬化させて製造されており、樹脂組成物は絶縁シートに対し高い含浸性を有することが求められる。
【0003】
エポキシ樹脂の硬化剤として、フタル酸などの酸無水物が広く利用されている。しかし、酸無水物は目や鼻などの粘膜に対する刺激が強く、アレルギー性鼻炎や喘息などの疾患を引き起こすおそれがあるため、規制対象となりつつある。
【0004】
特許文献1では、グリシジルエーテル化合物の硬化剤として、酸無水物に代えて三塩化ホウ素アミン錯体などを使用している。しかし、三塩化ホウ素アミン錯体は常温で固体であるため、硬化反応を制御しにくく、制御するためには硬化反応前に予備加熱して溶解し、均一に分散する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、絶縁シートに対し高い含浸性を有し、硬化後はクラックなどを生じない機械特性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱硬化性樹脂組成物に、希釈剤(b)を所定量配合することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、グリシジルエーテル化合物(a)、希釈剤(b)、ならびに、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素アミン錯体、およびオクチル酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の潜在性硬化剤(c)を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記グリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対して、前記希釈剤(b)の量は1質量部以上30質量部未満であり、前記潜在性硬化剤(c)の量は0.0005~5質量部である、熱硬化性樹脂組成物に関する。
【0009】
前記グリシジルエーテル化合物(a)が芳香族グリシジルエーテル化合物であることが好ましい。
【0010】
前記芳香族グリシジルエーテル化合物が、ビスフェノール型エポキシ化合物、およびフェノールノボラック型エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0011】
前記熱硬化性樹脂組成物は、絶縁シートへの含浸性が20重量%以上であり、110℃でのゲルタイムが60分以上であり、かつ、DSCにより測定される硬化発熱量が300J/g以下であることが好ましい。
【0012】
前記熱硬化性樹脂組成物は、使用直前に混合する二液硬化型であることが好ましい。
【0013】
前記熱硬化性樹脂組成物は、第1液と第2液とを組み合わせた熱硬化性樹脂組成物であって、前記第1液は、前記グリシジルエーテル化合物(a)の少なくとも一部を含み、前記第2液は、前記希釈剤(b)の少なくとも一部、および前記潜在性硬化剤(c)の少なくとも一部を含むことが好ましい。
【0014】
前記熱硬化性樹脂組成物は、電気絶縁部材用であることが好ましい。
【0015】
前記熱硬化性樹脂組成物は、RIP(Resin Impregnated Paper:樹脂含浸紙)コンデンサブッシング用であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物に関する。
【0017】
また、本発明は、曲げ歪み率が5%以上であり、応力緩和性が25℃で5%以上、60℃で10%以上、かつ80℃で15%以上である、前記硬化物からなる電気絶縁部材に関する。
【0018】
前記電気絶縁部材は、RIP(Resin Impregnated Paper:樹脂含浸紙)コンデンサブッシングであることが好ましい。
【0019】
前記電気絶縁部材は、IEC60137に適合することが好ましい。
【0020】
また、本発明は、グリシジルエーテル化合物(a)の少なくとも一部を含む第1液と、希釈剤(b)の少なくとも一部、および潜在性硬化剤(c)の少なくとも一部を含む第2液とを混合する工程を含む、前記熱硬化性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0021】
また、本発明は、前記方法により熱硬化性樹脂組成物を製造する工程、および、該熱硬化性樹脂組成物を100℃以上で硬化させる工程を含む、硬化物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、絶縁シートに対し高い含浸性を有し、硬化後はクラックなどを生じず、機械特性に優れており、変圧器ブッシングなどの電気絶縁部材に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<<熱硬化性樹脂組成物>>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、グリシジルエーテル化合物(a)、希釈剤(b)、ならびに、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素アミン錯体、およびオクチル酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の潜在性硬化剤(c)を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記グリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対して、前記希釈剤(b)の量は1質量部以上30質量部未満であり、前記潜在性硬化剤(c)の量は0.0005~5質量部であることを特徴とする。
