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特開2023-101370酵母菌およびそのエルゴチオネイン製造における用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101370
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】酵母菌およびそのエルゴチオネイン製造における用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20230712BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20230712BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C12P1/02 Z
C12P13/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074976
(22)【出願日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】202210017520.8
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522064410
【氏名又は名称】シャメン オアミック バイオテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】XIAMEN OAMIC BIOTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.36, Longmen Road, Haicang Xinyang Industrial Zone, Xiamen, Fujian, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ リーチン
(72)【発明者】
【氏名】シィァン ティン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン メイシュェ
(72)【発明者】
【氏名】ポン ウェンシュ
(72)【発明者】
【氏名】シン チェングゥァン
(72)【発明者】
【氏名】リィゥ ガン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064CA06
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA72X
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酵母菌、および該酵母菌を使用したエルゴチオネインの製造方法を提供する。
【解決手段】エルゴチオネインの製造に用いることができる酵母菌は、従来の変異誘発およびスクリーニングによって得られ、その受託番号は、CCTCC M 20211505である。エルゴチオネインの製造方法は、前記酵母菌を、発酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エルゴチオネインを得ることを含む。前記酵母菌は、いずれもエルゴチオネインの製造に用いることができ、収率が高く、コストが低く、製造速度が速い等の長所を有する。前記製造方法は、天然、安全で、コストが低く、環境に配慮し、製品の品質が高く、収率が高く、不純物が少なく、薬物残留が少なく、発酵周期が短い等の長所を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号がCCTCC M 20211505である、酵母菌。
【請求項2】
請求項1に記載の酵母菌を、発酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵させた後、
細胞を破砕、単離し、エルゴチオネインを得る、又は、
請求項1に記載の酵母菌を、種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子液
を、発酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エル
ゴチオネインを得る、又は、
請求項1に記載の酵母菌を活性化し、活性化酵母菌含有培地を得て、活性化酵母菌含有
培地を種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子液を、発酵培地および任意
選択の基質と混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エルゴチオネインを得る、を
含むエルゴチオネインの製造方法。
【請求項3】
前記基質は、アルギニン、ヒスチジン、メチオニンまたはシステインから選ばれる少な
くとも1種を含み、
任意選択で、前記発酵培地は、炭素源を含み、
任意選択で、前記炭素源は、スクロース、フルクトース、キシロース、エタノール、メ
タノール、グリセロール、グルコース、セルロース、デンプン、セロビオースまたはその
他のグルコース含有ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の製造
方法。
【請求項4】
前記発酵培地は、リン酸、CaSO、KSO 、KOH、MgSO・7H
、グリセロール、酵母エキス、ペプトン、消泡油および水を含み、
任意選択で、前記発酵培地の前記発酵培地は、1%vol~7%volのリン酸、0.
03wt%~0.3wt%のCaSO、1wt%~6wt%のKSO、0.1wt
%~2wt%のKOH、0.5wt%~5wt%のMgSO・7HO、1wt%~1
2wt%のグリセロール、0.1wt%~2wt%の酵母エキス、0.1wt%~2wt
%のペプトン、0.01%vol~1%volの消泡油を含み、残部は水であり、
好ましくは、前記発酵培地は、2.27%volのリン酸、0.093wt%のCaS
、1.82wt%のKSO、0.413wt%のKOH、1.49wt%のMg
SO・7HO、4wt%のグリセロール、0.5wt%の酵母エキス、0.5wt%
のペプトン、0.1%volの消泡油を含み、残部は水である、請求項2~3のいずれか
に記載の製造方法。
【請求項5】
前記種子液培地は、酵母エキス、ペプトンおよびグルコースを含み、
任意選択で、前記種子液培地は、酵母エキス3g/L~30g/L、ペプトン3g/L
~30g/L、グルコース5g/L~50g/Lを含み、
好ましくは、前記種子液培地は、酵母エキス10g/L、ペプトン10g/Lおよびグ
ルコース20g/Lを含む、請求項2~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記発酵の温度は、20℃~40℃であり、および/または
前記発酵の時間は、16時間~200時間であり、および/または
前記発酵の空気の流速は、0.8L/分~8L/分であり、および/または
前記発酵のガス圧は、0~0.6MPaであり、および/または
前記発酵の発酵システムpHは、4.0~7.0であり、および/または
