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特開2023-101716低放出プロピレンベースのポリマー樹脂
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  • 特開-低放出プロピレンベースのポリマー樹脂 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101716
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】低放出プロピレンベースのポリマー樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/06 20060101AFI20230713BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C08F10/06
C08L23/10
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023089904
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2018522665の分割
【原出願日】2016-11-02
(31)【優先権主張番号】62/249,465
(32)【優先日】2015-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513156456
【氏名又は名称】ブラスケム アメリカ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRASKEM AMERICA,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー サレク
(72)【発明者】
【氏名】マーク チャペル
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ドーソン
(57)【要約】
【課題】低放出プロピレンベースのポリマー樹脂を提供すること。
【解決手段】プロピレンベースのポリマー樹脂は、低い揮発分放出特質により特徴付けられる。例えば、プロピレンベースのポリマー樹脂は、125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、および250ppm以下のC36オリゴマー含有量を有し得る。本明細書に記載されている低放出プロピレンベースのポリマー樹脂はまた、高いメルトフローレート(低い溶融粘度)および高い固体状態結晶化度により特徴付けられ、これにより良好な加工性を提供する(例えば、成型、押出しおよび形成プロセスにおいて)。本明細書はまた、低放出プロピレンベースのポリマー樹脂を含む組成物および物品、ならびに低放出プロピレンベースのポリマー樹脂の生成および使用のためのプロセスについて記載する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発性有機化合物含有量、
揮発性有機化合物含有量、および
36オリゴマー含有量
を備える、プロピレンベースのポリマー樹脂であって、
前記プロピレンベースのポリマー樹脂が、チーグラーナッタ触媒を使用して生成されており、
前記樹脂が、0.1rad/s(180℃)の角振動周波数において、10.0未満のtanデルタを有する
プロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物含有量が125ppm以下である、請求項1に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項3】
前記揮発性有機化合物含有量が120ppm以下である、請求項1または請求項2に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項4】
前記揮発性有機化合物含有量が115ppm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項5】
前記半揮発性有機化合物含有量が500ppm以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項6】
前記半揮発性有機化合物含有量が200ppm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項7】
前記半揮発性有機化合物含有量が175ppm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項8】
前記C36オリゴマー含有量が250ppm以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項9】
前記C36オリゴマー含有量が235ppm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項10】
前記C36オリゴマー含有量が220ppm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項11】
前記樹脂が、30g/10min超であるメルトフローレートを備える、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項12】
前記樹脂が、75g/10min超であるメルトフローレートを備える、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項13】
前記樹脂が、100g/10min超であるメルトフローレートを備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項14】
前記樹脂が、115g/10min超であるメルトフローレートを備える、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項15】
前記樹脂が、50%超の結晶化度を備える、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項16】
前記樹脂が、60%超の結晶化度を備える、請求項1から15のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項17】
前記樹脂が、65%超の結晶化度を備える、請求項1から16のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項18】
前記樹脂が、92%超のメソペンタッド含有量を備える、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項19】
前記樹脂が、95%超のメソペンタッド含有量を備える、請求項1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項20】
前記樹脂が、97%超のメソペンタッド含有量を備える、請求項1から19のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項21】
前記樹脂が、ホモポリマーポリプロピレンを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項22】
前記樹脂が、プロピレン-エチレンコポリマーを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項23】
前記樹脂が、プロピレン-アルファオレフィンコポリマーを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項24】
