(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010171
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】窒化物系半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114115
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】高山 徹
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AF42
5F173AF53
5F173AG17
5F173AH22
5F173AR14
5F173AR23
(57)【要約】
【課題】動作電圧を低減でき、かつ、活性層への光閉じ込め係数を高めることができる窒化物系半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物系半導体発光素子100は、半導体積層体100Sを備え、半導体積層体100Sは、N型第1クラッド層102と、N側ガイド層104と、ウェル層とバリア層とを含む活性層105と、P側ガイド層106と、P型クラッド層110とを有し、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーは、活性層105から遠ざかるにしたがって単調に増加し、P側ガイド層106の平均バンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104の平均バンドギャップエネルギー以上であり、バリア層のバンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104及びP側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最小値以下であり、P側ガイド層106の膜厚は、N側ガイド層104の膜厚より大きい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体積層体を備え、前記半導体積層体の積層方向に垂直な方向の端面から光を出射する窒化物系半導体発光素子であって、
前記半導体積層体は、
N型第1クラッド層と、
前記N型第1クラッド層の上方に配置されるN側ガイド層と、
前記N側ガイド層の上方に配置され、ウェル層とバリア層とを含み、量子井戸構造を有する活性層と、
前記活性層の上方に配置されるP側ガイド層と、
前記P側ガイド層の上方に配置されるP型クラッド層とを有し、
前記P側ガイド層のバンドギャップエネルギーは、前記活性層から遠ざかるにしたがって単調に増加し、
前記P側ガイド層は、バンドギャップエネルギーが、前記活性層から遠ざかるにしたがって連続的に増加する部分を含み、
前記P側ガイド層の平均バンドギャップエネルギーは、前記N側ガイド層の平均バンドギャップエネルギー以上であり、
前記バリア層のバンドギャップエネルギーは、前記N側ガイド層及び前記P側ガイド層のバンドギャップエネルギーの最小値以下であり、
前記P側ガイド層の膜厚をTp、前記N側ガイド層の膜厚をTnとすると、
Tn<Tp
の関係を満足する
窒化物系半導体発光素子。
【請求項2】
前記P側ガイド層は、InXpGa1-XpNからなり、
前記N側ガイド層は、InXnGa1-XnNからなり、
前記P側ガイド層のIn組成比は、前記活性層から遠ざかるにしたがって単調に減少し、
前記N側ガイド層のIn組成比の平均値は、前記P側ガイド層のIn組成比の平均値以上である
請求項1に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項3】
前記N側ガイド層のIn組成比の平均値は、前記P側ガイド層のIn組成比の平均値より大きい
請求項2に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項4】
前記P側ガイド層の前記活性層に近い側の界面から前記P側ガイド層の前記積層方向の中央部までの領域におけるIn組成比の前記積層方向における平均変化率は、前記中央部から前記P側ガイド層の前記P型クラッド層に近い側の界面までの領域におけるIn組成比の前記積層方向における平均変化率よりも大きい
請求項2又は3に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項5】
前記バリア層は、InXbGa1-XbNからなり、
前記P側ガイド層におけるIn組成比の最大値は、前記バリア層のIn組成比以下である
請求項2~4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項6】
前記積層方向における光強度分布のピークは、前記活性層に位置する
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項7】
前記P型クラッド層の前記活性層に近い側の端部における不純物濃度は、前記活性層から遠い側の端部における不純物濃度よりも低い
請求項1~6のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項8】
前記P側ガイド層と前記P型クラッド層との間に配置される電子障壁層を備え、
前記電子障壁層は、前記活性層から遠ざかるにしたがってAl組成比が単調に増加するAl組成比増加領域を有する
請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項9】
前記P側ガイド層と前記P型クラッド層との間に配置される電子障壁層を備え、
前記P型クラッド層にはリッジが形成されており、前記リッジの下端部と前記電子障壁層との間の距離が10nm以上70nm以下である
請求項1~8のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項10】
前記N型第1クラッド層及び前記P型クラッド層は、Alを含み、
前記N型第1クラッド層及び前記P型クラッド層のAl組成比をそれぞれ、Ync、及び、Ypcとすると、
Ync>Ypc
の関係を満足する
請求項1~9のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項11】
前記P型クラッド層の膜厚は、460nm以下である
請求項1~10のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項12】
前記P型クラッド層の上方に配置される透光性導電膜を備える
請求項1~11のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項13】
前記N型第1クラッド層と前記N側ガイド層との間に配置されるN型第2クラッド層を備え、
前記N型第2クラッド層のバンドギャップエネルギーは、前記N型第1クラッド層のバンドギャップエネルギーより小さく、前記P側ガイド層のバンドギャップエネルギーの最大値以上である
請求項1~12のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項14】
アレイ状に配列される複数の光出射部を有する
請求項1~13のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項15】
前記半導体積層体の前記端面の反射率は、0.1%以下である
請求項1~14のいずれか1項に記載の窒化物系半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物系半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化物系半導体発光素子が加工装置などの光源に使用されている。加工装置の光源においては、より一層の高出力化及び高効率化が求められている。窒化物系半導体発光素子を高効率化するために、例えば、動作電圧を低減する技術が知られている(例えば、特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物系半導体発光素子において、動作電圧を低減するために、特許文献1に記載された技術の他に、P型クラッド層の膜厚を低減することが効果的である。しかしながら、P型クラッド層の膜厚を低減することに伴い、積層方向(つまり、各半導体層の成長方向)における光強度分布のピークが、活性層からN型クラッド層へ向かう向きに移動する。このため、活性層への光閉じ込め係数が低下し、これに伴い、光出力の熱飽和レベルが低下する。したがって、窒化物系半導体発光素子の高出力化の実現が困難となる。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するものであり、動作電圧を低減でき、かつ、活性層への光閉じ込め係数を高めることができる窒化物系半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る窒化物系半導体発光素子の一態様は、半導体積層体を備え、前記半導体積層体の積層方向に垂直な方向の端面から光を出射する窒化物系半導体発光素子であって、前記半導体積層体は、N型第1クラッド層と、前記N型第1クラッド層の上方に配置されるN側ガイド層と、前記N側ガイド層の上方に配置され、ウェル層とバリア層とを含み、量子井戸構造を有する活性層と、前記活性層の上方に配置されるP側ガイド層と、前記P側ガイド層の上方に配置されるP型クラッド層とを有し、前記P側ガイド層のバンドギャップエネルギーは、前記活性層から遠ざかるにしたがって単調に増加し、前記P側ガイド層は、バンドギャップエネルギーが、前記活性層から遠ざかるにしたがって連続的に増加する部分を含み、前記P側ガイド層の平均バンドギャップエネルギーは、前記N側ガイド層の平均バンドギャップエネルギー以上であり、前記バリア層のバンドギャップエネルギーは、前記N側ガイド層及び前記P側ガイド層のバンドギャップエネルギーの最小値以下であり、前記P側ガイド層の膜厚をTp、前記N側ガイド層の膜厚をTnとすると、
Tn<Tp
の関係を満足する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、動作電圧を低減でき、かつ、活性層への光閉じ込め係数を高めることができる窒化物系半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な平面図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図2B】
図2Bは、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子が備える活性層の構成を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における光強度分布の概要を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における位置の座標を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の活性層及びその近傍の各層のバンドギャップエネルギーの分布を示す模式的なグラフである。
【
図6】
図6は、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子、及び、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における屈折率分布と光強度分布とを示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子、及び、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における価電子帯電位及び正孔フェルミ準位の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子、及び、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向におけるキャリア濃度の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施の形態1に係るN側ガイド層の膜厚と、光閉じ込め係数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施の形態1に係るN側ガイド層の膜厚と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施の形態1に係るN側ガイド層の膜厚と、実効屈折率差との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施の形態1に係るN側ガイド層の膜厚と、位置P1との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施の形態1に係るN側ガイド層の膜厚と、差ΔPとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施の形態1に係るP型クラッド層の膜厚と、光閉じ込め係数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施の形態1に係るP型クラッド層の膜厚と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施の形態1に係るP型クラッド層の膜厚と、実効屈折率差との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施の形態1に係るP型クラッド層の膜厚と、位置P1との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施の形態1に係るP型クラッド層の膜厚と、差ΔPとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施の形態2に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図20】
図20は、実施の形態2に係る窒化物系半導体発光素子の活性層及びその近傍の各層のバンドギャップエネルギーの分布を示す模式的なグラフである。
【
図21】
図21は、実施の形態2に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における価電子帯電位及び正孔フェルミ準位の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施の形態2に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向におけるキャリア濃度の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施の形態2に係るP側ガイド層における平均In組成比と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図24】
図24は、実施の形態2に係るP側ガイド層における平均In組成比と、光閉じ込め係数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施の形態2に係るN側ガイド層の膜厚と、光閉じ込め係数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施の形態2に係るN側ガイド層の膜厚と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図27】
図27は、実施の形態2に係るN側ガイド層の膜厚と、実効屈折率差との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図28】
図28は、実施の形態2に係るN側ガイド層の膜厚と、位置P1との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図29】
図29は、実施の形態2に係るN側ガイド層の膜厚と、差ΔPとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図30】
図30は、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図31】
図31は、実施の形態4に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図32A】
図32Aは、実施の形態5に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図32B】
図32Bは、実施の形態5に係る窒化物系半導体発光素子が備える活性層の構成を示す断面図である。
【
図33】
図33は、実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図34】
図34は、実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子の活性層及びその近傍の各層のバンドギャップエネルギーの分布を示す模式的なグラフである。
【
図35】
図35は、実施の形態6に係るN側ガイド層における平均In組成比と、光閉じ込め係数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図36】
図36は、実施の形態6に係るN側ガイド層における平均In組成比と、動作電圧との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図37】
図37は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における位置と、ピエゾ分極電荷密度、ピエゾ分極電界、及び伝導帯電位との関係を示すグラフである。
【
図38】
