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特開2023-101427ディストリビュータクライミングシステムおよび構造物の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101427
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】ディストリビュータクライミングシステムおよび構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/04 20060101AFI20230713BHJP
【FI】
E04G21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001979
(22)【出願日】2022-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】上田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智弥
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 安太郎
【テーマコード(参考)】
2E172
【Fターム(参考)】
2E172CA31
2E172CA40
2E172CA61
(57)【要約】
【課題】コンクリート配管が設けられたディストリビュータについて、安定性を保持しながらクライミング可能なディストリビュータクライミングシステムを提供すること。
【解決手段】ディストリビュータクライミングシステム1は、コンクリート配管15が設けられたディストリビュータ10と、ディストリビュータ10を囲んで構築されてディストリビュータ10に対して上下に相対移動可能な上部フレーム20と、上部フレーム20を囲んで構築されて上部フレーム20に対して上下に相対移動可能な下部フレーム30と、上部フレーム20に設けられてディストリビュータ10を上方に押し上げることが可能なクライミング装置40と、を備える。ディストリビュータ10の下端部、上部フレーム20、および下部フレーム30には、側方に向かって突没可能な係止部13、23、33が設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート配管を有するディストリビュータを建設中の建物躯体に沿って上昇させるディストリビュータクライミングシステムであって、
コンクリート配管が設けられたディストリビュータと、
前記ディストリビュータを囲んで構築されて前記ディストリビュータに対して上下に相対移動可能な上部フレームと、
前記上部フレームを囲んで構築されて前記上部フレームに対して上下に相対移動可能な下部フレームと、
前記上部フレームに設けられて前記ディストリビュータを上方に押し上げることが可能なクライミング装置と、を備え、
前記ディストリビュータの下端部、前記上部フレーム、および前記下部フレームには、側方に向かって突没可能な係止部が設けられることを特徴とするディストリビュータクライミングシステム。
【請求項2】
前記ディストリビュータの側面には、上下に延びて所定間隔おきにガイド穴が設けられたガイドレールが設けられ、
前記クライミング装置は、前記上部フレームに係止する反力爪が設けられた下ユニットと、
上ユニットと、
前記下ユニットに対して前記上ユニットを昇降させるジャッキと、
前記下ユニットに設けられて回転することにより前記ガイド穴に係止可能な下爪と、
前記上ユニットに設けられて回転することにより前記ガイド穴に係止可能な上爪と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のディストリビュータクライミングシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディストリビュータクライミングシステムを用いて構造物を構築する方法であって、
前記構造物の低層部を構築するとともに、前記低層部の各階の床スラブに上下に連続する床開口部を設ける第1工程と、
揚重装置を用いて、前記床開口部を上下に貫通して前記ディストリビュータクライミングシステムを配置し、前記ディストリビュータの係止部を引き出してn(nは自然数)階の床に係止させ、前記下部フレームの係止部を引き出して(n+1)階の床に係止させ、前記上部フレームの係止部を引き出して(n+2)階の床に係止させる第2工程と、
前記コンクリート配管を用いてコンクリート打設を行い、前記構造物の低層部の上に躯体を構築する第3工程と、
前記上部フレームの係止部を収納し、チェーンブロックで前記上部フレームを1層分引き上げて、前記上部フレームの係止部を引き出して、(n+3)階の床に係止させる第4工程と、
前記下部フレームの係止部を収納し、チェーンブロックで前記下部フレームを1層分引き上げて、前記下部フレームの係止部を引き出して、(n+2)階の床に係止させる第5工程と、
