IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

特開2023-10141水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法
<>
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図1
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図2
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図3
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図4
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図5
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図6
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図7
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図8
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図9
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図10
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図11
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図12
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図13
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図14
  • 特開-水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010141
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】水中音発生システムおよび水中作業音による魚類への影響緩和方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/00 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
E02D13/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114055
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇一朗
(72)【発明者】
【氏名】板垣 侑理恵
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050EE09
2D050FF07
(57)【要約】
【課題】杭打設等の水中工事の実施の際にその水域において水中作業音発生源から魚類を遠ざけて水中作業音による魚類への影響を緩和する水中音発生システムおよびこの水中音発生システムを用いた、水中作業音による魚類への影響緩和方法を提供する。
【解決手段】この水中音発生システムは、対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置11と、水面に浮揚して水中音発生装置を水中で支持する浮力体12と、を備え、水中音発生装置は、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で発信し、少なくとも音圧140dBで水中に出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置と、水面に浮揚して前記水中音発生装置を水中で支持する浮力体と、を備える水中音発生システムであって、
前記水中音発生装置は、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で発信し、少なくとも音圧140dBで水中に出力する水中音発生システム。
【請求項2】
前記浮力体または別の浮力体に設置された、前記水中音発生装置の電源としてのソーラーパネルをさらに備える請求項1に記載の水中音発生システム。
【請求項3】
前記浮力体または別の浮力体に設置された無線通信装置をさらに備え、前記無線通信装置を介して前記水中音発生装置が遠隔制御される請求項1または2に記載の水中音発生システム。
【請求項4】
前記水中音発生装置から吊り下げられたロープと、水中または水底に設置され前記ロープに連結された重錘と、をさらに備える請求項1乃至3のいずれかに記載の水中音発生システム。
【請求項5】
前記水中音発生装置が水中工事による水中作業音発生源の近傍に配置された請求項1乃至4のいずれかに記載の水中音発生システム。
【請求項6】
複数の前記水中音発生装置が前記水中作業音発生源を平面上で包囲するようにさらに配置された請求項5に記載の水中音発生システム。
【請求項7】
複数の前記水中音発生装置が水中工事による水中作業音発生源に対し平面上で列状または放射状に配置された請求項1乃至4のいずれかに記載の水中音発生システム。
【請求項8】
対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置と、前記水中音発生装置を水中で移動させるための移動体と、を備える水中音発生システムであって、
前記水中音発生装置は、前記移動体により水中で移動しながら、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で発信し、少なくとも音圧140dBで出力する水中音発生システム。
【請求項9】
前記移動体は、前記水中音発生装置が連結または搭載された水中ドローンまたは船舶である請求項8に記載の水中音発生システム。
【請求項10】
