(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010132
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ソケット脱落防止具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20230113BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B25B21/00 Q
B25B21/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114036
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】594150235
【氏名又は名称】株式会社プロス
(74)【代理人】
【識別番号】100147647
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 利明
(57)【要約】
【課題】 部品点数が少なく、簡易な工程及び安価な費用によって製作することが可能なソケット脱落防止具を提供する。
【解決手段】 本発明に係るソケット脱落防止具1は、第一穴29及び第一溝30を有するソケット挿入部25と、第二穴32及び第二溝33を有してソケット挿入部25と一体形成された回転軸挿入部26と、第一溝30の内部に設けられて少なくともその一部が第一穴29の内部へ突出する弾性変形可能なソケット規制部材27と、第二溝33の内部に設けられて少なくともその一部が第二穴32の内部へ突出する弾性変形可能な回転軸規制部材28と、を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具の回転軸に装着されるソケットが、前記回転軸から脱落するのを防止するソケット脱落防止具であって、
前記ソケットが挿入される第一穴、及び前記第一穴の内側面に形成された第一溝を有するソケット挿入部と、
前記回転工具の回転軸が挿入される第二穴、及び前記第二穴の内側面に形成された第二溝を有し、前記ソケット挿入部と一体形成された回転軸挿入部と、
前記第一溝の内部に、少なくともその一部が前記第一穴の内部へ突出するように設けられた弾性変形可能なソケット規制部材と、
前記第二溝の内部に、少なくともその一部が前記第二穴の内部へ突出するように設けられた弾性変形可能な回転軸規制部材と、
を備えることを特徴とするソケット脱落防止具。
【請求項2】
前記ソケット規制部材と前記ソケットとの間の最大静止摩擦力が、前記回転軸規制部材と前記回転軸との間の最大静止摩擦力より小さくなるように、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ設定されたことを特徴とする請求項1に記載のソケット脱落防止具。
【請求項3】
前記ソケット規制部材と前記ソケットとの間の静止摩擦係数が、前記回転軸規制部材と前記回転軸との間の静止摩擦係数に等しくなるように、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ設定されたことを特徴とする請求項2に記載のソケット脱落防止具。
【請求項4】
前記ソケット規制部材と前記ソケットとの間の最大静止摩擦力が、前記回転軸規制部材と前記回転軸との間の最大静止摩擦力より大きくなるように、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ設定されたことを特徴とする請求項1に記載のソケット脱落防止具。
【請求項5】
前記第一溝及び前記第二溝の少なくとも何れか一方が、前記ソケット規制部材及び/又は前記回転軸規制部材に対して軸方向への移動を許容することが可能な溝幅を有することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のソケット脱落防止具。
【請求項6】
前記回転軸が、前記ソケットを取り外し不能に保持する保持位置と、軸方向に前記保持位置から前記ソケットの側へ第三距離だけ離間して前記ソケットの保持を解除する解除位置との間を移動可能に設けられたスリーブを有し、
前記ソケットが、前記スリーブによって保持された状態で、軸方向に前記第三距離以上の長さの第四距離だけ往復動可能であり、
前記第一溝の内部で前記ソケット規制部材に許容される軸方向への移動距離である第五距離と、前記第二溝の内部で前記回転軸規制部材に許容される軸方向への移動距離である第六距離との合計距離が、前記第四距離から前記第三距離を引いた差分距離より大きいことを特徴とする請求項5に記載のソケット脱落防止具。
【請求項7】
前記第一穴及び前記第二穴がそれぞれ軸方向に直交する断面で円形または多角形に形成されると共に、前記第一溝及び前記第二溝が前記第一穴及び前記第二穴の周方向に延びるようにそれぞれ形成され、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ金属製のCリングまたはゴム製のOリングであることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載のソケット脱落防止具。
【請求項8】
前記第一穴が軸方向に直交する断面で円形に形成されると共に、前記第一溝が前記第一穴の周方向に延びるように形成され、前記ソケット規制部材が軸方向視で前記第一溝の底面に内接する多角形型に形成されたリング状の部材であることを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載のソケット脱落防止具。
【請求項9】
前記第二穴が軸方向に直交する断面で円形に形成されると共に、前記第二溝が前記第二穴の周方向に延びるように形成され、前記回転軸規制部材が軸方向視で前記第二溝の底面に内接する多角形型に形成されたリング状の部材であることを特徴とする請求項1から7及び9の何れか一項に記載のソケット脱落防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具の回転軸に装着されるソケットが前記回転軸から脱落するのを防止するソケット脱落防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトやナットの締め付け作業または緩め作業(以下、「締め付け作業」と略す)に用いられる回転工具としては、大きなトルクを発揮し得るインパクトレンチが従来用いられてきた。しかし、近年、ネジ締めや穴開けに用いられるインパクトドライバーの高出力化を背景に、その回転軸に装着されてインパクトドライバーを締め付け作業に使用可能とする、専用のソケットが広く流通している。このソケットは、被締め付け物であるボルトやナットを嵌合可能な大径のソケット本体部と、インパクトドライバーの回転軸に装着される小径の軸棒部と、を有している。
【0003】
ここで、上述のように構成されるソケットでは、インパクトドライバーの駆動時に受けるねじり力や曲げ力によって小径の軸棒部が破損し、これによりソケットの一部がインパクトドライバーから脱落する恐れがある。そして、建設現場等における高所で締め付け作業を行う場合、脱落したソケットが落下すると、下方の作業者や通行人に危険が及ぶ恐れがある。従って、このようなソケットの脱落を未然に防止する手段が必要とされている。