前記ディストリビュータの係止部を収納し、前記クライミング装置で前記ディストリビュータを1層分引き上げて、前記ディストリビュータの係止部を引き出して、(n+1)階の床に係止させる第6工程と、
前記第3工程から前記第6工程までを繰り返す第7工程と、を備える構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート配管を有するディストリビュータを建設中の建物躯体に沿って上昇させるディストリビュータクライミングシステム、および、このディストリビュータクライミングシステムを用いた構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高層建物の躯体コンクリートを打設する場合に、ディストリビュータが用いられる場合がある(特許文献1参照)。ディストリビュータとは、建設中の建物の躯体に仮支持された上下に延びるコンクリート配管である。建設中の建物の最上階(施工階)のコンクリートを打設するにあたり、ディストリビュータの下端にコンクリート圧送車を接続し、ディストリビュータの上端にホースを取り付ける。この状態で、コンクリート圧送車からコンクリートを圧送すると、ディストリビュータを通って、ホースの先端からコンクリートが吐出される。
【0003】
特許文献1には、高層構造物に着脱自在なベース架台と、ベース架台に立設された固定支柱と、固定支柱に旋回自在に設けられた回転支柱と、回転支柱に駆動自在に接続された伸縮式四段ブームと、回転支柱に設けられたホースリールと、ホースリールに伸縮式四段ブームに沿って延びる耐摩擦ゴムホースと、を備えるコンクリートディストリビューターが示されている。このコンクリートディストリビューターのホースリールには、高層構造物の側面に沿って延びるコンクリート供給ホースが接続される。
特許文献2には、地上に配置されたコンクリート供給装置に接続されて型枠に沿って上下に延びる第一のコンクリート配管と、第一のコンクリート配管に接続された第二のコンクリート配管と、を備えるディストリビュータが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-207941号公報
【特許文献2】特開2007-217906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コンクリート配管が設けられたディストリビュータについて、安定性を保持しながらクライミング可能なディストリビュータクライミングシステム、および、このディストリビュータクライミングシステムを用いた構造物の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、コンクリート配管を有するディストリビュータをクライミングさせるシステムであって、ディストリビュータを支える支柱を囲んで上部フレームおよび下部フレームを設けるとともに、上部フレームにクライミング装置を設けて、ディストリビュータをクライミングさせる際、ディストリビュータの下端部、上部フレーム、および下部フレームに取り付けた複数の係止部(腕木に相当)を床に係止させて仮固定させることで、安定性を保持しながら、ディストリビュータをクライミング可能な点に着眼し、本発明に至った。
第1の発明のディストリビュータクライミングシステム(例えば、後述のディストリビュータクライミングシステム1)は、コンクリート配管(例えば、後述のコンクリート配管15)を有するディストリビュータ(例えば、後述のディストリビュータ10)を建設中の建物躯体(例えば、後述の建物躯体2)に沿って上昇させるディストリビュータクライミングシステムであって、コンクリート配管が設けられたディストリビュータと、前記ディストリビュータを囲んで構築されて前記ディストリビュータに対して上下に相対移動可能な上部フレーム(例えば、後述の上部フレーム20)と、前記上部フレームを囲んで構築されて前記上部フレームに対して上下に相対移動可能な下部フレーム(例えば、後述の下部フレーム30)と、前記上部フレームに設けられて前記ディストリビュータを上方に押し上げることが可能なクライミング装置(例えば、後述のクライミング装置40)と、を備え、前記ディストリビュータの下端部、前記上部フレーム、および前記下部フレームには、側方に向かって突没可能な係止部(例えば、後述の係止部13、23、33)が設けられることを特徴とする。
【0007】
従来では、建物躯体に沿って上昇するクライミング方式のディストリビュータについて、クライミング時に姿勢を安定して保持することが困難であった。
そこで、この発明によれば、コンクリート配管が設けられたディストリビュータを囲んで上部フレームおよび下部フレームを設けるとともに、ディストリビュータ、上部フレーム、および下部フレームに、側方に向かって突没可能な係止部を設けて、ディストリビュータ、上部フレーム、および下部フレームのそれぞれの係止部が各階の床に係止可能な構成とした。