周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を水中に出力する水中音発生装置を水中で固定するようにした第1の水中音発生システムと、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を水中に出力する水中音発生装置を水中で移動するようにした第2の水中音発生システムと、を備える水中音発生システム。
【請求項11】
音圧が段階的に増加するように前記音を水中に出力する請求項1乃至10のいずれかに記載の水中音発生システム。
【請求項12】
前記複数の周波数の音が水中工事の際に発生する作業音である請求項1乃至11のいずれかに記載の水中音発生システム。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の水中音発生システムを用い、水中作業音が発生する対象水域において魚類を忌避して前記魚類への影響を緩和する、水中作業音による魚類への影響緩和方法。
【請求項14】
前記対象水域における魚類に応じて前記水中音発生システムから前記発信間隔を含めた音を発信する総発信時間として所定時間を設定し、
前記対象水域で行われる水中工事開始の前記所定時間前に前記音を水中に出力し、前記所定時間経過後または前記水中工事開始後に前記音の出力を停止する請求項13に記載の水中作業音による魚類への影響緩和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象水域において魚類を忌避するための水中音発生システムおよびこの水中音発生システムを用いた、水中作業音による魚類への影響緩和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭打設や発破等の水中工事により発生する水中騒音は距離とともに減衰するが、周辺に伝搬し、水中生物に対して影響を与えることが懸念されている。水中騒音の水中生物への影響について、イルカ・クジラ・魚類等の可聴域(影響のある周波数)(非特許文献1)や、魚類については、損傷を受けるレベル(220dB以上)や忌諱行動を示す威嚇レベル(140~160dB)等があることが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
欧州では、洋上風力発電施設の建設時における海生哺乳類等への影響を緩和するために、水中音が徐々に大きくなるように杭を打設するソフトスタートやバブルカーテン(特許文献4)やパイルスリーブ(非特許文献3)が使用されている。また、イルカが忌避する騒音を発生するイルカ忌諱騒音発生装置が市販されている。
【0004】
特許文献1は、低周波を使用せず、忌避効果帯域として超音波帯域のみ使用し、20KHz~300KHzの帯域中に含まれる周波数帯の超音波を水中で発信し、超音波の連続発信時間を2分以内とし、10分以上60分以下のインターバル時間を設けた、水棲動物の忌避方法・装置を開示する。かかる忌避装置を定置網に設置することで、アザラシ等の鰭脚類が定置網に接近することを抑制し定置網内で採食する漁業被害を抑制する。
【0005】
特許文献2は、第1送受波器から進路前方の正船首方向に向けて超音波を断続的に発振してその反射超音波を受信し、第2送受波器から進路前方の正船首方向に対して右舷側へ所定小角度傾けた方向に向けて異なる周波数の超音波を断続的に発振してその反射超音波を受信し、これら受信信号から進路前方の鯨類や海上浮遊物を検知する、高速船の衝突予防援助装置を開示する。また、第1送受波器及び第1送受信器と、第2送受波器及び第2送受信器は、夫々鯨類を威嚇できる100kHz以下の超音波を発生させる。
【0006】
特許文献3は、水中騒音が発生する工事を実施する際に、工事による水中騒音を測定し、対象とする水中生物の行動を確認し、測定結果および水中生物の行動確認結果に基づいて工事を行う、水中騒音による水中生物影響の緩和方法を開示し、工事施工における水中騒音による水中生物への影響を効果的に抑制し緩和するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-11943号公報
【特許文献2】特開平6-24387号公報
【特許文献3】特開2021-42519号公報
【特許文献4】実開平1-119431号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】赤松友成・木村里子・市川光太郎「水中生物音響学-声で探る行動と生態-」コロナ社(2019年1月)
【非特許文献2】日本埋立浚渫協会「港湾工事環境保全技術マニュアル Doctor of the Sea(改訂第3版)」(2015年)
【非特許文献3】国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)」(2018年3月)https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101085.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
洋上風力発電施設等で使用される鋼管からなる杭を水底に打設する際に発生する作業音は、発電施設の大規模化により鋼管が大口径になるほどその音圧レベルが大きくなるため(非特許文献3)、魚の損傷レベルの220dBを超過する音が発生することが予想される。また、杭打設の際に徐々に打設強さを上げるソフトスタートでは、打設開始後20分間ソフトスタートを実施したとしても、20分以上中断した場合には、再度20分間ソフトスタートを実施する等の打設強さと時間の管理が行われている。しかしながら、杭打設の施工中に20分以上の停止の都度ソフトスタートをすることになり、ソフトスタートの時間中は作業効率が低下することになる。
【0010】
イルカ対策用の忌諱騒音発生装置は、1~500kHzの超音波をランダムに発生させるものであり、可聴域の中心が1kHz以下の魚類に対して効果は小さい。また、イルカ対策用の忌諱騒音発生装置は、一定間隔の時間で超音波を発生する機能を有するが、音圧レベルが一定であり影響範囲は半径150m程度である。また、かかる装置は、発生可能な音源音圧に限界があり、大口径の杭と同等の音を発生させることはできない。また、単純に設置しただけでは、魚類が逃げて欲しい方向に逃げない可能性がある。
【0011】
バブルカーテンは、杭打設時等の水中騒音の緩和手法として有効であり、イルカ等の海生哺乳類への影響緩和のために欧州等で広く使用されているが、エア供給管の敷設や供気のための専用の船舶が必要である。また、欧州では水深10m程度の海域に洋上風力発電施設が建設されることが多いが、日本では水深20~30mが想定され、こうした水深ではバブルカーテンの効率は低下すると考えられる。