前記発酵の初期撹拌速度は、100rpm~900rpmである、請求項2~5のいず
れかに記載の製造方法。
【請求項7】
発酵ステップにおいて、溶存酸素量が50%に低下するまで発酵したときに、グリセロ
ールを補い、初期撹拌速度に加えて100rpm~600rpm増加を続けるよう撹拌速
度を増加し、グリセロールを持続的に補い、測定した湿重量生物量が30g/L~300
g/Lに達するまで撹拌速度の増加を維持し、
任意選択で、前記グリセロールを補う量は、20g/L~220g/Lである、請求項
2~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の酵母菌を種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子液を
、発酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵温度20℃~40℃、空気の流速0.8
L/分~8L/分、ガス圧0~0.6MPa、pH4.0~7.0、撹拌速度100rp
m~900rpmの条件下で発酵させ、溶存酸素量が50%に低下するまで発酵したとき
に、グリセロールを補い、初期撹拌速度に加えて100rpm~600rpm増加を続け
るよう撹拌速度を増加し、グリセロールを持続的に補い、測定した湿重量生物量が200
g/Lに達するまで撹拌速度の増加を維持し、次いで、細胞を破砕、単離し、エルゴチオ
ネインを取得し、前記基質は、アルギニン、ヒスチジン、メチオニンまたはシステインか
ら選ばれる少なくとも1種を含み、前記発酵培地は、1%vol~7%volのリン酸、
0.03wt%~0.3wt%のCaSO、1wt%~6wt%のKSO、0.1
wt%~2wt%のKOH、0.5wt%~5wt%のMgSO・7HO、1wt%
~12wt%のグリセロール、0.1wt%~2wt%の酵母エキス、0.1wt%~2
wt%のペプトン、0.01%vol~1%volの消泡油を含み、残部は水であること
を含むエルゴチオネインの製造方法。
【請求項9】
請求項2~8のいずれかに記載の製造方法により得られるエルゴチオネイン。
【請求項10】
エルゴチオネインの製造における、請求項1に記載の酵母菌の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関する。具体的には、酵母菌およびそのエルゴチ
オネイン製造における用途に関する。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネイン(Ergothioneine)は、天然に存在するアミノ酸であり
、ヒスチジンのチオ尿素誘導体であり、イミダゾール環上に硫黄原子を1つ含有する。エ
ルゴチオネインは、1909年に、M.C.Tanretがライ麦麦角菌(学名:Cla
viceps purpurea)から単離して発見し、最初に精製された麦角菌にちな
んで名付けられた。その構造は、1911年に確定された。エルゴチオネインは、水に溶
けやすい水溶性物質であり、優れた熱安定性およびpH安定性を有する。エルゴチオネイ
ンは、強力な抗酸化活性を有する天然物質であり、酸性(pH2)からアルカリ性(pH
12)までの条件の影響をほとんど受けないという特性を有する。ヒトでは、エルゴチオ
ネインは、食物からしか得ることができず、赤血球、骨髄、肝臓、腎臓、精液および目の
中に蓄積される。
【0003】
キノコなどの担子菌や一部の細菌は、エルゴチオネインを生合成できる。キノコは、エ
ルゴチオネインを豊富に含む食品である。エルゴチオネインは、ヒラタケにおける含有量
が特に豊富である。放線菌(例えば、マイコバクテリウム・スメグマチス)や一部の真菌
(例えばアカパンカビ)も、エルゴチオネインを生合成可能である。エルゴチオネインの
代謝経路は、ヒスチジンのメチル化から始まり、ヘルシニンを生成した後、システインか
ら硫黄原子を導入して、エルゴチオネインを得る。枯草菌、大腸菌、プロテウス・ブルガ
リスおよびレンサ球菌などの他の種類の細菌、ならびに酵母菌中の真菌は、エルゴチオネ
インを生合成することができない。
【0004】
従来、エルゴチオネインの製造方法には、化学合成法、抽出法および生物発酵合成法の
3種がある。本発明を実現する過程において、発明者は、従来技術において少なくとも次
の課題が存在することを見出した。化学方法で、L-エルゴチオネインを合成することは
非常に難しく、その難点は、原料2-メルカプトイミダゾールの製造であり、かつα炭素
の酸性が反応を容易にし、一部または全部のラセミ化を発生させることである。原料が高
価であり、合成コストが高いため、製品の販売価格が高くなり、エルゴチオネインの用途
を限られたものとしている。天然生物抽出法は、食用菌の子実体、ブタの血、動物組織、
麦角および穀物からエルゴチオネインを抽出するものであるが、上記原料におけるエルゴ
チオネインの含有量は低く、原料の不純物が多く、薬物が残留し、抽出コストが高い等の
問題があり、エルゴチオネインの産業化に不利である。キノコ菌糸体深層発酵技術でエル
ゴチオネインを生物学的に製造することは、低コストでエルゴチオネインを大量生産する
主流の方向であり、代謝調節等の発酵過程制御手段によって、エルゴチオネインの収率を
効果的に高め、生産コストを下げることができる。より重要なことは、製品の安全性を保
証することができ、エルゴチオネインの用途を拡大できることである。しかしながら、キ
ノコ菌糸体深層発酵技術によるエルゴチオネインの生産は、発酵周期が長く、最大生産量
は135.7mg/Lでしかない(ジィァン ウェンシァ,リィゥ チー,ヂョウ タオ
。エルゴチオネインの菌株生産およびエルゴチオネインの製造方法[P].CN2012
10392417.8)。これまで、天然エルゴチオネインの大規模な生合成は、依然と
して産業において実現することができなかった。
【0005】
そのため、コストが低く、生産量が高く、発酵周期が短い天然エルゴチオネインの製造
方法が望まれている。
【発明の概要】
【0006】
上記問題を解決するため、本願は、酵母菌およびその用途を提供する。
【0007】
第1の態様として、本願は、従来の変異誘発およびスクリーニングにより得られ、受託
番号がCCTCC M 20211505であり、菌株がすでに2021年11月29日
に中国培養細胞系統保存機関(CCTCC,武漢大学)に保存されており、分類が分裂酵
母(Schizosaccharomyces pombe)と命名されている酵母菌を
提供する。前記酵母菌は、いずれもエルゴチオネインの製造に用いることができ、収率が
高く、コストが低く、製造速度が速い等の長所を有する。
【0008】
第2の態様として、本願は、エルゴチオネインの製造方法を提供する。前記エルゴチオ
ネインの製造方法は、次のことを含む。前記酵母菌を、発酵培地および任意選択の基質と
混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エルゴチオネインを得る。前記酵母菌は、
エルゴチオネインの製造に用いることができ、それを用いてエルゴチオネインを製造する
