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特開2023-101296長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法及び同定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101296
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法及び同定システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20230712BHJP
   G01M 7/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
G01H17/00 D
G01M7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001847
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松岡 弘大
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB12
2G064CC43
2G064CC46
2G064DD23
(57)【要約】
【課題】現地での試験によって長尺構造物の波動伝搬特性を適切に同定する。
【解決手段】レールの複数の加振点を加振し(ステップS11)、当該加振点における加振力を計測する(ステップS12)とともに、レールの計測点において、加振点の加振によりレールを伝搬する波動の加速度を計測する(ステップS13)。加振力と加速度に基づいて、計測点における加速度の周波数応答関数を導出する(ステップS14)。周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する(ステップS15)。空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、波動の波長と波動の周波数との関係を同定する(ステップS16)。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺構造物を伝搬する波動の特性を同定する方法であって、
前記長尺構造物の複数の加振点を加振し、当該加振点における加振力を計測する工程と、
前記長尺構造物の計測点において、前記加振点の加振により前記長尺構造物を伝搬する波動の加速度を計測する工程と、
前記加振力と前記加速度に基づいて、前記計測点における加速度の周波数応答関数を導出する工程と、
前記周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する工程と、
前記空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、前記波動の波長と前記波動の周波数との関係を同定する工程と、
を含むことを特徴とする、長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法。
【請求項2】
前記加速度をウェーブレット変換するとともに、前記加振力をウェーブレット変換し、前記加速度のウェーブレット係数を前記加振力のウェーブレット係数で除して基準化ウェーブレット係数を算出し、更に当該基準化ウェーブレット係数から基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する工程と、
2点の前記加振点に対する前記基準化ウェーブレットパワースペクトルのピークが生じるピーク時間を導出する工程と、
前記2点の加振点に対する前記ピーク時間と、前記2点の加振点間の距離とに基づいて、前記波動の群速度を同定する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法。
【請求項3】
前記加速度をウェーブレット変換するとともに、前記加振力をウェーブレット変換し、前記加速度のウェーブレット係数を前記加振力のウェーブレット係数で除して基準化ウェーブレット係数を算出し、更に当該基準化ウェーブレット係数から基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する工程と、
2点の前記加振点に対する前記基準化ウェーブレットパワースペクトルのピーク値を導出する工程と、
前記2点の加振点に対する前記ピーク値と、前記2点の加振点間の距離とに基づいて、前記波動の距離減衰を同定する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法。
【請求項4】
前記計測点は、前記長尺構造物において1点に設けられていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法。
【請求項5】
前記長尺構造物は、移動体が移動するレールであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法。
【請求項6】
長尺構造物を伝搬する波動の特性を同定するシステムであって、
前記長尺構造物の複数の加振点における加振力を計測する加振力計測装置と、
前記長尺構造物の計測点において、前記加振点の加振により前記長尺構造物を伝搬する波動の加速度を計測する加速度計測装置と、
前記加振力と前記加速度に基づいて、前記波動の波長と前記波動の周波数との関係を同定する波動伝搬特性同定装置と、
を備え、
前記波動伝搬特性同定装置は、
前記加振力と前記加速度に基づいて、前記計測点における加速度の周波数応答関数を導出する周波数応答関数導出部と、
前記周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する空間周波数分布取得部と、
前記空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、前記波動の波長と前記波動の周波数との関係を同定する波長周波数関係同定部と、
を備えることを特徴とする、長尺構造物の波動伝搬特性の同定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法及び同定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が走行するレールの波動伝搬は、車輪とレール間の相互作用力に大きく影響する。この結果、鉄道における転動音やレールの波状摩耗が引き起こされる場合がある。換言すれば、レールの波動伝搬特性は、これら転動音や波状摩耗の形成機構に関連する。そこで従来、レールの波動伝搬特性を同定すべく、多くの検討が進められている。
【0003】
但し、従来の検討の多くは、数値解析又は実験室における実験により行われており、実路線のレールに関して現地で波動伝搬特性が同定された事例はほとんどない。例えば非特許文献1及び非特許文献2に開示されているように、一般的には、実験室のレールに複数の加速度計(センサ)を設置して、波動伝搬特性を同定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zhang, P., Li, S., Nunez, A.,& Li, Z. (2021). Multimodaldispersive waves in a free rail: Numerical modeling and experimentalinvestigation. Mechanical Systems and Signal Processing, 150, 107305.