図38は、実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子の積層方向における位置と、ピエゾ分極電荷密度、ピエゾ分極電界、及び伝導帯電位との関係を示すグラフである。
【
図39】
図39は、実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子のN側ガイド層における平均In組成比と、光閉じ込め係数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図40】
図40は、実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子のN側ガイド層における平均In組成比と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図41】
図41は、実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子のN側ガイド層における平均In組成比と、動作電圧との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図42】
図42は、実施の形態7に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図43】
図43は、実施の形態8に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図44】
図44は、実施の形態8に係る電子障壁層の積層方向におけるAl組成比の分布を示すグラフである。
【
図45】
図45は、変形例1に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図46】
図46は、変形例2に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、及び、構成要素の配置位置や接続形態などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。
【0010】
また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0011】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに接する状態で配置される場合にも適用される。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。
【0013】
[1-1.全体構成]
まず、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成について
図1、
図2A及び
図2Bを用いて説明する。
図1及び
図2Aは、それぞれ本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の全体構成を示す模式的な平面図及び断面図である。
図2Aには、
図1のII-II線における断面が示されている。
図2Bは、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100が備える活性層105の構成を示す模式的な断面図である。なお、各図には、互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、右手系の直交座標系である。窒化物系半導体発光素子100の積層方向は、Z軸方向に平行であり、光(レーザ光)の主な出射方向は、Y軸方向に平行である。
【0014】
窒化物系半導体発光素子100は、
図2Aに示されるように、窒化物系半導体層を含む半導体積層体100Sを備え、半導体積層体100Sの積層方向(つまり、Z軸方向)に垂直な方向の端面100F(
図1参照)から光を出射する。本実施の形態では、窒化物系半導体発光素子100は、共振器を形成する二つの端面100F及び100Rを有する半導体レーザ素子である。端面100Fは、レーザ光を出射するフロント端面であり、端面100Rは、端面100Fより反射率が高いリア端面である。本実施の形態では、端面100F及び100Rの反射率は、それぞれ、16%及び95%である。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の共振器長(つまり、端面100Fと端面100Rと間の距離)は1200μm程度である。
【0015】
図2Aに示されるように、窒化物系半導体発光素子100は、半導体積層体100Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114とを備える。半導体積層体100Sは、基板101と、N型第1クラッド層102と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層105と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層109と、P型クラッド層110と、コンタクト層111とを有する。
【0016】
基板101は、窒化物系半導体発光素子100の基台となる板状部材である。本実施の形態では、基板101は、N型GaN基板である。
【0017】
N型第1クラッド層102は、基板101の上方に配置されるN型クラッド層の一例である。N型第1クラッド層102は、活性層105より屈折率が小さく、かつ、バンドギャップエネルギーが大きい層である。本実施の形態では、N型第1クラッド層102は、膜厚1200nmのN型Al0.026Ga0.974N層である。N型第1クラッド層102には、不純物として濃度1×1018cm-3のSiがドープされている。
【0018】
N型第2クラッド層103は、基板101の上方に配置されるN型クラッド層の一例である。本実施の形態では、N型第2クラッド層103は、N型第1クラッド層102の上方に配置される。N型第2クラッド層103は、活性層105より屈折率が小さく、かつ、バンドギャップエネルギーが大きい層である。本実施の形態では、N型第2クラッド層103は、膜厚100nmのN型GaN層である。N型第2クラッド層103には、不純物として濃度1×1018cm-3のSiがドープされている。N型第2クラッド層103のバンドギャップエネルギーは、N型第1クラッド層102のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最大値以上である。
【0019】
N側ガイド層104は、N型第2クラッド層103の上方に配置される光ガイド層である。N側ガイド層104は、N型第1クラッド層102及びN型第2クラッド層103より屈折率が大きく、バンドギャップエネルギーが小さい。本実施の形態では、N側ガイド層104は、膜厚160nmのアンドープIn0.04Ga0.96N層である。
【0020】
活性層105は、N側ガイド層104の上方に配置され、量子井戸構造を有する発光層である。本実施の形態では、活性層105は、
図2Bに示されるように、ウェル層105b及び105dと、バリア層105a、105c、及び105eとを有する。
【0021】
バリア層105aは、N側ガイド層104の上方に配置され、量子井戸構造の障壁として機能する層である。本実施の形態では、バリア層105aは、膜厚7nmのアンドープIn0.05Ga0.95N層である。
【0022】
ウェル層105bは、バリア層105aの上方に配置され、量子井戸構造の井戸として機能する層である。ウェル層105bは、バリア層105aとバリア層105cとの間に配置される。本実施の形態では、ウェル層105bは、膜厚3nmのアンドープIn0.18Ga0.82N層である。
【0023】
バリア層105cは、ウェル層105bの上方に配置され、量子井戸構造の障壁として機能する層である。本実施の形態では、バリア層105cは、膜厚7nmのアンドープIn0.05Ga0.95N層である。
【0024】
ウェル層105dは、バリア層105cの上方に配置され、量子井戸構造の井戸として機能する層である。ウェル層105dは、バリア層105cとバリア層105eとの間に配置される。本実施の形態では、ウェル層105dは、膜厚3nmのアンドープIn0.18Ga0.82N層である。
【0025】
バリア層105eは、ウェル層105dの上方に配置され、量子井戸構造の障壁として機能する層である。本実施の形態では、バリア層105eは、膜厚5nmのアンドープIn0.05Ga0.95N層である。
【0026】
本実施の形態では、各バリア層のバンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104及びP側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最小値以下である。つまり、各バリア層の屈折率は、N側ガイド層104及びP側ガイド層106の屈折率より大きい。したがって、活性層105への光閉じ込め係数を高めることができる。
【0027】
P側ガイド層106は、活性層105の上方に配置される光ガイド層である。P側ガイド層106は、P型クラッド層110より屈折率が大きく、バンドギャップエネルギーが小さい。P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーは、活性層105から遠ざかるにしたがって単調に増加する。ここで、バンドギャップエネルギーが単調に増加する構成には、積層方向においてバンドギャップエネルギーが一定である領域が存在する構成も含まれる。P側ガイド層106は、バンドギャップエネルギーが、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に増加する部分を含む。ここで、バンドギャップエネルギーが連続的に増加する構成には、積層方向において不連続的にバンドギャップエネルギーが変化する構成は含まれない。本開示においては、バンドギャップエネルギーが連続的に単調に増加する構成とは、ある位置におけるバンドギャップエネルギーの積層方向における不連続な増加量がその位置のバンドギャップエネルギーの大きさの2%未満である構成を意味する。例えば、バンドギャップエネルギーが連続的に増加する構成には、バンドギャップエネルギーが積層方向においてステップ状に2%以上増加するような構成は含まれないが、バンドギャップエネルギーが積層方向においてステップ状に2%未満だけ増加するような構成は含まれる。本実施の形態では、P側ガイド層106の全体において、バンドギャップエネルギーが、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に増加するが、P側ガイド層106の構成はこれに限定されない。例えば、P側ガイド層106全体の膜厚に対する、バンドギャップエネルギーが活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に増加する部分の膜厚の割合は、50%以上であってもよい。また、当該割合は、70%以上であってもよいし、90%以上であってもよい。
【0028】
また、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの積層方向における増大量(ΔEgp)は、100meV以上であるとよい。ここで、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの積層方向における増大量とは、例えば、P側ガイド層106の活性層105に近い側の端面付近におけるバンドギャップエネルギーと、P型クラッド層110に近い側の端面付近におけるバンドギャップエネルギーとの差で定義される。また、ΔEgpの内、連続的に増加するバンドギャップエネルギーの大きさは、70%以上あればよい。また、当該割合は、80%以上であってもよいし、90%以上であってもよい。
【0029】
P側ガイド層106が、InXpGa1-XpNからなる場合には、P側ガイド層106のIn組成比Xpは、活性層105から遠ざかるにしたがって単調に減少する。これにより、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーは、活性層105から遠ざかるにしたがって単調に増加する。ここで、In組成比Xpが連続的に単調に減少する構成には、積層方向においてIn組成比Xpが一定である領域が存在する構成も含まれる。P側ガイド層106は、In組成比Xpが、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に減少する部分を含む。ここで、In組成比Xpが連続的に減少する構成には、積層方向において不連続的にIn組成比Xpが変化する構成は含まれない。本開示においては、連続的に減少する構成とは、P側ガイド層106内のある位置におけるIn組成比Xpの積層方向における不連続な減少量がその位置におけるIn組成比Xpの20%未満である構成を意味する。
【0030】
P側ガイド層106の平均バンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104の平均バンドギャップエネルギー以上である。言い換えると、N側ガイド層104のIn組成比の平均値は、P側ガイド層106のIn組成比の平均値以上である。本実施の形態では、N側ガイド層104のIn組成比の平均値は、P側ガイド層106のIn組成比の平均値より大きい。また、P側ガイド層106の膜厚をTp、N側ガイド層104の膜厚をTnとすると、
Tn<Tp (1)
の関係を満足する。
【0031】
また、P側ガイド層106におけるIn組成比の最大値は、各バリア層のIn組成比以下である。
【0032】
本実施の形態では、P側ガイド層106は、膜厚280nmのアンドープInXpGa1-XpN層である。より具体的には、P側ガイド層106は、活性層105に近い側の界面付近においてIn0.04Ga0.96Nで表される組成を有し、活性層105から遠い側の界面付近においてGaNで表される組成を有する。P側ガイド層106のIn組成比Xpは、活性層105から遠ざかるにしたがって、一定の変化率で減少する。
【0033】
中間層108は、活性層105の上方に配置される層である。本実施の形態では、中間層108は、P側ガイド層106と、電子障壁層109との間に配置され、P側ガイド層106と、電子障壁層109との格子定数の違いに起因して生じる応力を低減する。これにより、窒化物系半導体発光素子100における結晶欠陥の発生を抑制できる。本実施の形態では、中間層108は、膜厚20nmのアンドープGaN層である。
【0034】
電子障壁層109は、活性層105の上方に配置され、少なくともAlを含む窒化物系半導体層である。本実施の形態では、電子障壁層109は、中間層108と、P型クラッド層110との間に配置される。電子障壁層109は、膜厚5nmのP型Al0.36Ga0.64N層である。電子障壁層109には、不純物として濃度1×1019cm-3のMgがドープされている。電子障壁層109により、電子が活性層105からP型クラッド層110へ漏れることを抑制できる。
【0035】
P型クラッド層110は、活性層105の上方に配置されるP型のクラッド層である。本実施の形態では、P型クラッド層110は、電子障壁層109とコンタクト層111との間に配置される。P型クラッド層110は、活性層105より屈折率が小さく、かつ、バンドギャップエネルギーが高い層である。P型クラッド層110の膜厚は、460nm以下であってもよい。これにより、窒化物系半導体発光素子100の電気抵抗を抑制できる。したがって、窒化物系半導体発光素子100の動作電圧を低減できる。また、窒化物系半導体発光素子100の動作中における自己発熱を低減できるため、窒化物系半導体発光素子100の温度特性を高めることができる。したがって、窒化物系半導体発光素子100の高出力動作が可能となる。なお、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100において、P型クラッド層110のクラッド層としての機能を十分に発揮するために、P型クラッド層110の膜厚は200nm以上であればよい。また、P型クラッド層110の膜厚は250nm以上であってもよい。本実施の形態では、P型クラッド層110は、膜厚450nmのP型Al0.026Ga0.974N層である。P型クラッド層110には、不純物としてMgがドープされている。また、P型クラッド層110の活性層105に近い側の端部における不純物濃度は、活性層105から遠い側の端部における不純物濃度よりも低い。具体的には、P型クラッド層110は、活性層105に近い側に配置される濃度2×1018cm-3のMgがドープされた膜厚150nmのP型Al0.026Ga0.974N層と、活性層105から遠い側に配置される濃度1×1019cm-3のMgがドープされた膜厚300nmのP型Al0.026Ga0.974N層とを有する。
【0036】
窒化物系半導体発光素子100のP型クラッド層110には、リッジ110Rが形成されている。また、P型クラッド層110には、リッジ110Rに沿って配置され、Y軸方向に延びる二つの溝110Tが形成されている。本実施の形態では、リッジ幅Wは、30μm程度である。また、
図2Aに示されるように、リッジ110Rの下端部(つまり、溝110Tの底部)と活性層105との間の距離をdpとしている。また、リッジ110Rの下端部におけるP型クラッド層110の膜厚(つまり、リッジ110Rの下端部と、P型クラッド層110及び電子障壁層109の界面との間の距離)をdcとしている。
【0037】
コンタクト層111は、P型クラッド層110の上方に配置され、P側電極113とオーミック接触する層である。本実施の形態では、コンタクト層111は、膜厚60nmのP型GaN層である。コンタクト層111には、不純物として濃度1×1020cm-3のMgがドープされている。
【0038】