ことは、得られるエルゴチオネインの収率が高く、コストが低く、製造速度が速いという
長所を有する。前記製造方法は、コストが低く、環境に配慮し、製品の品質が高く、収率
が高く、不純物が少なく、薬物残留が少なく、発酵周期が短い等の長所を有する。
【0009】
第3の態様として、本願は、前記製造方法を採用して得られるエルゴチオネインを提供
する。前記エルゴチオネインは、不純物が少なく、薬物残留が少なく、不純物および化学
残留が少なく、製品の品質が高い。
【0010】
第4の態様として、本願は、エルゴチオネインの製造における、第1の態様に記載の酵
母菌の用途を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0011】
上記課題を解決するため、本願は、次の技術手法を提供する。
【0012】
第1の態様では、酵母菌を提供する。
【0013】
受託番号がCCTCC M 20211505であり、菌株がすでに2021年11月
29日に中国培養細胞系統保存機関(CCTCC,武漢大学)に保存されており、分類が
分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)と命名されている酵
母菌。
【0014】
一実施形態において、天然エルゴチオネインを大規模に生合成可能な酵母菌を提供する
。本願は、主に、複合変異誘発育種によって、天然エルゴチオネインを多く生成する酵母
菌種を選定し、そのうち好ましい株をOMK-79と命名した。この酵母菌株は、すでに
2021年11月29日に中国培養細胞系統保存機関(CCTCC,武漢大学)に保存さ
れており、分類は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)と
命名されており、受託番号はCCTCC M 20211505である。
【0015】
第2の態様では、エルゴチオネインの製造方法を提供する。
【0016】
次のことを含むエルゴチオネインの製造方法。第1の態様に記載の酵母菌を、発酵培地
および任意選択の基質と混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エルゴチオネイン
を得る。いくつかの実施形態において、エルゴチオネインの製造方法は、次のことを含む
。第1の態様に記載の酵母菌を、種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子
液を、発酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エ
ルゴチオネインを得る。いくつかの実施形態において、エルゴチオネインの製造方法は、
次のことを含む。第1の態様に記載の酵母菌を活性化し、活性化酵母菌含有培地を得て、
活性化酵母菌含有培地を種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子液を、発
酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵させた後、細胞を破砕、単離し、エルゴチオ
ネインを得る。
【0017】
前記活性化は、第1の態様に記載の酵母菌を活性化培地に接種し、20℃~40℃、回
転速度100rpm~400rpmの条件下で16時間~60時間増殖させることを含む
。いくつかの実施例において、前記活性化は、第1の態様に記載の酵母菌を活性化培地に
接種し、25℃~35℃、回転速度150rpm~300rpmの条件下で24時間~4
8時間増殖させることを含む。
【0018】
前記活性化培地は、酵母エキス、ペプトンおよびグルコースを含んでよい。いくつかの
実施例において、前記活性化培地は、酵母エキス3g/L~30g/L、ペプトン3g/
L~30g/Lおよびグルコース5g/L~50g/Lを含む。いくつかの実施例におい
て、前記活性化培地は、酵母エキス3g/L~30g/L、ペプトン3g/L~30g/
Lおよびグルコース5g/L~50g/Lを含み、残部は水である。いくつかの実施例に
おいて、前記活性化培地は、酵母エキス10g/L、ペプトン10g/Lおよびグルコー
ス20g/Lを含む。いくつかの実施例において、前記活性化培地は、酵母エキス10g
/L、ペプトン10g/Lおよびグルコース20g/Lを含み、残部は水である。
【0019】
前記拡大培養の温度は、20℃~40℃であってよい。いくつかの実施例において、前
記拡大培養の温度は、25℃~35℃である。いくつかの実施例において、前記拡大培養
の温度は、25℃~30℃である。いくつかの実施例において、前記拡大培養の温度は、
25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃ま
たは35℃である。
【0020】
前記拡大培養の回転速度は、100rpm~900rpmであってよい。いくつかの実
施例において、前記拡大培養の回転速度は、150rpm~600rpmである。いくつ
かの実施例において、前記拡大培養の回転速度は、200rpm~500rpmである。
いくつかの実施例において、前記拡大培養の回転速度は、100rpm、150rpm、
200rpm、250rpm、300rpm、350rpm、400rpm、450rp
m、500rpm、550rpm、600rpm、700rpm、800rpmまたは9
00rpmである。
【0021】
前記拡大培養の時間は、16時間~200時間であってよい。いくつかの実施例におい
て、前記拡大培養の時間は、16時間~100時間である。いくつかの実施例において、
前記拡大培養の時間は、16時間~50時間である。いくつかの実施例において、前記拡
大培養の時間は、16時間~48時間である。いくつかの実施例において、前記拡大培養
の時間は、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、
23時間、24時間、30時間、35時間、40時間、45時間または48時間である。
【0022】
前記拡大培養は、活性化酵母菌含有培地を、0.005%vol~30%vol接種量
で種子液培地に接種することを含む。拡大培養の接種量は、大きな範囲で調整することが
でき、極めて少量の接種量でも拡大培養を成功させることができ、これは本分野の技術の
常識であるため、前記拡大培養は、活性化酵母菌含有培地を0.005%vol~30%
volの接種量で種子液培地に接種することを含んでよい。いくつかの実施例において、
前記拡大培養は、活性化酵母菌含有培地を0.5%vol~20%volの接種量で種子
液培地に接種することを含む。いくつかの実施例において、前記拡大培養は、活性化酵母
菌含有培地を1%vol~10%volの接種量で種子液培地に接種することを含む。い
くつかの実施例において、前記拡大培養は、活性化酵母菌含有培地を1%vol~5%v
olの接種量で種子液培地に接種することを含む。いくつかの実施例において、前記拡大
培養は、活性化酵母菌含有培地を1%vol、2%vol、3%vol、4%vol、5
%vol、6%vol、7%vol、8%vol、9%vol、10%vol、15%v
