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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101682
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】汚染防止剤及び皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/60 20060101AFI20230713BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20230713BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
A61K8/60
A61Q5/00
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089027
(22)【出願日】2023-05-30
(62)【分割の表示】P 2020502851の分割
【原出願日】2019-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018034242
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(57)【要約】
【課題】微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子の付着防止効果を有する新規な汚染防止剤及び該汚染防止剤を含有する皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【解決手段】マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を含有することを特徴とする、都市大気粉塵付着予防効果を有する汚染防止剤及び該汚染防止剤を含有する皮膚外用剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を含有する、汚染防止剤としての使用方法。
【請求項2】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)がMEL-Bである、請求項1に記載の汚染防止剤としての使用方法。
【請求項3】
MEL-Bが一般式(2)または一般式(3)にて示される構造(一般式(2)及び一般式(3)中、置換基R1は同一でも異なっていてもよい炭素数4~24の脂肪族アシル基を示す)を有する、請求項1または2に記載の汚染防止剤としての使用方法。
【化2】
【化3】
【請求項4】
R1の炭素数が8~14個である、請求項1または2に記載の汚染防止剤としての使用方法。
【請求項5】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が溶媒中に分散・溶解して成る組成物である、請求項1から4のいずれかに記載の汚染防止剤としての使用方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の汚染防止剤を含む皮膚外用剤としての使用方法。
【請求項7】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.001~10.0質量%含有する請求項6に記載の皮膚外用剤としての使用方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の汚染防止剤を用いることにより大気エアロゾル粒子の皮膚または毛髪への付着を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を含有することを特徴とする汚染防止剤に関する。さらに詳細には、MELを有効成分とした微小粒子状物質等の大気汚染物質の付着を防止するのに有用である汚染防止剤及び該汚染防止剤を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚や毛髪は常に外的環境に曝されており、外的環境から様々なダメージ、いわゆる外的刺激を受けている。外的刺激には乾燥や太陽光線、気温等の物理的刺激と、環境中に浮遊する液体や固体の微粒子である大気エアロゾル粒子による化学的刺激に大別される。近年、大気エアロゾル粒子の皮膚への影響が注目されつつあり、その大気エアロゾル粒子の代表としては、種々の化学物質や生体異物、粒子等が挙げられ、自動車、火力発電所、焼却炉、工場等からの排煙、火山噴火による噴出物、土壌粒子等を由来とする粉塵や黄砂といった粒子状物質、燃焼等を由来とする一酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物等の排出ガス、炭化水素と窒素酸化物等が光化学反応を起こして生じるオゾンや多環芳香族炭化水素等の光化学オキシダント、燃焼や石油製品からの揮発等を由来とする揮発性有機化合物等の排出ガスや微粒子、鉱物や工業製品等を由来とする石綿等の微粒子、たばこの煙等が挙げられる。
【0003】
これらの中でもとりわけ、微小粒子状物質、いわゆるPM2.5については、近年近隣諸国から越境輸送されてくることが日本周辺で非常に深刻な問題となっている。これら微小粒子状物質が皮膚や毛髪に付着することに起因する生体への悪影響が広く認識されつつあり、昨今の健康意識の高まりも相まって関心を集めている。微小粒子状物質による皮膚への悪影響としては、微小粒子状物質が角質層の奥まで侵入することで、生体異物として免疫系を刺激し、プロスタグランジンE2(PGE2)やヒスタミンといった炎症性メディエーターの生成を促進し、炎症を惹起するといったメカニズムが提唱されている。これらの外的刺激から皮膚を保護するためには、ダメージの原因となり得る物質を皮膚に付着させないこと及び/又は付着した刺激原因物質による悪影響を緩和(酸化防止又は中和)すること等が考えられる。