【0004】
そこで本出願人は、この問題に対処すべく、ソケット脱落防止具を従来提唱している(特許文献1を参照)。特許文献1の
図5から
図7に示されるように、ソケット脱落防止具は、両端にネジ山を備える支持体と、一端側のネジ山に螺合して取り付けられる第1保持手段と、他端側のネジ山に螺合して取り付けられる第2保持手段とを備えている。そして、第1保持手段及び第2保持手段は、その内部の溝に嵌め込まれた弾性体をそれぞれ有している。
【0005】
上述のソケット脱落防止具は、特許文献1の
図8に示されるように、回転工具のチャックが第1保持手段に挿入された後、第1保持手段が支持体に対して相対的に回転される。これにより、支持体に押圧された弾性体が弾性変形してその内径が小さくなることにより、第1保持手段がチャックの外周面を強固に保持する。一方、
図9に示されるように、ソケット本体のスリーブが第2保持手段に挿入された後、第2保持手段が支持体に対して相対的に回転される。これにより、支持体に押圧された弾性体が弾性変形してその内径が小さくなることにより、第2保持手段がスリーブの外周面を強固に保持する。このように、ソケット本体がソケット脱落防止具を介して回転工具に固定されるので、上記軸棒部に該当するドライバービットが回転工具の使用中に破損した場合でも、ソケット本体が回転工具から脱落しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のソケット脱落防止具は、支持体と第1保持手段と第2保持手段とを備え、支持体にはネジ山が、第1保持手段及び第2保持手段にはそれに螺合するネジ山がそれぞれ形成されている。従って、ソケット脱落防止具が複数の部材の組み合わせにより構成される分、製作に要する工程や費用の増加、重量の増加、歩留まりの低下、使用方法の煩雑化等に繋がるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、かかる事情を考慮してなされたものであり、その目的は、部品点数が少なく、簡易な工程及び安価な費用によって製作することが可能なソケット脱落防止具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具は、回転工具の回転軸に装着されるソケットが、前記回転軸から脱落するのを防止するソケット脱落防止具であって、前記ソケットが挿入される第一穴、及び前記第一穴の内側面に形成された第一溝を有するソケット挿入部と、前記回転工具の回転軸が挿入される第二穴、及び前記第二穴の内側面に形成された第二溝を有し、前記ソケット挿入部と一体形成された回転軸挿入部と、前記第一溝の内部に、少なくともその一部が前記第一穴の内部へ突出するように設けられた弾性変形可能なソケット規制部材と、前記第二溝の内部に、少なくともその一部が前記第二穴の内部へ突出するように設けられた弾性変形可能な回転軸規制部材と、を備えている。
【0010】
なお、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記ソケット規制部材と前記ソケットとの間の最大静止摩擦力が、前記回転軸規制部材と前記回転軸との間の最大静止摩擦力より小さくなるように、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ設定されてもよい。
【0011】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記ソケット規制部材と前記ソケットとの間の静止摩擦係数が、前記回転軸規制部材と前記回転軸との間の静止摩擦係数に等しくなるように、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ設定されてもよい。
【0012】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記ソケット規制部材と前記ソケットとの間の最大静止摩擦力が、前記回転軸規制部材と前記回転軸との間の最大静止摩擦力より大きくなるように、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ設定されてもよい。
【0013】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記第一溝及び前記第二溝の少なくとも何れか一方が、前記ソケット規制部材及び/又は前記回転軸規制部材に対して軸方向への移動を許容することが可能な溝幅を有してもよい。
【0014】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記回転軸が、前記ソケットを取り外し不能に保持する保持位置と、軸方向に前記保持位置から前記ソケットの側へ第三距離だけ離間して前記ソケットの保持を解除する解除位置との間を移動可能に設けられたスリーブを有し、前記ソケットが、前記スリーブによって保持された状態で、軸方向に前記第三距離以上の長さの第四距離だけ往復動可能であり、前記第一溝の内部で前記ソケット規制部材に許容される軸方向への移動距離である第五距離と、前記第二溝の内部で前記回転軸規制部材に許容される軸方向への移動距離である第六距離との合計距離が、前記第四距離から前記第三距離を引いた差分距離より大きくてもよい。
【0015】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記第一穴及び前記第二穴がそれぞれ軸方向に直交する断面で円形または多角形に形成されると共に、前記第一溝及び前記第二溝が前記第一穴及び前記第二穴の周方向に延びるようにそれぞれ形成され、前記ソケット規制部材及び前記回転軸規制部材がそれぞれ金属製のCリングまたはゴム製のOリングであってもよい。
【0016】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記第一穴が軸方向に直交する断面で円形に形成されると共に、前記第一溝が前記第一穴の周方向に延びるように形成され、前記ソケット規制部材が軸方向視で前記第一溝の底面に内接する多角形型に形成されたリング状の部材であってもよい。
【0017】
また、本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具においては、前記第二穴が軸方向に直交する断面で円形に形成されると共に、前記第二溝が前記第二穴の周方向に延びるように形成され、前記回転軸規制部材が軸方向視で前記第二溝の底面に内接する多角形型に形成されたリング状の部材であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一の態様に係るソケット脱落防止具によれば、少ない部品点数によって構成されるため、製作に要する工程や費用の低減、軽量化、歩留まりの向上、使用方法の簡略化等を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るソケット脱落防止具1を備えた回転工具ユニットUの構成を示す概略分解斜視図。
【