ol、20%vol、25%volまたは30%volの接種量で種子液培地に接種する
ことを含む。
【0023】
前記種子液と発酵培地の体積比は、1:200~3:10であってよい。いくつかの実
施例において、前記種子液と発酵培地の体積比は、1:150~2:10である。いくつ
かの実施例において、前記種子液と発酵培地の体積比は、1:100~1:10である。
いくつかの実施例において、前記種子液と発酵培地の体積比は、1:100~1:20で
ある。
【0024】
前記基質の添加量は、0~10g/Lであってよく、酵母菌は、アルギニン、ヒスチジ
ン、メチオニンまたはシステイン等の物質を代謝生成することができるが、基質を追加す
ることにより、エルゴチオネインの収率を高めることができる。いくつかの実施例におい
て、前記基質の添加量は、0、0.5g/L、0.6g/L、0.7g/L、0.8g/
L、0.9g/L、1.0g/L、1.2g/L、1.3g/L、1.4g/L、1.5
g/L、2.0g/L、2.5g/L、3.0g/L、3.2g/L、3.5g/L、4
.0g/L、4.5g/L、5.0g/L、5.5g/L、6.0g/L、6.5g/L
、7.0g/L、7.5g/L、8.0g/L、8.5g/L、9.0g/L、9.5g
/Lまたは10.0g/Lである。
【0025】
前記基質は、アルギニン、ヒスチジン、メチオニンまたはシステインから選ばれる少な
くとも1種を含んでよい。いくつかの実施例において、前記基質は、アルギニン、ヒスチ
ジン、メチオニンおよびシステインから選ばれるものを含んでよい。
【0026】
前記発酵培地は、炭素源を含んでよい。
【0027】
前記炭素源は、スクロース、フルクトース、キシロース、エタノール、メタノール、グ
リセロール、グルコース、セルロース、デンプン、セロビオースまたはその他のグルコー
ス含有ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含んでよい。いくつかの実施例において、
前記炭素源は、グリセロールである。
【0028】
いくつかの実施例において、前記製造方法は、第1の態様に記載の酵母菌を、発酵培地
および任意選択の基質と混合し、好適な培養条件下で増殖させることを含む。酵母菌は、
回分発酵、単一流加発酵、混合流加発酵もしくは連続発酵またはその組み合わせにおいて
増殖させてよい。
【0029】
いくつかの実施例において、前記基質は、第1の態様に記載の酵母菌の潜伏期、指数関
数的増殖期または静止期に発酵システムに加えてよい。
【0030】
前記第1の態様に記載の酵母菌は、発酵培地において、懸濁していても、固定化してい
てもよい。
【0031】
前記発酵培地は、リン酸、CaSO、KSO、KOH、MgSO・7HO、
グリセロール、酵母エキス、ペプトン、消泡油および無菌水を含んでよい。いくつかの実
施例において、前記発酵培地は、1%vol~7%volのリン酸、0.03wt%~0
.3wt%のCaSO、1wt%~6wt%のKSO、0.1wt%~2wt%の
KOH、0.5wt%~5wt%のMgSO・7HO、1wt%~12wt%のグリ
セロール、0.1wt%~2wt%の酵母エキス、0.1wt%~2wt%のペプトン、
0.01%vol~1%volの消泡油を含み、残部は水である。いくつかの実施例にお
いて、前記発酵培地は、2.27%volのリン酸、0.093wt%のCaSO、1
.82wt%のKSO、0.413wt%のKOH、1.49wt%のMgSO
7HO、4wt%のグリセロール、0.5wt%の酵母エキス、0.5wt%のペプト
ン、0.1%volの消泡油を含み、残部は水である。
【0032】
前記種子液培地は、酵母エキス、ペプトンおよびグルコースを含んでよい。いくつかの
実施例において、前記種子液培地は、酵母エキス3g/L~30g/L、ペプトン3g/
L~30g/Lおよびグルコース5g/L~50g/Lを含む。いくつかの実施例におい
て、前記種子液培地は、酵母エキス3g/L~30g/L、ペプトン3g/L~30g/
Lおよびグルコース5g/L~50g/Lを含み、残部は水である。いくつかの実施例に
おいて、前記種子液培地は、酵母エキス10g/L、ペプトン10g/Lおよびグルコー
ス20g/Lを含む。いくつかの実施例において、前記種子液培地は、酵母エキス10g
/L、ペプトン10g/Lおよびグルコース20g/Lを含み、残部は水である。
【0033】
前記発酵の温度は、20℃~40℃であってよい。いくつかの実施例において、前記発
酵の温度は、25℃~35℃である。いくつかの実施例において、前記発酵の温度は、2
5℃~30℃である。いくつかの実施例において、前記発酵の温度は、25℃、26℃、
27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃または35℃である
【0034】
前記発酵の時間は、16時間~200時間であってよい。一般に、培養時間が長いほど
、より大量の天然エルゴチオネインが生成される。そのため、酵母菌を16時間から20
0時間培養してよい。いくつかの実施例において、前記発酵の時間は、24時間~200
時間であってよい。いくつかの実施例において、前記発酵の時間は、48時間~200時
間であってよい。いくつかの実施例において、前記発酵の時間は、100時間~200時
間であってよい。いくつかの実施例において、前記発酵の時間は、140時間~200時
間であってよい。
【0035】
前記発酵の空気の流速は、0.8L/分~8L/分であってよい。いくつかの実施例に
おいて、前記発酵の空気の流速は、1L/分~7L/分である。いくつかの実施例におい
て、前記発酵の空気の流速は、2L/分~6L/分である。いくつかの実施例において、
前記発酵の空気の流速は、3L/分~5L/分である。いくつかの実施例において、前記
発酵の空気の流速は、1L/分、2L/分、3L/分、4L/分、5L/分、6L/分、
7L/分または8L/分である。
【0036】
前記発酵のガス圧は、0~0.6MPaであってよい。いくつかの実施例において、前
記発酵のガス圧は、0.05MPa~0.6MPaである。いくつかの実施例において、
前記発酵のガス圧は、0.06MPa~0.50MPaである。いくつかの実施例におい
て、前記発酵のガス圧は、0.07MPa~0.40MPaである。いくつかの実施例に
おいて、前記発酵のガス圧は、0.07MPa~0.30MPaである。いくつかの実施
例において、前記発酵のガス圧は、0.07MPa~0.20MPaである。いくつかの
実施例において、前記発酵のガス圧は、0.07MPa~0.10MPaである。いくつ
かの実施例において、前記発酵のガス圧は、0.05MPa、0.06MPa、0.07
MPa、0.08MPa、0.09MPa、0.10MPa、0.15MPa、0.20
MPa、0.25MPa、0.30MPa、0.35MPaまたは0.40MPaである
【0037】
前記発酵の発酵システムpHは、4.0~7.0であってよい。いくつかの実施例にお
いて、前記発酵の発酵システムpHは、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.