【0004】
大気汚染物質を皮膚に付着させないアプローチとしては、大気汚染物質による皮膚の損傷を緩和するアンチポリューション剤およびアンチポリューション用皮膚外用組成物として、ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有するアンチポリューション剤が提案されている(特許文献1)。
一方、皮膚に付着した刺激原因物質による悪影響を緩和するアプローチとしては、グミ科ヒッポファエ属の抽出物が粒子状大気汚染物質等の大気エアロゾル粒子に起因するPGE2の上昇を抑制することで、大気エアロゾル粒子に起因する皮膚炎症を抑制する作用を見出している(特許文献2)。また、皮膚内部に浸透した汚染物質が表皮細胞で皮膚炎症を惹起するメカニズムに注目し、アミノ酸類の亜鉛塩及び/又は亜鉛錯体による細胞傷害緩和作用、CYP1過剰誘導作用、COX-2過剰誘導作用、IL-8過剰誘導作用の抑制といった顕著な有用性を見出している(特許文献3)。
【0005】
上述のように、生体に含まれる高分子化合物による微小粒子状物質に対する保護効果や、植物エキスや金属錯体を含む有機酸による微小粒子状物質に起因する生体反応の抑制効果が提案されている。これらに加え、汚染物質による皮膚への影響に対して、異なるメカニズムで効果を発揮する新規の素材を提案することは、微小粒子状物質に対する汚染防止の相乗効果が見込まれるという観点や、製剤処方の多様化の観点、より安全な微小粒子状物質の保護効果を有する成分を提供するという観点から、微小粒子状物質に対する汚染防止効果を有する新規素材を提案することが求められる。
【0006】
そのような背景のもと、微生物が生産する発酵物をスキンケア素材として利用するための研究開発も近年盛んに行われている。しかしながら、現状では上述したような微小粒子状大気汚染物質に対して十分な効果を有する素材に関する報告はなされていない。
【0007】
上述の微生物が生産するスキンケア素材として、親水基と親油基を併せもつ両親媒性物質で、界面活性能を有するバイオサーファクタントが一例として挙げられる。微生物由来の界面活性剤であるバイオサーファクタントは、安全性が高く、環境への負荷が少ない生分解性に優れた環境先進型界面活性剤として研究が進められている。現在、バイオサーファクタントとしては、糖型、アシルペプチド型、リン脂質型、脂肪酸型及び高分子化合物型の5つに分類することができるが、中でも糖型バイオサーファクタントが最もよく研究されており、細菌及び酵母によって生産された多くの種類の物質が報告されている。
【0008】
そのような糖型バイオサーファクタントとして、近年マンノシルエリスリトールリピッド(以下「MEL」ということがある)がスキンケア分野において高機能エモリエント剤として用いられている。MELは水に接触するだけでラメラ構造を容易に形成することから、皮膚の最外層にある角質層との親和性が高く、角質層が本来持つバリア機能を修復あるいは強化することが知られている。しかし、MELの微小粒子状大気汚染物質に対する汚染防止効果に関する報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-186276号公報
【特許文献2】特開2016-216366号公報
【特許文献3】特開2016-88929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた汚染防止効果を有し、安全性の高い汚染防止効果剤、並びに、前記汚染防止剤を利用した皮膚外用剤を提供することを目的とする。
発明の効果
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、微生物が生産する発酵物であるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が、微小粒子状物質に対する優れた汚染防止効果を有することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成から成る。
【0012】
項1.マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を含有することを特徴とする汚染防止剤。
項2.マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)がMEL-Bである項1に記載の汚染防止剤。
項3.MEL-Bが一般式(2)または一般式(3)にて示される構造(一般式(2)及び一般式(3)中、置換基R1は同一でも異なっていてもよい炭素数4~24の脂肪族アシル基を示す)を有する項1または2に記載の汚染防止剤。
【化2】
【化3】
項4.R1の炭素数が8~14個である項3に記載の汚染防止剤。
項5.マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が溶媒中に分散・溶解して成る組成物である項1から4のいずれかに記載の汚染防止剤。
項6.項1から5のいずれかに記載の汚染防止剤を含む皮膚外用剤。
項7.マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.001~10.0質量%含有する項6に記載の皮膚外用剤。
項8.項1から5のいずれかに記載の汚染防止剤を用いることにより大気エアロゾル粒子の皮膚または毛髪への付着を抑制する方法。
【0013】
本発明により、MELを有効成分とした汚染防止剤を提供することができる。特に本発明は、MELの自己組織化能を利用し、被塗布物質表面にMELから成る汚染防止層を形成することで、被塗布物質への大気エアロゾル粒子の吸着・侵入を妨げるものであり、皮膚のダメージを和らげる効果が期待できるため、汚染防止剤として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2において、MELを含むことによるバイオスキンを用いた汚染防止評価を行った結果を示す図である。