電流ブロック層112は、P型クラッド層110の上方に配置され、活性層105からの光に対して透過性を有する絶縁層である。電流ブロック層112は、P型クラッド層110の上面のうち、リッジ110Rの上面以外の領域に配置される。本実施の形態では、電流ブロック層112は、SiO2層である。
【0039】
P側電極113は、コンタクト層111の上方に配置される導電層である。本実施の形態では、P側電極113は、コンタクト層111及び電流ブロック層112の上方に配置される。P側電極113は、例えば、Cr、Ti、Ni、Pd、Pt及びAuの少なくとも一つで形成された単層膜又は多層膜である。
【0040】
N側電極114は、基板101の下方に(つまり、基板101のN型第1クラッド層102などが配置された主面の反対側の主面に)配置される導電層である。N側電極114は、例えば、Cr、Ti、Ni、Pd、Pt及びAuの少なくとも一つで形成された単層膜又は多層膜である。
【0041】
窒化物系半導体発光素子100は、以上のような構成を有することにより、
図2Aに示されるように、リッジ110Rの下方の部分と、溝110Tの下方の部分との間に実効屈折率差ΔNが生じる。これにより、活性層105のリッジ110Rの下方の部分で発生した光を水平方向(つまり、X軸方向)に閉じ込めることができる。
【0042】
[1-2.光強度分布及び光出力の安定性]
次に、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の光強度分布及び光出力の安定性について説明する。
【0043】
まず、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向(各図のZ軸方向)における光強度分布について、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向における光強度分布の概要を示す模式図である。
図3には、窒化物系半導体発光素子100の模式的な断面図と、リッジ110R及び溝110Tの各々に対応する位置における積層方向における光強度分布の概要を示すグラフが示されている。
【0044】
一般に窒化物系半導体発光素子において、活性層において光が発生するが、積層方向における光強度分布は、積層構造に依存し、必ずしも活性層に光強度分布のピークが位置しない。また、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層構造は、リッジ110Rの下方の部分と、溝110Tの下方の部分とで異なるため、光強度分布も、リッジ110Rの下方の部分と、溝110Tの下方の部分とで異なる。
図3に示されるように、リッジ110Rの下方の部分の水平方向(つまり、X軸方向)中央での積層方向における光強度分布のピーク位置をP1とする。また、溝110Tの下方の部分での積層方向における光強度分布のピーク位置をP2とする。ここで、位置P1及びP2について、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向における位置の座標を示すグラフである。
図4に示されるように、活性層105のウェル層105bのN側の端面、つまり、ウェル層105bのN側ガイド層104に近い側の端面の積層方向における位置の座標をゼロとし、下方(N側ガイド層104に向かう向き)を座標の負の向きとし、上方(P側ガイド層106に向かう向き)を座標の正の向きとする。また、位置P1と位置P2との差の絶対値をピーク位置の差ΔPとする。
【0045】
以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向における光強度分布について、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の活性層105及びその近傍の各層のバンドギャップエネルギーの分布を示す模式的なグラフである。
【0046】
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、動作電圧を低減するためにP型クラッド層110の膜厚が比較的薄く設定されている。これに伴い、リッジ110Rの高さ(つまり、リッジ110Rの溝110Tの底面からの高さ)も比較的低く設定されている。一般にこのような構成を有する半導体発光素子においては、積層方向における光強度分布のピーク位置が活性層105からN型第2クラッド層103へ近づく向きにずれる。このため、活性層への光閉じ込め係数が低下し、これに伴い、光出力の熱飽和レベルが低下する。したがって、半導体発光素子の高出力での動作が困難となる。本実施の形態では、
図5に示されるように、P側ガイド層106の平均バンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104の平均バンドギャップエネルギー以上である。一方、P側ガイド層106の膜厚Tpは、N側ガイド層104の膜厚Tnより大きい(上記不等式(1))。このように、各クラッド層より屈折率が大きいP側ガイド層106の膜厚を大きくすることで、光強度分布を活性層105からP側ガイド層106へ近づく向きに移動させることが可能となる。したがって、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100によれば、積層方向における光強度分布のピークが活性層105に位置するように制御することが可能となる。
【0047】
さらに、本実施の形態では、P側ガイド層106は、バンドギャップエネルギーが、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に増加する部分を有する。つまり、P側ガイド層106は、屈折率が、活性層105に近づくにしたがって連続的に単調に増加する部分を有する。このようにP側ガイド層106の屈折率が、活性層105に近づくにしたがって増大するため、積層方向における光強度分布のピークを活性層105に近づけることができる。
【0048】
また、本実施の形態では、活性層105のバリア層105a、105c及び105eは、InXbGa1-XbNからなり、各バリア層、N側ガイド層104、及びP側ガイド層106のIn組成比Xb、Xn及びXpについて、
Xp≦Xb (2)
Xn≦Xb (3)
の関係を満足する。これにより、各バリア層のバンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104及びP側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最小値以下となる。つまり、各バリア層の屈折率を、P側ガイド層106及びN側ガイド層104の最大値以上とすることができる。これにより、積層方向における光強度分布のピークを活性層105に近づけることができる。また、光強度分布が活性層105からP型クラッド層110へ近づく向きに移動し過ぎることを抑制できる。この効果は、各バリア層の屈折率を、P側ガイド層106及びN側ガイド層104の最大値より大きくすることで、さらに高めることができる。
【0049】
以上のような構成により、本実施の形態では、リッジ110Rの下方の部分での積層方向における光強度分布のピークの位置P1を1.3nmとすることができる。つまり、光強度分布のピークを活性層105のウェル層105bに位置させることができる(
図4参照)。また、ΔPを5.6nmに抑制することができる。これにより、活性層105への光閉じ込め係数を1.49%程度まで高めることができる。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100によれば、積層方向における光強度分布のピークを活性層105に位置させることができる。なお、積層方向における光強度分布のピークが活性層105に位置するとは、窒化物系半導体発光素子100の水平方向の少なくとも一つの位置において、積層方向における光強度分布のピークが活性層105に位置する状態を意味し、水平方向のすべての位置において、積層方向における光強度分布のピークが活性層105に位置する状態に限定されない。
【0051】
本実施の形態のように、積層方向における光強度分布のピークを活性層105に位置させると、光強度分布のピークがN側ガイド層104に位置する場合より、光のうちP型クラッド層110に位置する部分の割合が増加し得る。ここで、P型クラッド層110は、N型第1クラッド層102及びN型第2クラッド層103より不純物濃度が高いため、光のうちP型クラッド層110に位置する部分の割合が増加することで、P型クラッド層110におけるフリーキャリア損失の増大が懸念される。しかしながら、本実施の形態では、P側ガイド層106をアンドープ層とし、P側ガイド層106の膜厚Tpを比較的大きくすることで、光強度分布のうち、アンドープ層に位置する部分の割合を高めることができる。したがって、フリーキャリア損失の増大を抑制できる。具体的には、本実施の形態では、導波路損失を3.2cm-1程度に抑制することができる。
【0052】
また、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、出射光の水平方向(つまり、X軸方向)における拡がり角を低減するために、リッジ110Rの下方の部分と、溝110Tの下方の部分との間の実効屈折率差ΔNが比較的小さくなるように設定されている。具体的には、実効屈折率差ΔNは、電流ブロック層112と活性層105との間の距離dp(
図2A参照)を調整することによって設定される。ここで、距離dpを大きくするほど実効屈折率差ΔNは小さくなる。本実施の形態では、実効屈折率差ΔNは、2.1×10
-3程度である。したがって、本実施の形態では、実効屈折率差ΔNが2.1×10
-3より大きい場合より、リッジ110Rによって形成される導波路を伝搬可能な高次モード(つまり、高次横モード)の個数が少ない。このため、窒化物系半導体発光素子100の出射光に含まれるすべての横モードのうち、各高次モードが占める割合が比較的大きくなる。したがって、モード数の増減、及び、モード間結合に起因する活性層105への光閉じ込め係数の変化量が比較的大きくなる。このため、窒化物系半導体発光素子100においてモード数の増減、及び、モード間結合が発生する場合、供給される電流に対する光出力の特性(いわゆるIL特性)の線形性が低下する。言い換えると、IL特性を示すグラフにおいて、直線状でない部分(いわゆる、キンク)が生じる。これに伴い、窒化物系半導体発光素子100の光出力の安定性が低下し得る。
【0053】
上述したような光出力の安定性の低下について、以下で説明する。窒化物系半導体発光素子100では、リッジ110Rの下方の部分での光強度分布は、基本モード(つまり、0次モード)が支配的であり、溝110Tの下方の部分での光強度分布は、高次モードが支配的である。このため、窒化物系半導体発光素子100のリッジ110Rの下方の部分での積層方向における光強度分布のピークの位置P1と、溝110Tの下方の部分での積層方向における光強度分布のピークの位置P2との差ΔPが大きい場合に、モード数の増減、及び、モード間結合が発生すると、活性層105への光閉じ込め係数が変動するため、光出力の安定性が低下する。
【0054】
例えば、高次モードが減少した場合、リッジ110R及び溝110Tの両方の下方の部分における光強度分布を足し合わせた光強度分布のピークは、位置P1に近い位置に移動する。このため、位置P1と位置P2との差ΔPが大きいほど、モード数が変化した場合の活性層105への光閉じ込め係数の変動が大きくなる。したがって、光出力の安定性が低下する。
【0055】
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、上述したとおりの構成を有するN側ガイド層104と、P側ガイド層106とを備えるため、リッジ110Rの下方の部分、及び、溝110Tの下方の部分の両方において、光強度分布のピークを活性層105に位置させることができる。つまり、光強度分布のピークの位置P1と位置P2との差ΔPを小さくすることができる。これにより、仮にモード数の増減、及び、モード間結合が発生した場合においても、リッジ110R及び溝110Tの両方の下方の部分における光強度分布を足し合わせた光強度分布のピークの積層方向における位置の変動が抑制される。したがって、光出力の安定性を高めることができる。
【0056】
なお、上述したように、実効屈折率差ΔNを比較的小さい値に設定するために、距離dpは比較的大きい値に設定される。距離dpが設定される際に、リッジ110Rの下端部(つまり、溝110Tの底部)が電子障壁層109より下方に位置するように設定すると、電子障壁層109はバンドギャップエネルギーが大きいため、コンタクト層111から注入された正孔は、電子障壁層109を通過する場合にリッジ110Rの側壁からリッジ110Rの外側へ漏れやすくなる。その結果、正孔は溝110Tの下方に流れる。これに伴い、溝110Tの下方の活性層105では光分布強度が小さいため活性層105に注入された電子と正孔との発光再結合確率が低下し、非発光再結合が増大する。このような非発光再結合の増大により窒化物系半導体発光素子100が劣化しやすくなる。このような劣化を抑制するため、リッジ110Rの下端部は、電子障壁層109より上方に位置するように設定される。また、リッジ110Rの下端部から電子障壁層109までの距離dc(
図2A参照)が大きくなり過ぎると、正孔がリッジ110Rから、溝110Tと電子障壁層109との間に流れ込み、漏れ電流となる。このような漏れ電流が増大することを抑制するために、距離dcは可能な限り小さい値に設定される。距離dcは、例えば、10nm以上70nm以下である。
【0057】
[1-3.効果]
[1-3-1.各ガイド層]
上述した本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の各ガイド層の効果について、比較例の窒化物系半導体発光素子と比較しながら
図6~
図8を用いて説明する。
図6は、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子、及び、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向における屈折率分布と光強度分布とを示すグラフである。
図6のグラフ(a)~グラフ(c)には、それぞれ、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子の屈折率分布と光強度分布とが示されている。
図6のグラフ(d)には、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の屈折率分布と光強度分布とが示されている。
図6の各グラフにおいて、屈折率分布は実線で、光強度分布は破線で、それぞれ示されている。
【0058】
図7は、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子、及び、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向における価電子帯電位及び正孔フェルミ準位の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7のグラフ(a)~グラフ(c)には、それぞれ、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子の価電子帯電位及び正孔フェルミ準位の分布が示されている。
図7のグラフ(d)には、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の価電子帯電位及び正孔フェルミ準位の分布が示されている。
図7の各グラフにおいて、価電子帯電位は実線で、正孔フェルミ準位は破線で、それぞれ示されている。
【0059】
図8は、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子、及び、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向におけるキャリア濃度の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図8のグラフ(a)~グラフ(c)には、それぞれ、比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子のキャリア濃度の分布が示されている。
図8のグラフ(d)には、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100のキャリア濃度の分布が示されている。
図8の各グラフにおいて、電子の濃度分布は実線で、正孔の濃度分布は破線で、それぞれ示されている。
【0060】
比較例1~比較例3の窒化物系半導体発光素子は、N側ガイド層及びP側ガイド層の構成において、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100と相違する。
図6のグラフ(a)に示される比較例1の窒化物系半導体発光素子は、膜厚280nmのアンドープIn
0.04Ga
0.96N層からなるN側ガイド層1104と、膜厚160nmのアンドープIn
0.04Ga
0.96N層からなるP側ガイド層1106とを備える。
図6のグラフ(b)に示される比較例2の窒化物系半導体発光素子は、膜厚160nmのアンドープIn
0.04Ga
0.96N層からなるN側ガイド層1204と、膜厚280nmのアンドープIn
0.04Ga
0.96N層からなるP側ガイド層1206とを備える。
図6のグラフ(c)に示される比較例3の窒化物系半導体発光素子は、膜厚160nmのアンドープIn
0.04Ga
0.96N層からなるN側ガイド層1304と、膜厚280nmのP側ガイド層1306とを備える。比較例3の窒化物系半導体発光素子のP側ガイド層1306は、活性層105の上方に配置される膜厚140nmのアンドープIn
0.04Ga
0.96N層からなるP側第1ガイド層1306aと、P側第1ガイド層1306aの上方に配置され、膜厚140nmのアンドープIn
