(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101307
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】流体ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 43/02 20060101AFI20230712BHJP
F04B 43/04 20060101ALI20230712BHJP
F04B 45/047 20060101ALI20230712BHJP
F04B 45/04 20060101ALI20230712BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
F04B43/02 C
F04B43/04 B
F04B45/047 C
F04B45/04 C
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001871
(22)【出願日】2022-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】521515735
【氏名又は名称】MMIセミコンダクター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】西岡 孝哲
(72)【発明者】
【氏名】東狐 義秀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 佳彦
【テーマコード(参考)】
3C081
3H077
【Fターム(参考)】
3C081AA13
3C081AA17
3C081BA22
3C081BA23
3C081BA25
3C081BA45
3C081BA46
3C081BA48
3C081BA55
3C081CA02
3C081CA13
3C081CA32
3C081DA03
3C081DA04
3C081EA32
3H077AA01
3H077AA11
3H077CC02
3H077CC09
3H077DD06
3H077EE32
3H077FF03
3H077FF07
3H077FF36
(57)【要約】
【課題】製造工程において行われる加圧による振動板と可動板との固着を抑制することができる流体ポンプを提供する。
【解決手段】本流体ポンプは、振動板と、上記振動板の上側の面に設けられ、上記振動板を振動させる駆動部と、上記振動板の下側の面に対向して設けられ、貫通孔が形成された可動板と、上端部が上記振動板の上記下側の面に接続されるとともに、上記駆動部が上記振動板を振動させていない状態においては下端部が上記貫通孔に達する突起部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板の上側の面に設けられ、前記振動板を振動させる駆動部と、
前記振動板の下側の面に対向して設けられ、貫通孔が形成された可動板と、
上端部が前記振動板の前記下側の面に接続されるとともに、前記駆動部が前記振動板を振動させていない状態においては下端部が前記貫通孔に達する突起部と、を備える、
流体ポンプ。
【請求項2】
前記突起部の前記下端部は、前記駆動部が前記振動板を振動させていない状態においては前記可動板の下側の端面と同じ高さに達する、
請求項1に記載の流体ポンプ。
【請求項3】
前記突起部は、前記振動板の下側の面に前記上端部が接続される軸部と、前記軸部の下端部に接続され、前記貫通孔に達する先端部と、を含み、
前記先端部は前記軸部よりも太く形成される、
請求項1または2に記載の流体ポンプ。
【請求項4】
前記駆動部は圧電素子である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の流体ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
液体や気体といった流体を送出する流体ポンプが利用されている。流体ポンプとしては、例えば、間隔(ギャップ)を開けて対向して配置される振動板と可動板とを備えた流体ポンプを挙げることができる。このような流体ポンプでは、振動板及び可動板の振動により、流体の送出が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)技術等で作製される小型の流体ポンプは、振動板と可動板との間の間隔(ギャップ)が極めて狭く、また、振動板や可動板の表面は平滑である。そのため、例えば、流体ポンプの製造工程において行われる振動板に対する加圧によって、振動板と可動板が接触して固着する虞がある。
【0005】