前記アルファオレフィンが、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーを含む、請求項23に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項25】
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
請求項1から24のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマーポリプロピレン組成物。
【請求項26】
請求項1から24のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂または請求項25に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
【請求項27】
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、
250ppm以下のC36オリゴマー含有量、
30g/10min超のメルトフローレート、
5を超えるMw/Mn、
50%超の結晶化度、および
92%超のメソペンタッド含有量
を備える、プロピレンベースのポリマー樹脂であって、
前記プロピレンベースのポリマー樹脂が、チーグラーナッタ触媒を使用して生成されており、
前記樹脂が、0.1rad/s(180℃)の角振動周波数において、10.0未満のtanデルタを有する
プロピレンベースのポリマー樹脂。
【請求項28】
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
請求項27に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマープロピレン組成物。
【請求項29】
請求項27に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂、または請求項28に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
【請求項30】
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、
250ppm以下のC36オリゴマー含有量、
30g/10min超のメルトフローレート、
50%超の結晶化度、および
92%超のメソペンタッド含有量
を備える、ホモポリマーポリプロピレン樹脂であって、
前記ホモポリマープロピレンポリマー樹脂が、チーグラーナッタ触媒を使用して生成されており、
前記樹脂が、0.1rad/s(180℃)の角振動周波数において、10.0未満のtanデルタを有する
ホモポリマーポリプロピレン樹脂。
【請求項31】
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
請求項30に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマーポリプロピレン組成物。
【請求項32】
請求項30に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂、または請求項31に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
【請求項33】
前記チーグラーナッタ触媒が、非メタロセンチーグラーナッタ触媒である、請求項1から24のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本国際特許出願は、2015年11月2日に出願された同時係属中の米国仮特許出願番号第62/249,465号に基づく利益を主張している。この米国仮特許出願番号第62/249,465号の内容は、本国際特許出願中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
合成ポリマー材料、例えば、プロピレンベースのポリマー樹脂は、バルクプラスチック材料の生成に広く使用されている。プロピレンベースのポリマー樹脂を含むバルクプラスチック材料は、様々な最終用途の製品、例えば、自動車用途の成型、押出しまたは熱成形したパーツ、例えば、バンパーフェイシア、計器パネルコンポーネントならびに他の内装および外装のトリムピースなどの製造のために使用されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
要旨
本明細書は、低い揮発分放出特質を有するプロピレンベースのポリマー樹脂について記載する。プロピレンベースのポリマー樹脂は、低い揮発分含有量、例えば、低い揮発性有機化合物(VOC)含有量、低い半揮発性有機化合物(SVOC)含有量、低いC36オリゴマー含有量、および低い凝縮可能分(FOG)含有量などにより特徴付けられる。プロピレンベースのポリマー樹脂の低い揮発分含有量は、インリアクター(in-reactor)に提供され、下流抽出加工、例えば、加熱および脱揮発、熱風パージ、または水蒸気パージなどを必要としない。
【0004】
本明細書に記載されている低放出プロピレンベースのポリマー樹脂はまた、高いメルトフローレート(低い溶融粘度)および高い固体状態結晶化度により特徴付けられ、これにより良好な加工性を提供する(例えば、成型、押出しおよび形成プロセスにおいて)。本明細書はまた、低放出プロピレンベースのポリマー樹脂を含む組成物および物品、ならびに低放出プロピレンベースのポリマー樹脂の生成および使用のためのプロセスについて記載する。
【0005】
1つの例では、プロピレンベースのポリマー樹脂は、125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、および250ppm以下のC36オリゴマー含有量を備える。
【0006】
別の例では、プロピレンベースのポリマー樹脂は、125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、250ppm以下のC36オリゴマー含有量、30g/10min超のメルトフローレート、50%超の結晶化度、および92%超のメソペンタッド含有量を備える。
【0007】
別の例では、ホモポリマーポリプロピレン樹脂は、125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、250ppm以下のC36オリゴマー含有量、30g/10min超のメルトフローレート、50%超の結晶化度、および92%超のメソペンタッド含有量を備える。
【0008】
本明細書に記載されている本発明は、本概要に要約された例に限定されないことが理解される。
【0009】
本明細書に記載されている本発明の様々な特性および特徴は、以下の添付の図を参照してより良く理解することができる。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、および
250ppm以下のC36オリゴマー含有量
を備える、プロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目2)
前記樹脂が、0.1rad/s(180℃)の角振動周波数において、10.0未満のtanデルタを有する、項目1に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目3)
前記揮発性有機化合物含有量が120ppm以下である、項目1または項目2に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目4)
前記揮発性有機化合物含有量が115ppm以下である、項目1から3のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目5)
前記半揮発性有機化合物含有量が200ppm以下である、項目1から4のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目6)