【0012】
特許文献1は、20KHz~300KHzの周波数帯の超音波を水中で発信する忌避装置を定置網に設置しアザラシ等の鰭脚類が定置網に接近することを抑制するもので、杭打設時等において水中騒音源から魚類を遠ざけて水中騒音による魚類への影響を緩和するものではない。特許文献2の高速船の衝突予防援助装置は、高速船の進路前方に超音波を断続的に発振しその反射超音波を受信して進路前方の鯨類や海上浮遊物を検知し、また、鯨類を威嚇できる100kHz以下の超音波を発生させるもので、対象は鯨類であることから対象音域も鯨類の可聴音域が対象で、可聴域の中心が1kHz以下の魚類は対象ではない。また、超音波で威嚇して鯨類を高速船進路前方から退避させればよく、水中騒音源から魚類を遠ざけて水中騒音による魚類への影響を緩和するものではない。特許文献3の水中騒音による水中生物影響の緩和方法は、水中工事による水中騒音を測定し、対象とする水中生物の行動を確認し、測定結果および水中生物の行動確認結果に基づいて工事を行うもので、水中騒音源から魚類を積極的に遠ざけることを目的とするものではない。
【0013】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、杭打設等の水中工事の実施の際にその水域において水中作業音発生源から魚類を遠ざけて水中作業音による魚類への影響を緩和する水中音発生システムおよびこの水中音発生システムを用いた、水中作業音による魚類への影響緩和方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための第1の水中音発生システムは、対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置と、水面に浮揚して前記水中音発生装置を水中で支持する浮力体と、を備える水中音発生システムであって、前記水中音発生装置は、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で発信し、少なくとも音圧140dBで水中に出力するものである。
【0015】
第1の水中音発生システムによれば、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を発信するので、可聴域が2kHz以下の魚類を対象にでき、発信時間を0.1秒~10分、発信間隔を1秒~10分、音圧を少なくとも140dBとすることで、魚類を音源である水中音発生装置から効率的に遠ざけることができる。また、水面に浮揚する浮力体で水中音発生装置を水中で支持するので、水中音発生装置を定点に固定し、定位置から音を水中に出力することができる。
【0016】
上記第1の水中音発生システムにおいて、第1の前記浮力体または別の浮力体に設置された、前記水中音発生装置の電源としてのソーラーパネルをさらに備えることが好ましい。
【0017】
また、前記浮力体または別の浮力体に設置された無線通信装置をさらに備え、前記無線通信装置を介して前記水中音発生装置が遠隔制御されるように構成することが好ましい。
【0018】
また、前記水中音発生装置から吊り下げられたロープと、水中または水底に設置され前記ロープに連結された重錘と、をさらに備えることが好ましい。
【0019】
また、前記水中音発生装置が水中工事における水中作業音発生源の近傍に配置されることで、水中作業音が比較的小さい場合に魚類を水中作業音発生源から効率的に遠ざけることができる。また、複数の前記水中音発生装置が前記水中作業音発生源を平面上で包囲するようにさらに配置されることで、水中作業音が比較的大きい場合に魚類を水中作業音発生源から効率的に遠ざけることができる。
【0020】
また、複数の前記水中音発生装置が水中工事による水中作業音発生源に対し平面上で列状または放射状に配置されるようにしてもよい。
【0021】
上記目的を達成するための第2の水中音発生システムは、対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置と、前記水中音発生装置を水中で移動させるための移動体と、を備える水中音発生システムであって、前記水中音発生装置は、前記移動体により水中で移動しながら、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で発信し、少なくとも音圧140dBで出力するものである。
【0022】
第2の水中音発生システムによれば、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を発信するので、可聴域が2kHz以下の魚類を対象にでき、発信時間を0.1秒~10分、発信間隔を1秒~10分、音圧を少なくとも140dBとすることで、魚類を音源の水中音発生装置から効率的に遠ざけることができる。また、水中音発生装置が水中を移動しながら音を発信するので、魚類を水中作業音発生源から効率的に遠ざけることができる。
【0023】
上記第2の水中音発生システムにおいて、前記移動体は、前記水中音発生装置が連結または搭載された水中ドローンまたは船舶であることが好ましい。
【0024】
上記目的を達成するための第3の水中音発生システムは、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を水中に出力する水中音発生装置を水中で固定するようにした第1の水中音発生システムと、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を水中に出力する水中音発生装置を水中で移動するようにした第2の水中音発生システムと、を備える。
【0025】
第3の水中音発生システムによれば、第1,第2の水中音発生システムを併用することで、魚類を水中作業音発生源からよりいっそう効率的に遠ざけることができる。特に、水中作業音が比較的大きい場合に魚類を水中作業音発生源から効率的に遠ざけることができる。
【0026】
上記第1~第3の水中音発生システムにおいて、音圧が段階的に増加するように前記音を水中に出力するように構成することが好ましい。なお、前記音の周波数は前記魚類に応じて前記範囲内で1または複数設定されることが好ましい。
