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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101728
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】キシリトールの蓄積を抑制した酵母
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230713BHJP
   C12P 7/06 20060101ALI20230713BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230713BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230713BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
C12N1/19
C12P7/06
C12N15/31 ZNA
C12N15/53
C12N15/60
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090349
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2019012040の分割
【原出願日】2019-01-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27~29年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「セルロース系エタノール生産システム総合開発実証事業/最適組合せの検討及び事業性評価/木本バイオマスを原料とする日本の持続可能性基準に適合するセルロース系エタノールの一貫生産技術開発及び事業性評価」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】小西 仁
(72)【発明者】
【氏名】牟田口 梢栄
(72)【発明者】
【氏名】福田 明
(72)【発明者】
【氏名】上村 毅
(57)【要約】
【課題】キシロースからのエタノール生産時におけるキシリトール蓄積を抑制させる技術を提供すること。
【解決手段】ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されかつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されている、キシロースからエタノールを生産する能力を有する形質転換酵母を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されかつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されている、キシロースからエタノールを生産する能力を有する形質転換酵母。
【請求項2】
前記導入および/または減弱化の施されていない親酵母がキシロースからピルビン酸を生産する能力を少なくとも有する、請求項1に記載の酵母。
【請求項3】
前記親酵母が、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つのキシロース資化関連遺伝子が発現可能に予め導入されたものである、請求項2に記載の形質転換酵母。
【請求項4】
前記キシロース資化関連遺伝子が、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子である、請求項3に記載の形質転換酵母。
【請求項5】
前記ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシロース資化関連遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子が、前記導入および/または減弱化の施されていない親酵母の内在性遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項6】
前記ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子およびキシロース資化関連遺伝子から選択される少なくとも一つの遺伝子が、染色体上に発現可能に挿入されたものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項7】
ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子がPDC1である、請求項1~6のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項8】
ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子がPDA1である、請求項1~7のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項9】
キシロース還元酵素をコードする遺伝子がGRE3である、請求項3~8のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項10】
キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子がXKS1である、請求項3~9のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項11】
キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子がSOR1である、請求項3~10のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項12】
トランスアルドラーゼをコードする遺伝子がTAL1である、請求項3~11のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項13】
トランスケトラーゼをコードする遺伝子がTKL1である、請求項3~12のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項14】
アルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がADH1である、請求項3~13のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項15】
前記親酵母が、サッカロマイセス属に属する酵母である、請求項2~14のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項16】
前記親酵母が、サッカロマイセス・セレビシア種に属する酵母である、請求項2~15のいずれか一項に記載の形質転換酵母。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の形質転換酵母をグルコースおよびキシロース含有培地で培養し、得られる培養物からエタノールを採取することを含む、エタノールの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシロースからエタノールを生産する際のキシリトール蓄積を抑制した酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出削減の観点から、石油の代替燃料としてバイオアルコールの利用が注目されている。特に、草木を資源とするバイオアルコールは盛んに検討されている。草木等のセルロース系バイオマスから得られる糖の約三分の一はキシロースが占めることから、バイオアルコールの製造に使用されるキシロース資化性酵母が様々に研究されている。