図2】実施例2において、MELを含むことによるバイオスキンへの都市大気粉塵汚染防止効果として、都市大気粉塵の除去率を示す図である。発明を実施するための形態
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の汚染防止剤は、MELを有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
本発明において主な汚染の対象となる大気汚染物質としては、大気中に存在する有害物質または有害物質群を指す。具体的には、大気汚染防止法により規制対象となっている、ばい煙、粉じん、自動車排出ガス、特定物質、有害大気汚染物質及び揮発性有機化合物(VOC)などが挙げられる(独立行政法人環境再生保全機構ホームページ;https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/taisaku/01_01.html)が、これらに限定されない。より具体的には、PM10やPM2.5といった複数種の有害物質からなる浮遊粒子状物質などが挙げられる。
【0017】
本発明において、汚染防止とは、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子が、皮膚や毛髪に対して付着することを防止するものである。さらには、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子が、皮膚や毛髪に対して付着することを防止することにより、それらに起因する皮膚障害を防止し、皮膚の損傷を緩和するものである。
【0018】
大気エアロゾル粒子は、皮膚や毛髪に対する外的刺激として代表的なものであり、種々の化学物質や生体異物、粒子等が挙げられ、自動車、火力発電所、焼却炉、工場等からの排煙、火山噴火による噴出物、土壌粒子等を由来とする粉塵や黄砂といった粒子状物質、燃焼等を由来とする一酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物等の排出ガス、炭化水素と窒素酸化物等が光化学反応を起こして生じるオゾンや多環芳香族炭化水素等の光化学オキシダント、燃焼や石油製品からの揮発等を由来とする揮発性有機化合物等の排出ガスや微粒子、鉱物や工業製品等を由来とする石綿等の微粒子、たばこの煙等が挙げられる。なかでも、微小粒子状物質を多く含む都市大気粉塵は、近隣諸国から越境輸送されてくるという観点から、とりわけアジア地域で、生体への悪影響が広く認識されている。
【0019】
本発明により提供される汚染防止剤は、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子の付着防止効果に優れるため、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子に起因する皮膚障害を抑制することができる。さらに、MEL自身が抗炎症効果及びバリア機能改善効果を有することから、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子に起因する炎症や肌荒れを抑制・改善することが期待できる。また、種々の配合成分を添加することにより、その効果の向上が期待される。この汚染防止剤は、化粧品、医薬部外品 、医療用品、衛生用品、医薬品として提供することができる。
【0020】
(MEL)
MELの構造を一般式(1)に示す。一般式(1)中、置換基R1は、同一でも異なっていてもよい炭素数4~24の脂肪族アシル基である。MELは、マンノースの4位及び6位のアセチル基の有無に基づいて、MEL-A、MEL-B、MEL-C及びMEL-Dの4種類に分類される。MELは、単独で使用してもよいが、2種以上のMELを併用することもできる。
【0021】
【化1】
【0022】
具体的には、MEL-Aは、一般式(1)中、置換基R2およびR3がともにアセチル基である。MEL-Bは、一般式(1)中、置換基R2はアセチル基であり、置換基R3は水素原子である。MEL-Cは、一般式(1)中、置換基R2が水素原子であり、置換基R3はアセチル基である。MEL-Dは、一般式(1)中、置換基R2及びR3がともに水素原子である。
【0023】
上記一般式(1)で示されるMELにおける置換基R1の炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類であるトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数、および、使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度によって変化する。また、上記トリグリセリドが不飽和脂肪酸残基を有する場合、MEL生産菌が上記不飽和脂肪酸の二重結合部分まで資化しなければ、置換基R1として不飽和脂肪酸残基を含ませることも可能である。以上の説明から明らかなように、得られるMELは、通常、置換基R1の脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。
【0024】