【非特許文献2】Zhang, P., Li, S., Nunez, A., & Li, Z. (2021). Vibration modesand wave propagation of the rail under fastening constraint. Mechanical Systemsand Signal Processing, 160, 107933.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レールを伝搬する波動の波長は短い(例えば、2締結分程度)ため、波動伝搬特性を同定するためには、レールに多数のセンサを設置する必要がある。このため、現地で波動伝搬特性を同定するのが現実的に困難であった。
【0006】
実際に非特許文献2では、9点の比較的多数のセンサを用いているが、それでもセンサ数の不足を課題として挙げている。更に非特許文献2では、これら複数のセンサを用いた実験室での実験に加えて、数値解析を援用して波動伝搬特性、特に波動の波長と波動の周波数との関係を同定している。したがって、現地で波動伝搬特性を同定するには至っていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、現地での試験によって長尺構造物の波動伝搬特性を適切に同定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、長尺構造物を伝搬する波動の特性を同定する方法であって、前記長尺構造物の複数の加振点を加振し、当該加振点における加振力を計測する工程と、前記長尺構造物の計測点において、前記加振点の加振により前記長尺構造物を伝搬する波動の加速度を計測する工程と、前記加振力と前記加速度に基づいて、前記計測点における加速度の周波数応答関数を導出する工程と、前記周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する工程と、前記空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、前記波動の波長と前記波動の周波数との関係を同定する工程と、を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明では、多点加振と相反定理を利用して波動伝搬特性を同定する。相反定理を用いることで、加振点と計測点を入れ換えることが可能である。すなわち、従来のように多数のセンサを設置する代わりに、これらのセンサ設置点を加振することで、模擬的に多点計測と等価な情報が得られる。具体的に本発明では、複数の加振点における加振力と計測点における加速度に基づいて加速度の周波数応答関数を導出するが、この多点加振による周波数応答関数は、多点計測による周波数応答関数と等しくなる。そして、導出された周波数応答関数から、波動伝搬特性を同定することができる。
【0010】
このように本発明によれば、従来はセンサ数の制約等により実証が困難とされていた、現地での試験による長尺構造物の波動伝搬特性の同定が可能となる。その結果、数値解析や実験室で得られる一般的な知見に加え、各現場や各長尺構造物に固有の条件に基づく影響を分析することができる。また、実物の波動伝搬の観点で、対策効果の検証を行うこともできる。
【0011】
しかも本発明によれば、計測点は少なくとも1点であればよいため、簡素な計測システム構成で多点計測と等価な情報を得ることができる。また、計測点が減少することで、計測のための準備作業を縮減できるという利点も有する。
【0012】
更に、本発明における波動伝搬特性は、波動の波長と波動の周波数との関係(以下、「波長周波数関係」という。)である。具体的には、周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得し、当該空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、波長周波数関係を同定することができる。この波長周波数関係は特に長尺構造物としてのレールの波状摩耗に関連するため、本発明のように波長周波数関係を同定することは有用な情報となる。
【0013】
前記長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法は、前記加速度をウェーブレット変換するとともに、前記加振力をウェーブレット変換し、前記加速度のウェーブレット係数を前記加振力のウェーブレット係数で除して基準化ウェーブレット係数を算出し、更に当該基準化ウェーブレット係数から基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する工程と、2点の前記加振点に対する前記基準化ウェーブレットパワースペクトルのピークが生じるピーク時間を導出する工程と、前記2点の加振点に対する前記ピーク時間と、前記2点の加振点間の距離とに基づいて、前記波動の群速度を同定する工程と、を含んでいてもよい。
【0014】
前記長尺構造物の波動伝搬特性の同定方法は、前記加速度をウェーブレット変換するとともに、前記加振力をウェーブレット変換し、前記加速度のウェーブレット係数を前記加振力のウェーブレット係数で除して基準化ウェーブレット係数を算出し、更に当該基準化ウェーブレット係数から基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する工程と、2点の前記加振点に対する前記基準化ウェーブレットパワースペクトルのピーク値を導出する工程と、前記2点の加振点に対する前記ピーク値と、前記2点の加振点間の距離とに基づいて、前記波動の距離減衰を同定する工程と、を含んでいてもよい。
【0015】
前記計測点は、前記長尺構造物において1点に設けられていてもよい。
【0016】
前記長尺構造物は、移動体が移動するレールであってもよい。
【0017】