5または7.0である。
【0038】
前記発酵システムpHは、アンモニア水を添加することにより調節することができる。
【0039】
いくつかの実施例において、前記発酵システムとは、前記酵母菌を基質および培地と混
合した後に形成されるシステムをいう。いくつかの実施例において、発酵システムは、基
質を加える前に、前記酵母菌を培地と混合した後に形成されるシステムである。いくつか
の実施例において、発酵システムは、前記酵母菌を培地と混合した後に形成されるシステ
ムである。
【0040】
前記発酵の初期撹拌速度は、100rpm~900rpmであってよい。いくつかの実
施例において、前記発酵の初期撹拌速度は、150rpm~600rpmである。いくつ
かの実施例において、前記発酵の初期撹拌速度は、200rpm~500rpmである。
いくつかの実施例において、前記発酵の初期撹拌速度は、100rpm、150rpm、
200rpm、250rpm、300rpm、350rpm、400rpm、450rp
m、500rpm、550rpm、600rpm、700rpm、800rpmまたは9
00rpmである。
【0041】
発酵ステップにおいて、溶存酸素量が50%に低下するまで発酵したときに、グリセロ
ールを補い、初期撹拌速度に加えて100rpm~600rpm(例えば、100rpm
、150rpm、200rpm、250rpm、300rpm、350rpm、400r
pm、450rpm、500rpm、550rpmまたは600rpm)増加を続けるよ
う撹拌速度を増加し、グリセロールを持続的に補い、測定した湿重量生物量が30g/L
~300g/L(例えば30g/L、50g/L、100g/L、150g/L、180
g/L、190g/L、200g/L、210g/L、220g/L、250g/Lまた
は300g/L)に達するまで撹拌速度の増加を維持してよい。いくつかの実施例におい
て、発酵ステップにおいて、溶存酸素量が50%に低下するまで発酵したときに、基質を
加え、グリセロールを補い、初期撹拌速度に加えて100rpm~600rpm増加を続
けるよう撹拌速度を増加し、グリセロールを持続的に補い、測定した湿重量生物量が30
g/L~300g/Lに達するまで撹拌速度の増加を維持してよい。
【0042】
前記グリセロールを補う量は、20g/L~220g/Lであってよい。いくつかの実
施例において、前記グリセロールを補う量は、20g/L、30g/L、40g/L、5
0g/L、60g/L、70g/L、75g/L、80g/L、90g/L、100g/
L、110g/L、120g/L、130g/L、140g/L、150g/L、160
g/L、170g/L、180g/L、190g/L、200g/Lまたは220g/L
である。
【0043】
前記単離ステップは、遠心分離、抽出、真空蒸留または樹脂吸着等を採用して単離およ
び精製を行ってよい。いくつかの実施例において、前記単離ステップは、抽出、真空蒸留
または樹脂吸着等を採用して単離および精製を行い、均質(例えば純度90%以上)のエ
ルゴチオネインを得ることを含む。いくつかの実施例において、エルゴチオネインは、酵
母菌の抽出物に単離され、この場合、エルゴチオネインは、単離することができるが、均
質になるまで精製する必要はない。
【0044】
いくつかの実施例において、エルゴチオネインの製造方法は、次のことを含む。第1の
態様に記載の酵母菌を、発酵培地および任意選択の基質と混合し、発酵温度20℃~40
℃、空気の流速0.8L/分~8L/分、ガス圧0~0.6MPa、pH4.0~7.0
、撹拌速度100rpm~900rpmの条件下で発酵させ、溶存酸素量が50%に低下
するまで発酵したときに、グリセロールを補い、初期撹拌速度に加えて100rpm~6
00rpm増加を続けるよう撹拌速度を増加し、グリセロールを持続的に補い、測定した
湿重量生物量が200g/Lに達するまで撹拌速度の増加を維持する。次いで、細胞を破
砕、単離し、エルゴチオネインを得る。前記基質は、アルギニン、ヒスチジン、メチオニ
ンまたはシステインから選ばれる少なくとも1種を含む。前記発酵培地は、1%vol~
7%volのリン酸、0.03wt%~0.3wt%のCaSO、1wt%~6wt%
のKSO、0.1wt%~2wt%のKOH、0.5wt%~5wt%のMgSO
・7HO、1wt%~12wt%のグリセロール、0.1wt%~2wt%の酵母エキ
ス、0.1wt%~2wt%のペプトン、0.01%vol~1%volの消泡油を含み
、残部は水である。
【0045】
いくつかの実施例において、エルゴチオネインの製造方法は、次のことを含む。第1の
態様に記載の酵母菌を種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子液を、発酵
培地および任意選択の基質と混合し、発酵温度20℃~40℃、空気の流速0.8L/分
~8L/分、ガス圧0~0.6MPa、pH4.0~7.0、撹拌速度100rpm~9
00rpmの条件下で発酵させ、溶存酸素量が50%に低下するまで発酵したときに、グ
リセロールを補い、初期撹拌速度に加えて100rpm~600rpm増加を続けるよう
撹拌速度を増加し、グリセロールを持続的に補い、測定した湿重量生物量が200g/L
に達するまで撹拌速度の増加を維持する。次いで、細胞を破砕、単離し、エルゴチオネイ
ンを得る。前記基質は、アルギニン、ヒスチジン、メチオニンまたはシステインから選ば
れる少なくとも1種を含む。前記発酵培地は、1%vol~7%volのリン酸、0.0
3wt%~0.3wt%のCaSO、1wt%~6wt%のKSO、0.1wt%
~2wt%のKOH、0.5wt%~5wt%のMgSO・7HO、1wt%~12
wt%のグリセロール、0.1wt%~2wt%の酵母エキス、0.1wt%~2wt%
のペプトン、0.01%vol~1%volの消泡油を含み、残部は水である。
【0046】
いくつかの実施例において、エルゴチオネインの製造方法は、次のことを含む。第1の
態様に記載の酵母菌を活性化し、活性化酵母菌含有培地を得て、活性化酵母菌含有培地を
種子液培地に接種して拡大培養し、種子液を得て、種子液を、発酵培地および任意選択の
基質と混合し、発酵温度20℃~40℃、空気の流速0.8L/分~8L/分、ガス圧0
~0.6MPa、pH4.0~7.0、撹拌速度100rpm~900rpmの条件下で
発酵させ、溶存酸素量が50%に低下するまで発酵したときに、グリセロールを補い、初
期撹拌速度に加えて100rpm~600rpm増加を続けるよう撹拌速度を増加し、グ
リセロールを持続的に補い、測定した湿重量生物量が200g/Lに達するまで撹拌速度
の増加を維持する。次いで、細胞を破砕、単離し、エルゴチオネインを得る。
【0047】
第3の態様では、第2の態様により得られるエルゴチオネインを提供する。
【0048】