本発明の汚染防止剤に好ましく用いられるMELは、MEL-A、MEL-BもしくはMEL-Cであり、より好ましくは一般式(2)または一般式(3)にて示される構造を有するMEL-Bである。さらに好ましくは、一般式(3)にて示される構造を有するMEL-Bである。尚、一般式(3)中、置換基R1は同一でも異なっていてもよい炭素数4~24の脂肪族アシル基である。置換基R1の炭素数は上記範囲内であれば特に限定されないが、8個~14個であることがさらに好ましい。また、置換基R1は、飽和脂肪族アシル基であっても不飽和脂肪族アシル基であってもよく、特に限定されるものではない。不飽和結合を有している場合、例えば、複数の二重結合を有していても良い。炭素鎖は直鎖であっても分岐鎖状であってもよい。また、酸素原子含有炭化水素基の場合、含まれる酸素原子の数及び位置は特に限定されない。
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
(一般式(2)及び一般式(3)中、置換基R1は同一でも異なっていてもよい炭素数4~24の脂肪族アシル基である)
【0028】
MELは微生物を用いて培養生産することができる。例えば、Pseudozyma sp.等を培養して得られたMEL混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、それぞれのMEL-A、MEL-B、MEL-Cを単離することが出来る。
【0029】
本発明の組成物に添加する前記MELの使用形態は任意である。例えば、MELは、微生物培養液からの抽出物のまま、あるいは精製した高純度品を用いる。もしくは水に懸濁し、あるいは溶媒に溶かした後使用してもよい。好適なMEL-Bは精製した高純度品であり、80%~100%、より好ましくは90%~100%の純度に精製されたものが好ましく用いられる。
【0030】
本発明の汚染防止剤は、MELそのものあるいは、MELを溶媒中に分散・溶解して成る組成物を指す。溶媒としてはMELを分散・溶解することができれば特に限りはなく、水溶性基剤、油溶性基剤のいずれでも良い。水溶性基剤としては、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ペンチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。また、油溶性基剤としては、例えば、アボガド油、オリーブ油、オレンジ油、カミツレ油、ククイナッツ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油,ミンク油、卵黄油、パーム油、パーム核油、モクロウ、ヤシ油、硬化油、硬化ヒマシ油、ロウ類、ラノリン類、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、ラノリン脂肪酸などの天然脂肪酸、イソノナン酸、カプロン酸、2-エチルブタン酸、イソペンタン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソペンタン酸、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、バチルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシルなどが挙げられる。
【0031】
汚染防止剤におけるMELの配合量は、皮膚外用剤に汚染防止効果を付与できる範囲であれば特に制限はないが、通常0.001質量%~100.0質量%が好ましく、0.005質量%~95質量%がより好ましく、0.01質量%~90質量%がさらに好ましい。
【0032】
本発明はマンノシルエリスリトールリピッドを含有する汚染防止剤及びこれを含有する皮膚外用剤を提供するものであるが、MELの配合量は、汚染防止効果を発揮する範囲で添加すれば良い。皮膚外用剤中において通常0.001~10.0質量%が好ましく、0.01~1.0質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%がさらに好ましい。0.001質量%未満の場合、被塗布物質表面で十分にMELの層構造が形成されず、汚染防止効果が十分発揮されない可能性があり、一方10.0質量%を超える場合、製剤時の作業性の低下が懸念される。
【0033】
また、前記皮膚外用剤中に含まれ得る、前記MEL以外のその他の成分としても、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
本発明の汚染防止剤は、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子の優れた付着防止効果を有するとともに、安全性に優れるため、皮膚外用剤への利用に好適である。
【0035】
本発明の皮膚外用剤は、前記した本発明の汚染防止剤を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。ここで、皮膚外用剤とは、皮膚に適用される各種の薬剤を意味し、その区分としては特に制限されるものではなく、例えば、皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものである。
【0036】
前記皮膚外用剤の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプーなどが挙げられる。
【0037】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、皮膚外用剤を製造するにあたって通常用いられる成分、例えば、油性成分、界面活性剤、溶剤、保湿剤、増粘剤、薬効成分、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料等を適宜配合することができる。
【0038】