前記半揮発性有機化合物含有量が175ppm以下である、項目1から5のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目7)
前記C36オリゴマー含有量が235ppm以下である、項目1から6のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目8)
前記C36オリゴマー含有量が220ppm以下である、項目1から7のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目9)
前記樹脂が、30g/10min超のメルトフローレートを備える、項目1から8のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目10)
前記樹脂が、75g/10min超であるメルトフローレートを備える、項目1から9のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目11)
前記樹脂が、100g/10min超であるメルトフローレートを備える、項目1から10のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目12)
前記樹脂が、115g/10min超であるメルトフローレートを備える、項目1から11のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目13)
前記樹脂が、50%超の結晶化度を備える、項目1から12のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目14)
前記樹脂が、60%超の結晶化度を備える、項目1から13のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目15)
前記樹脂が、65%超の結晶化度を備える、項目1から14のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目16)
前記樹脂が、92%超のメソペンタッド含有量を備える、項目1から15のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目17)
前記樹脂が、95%超のメソペンタッド含有量を備える、項目1から16のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目18)
前記樹脂が、97%超のメソペンタッド含有量を備える、項目1から17のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目19)
前記樹脂が、ホモポリマーポリプロピレンを含む、項目1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目20)
前記樹脂が、プロピレン-エチレンコポリマーを含む、項目1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目21)
前記樹脂が、プロピレン-アルファオレフィンコポリマーを含む、項目1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目22)
前記アルファオレフィンが、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーを含む、項目21に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目23)
前記樹脂が、インリアクター樹脂である、項目1から22のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目24)
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
項目1から23のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマーポリプロピレン組成物。
(項目25)
項目1から23のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂または項目24に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
(項目26)
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、
250ppm以下のC36オリゴマー含有量、
30g/10min超のメルトフローレート、
50%超の結晶化度、および
92%超のメソペンタッド含有量
を備える、プロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目27)
インリアクター樹脂である、項目26に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
(項目28)
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
項目26または項目27に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマープロピレン組成物。
(項目29)
項目26もしくは項目27に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂、または項目28に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
(項目30)
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、
250ppm以下のC36オリゴマー含有量、
30g/10min超のメルトフローレート、
50%超の結晶化度、および
92%超のメソペンタッド含有量
を備える、ホモポリマーポリプロピレン樹脂。
(項目31)
前記樹脂が、インリアクター樹脂である、項目30に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂。
(項目32)
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
項目30または項目31に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマーポリプロピレン組成物。
(項目33)
項目30もしくは項目31に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂、または項目32に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、動的機械分析を使用して測定した、本発明の樹脂および従来の樹脂についての、荷重周波数の関数としてのtanデルタ値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
読者は、本明細書による以下の本発明の詳細な説明を考慮すれば、前述の特性および特徴ならびにその他を認識することになる。
【0012】
説明
以下の定義および分析法が本明細書において使用される。
【0013】
「ポリマー」という用語は、同じまたは異なるタイプに関わらず、モノマーを重合することにより調製されたポリマー化合物を指す。したがって、「ポリマー」という一般的な用語は、1つのタイプのモノマーのみから調製されたポリマーを指す「ホモポリマー」という用語;2種またはそれ超の異なるモノマーから調製されたポリマーを指す「コポリマー」;ならびに異なるモノマー内容物および/またはポリマー構造を有する2種またはそれ超のポリマーを含む組成物である、ポリマーの物理的ブレンドを包含する。
【0014】