開示の技術の1つの側面は、製造工程において行われる加圧による振動板と可動板との固着を抑制することができる流体ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の1つの側面は、次のような流体ポンプによって例示される。本流体ポンプは、振動板と、上記振動板の上側の面に設けられ、上記振動板を振動させる駆動部と、上記振動板の下側の面に対向して設けられ、貫通孔が形成された可動板と、上端部が上記振動板の上記下側の面に接続されるとともに、上記駆動部が上記振動板を振動させていない状態においては下端部が上記貫通孔に達する突起部と、を備える。
【0007】
本流体ポンプは、振動板の振動によって貫通孔から流体を導入し、導入した流体を送出する。ここで、上記駆動部は、圧電素子であって良い。本流体ポンプにおいて突起部の下端部は、上記駆動部が上記振動板を振動させていない状態において、貫通孔に達する。ここで、突起部の下端部は、上記駆動部が上記振動板を振動させていない状態において、上記可動板の下側の端面と同じ高さに達することが好ましい。このような突起部を有することで、本流体ポンプの製造工程において振動板に対する加圧が行われても、突起部を下方から支持しておくことで振動板が可動板に接触することが抑制される。ひいては、振動板と可動板とが固着することが抑制される。
【0008】
開示の技術は、次の特徴を備えてもよい。上記突起部は、上記振動板の下側の面に上記上端部が接続される軸部と、上記軸部の下端部に接続され、上記貫通孔に達する先端部と、を含み、上記先端部は上記軸部よりも太く形成される。このような構成を採用することで、軸部と先端部との接合の際に多少のずれが生じても、軸部と先端部との接合面積の低下が抑制される。接合面積の低下が抑制されることで、軸部と先端部との接合強度の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本流体ポンプは、製造工程において行われる加圧による振動板と可動板との固着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るMEMSポンプの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、MEMSポンプにおいて突起部の付近を抜粋した図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るMEMSポンプの動作を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るMEMSポンプに用いられるSOI部材の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、MEMSポンプの作製方法の一例を示す第1の図である。
【
図6】
図6は、MEMSポンプの作製方法の一例を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
図1は、実施形態に係るMEMSポンプ1の一例を示す図である。
図1では、MEMSポンプ1を側面から見た断面を例示する。MEMSポンプ1は、逆止弁を有しないマイクロポンプである。MEMSポンプ1は、振動板11、支持部11a、突起部12、可動板21、基板22及び圧電素子41を備える。MEMSポンプ1は、振動板11や可動板21の振動によって流体を送出する。流体としては、例えば、空気等の気体や水等の液体を挙げることができる。以下、本明細書において、基板22から振動板11に向かう方向を「上」、振動板11から基板22に向かう方向を「下」とも称する。
【0012】
振動板11は、薄い板状に形成される。振動板11は、支持部11a(
図1では、バネ形状で例示)によって可動板21との間にギャップ31を確保した状態で支持される。振動板11の下方には基板22が配置される。基板22の中央部には、基板22の下方に向けて開口する開口部221が形成される。開口部221が形成されることで、薄い板状の可動板21が形成される。換言すれば、基板22の可動板21に対応する位置に開口部221が形成される。振動板11と可動板21とは、振動板11の下側の面と可動板21の上側の面とが互いに対向するように、配置される。可動板21の略中央には、可動板21を厚さ方向に貫通する導入口211が設けられる。
【0013】
圧電素子41は、供給される電圧に応じて伸縮する素子である。圧電素子41は、振動板11の上側の面に配置される。圧電素子41と振動板11とは、例えば、接着剤によって接着される。所定周波数の電圧が加えられた圧電素子41の伸縮に伴い、振動板11は振動する。振動板11の振動に伴ってギャップ31の体積が変動し、それに伴い可動板21が振動する。振動板11及び可動板21は、略同じ周波数で振動する。圧電素子41は、「駆動部」の一例である。
【0014】
