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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101306
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】弁素子及び弁素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/02 20060101AFI20230712BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20230712BHJP
   F16K 7/14 20060101ALI20230712BHJP
   B81B 3/00 20060101ALN20230712BHJP
【FI】
F16K31/02 Z
B81C1/00
F16K7/14 A
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001870
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】521515735
【氏名又は名称】MMIセミコンダクター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田羅 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】内田 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】西岡 孝哲
(72)【発明者】
【氏名】東狐 義秀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 佳彦
【テーマコード(参考)】
3C081
3H062
【Fターム(参考)】
3C081AA11
3C081AA17
3C081BA25
3C081BA45
3C081BA46
3C081BA48
3C081BA53
3C081BA72
3C081CA03
3C081DA03
3C081DA45
3C081EA33
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB30
3H062BB31
3H062CC04
3H062DD01
3H062GG04
3H062HH02
(57)【要約】
【課題】簡易な製造工程により、静電引力を用いて駆動する方式の弁素子の小型化及び低消費電力化を両立できる技術を提供する。
【解決手段】流体の流通を制御するための弁素子であって、前記流体が流通する流体導入口を備える第一可動電極部と、前記流体が排出される排出口を備え前記流体導入口を覆うようにして前記第一可動電極部から間隔を設けて配置される第二可動電極部と、前記第一可動電極部と前記第二可動電極部との前記間隔を確保するスペーサ部と、前記流体導入口と連通するバックチャンバーを形成するとともに前記第一可動電極部を支持するフレーム部とを有し、前記第一可動電極と前記第二可動電極に電圧を印加することにより生じる静電引力によって、前記第一可動電極部と前記第二可動電極部とを引き寄せて前記流体導入口を封止可能に構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流通を制御するための弁素子であって、
前記流体が流通する流体導入口を備える第一可動電極部と、
前記流体が排出される排出口を備え、前記第一可動電極部の一方の面側に前記流体導入口を覆うようにして前記第一可動電極部から間隔を設けて配置される第二可動電極部と、
前記第一可動電極部と前記第二可動電極部との前記間隔を確保するスペーサ部と、
前記第一可動電極部の他方の面側において前記流体導入口と連通するバックチャンバーを形成するとともに前記第一可動電極部を支持するフレーム部と、を有し、
前記第一可動電極部と前記第二可動電極部の各電極に電圧を印加することにより生じる静電引力によって、前記第一可動電極部と前記第二可動電極部とを引き寄せて前記流体導入口を封止可能に構成されている、
ことを特徴とする弁素子。
【請求項2】
前記流体導入口及び該流体導入口に対応する前記排出口の組を複数有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の弁素子。
【請求項3】
前記流体導入口及び該流体導入口に対応する前記排出口の組が、アレイ状に配列されている、
ことを特徴とする、請求項2に記載の弁素子。
【請求項4】
流体の流通を制御するための弁素子の製造方法であって、
半導体基板上に、第一の可動電極と前記流体が流通する流体導入口とを備える第一可動電極膜を形成する第一電極形成ステップと、