【0024】
<グリシジルエーテル化合物(a)>
グリシジルエーテル化合物(a)としては、例えば、芳香族グリシジルエーテル化合物、脂肪族グリシジルエーテル化合物、脂環族グリシジルエーテル化合物などが挙げられる。これらのグリシジルエーテル化合物は、ポリオール骨格(残基)またはモノオール骨格(残基)と、この骨格に導入されたグリシジルエーテル基とを有する。ポリオール骨格を有するグリシジルエーテル化合物において、ポリオールの全てのヒドロキシ基がグリシジルエーテル基に置換されていてもよく、ポリオールの一部のヒドロキシ基がグリシジルエーテル基に置換されていてもよい。
【0025】
グリシジルエーテル化合物(a)としては、少なくともポリオールポリグリシジルエーテルを用いることが好ましく、ポリオールポリグリシジルエーテルと、モノオールモノグリシジルエーテルおよび/またはポリオールモノグリシジルエーテルと、を組み合わせてもよい。グリシジルエーテル化合物(a)に占めるポリオールポリグリシジルエーテルの割合は、例えば、80~100質量%であり、90~100質量%または80~95質量%であってもよい。
【0026】
芳香族グリシジルエーテル化合物としては、例えば、芳香族モノオール骨格や芳香族ポリオール骨格を有するものが挙げられる。芳香族グリシジルエーテル化合物としては、芳香族ポリオールのグリシジルエーテルの他、ビスフェノール型エポキシ化合物(いわゆるビスフェノール型エポキシ樹脂)、およびフェノールノボラック型エポキシ化合物(いわゆるフェノールノボラック型エポキシ樹脂)などが例示される。芳香族ポリオールとしては、例えば、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレンなどのポリヒドロキシアレーン;ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールFなどのビスフェノールなどが挙げられる。
【0027】
脂肪族グリシジルエーテルとしては、脂肪族ポリオール骨格を有するものが好ましく、例えば、ポリヒドロキシアルカングリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールグリシジルエーテルなどが例示できる。ポリヒドロキシアルカングリシジルエーテルとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールグリシジルエーテルとしては、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシエチレンジグリシジルエーテルなどのポリC2-4アルキレングリコールグリシジルエーテルなどが例示できる。
【0028】
脂環族グリシジルエーテル化合物としては、脂環族ポリオール骨格を有するものが好ましく、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどのポリヒドロキシシクロアルカングリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルなどのポリシクロアルカンポリアルキルアルコールグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0029】
グリシジルエーテル化合物(a)は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化物の強度をさらに高める観点からは、グリシジルエーテル化合物(a)は、少なくとも芳香族グリシジルエーテル化合物を含むことが好ましい。中でも、芳香族グリシジルエーテル化合物として、ビスフェノール型エポキシ化合物、およびフェノールノボラック型エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0030】
グリシジルエーテル化合物(a)は、室温(25~30℃)で固形のものでもよいが、室温で液状のものを少なくとも用いることが好ましい。また、室温で固形のグリシジルエーテル化合物を用いると、硬化時の発熱を抑制することができるため、室温で液状のグリシジルエーテル化合物と室温で固形のグリシジルエーテル化合物とを組み合わせてもよい。室温で液状のグリシジルエーテル化合物の重量平均分子量は、例えば、600未満であり、340~500であることが好ましい。室温で固形のグリシジルエーテル化合物の重量平均分子量は、例えば、600以上であり、700~5000であることが好ましい。なお、本明細書中、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン基準の重量平均分子量を言うものとする。
【0031】