【0003】
バイオエタノールの生産には、サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)に代表される酵母が主に使用されている。サッカロマイセス・セレビシアはグルコースやマンノース等の六炭糖からのエタノール生産能が高く、エタノールに対する高い耐性を有している。しかしながら、サッカロマイセス・セレビシアは、キシロース等の五炭糖を利用することができない。
【0004】
キシロース資化能を有する酵母としてシファゾマイセス・スティピティス(Scheffersomyces stipitis)が知られている。サッカロマイセス・セレビシアは、シファゾマイセス・スティピティスの有するキシロースを資化するための遺伝子群に対応する遺伝子群を内在するが、サッカロマイセス・セレビシアにおけるこれらの遺伝子の多くは発現していないか、あるいは、発現していたとしてもその量は極めて少ないと考えられている。そのため、キシロース資化性酵母由来の遺伝子導入によるサッカロマイセス・セレビシアの改良が進められている(特許文献1)。
【0005】
しかし、これらの遺伝子を導入しキシロースからのエタノール生産能を付与しても、中間代謝物のキシリトールが多量に生成され、菌体外に排出されることが知られている。代謝がキシリトールで停止することにより、エタノール収量が低下するため好ましくない。さらに、キシリトールといった副産物が生成されることにより、原料を効率的に使用することができないという問題が生じ、また、酵母の生育に対する影響も懸念される。
【0006】
これまでにも、キシロース資化能を付与した酵母のキシリトール生成の抑制が検討されているが、効果は不十分である(非特許文献1、非特許文献2)。
【0007】
したがって、依然として、キシロースからのエタノール生産時におけるキシリトール蓄積を抑制した酵母の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/060171号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Guo-Chang Zhang et al., Applied and Environmental Microbiology (2012) Vol. 78, No. 4, p.1081-1086
【非特許文献2】Hou et al. BMC Biotechnology (2014) 14:13
【発明の概要】
【0010】
本発明は、キシロースからのエタノール生産時におけるキシリトール蓄積を抑制させる新たな技術的手段を提供する。
【0011】
本発明者らは、今般、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入され、かつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されることにより、キシリトールの蓄積を効果的に抑制することを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0012】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されかつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されている、キシロースからエタノールを生産する能力を有する形質転換酵母。
[2] 前記導入および/または減弱化の施されていない親酵母がキシロースからピルビン酸を生産する能力を少なくとも有する、[1]に記載の酵母。
[3] 前記親酵母が、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つのキシロース資化関連遺伝子が発現可能に予め導入されたものである、[2]に記載の形質転換酵母。
[4] 前記キシロース資化関連遺伝子が、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子である、[3]に記載の形質転換酵母。[5] 前記ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシロース資化関連遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子が、前記導入および/または減弱化の施されていない親酵母の内在性遺伝子である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[6] 前記ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子およびキシロース資化関連遺伝子から選択される少なくとも一つの遺伝子が、染色体上に発現可能に挿入されたものである、[1]~[5]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[7] ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子がPDC1である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[8] ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子がPDA1である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[9] キシロース還元酵素をコードする遺伝子がGRE3である、[3]~[8]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[10] キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子がXKS1である、[3]~[9]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[11] キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子がSOR1である、[3]~[10]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[12] トランスアルドラーゼをコードする遺伝子がTAL1である、[3]~[11]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[13] トランスケトラーゼをコードする遺伝子がTKL1である、[3]~[12]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[14] アルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がADH1である、[3]~[13]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[15] 前記親酵母が、サッカロマイセス属に属する酵母である、[2]~[14]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[16] 前記親酵母が、サッカロマイセス・セレビシア種に属する酵母である、[2]~[15]のいずれか一つに記載の形質転換酵母。
[17][1]~[16]のいずれか一つに記載の形質転換酵母をグルコースおよびキシロース含有培地で培養し、得られる培養物からエタノールを採取することを含む、エタノールの生産方法。
【0013】
本発明によれば、キシロースからのエタノール生産時におけるキシリトール蓄積を効果的に抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】48時間培養後の、キシリトールの蓄積量の結果を示すグラフである。