別な観点による本発明は、長尺構造物を伝搬する波動の特性を同定するシステムであって、前記長尺構造物の複数の加振点における加振力を計測する加振力計測装置と、前記長尺構造物の計測点において、前記加振点の加振により前記長尺構造物を伝搬する波動の加速度を計測する加速度計測装置と、前記加振力と前記加速度に基づいて、前記波動の波長と前記波動の周波数との関係を同定する波動伝搬特性同定装置と、を備え、前記波動伝搬特性同定装置は、前記加振力と前記加速度に基づいて、前記計測点における加速度の周波数応答関数を導出する周波数応答関数導出部と、前記周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する空間周波数分布取得部と、前記空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、前記波動の波長と前記波動の周波数との関係を同定する波長周波数関係同定部と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、現地での試験によって長尺構造物の波動伝搬特性を適切に同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態にかかる同定対象のレールの構成の概略を示す側面図である。
図2】本実施形態にかかる同定対象のレールの構成の概略を示す平面図である。
図3】本実施形態にかかる波動伝搬特性同定システムの構成の概略を示す説明図である。
図4】レールにおける加速度計の設置位置を示す説明図である。
図5】第1の実施形態にかかるデバイスの演算部の構成の概略を示す説明図である。
図6】第1の実施形態にかかる波長周波数関係の同定方法の主な工程を示すフロー図である。
図7】第1の実施形態において周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布の一例を示す説明図である。
図8】第1の実施形態にかかる空間周波数(波数)周波数関係の一例を示す説明図である
図9】第1の実施形態にかかる波長周波数関係の一例を示す説明図である。
図10】一の加振点を加振した際の加速度と、加速度のウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。
図11】一の加振点を加振した際の加振力と、加振力のウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。
図12】複数の加振点における加振力のスペクトルのばらつきの一例を示す説明図である。
図13】各周波数の加速度の基準化ウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。
図14】各周波数の加速度の基準化ウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。
図15】第2の実施形態にかかるデバイスの演算部の構成の概略を示す説明図である。
図16】第2の実施形態にかかる群速度の同定方法の主な工程を示すフロー図である。
図17】第2の実施形態にかかる群速度の同定方法を示す説明図である。
図18】第3の実施形態にかかるデバイスの演算部の構成の概略を示す説明図である。
図19】第3の実施形態にかかる距離減衰の同定方法の主な工程を示すフロー図である。
図20】第3の実施形態にかかる距離減衰の同定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
<対象レール>
本実施形態では、長尺構造物としてのレールの波動伝搬特性を同定する。図1は、同定対象のレール1の構成の概略を示す側面図である。図2は、同定対象のレール1の構成の概略を示す平面図である。
【0022】
レール1は、移動体としての鉄道車両が走行する、実路線に設けられたレールである。レール1は、鋼鉄道橋2上に締結装置3(例えば、バネ式締結装置)を介して直接敷設されている。したがって、レール1の波動伝搬特性を同定するにあたって、枕木やバラスト等の影響は存在しない。レール1は直線区間であり、ロングレール化されていることから、レール端部の影響が小さい無限縁梁とする。また、鋼鉄道橋2のI桁はレール1よりも十分に剛性が高く、レール1との振動連成については無視する。
【0023】
本実施形態では、以上の実路線のレール1に対して、多点加振を利用して波動伝搬特性を同定する。すなわち、レール1における複数の加振点mを加振し、レール1における1点の計測点lで波動の加速度を計測する。図2において、加振点mを「●」で示し、計測点lを「〇」で示す。複数の加振点mは、例えば締結部直上及び締結間中央に設定される。1点の計測点lは、例えば一の加振点mと同じ位置に設定される。
【0024】
<波動伝搬特性同定システム>
図3は、本実施形態にかかる波動伝搬特性同定システム10の構成の概略を示す説明図である。波動伝搬特性同定システム10は、加振点mの加振によりレール1を伝搬する波動の特性を同定する。
【0025】
波動伝搬特性同定システム10は、ハンマ20、アンプ21、加速度計30、アンプ31、AD変換器40、通信装置50、及びデバイス60を有している。
【0026】
ハンマ20は、例えばセンサを内蔵したインパルスハンマであり、本発明における加振力計測装置に相当する。ハンマ20は、レール1の複数の加振点mを加振するのに用いられる。具体的にハンマ20による加振は、レール1のレールヘッドに対して、列車通過インターバルで実施される。また、加振は鉛直方向に行う。ハンマ20は、加振点mの加振時の加振力を計測して、加振力信号を出力する。加振力信号はアンプ21で増幅され、AD変換器40においてデジタル信号に変換される。なお、本実施形態では、ハンマ20はセンサを備え加振力を計測したが、ハンマの外部のセンサによって加振力を計測してもよい。すなわち、加振手段と加振力計測手段は別体に設けられていてもよい。また、本実施形態では加振手段としてハンマ20を用いたが、加振点mを加振できれば、これに限定されない。