【0027】
また、前記複数の周波数の音が水中工事の際に発生する作業音であることが好ましい。たとえば水底への杭打設の際に発生する作業音を予め録音し、この作業音を再生して水中に出力させる。
【0028】
上記目的を達成するための水中作業音による魚類への影響緩和方法は、上記第1~第3の水中音発生システムを用い、水中作業音が発生する対象水域において魚類を忌避して前記魚類への影響を緩和するものである。
【0029】
この水中作業音による魚類への影響緩和方法によれば、水中音発生装置から音を水中に発信し、魚類を効率的に遠ざけることができるので、水中工事による水中作業音発生前に前もって魚類を水中作業音による影響の少ない水域へ移動させ遠ざけることができる。このように、水中作業音により発生源周辺において影響が生じる可能性がある領域にいる魚類等を一時的に影響の無い領域へ移動させる事ができるので、水中作業音による魚類への影響を緩和することができる。
【0030】
上記水中作業音による魚類への影響緩和方法において、前記対象水域における魚類に応じて前記水中音発生システムから前記発信間隔を含めた音を発信する総発信時間として所定時間を設定し、前記対象水域で行われる水中工事開始の前記所定時間前に前記音を水中に出力し、前記所定時間経過後または前記水中工事開始後に前記音の出力を停止することで、魚類を前もって効率的に移動させることができる。なお、所定時間は、たとえば、10~30分程度に設定できるが、対象とする魚類の移動能力に基づいて設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、杭打設等の水中工事の実施の際にその水域において水中作業音発生源から魚類を遠ざけて水中作業音による魚類への影響を緩和する水中音発生システムおよびこの水中音発生システムを用いた、水中作業音による魚類への影響緩和方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本実施形態による第1の水中音発生システムの概略的構成を示す図である。
図2図1の水中音発生装置の配置例を示す平面図(a)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(b)である。
図3】各種の水中騒音源の周波数および水中生物の可聴域を示すグラフである(非特許文献1の図6.1参照)。
図4】水中音の音圧レベル(a)と魚類の反応(b)を示す図である(非特許文献2参照)。
図5】魚類の種類別の音圧レベルと反応レベルを示す図である(非特許文献2参照)。
図6図1の水中音発生装置からの水中音出力例を示す時間と音圧との関係の一例を示す図である。
図7図1の水中音発生システム10を複数設置した場合の各水中音発生装置の平面位置を示す平面図(a)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(b)である。
図8】複数の図1の水中音発生システムを列状に並べた配置例を示す平面図である。
図9】複数の図1の水中音発生システムを、作業音発生位置を中心にして放射状に並べた配置例を示す平面図である。
図10】本実施形態による第2の水中音発生システムの概略構成を示す図である。
図11】本実施形態によるもう1つの第2の水中音発生システムの概略構成を示す図である。
図12図10図11の水中音発生装置の移動例を示す平面図(a)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(b)である。
図13】本実施形態による第3の水中音発生システムを説明するために、図1の水中音発生装置の配置例を示す平面図(a)、図10図11の水中音発生装置の移動例を示す同様の平面図(b)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(c)である。
図14】本実施形態の水中音発生装置に設定される音の周波数帯域を概略的に示す図である。
図15】水底への杭打設時に測定した水中作業音の周波数特性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による第1の水中音発生システムの概略的構成を示す図である。
【0034】
図1のように、第1の水中音発生システム10は、水中に配置される水中音発生装置11と、水面に浮揚するフロート12と、フロート12に設置された無線通信装置13と、水底に設置された重錘14と、フロート12から吊り下げられて水中音発生装置11と連結するロープ15と、水中音発生装置11から吊り下げられて重錘14と連結するロープ16と、水中音発生装置11と無線通信装置13とを電気的に接続する電気ケーブル17と、を備える。
【0035】
水中音発生装置11は、フロート12によりロープ15を介して水中の所定の水深で支持されるとともに、重錘14によりロープ16を介して支持されることで、水域の定位置に設置される。第1の水中音発生システム10は、水中音発生装置11を水中に固定する水中固定式である。なお、重錘14は水中に位置していてもよい。また、ロープ15および16を合計したロープの長さは、水中音発生システム10を設置する場所の満潮時の水深となるように設定することが望ましい。
【0036】
水中音発生装置11は、音の周波数を0.1~2kHzの範囲内で1または複数設定でき、その設定された周波数で音を0.1秒~10分の発信時間、1秒~10分の発信間隔で発信し、音圧が少なくとも140dBで出力するように増幅され、水中スピーカーから水中に出力するように防水型に構成される。無線通信装置13を介して水中音発生装置11は遠隔制御可能であり、また、周波数、発信時間、発信間隔および音圧は、予め水中音発生装置11に設定できるが、無線通信装置13を介して遠隔制御し設定変更が可能である。出力する音の周波数は、対象水域の対象の魚類に応じて設定されることが好ましい。また、設定された発信時間内で音圧が段階的に増加するように設定することもできる。
【0037】
また、水中音発生装置11は、杭打設の作業音をROM等からなる記録部に記録しておき、この作業音を再生し、上述と同様の発信時間、発信間隔および音圧で水中に出力させるように構成してもよい。かかる作業音は通常、複数の周波数成分を含む。なお、水中音発生装置11は、全体が水中に設置されるように構成したが、水中スピーカーを水中に設置し、それ以外の装置部分をフロート12に設置するように構成してもよい。また、水中音発生装置11は水深の1/2程度に設置されるが、ロープ15の長さを調整可能にし、水中音発生装置11の水深位置を調整可能に構成してもよい。