図2】回転工具2における回転軸6の周辺を示す概略断面図。
【
図3】ソケット3の保持及び保持解除とソケット3の遊びについて説明するための説明図。
【
図4】ソケット脱落防止具1の軸方向に沿う断面を示す概略断面図。
【
図5】ソケット脱落防止具1の使用状態を示す概略断面図。
【
図6】回転工具ユニットUのソケット交換方法について説明するための説明図。
【
図7】ソケット脱落防止具1の第一課題について説明するための説明図。
【
図8】本発明の第二実施形態に係るソケット脱落防止具40の軸方向に沿う断面を示す概略断面図。
【
図9】ソケット脱落防止具40の使用状態を示す概略断面図。
【
図10】ソケット脱落防止具40の作用効果について説明するための説明図。
【
図11】本発明の第三実施形態に係るソケット脱落防止具50の軸方向に沿う断面を示す概略断面図。
【
図12】
図11におけるA-A線断面及びB-B線断面を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るソケット脱落防止具について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
(第一実施形態に係るソケット脱落防止具の構成)
まず、本発明の第一実施形態に係るソケット脱落防止具について説明する。
図1は、第一実施形態に係るソケット脱落防止具1を備えた回転工具ユニットUの構成を示す概略分解斜視図である。回転工具ユニットUは、回転工具2と、ソケット3と、ソケット脱落防止具1と、を備えている。
【0022】
回転工具2は、電力や空圧等を駆動力としてドライバーやドリル等の各種工具を回転させることにより、ネジ締めや穴開け等の作業に用いられる、いわゆるインパクトドライバーである。この回転工具2は、
図1に示すように、工具本体4と、工具本体4の上部に設けられた回転軸6と、を備えている。なお、回転工具2としては、本実施形態のインパクトドライバーに代えて、いわゆるドリルドライバーやインパクトレンチ等を用いることも可能である。
【0023】
工具本体4は、
図1に示すように、その上下方向中間位置に設けられた把持部7と、把持部7の上端部に近接して設けられた操作部8と、把持部7の下端部に近接して設けられた設定部9と、を有している。このように構成される工具本体4によれば、回転工具2の使用者は、把持部7を把持した状態で操作部8を操作することにより、回転軸6の駆動または停止を切り替えることができる。また使用者は、設定部9において、作業に応じた回転軸6の動作モードや、回転軸6の回転速度や、回転軸6の回転時における打撃力発生の有無等を、適宜設定することができる。
【0024】
回転軸6は、工具本体4の上部に回転可能に支持され、電源の供給を受けてその軸周りに回転駆動される。
図2は、回転工具2における回転軸6の周辺を示す概略断面図である。回転軸6は、軸方向基端部が工具本体4により支持されて軸方向先端部が工具本体4の外部へ突出したアンビル10と、このアンビル10の軸方向先端部に配置された複数の金属ボール11と、アンビル10の軸方向先端部を覆って設けられたスリーブ12と、スリーブ12とアンビル10の間に設けられたコイルバネ13と、を有している。
【0025】
アンビル10は、
図1及び
図2に示すように、略円柱形状を有する金属製の部材であり、その軸方向先端部には、断面六角形のソケット挿入穴14が軸方向に延びるように形成されている。これにより、アンビル10の軸方向先端部は、その厚みが金属ボール11の直径より若干小さく設定されている。また、アンビル10には、その軸方向先端部を厚み方向に貫通するボール嵌合孔15が、周方向に所定間隔で複数個形成されている。ボール嵌合孔15それぞれは、ソケット挿入穴14への開口部の直径が金属ボール11の直径より若干小さく形成されると共に、外部への開口部の直径が金属ボール11の直径より若干大きく形成されている。このように構成されるアンビル10は、その軸方向基端部が工具本体4によって軸周りに回転可能に支持されると共に、その軸方向先端部が工具本体4の外部へ突出している。
【0026】
複数の金属ボール11は、アンビル10のソケット挿入穴14に挿入されたソケット3を取り外し不能に保持する役割を果たす。これら金属ボール11は、それぞれ金属製の球体であって、
図2に示すように、アンビル10の軸方向先端部に形成された複数のボール嵌合孔15に対し、外部側からそれぞれ嵌合されている。ここで、上述のようにアンビル10の軸方向先端部の厚みは、金属ボール11の直径より若干小さく設定されている。従って、各金属ボール11は、ボール嵌合孔15に嵌合された状態において、その一部分をソケット挿入穴14の内部へそれぞれ突出させている。
【0027】
スリーブ12は、金属ボール11によるソケット3の保持または保持解除を切り替える役割を果たす。このスリーブ12は、
図2に示すように、鉄からなる円筒形状の部材であって、その軸方向中央部に径方向内側へ突出して設けられたボール規制突起16と、内周面におけるボール規制突起16より軸方向一端側に形成されたボール逃がし溝17と、内周面におけるボール規制突起16より軸方向他端側に形成されたバネ収容溝18と、外周面の軸方向一端部に形成されたテーパ面19と、を有している。
【0028】
ボール規制突起16は、金属ボール11がアンビル10の径方向外側へ移動するのを規制する役割を果たす。このボール規制突起16の内径は、アンビル10の外径と略等しい大きさに設定されている。一方、ボール逃がし溝17は、金属ボール11がアンビル10の径方向外側へ移動するのを許容する役割を果たす。このボール逃がし溝17の溝深さは、金属ボール11がアンビル10の内周面から突出する高さと略等しい大きさに設定されている。また、バネ収容溝18は、内部にコイルバネ13を収容する役割を果たす。このバネ収容溝18の軸方向長さは、コイルバネ13の自然長より若干大きく設定されている。また、テーパ面19は、ソケット脱落防止具1をスリーブ12に係止させる役割を果たす。このテーパ面19は、スリーブ12の外周面を軸方向他端側から軸方向一端側に向かって徐々に縮径させるようにして形成されている。
【0029】
このように構成されるスリーブ12は、その軸方向一端側をアンビル10の軸方向基端側に向けるようにして、アンビル10の軸方向先端部を包囲して配置され、軸方向に沿った往復動が可能となっている。
【0030】
コイルバネ13は、スリーブ12を軸方向に付勢する役割を果たす。このコイルバネ13は、いわゆる圧縮バネであって、
図2に示すように、スリーブ12のバネ収容溝18に収容されてアンビル10の周囲を巻回し、自然長の状態でその一端部がアンビル10に固定されると共に、その他端部がスリーブ12に固定されている。
【0031】
以上のように構成される回転工具2によれば、
