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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101408
(43)【公開日】2023-07-20
(54)【発明の名称】ワイパー用不織布およびワイパー
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20230712BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20230712BHJP
   D04H 1/498 20120101ALI20230712BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20230712BHJP
   D04H 1/485 20120101ALI20230712BHJP
【FI】
A47L13/16 A
D04H1/4258
D04H1/498
D04H1/425
D04H1/485
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001179
(22)【出願日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2022001707
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】森田 遼
【テーマコード(参考)】
3B074
4L047
【Fターム(参考)】
3B074AA01
3B074AA02
3B074AA08
3B074AB01
4L047AA08
4L047AA12
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA28
4L047BA01
4L047BA04
4L047BA09
4L047BA24
4L047BB06
4L047BB09
4L047CA01
4L047CA02
4L047CA19
4L047CC16
(57)【要約】
【課題】汚れの捕集性に優れ、より毛羽抜けが小さいワイパーとして用いるのに好適な不織布を提供する。
【解決手段】第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布であって、 不織布の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含み、前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方が、前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、前記他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維層Aの表面であり、繊維同士の交絡により一体化されている、ワイパー用不織布。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布であって、
不織布の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含み、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方が、前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、前記他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維層Aの表面であり、
繊維同士の交絡により一体化されている、
ワイパー用不織布。
【請求項2】
前記不織布は、第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、
前記第一表面が前記第一繊維層の表面であり、前記第二表面が前記第二繊維層の表面であり、
前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方または両方が前記繊維層Aである、
請求項1に記載のワイパー用不織布。
【請求項3】
前記中間繊維層は親水性セルロース繊維を含む、請求項2に記載のワイパー用不織布。
【請求項4】
前記繊維層Aは、前記他の繊維として、親水性セルロース繊維を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のワイパー用不織布。
【請求項5】
前記繊維層Aは、前記親水性セルロース繊維を0質量%を超え75質量%以下の割合で含む、請求項4に記載のワイパー用不織布。
【請求項6】
前記繊維層Aは、前記他の繊維として、バイオマス原料を含む合成繊維、生分解性合成繊維、及びリサイクル原料を含む合成繊維から選択される、1種または複数種の合成繊維を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のワイパー用不織布。
【請求項7】
前記繊維層Aは、前記バイオマス原料を含む合成繊維及び生分解性合成繊維から選択される、1種または複数種の合成繊維を、0質量%を超え35質量%以下の割合で含む、請求項6に記載のワイパー用不織布。
【請求項8】
第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布の製造方法であって、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方を構成する繊維ウェブAとして、撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維ウェブを少なくとも一つ作製すること、および
前記繊維ウェブA以外の繊維ウェブBを作製すること、および
前記繊維ウェブAおよび前記繊維ウェブBを積層して積層繊維ウェブを作製し、繊維同士を交絡させる処理に付すこと
を含み、
前記繊維ウェブAおよび前記繊維ウェブBの作製に際し、前記積層繊維ウェブが前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、前記他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含むように、各繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合、ならびに各繊維ウェブの目付を選択する、
ワイパー用不織布の製造方法。
【請求項9】
前記繊維ウェブBを、二つの同じ又は互いに異なる前記繊維ウェブAの間、あるいは一つの前記繊維ウェブAと別の繊維ウェブである第二の繊維ウェブBとの間に配置して前記積層ウェブを作製し、前記積層ウェブを、繊維同士を交絡させる処理に付す、
請求項8に記載のワイパー用不織布の製造方法。
【請求項10】
第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布の製造方法であって、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方を構成する繊維ウェブAとして、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、前記他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含む、繊維ウェブを少なくとも一つ作製すること、および
前記繊維ウェブAの単層または積層ウェブを、繊維同士を交絡させる処理に付すこと
を含む、
ワイパー用不織布の製造方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載のワイパー用不織布100質量部に対して、液体を100質量部以上1000質量部以下の量で含浸させてなり、
前記繊維層Aの表面を拭き取り面とする、
ワイパー。
【請求項12】
対物用ワイパーである、請求項11に記載のワイパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイパー用不織布および当該不織布を含むワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の用途の一つとして、人の身体または物から汚れを拭き取るためのワイパーがある。例えば、特許文献1には、親水性繊維と疎水性繊維とを含み、疎水性繊維の含有量と疎水性繊維の布帛表面における存在割合とが特定の関係を満たす布帛に除菌液を含浸させたウェットワイパーが提案されている。また、特許文献2には、人造セルロース繊維と疎水性の人造セルロース繊維とのブレンドを含む不織布であって、湿潤剤で処理されている不織布を、ウェットワイプとして使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-22272号公報
【特許文献2】特表2015-507977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
拭き取った汚れの捕集性においてより優れ、さらに、毛羽抜けがより小さいワイパーを与える不織布を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る不織布は、第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布であって、
不織布の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含み、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方が、前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、前記他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維層Aの表面であり、
繊維同士の交絡により一体化されている、
ワイパー用不織布である。
【発明の効果】
【0006】
本開示のワイパー用不織布は、不織布の一方の面を構成する繊維層Aが撥水性セルロース繊維を所定の割合で含み、かつ不織布の全質量を基準として撥水性セルロース繊維の割合を所定範囲とする構成である。この構成によって、本開示の不織布をワイパーとして用いたときには、撥水性セルロース繊維自体が拭き圧によって変形しやすいことと、撥水性セルロース繊維の交絡性がやや低いことにより不織布における繊維の自由度が大きく、繊維間空隙が拭き圧によって変形しやすいことに起因して、汚れの捕集性が向上することを可能にする。また、本開示のワイパー用不織布は、拭き取り中に不織布から脱落する繊維(毛羽抜け)の量を抑えることを可能にし、構成によっては液体を含浸させたときに液体の徐放性を向上させることをさらに可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示のワイパー用不織布に至った経緯)
特許文献1に記載のウェットワイパーは、布帛表面の疎水性繊維に含浸液が含浸しないために、疎水性繊維が膨潤せず、払拭時の拭き圧によっても変形しない性質を利用して、被払拭面の汚れを効率的にかき取ることを可能にしている。また、同文献に記載のウェットワイパーにおいては、かき取った汚れを布帛内部の親水性繊維の比率の大きい部分に吸収させ、戻り難くしている。特許文献1において「疎水性繊維」は水を含むことができない性質を示すものと定義され、疎水性繊維として、合成繊維および無機繊維が例示されている。
【0008】
本発明者が、特許文献1に記載の布帛を不織布として構成し、その拭き取り性能を評価したところ、汚れの種類によっては、拭き取り性がやや劣る場合のあることが分かった。特に、床面を清掃するためのワイパーについては、食べ屑や毛髪等、ダストよりも寸法の大きい固形物の汚れの捕集性(拭き取った汚れをワイパー内にとどめる性質)が重視されるが、特許文献1のワイパーは、その点においてなお改良の余地を有していた。
【0009】
本発明者は、やや大きな固形物汚れの捕集性を向上する構成を検討し、これらの汚れを捕集には、払拭時の拭き圧による繊維の変形がむしろ有用なのではないか、との着想に至った。すなわち、拭き圧により繊維がある程度変形することで、繊維間空隙が部分的に広くなり、そこに汚れが入り込んだ後、変形した繊維が元に戻ることで、汚れを効率的に取り込むことが可能になるのではないかと考えた。
【0010】