よって、上部フレームをチェーンブロック等で上方に引き上げてクライミングさせた後、上部フレームの係止部で上階の床に係止させる工程、下部フレームをチェーンブロック等で上方に引き上げてクライミングさせた後、下部フレームの係止部で上階の床に係止させる工程、ディストリビュータをクライミング装置でクライミングさせた後、ディストリビュータの係止部で上階の床に係止させる工程、を順番に繰り返すことで、コンクリート配管が設けられたディストリビュータについて、安定性を保持しながらクライミングすることができる。
【0008】
第2の発明のディストリビュータクライミングシステム(例えば、後述のディストリビュータクライミングシステム1)は、前記ディストリビュータの側面には、上下に延びて所定間隔おきにガイド穴(例えば、後述のガイド穴16)が設けられたガイドレール(例えば、後述のガイドレール17)が設けられ、前記クライミング装置は、前記上部フレームに係止する反力爪(例えば、後述の反力爪41)が設けられた下ユニット(例えば、後述の下ユニット42)と、上ユニット(例えば、後述の上ユニット43)と、前記下ユニットに対して前記上ユニットを昇降させるジャッキ(例えば、後述のジャッキ44)と、前記下ユニットに設けられて回転することにより前記ガイド穴に係止可能な下爪(例えば、後述の下爪45)と、前記上ユニットに設けられて回転することにより前記ガイド穴に係止可能な上爪(例えば、後述の上爪46)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、ディストリビュータをクライミングさせる場合、ジャッキで上ユニットを上昇させることで、下爪はガイド穴に係止されていないが、上爪がガイド穴に係止されて、ディストリビュータが上昇する第1工程と、ジャッキで上ユニットを下降させることで、上爪のガイド穴に対する係止が解除されるが、下爪がガイド穴に係止されてディストリビュータがクライミング装置に仮支持される第2工程と、を交互に繰り返す。これにより、コンクリート配管が設けられたディストリビュータを、容易かつ確実に上昇させることできる。
【0010】
第3の発明の構造物の構築方法は、上述のディストリビュータクライミングシステムを用いて構造物を構築する方法であって、前記構造物の低層部を構築するとともに、前記低層部の各階の床スラブに上下に連続する床開口部(例えば、後述の床開口部3)を設ける第1工程(例えば、後述のステップS11)と、揚重装置を用いて、前記床開口部を上下に貫通して前記ディストリビュータクライミングシステムを配置し、前記ディストリビュータの係止部を引き出してn(nは自然数)階の床に係止させ、前記下部フレームの係止部を引き出して(n+1)階の床に係止させ、前記上部フレームの係止部を引き出して(n+2)階の床に係止させる第2工程(例えば、後述のステップS12)と、前記コンクリート配管を用いてコンクリート打設を行い、前記構造物の低層部の上に躯体を構築する第3工程(例えば、後述のステップS13)と、前記上部フレームの係止部を収納し、チェーンブロックで前記上部フレームを1層分引き上げて、前記上部フレームの係止部を引き出して、(n+3)階の床に係止させる第4工程(例えば、後述のステップS14~S16)と、前記下部フレームの係止部を収納し、チェーンブロックで前記下部フレームを1層分引き上げて、前記下部フレームの係止部を引き出して、(n+2)階の床に係止させる第5工程(例えば、後述のステップS17~S19)と、前記ディストリビュータの係止部を収納し、前記クライミング装置で前記ディストリビュータを1層分引き上げて、前記ディストリビュータの係止部を引き出して、(n+1)階の床に係止させる第6工程(例えば、後述のステップS20~S22)と、前記第3工程から前記第6工程までを繰り返す第7工程(例えば、後述のステップS23)と、を備える。
【0011】
この発明によれば、上部フレームをチェーンブロック等で上方に引き上げてクライミングさせた後、上部フレームの係止部で上階の床に係止させる工程、下部フレームをチェーンブロック等で上方に引き上げてクライミングさせた後、下部フレームの係止部で上階の床に係止させる工程、ディストリビュータをクライミング装置でクライミングさせた後、ディストリビュータの係止部で上階の床に係止させる工程、を順番に繰り返すことで、コンクリート配管が設けられたディストリビュータについて、安定性を保持しながらクライミングすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリート配管が設けられたディストリビュータについて、安定性を保持しながらクライミング可能なディストリビュータクライミングシステム、および、このディストリビュータクライミングシステムを用いた構造物の構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るディストリビュータクライミングシステムの模式的な側面図である。