図2に示すように、スリーブ12に外力が作用しない時はスリーブ12が保持位置Hに位置し、そのボール規制突起16が金属ボール11に当接するか近接して位置することにより、金属ボール11の径方向外側への移動が規制される。また、使用者がコイルバネ13を圧縮させながらスリーブ12を軸方向先端側へ移動させた時も、ボール規制突起16が金属ボール11に当接している間は、金属ボール11の径方向外側への移動が規制される。しかし、使用者がスリーブ12を更に軸方向先端側へ移動させ、保持位置Hから第三距離L3だけ離間した解除位置Kに到達すると、ボール規制突起16が金属ボール11から離間し、金属ボール11の径方向外側にはボール逃がし溝17が位置する状態となる。これにより、ボール規制突起16による規制が解除され、金属ボール11は径方向外側への移動が許容された状態となる。そして、この状態で使用者がスリーブ12から手を離すと、コイルバネ13の付勢力を受けてスリーブ12が軸方向基端側へ移動し、ボール規制突起16が金属ボール11に当接すると、金属ボール11は径方向外側への移動が規制された状態へと復帰する。
【0032】
次に、
図1に示すソケット3は、回転工具2の回転駆動力を被締め付け物(不図示)に伝達する役割を果たす。このソケット3は、ソケット本体部20と、軸棒部21と、を備えている。
【0033】
ソケット本体部20は、ソケット3を被締め付け物に嵌合させるために使用される。このソケット本体部20は、
図1に示すように、断面円形の外形を有する鉄からなる部材である。このソケット本体部20は、その軸方向先端側から軸方向に延びるように形成された断面六角形のボルト嵌合穴22と、軸方向基端部の外周面に螺旋状に延びるように形成された断面V字型の係止溝23と、を有している。ボルト嵌合穴22は、被締め付け物である六角ボルトの頭部や六角ナット(不図示)が嵌合される。なお、ボルト嵌合穴22の断面形状や深さは、被締め付け物の形状に応じて任意に変更が可能である。一方、係止溝23は、
図1に示すソケット脱落防止具1が係止して取り付けられる。なお、係止溝23の断面形状や相隣接する山部間の距離等は、ソケット脱落防止具1の構造に応じて任意に変更が可能である。
【0034】
軸棒部21は、ソケット3を回転工具2の回転軸6に取り付けるために使用される。この軸棒部21は、
図1に示すように、鉄からなる六角柱形状の部材であり、その断面形状は、回転工具2のアンビル10に形成されたソケット挿入穴14の断面形状と略合致する六角形とされている。また軸棒部21は、その軸方向中間部の外周面に形成されて周方向に延びるボール収容溝24を有している。このボール収容溝24は、アンビル10に嵌合された金属ボール11のうちソケット挿入穴14に突出した部分を収容する役割を果たす。またボール収容溝24は、断面円弧形状を有し、その軸方向の溝幅が、
図2に示すボール嵌合孔15のソケット挿入穴14への開口直径よりも大きく設定されている。なお、ボール収容溝24の溝幅や径方向への溝深さは、金属ボール11の大きさ等に応じて任意に変更が可能である。このように構成される軸棒部21は、その軸方向一端部が、ソケット本体部20の軸方向基端部に固定されている。
【0035】
図3は、ソケットの保持及び保持解除とソケットの遊びについて説明するための説明図である。以上のように構成されるソケット3は、その軸棒部21がソケット挿入穴14に挿入され、スリーブ12により、取り外し不能に保持された状態と保持が解除されて取り外し可能な状態とが切り替えられる。より詳細には、
図3(a)に示すように、スリーブ12が保持位置Hの周辺に位置している時は、軸棒部21のボール収容溝24に金属ボール11の径方向内側部分が収容されると共に、その金属ボール11の径方向外側への移動がスリーブ12のボール規制突起16によって規制されることにより、ソケット3はソケット挿入穴14から引き抜き不能に保持される。一方、
図3(b)に示すように、スリーブ12が軸方向に移動して解除位置Kに到達すると、ボール規制突起16が金属ボール11から離間し、金属ボール11の径方向外側にスリーブ12のボール逃がし溝17が位置した状態になる。この状態においてソケット3を軸方向へ移動させると、その軸棒部21の周面に押圧された金属ボール11は、径方向外側へ移動することにより、その径方向内側部分がボール収容溝24の外部へ押し出され、その径方向外側部分がボール逃がし溝17に収容される。これにより、スリーブ12によるソケット3の保持が解除され、ソケット3はソケット挿入穴14から引き抜き可能な状態となる。
【0036】
更に、取り外し不能に保持されたソケット3には、軸方向への若干の遊びが許容される。より詳細には、上述のようにボール収容溝24の軸方向の溝幅は、ボール嵌合孔15のソケット挿入穴14への開口直径よりも大きく設定されている。従って、
図3(a)に示すように、ボール収容溝24に金属ボール11が収容された状態で両者の間には若干の隙間が生じる。これにより、
図3(c)に示すように、その隙間の分だけソケット3には軸方向への往復動が許容される。ここでソケット3が往復動可能な距離である第四距離L4(
図3(a)参照)は、スリーブ12の保持位置Hから解除位置Kまでの距離である第三距離L3(
図2参照)以上の大きさに設定されている。具体的には、第三距離L3が約2.6mmに、第四距離L4が約2.7mmにそれぞれ設定されている。なお、第三距離L3及び第四距離L4の大きさは、両者の大小関係を保った範囲で任意に変更が可能である。
【0037】
次に、
図1に示すソケット脱落防止具1は、ソケット3がその軸棒部21の破損時に回転工具2の回転軸6から脱落するのを防止する役割を果たす。
図4は、ソケット脱落防止具1の軸方向に沿う断面を示す概略断面図である。ソケット脱落防止具1は、ソケット挿入部25と、回転軸挿入部26と、ソケット規制部材27と、回転軸規制部材28と、を備えている。
【0038】
ソケット挿入部25は、
図4に示すように、鉄からなる円筒形状の部材であって、その軸方向全長に亘って延びるように形成された第一穴29と、この第一穴29の内周面における軸方向先端部に周方向全長に亘って延びるように形成された第一溝30と、を有している。
【0039】
第一穴29は、ソケット3の軸棒部21及びソケット本体部20の基端部が挿入される。この第一穴29は、
図1に示すように軸方向に直交する断面で円形に形成され、その内径は、ソケット本体部20の基端部の外径と同程度かそれより若干大きく設定されている。なお、第一穴29の断面形状は、ソケット本体部20の外形に応じて任意に変更が可能である。一方、第一溝30は、ソケット規制部材27を収容する役割を果たす。この第一溝30は、
図4に示すように断面矩形に形成され、その軸方向の溝幅W1は、収容したソケット規制部材27との間に隙間が生じない程度の大きさに設定されている。また、第一溝30の径方向の溝深さは、その底面31とソケット規制部材27との間に若干の隙間が生じる程度の大きさに設定されている。なお、第一溝30の断面形状は、ソケット規制部材27の形状に応じて任意に変更が可能である。
【0040】
回転軸挿入部26は、
図4に示すように、鉄からなる円筒形状の部材であって、その軸方向全長に亘って延びるように形成された第二穴32と、この第二穴32の内周面における軸方向基端部に周方向全長に亘って延びるように形成された第二溝33と、を有している。
【0041】
第二穴32は、アンビル10の軸方向先端部及びスリーブ12が挿入される。この第二穴32は、
