(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101613
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】人工多能性幹細胞を作製するための化学的手法と遺伝的手法の組み合わせ法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230713BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20230713BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230713BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/545
A61P43/00 105
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085020
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2021099098の分割
【原出願日】2009-03-17
(31)【優先権主張番号】61/069,956
(32)【優先日】2008-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/197,986
(32)【優先日】2008-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501244222
【氏名又は名称】ザ スクリプス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】デスポンツ キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】ディン シェン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ ホンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リン トンシャン
(72)【発明者】
【氏名】リ ウェンリン
(72)【発明者】
【氏名】ズー サイヨン
(57)【要約】
【課題】哺乳動物細胞において多能性を誘導するための低分子の特定および使用、ならびに多能性を誘導する方法の提供。
【解決手段】(a)i)Octポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Klfポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびSoxポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む1つまたは複数の発現カセット;またはii)外因性Octポリペプチド、外因性Soxポリペプチド、および外因性Klfポリペプチドを該哺乳動物非多能性細胞に導入する工程;ならびに(b)該哺乳動物非多能性細胞と、GSK3インヒビター、MEKインヒビター、およびTGFβ受容体/ALK5インヒビターを接触させる工程を含む、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞療法のための治療的組成物を作製する方法であって、
(a)
(i) Octポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Klfポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびSoxポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む1つまたは複数の発現カセット;または
(ii) 外因性Octポリペプチド、外因性Soxポリペプチド、および外因性Klfポリペプチド
を体細胞、前駆細胞、または哺乳動物非多能性幹細胞に導入する工程;
(b) 該体細胞、前駆細胞、または哺乳動物非多能性幹細胞と、GSK3インヒビター、MEKインヒビター、およびTGFβ受容体/ALK5インヒビターを接触させる工程;ならびに
(c) 工程(a)および(b)から得られた該細胞を望む細胞タイプに分化させる工程
を含み、
該治療的組成物が、工程(c) から得られた該細胞を含む、
方法。
【請求項2】
OctポリペプチドがOct4である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
KlfポリペプチドがKlf4である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
SoxポリペプチドがSox2である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
体細胞、前駆細胞、または哺乳動物非多能性幹細胞が、ヒト細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
体細胞が線維芽細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前駆細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前駆細胞が神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
TGFβ受容体/ALK5インヒビターがSB431542およびA-83-01からなる群から選択され、
GSK3インヒビターがCHIR99021を含み、MEKインヒビターがPD0325901を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
細胞療法のための治療的組成物の製造のための混合物の使用であって、
該混合物が、
(a) 体細胞、前駆細胞、または非多能性幹細胞、ならびに
(b) GSK3インヒビター、MEKインヒビター、およびTGFβ受容体/ALK5インヒビター
を含み、
該体細胞、前駆細胞、または非多能性幹細胞が、
(i) Octポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、Klfポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびSoxポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む1つまたは複数の発現カセット;または
(ii) 外因性Octポリペプチド、外因性Soxポリペプチド、および外因性Klfポリペプチド
を含む、
使用。
【請求項11】
OctポリペプチドがOct4である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
KlfポリペプチドがKlf4である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
SoxポリペプチドがSox2である、請求項10記載の使用。
【請求項14】
体細胞、前駆細胞、または非多能性幹細胞が、ヒト細胞である、請求項10記載の使用。
【請求項15】
体細胞が線維芽細胞を含む、請求項10記載の使用。
【請求項16】
前駆細胞を含む、請求項10記載の使用。
【請求項17】
前駆細胞が神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
TGFβ受容体/ALK5インヒビターがSB431542およびA-83-01からなる群から選択され、
GSK3インヒビターがCHIR99021を含み、MEKインヒビターがPD0325901を含む、請求項10記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本願は、2008年3月17日に出願された米国特許仮出願第61/069,956号および2008年10月31日に出願された同第61/197,986号に係る優先権の恩典を主張する。これらはそれぞれ参照により組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
幹細胞は、全能性細胞または多能性細胞と分類されることが多い。全能性幹細胞は、あらゆるものに分化する能力を有し、すなわち、体内の異なる全てのタイプの細胞を生じさせる。全能性幹細胞の一例は受精卵細胞である。多能性幹細胞は、3つの主要な生殖細胞層に由来する体内の全ての細胞タイプ、または胚そのものを生じることができる。
【0003】
胚性幹細胞(ESC)などの多能性幹細胞は、多能性を維持しながら、すなわち、様々なタイプの細胞に分化する能力を維持しながら急速に増殖する。胚性幹細胞は細胞移植療法の有望なドナー源である。しかしながら、ヒトESCは、ヒト胚の使用に関する倫理問題および同種異系移植後の拒絶反応とも関連している。これらの問題は、患者の体細胞から多能性幹細胞を直接作製することによって克服できる可能性がある。体細胞核がESCと融合することによって胚性幹細胞に似た状態を獲得することから、「多能性誘導」因子の存在が示唆されている。最近、ESCにおいて高発現している4種類の転写因子(Oct-3/4、Sox2、KLF4、およびc-Myc)を、レトロウイルスを介してマウス線維芽細胞にトランスフェクションすることによって、人工多能性幹(iPS)細胞の作製がもたらされることが、以前の研究から示されていた。Takahashi, K. およびJ Yamanaka, S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126, 663-676 (2006)(非特許文献1); Okita, K., Ichisaka, T.およびJ Yamanaka, S. Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells. Nature 448, 313-317 (2007)(非特許文献2); Wernig, M. et al. In vitro reprogramming of fibroblasts into a pluripotent ES-cell-like state. Nature 448, 318-324 (2007)(非特許文献3); Maherali, N. et al. Directly reprogrammed fibroblasts show global epigenetic remodeling and widespread tissue contribution. Cell Stem Cell 1, 55-70 (2007)(非特許文献4); Meissner, A., Wernig, M.およびJaenisch, R. Direct reprogramming of genetically unmodified fibroblasts into pluripotent stem cells. Nature Biotechnol. 25, 1177-1181 (2007)(非特許文献5); Takahashi, K. et al. Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 131, 861-872 (2007)(非特許文献6); Yu, J. et al. Induced pluripotent stem cell lines derived from human somatic cells. Science 318, 1917-1920 (2007)(非特許文献7); Nakagawa, M. et al. Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts Nature Biotechnol. 26, 101-106 (2007)(非特許文献8); Wernig, M., Meissner, A., Cassady, J. P.およびJaenisch, R. c-Myc is dispensable for direct reprogramming of mouse fibroblasts. Cell Stem Cell 2, 10-12(2008)(非特許文献9)を参照されたい。iPS細胞は、テラトーマ形成およびキメラの寄与により判断されるように、形態、増殖、および多能性の点でESCと似ている。
【0004】
マウス体細胞およびヒト体細胞から人工多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングにおいて、定義された遺伝子操作、すなわち、マウスまたはヒトの胚性幹(ES)細胞において高度におよび/または特異的に発現する数種類の遺伝子のウイルス形質導入を用いるという最近のブレークスルーは、従来のヒトES細胞に関連する議論に関係なく、様々な用途(例えば、細胞療法または創薬)のための患者特異的幹細胞を作製する大きな機会、ならびにエピジェネティックな逆プロセスを研究する大きな機会を切り開いた。iPS細胞手法の最終的な臨床用途には、主として、系列特異的細胞タイプの均一な集団を作製し、ならびに現在のiPS細胞遺伝子操作の欠点に関連するリスクおよび低い効率/遅い体内動態を無くすために、ヒトPS細胞を定方向性分化する方法が必要であると考えられる。最近の研究から、以前より必要とされた4種類の遺伝子の1つであるcMycが、iPS細胞作製における過剰発現に必ずしも必要ではないことが分かっている。Nakagawa, M. et al. Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts Nature Biotechnol. 26, 101-106 (2007)(非特許文献8); Wernig, M., Meissner, A., Cassady, J. P.およびJaenisch, R. c-Myc is dispensable for direct reprogramming of mouse fibroblasts. Cell Stem Cell 2, 10-12(2008)(非特許文献9)を参照されたい。しかしながら、cMycの非存在下では、リプログラミング効率はかなり低く、リプログラミング体内動態もかなり遅かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takahashi, K. およびJ Yamanaka, S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126, 663-676 (2006)
【非特許文献2】Okita, K., Ichisaka, T.およびJ Yamanaka, S. Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells. Nature 448, 313-317 (2007)
【非特許文献3】Wernig, M. et al. In vitro reprogramming of fibroblasts into a pluripotent ES-cell-like state. Nature 448, 318-324 (2007)
【非特許文献4】Maherali, N. et al. Directly reprogrammed fibroblasts show global epigenetic remodeling and widespread tissue contribution. Cell Stem Cell 1, 55-70 (2007)
【非特許文献5】Meissner, A., Wernig, M.およびJaenisch, R. Direct reprogramming of genetically unmodified fibroblasts into pluripotent stem cells. Nature Biotechnol. 25, 1177-1181 (2007)
【非特許文献6】Takahashi, K. et al. Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 131, 861-872 (2007)
【非特許文献7】Yu, J. et al. Induced pluripotent stem cell lines derived from human somatic cells. Science 318, 1917-1920 (2007)
【非特許文献8】Nakagawa, M. et al. Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts Nature Biotechnol. 26, 101-106 (2007)
【非特許文献9】Wernig, M., Meissner, A., Cassady, J. P.およびJaenisch, R. c-Myc is dispensable for direct reprogramming of mouse fibroblasts. Cell Stem Cell 2, 10-12(2008)
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な概要
本発明は、哺乳動物細胞から多能性幹細胞へのリプログラミングまたは脱分化を誘導する作用物質をスクリーニングする方法を提供する。一部の態様において、前記方法は、
(a)トランスフェクトされた細胞を作製するために、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つを非多能性細胞に導入する工程;
(b)トランスフェクトされた細胞と、異なる作用物質のライブラリーとを接触させる工程;
(c)接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程;ならびに
(d)幹細胞の特徴の発生と、ライブラリー由来の特定の作用物質とを相関付け、それによって、多能性幹細胞への細胞の脱分化を刺激する作用物質を特定する工程
を含む。
【0007】
一部の態様において、工程(a)は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、非多能性細胞に導入することを含む。
【0008】
一部の態様において、工程(a)は、外因性Octポリペプチド、外因性Klfポリペプチド、外因性Mycポリペプチド、および外因性Soxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つを、非多能性細胞に導入することを含む。
【0009】
一部の態様において、特定の作用物質は50~1500ダルトンである。
【0010】
一部の態様において、工程(a)は、2つの発現カセットを細胞に導入することを含む。ここで、それぞれの発現カセットは、異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、該タンパク質は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択され、該群の残りのメンバーは細胞に導入されない。
【0011】
一部の態様において、工程(a)は、3つの発現カセットを細胞に導入することを含む。ここで、それぞれの発現カセットは、異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、該タンパク質は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択され、かつ該群の残りのメンバーは細胞に導入されない。
【0012】
一部の態様において、細胞はヒト細胞である。一部の態様において、細胞は非ヒト哺乳動物細胞である。一部の態様において、非多能性細胞は前駆細胞である。一部の態様において、前駆細胞は、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である。
【0013】
一部の態様において、OctポリペプチドはOct4であり、KlfポリペプチドはKlf4であり、Mycポリペプチドはc-Mycであり、かつSoxポリペプチドはSox2である。
【0014】
本発明はまた、多能性幹細胞の特徴を有する哺乳動物細胞をスクリーニングする方法を提供する。一部の態様において、前記方法は、
(a)非多能性細胞の増殖が阻害されかつ多能性幹細胞の増殖が促進されるように、細胞とMAPK/ERKキナーゼ(MEK)インヒビターとを接触させる工程;および
(b)接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程
を含む。
【0015】
一部の態様において、前記方法は、
工程(a)の前に、前記細胞と作用物質ライブラリーとを接触させる工程;および
工程(b)の後に、工程(b)の結果に基づいて、多能性幹細胞を誘導する作用物質を選択する工程
を含む。
【0016】
一部の態様において、細胞はヒト細胞である。一部の態様において、細胞は、マウス細胞、イヌ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ラット細胞、および非ヒト霊長類細胞である。
【0017】
一部の態様において、MEKインヒビターはPD0325901である。
【0018】
本発明はまた、人工多能性幹細胞を哺乳動物非多能性細胞から作製する方法を提供する。一部の態様において、前記方法は、
(a)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの1つまたは複数を、非多能性細胞に導入する工程;
(b)該細胞とH3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む。
【0019】
一部の態様において、工程(a)は、非多能性細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される1つまたは複数の外因性ポリペプチドとを接触させることを含む。一部の態様において、工程(a)は、
i.非多能性細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される1つまたは複数の外因性ポリペプチドとの接触、
ii.その後に続く、該外因性ポリペプチドの非存在下での細胞の培養
のサイクルを少なくとも2回(例えば、2回、3回、4回、5回、またはそれ以上)含む。
【0020】
一部の態様において、工程(a)は、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、非多能性細胞に導入することを含む。
【0021】
一部の態様において、前記方法は、接触させた細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程をさらに含む。
【0022】
一部の態様において、Octポリペプチドの発現のための発現カセットおよびSoxポリペプチドの発現のための発現カセットが非多能性細胞に導入される。
【0023】
一部の態様において、導入する工程は、KLFポリペプチドおよびOctポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、非多能性細胞に導入することを含み、Mycポリペプチドおよび/またはSoxポリペプチドのための発現カセットは該細胞に導入されない。
【0024】
一部の態様において、KlfポリペプチドはKlf4であり、OctポリペプチドはOct4である。
【0025】
一部の態様において、非多能性細胞は体細胞である。
【0026】
一部の態様において、非多能性細胞は線維芽細胞である。
【0027】
一部の態様において、Mycポリペプチドの発現のための発現カセットもKlfポリペプチドの発現のための発現カセットも非多能性細胞に導入されない。
【0028】
一部の態様において、導入する工程はインビボで行われる。一部の態様において、導入する工程はインビトロで行われる。
【0029】
一部の態様において、前記方法は、
(c)多能性幹細胞の特徴を示す細胞を選択する工程
をさらに含む。
【0030】
一部の態様において、非多能性細胞を動物から得、かつ人工多能性幹細胞を望ましい細胞タイプに分化させる。
【0031】
一部の態様において、望ましい細胞タイプは動物に導入される。一部の態様において、動物はヒトである。一部の態様において、動物は非ヒト動物である。
【0032】
一部の態様において、選択された細胞は、Oct4の発現のための外因性発現カセットを含まない。
【0033】
一部の態様において、作用物質はH3K9メチル化を阻害する。一部の態様において、H3K9メチル化を阻害する作用物質はBIX01294である。
【0034】
一部の態様において、細胞はヒト細胞である。一部の態様において、細胞はマウス細胞である。一部の態様において、非多能性細胞は前駆細胞である。一部の態様において、前駆細胞は神経前駆細胞である。
【0035】
一部の態様において、導入する工程は、
第1の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第1のベクターであって、該第1の発現カセットがKlf4をコードするポリヌクレオチドを含む、第1のベクター;
第2の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第2のベクターであって、該第2の発現カセットがSox2をコードするポリヌクレオチドを含む、第2のベクター;および
第3の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第3のベクターであって、該第3の発現カセットがc-Mycをコードするポリヌクレオチドを含む、第3のベクター
を導入することを含む。
【0036】
一部の態様において、ベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、標準的な非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターである。
【0037】
本発明はまた、哺乳動物細胞とH3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とからなる混合物を含み、該細胞は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Soxポリペプチド、およびMycポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数を発現し;ならびに/または、外因性Octポリペプチド、外因性Klfポリペプチド、外因性Soxポリペプチド、および外因性Mycポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数と接触している。
【0038】
一部の態様において、細胞は、第1の組換え発現カセット、第2の組換え発現カセット、および第3の組換え発現カセットを含み、該第1の発現カセットは、Klfポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み、該第2の発現カセットは、Soxポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み、該第3の発現カセットは、Mycポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含む。
【0039】
一部の態様において、作用物質はH3K9メチル化を阻害する。一部の態様において、H3K9メチル化を阻害する作用物質は、BIX01294である。
【0040】
一部の態様において、細胞は、1つまたは複数のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターを含み、該1つまたは複数のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターは、前記第1の発現カセット、前記第2の発現カセット、および前記第3の発現カセットを含む。
【0041】
一部の態様において、混合物は、第1、第2、および第3のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターを含み、該第1のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターは、前記第1の発現カセットを含み、該第2のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターは、前記第2の発現カセットを含み、かつ該第3のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターは、前記第3の発現カセットを含む。
【0042】
一部の態様において、細胞はヒト細胞である。一部の態様において、細胞はマウス細胞である。一部の態様において、細胞は前駆細胞を含む。一部の態様において、前駆細胞は、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である。
【0043】
一部の態様において、KlfポリペプチドはKlf4であり、Mycポリペプチドはc-Mycであり、SoxポリペプチドはSox2である。
【0044】
本発明はまた、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質の少なくとも1つを内因的に発現する哺乳動物細胞を提供し、該細胞は、該群の少なくとも1つのタンパク質を内因的に発現せず、内因的に発現されないタンパク質は、該細胞に存在する異種組換え発現カセットによってコードされるRNAから発現され、該細胞は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドをそれぞれ内因的または異種的に発現し、異種発現カセットからのタンパク質の発現により、該細胞の非多能性細胞から多能性幹細胞へのリプログラミングまたは脱分化が生じる。
【0045】
一部の態様において、OctポリペプチドはOct4であり、KlfポリペプチドはKlf4であり、Mycポリペプチドはc-Mycであり、かつSoxポリペプチドはSox2である。一部の態様において、細胞は、SoxポリペプチドおよびMycポリペプチドを内因的に発現し、かつOctポリペプチドおよびKlfポリペプチドを異種的に発現する。一部の態様において、OctポリペプチドはOct4であり、KlfポリペプチドはKlf4であり、Mycポリペプチドはc-Mycであり、かつSoxポリペプチドはSox2である。
【0046】
本発明はまた、細胞においてOct4発現を誘導する方法を提供する。一部の態様において、前記方法は、細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、細胞におけるOct4発現を誘導する工程を含む。
【0047】
一部の態様において、接触させる工程の直前に、細胞はOct4を発現しない。一部の態様において、接触させた細胞は多能性細胞でない。一部の態様において、接触させる工程の後に、細胞は多能性になるように誘導される。
【0048】
本発明はまた、非多能性細胞を多能性細胞に誘導する方法を提供する。一部の態様において、前記方法は、非多能性細胞と多能性を誘導する1つもしくは複数の作用物質とを接触させる、かつ/または多能性を誘導するタンパク質を発現するように発現カセットを該細胞に導入する工程であって、該細胞がフィーダー細胞上で培養されず、かつ該細胞は固体培養表面に接着される工程を含む。一部の態様において、前記方法は、接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程をさらに含む。
【0049】
一部の態様において、細胞は、マトリゲル、細胞外マトリックス(ECM)またはECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、およびコラーゲンからなる群より選択される分子テザーにより固体培養表面に接着される。
【0050】
一部の態様において、接触させる工程は、
(a)Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、非多能性細胞に導入する工程;
(b)該細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む。