第2の態様に記載の製造方法により得られるエルゴチオネイン。第2の態様に記載の製
造方法により得られるエルゴチオネインは、不純物が少なく、薬物残留が少なく、不純物
および化学残留が少なく、製品の品質が高い。
【0049】
第4の態様では、エルゴチオネインの製造における、第1の態様に記載の酵母菌の用途
を提供する。
【0050】
エルゴチオネインの製造における、第1の態様に記載の酵母菌の用途。
【有益な効果】
【0051】
従来技術と比べ、上記技術手法の一実施例は、少なくとも次の有益な技術的効果のうち
1種を含む。
【0052】
(1)本願で提供する酵母菌は、エルゴチオネインの製造に用いることができ、得られ
るエルゴチオネインは収率が高く、コストが低く、製造速度が速く、優れた産業化の前途
を有する。
【0053】
(2)本願で提供する酵母菌は、継代可能回数が多く、継代後の収率安定性が良好であ
る。
【0054】
(3)本願で提供するエルゴチオネインの製造方法は、生物発酵合成の方法を採用し、
化学合成等の方法と比べ、高価な原料を必要とせず、コストの大幅な削減に有利であり、
製造過程における有毒・有害な化学試薬の使用を大幅に減少させることができ、環境に配
慮し、製品の不純物および化学残留の削減に有利であり、製品の品質向上に有利である。
【0055】
(4)本願で提供するエルゴチオネインの製造方法は、他の天然生物抽出法と比べ、収
率が高く、不純物が少なく、薬物残留が少なく、製造コストが低い等の長所を有する。
【0056】
(5)本願で提供するエルゴチオネインの製造方法は、他の発酵技術と比べ、発酵周期
が短く、収率が高く、コストが低いという長所を有し、量産に有利である。
【0057】
(6)本願で提供する製造方法によって、有機溶媒および有毒・有害な試薬を加える必
要がなく、生物発酵の方法によって製造するものであり、得られるエルゴチオネインは、
天然、安全で、環境に配慮し、有機溶媒の残留がない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】実施例1におけるエルゴチオネインの合成の模式図である。
図2】実施例1におけるエルゴチオネイン標準品の高速液体クロマトグラムである。
図3】実施例1におけるMM1菌株の発酵液の高速液体クロマトグラムである。図2と対比し、図3にはエルゴチオネインが存在することを証明できる。
図4】実施例3における天然エルゴチオネインの合成の模式図である。
【用語の定義】
【0059】
本文の上文において、「おおよそ」または「約」等の表現を使用しているかどうかにか
かわらず、この開示の数字はすべて近似値である。開示されている数字に基づき、それぞ
れの数字の数値には、±1%、±2%、±3%、±4%または±5%の差異など、±10
%以下の差異または当業者が合理的と認める差異が表れることがある。
【0060】
「および/または」という用語は、選択肢におけるいずれか1つまたは選択肢における
いずれか2つもしくは複数の組み合わせを意味すると理解すべきである。
【0061】
「任意選択」、「任意選択の」または「任意選択で」という用語は、その後に記載され
る事由または状況が、かならずしも現れないことを意味する。例えば「第1の態様に記載
の酵母菌を、発酵培地および任意選択の基質と混合」とは、「第1の態様に記載の酵母菌
を、発酵培地および基質と混合」または「第1の態様に記載の酵母菌を、発酵培地と混合
」することをいう。
【0062】
「接種量」という用語は、活性化酵母菌含有培地の体積が接種後の種子液培地および活
性化酵母菌の培地の総体積に占める体積パーセント、または種子液を発酵培地に接種した
後、種子液の体積が種子液および発酵培地の総体積に占める体積パーセントをいう。
【0063】
「OD600」という用語は、測定した600nm波長における光学密度をいう。
【0064】
「wt%」という用語は、質量パーセントをいう。
【0065】
「%vol」という用語は、体積パーセントをいう。
【0066】
「SAM」という用語は、S-アデノシルメチオニンをいい、菌体細胞内で天然に存在
する中間代謝生成物である。
【0067】
「SAH」という用語は、S-アデノシルホモシステインをいい、SAMから脱メチル
化した後に生成され、菌体細胞内で天然に存在する中間代謝物質である。
【0068】
本明細書の記述において、「1つの実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体
例」、または「いくつかの例」などの用語を参照した記述は、この実施例または例を組み
合わせて記述された具体的な特徴、構造、材料または特長が、本文の少なくとも1つの実
施例または例に含まれていることをいう。本明細書において、上記用語の模式的な記載は
、必ずしも同じ実施例または例に対するものではない。さらに、記載された具体的な特徴
、構造、材料または特長は、いずれか1つまたは複数の実施例または例を適切な方式で組
み合わせてもよい。また、互いに矛盾しない場合には、当業者は、本明細書に記載された
異なる実施例または例および異なる実施例または例の特徴を結合し組み合わせてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0069】
当業者が本文の技術手法をよりよく理解することができるようにするため、次に、非制
限的な実施例をさらに開示し、本文についてさらに詳細に説明する。
【0070】
本文で使用する試薬は、いずれも市販のものであるか、または本願に記載の方法で製造
することができる。
【0071】
別段の規定がある場合を除き、以下の具体実施例の前記各培地の配合は、次のとおりで
ある。
【0072】
前記YPD培地(酵母エキスペプトングルコース培地)の配合は、酵母エキス10g/
L、ペプトン10g/Lおよびグルコース20g/Lであり、残部は水である。
【0073】
前記YPD寒天培地(酵母エキスペプトングルコース寒天培地)の配合は、酵母エキス
10g/L、ペプトン10g/L、グルコース20g/Lおよび寒天粉15g/Lであり
、残部は水である。
【0074】
前記0.02%塩化リチウム(変異誘発剤として)を含むYPD寒天培地の配合は、酵
母エキス10g/L、ペプトン10g/L、グルコース20g/L、寒天粉15g/Lお
よび塩化リチウム0.2g/Lであり、残部は水である。
【0075】
本願に記載の複合変異誘発育種技術は、当業者が熟知する常套の変異誘発方法である。
前記方法は、本願の説明のために用いられるにすぎず、本願の保護範囲を制限するもので
はないと理解すべきである。当業者にとって、本願の主旨および実質的な前提から逸脱せ
ずに、前記方法における培地成分、含有量、培養条件、変異誘発条件に対して行われる各
種変更または修正も、本願の保護範囲に属す。
【0076】