【0038】
第1の水中音発生システム10は、水面に浮揚する別のフロート18をフロート12の近くに備え、フロート18にはソーラーパネル19が設置され、電気ケーブル20,17を通して無線通信装置13や水中音発生装置11の電源やそれらのバッテリー電源として使用される。なお、別のフロート18を省略し、フロート12にソーラーパネル19を設置するようにしてもよい。
【0039】
次に、図2図7を参照して第1の水中音発生システム10の水中音発生装置11の平面配置例・水中音出力例、その効果を説明する。図2は、図1の水中音発生装置の配置例を示す平面図(a)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(b)である。図3は、各種の水中騒音源の周波数および水中生物の可聴域を示すグラフである(非特許文献1の図6.1参照)。図4は、水中音の音圧レベル(a)と魚類の反応(b)を示す図である(非特許文献2参照)。図5は、魚類の種類別の音圧レベルと反応レベルを示す図である(非特許文献2参照)。図6は、図1の水中音発生装置からの水中音出力例を示す時間と音圧との関係の一例を示す図である。
【0040】
図2(a)のように、図1の水中音発生装置11を杭打設による作業音発生源である杭打設位置Aの近傍に設置する。工事の対象水域に棲息する魚類を事前に調査し対象の魚類を特定し、図3のような魚類の可聴域内で対象の魚類に応じて0.1~2kHzの範囲内の1または複数の周波数を設定し、この周波数の音を、杭打設作業の開始前に、水中音発生装置11から発信時間T1~T5(図6)が0.1秒~10分、発信間隔Δt1~Δt4(図6)が1秒~10分で発信し、また、音圧を、図4図5のように、魚類が驚いて音源から遠ざかる威嚇レベルが140~160dBであるので、たとえば、140dBとし、水中に出力する。このとき、出力音の音圧レベルを威嚇レベル下限の140dB程度から対象とする魚類に損傷が生じないレベルまで段階的に引き上げることが好ましい。水中音発生装置11付近でいきなり高い音圧で音を発生させると、図4図5のように、対象の魚類によっては影響が懸念されるからである。
【0041】
すなわち、0.1秒~10分内の発信時間、1秒~10分内の発信間隔で音を発生させ、魚の威嚇レベル下限の140dB程度の音圧から開始し、水中音発生装置11の上限付近(通常の水中スピーカーでは180dB程度)の音圧まで、段階的に引き上げる。たとえば、図6のように、140dB → 150dB → 160dB → 170dB → 180dBのように段階的に引き上げる。たとえば図4(b)の通りに行動する魚の場合、水中音を魚の威嚇レベル下限の140dB、発信時間T1で水中に出力することで、魚は、音圧が威嚇レベル下限の140dB未満に減衰する領域まで離れるように移動し、続いて、順次、各発信間隔Δt1~Δt4で音圧を段階的に180dBまで引き上げ各発信時間T2~T5で水中に出力することで、威嚇レベル下限の140dB未満に減衰する領域までさらに移動し、音源である水中音発生装置11からさらに遠ざかる。図2(a)のように、音源の水中音発生装置11から最大音圧180dBで出力音が最終的に出力すると、音圧が音源から所定距離r1たとえば100mの地点で威嚇レベル下限の140dBに減衰するので、魚Fを、音源を中心とした半径r1の円Bの円周上たとえば100mの地点付近まで遠ざけることができる。
【0042】
その後、杭打設位置Aで杭打設作業を開始し、図2(b)のように、音圧220dBの作業音が発生すると、杭打設位置Aから距離r1(たとえば、100m)離れた地点(円Bの円周上)で180dBに減衰するので、円Bの円周付近まで移動した魚Fは、威嚇レベル140dB未満まで減衰する地点へとさらに遠ざかる。このようにして魚を杭打設位置Aから損傷等の影響のない音圧に減衰する地点まで遠ざけることができ、杭打設による作業音の魚への影響を抑制し緩和することができる。
【0043】
図1図2の第1の水中音発生システム10によれば、水中音発生装置11から周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を発信するので、可聴域が2kHz以下の魚類を対象にでき、発信時間を0.1秒~10分、発信間隔を1秒~10分、音圧を少なくとも140dBとし段階的に引き上げることで、周辺の魚類を水中音発生装置11から半径r1の円Bの円周付近まで遠ざけることができる。これにより、杭打設等の水中工事開始前に前もって、周辺の魚類を杭打設位置Aの近くに設置した水中音発生装置11から効率的に遠ざけることができるので、杭打設位置Aにおける杭打設等の水中工事による作業音の魚類への影響を緩和することができる。また、水面に浮揚するフロート12で水中音発生装置11を水中で支持するので、水中音発生装置11を定点に固定し、定位置から音を水中に出力することができる。また、図2の水中音発生システム10の配置例は、水底へ打設される杭が比較的小径のために、発生する作業音が比較的小さい場合に適用することが好ましい。
【0044】
なお、図6のように、水中音出力開始から停止までの所定時間Tを対象の魚類に応じて10~30分程度に予め設定し、かかる所定時間経過後に、杭打設を開始することが好ましい。所定時間Tは、図6から明らかであるが、各発信時間T1~T5と各発信間隔Δt1~Δt4の総和である。また、各発信時間T1~T5と各発信間隔Δt1~Δt4の組合せは任意に設定可能である。また、各発信時間T1~T5において、例えばT1,Δt1において短い発信時間、発信間隔を設定したときには、同じ音圧での発信を複数回行うなど発信時間に応じて同じ音圧での複数回の発信回数を行うようにしてもよい。また、各発信時間T1~T5と各発信間隔Δt1~Δt4の時間は同じでなくとも構わない。たとえば、発信時間はT1→T5の順に短くしてもよく、各発信間隔はΔt1→Δt4の順に長くなるようにしてもよい。また、音圧の1回当たりの引き上げ幅は、10dBに限定されず10dB以上または以下としてもよく、また、一定でなくともよく引き上げ回毎に変えてもよい。
【0045】