図1に示すように軸方向に直交する断面で円形に形成され、その内径は、スリーブ12の外径と同程度かそれより若干大きく設定されている。本実施形態では、第二穴32の内径は、第一穴29の内径より若干小さく設定されている。なお、第二穴32の断面形状は、スリーブ12の外形に応じて任意に変更が可能である。一方、第二溝33は、回転軸規制部材28を収容する役割を果たす。この第二溝33は、
図4に示すように断面矩形に形成され、その軸方向の溝幅W2は、収容した回転軸規制部材28との間に隙間が生じない程度の大きさに設定されている。また、第二溝33の径方向の溝深さは、その底面34と回転軸規制部材28との間に若干の隙間が生じる程度の大きさに設定されている。なお、第二溝33の断面形状は、回転軸規制部材28の形状に応じて任意に変更が可能である。
【0042】
このように形成される回転軸挿入部26は、ソケット挿入部25と一体形成されている。より詳細には、鉄からなる一本の円柱形状の部材の全体をソケット脱落防止具1として構成し、その軸方向先端側をソケット挿入部25として構成する一方、軸方向基端側を回転軸挿入部26として構成している。そして、当該円柱形状の部材の軸方向両端部をそれぞれ切削加工することにより、軸方向先端部に第一穴29と第一溝30を、軸方向基端部に第二穴32と第二溝33を、それぞれ形成している。また、第一穴29と第二穴32とは互いに連通している。なお、ソケット挿入部25及び回転軸挿入部26の材質は、アルミニウムなど鉄以外の金属製や、樹脂製とすることも可能である。
【0043】
ソケット規制部材27は、
図1に示すように、金属材が平面視でC型に形成されて径方向へ弾性変形可能な、いわゆるCリングである。このソケット規制部材27は、
図4に示すように、その内径が、ソケット挿入部25の第一穴29の内径よりも若干小さく設定されると共に、その外径が、ソケット挿入部25の第一溝30の外径、すなわち底面31における径よりも若干小さく設定されている。また、ソケット規制部材27の線径は、第一溝30の軸方向の溝幅W1と同程度の大きさに設定されている。
【0044】
このように構成されるソケット規制部材27は、
図4に示すように、ソケット挿入部25の第一溝30の内部に収容されている。ここで、ソケット規制部材27の線径が第一溝30の軸方向の溝幅W1と同程度の大きさに設定されているので、ソケット規制部材27は、第一溝30の両側壁にそれぞれ当接して位置決めされることにより、軸方向へは移動不能な状態となっている。また、ソケット規制部材27の内径が第一穴29の内径よりも若干小さく設定されているので、ソケット規制部材27は、外力が作用しない状態において、その径方向内側部分の少なくとも一部が第一穴29の内部へ突出した状態となっている。また、ソケット規制部材27の外径が第一溝30の外径よりも若干小さく設定されているので、ソケット規制部材27は、外力が作用しない状態において、第一溝30の底面31との間に若干の隙間が生じている。これにより、ソケット規制部材27は、径方向外側へ弾性変形可能な状態となっている。
【0045】
回転軸規制部材28は、
図1に示すように、金属材が平面視でC型に形成されて径方向へ弾性変形可能な、いわゆるCリングである。この回転軸規制部材28は、
図4に示すように、その内径が、回転軸挿入部26の第二穴32の内径よりも若干小さく設定されると共に、その外径が、回転軸挿入部26の第二溝33の外径、すなわち底面34における径よりも若干小さく設定されている。本実施形態では、回転軸規制部材28の内径及び外径は、ソケット規制部材27の内径及び外径と比較して、それぞれ若干小さく設定されている。また、回転軸規制部材28の線径は、第二溝33の軸方向の溝幅W2と同程度の大きさに設定されている。
【0046】
このように構成される回転軸規制部材28は、
図4に示すように、回転軸挿入部26の第二溝33の内部に収容されている。ここで、回転軸規制部材28の線径が第二溝33の軸方向の溝幅W2と同程度の大きさに設定されているので、回転軸規制部材28は、第二溝33の両側壁にそれぞれ当接して位置決めされることにより、軸方向へは移動不能な状態となっている。また、回転軸規制部材28の内径が第二穴32の内径よりも若干小さく設定されているので、回転軸規制部材28は、外力が作用しない状態において、その径方向内側部分の少なくとも一部が第二穴32の内部へ突出した状態となっている。また、回転軸規制部材28の外径が第二溝33の外径よりも若干小さく設定されているので、回転軸規制部材28は、外力が作用しない状態において、第二溝33の底面34との間に若干の隙間が生じている。これにより、回転軸規制部材28は、径方向外側へ弾性変形可能な状態となっている。
【0047】
図5は、ソケット脱落防止具1の使用状態を示す概略断面図である。以上のように構成されるソケット脱落防止具1は、ソケット挿入部25の第一穴29にソケット3の軸棒部21及びソケット本体部20の基端部が挿入される一方、回転軸挿入部26の第二穴32にアンビル10の軸方向先端部及びスリーブ12が挿入されることにより、回転工具2とソケット3とを接続するように取り付けられる。そしてこの状態において、ソケット規制部材27のうち第一穴29の内部へ突出した部分が、ソケット本体部20により径方向外側へ押圧されることにより、ソケット規制部材27は径方向外側へ弾性変形した状態となっている。従って、ソケット規制部材27は、弾性変形前の形状に復元しようとする復元力により、ソケット本体部20に押し付けられると共に、ソケット本体部20の係止溝23に係止した状態となっている。これにより、ソケット3は、ソケット本体部20とソケット規制部材27との間に作用する摩擦力により、軸方向への移動が規制される。そして、両者の間に作用する摩擦力が、両者間に固有のソケット側最大静止摩擦力を越えて大きくなった時に、ソケット3がソケット脱落防止具1に対する相対的な移動を開始する。ここで、このソケット側最大静止摩擦力は、ソケット本体部20の材質、ソケット規制部材27の材質、ソケット規制部材27の線径、係止溝23の溝深さや断面形状等、種々の要因によって決定される。
【0048】
また、ソケット脱落防止具1が取り付けられた状態において、回転軸規制部材28のうち第二穴32の内部へ突出した部分が、スリーブ12により径方向外側へ押圧されることにより、回転軸規制部材28は径方向外側へ弾性変形した状態となっている。従って、回転軸規制部材28は、弾性変形前の形状に復元しようとする復元力により、スリーブ12に押し付けられると共に、スリーブ12のテーパ面19に係止した状態となっている。これにより、スリーブ12は、回転軸規制部材28との間に作用する摩擦力により、軸方向への移動が規制される。そして、両者の間に作用する摩擦力が、両者間に固有のスリーブ側最大静止摩擦力を越えて大きくなった時に、スリーブ12がソケット脱落防止具1に対する相対的な移動を開始する。ここで、このスリーブ側最大静止摩擦力は、スリーブ12の材質、回転軸規制部材28の材質、回転軸規制部材28の線径、テーパ面19の傾斜角度等、種々の要因によって決定される。本実施形態では、このスリーブ側最大静止摩擦力がソケット側最大静止摩擦力より大きくなるように、換言すればソケット側最大静止摩擦力がスリーブ側最大静止摩擦力より小さくなるように、各最大静止摩擦力を決定する上記種々の要因をそれぞれ設定している。
【0049】