本願に記載の好ましい紫外線変異誘発では、酵母菌種懸濁液を紫外線ランプ下25~3
5cmで15~25分照射処理する。本願に記載の好ましい塩化リチウム変異誘発では酵
母菌種懸濁液を0.01~0.02%塩化リチウム(変異誘発剤として)含有培地上に塗
布し、18~37℃で16~72時間培養する。
【0077】
具体的には、前記酵母菌種懸濁液の製造は、18~37℃で16~72時間培養した出
芽酵母、メタノール資化酵母、分裂酵母、トルラスポラ・デルブリュッキまたはクルイベ
ロミセス・ラクティス菌液を取り、遠心分離によって菌液内の菌体を収集し、無菌水で菌
体を2~3回洗浄した後、適量のツウイーン80を加え、再懸濁振盪処理して細胞を分散
させ、無菌水で細胞密度を約1000000個/mLに調整する。
【0078】
用語「rpm」は、回転速度「回毎分」を表し、「℃」は温度単位「摂氏度」を表し、
「L」は体積単位「リットル」を表し、「mL」は体積単位「ミリリットル」を表し、「
pH」は酸アルカリ度を表し、「g」は質量単位「グラム」を表し、「Mpa」は圧力単
位「メガパスカル」を表す。
【0079】
実施例1:酵母菌種のスクリーニング
細胞浮遊液の製造
単離した出芽酵母、メタノール資化酵母、分裂酵母、トルラスポラ・デルブリュッキま
たはクルイベロミセス・ラクティス菌を、酵母エキスペプトングルコース(YPD)培地
10mLを入れた50mL三角フラスコ中に接種し、28℃および回転速度250rpm
で48時間増殖させ、遠心分離によって菌液内の菌体を収集し、無菌水10mLで菌体を
3回洗浄した後、無菌水10mLで再懸濁し、50mL三角フラスコの中に置き、マイク
ロピペットで5μLのツウィーン80を加え、28℃および回転速度250rpmで30
分振盪し、細胞を分散させた。OD600の測定によって、各酵母菌種の細胞密度がわか
り、適量の無菌水を加えて細胞密度を約1000000個/mLに調整した。
【0080】
紫外線変異誘発
細胞密度約1000000個/mLの各酵母菌懸濁液10mLをそれぞれ吸い取り、滅
菌した直径90mmのペトリ皿の中にそれぞれ置き、ペトリ皿をマグネチックスターラー
の天板上に置き、蓋を開き、紫外線ランプの垂直下方30cmで紫外照射を行い、照射時
間は20分とした。
【0081】
塩化リチウム変異誘発
紫外変異誘発した各酵母菌懸濁液10mLをそれぞれ取り、すべて0.02%塩化リチ
ウム(変異誘発剤として)含有YPD寒天培地上に塗布し、クラフト紙で包み、28℃培
養器の中で72時間培養した。
【0082】
酵母菌のスクリーニング
成長が良好で、シングルコロニーの直径が比較的大きい紫外線変異誘発および塩化リチ
ウム変異誘発を経た各酵母菌の変異株をそれぞれ選び、YPD寒天培地に平板画線し、2
8℃恒温培養器の中で48時間培養した。各酵母菌種から約500個の突然変異株を選ん
だ。各突然変異株を、YPD培地10mLを入れた50mL三角フラスコの中に接種し、
28℃および回転速度250rpmで48時間増殖し、菌液を得た。細胞を破砕し、遠心
分離することにより、エルゴチオネインを含む上澄液を収集し、エルゴチオネイン標準品
および前記上澄液を取り、上澄液における発酵で得られたエルゴチオネインの含有量を高
速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。複合変異誘発前の各酵母菌種の溶液
を取り、対照とした。
【0083】
紫外線および塩化リチウム複合変異誘発前に、各酵母菌は、HPLC測定でエルゴチオ
ネインが検出されなかった。紫外線および塩化リチウム複合変異誘発後に、一部の酵母菌
で、エルゴチオネインを合成する能力が検出され、細胞内で一定量のエルゴチオネインを
蓄積可能な分裂酵母一株を選び、MM1と命名した。エルゴチオネインの生成量(すなわ
ち、前記上澄液におけるエルゴチオネインの含有量)は、約62.6mg/Lであった(
図1参照)。この変異誘発分裂酵母菌株MM1を、グリセロールを用いて零下80℃で保
存し、5回継代し、エルゴチオネインの生成量は安定していた。
【0084】
実施例2:分裂酵母菌株MM1の再スクリーニング
細胞浮遊液の製造
分裂酵母菌株MM1を、YPD培地10mLを入れた50mL三角フラスコの中にそれ
ぞれ接種し、28℃および回転速度250rpmで48時間増殖させ、遠心分離によって
菌液内の菌体を収集し、無菌水10mLで菌体を3回洗浄した後、無菌水10mLで再懸
濁し、50mL三角フラスコの中に置き、マイクロピペットで5μLのツウィーン80を
加え、28℃および回転速度250rpmで30分振盪し、細胞を分散させた。OD60
の測定によって、分裂酵母菌株MM1の細胞密度がわかり、適量の無菌水を加えて細胞
密度を約1000000個/mLに調整した。
【0085】
紫外線変異誘発
10mL、細胞密度約1000000個/mLの分裂酵母菌株MM1懸濁液をそれぞれ
吸い取り、滅菌した直径90mmのペトリ皿の中に置き、ペトリ皿をマグネチックスター
ラーの天板上に置き、蓋を開き、紫外線ランプの垂直下方30cmで紫外照射を行い、照
射時間は20分とした。
【0086】
塩化リチウム変異誘発
紫外変異誘発した分裂酵母菌株MM1懸濁液10mLをそれぞれ取り、すべて0.02
%塩化リチウム(変異誘発剤として)含有YPD寒天培地上に塗布し、クラフト紙で包み
、28℃培養器の中で72時間培養した。
【0087】
分裂酵母のスクリーニング
成長が良好で、シングルコロニーの直径が比較的大きい紫外線変異誘発および塩化リチ
ウム変異誘発を経た分裂酵母菌株MM1の変異株500個をそれぞれ選び、YPD寒天培
地に平板画線し、28℃恒温培養器の中で48時間培養した。さらに、突然変異株を、Y
PD培地10mLを入れた50mL三角フラスコの中に接種し、28℃および回転速度2
50rpmで48時間増殖し、菌液を得た。細胞を破砕し、遠心分離することにより、エ
ルゴチオネインを含む上澄液を収集し、エルゴチオネイン標準品および前記上澄液を取り
、前記上澄液におけるエルゴチオネインの含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPL
C)で測定した。再スクリーニング前の分裂酵母菌株MM1を含む溶液を取り、対照とし
た。
【0088】
紫外線および塩化リチウム複合変異誘発後に、細胞内で一定量のエルゴチオネインを蓄
積可能な分裂酵母菌一株を再スクリーニングし、MM2と命名した。約598mg/L(
すなわち、前記上澄液におけるエルゴチオネインの含有量)のエルゴチオネインを生成す
ることができた。この変異誘発分裂酵母菌株MM2を、グリセロールを用いて零下80℃
で保存し、5回継代し、エルゴチオネインの生成量は安定していた。
【0089】
分裂酵母菌株MM2に対して、紫外線および塩化リチウム複合変異誘発を再度行い、複
数回の複合変異誘発を経た後、最終的に、エルゴチオネインを多く生成した分裂酵母菌株