0.02Ga
0.98N層からなるP側第2ガイド層1306bとを含む。
【0061】
比較例1の窒化物系半導体発光素子では、N側ガイド層1104及びP側ガイド層1106の組成が同一であり、N側ガイド層1104の方が、P側ガイド層1106より膜厚が大きい。したがって、比較例1の窒化物系半導体発光素子では、
図6のグラフ(a)に示されるように、積層方向における光強度分布のピークがN側ガイド層1104に位置する。このため、比較例1の窒化物系半導体発光素子では、光閉じ込め係数が1.33%という低い値となる。また、
図7のグラフ(a)に示されるように、P側ガイド層1106において、正孔をP側ガイド層1106から活性層105へ伝導させるために、P側ガイド層1106における活性層105から遠い側の界面から、活性層105に近い側の界面に近づくにしたがって、正孔フェルミ準位は増大する。一方、価電子帯電位は、P側ガイド層1106の積層方向においてほぼ一定である。このため、P側ガイド層1106における正孔フェルミ準位と価電子帯電位との差は、活性層105に近づくにしたがって大きくなる。このため、
図8のグラフ(a)に示されるように、P側ガイド層1106の積層方向における正孔及び電子の濃度、つまり、フリーキャリア濃度は、活性層105から遠ざかるにしたがって大きくなる。このように、比較例1の窒化物系半導体発光素子では、P側ガイド層1106の積層方向におけるフリーキャリア濃度を低減できないため、フリーキャリア損失の低減、及び非発光再結合確率の低減を実現できない。比較例1の窒化物系半導体発光素子では、実効屈折率差ΔNが3.6×10
-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ-34.1nm及び-75.6nmであり、差ΔPは、41.5nmである。また、導波路損失は、4.5cm
-1であり、N側ガイド層1104及びP側ガイド層1106におけるフリーキャリア損失(以下、「ガイド層フリーキャリア損失」とも称する。)は、2.8cm
-1である。
【0062】
比較例2の窒化物系半導体発光素子では、P側ガイド層1206の膜厚がN側ガイド層1204の膜厚より大きいため、
図6のグラフ(b)に示されるように、積層方向における光強度分布のピークは、比較例1の窒化物系半導体発光素子より活性層105に近づく。このため、比較例2の窒化物系半導体発光素子では、光閉じ込め係数は、1.37%となり、比較例1の窒化物系半導体発光素子より若干改善される。しかしながら、
図7のグラフ(b)に示されるように、比較例1と同様に、P側ガイド層1206における正孔フェルミ準位と価電子帯電位との差は、活性層105に近づくにしたがって大きくなる。このため、
図8のグラフ(b)に示されるように、P側ガイド層1206の積層方向における正孔及び電子の濃度、つまり、フリーキャリア濃度は、活性層105から遠ざかるにしたがって大きくなる。このように、P側ガイド層1206の積層方向におけるフリーキャリア濃度を低減できないため、比較例2の窒化物系半導体発光素子では、フリーキャリア損失の低減、及び非発光再結合確率の低減を実現できない。比較例2の窒化物系半導体発光素子では、実効屈折率差ΔNが3.3×10
-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ31.3nm及び10.8nmであり、差ΔPは、20.5nmである。また、導波路損失は、5.2cm
-1であり、ガイド層フリーキャリア損失は、3.6cm
-1である。
【0063】
比較例3の窒化物系半導体発光素子では、P側ガイド層1306のうち、活性層105から遠い領域であるP側第2ガイド層1306bの屈折率を、活性層105から近い領域であるP側第1ガイド層1306aの屈折率より小さくしている。これにより、
図6のグラフ(c)に示されるように、積層方向における光強度分布のピークは、比較例2の窒化物系半導体発光素子よりさらに活性層105に近づく。このため、比較例3の窒化物系半導体発光素子では、光閉じ込め係数は、1.47%となり、比較例2の窒化物系半導体発光素子よりさらに改善される。しかしながら、P側第1ガイド層1306aとP側第2ガイド層1306bとの境界面のヘテロ障壁において、ピエゾ分極電荷に起因して、
図7のグラフ(c)に示されるように、価電子帯電位の分布にスパイク状の形状の領域が生成される。このため、
図8のグラフ(c)に示されるように、P側ガイド層1306の積層方向における電子の濃度は、価電子帯電位が不連続に変化する部分でスパイク状に増大する。また、P側ガイド層1306における正孔の濃度も1×10
17cm
-3を超える。このように、P側ガイド層1306の積層方向におけるフリーキャリア濃度を低減できないため、比較例3の窒化物系半導体発光素子では、フリーキャリア損失の低減、及び非発光再結合確率の低減を実現できない。比較例3の窒化物系半導体発光素子では、実効屈折率差ΔNが2.5×10
-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ10.7nm及び4.4nmであり、差ΔPは、6.3nmである。また、導波路損失は、3.93cm
-1であり、ガイド層フリーキャリア損失は、2.56cm
-1である。
【0064】
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、
図6のグラフ(d)に示されるように、P側ガイド層106の屈折率が、活性層105に近づくにしたがって増大するため、積層方向における光強度分布のピークを活性層105に近づけることができる。このため、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、光閉じ込め係数は、1.49%となり、比較例3の窒化物系半導体発光素子よりさらに改善される。また、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーが活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に増加するため、
図7のグラフ(d)に示されるように、活性層105から遠ざかるにしたがって価電子帯電位が連続的に減少する。これにより、P側ガイド層106において、正孔フェルミ準位と価電子帯電位との差をほぼ一定にすることが可能となる。このため、
図8のグラフ(d)に示されるように、P側ガイド層106の積層方向における正孔及び電子の濃度を低減し、かつ、ほぼ一定とすることができる。ここで、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの積層方向における増大量(ΔEgp)が小さいと、その効果が小さくなるため、ΔEgpは100meV以上であるとよい。逆に、ΔEgpを大きくしすぎると、P側ガイド層106のバンドギャップエネルギーにおける、活性層105側の端のバンドギャップエネルギーが小さくなり得る。この場合、P側ガイド層106の価電子帯電位の傾きが大きくなりすぎるため、活性層105に注入された正孔がN側ガイド層104側へ漏れる漏れ電流が発生する。このためΔEgpは400meV以下であってもよい。
【0065】
このように、P側ガイド層106の積層方向におけるフリーキャリア濃度を低減できるため、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、フリーキャリア損失の低減、及び非発光再結合確率の低減を実現できる。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、実効屈折率差ΔNが2.1×10-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ1.3nm及び-4.3nmであり、差ΔPは、5.6nmである。このように、本実施の形態では、位置P1及び差ΔPを低減できるため、IL特性を示すグラフにおいて、直線状でない部分が生じにくくなる。また、導波路損失は、3.20cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失は、1.8cm-1である。このように、本実施の形態では、各比較例と比べて、導波路損失及びフリーキャリア損失を低減できる。
【0066】
次に、本実施の形態に係るN側ガイド層104とP側ガイド層106との膜厚の関係による効果について
図9~
図13を用いて説明する。
図9は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、光閉じ込め係数(Γv)との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図10は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、実効屈折率差ΔNとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図12は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、位置P1との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図13は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、差ΔPとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図9~
図13に係るシミュレーションにおいては、N側ガイド層104とP側ガイド層106との膜厚の和を440nmで一定に維持しながら、N側ガイド層104及びP側ガイド層106の各膜厚を変化させている。N側ガイド層104のIn組成比は4%であり、P側ガイド層106のIn組成比は、活性層105に近い側の界面付近において、4%であり、活性層105から遠い側の界面付近において0%である。P側ガイド層106のIn組成比は、積層方向において一定の変化率で変化させている。また、
図9~
図13には、比較例として、P側ガイド層のIn組成比が2%で一定である例のシミュレーション結果も併せて破線で示されている。
【0067】
図9に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層106の膜厚Tpより小さくすることで、光閉じ込め係数を増大させることができる。なお、N側ガイド層104の膜厚Tnは、100nm以上であってもよい。これにより、N側ガイド層104の膜厚Tnが薄くなり過ぎることで、光強度分布が活性層105からP側ガイド層106へ向かう向きに移動し過ぎることを抑制できる。また、
図9に示されるように、P側ガイド層106のIn組成比を2%で一定とした場合においても、N側ガイド層104の膜厚をP側ガイド層106の膜厚より小さくすることで、光閉じ込め係数を増大させることができるが、本実施の形態に係るP側ガイド層106のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、より一層光閉じ込め係数を増大させることができる。
【0068】
図10に示されるように、本実施の形態に係るP側ガイド層106のように、In組成比を活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に減少させた場合の方が、In組成比が2%で一定の場合よりも、導波路損失を低減できる。また、本実施の形態では、N側ガイド層104の膜厚を変化させても導波路損失を3.5cm
-1以下でほぼ一定とすることができる。
【0069】
図11に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層106の膜厚Tpより小さくすることで、実効屈折率差ΔNを低減できる。また、
図11に示されるように、本実施の形態に係るP側ガイド層106のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、In組成比が2%で一定である場合より、実効屈折率差ΔNを低減できる。
【0070】
図12に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層106の膜厚Tpより小さくすることで、位置P1の絶対値を低減できる。なお、N側ガイド層104の膜厚Tnは、100nm以上190nm以下であってもよい。言い換えると、N側ガイド層104の膜厚を、N側ガイド層104及びP側ガイド層の膜厚の和の23%以上43%以下としてもよい。これにより、位置P1を-7nm以上18nm以下とすること、つまり、光強度分布のピークを活性層105内に位置させることができる。また、N側ガイド層104の膜厚を、N側ガイド層104及びP側ガイド層の膜厚の和の23%以上43%以下とし、距離dcを40nmとする場合、
図11に示されるように、実効屈折率差ΔNを2×10
-3以上2.2×10
-3以下の範囲に維持できる。
【0071】
また、
図12に示されるように、P側ガイド層106のIn組成比を2%で一定とした場合においても、N側ガイド層104の膜厚をP側ガイド層106の膜厚より小さくすることで、位置P1の絶対値を低減できるが、N側ガイド層の膜厚が160nm以上の場合には、本実施の形態に係るP側ガイド層106のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、より一層位置P1の絶対値を低減できる。
【0072】
図13に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層106の膜厚Tpより小さくすることで、差ΔPを低減できる。特に、N側ガイド層104の膜厚を、N側ガイド層104及びP側ガイド層の膜厚の和の23%以上43%以下とすることで、差ΔPを20nm以下とすることができる。また、
図13に示されるように、P側ガイド層106のIn組成比を2%で一定とした場合においても、N側ガイド層の膜厚をP側ガイド層106の膜厚より小さくすることで、差ΔPを低減できるが、N側ガイド層の膜厚が160nm以上の場合には、本実施の形態に係るP側ガイド層106のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、より一層差ΔPを低減できる。
【0073】
[1-3-2.各バリア層]
次に、本実施の形態に係る活性層105の各バリア層の構成の効果について比較例と比較しながら説明する。本実施の形態では、上述したように、各バリア層のバンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104及びP側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最小値以下である。ここで、比較例として、各バリア層の組成をアンドープGaNとして、各バリア層のバンドギャップエネルギーを、N側ガイド層104及びP側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最小値以上とし、その他の構成は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100と同じである比較例4の窒化物系半導体発光素子のシミュレーション結果を示す。比較例4の窒化物系半導体発光素子では、光閉じ込め係数が1.39%であり、実効屈折率差ΔNが2.3×10-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ0.35nm及び-21.9nmであり、差ΔPは、22.3nmである。また、導波路損失は、3.4cm-1であり、N側ガイド層及びP側ガイド層におけるフリーキャリア損失は、1.84cm-1である。このように、比較例4の窒化物系半導体発光素子では、各バリア層のバンドギャップエネルギーが大きいため、つまり、各バリア層の屈折率が小さいため、光閉じ込め係数が本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100より減少している。これに伴い、比較例4の窒化物系半導体発光素子の他の評価指標も、位置P1を除いて、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100より悪化している。
【0074】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、各バリア層のバンドギャップエネルギーを、N側ガイド層104及びP側ガイド層106のバンドギャップエネルギーの最小値以下とすることで、光閉じ込め係数を増大させることができる。これに伴い、差ΔPを低減できるため、IL特性を示すグラフにおいて、直線状でない部分が生じにくくなる。
【0075】
[1-3-3.P型クラッド層]
次に、本実施の形態に係るP型クラッド層110の膜厚について
図14~
図18を用いて説明する。
図14は、本実施の形態に係るP型クラッド層110の膜厚と、光閉じ込め係数(Γv)との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図15は、本実施の形態に係るP型クラッド層110の膜厚と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図16は、本実施の形態に係るP型クラッド層110の膜厚と、実効屈折率差ΔNとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図17は、本実施の形態に係るP型クラッド層110の膜厚と、位置P1との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図18は、本実施の形態に係るP型クラッド層110の膜厚と、差ΔPとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。また、
図14~