また、図2では、水中音発生装置11からの水中音および作業音の減衰特性を100m離れた地点で音圧が40dB減衰するとして説明したが、水中音の減衰特性と作業音の減衰特性とを予め調査し、それぞれ別々に設定し、水中音発生装置11から出力する水中音の音圧レベルを適宜変更してもよく、以下も同様である。また、水中音は球面拡散するものとしたが、以下も同様である。
【0046】
図7は、図1の水中音発生システム10を複数設置した場合の各水中音発生装置の平面位置を示す平面図(a)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(b)である。
【0047】
図7(a)のように、図1の水中音発生装置11を杭打設位置Aの近傍に設置するとともに、平面上、杭打設位置Aを中心とする破線で示す所定半径r2の円Cの円周上に等間隔で複数の水中音発生装置11A~11Hを設置する。各水中音発生装置11A~11Hは図1の水中音発生装置11と同じ構成であってよい。
【0048】
各水中音発生装置11A~11Hが水中音を最大音圧180dBで出力したとき、その音圧が魚の威嚇レベル140dBまで減衰する地点は、図7(a)に示す各水中音発生装置11A~11Hを中心とする半径r1の各円a~hの円周付近である。半径r1の各円a~hは同じく杭打設位置Aを中心とした半径r1の円Bと接しているので、各水中音発生装置11A~11Hが位置する円Cの半径r2は、円B(各円a~h)の半径r1の2倍である(r2=2×r1)。
【0049】
杭打設位置Aの近傍に位置する水中音発生装置11から水中音を出力し、図6のように音圧を音圧140dBから段階的に音圧180dBまで引き上げることで、音圧が魚Fの威嚇レベル下限140dBまで減衰する円Bの円周付近まで魚Fを遠ざける。かかる円Bの円周付近まで遠ざけられた魚Fは、各水中音発生装置11A~11Hから水中音を同様に出力することで、各水中音発生装置11A~11Hを中心とする半径r1の各円a~hの円周付近であって、円Bから遠ざかる地点、すなわち、杭打設位置Aから3×r1の距離までさらに遠ざけられる。なお、水中音発生装置11からの音と、各水中音発生装置11A~11Hからの音は、同時に出力させてもよいが、水中音発生装置11、11A~11Hによる円Bと円Cの中に対象とする魚類が閉じ込められ損傷しないよう、所定の方向に逃げるように時間をずらして出力させてもよい。
【0050】
その後、杭打設位置Aで杭打設作業を開始し、図7(b)のように、音圧240dBの作業音が発生すると、杭打設位置Aから距離r3(=3×距離r1、たとえば、300m)離れた地点(各円a~hを内接する円Dの円周)で190dBに減衰するので、円Dの円周付近まで移動した魚Fは、威嚇レベル下限140dB未満まで減衰する地点へとさらに遠ざかる。このようにして魚を杭打設位置Aから損傷等の影響のない音圧に減衰する地点まで遠ざけることができる。
【0051】
図7(a)の第1の水中音発生システム10によれば、図2と同様にして、周辺の魚類を水中音発生装置11から半径r1の円Bの円周付近まで遠ざけるとともに、水中音発生装置11を包囲するように半径r2(=2×r1)の円C上に配置された複数の水中音発生装置11A~11Hから同様に水中に音を出力することで、魚類を円Bの円周付近から各水中音発生装置11A~11Hを中心とする半径r1の各円a~hを内接する半径r3(=3×r1)の円Dの円周付近まで遠ざけることができる。これにより、杭打設等の水中工事開始前に前もって、周辺の魚類を複数の水中音発生装置11,11A~11Hから効率的に遠ざけることができるので、杭打設等の水中工事による作業音の魚類への影響を緩和することができる。また、図7(a)の水中音発生システム10の配置例は、水底へ打設される杭が比較的大径のために、発生する作業音が比較的大きい場合に適用することが好ましい。
【0052】
また、杭打設中は水中音発生装置11,水中音発生装置11A~11Hからの水中音の出力を停止する。また、杭打設作業中断後の作業再開前、あるいは翌日等、作業音の発生する作業を再開する場合、同様に段階的に音圧レベルを引き上げることが好ましい。
【0053】
図8に複数の図1の水中音発生システム10を列状に並べた配置例を示す。図8のように、複数の水中音発生装置11I~11Nを平面上、一定間隔(たとえば、300m程度)で列状に配置する。杭打設位置Aに対し複数の水中音発生装置11I~11Nが一列に並び、図1図2と同様にして音を水中に出力することで、杭打設位置Aを中心とする工事区域へ外部領域Eから魚類が進入することを防止し、杭打設等の水中工事による作業音の魚類への影響を緩和することができる。なお、各水中音発生装置11I~11Nからの音は、同時に出力させても時間をずらして出力させてもよい。各水中音発生装置11I~11Nは、図1の水中音発生システム10と同様に構成されてよい。また、水中音発生装置11I~11Nのフロート部分をロープ等でつなぐようにしてもよい。
【0054】
図9に複数の図1の水中音発生システム10を、作業音発生位置(杭打設位置)を中心にして放射状に並べた配置例を示す。図9の例は、図7(a)と同様に配置した複数の水中音発生装置11,11A~11Hに対し、複数の水中音発生装置11O~11Qを放射状に配置したものである。すなわち、水中音発生装置11Oを、水中音発生装置11と11Aを結ぶ線aa上に配置し、水中音発生装置11Pを、水中音発生装置11と11Bを結ぶ直線bb上に配置し、水中音発生装置11Qを、水中音発生装置11と11Cを結ぶ線cc上に配置している。図9では、さらに、複数の水中音発生装置11R~11Yを、水中音発生装置11O~11Qの近傍に配置している。各水中音発生装置11O~11Yを中心とする各円o~yはたとえば半径100mであるが、各水中音発生装置11O~11Yは、各円o~yが互いに接するかまたは部分的に重複するように配置される。複数の水中音発生装置11,11A~11Yは、一定の発信間隔で一定の音圧レベルで音を水中に出力し、杭打設位置Aに近い位置の水中音発生装置から順に高い音圧レベルで出力するように設定する。これにより、魚Fを杭打設位置Aに近い領域から順に杭打設位置Aから遠ざけることができ、杭打設等の水中工事による作業音の魚類への影響を緩和することができる。なお、各水中音発生装置11O~11Yは、図1の水中音発生システム10と同様に構成されてよい。
【0055】