図2図1のディストリビュータクライミングシステムのI-I断面図である。
図3図2の破線Aで囲んだ部分(ガイドローラ)の拡大図およびII-II断面図である。
図4】ディストリビュータクライミングシステムを構成するディストリビュータの模式的な側面図である。
図5】ディストリビュータクライミングシステムを構成する上部フレームおよび下部フレームの模式的な側面図である。
図6】ディストリビュータクライミングシステムを構成するクライミング装置の模式的な側面図である。
図7】クライミング装置の動作を示すフローチャートである。
図8】クライミング装置の動作の説明図である。
図9】ディストリビュータクライミングシステムを用いた建物の構築手順のフローチャートである。
図10】建物の構築手順の説明図(その1、施工階を構築した状態)である。
図11】建物の構築手順の説明図(その2、上部フレームを引き上げた状態)である。
図12】建物の構築手順の説明図(その3、下部フレームを引き上げた状態)である。
図13】建物の構築手順の説明図(その4、ディストリビュータを上昇させた状態)である。
図14】本発明の変形例に係るガイドローラの平面図およびIII-III断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、コンクリート配管を有するディストリビュータを建設中の建物躯体に沿って上昇させるディストリビュータクライミングシステム、および、このディストリビュータクライミングシステムを用いた構造物の構築方法である。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るディストリビュータクライミングシステム1の模式的な側面図である。図2は、図1のディストリビュータクライミングシステム1のI-I断面図である。図3(a)は、図2の破線Aで囲んだ部分(ガイドローラ50)の拡大図である。図3(b)は、図3(a)のガイドローラ50のII-II断面図である。
建設中の構造物としての建物躯体2の床スラブには、上下に連続する床開口部(駄目穴)3が設けられている。
ディストリビュータクライミングシステム1は、建物躯体2の上下に連続する床開口部3を上下に貫通して設置され、建物躯体2に沿ってコンクリート配管15を上昇させるものである。このディストリビュータクライミングシステム1は、コンクリート配管15が設けられたディストリビュータ10と、ディストリビュータ10を囲んで構築されてディストリビュータ10に対して上下に相対移動可能な上部フレーム20と、上部フレーム20を囲んで構築されて上部フレーム20に対して上下に相対移動可能な下部フレーム30と、上部フレーム20に設けられてディストリビュータ10を上方に押し上げることが可能なクライミング装置40と、を備える。
【0015】
図4は、ディストリビュータ10の模式的な側面図である。図5(a)は、上部フレーム20の模式的な側面図である。図5(b)は、下部フレーム30の模式的な側面図である。
ディストリビュータ10は、水平断面が矩形状の支柱11と、支柱11の上端部に設けられて折り畳み可能なブーム12と、支柱11の下端部に設けられて側方に向かって係止部13を突没可能な伸縮ベース14と、ディストリビュータ10の側面に沿ってディストリビュータ10の下端から上端まで延びて、さらに、ブーム12に沿ってブーム12の先端まで延びるコンクリート配管15と、を備える。係止部13は、伸縮ベース14に4つ設けられ、建物躯体2の床開口部3回りの床スラブに係止することで、ディストリビュータ10を建物躯体2に仮固定可能となっている。
【0016】
上部フレーム20は、図2にも示すように、矩形状のディストリビュータ10の角部に沿って鉛直方向に延びる4本の鉛直部材21と、これら鉛直部材21同士を連結する水平部材22と、鉛直部材21の上端に設けられて側方に向かって係止部23を突没可能な係止機構24と、を備える。係止部23は、係止機構24に4つ設けられ、建物躯体2の床開口部3回りの床スラブに係止することで、上部フレーム20を建物躯体2に仮固定可能となっている。
水平部材22は、H形鋼であり、この水平部材22の上面には、ディストリビュータ10の支柱11の側面に沿って上下に走行するガイドローラ50が設けられている(図2参照)。ガイドローラ50は、図3(a)および図3(b)に示すように、ローラ51と、水平方向を回転軸Rとしてローラ51を支持するローラ支持部52と、水平部材22の上面に取り付けられてローラ支持部52が載置された基部53と、基部53に螺合されてローラ51の突出寸法を調整する調整ボルト54と、を備える。このガイドローラ50では、調整ボルト54を回転させることで、ローラ51の水平部材22からの突出寸法dを調整可能となっている。
【0017】