【0027】
加速度計30は、例えば圧電型の加速度計であり、本発明における加速度計測装置に相当する。加速度計30は、レール1の計測点lに設けられる。また、上述したようにレール1は実路線のレールであり列車が通過するため、図4に示すように加速度計30は、レールヘッドではなくレール底部に設置した。そして、加速度計30は計測点lにおいて、ハンマ20による加振点mの加振によってレール1を伝搬する波動の加速度を計測して、加速度信号を出力する。加速度信号はアンプ31で増幅され、AD変換器40においてデジタル信号に変換される。なお、本実施形態では、加速度計30として圧電型の加速度計を用いたが、これに限定されない。
【0028】
アンプ21、31はそれぞれ、例えばチャージアンプである。但し、アンプ21、31の種類はこれに限定されない。
【0029】
AD変換器40は、ハンマ20のアンプ21と加速度計30のアンプ31に接続され、更に通信装置50を介してデバイス60と接続される。AD変換器40では、ハンマ20から入力された加振力信号と加速度計30から入力された加速度信号をそれぞれデジタル信号に変換し、これら加振力信号(加振力データ)と加速度信号(加速度データ)をデバイス60に出力する。
【0030】
通信装置50は、AD変換器40から出力された加振力データと加速度データをデバイス60に出力する。通信装置50は、通信を行うことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば無線LAN、有線LAN、インターネット等が用いられる。
【0031】
デバイス60は、例えばノート型パーソナルコンピュータ(PC)であり、デバイス60の演算部は、本発明における波動伝搬特性同定装置に相当する。デバイス60は、通信装置50から入力された加振力データと加速度データに基づいて、レール1の波動伝搬特性を同定する。なお、本実施形態では、デバイス60としてノート型PCを用いたが、これに限定されない。例えばデバイス60は、デスクトップ型PCであってもよいし、タブレットやスマートフォンであってもよい。
【0032】
本実施形態において、デバイス60で同定される波動伝搬特性には、下記(a)~(c)の3つの特性が含まれる。以下の説明では、これら3つの波動伝搬特性について、デバイス60の演算部の具体的構成を示して説明する。
(a)波動の波長周波数関係
(b)波動の群速度(波動の伝搬速度)
(c)波動の距離減衰
【0033】
<第1の実施形態:波長周波数関係>
図5は、第1の実施形態にかかるデバイス60の演算部の構成の概略を示す説明図である。
【0034】
デバイス60は、制御部100、記憶部101、周波数応答関数導出部102、空間周波数分布取得部103、波長周波数関係同定部104、通信部105、及び表示部106を有している。
【0035】
制御部100は、回路(ハードウェア)又はCPUなどの中央演算処理部である。制御部100は、記憶部101に格納されたプログラム(ソフトウェア)に従って、デバイス60の制御を行う。記憶部101は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、HDD、SDD等からなり、各種プログラムやデータを記憶する。
【0036】
周波数応答関数導出部102は、AD変換器40から出力された加振力データと加速度データに基づいて、計測点lにおける加速度の周波数応答関数を導出する。空間周波数分布取得部103は、周波数応答関数導出部102で導出された周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する。波長周波数関係同定部104は、空間周波数分布取得部103で取得された空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、波長周波数関係を同定する。
【0037】
通信部105は、通信装置50との間の通信を媒介する通信インタフェースである。具体的に通信部105は、AD変換器40から出力された加振力データと加速度データを受信する。表示部106は、例えばディスプレイ等であり、デバイス60に関する種々の情報を表示する。
【0038】
図6は、第1の実施形態にかかる波長周波数関係の同定方法の主な工程を示すフロー図である。
【0039】
先ず、レール1の複数の加振点mをハンマ20で加振する(図6のステップS11)。この際、各加振点mにおける加振力をハンマ20で計測する(図6のステップS12)。計測された加振力データは、アンプ21で増幅され、AD変換器40においてデジタル信号に変換された後、通信装置50を介して、デバイス60の通信部105に出力され、記憶部101に記憶される。
【0040】
また、計測点lにおいて、ハンマ20による加振点mの加振によってレール1を伝搬する波動の加速度を、加速度計30で計測する(図6のステップS13)。計測された加速度データは、アンプ31で増幅され、AD変換器40においてデジタル信号に変換された後、通信装置50を介して、デバイス60の通信部105に出力され、記憶部101に記憶される。
【0041】
次に、周波数応答関数導出部102において、記憶部101に記憶された加振力と加速度に基づいて、計測点lにおける加速度の周波数応答関数(FRF)を導出する(図6のステップS14)。導出された周波数関数は、記憶部101に出力されて記憶される。周波数応答関数は、波動の振動モードの同定に利用される基本的な関数である。ステップS14では、加振力と加速度に基づいて、周波数応答関数の1つであるアクセレランスGlm(ω)が下記式(1)で表される。
【数1】
但し、
(ω):計測点lの加速度(加速度応答)のフーリエ変換、
(ω):加振点mの加振力のフーリエ変換、
ω:円振動数(ω=2πf、fは振動数)