拭き圧による繊維の変形は、繊維の膨潤性ひいては親水性が高いほど生じやすくなるものの、親水性の高い繊維をより多く使用すると、不織布全体の親水性が大きくなる。不織布の親水性はウェットワイパーとして使用する場合の液体の徐放性に影響を及ぼす。一般に、不織布に含まれる親水性繊維の割合が大きくなると、使用初期の大量の液体が放出されやすい。
【0011】
本発明者は上記を考慮して種々検討した結果、撥水性セルロース繊維を使用することにより、やや大きな固形物汚れの捕集性を優位に向上させ得ることを見出した。撥水性セルロース繊維は、後述するように、繊維の外周面を撥水性としたものであって、水分を吸収しにくいものであるが、繊維を切断することで生じる繊維断面にて親水性の部分(撥水成分を含まない部分)が露出し、この露出部分から、液体がある程度侵入すると考えられる。また、撥水性セルロース繊維は、繊維それ自体の剛性が合成繊維よりも小さく、膨潤状態でなくともある程度変形しやすい性質する。以上のことから、撥水性セルロース繊維は、合成繊維との比較では、拭き圧による変形が生じやすく、汚れの捕集性を向上させると推察される。
【0012】
さらに、撥水性セルロース繊維を用いた場合において繊維同士を水流交絡や水蒸気交絡などの水系流体の作用により交絡一体化させると、撥水性セルロース繊維の撥水性のために、繊維同士の交絡が進行しにくく、繊維が比較的高い自由度を有して交絡される。そのような不織布においては、繊維の変形とともに又は繊維の変形を伴うことなく、拭き圧により繊維間空隙の変形が生じやすく、このことも撥水性セルロース繊維を使用することで汚れの捕集性を向上させると推察される。
【0013】
さらにまた、本発明者らは、撥水性セルロース繊維の使用量を適切に選択することで、毛羽抜け量を小さくして、拭き取り時に対象物に付着する繊維を少なくし得ることを見出した。撥水性セルロース繊維はそれ自体交絡しにくいものであるため、不織布から脱落しやすいものであるが、不織布全体に占める量を調節しつつ、他の繊維ないしは他の繊維を含む繊維層と組み合わせることで、脱落を生じにくくすることができる。
【0014】
撥水性セルロース繊維の使用は、Sustainable Development Goals(SDGs、持続可能な開発目標)の観点からも好ましい。セルロース繊維は生分解性を有し、環境に配慮した素材として注目されている。したがって、本開示の不織布によれば、拭き取り性能に優れ、かつSDGsの観点からも消費者に受け入れられやすいワイパーを提供することができる。
【0015】
なお、疎水性の人造セルロース繊維を用いた不織布を衛生用品として人体に適用するウェットワイプとして使用することは特許文献2に記載されているが、同文献は湿潤剤による処理等で液体しみ通し時間を短くすることを提案するものである。そのため、床面等の比較的広い面積を一枚のワイパーで拭き取る際の液体の徐放性を考慮した設計となっておらず、また、寸法の大きい固形物の汚れの捕集性という点では、十分なものではない。
以下、本開示に係るワイパー用不織布の実施の形態を説明する。
【0016】
本開示に係るワイパー用不織布(以下、単に「不織布」ともいう)を構成する繊維についてまず説明する。
【0017】
(撥水性セルロース繊維)
セルロース繊維は本来親水性を有するものであるが、本開示では人為的に撥水性を付与したセルロース繊維を「撥水性セルロース繊維」と称する。
【0018】
セルロース繊維の種類は特に限定されない。セルロース繊維は、以下を含む。
(1)綿(コットン)、麻、亜麻(リネン)、ラミー、ジュート、バナナ、竹、ケナフ、月桃、ヘンプおよびカポック等の植物に由来する天然繊維;
(2)ビスコース法で得られるレーヨンおよびポリノジック、銅アンモニア法で得られるキュプラ、ならびに溶剤紡糸法で得られるテンセル(登録商標)およびリヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維、ならびにその他の再生繊維;
(3)溶融紡糸法で得られるセルロース繊維;
(4)アセテート繊維等の半合成繊維;および
(5)機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ
【0019】
撥水性セルロース繊維は、これらのセルロース繊維に撥水剤を付着させることで撥水性を付与したものであってよい。あるいは、撥水性セルロース繊維は、カルボキシル基および/またはスルホン酸基を有するセルロース繊維を、イソシアネート系化合物および非フッ素系撥水剤を含む処理液で処理する方法で得られたものであってよい。かかる方法で得られる撥水性セルロース繊維は、例えば、特開2019-65443号に開示されている。
【0020】
不織布の剛軟度が小さくなり易い点で、撥水性セルロース繊維は撥水性レーヨンを含むことが好ましい。レーヨンは、その断面形状が菊花状であるため、撥水性が効果的に発揮され易い点でも好ましい。また、レーヨンの菊花状の繊維断面は、繊維表面においては長さ方向にのびる筋状の凹凸として観察されるところ、これらの凹凸は汚れを捕集するのに適した繊維間空隙を与え、また、凹部それ自体に汚れを取り込むことを可能にする。さらに、ビスコースレーヨンは公定水分率および二次膨潤度が他のセルロース繊維(例えば、コットン、リヨセル)と比較して高いことから、表面が撥水性でありつつ、内部が親水性および膨潤性を有することによる効果(例えば、湿潤時での拭き圧による変形)をより与えやすい。
【0021】
撥水性レーヨンとしては、例えば、ダイワボウレーヨン(株)製のエコリペラス(商品名、撥水性ビスコースレーヨン)、Kelheim Fibres GmbH製のOlea(商品名、撥水性ビスコースレーヨン)等が上市されている。特に、エコリペラス(商品名)は高い撥水性を示し、また、耐久性の高い撥水性を有し、例えば水流交絡処理に付された場合でも撥水性が低下し難いことから好ましく用いられる。
【0022】
あるいは、撥水性セルロース繊維として、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維に撥水性を付与したものは、湿潤時に繊維の強度低下が少ない点から好ましく用いられる。撥水性の溶剤紡糸セルロース繊維として、例えば、レンチング社製のリヨセルドライ(商品名、撥水性リヨセル)が上市されている。
【0023】
撥水性セルロース繊維の繊度は、0.6dtex以上であってよく、1.0dtex以上であってよく、1.4dtex以上であってよい。撥水性セルロース繊維の繊度は、6.0dtex以下であってよく、5.0dtex以下であってよく、3.0dtex以下であってよい。一態様において、撥水性セルロース繊維の繊度は、0.6dtex以上6.0dtex以下である。撥水性セルロース繊維の繊度が上記範囲であると、繊維層Aに適度な空隙が形成されて、液体を保持し易い。撥水性セルロース繊維の繊度は上記範囲に限定されない。特に天然繊維は繊度の調整が難しいため、セルロース繊維として上記範囲外の繊度のものを使用してよい。一般的に、パルプの繊度は1.0dtex以上4.0dtex以下程度であり、その繊維長は0.8mm以上4.5mm以下程度である。
【0024】
撥水性セルロース繊維の繊維長は特に限定されず、素材、その製造方法、繊維層Aの作製方法、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。撥水性セルロース繊維は、例えば、短繊維である。繊維層Aがカードウェブから作製される場合、撥水性セルロース繊維の繊維長は、100mm以下であってよく、75mm以下であってよく、65mm以下であってよい。上記の短繊維の撥水性セルロース繊維の繊維長は、10mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよい。上記の場合、一態様において、撥水性セルロース繊維の繊維長は、10mm以上100mm以下であってよい。繊維層Aがエアレイドウェブから作製される場合、撥水性セルロース繊維の繊維長は、2mm以上20mm以下であってよい。
【0025】
本実施形態においては、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる撥水性セルロース繊維を、複数用いてもよい。
【0026】
繊維の撥水性は、例えば薬食機発第0630001号の医療ガーゼ・医療脱脂綿の基準に従い、以下の方法で測定される沈降速度(6(1)カ)により評価できる。
【0027】
不織布製造前の繊維あるいは不織布から採取した繊維につき、そのままの状態(初期)のものと、温水(40℃)で2分間のもみ洗いを3回実施する方法で洗浄し乾燥させて、付着している油分等を除去した状態(洗浄後)のものを用意する。次いで、それぞれの状態の繊維をカード機で解繊し、繊維集合体を準備する。この繊維集合体0.3gを直径2cm以下に丸めて、水温24~26℃の水面上12mmの高さから、深さ200mmの水の中に静かに落とす。繊維集合体を落としてから水面下に沈むまでの時間を、当該繊維のそれぞれ初期の沈降速度および洗浄後の沈降速度とする。
【0028】
繊維をカード機で解繊できない場合(例えば、繊維長が短い場合等)、採取された繊維0.3gを、そのまま丸めて水中に落としてよい。あるいは、繊維が繊維集合体(例えば、湿式不織布またはエアレイド不織布)の形態を既にとっており、これをカード機で解繊することが難しい場合には、1cm×1cmの大きさに切断した不織布片0.3g分を、水中に落としてよい。
【0029】
撥水性セルロース繊維の初期の沈降速度は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上が特に好ましい。なかでも、撥水性セルロース繊維を水中に落としてから10分経過した時点で、少なくとも一部の撥水性セルロース繊維が水面下に沈降してないことが好ましい。このとき、撥水性セルロース繊維は吸水していてもよい。特に、1分経過した時点で、繊維の一部ないし全部が水面に浮いているセルロース繊維は、撥水性セルロース繊維として特に好ましく用いられる。また、撥水性セルロース繊維の洗浄後の沈降速度も同様に、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上が特に好ましい。尤も、洗浄後の沈降速度は、初期の沈降速度が上記範囲を満たしている限りにおいて、この範囲外であってもよい。
【0030】
なお、撥水性セルロース繊維は表面が撥水処理されていることにより、撥水性を示し、上記のような沈降速度を示すが、一旦湿潤すると繊維内部に水分を保つ性質を有する。そのため、撥水性セルロース繊維(特に撥水性レーヨン)の公定水分率は撥水処理されていない同種のセルロース繊維と同等であり、その二次膨潤度は撥水処理されていないセルロース繊維よりは劣るが、一般的な合成繊維のそれよりも高い傾向にある。例えば、撥水処理されていないビスコースレーヨンとして二次膨潤度(水膨潤度:JIS L1015:2010 8.26に従って測定される)が80%以上90%以下程度のものがあり、撥水性レーヨンとして二次膨潤度が45%以上55%以下程度のものがある。また、撥水性レーヨンとして公定水分率(JIS L 1015に準じて測定される)が10%以上13%以下程度のものがあり、これは撥水処理されていない一般的なレーヨンの公定水分率(11%)と同等である。
【0031】
(他の繊維)
繊維層Aを撥水性セルロース繊維とともに構成する他の繊維は特に限定されない。他の繊維は、撥水性でなく、本来の親水性を有するセルロース繊維(以下、撥水性セルロース繊維と区別するために「親水性セルロース繊維」という)であってよく、または合成繊維もしくは天然繊維であってよい。他の繊維として二種類以上の繊維を使用してよい。以下に、他の繊維の例として、親水性セルロース繊維および合成繊維を説明する。
【0032】
[親水性セルロース繊維]
上記のとおり、親水性セルロース繊維は、撥水性が付与されておらず、本来の親水性を有するセルロース繊維を指す。したがって、親水性セルロース繊維の例は、撥水性セルロース繊維に関して説明したとおりである。
【0033】
親水性セルロース繊維は、再生繊維であってよい。再生繊維は繊度の調整が容易であること、およびばらつきの小さいものであることから、好ましく用いられる。再生繊維のうち、ビスコースレーヨンは、上記撥水性セルロース繊維に関連して説明した特徴を有することから、ワイパー用不織布の構成繊維として好ましく用いられる。また、ビスコースレーヨンの使用は、コスト的に有利である。
【0034】