【0051】
本発明はまた、人工多能性幹細胞を哺乳動物非多能性細胞から作製する方法を提供する。一部の態様において、前記方法は、
(a)該細胞と、
H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質(BIXを含むが、これに限定されない);
L型Caチャンネルアゴニスト(BayKを含むが、これに限定されない);
cAMP経路のアクチベーター(フォルスコリンを含むが、これに限定されない);
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター(RG108または5-アザ-Cを含むが、これに限定されない);
核受容体リガンド(デキサメタゾンを含むが、これに限定されない);
GSK3インヒビター(CHIR99021を含むが、これに限定されない);
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター(SB431542、A-83-01、または2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジンを含むが、これに限定されない);
HDACインヒビター(TSA、VPA、酪酸ナトリウム、SAHAなどを含むが、これに限定されない);および
Erkインヒビター
のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上)と
を接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程を含む。
【0052】
一部の態様において、前記方法は、接触させた細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程をさらに含む。
【0053】
一部の態様において、前記方法は、
(a)前記細胞と、
i.H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質とを、ならびに
ii.L型Caチャンネルアゴニスト(BayKを含むが、これに限定されない);
cAMP経路のアクチベーター(フォルスコリンを含むが、これに限定されない);
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター(RG108または5-アザ-Cを含むが、これに限定されない);
核受容体リガンド(デキサメタゾンを含むが、これに限定されない);
GSK3インヒビター(CHIR99021を含むが、これに限定されない);
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター(SB431542、A-83-01、または2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジンを含むが、これに限定されない);
HDACインヒビター(TSA、VPA、酪酸ナトリウム、SAHAなどを含むが、これに限定されない);および
Erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質とを
接触させる工程を含む。
【0054】
一部の態様において、前記方法は、
(b)Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、非多能性細胞に導入する工程をさらに含む。
【0055】
一部の態様において、Klf4およびOct4は細胞に導入される(任意で、MycおよびSoxは導入されない)。
【0056】
本発明はまた、
哺乳動物細胞と、
H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター,
HDACインヒビター;および
Erkインヒビター
のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上)と
の混合物を提供する。
【0057】
一部の態様において、混合物は、
i.H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
Erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む。
【0058】
一部の態様において、細胞は、Octポリペプチドの発現のための異種発現カセットおよびSoxポリペプチドの発現のための異種発現カセットを含む。
【0059】
一部の態様において、細胞は非多能性細胞である。一部の態様において、細胞は線維芽細胞である。
【0060】
一部の態様において、Mycポリペプチドの発現のための発現カセットもKlfポリペプチドの発現のための発現カセットも非多能性細胞に導入されない。
【0061】
本発明はまた、
H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質と、
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
Erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、組成物を提供する。
【0062】
本発明はまた、
i.H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
Erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、キットを提供する。
【0063】
一部の態様において、キットは哺乳動物細胞をさらに含む。
【0064】
本発明の一部の態様をすぐ下にクレーム形式で示した。
【0065】
1. 人工多能性幹細胞を哺乳動物非多能性細胞から作製する方法であって、
(a)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの1つまたは複数を該非多能性細胞に導入する工程;
(b)該細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む、方法。
2. 工程(a)が、前記非多能性細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される1つまたは複数の外因性ポリペプチドとを接触させることを含む、請求項1記載の方法。
3. 工程(a)が、
i. 前記非多能性細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される1つまたは複数の外因性ポリペプチドとの接触、
ii.その後に続く、該外因性ポリペプチドの非存在下での細胞の培養
のサイクルを少なくとも2回含む、請求項2記載の方法。
4. 工程(a)が、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを前記非多能性細胞に導入することを含む、請求項1記載の方法。
5. Octポリペプチドの発現のための発現カセットおよびSoxポリペプチドの発現のための発現カセットが前記非多能性細胞に導入される、請求項1記載の方法。
6. 導入する工程が、KLFポリペプチドおよびOctポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを前記非多能性細胞に導入することを含み、Mycポリペプチドおよび/またはSoxポリペプチドのための発現カセットが該細胞に導入されない、請求項1記載の方法。
7. KlfポリペプチドがKlf4であり、かつOctポリペプチドがOct4である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
8. 前記非多能性細胞が体細胞である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
9. 前記非多能性細胞が線維芽細胞である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
10. Mycポリペプチドの発現のための発現カセットもKlfポリペプチドの発現のための発現カセットも前記非多能性細胞に導入されない、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
11. 導入する工程がインビボで行われる、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
12. 導入する工程がインビトロで行われる、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
13. (c)多能性幹細胞の特徴を示す細胞を選択する工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
14. 前記非多能性細胞を動物から得、かつ前記人工多能性幹細胞を望ましい細胞タイプに分化させる、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
15. 前記望ましい細胞タイプが動物に導入される、請求項14記載の方法。
16. 前記動物がヒトである、請求項15記載の方法。
17. 前記動物が非ヒト動物である、請求項15記載の方法。
18. 選択された前記細胞がOct4の発現のための外因性発現カセットを含まない、請求項13記載の方法。
19. 前記作用物質がH3K9メチル化を阻害する、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
20. H3K9メチル化を阻害する前記作用物質がBIX01294である、請求項19記載の方法。
21. 前記細胞がヒト細胞である、請求項1~20いずれか一項記載の方法。
22. 前記細胞が、マウス細胞、イヌ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ラット細胞、および非ヒト霊長類細胞である、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
23. 前記非多能性細胞が前駆細胞である、請求項1~22のいずれか一項記載の方法。
24. 前記前駆細胞が、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、請求項23記載の方法。
25. 導入する工程が、
第1の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第1のベクターであって、該第1の発現カセットがKlf4をコードするポリヌクレオチドを含む、第1のベクター;
第2の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第2のベクターであって、該第2の発現カセットがSox2をコードするポリヌクレオチドを含む、第2のベクター;および
第3の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第3のベクターであって、該第3の発現カセットがc-Mycをコードするポリヌクレオチドを含む、第3のベクター
を導入することを含む、請求項1または4~24のいずれか一項記載の方法。
26. ベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターである、請求項1または4~25のいずれか一項記載の方法。
27. 哺乳動物細胞から多能性幹細胞へのリプログラミングまたは脱分化を誘導する作用物質をスクリーニングする方法であって、
(a)トランスフェクトされた細胞を作製するために、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つを非多能性細胞に導入する工程;
(b)該トランスフェクトされた細胞と、異なる作用物質のライブラリーとを接触させる工程;
(c)接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程;ならびに
(d)幹細胞の特徴の発生と、ライブラリー由来の特定の作用物質とを相関付け、それによって、多能性幹細胞への細胞の脱分化を刺激する作用物質を特定する工程
を含む、方法。
28. 工程(a)が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、前記非多能性細胞に導入することを含む、請求項27記載の方法。
29. 工程(a)が、外因性Octポリペプチド、外因性Klfポリペプチド、外因性Mycポリペプチド、および外因性Soxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つを、前記非多能性細胞に導入することを含む、請求項27記載の方法。
30. 特定の作用物質が50~1500ダルトンである、請求項27~29記載の方法。
31. 工程(a)が、2つの発現カセットを前記細胞に導入することを含み、それぞれの発現カセットが、異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、該タンパク質が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択され、かつ該群の残りのメンバーが該細胞に導入されない、請求項27記載の方法。
32. 工程(a)が、3つの発現カセットを前記細胞に導入することを含み、それぞれの発現カセットが、異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、該タンパク質が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択され、かつ該群の残りのメンバーが該細胞に導入されない、請求項27記載の方法。
33. 前記細胞がヒト細胞である、請求項27~32のいずれか一項記載の方法。
34. 前記細胞が非ヒト哺乳動物細胞である、請求項27~33のいずれか一項記載の方法。
35. 前記非多能性細胞が前駆細胞である、請求項27~34のいずれか一項記載の方法。
36. 前記前駆細胞が、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、請求項35記載の方法。
37. OctポリペプチドがOct4であり、KlfポリペプチドがKlf4であり、Mycポリペプチドがc-Mycであり、かつSoxポリペプチドがSox2である、請求項27~36のいずれか一項記載の方法。
38. 多能性幹細胞の特徴を有する哺乳動物細胞をスクリーニングする方法であって、
(a)非多能性細胞の増殖が阻害されかつ多能性幹細胞の増殖が促進されるように、細胞とMAPK/ERKキナーゼ(MEK)インヒビターとを接触させる工程;および
(b)接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程
を含む、方法。
39. 工程(a)の前に、前記細胞と作用物質ライブラリーとを接触させる工程;および
工程(b)の後に、工程(b)の結果に基づいて、多能性幹細胞を誘導する作用物質を選択する工程
を含む、請求項38記載の方法。
40. 前記細胞がヒト細胞である、請求項38~39のいずれか一項記載の方法。
41. 前記細胞が、マウス細胞、イヌ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ラット細胞、および非ヒト霊長類細胞である、請求項38~39のいずれか一項記載の方法。
42. MEKインヒビターがPD0325901である、請求項38~41のいずれか一項記載の方法。
43. 哺乳動物細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質との混合物であって、
該細胞が、
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Soxポリペプチド、およびMycポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数を発現する;ならびに/または
外因性Octポリペプチド、外因性Klfポリペプチド、外因性Soxポリペプチド、および外因性Mycポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数と接触している、
混合物。
44. 前記細胞が、第1の組換え発現カセット、第2の組換え発現カセット、および第3の組換え発現カセットを含み、
該第1の発現カセットが、Klfポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み、
該第2の発現カセットが、Soxポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み、かつ
該第3の発現カセットが、Mycポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含む、
請求項43記載の混合物。
45. 前記作用物質がH3K9メチル化を阻害する、請求項43~44のいずれか一項記載の混合物。
46. H3K9メチル化を阻害する前記作用物質がBIX01294である、請求項45記載の方法。
47. 前記細胞が、1つまたは複数のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターを含み、
該1つまたは複数のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、第1の発現カセット、第2の発現カセット、および第3の発現カセットを含む、
請求項43~46のいずれか一項記載の混合物。
48. 前記混合物が、第1、第2、および第3のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターを含み、
該第1のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、前記第1の発現カセットを含み、
該第2のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、前記第2の発現カセットを含み、
該第3のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、前記第3の発現カセットを含む、
請求項47記載の混合物。
49. 前記細胞がヒト細胞である、請求項43~48のいずれか一項記載の混合物。
50. 前記細胞が、マウス細胞、イヌ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ラット細胞、および非ヒト霊長類細胞である、請求項43~48のいずれか一項記載の混合物。
51. 前記細胞が前駆細胞を含む、請求項43~50のいずれか一項記載の混合物。
52. 前記前駆細胞が神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、請求項51記載の混合物。
53. KlfポリペプチドがKlf4であり、Mycポリペプチドがc-Mycであり、かつSoxポリペプチドがSox2である、請求項43~52のいずれか一項記載の混合物。
54. Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質の少なくとも1つを内因的に発現する、哺乳動物細胞であって、
該細胞が、該群の少なくとも1つのタンパク質を内因的に発現せず、
内因的に発現されない該タンパク質が、該細胞に存在する異種組換え発現カセットによってコードされるRNAから発現され、
該細胞が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドをそれぞれ内因的または異種的に発現し、かつ
異種発現カセットからの該タンパク質の発現により、該細胞の非多能性細胞から多能性幹細胞へのリプログラミングまたは脱分化が生じる、
哺乳動物細胞。
55. OctポリペプチドがOct4であり、KlfポリペプチドがKlf4であり、Mycポリペプチドがc-Mycであり、かつSoxポリペプチドがSox2である、請求項54記載の細胞。
56. SoxポリペプチドおよびMycポリペプチドを内因的に発現し、かつOctポリペプチドおよびKlfポリペプチドを異種的に発現する、請求項54~55のいずれか一項記載の細胞。
57. OctポリペプチドがOct4であり、KlfポリペプチドがKlf4であり、Mycポリペプチドがc-Mycであり、かつSoxポリペプチドがSox2である、請求項56記載の細胞。
58. 細胞においてOct4発現を誘導する方法であって、
該細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、該細胞におけるOct4発現を誘導する工程
を含む、方法。
59. 接触させる工程の直前に、前記細胞がOct4を発現しない、請求項58記載の方法。
60. 接触させた前記細胞が多能性細胞でない、請求項58~59のいずれか一項記載の方法。
61. 接触させる工程の後に、前記細胞が多能性になるように誘導される、請求項58~59のいずれか一項記載の方法。
62. 非多能性細胞を多能性細胞に誘導する方法であって、
該非多能性細胞と多能性を誘導する1つもしくは複数の作用物質とを接触させる、かつ/または多能性を誘導するタンパク質を発現するように発現カセットを該細胞に導入する工程であって、該細胞が、フィーダー細胞上で培養されず、かつ固体培養表面に接着される工程
を含む、方法。
63. 前記細胞が、マトリゲル、細胞外マトリックス(ECM)またはECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、およびコラーゲンからなる群より選択される分子テザーにより固体培養表面に接着される、請求項62記載の方法。
64. 接触させる工程が、請求項1または請求項1の従属項に記載の工程を含む、請求項62記載の方法。
65. 人工多能性幹細胞を哺乳動物非多能性細胞から作製する方法であって、
(a)該細胞と、
H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つと
を接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む、方法。
66. 接触させる工程が、
(a)前記細胞と、
i.H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;ならびに
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質
のうちの少なくとも2つと
を接触させることを含む、請求項65記載の方法。
67. (b)Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、前記非多能性細胞に導入する工程
をさらに含む、請求項65または66記載の方法。
68. Klf4およびOct4が前記細胞に導入される、請求項65~67のいずれか一項記載の方法。
69. 哺乳動物細胞と、
H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つと
の混合物。
70. 混合物が、
i. H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質と、
ii. L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、請求項69記載の混合物。
71. 前記細胞が、Octポリペプチド発現のための異種発現カセットおよびSoxポリペプチド発現のための異種発現カセットを含む、請求項69~70のいずれか一項記載の混合物。
72. 前記細胞が非多能性細胞である、請求項69~71のいずれか一項記載の混合物。
73. 前記細胞が線維芽細胞である、請求項69~72のいずれか一項記載の混合物。
74. Mycポリペプチドの発現のための発現カセットもKlfポリペプチドの発現のための発現カセットも非多能性細胞に導入されない、請求項69~73のいずれか一項記載の混合物。
75. H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つ
を含む、組成物。
76. i. H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、請求項75記載の組成物。
77. H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つを含む、キット。
78. i.H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、請求項77記載のキット。
79. 哺乳動物細胞をさらに含む、請求項77または78記載のキット。
【0066】
本発明の他の態様は本願全体を読めば明らかであると考えられる。
[本発明1001]
人工多能性幹細胞を哺乳動物非多能性細胞から作製する方法であって、
(a)該細胞と、
H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも1つと
を接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む、方法。
[本発明1002]
接触させる工程が、
(a)前記細胞と、
i.H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;ならびに
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質
のうちの少なくとも2つと
を接触させることを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
(b)Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、前記非多能性細胞に導入する工程
をさらに含む、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
Klf4およびOct4が前記細胞に導入される、本発明1003の方法。
[本発明1005]
人工多能性幹細胞を哺乳動物非多能性細胞から作製する方法であって、
(a)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの1つもしくは複数を該非多能性細胞に導入するか、または該非多能性細胞におけるOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの1つもしくは複数の発現を改変する工程;
(b)該細胞とH3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む、方法。
[本発明1006]
工程(a)が、前記非多能性細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される1つまたは複数の外因性ポリペプチドとを接触させることを含む、本発明1005の方法。
[本発明1007]
工程(a)が、
i.前記非多能性細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される1つまたは複数の外因性ポリペプチドとの接触、
ii.その後に続く、該外因性ポリペプチドの非存在下での該細胞の培養
のサイクルを少なくとも2回含む、本発明1006の方法。
[本発明1008]
工程(a)が、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、前記非多能性細胞に導入することを含む、本発明1005の方法。
[本発明1009]
Octポリペプチドの発現のための発現カセットおよびSoxポリペプチドの発現のための発現カセットが前記非多能性細胞に導入される、本発明1005の方法。
[本発明1010]
導入する工程が、KLFポリペプチドおよびOctポリペプチドの発現のための1つまたは複数の発現カセットを前記非多能性細胞に導入することを含み、Mycポリペプチドおよび/またはSoxポリペプチドのための発現カセットが該細胞に導入されない、本発明1005の方法。
[本発明1011]
KlfポリペプチドがKlf4であり、かつOctポリペプチドがOct4である、本発明1005の方法。
[本発明1012]
前記非多能性細胞が体細胞である、本発明1005の方法。
[本発明1013]
前記非多能性細胞が線維芽細胞である、本発明1005の方法。
[本発明1014]
Mycポリペプチドの発現のための発現カセットもKlfポリペプチドの発現のための発現カセットも前記非多能性細胞に導入されない、本発明1005の方法。
[本発明1015]
導入する工程がインビボで行われる、本発明1005の方法。
[本発明1016]
導入する工程がインビトロで行われる、本発明1005の方法。
[本発明1017]
(c)多能性幹細胞の特徴を示す細胞を選択する工程
をさらに含む、本発明1005の方法。
[本発明1018]
前記非多能性細胞を動物から得、かつ前記人工多能性幹細胞を望ましい細胞タイプに分化させる、本発明1005の方法。
[本発明1019]
前記望ましい細胞タイプが動物に導入される、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記動物がヒトである、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記動物が非ヒト動物である、本発明1019の方法。
[本発明1022]
選択された前記細胞が、Oct4の発現のための外因性発現カセットを含まない、本発明1017の方法。
[本発明1023]
前記作用物質がH3K9メチル化を阻害する、本発明1005の方法。
[本発明1024]
H3K9メチル化を阻害する前記作用物質がBIX01294である、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記細胞がヒト細胞である、本発明1005の方法。
[本発明1026]
前記細胞が、マウス細胞、イヌ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ラット細胞、および非ヒト霊長類細胞である、本発明1005の方法。
[本発明1027]
前記非多能性細胞が前駆細胞である、本発明1005の方法。
[本発明1028]
前記前駆細胞が、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、本発明1027の方法。
[本発明1029]
導入する工程が、
第1の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第1のベクターであって、該第1の発現カセットがKlf4をコードするポリヌクレオチドを含む、第1のベクター;
第2の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第2のベクターであって、該第2の発現カセットがSox2をコードするポリヌクレオチドを含む、第2のベクター;および
第3の発現カセットに機能的に連結されたプロモーターを含む、第3のベクターであって、該第3の発現カセットがc-Mycをコードするポリヌクレオチドを含む、第3のベクター
を導入することを含む、本発明1005の方法。
[本発明1030]
ベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターである、本発明1005の方法。
[本発明1031]
哺乳動物細胞から多能性幹細胞へのリプログラミングまたは脱分化を誘導する作用物質をスクリーニングする方法であって、
(a)トランスフェクトされた細胞を作製するために、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つを非多能性細胞に導入する工程;
(b)該トランスフェクトされた細胞と、異なる作用物質のライブラリーとを接触させる工程;
(c)接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程;および
(d)幹細胞の特徴の発生と、ライブラリー由来の特定の作用物質とを相関付け、それによって、多能性幹細胞への細胞の脱分化を刺激する作用物質を特定する工程
を含む、方法。
[本発明1032]
工程(a)が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つの発現のための1つまたは複数の発現カセットを、前記非多能性細胞に導入することを含む、本発明1031の方法。