突起部12は、振動板側突起部13及び可動板側突起部23を含む。振動板側突起部13は、振動板11の略中央から導入口211に向けて突出する。振動板側突起部13の上端部は、振動板11の下側の面に接続される。振動板側突起部13の下端部は、可動板側突起部23に接続される。可動板側突起部23は、振動板11が振動していない状態において、導入口211内に配置される。
【0015】
すなわち、突起部12の上端部は、振動板11の下側の面に接続される。また、突起部12の下端部は、振動板11が振動していない状態において、導入口211内に配置される。振動板側突起部13は、「軸部」の一例である。可動板側突起部23は、「先端部」の一例である。
【0016】
図2は、MEMSポンプ1において突起部12の付近を抜粋した図である。可動板側突起部23の下端部は、振動板11が振動していない状態において、可動板21の下側の面と同一の高さとなることが好ましい。すなわち、可動板側突起部23の平坦に形成された下側の端面と可動板21の下側の面とが同一平面を形成することが好ましい。突起部12において、可動板側突起部23は、振動板側突起部13よりも太く形成される。そして、
図2を参照すると理解できるように、可動板側突起部23よりも導入口211の方が大きく形成される。すなわち、可動板側突起部23が導入口211内に入った状態であっても、可動板側突起部23と導入口211との間には隙間が形成される。
【0017】
(MEMSポンプ1の動作概略)
図3は、実施形態に係るMEMSポンプ1の動作を模式的に示す図である。
図3では圧電素子41の図示は省略している。
図3の(a)では、供給される電圧に応じて圧電素子41が伸びることで振動板11が撓み、導入口211からギャップ31に流体が導入される。
図3の(b)では、
図3の(a)とは極性が逆の電圧が供給された圧電素子41が縮むことで振動板11が縮み、ギャップ31に導入された流体が振動板11の外縁部に向けて送出される。MEMSポンプ1は、このような動作を繰り返すことで流体を送出する。
【0018】
(MEMSポンプ1作製に用いられるSOI部材100)
図4は、実施形態に係るMEMSポンプ1に用いられるSOI部材100の一例を示す図である。SOI部材100は、活性層101、酸化膜102及び支持基板103を含む。活性層101及び支持基板103は、例えば、単結晶シリコンである。酸化膜102は、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)である。SOI部材100は、単結晶シリコンで形成された活性層101及び支持基板103の間に、絶縁層となる酸化膜102が介在する。SOI部材100は、例えば、酸化処理を行った支持基板103を活性層101と張り合わせて熱処理を行った上で表面を研磨することで作製される。本実施形態に係るMEMSポンプ1の作製に用いられるSOI部材100は、例えば、高さが略500μmのものである。MEMSポンプ1は、このようなSOI部材100を2つ用いて作製される。
【0019】
(MEMSポンプ1の作製)
図5及び
図6は、MEMSポンプ1の作製方法の一例を示す図である。
図5では、圧電素子41を接着する手前までの工程が説明され、
図6では圧電素子41を接着する工程が説明される。以下、
図5及び
図6を参照してMEMSポンプ1の製造方法について説明する。
【0020】
図5(a)に例示する工程では、振動板11及び振動板側突起部13の作製に用いるSOI部材100aと、可動板21、基板22、可動板側突起部23、導入口211及び開口部221の作製に用いるSOI部材100bとが用意される。
図5(b)に例示する工程では、SOI部材100a及びSOI部材100bに対して、酸化膜102に達するまでエッチング加工が行われる。活性層101と酸化膜102とが異なる物質であることから酸化膜102に達した時点でエッチング加工が停止する。そのため、
図5(b)に例示する工程におけるエッチング加工は、時間制御を行わなくとも容易に高精度の加工を実現することができる。このエッチング加工によって、SOI部材100a上に振動板側突起部13が形成され、SOI部材100b上に可動板側突起部23及び導入口211が形成される。
【0021】
図5(c)に例示する工程では、エッチング加工が行われたSOI部材100aとSOI部材100bとを互いに活性層101が設けられた面が向き合うように接合する。このように接合されることで、振動板側突起部13と可動板側突起部23とが互いに接合される。この接合ではSOI部材100a及びSOI部材100bに対して厚さ方向における加圧が行われるが、SOI部材100a及びSOI部材100bの中央を振動板側突起部
13と可動板側突起部23とが支持することで、SOI部材100a及びSOI部材100bの撓みが抑制される。