図18には、比較例として、P側ガイド層のIn組成比が2%及び4%でそれぞれ一定である二つの比較例のシミュレーション結果も併せて示されている。また、
図14~
図18には、後述する実施の形態4に係る窒化物系半導体発光素子400のシミュレーション結果も併せて示されている。
【0076】
図14に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、各比較例の窒化物系半導体発光素子より光閉じ込め係数を大きくすることができる。また、本実施の形態では、上述した各ガイド層及び各バリア層の構成により、P型クラッド層110の膜厚を250nmまで薄くしても、光閉じ込め係数が低下しない。
【0077】
図15に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、比較例の窒化物系半導体発光素子より導波路損失を低減できる。また、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、P型クラッド層110の膜厚を300nm程度まで薄くしても、導波路損失が大幅に増大することを抑制できる。
【0078】
図16に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、各比較例の窒化物系半導体発光素子より実効屈折率差ΔNを低減できる。
【0079】
図17及び
図18に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、各比較例の窒化物系半導体発光素子より位置P1の絶対値、及び差ΔPを低減できる。
【0080】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100では、P型クラッド層110の膜厚を低減することが可能となるため、動作電圧を低減できる。
【0081】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、P側ガイド層のバンドギャップエネルギー分布において、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100との相違点を中心に説明する。
【0082】
[2-1.全体構成]
まず、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成について
図19及び
図20を用いて説明する。
図19は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200の全体構成を示す模式的な断面図である。
図20は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200の活性層105及びその近傍の各層のバンドギャップエネルギーの分布を示す模式的なグラフである。
【0083】
図19に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200は、半導体積層体200Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114とを備える。半導体積層体200Sは、基板101と、N型第1クラッド層102と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層105と、P側ガイド層206と、中間層108と、電子障壁層109と、P型クラッド層110と、コンタクト層111とを有する。
【0084】
P側ガイド層206では、実施の形態1に係るP側ガイド層106と同様に、P側ガイド層206のバンドギャップエネルギーは、活性層105から遠ざかるにしたがって単調に増加する。また、P側ガイド層206は、バンドギャップエネルギーが、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に増加する部分を含む。本実施の形態では、P側ガイド層206は、アンドープIn
XpGa
1-XpN層であり、P側ガイド層206の活性層105に近い側の界面からP側ガイド層206の積層方向の中央部までの領域におけるIn組成比の積層方向における平均変化率は、中央部からP側ガイド層206のP型クラッド層110に近い側の界面までの領域におけるIn組成比の積層方向における平均変化率よりも大きい。言い換えると、P側ガイド層206の積層方向の位置とIn組成比との関係を示す曲線は、下に凸な形状を有する。さらに言い換えると、P側ガイド層206の積層方向の位置とバンドギャップエネルギーとの関係を示す曲線は、上に凸な形状を有する(
図20参照)。
【0085】
本実施の形態では、P側ガイド層206は、P側第1ガイド層206aと、P側第2ガイド層206bとを有する。P側第1ガイド層206aは、膜厚140nmのアンドープInXpGa1-XpN層である。より具体的には、P側第1ガイド層206aは、活性層105に近い側の界面付近においてInXp1Ga1-Xp1Nで表される組成を有し、活性層105から遠い側の界面付近においてInXpmGa1-XpmNで表される組成を有する。P側第1ガイド層206aのIn組成比Xpは、活性層105から遠ざかるにしたがって、一定の変化率で減少する。P側第2ガイド層206bは、膜厚140nmのアンドープInXpGa1-XpN層である。より具体的には、P側第2ガイド層206bは、活性層105に近い側の界面付近においてInXpmGa1-XpmNで表される組成を有し、活性層105から遠い側の界面付近においてInXp2Ga1-Xp2Nで表される組成を有する。P側第2ガイド層206bのIn組成比Xpは、活性層105から遠ざかるにしたがって、一定の変化率で減少する。本実施の形態では、Xp1=0.04、Xpm=0.02、Xp2=0である。
【0086】
[2-2.効果]
[2-2-1.フリーキャリア損失]
次に、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200のフリーキャリア損失低減効果について
図21及び
図22を用いて説明する。
図21は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200の積層方向における価電子帯電位及び正孔フェルミ準位の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図22は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200の積層方向におけるキャリア濃度の分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0087】
図21に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200では、P側ガイド層206における価電子帯電位を示す曲線を下に凸な形状とすることができる。ここで、P側ガイド層206における正孔フェルミ準位を示す曲線は、下に凸な形状を有する。このため、P側ガイド層206における価電子帯電位を示す曲線を下に凸な形状とすることにより、P側ガイド層206における正孔フェルミ準位と価電子帯電位との差を、実施の形態1に係るP側ガイド層106より均一化することができる。したがって、
図22に示されるように、P側ガイド層206の特に活性層105に近い領域における正孔の濃度を低減できる。これにより、P側ガイド層206におけるフリーキャリア損失をより一層低減できる。具体的には、本実施の形態では、ガイド層フリーキャリア損失を1.7cm
-1にまで低減でき、導波路損失を3.1cm
-1にまで低減できる。
【0088】
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200では、実効屈折率差ΔNが1.9×10-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ-3.8nm及び-15.8nmであり、差ΔPは、12nmである。このように、本実施の形態では、位置P1及び差ΔPを低減できるため、IL特性を示すグラフにおいて、直線状でない部分が生じにくくなる。
【0089】
[2-2-2.In組成比分布]
次に、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200のP側ガイド層206におけるIn組成比分布の効果について
図23及び
図24を用いて説明する。
図23及び
図24は、それぞれ、本実施の形態に係るP側ガイド層206における平均In組成比と、導波路損失及び光閉じ込め係数(Γv)との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図23及び
図24には、P側ガイド層206の活性層105に近い側の界面付近におけるIn組成比Xp1を4%、活性層105から遠い側の界面付近におけるIn組成比Xp2を0%とし、活性層105から遠ざかるにしたがって、In組成比を連続的に単調に減少させた場合の導波路損失及び光閉じ込め係数が示されている。より具体的には、
図23及び
図24には、P側ガイド層206の積層方向の中央部におけるIn組成比Xpmを変化させることで、P側ガイド層206における平均In組成比を変化させた場合の、導波路損失及び光閉じ込め係数が示されている。
図23及び
図24に示される例では、平均In組成比が2%未満の場合において、P側ガイド層206の積層方向の位置とIn組成比との関係を示す曲線は、下に凸な形状となる。例えば、平均In組成比が1.5%の場合が、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200に相当し、平均In組成比が2%の場合が、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100に相当する。また、
図23及び
図24には、P側ガイド層におけるIn組成比が均一である場合のシミュレーション結果についても併せて破線で示されている。
【0090】
図23及び
図24に示されるように、P側ガイド層206におけるIn組成比が活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に減少する場合の方が、P側ガイド層206におけるIn組成比が均一である場合より、導波路損失を低減でき、かつ、光閉じ込め係数を増大させることができる。また、平均In組成比が2%未満の場合に、より一層、導波路損失を低減でき、かつ、光閉じ込め係数を増大させることができる。
【0091】
[2-2-3.各ガイド層の膜厚の関係]
次に、本実施の形態に係るN側ガイド層104とP側ガイド層206との膜厚の関係による効果について
図25~
図29を用いて説明する。
図25は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、光閉じ込め係数(Γv)との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図26は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、導波路損失との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図27は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、実効屈折率差ΔNとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図28は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、位置P1との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図29は、本実施の形態に係るN側ガイド層104の膜厚と、差ΔPとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図25~
図29に係るシミュレーションにおいては、N側ガイド層104とP側ガイド層206との膜厚の和を440nmで一定に維持しながら、N側ガイド層104及びP側ガイド層206の各膜厚を変化させている。N側ガイド層104のIn組成比は4%であり、P側ガイド層106のIn組成比は、活性層105に近い側の界面付近において、4%であり、活性層105から遠い側の界面付近において0%であり、P側ガイド層206の積層方向の中央部において1%である。また、
図25~
図29には、比較例として、P側ガイド層のIn組成比が1.5%で一定である例のシミュレーション結果も併せて破線で示されている。
【0092】
図25に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層206の膜厚Tpより小さくすることで、光閉じ込め係数を増大させることができる。なお、N側ガイド層104の膜厚Tnは、100nm以上であってもよい。これにより、N側ガイド層104の膜厚Tnが薄くなり過ぎることで、光強度分布が活性層105からP側ガイド層206へ向かう向きに移動し過ぎることを抑制できる。また、
図25に示されるように、P側ガイド層206のIn組成比を1.5%で一定とした場合においても、N側ガイド層104の膜厚をP側ガイド層の膜厚より小さくすることで、光閉じ込め係数を増大させることができるが、本実施の形態に係るP側ガイド層206のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、より一層光閉じ込め係数を増大させることができる。
【0093】
図26に示されるように、本実施の形態に係るP側ガイド層206のように、In組成比を活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に減少させた場合の方が、In組成比が1.5%で一定の場合よりも、導波路損失を低減できる。また、本実施の形態では、N側ガイド層104の膜厚を変化させても導波路損失を3.2cm
-1以下でほぼ一定とすることができる。
【0094】
図27に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層206の膜厚Tpより小さくすることで、実効屈折率差ΔNを低減できる。また、
図27に示されるように、本実施の形態に係るP側ガイド層206のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、In組成比が1.5%で一定である場合より、実効屈折率差ΔNを低減できる。
【0095】
図28に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層206の膜厚Tpより小さくすることで、位置P1の絶対値を低減できる。なお、N側ガイド層104の膜厚Tnは、100nm以上165nm以下であってもよい。言い換えると、N側ガイド層104の膜厚を、N側ガイド層104及びP側ガイド層の膜厚の和の23%以上38%以下としてもよい。これにより、位置P1を-7nm以上18nm以下とすること、つまり、光強度分布のピークを活性層105内に位置させることができる。また、N側ガイド層104の膜厚を、N側ガイド層104及びP側ガイド層の膜厚の和の23%以上38%以下とし、距離dcを40nmとする場合、
図27に示されるように、実効屈折率差ΔNを1.85×10
-3以上2.0×10
-3以下の範囲に維持できる。
【0096】
また、
図28に示されるように、P側ガイド層206のIn組成比を1.5%で一定とした場合においても、N側ガイド層104の膜厚をP側ガイド層206の膜厚より小さくすることで、位置P1の絶対値を低減できるが、N側ガイド層の膜厚が160nm以上の場合には、本実施の形態に係るP側ガイド層106のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、より一層位置P1の絶対値を低減できる。
【0097】
図29に示されるように、N側ガイド層104の膜厚Tnを220nm未満とすることで、つまり、P側ガイド層206の膜厚Tpより小さくすることで、差ΔPを低減できる。特に、N側ガイド層104の膜厚を、N側ガイド層104及びP側ガイド層の膜厚の和の23%以上38%以下とすることで、差ΔPを13nm以下とすることができる。また、
図29に示されるように、P側ガイド層206のIn組成比を1.5%で一定とした場合においても、N側ガイド層の膜厚をP側ガイド層206の膜厚より小さくすることで、差ΔPを低減できるが、本実施の形態に係るP側ガイド層206のように、活性層105から遠ざかるにしたがってIn組成比を連続的に単調に減少させた場合の方が、より一層差ΔPを低減できる。
【0098】
[2-2-4.バリア層]
次に、本実施の形態に係る活性層105の各バリア層の構成の効果について比較例と比較しながら説明する。本実施の形態では、各バリア層のバンドギャップエネルギーは、N側ガイド層104及びP側ガイド層206のバンドギャップエネルギーの最小値以下である。ここで、比較例として、各バリア層の組成をアンドープGaNとして、各バリア層のバンドギャップエネルギーを、N側ガイド層104及びP側ガイド層206のバンドギャップエネルギーの最小値以上とし、その他の構成は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子100と同じである比較例5の窒化物系半導体発光素子のシミュレーション結果を示す。比較例5の窒化物系半導体発光素子では、光閉じ込め係数が1.37%であり、実効屈折率差ΔNが2.7×10-3であり、光強度分布のピークの位置P1及びP2が、それぞれ28.1nm及び9.2nmであり、差ΔPは、18.9nmである。また、導波路損失は、4cm-1であり、N側ガイド層及びP側ガイド層におけるフリーキャリア損失は、2.5cm-1である。このように、比較例5の窒化物系半導体発光素子では、各バリア層のバンドギャップエネルギーが大きいため、つまり、各バリア層の屈折率が小さいため、光閉じ込め係数が本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200より減少している。これに伴い、比較例5の窒化物系半導体発光素子の他の評価指標も、位置P2を除いて、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200より悪化している。