前記第一可動電極膜上及び前記半導体基板上に絶縁性の素材により犠牲層膜を形成する犠牲層膜形成ステップと、
前記犠牲層膜上に、第二の可動電極と前記流体が排出される排出口とを備える第二可動電極膜を形成する第二電極膜形成ステップと、
前記第一の可動電極に接続される第一接続用電極、及び前記第二の可動電極に接続される第二接続用電極を形成する、接続用電極形成ステップと、
前記半導体基板に、バックチャンバーを形成するバックチャンバー形成ステップと、
前記犠牲層膜を、前記第一可動電極膜と前記第二可動電極膜との間隔を確保するスペーサ部を残してエッチングする、犠牲層膜エッチングステップと、を有する、
ことを特徴とする弁素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁素子及び弁素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、流体の流通を制御する弁素子として、対向して配置される2つの電極部を有し、該2つの電極部の各電極に電圧を印加することによって静電引力を発生させて、一方の電極部に備えられた流体の導入口を、他方の電極部で封止する構造のものが知られている(例えば特許文献1)。図1に、このような構造の弁素子9の概略図を示す。
【0003】
図1Aは弁が「開」状態の弁素子9の概略断面図を、図1Bは弁が「閉」状態の弁素子9の概略断面図を、それぞれ示している。図1に示すように、弁素子9は、基板91(固定電極)に設けられた流体導入口92から流体が導入され、該流体は基板91に対して可動に形成されているダイアフラム93(可動電極)に設けられた排出口(図示せず)から排出される構成となっている。そして、基板91(固定電極)とダイアフラム93(可動電極)とに電圧を印可することにより静電引力を発生させると、当該引力によりダイアフラム93が基板91に引き寄せられ、ダイアフラム93によって流体導入口92を封止することができる。このようにして、流体の流通を遮断、或いは印可電圧を調整してダイアフラム93と基板91の距離を調節することにより、流体の流量を制御することができる。
【0004】
そして、この場合の静電引力は次式(1)によってあらわすことができる。
【数1】
【0005】
上記式(1)において、Fは静電引力、εは空気の誘電率、Sは両電極が対向する面積、Vは印加電圧、dは両電極間の距離を示している。即ち、静電引力Fは、印加電圧V、電極間距離dに大きく依存しており、印加電圧Vを下げたり、電極間距離dを拡げたりすると著しく静電引力Fが弱くなり、弁を駆動する(即ち、ダイアフラム93を基板91側に引き寄せる)駆動力が低下することになる。
【0006】
一方、流体の排出特性の観点から見ると、両電極間の距離が大きいほど、また、流体導入口92及び排出口の面積が大きい(即ち、両電極間の対向する面積が狭くなる)ほど、流体の排出を効率的に行うことができる。
【0007】
このように、従来から知られている静電引力により駆動する方式の弁は、弁が「開」状態の際の良好な流体排出特性を得るためには、両電極間の距離をある程度確保する必要がある。そうすると、弁の駆動力として十分な静電引力Fを得るためには、電極面積Sを大きくすることによって調整する、又は印加電圧Vを大きくすることによって調整する、ということになる。即ち、良好な流体排出特性を得たうえで、弁素子の小型化・低消費電力化を両立することは困難であった。
【0008】
一方、2つの半導体基板を接合して形成される常閉型のマイクロバルブにおいて、バイメタルを用いた熱駆動方式により、2つの半導体基板を互いに反対方向に撓ませることにより、弁を「開」状態にする技術が提案されている(例えば特許文献2)。このような手
段によれば、一方の基板のみを撓ませることに比べて弁口と弁体との距離を大きくすることができ、低消費電力で良好な流体排出特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-307959号公報
【特許文献2】特開2000-266224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2に開示されているマイクロバルブでは、弁を駆動するための電極が弁素子の上下(表裏)に設けられることになり、弁素子の上下両面に対して配線を行う必要がある。また、当該マイクロバルブは、2枚の基板を貼り合わせることによって製造されており、これらを適切に接合するためには、ち密なウェハアライメントが必要となる。即ち、特許文献2に記載されているマイクロバルブを製造するためには、製造工程が複雑になり、製造の難易度が高くなってしまう。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡易な製造工程により、静電引力を用いて駆動する方式の弁素子の小型化及び低消費電力化を両立できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明は、以下の構成を採用する。即ち、