グリシジルエーテル化合物(a)のエポキシ当量は、例えば、150mmol/kg~600mmol/kgであり、150mmol/kg~500mmol/kgであることが好ましい。
【0032】
熱硬化性樹脂組成物中の、グリシジルエーテル化合物(a)の含有量は特に限定されないが、60~99質量%が好ましく、70~97質量%がより好ましく、75~95質量%がさらに好ましい。60質量%未満では硬化物の機械特性が不足する傾向があり、99質量%を超えると急激な硬化反応により硬化物にひずみが生じる傾向がある。
【0033】
<希釈剤(b)>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、希釈剤(b)を含むことにより絶縁シートに対し高い含浸性を有し、硬化物は機械特性に優れる。希釈剤(b)は、反応性希釈剤、非反応性希釈剤のいずれも用いることができる。
【0034】
反応性希釈剤(b)は、グリシジルエーテル化合物(a)および潜在性硬化剤(c)と重合しつつ硬化反応を制御でき、樹脂組成物の含浸性を向上できる物質であり、低粘度エポキシ化合物が好ましく、単官能または二官能の低粘度エポキシ化合物がより好ましい。このような反応性希釈剤(b)の具体例として、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(EO)5グリシジルエーテル、C12~13アルコールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でもp-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが好ましい。これらの反応性希釈剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
反応性希釈剤(b)の分子量は特に限定されないが、50~1900が好ましく、100~1000がより好ましい。
【0036】
非反応性希釈剤(b)は、グリシジルエーテル化合物(a)および潜在性硬化剤(c)とは重合せずに硬化反応を制御でき、樹脂組成物の含浸性を向上できる物質であれば特に限定されないが、例えばポリオキシアルキレングリコール、酸エステルが挙げられる。
【0037】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。酸エステルとしては、フタル酸エステル、リン酸エステル、カルボン酸エステル等が挙げられる。フタル酸エステルの具体例としては、フタル酸ジメチルが挙げられる。リン酸エステルの具体例としてはポリエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらの非反応性希釈剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
非反応性希釈剤(b)の分子量は特に限定されないが、50~1900が好ましく、100~1000がより好ましい。
【0039】
希釈剤(b)の含有量は、グリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対し1質量部以上30質量部未満であるが、3~25質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましい。含有量が1質量部未満では、希釈効果が不十分となる結果、熱硬化性樹脂組成物の液安定性が低下することがあり、30質量部以上では硬化物の撥水性や耐候性が不十分となることがある。
【0040】
<潜在性硬化剤(c)>
潜在性硬化剤(c)は、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素アミン錯体、およびオクチル酸亜鉛からなる群から選択される。これらの潜在性硬化剤(c)は、高温短時間での硬化および長期貯蔵安定性を両立した硬化剤である。また、これらの潜在性硬化剤(c)は、均一分散でき、得られる硬化物は機械特性と電気特性に優れるため、絶縁シートへの含浸性が求められるコンデンサブッシングの用途に適する。これらの潜在性硬化剤(c)は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
潜在性硬化剤(c)の量は、グリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対して0.0005~5質量部であるが、0.1~3質量部であることが好ましく、0.1~1質量部であることがより好ましい。潜在性硬化剤(c)の量をこのような範囲とすることで、高いTgを確保でき、機械特性をさらに高めることができる。また、潜在性硬化剤(c)の量が0.005~3質量部のときには硬化発熱を抑えて反応を穏やかに進行させることができる。硬化速度を望ましい硬化時間に制御する観点からは、潜在性硬化剤(c)の量は、0.1質量部以上であることが好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0042】
<任意成分>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、グリシジルエーテル化合物(a)、希釈剤(b)、潜在性硬化剤(c)以外に、消泡剤、エラストマー、グリシジル基含有ポリシロキサン等の任意成分を含んでいてもよい。