前記した油性成分としては、アボガド油、オリーブ油、オレンジ油、カミツレ油、ククイナッツ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油,ミンク油、卵黄油、パーム油、パーム核油、モクロウ、ヤシ油、硬化油、硬化ヒマシ油、ロウ類、ラノリン類、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、ラノリン脂肪酸などの天然脂肪酸、イソノナン酸、カプロン酸、2-エチルブタン酸、イソペンタン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソペンタン酸、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、バチルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシルなどが挙げられる。これら油性成分を添加することで、本発明の汚染防止用皮膚外用剤に対して基材としての効果やエモリエント効果が期待される。
【0039】
前記した界面活性剤としては、アニオン界面活性剤(カルボン酸塩,スルホン酸塩,硫酸エステル塩,リン酸エステル塩)、カチオン界面活性剤(アミン塩,四級アンモニウム塩)、両性界面活性剤(カルボン酸型両性界面活性剤,硫酸エステル型両性界面活性剤,スルホン酸型両性界面活性剤,リン酸エステル型両性界面活性剤)、非イオン界面活性剤(エーテル型非イオン界面活性剤,エーテルエステル型非イオン界面活性剤,エステル型非イオン界面活性剤,ブロックポリマー型非イオン界面活性剤,含窒素型非イオン界面活性剤)、その他の界面活性剤(天然界面活性剤,タンパク質加水分解物の誘導体,高分子界面活性剤,チタン・ケイ素を含む界面活性剤,フッ化炭素系界面活性剤)などが挙げられる。
【0040】
前記した溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ペンチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0041】
前記した保湿剤としては、化粧料に一般的に使用される成分であればいずれを使用してもよく、例えばピロリドンカルボン酸、乳酸、乳酸ナトリウム、アミノ酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これら保湿剤を添加することで、本発明の汚染防止用皮膚外用剤に対して保湿性付与などの効果が期待される。
【0042】
前記した増粘剤としては、化粧料に一般的に使用される成分であればいずれを使用してもよく、例えばグアガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、デキストラン、ローカストビーンガム、サクシノグルカン、カロニン酸,キチン、キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ベントナイト等が挙げられる。これら増粘剤は、本発明の汚染防止用皮膚外用剤に対して安定性向上、使用感改良等の効果が期待される。
【0043】
前記した薬効成分としては、化粧料に一般的に使用される成分であればいずれを使用してもよく、例えばビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6又はその誘導体、ビタミンB2又はその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類、各種動植物抽出物等が挙げられる。これら薬効成分を添加することで、本発明の汚染防止用皮膚外用剤に対して抗酸化作用やアンチエイジング効果の付与が期待される。
【0044】
前記した防腐剤としては、化粧料に一般的に使用される成分であればいずれを使用してもよく、例えばメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、フェノキシエタノール、エチルヘキシルグリセリン等が挙げられる。これら防腐剤を添加することで、本発明の汚染防止用皮膚外用剤に対して防腐性向上の効果が期待される。
【0045】
前記したpH調製剤としては、化粧料に一般的に使用される成分であればいずれを使用してもよく、例えばクエン酸、クエン酸Na、乳酸、乳酸Na、水酸化Na、水酸化K等が挙げられる。これらpH調製剤を添加することで、本発明の汚染防止用皮膚外用剤に対して安定性向上等の効果が期待される。
【0046】
本発明の汚染防止剤、並びに皮膚外用剤に、上述のような種々の成分を添加することにより、それらの成分に応じて、保湿作用、細胞賦活作用、抗老化作用、育毛作用及び肌荒れ改善作用などの効果を付与することが期待できる。
【0047】
本発明の汚染防止剤、並びに皮膚外用剤は、日常的に使用することが可能であり、有効成分である前記MELの働きによって、微小粒子状物質等大気エアロゾル粒子の皮膚への付着を防止するものである。そのため、本発明の汚染防止剤、並びに皮膚外用剤は、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子に起因する皮膚障害の発生を抑制できるとともに、MEL自身の抗炎症効果により、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子に起因する炎症を抑制することが期待できる観点から、外的環境から皮膚を守るために使用される皮膚外用剤に好適に利用できる。さらには、微小粒子状物質の付着防止効果、抗炎症効果に加え、MELにはバリア機能改善効果が認められることから、それぞれ異なるメカニズムで皮膚への有用な効果を示すことが期待でき、皮膚外用剤として用いることにより、例えば、微小粒子状物質によって引き起こされる炎症に起因する乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎、乾癬など、様々な皮膚症状の予防・改善を効果的に行えるようになることが期待される。
【0048】