[本発明1033]
工程(a)が、外因性Octポリペプチド、外因性Klfポリペプチド、外因性Mycポリペプチド、および外因性Soxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つを、前記非多能性細胞に導入することを含む、本発明1031の方法。
[本発明1034]
前記特定の作用物質が50~1500ダルトンである、本発明1031の方法。
[本発明1035]
工程(a)が、2つの発現カセットを前記細胞に導入することを含み、それぞれの発現カセットが、異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、該タンパク質が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択され、かつ該群の残りのメンバーが該細胞に導入されない、本発明1031の方法。
[本発明1036]
工程(a)が、3つの発現カセットを前記細胞に導入することを含み、それぞれの発現カセットが、異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、該タンパク質が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択され、かつ該群の残りのメンバーが該細胞に導入されない、本発明1031の方法。
[本発明1037]
前記細胞がヒト細胞である、本発明1031の方法。
[本発明1038]
前記細胞が非ヒト哺乳動物細胞である、本発明1031の方法。
[本発明1039]
前記非多能性細胞が前駆細胞である、本発明1031の方法。
[本発明1040]
前駆細胞が、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、本発明1040の方法。
[本発明1041]
OctポリペプチドがOct4であり、KlfポリペプチドがKlf4であり、Mycポリペプチドがc-Mycであり、かつSoxポリペプチドがSox2である、本発明1031の方法。
[本発明1042]
多能性幹細胞の特徴を有する哺乳動物細胞をスクリーニングする方法であって、
(a)非多能性細胞の増殖が阻害されかつ多能性幹細胞の増殖が促進されるように、細胞とMAPK/ERKキナーゼ(MEK)インヒビターとを接触させる工程;および
(b)接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程
を含む、方法。
[本発明1043]
工程(a)の前に、前記細胞と作用物質ライブラリーとを接触させる工程;および
工程(b)の後に、工程(b)の結果に基づいて、多能性幹細胞を誘導する作用物質を選択する工程
を含む、本発明1042の方法。
[本発明1044]
前記細胞がヒト細胞である、本発明1042の方法。
[本発明1045]
前記細胞が、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、ラット、および非ヒト霊長類細胞である、本発明1042の方法。
[本発明1046]
MEKインヒビターがPD0325901である、本発明1042の方法。
[本発明1047]
哺乳動物細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質との混合物であって、
該細胞が、
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Soxポリペプチド、およびMycポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数を発現する;ならびに/または
外因性Octポリペプチド、外因性Klfポリペプチド、外因性Soxポリペプチド、および外因性Mycポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数と接触している、
混合物。
[本発明1048]
前記細胞が、第1の組換え発現カセット、第2の組換え発現カセット、および第3の組換え発現カセットを含み、
該第1の発現カセットが、Klfポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み、
該第2の発現カセットが、Soxポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み、
該第3の発現カセットが、Mycポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含む、
本発明1047の混合物。
[本発明1049]
前記作用物質がH3K9メチル化を阻害する、本発明1047の混合物。
[本発明1050]
H3K9メチル化を阻害する前記作用物質がBIX01294である、本発明1049の方法。
[本発明1051]
前記細胞が、1つまたは複数のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターを含み、
該1つまたは複数のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、第1の発現カセット、第2の発現カセット、および第3の発現カセットを含む、
本発明1047の混合物。
[本発明1052]
前記混合物が、第1、第2、および第3のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターを含み、
該第1のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、第1の発現カセットを含み、
該第2のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、第2の発現カセットを含み、かつ
該第3のレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、非ウイルスプラスミドベクター、またはエピソーム発現ベクターが、第3の発現カセットを含む、
本発明1051の混合物。
[本発明1053]
前記細胞がヒト細胞である、本発明1047の混合物。
[本発明1054]
前記細胞が、マウス細胞、イヌ細胞、ウシ細胞、ブタ細胞、ラット細胞、および非ヒト霊長類細胞である、本発明1047の混合物。
[本発明1055]
前記細胞が前駆細胞を含む、本発明1047の混合物。
[本発明1056]
前記前駆細胞が、神経前駆細胞、皮膚前駆細胞、または毛包前駆細胞である、本発明1055の混合物。
[本発明1057]
KlfポリペプチドがKlf4であり、Mycポリペプチドがc-Mycであり、かつSoxポリペプチドがSox2である、本発明1047の混合物。
[本発明1058]
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質の少なくとも1つを内因的に発現する、哺乳動物細胞であって、
該細胞が、該群の少なくとも1つのタンパク質を内因的に発現せず、
内因的に発現されない該タンパク質が、該細胞に存在する異種組換え発現カセットによってコードされるRNAから発現され、
該細胞が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドをそれぞれ内因的または異種的に発現し、かつ
異種発現カセットからの該タンパク質の発現により、該細胞の非多能性細胞から多能性幹細胞へのリプログラミングまたは脱分化が生じる、
哺乳動物細胞。
[本発明1059]
Oct ポリペプチドがOct 4であり、Klf ポリペプチドがKlf 4であり、Myc ポリペプチドがc-Mycであり、かつSox ポリペプチドがSox2である、本発明1058記載の細胞。
[本発明1060]
Sox ポリペプチドおよびMyc ポリペプチドを内因的に発現し、かつOct ポリペプチドおよびKlf ポリペプチドを異種的に発現する、本発明1058記載の細胞。
[本発明1061]
Oct ポリペプチドがOct 4であり、Klf ポリペプチドがKlf 4であり、Myc ポリペプチドがc-Mycであり、かつSox ポリペプチドがSox2である、本発明1060記載の細胞。
[本発明1062]
細胞においてOct4 発現を誘導する方法であって、
該細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させ、それによって、該細胞におけるOct4 発現を誘導する工程
を含む、方法。
[本発明1063]
接触させる工程の直前に、前記細胞がOct4を発現しない、本発明1062記載の方法。
[本発明1064]
接触させた前記細胞が多能性細胞でない、本発明1062記載の方法。
[本発明1065]
接触させる工程の後に、前記細胞が多能性になるように誘導される、本発明1064記載の方法。
[本発明1066]
非多能性細胞を多能性細胞に誘導する方法であって、
該非多能性細胞と多能性を誘導する1つもしくは複数の作用物質とを接触させる、かつ/または多能性を誘導するタンパク質を発現するように発現カセットを該細胞に導入する工程であって、該細胞が、フィーダー細胞上で培養されず、かつ固体培養表面に接着される工程
を含む、方法。
[本発明1067]
前記細胞が、マトリゲル、細胞外マトリックス(ECM)またはECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、およびコラーゲンからなる群より選択される分子テザーにより固体培養表面に接着される、本発明1066の方法。
[本発明1068]
接触させる工程が、本発明1005または本発明1005の従属項のいずれかの工程を含む、本発明1066の方法。
[本発明1069]
哺乳動物細胞と、
H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つと
の、混合物。
[本発明1070]
i.H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、本発明1069の混合物。
[本発明1071]
前記細胞が、Octポリペプチド発現のための異種発現カセットおよびSoxポリペプチド発現のための異種発現カセットを含む、本発明1069の混合物。
[本発明1072]
前記細胞が非多能性細胞である、本発明1069の混合物。
[本発明1073]
前記細胞が線維芽細胞である、本発明1069の混合物。
[本発明1074]
Mycポリペプチドの発現のための発現カセットもKlfポリペプチドの発現のための発現カセットも非多能性細胞に導入されない、本発明1071の混合物。
[本発明1075]
H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つ
を含む、組成物。
[本発明1076]
i.H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、本発明1075の組成物。
[本発明1077]
H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質;
L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
のうちの少なくとも2つを含む、キット。
[本発明1078]
i.H3K9メチル化を阻害する1つの作用物質と、
ii.L型Caチャンネルアゴニスト;
cAMP経路のアクチベーター;
DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;
核受容体リガンド;
GSK3インヒビター;
MEKインヒビター;
TGFβ受容体/ALK5インヒビター;
HDACインヒビター;および
erkインヒビター
からなる群より選択される1つの作用物質と
を含む、本発明1077のキット。
[本発明1079]
哺乳動物細胞をさらに含む、本発明1077のキット。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】Oct4/Klf4ウイルス形質導入およびBIX01294処理による、画定された初代神経前駆細胞からのiPS細胞の作製。BIX01294処理を伴うOct4/Klf4/Sox2/c-Myc、Oct4/Klf4/Sox2もしくはOct4/Klf4のレトロウイルス形質導入により、またはBIX01294処理無しのOct4/Klf4/Sox2/c-Myc、Oct4/Klf4/Sox2、またはOct4/Klf4のレトロウイルス形質導入により、3.5x10
4初代OG2神経前駆細胞から作製されたGFP+iPS細胞コロニーの数の比較。
【
図2】Klf4/Sox2/c-Mycウイルス形質導入およびBIX01294処理による初代神経前駆細胞からのiPS細胞の作製。BIX01294処理を伴うKlf4/Sox2/c-Mycのレトロウイルス形質導入により、またはBIX01294処理無しのKlf4/Sox2/c-Mycのレトロウイルス形質導入により、3.5x10
4初代OG2神経前駆細胞から作製されたGFP+iPS細胞コロニーの数。
【
図3】初代OG2 MEFからのOK2B iPSCの作製。棒グラフは、3回の独立した実験におけるOG2-MEFから誘導されたGFP
+コロニーの平均数を示す。このグラフは、4種類の因子(Oct4、Klf4、Sox2、およびcMyc;4F)が形質導入されたOG2 MEF細胞;OKが形質導入されたOG2 MEF細胞(OK);OKが形質導入され、1μM BIXで処理されたOG2 MEF細胞(OK+BIX);OKが形質導入され、1μM BIX+2μM BayKで処理されたOG2 MEF細胞(OK+BIX+BayK);OKが形質導入され、1μM BIX+0.04μM RG108で処理されたOG2 MEF細胞(OK+BIX+RG108)のデータを示す。n=3。エラーバーは、Excelで計算した標準偏差を示す。
【
図4】OK2B iPSCは、mESCの1つに似た転写プロファイルを有する。(A)OK2B iPSCのRT-PCR分析によって、OK2B iPSCは多能性mESCに特異的な遺伝子を発現することが分かった。R1 mESCを正の対照として使用したのに対して、OG2 MEFを負の対照として使用した。GAPDHはローディング対照として使用した。(B)バイサルファイトシークエンシングによって、OK2B iPSCのnanogプロモーターが脱メチルしていることが明らかになった。このことは、mESCに特異的な内因性遺伝子の再活性化をさらに裏付けている。この分析のために増幅されたNanogプロモーターの領域に存在するシトシンの模式図。白丸は脱メチル化シトシンを示すのに対して、黒丸はメチル化シトシンを示す。
【
図5】BIX、BayK、または両方の組み合わせにより処理しても、mES細胞の増殖は増えない。散布グラフは、DMSO(対照)、2μM BayK、1μM BIX、および両方の組み合わせ(BayK+BIX)による処理後のR1 mES細胞の数を示す。n=3。エラーバーは、Excelで計算した標準偏差を示す。Excelでt検定を用いて計算した場合に、各処理についてDMSOと比較して有意差は得られなかった。
【
図6】化合物処理後のSox2発現のRT-PCR分析。OG2
+/-ROSA26
+/- (OG2)MEFを、DMSO(対照)、1μM BIX、2 μM BayK、および両方の組み合わせで6日間、処理した。次いで、Qiagen RNAeasy Miniキットを用いてRNAを抽出した。Sox2発現を半定量PCRによって評価した。OK2B iPSC p37およびR1を正の対照として使用し、GAPDHをローディング対照として使用した。
【発明を実施するための形態】
【0068】
定義
「Octポリペプチド」は、オクタマー転写因子ファミリーの天然メンバー、または最も近縁の天然ファミリーメンバーと比較して類似の転写因子活性(少なくとも50%、80%、もしくは90%以内の活性)を維持しているその変種、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含み、任意で、転写活性化ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指す。例示的なOctポリペプチドには、例えば、POUドメインを含有するOct3/4(本明細書にでは「Oct4」と呼ぶ)が含まれる。Ryan, A.K.およびRosenfeld, M. G. Genes Dev. 11, 1207-1225(1997)を参照されたい。一部の態様において、変種は、天然のOctポリペプチドファミリーメンバー、例えば、前記で列挙したものと比較して、配列全体にわたって少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0069】
「Klfポリペプチド」は、ショウジョウバエ(Drosophila)胚パターン制御因子Kruppelのアミノ酸配列と類似のアミノ酸配列を含有するKruppel様因子(Klfs)ジンクフィンガータンパク質ファミリーの天然メンバー、または最も近縁の天然ファミリーメンバーと比較して類似の(少なくとも50%、80%、もしくは90%以内の活性)転写因子活性を維持している天然メンバー変種、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含み、任意で、転写活性化ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指す。Dang, D.T., Pevsner, J.およびYang, V.W.. Cell Biol. 32, 1103-1121(2000)を参照されたい。例示的なKlfファミリーメンバーには、例えば、Klf1、Klf4、およびKlf5が含まれ、これらはそれぞれiPS細胞を得るために互いに代替できると示されている。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106(2007)を参照されたい。一部の態様において、変種は、天然のKlfポリペプチドファミリーメンバー、例えば、前記で列挙したものと比較して、配列全体にわたって少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。KLFポリペプチドが本明細書に記載されている程度まで、Essrbで代替することができる。従って、本明細書に記載の、それぞれのKlfポリペプチド態様は、Klf4ポリペプチドの代わりにEssrbを使用することについて等しく述べられていることが意図される。
【0070】
「Myc ポリペプチド」は、Myc ファミリーの天然メンバー(例えば、Adhikary, S.およびEilers, M. Nat. Rev. Mol Cell Biol. 6:635-645(2005)を参照されたい)、または最も近縁の天然ファミリーメンバーと比較して類似の(少なくとも50%、80%、もしくは90%以内の活性)転写因子活性を維持しているその変種、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含み、任意で、転写活性化ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指す。例示的なMycポリペプチドには、例えば、c-Myc、N-MycおよびL-Mycが含まれる。一部の態様において、変種は、天然のMycポリペプチドファミリーメンバー、例えば、前記で列挙したものと比較して、配列全体にわたって少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0071】
「Soxポリペプチド」は、高移動度(HMG)ドメインが存在することを特徴とするSRY関連HMG-box(Sox)転写因子の天然メンバー、または最も近縁の天然ファミリーメンバーと比較して類似の転写因子活性(少なくとも50%、80%、もしくは90%以内の活性)を維持しているその変種、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含み、任意で、転写活性化ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指す。例えば、Dang, D.T., et al., Int. J. Biochem. Cell Biol. 32:1103-1121(2000)を参照されたい。例示的なSoxポリペプチドには、例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、またはSox18が含まれ、これらはそれぞれiPS細胞を得るために互いに代替できると示されている。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106(2007)を参照されたい。一部の態様において、変種は、天然のSoxポリペプチドファミリーメンバー、例えば、前記で列挙したものと比較して、配列全体にわたって少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0072】
「H3K9」はヒストンH3リジン9を指す。H3K9はK9でジメチル化していることがある。例えば、Kubicek、et al., Mol. Cell 473-481(2007)を参照されたい。
【0073】
「多能性の」または「多能性」という用語は、適切な条件下で、3つの胚芽層(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てに由来する細胞系列に関連する特徴をひとまとめに示す細胞タイプに分化可能な子孫を生じる能力を有する細胞を指す。多能性幹細胞は、出生前、出生後、または成体の動物の多くのまたは全ての組織に寄与し得る。当技術分野で認められた標準試験、例えば、8~12週齢SCIDマウスにおいてテラトーマを形成する能力を用いて、細胞集団の多能性を証明することができる。しかしながら、様々な多能性幹細胞の特徴の特定も用いて、多能性細胞を検出することができる。
【0074】
「多能性幹細胞の特徴」は、多能性幹細胞と他の細胞を区別する細胞の特徴を指す。多能性幹細胞の特徴は、適切な条件下で、3つの胚芽層(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てに由来する細胞系列に関連する特徴をひとまとめに示す細胞タイプに分化可能な子孫を生じる能力である。分子マーカーのある特定の組み合わせの発現または非発現も多能性幹細胞の特徴である。例えば、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的なリスト:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、Sox2、E-カドヘリン、UTF-1、Oct4、Rex1、およびNanogからのマーカーの少なくとも一部、任意で全てを発現する。多能性幹細胞に関連する細胞形態も多能性幹細胞の特徴である。
【0075】
「ライブラリー」という用語は、分子の収集物、個々のメンバーを特定できるように任意で系統立てられたおよび/または分類された分子の収集物を意味するために、当技術分野における一般的な用法に従って用いられる。ライブラリーには、コンビナトリアル化合物ライブラリー、天然物ライブラリー、およびペプチドライブラリーが含まれ得るが、これに限定されない。
【0076】
「組換え」ポリヌクレオチドは天然の状態にないポリヌクレオチドである。例えば、ポリヌクレオチドは、天然で見出されないヌクレオチド配列を含むか、天然で見出される以外の状況にある。例えば、天然では典型的に近接しているヌクレオチド配列から分離されている、または典型的に近接していないヌクレオチド配列に隣接している(もしくは連続している)。例えば、問題になっている配列をベクターにクローニングしてもよく、他の方法で1つまたは複数のさらなる核酸と再結合してもよい。
【0077】
「発現カセット」は、タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーターまたは他の調節配列を含むポリヌクレオチドを指す。
【0078】
「プロモーター」および「発現制御配列」という用語は、核酸転写を誘導する多数の核酸制御配列を指すために本明細書において用いられる。本明細書で使用する、プロモーターには、転写開始部位付近にある必要な核酸配列、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATAエレメントが含まれる。プロモーターはまた、任意で、転写開始部位から数千塩基対も離れた位置にあり得る、末端部のエンハンサーまたはリプレッサーを含む。プロモーターには構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターが含まれる。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境状態および発生状態の下で活性のあるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、環境調節または発生調節の下で活性のあるプロモーターである。「機能的に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(例えば、プロモーター、または多数の転写因子結合部位)と第2の核酸配列との機能的連結を指し、発現制御配列によって、第2の配列に対応する核酸の転写が誘導される。
【0079】
本明細書で使用する「異種配列」または「異種核酸」は、特定の宿主細胞にとって外来の供給源に由来するものであるか、または同じ供給源に由来するものであれば、その元々の形態から改変されているものである。従って、細胞内の異種発現カセットは、例えば、染色体DNAではなく発現ベクターに由来するヌクレオチド配列に連結されていることによって、異種プロモーターに連結されていることによって、レポーター遺伝子に連結されていることによってなど、特定の宿主細胞に内在しない発現カセットである。
【0080】
「作用物質」または「試験化合物」という用語は、本明細書に記載のスクリーニングアッセイ法において有用な任意の化合物を指す。作用物質は、例えば、有機化合物(例えば、薬物などの低分子)、ポリペプチド(例えば、ペプチドまたは抗体)、核酸(例えば、DNA、RNA、二本鎖、一本鎖、オリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、低分子阻害(small inhibitory)RNA、ミクロRNA、リボザイムなど)、オリゴ糖、脂質でもよい。通常、本スクリーニング方法において用いられる作用物質は、10,000ダルトン未満、例えば、8000ダルトン未満、6000ダルトン未満、4000ダルトン未満、2000ダルトン未満、例えば、50~1500、500~1500、200~2000、500~5000ダルトンの分子量を有する。試験化合物は、十分な範囲の多様性をもたらすコンビナトリアルライブラリーまたはランダム化ライブラリーなどの試験化合物ライブラリーの形をしていてもよい。試験化合物は、任意で、融合パートナー、例えば、標的化化合物、レスキュー(rescue)化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス指定可能な(addressable)化合物、および他の機能的部分に連結される。従来法により、ある望ましい特性または活性、例えば、本明細書に記載のような、ある特定の条件下で多能性を誘導する能力を有する試験化合物(「リード化合物」と呼ばれる)を特定し、リード化合物の変種を作り出し、変種化合物の特性および活性を評価することによって、有用な特性を有する新たな化学的実体が作製される。多くの場合、このような分析のためにハイスループットスクリーニング(HTS)法が使用される。
【0081】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、およびその一本鎖型または二本鎖型のポリマーを指すために本明細書において同義に用いられる。この用語は、合成、天然、および非天然の、公知のヌクレオチド類似体または改変されたバックボーン残基もしくは連結を含有し、参照核酸と類似の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同様に代謝される核酸を含む。このような類似体の例には、ホスホロチオエート、ホスホロアミダート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0082】
他に指定のない限り、特定の核酸配列はまた、保存的に改変されたその変種(例えば、縮重コドン置換)および相補配列、ならびに明確に示された配列も含む。具体的には、選択された1つもしくは複数の(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することによって、縮重コドン置換を行ってもよい(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081(1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608(1985); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98(1994))。
【0083】
発現または活性の「インヒビター」、「アクチベーター」、および「モジュレーター」は、それぞれ、記載の標的タンパク質(またはコードポリヌクレオチド)の発現または活性のインビトロおよびインビボアッセイ法を用いて特定された、阻害分子、活性化分子、または調節分子、例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、およびそのホモログおよび模倣体を指すために用いられる。「モジュレーター」という用語はインヒビターおよびアクチベーターを含む。インヒビターは、例えば、記載の標的タンパク質の発現を阻害するもしくは記載の標的タンパク質に結合する、記載の標的タンパク質の刺激もしくはプロテアーゼインヒビター活性を部分的もしくは全てブロックする、記載の標的タンパク質を減少させる、記載の標的タンパク質を阻止する、記載の標的タンパク質の活性化を遅延する、記載の標的タンパク質を不活性化する、記載の標的タンパク質を脱感作する、または記載の標的タンパク質の活性をダウンレギュレートする作用物質、例えば、アンタゴニストである。アクチベーターは、例えば、記載の標的タンパク質(もしくはコードポリヌクレオチド)の発現を誘導もしくは活性化する、または記載の標的タンパク質に結合する、記載の標的タンパク質を刺激する、記載の標的タンパク質を増大させる、記載の標的タンパク質を開口する、記載の標的タンパク質を活性化する、記載の標的タンパク質を促進する、記載の標的タンパク質の活性化もしくはプロテアーゼインヒビター活性を増強する、記載の標的タンパク質を感作する、あるいは記載の標的タンパク質の活性をアップレギュレートする作用物質、例えば、アゴニストである。モジュレーターには、天然および合成のリガンド、アンタゴニスト、およびアゴニスト(例えば、アゴニストまたはアンタゴニストとして機能する化学低分子、抗体など)が含まれる。インヒビターおよびアクチベーターについてのこのようなアッセイ法には、例えば、推定モジュレーター化合物を、記載の標的タンパク質を発現する細胞に適用し、次いで、前記のように記載の標的タンパク質活性に対する機能効果を確かめることが含まれる。潜在的なアクチベーター、インヒビター、もしくはモジュレーターで処理された記載の標的タンパク質を含む試料またはアッセイ法は、効果の程度を調べるために、インヒビター、アクチベーター、もしくはモジュレーターを用いない対照試料と比較される。(モジュレーターで処理されなかった)対照試料には100%の相対活性値が割り当てられる。対照に対する活性値が、約80%、任意で、50%または25%、10%、5%、もしくは1%である場合に、記載の標的タンパク質は阻害されている。対照に対する活性値が、110%、任意で、150%、任意で、200%、300%、400%、500%、もしくは1000~3000%、またはそれ以上である場合に、記載の標的タンパク質は活性化されている。