「プロピレンベースのポリマー」という用語は、プロピレンモノマー由来のモノマー単位を1分子当たり50重量%超含むポリマーを意味する。これには、ポリプロピレンホモポリマーまたはコポリマー(2種またはそれ超のコモノマー由来の単位を意味する)、ならびにポリプロピレンホモポリマーがブレンドのマトリックス相であるポリマーブレンドが含まれる。
【0015】
「プロピレンベースのポリマー樹脂」という用語は、個々の微視的なポリマー分子とは対照的に、複数のプロピレンベースのポリマー分子を含む、巨視的な材料の塊を意味する。
【0016】
「アルファ-オレフィン」または「α-オレフィン」という用語は、分子内で1番目および2番目の炭素原子の間に炭素-炭素二重結合を有するアルケンを含む。アルファ-オレフィンの例として、これらに限定されないが、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、および1-ドデセン(これらの任意の組合せを含む)が挙げられる。
【0017】
「揮発性有機化合物含有量」または「VOC含有量」という用語は、本明細書に参照により組み込まれるGeneral Motors Engineering Standard GMW15634(2014年11月)(German Association of the Automotive Industry (Verband der Automobilindustrie) Standard VDA-278(2011年10月)と同等である)に従い判定される、材料試料中のトルエン当量の含有量を指す。この規格の下、VOC含有量は、熱的脱離ダイナミックヘッドスペース法で測定され、この方法においては、試料を90℃で加熱し、不活性ガスで30分間パージする。30分間の熱的脱離期間中に放出された物質を、ガスクロマトグラフに移し、ここで、放出された物質を-150℃で極低温トラップに採取する。極低温トラップで採取した物質を、280℃に加熱することによって、ガスクロマトグラフへと注入する。注入した物質を、ガスクロマトグラフ内のキャピラリーカラムにより分離し、質量分析器で検出する。試験測定は、トルエン参照標準に対して較正する。したがって、VOC含有量は、試料1グラム当たりのトルエン当量のマイクログラムで報告される(すなわち、百万分率またはppm)。
【0018】
「半揮発性有機化合物含有量」または「SVOC含有量」という用語は、参照により本明細書に組み込まれるGeneral Motors Engineering Standard GMW15634(2014年11月)(German Association of the Automotive Industry (Verband
der Automobilindustrie) Standard VDA-278(2011年10月)と同等である)に従い判定される、材料試料中のn-ヘキサデカン当量の含有量を指す。この規格の下、SVOC含有量は、熱的脱離ダイナミックヘッドスペース法で測定され、この方法においては、試料はまず、上記のVOC測定手順を施される。次いで、試料を120℃で加熱し、不活性ガスで60分間パージする。60分間の熱的脱離期間中に放出された物質を、ガスクロマトグラフに移し、ここで、放出された物質を-150℃で極低温トラップに採取する。極低温トラップで採取した物質を、280℃に加熱することによって、ガスクロマトグラフへと注入する。注入した物質を、ガスクロマトグラフ内のキャピラリーカラムにより分離し、質量分析器で検出する。試験測定は、n-ヘキサデカン参照標準に対して較正する。したがって、SVOC含有量は、試料1グラム当たりのn-ヘキサデカン当量のマイクログラムで報告される(すなわち、百万分率またはppm)。
【0019】
「C36オリゴマー含有量」という用語は、ポリプロピレン鎖内に6~36個の炭素を有するポリプロピレン分子を指す。C36オリゴマー含有量は、塩化メチレンでポリマーを抽出し、これに続くガスクロマトグラフィーでの分析により評価する。分析は、オリゴマー総含有量、およびC6で始まりC36で終わるC3ホモログ群中の異性体オリゴマー分の分類を報告する。
【0020】
「凝縮可能分含有量」または「FOG含有量」という用語は、クーラー表面(例えば、ウインドシールドなど)上に凝縮して、視覚を妨害し得る表面上のフィルム(FOG)を作り出す、ポリマー試料のアウトガスしたVOCおよびSVOC成分を指す。FOG試験は、DIN、ISOおよびSAEを含む様々な規格の下、重量測定法または光学的に、適時に測定可能で反復可能な方式で、自動車内側のアウトガス状態を再現する方法により実施される。
【0021】
「メルトフローレート」または「MFR」という用語は、ASTM D1238-10(230℃、2.16kg):Standard Test Method for Melt Flow Rates of Thermoplastics by Extrusion Plastometer(押出プラストメーターによる熱可塑性樹脂のメルトフローレートの標準試験法)に従い決定される溶融粘度の尺度を指す。メルトフローレートは、10分当たりのグラム単位(g/10min)または1分当たりのデシグラム単位(dg/min)で報告される。
【0022】
「結晶化度」という用語は、以下の等式に従い、示差走査熱量測定(DSC)を使用して測定されるポリマー試料のパーセント結晶化度を指す:
【化3】

(式中、ΔHは、DSC測定を介して決定される溶融熱であり、ΔHは、DSC測定を介して決定される冷結晶化の熱であり、ΔH は、100%結晶性ポリマー基準に対する溶融熱である。)例えば、100%結晶性ポリプロピレンホモポリマーに対するΔH 値は207.1J/gであり、100%結晶性ポリエチレンホモポリマーに対するΔH 値は293.6J/gである。プロピレン-エチレンコポリマーに対するΔH 値は、コポリマーを形成する各モノマータイプの重量分率(X)に基づく混合の線形規則を使用して、それぞれのホモポリマーに対する値から決定することができる:
ΔH (コポリマー)=(207.1J/g)(Xエチレン)+(293.6J/g)(Xプロピレン
【0023】
「メソペンタッド」という用語は、プロピレンポリマー分子内の炭素-炭素鎖の面の同じ側に位置する5つの連続するメチル基を指す(mmmm、ここでは、「m」はメソダイアド、すなわち、炭素-炭素鎖の面の同じ側に位置する2つの連続するメチル基を表す)。「メソペンタッド含有量」という用語は、Zambelliら、Macromolecules、6号、925頁(1973年)に記載されている方法に従い13C-NMRスペクトルにおいてメチル基のシグナルから測定されるような、プロピレンポリマー樹脂中のメソペンタッド単位(mmmm)のパーセンテージを指し、ここで、13C-NMRスペクトルの測定は、Zambelliら、Macromolecules、8号、687頁(1975年)に記載されているピークアトリビューション(peak attribution)法に従い行われる(両方の参考文献は本明細書に参
照により組み込まれる)。100%のメソペンタッド含有量は、完全にアイソタクチックであるポリマー樹脂に対応し、メソペンタッド含有量が100%に近いほど、ポリマー樹脂の立体規則性(すなわち、アイソタクシティー)が高い。
【0024】
「インリアクター」という用語は、ポリマー樹脂について記載するために使用される場合、反応器内で生成されたままのものであり、対象の樹脂特性を改変するための加工前のポリマー樹脂の状態、またはその後の任意の加工なしでのポリマー樹脂の状態を指す。例えば、「インリアクタープロピレンベースのポリマー樹脂」のVOC含有量、SVOC含有量および/またはオリゴマー含有量とは、任意の生成後の熱風パージ、水蒸気パージまたは揮発分含有量を減少させるための他の生成後処理の前、またはこのような処理なしでの樹脂のそれぞれの含有量である。
【0025】