なお、図2図6図9において、水中音の発信時間や発信間隔や音圧は、対象とする魚の遊泳速度や水中音発生装置の平面的な配置状況に応じて適宜設定することが好ましい。すなわち、遊泳速度が早い魚の場合、発信間隔を比較的短く設定し、各音圧レベルの発信時間を短く設定し、音圧レベルを短時間で引き上げることが好ましい。一方、遊泳速度が遅い魚の場合、発信間隔を比較的長く設定することが好ましい。
【0056】
たとえば、図2(a)の杭打設位置A付近にいた魚類が水中音発生装置11により影響の少ない400m地点まで直線的に移動した場合に要する時間は次のとおりである。
・メバル:遊泳速度2km/hの場合、所要時間12分
・ヒラメ:遊泳速度1km/hの場合、所要時間24分
【0057】
次に、本実施形態による第2の水中音発生システムについて説明する。図10は、本実施形態による第2の水中音発生システムの概略構成を示す図である。図11は、本実施形態によるもう1つの第2の水中音発生システムの概略構成を示す図である。図10図11の第2の水中音発生システム20,30は、水中音発生装置21を水中で移動させる水中移動式である。
【0058】
図10のように、第2の水中音発生システム20は、対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置21と、水中音発生装置21を水中で移動させるための水中ドローンWDと、を備え、水中音発生装置21は、水中ドローンWDに連結されて水中で移動しながら、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で発信し、少なくとも音圧140dBで出力するように増幅され、水中スピーカーから水中に出力するように防水型に構成される。水中音発生装置21から出力する音は、たとえば、発信時間10秒以下、発信間隔10秒以下の断続音であるが、連続音であってもよく、また、図6のように、発信時間0.1秒~10分、発信間隔1秒~10分で、音圧を段階的に引き上げるようにしてもよい。水中音発生装置21には出力音の周波数・音圧・発信時間・発信間隔等を移動開始前に設定しておく。また、水中ドローンWDは、操作員の操作により所定の工事区域内の水中を移動できる。
【0059】
図11のように、もう1つの第2の水中音発生システム30は、対象水域において魚類を忌避するために水中に音を出力する水中音発生装置21と、水中音発生装置21を水中で移動させるための船舶SPと、を備え、水中音発生装置21は、船舶SPに連結されて水中で移動しながら、図10と同様に音を水中に出力する。船舶SPとしては、漁船、通船、警戒船等を使用でき、また、遠隔操作可能なラジコンボート、水上ドローンを使用してもよい。また、ラジコンボートにGNSS受信機を設置することで、事前に設定した移動経路に従い自動航行が可能である。なお、水中音発生装置21における出力音の周波数・音圧・発信時間・発信間隔等は事前に設定されるが、船舶SP内でも設定可能である。
【0060】
図10図11の第2の水中音発生システム20,30によれば、周波数0.1~2kHzの範囲内の1または複数の音を発信するので、可聴域が2kHz以下の魚類を対象にでき、発信時間を10分以下、発信間隔を10分以下または連続音とし、音圧を少なくとも140dBとすることで、魚類を杭打設位置Aから効率的に遠ざけることができる。また、水中音発生装置21が水中ドローンWDまたは船舶SPにより水中を移動しながら音を出力するので、魚類を杭打設位置Aから効率的に遠ざけることができる。このように、杭打設等の水中工事開始前に前もって、周辺の魚類を杭打設位置Aから遠ざけることができるので、杭打設等の水中工事による作業音の魚類への影響を緩和することができる。
【0061】
図10図11において、水中音発生装置21を水中で杭打設位置A付近からたとえば渦巻状に移動させるようにして、杭打設位置Aから離れる方向に順次移動させる場合には、最初から180dB程度の比較的大きな音圧で音を出力させてもよい。かかる音圧は、図11の船舶SPとして漁船を用いる場合、漁船自体からの160dB程度の発生音よりも大きく設定される。
【0062】
なお、図10図11において、水中音発生装置21を複数水中で移動させるように構成してもよく、このため、必要に応じて、複数の水中ドローンWD、複数の船舶SPを用いてよく、杭打設による影響が広範囲に及ぶ場合等に適用して好ましい。また、水中音発生装置21を水中ドローンWD,船舶SPによりたとえば水深の1/2程度の深さで移動させることが好ましい。
【0063】
次に、図12を参照して第2の水中音発生システム20,30の水中音発生装置21の平面移動例・水中音出力例、その効果を説明する。図12は、図10図11の水中音発生装置の移動例を示す平面図(a)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(b)である。
【0064】
図12(a)のように、図11の水中音発生装置21を、作業音発生位置である杭打設位置Aの周囲たとえば半径20mの円Gの円周上を船舶SPが移動することで、水中で同様の円周平面上を移動させながら、事前調査で特定した対象の魚類に応じて0.1~2kHzの範囲内の1または複数の周波数を設定し、この周波数の音を断続的または連続的に、音圧をたとえば180dBとして、杭打設作業の開始前に水中に出力する。これにより、魚Fが音源の水中音発生装置21から離れるように移動を始め、音圧が威嚇レベル下限の140dB程度まで減衰する円Gから100m、杭打設位置Aから120mの地点付近へと移動する。すなわち、魚Fを、杭打設位置Aを中心とする半径r4(=120m)の円Hの円周近くに遠ざけることができる。
【0065】
その後、杭打設位置Aで杭打設作業を開始し、図12(b)のように、音圧220dBの作業音が発生すると、杭打設位置Aから距離r4(たとえば、120m)離れた地点(円Hの円周上)では178dBに減衰するので、円Hの円周付近まで移動した魚Fは、威嚇レベル下限140dB未満まで減衰する地点へとさらに遠ざかる。このようにして魚を杭打設位置Aから損傷等の影響のない音圧に減衰する地点まで遠ざけることができ、杭打設による作業音の魚への影響を抑制し緩和することができる。なお、図12(a)において船舶SPの代わりに図10の水中ドローンWDにより水中音発生装置21を同様に水中で移動させるようにしてもよい。
【0066】