【0084】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明は、低分子を用いると、人工多能性幹細胞(iPS)の誘導に関与する転写因子の効果を模倣できるという驚くべき発見に一部基づいている。例えば、本明細書において詳述したように、Oct4は、ヒストン3リジン9(H3K9)のメチル化を低下させる低分子で「代替する」ことができる。従って、例えば、G9a(H3K9のヒストンメチルトランスフェラーゼ)を特異的に阻害する低分子であるBIX01294を、Klf4、c-Myc、およびSox2が発現している哺乳動物細胞と接触させると、多能性幹細胞が誘導される。
【0085】
これらの結果は、H3K9メチル化の役割および細胞プログラミングへのH3K9メチル化の関与の点で興味深いだけでなく、多能性幹細胞の誘導に必須であると以前に示されている転写因子を代替する低分子を特定できることを示している。このことは、人工多能性幹細胞、またはその後に分化した細胞、例えば、iPS細胞に由来する前駆細胞を患者に導入(または再導入)することが目標である場合に特に興味深いと考えられる。4種類のiPS転写因子のうちのいくつか(例えば、Oct4、Myc)が公知の発癌活性を有するので、これらの因子を、他の発癌性の低い分子または発癌性の無い分子で代替することが有益な場合がある。さらに、4種類の因子の一部またはそれぞれを、形質転換を必要としない(従って、染色体へのDNA挿入の潜在的な発癌作用を必要としない)低分子で代替することは、iPSが関与する療法の可能性のある癌副作用を減らすのにさらに役立つと考えられる。
【0086】
本発明はまた、iPS転写因子の少なくとも一部が内因性レベルでまたはさらに低レベルで発現しているが、それにもかかわらず多能性のある人工多能性細胞を提供する。本発明は、Sox2を内因的に発現するある特定の細胞が、Oct4およびKlf4のみの導入および異種発現によって多能性になるように誘導できるという発見に一部基づいている。
【0087】
さらに、本明細書において示したように、Soxポリペプチド(例えば、Sox2)を内因的にまたは異種的に発現しない非多能性細胞は、本発明の方法を用いて多能性になるように誘導することができる。例えば、多能性は、Oct4およびKlf4だけを非多能性細胞(例えば、線維芽細胞)に導入し、この細胞をH3K9メチル化を阻害する作用物質とも接触させる、任意で、L型カルシウムチャンネルアゴニスト、cAMP経路のアクチベーター、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター、核受容体アゴニスト、GSK3インヒビター、またはMEKインヒビターの少なくとも1つとも接触させることによって誘導することができる。本発明者らはまた、GSKインヒビターおよびHDACインヒビター;またはGSKインヒビターおよびcAMP経路アクチベーター;またはGSKインヒビターおよびALK5インヒビターなどの作用物質の組み合わせが(G9aインヒビターを伴う、および伴わない)、Oct4のみを異種的に発現する、またはOct4/Sox2もしくはSox2/Klf4を異種的に発現する細胞における多能性の誘導に有効であることも発見した。従って、本発明は細胞と作用物質との混合物を提供し、ここで、細胞は、最初は多能性細胞でなく(例えば、幹細胞でなく)、任意で、Oct4および/もしくはKlf4を異種的もしくは内因的に発現するか、または他の方法でOct4および/またはKlf4と接触しており、作用物質は、H3K9メチル化を阻害する作用物質:L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;および/またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数である。
【0088】
下記でさらに議論するように、本発明はまた、スクリーニングしようとする細胞を、MEKインヒビター、H3K9メチル化を阻害する作用物質、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターと共に培養することによって、多能性幹細胞の特徴を有する細胞をスクリーニングする新規の方法を提供する。例えば、MEKインヒビターは、非iPS細胞の増殖を阻害すると同時に、iPS細胞の増殖および安定したリプログラミングを促進し、それによって、特定の細胞混合物中の、多能性幹細胞の特徴を有する細胞を増やす。
【0089】
II.多能性幹細胞の誘導
A.異種発現/内因性発現
本発明の一部の態様において、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群に由来する少なくとも1つ(任意で、2つまたは3つ)のタンパク質を内因的に発現する非多能性細胞が特定される。次いで、この群に由来する残りの(非内因的に発現される)タンパク質を細胞において異種的に発現させ、任意で、MEKインヒビター、H3K9メチル化を阻害する作用物質、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;および/またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数の存在下で、多能性細胞へのリプログラミングおよび/または脱分化についてスクリーニングすることができる。
【0090】
タンパク質発現について任意のタイプの哺乳動物非多能性細胞をスクリーニングし、その後に、多能性細胞に変換することができると考えられている。一部の態様において、出発細胞は単離された前駆細胞である。例示的な前駆細胞には、内胚葉前駆細胞、中胚葉前駆細胞(例えば、筋肉前駆細胞、骨前駆細胞、血液前駆細胞)、および外胚葉前駆細胞(例えば、表皮組織前駆細胞および神経前駆細胞)が含まれるが、これに限定されない。本発明のこれらの局面に有用な細胞は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの発現について細胞株をスクリーニングすることによって、または(例えば、DNAバイサルファイトシークエンシングによって)プロモーターメチル化が少ない細胞を特定することによって、またはこれらの遺伝子の低サイレンシング状態を確かめるためにヒストン状態が変化した細胞を特定することによって容易に特定することができる。次いで、内因的に発現されない転写因子を異種的に発現させて、既に内因的に発現されている因子を異種的に発現させることなく多能性を誘導することができる。
【0091】
実施例に示したように、一部の細胞(例えば、神経前駆細胞および線維芽細胞(データは示さず))は、Oct4およびKlf4のみを異種的に発現させることによって多能性になるように誘導することができる。このことは、多能性になるために、(例えば、高発現ウイルスベクターを用いて)SoxおよびMycタンパク質、恐らくOctおよびKlfタンパク質を全て過剰発現する必要がないことを証明している。実際に、これらのタンパク質の一部は、内因性レベルまたはさらに低い検出可能なレベルで発現されてもよく、それでもなお、この群の他のメンバーの異種発現による多能性細胞への変換に適している。従って、本発明の一部の態様において、Soxポリペプチドおよび/またはMycポリペプチドを内因的に発現する細胞が特定され、OctポリペプチドおよびKlfポリペプチドは細胞において異種的に発現され、それによって、多能性細胞への細胞の変換が誘導される。一部の態様において、Octポリペプチドおよび/またはKlfポリペプチドおよび/またはMycポリペプチドを内因的に発現する細胞が特定され、Soxポリペプチドは細胞において異種的に発現され、それによって、多能性細胞への細胞の変換が誘導される。任意で、Myc、Klf4、およびSox2のいずれか、または全ての代わりに、Sal14(Zhang et al., Nat Cell Biol. 8(10):1114-23(2006))を発現させることができる。
【0092】
本明細書に記載の多能性誘導効率は、非多能性細胞に、例えば、UTF1、SV40、TERTの1つまたは複数を含めることによって(これらの遺伝子産物をコードする発現カセットを導入することによって、もしくは細胞とタンパク質それ自体とを接触させることによって)、および/または(例えば、siRNAによって)p53発現を低下させることによって、さらに改善することができる。例えば、Zhao, et al., Cell Stem Cell 3:475-479(2008)を参照されたい。
【0093】
B.転写因子タンパク質
本明細書において詳述するように、本発明の多くの態様は、1つまたは複数のポリペプチドを細胞に導入し、それによって、細胞において多能性を誘導することを伴う。前記で議論したように、細胞へのポリペプチドの導入は、1つまたは複数の発現カセットを含むポリヌクレオチドの細胞への導入および発現の誘導、それによる発現カセットからの転写および翻訳によるポリペプチドの細胞への導入を含んでもよい。または、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの導入を伴わない多くの異なる方法によって、外因性ポリペプチド(すなわち、細胞外から供給される、および/または細胞によって産生されないタンパク質)を細胞に導入することができる。
【0094】
従って、細胞へのポリペプチドの導入、または細胞へのポリペプチドをコードする発現カセットの導入について言及している本明細書に記載の本発明の任意の態様について、本発明はまた、細胞へのタンパク質としてのポリペプチドの外因性導入を明確に提供することが理解されるはずである。従って、一部の態様において、哺乳動物非多能性細胞は、(a)Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドのうちの1つまたは複数を非多能性細胞に外因的に導入することによって、任意で、(b)細胞と、MEKインヒビター、H3K9メチル化を阻害する作用物質、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数とを接触させ、それによって、人工多能性幹細胞を作製することによって、多能性になるように誘導される。
【0095】
本発明の一部の態様において、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群に由来する少なくとも1つ(任意で、2つまたは3つ)のタンパク質を内因的に発現する非多能性細胞が特定される。次いで、この群に由来する残りの(非内因的に発現される)タンパク質を細胞に外因的に導入し、任意で、MEKインヒビター、H3K9メチル化を阻害する作用物質、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数の存在下で、多能性細胞へのリプログラミングおよび/または脱分化についてスクリーニングすることができる。
【0096】
一部の態様において、Soxポリペプチドおよび/またはMycポリペプチドを内因的に発現する細胞が特定され、第2の工程として、OctポリペプチドおよびKlfポリペプチドが細胞に外因的に導入され、それによって、多能性細胞への細胞の変換が誘導される。一部の態様において、Octポリペプチドおよび/またはKlfポリペプチドおよび/またはMycポリペプチドを内因的に発現する細胞が特定され、Soxポリペプチドが細胞に外因的に導入され、それによって、多能性細胞への細胞の変換が誘導される。
【0097】
任意の数の方法で、ポリペプチドを細胞に外因的に導入することができる。単に、1種類または複数の種類のタンパク質を、標的細胞の存在下で、タンパク質が細胞に導入される条件下で培養してもよい。一部の態様において、外因性タンパク質は、転写因子が細胞(任意で、細胞核)に進入する能力を増強するポリペプチドと連結した(例えば、融合タンパク質として連結した、または他の方法で共有結合もしくは非共有結合により連結した)関心対象の転写因子ポリペプチドを含む。
【0098】
膜透過輸送を増強するポリペプチド配列の例には、ショウジョウバエホメオタンパク質アンテナペディア(antennapedia)転写タンパク質(AntHD)(Joliot et al., New Biol. 3: 1121-34,1991 ; Joliot et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 1864-8,1991 ; Le Roux et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 9120-4,1993)、単純ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22(Elliott and O'Hare, Cell 88: 223-33,1997);HIV-1転写活性化因子TATタンパク質(Green and Loewenstein, Cell 55: 1179-1188, 1988 ; Frankel and Pabo, Cell 55: 1 289-1193, 1988);送達増強輸送体、例えば、米国特許第6,730,293号に記載の送達増強輸送体(少なくとも7~25個の連続したアルギニンを含むペプチド配列を含むが、これに限定されない);ならびに市販のペネトラチン(商標)1ペプチドおよびDaitos S.A. of Paris, Franceから入手可能なVectocell(登録商標)プラットホームのDiatosペプチドベクター(「DPV」)が含まれるが、これに限定されない。WO/2005/084158およびWO/2007/123667、ならびこの中に記載のさらなる輸送体も参照されたい。これらのタンパク質は原形質膜を通過できるだけでなく、本明細書に記載の転写因子などの他のタンパク質を取り付けても、これらの複合体の細胞取り込みを刺激するのに十分である。
【0099】
一部の態様において、本明細書に記載の転写因子ポリペプチドは、リポソーム、または市販のFugene6およびリポフェクタミンなどの脂質カクテルの一部として外因的に導入される。別の代替において、転写因子タンパク質はマイクロインジェクションされてもよく、他の方法で標的細胞に直接導入されてもよい。
【0100】
実施例において議論するように、本発明者らは、細胞と本発明の転写因子ポリペプチドとの長期間のインキュベーションは細胞にとって毒性があることを発見した。従って、本発明は、1種類または複数の種類のポリペプチドの非存在下での細胞インキュベーション中断期間のある、非多能性哺乳動物細胞と、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドのうちの1つまたは複数との断続的なインキュベーションを提供する。一部の態様において、ポリペプチドの存在下およびポリペプチドの非存在下でのインキュベーションのサイクルは、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上繰り返されてもよく、多能性細胞を発生させるのに十分な期間(すなわち、ポリペプチドの存在下およびポリペプチドの非存在下でのインキュベーション)行われる。この方法の効率を改善するために、様々な作用物質(例えば、MEKインヒビターおよび/またはGSKインヒビターおよび/またはTGFβインヒビター)を含んでもよい。
【0101】
C.iPS転写因子の代わりに低分子を使用する
本発明の一部の態様において、細胞は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される少なくとも1つのタンパク質(例えば、これらの少なくとも1つ、2つ、または3つ)を(内因的にまたは異種的に)発現し、残っている非発現タンパク質の1つまたは複数、すなわち、細胞において発現されない、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、またはSoxポリペプチドのいずれかの発現の非存在下で、細胞を多能性幹細胞に誘導するのに十分な少なくとも1つの作用物質と接触させる。
【0102】
実施例に示したように、細胞とある特定の作用物質との接触は、多能性細胞を得るための、これらのタンパク質の1つの必要な発現と一般に理解されているものを「補う」、または代替する。細胞と、前記で列挙したタンパク質の1つの発現を機能的に代替する作用物質とを接触させることによって、作用物質によって代替されるかまたは補われるタンパク質を除く、前記で列挙したタンパク質の全てを発現する多能性細胞を作製することが可能である。残りのタンパク質は、内因的に発現されてもよく、異種的に発現されてもよく、または2つを組み合わせて発現されてもよい(例えば、SoxおよびMycポリペプチドが内因的に発現されてもよく、Klfポリペプチドが異種的に発現されてもよく、Octポリペプチドが発現される代わりに、細胞と、H3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質などの相補作用物質とを接触させることによって「代替」されてもよい)。
【0103】
さらに、低分子は、多能性細胞(例えば、iPS細胞)を作製するプロセスの効率を改善することができる。例えば、効率の改善は、このような多能性細胞を作製する時間を速めることによって(例えば、低分子を用いない類似のプロセスまたは同じプロセスと比較して少なくとも1日、多能性細胞の開発時間を短縮することによって)顕在化してもよい。または、もしくは組み合わせて、低分子は、ある特定のプロセスによって作製される多能性細胞の数を増やしてもよい(例えば、低分子を用いない類似のプロセスまたは同じプロセスと比較して、ある特定の期間で少なくとも10%、50%、100%、200%、500%など数を増やしてもよい)。
【0104】
実施例に記載のように、Klf4、Sox2、およびMycを異種的に発現する細胞は、Oct4を異種的に発現させることなく、細胞とH3K9メチル化を阻害する作用物質とをさらに接触させることによって多能性になるように誘導することができる。実際には、非多能性細胞とH3K9メチル化を阻害する作用物質とを接触させ、Oct4のみを導入することによって(例えば、Mycポリペプチド、Soxポリペプチド、もしくはKLfポリペプチドを発現するベクターを導入することもなく)またはOct4とKlf4を導入することによって、多能性を誘導できることが発見されている。多能性になるように誘導することができる細胞には、神経前駆細胞および線維芽細胞が含まれるが、これに限定されない。H3K9メチル化を阻害する作用物質には、H3K9を標的とするメチラーゼ(メチルトランスフェラーゼとも知られる)を阻害する作用物質が含まれる。例えば、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼはH3K9をメチル化し、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼの阻害はH3K9のメチル化を低下させることが知られている。例えば、Kubicek, et al., Mol. Cell 473-481(2007)を参照されたい。本発明の方法により有用なG9aヒストンメチルトランスフェラーゼの一例は、BIX01294(例えば、Kubicek, et al., Mol. Cell 473-481(2007)を参照されたい)、またはその塩型、水和物型、アイソフォーム型、ラセミ体型、溶媒和化合物型、およびプロドラッグ型である。Bix01294を以下に示した。
【0105】
本発明のBix01294化合物はまた、塩型、水和物型、溶媒和化合物型、およびプロドラッグ型も含む。Bix01294は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有する。ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体、および個々の異性体は全て本発明の範囲に含まれると意図される。例えば、本発明の化合物は、R-異性体もしくはS-異性体またはその混合物でもよい。さらに、本発明の化合物は、E-異性体もしくはZ-異性体またはその組み合わせでもよい。
【0106】
一部の態様において、H3K9メチル化を阻害する作用物質は、ヒストンメチルトランスフェラーゼの基質類似体である。多数のメチルトランスフェラーゼの基質がS-アデノシル-メチオニン(SAM)である。従って、一部の態様において、H3K9メチル化を阻害する作用物質はSAM類似体である。例示的なSAM類似体には、メチルチオ-アデノシン(MTA)、シネファンギン、およびS-アデノシル-ホモシステイン(SAH)が含まれるが、これに限定されない。他の態様において、H3K9メチル化を阻害する作用物質は、ヒストンメチルトランスフェラーゼにおいてSAMと競合しない。
【0107】
結果として生じた多能性細胞(異種発現および/または低分子「代替」に由来する)は、3つの主な組織型:内胚葉(例えば、内部消化管の内層)、中胚葉(例えば、筋肉、骨、血液)、ならびに外胚葉(例えば、表皮組織および神経系)の多くまたは全てに発生することができるが、任意で、その発生能力について制限を示すことがある(例えば、胎盤組織、または規定された系列の他の細胞タイプを形成しないことがある)。細胞はヒトでもよく、非ヒト(例えば、霊長類、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、イヌ、ネコ、ブタなど)でもよい。
【0108】
他の態様において、BIX01294、またはH3K9メチル化を阻害するもしくはH3K9脱メチルを促進する他の作用物質を用いて、これまで多能性でなかった細胞において多能性を誘導することができる。一部の態様において、H3K9メチル化を阻害する作用物質は、細胞が多能性になるのを誘導するために、細胞においてOct4発現を誘導するのに、または少なくともOct4プロモーターDNAメチル化および/またはヒストンメチル化の変化を誘導するのに用いられる。従って、一部の態様において、細胞が多能性になるのを誘導するために、最初は多能性細胞でなかった細胞を、H3K9メチル化を阻害する作用物質と接触させる。実際には、本発明の範囲を特定の作用様式に限定することを意図しないが、本発明者らは、非多能性細胞とH3K9メチル化を阻害するかまたはH3K9脱メチルを促進する作用物質とを接触させることによって、細胞が多能性になるのを誘導する全ての方法が改善されると考えている。例えば、非多能性細胞とH3K9メチル化を阻害する作用物質とを接触させる工程を含む方法では、H3K9メチル化を阻害する作用物質と非多能性細胞とを接触させ、多能性になるように誘導することができる。前記の方法は、任意で、細胞と、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数とを接触させる工程も含み、それぞれの化合物は誘導効率を改善するのに十分な量で含まれる。一部の態様では、本段落に記載のように、Oct4のみ、またはOct4/Klf4、またはSox2/Klf4が非多能性細胞において異種的にさらに発現されて、本明細書に記載のように作用物質と接触させられた後に、多能性が誘導される。
【0109】
本発明者らはまた、GSKインヒビターおよびHDACインヒビター、またはGSKインヒビターおよびcAMP経路アクチベーター、またはGSKインヒビターおよびALK5インヒビターの組み合わせが、Oct4のみ、Oct4/Klf4、またはSox2/Klf4のいずれかを発現するマウスまたはヒトの線維芽細胞またはケラチノサイトにおいて多能性を誘導できることも発見した(データは示さず)。他の態様において、非多能性細胞とGSK3インヒビターとを接触させる工程を含む方法において、非多能性細胞が多能性になるように誘導される。前記方法は、任意で、細胞と、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数とを接触させる工程も含み、それぞれの化合物は誘導効率を改善するのに十分な量で含まれる。他の態様において、非多能性細胞とTGFβ受容体/ALK5インヒビターとを接触させる工程を含む方法において、非多能性細胞が多能性になるように誘導される。前記方法は、任意で、細胞と、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数とを接触させる工程も含み、それぞれの化合物は誘導効率を改善するのに十分な量で含まれる。他の態様において、非多能性細胞とHDACインヒビターとを接触させる工程を含む方法において、非多能性細胞が多能性になるように誘導される。前記方法は、任意で、細胞と、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター、TGFβ受容体/ALK5インヒビター、またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数とを接触させる工程も含み、それぞれの化合物は誘導効率を改善するのに十分な量で含まれる。他の態様において、非多能性細胞とMEKインヒビターとを接触させる工程を含む方法において、非多能性細胞が多能性になるように誘導される。前記方法は、任意で、細胞と、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの1つまたは複数とを接触させる工程も含み、それぞれの化合物は誘導効率を改善するのに十分な量で含まれる。他の態様において、非多能性細胞と、MEKインヒビター、L型Caチャンネルアゴニスト;H3K9メチル化を阻害する作用物質、cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、またはそれぞれとを接触させる工程を含む方法において、非多能性細胞が多能性になるように誘導され、それぞれの化合物は誘導効率を改善するのに十分な量で含まれる。一部の態様において、本段落に記載のように、Oct4のみ、またはOct4/Klf4、またはSox2/Klf4が非多能性細胞において異種的にさらに発現されて、本明細書に記載のように作用物質と接触させられた後に、多能性が誘導される。
【0110】
例示的なL型カルシウムチャンネルアゴニストには、BayK8644(例えば、Schramm、et al., Nature 303:535-537 (1983)を参照されたい)、デヒドロジデムニンB(例えば、米国特許第6,030,943号を参照されたい)、FPL64176(FPL)(例えば、Liwang, et al., Neuropharmacology 45:281-292(2003)を参照されたい)、S(+)-PN 202-791(例えば、Kennedy, et al., Neuroscience 49:937-44(1992)を参照されたい)、およびCGP48506(例えば、Chahine, et al., Canadian Journal of Physiology and Pharmacology 81:135-141(2003)を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。
【0111】
例示的なcAMP経路のアクチベーターには、フォルスコリン(例えば、Liang, et al., Endocrinology 146: 4437-4444(2005)を参照されたい)、FSH(Liang, 前記を参照されたい)、ミルリノン(Liang, 前記を参照されたい)、シロスタミド(Liang, 前記を参照されたい)、ロリプラム(Liang, 前記を参照されたい)、dbcAMP(Liang, 前記を参照されたい)、および8-Br-cAMP(Liang, 前記を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。
【0112】
例示的なDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビターには、DNMTのドミナントネガティブ変種に結合する抗体、ならびにDNMTの発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。DNMTインヒビターには、RG108(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)、5-アザ-C(5-アザシチジンまたはアザシチジン)(例えば、Schermelleh, et al., Nature Methods 2:751-6(2005)を参照されたい)、5-アザ-2'-デオキシシチジン(5-アザ-CdR)(例えば、Zhu, Clinical Medicinal Chemistry 3(3):187-199(2003)を参照されたい)、デシタビン(例えば、Gore, Nature Clinical Practice Oncology 2:S30-S35 (2005)を参照されたい)、ドキソルビシン(例えば、Levenson, Molecular Pharmacology 71:635-637(2007)を参照されたい)、EGCG((-)-エピガロカテキン-3-没食子酸塩)(例えば、Fang, et al., Cancer Research 63:7563-7570(2003)を参照されたい)、RG108(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Carninci, et al., WO2008/126932を参照されたい)、およびゼブラリン(Carninci, 前記を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。
【0113】
例示的な核受容体リガンド、すなわち、核受容体のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーター、および/またはリプレッサーは、送達部位における局所的な遺伝子発現または転写を調節することができる。核受容体アゴニスト(および核受容体アンタゴニスト)を使用することができる。一部の態様において、核受容体は転写のコレギュレーターである。ある特定の核受容体の活性化または阻害は、核受容体が結合している特定の遺伝子座のエピジェネティック状態を調節する。本発明者らは、デキサメタゾン(例えば、1μM、グルココルチコイド受容体アゴニスト)、シグリタゾンおよびFmoc-Leu(両方とも5μMで用いられる)(PPARアゴニスト)、ならびにベキサロテン(例えば、(3μM)(RXRアンタゴニスト)が細胞リプログラミングを増強できることを発見した。代表的な核受容体リガンドには、エストラジオール(例えば、17-βエストラジオール)、オールトランスレチノイン酸、13-cisレチノイン酸、デキサメタゾン、クロベタゾール、アンドロゲン、チロキシン、ビタミンD3グリタゾン、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、プロスタグランジン、ならびにフィブラート(例えば、ベザフィブラート、シプロフィブラート、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、およびクロフィブラート)が含まれるが、これに限定されない。さらに、内因性リガンド(例えば、ホルモンエストラジオールおよびテストステロン)がコグネイト核受容体に結合している場合、内因性リガンドの活性は、通常、遺伝子発現をアップレギュレートする。リガンドによる、この遺伝子発現のアップレギュレーションまたは刺激は、アゴニスト応答とも呼ばれることがある。内因性ホルモンのアゴニスト作用は、ある特定の合成リガンド、例えば、グルココルチコイド受容体抗炎症薬デキサメタゾンによって模倣することもできる。アゴニストリガンドは、コアクチベーター結合に有利な受容体コンホメーションを誘導することによって機能する(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、WO08011093Aを参照されたい)。
【0114】