「tanデルタ」という用語(「タンジェントデルタ」または「減衰係数」としても公知である)は、動的機械的分析(DMA)における位相角の接線(すなわち、加えた力と材料反応との間の遅延(位相遅れ))を指す。tanデルタは、本明細書に参照により組み込まれるASTM D4440-15:Standard Test Method for Plastics: Dynamic Mechanical Properties Melt Rheology(プラスチックに対する標準試験法:
動的機械的特性溶融レオロジー)およびASTM D4065-12:Standard Practice for Plastics: Dynamic Mechanical Properties: Determination and Report
of Procedures(プラスチックに対する標準的手順:動的機械的特性:判定および手順の報告)に従いDMAを使用して測定される粘性(損失)弾性率(G”)対弾性係数(貯蔵弾性率)(G’)の比として計算することができる。tanデルタは、周期的荷重下にある材料における、ポリマー樹脂の粘弾性およびエネルギー散逸の有用な限量詞である。
【0026】
自動車の用途では、例えば、業界トレンドは、数ある手法の中でも、プラスチックの車両コンポーネントの質量を減少させることによって、車両の総重量を減少させることを好む。プラスチックの車両コンポーネントの質量の減少は、一般的にプラスチックパーツの壁の厚みを低減させることにより達成される。これは、他のパーツの寸法(長さおよび幅)は通常車両設計の要件で設定されており、したがって、パーツ質量を減少させるために低減できないからである。
【0027】
例えば射出成形を使用した薄壁のプラスチックパーツの生成は、溶融した樹脂が容易に流動でき、過剰な射出圧力なしで型の空洞を均一に満たすように、構成物質ポリマー樹脂が十分に低い粘度を有することが必要となる。ポリマー設計の観点から、ポリマー樹脂の溶融粘度の低減は、樹脂を形成する構成物質ポリマー分子の分子量の低減を必要とする。しかし、より低分子量の分子を含有するポリマー樹脂を生成することは、樹脂の揮発性有機化合物(VOC)、半揮発性有機化合物/凝縮可能化合物(SVOC/FOG)およびC36オリゴマー含有量を増加させる。
【0028】
したがって、ポリマー分子の分子量の低減は、ポリマー樹脂の溶融粘度を低減し、改善された溶融加工性を提供する一方で、これは樹脂のVOC、SVOC/FOGおよびオリゴマー含有量も増加させる。VOC、SVOC/FOGおよびオリゴマー含有量の増加は、環境医学および安全性の観点から望ましくない。溶融加工性と、ポリマー樹脂のVOC、SVOC/FOGおよびオリゴマー含有量との間のトレードオフバランスを保つための以前の手法は、バルクプラスチック樹脂材料(例えば、ペレット)から揮発性化合物を抽出するための下流の生成後処理作業の使用を含んでいた。例えば、水蒸気パージは、樹脂ペレットを、流動する水蒸気と大気圧(100℃)である期間接触させ、これに続いて、流動する空気と接触させて、樹脂材料を加熱し、揮発させ、樹脂材料からVOC、SVOCおよびオリゴマーを抽出し、処理した樹脂材料を冷却/乾燥させることによって、樹脂ペレットを処理する作業である。同様に、熱風パージは、樹脂ペレットを、大量の流動する熱風(例えば、80℃)とある期間接触させて、樹脂材料を加熱し、VOC、SVOCおよびオリゴマーを揮発させ、抽出することにより、樹脂ペレットを処理する作業である。
【0029】
水蒸気パージおよび熱風パージなどの生成後処理は、低揮発性ポリマー樹脂グレードの生産コストを増加させ、環境医学および安全性の観点からこれらが望ましいにもかかわらず、このようなグレードの生成、購入および使用をより高価にしている。いかなる生成後揮発分減少処理をも必要とすることなく、良好な溶融加工性と低い揮発分含有量を同時に提供するポリマー樹脂を生成することは有利である。本明細書に記載されている本発明は、低い溶融粘度を有するプロピレンベースのポリマー樹脂に関する一方で、インリアクターで生成され、揮発分含有量を減少させるためのいかなる生成後処理をも使用せずに、低い揮発分放出特質も同時に有する。
【0030】
プロピレンベースのポリマー樹脂は、125ppm以下のVOC含有量、500ppm以下のSVOC含有量、および250ppm以下のC36オリゴマー含有量を備える。
【0031】
プロピレンベースのポリマー樹脂は、125ppm以下、120ppm以下、115ppm以下、または110ppm以下のVOC含有量を備え得る。プロピレンベースのポリマー樹脂は、500ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、225ppm以下、200ppm以下、または175ppm以下のSVOC含有量を備え得る。プロピレンベースのポリマー樹脂は、250ppm以下、245ppm以下、235ppm以下、225ppm以下、または220ppm以下のC36オリゴマー含有量を備え得る。
【0032】
VOC含有量、SVOC含有量およびC36オリゴマー含有量に加えて、プロピレンベースのポリマー樹脂はまた、30g/10min超のメルトフローレート、50%超の結晶化度、および92%超のメソペンタッド含有量も備え得る。
【0033】
プロピレンベースのポリマー樹脂は、30g/10min超、50g/10min超、75g/10min超、85g/10min超、95g/10min超、100g/10min超、105g/10min超、110g/10min超、または115g/10min超のメルトフローレートを備え得る。プロピレンベースのポリマー樹脂は、50%超、55%超、60%超、または65%超の結晶化度を備え得る。プロピレンベースのポリマー樹脂は、92%超、93%超、93.5%超、94%超、94.5%超、95%超、95.5%超、96%超、96.5%超、97%超、97.5%超、または98.0%超のメソペンタッド含有量を備え得る。
【0034】
プロピレンベースのポリマー樹脂は、VOC含有量(≦125ppm)、SVOC含有量(≦500ppm)、C36オリゴマー含有量(≦250ppm)、メルトフローレート(≧30g/10min)、結晶化度(≧50%)、および/またはメソペンタッド含有量(≧92.0%)の任意の組合せまたは部分的組合せを含めた、上に記載された特性および特徴付けパラメーターの任意の組合せにより特徴付けることができる。プロピレンベースのポリマー樹脂は、上に記載された材料特性および特徴付けパラメーターの任意の組合せまたは部分的組合せにより、特定された閾値において、または適用可能な場合は任意のより大きなもしくはより小さな包摂される閾値において、特徴付けることができる。
【0035】
低いVOC含有量、低いSVOC含有量、低いC36オリゴマー含有量、低いFOG含有量、高いメルトフローレート、高い結晶化度、および/または高いメソペンタッド含有量の組合せはインリアクターで達成され、揮発分含有量を減少させるためのいかなる生成後処理の使用をも必要としない。したがって、プロピレンベースのポリマー樹脂は、上に記載された特性および特徴付けパラメーターの任意の組合せにより特徴付けられるインリアクタープロピレンベースのポリマー樹脂を含み得る。
【0036】
プロピレンベースのポリマー樹脂は、ホモポリマーポリプロピレンを含み得る。プロピレンベースのポリマー樹脂は、プロピレン-エチレンコポリマーを含み得る。プロピレンベースのポリマー樹脂は、プロピレン-α-オレフィンコポリマーを含み得る。例えば、プロピレンベースのポリマー樹脂は、プロピレンモノマー、ならびに任意選択で、エチレンおよび/または1つもしくは複数のα-オレフィンモノマー、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、および/もしくは1-ドデセンなどから生成することができる。1つまたは複数のα-オレフィンコモノマーを含むポリマーを含むプロピレンベースのポリマー樹脂は、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、および1-ドデセンからなる群から選択される1つまたは複数のα-オレフィンコモノマーの任意の組合せを含み得る。ある実施形態では、プロピレンベースのポリマー樹脂がプロピレン-エチレンコポリマーまたはプロピレン-α-オレフィンコポリマーを含み、コポリマーは、コポリマーの全コモノマー重量に対して、60重量%~99重量%のプロピレンモノマー、ならびに1重量%~40重量%のエチレンおよび/またはα-オレフィンモノマーを含み得る。