親水性セルロース繊維の繊度は、例えば、0.2dtex以上6.0dtex以下の繊度を有してよく、特に0.3dtex以上4.5dtex以下であってもよく、より特には0.4dtex以上4.0dtex以下であってもよく、さらにより特には0.6dtex以上3.0dtex以下であってもよい。親水性セルロース繊維の繊度が小さすぎると、不織布に繊維塊(ネップ)が生じやすくなり、大きすぎると不織布の触感が低下することがある。親水性セルロース繊維の繊度はこれらの範囲に限定されない。特に天然繊維を使用する場合には、繊度の調整が難しいことから、上記範囲外の繊度のものを使用してよい。
【0035】
繊維層Aに含まれる親水性セルロース繊維の繊維長は特に限定されず、例えば10mm以上であってよい。繊維層Aに含まれる親水性セルロース繊維の具体的な繊維長は、不織布の製造方法等に応じて選択してよい。不織布の製造方法(繊維層の作製方法)と繊維長の関係は、撥水性セルロース繊維に関連して説明したとおりである。
【0036】
繊維層Aには、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる親水性セルロース繊維を複数用いてもよい。
【0037】
親水性セルロース繊維は、撥水性セルロース繊維の撥水性の評価方法として説明した方法で沈降速度を測定したときに、60秒以内にサンプルが水面下に沈むようなものであってよい。親水性セルロース繊維は、サンプルをビーカー内の水面に落としてから、例えば50秒以内、特に45秒以内、より特には30秒以内に、吸水して水面下に沈むものであってよい。
【0038】
[合成繊維]
合成繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマーから任意に選択される1または複数の熱可塑性樹脂からなるものであってよい。これらのうち、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネート等の生分解性を有する樹脂は、SDGsを重視する場合に好ましく用いられる。
【0039】
あるいは、合成繊維は、バイオマス原料を含む合成繊維であってよい。バイオマス原料を含む合成繊維は、例えば、バイオポリプロピレン(バイオPPともいう)、バイオポリエチレン(バイオPEともいう)、バイオポリエチレンテレフタレート(バイオPETともいう)、バイオポリトリメチレンテレフタレート(バイオPTTともいう)、バイオポリカーボネート(バイオPCともいう)、バイオポリウレタン(バイオPUともいう)、バイオポリアミド11(バイオPA11ともいう)、バイオポリアミド1010(バイオPA1010ともいう)、バイオポリアミド610(バイオPA610ともいう)、バイオポリアミドMXD10(バイオMXD10ともいう)、バイオポリアミド11T(バイオPA11Tともいう)等を含む合成繊維であり、より具体的には、そのようなバイオマス原料を溶融紡糸等して製造される合成繊維である。バイオマス原料を含む合成繊維もまた、SDGsを重視する場合に好ましく用いられる。
【0040】
あるいは、合成繊維は、リサイクル樹脂原料を含む合成繊維であってよい。リサイクル樹脂原料を含む合成繊維は、例えば、リサイクル(再生)ポリプロピレン(リサイクル(再生)PPともいう)、リサイクル(再生)ポリエチレンテレフタレート(リサイクル(再生)PETともいう)、リサイクル(再生)ナイロン等である。リサイクル樹脂原料を含む合成繊維もまた、SDGsを重視する場合に好ましく用いられる。
【0041】
以下において、具体的に示される樹脂は、当該樹脂がバイオマス原料またはリサイクル樹脂原料として提供されるものであるときには、それらの原料のものも指している。例えば、ポリプロピレン単一繊維というときには、通常のポリプロピレン原料からなる単一繊維のほか、バイオポリプロピレンからなる単一繊維、およびリサイクル(再生)ポリプロピレン単一繊維をも含む。
【0042】
合成繊維は、繊維断面が単一成分(「単一セクション」ともいう)からなる単一繊維であってよく、および/または繊維断面が複数の成分(「セクション」ともいう)から構成される複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、または分割型複合繊維等であってよい。繊維の断面は円形であっても非円形であってもよく、非円形の形状としては、楕円形、Y形、X形、井形、多葉形、多角形、星形等が挙げられる。また、合成繊維は、中空断面を有するものであってよい。単一繊維および複合繊維のいずれの場合も、繊維を構成する各セクションは、一種類の樹脂からなっていてよく、あるいは二種以上の樹脂が混合されたものであってもよい。
【0043】
合成繊維が単一繊維である場合には、単一繊維は、上記ポリオレフィン系樹脂、上記ポリエステル系樹脂、上記ポリアミド系樹脂、および上記アクリル系樹脂から成る群から選ばれる一種以上の樹脂からなるものであってよい。より具体的には、ポリエチレン単一繊維、ポリプロピレン単一繊維、ポリエチレンテレフタレート単一繊維等を用いてよい。
【0044】
合成繊維が複合繊維である場合には、融点の最も低い熱可塑性樹脂が繊維表面の一部を構成するように、二以上の成分を配置してよい。その場合、不織布を生産する工程において、最も融点が低い熱可塑性樹脂からなる成分(以下、「低融点成分」)が溶融または軟化する条件で熱を加えると、低融点成分が接着成分となる。融点のより高い熱可塑性樹脂である第1成分と、融点のより低い熱可塑性樹脂である第2成分とからなる複合繊維を構成する樹脂の組み合わせ(第1/第2)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体等のポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせ、ならびにポリプロピレン/ポリエチレン、およびポリプロピレン/プロピレン共重合体等の二種類のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂の組み合わせ、および融点の異なる二種類のポリエステル系樹脂の組み合わせである。
【0045】
あるいは、第1成分と第2成分の組み合わせは生分解性を有する樹脂の組み合わせであってよく、そのような組み合わせによれば繊維層Aにおける生分解性繊維の割合をより大きくすることができる。具体的には、第1成分をポリ乳酸、第2成分をポリブチレンサクシネートとすることで合成繊維を生分解性のものとし得る。
【0046】
単一繊維または複合繊維の構成成分として例示した熱可塑性樹脂は、具体的に示された熱可塑性樹脂を50質量%以上含む限りにおいて他の成分を含んでよい。具体的に示された熱可塑性樹脂は80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、あるいは構成成分は具体的に示された熱可塑性樹脂から実質的に成っていてよい。ここで「実質的に」という用語は、通常、熱可塑性樹脂には各種の添加剤等が含まれていることを考慮して使用している。例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの組み合わせにおいて、「ポリエチレン」はポリエチレンを50質量%以上含んでいれば、他の熱可塑性樹脂および添加剤等を含んでいてよい。このことは以下の例示においてもあてはまる。
【0047】
合成繊維が、融点のより高い熱可塑性樹脂が第1成分として芯成分を構成し、融点のより低い熱可塑性樹脂が第2成分として鞘成分を構成する同心または偏心芯鞘型複合繊維である場合、芯/鞘の組み合わせは、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/プロピレン-エチレン共重合体、ポリプロピレン/プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル(例えば、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート)であってよい。これらの樹脂の組み合わせは、分割型複合繊維において用いてもよい。
【0048】
芯鞘型複合繊維の場合、芯成分と鞘成分との複合比(芯成分:鞘成分)が体積比で80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。
【0049】
分割型複合繊維の場合、二つの成分の比(第1:第2)は体積比で、80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。分割型複合繊維の場合、分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であってよく、特に4以上、20以下であってよく、より特には6以上、10以下であってよい。
【0050】
本実施形態においては、第1成分/第2成分の組み合わせが、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンである、芯鞘型複合繊維(同心または偏心)を合成繊維として好ましく用いることができる。これらの繊維は、接着性繊維として用いる場合には、比較的低い温度(110℃以上130℃以下で接着性を示し、接着後の不織布の風合いを柔軟にする。
【0051】
合成繊維の繊度は、例えば、1.0dtex以上8.0dtex以下であってよく、特に1.5dtex以上7.5dtex以下であってよく、より特には1.6dtex以上6.0dtex以下、さらにより特には1.7dtex以上5.0dtex以下であってよい。合成繊維の繊度が小さすぎると、不織布の強度が低く、不織布に伸びが生じやすくなることがあり、また、不織布表面の繊維密度が高くなって汚れで目詰まりが生じやすくなり、汚れの捕集性が低下することがある。合成繊維の繊度が大きすぎると、不織布の触感を硬くすることがある。不織布に伸びが生じやすいと、例えば不織布を治具に取り付けてワイピング作業を行う場合に、治具への取り付けの際にたるみやしわが生じることがあり、また、不織布表面の繊維密度が低くなって、一度捕集した汚れが脱落することがある。
【0052】
特に合成繊維が分割型複合繊維である場合、分割型複合繊維は分割前の繊度が1.0dtex以上4.0dtex以下であってよく、分割後に0.1dtex以上1.0dtex未満の合成繊維を与えるものであってよい。
【0053】
合成繊維の繊維長は、特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。例えば、不織布の製造において繊維層Aがカードウェブを作製して製造される場合、合成繊維は短繊維であってよい。この短繊維の繊維長は例えば10mm以上100mm以下としてよく、特に20mm以上75mm以下としてよく、より特には30mm以上65mm以下としてよい。あるいは、繊維層Aがエアレイ法で製造される場合、繊維長は例えば2mm以上20mm以下としてよい。
【0054】
合成繊維は一般に疎水性であり、例えば5%未満の公定水分率を有するものである。本実施形態において、合成繊維は、親水化処理を施したものであってよい。親水化処理として、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる
【0055】
上記において、他の繊維として、親水性セルロース繊維および合成繊維を説明したが、他の繊維はこれらに限定されない。他の繊維として、例えば、シルク、およびウールなどの天然繊維を含んでよい。
【0056】
(繊維層A以外の繊維層を構成する繊維)
本実施形態は、撥水性セルロース繊維を所定の割合で含む繊維層Aを含む不織布であって、当該繊維層Aが不織布の少なくとも一方の表面を形成しているものである。したがって、後述するように本実施形態の不織布は、繊維層A以外の繊維層を含んでよい。繊維層A以外の繊維層を構成する繊維は特に限定されず、上記において説明した撥水性セルロース繊維、親水性セルロース繊維、合成繊維および天然繊維から選択される、1または複数の繊維であってよい。
【0057】
繊維層A以外の繊維層が、二つの繊維層Aの間に位置する中間繊維層である場合、中間繊維層を構成する繊維は、繊維長が10mm未満である親水性セルロース繊維であってよい。中間繊維層が短い親水性セルロース繊維を所定割合以上含むことで、不織布をウェットワイパーとして使用する場合に、中間繊維層は液体を保持する「タンク的」な役割を果たし、繊維層Aの使用と相俟って、液体を長時間にわたって少量ずつ放出させることを可能にする。繊維長10mm未満の親水性セルロース繊維としては、例えば、機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプがあり、また、製造過程で所望の繊維長にカットすることが比較的容易な再生繊維、溶融紡糸セルロース繊維および半合成繊維がある。
【0058】