GSK3インヒビターには、GSK3のドミナントネガティブ変種に結合する抗体、ならびにGSK3を標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。GSK3インヒビターの具体例には、ケンパウロン(Kenpaullone)、1-アザケンパウロン(Azakenpaullone)、CHIR99021、CHIR98014、AR-A014418(例えば、Gould, et al., The International Journal of Neuropsychopharmacology 7:387-390(2004)を参照されたい)、CT99021(例えば、Wagman, Current Pharmaceutical Design 10:1105-1137(2004)を参照されたい)、CT20026(例えば、Wagman, 前記を参照されたい)、SB216763(例えば、Martin, et al., Nature Immunology 6:777-784(2005)を参照されたい)、AR-A014418(例えば、Noble, et al., PNAS 102:6990-6995(2005)を参照されたい)、リチウム(例えば、Gould, et al., Pharmacological Research 48:49-53(2003)を参照されたい)、SB 415286(例えば、Frame, et al., Biochemical Journal 359:1-16(2001)を参照されたい)、およびTDZD-8(例えば、Chin, et al., Molecular Brain Research, 137(1-2):193-201(2005)を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。Calbiochemから入手可能な、さらに例示的なGSK3インヒビター(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Dalton, et al., WO2008/094597を参照されたい)には、BIO(2'Z,3'£)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(GSK3インヒビターIX);BIO-アセトキシム(2'Z,3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-アセトキシム(GSK3インヒビターX);(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-(2-フェニルキナゾリン-4-イル)アミン(GSK3-インヒビターXIII);ピリドカルバゾール-シクロペナジエニルルテニウム複合体(GSK3インヒビターXV);TDZD-8 4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン(GSK3βインヒビターI);2-チオ(3-ヨードベンジル)-5-(1-ピリジル)-[1,3,4]-オキサジアゾール(GSK3βインヒビターII);OTDZT 2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン(GSK3βインヒビターIII);α-4-ジブロモアセトフェノン(GSK3βインヒビターVII);AR-AO14418 N-(4-メトキシベンゾイル)-N'-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)尿素(GSK-3βインヒビターVIII);3-(1-(3-ヒドロキシプロピル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル]-4-ピラジン-2-イル-ピロール-2,5-ジオン(GSK-3βインヒビターXI);TWS1 19ピロロピリミジン化合物(GSK3βインヒビターXII);L803H-KEAPPAPPQSpP-NH2またはそのミリストイル化型(GSK3βインヒビターXIII);2-クロロ-1-(4,5-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン(GSK3βインヒビターVI); AR-AO144-18;SB216763;およびSB415286が含まれるが、これに限定されない。インヒビターと相互作用するGSK3b残基が特定されている。例えば、Bertrand et al., J. Mol Biol. 333(2): 393-407(2003)を参照されたい。GSK3インヒビターは、例えば、Wnt/β-カテニン経路を活性化することができる。β-カテニン下流遺伝子の多くは多能性遺伝子ネットワークを同時制御する。例えば、GSKインヒビターはcMyc発現を活性化し、そのタンパク質安定性および転写活性を増強する。従って、一部の態様において、細胞における内因性Mycポリペプチド発現を刺激して、多能性を誘導するのにMyc発現を不要にするために、GSK3インヒビターを使用することができる。
【0115】
MEKインヒビターには、MEKのドミナントネガティブ変種に対する抗体、ならびにMEKの発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。MEKインヒビターの具体例には、PD0325901(例えば、Rinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22: 4456-4462(2004)を参照されたい)、PD98059(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、UO126(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、SL327(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)、ARRY-162(例えば、Array Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えば、Klein, et al., Neoplasia 8:1-8(2006)を参照されたい)、PD184352(CI-1040)(例えば、Mattingly, et al., The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 316:456-465(2006)を参照されたい)、スニチニブ(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Voss, et al., US2008004287を参照されたい)、ソラフェニブ(Voss, 前記を参照されたい)、バンデタニブ(Voss, 前記を参照されたい)、パゾパニブ(Voss, 前記を参照されたい)、アキシチニブ(Voss, 前記を参照されたい)、およびPTK787(Voss, 前記を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。
【0116】
現在、いくつかのMEKインヒビターが臨床試験の評価を受けている。CI-1040は、癌に対する第I相および第II相臨床試験の評価を受けた(例えば、Rinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22(22):4456-4462(2004)を参照されたい)。臨床試験の評価を受けている他のMEKインヒビターには、PD184352(例えば、English, et al., Trends in Pharmaceutical Sciences 23(1):40-45(2002)を参照されたい)、BAY 43-9006(例えば、Chow, et al., Cytometry(Communications in Clinical Cytometry) 46:72-78(2001)を参照されたい)、PD-325901(PD0325901も)、GSK1120212、ARRY-438162、RDEA119、AZD6244(ARRY-142886またはARRY-886も)、RO5126766、XL518およびAZD8330(ARRY-704も)が含まれる(例えば、ワールドワイドウェブ上のclinicaltrials.govにある米国立衛生研究所からの情報ならびにワールドワイドウェブ上のcancer.gov/clinicaltrialsにある米国立癌研究所からの情報を参照されたい)。
【0117】
TGFβ受容体(例えば、ALK5)インヒビターには、TGFβ受容体(例えば、ALK5)のドミナントネガティブ変種に対する抗体、およびTGFβ受容体の発現を抑制するアンチセンス核酸が含まれ得る。例示的なTGFβ受容体/ALK5インヒビターには、SB431542(例えば、Inman, et al., Molecular Pharmacology 62(1):65-74(2002)を参照されたい)、A-83-01、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドとも知られる(例えば、Tojo, et al., Cancer Science 96(11):791-800(2005)を参照されたい、および、例えば、Toicris Bioscienceからの市販品);2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Dalton, et al., WO2008/094597を参照されたい)、BMP4(Dalton, 前記を参照されたい)、GW788388(-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibert, et al., Journal of Medicinal Chemistry 49(7):2210-2221(2006)を参照されたい)、SM16(例えば、Suzuki, et al., Cancer Research 67(5):2351-2359(2007)を参照されたい)、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kim, et al., Xenobiotica 38(3):325-339(2008)を参照されたい)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えば、de Gouville, et al., Drug News Perspective 19(2):85-90(2006)を参照されたい)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩)(例えば、DaCosta, et al., Molecular Pharmacology 65(3):744-752(2004)を参照されたい)およびピリミジン誘導体(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Stiefl, et al., WO2008/006583に列挙されたものを参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。さらに、「ALK5インヒビター」は非特異的キナーゼインヒビターを含むことを意図しないが、「ALK5インヒビター」は、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害するインヒビター、例えば、SB-431542を含むと理解されるはずである(例えば、Inman, et al., J Mol. Phamacol. 62(1):65-74(2002)を参照されたい)。本発明の範囲を限定することを意図しないが、ALK5インヒビターは、間葉系から上皮への変換/移行(MET)プロセスに影響を及ぼすと考えられている。TGFβ/アクチビン経路は、上皮から間葉系への移行(EMT)のドライバーである。従って、TGFβ/アクチビン経路を阻害するとによって、MET(すなわち、リプログラミング)プロセスを促進にすることができる。
【0118】
ALK5を阻害する効果を示す本明細書のデータを考慮すると、TGFβ/アクチビン経路の阻害は類似の効果を有すると考えられる。従って、本明細書の各段落に記載のように、TGFβ/アクチビン経路の任意のインヒビター(例えば、上流または下流)を、ALK5インヒビターと組み合わせて、またはALK5インヒビターの代わりに使用することができる。例示的なTGFβ/アクチビン経路インヒビターには、TGFβ受容体インヒビター、SMAD 2/3リン酸化インヒビター、SMAD 2/3およびSMAD 4の相互作用のインヒビター、ならびにSMAD 6およびSMAD 7のアクチベーター/アゴニストが含まれるが、これに限定されない。さらに、下記の分類は単に組織系統化を目的としているのにすぎず、当業者であれば、化合物は経路の中の1つまたは複数の点に影響を及ぼすことができ、従って、規定されたカテゴリーの複数において機能し得ることを知っていると考えられる。
【0119】
TGFβ受容体インヒビターには、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変種に対する抗体およびTGFβ受容体を標的とするsiRNAまたはアンチセンス核酸が含まれ得る。インヒビターの具体例には、SU5416;2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩(SB-505124);レルデリマブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;ID11;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリベック(Gleevec);3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン);アクチビン-M108A;P144;可溶性TBR2-Fc;およびTGFβ受容体を標的とする、アンチセンスでトランスフェクトされた腫瘍細胞が含まれるが、これに限定されない(例えば、Wrzesinski, et al., Clinical Cancer Research 13(18):5262-5270 (2007); Kaminska, et al. , Acta Biochimica Polonica 52(2):329-337(2005);およびChang, et al., Frontiers in Bioscience 12:4393-4401(2007)を参照されたい)。
【0120】
SMAD 2/3リン酸化のインヒビターには、SMAD2またはSMAD3のドミナントネガティブ変種に対する抗体およびSMAD2またはSMAD3を標的とするアンチセンス核酸が含まれ得る。インヒビターの具体例には、PD169316;SB203580;SB-431542;LY364947;A77-01;および3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)が含まれる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Wrzesinski, 前記; Kaminska, 前記; Shimanuki, et al., Oncogene 26:3311-3320(2007);およびKataoka, et al., EP1992360を参照されたい)。
【0121】
SMAD 2/3およびsmad4の相互作用のインヒビターには、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4のドミナントネガティブ変種に対する抗体、ならびにSMAD2、SMAD3および/またはsmad4を標的とするアンチセンス核酸が含まれ得る。SMAD 2/3およびSMAD4の相互作用のインヒビターの具体例には、Trx-SARA、Trx-xFoxHlb、およびTrx-Lef1が含まれるが、これに限定されない(例えば、Cui, et al., Oncogene 24:3864-3874 (2005)およびZhao, et al., Molecular Biology of the Cell, 17:3819-3831(2006)を参照されたい)。
【0122】
SMAD 6およびSMAD 7のアクチベーター/アゴニストには、SMAD 6またはSMAD 7のドミナントネガティブ変種に対する抗体およびSMAD 6またはSMAD 7を標的とするアンチセンス核酸が含まれるが、これに限定されない。インヒビターの具体例には、smad7-as PTO-オリゴヌクレオチドが含まれるが、これに限定されない(例えば、Miyazono, et al., US6534476、およびSteinbrecher, et al., US2005119203を参照されたい。両方とも参照により本明細書に組み入れられる)。
【0123】
例示的なHDACインヒビターには、HDACのドミナントネガティブ変種に結合する抗体、ならびにHDACを標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。HDACインヒビターには、TSA(トリコスタチンA)(例えば、Adcock, British Journal of Pharmacology 150:829-831(2007)を参照されたい)、VPA(バルプロ酸)(例えば、Munster, et al., Journal of Clinical Oncology 25:18S(2007):1065を参照されたい)、酪酸ナトリウム(NaBu)(例えば、Han, et al., Immunology Letters 108:143-150(2007)を参照されたい)、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸またはボリノスタット)(例えば、Kelly, et al., Nature Clinical Practice Oncology 2:150-157(2005)を参照されたい)、フェニル酪酸ナトリウム(例えば、Gore, et al., Cancer Research 66:6361-6369(2006)を参照されたい)、デプシペプチド(FR901228、FK228)(例えば、Zhu, et al., Current Medicinal Chemistry 3(3):187-199(2003)を参照されたい)、トラポキシン(TPX)(例えば、Furumai, et al., PNAS 98(1):87-92(2001)を参照されたい)、環式ヒドロキサム酸含有ペプチド1(CHAP1)(Furumai, 前記を参照されたい)、MS-275(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Carninci, et al.,WO2008/126932を参照されたい)、LBH589(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Goh, et al., WO2008/108741を参照されたい)、およびPXD101(Goh, 前記を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。一般的に、包括的なレベルでは、多能性細胞はヒストンアセチル化が多く、分化細胞はヒストンアセチル化が少ない。ヒストンアセチル化はまたヒストンおよびDNAメチル化調節にも関与している。一部の態様において、HDACインヒビターは、発現停止している多能性遺伝子の活性化を促進する。
【0124】
例示的なERKインヒビターには、PD98059(例えば、Zhu, et al. , Oncogene 23:4984-4992(2004)を参照されたい)、UO126(Zhu, 前記を参照されたい)、FR180204(例えば、Ohori, Drug News Perspective 21(5):245-250(2008)を参照されたい)、スニチニブ(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Ma, et al., US2008004287を参照されたい)、ソラフェニブ(Ma, 前記を参照されたい)、バンデタニブ(Ma, 前記を参照されたい)、パゾパニブ(Ma, 前記を参照されたい)、アキシチニブ(Ma, 前記を参照されたい)、およびPTK787(Ma, 前記を参照されたい)が含まれる。
【0125】
発現カセットが細胞に導入されると、および/または細胞を1つまたは複数の作用物質と接触させると、任意で、多能性幹細胞の特徴について細胞をスクリーニングし、それによって、混合物中にある多能性細胞を特定することができる。このような細胞は、例えば、他の細胞から単離し、適宜、さらに使用することができる。
【0126】
III.非多能性細胞
本明細書で使用する、「非多能性細胞」とは、多能性細胞でない哺乳動物細胞を指す。このような細胞の例には、分化細胞ならびに前駆細胞が含まれる。分化細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織、および末梢血により選択される組織に由来する細胞が含まれるが、これに限定されない。例示的な細胞タイプには、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、およびT細胞が含まれるが、これに限定されない。
【0127】
結果として生じた多能性細胞を用いて個体が治療される一部の態様において、本発明の方法により多能性細胞を作製するために、個体自身の非多能性細胞が用いられる。
【0128】
細胞は、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物に由来してもよい。例示的な非ヒト哺乳動物には、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウマ、およびウシが含まれるが、これに限定されない。
【0129】
IV.形質転換
本発明は、組換え遺伝学の分野における日常的な技法に頼っている。本発明における一般的な使用方法を開示する基本的な教科書には、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed. 2001); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds.,1994))が含まれる。
【0130】
一部の態様において、細胞の種と、発現させようとするタンパク質の種は同じである。例えば、マウス細胞が用いられる場合、この細胞にマウスオルソログが導入される。ヒト細胞が用いられる場合、この細胞にヒトオルソログが導入される。
【0131】
2種類またはそれ以上のタンパク質が細胞において発現される場合、1つまたは複数の発現カセットを使用できることが理解されると考えられる。例えば、1つの発現カセットが複数の種類のポリペプチドを発現する場合、ポリシストロニック発現カセットを使用することができる。
【0132】
A.プラスミドベクター
ある特定の態様において、プラスミドベクターは、宿主細胞を形質転換するために使用することが意図される。一般的に、これらの宿主に関して、宿主細胞と適合する種に由来するレプリコンおよび制御配列を含有するプラスミドベクターが用いられる。ベクターは、複製部位、ならびに形質転換細胞において表現型選択が可能なマーキング配列を有してもよい。
【0133】
B.ウイルスベクター
ある特定のウイルスが、受容体を介したエンドサイトーシスによって細胞に感染または侵入し、宿主細胞ゲノムに組み込み、ウイルス遺伝子を安定してかつ効率的に発現することができれば、外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に導入するための魅力的な候補となる。本発明の核酸を送達するのに使用することができるウイルスベクターの非限定的な例を下記で説明する。
【0134】
i.アデノウイルスベクター
核酸を送達する特定の方法はアデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。アデノウイルスベクターのゲノムDNAへの組み込み能力は低いことが知られているが、この特徴は、これらのベクターにより得られる高い遺伝子導入効率によって相殺される。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a)構築物のパッケージングを支持するのに十分な、および(b)ベクターにクローニングされた組織特異的構築物または細胞特異的構築物を最終的に発現するのに十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を含むことを意味する。約36kbの直線二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子組成の知識があるので、アデノウイルスDNAの大きな断片を7kbまでの外来配列で置換することができる(Grunhaus et al., Seminar in Virology, 200(2):535-546, 1992))。
【0135】
ii.AAVベクター
核酸は、アデノウイルスを介したトランスフェクションを用いて細胞に導入することができる。アデノウイルスが対となったシステムを用いる細胞システムにおいて、高いトランスフェクション効率が報告されている(Kelleher and Vos, Biotechniques, 17(6): 1110-7, 1994; Cotten et al., Proc Natl Acad Sci USA, 89(13):6094-6098, 1992; Curiel, Nat Immun, 13(2-3):141-64, 1994.)。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、組込み頻度が高く、非分裂細胞に感染することができ、従って、哺乳動物細胞、例えば、組織培養されている哺乳動物細胞への遺伝子送達(Muzyczka, Curr Top Microbiol Immunol, 158:97-129, 1992)、またはインビボでの遺伝子送達に有用であるので魅力的なベクターシステムである。rAAVベクターの作製および使用に関する詳細は米国特許第5,139,941号および同第4,797,368号に記載されており、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0136】
iii.レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、遺伝子を宿主ゲノムに組み込む能力、多量の外来遺伝物質を導入する能力、広範囲の種および細胞タイプに感染する能力、特殊な細胞株においてパッケージングされる能力があるので遺伝子送達ベクターとして有望である(Miller et al., Am. J. Clin. Oncol, 15(3):216-221, 1992)。
【0137】
レトロウイルスベクターを構築するために、核酸(例えば、関心対象の遺伝子をコードする核酸)を、ある特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに挿入して、複製欠損ウイルスを作製する。ビリオンを産生するために、gag、pol、およびenv遺伝子を含有するが、LTRおよびパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株が構築されている(Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共にcDNAを含有する組換えプラスミドが(例えば、リン酸カルシウム沈殿によって)特殊な細胞株に導入されると、パッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物はウイルス粒子にパッケージングされ、次いで、培地に分泌される(Nicolas and Rubinstein, Vectors: A survey of molecular cloning vectors and their uses, Rodriguez and Denhardt, eds., Stoneham: Butterworth, pp. 494-513, 1988; Temin, Gene Transfer, Kucherlapati (ed.), New York: Plenum Press, pp. 149-188, 1986; Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。次いで、組換えレトロウイルスを含有する培地を収集し、任意で濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは広範囲の細胞タイプに感染することができる。しかしながら、組込みおよび安定発現は、典型的には、宿主細胞の分裂を伴う(Paskind et al., Virology, 67:242-248, 1975)。
【0138】
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節機能または構造機能を有する他の遺伝子を含有する複合レトロウイルスである。レンチウイルスベクターは当技術分野において周知である(例えば、Naldini et al., Science, 272(5259):263-267, 1996; Zufferey et al., Nat Biotechnol, 15(9):871-875, 1997; Blomer et al., J Virol, 71(9):6641-6649, 1997;米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照されたい)。レンチウイルスの一部の例には、ヒト免疫不全症ウイルス:HIV-1、HIV-2およびサル免疫不全症ウイルス:SIVが含まれる。レンチウイルスベクターは、HIV病原遺伝子を弱毒化することによって作製されている。例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpu、およびnefが欠失すると、ベクターは生物学的に安全になる。
【0139】
組換えレンチウイルスベクターは非分裂細胞に感染することができ、インビボおよびエクスビボで、遺伝子導入および核酸配列発現のために使用することができる。例えば、組換えレンチウイルスは非分裂細胞に感染することができ、適切な宿主細胞は、パッケージング機能、すなわち、gag、polおよびenvを有する2つまたはそれ以上のベクターでトランスフェクトされ、rev およびtatは、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,994,136号に記載されている。エンベロープタンパク質と、特定の細胞タイプの受容体に標的化するための抗体または特定のリガンドを連結することによって、組換えウイルスを標的化することができる。特定の標的細胞上にある受容体のリガンドをコードする別の遺伝子と共に、関心対象の配列(調節領域を含む)をウイルスベクターに挿入することによって、ベクターは標的特異的になる。
【0140】
iv.改変ウイルスを用いた送達
送達しようとする核酸は、特異的結合リガンドを発現するように操作された感染性ウイルスの中に収容されてもよい。従って、ウイルス粒子は、標的細胞のコグネイト受容体に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。レトロウイルスベクターを特異的に標的化するように設計された新規の手法は、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて開発された。この改変があると、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染が可能になる。
【0141】
組換えレトロウイルスを標的化する別の手法が設計されており、ここでは、レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特定の細胞受容体に対するビオチン化抗体が用いられた。抗体は、ビオチン成分を介して、ストレプトアビジンを用いることによってカップリングされた(Roux et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 86:9079-9083, 1989)。主要組織適合複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を用いると、その表面抗原を有する様々なヒト細胞にエコトロピックウイルスがインビトロで感染することが証明された(Roux et al., 1989)。
【0142】
C.ベクター送達および細胞形質転換