【0099】
以上のように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子200では、各バリア層のバンドギャップエネルギーを、N側ガイド層104及びP側ガイド層206のバンドギャップエネルギーの最小値以下とすることで、光閉じ込め係数を増大させることができる。これに伴い、差ΔPを低減できるため、IL特性を示すグラフにおいて、直線状でない部分が生じにくくなる。
【0100】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、N型第1クラッド層とP型クラッド層とのAl組成比の関係、及び、電子障壁層の構成において、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100との相違点を中心に
図30を用いて説明する。
【0101】
図30は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子300の全体構成を示す模式的な断面図である。
【0102】
図30に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子300は、半導体積層体300Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114とを備える。半導体積層体300Sは、基板101と、N型第1クラッド層302と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層105と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層309と、P型クラッド層110と、コンタクト層111とを有する。
【0103】
本実施の形態に係るN型第1クラッド層302は、膜厚1200nmのN型Al0.036Ga0.964N層である。N型第1クラッド層302には、不純物として濃度1×1018cm-3のSiがドープされている。
【0104】
本実施の形態に係るP型クラッド層110は、上述したとおり膜厚450nmのP型Al0.026Ga0.974N層である。
【0105】
本実施の形態においては、N型第1クラッド層302及びP型クラッド層110は、Alを含み、N型第1クラッド層302及びP型クラッド層110のAl組成比をそれぞれ、Ync、及び、Ypcとすると、
Ync>Ypc (4)
の関係を満足する。
【0106】
ここで、N型第1クラッド層302及びP型クラッド層110の少なくとも一方が、超格子構造である場合、組成比Ync及びYpcは、平均のAl組成比を示す。例えば、N型第1クラッド層302が、複数の厚さ2nmのGaN層と、複数の厚さ2nmのAl組成比0.07のAlGaN層とを含み、複数のGaN層の各々と、複数のAlGaN層の各々とが交互に積層される場合、YncはN型第1クラッド層302全体での平均のAl組成比である0.035となる。P型クラッド層110が、複数の厚さ2nmのGaN層と、複数の厚さ2nmのAl組成比0.07のAlGaN層とを含み、複数のGaN層の各々と、複数のAlGaN層の各々とが交互に積層される場合、YpcはP型クラッド層110全体での平均のAl組成比である0.035となる。
【0107】
これにより、N型第1クラッド層302の屈折率を、P型クラッド層110の屈折率より低減できる。したがって、窒化物系半導体発光素子300の動作電圧を低減するために、P型クラッド層110の膜厚を低減しても、N型第1クラッド層302の屈折率が、P型クラッド層110の屈折率より小さいため、積層方向における光強度分布のピークが活性層105からN型第1クラッド層302へ近づく向きに移動することを抑制できる。
【0108】
電子障壁層309は、活性層105の上方に配置され、少なくともAlを含む窒化物系半導体層である。本実施の形態では、電子障壁層309は、中間層108と、P型クラッド層110との間に配置される。電子障壁層309は、膜厚5nmのP型AlGaN層である。また、電子障壁層309は、P型クラッド層110に近づくにしたがってAl組成比が単調に増加するAl組成比増加領域を有する。ここで、Al組成比が単調に増加する構成には、Al組成比が積層方向において一定である領域を含む構成も含まれる。例えば、Al組成比が単調に増加する構成には、Al組成比がステップ状に増加するような構成も含まれる。本実施の形態に係る電子障壁層309においては、電子障壁層309全体がAl組成比増加領域であり、積層方向において、一定の変化率でAl組成比が増加する。具体的には、電子障壁層309は、中間層108との界面付近において、Al0.02Ga0.98Nで表される組成を有し、P型クラッド層110に近づくにしたがって、Al組成比が単調に増加し、P型クラッド層110との界面付近において、Al0.36Ga0.64Nで表される組成を有する。電子障壁層309には、不純物として濃度1×1019cm-3のMgがドープされている。
【0109】
電子障壁層309により、電子が活性層105からP型クラッド層110へ漏れることを抑制できる。また、電子障壁層309が、Al組成比が単調に増加するAl組成比増加領域を有することで、Al組成比が一様である場合より、電子障壁層309の価電子帯の電位障壁を低減できる。これにより、P型クラッド層110から活性層105へ正孔が流れやすくなる。したがって、本実施の形態のように、アンドープ層であるP側ガイド層106の膜厚が大きい場合にも、窒化物系半導体発光素子300の電気抵抗の増大を抑制できる。これにより、窒化物系半導体発光素子300の動作電圧を低減できる。また、窒化物系半導体発光素子300の動作中における自己発熱を低減できるため、窒化物系半導体発光素子300の温度特性を高めることができる。したがって、窒化物系半導体発光素子300の高出力動作が可能となる。
【0110】
本実施の形態によれば、実効屈折率差ΔNが1.9×10-3であり、位置P1が5.3nmであり、差ΔPが4.2nmであり、活性層105への光閉じ込め係数が1.55%であり、導波路損失が3.6cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失が2.4cm-1である窒化物系半導体発光素子300を実現できる。
【0111】
(実施の形態4)
実施の形態4に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、主に、リッジにおけるコンタクト層上に透光性導電膜を備える点において、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子300と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子300との相違点を中心に
図31を用いて説明する。
【0112】
図31は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子400の全体構成を示す模式的な断面図である。
図31に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子400は、半導体積層体400Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114と、透光性導電膜420とを備える。半導体積層体400Sは、基板101と、N型第1クラッド層302と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層105と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層309と、P型クラッド層410と、コンタクト層411とを有する。
【0113】
本実施の形態に係るP型クラッド層410は、電子障壁層309とコンタクト層411との間に配置される。P型クラッド層410は、活性層105より屈折率が小さく、かつ、バンドギャップエネルギーが高い層である。本実施の形態では、P型クラッド層410は、膜厚330nmのP型Al0.026Ga0.974N層である。P型クラッド層410には、不純物としてMgがドープされている。また、P型クラッド層410の活性層105に近い側の端部における不純物濃度は、活性層105から遠い側の端部における不純物濃度よりも低い。具体的には、P型クラッド層410は、活性層105に近い側に配置される濃度2×1018cm-3のMgがドープされた膜厚150nmのP型Al0.026Ga0.974N層と、活性層105から遠い側に配置される濃度1×1019cm-3のMgがドープされた膜厚180nmのP型Al0.026Ga0.974N層とを有する。
【0114】
P型クラッド層410には、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子300と同様に、リッジ410Rが形成されている。また、P型クラッド層410には、リッジ410Rに沿って配置され、Y軸方向に延びる二つの溝410Tが形成されている。
【0115】
コンタクト層411は、P型クラッド層410の上方に配置され、P側電極113とオーミック接触する層である。本実施の形態では、コンタクト層411は、膜厚10nmのP型GaN層である。コンタクト層411には、不純物として濃度1×1020cm-3のMgがドープされている。
【0116】
本実施の形態に係る透光性導電膜420は、P型クラッド層410の上方に配置され、窒化物系半導体発光素子400で発生する光の少なくとも一部を透過させる導電膜である。透光性導電膜420として、例えば、錫ドープの酸化インジウム(ITO)、Gaドープの酸化亜鉛、Alドープの酸化亜鉛、In及びGaドープの酸化亜鉛等の、可視光に対して透過性を有し、低抵抗の電気伝導性を示す酸化膜を用いることができる。
【0117】
また、透光性導電膜420は、少なくともP型クラッド層410の上方に形成されていればよく、電流ブロック層112とP側電極113との間に形成されていてもよい。
【0118】
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子400によっても、上述した
図14~
図18に示されるように、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と同様の効果が奏される。
【0119】
さらに、本実施の形態においては、P型クラッド層410の上方に配置される透光性導電膜420を備えるため、P型クラッド層410の上方を伝搬する光の損失を低減できる。
図15に示されるように、この効果は、P型クラッド層410の膜厚が薄い場合に特に顕著である。P型クラッド層410の膜厚を0.32μmまで薄くしても導波路損失の大幅な増大を抑制できる。さらに、P型クラッド層410の膜厚を0.25μmまで薄くしても、P型クラッド層410の膜厚が0.6μmの場合に比べて、導波路損失の増加量を0.8cm
-1以下に抑制可能である。この増加量は、透光性導電膜420を用いない実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100の増加量に比べて、半分以下に抑制できていることがわかる。また、P型クラッド層410の膜厚をより一層低減することが可能となるため、窒化物系半導体発光素子400の電気抵抗をより一層低減することができる。その結果、窒化物系半導体発光素子400のスロープ効率を高めることができ、かつ、動作電圧を低減することができる。
【0120】
本実施の形態によれば、実効屈折率差ΔNが2.0×10-3であり、位置P1が1.4nmであり、差ΔPが4.0nmであり、活性層105への光閉じ込め係数が1.51%であり、導波路損失が3.8cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失が1.9cm-1である窒化物系半導体発光素子400を実現できる。
【0121】
(実施の形態5)
実施の形態5に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、活性層の構成において、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子300と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子300との相違点を中心に
図32A及び
図32Bを用いて説明する。
【0122】
図32Aは、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子500の全体構成を示す模式的な断面図である。
図32Bは、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子500が備える活性層505の構成を示す断面図である。
【0123】
図32Aに示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子500は、半導体積層体500Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114と、透光性導電膜420とを備える。半導体積層体500Sは、基板101と、N型第1クラッド層302と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層505と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層309と、P型クラッド層110と、コンタクト層111とを有する。
【0124】
本実施の形態に係る活性層505は、
図32Bに示されるように、単一量子井戸構造を有し、単一のウェル層105bと、ウェル層105bを挟むバリア層105a及び105cとを有する。ウェル層105bは、実施の形態1に係るウェル層105bと同様の構成を有し、バリア層105a及び105cは、実施の形態1に係るバリア層105a及び105cと同様の構成を有する。
【0125】
本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子500によれば、実施の形態3に係る窒化物系半導体発光素子300と同様の効果が奏される。特に、上述したような単一量子井戸構造を有する窒化物系半導体発光素子500においては、活性層505が単一のウェル層105bを有する。このように、屈折率が大きいウェル層105bの個数が少ない窒化物系半導体発光素子500においても、N側ガイド層104、P側ガイド層106などの構成により、積層方向における光強度分布のピークを活性層505又はその近傍に位置させることができる。したがって、光閉じ込め係数を高めることができる。
【0126】
本実施の形態によれば、実効屈折率差ΔNが2.1×10-3であり、位置P1が1.1nmであり、差ΔPが6.0nmであり、活性層505への光閉じ込め係数が0.75%であり、導波路損失が3.8cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失が2.4cm-1である窒化物系半導体発光素子500を実現できる。なお、本実施の形態では、活性層505の合計膜厚が、実施の形態3に係る活性層105より8nm小さいため、実施の形態3より光閉じ込め係数が小さくなる。
【0127】
(実施の形態6)
実施の形態6に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、主にN側ガイド層の構成において、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100との相違点を中心に説明する。
【0128】
[6-1.全体構成]
まず、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子の全体構成について、
図33及び
図34を用いて説明する。
図33は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600の全体構成を示す模式的な断面図である。
図34は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600の活性層105及びその近傍の各層のバンドギャップエネルギーの分布を示す模式的なグラフである。
【0129】
図33に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600は、半導体積層体600Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114とを備える。半導体積層体600Sは、基板101と、N型第1クラッド層602と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層604と、活性層105と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層109と、P型クラッド層610と、コンタクト層111とを有する。
【0130】
本実施の形態に係るN型第1クラッド層602は、膜厚1200nmのN型Al0.035Ga0.965N層である。N型第1クラッド層602には、不純物として濃度1×1018cm-3のSiがドープされている。
【0131】