本実施形態では、中間繊維層に含まれる親水性セルロース繊維として、パルプが好ましく用いられる。パルプは針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものであってよい。一般的に、パルプ繊維の繊度は、1.0dtex~4.0dtex程度、繊維長は0.8mm~4.5mm程度である。
【0059】
パルプは衛生用品の材料として使用されている実績があることから消費者に受け入れられやすく、また、生分解性を有することから、使用後、廃棄する使い捨てワイパーを構成する材料として好ましく用いられる。さらに、木材を原料とするパルプは、後述するように水流交絡法で不織布を製造する場合に、繊維層Aに親水性セルロース繊維が含まれる場合には、繊維同士の交絡を促進する。
【0060】
あるいは繊維層A以外の繊維層は、後述するように網状シートであってよい。網状シートが繊維層A以外の繊維層として含まれる場合、当該繊維層を構成する繊維は、合成樹脂からなるモノフィラメント、繊維を撚り合わせてなるストランド、あるいは押出成型によって得られる未延伸または延伸フィラメントからなるネット(またはネット状に押し出されたフィラメント状物)である。
【0061】
あるいは繊維層A以外の繊維層は、後述するようにメルトブローン不織布や、長繊維不織布(スパンボンド不織布ともいう)であってよく、短繊維により形成されるエアスルー不織布やポイントボンド不織布、あるいは湿式不織布であってよい。これらの不織布が繊維層A以外の繊維層として含まれる場合、当該繊維層を構成する繊維は、合成繊維または再生繊維である。
【0062】
(不織布の構成)
次に本実施形態の不織布の構成を説明する。本実施形態の不織布は、第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布であって、不織布の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含み、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方が、前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、前記他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維層Aの表面であり、
繊維同士の交絡により一体化されているものである。
【0063】
本実施形態の不織布は、撥水性セルロース繊維を所定の割合で含む繊維層Aの表面が、不織布の二つの主表面、すなわち、第一表面および第二表面の少なくとも一方の表面となるように構成され、それにより優れた液体の徐放性と汚れの捕集性を確保している。
【0064】
繊維層Aに含まれる撥水性セルロース繊維の割合は10質量%以上であり、特に30質量%以上90質量%以下、より特には40質量%以上80質量%以下である。撥水性セルロース繊維は、上記のとおり、切断面から液体を吸収して膨潤し、膨潤することで剛性が低下して拭き圧による変形が、合成繊維と比較して多少生じやすくなる。また、撥水性セルロース繊維は、後述するように繊維同士を高圧流体流(特に高圧水流)により交絡させるときに、繊維表面が撥水であることから交絡が過度に進行することを抑制して、繊維間に適度な空隙を形成しやすい。そのため、撥水性セルロース繊維をワイパーの拭き取り面となる表面に位置させることで、繊維の変形によって固形物のやや寸法の大きい汚れが捕集されやすくなり、また、繊維間空隙に適度に液体が保持されて、徐々に放出させることが可能となる。
【0065】
繊維層Aに含まれる撥水性セルロース繊維の割合が10質量%未満であると、汚れの捕集性および液体の徐放性が不十分となることがある。
繊維層Aに含まれる撥水性セルロース繊維の割合は100質量%、すなわち繊維層Aは撥水性セルロース繊維のみで構成されていてよい。但し、繊維層Aに含まれる撥水性セルロース繊維の割合が大きくなるほど、繊維の撥水性が高く高圧液体流による交絡が進行しにくくなること、および繊維それ自体の強度が合成繊維ほど大きくないことに起因して、不織布強度が低下することがあり、あるいは拭き取り時に毛羽抜けが生じやすくなることがある。
【0066】
繊維層Aは、撥水性セルロース繊維以外の他の繊維を残部として含む。したがって、他の繊維の割合は90質量%以下となる。他の繊維は、特に限定されず、合成繊維であってよく、親水性セルロース繊維であってよい。あるいは、他の繊維として、合成繊維および親水性セルロース繊維をともに含んでよい。
【0067】
合成繊維は、不織布の機械的強度を向上させ、不織布に剛性を付与する点から好ましく用いられる。また、合成繊維を接着性繊維として用い、構成成分の一部を溶融または軟化させて繊維同士を接着させると、不織布の機械的強度がより向上して寸法安定性が向上するとともに、表面の毛羽立ちもより抑制される。さらに、合成繊維は一般に疎水性であるため、撥水性セルロース繊維とともに、不織布中に適度な繊維間空隙を形成して、液体が適度に保持され、徐々に放出されることを可能にする。
【0068】
繊維層Aが他の繊維として合成繊維を含む場合、合成繊維が繊維層Aに占める割合は、0質量%を超え35質量%以下であってよく、特に5質量%以上30質量%以下、より特には10質量%以上25質量%以下であってよい。合成繊維の割合が35質量%を超えると、撥水性セルロース繊維の割合がそれだけ減少し、撥水性セルロース繊維を含むことによる効果(特に汚れの捕集性向上)を得にくくなる。また、合成繊維の割合が大きくなると、高圧流体流により繊維同士を交絡させる際に繊維同士の交絡が十分でなくなり、不織布における繊維間空隙が過度に大きくなることがある。そのような大きな繊維間空隙に保持される液体は、拭き圧によって一度放出されやすいため、合成繊維の割合が大きすぎると不織布の液体の徐放性が低下することがある。
【0069】
繊維層Aが二種類以上の合成繊維を含む場合、少なくとも一種類の合成繊維が接着性繊維として使用され、少なくとも一種類の合成繊維が非接着性繊維として存在してよい。ここで、非接着性繊維は、接着性繊維の接着成分が溶融または軟化して繊維同士を接着する温度にて、溶融または軟化せずに、その繊維形状を保持するものである。したがって、接着性繊維であるか、非接着性繊維であるかは、それぞれの繊維を構成する樹脂と、不織布を製造する際の条件(加熱温度)により決定される。例えば、ポリエチレンを一成分とする合成繊維を135℃程度の加熱処理に付して、ポリエチレンを接着成分とする接着性繊維として用い、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートからなる単一合成繊維を非接着性繊維として用いてよい。
【0070】
接着性繊維と非接着性繊維を併用することで、非接着性繊維が繊維形状を保持したまま不織布中に含まれることとなる。合成繊維である非接着性繊維は上記のとおり一般に疎水性であるため、水系流体を用いた交絡処理に付しても交絡が進行しにくく、比較的自由度の高い状態で不織布中に存在する。そのため、接着性繊維だけを用いる場合と比較して、汚れの捕集性が向上する傾向にある。また、接着性繊維による繊維同士の接合は、繊維および繊維間空隙の拭き圧による変形を阻害する傾向にあるため、非接着性繊維を存在させることで、これを緩和し得る。さらに、非接着性繊維は、不織布に液体を含浸させたときでも、液体を吸収しにくく、セルロース繊維のように吸液ないしは膨潤による繊維強度の低下を生じにくい。そのため、非接着性繊維は、湿潤状態でも不織布強度および嵩高性を維持するのに寄与し、汚れ捕集性および使い勝手に優れたウェットワイパーを与え得る。
【0071】
上記のとおり、合成繊維を繊維層Aに含有させる場合、合成繊維は、バイオマス原料を含む合成繊維、生分解性合成繊維、及びリサイクル原料を含む合成繊維から選択される1種または複数種の合成繊維であってよい。そのような合成繊維は、SDGsの観点から撥水性セルロース繊維とともに好ましく用いられる。
【0072】
親水性セルロース繊維を他の繊維として含む場合、親水性セルロース繊維それ自体が吸水性を有するため、繊維に液体を蓄えて、これが拭き取り作業の初期段階で放出されることを可能にする。したがって、親水性セルロース繊維の使用は、拭き取りの初期段階で液体を比較的大量に放出させて拭き取りを実施することが望まれる用途(例えば、こびりついた汚れを液体でまず「ゆるくする」ことが望まれる用途)に適している。また、親水性セルロース繊維は、高圧流体流で繊維同士を交絡させる場合に、優れた交絡性を示す。そのため、親水性セルロース繊維を用いることで、繊維同士の交絡の度合いを高めて、不織布の強度を向上させる、および/または毛羽抜けおよび毛羽立ちを防止させることが可能となる。特に、本実施形態の不織布が、繊維層A以外の繊維層を含まず、繊維同士を高圧流体流で交絡させる場合には、繊維同士の交絡を確保するため、親水性セルロース繊維をその他の繊維として含むことが好ましい。
【0073】
繊維層Aが他の繊維として親水性セルロース繊維を含む場合、親水性セルロース繊維が繊維層Aに占める割合は、0質量%を超え75質量%以下であってよく、特に10質量%以上60質量%以下、より特には20質量%以上50質量%以下であってよい。親水性セルロース繊維は、撥水性セルロース繊維と同様、膨潤性を有し、不織布をウェットワイプとして使用する場合に拭き圧によって変形しやすいため、これが含まれることにより撥水性セルロース繊維により発揮される汚れの捕集性がそれほど低下することはない。但し、親水性セルロースの割合が75質量%を超えると拭き取り作業の開始時に親水性セルロース繊維に保持された液体が一気に放出されて、拭き取り面を過度に濡らし、拭き取りをスムーズに実施できなくなる傾向にある。
【0074】
繊維層Aは、他の繊維として、親水性セルロース繊維および合成繊維の両方を含んでよい。その場合、親水性セルロース繊維が繊維層Aに占める割合は0質量%以上75質量%以下、特に10質量%以上60質量%以下、合成繊維が繊維層Aに占める割合は0質量%以上30質量%以下、特に5質量%以上25質量%以下としてよい。この範囲で親水性セルロース繊維および合成繊維が含まれると、不織布に液体を適度に保持しつつ、不織布の機械的強度を高くして、拭き取り時の毛羽抜け量を抑制することができる。
【0075】
本実施形態の不織布は、繊維層Aのみからなる単層構造であってよく、あるいは繊維層Aと他の1または複数の繊維層Aとからなる積層構造であってよい。他の繊維層は、撥水性セルロース以外の繊維からなる繊維層、または撥水性セルロース繊維層の割合が上記範囲外である繊維層である。他の繊維層は、例えば、メルトブローン不織布や、長繊維不織布(スパンボンド不織布ともいう)であってよく、短繊維により形成されるエアスルー不織布やポイントボンド不織布、あるいは湿式不織布であってよい。
【0076】
あるいは他の繊維層は網状シートであってよい。網状シートには、スクリム、および熱可塑性樹脂の二軸延伸により作成されたネット等が含まれる。網状シートとしては、例えば、米国CONWED GLOBAL NETTING SOLUTIONS社製のコンウェッドネット(登録商標)等を使用してよい。網状シートは比較的大きな空隙を有しつつ、高い機械的特性を示す傾向にあるため、繊維層Aと良好に一体化されて不織布を補強する役割をする。また、網状シートを用いることで、高圧流体流で繊維同士を交絡させる場合には、液体流の圧力をより低くして、繊維層間を一体化することを可能とする。
【0077】
本実施形態の不織布は、単層であるか積層であるかによらず、不織布の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含む。撥水性セルロース繊維の不織布全体に占める割合が10質量%未満であると、繊維層Aを形成することができない、または繊維層Aが不織布全体に占める割合が小さくなりすぎて、汚れの捕集性および液体の徐放性が低下する傾向にある。撥水性セルロース繊維が不織布全体の75質量%以上を占めると、不織布強度が低下することがあり、および/または不織布表面において毛羽立ちが生じやすくなる。不織布全体に占める撥水性セルロース繊維の割合は、特に10質量%以上70質量%以下、より特には20質量%以上60質量%以下であってよい。
【0078】