【0043】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤、高分子系消泡剤等が挙げられる。消泡剤を含む場合、その含有量は硬化性樹脂組成物中、1~500ppmが好ましく、1~200ppmがより好ましい。500ppmを超えると相分離や析出することがあり、1ppm未満では消泡効果が不十分となることがある。
【0044】
エラストマーとしては、ポリブタジエン、アクリレート等が挙げられる。エラストマーの形状は、特に限定されないが、例えば、コアシェル粒子状、液状、粒子状等が挙げられる。これらの中では、分散性及び強度に優れることから、コアシェル粒子状であることが好ましい。エラストマーを含む場合、その含有量はグリシジルエーテル化合物(a)100質量部に対し1~50質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましい。50質量部を超えると機械特性や電気特性が低下することがあり、1質量部未満では硬化物の物性を十分に調節できない傾向がある。
【0045】
<熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
熱硬化性樹脂組成物は、グリシジルエーテル化合物(a)、希釈剤(b)、および潜在性硬化剤(c)を含む限り、その製造方法は特に限定されず、これらの成分を任意の順序で混合することができる。下記のように、熱硬化性樹脂組成物を二液硬化型とする場合には、グリシジルエーテル化合物(a)の少なくとも一部を含む第1液と、希釈剤(b)の少なくとも一部、および潜在性硬化剤(c)の少なくとも一部を含む第2液とを混合する工程を含むことが好ましい。
【0046】
<二液硬化型の熱硬化性樹脂組成物>
熱硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性の観点から、使用直前に混合する二液硬化型とすることが好ましい。二液硬化型の熱硬化性樹脂組成物は、第1液と第2液との組み合わせからなる。前記第1液は、前記グリシジルエーテル化合物(a)の少なくとも一部を含み、前記第2液は、前記希釈剤(b)の少なくとも一部、および前記潜在性硬化剤(c)の少なくとも一部を含むことが好ましい。第2液に含まれる希釈剤(b)は、熱硬化性樹脂組成物に含まれる希釈剤(b)全量の50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましいい。
【0047】
特に、前記第2液は、潜在性硬化剤(c)を希釈剤(b)に溶解させたものであることが好ましい。潜在性硬化剤(c)が単体で固体である場合でも、潜在性硬化剤(c)の液体状態での貯蔵安定性を維持することができ、硬化後の収縮を抑制することができるからである。希釈剤(b)と混合した後に潜在性硬化剤(c)が結晶化する場合には、使用前に加温融解してもよい。また、後述するように、絶縁シートに本発明の熱硬化性樹脂組成物を含浸させて屋外ブッシングのコンデンサコアを製造する際に、希釈剤(b)に溶解させた潜在性硬化剤(c)を使用すると、潜在性硬化剤(c)の絶縁シートへの含浸性を向上できる。第2液が潜在性硬化剤(c)を含む場合、消泡剤、エラストマー、グリシジルエステル化合物、グリシジル基含有ポリシロキサン等の任意成分は、第1液に含まれることが好ましい。
【0048】
<熱硬化性樹脂組成物の物性>
熱硬化性樹脂組成物の25℃における(a)成分、(b)成分、および(c)成分の混合物の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、6000mPa・s以下がより好ましい。25℃における粘度の下限は特に限定されないが、一般的に1000mPa・sである。粘度はBrookfield粘度計等により測定できる。
【0049】
熱硬化性樹脂組成物の110℃におけるゲルタイムは60分以上が好ましく、100分以上がより好ましく、200分以上がさらに好ましく、600分以上がさらにより好ましい。ゲルタイムはトルク式ゲルタイム試験機(安田精機)等により測定できる。
【0050】
熱硬化性樹脂組成物の硬化発熱量は、300J/g以下が好ましく、200J/g以下がより好ましく、100J/g以下がさらに好ましい。硬化発熱量はDSCを用いて測定できる。
【0051】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は絶縁シートへの含浸性に優れる。含浸性は、ろ紙法により評価する。具体的には、直径185mm、厚み0.2mmの定量ろ紙No.5C(東洋濾紙社製)を8分割に折り、その中に硬化性樹脂組成物を10g投入して台座に設置し、オーブン中で100℃、3時間の熱処理を行う。熱処理の間にろ紙から台座に滴下した樹脂組成物の量は、投入した硬化性樹脂組成物の20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