流体の流通を制御するための弁素子であって、
前記流体が流通する流体導入口を備える第一可動電極部と、
前記流体が排出される排出口を備え、前記第一可動電極部の一方の面側に前記流体導入口を覆うようにして前記第一可動電極部から間隔を設けて配置される第二可動電極部と、
前記第一可動電極部と前記第二可動電極部との前記間隔を確保するスペーサ部と、
前記第一可動電極部の他方の面側において前記流体導入口と連通するバックチャンバーを形成するとともに前記第一可動電極部を支持するフレーム部と、を有し、
前記第一可動電極部と前記第二可動電極部に電圧を印加することにより生じる静電引力によって、前記第一可動電極部と前記第二可動電極部とを引き寄せて前記流体導入口を封止可能に構成されている、ことを特徴とする弁素子である。
【0013】
上記のような、弁口(第一可動電極部の流体導入口)と、これを封止する構造(第二可動電極部)とが、静電引力により互いに引き寄せられる構成を備えることにより、片側が固定電極である場合に比べて、同じ電圧を印加した場合における両電極間の接近距離を大きくすることができる。これにより、片側を固定電極とする場合と比べて、印加電圧を変えずに弁が「開」状態における両電極間の距離を大きくすることができる。
【0014】
このようにして、良好な流体排出特性を得るとともに、電極面積を大きくすることなく、弁を閉じる際の印加電圧を小さくすることができ、弁素子の小型化・低消費電力化を実現することが可能になる。また、上記のような構成であれば、1枚の半導体基板上に薄膜を積層して各構成要素を製造することができるため、半導体製造工程により容易に製造することが可能になる。
【0015】
また、前記弁素子は前記流体導入口及び該流体導入口に対応する前記排出口の組を複数有する構成であってもよい。また、前記流体導入口及び該流体導入口に対応する前記排出口の組が、アレイ状に配列されるようにしてもよい。
【0016】
このような構成によれば、弁が「開」時の流体排出特性をより向上させることができ、電極間距離を小さくしても良好な流体排出特性を得ることができる。これにより、弁素子をより小型化することができる。
【0017】
また、本発明は、流体の流通を制御するための弁素子の製造方法であって、
半導体基板上に、第一の可動電極と前記流体が流通する流体導入口とを備える第一可動電極膜を形成する第一電極形成ステップと、
前記第一可動電極膜上及び前記半導体基板上に絶縁性の素材により犠牲層膜を形成する犠牲層膜形成ステップと、
前記犠牲層膜上に、第二の可動電極と前記流体が排出される排出口とを備える第二可動電極膜を形成する第二電極膜形成ステップと、
前記第一の可動電極に接続される第一接続用電極、及び前記第二の可動電極に接続される第二接続用電極を形成する、接続用電極形成ステップと、
前記半導体基板に、バックチャンバーを形成するバックチャンバー形成ステップと、
前記犠牲層膜を、前記第一可動電極膜と前記第二可動電極膜との間隔を確保するスペーサ部を残してエッチングする、犠牲層膜エッチングステップと、を有する、
ことを特徴とする弁素子の製造方法としても捉えることができる。
【0018】
なお、上記構成の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易な製造工程により、静電引力を用いて駆動する方式の弁素子の小型化及び低消費電力化を両立できる技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1Aは、従来から知られる静電引力により弁を駆動する方式の弁素子の概略を示す第1の図である。図1Aは、従来から知られる静電引力により弁を駆動する方式の弁素子の概略を示す第2の図である。
図2図2Aは、本発明の実施例1に係る弁素子の概略を示す平面図である。図2Bは、本発明の実施例1に係る弁素子の断面の概略を示す第1の図である。図2Cは、本発明の実施例1に係る導入口、排出口の詳細を説明する図である。
図3図3Aは、本発明の実施例1に係る弁素子の製造工程を示す第1の図である。図3Bは、本発明の実施例1に係る弁素子の製造工程を示す第2の図である。図3Cは、本発明の実施例1に係る弁素子の製造工程を示す第3の図である。図3Dは、本発明の実施例1に係る弁素子の製造工程を示す第4の図である。図3Eは、本発明の実施例1に係る弁素子の製造工程を示す第5の図である。図3Fは、本発明の実施例1に係る弁素子の製造工程を示す第6の図である。
図4図4Aは、実施例1の弁素子の変形例を示す第1の図である。図4Bは、実施例1の弁素子の変形例を示す第2の図である。