本実施形態の不織布が積層構造のものであるときに、不織布全体に占める撥水性セルロース繊維の割合は、他の繊維層および積層構造の構成に応じて決定してよい。例えば、後述するように、本実施形態の不織布が、第一繊維層、第二繊維層、および第一繊維層と第二繊維層との間に配置された中間繊維層を有し、第一繊維層および第二繊維層がともに繊維層Aである構成を想定する。この構成において、中間繊維層が親水性繊維を含む等、水を保持しやすく、拭き圧が加わっても水を放出しにくいものである場合には、撥水性セルロース繊維の割合をより少なくすることができる。一方、中間繊維層が極めて薄いものである、または大きな空隙を含むもの(例えば網状シートや繊維同士が接着されてなる不織布)である場合、撥水性セルロース繊維の割合をより多くしてよい。それにより、拭き圧が加わったときに中間繊維層が保持しきれず、第1繊維層および第2繊維層の側に移動した液体が、撥水性セルロース繊維によって不織布表面に移動することが阻害されて、液体の過度な放出を抑制し得ることがある。
【0079】
より具体的には、中間繊維層が親水性セルロース繊維を含む湿式不織布である場合、不織布全体に占める撥水性セルロース繊維の割合は10質量%以上75質量%以下、特に10質量%以上70質量%以下、より特には20質量%以上60質量%以下としてよい。中間繊維層が合成繊維を含み、繊維同士が接着された不織布(例えば、エアスルー不織布)である場合、不織布全体に占める撥水性セルロース繊維の割合は15質量%以上75質量%以下、特に25質量%以上70質量%以下、より特には30質量%以上65質量%以下としてよい。中間繊維層が網状シートである場合、不織布全体に占める撥水性セルロース繊維の割合は15質量%以上75質量%以下、特に25質量%以上70質量%以下、より特には30質量%以上65質量%以下としてよい。
【0080】
本実施形態の不織布を積層構造のものとする場合、第一繊維層、第二繊維層、および第一繊維層と第二繊維層との間に配置された中間繊維層を有し、第一繊維層および第二繊維層がともに繊維層Aであるものとしてよい。そのような構成の不織布は、両方の表面を、優れた拭き取り性能を示す拭き取り面として使用することを可能にする。また、中間繊維層の構成を適宜選択することで、不織布全体の液体の保持量および機械的特性を調整することが可能となる。
【0081】
中間繊維層は、例えば、短繊維により形成されるエアスルー不織布およびポイントボンド不織布、ならびにメルトブローン不織布、長繊維不織布、湿式不織布、ならびに網状シートから選択される1または複数であってよい。中間繊維層がエアスルー不織布である場合、エアスルー不織布は例えば、繊度1.0dtex以上8.0dtex以下、特に1.5dtex以上6.0dtex以下の合成繊維からなるものであってよい。中間繊維層がメルトブローン不織布である場合、メルトブローン不織布は、例えば、繊度0.005dtex以上1.0dtex以下、特に0.007dtex以上0.7dtex以下の合成繊維からなるものであってよい。中間層が長繊維不織布である場合、長繊維不織布は、例えば、繊度0.5dtex以上7.0dtex以下、特に1.0dtex以上4.0dtex以下の合成繊維からなるものであってよい。
【0082】
長繊維不織布は、スパンボンド不織布、縦方向に糸を引きそろえたシートと横方向に糸を引きそろえたシートを複合させたシート、及びフィルムを割繊および延伸してなるネット状ウェブを二以上積層して一体化させたシート等であってよい。このようなシートとしては、例えば、JX ANCI株式会社製のミライフ(登録商標)、JX ANCI株式会社製のワリフ(登録商標)等を使用してよい。
【0083】
本実施形態において、中間層は、親水性セルロース繊維を含む湿式不織布、特にパルプからなる湿式不織布(またはティッシュ)であってよい。親水性セルロース繊維を含む湿式不織布は、吸水性に優れ、多くの液体を保持することができるので、不織布において液体(例えば、ウェットワイプに含まれる洗浄液)を溜めるタンクとして機能し、不織布をウェットワイプとして使用する場合には、拭き取り作業中、液体を長時間にわたって拭き取り面に供給する機能を奏することができる。また、繊維同士を高圧液体流で交絡させる場合に、親水性セルロース繊維が二つの繊維層Aの間に位置することで、繊維層Aを構成する繊維と良好に交絡して、不織布全体の強度を向上させ得る。
【0084】
あるいは、中間繊維層は網状シートであってよい。上記のとおり、網状シートは、繊維同士の交絡に与える影響を小さくして、不織布全体を良好に補強することができる。したがって、例えば、第一繊維層および/または第二繊維層に親水性セルロース繊維を含有させれば、高圧流体流により繊維同士を交絡させるときには、親水性セルロース繊維が網状シートの編目を経由して交絡を促進するので、不織布の機械的特性が向上し得る。
【0085】
網状シートが、規則的な開口部(例えば、フィラメントにより規定された長方形ないしは正方形)を有するものである場合、開口部の寸法は例えば、3mm以上であってよく、特に4mm以上、より特には5mm以上であってよい。開口部の寸法の上限は、例えば15mm、特に12mmであってよい。開口部の寸法は、開口部を規定する輪郭の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さである。開口部の寸法が小さすぎると、特に不織布を網状シートの上下に第一繊維層と第二繊維層を配置させる構成とする場合に、上下の繊維層同士の交絡が不十分となることがある。その結果、層間剥離が起こりやすくなることがある。規則的な開口部を有する網状シートは、50%以上99%以下の開口率、特に60%以上98%以下、より特には70%以上97%以下の開口率を有してよい。開口率がこの範囲であると、繊維との交絡性がよくなる傾向にあり、また、その両面に繊維層が位置する場合に繊維層間で繊維同士の良好な交絡を確保しやすい。
【0086】
第一繊維層および第二繊維層はともに繊維層Aであればよく、したがって両繊維層は、繊維の種類、繊維の混合割合、目付、および繊維層の製造形態(繊維ウェブの種類)等において同じであっても、異なっていてもよい。例えば、撥水性セルロース繊維の割合を二つの繊維層の間で異なるようにして、二つの繊維層の表面をそれぞれ異なる用途(例えばダイニングのフローリング面の拭き取りと、洗面所の床面の拭き取り)に用いてよい。
【0087】
本実施形態の不織布において、繊維層Aの目付は、例えば35g/m以上100g/m以下の目付を有してよく、特に40g/m以上95g/m以下の目付を有してよく、より特には45g/m以上90g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には50g/m以上85g/m以下の目付を有してよい。
【0088】
繊維層Aが第一繊維層および第二繊維層として存在する場合、第一繊維層および第二繊維層はそれぞれ、例えば10g/m以上50g/m以下の目付を有してよく、特に12.5g/m以上47.5g/m以下の目付を有してよく、より特には15g/m以上45g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には17.5g/m以上40g/m以下の目付を有してよい。
【0089】
また、第一および第二繊維層とともに不織布を構成する中間繊維層は、例えば5g/m以上50g/m以下の目付を有してよく、特に6g/m以上45g/m以下の目付を有してよく、より特には7g/m以上40g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には8g/m以上35g/m以下の目付を有してよい。
【0090】
第一および第二繊維層と中間繊維層とを含む構成の不織布において、不織布全体の目付を1としたときに、これに対する中間繊維層の目付の比(中間繊維層/不織布全体)は、例えば0.05以上1以下、特に0.10以上0.80以下、より特には0.15以上0.60以下であってよい。中間繊維層の不織布に占める割合が大きすぎると、繊維層Aによる効果を得られないことがあり、また、中間繊維層の機能が過度に発現して、不織布の剛性が高くなりすぎる(中間繊維層が網状シートの場合)、または液体が一度に放出されやすく、徐放性が低下する(中間繊維層が親水性セルロース繊維からなる場合)等の不都合が生じる可能性がある。一方、中間繊維層の目付の割合が小さすぎると、中間繊維層を設けることによる効果を十分に得られないことがある。
【0091】
本実施形態の不織布全体の目付は用途等に応じて適宜選択してよい。本実施形態の不織布は全体として、例えば30g/m以上100g/m以下の目付を有してよく、特に35g/m以上95g/m以下の目付を有してよく、より特には40g/m以上90g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には45g/m以上85g/m以下の目付を有してよい。
【0092】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の引張強さが、例えば、30N/5cm以上200N/5cm以下であってよく、特に35N/5cm以上195N/5cm以下であってよく、より特には40N/5cm以上190N/5cm以下であってよい。乾燥時のMD方向の引張強さが低すぎると製品加工時に破断することがある。乾燥時のMD方向の引張強さが高すぎると、不織布が剛直となる傾向にある。剛直な不織布をワイパーとして用いると、対象物に傷がつくことがある。
【0093】
本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の引張強さが、例えば、3N/5cm以上100N/5cm以下であってよく、特に4N/5cm以上95N/5cm以下であってよく、より特には5N/5cm以上90N/5cm以下であってよい。乾燥時のCD方向の引張強さが低すぎると使用時に破断することがある。乾燥時のCD方向の引張強さが高すぎると、不織布が剛直となる傾向にある。剛直な不織布をワイパーとして用いると、対象物に傷がつくことがある。
【0094】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の伸び率が、例えば、20%以上100%以下であってよく、特に25%以上95%以下であってよく、より特には30%以上90%以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の伸び率が、例えば、10%以上200%以下であってよく、特に15%以上195%以下であってよく、より特には20%以上190%以下であってよい。乾燥時のMD方向またはCD方向の伸び率が低すぎると、不織布が僅かな変形により破断することがあり、治具への取り付けの際の融通性が低下することがある。乾燥時のMD方向またはCD方向の伸び率が高すぎると製品加工時に取り扱いにくくなる。
【0095】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の10%伸長時応力が、例えば、3N/5cm以上60N/5cm以下であってよく、特に4N/5cm以55N/5cm以下であってよく、より特には5N/5cm以上60N/5cm以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の10%伸長時応力が、例えば、0.5N/5cm以上30N/5cm以下であってよく、特に0.6N/5cm以上25N/5cm以下であってよく、より特には0.7N/5cm以上20N/5cm以下であってよい。乾燥時のMD方向またはCD方向の10%伸長時応力が低すぎると製品加工時に取り扱いにくくなる。乾燥時のMD方向またはCD方向の10%伸長時応力が高すぎると、拭き取り操作時に繊維が動きにくい傾向にあり、汚れの捕集性が低下することがある。
【0096】
(不織布の製造方法)
次に本実施形態の不織布の製造方法を説明する。
本実施形態の積層不織布は、例えば、
撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維ウェブAを作製すること、および
必要に応じて、繊維ウェブAではない繊維ウェブ(便宜的に、「繊維ウェブB」という)を作製すること、
繊維ウェブAと繊維ウェブBとを積層して積層繊維ウェブを作製すること、および
積層繊維ウェブを、繊維同士を交絡させる処理に付すこと
を含み、
繊維ウェブAおよび繊維ウェブBの作製に際し、積層繊維ウェブの総質量を基準として、撥水性セルロース繊維の割合が10質量%以上75質量%以下、他の繊維の割合が25質量%を超え90質量%以下となるように、各繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合、ならびに各繊維ウェブの目付を選択する、
製造方法によって製造することができる。繊維ウェブBを作製しない場合(すなわち、単層構造の不織布を製造する場合)には、繊維ウェブAは、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含むものとして作製する。