本実施の形態に係るP型クラッド層610は、電子障壁層109とコンタクト層111との間に配置される。P型クラッド層610は、活性層105より屈折率が小さく、かつ、バンドギャップエネルギーが高い層である。本実施の形態では、P型クラッド層610は、膜厚450nmのP型Al0.035Ga0.965N層である。P型クラッド層610には、不純物としてMgがドープされている。また、P型クラッド層610の活性層105に近い側の端部における不純物濃度は、活性層105から遠い側の端部における不純物濃度よりも低い。具体的には、P型クラッド層610は、活性層105に近い側に配置される濃度2×1018cm-3のMgがドープされた膜厚150nmのP型Al0.035Ga0.965N層と、活性層105から遠い側に配置される濃度1×1019cm-3のMgがドープされた膜厚300nmのP型Al0.035Ga0.965N層とを有する。
【0132】
P型クラッド層610には、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と同様に、リッジ610Rが形成されている。また、P型クラッド層610には、リッジ610Rに沿って配置され、Y軸方向に延びる二つの溝610Tが形成されている。
【0133】
本実施の形態に係るN側ガイド層604は、N型第2クラッド層103の上方に配置される光ガイド層である。N側ガイド層604は、N型第1クラッド層602及びN型第2クラッド層103より屈折率が大きく、バンドギャップエネルギーが小さい。
図34に示されるように、N側ガイド層604のバンドギャップエネルギーは、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に増加する。
【0134】
N側ガイド層604が、InXnGa1-XnNからなる場合には、N側ガイド層604のIn組成比Xnは、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に減少する。これにより、N側ガイド層604のバンドギャップエネルギーは、活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に増加する。
【0135】
N側ガイド層604は、膜厚160nmのN型InXnGa1-XnN層である。より具体的には、N側ガイド層604は、活性層105に近い側の界面付近においてInXn1Ga1-Xn1Nで表される組成を有し、活性層105から遠い側の界面付近においてInXn2Ga1-Xn2Nで表される組成を有する。本実施の形態では、N側ガイド層604の活性層105に近い側の界面付近におけるIn組成比Xn1は4%であり、活性層105から遠い側の界面付近におけるIn組成比Xn2は0%である。N側ガイド層604のIn組成比Xnは、活性層105から遠ざかるにしたがって、一定の変化率で減少する。
【0136】
[6-2.効果]
[6-2-1.In組成比分布]
次に、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600のN側ガイド層604におけるIn組成比分布の効果について
図35及び
図36を用いて説明する。
図35及び
図36は、それぞれ、本実施の形態に係るN側ガイド層604における平均In組成比と、光閉じ込め係数(Γv)及び動作電圧との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0137】
図35及び
図36には、N側ガイド層604の活性層105に近い側の界面付近におけるIn組成比Xn1を4%、活性層105から遠い側の界面付近におけるIn組成比Xn2を0%、1%、2%、3%、及び4%とし、活性層105から遠ざかるにしたがって、In組成比を一定の変化率で減少させた場合の光閉じ込め係数及び動作電圧が示されている。なお、各図には、動作電圧として、供給電流量が3Aの場合の動作電圧が示されている。また、
図35及び
図36には、N側ガイド層におけるIn組成比が均一である場合のシミュレーション結果についても併せて破線で示されている。
【0138】
図35及び
図36に示されるように、N側ガイド層604におけるIn組成比が活性層105から遠ざかるにしたがって連続的に単調に減少する場合の方が、N側ガイド層におけるIn組成比が均一である場合より、N側ガイド層604の高屈折率領域を活性層105に近接させることができるため、光閉じ込め係数を増大させることができ、かつ、動作電圧を低減できる。また、平均In組成比が2%未満の場合に、より一層、導波路損失を低減でき、かつ、光閉じ込め係数を増大させることができる。
【0139】
続いて、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600の動作電圧低減効果について、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と比較しながら、
図37及び
図38を用いて説明する。
図37は、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100の積層方向における位置と、ピエゾ分極電荷密度、ピエゾ分極電界、及び伝導帯電位との関係を示すグラフである。
図38は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600の積層方向における位置と、ピエゾ分極電荷密度、ピエゾ分極電界、及び伝導帯電位との関係を示すグラフである。
図37及び
図38のグラフ(a)、(b)、及び(c)には、それぞれ、各窒化物系半導体発光素子の積層方向における位置と、ピエゾ分極電荷密度、ピエゾ分極電界、及び伝導帯電位との関係が示されている。なお、
図37及び
図38のグラフ(c)には、正孔フェルミ準位が併せて破線で示されている。
【0140】
図37のグラフ(a)に示されるように、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100のN側ガイド層104のピエゾ分極電荷密度は、積層方向において一定である。このため、N側ガイド層104とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面におけるピエゾ分極電荷密度のギャップが大きい。これに伴い、N側ガイド層104とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面にピエゾ分極電荷が局所的に形成される。これにより、大きいピエゾ分極電界が発生する。したがって、
図37のグラフ(b)に示されるように、N側ガイド層104とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面にスパイク状のピエゾ分極電界が発生する。この結果、N側ガイド層104とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面近傍に、正孔が誘引され、当該界面における伝導帯電位が増大する(
図37のグラフ(c)に示されるΔE1参照)。
【0141】
一方、
図38のグラフ(a)に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600のN側ガイド層604の分極電荷密度は、活性層105に近い側の界面から遠い側の界面に近づくにしたがって、単調に減少する。このため、N側ガイド層604とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面におけるピエゾ分極電荷密度のギャップが抑制される。これにより、ピエゾ分極電荷は、N側ガイド層604の積層方向に分散される。したがって、
図38のグラフ(b)に示されるように、N側ガイド層604とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面におけるピエゾ分極電界を抑制できる。この結果、
図38のグラフ(c)に示されるように、N側ガイド層604とN型第2クラッド層103及び活性層105との各界面近傍における、正孔が誘引されることに起因する伝導帯電位の増大(
図38のグラフ(c)に示されるΔE1)を抑制できる。これにより、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600では、N型第2クラッド層103から活性層105へ向かって流れる電子の伝導性を向上させることができるため、動作電圧を低減できる。
【0142】
[6-2-2.N側ガイド層における不純物]
次に、本実施の形態に係るN側ガイド層604における不純物による効果について
図39~
図41を用いて説明する。
図39、
図40、及び
図41は、それぞれ、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600のN側ガイド層604における平均In組成比と、光閉じ込め係数(Γv)、導波路損失、及び動作電圧との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図39~
図41のグラフ(a)、(b)、(c)、及び(d)は、それぞれ、N側ガイド層604における不純物(Si)の濃度が、0(つまり、アンドープ)、3×10
17cm
-3、6×10
17cm
-3、1×10
18cm
-3である場合のシミュレーション結果が示されている。なお、
図41には、動作電圧として、供給電流量が3Aの場合の動作電圧が示されている。
【0143】
図39~
図41には、N側ガイド層604の活性層105に近い側の界面付近におけるIn組成比Xn1を4%、活性層105から遠い側の界面付近におけるIn組成比Xn2を0%、1%、2%、3%、及び4%とし、活性層105から遠ざかるにしたがって、In組成比を一定の変化率で減少させた場合の光閉じ込め係数及び動作電圧が示されている。また、
図39~
図41には、N側ガイド層におけるIn組成比が均一である場合のシミュレーション結果についても併せて破線で示されている。
【0144】
図39に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600においては、N側ガイド層のIn組成比が均一である比較例の窒化物系半導体発光素子より、光閉じ込め係数を高めることができる。また、
図39から本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600において、光閉じ込め係数は、不純物濃度にはほぼ依存しないことがわかる。
【0145】
図40に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600においては、不純物を添加しない場合を除いて、N側ガイド層のIn組成比が均一である比較例の窒化物系半導体発光素子より導波路損失を低減できる。これは、不純物の添加により電子濃度は増大するが、N側ガイド層604の積層方向におけるエネルギーバンドギャップ分布によって正孔濃度が減少することに起因すると考えられる。
【0146】
図41に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600においては、N側ガイド層のIn組成比が均一である比較例の窒化物系半導体発光素子より動作電圧を低減できる。また、窒化物系半導体発光素子600に添加する不純物の濃度を高めることで、N側ガイド層604における電子濃度を高めることができるため、より一層動作電圧を低減できる。
【0147】
図40及び
図41より、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子600では、N側ガイド層604における不純物濃度を1×10
17cm
-3以上6×10
17cm
-3以下とすることで、導波路損失の大幅な増大を抑制しつつ、動作電圧を低減できる。
【0148】
以上のように、本実施の形態によれば、実効屈折率差ΔNが2.9×10-3であり、位置P1が15.9nmであり、差ΔPが6.2nmであり、活性層105への光閉じ込め係数が1.44%であり、導波路損失が3.4cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失が1.45cm-1である窒化物系半導体発光素子600を実現できる。
【0149】
(実施の形態7)
実施の形態7に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、主にP型クラッド層の構成において、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100との相違点を中心に
図42を用いて説明する。
【0150】
図42は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子700の全体構成を示す模式的な断面図である。
図42に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子700は、半導体積層体700Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114とを備える。半導体積層体700Sは、基板101と、N型第1クラッド層102と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層105と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層709と、P型クラッド層710と、コンタクト層111とを有する。
【0151】
本実施の形態に係る電子障壁層709は、膜厚1.6nmのP型Al0.36Ga0.64N層である。電子障壁層709には、不純物として濃度1.5×1019cm-3のMgがドープされている。
【0152】
本実施の形態に係るP型クラッド層710は、電子障壁層709とコンタクト層111との間に配置される。P型クラッド層710は、活性層105より屈折率が小さく、かつ、バンドギャップエネルギーが高い層である。P型クラッド層710には、実施の形態1に係るP型クラッド層110と同様に、リッジ710Rが形成されている。また、P型クラッド層710には、リッジ710Rに沿って配置され、Y軸方向に延びる二つの溝710Tが形成されている。
【0153】
P型クラッド層710は、膜厚450nmのP型Al0.026Ga0.974N層である。P型クラッド層710には、不純物としてMgがドープされている。本実施の形態では、P型クラッド層710の活性層105に近い側の端部における不純物濃度は、活性層105から遠い側の端部における不純物濃度よりも低い。また、P型クラッド層710の不純物濃度は、活性層105から遠ざかるにしたがって、単調に増加する領域を有する。ここで、不純物濃度が単調に増加する構成には、積層方向において不純物濃度が一定である領域が存在する構成も含まれる。具体的には、P型クラッド層710は、活性層105に最も近い側に配置される濃度2×1018cm-3のMgがドープされた膜厚150nmのP型Al0.026Ga0.974N層と、その上方に配置される濃度1×1019cm-3のMgがドープされた膜厚180nmのP型Al0.026Ga0.974N層と、その上方に配置される濃度1.3×1019cm-3のMgがドープされた膜厚120nmのP型Al0.026Ga0.974N層とを有する。このように、本実施の形態では、P型クラッド層710は、活性層105に最も近い第1層と、第1層より不純物濃度が大きい第2層と、第2層より不純物濃度が大きい第3層とを有する。
【0154】
本実施の形態では、P側ガイド層106の膜厚がN側ガイド層104の膜厚と比較して大きい。この場合、積層方向における光強度分布のピークが活性層105近傍領域に分布するため、P型クラッド層710への光の拡がりが抑制される。したがって、P型クラッド層710における光強度が弱い。このため、P型クラッド層710のコンタクト層111に近い領域におけるMg濃度を増加させても導波路損失の増大を抑制できる。また、Mg濃度を増加させることで、窒化物系半導体発光素子700の直列抵抗(つまり、P側電極113とN側電極114との間の抵抗)を低減することが可能となる。
【0155】
例えば、P側ガイド層106の膜厚が200nm以上の場合には、P型クラッド層710のコンタクト層111との界面からの距離が0.15μm以内の領域では、Mg濃度を1.3×1019cm-3以上に高めても導波路損失の増大を抑制できる程度に、十分に光強度が小さくなる。このようにP型クラッド層710のMg濃度を高めることで、窒化物系半導体発光素子700の直列抵抗を低減することが可能となる。なお、P型クラッド層710におけるMg濃度は、1.6×1019cm-3以下であってもよい。これにより、Mg濃度を高め過ぎることに起因するキャリアの移動度の低下を抑制できるため、直列抵抗の増大を抑制できる。
【0156】
P側ガイド層106の膜厚が250nm以上の場合には、P型クラッド層710における光強度がさらに弱くなるため、P型クラッド層710におけるMg濃度が最も低い低濃度領域の膜厚を20nm以下としても、導波路損失の増大を抑制できる。
【0157】
また、P型クラッド層710において、Mg濃度を積層方向にステップ状に変化させる必要はなく、連続的に変化させてもよい。例えば、P型クラッド層710におけるMg濃度は以下のような構成を有してもよい。P型クラッド層710の活性層105に近い側の界面においては、Mg濃度は、電子障壁層709におけるMg濃度1.5×1019cm-3とほぼ等しい。P型クラッド層710の当該界面からの距離が100nm以内の領域において、Mg濃度が1×1018cm-3から3×1018cm-3以下の範囲に到達するように、当該界面から遠ざかるにしたがって、Mg濃度が単調に減少してもよい。このように、P型クラッド層710は、活性層105に最も近い領域において、活性層105から遠ざかるにしたがって不純物濃度が単調に減少する濃度減少領域を有してもよい。さらに、P型クラッド層710は、濃度減少領域の上方に配置され、積層方向におけるMg濃度の変化が小さく、P型クラッド層710において最もMg濃度が低い低濃度領域を有してもよい。低濃度領域においては、例えば、Mg濃度は、1×1018cm-3以上3×1018cm-3以下である。さらに、P型クラッド層710は、低濃度領域の上方に配置され、活性層105から遠ざかるにしたがって、Mg濃度が単調に増加する濃度増加領域を有してもよい。濃度増加領域においては、例えば、Mg濃度が1×1018cm-3以上3×1018cm-3以下の範囲から、1.3×1019cm-3まで単調に増加する。