一株を選び、OMK-79と命名した(この菌株の受託番号はCCTCC M 2021
1505であり、2021年11月29日に中国培養細胞系統保存機関(CCTCC,武
漢大学)に保管された)。この変異誘発分裂酵母菌株OMK-79を、グリセロールを用
いて零下80℃で保存し、5回継代し、エルゴチオネインの生成量は安定していた。
【0090】
実施例3:エルゴチオネインの発酵生産
分裂酵母菌株OMK-79を、YPD培地50mLを入れた250mL三角フラスコの
中に接種し、28℃および回転速度250rpmで48時間増殖して、菌株を活性化させ
た。活性化後のOMK-79菌株を、1%の接種量で、YPD培地150mLを入れた1
L三角フラスコの中に移し、28℃および回転速度250rpmで18時間増殖し、種子
液を得た。分裂酵母OMK-79種子液100mLを、発酵培地3Lの中に接種し、発酵
させた。発酵は、5Lのラボテスト規模バイオリアクターの中で行い、温度およびpH値
をそれぞれ28~30℃および4.0~7.0に制御した。上記発酵の期間全体で、空気
の流速を3L/分に保持し、圧力を0.08Mpaに維持し、pHはアンモニア水を添加
することにより制御し、初期撹拌速度は200rpmとした。
【0091】
溶存酸素量(DO)が50%まで低下したら(発酵の約24時間後)、グリセロールを
補い始め、測定した生物量が200g/L(湿重量)に達するまで撹拌速度を600rp
mに増加し、補うグリセロールの量は、約75g/Lとした。グリセロールを補ってから
120時間後に、発酵液の菌体細胞密度が飽和に達し、OD600値は最高で400に達
し得る。グリセロールを補い始めた後の発酵期間全体で、空気の流速を4L/分に保持し
、圧力を0.10Mpaに維持した。発酵終了後に、細胞を破砕し、遠心分離し、エルゴ
チオネインを含む上澄液を収集し、前記上澄液におけるエルゴチオネインの含有量を高速
液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定し、その含有量は7.6g/Lであった。
【0092】
実施例4:エルゴチオネインの生産最適化
分裂酵母菌株OMK-79を、YPD培地50mLを入れた250mL三角フラスコの
中に接種し、28℃および回転速度250rpmで48時間増殖して、菌株を活性化させ
た。活性化後のOMK-79菌株を、1%の接種量で、YPD培地150mLを入れた1
L三角フラスコの中に移し、28℃および回転速度250rpmで18時間増殖し、種子
液を得た。分裂酵母OMK-79種子液100mLを、発酵培地3Lの中に接種し、発酵
させた。発酵は、5Lのラボテスト規模バイオリアクターの中で行い、温度およびpH値
をそれぞれ28~30℃および5.0~6.0に制御した。上記発酵の期間全体で、空気
の流速を3L/分に保持し、圧力を0.08Mpaに維持し、pHはアンモニア水を添加
することにより制御し、初期撹拌速度は200rpmとした。
【0093】
溶存酸素量(DO)が50%まで低下したら(発酵の約24時間後)、グリセロールお
よび基質を補い始めた。基質は、それぞれ1g/Lのアルギニン、1g/Lのヒスチジン
、1g/Lのメチオニンまたは1g/Lのシステインとした。グリセロールおよび基質を
補い始めた後、測定した生物量が200mg/mL(湿重量)に達するまで撹拌速度を6
00rpmまで徐々に増加し、補うグリセロールの量は、約75g/Lとした。グリセロ
ールおよび基質を補ってから120時間後に、発酵液の菌体細胞密度が飽和に達し、OD
600値は最高で400に達し得る。グリセロールおよび基質を補い始めた後の発酵期間
全体で、空気の流速を4L/分に保持し、圧力を0.10Mpaに維持した。発酵終了後
に、細胞を破砕し、遠心分離し、エルゴチオネインを含む上澄液を収集し、前記上澄液に
おけるエルゴチオネインの含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した
。実験によって、基質であるアルギニン、ヒスチジン、メチオニンおよびシステインを補
うことは、いずれもエルゴチオネインの生産に対して促進作用を有し、上澄液におけるエ
ルゴチオネインの含有量は、それぞれ10.7g/L(基質はアルギニン)、9.8g/
L(基質はヒスチジン)、9.2g/L(基質はメチオニン)および8.4g/L(基質
はシステイン)であった。
【0094】
実施例5:エルゴチオネインの発酵最適化
分裂酵母菌株OMK-79を、YPD培地50mLを入れた250mL三角フラスコの
中に接種し、28℃および回転速度250rpmで48時間増殖して、菌株を活性化させ
た。活性化後のOMK-79菌株を、1%の接種量で、YPD培地150mLを入れた1
L三角フラスコの中に移し、28℃および回転速度250rpmで18時間増殖し、種子
液を得た。分裂酵母OMK-79種子液100mLを、発酵培地3Lの中に接種し、発酵
させた。発酵は、5Lのラボテスト規模バイオリアクターの中で行い、温度およびpH値
をそれぞれ28~30℃および5.0~6.0に制御した。上記発酵の期間全体で、空気
の流速を3L/分に保持し、圧力を0.08Mpaに維持し、pHはアンモニア水を添加
することにより制御し、初期撹拌速度は200rpmとした。
【0095】
溶存酸素量(DO)が50%まで低下したら(発酵の約24時間後)、グリセロール、
1.3g/Lのアルギニン、0.8g/Lのヒスチジン、0.6g/Lのメチオニンおよ
び0.5g/Lのシステインを補い始めた。グリセロールおよび基質を補い始めた後、測
定した生物量が200mg/mL(湿重量)に達するまで撹拌速度を600rpmまで徐
々に増加し、補うグリセロールの量は、約75g/Lとした。グリセロールおよび基質を
補ってから120時間後に、発酵液の菌体細胞密度が飽和に達し、OD600値は最高で
400に達し得る。グリセロールおよび基質を補い始めた後の発酵期間全体で、空気の流
速を4L/分に保持し、圧力を0.10Mpaに維持した。発酵の約148時間後に、細
胞を破砕し、遠心分離し、エルゴチオネインを含む上澄液を収集し、前記上澄液における
エルゴチオネインの含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定し、その含
有量は12.5g/Lであった。
【0096】
本願の方法は、すでに好ましい実施例によって記述されており、関係者は、明らかに、
本願の内容、主旨および範囲内で、本文に記載の方法および用途を修正し、または適宜変
更し、組み合わせて、本願の技術を実現し、適用することができる。当業者は、本文の内
容により、工程パラメータを適宜改善し、実現することができる。なお、類似するあらゆ
る入れ替えおよび修正は、当業者にとって容易なものであり、いずれも本願に含まれると
みなされる。
図1
図2
図3
図4