【0037】
プロピレンベースのポリマー樹脂は、ホモポリマーポリプロピレン、プロピレン-エチレンコポリマー、および/またはプロピレン-アルファオレフィンコポリマーの組合せを含み得る。2種またはそれよりも多いタイプのポリマー(例えば、ポリプロピレンホモポリマーおよびプロピレン-エチレンコポリマー)を含む例において、プロピレンベースのポリマー樹脂は、個々のポリマー成分の溶融混合(例えば、2軸押出し機内で)により生成することができる。代わりに、2種またはそれよりも多いタイプのポリマー(例えば、ポリプロピレンホモポリマーおよびプロピレン-エチレンコポリマー)を含む樹脂は、インリアクターブレンドプロセスを使用して作製することができ、このプロセスは、重合触媒の存在下で、第1の反応器内の第1のポリマー成分のモノマー(複数可)(例えば、プロピレン)を重合し、生成したポリマー成分を第1の反応器から第2の反応器に移動し(または、例えば、バッチ型プロセスでは、単一の反応器への供給物を変更する)、この第2の反応器において、第2のポリマー成分を含むモノマーを第1のポリマー成分の存在下で重合し、こうしてインリアクターブレンドを生成することによって達成することができる。
【0038】
上記のプロピレンベースのポリマー樹脂は、インパクトコポリマーポリプロピレン(ICP)組成物に組み込むことができる。ICP組成物は、ゴム相およびマトリックス相を含み得る。マトリックス相は、上に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含み得る。マトリックス相に分散ししているゴム相は、プロピレン-エチレンコポリマーおよび/またはプロピレン-アルファオレフィンコポリマーを含み得る。
【0039】
ICP組成物の分散したゴム相は、ゴム相とマトリックス相とを合わせた重量に対して、5重量%~50重量%を構成してもよく、マトリックス相は、ICP組成物の50重量%~95重量%を構成してもよい。分散したゴム相は、ゴム相とマトリックス相とを合わせた重量に対して、ICP組成物の5%~50%、またはその中に包摂される任意の部分範囲、例えば、5~40%、5~30%、5~25%、5~20%、または5~15%などを構成してもよい。マトリックス相は、ゴム相とマトリックス相とを合わせた重量に対して、ICP組成物の50%~95%、またはその中に包摂される任意の部分範囲、例えば、60~95%、70~95%、75~95%、80~95%、または85~95%などを構成してもよい。
【0040】
ゴム相は、マトリックス相とインリアクターで合わせ、その中に分散させる(例えば、直列に連結された2つの連続的なフロー反応器で合成するか、またはバッチ式反応器で逐次的に合成する)か、または相を含むポリマーを溶融ブレンドすることによって、マトリックス相と合わせ、この中に分散させることができる。ICP組成物のマトリックス相および/または分散したゴム相は、独立して、1つまたは複数の個々のポリマーを含んでもよい。したがって、ゴム相、マトリックス相、または両方の相は、これら自体が異なるポリマーのサブブレンド(インリアクターまたはポストリアクターブレンドであるかどうかに関わらず)、例えば、ホモポリマーポリプロピレン、プロピレン-エチレンコポリマー、および/またはプロピレン-アルファオレフィンコポリマーなどであってよい。
【0041】
ICP組成物の分散したゴム相は、プロピレン-エチレンコポリマーを含み得る。プロピレン-エチレンコポリマーは、プロピレン-エチレンコポリマーの総コモノマー重量に対して、25重量%~95重量%のエチレンモノマー、および5重量%~75重量%のプロピレンモノマーを含み得る。プロピレン-エチレンコポリマーは、プロピレン-エチレンコポリマーの総コモノマー重量に対して、25重量%~95重量%のエチレンモノマー、またはその中に含まれる任意の部分範囲、例えば、50~90%、50~80%、50~75%、もしくは55~70%などを含み得る。プロピレン-エチレンコポリマーは、プロピレン-エチレンコポリマーの全コモノマー重量に対して、5重量%~75重量%のプロピレンモノマー、またはその中に含まれる任意の部分範囲、例えば、10~50%、20~50%、25~50%、もしくは30~45%などのプロピレンモノマーを含み得る。
【0042】
ICP組成物の分散したゴム相に対して適切な他のポリマーの例は、本明細書に参照により組み込まれている、米国特許出願公開2014-0194577A1;2012-0157599A1;および2014-0107274A1に記載されている。
【0043】
上記のプロピレンベースのポリマー樹脂は、気相重合プロセスを使用して生成することができる。例えば、プロピレンモノマー反応物質(任意選択のエチレンまたはアルファ-オレフィンコモノマー反応物質と共に)は、流動床反応器に供給されてもよく、ここで、反応物質を、重合触媒、例えばチーグラーナッタ重合触媒などと接触させる。適切なチーグラーナッタ重合触媒として、非メタロセンチーグラーナッタ触媒、同種または異種のチーグラーナッタ触媒、および担持されたチーグラーナッタ触媒が挙げられ、これは任意の必要な助触媒を含む。適切な触媒として、例えば、UNIPOL(登録商標)型重合プロセスにおける使用のためのチーグラーナッタ触媒系が挙げられる。
【0044】
本明細書に記載されているプロピレンベースのポリマー樹脂組成物は、従来の樹脂と比較して改善された特性を示し得る。例えば、プロピレンベースのポリマー樹脂組成物は、低い角振動周波数で独特な分化したレオロジー応答を有することができ、これらの振動周波において弾性の増加をもたらす。例えば、本明細書に記載の特定の実施形態によるプロピレンベースのポリマー樹脂組成物は、従来のプロピレンベースのポリマー樹脂組成物と比較して、低い角振動周波数において貯蔵弾性率(G’)の増加を示し得る。特定の実施形態では、プロピレンベースのポリマー樹脂組成物は、0.1rad/s(180℃)の角振動周波において、約10.0未満のtanデルタを有し得る。
【0045】
上に記載されているように、プロピレンベースのポリマー樹脂(例えば、マトリックス相として)を含むICP組成物は、個々のポリマー成分との溶融混合により生成することができるが、代わりにインリアクタープロセスを使用して生成することもできる。例えば、プロピレンモノマー(およびいずれの任意選択のエチレンまたはアルファ-オレフィンコモノマー)は、重合触媒の存在下で第1の流動床気相反応器内で重合することによって、プロピレンベースのポリマー樹脂マトリックス相を形成することができる。プロピレンベースのポリマー樹脂を、第1の反応器から第2の反応器に移してもよく、ここで、マトリックス相の存在下、プロピレンモノマーならびにエチレンモノマーおよび/またはアルファ-オレフィンモノマーを重合することによって、マトリックス相内にin situで分散するゴム相を形成する。各反応器内で使用する重合触媒は、同じ触媒であってもよい(すなわち、重合触媒は、第1の反応器内で生成されたポリマー材料と共に第1の反応器から第2の反応器に移すことができる)。
【0046】