なお、図12のような水中音発生システム20,30による水中音発生装置21の移動例は、水底へ打設される杭が比較的小径のために、発生する作業音が比較的小さい場合に適用して好ましい。
【0067】
次に、本実施形態による第3の水中音発生システムについて説明する。第3の水中音発生システムは、図1図2図7図9のように水中音発生装置を水中固定式とした第1の水中音発生システムと、図10図11のように水中音発生装置を水中移動式とした第2の水中音発生システムと、を備え、両水中音発生システムを併用可能にしたものである。
【0068】
図13は、本実施形態による第3の水中音発生システムを説明するために、図1の水中音発生装置の配置例を示す平面図(a)、図10図11の水中音発生装置の移動例を示す同様の平面図(b)および杭打設の際の効果を説明するための同様の平面図(c)である。
【0069】
図13(a)のように、図1の水中音発生装置11を杭打設による作業音発生位置である杭打設位置Aの近傍に設置し、図2(a)と同様にして、水中音発生装置11から最大音圧180dBで出力音が最終的に出力すると、音圧が音源から所定距離r1たとえば100mの地点で威嚇レベル下限140dBに減衰するので、魚Fが、音源の水中音発生装置11を中心とし半径r1(たとえば100m)の円Bの円周付近まで移動し遠ざかる。
【0070】
一方、図13(b)のように、音源を中心とし半径r2(2×r1,たとえば200m)の円Cの円周上を船舶SPが移動することで、水中音発生装置21を水中で同様の円周平面上を移動させながら、図12(a)と同様にして音圧をたとえば180dBとして音を水中に出力する。これにより、円Bの円周付近まで移動した魚Fが、威嚇レベル下限140dB程度まで音圧が減衰する円Bからたとえば200m、杭打設位置Aから300mの地点付近へと移動し遠ざかる。すなわち、魚Fを、杭打設位置Aを中心とする半径r3(3×r1、たとえば300m)の円Dの円周近くに遠ざけることができる。
【0071】
その後、杭打設位置Aで杭打設作業を開始し、図13(c)のように、音圧240dBの作業音が発生すると、杭打設位置Aから距離r3(たとえば、300m)離れた円Dの円周上で190dBに減衰するので、円Dの円周付近まで移動した魚Fは、威嚇レベル下限140dB未満まで減衰する地点へとさらに遠ざかる。このようにして魚を杭打設位置Aから損傷等の影響のない音圧に減衰する地点まで段階的に遠ざけることができ、杭打設による作業音の魚への影響を抑制し緩和することができる。
【0072】
なお、図13(b)の破線で示すように、船舶SPに加えて、同様の水中音発生装置21を連結した船舶SP’を追加し円Cの円周上を、好ましくは180度離れて移動させるようにしてもよい。また、図13(b)において船舶SPの代わりに図10の水中ドローンWDにより水中音発生装置21を同様に水中で移動させるようにしてもよいし、また、渦巻き状に移動させてもよい。
【0073】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、浮力体は、図1ではフロートから構成したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、水中音発生装置11は汚濁防止膜に吊り下げ可能であり、他にも水面に浮揚可能な枠体などに吊り下げてもよい。また、洋上風力発電施設を、自己昇降式作業台船(SEP船)を用いて設置する際などには、水中音発生装置11をレグ等に取り付けるようにしてもよい。
【0074】
また、図10図11の水中音発生装置21からの出力音として、図1と同様に、録音した杭打設等の水中工事の作業音を水中音発生装置で再生し所定の音圧に増幅して水中に出力させるようにしてもよい。
【0075】
また、図10図11では、水中音発生装置21を水中ドローンWD,船舶SPにロープ等で連結したが、これに限定されず、水中ドローンWD、船舶SPに一体的に搭載するようにしてもよい。
【0076】
また、図1の水中音発生装置11、図10図11の水中音発生装置21において、0.1~2kHzの範囲内の複数の周波数は、事前調査により判明した対象水域に棲息する魚類の種類に応じて設定されるが、図14のように、たとえば、0.5kHz、1kHzにそれぞれピークを有する周波数帯域とすることができ、さらに別の周波数を追加可能であり、また、別の周波数に設定変更可能である。
【0077】
また、図15に水底への杭打設時に測定した水中作業音の周波数特性の例を示す。図15から実際の杭打設時の水中作業音は複数の周波数成分を含むことがわかる。図15のような水中作業音を予め録音し水中音発生装置11,21から出力させることができる。
【0078】
また、図6等では、音圧を140dBから段階的に引き上げて水中に出力したが、本発明はこれに限定されず、140dB以上の音圧、たとえば威嚇レベル上限の160dB程度から始めるようにしてもよい。
【0079】
また、図1の水中音発生装置11や図10図11の水中音発生装置21において、音の周波数帯を1~500kHzに設定することでクジラやイルカへの影響を緩和可能である。
【0080】
また、第1~第3の水中音発生システムによれば、対象水域での水中工事終了後に、魚類にとって快適な強さで音源に寄ってくる誘致レベルの音圧(図4(b)のように、たとえば、110~130dB)で音を水中に出力することで、遠方に移動し一時的に避難した魚類が元の水域に戻ることを促進する事後対策を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の水中音発生システムによれば、杭打設等の水中工事の実施の際にその水域において水中作業音発生源から魚類を遠ざけて水中作業音による魚類への影響を緩和することができるので、杭打設等の水中工事による魚類への影響を緩和し、水産資源への影響を未然に防止できる。
【符号の説明】
【0082】
10 第1の水中音発生システム
11 水中音発生装置
12 フロート(浮力体)
11A~11Z 水中音発生装置
13 無線通信装置
18 フロート(別の浮力体)
19 ソーラーパネル
20,30 第2の水中音発生システム
21 水中音発生装置
A 杭打設位置(水中作業音発生源)
F 魚
SP,SP’ 船舶
WD 水中ドローン
T1~T5 発信時間
Δt1~Δt4 発信間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15