図2】24時間培養後のキシロース消費速度の結果を示すグラフである。
図3】48時間培養後のグリセロールの生成量の結果を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明は、キシロースからエタノールを生産する能力を有する形質転換酵母であって、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入され、かつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されていることを一つの特徴とする。
【0016】
酵母のキシロース代謝経路では、まず、キシロースがキシロースレダクターゼ(キシロース還元酵素)によりキシリトールに還元され、次に、キシリトールデヒドロゲナーゼ(キシリトール脱水素酵素)によりキシルロースに脱水素化される。生成したキシルロースはキシルロキナーゼ(キシルロースリン酸化酵素)によりキシルロース5-リン酸となり、ペントースリン酸経路に送られ代謝される。その後、ペントースリン酸経路での反応によりグリセルアルデヒド三リン酸が生成される。次いで、グリセルアルデヒド三リン酸からピルビン酸が生成される。その後、ピルビン酸はピルビン酸脱炭酸酵素によりアセトアルデヒドに脱炭酸化され、次いで、アルコールデヒドロゲナーゼ(アルコール脱水素酵素)によりアセトアルデヒドからエタノールが生成される。一方、ピルビン酸の代謝には、別の経路も存在する。ピルビン酸は、ピルビン酸脱水素酵素を含む複合体により、ピルビン酸を酸化的に脱炭酸してアセチルCoAを生成し、TCA回路に進む。
【0017】
本発明の形質転換酵母において発現可能に導入される遺伝子としては、上記ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が挙げられる。また、本発明の形質転換酵母において減弱化される遺伝子としては、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が挙げられる。
【0018】
本発明において、「キシロース資化遺伝子」とは、キシロースの資化に関与する酵素をコードする遺伝子である。本発明において親酵母に発現可能に予め導入されているキシロース資化遺伝子は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の少なくとも1つ、好ましくは3つの遺伝子である。本発明において、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子は、ソルビトール脱水素酵素をコードする遺伝子を用いることが好ましい。
【0019】
また、本発明において、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子の少なくとも1つ、好ましくは3つの遺伝子も親酵母に発現可能に予め導入されていてもよい。これら3つの遺伝子としては、ペントースリン酸経路および/またはエタノール生産経路に関する酵素をコードする遺伝子が挙げられる。本発明では、上記キシロース資化遺伝子に加え、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子をキシロース資化関連遺伝子という。
【0020】
本発明の別の態様において、酵母に導入されるこれら遺伝子は、親酵母に由来する遺伝子であることが好ましい。すなわち、本発明の別の態様において、酵母が本来有する(内在性の)酵素遺伝子の発現を活性化し、酵母自身の有する酵素の活性を高めることを特徴の一つとされる。
【0021】
酵母の中には、キシロース資化酵素群が実質的に機能していない、いわゆる休眠状態にあるために、キシロース等の五炭糖資化能を有さない酵母が存在する。例えば、サッカロマイセス属に属する酵母は、キシロース資化酵素群をコードする遺伝子群を有しているにもかかわらず、キシロースを利用してエタノールを生産することができない。
【0022】
このようなエタノール生産能を有さないとされる酵母に、自身由来のキシロース資化遺伝子を導入することまたはプロモーターを置換することによって、キシロース資化内在性遺伝子の活性を高め、キシロース資化能を付与することができる。また、酵母自身由来のキシロース資化遺伝子だけでなく、酵母自身由来のペントースリン酸経路および/またはエタノール生産経路に関する酵素の遺伝子(トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子)を導入することまたはこれら遺伝子のプロモーターを置換することによって、これら遺伝子の活性も高めると、キシロースからのエタノール生成効率はさらに向上しうる。したがって、本発明の親酵母は、キシロース資化遺伝子が染色体上に挿入された酵母に、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を予め導入した酵母であってもよい。
【0023】
<形質転換酵母>
本発明の形質転換酵母は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されかつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されてなり、キシロースからエタノールを生産する能力を有する形質転換酵母とすることができる。本発明の好ましい形質転換酵母は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入され、かつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されてなり、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つがさらに発現可能に導入された形質転換酵母である。本発明のより好ましい形質転換酵母は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入され、かつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されてなり、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子がさらに発現可能に導入された形質転換酵母である。
【0024】
(1)親酵母
本発明において、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子の遺伝子導入もしくは該遺伝子による形質転換および/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の減弱化による形質転換の対象となる親酵母、すなわち、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子の導入およびピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の減弱化の施されていない親酵母(以下、単に親酵母ともいう)は、キシロースからピルビン酸を生産する能力を少なくとも有する酵母が挙げられる。また、上記親酵母は、本発明における形質転換によりキシリトールの蓄積を抑制しうる限り、エタノール生成までの酵素反応カスケードの一部または全部を備え、キシロースからエタノールを産生する能力を有する酵母であってもよい。したがって、本発明の一実施態様によれば、親酵母はピルビン酸からエタノールを生産する能力をさらに有する酵母であってもよい。また、本発明の一実施態様によれば、親酵母はキシロースからエタノールを産生する能力を有する酵母であってもよい。かかる親酵母は、野生株であっても遺伝子改変酵母であってもよいが、遺伝子改変酵母が好ましい。遺伝子改変酵母としては、キシロース資化関連遺伝子が発現可能に遺伝子導入された酵母またはキシロース資化関連遺伝子により形質転換された酵母が好ましい。上記キシロース資化関連遺伝子の遺伝子導入または形質転換に用いられる酵母としてはキシロース等の五炭糖の資化能を有していない酵母であることが好ましい。上記酵母は遺伝子導入または形質転換の前に五炭糖資化能を有していないものであればよく、グルコース等の六炭糖の資化能を有していてもよい。「五炭糖資化能」は、キシロース等の五炭糖を炭素源として生育する能力をいう。五炭糖資化能を有する酵母は、炭素源として五炭糖のみを添加した培地中で生育可能であるため、五炭糖資化能は、炭素源として五炭糖のみを添加した培地中における酵母の生育程度を600 nmまたは660 nm等の波長での濁度を測定することで確認することができる。