本発明と共に使用するための細胞、組織、または生物を形質転換するのに適した核酸送達法は、本明細書に記載のように、または当業者に公知のように、核酸(例えば、DNA)を細胞、組織、または生物に導入することができる実質的に全ての方法を含むと考えられる。このような方法には、例えば、エクスビボトランスフェクション(Wilson et al., Science, 244:1344-1346, 1989, Nabel and Baltimore, Nature 326:711-713, 1987)、任意で、Fugene6(Roche)またはLipofecyamine (Invitrogen)を用いたエクスビボトランスフェクション;マイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられる、Harland and Weintraub, J. Cell Biol., 101: 1094-1099, 1985;米国特許第5,789,215号)を含む、注射(米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号、および同第5,580,859号、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);エレクトロポレーション(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspa et al., Mol. Cell Biol., 6:716-718, 1986; Potter et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 81.7161-7165, 1984);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, Virology, 52:456-467, 1973; Chen and Okayama, Mol. Cell Biol., 7(8):2745-2752, 1987; Rippe et al., Mol. Cell Biol, 10:689-695, 1990);DEAE-デキストラン後のポリエチレングリコールの使用(Gopal, Mol. Cell Biol, 5:1188-1190, 1985);ダイレクトソニックローディング(Fechheimer et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 84:8463-8467, 1987);リポソームを介したトランスフェクション(Nicolau and Sene, Biochim. Biophys. Acta, 721:185-190, 1982; Fraley et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 76:3348-3352, 1979; Nicolau et al., Methods Enzymol., 149:157-176, 1987; Wong et al., Gene, 10:87-94, 1980; Kaneda et al., Science, 243:375-378, 1989; Kato et al., J Biol Chem., 266:3361-3364, 1991)、および受容体を介したトランスフェクション(Wu and Wu, Biochemistry, 27:887-892, 1988; Wu and Wu, J. Biol. Chem., 262:4429-4432, 1987;それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)、ならびにこのような方法の任意の組み合わせによるDNAの直接送達が含まれるが、これに限定されない。
【0143】
V.細胞培養
多能性になるように誘導しようとする細胞は、当技術分野において公知の任意の方法に従って培養することができる。大まかなガイドラインは、例えば、Maherali, et al., Cell Stem Cell 3:595-605 (2008)に見られる。
【0144】
一部の態様において、細胞はフィーダー細胞と接触して培養される。例示的なフィーダー細胞には、線維芽細胞、例えば、マウス胚線維芽細胞(MEF)細胞が含まれるが、これに限定されない。フィーダー細胞上で細胞を培養する方法は当技術分野において公知である。
【0145】
一部の態様において、細胞はフィーダー細胞の非存在下で培養される。例えば、細胞は、例えば、分子テザーを介して、固体培養表面(例えば、培養プレート)に直接接着することができる。本発明者らは、多能性になるように誘導された培養細胞は、固体培養表面に直接接着された場合に、他の点では全く同じように処理され、フィーダー細胞上で培養された細胞と比較して、多能性への誘導効率が非常に高い(すなわち、より多くの細胞が多能性を獲得する)ことを発見した。例示的な分子テザーには、マトリゲル、細胞外マトリックス(ECM)、ECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、またはコラーゲンが含まれるが、これに限定されない。しかしながら、当業者であれば、これは非限定的なリストであり、固体表面に細胞を接着するために他の分子を使用できることを認識しているだろう。最初に固体表面にテザーを接着する方法は当技術分野において公知である。
【0146】
この「培養」セクションにおいて用いられる場合に、「多能性になるように誘導される細胞」は、本願に記載の方法を含むが、これに限定されない、当技術分野において任意の方法によって誘導される。
【0147】
VI.多能性細胞の使用
本発明は、予防的使用または治療的使用を含むが、これに限定されない、幹細胞技術のさらなる研究および開発を可能にする。例えば、一部の態様において、本発明の細胞(多能性細胞または望ましい細胞運命に沿って分化するように誘導された細胞のいずれか)は、器官、組織、または細胞タイプの再生を必要とする個体を含むが、これに限定されない、本発明の細胞を必要とする個体に導入される。一部の態様において、細胞は、最初に、生検において個体から得られ、本明細書に記載のように多能性になるように誘導され、任意で、(例えば、特定の望ましい前駆細胞に)分化するように誘導され、次いで、移植によって個体に戻される。一部の態様において、細胞は、個体に導入される前に遺伝子組換えされる。
【0148】
一部の態様において、本発明の方法によって作製された多能性細胞は、その後に、例えば、造血(幹/前駆)細胞、神経(幹/前駆)細胞(任意で、さらに分化した細胞、例えば、サブタイプ特異的ニューロン、オリゴデンドロサイトなど)、膵臓細胞(例えば、内分泌前駆細胞または膵臓ホルモン発現細胞)、肝細胞、心血管(幹/前駆)細胞(例えば、心筋細胞、内皮細胞、平滑筋細胞)、レチナール細胞などを形成するように誘導される。
【0149】
望ましい細胞タイプへの多能性幹細胞の分化を誘導するための様々な方法が公知である。様々な細胞運命への幹細胞の分化を誘導するための方法について述べている最近の特許公報の非限定的なリストは以下の通りである:米国特許出願公報2007/0281355;2007/0269412;2007/0264709;2007/0259423;2007/0254359;2007/0196919;2007/0172946;2007/0141703;2007/0134215。
【0150】
本発明の多能性細胞を特定の損傷組織に導入することによって、任意で、本発明の多能性細胞を特定の損傷組織に標的化することによって、様々な疾患を寛解することができる。組織損傷に起因する疾患の例には、神経変性疾患、脳梗塞、閉塞性血管疾患、心筋梗塞、心不全、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、気管支炎、間質性肺疾患、喘息、B型肝炎(肝障害)、C型肝炎(肝障害)、アルコール性肝炎(肝障害)、肝硬変(肝障害)、肝機能不全(肝障害)、膵炎、糖尿病、クローン病、炎症性大腸炎、IgA腎炎、腎炎、腎機能不全、褥瘡、熱傷、縫合創傷、裂傷、切創、咬傷、皮膚炎、瘢痕ケロイド、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈性潰瘍、および静脈性潰瘍が含まれるが、これに限定されない。
【0151】
本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Klfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの1つまたは複数)それ自体が単独で、または本明細書に記載のように組み合わせて有用な治療的作用物質である。例えば、ポリペプチドまたはその組み合わせは組織損傷を軽減するのに有用であり、従って、組織損傷を治療、寛解、または予防するために投与することができる。一部の態様において、本発明の化合物は、内部器官に対する組織損傷を有する個体、または内部器官に対する組織損傷を有するリスクのある個体に投与される。内部器官には、例えば、熱傷または切断によって傷つく、脳、膵臓、肝臓、腸、肺、腎臓、または心臓が含まれるが、これに限定されない。例えば、一部の態様において、本発明の化合物は、虚血後に再灌流した際の梗塞サイズの縮小において有効である。従って、本発明のタンパク質は、脳卒中にかかるリスクのある個体、脳卒中にかかっている個体、または脳卒中にかかったことのある個体に投与することができる。同様に、本発明のタンパク質は、心臓発作または心臓損傷にかかるリスクのある個体、心臓発作もしくは心臓損傷にかかっている個体、または心臓発作もしくは心臓損傷にかかったことのある個体に投与することができる。
【0152】
本明細書に記載の作用物質(例えば、H3K9メチル化を阻害する作用物質;L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビター)もまた単独で、または本明細書に記載のように互いに組み合わせて有用な治療的作用物質である。例えば、作用物質またはその組み合わせは組織損傷を軽減するのに有用であり、従って、組織損傷を治療、寛解、または予防するために投与することができる。一部の態様において、本発明の作用物質は、内部器官に対する組織損傷を有する個体、または内部器官に対する組織損傷を有するリスクのある個体に投与される。内部器官には、例えば、熱傷または切断によって傷つく、脳、膵臓、肝臓、腸、肺、腎臓、または心臓が含まれるが、これに限定されない。例えば、一部の態様において、本発明の作用物質は、虚血後に再灌流した際の梗塞サイズの縮小において有効である。従って、本発明の作用物質は、脳卒中にかかるリスクのある個体、脳卒中にかかっている個体、または脳卒中にかかったことのある個体に投与することができる。同様に、本発明の作用物質は、心臓発作または心臓損傷にかかるリスクのある個体、心臓発作もしくは心臓損傷にかかっている個体、または心臓発作もしくは心臓損傷にかかったことのある個体に投与することができる。
【0153】
本明細書に記載の活性化合物はまた、その塩型、水和物型、溶媒和化合物型、およびプロドラッグ型を含む。本発明の化合物は、その異性体および代謝産物も含む。ある特定の本発明の化合物は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有する。ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体、および個々の異性体は全て本発明の範囲に含まれると意図される。例えば、本発明の化合物は、R-異性体もしくはS-異性体またはその混合物でもよい。さらに、本発明の化合物は、E-異性体もしくはZ-異性体またはその組み合わせでもよい。
【0154】
本発明の酸性化合物の薬学的に許容される塩は、塩基を用いて形成される塩、すなわち、カチオン塩、例えば、アルカリ塩およびアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ならびにアンモニウム塩、例えば、アンモニウム塩、トリメチル-アンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、およびトリス-(ヒドロキシメチル)-メチル-アンモニウム塩である。一部の態様において、本発明は塩酸塩を提供する。他の態様において、化合物は塩酸エリプチシンである。
【0155】
同様に、ピリジルなどの塩基性基が構造の一部を構成しているのであれば、酸添加塩、例えば、無機酸、有機カルボン酸および有機スルホン酸、例えば、塩酸、メタンスルホン酸、マレイン酸の塩も可能である。
【0156】
中性型の化合物は、塩と塩基または酸とを接触させ、従来の方法で親化合物を単離することによって再生することができる。親型の化合物は、ある特定の物理的性質、例えば、極性溶媒中での溶解度において様々な塩型と異なる場合があるが、他の点では、塩は本発明の目的で親型の化合物と均等である。
【0157】
本発明の化合物は、当業者に公知の様々な方法によって作ることができる(Comprehensive Organic Transformations Richard C. Larock, 1989を参照されたい)。当業者であれば、化合物を作る他の方法が本発明において有用であることを理解するだろう。
【0158】
本明細書に記載の細胞または化合物の投与は、薬の導入に通常用いられる任意の経路によるものである。本発明の薬学的組成物は薬学的に許容される担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、一部には、投与されている特定の組成物によって、ならびに組成物を投与するのに用いられる特定の方法によって決まる。従って、本発明の薬学的組成物の多種多様な適切な製剤がある(例えば、Remington 's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. 1985を参照されたい)。
【0159】
投与に適した製剤には、水溶液または非水溶液、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を等張にする溶質を含有し得る等張性滅菌溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および防腐剤を含有し得る水性滅菌懸濁液および非水性滅菌懸濁液が含まれる。本発明の実施において、組成物は、例えば、経口、経鼻、局所、静脈内、腹腔内、くも膜下腔内、または(例えば、点眼薬もしくは注射により)眼内に投与することができる。化合物の製剤は、アンプルおよびバイアルなどの単回量または複数回量の密封容器に入れられてもよい。溶液および懸濁液は、以前に述べられた種類の滅菌した散剤、顆粒、および錠剤から調製されてもよい。モジュレーターもまた、調理済み食品または薬物の一部として投与することができる。
【0160】
本発明の状況において患者に投与される用量は、ある期間にわたって被験体において有益な応答を誘導するのに、すなわち、被験体の状態を寛解するのに十分な用量でなければならない。どの患者にとっても最適な用量レベルは、使用される特定のモジュレーターの効力、患者の年齢、体重、身体活動性、および食事、ならびに他の薬物との可能性のある組み合わせを含む様々な要因に依存する。用量のサイズはまた、ある特定の被験体におけるある特定の化合物またはベクターの投与に伴う有害な副作用の存在、内容、および程度によって決まる。投与は単回量または分割量によって行われてもよい。
【0161】
VII.多能性幹細胞の発生を誘導する作用物質のスクリーニング
本発明は、4種類のiPS転写因子(すなわち、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチド)の1つを「代替する」ことができる作用物質、または細胞を多能性細胞にリプロラミングするのにMycが必要でない細胞では、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、もしくはSoxポリペプチドを代替することができる作用物質(Nakagawa, M. et al. Nature Biotechnol. 26, 101-106 (2007); Wernig, M., Meissner, A., Cassady, J. P.およびJaenisch, R. Cell Stem Cell 2, 10-12(2008))、あるいは多能性への融合効率を改善する作用物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0162】
一部の態様において、前記方法は、トランスフェクトされた細胞を作製するために、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが少なくとも1つの発現のための1つまたは複数の発現カセットを非多能性細胞に導入する工程;その後に、該トランスフェクトされた細胞と異なる作用物質のライブラリーとを接触させる工程; 接触させた該細胞を多能性幹細胞の特徴についてスクリーニングする工程;ならびに幹細胞の特徴の発生とライブラリー由来の特定の作用物質とを相関付け、それによって、多能性幹細胞への細胞の脱分化を刺激する作用物質を特定する工程を含む。一部の態様において、多能性への細胞を誘導する、または多能性への細胞の誘導を改善するライブラリーメンバーを特定するために、細胞は、H3K9メチル化を阻害する作用物質;L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの少なくとも1つと、ならびに低分子または他の作用物質ライブラリーの1つまたは複数のメンバーと接触させられる。従って、非多能性細胞と、H3K9メチル化を阻害する作用物質;L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上)との混合物が本発明において提供される。
【0163】
ライブラリー中の作用物質は任意の小さな化合物でもよく、タンパク質、糖、核酸または脂質などの生物学的実体でもよい。典型的には、試験作用物質は小さな化学分子およびペプチドである。本発明のアッセイ法において、本質的に任意の化合物を潜在的な作用物質として使用することができるが、ほとんどの場合、水溶液または有機(特に、DMSOをベースとする)溶液に溶解することができる化合物が用いられる。アッセイ法は、アッセイ段階を自動化し、任意の便利な供給源に由来する化合物をアッセイ法に供給することによって、大きな化合物ライブラリーをスクリーニングするように設計され、アッセイ法は典型的には並行して行われる(例えば、ロボットアッセイ法ではマイクロタイター形式でマイクロタイタープレート上で行われる)。Sigma(St. Louis, MO)、Aldrich(St. Louis, MO)、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(Buchs, Switzerland)などを含む、多くの化合物供給業者がいることが理解されると考えられる。
【0164】
一部の態様において、ハイスループットスクリーニング法は、多数の潜在的なiPS代替作用物質(潜在的には、iPSタンパク質の1つを代替するように働く)を含有する、コンビナトリアル化合物ライブラリーまたはペプチドライブラリーを準備することを伴う。次いで、望ましい特徴的な活性、すなわち、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチド一部を発現するが、全てを発現しない細胞において多能性幹細胞の特徴を誘導する活性を示すライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を特定するために、このような「コンビナトリアル化合物ライブラリー」は本明細書に記載のように1つまたは複数のアッセイ法においてスクリーニングされる。
【0165】
コンビナトリアル化合物ライブラリーとは、多数の化学的「基本単位」、例えば、試薬を組み合わせることによって、化学合成または生物学的合成によって生成された多様な化合物の収集物である。例えば、直線状コンビナトリアル化合物ライブラリー、例えば、ポリペプチドライブラリーは、一組の化学的基本単位(アミノ酸)を、所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)について可能なあらゆる様式で組み合わせることによって形成される。このような化学的基本単位のコンビナトリアル混合を介して、何百万もの化合物が合成される。
【0166】
コンビナトリアル化合物ライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者に周知である。このようなコンビナトリアル化合物ライブラリーには、ペプチドライブラリーが含まれるが、これに限定されない(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-493(1991)およびHoughton et al ., Nature 354:84-88(1991)を参照されたい)。化学多様性ライブラリーを作製する他の化学も使用することができる。このような化学には、ペプトイドライブラリー(例えば、PCT公開番号WO91/19735)、コードペプチドライブラリー(PCT公開番号WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマーライブラリー(PCT公開番号WO92/00091)、ベンゾジアゼピンライブラリー(米国特許第5,288,514号)、ダイバーソーマー(diversomer)、例えば、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドライブラリー(Hobbs, et al., Proc.Nat.Acad.Sci.USA 90:6909-6913(1993))、ビニロガス(vinylogous)ポリペプチドライブラリー(Hagihara, et al., J.Amer.Chem.Soc.114:6568(1992))、グルコース骨格を有する非ペプチド性ペプチド模倣物ライブラリー(Hirschmann, et al., J.Amer.Chem.Soc.114:9217-9218(1992))、低分子化合物ライブラリーの類似有機合成ライブラリー(Chen, et al., J.Amer.Chem.Soc.116:2661(1994))、オリゴカルバメートライブラリー(Cho, et al., Science 261:1303(1993))、ならびに/またはペプチジルホスホネートライブラリー(Campbell, et al., J.Org.Chem.59:658(1994))、核酸ライブラリー(例えば、Ausubel、Berger、およびSambrookを参照のこと。全て前記)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照のこと)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn, et al., Nature Biotechnology 14(3):309-314(1996)およびPCT/US96/10287を参照のこと)、糖質ライブラリー(例えば、Liang, et al., Science 274:1520-1522(1996)および米国特許第5,593,853号を参照のこと)、ならびに有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum,CおよびEN, Jan 18, page 33(1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および米国特許第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照のこと)が含まれるが、これに限定されない。
【0167】
コンビナトリアルライブラリーを調製するための装置は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照されたい)。さらに、非常に多くのコンビナトリアルライブラリーそのものが市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照されたい)。
【0168】
次いで、作用物質と接触させ、任意でOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの全てではないが一部を発現する(例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドのうちの1つ、2つ、または3つの組み合わせを発現する)細胞を、多能性細胞を開発するために、例えば1つまたは複数の多能性幹細胞の特徴をスクリーニングすることによって、スクリーニングすることができる。最初のスクリーニングは、スクリーニングしようとする細胞を、選択マーカーまたは他の方法で特定可能なマーカーに機能的に連結された、多能性幹細胞において活性化されることが知られている(任意で、他の細胞では活性化されない)プロモーターエレメントを含む発現カセットで形質転換することによって、設計することができる。例えば、GFPまたは他のレポーターシステムなどの検出可能なマーカーを使用することができる。多能性幹細胞において活性化されることが知られている例示的なプロモーターエレメントには、Oct4、Nanog、SSEA1、およびALPプロモーター配列が含まれるが、これに限定されない。細胞はまた、Nanog、SSEA1およびALPを含むが、これに限定されない、当技術分野において公知の他の多能性細胞マーカーの発現についても(例えば、免疫蛍光法などによって)スクリーニングすることができる。一部の態様において、細胞形態が調べられる。
【0169】
一部の態様において、細胞は、MAPK/ERKキナーゼ(MEK)インヒビターの存在下で培養される。本発明者らは、MEKインヒビターが存在すると、非多能性細胞の増殖が阻害され、多能性幹細胞の増殖が刺激されることを発見した。従って、この効果はスクリーニングの「シグナル」を強め、多能性幹細胞への細胞のリプログラミングを誘導する作用物質のより効率および感度の高い検出を可能にする。多種多様なMEKインヒビターが公知であり、PD0325901(例えば、Thompson, et al., Current Opinion in Pharmacology 5(4):350-356(2005)を参照されたい);MEKインヒビターU0126(Promega)、ARRY-886(AZD6244)(Array Biopharma); PD98059(Cell Signaling Technology);およびアミノチオアクリロニトリル(米国特許第6,703,420号)が含まれるが、これに限定されない。他のMEKインヒビターは、特に、例えば、米国特許第6,696,440号およびWO04/045617に記載されている。
【0170】
VIII.細胞混合物
本明細書において議論されるように、本発明は、H3K9メチル化を阻害する作用物質;L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターからなる群より選択される1つまたは複数の化合物との混合物中の非多能性細胞を提供する。一部の態様において、化合物は、多能性を誘導するのに十分な濃度で、または多能性への誘導効率を改善するのに十分な濃度で混合されている。例えば、一部の態様において、化合物は、少なくとも0.1nM、例えば、少なくとも1nM、10nM、100nM、1000nM、10000nM、または100000nM、例えば、0.1nM~100000nM、例えば、1nM~10000nM、例えば、10nM~10000nMの濃度である。一部の態様において、混合物は、合成容器(例えば、試験管、ペトリ皿など)の中にある。従って、一部の態様において、細胞は、単離された細胞であり(動物の一部でない)。一部の態様において、細胞は、動物(ヒトまたは非ヒト)から単離され、容器に入れられ、本明細書に記載のように1つまたは複数の化合物と接触させられる。その後に、細胞を培養してもよく、任意で、同じ動物または異なる動物に戻すことができ、任意で、特定の細胞タイプまたは系列になるように細胞を刺激した後に、同じ動物または異なる動物に戻すことができる。
【0171】
本明細書において説明されたように、一部の態様において、細胞は、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、Soxポリペプチド、およびKlfポリペプチドのうちの少なくとも1つまたは複数の異種発現のための発現カセットを含む。一部の態様において、細胞は、Oct、Myc、Sox、またはKlfポリペプチドのいずれかを発現する発現カセットを含まない。このような発現カセットを含むまたは含まない細胞は、例えば、本明細書に記載のスクリーニング方法において有用である。
【0172】
非多能性細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織、および末梢血より選択される組織に由来する細胞を含むが、これに限定されない、本明細書に記載の非多能性細胞が含まれる。例示的な細胞タイプには、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、およびT細胞が含まれるが、これに限定されない。
【0173】
本発明はまた、(細胞と一緒に、任意で、細胞を伴わずに)、H3K9メチル化を阻害する作用物質(BIX-01294を含むが、これに限定されない)と、L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの少なくとも1つより選択される化合物との混合物を提供する。一部の態様では、前記で列挙した作用物質および少なくとも1つの化合物は前記の濃度である。このような混合物は、例えば、細胞の多能性を誘導するための「プレミックス」として有用である。
【0174】
IX.キット
本発明はまた、例えば、細胞における多能性の誘導または多能性の誘導効率の改善において使用するためのキットを提供する。このようなキットは、H3K9メチル化を阻害する作用物質;L型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターからなる群より選択される1つまたは複数の化合物を含んでもよい。一部の態様において、キットは、H3K9メチル化を阻害する作用物質(BIX-01294を含むが、これに限定されない)、およびL型Caチャンネルアゴニスト;cAMP経路のアクチベーター;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)インヒビター;核受容体リガンド;GSK3インヒビター;MEKインヒビター;TGFβ受容体/ALK5インヒビター;HDACインヒビター;またはErkインヒビターのうちの少なくとも1つより選択される第2の化合物(H3K9メチル化を阻害する作用物質とは別個の、またはH3K9メチル化を阻害する作用物質と混合される)を含む。
【0175】
一部の態様において、キットは非多能性細胞をさらに含む。非多能性細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織、および末梢血より選択される組織に由来する細胞を含むが、これに限定されない、本明細書に記載の非多能性細胞が含まれる。例示的な細胞タイプには、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、およびT細胞が含まれるが、これに限定されない。
【実施例0176】
実施例1
発癌性転写因子(例えば、cMycおよびOct4(Hochedlinger, K. et al., Cell 121, 465-477(2005))のウイルス導入に代替することができ、およびリプログラミング効率を増強できる条件を特定することに向けて、本発明者らは2つの手法の組み合わせを活用しようと努力した。1つは、ある特定の接触可能な成体前駆細胞が多能性を誘導するために必要とされる遺伝子のいくつかをある特定のレベルで内因性に発現している可能性があり、ならびに/または、これらの遺伝子の座位が、そのような前駆細胞がより効率的におよび/もしくはより少ない遺伝子操作でリプログラミングされ得るように、より少なくサイレンシングされている可能性があるという概念に基づいて、画定された前駆細胞のタイプを調査することであり;他方の手法は、特異的な転写因子のウイルス組み込みに代替することができ、および/またはリプログラミング過程を促進できる可能性がある低分子をスクリーニングすることであった。