特に、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、絶縁シートへの含浸性が20重量%以上であり、110℃でのゲルタイムが60分以上であり、かつDSCにより測定される硬化発熱量が300J/g以下であることが好ましい。
【0053】
<電気絶縁部材用途>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、変電設備や送電設備といった屋外・屋内設備におけるコンデンサブッシング、モールドトランス、支持碍子等の電気絶縁部材の用途に好適に使用することができる。特に、絶縁シートに熱硬化性樹脂組成物を含浸させて製造される、RIP(Resin Impregnated Paper:樹脂含浸紙)コンデンサブッシング用途に好適であり、IEC 60137に適合することが最も好ましい。
【0054】
コンデンサブッシングはポリマー碍管、中心導体、中心導体の周囲に形成される電界緩和用のコンデンサコアからなる。コンデンサコアは、アルミ箔と絶縁シートからなる積層体の絶縁シート部分に、本発明の熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、硬化させることにより得られる。絶縁シートは不織布、絶縁紙などからなり、その構成材料はセルロースなどである。絶縁シートはアルミ箔と積層され、さらに巻かれた状態で樹脂を含浸させるため、樹脂組成物には高い含浸性が求められるが、発明の硬化性樹脂組成物はこのような絶縁シートに対しても優れた含浸性を示す。本発明の熱硬化性樹脂組成物の、絶縁シートへの含浸は、真空状態で含浸させる真空含浸法や、真空後に加圧を行う真空加圧含浸法により行うことができる。硬化条件については後述する。
【0055】
<<硬化物>>
本発明の硬化物は、前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させることにより得られる。硬化温度は特に限定されないが、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。100℃未満では硬化不良となることがあり、180℃を超えると硬化物の物性が損なわれることがある。また、硬化のための加熱時間は2時間以上であることが好ましく、5時間以上であることがより好ましく、10時間以上であることがさらに好ましい。2時間未満では、大型の電気絶縁部材を製造する場合には硬化不良となることがあり、48時間を超えると生産性が低下する傾向がある。
【0056】
硬化物のガラス転移点(Tg)は特に限定されないが、90℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。
【0057】
硬化物の曲げ強度は80N/mm2以上が好ましく、90N/mm2以上がより好ましい。曲げ強度はJIS K-7171に準拠して測定される。
【0058】
硬化物の曲げ弾性率は2000MPa以上が好ましく、2500MPa以上がより好ましい。曲げ弾性率はJIS K-7171に準拠して測定される。
【0059】
硬化物の曲げ歪み率は4%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、6%以上がさらに好ましい。曲げ歪み率はJIS K-7171に準拠して測定される。
【0060】
硬化物は、耐クラック性に優れる。一般的に、硬化物を、RIP(Resin Impregnated Paper:樹脂含浸紙)コンデンサブッシングなどの大型の電気絶縁部材に使用する場合、硬化時に発生する硬化収縮による硬化応力と、硬化温度から室温までの冷却時に周辺部材との熱膨張係数の差に起因して発生する熱応力の2つを合わせた応力が発生する。この応力が材料界面の一部に集中して材料強度を上回ると、剥離やクラックなどの破壊を引き起こす。本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、特に大型の絶縁部材に用いてもこのような破壊が生じにくい。耐クラック性は、スプリングワッシャー試験により評価する。スプリングワッシャー試験では、離型処理したφ40、深さ10mmのティン缶に、Cワッシャーを硬化性樹脂組成物に完全に沈むように流し込み、加熱して硬化させる。硬化後、室温に冷却された後の硬化物に生じるクラック・剥離の大きさと数を評価する。
【0061】
硬化物は、応力緩和に優れる。一般的に、樹脂硬化物単体に一定歪みを与えると、硬化物の粘弾性特性に従い、発生した硬化物の内部応力を緩和する挙動を示す。応力緩和に優れる硬化物は、大型部材としたときにもクラックや剥離などが生じにくい。応力緩和は、装置RSA3(TA社製)を使用して、硬化物を3点曲げにて0.1mm/sの変形速度で10秒間変形させ、一定歪みを与え、最大応力から5分間で減じる応力緩和(%)により評価できる。応力緩和は25℃で5%以上が好ましく、60℃で10%以上が好ましく、80℃で15%以上が好ましい。
【0062】
<<硬化物の製造方法>>
本発明の硬化物の製造方法は、前記熱硬化性樹脂組成物を100℃以上で硬化させる工程を含む。硬化温度と硬化のための加熱時間は前述した通りである。前記硬化工程の前に、グリシジルエーテル化合物(a)および反応性希釈剤または非反応性希釈剤(b)の少なくとも一部を含む第1液と、前記グリシジルエーテル化合物(a)、反応性希釈剤または前記非反応性希釈剤(b)の残部、および潜在性硬化剤(c)を含む第2液とを混合する工程を含むことが好ましい。