【0022】
図5(d)に例示する工程では、エッチング加工によって、SOI部材100bに開口部221が形成されることで、可動板21が形成され、SOI部材100aには、支持部11aと振動板11が形成される。さらに、
図5(d)に例示する工程では、可動板21の略中央部に導入口211が形成される。
【0023】
図6に例示する工程では、圧電素子41が振動板11の上側の面に接着される。圧電素子41の接着においては、治具50が用いられる。治具50は、開口部221に挿入されて突起部12を下方から支持する支持部51を含む。振動板11に対する圧電素子41の接着では、まず、支持部51が開口部221の下方から挿入され、支持部51の上面が突起部12の下面と接する状態とされる。すなわち、突起部12が、下方から支持部51によって支持される状態とされる。その状態で、接着剤が塗布された振動板11の上面に圧電素子41が載せられる。そして、圧電素子41の上方から加圧されることで、圧電素子41が振動板11に密着して接着されるとともに、接着剤の層を薄くすることができる。
図6に例示する工程では、突起部12を支持部51が支持することで、加圧による振動板11の撓みが抑制される。また、突起部12を支持部51が支持することで、振動板11と可動板21とが接触し固着することが抑制される。
【0024】
(実施形態の作用効果)
本実施形態に係るMEMSポンプ1は、一方の端部が振動板11に接続され、他方の端部は導入口211に達する突起部12を備える。MEMSポンプ1の製造工程において、例えば、
図5(c)に例示されるSOI部材100aとSOI部材100bを接合する工程では、SOI部材100a及びSOI部材100bの中央が振動板側突起部13と可動板側突起部23とによって支持される。また、例えば、
図6に例示される圧電素子41を振動板11に接着する工程では、治具50と突起部12によって支持される。このように突起部12が支持されることで、加圧する工程における振動板11と可動板21との接触が抑制され、ひいては、振動板11と可動板21とが固着することが抑制される。また、このように突起部12が支持されることで、振動板11に対する加圧による振動板11の撓みが抑制される。
【0025】
本実施形態では、振動板11に対する加圧を行っても振動板11と可動板21との固着が抑制されるため、圧電素子41を振動板11に接着する際の加圧を充分に行うことができる。そのため、圧電素子41と振動板11との間に介在する接着剤の層を可及的に薄くすることができ、ひいては、圧電素子の伸縮(歪、変形)を接着剤層でロスすることなく、スムーズに振動板11に伝えることができる。
【0026】
本実施形態では、突起部12の可動板側突起部23は、振動板側突起部13よりも太く形成される。このような構成を採用することで、例えば、
図5(c)におけるSOI部材100aとSOI部材100bとの接合工程において、接合位置が多少ずれても突起部12と可動板側突起部23との接合面積の低下が抑制される。接合面積の低下が抑制されることで、突起部12と可動板側突起部23との接合強度の低下が抑制される。
【0027】
本実施形態では、突起部12の可動板側突起部23は、導入口211の幅よりも細く形成される。そのため、本実施形態では、突起部12が設けられても、流体は導入口211を通過することができる。
【0028】
本実施形態に係るMEMSポンプ1は、動作速度の遅い逆止弁を有しない。そのため、MEMSポンプ1は、振動板11を高周波数で大きく振動させることができ、ひいては、
逆止弁を有するポンプよりも高い流量を確保することができる。
【0029】
<付記1>
振動板(11)と、
前記振動板(11)の上側の面に設けられ、前記振動板(11)を振動させる駆動部(41)と、
前記振動板(11)の下側の面に対向して設けられ、貫通孔(211)が形成された可動板(21)と、
上端部が前記振動板(11)の前記下側の面に接続されるとともに、前記駆動部(41)が前記振動板(11)を振動させていない状態においては下端部が前記貫通孔(211)に達する突起部(12)と、を備える、
流体ポンプ(1)。
【0030】
以上説明した実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。
【符号の説明】
【0031】
1・・MEMSポンプ
11・・振動板
11a・・支持部
12・・突起部
13・・振動板側突起部
21・・可動板
22・・基板
23・・可動板側突起部
31・・ギャップ
41・・圧電素子
50・・治具
51・・支持部
100・・SOI部材
100a・・SOI部材
100b・・SOI部材
101・・活性層
102・・酸化膜
103・・支持基板
211・・導入口
221・・開口部