【0097】
繊維ウェブAを二つ(「繊維ウェブA1」、「繊維ウェブA2」)を作製し、繊維ウェブBをこれらの二つの繊維ウェブの間に配置するように、これらの繊維ウェブを積層してよい。そのような積層ウェブを、繊維同士を交絡させる処理に付すれば、繊維層Aとしての第1繊維層と第2繊維層との間に中間繊維層が位置する構成の不織布が得られる。
【0098】
繊維ウェブA、A1およびA2、ならびに繊維ウェブBに含まれる繊維の種類および目付は、繊維層A、第1繊維層および第2繊維層に関連して説明したとおりであるから、ここでは省略する。繊維ウェブBに含まれる繊維の種類および目付は、他の繊維層および中間繊維層に関連して説明したとおりであるから、ここでは省略する。
【0099】
繊維ウェブA、A1およびA2は、公知の方法で作製することができる。各繊維ウェブの形態は、例えば、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイドウェブ、および湿式抄紙ウェブ等から選択されるいずれであってもよい。繊維ウェブA1と繊維ウェブA2を作製する場合、これらの形態は互いに異なっていてよい。繊維ウェブ、A1およびA2がカードウェブであると、汚れの捕集に適した繊維間空隙を有する、ワイパー用途に適した不織布が得られやすい。
【0100】
繊維ウェブBの形態もまた限定されず、繊維ウェブA、A1およびA2に関連して例示した上記のいずれの形態であってよい。繊維ウェブBをパルプで構成する場合には、繊維ウェブBは、湿式抄紙ウェブまたはエアレイドウェブであってよい。また、繊維ウェブBとしてとして、例えば湿式抄紙不織布、メルトブローン不織布、または長繊維不織布として提供(例えば、販売)されているものを用いてよい。この場合、繊維ウェブBは厳密にいえば繊維同士の交絡の度合いが小さいウェブの状態ではなく、繊維同士が一体化された不織布である。あるいは、繊維ウェブBとして、網状シートを用いてよい。この場合も、繊維ウェブBは厳密にいえばウェブの状態ではない。
【0101】
積層繊維ウェブまたは繊維ウェブAは繊維同士を交絡させる処理に付される。繊維同士を交絡させる処理は、例えば、ニードルパンチ処理、または高圧流体流(特に水流)交絡処理である。高圧流体流処理において、高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、高圧水等の高圧液体、および高圧水蒸気である。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多く、本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の交絡処理を説明する。
【0102】
高圧流体流処理において、高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、および高圧水等の高圧液体である。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多く、本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の製造方法を説明する。
【0103】
水流交絡処理は、支持体に積層繊維ウェブまたは繊維ウェブAを載せて、柱状水流を噴射することにより実施する。例えば、支持体は、80メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体であることが好ましい。水流交絡処理は、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上、15MPa以下の水流を、積層繊維ウェブの表裏面にそれぞれ1~5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは、1MPa以上、10MPa以下であり、より好ましくは、1MPa以上、7MPa以下である。
【0104】
水流交絡処理による交絡は、繊維の親水性が高いほど進行しやすく、親水性の繊維のみからなる繊維ウェブを水流交絡処理に付すと、繊維同士が緊密に交絡した繊維密度の高い不織布が得られる傾向にある。本実施形態においては、撥水性セルロース繊維が繊維ウェブに含まれ、この撥水性セルロース繊維は水流交絡処理によって交絡をさせにくいものであるため、親水性の繊維を用いる場合と比較して、繊維間空隙が大きく、繊維の自由度が比較的大きい不織布を与える傾向にある。その結果、得られる不織布はこれをワイパーとして使用したときには、撥水性セルロース繊維それ自体が変形しやすいことと相俟って、拭き取った汚れをワイパー内にとどめやすいものとなる。また、撥水性セルロース繊維が形成する繊維間空隙は、液体を溜めて適度に放出するのに適したものである。
【0105】
いずれか1または複数の繊維ウェブが接着性繊維を含む場合、積層繊維ウェブまたは繊維ウェブAを接着処理に付して、得られる不織布において繊維同士が接着された構成が得られるようにしてよい。接着処理は、熱接着処理であってよく、あるいは、電子線照射による接着、または超音波溶着であってよい。熱処理によれば、接着性繊維(例えば、複合繊維の低融点成分)が熱処理の際、加熱によって溶融または軟化して、積層繊維ウェブまたは繊維ウェブAを構成する繊維同士を接着することができる。
【0106】
熱処理は、例えば、熱風を吹き付ける熱風加工処理、熱ロール加工(熱エンボスロール加工)、または赤外線を使用した熱処理である。熱風加工処理は、所定の温度の熱風を積層繊維ウェブに吹き付ける装置、例えば、熱風貫通式熱処理機、または熱風吹き付け式熱処理機を用いて実施してよい。
【0107】
熱処理温度(例えば、熱風の温度)は、接着性繊維を構成する成分であって、接着成分として機能させる成分が軟化または溶融する温度としてよい。例えば、熱処理温度は、当該成分の融点以上の温度としてよい。例えば、接着性繊維がポリエチレンを成分として含み、ポリエチレンを接着成分とする場合には、熱処理温度を130℃~150℃としてよく、ポリブチレンサクシネートを接着成分とする場合には、熱処理温度を120℃~133℃としてよい。
【0108】
(ワイパー)
本実施形態の積層不織布は、ワイパーとして使用するのに適している。本実施形態の不織布は、そのままワイパーとして使用してよい。あるいは、本実施形態の不織布の一方の表面に他のシート状物(不織布、フィルム、またはシート)を貼り合わせたものをワイパーとして使用してよい。ワイパーは手で把持して雑巾のように使用してよく、あるいは、棒状物の先にワイパー取り付け部が設けられた治具に取り付けて使用してよい。
【0109】
ワイパーは対人用のものであってよく、あるいは対物用のものであってよい。本実施形態の不織布は、特に対物用のワイパーとして用いるのに適している。
対物用のワイパーは、床、台所、トイレ、浴槽、家具、車両、壁面、網戸および窓ガラス等の拭き掃除に使用するものであってよい。本実施形態の不織布は撥水性セルロース繊維を用いることで、固形物のやや大きい寸法の汚れ(食べ屑、毛髪)を拭き取り、これを捕集するのに適していることから、そのような汚れが付きやすい箇所、例えば、ダイニング、リビング、および洗面所の床、飲食店等の店舗の床、工場および作業場の床の拭き掃除に特に適している。対物用ワイパーは、例えば、水、または洗浄成分を含む水溶液等を、不織布100質量部に対して、100質量部以上1000質量部以下の含浸量で含浸させてよい。含浸量は、不織布100質量部に対して、150質量部以上であってよく、また、700質量部以下であってよく、500質量部以下であってよい。
【0110】
対人用のワイパーは、人の身体に付着した汚れ、化粧品または薬剤等を拭き取るために使用するものであってよい。対人用ワイパーは、例えば、水、または洗浄成分を含む水性溶液等を不織布100質量部に対して、100質量部以上1000質量部以下の含浸量で含浸させてよい。液体を含浸させた対人用のワイピングシートは、より具体的には、例えば、お手拭き、おしり拭き、経血拭き、化粧落とし用シート、洗顔シート、制汗シート、およびネイルリムーバーとして提供される。
【0111】
いずれのワイパーも、拭き取り面が繊維層Aの表面となるように用いる。繊維層Aに含まれる撥水性セルロース繊維が、拭き圧によって変形することにより、細かな粉状の汚れだけでなく、やや寸法の大きい汚れを良好に拭き取って捕集することができる。また、ワイパーをウェットワイパーとする場合には、撥水性セルロース繊維が形成する適度な繊維間空隙によって液体の徐放性が良好となり、拭き取り作業中、液体の放出量が比較的均一に保たれるので、液体の放出量の差に起因する拭きムラ(汚れの落ち方に差が生じること)を低減できる。
【実施例0112】
本実施例で使用する繊維として以下のものを用意した。
・撥水性セルロース繊維1(表中、「撥水レーヨン1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長40mm、非フッ素系撥水剤により繊維表面が撥水処理されたビスコースレーヨン(商品名:エコリペラス、ダイワボウレーヨン(株)製)。この繊維の撥水性を評価するために、上記の方法で初期の沈降速度および洗浄後の沈降速度を測定したところ、いずれの測定においてもサンプルは10分経過後も沈降せず、サンプルのほぼ全部が水面に浮いていた。この繊維の公定水分率は12.8%、二次膨潤度は四点測定の平均値で53.1%であった。
・撥水性セルロース繊維2(表中、「撥水リヨセル1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長38mm、繊維表面が撥水処理されたリヨセル(商品名:リヨセルドライ、レンチング社製)。この繊維の撥水性を評価するために、上記の方法で初期の沈降速度および洗浄後の沈降速度を測定したところ、いずれの測定においてもサンプルは10分経過後も沈降せず、サンプルのほぼ全部が水面に浮いていた。この繊維の公定水分率は11.3%、二次膨潤度は四点測定の平均値で71.0%であった。
・撥水性セルロース繊維3(表中、「撥水レーヨン1.0T」):繊度1.0dtex、繊維長40mm、非フッ素系撥水剤により繊維表面が撥水処理されたビスコースレーヨン(商品名:エコリペラス、ダイワボウレーヨン(株)製)。この繊維の撥水性を評価するために、上記の方法で初期の沈降速度および洗浄後の沈降速度を測定したところ、いずれの測定においてもサンプルは10分経過後も沈降せず、サンプルのほぼ全部が水面に浮いていた。この繊維の公定水分率は13.2%、二次膨潤度は四点測定の平均値で58.2%であった。
・撥水性セルロース繊維4(表中、「撥水レーヨン3.3T」):繊度3.3dtex、繊維長40mm、非フッ素系撥水剤により繊維表面が撥水処理されたビスコースレーヨン(商品名:エコリペラス、ダイワボウレーヨン(株)製)。この繊維の撥水性を評価するために、上記の方法で初期の沈降速度および洗浄後の沈降速度を測定したところ、いずれの測定においてもサンプルは10分経過後も沈降せず、サンプルのほぼ全部が水面に浮いていた。この繊維の公定水分率は13.0%、二次膨潤度は四点測定の平均値で58.8%であった。
・撥水性セルロース繊維5(表中、「撥水コットン」):繊度1.0dtex~5.0dtex、繊維長10mm~60mm、繊維表面が撥水処理されたコットン(商品名:Hydri、バーンハート社製)。この繊維の撥水性を評価するために、上記の方法で初期の沈降速度および洗浄後の沈降速度を測定したところ、初期の沈降速度の測定においてサンプルは10分経過後も沈降せず、サンプルのほぼ全部が水面に浮いていた。洗浄後の沈降速度は26秒であった。この繊維の公定水分率は7.3%、二次膨潤度は四点測定の平均値で39.3%であった。
【0113】
・親水性セルロース繊維A(表中、「レーヨン1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(商品名:コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)。この繊維の撥水性(親水性)を上記の方法で評価したところ、沈降速度は7秒であった。
・合成繊維a(表中、「PLA/PBS2.4T」):繊度2.4dtex、繊維長51mmの芯成分がポリ乳酸、鞘成分がポリブチレンサクシネートからなる、芯鞘型複合繊維(商品名:ミラクルファイバーKK-PL、大和紡績(株)製)。