【実施例0063】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「質量部」又は「質量%」を意味する。
【0064】
(使用材料)
下記の実施例及び比較例においては、以下の材料を使用した。
・グリシジルエーテル化合物(a)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、JER828)
・反応性稀釈剤(b)
p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、DEX146)
1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、DEX212)
・非反応性希釈剤(b)
ポリエチレングリコール(三洋化成社製、PEG200)
ポリエチレングリコール(日油社製、PEG400)
ポリエチレングリコール(三洋化成社製、PEG1000)
ポリエチレングリコール(三洋化成社製、PEG2000)
ポリプロピレングリコール(三洋化成社製、PP400)
・潜在性硬化剤(c)
三塩化ホウ素モノオクチルアミン(ナガセケムテックス社製、HY9577)
・シリコーン消泡剤
ジメチルポリシロキサン(ダウ・東レ社製、SLSH5500)
【0065】
(評価方法)
・熱硬化性樹脂組成物の粘度、ゲルタイム、硬化物の機械特性は下記の装置により測定した。なお、熱硬化性樹脂組成物の粘度については、(a)成分の粘度、(b)成分と(c)成分の混合物の粘度、(a)成分、(b)成分、および(c)成分の混合物の粘度を測定した。
熱硬化性樹脂組成物の粘度:ブルックフィールド粘度計
熱硬化性樹脂組成物のゲルタイム:トルク式ゲルタイマー(安田精機)
硬化物のガラス転移温度(Tg):メトラー社DSC823e
【0066】
・硬化物の機械特性は、下記の基準により測定した。
曲げ強度:ASTM D790/JIS K7171
曲げ弾性率:ASTM D790/JIS K7171
曲げ歪み率:ASTM D790/JIS K7171
【0067】
・ろ紙への含浸性
直径185mm、厚み0.2mmの定量ろ紙No.5C(東洋濾紙社製)を8分割に折り、その中に硬化性樹脂組成物を10g投入して台座に設置し、オーブン中で100℃、3時間の熱処理を行った。熱処理の間にろ紙から台座に滴下した樹脂組成物の量(重量%)を測定した。
【0068】
・スプリングワッシャー試験
離型処理したφ40、深さ10mmのティン缶に、脱脂洗浄したCワッシャー(JIS2号(M12))を入れた。その後、硬化性樹脂組成物を、Cワッシャーが完全に沈むように流し込み140℃で1時間、その後150℃で16時間加熱して硬化させた。硬化後、室温になるまで1時間放置した後の硬化物を目視で観察し、クラック・剥離の大きさと数に基づき、下記の基準で評価した(n=3)。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、評価が〇、または△であることが好ましい。
○:クラックは発生しない
△:クラックは発生するがワッシャー内部の小さなクラックに留まる
×:樹脂封止部分を大きく分離するようにクラックが発生する
【0069】
・応力緩和性
装置名RSA3(TA社製)を使用して、硬化物を3点曲げにて0.1mm/sの変形速度で10秒間変形させ、一定歪みを与えた。最大応力から5分間で減じる応力緩和(%)を測定した。
【0070】
(実施例1~8、比較例1)
下記表1に示す重量比で潜在性硬化剤(c)を反応性希釈剤(b)または非反応性希釈剤(b)に60℃で溶解させた。その後、残りの成分を混合し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0071】
各熱硬化性樹脂組成物を金型に注型した後、150℃で16時間加熱することにより硬化させて硬化物を得た。硬化物の物性の評価結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
(実施例2-1~2~10、比較例2)
表1の実施例2をもとに、潜在性硬化剤(c)とシリコーン消泡剤の重量比を表2に示すように変更した以外は、実施例1~8と同様にして熱硬化性樹脂組成物を製造した。熱硬化性樹脂組成物の物性の評価結果を表2に示す。なお、表1の実施例2の結果を、表2で実施例2-7として再掲する。
【0074】
【0075】
表1~2に示すように、実施例1~8、実施例2-1~2-10の熱硬化性樹脂組成物は比較的低粘度であった。特に、実施例1~8の熱硬化性樹脂組成物は絶縁シートへの含浸性が20重量%以上であり、110℃でのゲルタイムが60分以上であり、かつDSCにより測定される硬化発熱量が300J/g以下であり、その硬化物は機械特性に優れていた。比較例1の熱硬化性樹脂組成物は粘度が高く、その硬化物は機械特性が十分ではなかった。比較例2の熱硬化性樹脂組成物は潜在性硬化剤(c)を多量に含むため、ゲルタイムが短く、ろ紙への含浸性が低かった。