下部フレーム30は、図2にも示すように、上部フレーム20の角部に沿って鉛直方向に延びる4本の鉛直部材31と、これら鉛直部材31同士を連結する水平部材32と、鉛直部材31の中間高さに設けられて側方に向かって係止部33を突没可能な係止機構34と、を備える。係止部33は、係止機構34に4つ設けられ、建物躯体2の床開口部3回りの床スラブに係止することで、下部フレーム30を建物躯体2に仮固定可能となっている。
水平部材32は、H形鋼であり、この水平部材32の上面には、上部フレーム20の鉛直部材21の側面に沿って上下に走行するガイドローラ50が設けられている。水平部材32上に設けられたガイドローラ50は、水平部材22上に設けられたガイドローラ50と同様の構成であり、調整ボルト54を回転させることで、ガイドローラ50の水平部材32からの突出寸法dを調整可能となっている。
【0018】
図6は、クライミング装置40の模式的な側面図である。
ディストリビュータ10の支柱11の側面には、上下に方向に所定間隔おきにガイド穴16が形成されたガイドレール17が設けられている。
クライミング装置40は、上部フレーム20の水平部材22に係止する反力爪41が設けられた下ユニット42と、上ユニット43と、下ユニット42に対して上ユニット43を昇降させるジャッキ44と、下ユニット42に設けられて回転軸Rで回転することによりガイド穴16に係止可能な下爪45と、上ユニット43に設けられて回転軸Rで回転することによりガイド穴16に係止可能な上爪46と、を備える。
【0019】
図7は、クライミング装置40の動作を示すフローチャートである。
初期状態では、図8(a)に示すように、クライミング装置40の下爪45および上爪46がガイド穴16に係止した状態とする。
この状態から、ステップS1では、図8(b)に示すように、ジャッキ44を駆動して上ユニット43を上昇させる。このとき、下爪45のガイド穴16に対する係止は解除されるが、上爪46がガイド穴16に係止しているので、支柱11が上昇する。その結果、図8(c)に示すように、下爪45は一つ下のガイド穴16に係止する。
ステップS2では、図8(d)に示すように、ジャッキ44を駆動して上ユニット43を下降させる。このとき、上爪46のガイド穴16に対する係止が解除されるが、下爪45がガイド穴16に係止しているので、支柱11がクライミング装置40に仮支持される。その結果、図8(a)に示すように、再度、下爪45および上爪46がガイド穴16に係止した状態となる。
ステップS3では、ステップS1およびステップS2を交互に繰り返す。
【0020】
図9は、ディストリビュータクライミングシステム1を用いた建物の構築手順を示すフローチャートである。
ステップS11では、図1に示すように、建物躯体2の(n+2)(nは自然数)階までの低層部を構築し、各階の床スラブに床開口部3を設ける。
ステップS12では、図1に示すように、クレーンなどの揚重装置を用いて、床開口部3を上下に貫通してディストリビュータクライミングシステム1を設置する。このとき、上部フレーム20の係止部23を(n+2)階の床に係止させ、下部フレーム30の係止部33を(n+1)階の床に係止させ、ディストリビュータ10の係止部13をn階の床に係止させる。
ステップS13では、図10に示すように、ディストリビュータ10のコンクリート配管15を用いて最上階(施工階)のコンクリート打設を行い、建物躯体2の低層部の上に躯体としての(n+3)階を構築する。
ステップS14では、図10に示すように、上部フレーム20の係止部23を収納する。具体的には、ディストリビュータ10と上部フレーム20との間にチェーンブロック60を取り付けて、チェーンブロック60に緊張力を導入して仮支持し、この状態で、上部フレーム20の係止部23を収納する。
ステップS15では、図11に示すように、チェーンブロック60を駆動して、上部フレーム20およびクライミング装置40を1層分上方に引き上げる。その後、チェーンブロック60に導入した緊張力を解除する。
ステップS16では、図11に示すように、上部フレーム20の係止部23を引き出して、(n+3)階の床に係止させる。
【0021】
ステップS17では、図11に示すように、下部フレーム30の係止部33を収納する。具体的には、上部フレーム20と下部フレーム30との間にチェーンブロック61を取り付けて、チェーンブロック61に緊張力を導入して仮支持し、この状態で、下部フレーム30の係止部33を収納する。
ステップS18では、図12に示すように、チェーンブロック61を駆動して、下部フレーム30を1層分上方に引き上げる。
ステップS19では、図12に示すように、下部フレーム30の係止部33を引き出して、(n+2)階の床に係止させる。その後、チェーンブロック61に導入した緊張力を解除する。
ステップS20では、図12に示すように、ディストリビュータ10の係止部13を収納する。具体的には、クライミング装置40でディストリビュータ10を仮支持し、この状態で、ディストリビュータ10の係止部13を収納する。