【0158】
また、濃度増加領域は、活性層105に近い側に配置される高増加率領域と、高増加率領域の上方に配置される低増加率領域とを有してもよい。高増加率領域のMg濃度の積層方向における変化率は、低増加率領域のMg濃度の積層方向における変化率より大きい。
【0159】
本実施の形態によれば、実効屈折率差ΔNが1.9×10-3であり、位置P1が3.6nmであり、差ΔPが2.8nmであり、活性層105への光閉じ込め係数が1.54%であり、導波路損失が3.6cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失が2.4cm-1である窒化物系半導体発光素子700を実現できる。
【0160】
(実施の形態8)
実施の形態8に係る窒化物系半導体発光素子について説明する。本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、電子障壁層の構成において、実施の形態7に係る窒化物系半導体発光素子700と相違する。以下、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子について、実施の形態7に係る窒化物系半導体発光素子700との相違点を中心に
図43及び
図44を用いて説明する。
【0161】
図43は、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子800の全体構成を示す模式的な断面図である。
図44は、本実施の形態に係る電子障壁層809の積層方向におけるAl組成比の分布を示すグラフである。
図44に示されるグラフの横軸は積層方向における位置xを示し、縦軸はAl組成比を示す。
図44においては、電子障壁層709と併せて、中間層108及びP型クラッド層710の一部におけるAl組成比の分布も示されている。
【0162】
図43に示されるように、本実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子800は、半導体積層体800Sと、電流ブロック層112と、P側電極113と、N側電極114とを備える。半導体積層体800Sは、基板101と、N型第1クラッド層102と、N型第2クラッド層103と、N側ガイド層104と、活性層105と、P側ガイド層106と、中間層108と、電子障壁層809と、P型クラッド層710と、コンタクト層111とを有する。
【0163】
本実施の形態に係る電子障壁層809は、P型AlGaN層である。電子障壁層809には、不純物として濃度1.5×10
19cm
-3のMgがドープされている。電子障壁層809は、P型クラッド層110に近づくにしたがってAl組成比が単調に増加するAl組成比増加領域と、Al組成比増加領域の上方に配置され、P型クラッド層710に近づくにしたがってAl組成比が単調に減少するAl組成比減少領域とを有する。ここで、Al組成比が単調に減少する構成には、Al組成比が積層方向において一定である領域を含む構成も含まれる。例えば、Al組成比が単調に減少する構成には、Al組成比がステップ状に減少するような構成も含まれる。
図44に示されるグラフにおいて、位置x=Xsが、電子障壁層809の中間層108との界面を指し、位置x=Xeが電子障壁層809のP型クラッド層710との界面を指す。なお、位置x=Xsは、P型クラッド層710に近づくにしたがってAl組成比が増加する領域の端部で定義されてもよい。位置x=Xeは、P型クラッド層710に近づくにしたがってAl組成比が減少する領域の端部、言い換えると、積層方向においてAl組成比が一定である領域の端部で定義されてもよい。位置x=Xmは、電子障壁層809においてAl組成比が最大となる位置である。また、位置x=Xsから位置x=Xmまでの領域が、Al組成比増加領域であり、位置x=Xmから位置x=Xeまでの領域が、Al組成比減少領域である。
【0164】
電子障壁層809の膜厚は、5nm以下である。Al組成比増加領域の膜厚は、2nm以下である。Al組成比減少領域の膜厚は、Al組成比増加領域の膜厚より大きい。電子障壁層809においてAl組成比が最大である領域の膜厚は、0.5nm以下である。ここで、Al組成比が最大である領域とは、Al組成比が、電子障壁層809におけるAl組成比の最大値の95%以上である領域を意味する。
【0165】
図44に示されるグラフには、電子障壁層809の積層方向における位置に対するAl組成比の分布を示す曲線f(x)と併せて直線g(x)及びh(x)が示されている。直線g(x)は、曲線f(x)の位置x=Xsにおける点と、位置x=Xmにおける点とを通る直線である。直線h(x)は、曲線f(x)の位置x=Xmにおける点と、位置x=Xeにおける点とを通る直線である。
図44に示されるように、曲線f(x)は、位置x=Xsから位置x=Xmの範囲において、下に凸の曲線である。また、曲線f(x)は、位置x=Xmから位置x=Xeの範囲において、下に凸の曲線である。言い換えると、位置x=Xsと位置x=Xmとの中間点に相当する位置x=Xd1においてf(Xd1)<g(Xd1)である。また、位置x=Xmと位置x=Xeとの中間点に相当する位置x=Xd2においてf(Xd2)<h(Xd2)である。
【0166】
以上のように、電子障壁層809の活性層105に近い側のAl組成比を傾斜させることで、電子障壁層809の中間層108との界面で形成される正のピエゾ分極電荷をAl組成比増加領域に分散させることができる。これに伴い、電子障壁層809の中間層108との界面において、正のピエゾ分極電荷により誘引される電子濃度が低減される。この結果、電子障壁層809の中間層108との界面の価電子帯のポテンシャルエネルギーの低下を抑制できる。これにより、P型クラッド層710から活性層105へ流れる正孔に対する電位障壁が小さくなり動作電圧が低減する。
【0167】
また、Al組成比が最大である領域の膜厚を0.5nm以下とすることで、正孔に対する価電子帯での電位障壁を小さくすることができ、動作電圧を低減することができる。
【0168】
また、電子障壁層809の膜厚を5nm以下とすることで、電子障壁層809で形成される価電子帯の電位障壁の幅(つまり厚さ)を狭めることができる。この結果、正孔に対するP型クラッド層710から活性層105への電気伝導障壁を小さくすることができるため、動作電圧が低減する。ここで、電子障壁層809の膜厚が2nmより薄くなると活性層105からP型クラッド層710へ電子障壁層809を超えて流れる電子が増大するため、電子障壁層809の膜厚は2nm以上必要である。
【0169】
また、Al組成比増加領域の膜厚が、2nm以下の場合、電子障壁層809の膜厚を5nm以下としつつ、電子障壁層809のAl組成比減少領域の膜厚をAl組成比増加領域の膜厚より大きくすることで、活性層105からP型クラッド層710へ電子障壁層809を超えて流れる電子の発生を抑制することができる。
【0170】
また、電子障壁層809の中間層108との界面近傍に形成される正のピエゾ分極電荷は、Al組成比の変化率が相対的に小さい中間層108に近い領域より、Al組成比の変化率が相対的に大きい領域の方が多くなる。電子障壁層809のAl組成比増加領域における曲線f(x)の形状を下に凸とすることで、電子障壁層809の中間層108との界面近傍におけるAl組成比の変化率を小さくできるため、当該界面において正のピエゾ分極電荷を低減できる。したがって、当該界面において正のピエゾ分極電荷により誘引される電子濃度が低下する。これに伴い、電子障壁層809の中間層108との界面における正孔に対する価電子帯の電位障壁を小さくすることができる。
【0171】
さらに、電子障壁層809のAl組成比減少領域における曲線f(x)の形状を下に凸とすることで、位置x=Xm近傍のAl組成比の高い領域の膜厚を薄くすることができ、電子障壁層809で形成される価電子帯の電位障壁の幅をさらに狭めることができる。この結果、正孔のP型クラッド層710から活性層105への電気伝導障壁を小さくすることができ、動作電圧が低減する。
【0172】
本実施の形態に係る電子障壁層809におけるMg濃度は1.5×1019cm-3以下であってもよい。電子障壁層809の活性層105に近い側の領域(つまり、Al組成比増加領域)におけるAl組成が傾斜しているため、Mg濃度を1.5×1019cm-3以下としても電子障壁層809における正孔に対する電位障壁を小さくすることができる。これにより、電子障壁層809のAl組成比を30%以上に高めても動作電圧の増大を抑制できる。
【0173】
また、電子障壁層809の活性層105に近い側の領域(つまり、Al組成比増加領域)における曲線f(x)の形状を下に凸とすることで、価電子帯の電位障壁形成抑制効果が高まり、Mg濃度を1×1019cm-3以下とすることが可能となる。なお、Mg濃度を0.7×1018cm-3以上としてもよい。これにより、電子障壁層809の価電子帯の電位が低下し過ぎることを抑制できる。
【0174】
本実施の形態では、電子障壁層809は、中間層108との界面付近において、Al0.02Ga0.98Nで表される組成を有し、P型クラッド層710に近づくにしたがって、電子障壁層809のAl組成比が単調に増加する。そして、電子障壁層809の中間層108との界面からの距離が1nmである位置x=Xmにおいて、電子障壁層809は、Al0.36Ga0.64Nで表される組成を有する。位置x=XmからP型クラッド層710に近づくにしたがって、電子障壁層809のAl組成比が単調に減少する。電子障壁層809は、P型クラッド層710との界面付近において、Al0.026Ga0.974Nで表される組成を有する。
【0175】
本実施の形態によれば、実効屈折率差ΔNが1.9×10-3であり、位置P1が3.6nmであり、差ΔPが2.8nmであり、活性層105への光閉じ込め係数が1.54%であり、導波路損失が3.6cm-1であり、ガイド層フリーキャリア損失が2.4cm-1である窒化物系半導体発光素子800を実現できる。
【0176】
(変形例など)
以上、本開示に係る窒化物系半導体発光素子について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【0177】
例えば、上記各実施の形態においては、窒化物系半導体発光素子が半導体レーザ素子である例を示したが、窒化物系半導体発光素子は、半導体レーザ素子に限定されない。例えば、窒化物系半導体発光素子は、スーパールミネッセントダイオードであってもよい。この場合、窒化物系半導体発光素子が備える半導体積層体の端面の半導体積層体からの出射光に対する反射率は、0.1%以下であってもよい。このような反射率は、例えば、端面に、誘電体多層膜などからなる反射防止膜を形成することによって実現できる。又は、導波路となるリッジがフロント端面の法線方向から5°以上傾いてフロント端面と交わる傾斜ストライプ構造とすれば、フロント端面で反射した導波光が再び導波路と結合し導波光となる成分の割合を0.1%以下の小さい値とすることができる。特に、出射光の波長を430nm以上455nm以下の帯域とする場合には、活性層105のウェル層105b及び105dの膜厚が35Å以下となる。この場合、本開示に係る窒化物系半導体発光素子による低導波路損失効果、活性層105への光閉じ込め係数増大効果により、端面の反射率を低減しても、光増幅利得を確保できる。また、このような窒化物系半導体発光素子を波長選択素子を含む外部共振器内に配置する場合、窒化物系半導体発光素子の自己発熱を低減でき、かつ、出射光の波長変動を抑制できるため、所望の選択波長での発振を実現しやすくなる。
【0178】
また、上記実施の形態1~4、6においては、窒化物系半導体発光素子は、活性層105の構造としてウェル層を2層含む構造を有していたが、単一のウェル層のみを含む構造であってもよい。このように、活性層に含まれる屈折率の高いウェル層が1層のみである場合においても、本開示のN側ガイド層、及びP側ガイド層を用いれば、垂直方向の光分布の位置の制御性を高めることができるため、垂直方向の光分布のピークをウェル層近傍に位置させることができる。したがって、低発振しきい値、低導波路損失、高い光閉じ込め係数、及び、線形性にすぐれた電流-光出力(IL)特性を有する窒化物系半導体発光素子を実現することができる。
【0179】
また、上記各実施の形態においては、窒化物系半導体発光素子は、単一のリッジを有したが、窒化物系半導体発光素子は、複数のリッジを備えてもよい。このような窒化物系半導体発光素子について、
図45を用いて説明する。
図45は、変形例1に係る窒化物系半導体発光素子900の全体構成を示す模式的な断面図である。
図45に示されるように、変形例1に係る窒化物系半導体発光素子900は、複数の実施の形態1に係る窒化物系半導体発光素子100が水平方向にアレイ状に配列された構成を有する。
図45では、窒化物系半導体発光素子900は、3個の窒化物系半導体発光素子100が一体的に配列された構成を有するが、窒化物系半導体発光素子900が備える窒化物系半導体発光素子100の個数は3個に限定されない。窒化物系半導体発光素子900が備える窒化物系半導体発光素子100の個数は、2個以上であればよい。各窒化物系半導体発光素子100は、光を出射する光出射部100Eを有する。光出射部100Eは、活性層105のうち、光を出射する部分であり、活性層105のうちリッジ110Rの下方に位置する部分に相当する。このように、変形例1に係る窒化物系半導体発光素子900は、アレイ状に配列される複数の光出射部100Eを有する。これにより、一つの窒化物系半導体発光素子900から複数の出射光を得られるため、高出力の窒化物系半導体発光素子900を実現できる。なお、変形例1では、窒化物系半導体発光素子900は、複数の窒化物系半導体発光素子100を備えたが、窒化物系半導体発光素子900が備える複数の窒化物系半導体発光素子はこれに限定されず、他の実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子であってもよい。
【0180】
また、
図46に示される変形例2に係る窒化物系半導体発光素子900aのように、個々の光出射部100Eが、幅(X軸方向における寸法)8μm以上20μm以下、深さ(Z軸方向における寸法)1.0μm以上1.5μm以下の分離溝100Tで分離されていてもよい。この様な構造を採用することで、隣り合う光出射部100E間の間隔が300μm以下に狭くなった場合でも、個々の光出射部100Eの動作中の自己発熱による熱干渉を低減することができる。
【0181】
また、本開示の半導体レーザ装置はΔNが小さく水平拡がり角を小さくすることが可能であるので、
図45及び
図46に示される光出射部100Eの中心間の距離を狭くしても個々の光出射部100Eからの出射光同士が干渉しにくくなり、光出射部100Eの中心間の距離を250μm以下に狭くすることができる。変形例2では、当該距離は225μmである。
【0182】
また、上記各実施の形態に係る窒化物系半導体発光素子は、N型第2クラッド層103、中間層108、電子障壁層109、及び電流ブロック層112を備えるが、これらの層を必ずしも備えなくてもよい。
【0183】
また、P型クラッド層110、410、及び610は、Al組成比が均一な層であったが、各P型クラッド層の構成はこれに限定されない。例えば、各P型クラッド層は、複数のAlGaN層の各々と、複数のGaN層の各々とが交互に積層された超格子構造を有してもよい。具体的には、各P型クラッド層は、例えば、厚さ1.85nmのAl組成比0.052(5.2%)のAlGaN層と、厚さ1.85nmのGaN層とが交互に積層された超格子構造を有してもよい。この場合、各P型クラッド層のAl組成比は、超格子構造における平均のAl組成比0.026(2.6%)で定義される。
【0184】
また、上記各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0185】
例えば、実施の形態1に係る各クラッド層の構成を実施の形態3及び4に係る各窒化物系半導体発光素子に適用してもよい。また、実施の形態3に係る透光性導電膜を実施の形態1及び4に係る各窒化物系半導体発光素子に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本開示の窒化物系半導体発光素子は、例えば、高出力かつ高効率な光源として加工機用の光源などに適用できる。
【符号の説明】
【0187】
100、200、300、400、500、600、700、800、900、900a 窒化物系半導体発光素子
100E 光出射部
100F、100R 端面
100T 分離溝
100S、200S、300S、400S、500S、600S、700S、800S 半導体積層体
101 基板
102、302、602 N型第1クラッド層
103 N型第2クラッド層
104、604、1104、1204、1304 N側ガイド層
105、505 活性層
105a、105c、105e バリア層
105b、105d ウェル層
106、206、1106、1206、1306 P側ガイド層
108 中間層
109、309、709、809 電子障壁層
110、410、610、710 P型クラッド層
110R、410R、610R、710R リッジ
110T、410T、610T、710T 溝
111、411 コンタクト層
112 電流ブロック層
113 P側電極
114 N側電極
206a、1306a P側第1ガイド層
206b、1306b P側第2ガイド層
420 透光性導電膜