【0177】
様々な組織由来の接触可能である種々の成体幹/前駆細胞の中で、本発明者らは以下の理由のために最初に神経前駆細胞に努力を集中させた。(i)種々のタイプの幹/前駆細胞を含む可能性がある不均質な初代繊維芽細胞培養(例えば、MEF)とは対照的に、神経前駆細胞は比較的画定された細胞の集団であり、および化学的に画定された条件の下でクローンにより拡大することができるという理由。(ii)神経前駆細胞は特異的なSox遺伝子(例えば、Sox1またはSox2)を内因性に発現しており、そのSox遺伝子は過剰発現よりは低いレベルであるが、iPS細胞を作製するのに十分である可能性があるという理由。(iii)神経前駆細胞またはSox遺伝子発現細胞は他の組織から単離され得(Fernandes, K. J. L. et al., Nature Cell Biology 6, 1082-1093 (2004); Seaberg, R. M. et al., Nature Biotechnol. 22, 1115-1124 (2004))、およびインビトロで拡大され得るという理由。そのため、画定された神経前駆細胞は、リプログラミング過程/機構における上記の質問に取り組むための優れたモデル系に相当する。ハイスループットスクリーニングにおいて使用できる神経前駆細胞の無限で、高度に再現性があり、および画定された供給源を確立するために、本発明者らは、Oct4調節要素の制御の下にGFP-IRES-Puro/GiPレポーターを含むmESC由来神経前駆細胞を使用することを選択した。なぜなら、mESCは大量に増殖させることができ、および神経前駆細胞の均質な集団への分化が十分に画定されており(Conti, L. et al., PLoS Biol. 3, e283 (2005))、ならびに確証されたレポーター活性(Ying, Q. L. et al., Nature 416, 545-548 (2002))は容易なアッセイ検出を促進することができるからである。
【0178】
単層でゼラチン上に血清および他の増殖因子/サイトカインが無い化学的に画定された培地/CDM条件において低細胞密度で8日間増殖させたOct4-GiP mESCを分化させ、その後神経球を形成させ、続いて10 ng/mlのbFGFおよびEGFを添加した神経細胞拡大培地において単層で6継代/24日を超えて単細胞で連続継代することにより、レポーター神経前駆細胞は十分に確立された手順を用いて作製された。結果として生じた神経前駆細胞は、細胞形態および神経マーカー発現に関して均質であり、GFP陰性およびピューロマイシン感受性であると確認された。通常のmESC増殖培地において単層にプレーティングしたそのような神経前駆細胞に、4種類の因子の4、3、または2種類の組み合わせを導入し、その後、導入した細胞を典型的な6穴型式において低分子公知薬物コレクション由来の個々の低分子で処理した。化合物処理および培養は、ピューロマイシンを添加する前の追加的な10日間、継続させた。緑色およびピューロ耐性のコロニーの数を14日目に計数した。陽性対照として4遺伝子のみを導入した神経細胞と比較して、対応する遺伝子のみの条件より多い緑色コロニーを生成させた化合物条件を一次ヒット(primary hit)として選び出した。これらの一次ヒット条件をさらに確認するために、本発明者らは、OG2+/-/ROSA26+/-トランスジェニックマウス(Oct4-GFPレポーターを含む)の胎児脳由来であり、かつ10 ng/mlのbFGFおよびEGFを伴う上記と同一の神経CDM条件の下で単層で拡大された、マウスCNS神経前駆細胞の後期継代(Do, J. T. et al., Stem Cells 25, 1013-1020 (2007))を使用することを選択した。すべての適切な対照を用いてはあり得そうにないが、真に非多能性組織由来のそのような細胞は、上記のスクリーニングシステムにおけるES細胞のいずれの混入の懸念が無いと考えられる。ピューロマイシンを使用せず、緑色コロニーを選び出してNanog、SSEA1、およびALPの染色により特徴決定する以外は同様の培養条件およびリプログラミングアッセイ法を、OG2神経前駆細胞を用いて行った。本発明者らは、12~14日目に特定することができた緑色コロニーのほとんどすべてが、形態および典型的な多能性マーカーの発現により古典的なmESCと区別不能である長期安定なiPS細胞に、拡大できることを見出した。
【0179】
本発明者らは最初に、胎児神経前駆細胞を用いて再確認され得る2つの新たな条件に特徴決定の努力を集中させた。ある特定の関連性のあるリプログラミング遺伝子の内因性発現を有するある特定の組織特異的前駆細胞は、iPS細胞を作製するためにより少ない外因性遺伝子操作を必要とする可能性があるとまさに仮説を立てたように、本発明者らはOct4およびKlf4を合わせたのみのウイルス導入が10~14日で神経前駆細胞からiPS細胞を作製するのに十分であることを見出した。そのようなリプログラミング効率(3.5×10
4細胞あたり1~2個のGFPコロニー)は、追加的なSox2およびcMycウイルス導入を伴う条件(3.5×10
4細胞あたり8~10個のGFPコロニー)より低い(
図1)が、2種類の遺伝子のみ(Oct4およびKlf4)によるリプログラミング速度論は最初の4種類の遺伝子によるものよりも有意に遅くはないことが興味深い。これは、胚繊維芽細胞が内因性にcMycを発現しているにもかかわらず、MEFからiPS細胞を作製させる際にcMycを省くことが、cMycの過剰発現を有する条件よりも有意に遅い(例えば、追加的に2週間)という最近の観察と対照的である。最も興味深いことに、本発明者らは、G9a(H3K9me2に対するヒストンメチルトランスフェラーゼ)を特異的に阻害する低分子BIX01294(Kubicek, S. et al., Molecular Cell 25, 473-481(2007))が、リプログラミングの速度論を有意に短くしなかったが、4種類の因子すべてのウイルス導入を使用するレベルへまたは該レベルより高いレベルへリプログラミング効率を有意に改善し得ることを見出した。リプログラミング事象は、典型的にはiPS細胞コロニーを特定する能力によって検定され、細胞培養の方法、細胞特定および/または選択、ならびに入力細胞のタイプ、数、ならびにリプログラミング効率および速度論を含む多くの因子により影響を受ける。従って、リプログラミングのための任意の所定の遺伝子の必要条件は、その特異的な設定に関連し、およびリプログラミング効率/速度論に大いに依存する。これに関して、この単一の低分子BIX01294は、かなりの程度までcMycおよびSox2のウイルス導入に機能的に代替した。
【0180】
GFP+iPS細胞コロニーは、OG2神経前駆細胞にOct4/Klf4レトロウイルスを導入し、BIX01294で処理した後12日で、直ちに現れた。14日目に、Oct4-Klf4ウイルス導入およびBIX01294処理から作製されたiPS細胞を、通常のmESC培養条件においてMEFフィーダー細胞上でLIFの存在下で、継続したBIX01294処理の必要が無く容易に拡大することができる。Oct4/Klf4ウイルス導入およびBIX01294処理により作製されたiPS細胞は、MEFフィーダー上でmESC増殖培地において、継続したBIX01294処理無しに、長期に自己複製することができる。それらは緻密な半球形のコロニーとして増殖する。これらのiPS細胞は、特徴的なmESCコロニー形態を維持し、免疫細胞化学、組織染色、およびRT-PCR解析により、Oct4、Nanog、SSEA1、およびALPを含む典型的な多能性マーカーをmESCに匹敵するレベルで均質に発現している。さらに、10代にわたって連続的に継代されたそのようなiPS細胞は、標準的な胚様体または指示された分化法の下で、3つの一次胚葉の派生物である特徴的なニューロン(βIII-チューブリン)、拍動する心筋細胞(心筋トロポニン)、および膵臓または肝臓細胞(Pdx1またはアルブミン)へ有効に分化することができる。かつ最も重要なことに、そのようなiPS細胞は、8細胞胚との凝集後に胚盤胞のICMに効率的に組み込まれ、凝集した胚をマウスに移植した後に高度のキメラ現象をもたらし、およびインビボで生殖系列に貢献することができる。これらのインビトロおよびインビボの特徴決定により、同時BIX01294処理を伴うOct4およびKlf4ウイルス導入により作製されたiPS細胞が、形態的、機能的、および典型的な多能性マーカーの発現により、最初の4因子iPS細胞および古典的なmESCと区別不能であることが確認される。
【0181】
1つの質問は、内因性または外因性にかかわらず、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycの発現が、iPS細胞を作製するのに不可欠であるか否かである。興味深いことに、繊維芽細胞からヒトiPS細胞を作製する段階についての最近のリプログラミング研究により、Klf4およびcMycの外因性発現はNanogおよびLin28と機能的に交換可能である一方で、Oct4およびSox2の発現はこれまでのところ必要であるように見えることが、すべての発表されたiPS細胞の研究より示されている。興味深いことに、本発明者らは、Oct4発現の無い状態での同時BIX01294処理を伴うKlf4、Sox2、およびcMycのウイルス導入もまた、それらの3種類の因子/KSM単独のウイルス導入は本発明者らのアッセイ条件の下でiPS細胞コロニーを生産することができなかった一方で、iPS細胞を作製できることを見出した(
図2)。同様に、そのようなKSM-BIX01294で作製されたiPS細胞は、MEFフィーダー上で通常のmESC増殖条件において何代かにわたってBIX01294無しで、安定に拡大され、および長期に自己複製し、特徴的なmESC形態を維持し、ALP、Oct4、Nanog、およびSSEA1を含む典型的な多能性マーカーを均質に発現し、ならびにインビトロで三胚葉の細胞へ分化することができる。Oct4発現の無い状態でのリプログラミング効率が比較的低いことを注目すべきである。
【0182】
最後に、本発明者らは、MEKの特異的低分子インヒビターであるPD0325901のリプログラミングの後期段階(例えば、Oct4-GFP活性化後)への適用が、iPS細胞を作製するための優れた選択戦略として役立ち得ることを観察した。リプログラミングの非常に低い効率のため、iPS細胞は典型的に、遺伝子改変体細胞株を用いた多能性マーカーの調節要素の制御の下にあるレポーター(例えば、Neo/PuroまたはGFP)の使用によって選択されるか、または、細胞形態に基づいて手動で選び出される。遺伝子非改変細胞に適用可能である後者の方法は、iPS細胞の最終的な臨床用途により適しているが一方で、多くのコロニーを数代にわたって選び出しかつ増殖させることを典型的に必要とし、そのうち少しの画分のみしか効率的に真のiPS細胞にならない、非常により退屈で信頼性のない技術である。これは一つには、同様に見えるコロニーの大部分が、急速に増殖する部分的にリプログラミングされた細胞および/または単に形質転換された細胞である可能性があり、ならびにiPS細胞の増殖およびリプログラミングを干渉する可能性があるためである。従って、遺伝子非改変細胞のための代替的な選択戦略を有することが非常に望ましいと考えられる。本発明者らは、PD0325901が、iPS細胞の増殖および安定的なリプログラミングを効率的に促進する一方で、非iPS細胞の増殖を阻害し、iPS細胞のより大きなかつより均質なコロニーをもたらすことを見出した。この観察は、mESCは増殖のそのような制限を欠落し、およびMEKの阻害がmESCの分化も阻害する(iPS細胞状態のさらなる安定化に貢献する)一方で、MEK活性が体細胞の細胞周期進行に必要とされるという機構に部分的による可能性がある。
【0183】
本明細書において示されている結果は多数の重要な含意を有する。(1)(組織特異的前駆)体細胞によりリプログラミングに必要とされる重要な遺伝子の(過剰発現)より低い内因性発現レベルが、iPS細胞を作製するためのウイルス導入を介した対応する外因性遺伝子発現に代替するのに十分である可能性がある。このことは、内因的組織特異性によりおよび/またはエクスビボの培養操作を介してある特定の関連性のあるリプログラミング遺伝子を内因性に発現する、実際的に接触可能な細胞を活用することによって、より少ない遺伝子操作を用いて体細胞からiPS細胞を作製する代替的な戦略を示唆する。(2)これは、合理的に設計された細胞に基づくスクリーニングより、iPS細胞を作製する際にある特定の転写因子のウイルス導入に機能的に代替し、リプログラミング効率を改善し、または選択条件として働く低分子が特定され得るという、原理証明の実証である。特異的な遺伝子操作に代替するためのそのような薬理学的手法は、癌遺伝子(例えば、cMycおよびOct4)の挿入および挿入変異に関連する危険度を実質的に減少させ得るだけでなく、画定された低分子により、正確に制御されおよび高効率のリプログラミング過程ができるようにする可能性を切り開く。これは、非常に低い効率および遅い速度論のために現在大部分困難であるリプログラミングの分子機構を研究するために特に重要である。(3)iPS細胞を作製する際の機能獲得手法と対照的に、それらの特異的な低分子インヒビターの非常に有効な使用は、特異的遺伝子の機能喪失がiPS細胞を作製する際に少なくとも同等に重要かつ有効であり得ることを示唆している。より重要なことに、BIX01294の機能は、iPS細胞を作製する際の特異的なエピジェネティック機構/標的、すなわちG9a媒介H3K9me2の阻害を画定する。これは、抑圧的なH3K9メチル化が分化の間のOct4不活性化と関連しており(Feldman, N. et al., Nature Cell Biology 8, 188-194 (2006))、およびヒストンのリジンのメチル化が頑強ではあるが、動的であり、かつHMTaseおよびリジンデメチラーゼにより調節されているという先行知見と一致する。BIX01294は、Oct4のサイレンシングされた状態から活動的な転写へのエピジェネティックバランスの移行を促進するように機能する可能性がある。(4)iPS細胞の容易な選択のためにMEKインヒビターを使用することによって例証され、低分子により体細胞とESCとの間の差異を活用することは、iPS細胞を選択するための代替的/魅力的戦略に相当する。最後に、本明細書において報告されている戦略および低分子は、iPS細胞を作製する段階の改善された手法およびよりよい機構的理解のためにさらに探究され得、ならびに、(残存する導入された転写因子の機能に代替することができ、およびリプログラミングを改善できる)追加的な低分子、およびいかなる遺伝子改変も無い完全に化学的に画定された条件において高効率なiPS細胞の作製を最終的に可能にする他の非遺伝的方法(例えば、タンパク質導入)と組み合わされ得ることが考えられる。
【0184】
方法
神経前駆細胞培養
神経前駆細胞は、Contiらにより報告された手順に従い、mESCまたはマウス胎児脳由来であった(Conti, L. et al., PLoS Biol. 3, e283 (2005))。簡潔には、mESCを0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュ上に1×104細胞/cm2で神経誘導培地(50% DMEM/F12基本培地、50% Neurobasal培地、0.5× N2、0.5× B27、1× Glutamax、50 ug/ml BSA)においてプレーティングし、7~8日間分化させた。次に、形成された神経ロゼットをトリプシン処理して単細胞にし、神経球を形成するようにUltra-Low Attachment dish(Corning)中に神経前駆細胞拡大培地(DMEM/F12、1× N2、10 ng/ml bFGF、10 ng/ml EGF、50ug/ml BSA)において再プレーティングした。懸濁液において3日後に神経球をゼラチンでコーティングしたディッシュに再接着させて、それらをさらに単細胞で継代し、単層で、ゼラチンでコーティングしたディッシュ上で神経前駆細胞拡大培地において5~6継代を超える間増殖させる前に、4~6日間さらに分化させた。
【0185】
12.5~16.5 dpc ROSA26/OG2ヘテロ接合体胎児の脳由来の神経球を以前に記載されているように生成させた(Do, J. T. et al., Stem Cells 25, 1013-1020 (2007))。簡潔には、皮質を切開し、酵素的に分離させ、70μmのナイロンメッシュ(Falcon; Franklin Lakes, NJ)を通過させた。0.5×HBSS中の0.9 Mスクロースにおいて750 gで10分間、およびEBSS溶液中の4% BSAにおいて200 gで7分間の遠心分離により、神経細胞をさらに精製した。そのような細胞を神経球を形成するように懸濁液でさらに増殖させ、その後単層で、ゼラチンでコーティングしたディッシュ上で上述したような神経前駆細胞拡大培地において連続的に継代した。動物実験は、Government of Max Planck Society, GermanyのAnimal Protection Guidelinesに従って認可され、行われた。
【0186】
レトロウイルス導入
Oct4、Klf4、Sox2、およびc-MycのマウスcDNAをpMSCVレトロウイルスベクター中にクローニングし、塩基配列決定により検証した。pMXベースのレトロウイルスベクターはAddgeneより入手した。ウイルス生産および導入は、2~3に記載されているように行った。
【0187】
神経前駆細胞からのiPS細胞誘導
mESC由来または初代OG2マウス神経前駆細胞をMatrigel(1:50, BD Biosciences)でコーティングした6ウェルプレート中に3.5×104細胞/ウェルで神経前駆細胞拡大培地においてプレーティングした。1日後、これらの細胞にレトロウイルスを一晩導入し、培地を、BIX01294(0.5~1μM)を含むかまたは含まないmESC増殖培地[DMEM、5% FBS、10% KSR、1×non-essential amino acids(Gibco)、2mM L-グルタミン(Gibco)、0.1 mM β-メルカプトエタノール(Gibco)、および103単位/ml LIF(Chemicon)]に交換した。GFP陽性iPS細胞コロニーは9~14日後に出現し、選び出してMEFフィーダー細胞上でmESC増殖培地を用いて拡大した。
【0188】
特徴決定アッセイ法
ALP染色はAlkaline Phosphatase Detection Kit(Chemicon)により指示されているように行った。細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、PBSで3回洗浄し、次に、0.3% TritonX-100(Sigma)および10%正常ロバ血清(Jackson ImmunoResearch)を含むPBS中で30分間室温でインキュベーションした。その後、細胞を以下の1次抗体と一晩4℃でインキュベーションした:マウス抗Oct4抗体、マウス抗SSEA1抗体(1:200、Santa Cruz)、ウサギ抗Sox2抗体(1:200、Chemicon)、ウサギ抗Nanog抗体(AbCam)、ウサギ抗Pdx1(1:200、C. Wright博士より)、マウス抗βIII-チューブリン抗体(1:500、Covance)、マウス抗心筋トロポニンT(1:200、DSHB)、ウサギ抗アルブミン抗体(DAKO)。洗浄後、細胞をさらに2次抗体:Alexa Fluro555ロバ抗マウスIgGまたはAlexa Fluro555ロバ抗ウサギIgG(1:500、Invitrogen)と30分間、RTでインキュベーションした。核をDAPI(Sigma)染色により検出した。画像をNikon TE2000-Uにより捕捉した。
【0189】
iPS細胞の透明帯除去(zona-free)胚との凝集
凝集体キメラを得るために、iPS細胞を露出されたコンパクション後の8細胞期胚と凝集させた。2.5 dpcで雌から流し出した8細胞胚(B6C3F1)をミネラルオイルの下でKSOM培地(10% FCS)の微小滴において培養した。短時間のトリプシン処理後のiPS細胞の塊(10~20細胞)を選択し、透明帯除去8細胞胚を含む微小滴中に移した。iPS細胞と凝集した8細胞胚を一晩、37℃、5% CO2で培養した。8細胞期から発生した凝集した胚盤胞を2.5 dpcの偽妊娠レシピエントの1つの子宮角中に移植した。
【0190】
実施例2
体細胞は、4種類の転写因子の組み合わせ、Oct4/Sox2/Klf4/c-MycまたはOct4/Sox2/Nanog/LIN28を用いて、多能性幹細胞(iPSC)に誘導することができる。このことは、種々の治療用途および研究用途のために患者特異的な細胞を得ることを可能にするプラットホームを提供する。しかしながら、効率およびウイルスのゲノム組み込みに付随する欠点のために、本手法が治療的に関連するにはいくつかの問題が残っている。上記で説明したように、Oct4/Klf4を導入した神経前駆細胞(NPC)をiPSCにリプログラミングすることができる。しかしながら、NPCは内因性にSox2を発現し、ことによると外因性のSox2が無い状態においてリプログラミングを促進する。本研究において、本発明者らは、リプログラミングに不可欠な因子を内因性に発現していないOct4/Klf4を導入したマウス胚繊維芽細胞のリプログラミングを可能にする低分子の組み合わせ、BIX-01294およびBayK8644を特定した。本研究は、表現型スクリーニングにより特定された低分子が、Sox2のような重要な因子のウイルス導入を補償することができ、およびリプログラミング効率を改善できることを証明する。
【0191】
本実施例は、リプログラミングに不可欠と考えられるTF、Oct4、Sox2、およびKlf4のいずれも発現していない一般的な細胞系列からiPSCを得るために、低分子が特異的なウイルス導入に代替し得るかを評価することを目標とする。そのため、マウス胚繊維芽細胞(MEF)を使用した。MEFのリプログラミングの誘導においてこれらのTFの1つに代替し得る低分子を見出すことは、本過程に関与する一般的経路の特定につながる可能性がある。そのような化学的戦略は、治療用途により適している可能性がある。従って、本発明者らは、OKを導入したMEFからのiPSCの作製を可能にすることができる低分子を特定するために公知薬物のコレクションをスクリーニングし、こうしてSox2の過剰発現の欠落を補償することができた。行った様々なスクリーニングによって、本発明者らは、L-チャンネルカルシウムアゴニストであるBayk8644(BayK)(Schramm, M. et al., Nature, 303:535-537 (1983))とBIXの組み合わせが最も有効な1つであるということを特定した。Baykは細胞シグナル経路において上流でその効果を及ぼし、エピジェネティック修飾を直接は引き起こさないため、関心対象であった。BayKまたはWntシグナル経路のアクチベーター(Marson, A. et al., Cell Stem Cell, 3:132-135 (2008))などのこのタイプの分子は、DNAまたはヒストン修飾を引き起こすエピジェネティックレベルで直接作用する分子よりもより特異的な様式で、リプログラミングを誘導するために活用できる可能性が高い。BIX(Shi, Y. et al., Cell Stem Cell, 2:525-528 (2008))、バルプロ酸(Huangfu, D. et al., Nat Biotechnol, 26:795-797 (2008))、および5'アザシチジン(Mikkelsen, T. et al., Nature, 454:49-55 (2008))など、これらのエピジェネティック修飾因子のいくつかは、リプログラミング過程を促進することが既に示されている。
【0192】
本研究は、表現型スクリーニングによって特定された低分子が、繊維芽細胞において内因性に発現されていないもう1つの重要なiPSC TFであるSox2のウイルス導入を有効に補償するために使用できることを証明する。さらに、低分子スクリーニングが、リプログラミングなどの複雑な生物学的過程に関与する新たな分子標的および機構を最後には発見するであろうという重要な貢献を強調する。
【0193】
結果
表現型スクリーニングは、2種類のTFのみを導入した際にMEFのリプログラミングを可能にする低分子の発見をもたらす。
129マウスのE13~14胚由来の改変されていないMEFを最初のスクリーニングに使用した。MEFをMatrigel上に6ウェルプレートのウェルあたり3.5×10
4細胞でプレーティングし、OK(Oct4およびKlf4を発現するレトロウイルスベクター)単独を導入した。14~21日内に、特徴的な胚性幹細胞(ESC)コロニー形態を有しかつ多能性マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)が陽性であるコロニーの出現について、処理した細胞を評価した。そのようなOKを導入した細胞は、ALP発現が弱陽性である小さな緻密でないコロニーを少しのみ生成した。これらのコロニーはウイルス導入後21日以内に最初に出現し、拡大するのが難しかった。そのため、そのようなアッセイシステムは、望ましいリプログラミング誘導活性を有する低分子の特定のためにきれいなバックグラウンドを提供した。このシステムを用いて、およそ2000個の公知低分子のライブラリー由来の化合物(下記の実験手順参照)をスクリーニングし、処理後14~21日以内にALPが強陽性であるESCコロニーの出現を誘導した際にヒットとして特定した。このイメージに基づく方法は、同種のレポーターに基づくアッセイ法と比較するとリプログラミングのより正確な評価を提供した。BIXは、高いALP発現を有する1~2個より多い緻密なESC様コロニーの再現性のある誘導に最も強い効果を有すると見受けられた。本発明者らは、MEFをOKウイルス導入後にBIXで処理した際に、強いALP発現を有する緻密なコロニーをおよそ14~21日以内に容易に検出できることを観察した。これらの細胞はまた、Nanog、Oct4、およびSSEA-1発現について陽性であった。3種類の不可欠なリプログラミング遺伝子のいずれをも内因性に発現していないより一般的な細胞タイプを用いて得られた本結果は、BIXが強いリプログラミング誘導活性を有し、G9a HMTaseがリプログラミングを促進することができる(Shi, Y. et al., Cell Stem Cell, 2:525-528 (2008))という本発明者らの以前の観察をさらに確証する。しかしながら、OKを導入し、かつBIXで処理したMEFにおけるリプログラミング効率は、MEFの4因子で誘導されるリプログラミングまたはOK/BIX NPCリプログラミングと比較すると依然として低く、約2コロニー/3.5×10
4細胞であった(Shi, Y. et al., Cell Stem Cell, 2:525-528 (2008))。そのため、本発明者らは、同様の手順であるが、OKウイルス導入後にBIXを基本培地に添加した手順を用いて2回目のスクリーニングを実施した。これは、さらにリプログラミング効率を改善できる新たな低分子を特定するためのより許容的なプラットホームを提供した。より重要なことに、この2回目のスクリーニングは、より特異的な様式において、例えば、ヒストンまたはDNA修飾酵素よりもむしろシグナル伝達経路に作用することによってリプログラミングに影響を与える低分子の発見を促進することができた。この2回目のスクリーニングにおいて、本発明者らは再びおよそ2000個の公知低分子のライブラリー(実験手順参照)を検定し、スクリーニングの基準に基づいてリプログラミングを改善するようにBIXと相乗的な様式において作用することができる2個の化合物を確認した。1つの例はDNAメチルトランスフェラーゼ(DMNT)インヒビターであるRG108であり(Brueckner, B. et al., Cancer Res, 65:6305-6311 (2005))、BIXの存在下でOKを導入したMEFのリプログラミングを増強した(
図3)。しかしながら、BIXと同様にRG108は一般的なエピジェネティックレベルで細胞に影響を与えることが公知であり、別のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターである5-アザシチジンがリプログラミングを増強することが既に示されている(Mikkelsen, T. S. et al., Nature, 454:49-55 (2008))。従って、RG108は本研究のためにはさらに追求しなかった。その代わりに、本発明者らは、2回目のスクリーニングにおいて特定されたもう1つの低分子であるL-カルシウムチャンネルアゴニストのBayKに、表現型および機能的特徴決定を集中させた。公知のDNA/ヒストン修飾因子の他にスクリーニングにおいて最も強い効果を示した本低分子をさらに研究した。なぜなら、BIXの非存在下においてはOKを導入したMEFに対して観察可能なリプログラミング活性を有さず、およびエピジェネティックレベルで細胞に直接影響を与えずにむしろ細胞シグナル伝達レベルで影響を与えることが公知であるためである。従って、BayKはリプログラミング過程においてより特異的な役割を果たす可能性がある。129MEFに空のレトロウイルス(陰性対照)を導入した際には;コロニーは観察されなかった。129MEFに低分子無しでOKを導入した際には;弱いALP発現を有する少しの小さな平坦なコロニーしか存在しなかった。129MEFにOKを導入し、およびBIX/BayKで処理した14~21日後にはESC様iPSCコロニーが観察され;これらのESC様コロニーは強いALP発現を示した。OKを導入したMEFをBayKとの組み合わせでBIXで処理した際には、BIX単独で処理したOKを導入したMEF(~2コロニー)と比較して、mESCの形態に酷似しているALP
+コロニーの数において有意な増加を観察することができた(~7コロニー)。これらの初代iPSCコロニーのさらなる特徴決定により、免疫蛍光法によって測定すると、Oct4、Sox2、Nanog、およびSSEA1などの典型的な多能性マーカーが陽性であることが示された。
【0194】
OKを導入し、およびBIX/BayKで処理したMEFから得られたiPSCは、mESCの多能性特性の特徴を有する。
OK導入およびBIX/BayK処理がMEFがiPSCになるように誘導できることをさらに確認し、および特徴決定するために、本発明者らはOct4-GFPレポーターを含むOG2
+/-/ROSA26
+/-(OG2)トランスジェニックマウス由来の初代MEFを使用した(Do, J.T. and Scholer, H.R., Stem Cells, 22:941-949 (2004))。これらの細胞は一度リプログラミングされると、次にキメラおよび生殖系列適格性を便利に評価するのに使用することができる。129 MEFと同様に、OKを導入したOG2 MEFはBayK/BIXの組み合わせで処理した際にiPSCを作製することができた(OK2B iPSC)(
図3)。GFP
+ iPSCコロニーはウイルス導入および化合物処理後14~21日に最初に検出することができた。OG2 MEFにOKを導入していかなる化合物でも処理しなかった際には、3.5×10
4細胞あたり平均0.5±0.7コロニーの少しの小さなコロニーのみが出現した。これらのコロニーは継代することが難しく、そのためそれ以上は研究しなかった。OKを導入したOG2 MEFのBIX単独での処理は、3.5×10
4細胞あたり2.5±0.7コロニーと、OK単独と比較して容易にかつ再現的にリプログラミングを可能にした。OKを導入したOG2 MEFをBIX(2μM)およびBayK(2μM)の組み合わせで処理した際にはリプログラミング効率においてさらに有意な改善があり、本発明者らは3.5×10
4細胞あたり7.7±1.5コロニーを観察した(
図3)。OKを導入したOG2 MEFのBIXの非存在下におけるBayK単独での処理は、上記のOKを導入したMEF対照のリプログラミング効率を増加させなかった(データは示していない)。
【0195】
OK2Bコロニーを選び出し、放射線照射したMEFフィーダー細胞上で通常のmESC増殖条件において低分子の非存在下で20継代より多く連続的に拡大した。染色および/またはRT-PCR(
図4A)により、これらのGFP