ω:r次の固有振動数、
ζ:r次の振動モード減衰比、
Φlr:r次の箇所(計測点l)での振動モード形(振動モード変位)、
Φmr:r次の箇所(加振点m)での振動モード形(振動モード変位)、
i:虚数単位。
【0042】
ここで、マクスウェルの相反定理により、周波数応答関数に下記式(2)の関係が成立する。
【数2】
【0043】
このとき、複数点l=1,2,・・・,Nを加振した際の単点mの周波数応答関数は、下記式(3)に示す通り、任意点mを加振した際の複数点l=1,2,・・・,sNの周波数応答関数と等しくなる。
【数3】
【0044】
このように相反定理を用いることで、加振点と計測点を入れ換えることが可能であり、多点加振によって、模擬的に多点計測と等価な情報が得られる。具体的には、第1の実施形態の多点加振による上記式(1)の周波数応答関数は、多点計測による周波数応答関数と等しくなる。
【0045】
次に、空間周波数分布取得部103において、ステップS14で導出された周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布を取得する(図6のステップS15)。取得された空間周波数分布は、記憶部101に出力されて記憶される。周波数応答関数の虚数項は、波動の振幅情報を表す。
【0046】
図7は、周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布の一例を示す説明図である。図7の空間周波数分布は、実路線のレール1に対して現地で多点加振を行い、取得された。図7の縦軸は周波数を示し、横軸は加振点mの位置を示している。横軸において、加振点mの位置は、計測点lの位置を0(ゼロ)としている。また、振幅は±1に基準化している。
【0047】
ここで、上述した非特許文献1、2では、固有振動数における振動モード形の波長が波動伝搬における波長と一致することを利用し、離散的な固有振動数での波長をつなげることで、波動伝搬特性を推定している。但し、波動方程式の解を踏まえると、波動伝搬特性は固有振動数に限らず、固有振動数より高い周波数領域でも成り立つ。図7の例では、点線に示す固有振動数162Hzより高い領域が、波動の分散が生じる波動伝搬領域となる。なお、後述するように、162Hz以上の固有振動数がある場合、当該固有振動数は波動伝搬領域から除かれる。
【0048】
図7を参照すると、ある周波数に着目したとき、空間的に一定周期で変動する。この空間的な変動の一周期が波長(図7中の「Wavelength」)となる。また、周波数が高いほど波長は短くなることがわかる。
【0049】
次に、波長周波数関係同定部104において、ステップS15で取得された空間周波数分布を各周波数に対して空間方向にフーリエ変換を行い、波長周波数関係を同定する(図6のステップS16)。同定された波長周波数関係は、記憶部101に出力されて記憶される。
【0050】
ここで、ステップS15で取得される周波数応答関数の虚数項の空間周波数分布において、ある振動数ωでの周波数応答関数の虚数項の空間系列h(ω,l)を下記式(4)とおく。
【数4】
【0051】
上記式(4)を空間方向(距離軸方向)にフーリエ変換し、下記式(5)に示すように、空間周波数zに関するすスペクトルに変換する。
【数5】
【0052】
上記式(5)で取得されるH(ω,z)について、ある周波数ωでH(ω,z)を最大とする空間周波数z(ω)を求めることで、当該周波数ωでの波動伝搬における波長λ(ω)=1/z(ω)を求めることができる。この波長λ(ω)が図7中に示した「Wavelength」である。
【0053】
なお、固有振動数付近ではストップバンドの存在により、波動が伝搬しない領域が存在する。これらの周波数帯では波長λ(ω)の推定が困難である。例えば図7において、162Hz以上の固有振動数がある場合、当該固有振動数は波動伝搬領域から除かれる。
【0054】
図7に示した例において、上記より算出される空間周波数zと波長λ(ω)についてそれぞれ、図8図9に示す。図8は、空間周波数(波数)周波数関係の一例を示す説明図であり、空間周波数zの一例を示す参考図である。図8の横軸は空間周波数を示し、縦軸は空間周波数を示している。図9は、波長周波数関係の一例を示す説明図である。図9の縦軸は周波数を示し、横軸は波長を示している。図8図9には、空間周波数の推定精度を確認するために、空間スペクトルの結果をコンターで合わせて示している。
【0055】
図9を参照すると、空間領域スペクトルの卓越成分として各周波数で波長を精度よく推定できていることを確認できる。そして、第1の実施形態のステップS11~S16を行うことで、波長周波数関係を同定することができる。
【0056】
以上のように第1の実施形態では、多点加振と相反定理を利用して波長周波数関係を同定する。相反定理を用いることで、加振点と計測点を入れ換えることが可能となり、従来のように多数のセンサを設置する代わりに、これらのセンサ設置点を加振することで、模擬的に多点計測と等価な周波数応答関数が得られる。このように第1の実施形態によれば、従来はセンサ数の制約等により実証が困難とされていた、現地での試験によるレール1の波長周波数関係の同定が可能となる。その結果、数値解析や実験室で得られる一般的な知見に加え、各現場や各レール1に固有の条件に基づく影響を分析することができる。また、実物の波動伝搬の観点で、対策効果の検証を行うこともできる。
【0057】
しかも第1の実施形態によれば、計測点lは少なくとも1点であればよいため、簡素な計測システム構成で多点計測と等価な周波数応答関数を得ることができる。また、計測点lが減少することで、計測のための準備作業を縮減できるという利点も有する。
【0058】