ステップS21では、図13に示すように、クライミング装置40を駆動して、ディストリビュータ10を1層分上昇させる。
ステップS22では、図13に示すように、ディストリビュータ10の係止部13を引き出して、(n+1)階の床に係止させる。
ステップS22では、ステップS13~S21を繰り返す。
【0022】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)コンクリート配管15が設けられたディストリビュータ10を囲んで上部フレーム20および下部フレーム30を設けるとともに、ディストリビュータ10、上部フレーム20、および下部フレーム30に、側方に向かって突没可能な係止部13、23、33を設けて、ディストリビュータ10、上部フレーム20、および下部フレーム30のそれぞれの係止部13、23、33が各階の床に係止可能な構成とした。
よって、上部フレーム20をチェーンブロック60で上方に引き上げてクライミングさせた後、上部フレーム20の係止部23で上階の床に係止させる工程、下部フレーム30をチェーンブロック61で上方に引き上げてクライミングさせた後、下部フレーム30の係止部33で上階の床に係止させる工程、ディストリビュータ10をクライミング装置40でクライミングさせた後、ディストリビュータ10の係止部13で上階の床に係止させる工程、を順番に繰り返すことで、コンクリート配管15が設けられたディストリビュータ10について、安定性を保持しながらクライミングすることができる。
言い換えると、コンクリート配管15を有するディストリビュータ10をクライミングさせる際、ディストリビュータ10、上部フレーム20、および下部フレーム30のそれぞれの係止部13、23、33のうちの2つが、必ず各階の床に係止されるため、ディストリビュータ10を、安定性を保持しながらクライミングさせることができる。
【0023】
(2)ディストリビュータ10をクライミングさせる場合、ジャッキ44で上ユニット43を上昇させることで、下爪45はガイド穴16に係止されていないが、上爪46がガイド穴16に係止されて、ディストリビュータ10が上昇する第1工程と、ジャッキ44で上ユニット43を下降させることで、上爪46のガイド穴16に対する係止が解除されるが、下爪45がガイド穴16に係止されてディストリビュータ10がクライミング装置40に仮支持される第2工程と、を交互に繰り返す。これにより、コンクリート配管15が設けられたディストリビュータ10を、容易かつ確実に上昇させることできる。また、ディストリビュータクライミングシステム1では、上部フレーム20に設けたクライミング装置40により、新たな揚重装置を使用することなく、ディストリビュータ10を上方に移動させることができる。
(3)上部フレーム20および下部フレーム30のH形鋼である水平部材22、32の上面にガイドローラ50を設けたので、ガイドローラ50へのアクセスが容易となり、ガイドローラ50のメンテナンスやローラ51の突出寸法dの調整が容易である。
【0024】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態では、上部フレーム20および下部フレーム30のH形鋼である水平部材22、32の上面にガイドローラ50を設けたが、これに限らず、水平部材22、32の内部にガイドローラ50Aを設けてもよい。このガイドローラ50Aは、図14(a)および図14(b)に示すように、ローラ51と、水平方向を回転軸Rとしてローラ51を支持するローラ支持部52と、水平部材22、32の内部に取り付けられてローラ支持部52が載置された基部53と、水平部材22、32のウエブに螺合されてローラ51の突出寸法を調整する調整ボルト54と、を備える。このガイドローラ50Aでは、調整ボルト54を回転させることで、ローラ51の水平部材22、32からの突出寸法dを調整可能となっている。このガイドローラ50Aによれば、支柱11および鉛直部材21からの反力が水平部材22、32の中心軸近傍に作用するから、水平部材22、32に回転モーメントが生じるのを抑制できる。
【符号の説明】
【0025】
1…ディストリビュータクライミングシステム 2…建物躯体(構造物)
3…床開口部
10…ディストリビュータ 11…支柱 12…ブーム 13…係止部
14…伸縮ベース 15…コンクリート配管 16…ガイド穴 17…ガイドレール
20…上部フレーム 21…鉛直部材 22…水平部材
23…係止部 24…係止機構
30…下部フレーム 31…鉛直部材 32…水平部材
33…係止部 34…係止機構
40…クライミング装置 41…反力爪 42…下ユニット 43…上ユニット
44…ジャッキ 45…下爪 46…上爪
50、50A…ガイドローラ 51…ローラ 52…ローラ支持部
53…基部 54…調整ボルト 60、61…チェーンブロック

図1
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