本発明の汚染防止剤及び皮膚外用剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することも可能である。また、本発明の汚染防止剤は、微生物発酵による天然由来のMELを有効成分とするものであり、安全性に優れる点でも有利である。
【実施例0049】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0050】
実施例1 MEL-Bの製造
Pseudozyma tsukubaensis(NBRC 1940)を、500ml容坂口フラスコを用いて、YM培地にて培養温度26°Cで48時間通気攪拌培養した。得られた溶液を種培養液とする。得られた種培養液を、10L容ジャーファーメンターを用いて、YM培地(5% オリーブ油を含む)にて、培養温度26°Cで7日間通気攪拌培養した。培養液に等量の酢酸エチルを加え攪拌し分配を行った。酢酸エチル層に無水硫酸Naを適量加え30分間静置させた後、加温濃縮し、粗MEL-Bを得た。得られた粗MEL-Bを、シリカゲルカラムを用いて、クロロホルム:アセトン=1:0、クロロホルム:アセトン=9:1、クロロホルム:アセトン1:1、クロロホルム:アセトン=3:7、クロロホルム:アセトン=0:1で溶出した。MEL-B画分を分取・濃縮し、精製MEL-Bを得た。
【0051】
実施例2 MEL-Bによる都市大気粉塵汚染防止試験
(試料)
被験試料としては、表1に示す組成で、以下に記載する調製方法により調製した。なお、本発明に用いた試料は、上述の実施例1で得られたMEL-Bを用いた。
はじめに表1におけるAを70°Cまで加温し、Bを添加して撹拌・溶解した。続いて、A+B相を撹拌しながら、あらかじめ60°Cで加温溶解したC+D相(比較例の場合にはD相)を徐々に添加し、MELを分散させた被験試料を調製した。
【0052】
【表1】
【0053】
(バイオスキンを用いた汚染防止評価)
人工皮膚模型バイオスキン(ビューラックス製)に対して、被験試料を2mg/cm<2>となるように均一に塗布し、静置して乾燥させた(n=3)。都市大気粉塵(NIES CRM No.28)10mgをポリ袋(生産日本社製)に秤り取り、蓋をしてポリ袋を振り、都市大気粉塵が飛散する疑似大気を作製した。都市大気粉塵を飛散させたポリ袋に被験試料を塗布したバイオスキンを入れて振ることで、バイオスキンに都市大気粉塵を付着させた。都市大気粉塵を付着させたバイオスキンをマイクロスコープ(オムロン製)で複数点撮影し、付着直後の状態を記録した。その後、都市大気粉塵が付着したバイオスキンをシャワー状の流水200gに晒し、表面の水分をこすらないように除いた。付着直後に撮影した箇所と同様の箇所を再度マイクロスコープで撮影し、流水による都市大気粉塵の脱落後の状態を記録した(図1参照)。流水処理前後の撮影写真について、画像処理ソフトウェアImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて白黒変換し、黒色部分の面積値を都市大気粉塵付着面積として数値化し、流水処理前後の都市大気粉塵除去率を算出した。試験は二重盲検化して実施した。
【0054】
得られた結果を図2に示す。図2から分かるように、MEL-Bを含む被験試料を塗布した場合は、MEL-Bを含まない被験試料を塗布した場合と比較して、バイオスキンに付着した都市大気粉塵が有意に少ないことが明らかとなった。すなわち、本結果から、MEL-Bを含む被験試料では微小粒子状物質の付着防止効果を発揮することが示された。これは、MEL-Bがバイオスキン表面で自己組織化し、親水基同士、疎水基同士が整然と並んだ層構造を形成して微小粒子状物質の付着予防効果を発揮し、流水曝露時に都市大気粉塵が効率的に脱落したものと考えられる。
【0055】
実施例3
以下に、本発明における皮膚外用剤としての処方例を示す。
【0056】
(1)化粧水
下記組成に従い、化粧水を常法により製造した。
・精製水・・・90.70g
・グリセリン・・・3.00g
・フェノキシエタノール・・・0.20g
・ブチレングリコール・・・5.00g
・ペンチレングリコール・・・1.00g
・MEL-B・・・0.10g
【0057】
(2)ジェル
下記組成に従い、ジェルを常法により製造した。
・精製水・・・88.80g
・カルボマー・・・0.30g
・キサンタンガム・・・0.10g
・アルギニン・・・0.40g
・グリセリン・・・5.00g
・フェノキシエタノール・・・0.20g
・ブチレングリコール・・・5.00g
・MEL-B・・・0.2g
【0058】
(3)クリーム
下記組成に従い、クリームを常法により製造した。
・精製水・・・58.50g
・ブチレングリコール・・・10.00g
・グリセリン・・・5.00g
・フェノキシエタノール・・・0.20g
・エチルヘキシルグリセリン・・・0.20g
・スクワラン・・・10.00g
・オリーブ油・・・10.00g
・ベヘニルアルコール・・・2.50g
・ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10・・・1.90g
・ステアロイル乳酸Na・・・0.60g
・パルミチン酸セチル・・・1.00g
・MEL-B・・・0.10g
【0059】
これらの製剤は、いずれも微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子の付着防止効果が期待され、微小粒子状物質に対する皮膚の保護に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の汚染防止剤、並びに皮膚外用剤は、微小粒子状物質等の大気エアロゾル粒子の皮膚や毛髪への付着を防止することで、大気汚染物質による皮膚への炎症等の障害を防止することが期待できる。さらには、MELの抗炎症効果、バリア機能改善効果により、相乗的に皮膚の障害を抑制することができるという観点で、皮膚外用剤に好適に利用可能である。
図1
図2