図5図5Aは、実施例1の弁素子の変形例を示す第3の図である。図5Bは、実施例1の弁素子の変形例を示す第4の図である。
図6図6Aは、実施例1の弁素子の変形例を示す第5の図である。図6Bは、実施例1の弁素子の変形例を示す第6の図である。図6Cは、実施例1の弁素子の変形例を示す第7の図である。図6Dは、実施例1の弁素子の変形例を示す第8の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<適用例>
以下に本発明の適用例の概要について一部の図面を用いて説明する。本発明は、例えば半導体製造工程により製造されるMEMS(Micro Electro Mechan
ical System)弁の弁素子1として適用することができる。図2は、本適用例に係る弁素子1の概略を示す図であり、図2Aは、適用例に係る弁素子1の概略を示す平面図である。図2B図2Aにおける弁素子1の弁が「開」状態におけるAA断面を示す概略断面図であるが、断面の両端が省略された図となっている。図2C図2A中の一点鎖線で囲んだ部位を拡大した図であり、後述する導入口111及び、排出口121の形状及び配置について説明する図である。
【0022】
弁素子1は概略、半導体からなるフレーム部13と、当該フレーム部13上に形成される第一可動電極部11及び第二可動電極部12とを有する構成となっている。第一可動電極部11と第二可動電極部12とは、いずれも可撓性を有する薄膜状に形成されており、スペーサ部14によって絶縁されるとともに所定の間隔を空けて配置されている。
【0023】
フレーム部13は半導体基板などで構成されており、弁に流れ込む流体の流路となるバックチャンバー131を備えている。第一可動電極部11には流体を導入する導入口111が複数設けられており、また、第二可動電極部12には、流体を排出する排出口121が複数設けられている。なお、図2A中において、導入口111及び排出口121は模式的に示されており、その具体的な形状および配置関係は後に詳述する。
【0024】
そして、図2Bに示すように、弁が「開」の状態においては第二可動電極部12と第一可動電極部11との間には、中空部15が形成されている。このように弁が「開」の状態においては、第一可動電極部11に設けられている導入口111から流体を導入し、第二可動電極部12に設けられている排出口121から流体を排出することで、流体を流通させることができる。
【0025】
本適用例に係る弁素子1は、いわゆる静電駆動方式により弁を開閉し、流体の流通を制御(流通の遮断を含む流量の制御)することができる。具体的には、第一可動電極部11の電極110、及び第二可動電極部12の電極120に電圧を印加することにより両電極間に静電引力を発生させ、これによって第二可動電極部12と第一可動電極部11とを互いに引き寄せることで、第二可動電極部12と第一可動電極部11との間隔(即ち、中空部15の体積)を小さくすることができる。そして、この間隔の大小を変更することで流体の流量を制御できる。また、第二可動電極部12と第一可動電極部11が完全に密着した場合には、導入口111と排出口121とが互いに重ならない位置に設けられているため、弁を「閉」状態、即ち流体の流通を遮断することができる。
【0026】
本適用例に係る弁素子1では、第一可動電極部11及び第二可動電極部12がいずれも薄膜状に形成された可動の部材であるため、静電引力が生じた場合に互いに引き寄せ合うことになる。このため、一方の電極が固定電極で構成されているような従来型の弁素子に比べて、電極間の間隔を大きくとることができ、良好な流体排出特性を得ることができる。また、少ない印加電圧で弁を「閉」状態にすることが可能になる
【0027】
<実施例1>
以下に、各図面(上記の適用例で一旦説明した図も含む)を順次参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている具体的構成は、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0028】
(弁素子の構成)
本実施例に係る弁素子1は、例えば、血圧計のカフに気体の供給と排出を行うMEMS弁として用いることができ、図2A図2B図2Cに示すように、概略、フレーム部13、第一可動電極部11及び第二可動電極部12を有する構成となっている。即ち、適用
例において説明した弁素子1と同様の構成を有するため、適用例で説明した内容については、詳細な説明は省略する。また、本明細書では同一の構成要素については同一の符号を用いて説明を行う。
【0029】
フレーム部13は、例えばSiなどの半導体からなる硬質基板であり、弁に流れ込む流体の流路となるバックチャンバー131を備えている。
【0030】