また、第1の実施形態では、導出された周波数応答関数から、波長周波数関係を同定することができる。具体的に本発明者らが鋭意検討したところ、レール1の1500Hz程度までの波長周波数関係を同定できることが分かった。この波長周波数関係は特にレール1の波状摩耗に関連するため、第1の実施形態のように波長周波数関係を同定することは有用な情報となる。そして、波長周波数関係を把握することで、レール1の波状摩耗を抑制することができ、また転動音を抑制することも可能となる。
【0059】
<加振力による加速度の基準化>
後述する第2の実施形態における群速度の同定と、第3の実施形態における距離減衰の同定にあたって、加振力によって基準化された加速度のウェーブレット係数(以下、「基準化ウェーブレット係数」という。)と、同様に加振力によって基準化されたウェーブレットパワースペクトル(以下、「基準化ウェーブレットパワースペクトル」という。)を用いる。以下、第2の実施形態と第3の実施形態の説明に先だって、これら基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルについて説明する。
【0060】
従来、上述したマクスウェルの相反定理と同様に、波動についても相反定理が成立することが知られている。すなわち、加振点と計測点を入れ換えても、波動の分散性(例えば、波長や位相速度、群速度等)は変化しない。したがって、波動伝搬における群速度と距離減衰の同定においても、多点加振によるデータを多点計測のデータと同様に扱うことが可能である。
【0061】
しかしながら、多点加振においてハンマ20で複数の加振点mを加振する際、各加振点mにおける加振力がばらつく場合がある。この加振力のばらつきは、波動伝搬特性、特に群速度と距離減衰の同定に誤差を生じさせ得る。この点、従来、例えば上述した非特許文献1、2に開示された方法では、加振力の変動が考慮されていない。
【0062】
そこで、後述する第2の実施形態における群速度の同定と、第3の実施形態における距離減衰の同定においては、加振力のばらつきの影響を排除するため、各周波数で加振力によって基準化された、基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを利用する。具体的に、基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルの算出方法は以下のとおりである。
【0063】
ハンマ20により励起されたレール1に沿った波動伝搬信号は、多くの周波数成分で構成される。これを分解して周波数毎の波動伝搬特性を同定するために、連続ウェーブレット変換を利用する。ウェーブレット変換は、スケーリング及びシフトされたウェーブレット関数のグループを使用して計算される。分析された任意点の加速度(加速度時系列)aのウェーブレット係数Wt,aは、下記式(6)で表される。
【数6】
但し、
ψ:マザーウェーブレット(Morlet関数)、
s:ウェーブレットスケール、
T:時系列の点数、
t’=0,1,・・・,T-1、
Δ:時間ステップ
t:平行移動の連続変数
’:複素共役。
【0064】
なお、加速度のウェーブレットパワースペクトルWSPt,aは、下記式(7)から算出される。
【数7】
【0065】
また、上記式(6)を用いて、加振力(加振力時系列)のウェーブレット変換を行い、当該加振力のウェーブレット係数Wt,fを算出する。そして、下記式(8)に示すように、各中心周波数ωにおいて、加速度のウェーブレット係数Wt,a(ω)を加振力のウェーブレット係数Wt,f(ω)で除して、基準化ウェーブレット係数W(ω)を算出する。
【数8】
【0066】
更に、下記式(9)を用いて、基準化ウェーブレット係数W(ω)から基準化ウェーブレットパワースペクトルWSP(ω)を算出する。
【数9】
【0067】
この基準化ウェーブレットパワースペクトルWSP(ω)を用いることで、上述した加振力のばらつきの影響を排除することができる。
【0068】
次に、以上のように算出される基準化ウェーブレットパワースペクトルの一例について、図10図14を用いて説明する。
【0069】
図10は、一の加振点mを加振した際の加速度と、加速度のウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。図10の上図は加速度の経時変化の波形を示し、下図は各周波数の加速度のウェーブレットパワースペクトルを示す。図11は、一の加振点mを加振した際の加振力と、加振力のウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。図11の上図は加振力の経時変化の波形を示し、下図は各周波数の加振力のウェーブレットパワースペクトルを示す。
【0070】
図10及び図11の例において、一の加振点mは、計測点lから約7.8m離れており、0.1秒付近で加振力が作用した後、0.104秒以降に加速度応答が生じている。この時間差に基づきレール1の波動伝搬における群速度が推定される。また、加振点mにより異なる最大振幅に基づき波動の距離減衰が推定される。ただし、得られた加速度の各周波数のウェーブレットパワースペクトルの大きさは、加振力の大きさに依存する。
【0071】
図12は、複数の加振点mにおける加振力のスペクトルのばらつきの一例を示す説明図である。図12の縦軸は加振力を示し、横軸は周波数を示している。図12では、加振力の最大値及びスペクトルの傾きが加振毎に異なることを示す。この差異(加振力のばらつき)を排除するために、加振力の各周波数のウェーブレットパワースペクトルの最大値(図11の太線)により、加速度のウェーブレットパワースペクトルを基準化して、上述した基準化ウェーブレットパワースペクトルが導出される。
【0072】
図13及び図14は、各周波数の加速度の基準化ウェーブレットパワースペクトルの一例を示す説明図である。図13は計測点lの位置に配置された加振点mにおける基準化ウェーブレットパワースペクトルを示し、図14は計測点lから最も離れた位置に配置された加振点mにおける基準化ウェーブレットパワースペクトルを示す。