以上説明した第一実施形態のソケット脱落防止具1によれば、回転軸挿入部26とソケット挿入部25とが一体形成されている。従って、回転軸挿入部26とソケット挿入部25を別部材として構成して第三の部材を介して両者を接続するような従来方式と比較して、ソケット脱落防止具1を少ない部品点数によって構成することができる。これにより、ソケット脱落防止具1の製作に要する工程や費用の低減、軽量化、歩留まりの向上、使用方法の簡略化等を図ることができる。
【0050】
(回転工具ユニットのソケット交換方法及び作用効果)
次に、回転工具ユニットUのソケット交換方法について説明する。使用者は、被締め付け物である六角ボルトや六角ナットの規格に応じて、その頭部に嵌合可能なボルト嵌合穴22を有するソケット3に適宜交換する必要がある。
図6は、回転工具ユニットUのソケット交換方法について説明するための説明図である。ソケット3を交換する場合、使用者は、片方の手で回転工具2を押さえた状態で、もう片方の手でソケット3を掴み、回転工具2から引き離すようにソケット3を軸方向に引っ張る。そうすると、
図6(a)に示すように、ソケット3は、遊びが許容された第四距離L4の範囲内で軸方向へ移動することができる。そしてこのソケット3の移動に伴って、ソケット3から引っ張り力を受けるソケット脱落防止具1、及びソケット脱落防止具1から引っ張り力を受けるスリーブ12も、それぞれ軸方向へ移動する。ここで、上述のようにソケット3が移動可能な第四距離L4は、スリーブ12の保持位置Hから解除位置Kまでの距離である第三距離L3以上の大きさに設定されている。従って、スリーブ12は保持位置Hから解除位置Kに到達し、スリーブ12によるソケット3の保持が解除されることにより、ソケット3はソケット挿入穴14から引き抜き可能な状態となる。
【0051】
この状態から、使用者が更にソケット3を軸方向に引っ張ると、上述のようにソケット側最大静止摩擦力がスリーブ側最大静止摩擦力より小さく設定されているので、スリーブ12がソケット脱落防止具1に対する相対的な移動を開始する前に、ソケット3がソケット脱落防止具1に対する相対的な移動を開始する。すなわち、
図6(b)に示すように、ソケット脱落防止具1がスリーブ12に固定された状態のまま、ソケット3がソケット脱落防止具1から離反し、その後にソケット3がソケット挿入穴14から引き抜かれる。これにより、使用者は、回転工具ユニットUからソケット3だけを取り外して、被締め付け物の締め付けに適した他のソケット3に交換することができる。
【0052】
(第一実施形態の変形例)
本実施形態では、ソケット脱落防止具1を構成する回転軸挿入部26とソケット挿入部25とを一体形成するために、一本の円柱形状の部材の軸方向先端側をソケット挿入部25として構成する一方、軸方向基端側を回転軸挿入部26として構成している。しかし、両者を一体形成する手段は本実施例に限られず、例えば回転軸挿入部26とソケット挿入部25を別部材としてそれぞれ構成し、溶接や固定具や接着剤等によって両者を一体形成することも可能である。
【0053】
本実施形態では、ソケット脱落防止具1を構成するソケット規制部材27及び回転軸規制部材28として、金属製のCリングをそれぞれ用いた。しかし、ソケット規制部材27及び回転軸規制部材28としては、Cリングに代えて、ゴム材が平面視でO型に形成されて径方向へ弾性変形可能な、いわゆるOリングを用いることも可能である。また、ソケット規制部材27及び回転軸規制部材28は、既製のCリングやOリングに限定されない。
【0054】
本実施形態では、ソケット3を掴んで引っ張った時にソケット脱落防止具1が回転工具2側に残ったままソケット3だけが外れるよう、ソケット側最大静止摩擦力をスリーブ側最大静止摩擦力より小さく設定した。しかし、これとは逆に、ソケット側最大静止摩擦力をスリーブ側最大静止摩擦力より大きく設定することも可能である。この場合、ソケット3を掴んで引っ張った時に、ソケット3とソケット脱落防止具1が一体化した状態で回転工具2から外れることになる。従って、ソケット3及びソケット脱落防止具1の両方を交換する必要がある場合に、取り外し作業を迅速に行うことができるという利点がある。また、ソケット側最大静止摩擦力をスリーブ側最大静止摩擦力と等しく設定することも可能である。
【0055】
なお、これら第一実施形態の変形例を、後述する他の実施形態の変形例として適用することも可能である。
【0056】
(第一実施形態に係るソケット脱落防止具の課題)
次に、第一実施形態のソケット脱落防止具1が有する第一課題について説明する。
図7は、ソケット脱落防止具1の第一課題について説明するための説明図である。ソケット脱落防止具1を備えた回転工具ユニットUを用いて被締め付け物の締め付け作業を行う場合、
図7(a)に示すように、使用者はまずソケット3を被締め付け物Cに嵌合させる。そして使用者は、回転工具2を操作して回転軸6を駆動させ、
図7(b)に示すように、被締め付け物Cを十分に締め付けた後、回転軸6を停止させる。その後使用者は、ソケット3を被締め付け物Cから取り外すべく、回転工具2を被締め付け物Cから
図7(b)に矢印で示す方向へ離間させる。
【0057】
しかしこの時、ソケット3と被締め付け物Cの嵌め合いによっては、ソケット3が被締め付け物Cに噛み込むことにより被締め付け物Cからスムーズに外れない場合がある。この場合、上述のようにソケット3には若干の遊びが許容されているので、使用者は、被締め付け物Cに噛み込んだ状態のソケット3に対して回転工具2を相対的に移動させることができる。そして、この時に回転工具2のスリーブ12(
図6参照)は、ソケット3及びそれに固定されたソケット脱落防止具1から引っ張り力を受けることにより、アンビル10の軸方向先端側へ移動する。ここで、ソケット3に許容された遊びは、スリーブ12の保持位置Hから解除位置Kまでの距離より大きく設定されている。従って、回転工具2の移動によってスリーブ12は解除位置Kに到達し、スリーブ12によるソケット3の保持が解除される。この状態から、使用者が回転工具2を被締め付け物Cから更に離間させると、上述のようにソケット側最大静止摩擦力がスリーブ側最大静止摩擦力より小さく設定されているので、スリーブ12がソケット脱落防止具1に対する相対的な移動を開始する前に、ソケット3がソケット脱落防止具1に対する相対的な移動を開始する。すなわち、ソケット脱落防止具1がスリーブ12に固定された状態のまま、ソケット3がソケット脱落防止具1から離反し、その後にソケット3がソケット挿入穴14から引き抜かれる。これにより、
図7(c)に示すように、ソケット3だけが被締め付け物Cの側に残り、ソケット脱落防止具1と回転工具2がソケット3から分離する。従って、使用者が締め付け作業を中断してソケット3を被締め付け物Cから取り外す必要があるため、作業効率の低下という第一課題が生じる。
【0058】