【0025】
また、本発明の親酵母としては予め遺伝子改変された酵母であってもよい。本発明において、キシロース資化関連遺伝子の遺伝子導入または該遺伝子による形質転換により予め遺伝子改変された親酵母は、エタノールの生産性を向上する目的で選択することができる。このような親酵母としては、例えば、キシロース資化能を付与された酵母やキシロース資化能を賦活化された酵母を挙げることができる。
【0026】
本発明において、親酵母は、特に限定されるわけではないが、例えば、サッカロマイセス属に属する酵母等を挙げることができる。サッカロマイセス属に属する酵母としては、研究室酵母株等のサッカロマイセス・セレビシア種を挙げることができる。また、本発明において、遺伝子導入または形質転換の対象となる酵母は1倍体だけでなく2倍体の酵母を使用することができる。2倍体の酵母は実用酵母として優れており、例えば、パン酵母や日本酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母等の醸造酵母等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明において、親酵母は、エタノールへの耐性を備えた醸造酵母であることが好ましく、そのような酵母としては、特に限定されるわけではないが、サッカロマイセス属に属する酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシア)等を挙げることができる。
【0028】
したがって、本発明において親酵母は、好ましくはサッカロマイセス属に属する酵母、より好ましくはサッカロマイセス・セレビシアである。
【0029】
(2)導入遺伝子または改変遺伝子
本発明において、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が親酵母に発現可能に導入され、かつ/または、親酵母におけるピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されるように改変される。
【0030】
さらに、本発明において、上述のように、親酵母としては、キシロース資化遺伝子が遺伝子導入または形質転換されていることが好ましい。キシロース資化遺伝子は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の少なくとも1つが挙げられ、好ましくは3つの遺伝子であり、中でもキシリトール脱水素酵素は好ましくはソルビトール脱水素酵素である。より具体的には、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)、SOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)およびXKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子1)が好ましい。
【0031】
また、上記親酵母において、キシロース資化関連遺伝子である、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子のうちの少なくとも1つが導入されることが好ましく、より好ましくは3つの遺伝子が導入される。より具体的には、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、TAL1(トランスアルドラーゼ遺伝子1)、TKL1(トランスケトラーゼ遺伝子1)およびADH1(アルコール脱水素酵素遺伝子1)が好ましい。
【0032】
本発明において上記ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子およびピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の減弱化に用いる核酸は、外来の遺伝子等の核酸または内在性の遺伝子等の核酸のいずれも使用できるが、内在性の遺伝子であることが好ましい。さらに、キシロース資化関連遺伝子、例えば、キシロース資化遺伝子ならびにトランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子も、外来の遺伝子または内在性の遺伝子のいずれも使用できるが、内在性の遺伝子であることが好ましい。「内在性遺伝子」とは、遺伝子挿入対象の酵母の有する遺伝子、遺伝子挿入対象の酵母由来の遺伝子、遺伝子挿入対象の酵母と同種の酵母由来の遺伝子を意味する。したがって、内在性遺伝子を導入された酵母は組換え体に該当しない。
したがって、内在性遺伝子が導入された酵母は、エタノールの生産において外界への菌体の漏出を防ぐための拡散防止措置が不要になり、エタノールを安価に製造できる上で有利である。
【0033】
(ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子)
酵母の有するピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子として、PDC1、PDC5およびPDC6が知られている。したがって、本発明において、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子として、例えば、PDC1、PDC5、PDC6を使用することができる。本明細書ではピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子の例としてPDC1に関して説明するが、PDC5、PDC6は、PDC1に関する本明細書での記載を適用し、本発明において同様に使用することができる。
【0034】
PDC1、PDC5、PDC6の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。以下にサッカロマイセス・セレビシアにおける各遺伝子の配列情報についてのアクセッション番号を示す。
PDC1:NM_001181931、PDC5:NM_001182021、PDC6:NM_001181216
【0035】
本発明において、PDC1(ピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子1)は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号31で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号32で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0036】
PDC1等のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるPDC1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_013145である。