・合成繊維b(表中、「PP/PE1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長51mmの芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンからなる、芯鞘型複合繊維(商品名:NBF(H)P、大和紡績(株)製)。
・合成繊維c(表中、「PET1.45T」):繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレートからなる、単一合成繊維(商品名:テトロン、東レ(株)製)。
・合成繊維d(表中、「PLA/PBS4.4T」):繊度4.4dtex、繊維長51mmの芯成分がポリ乳酸、鞘成分がポリブチレンサクシネートからなる、芯鞘型複合繊維(商品名:ミラクルファイバーKK-PL、大和紡績(株)製)。
・合成繊維e(表中、「Bio-PP/PE1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長51mmの芯成分がバイオポリプロピレン樹脂(商品名:HG475FB、Borealis社)、鞘成分がバイオポリエチレン樹脂(商品名:SE5311、LG社)からなる、芯鞘型複合繊維。
【0114】
また、本実施例で中間繊維層を構成する不織布(繊維ウェブB)として以下のものを用意した。
湿式不織布1(表中、「パルプ」):木材由来のパルプ繊維(繊度約1.0~4.0dtex、繊維長約0.8mm~4.5mm)100質量%からなる目付が17g/mである湿式不織布(ハビックス(株)製)
湿式不織布2(表中、「パルプ」):木材由来のパルプ繊維(繊度約1.0~4.0dtex、繊維長約0.8mm~4.5mm)100質量%からなる目付が26g/mである湿式不織布(ハビックス製)
熱接着不織布(表中、「熱接着NW」):合成繊維aからなる目付17g/mの繊維ウェブをパラレルカード機で作製し、135℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、5秒間加熱処理を行い、合成繊維aの鞘成分により繊維同士を接着させて得た熱接着不織布
スクリム:ポリプロピレンからなるフィラメントが格子状に配列され、一辺が8mmの正方形(開口部寸法(正方形の対角線)は11.3mm)の開口部が開口率96%で形成された、目付が約5.2g/mである網状シート(商品名コンウェッドネット、ENEOSテクノマテリアル(株)製)
【0115】
(実施例1)
撥水性セルロース繊維1を40質量%と親水性セルロース繊維Aを40質量%と合成繊維aを20質量%とを混合して、パラレルカード機を用いて、狙い目付約24g/mで繊維ウェブA1、A2を作製した。
繊維ウェブA1の上に中間繊維層として湿式不織布1を積層し、湿式不織布1の上に繊維ウェブA2を積層して積層繊維ウェブとし、積層繊維ウェブを90メッシュの平織の支持体に載置して、4.0m/分の速度で搬送しつつ、繊維ウェブA2の表面に約3MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いて繊維ウェブA1の表面に約3MPa水圧の水流を1回噴射する水流交絡処理を行った。水流交絡処理で使用したノズルは、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルであり、処理中、ノズルと繊維ウェブとの間の間隔は15mmとした。
【0116】
次いで、水流交絡処理後の繊維ウェブを、135℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、5秒間加熱処理を行い、合成繊維aの鞘成分により繊維同士を接着させ、さらに室温20℃の雰囲気下で自然冷却による冷却工程に付して、実施例1の不織布を得た。
【0117】
(実施例2~9、比較例1~4)
繊維ウェブA1およびA2を構成する繊維の種類、割合およびこれらの繊維ウェブの狙い目付をそれぞれ表1~3に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例2~9および比較例1~4の不織布をそれぞれ得た。
但し、実施例7については、親水性セルロース繊維Aで目付17g/mのカードウェブを作製し、これを繊維ウェブB(不織布作成後の中間繊維層)として用いた。
実施例9および比較例4については、合成繊維を使用しなかったため、熱接着処理を実施せず、代わりに100℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥処理を実施した。比較例3についても、熱接着処理を実施せず、代わりに100℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥処理を実施した。
実施例6、比較例2および比較例4については、繊維ウェブBを用いずに不織布を作製し、中間繊維層のない単層構造の不織布とした。
【0118】
(実施例10~20)
繊維ウェブA1およびA2を構成する繊維の種類、割合およびこれらの繊維ウェブの狙い目付、ならびに繊維ウェブBをそれぞれ表4および5に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例10~20の不織布をそれぞれ得た。
実施例12については、繊維層Aにおいて合成繊維を使用しなかったため、熱接着処理を実施せず、代わりに100℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥処理を実施し
た。
【0119】
不織布の評価は、下記のように行った。
<不織布の厚さ、厚さ減少率、嵩密度>
厚み測定機((株)大栄科学精器製作所製のTHICKNESS GAUGE モデル CR-60A(商品名))を用い、不織布に0.3kPa又は1.96kPaの荷重を加えた状態で、不織布の厚さを測定した。また、0.3kPaの荷重を加えたときの厚さから、1.96kPaの荷重を加えたときの厚さの減少分を厚さ減少率として求めた。
嵩密度は、0.3kPaの荷重を加えたときの厚さと目付とから算出した。
【0120】
<強伸度>
強伸度は、JIS L 1913:2010 6.3に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(引張強さ)、伸び率、ならびに10%伸長時応力(10%伸長させるのに必要な力)を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
乾燥時(標準時、DRY)及び湿潤時(WET)の引張強さ等について測定した。
なお、湿潤時(WET)の測定は試料100質量部に対し、250質量部の蒸留水を含浸させて実施した。
【0121】
<毛羽抜け量測定試験>
a)ウレタンフォーム((株)イノアックコーポレーション製、商品名モルトフィルターMF-30、厚さ5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸が円盤中心から20mmずれた位置となるように回転軸に取り付ける。
b)上記と同じウレタンフォームを敷き、その上に不織布の一方の面が露出面となるように、不織布を台上に固定する。
c)不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
d)回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに3回転、反時計周りに3回転を1セットとして、7セット行う。このときの周動速度は1周動あたり約3秒である。
e)7セットの周動後、不織布から抜け落ちて、円盤を覆っているウレタンフォームの表面に付着した繊維を集める。
f)前記a)~e)の操作をn=3枚の不織布について行う。3枚の不織布それぞれについて、抜け落ちた繊維の質量を測定し、その平均値を毛羽抜け量とする。
【0122】
<汚れの捕集性>
[ダスト捕集性]
白色アクリル板の表面の略中央にJIS Z 8901に準ずる試験用粉体(7種)を縦5cm×横15cmの長方形の領域(以下、「ダスト分散領域」)に、均一に0.20g分散し、実施例及び比較例の不織布(縦29cm、横21cm)をワイパーとして用いて試験用粉体(ダスト)を拭き取った。
【0123】
拭き取りは、拭き取りに寄与する面積が縦方向26cm、横方向16cmとなり、不織布を上面(部分交絡工程の際に水流を噴射した面)が拭き取り面となるように、ワイパー治具(商品名:クイックルワイパー[道具本体]のヘッド部、花王(株)製)に取付け、400gfの加重をかけた状態で行った。拭き取りは、ワイパーを、白色アクリル板の表面で1往復させて実施した。
【0124】
より具体的には、
・ワイパーの縦方向がダスト分散領域の縦方向と一致するように、ワイパーをダスト分散領域の中央部に置き、
・そこからダスト分散領域の左端に向かう方向に250mmだけワイパーを移動させて、ダスト(白色アクリル板)を擦り、
・それからダスト分散領域の右端に向かう方向にワイパーを500mm移動させた後、
・さらにダスト分散領域の左端に向かう方向にワイパーを250mm移動させて
ワイパーを1往復させた。
【0125】
ワイパーを1往復させた後、予め測定した不織布の質量と、拭き取り後に測定した不織布の質量とから、ダスト捕集性を求めた。各不織布について、拭き取りは、不織布の拭き取り面を新しくした状態で3回測定し、その平均値をダストの捕集率とした。
【0126】
[毛髪捕集性(湿潤状態)]
フローリング上に毛髪(長さ約5cm)を横向きに3本、縦向きに2本、合計5本を、間隔を空けて配置し、実施例及び比較例の不織布で、毛髪を拭き取った。
【0127】
拭き取りは、不織布100質量部に対して蒸留水を300質量部含浸させて、湿潤状態で実施した。また、拭き取りは、拭き取りに寄与する面積が縦方向26cm、横方向16cmとなるように、不織布を繊維層Aの表面が拭き取り面となるようにワイパー治具(商品名:クイックルワイパー[道具本体]のヘッド部、花王(株)製)に取付け、400gfの加重をかけた状態で行った。拭き取りは、上記ダスト捕集性の評価で採用した方法と同じ方法で、ワイパーを毛髪上で1往復させて実施した。拭き取り後、フローリングから拭き取られた毛髪の本数から捕集率(%)を求めた。各不織布について、拭き取りは、不織布の拭き取り面を新しくした状態で3回測定し、その平均値を毛髪の捕集率とした。
【0128】
[ゴマ捕集性(湿潤状態)]
ゴマ捕集性は、フローリング上にゴマ10個を3列(3個-4個-3個の列)に間隔を空けて配置し、毛髪捕集性(湿潤状態)の評価と同様の方法で不織布による拭き取りを実施し、拭き取り後、フローリングから拭き取られたゴマの個数から捕集率(%)を求めた。各不織布について、拭き取りは、不織布の拭き取り面を新しくした状態で3回測定し、その平均値をゴマの捕集率とした。
【0129】
<初期放出量、液残存率>
初期放出量および液残存率は、汚れの捕集性試験と同じサイズの不織布を用意し、乾燥時の不織布重量NWを測定する。不織布100質量部に対して蒸留水を300質量部含浸させ、不織布重量NWwを測定した。拭き取りに寄与する面積が縦方向26cm、横方向16cmとなるように、不織布を繊維層Aの表面が拭き取り面となるようにワイパー治具(商品名:クイックルワイパー[道具本体]のヘッド部、花王(株)製)に取付けた。400gfの加重をかけた状態で、コンベアーの進行方向が不織布の横方向(16cm)と一致するようにコンベアー上に載置し、コンベアーを5m/minで運転させた。コンベアーを1周(0.5畳分=0.81m)した際の不織布重量NW0.5を測定し、次式から初期放出量RAを求めた。

RA=NW-NW0.5
【0130】
続けて、同様に不織布をコンベアー上に載置し、コンベアー2、4、6、8周目毎の不織布重量(NW、NW、NW、NW)を測定し、不織布中の液残存率を求めた。
RR=100-((NW-NW)/(NW-NW)×100)
RR=100-((NW-NW)/(NW-NW)×100)
RR=100-((NW-NW)/(NW-NW)×100)
RR=100-((NW-NW)/(NW-NW)×100)
【0131】
各実施例および各比較例の評価結果を表1~5に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
実施例1~19の不織布はいずれも、概ね優れた汚れ捕集性(毛髪捕集率≧30%、ゴマ捕集率>60%、かつダスト捕集率≧34%)を、少なくとも2つの汚れについて示し、特に高いゴマ捕集率を示した。また、実施例1~20の不織布はいずれも、10mg以下の毛羽抜け量を満たし、いくつかの実施例はさらに0.8g以下の初期放出量を満たした。
【0138】