次に、第一実施形態のソケット脱落防止具1が有する第二課題について説明する。本実施形態のソケット脱落防止具1では、第一溝30に収容されるソケット規制部材27が平面視でC型に形成されている。そして、このソケット脱落防止具1の外径は、第一溝30から外れないように第一穴29の内径よりは大きく、且つ、ソケット3に押圧されて径方向外側へ弾性変形できるように第一溝30の外径すなわち底面31における径よりは若干小さく設定されている。従って、ソケット規制部材27と第一溝30の底面31との間には若干の隙間が生じ、ソケット規制部材27は第一溝30の内部で位置決めされない。これにより、第一溝30の内部でソケット規制部材27が径方向に位置ずれすることにより、ソケット規制部材27の中心軸と第一穴29の中心軸とが一致しない状態になりやすい。従って、ソケット規制部材27がソケット3に対して及ぼす規制力、すなわちソケット3の軸方向への移動を規制する力の大きさに、周方向の位置によるばらつきが生じやすいという第二課題がある。また、この第二課題は、第二溝33に収容される回転軸規制部材28にも共通している。
【0059】
(第二実施形態に係るソケット脱落防止具の構成)
次に、本発明の第二実施形態に係るソケット脱落防止具について説明する。本実施形態のソケット脱落防止具は、第一実施形態のソケット脱落防止具1が有する上記第一課題の解決を目的としたものである。
図8は、本発明の第二実施形態に係るソケット脱落防止具40の軸方向に沿う断面を示す概略断面図である。ソケット脱落防止具40は、第一実施形態のソケット脱落防止具1と比較すると、ソケット挿入部25の第一溝41及び回転軸挿入部26の第二溝42の構成が、それぞれ異なっている。ソケット脱落防止具40のそれ以外の構成、及び回転工具2やソケット3の構成は、第一実施形態と同じであるためその説明を省略し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0060】
第一溝41は、断面矩形に形成され、その軸方向の溝幅W3は、内部に収容したソケット規制部材27の線径すなわち断面直径よりも大きく設定されている。従って、第一溝41の側壁41sとソケット規制部材27との間には隙間が形成されている。これにより、ソケット規制部材27には、軸方向へ第五距離L5(溝幅W3から線径を差し引いた値)だけの移動が許容されている。また、第一溝41の径方向の溝深さD3は、その底面41bとソケット規制部材27との間に若干の隙間が生じる程度の大きさに設定されている。なお、第一溝41の断面形状は、ソケット規制部材27の形状に応じて任意に変更が可能である。
【0061】
第二溝42は、断面矩形に形成され、その軸方向の溝幅W4は、内部に収容した回転軸規制部材28の線径すなわち断面直径よりも大きく設定されている。従って、第二溝42の側壁42sと回転軸規制部材28との間には隙間が形成されている。これにより、回転軸規制部材28には、軸方向へ第六距離L6(溝幅W4から線形を差し引いた値)だけの移動が許容されている。また、第二溝42の径方向の溝深さD4は、その底面42bと回転軸規制部材28との間に若干の隙間が生じる程度の大きさに設定されている。なお、第二溝42の断面形状は、回転軸規制部材28の形状に応じて任意に変更が可能である。
【0062】
本実施形態では、第五距離L5と第六距離L6の合計距離を算出し、ソケット3が往復動可能な第四距離L4からこの合計距離を差し引いた差分距離が、スリーブ12の保持位置Hから解除位置Kまでの距離である第三距離L3より小さく設定されている(式(1)参照)。換言すれば、第五距離L5と第六距離L6の合計距離が、第四距離L4から第三距離L3を差し引いた差分距離より大きく設定されている(式(2)参照)。
第四距離L4-(第五距離L5+第六距離L6)<第三距離L3・・・・・式(1)
第四距離L4-第三距離L3<第五距離L5+第六距離L6・・・・・・・式(2)
【0063】
(第二実施形態に係るソケット脱落防止具の作用効果)
本実施形態のソケット脱落防止具40によれば、第一実施形態のソケット脱落防止具40が有する上記第一課題を解決することができる。より詳細には、上述のように、回転工具ユニットUを用いた締め付け作業の完了後に、ソケット3が被締め付け物Cに噛み込むことにより、ソケット3が被締め付け物Cからスムーズに外れない場合がある。この場合、第一実施形態のソケット脱落防止具1では、遊びが許容されたソケット3が軸方向へ移動すると、その移動距離がそのままソケット脱落防止具1を介してスリーブ12の移動距離として反映されることにより、スリーブ12が解除位置Kに到達してソケット3の保持が解除された。
【0064】
図9は、ソケット脱落防止具40の使用状態を示す概略断面図である。第二実施形態のソケット脱落防止具40によれば、第一溝41に収容されたソケット規制部材27に軸方向への移動が許容されていると共に、第二溝42に収容された回転軸規制部材28にも軸方向への移動が許容されている。そして、ソケット規制部材27は、第一穴29に挿入されるソケット3から押圧力を受けることにより、第一溝41の軸方向基端側の側壁41sに当接した状態となっている。一方、回転軸規制部材28は、第二穴32に挿入されるスリーブ12から押圧力を受けることにより、第二溝42の軸方向先端側の側壁42sに当接した状態となっている。
【0065】
図10は、ソケット脱落防止具40の作用効果について説明するための説明図である。
図9に示す状態において、遊びが許容されたソケット3が軸方向先端側へ相対的に移動しても、ソケット3からソケット脱落防止具40に対して軸方向への力は作用しないため、ソケット脱落防止具40は停止している。そして、
図10(a)に示すように、係止溝23に係止されたソケット規制部材27が第一溝41の軸方向先端側の側壁41sに接触する位置に到達すると、ソケット3から力を受けたソケット脱落防止具40が、軸方向先端側への移動を開始する。
【0066】
しかし、ソケット脱落防止具40が軸方向先端側へ相対的に移動しても、ソケット脱落防止具40からスリーブ12に対して軸方向への力は作用しないため、スリーブ12は停止している。そして、
図10(b)に示すように、テーパ面19に係止された回転軸規制部材28が第二溝42の軸方向後端側の側壁42sに接触する位置に到達すると、ソケット脱落防止具40から力を受けたスリーブ12が、軸方向先端側への移動を開始する。このように、ソケット3の移動開始から遅れてスリーブ12が移動を開始するので、ソケット3の移動距離がそのままスリーブ12の移動距離としては反映されない。
【0067】
その後、
図10(c)に示すように、ソケット3が往復動可能な第四距離L4だけ移動した時、ソケット規制部材27に許容された移動距離である第五距離L5と、回転軸規制部材28に許容された移動距離である第六距離L6との合計距離を第四距離L4から差し引いた差分距離が、スリーブ12の移動距離となる。そして、本実施形態では当該差分距離が、スリーブ12の保持位置Hから解除位置Kまでの距離である第三距離L3より小さく設定されている(式(1)参照)。従って、スリーブ12は解除位置Kに到達せず、スリーブ12によるソケット3の保持は解除されない。これにより、ソケット3が回転工具2から外れることなく、使用者は、回転工具2に対してより強い力を加えて被締め付け物Cから離間させることにより、ソケット3を被締め付け物Cから取り外すことができる。
【0068】
(第二実施形態の変形例)