生成用反応器(複数可)内で生成されたプロピレンベースのポリマー樹脂またはICP組成物は、他のポリマーを含む様々な他の任意選択の成分とブレンドしてもよい。例えば、様々な添加剤を、様々な目的のため、プロピレンベースのポリマー樹脂またはICP組成物に任意選択で組み込むことができる。このような添加剤として、例えば、抗酸化剤(例えば、ヒンダードフェノール、例えば、BASF Corporationから入手可能なIrganox(商標)1010、およびホスフィット、例えば、BASF Corporationから入手可能なIrgafos(商標)168など)、酸スカベンジャー(例えば、ステアリン酸カルシウム)、核剤(例えば、Amfine CorporationからのNA-11)、ミネラル充填剤(例えば、タルク)、および帯電防止剤/滑沢剤(例えば、モノステアリン酸グリセリル)が挙げられる。さらなる添加剤として、例えば、光学的光沢剤、安定剤、粘着添加剤(例えば、ポリイソブチレン)、ポリマー加工助剤(例えば、3M Corporationから入手可能なDynamar(商標)5911、またはMomentive Performance Materialsから入手可能なSilquest(商標)PA-1)、着色剤、透明化剤(例えば、Milliken & Co.から入手可能なMillad 3988iおよびMillad NX8000)、粘着防止剤、ワックス、抗菌剤、およびUV安定剤が挙げられる。添加剤は、例えば、2軸押出し機を使用する共押出しにより、プロピレンベースのポリマー樹脂またはICP組成物とブレンドすることができる。
【0047】
プロピレンベースのポリマー樹脂またはICP組成物は、任意選択の添加物と共に、または任意選択の添加物なしで、様々な用途に使用することができる。例えば、プロピレンベースのポリマー樹脂またはICP組成物は、成形品を形成するために使用することができる。プロピレンベースのポリマー樹脂またはICP組成物を含む成形品として、例えば、射出成形の自動車パーツが挙げられる。
【実施例0048】
(実施例1)
ホモポリマーポリプロピレンを含む本発明の第1のプロピレンベースのポリマー樹脂をペレット化した(トライアルA)。ホモポリマーポリプロピレンを含む本発明の第2のプロピレンベースのポリマー樹脂をペレット化した(トライアルB)。ペレット化した樹脂の以下の特徴を測定した:VOC含有量(本明細書に参照により組み込まれるGerman Association of the Automotive Industry
Standard VDA-277)、VOC含有量(GMW15634/VDA-278)、SVOC含有量、C36オリゴマー含有量、メルトフローレート、結晶化度、メソペンタッド含有量、および分子量。本発明のインリアクターでペレット化した樹脂を、対照としての従来のペレット化した樹脂と比較した。結果を表1に示す。
【表1】
【0049】
DMAを使用して、従来の樹脂および本発明の樹脂について、荷重周波数の関数としてtanデルタを測定した。tanデルタ値を図1に示す。図1に示されている同様の形をした曲線により示されている通り、樹脂はすべて同様の粘度流動挙動を示した。本発明の樹脂は、特に低荷重周波数条件下で従来の樹脂よりも小さなtanデルタ値を示し、より良い溶融弾性特性を示している。荷重周波数が増加すると共に低減するtanデルタ値は、射出成形における溶融のフローフロントを安定化する溶融弾性特性の良好な指標であり、これは、成形品、特にパーツ形状を形成するためにポリマー溶融のフローフロントが横断しなければならない長い寸法を有する成形品の見た目の美しさを改善する。
【0050】
本発明の態様
本発明の様々な態様、特性および特徴として、これらに限定されないが、以下の番号付けされた条項が挙げられる。
条項1.
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、および
250ppm以下のC36オリゴマー含有量
を備える、プロピレンベースのポリマー樹脂。
条項2.
前記樹脂が、0.1rad/s(180℃)の角振動周波数において、10.0未満のtanデルタを有する、条項1に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項3.
前記揮発性有機化合物含有量が120ppm以下である、条項1または条項2に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項4.
前記揮発性有機化合物含有量が115ppm以下である、条項1から3のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項5.
前記半揮発性有機化合物含有量が200ppm以下である、条項1から4のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項6.
前記半揮発性有機化合物含有量が175ppm以下である、条項1から5のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項7.
前記C36オリゴマー含有量が235ppm以下である、条項1から6のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項8.
前記C36オリゴマー含有量が220ppm以下である、条項1から7のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項9.
前記樹脂が、30g/10min超のメルトフローレートを備える、条項1から8のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項10.
前記樹脂が、75g/10min超であるメルトフローレートを備える、条項1から9のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項11.
前記樹脂が、100g/10min超であるメルトフローレートを備える、条項1から10のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項12.
前記樹脂が、115g/10min超であるメルトフローレートを備える、条項1から11のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項13.
前記樹脂が、50%超の結晶化度を備える、条項1から12のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項14.
前記樹脂が、60%超の結晶化度を備える、条項1から13のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項15.
前記樹脂が、65%超の結晶化度を備える、条項1から14のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項16.
前記樹脂が、92%超のメソペンタッド含有量を備える、条項1から15のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項17.
前記樹脂が、95%超のメソペンタッド含有量を備える、条項1から16のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項18.
前記樹脂が、97%超のメソペンタッド含有量を備える、条項1から17のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項19.
前記樹脂が、ホモポリマーポリプロピレンを含む、条項1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項20.
前記樹脂が、プロピレン-エチレンコポリマーを含む、条項1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項21.
前記樹脂が、プロピレン-アルファオレフィンコポリマーを含む、条項1から18のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項22.