【0073】
図13を参照すると、加振点mでは、加振力導入時点の0.1秒付近に基準化ウェーブレットパワースペクトルのピークが集中している。一方、図14を参照すると、加振点mでは、0.03~0.05秒後に多くの振動数で基準化ウェーブレットパワースペクトルのピークが生じる。なお、これらの波動伝搬の特性は、後述する群速度及び距離減衰により定量化される。
【0074】
<第2の実施形態:群速度>
図15は、第2の実施形態にかかるデバイス60の演算部の構成の概略を示す説明図である。
【0075】
デバイス60は、制御部200、記憶部201、基準化加速度算出部202、ピーク時間導出部203、群速度同定部204、通信部205、及び表示部206を有している。
【0076】
制御部200、記憶部201、通信部205、表示部206はそれぞれ、第1の実施形態における制御部100、記憶部101、通信部105、表示部106と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0077】
基準化加速度算出部202は、基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する。以下、これら基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを「基準化加速度」と総称する場合がある。ピーク時間導出部203は、2点の加振点mに対する基準化ウェーブレットパワースペクトルのピークが生じるピーク時間を導出する。群速度同定部204は、2点の加振点mに対するピーク時間と、2点の加振点m間の距離とに基づいて、群速度を同定する。
【0078】
図16は、第2の実施形態にかかる群速度の同定方法の主な工程を示すフロー図である。図17は、第2の実施形態にかかる群速度の同定方法を示す説明図である。図17の縦軸は基準化ウェーブレットパワースペクトルを示し、横軸は時間を示している。また、図17の例においては、2点の加振点mと加振点mの基準化ウェーブレットパワースペクトルを示している。
【0079】
先ず、レール1の複数の加振点mをハンマ20で加振し(図16のステップS21)、各加振点mにおける加振力をハンマ20で計測するとともに(図16のステップS22)、計測点lにおいてハンマ20による加振点mの加振によってレール1を伝搬する波動の加速度を加速度計30で計測する(図16のステップS23)。これらステップS21~S23はそれぞれ、第1の実施形態におけるステップS11~S13と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0080】
次に、基準化加速度算出部202において、上記式(6)~(9)を用いて、記憶部101に記憶された加振力と加速度から、加速度の基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する(図16のステップS24)。具体的には、2点の加振点m,mに対する基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する。
【0081】
次に、ピーク時間導出部203において、2点の加振点m,mに対する基準化ウェーブレットパワースペクトルのピークが生じるピーク時間を導出する(図16のステップS25)。図17の例においては、ピーク時間tとtを導出する。
【0082】
次に、群速度同定部204において、2点の加振点m,mに対するピーク時間t,tと、2点の加振点m,m間の距離Lとに基づいて、波動の群速度を同定する(図16のステップS26)。図17の例においては、群速度V(ω)を同定する。
【0083】
ここで、同期された位置の異なる2つの加速度があれば、ウェーブレットパワースペクトルを用いることで、波動伝搬における群速度が同定される。そして、波動の相反定理により、加振点と計測点を入れ換えることが可能であり、多点加振によって、模擬的に多点計測と等価な情報が得られる。そうすると、同期された位置の異なる2つの加振力を用いて、波動伝搬における群速度を同定できる。
【0084】
なお、ウェーブレットパワースペクトルにおける中心周波数ωに着目したときの2つの加速度のピークが生じた時間t(ω)及びt(ω)と、2点の加振点m,m間の距離Lとから、中心周波数ωにおける群速度V(ω)は、下記式(10)で算出される。
【数10】
【0085】
上記式(10)の計算に、ステップS24で算出した基準化ウェーブレットパワースペクトルを用いて、群速度V(ω)を同定する。
【0086】
以上のように第2の実施形態では、加振力によって基準化された基準化ウェーブレットパワースペクトルを用いるので、加振力のばらつきに起因した群速度の同定誤差を排除することができる。その結果、波動伝搬特性の1つである群速度を適切に同定することができる。
【0087】
また、多点加振と相反定理を利用して群速度を同定するので、上述した第1の実施形態と同様の効果を享受することができる。
【0088】
なお、第2の実施形態において群速度を同定する際、多点加振は必須ではない。例えば、2点の加振点mに対するデータがあれば、群速度を同定することができる。但し、第2の実施形態のように多点加振を行った方が、例えばある加振点mの異常データがある場合に、当該異常データを除いて、群速度を精度よく同定することができる。
【0089】
<第3の実施形態:距離減衰>
図18は、第3の実施形態にかかるデバイス60の演算部の構成の概略を示す説明図である。
【0090】
デバイス60は、制御部300、記憶部301、基準化加速度算出部302、ピーク値導出部303、距離減衰同定部304、通信部305、及び表示部306を有している。
【0091】
制御部300、記憶部301、通信部305、表示部306はそれぞれ、第1の実施形態における制御部100、記憶部101、通信部105、表示部106と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0092】