第一可動電極部11は、例えばSiからなる第一可動電極110を備える薄膜状の電極部材であり、フレーム部13の上面側(図2Aで示す側、以下同様)に亘配置される。なお、第一可動電極部11は、絶縁膜(例えば、SiN膜)112を備えており、これによってフレーム部13と絶縁されている。第一可動電極110は、電極パッド113と接続されており、該電極パッド113を介して外部の電源と電気的に接続され、電圧が印加されるようになっている。また、第一可動電極部11には、流体を弁に導入する複数の導入口111が設けられている。当該導入口111の配置及び形状については後述する。
【0031】
第二可動電極部12は、例えばSiからなる第二可動電極120を絶縁膜(例えば、SiN膜)122で被覆して構成された可撓性を有する薄膜状の電極部材であり、複数の排出口121を備えている。当該排出口121の配置及び形状については後述する。第本実施例における第二可動電極部12は、平面視において略円形状であり、円周上に複数の突出部124が配置される構成となっている。そして当該円周上の突出部124において、絶縁体からなるスペーサ部14によって第一可動電極部11の上面側から所定の間隔が設けられるとともに、第一可動電極部11と絶縁されて配置される。スペーサ部14の素材には、例えば二酸化ケイ素(SiO)などを用いることができ、PSG(Phosphorus Silicon Glass)、BPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)などを用いてもよい。また、第二可動電極120は、電極パッド123と接続されており、該電極パッド123を介して外部の電源と電気的に接続され、電圧が印加されるようになっている。
【0032】
そして、第二可動電極120及び第一可動電極110の両電極に電圧が印可されると、静電引力が発生し、第二可動電極部12と第一可動電極部11とが互いに引き寄せられ、両者が完全に密着した状態では、導入口111が第二可動電極部12で封止されることで、弁が「閉」の状態となる。なお、静電引力の方式で弁を駆動することについての説明は上述しているため、これ以上の説明は省略する。
【0033】
次に、第一可動電極部11の導入口111及び第二可動電極部12の排出口121について説明する。図2C図2A中の一点鎖線で囲った部分の拡大図であり、導入口111及び排出口121の配置関係を示している。なお、図2Cにおいて破線で示している導入口111は実際には弁素子1を平面視して見えるわけではなく、あくまでその形状および配置関係の理解のために示されるものである。図2Cに示すように、導入口111と排出口121とは、平面視において一の導入口111の周囲を複数の排出口121が囲むような配置関係で設けられた組を成している。具体的な形状としては、円形の導入口111の周囲を囲む六角形の各辺に相当する位置に楕円形状の排出口121が設けられている。そして、図2Aに示すように、弁素子1は、このような導入口111と排出口121の組が多数、いわゆるハニカム構造の態様でアレイ状に配列されている構成となっている。
【0034】
このように、導入口111と排出口121の組が多数、アレイ状に配列される構成となっていることにより流体の流路抵抗を低減することができ、第一可動電極部11と第二可動電極部12の間の間隔を小さくしても効率的に流体を排出することができる。これにより、両電極部を静電駆動するために印加する電圧を小さくすることも可能になる。
【0035】
(弁素子の製造方法)
続けて、図3A乃至図3Fに基づいて、本実施例に係る弁素子1を製造する方法の一例を説明する。なお、図3A乃至図3Fの各図は、製造工程説明の便宜のための観念上の概略断面図であり、弁素子1のいずれかの部位についての正確な断面図とは異なる。弁素子1はいわゆる半導体製造工程によって、半導体基板上に薄膜を形成して製造することができる。
【0036】
弁素子1の製造フローではまず、フレーム部13を構成するシリコン基板上に、第一可動電極110と導入口111とを備える第一可動電極部11となる第一可動電極膜を形成する。当該工程が本発明に係る第一電極形成ステップに相当し、図3Aは当該工程後の状態を示す概略断面図である。
【0037】
次に、前記第一可動電極膜上及び前記半導体基板上に、絶縁性の素材により後にスペーサ部14となる犠牲層膜を形成する。当該工程が、本発明に係る犠牲層膜形成ステップに相当し、図3Bは当該工程後の状態を示す概略断面図である。
【0038】
続けて、前記犠牲層膜上に、第二可動電極120と排出口121とを備える第二可動電極部12となる第二可動電極膜を形成する。当該工程が本発明に係る第二電極膜形成ステップに相当し、図3Cは当該工程後の状態を示す概略断面図である。
【0039】
次に、第一可動電極110に接続される電極パッド113、及び第二可動電極120に接続される電極パッド123を形成する。当該工程が本発明に係る接続用電極形成ステップに相当し、図3Dは当該工程後の状態を示す概略断面図である。