+ OK2B iPSCはALP、Nanog、Sox2、Oct4、SSEA1、c-Myc、eRas、Esg1、Ecat1、およびFgf4を含む典型的な多能性マーカーを発現していることが示された。RT-PCRアッセイ法により、OK2B iPSCが内因性のOct4およびKlf4を発現していることも証明された(
図4A)。Nanogプロモーターのバイサルファイトゲノム塩基配列決定解析により、MEFのNanogプロモーターは高度にメチル化されているが、OK2B iPSCにおいてはmESC対照(R1)と同様に脱メチル化されていることが明らかになった(
図4B)。本結果は、これらのOK2B iPSCにおける幹細胞転写プログラムの再活性化をさらに示唆する。加えて、トランスクリプトーム解析により、OK2B iPSCの発現プロファイルは、クラスタリング解析において例証されるようにMEFのプロファイルとは0.84のピアソン相関値で有意に異なっているが、mESCの一つとは0.96のピアソン相関値で非常に似ていることが示された。
【0196】
mES細胞およびMEF細胞を用いたOK2Bトランスクリプトームの比較のために、トランスクリプトーム解析を実施した。Qiagen RNAeasy Mini Kitを用いて13継代のOK2B iPS細胞よりRNAを抽出した。OK2B iPSCについてのRNA発現データをGeneChip Mouse Genome 430 2.0 Arrays (Affymetrix)を用いてポリA RNAより作製した。MEF細胞およびmES細胞についての発現データはGene Expression Omnibus(GEO)ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/より取得した。mES細胞データ登録番号:GSM198062、GSM198063、およびGSM198064。MEF細胞データ登録番号:GSM198070およびGSM198072。前処理、標準化(GC-RMA)、および階層的クラスタリングをdChip(http://biosun1.harvard.edu/complab/dchip/;(距離メトリック(Distance metric):相関(ピアソン);連鎖方法:セントロイド(centroid);遺伝子順序:クラスターの堅固さによる)を用いて行った。OK2B iPSC対MEF細胞についてのp値:0.84;OK2B iPSC対mES細胞についてのp値:0.96。p値はピアソン相関試験を用いて得られた。
【0197】
OK2B iPSCは、すべての三胚葉に由来する細胞に分化し、かつ生殖系列伝達に貢献する。
OK2B iPSCは懸濁液において胚様体(EB)を効率的に形成することができ、胚様体は3つの一次胚葉の派生物である内胚葉細胞(アルブミンおよびPdx1)、中胚葉細胞/心筋細胞(CT3)および外胚葉細胞/ニューロン(βIII-チューブリン、Tuj1)に分化することができた。加えて、OK2B iPSCは、8細胞胚との凝集に続いて胚盤胞の内部細胞塊中に効率的に組み込まれ、凝集した胚を偽妊娠マウスに移植した後にインビボで生殖系列貢献を伴うキメリズムをもたらすことができた。さらに、これらの胚盤胞から得られた1匹の成体雄の子孫を雌のCD1野生型マウスと交配させるとLacZ+子孫の産生をもたらし、そのうち3匹はこれらのiPSCが生殖系列伝達に貢献できたことをさらに確証するOct4-GFP+生殖腺を示した。これらのインビトロおよびインビボの特徴決定により、2種類の遺伝子OKのみのレトロウイルス導入、およびBIX/BayK処理との組み合わせが、表現型および機能的に古典的なmESCと同様であるiPSCにMEFをリプログラミングするのに十分であることが確認された。
【0198】
考察
本明細書において示されている研究は、ある特定のTFのウイルス導入に機能的に代替し、およびMEFのような一般的な細胞のタイプからiPSCを作製する際にリプログラミング効率を改善するための合理的に設計された表現型スクリーニングから低分子が特定され得るという、原理証明の実証を提供する。標的/過程のより正確および時間的な制御を提供する、iPSCの作製のためのそのような化学的手法は、有害な検出しがたい挿入性のゲノム変化も導入する可能性がある癌遺伝子での遺伝子操作に優って有利であると考えられる。同様の戦略が、完全に化学的に画定された条件において系列が制限された細胞の多能性または多分化能状態へのリプログラミングを最終的に可能にし得る追加的な低分子を見出すために使用されている。BIXは当初はG9a HMTaseの特異的インヒビターとして特定され、特徴決定された(Kubicek, S. et a., Mol Cell, 25:473-481 (2007))。G9a標的遺伝子でH3K9me2レベルを減少させることが示されている(Feldman, N. et al., Nat Cell Biol, 8:188-194 (2006))。興味深いことに、G9aにより媒介されるヒストンH3K9メチル化およびヘテロクロマチン化は、Oct4およびRex1などの胚性遺伝子のエピジェネティックサイレンシングのための高度に特異的な機構に相当する(Feldman, N. et al., Nat Cell Biol, 8:188-194 (2006))。さらに、G9aのノックダウンは成体神経細胞の融合に基づくリプログラミングを補助できることも証明された(Ma, D.K. et al., Stem Cells, 26:2131-2141 (2008))。そのため、BIXがOKまたはKlf4/Sox2/c-Mycのいずれかを導入したNPCからのiPSCの作製を促進でき(Shi, Y. et al., Cell Stem Cell, 2:525-528 (2008))、Sox2またはOct4の内因性発現を補償できると示唆することを本発明者らが以前に観察したのは適切である。しかしながら、NPCは既に有意なレベルのSox2を発現しており、これらの細胞を上述した条件においてリプログラミングにより感受性にさせた可能性がある。本研究は、リプログラミングに必要であると考えられるTFのいずれをも発現していないMEFのリプログラミングを可能にできる低分子を特定することを目標にした。本発明者らがNPCおよびMEF両方のスクリーニングにおいてBIXを特定したのは思いがけないことであり、本分子が体細胞からのiPSCの作製を可能にし、および改善する役割を有することをさらに確認する。BIXの特徴決定された作用機構を考慮すると、本発明者らの研究は、薬理学的阻害を介した機能喪失が、不可欠なiPSCリプログラミング遺伝子の機能獲得を補償するのに十分である分子標的を潜在的に特定した。それはさらに、特異的なエピジェネティック過程であるG9a媒介H3K9me2の阻害をiPSC作製に機構的に結びつける。BIXは、多能性遺伝子のサイレンシングされた状態から活動的な転写状態へのエピジェネティックバランスの移行を促進するように機能する可能性がある。明らかに、RG108などの異なる標的および作用機構を有する他のクロマチン修飾低分子とのBIXの組み合わせを、よりよいリプログラミングのために活用することができた。他方で、特異的なL型カルシウムチャンネルアゴニストとして特徴決定された活性を有するBayK(Schramm, M. et al., Nature, 303:535-537 (1983))がリプログラミング効率を改善するという本発明者らの観察は興味深い。L型カルシウムチャンネルは血圧調節、平滑筋収縮、インシュリン分泌、心臓発生などのような様々な組織における細胞内過程を媒介することが公知である(Tosti, E., Reprod Biol Endocrinol, 4:26(2006))。さらに、BayKを含む様々なアゴニストによるL型カルシウムチャンネルの活性化は、CREB活性化、筋小胞体Ca
2+の放出、およびcAMP活性における変化によって細胞内シグナルを誘導することが示されている。より重要なことに、いくつかの報告は、mES細胞の増殖の制御においてカルシウムが役割を果たす可能性があることを示唆している(Heo, J.S. et al., Am J Physiol Cell Physiol, 290:C123-133 (2006))。しかしながら、本発明者らの手においては、2μM BayK単独または1μM BIXとの組み合わせでのmES細胞の処理は、増殖における変化をもたらさない(
図5)。さらに、2μM BayK単独または1μM BIXとの組み合わせでのOG2 MEFの処理は、SOX2発現を誘導しない(
図6)。言うまでもなく、BayKがリプログラミング過程に影響を与える正確な機構を吟味するにはより多くの仕事が行われる必要がある。しかしながら、以前にはリプログラミングに関連付けられていなかったシグナル経路において活性を有する低分子が有意にその効率を増強できることを見出すのは興味深い。これまでのところ、それは、クロマチン修飾因子に直接作用することなくリプログラミングへの影響を示す、Wnt3タンパク質(Marson, A. et al., Cell Stem Cell, 3:132-135 (2008))とは別のタイプの最初の低分子である。なぜなら、最新では、リプログラミングに影響を与えることが見出された他の低分子のほとんどが細胞のエピジェネティック状態を直接修飾すると見受けられるからである:すなわち、BIX(Shi, Y. et al., Cell Stem Cell, 2:525-528 (2008))、バルプロ酸(Huangfu, D. et al., Nat Biotechnol, 26:795-797 (2008))、および5'アザシチジン(Mikkelsen, T.S. et al., Nature, 454:49-55 (2008))。重要なことに、BayKはインビボでのリプログラミングおよび/または再生に治療的に関連する分子にとって最終的に望ましいと考えられるいくつかの重要な特徴を有するように見受けられる。それだけでは作用/リプログラミングしないが、その効果を発揮するためにBIXの存在を必要とする事実は、おそらく損傷により引き起こされてリプログラミングの形式を既に経験している細胞がその効果により感受性である可能性があることを示唆する。このことは、直接のエピジェネティック修飾因子がそうであるように、全身性に健常細胞に影響を与えることなくより特異的な様式において標的細胞を最終的にリプログラミングすることを許容し得る。
【0199】
要約すると、本発明者らは、2種類のTF:Oct4およびKlf4のみの導入と共に繊維芽細胞のiPSCへのリプログラミングを可能にし、および改善できる画定された低分子条件、すなわち、BIX、およびBIX/BayK、またはBIX/RG108の組み合わせを特定した。本研究はさらに、本研究におけるSox2、または以前に報告されたようなOct4(Shi, Y. et al., Cell Stem Cell, 2:525-528 (2008))などの不可欠なiPSC TFのウイルス導入を有効に補償できる低分子を特定する段階における表現型スクリーニング手法の有用性を確認する。最終的には、表現型低分子スクリーニングは、リプログラミング過程への新たな洞察を提供する強力なツールとなると考えられる低分子の特定をもたらす可能性があり、および最終的にインビボの幹細胞生物学および治療に有用である可能性がある。
【0200】
実験手順
MEFの由来
129S2/SvPasCrlfまたはROSA26+/-/OG2+/-MEFは、WiCell Research Instituteのウェブサイト:「Introduction to human embryonic stem cell culture methods.」に報告されている手順に従って得られた。動物実験は、Max Planck Institute for Biomolecular Research, GermanyのAnimal Protection Guidelinesに従って行った。
【0201】
レトロウイルス導入および化合物
マウスOct4、Klf4、c-Myc、およびSox2についてのpMXベースのレトロウイルスベクターはAddgene(Cambridge, MA)より入手した。ウイルス産生および導入過程は記載されているように行った(Takahashi, K. et al., Cell, 131:861-872 (2007))。化合物BIX-01294の合成および完全な特徴決定は、以前に記載された通りであり(Kubicek, S. et al., Mol Cell, 25:473-481 (2007))、Bayk8644はEMD/Calbiochem Biochemical (San Diego, CA)から購入した。
【0202】
MEFからのiPSC作製についてのスクリーニング
1次および2次スクリーニングのために、公知化合物のコレクションを使用した。本コレクションは、FDAにより認可された薬物、特徴決定された酵素の公知のインヒビターおよびアクチベーターを含む、市販されているおよそ2000個の公知生理活性分子から構成されていた(Sigma-Aldrich (St. Louis, MO)由来のLOPACコレクション、BIOMOL (Plymouth Meeting, PA)由来のKnown Bioactive Library、およびEMD Calbiochem (San Diego, CA)由来の非重複公知化合物を含む)。
【0203】
初代の129S2/SvPasCrlf(1次スクリーニング)またはROSA26+/-/OG2+/-(2次スクリーニング)MEFをMatrigel(1:50;BD Biosciences, Bedford, MA)でコーティングしたディッシュ上に6ウェルプレートのウェルあたり3.5×104細胞の密度でプレーティングした。24時間後に、これらの細胞に画定されたレトロウイルスを37℃、5% CO2で一晩導入した。12~14時間後に、導入した細胞上の培地をmESC培地[Knockout DMEM、10% ESに適したFBS、10% Knockout serum replacement、1% Glutamax、1% Non-essential amino acids、ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、1% EmbryoMax ESC Qualified Nucleosides (Millipore, Temecula, CA)、および103 U/ml LIF (Millipore)](言及している以外、すべての製品はInvitrogen, Carlsbad, CA由来である)に交換した。その同じ日に、本発明者らの公知薬物コレクション由来の個々の低分子を0.5~2μMの範囲で細胞に添加した。化合物処理を10~14日間継続し;14~21日目に標準的なALP検出キット(Millipore)を用いて細胞を固定および染色した。2回目のスクリーニングのためには、1μM BIXを形質導入1日後にmESC培地に添加した。5日後に、1μM BIXに加えて、公知薬物コレクション由来の個々の低分子を0.5~2μMの範囲で各ウェルに添加した。画定された低分子を含むマウスESC培地を、通常形質導入後14~21日の間であったmESCと同様の形態を有するコロニーが観察されるまで、3日毎に新しくした。本文において示されているような確認された化合物に加えて、さらには追跡しなかった2回目の共力剤スクリーニング由来の1次ヒットは、PD173074、リバーシン(riversine)、5'アザシチジン、プルリポチン(pluripotin)、およびデキサメタゾンも含む。さらなる特徴決定研究および反復を初代129S2/SvPasCrlfまたはROSA26+/-/OG2+/- MEFのいずれかについて行った。ROSA26+/-/OG2+/- MEFを使用した際には、iPSCコロニーをOct4発現のマーカーとしてのGFP発現によって特定することもできた。iPSCコロニーを1度特定すると、拡大のためにmESC培地においてMEFフィーダー細胞上に選び出した。いくつかのコロニーを、さらにその多能性を確認するために、0.5~2μMの濃度のMEKインヒビターPD0325901の存在下で拡大した。
【0204】
免疫細胞化学および免疫蛍光アッセイ法
ALP染色は、Alkaline Phosphatase Detection Kit(Millipore)を用いて製造業者の指示に従って行った。免疫蛍光アッセイ法のために、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で15分、室温(RT)で固定し、PBSで洗浄した。次に、ブロッキング緩衝液(BB)[PBS(Invitrogen)において0.3% Triton X-100(Sigma-Aldrich)、10%正常ロバ血清(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)]中で30分、RTでインキュベーションした。次に、1次抗体と一晩4℃でBB中でインキュベーションした。その後、細胞をPBSで洗浄し、2次抗体とBB中で45~60分間RTでインキュベーションした。1次抗体は以下であった;マウス抗Oct4(1:200)(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)、マウス抗SSEA1(1:200)(Santa Cruz Biotechnology Inc.)、ウサギ抗Nanog(1:500)(Abcam Inc., Cambridge, MA)、マウス抗Sox2(1:200)(Millipore)、ウサギ抗Pdx1(1:200)(C.Wright博士からの親切な贈り物)、マウス抗βIII-チューブリン(Tuj1)(1:500)(Covance Research Products Inc., Denver, PA)、マウス抗心筋トロポニンT(CT3)(1:200)(Developmental Studies Hybridoma Bank at the University of Iowa, Iowa City, IA)、ウサギ抗アルブミン(DAKO)。2次抗体はAlexa Fluor555ロバ抗マウスまたはウサギIgG(1:500)(Invitrogen)であった。核をDAPI(Sigma-Aldrich)染色により検出した。画像を測光CoolSnap HQ2 カメラを有するNikon Eclipse TE2000-U/X-cite 120 EXFO顕微鏡を用いて捕捉した。
【0205】
RT-PCRアッセイ法
RNeasy Plus Mini KitをQIAshredderと組み合わせて用いて、iPSCおよび対照細胞株からRNAを抽出した。iScript(商標)cDNA Synthesis Kit(BioRad, Hercules, CA)を用いてRNAをcDNAに変換した。特異的遺伝子の増幅は、以前に発表されたプライマー(Takahashi, K. et al., Cell, 131:861-872 (2007);Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126:663-676 (2006))およびPlatinum PCR SuperMix(Invitrogen)を用いてMastercycler ep gradient PCR machine(Eppendorf)上で行った。
【0206】
メチル化アッセイ法
Non Organic DNA Isolation Kit(Millipore)を用いてR1、OG2 MEF、およびOK iPSC(10継代)細胞からDNAを単離した。次に、バイサルファイト塩基配列決定のためにDNAをEZ DNA Methylation-Gold Kit(商標)(Zymo Research Corp., Orange, CA)で処理した。次に、処理したDNAを関心対象の配列を増幅するために用いた。プロモーター断片増幅のために使用したプライマーは以前に発表された通りであった(Blelloch, R. et al., Stem Cells, 24:2007-2013 (2006))。結果として生じた断片をTOPO TA cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を用いてクローン化し、塩基配列決定を行った。
【0207】
iPSCの透明帯除去胚との凝集
凝集体キメラを得るために、iPCを露出されたコンパクション後の8細胞期胚と凝集させた。8細胞胚(B6C3F1)を2.5 dpcで雌から流し出して、ミネラルオイルの下でKSOM培地(10% FCS)の微小滴において培養した。短時間のトリプシン処理後のiPSCの塊(10~20細胞)を選択し、透明帯除去8細胞胚を含む微小滴中に移した。iPSCと凝集した8細胞胚を一晩、37℃、5%CO2で培養した。8細胞期から発生した凝集した胚盤胞を2.5 dpcの偽妊娠レシピエントの1つの子宮角中に移植した。1匹の成体雄キメラを雌のCD1野生型マウスと交配させた。X-gal染色により、キメラマウスおよび野生型マウスのこの自然交配から得られた6個のF1胚が生殖系列伝達により作製されたことが示された。
【0208】
統計解析
棒グラフおよび統計解析は、Excelにおける標準的なt検定を用いて行った。
【0209】
マイクロアレイ解析
OK2B iPSCを完全なmES細胞培地においてゼラチン(Millipore, Temecula, CA)上で2日間増殖させた[Knockout DMEM、10% ESに適したFBS、10% Knockout serum replacement、1% Glutamax、1% Non-essential amino acids、ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、1% EmbryoMax ESC Qualified Nucleosides(Millipore)、および103 U/ml LIF(Millipore)](言及している以外、すべての製品はInvitrogen, Carlsbad, CA由来である)。次に、RNAeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて2通りのウェルからのRNAを単離した。MessageAmp II-Biotin Enhanced Kit(Ambion, Austin, TX)を用いて、全RNA試料を増幅し、かつ標識した。次に、増幅して標識した試料をMouse Genome 430 2.0 Arrays(Affymetrix)にハイブリダイズさせ、GenePattern(ワールドワイドウェブ:broad.mit.edu/cancer/software/)を使用した階層的クラスタリング(ピアソン、対数変換(log-transformed)、列中心(row-centered)値)を用いて解析を行った。
【0210】
増殖アッセイ法
mES R1細胞をゼラチンでコーティングした6ウェルプレート上に2×105細胞/ウェルの密度で完全なmES細胞培地においてプレーティングした。細胞接着と同時、およそ12時間で、DMSO、1μM BIX、2μM BayK、および両方の組み合わせのいずれかで、細胞を3連で処理した。15、24、および48時間で、細胞をトリプシンを用いて剥離させ、血球計算板を用いて計数した。トリパンブルー(Sigma-Aldrich, St.Louis, MO)を死細胞除去のために使用した。
【0211】
化合物処理後のSOX2発現の評価
OG2+/-/ROSA26+/- MEFを6ウェルプレート上にウェルあたり3.4×104細胞の密度でプレーティングした。次の日に、DMSO、1μM BIX、2μM BayK、および両方の組み合わせで、細胞を3連で6日間処理した。培地を3日目に新しくした。次に、RNAeasy Mini Kit(Quiagen)を用いて各ウェルからのRNAを単離した。RNAの逆転写をiScript(商標)cDNA Synthesis Kit(BioRad, Hercules, CA)を用いて行った。内因性Sox2の増幅は以前に発表されたプライマー(Takahashi, K., Okita, K., Nakagawa, M., and Yamanaka, S. (2007). Induction of pluripotent stem cells from fibroblast cultures. Nat Protoc 2, 3081-3089;Takahashi, K., and Yamanaka, S. (2006). Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126, 663-676)をPlatinum PCR SuperMix(Invitrogen)と共に用いて、Mastercycler(登録商標)ep gradient PCR machine(Eppendorf)において行った。
【0212】
実施例3
本実施例は、哺乳動物細胞の転写因子タンパク質とのインキュベーションが多能性を誘導するのに十分であることを証明する。
【0213】
遺伝子構築:
大腸菌(E.coli)において高レベルのタンパク質発現を得るために、4種類すべてのヒトTF遺伝子のコドン領域を最初に最適化し(G A Gutman and G W Hatfield (1989). PNAS. vol. 86.pp:3699-3703)、DNAオリゴベース/PCR遺伝子構築技術(Danilo R Casimiro, Peter E WrightおよびH Jane Dyson. (1997). Structure. Vol.5. pp: 1407- 1412.)を用いて全長を合成した。ポリアルギニンタグ:
を設計において各タンパク質のC末端に付加した(Gump JM, Dowdy SF. (2007) Trends Mol Med. 2007 Oct;13(10):443-8)。最終的なDNA断片にNdeIおよびXhoI部位を隣接させ、タンパク質発現のためにpET41発現ベクターのNdeI-XhoI部位に挿入した。各プラスミドをDNA配列で検証し、次に組み換えタンパク質生産のために自己誘導培地を用いて一晩、BL21出発のコンピテントセルを形質転換した(Studier FW, (2005) Protein Expr Purif. 41(1). Pp: 207-234.)。
【0214】
タンパク質調製
大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)細胞をpET-Oct4-PTD(「PTD」はタンパク質導入ドメインを指す)、pET-Soc2-PTD、pET-Klf4-PTD、およびpET-c-Myc-PTDで別々に形質転換し、自己誘導法を用いてタンパク質発現を行った(Studier F.W., Protein Expression and Purification, 41 (2005) 207-234.)。記載されているように、封入体を可溶化してタンパク質をリフォールディングした(LaFevre BM, Wu S.およびLin X. Molecular Cancer Therapeutics 7, 1420-1429, June 1, 2008. doi: 10.1158/1535-7163;Medynski D., Tuan M., Liu, W., Wu, S.およびLin, X. Protein Expression and Purification Vol. 52, 395-402, April 2007;Hou W., Medynski D., Wu, S., Lin, X.およびLi, LY. Clinical Cancer Research Vol. 11, 5595-5602, August 1, 2005)。
【0215】
簡潔には、発現プラスミドを含む大腸菌を、カナマイシンを含む1.0LリットルのLuria-Bertani Broth中に播種して、A600nm=0.6で500umol/L IPTGを用いて誘導し、3時間37℃で撹拌した。細胞を遠心分離によって収集し、沈殿物を凍結融解のサイクルに供した。放出された封入体を20mmol/Lトリス、100mmol/L NaCl、1% TritonX-100 (pH8.0)を含む緩衝液で大規模に洗浄して、8 mol/L尿素、0.1 mol/Lトリス、1 mmol/Lグリシン、1 mmol/L EDTA、10 mmol/L b-メルカプトエタノール、10 mmol/L DTT、1 mmol/L還元型グルタチオン、0.1 mmol/L酸化型グルタチオンを含む緩衝液(pH 10)にA280 nm=2.0で溶解した。可溶化した封入体を、記載されているような急速希釈法を用いてリフォールディングした(Lin XL, Lin YZ, Tang J., Methods Enzymol 1994. 241. 195-224;Lin X, Koelsh G., Wu.S, Downs D, Dashti A. Tang J. Proc Natl Acad Sci USA. 2000; 97. 1556-1560;Kim YT. Downs D. Wu S, et al. Eur J Biochem 2002. 269: 5669-77;Michelle LaFevre-Bernt, Shili Wu, and Xinli Lin. (2008). Molecular Cancer Therapeutics. 7: pp:1420-1429)。リフォールディングしたタンパク質をN2限外濾過により濃縮し、Sephacryl S 300を用いた分子ふるいクロマトグラフィーにより精製した。タンパク質調製物の各々におけるエンドトキシン濃度は100EU/ mgよりも少なかった。ほとんどのリフォールディングタンパク質試料は、少なくとも>1.5mg/mlの溶解度を有する。
【0216】
リフォールディングしたタンパク質を接線流濾過を用いて濃縮し、Superdex-200カラム(XK26x850-mm, GE, Piscataway, NJ)での分子ふるいクロマトグラフィーを用いて精製して、SDS-PAGEを用いて確認した。
【0217】
マウス繊維芽細胞を、8μg/mlのOct4/Sox2/Klf4またはOct4/Sox2/Klf4/Myc(上述したようにすべてのタンパク質はポリArgを含む)のいずれかを添加したmESC培地において6~8時間増殖させ、洗浄し、上記に列挙した転写因子を含まないmESC培地において2~3日間インキュベーションした。これ(4~12時間含み、1~3日含まない)を何回か(1、2、3、4、またはそれ以上)反復し、その後細胞をmESCにおいて2週間培養した。この期間の終わりに、コロニー形態およびマーカー発現により培養物が多能性細胞を含むかを測定した(データは示していない)。著しく、細胞の転写因子との恒常的なインキュベーション(すなわち、タンパク質を含まない1~3日の期間がない状態)は、細胞にとって毒性であることが見出された。必要ではなかったが、場合によっては細胞をMEKインヒビター(PD0325901)および/またはGSKインヒビター(CHIR99021)および/またはTGFβインヒビター(SB431542)とインキュベーションし、これらの作用物質の存在は多能性細胞の発生の効率および速度を改善した。
【0218】
上記の実施例は、本発明を例証するために提供されるが、その範囲を限定するようには提供されない。本発明の他の変形物は当業者に容易に明らかであり、添付の特許請求の範囲により包含される。本明細書において引用されているすべての刊行物、データベース、Genbank配列、特許、および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0219】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> THE SCRIPPS RESEARCH INSTITUTE
<120> COMBINED CHEMICAL AND GENETIC APPROACHES FOR GENERATION OF
INDUCED PLURIPOTENT STEM CELLS
<150> US 61/069,956
<151> 2008-03-17
<150> US 61/197,986
<151> 2008-10-31
<160> 1
<170> PatentIn version 3.5
<210> 1
<211> 20
<212> PRT
<213> Artificial sequence
<220>
<223> Poly-arginine tag
<400> 1
Glu Ser Gly Gly Gly Gly Ser Pro Gly Arg Arg Arg Arg Arg Arg Arg
1 5 10 15
Arg Arg Arg Arg
20