前記アルファオレフィンが、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーを含む、条項21に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項23.
前記樹脂が、インリアクター樹脂である、条項1から22のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項24.
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
条項1から23のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマーポリプロピレン組成物。
条項25.
条項1から22のいずれか一項に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂または条項23に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
条項26.
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、
250ppm以下のC36オリゴマー含有量、
30g/10min超のメルトフローレート、
50%超の結晶化度、および
92%超のメソペンタッド含有量
を備える、プロピレンベースのポリマー樹脂。
条項27.
インリアクター樹脂である、条項26に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂。
条項28.
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
条項26または条項27に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマープロピレン組成物。
条項29.
条項26もしくは条項27に記載のプロピレンベースのポリマー樹脂、または条項28に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
条項30.
125ppm以下の揮発性有機化合物含有量、
500ppm以下の半揮発性有機化合物含有量、
250ppm以下のC36オリゴマー含有量、
30g/10min超のメルトフローレート、
50%超の結晶化度、および
92%超のメソペンタッド含有量
を備える、ホモポリマーポリプロピレン樹脂。
条項31.
前記樹脂が、インリアクター樹脂である、条項30に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂。
条項32.
プロピレン-エチレンコポリマーを含むゴム相、および
条項30または条項31に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂を含むマトリックス相
を含む、インパクトコポリマーポリプロピレン組成物。
条項33.
条項30もしくは条項31に記載のホモポリマーポリプロピレン樹脂、または条項32に記載のインパクトコポリマーポリプロピレン組成物を含む、成形品。
【0051】
本発明の様々な特性および特徴が、開示された組成物および生成物の生成および特性の全面的理解を提供するために本明細書に記載されている。本明細書に記載されている様々な特性および特徴は、このような特性および特徴が本明細書において組み合わせて明示的に記載されているか、または例示されているかどうかに関わらず、任意の適切な方式で組み合わせることができることが理解される。出願人は、特性および特徴のこのような組合せが、本明細書の範囲内に含まれることを明示的に意図する。よって、特許請求の範囲は、本明細書により明示的にもしくは本質的に記載されている、またはさもなければ明示的にもしくは本質的に支持されている、任意の特性および特徴を、任意の組合せで列挙するように補正することができる。さらに、出願人は、従来技術に存在し得る特性および特徴を、たとえこれらの特性および特徴が本明細書において明示的に記載されていなくても、断定的に放棄するよう特許請求の範囲を補正する権利がある。したがって、任意のこのような手続補正書は、文書による記載、および記載の十分性の要件を満たしており、明細書または特許請求の範囲に新規事項を加えることはない。本明細書に開示されている組成物、生成物、プロセスおよび方法は、本明細書に記載されている様々な特性および特徴を含む、様々な特性および特徴からなる、または様々な特性および特徴から本質的になることができる。
【0052】
また、本明細書に列挙された任意の数値的範囲は、列挙された範囲内に含まれる同じ数値的正確さを有する(すなわち、特定された桁の同数を有する)すべての部分範囲を記載している。例えば、列挙された範囲の「1.0~10.0」は、たとえ範囲「2.4~7.6」が明細書のテキストにおいて明示的に列挙されていないとしても、列挙された最小値である1.0と、列挙された最大値である10.0との間の(およびこれらを含む)すべての部分範囲、例えば、「2.4~7.6」について記載している。したがって、出願人は、本明細書において明示的に列挙された範囲内に含まれる、同じ数値的正確さを有する任意の部分範囲を明示的に列挙するように、特許請求の範囲を含む、本明細書を補正する権利がある。すべてのこのような範囲は、任意のこのような部分範囲を明示的に列挙するように補正することが、文書による記載、および記載の十分性の事項の要件を満たし、明細書または特許請求の範囲へ新規事項を加えるものではないものであると本明細書において本質的に記載されている。さらに、本明細書に記載されている数値的パラメーターは、報告された有効数字の数、数の数値的正確さを考慮し、通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。本明細書に記載されている数値的パラメーターは、パラメーターの数値を決定するために使用した基礎となる測定技術に特有のばらつきの特徴を必ず保有することになることもまた理解される。
【0053】
本明細書において特定された任意の特許、刊行物、または他の開示材料は、他に指摘されていない限り、その全体が参照により本明細書へ組み込まれているが、ただし、組み込まれた材料が本明細書に明示的に示された既存の記載、定義、記述、または他の開示材料と矛盾しない場合に限る。したがって、および必要な場合に限り、本明細書に記載されている明白な開示は、参照により組み込まれている任意の矛盾する材料に取って代わる。本明細書に参照により組み込まれているが、本明細書で示された既存の定義、記述、または他の開示材料と矛盾する、任意の材料、またはその部分は、その組み込まれた材料と既存の開示材料の間でいかなる矛盾も生じない範囲に限って組み込まれる。出願人は、参照により組み込まれる任意の対象、またはその部分を明示的に列挙するよう本明細書を補正する権利がある。
【0054】
文法的冠詞「one」、「a」、「an」、および「the」は、本明細書で使用される場合、他に指摘されていない限り、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」を含むことを意図する。したがって、本明細書で使用される冠詞は、冠詞の文法的目的語の1つまたは1つ超(すなわち、「少なくとも1つ」)を指す。例として、「a component(成分)」は、1つまたは複数の成分を意味し、したがって、おそらく、1つより多くの成分が想定され、記載されているプロセス、組成物および生成物の実施に利用または使用することができる。さらに、その使用の文脈により必要とされない限り、単数の名詞の使用は複数を含み、複数の名詞の使用は単数を含む。
図1
【外国語明細書】