本実施形態では、ソケット3の移動距離がソケット脱落防止具40を介してそのままスリーブ12の移動距離として反映されないよう、第一溝41に収容されたソケット規制部材27及び第二溝42に収容された回転軸規制部材28の両方に軸方向への移動が許容されている。しかし、ソケット3が軸方向に移動してもスリーブ12が解除位置Kに到達しないためには、ソケット規制部材27及び回転軸規制部材28のうち、少なくとも何れか一方に軸方向への移動が許容されることにより、上記式(1)の関係が満足されれば足りる。従って、例えば、第一溝41の軸方向の溝幅W3をソケット規制部材27の線径より相当に大きく設定すると共に、第二溝42の軸方向の溝幅W4を回転軸規制部材28の線径と同程度の大きさに設定することにより、ソケット規制部材27だけに軸方向への移動を許容することも可能である。一方、第一溝41の軸方向の溝幅W3をソケット規制部材27の線径と同程度の大きさに設定すると共に、第二溝42の軸方向の溝幅W4を回転軸規制部材28の線径より相当に大きく設定することにより、回転軸規制部材28だけに軸方向への移動を許容することも可能である。
【0069】
なお、この第二実施形態の変形例を、後述する他の実施形態の変形例として適用することも可能である。
【0070】
(第三実施形態に係るソケット脱落防止具の構成)
次に、本発明の第三実施形態に係るソケット脱落防止具について説明する。本実施形態のソケット脱落防止具は、第一実施形態のソケット脱落防止具1が有する上記第二課題の解決を目的としたものである。
図11は、第三実施形態に係るソケット脱落防止具50の軸方向に沿う断面を示す概略断面図である。また、
図12(a)は
図11におけるA-A線断面を、
図12(b)はB-B線断面をそれぞれ示す概略断面図である。ソケット脱落防止具50は、第一実施形態のソケット脱落防止具1と比較すると、ソケット規制部材51及び回転軸規制部材52の構成が異なっている。ソケット脱落防止具50のそれ以外の構成、及び回転工具2やソケット3の構成は、第一実施形態と同じであるためその説明を省略し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0071】
ソケット規制部材51は、
図12(a)に示すように、金属材が平面視で正六角形型に形成されたリング状の部材である。このソケット規制部材51は、第一溝30の底面31に内接する大きさに、すなわちその中心から角部の頂点までの距離が第一溝30の外径に等しくなるように形成されている。なお、本明細書においてソケット規制部材51が「内接する」とは、ソケット規制部材51の6つの角部が第一溝30の底面31にそれぞれ当接する場合は勿論、ソケット規制部材51の角部と第一溝30の底面31との間に若干の隙間が形成される場合も含む概念である。
【0072】
このように構成されるソケット規制部材51は、
図12(a)に示すように、第一溝30の内部にその底面31に内接した状態で収容されている。従って、ソケット規制部材51は、径方向へ移動不能に位置決めされることにより、その中心軸が第一穴29(図に破線で記載)の中心軸と一致した状態となっている。また、ソケット規制部材51の6つの辺に相当する直線部分53は、第一溝30の底面31から離間して配置されるので、外力が作用しない時はその大部分が第一穴29の内部へ突出しており(
図12(a)参照)、外力が作用した時は径方向外側へ弾性変形可能となっている。
【0073】
回転軸規制部材52は、
図12(b)に示すように、金属材が平面視で正六角形型に形成されたリング状の部材である。この回転軸規制部材52は、第二溝33の底面34に内接する大きさに、すなわちその中心から角部の頂点までの距離が第二溝33の外径に等しくなるように形成されている。なお、本明細書において回転軸規制部材52が「内接する」とは、回転軸規制部材52の6つの角部が第二溝33の底面34にそれぞれ当接する場合は勿論、回転軸規制部材52の角部と第二溝33の底面34との間に若干の隙間が形成される場合も含む概念である。
【0074】
このように構成される回転軸規制部材52は、
図12(b)に示すように、第二溝33の内部にその底面34に内接した状態で収容されている。従って、回転軸規制部材52は、径方向へ移動不能に位置決めされることにより、その中心軸が第二穴32(図に破線で記載)の中心軸と一致した状態となっている。また、回転軸規制部材52の6つの辺に相当する直線部分54は、第二溝33の底面34から離間して配置されるので、外力が作用しない時はその大部分が第二穴32の内部へ突出しており(
図12(b)参照)、外力が作用した時は径方向外側へ弾性変形可能となっている。
【0075】
以上のように構成されるソケット脱落防止具50によれば、ソケット規制部材51は、その中心軸が第一穴29の中心軸と一致した状態で第一溝30に収容されると共に、6つの辺に相当する直線部分53が一様に第一穴29の内部へ突出している。これにより、ソケット規制部材51がソケット3に対して及ぼす規制力が、周方向の位置によらず均一な大きさになりやすいという利点がある。同様に、回転軸規制部材52は、その中心軸が第二穴32の中心軸と一致した状態で第二溝33に収容されると共に、6つの辺に相当する直線部分54が、一様に第二穴32の内部へ突出している。これにより、回転軸規制部材52がスリーブ12に対して及ぼす規制力が、周方向の位置によらず均一な大きさになりやすいという利点がある。
【0076】
(第三実施形態の変形例)
本実施形態では、ソケット規制部材51及び回転軸規制部材52を、平面視で正六角形型にそれぞれ形成している。しかし、ソケット規制部材51の平面視形状は、第一溝30の底面31に内接する任意の多角形型、例えば五角形型や八角形型に形成することが可能である。同様に、回転軸規制部材52の平面視形状は、第二溝33の底面34に内接する任意の多角形型に形成することが可能である。また、両者の平面視形状を、互いに異なる多角形型に形成してもよい。更に、両者のうち一方の平面視形状を多角形型に形成し、他方の平面視形状を第一実施形態と同様にC型やO型に形成してもよい。
【0077】
本実施形態では、ソケット規制部材51及び回転軸規制部材52は、説明を省略したが第一実施形態と同様に、軸方向へ移動不能に位置決めされた状態で第一溝30及び第二溝33にそれぞれ収容されている。しかし、第二実施形態と同様に、第一溝30及び第二溝33の軸方向の溝幅W1,W2を適宜設定することにより、ソケット規制部材51及び回転軸規制部材52の少なくとも何れか一方に、軸方向への移動を許容することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、建設現場等の高所で回転工具を用いた締め付け作業を行う場合に、特に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1,40,50 ソケット脱落防止具
2 回転工具
3 ソケット
6 回転軸
12 スリーブ
25 ソケット挿入部
26 回転軸挿入部
27,51 ソケット規制部材
28,52 回転軸規制部材
29 第一穴
30 第一溝
31,34,41b,42b 底面
32 第二穴
33 第二溝
H 保持位置
K 解除位置
L3 第三距離
L4 第四距離
L5 第五距離
L6 第六距離
W1,W2,W3,W4 溝幅