【0040】
さらに、フレーム部13にバックチャンバー131を形成する。当該工程が本発明に係るバックチャンバー形成ステップに相当し、図3Eは当該工程後の状態を示す概略断面図である。次に、前記犠牲層膜を、第一可動電極部11と第二可動電極部12との間隔を確保するスペーサ部14を残してエッチングする。当該工程が本発明に係る犠牲層膜エッチングステップに相当し、図3Fは当該工程後の状態を示す概略断面図である。
【0041】
本実施例に係る弁素子1は、以上のような工程により1枚の半導体基板上に薄膜を積層して製造することができ、容易に製造することができる。また、本実施例に係る弁素子1によれば、電極の面積を広くせずとも、また、印加電圧を大きくせずとも、良好な流体排出特性を得ることができる。即ち、良好な流体排出特性を備えつつ、小型化、低消費電力化が可能な弁素子を容易に製造することが可能になる。
【0042】
(第二可動電極部の支持構造の変形例)
なお、上記の実施例では第二可動電極部12は、4本の突出部124において設けられるスペーサ部14で支持される構成となっていたが、第二可動電極部12の支持構造はこのような構成に限られない。図4A図4B図5A図5Bはそれぞれ、第二可動電極部12のその他の支持構造の例を示す図である。第二可動電極部12は、図4Aに示すように3本の突出部124に設けられるスペーサ部14により支持される構造であってもよいし、図4Bに示すように、6本の突出部124に設けられるスペーサ部14により支持される構造であってもよい。また、第二可動電極部12は図5Aに示すように、8本の突出部124に設けられるスペーサ部14により支持される構造であってもよいし、突出部を設けずに円形の外周全体に亘ってスペーサ部14を設けて支持されるような構成であってもよい。
【0043】
(導入口及び排出口の変形例)
また、上記の実施例では、導入口111と排出口121の形状及び配置関係は、円形の
導入口111の周囲を囲む六角形の各辺に相当する位置に楕円形状の排出口121が設けられているような態様であったが、これについても様々な変形が可能である。図6A図6B図6C図6Dは、それぞれ導入口111及び排出口121のその他の構成を示す図である。
【0044】
導入口111と排出口121の形状及び配置関係は、図6Aに示すように円形の導入口111の外周にさらに小さな円形の排出口121を備えるような態様であってもよい。また、導入口111と排出口121の形状及び配置関係は、図6Bに示すように円形の導入口111の外周に、円環を四分割したような形状の排出口121を備えるような態様であってもよい。また、導入口111と排出口121の形状及び配置関係は、図6Cに示すように、六角形の導入口111の外周の当該六角形の各辺に相当する位置に楕円形状の排出口121を備えるような態様であってもよい。また、導入口111と排出口121の形状及び配置関係は、図6Dに示すように、四角形の導入口111のそれぞれの角の外周に沿うように排出口121を設けるような態様であってもよい。
【0045】
<その他>
上記実施例の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。例えば、上記実施例においては、半導体製造工程により半導体基板上に薄膜を積層して弁素子を製造する方法を例示したが、これ以外の方法で本発明に係る弁素子を製造するのであってもよい。
【0046】
<付記1>
流体の流通を制御するための弁素子(1)であって、
前記流体が流通する流体導入口(111)を備える第一可動電極部(11)と、
前記流体が排出される排出口(121)を備え、前記第一可動電極部の一方の面側に前記流体導入口を覆うようにして前記第一可動電極部から間隔を設けて配置される第二可動電極部(12)と、
前記第一可動電極部と前記第二可動電極部との前記間隔を確保するスペーサ部(14)と、
前記第一可動電極部の他方の面側において前記流体導入口と連通するバックチャンバー(131)を形成するとともに前記第一可動電極部を支持するフレーム部13と、を有し、
前記第一可動電極部と前記第二可動電極部に電圧を印加することにより生じる静電引力によって、前記第一可動電極部と前記第二可動電極部とを引き寄せて前記流体導入口を封止可能に構成されている、
ことを特徴とする弁素子。
【符号の説明】
【0047】
1・・・弁素子
11・・・第一可動電極部
12・・・第二可動電極部
13・・・フレーム部
14・・・スペーサ部
15・・・中空部
110・・・第一可動電極
111・・・導入口
112、122・・・絶縁膜
113、123・・・電極パッド
120・・・第二可動電極
121・・・排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6