基準化加速度算出部302は、基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する。ピーク値導出部303は、2点の加振点mに対する基準化ウェーブレットパワースペクトルのピーク値を導出する。距離減衰同定部304は、2点の加振点mに対するピーク値と、2点の加振点m間の距離とに基づいて、距離減衰を同定する。
【0093】
図19は、第3の実施形態にかかる距離減衰の同定方法の主な工程を示すフロー図である。図20は、第3の実施形態にかかる距離減衰の同定方法を示す説明図である。図20は、第2の実施形態の図17と同様の図であり、図20の縦軸は基準化ウェーブレットパワースペクトルを示し、横軸は時間を示している。また、図20の例においては、2点の加振点mと加振点mの基準化ウェーブレットパワースペクトルを示している。
【0094】
先ず、レール1の複数の加振点mをハンマ20で加振し(図19のステップS31)、各加振点mにおける加振力をハンマ20で計測するとともに(図19のステップS32)、計測点lにおいてハンマ20による加振点mの加振によってレール1を伝搬する波動の加速度を加速度計30で計測する(図19のステップS33)。これらステップS31~S33はそれぞれ、第1の実施形態におけるステップS11~S13と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0095】
次に、基準化加速度算出部302において、上記式(6)~(9)を用いて、記憶部101に記憶された加振力と加速度から、加速度の基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する(図19のステップS34)。具体的には、2点の加振点m,mに対する基準化ウェーブレット係数と基準化ウェーブレットパワースペクトルを算出する。
【0096】
次に、ピーク値導出部303において、2点の加振点m,mに対する基準化ウェーブレットパワースペクトルのピーク値を導出する(図19のステップS35)。図20の例においては、ピーク値PとPを導出する。
【0097】
次に、距離減衰同定部304において、2点の加振点m,mに対するピーク値P,Pと、2点の加振点m,m間の距離Lとに基づいて、波動の群速度を同定する(図19のステップS36)。図20の例においては、距離減衰βを同定する。
【0098】
ここで、同期された位置の異なる2つの加速度があれば、ウェーブレットパワースペクトルを用いることで、波動伝搬における距離減衰が同定される。そして、波動の相反定理により、加振点と計測点を入れ換えることが可能であり、多点加振によって、模擬的に多点計測と等価な情報が得られる。そうすると、同期された位置の異なる2つの加振力を用いて、波動伝搬における距離減衰を同定できる。
【0099】
なお、ウェーブレットパワースペクトルにおける中心周波数ωに着目したときの2つの加速度のピーク振幅P(ω)及びP(ω)と、2点の加振点m間の距離Lとから、レール1に沿った単位距離(例えば1m)あたりの距離減衰は、下記式(11)に示すように、エネルギーの減衰として計算される。
【数11】
【0100】
上記式(11)の計算に、ステップS34で算出した基準化ウェーブレットパワースペクトルを用いて、距離減衰βを同定する。
【0101】
以上のように第3の実施形態では、第2の実施形態と同様に、加振力によって基準化された基準化ウェーブレットパワースペクトルを用いるので、加振力のばらつきに起因した距離減衰の同定誤差を排除することができる。その結果、波動伝搬特性の1つである距離減衰を適切に同定することができる。
【0102】
また、多点加振と相反定理を利用して距離減衰を同定するので、上述した第1の実施形態と同様の効果を享受することができる。
【0103】
なお、第3の実施形態において距離減衰を同定する際、多点加振は必須ではない。例えば、2点の加振点mに対するデータがあれば、距離減衰を同定することができる。但し、第3の実施形態のように多点加振を行った方が、例えばある加振点mの異常データがある場合に、当該異常データを除いて、距離減衰を精度よく同定することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0105】
例えば、上記実施形態では、計測点lは1点であったが、2点以上であってもよい。例えば、計測点lが2点の場合、波動伝搬特性の同定に際して、締結装置3及び締結装置3間での影響も考慮することができる。
【0106】
また例えば、上記実施形態では、同定対象の長尺構造物はレール1であったが、同定対象はこれに限定されない。細長形状の構造物であれば、本発明の波動伝搬特性の同定方法を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、長尺構造物の波動伝搬特性の同定する際に有用である。
【符号の説明】
【0108】
1 レール
2 鋼鉄道橋
3 締結装置
10 波動伝搬特性同定システム
20 ハンマ
21 アンプ
30 加速度計
31 アンプ
40 AD変換器
50 通信装置
60 デバイス
100 制御部
101 記憶部
102 周波数応答関数導出部
103 空間周波数分布取得部
104 波長周波数関係同定部
105 通信部
106 表示部
200 制御部
201 記憶部
202 基準化加速度算出部
203 ピーク時間導出部
204 群速度同定部
205 通信部
206 表示部
300 制御部
301 記憶部
302 基準化加速度算出部
303 ピーク値導出部
304 距離減衰同定部
305 通信部
306 表示部
l 計測点
m 加振点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20