実施例2は、同じ撥水性レーヨンを撥水性セルロース繊維として含む実施例中、その撥水性セルロース繊維の割合が最も小さく、親水性セルロース繊維の割合が最も大きくて、繊維同士の交絡がより進行しやすいものであった。そのため、実施例2は、撥水性レーヨンを含む実施例中、いずれの汚れについても捕集性が他の実施例よりもやや低い傾向にあった。
【0139】
実施例1~4の結果から、繊維層Aに占める撥水性セルロース繊維の割合が大きいほど、ゴマ捕集率が高く、食べ屑のようにやや寸法の大きい汚れの捕集性に優れるものの、毛羽抜け量が増加する傾向にあることが分かった。これは、撥水性セルロース繊維が水流により交絡しにくく、また、繊維強度が小さく、剛性が小さいことによると考えられる。
【0140】
実施例1と実施例6とを比較すると、実施例6はより高い汚れ捕集性を示した。実施例6は中間繊維層を含まないため、繊維同士の交絡の度合いが小さくなり、繊維密度が低くなり、汚れを保持しやすくなったことによると考えられる。
【0141】
実施例1と実施例8は、繊維層Aに含まれる合成繊維の種類において異なる。実施例1との比較において、実施例8はダストの捕集性において優れていた。これは、実施例8で使用した合成繊維の繊度が、実施例1で使用した合成繊維のそれよりも小さく、より細かな繊維間空隙を形成したために、より細かな汚れであるダストがより多く捕集されたことによると考えられる。
【0142】
実施例10と実施例11は、撥水性セルロース繊維として、撥水コットンおよび撥水リヨセルをそれぞれ使用したものである。実施例1との比較において、実施例10はより低いダストの捕集性を示したものの、その他の汚れの捕集性は比較例1および2よりもすぐれていた。また、実施例10は、実施例1との比較において、初期放出量が大きかった。一方、実施例10は毛羽抜け量が小さいものであった。これらのことから、実施例10においては、撥水コットンの撥水性が撥水レーヨンのそれよりも小さく、繊維同士がより交絡し、かつ撥水コットンそれ自体が液を保持していると推察される。その結果、実施例10においては、拭き取り時に撥水コットンに含まれる液体が拭き取り時の抵抗を大きくしてしまい、不織布による汚れの捕集を妨げるために汚れ捕集性がやや低く、また、繊維同士のより強固な交絡により毛羽抜け量が小さくなったと考えられる。
実施例11は、実施例1との比較において、毛髪捕集性が高かった。これは実施例11において水流による繊維同士の交絡が実施例1よりも進行して、不織布表面に柱状水流が溝状の筋をより形成しやすくなり、この溝に沿って毛髪が捕集されたことによると推察される。
【0143】
実施例12は、中間繊維層を熱接着不織布で構成したものであり、他の実施例と同程度の汚れ捕集性を示したが、初期放出量が大きくなった。これは、合成繊維からなる中間繊維層において液体が保持されにくく、中間繊維層中の液体が初期に大量に放出されたことによると考えられる。また、実施例12は、他の実施例よりも比較的高い毛羽抜け量を示している。これは、繊維層Aが合成繊維を含まず、不織布表面において繊維同士が接着されていなかったことによると考えられる。
【0144】
実施例13は、中間繊維層を薄いスクリムとし、実施例1と比較して繊維層Aの目付を大きくしたものである。実施例13は、実施例1との比較においては、高い毛髪捕集性を示した。これは、スクリムが一部繊維表面に露出し、スクリム部分に毛髪がひっかかりやすくなったことによると考えられる。また、実施例13は、初期放出量が大きくなった。これは、薄いスクリムによっては液体が保持されにくいことによると考えられる。実施例13の初期放出量が実施例12のそれよりも小さいのは、実施例13の繊維層Aの目付が大きく、これに含まれる親水性セルロース繊維がある程度液を保持したことによると考えられる。
【0145】
実施例14は、実施例1で使用した合成繊維よりも太い合成繊維を使用した例である。実施例14は、実施例1との比較において、高い毛髪捕集性およびゴマ捕集性を示した。これは太い合成繊維を使用したことで、繊維層Aにおいて合成繊維が形成する接着点の数が減り、その分、繊維の自由度が高くなったことによると考えられる。実施例14は、実施例1よりも大きい初期放出量を示した。これも接着点の数が減って、繊維層Aにおける繊維間空隙が大きくなったことに起因すると考えられる。
【0146】
実施例15は、実施例1よりも中間繊維層の目付が大きく、繊維層Aの目付が大きい構成である。実施例15は実施例1との対比において、毛髪捕集性において優れていた。これは、親水性セルロースであるパルプの量が多いために、水流による繊維同士の交絡が進行して、不織布表面に柱状水流が溝状の筋をより形成しやすくなり、この溝に沿って毛髪が捕集されたことによると考えられる。また、実施例15は実施例1よりも小さい初期放出量を示している。これは目付のより大きい繊維層で液体がより保持されやすくなったことによると考えられる。さらに、実施例15は実施例1よりも小さい毛羽抜け量を示している。これは繊維層Aの目付が小さく、脱落しやすい撥水性セルロース繊維の量が少なくなっていることによると考えられる。
【0147】
実施例16は、繊維層Aに含まれる親水性セルロース繊維(レーヨン)の繊度を、実施例1で用いたものよりも小さくしたものである。繊度の小さい繊維を用いると、繊維同士の交絡が進行して、繊維同士の交絡がより強くなるとともに、繊維層Aにおける繊維間空隙が小さくなる傾向にある。そのため、汚れの捕集性が実施例1よりもやや低く、毛羽抜け量は小さくなったと考えられる。
【0148】
実施例17および18は、撥水性セルロース繊維の繊度を変化させたものである。実施例1、17および18の比較から、撥水性セルロース繊維の繊度が大きいほど、汚れの捕集性が高くなり、初期放出量が増加する傾向にあった。これは、繊度の太い撥水性セルロース繊維を使用することで、大きな繊維間空隙が形成されたことによると考えられる。毛羽抜け量は、繊度が大きいほど大きくなっており、これは繊度を大きくすることで、繊維の交絡点が減少したことによると考えられる。
【0149】
実施例19は、バイオマス原料からなるポリプロピレンおよびポリエチレンを用いた合成繊維を使用した例である。石油由来原料からなるポリプロピレンおよびポリエチレンを用いた合成繊維を使用した実施例8との比較において、著しく性能が変化することはなかった。この結果から、バイオマス原料からなる樹脂を用いて製造した合成繊維を、本開示の不織布に問題なく適用できることを確認した。
【0150】
比較例1および2の不織布はいずれも、撥水性セルロース繊維を含んでおらず、親水性セルロース繊維の割合も大きかった。そのため、いずれの実施例と比較しても、汚れの捕集性において劣っていた。
【0151】
比較例4の不織布は、汚れの捕集性という点では良好であったが、撥水性セルロース繊維が不織布全体に占める割合が大きかったために、毛羽抜けが生じやすく、最も大きな毛羽抜け量を示した。比較例4の不織布はまた、液体の初期放出量が大きかった。これは、撥水性セルロース繊維の割合が大きく、繊維同士も接着されていないために、繊維間空隙が過度に大きくなって、当該空隙に溜まった液体が一度に放出されたことによると考えられる。
【0152】
比較例3の不織布は、実施例9において撥水性セルロース繊維をポリエチレンテレフタレート繊維に代えたものに相当する。比較例3の不織布は、実施例9のものと比較して、汚れの捕集性が低かった。これは、比較例3の不織布が、撥水性セルロース繊維を含んでいないために、拭き圧による繊維の変形が生じにくかったことによると考えられる。また、比較例3の不織布は、実施例9よりも初期放出量が大きかった。これは、および比較例3の不織布は、厚さが大きくより嵩高であるために、繊維間空隙が大きくなって、当該空隙に溜まった液体が一度に放出されたことによると考えられる。
【0153】
本実施形態には以下の態様が含まれる。
(態様1)
第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布であって、
不織布の総質量を基準として、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含み、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方が、前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、前記他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維層Aの表面であり、
繊維同士の交絡により一体化されている、
ワイパー用不織布。
(態様2)
前記不織布は、第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、
前記第一表面が前記第一繊維層の表面であり、前記第二表面が前記第二繊維層の表面であり、
前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方または両方が前記繊維層Aである、
態様1のワイパー用不織布。
(態様3)
前記中間繊維層は親水性セルロース繊維を含む、態様2のワイパー用不織布。
(態様4)
前記繊維層Aは、前記他の繊維として、親水性セルロース繊維を含む、態様1~3のいずれかのワイパー用不織布。
(態様5)
前記繊維層Aは、前記親水性セルロース繊維を0質量%を超え75質量%以下の割合で含む、態様4のワイパー用不織布。
(態様6)
前記繊維層Aは、前記他の繊維として、バイオマス原料を含む合成繊維、生分解性合成繊維、及びリサイクル原料を含む合成繊維から選択される、1種または複数種の合成繊維を含む、態様1~5のいずれかのワイパー用不織布。
(態様7)
前記繊維層Aは、前記バイオマス原料を含む合成繊維及び生分解性合成繊維から選択される、1種または複数種の合成繊維を、0質量%を超え35質量%以下の割合で含む、態様6のワイパー用不織布。
(態様8)
第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布の製造方法であって、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方を構成する繊維ウェブAとして、撥水性セルロース繊維を10質量%以上の割合で含み、他の繊維を90質量%以下の割合で含む繊維ウェブを少なくとも一つ作製すること、および
前記繊維ウェブA以外の繊維ウェブBを作製すること、および
前記繊維ウェブAおよび前記繊維ウェブBを積層して積層繊維ウェブを作製し、繊維同士を交絡させる処理に付すこと
を含み、
前記繊維ウェブAおよび前記繊維ウェブBの作製に際し、前記積層繊維ウェブが前記撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、前記他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含むように、各繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合、ならびに各繊維ウェブの目付を選択する、
ワイパー用不織布の製造方法。
(態様9)
前記繊維ウェブBを、二つの同じ又は互いに異なる前記繊維ウェブAの間、あるいは一つの前記繊維ウェブAと別の繊維ウェブである第二の繊維ウェブBとの間に配置して前記積層ウェブを作製し、前記積層ウェブを、繊維同士を交絡させる処理に付す、
態様8のワイパー用不織布の製造方法。
(態様10)
第一表面と、前記第一表面と反対側の第二表面とを有する不織布の製造方法であって、
前記第一表面及び前記第二表面の少なくとも一方を構成する繊維ウェブAとして、撥水性セルロース繊維を10質量%以上75質量%未満の割合で含み、前記他の繊維を25質量%を超え90質量%以下の割合で含む、繊維ウェブを少なくとも一つ作製すること、および
前記繊維ウェブAの単層または積層ウェブを、繊維同士を交絡させる処理に付すこと
を含む、
ワイパー用不織布の製造方法。
(態様11)
態様1~7のいずれかのワイパー用不織布100質量部に対して、液体を100質量部以上1000質量部以下の量で含浸させてなり、
前記繊維層Aの表面を拭き取り面とする、
ワイパー。
(態様12)
対物用ワイパーである、態様11のワイパー。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本開示の不織布は、剛性が小さく、液体で濡らした時には繊維断面から吸収された液体で膨潤する性質を有するために、拭き圧により変形しやすい撥水性セルロース繊維を所定割合で含む。したがって、本開示の不織布は、汚れの捕集性に優れたワイパー、特にやや寸法の大きい汚れを拭き取る対物ワイパーとして好適に使用できる。