【0037】
本発明において、PDC1は、例えば、配列番号31で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、酵母ライブラリーまたはゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
【0038】
本発明で使用されるPDC1は、PDC1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。PDC1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、配列番号31で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。ピルビン酸脱炭酸酵素活性については後述する。
【0039】
PDC1タンパク質の変異体をコードするDNAは、配列番号31で示される塩基配列からなるDNAまたはその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーの作製方法については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Press(2012))等を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーを用いてもよい。
【0040】
ここで、ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
【0041】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法によって行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
【0042】
また、本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号31で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0043】
また、配列番号31で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号31で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号31で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号31で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号31で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび (iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0044】
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0045】
本発明において、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来のPDC1(ピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子1)は、配列番号32で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも含まれる。本発明では、サッカロマイセス・セレビシア由来のPDC1タンパク質またはそれらの変異体をコードするDNAも、PDC1(ピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子1)に含まれる。
【0046】
また、本発明において、PDC1タンパク質の変異体には、例えば、配列番号32で示されるアミノ酸配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を含むタンパク質が含まれる。本発明の一実施態様によれば、PDC1タンパク質の変異体は、上記のいずれかの同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、ピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質である。
【0047】
また、PDC1タンパク質の変異体は、(i) 配列番号32で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号32で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号32で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質等が挙げられる。
【0048】
ここで、「ピルビン酸脱炭酸酵素活性」とは、ピルビン酸をアセトアルデヒドに脱炭酸化する活性を意味する。本発明において、PDC1タンパク質の変異体は、ピルビン酸脱炭酸酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号32で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するピルビン酸脱炭酸酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0049】
(ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子)
酵母の有するピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子として、PDA1、PDA2が知られている。したがって、本発明において、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子として、例えば、PDA1、PDA2を使用することができる。本明細書ではピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の例としてPDA1に関して説明するが、PDA2は、PDA1に関する本明細書での記載を適用し、本発明において同様に使用することができる。
【0050】
PDA1、PDA2の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。以下にサッカロマイセス・セレビシアにおける各遺伝子の配列情報についてのアクセッション番号を示す。
PDA1:NM_001179068、PDA2:NM_001182909
【0051】
本発明において、PDA1(ピルビン酸脱水素酵素遺伝子1)は、ピルビン酸脱水素酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号33で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号34で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。PDA1によりコードされるピルビン酸脱水素酵素は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼともいい、他にジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ、ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼと共に複合体を形成できる。
【0052】
PDA1等のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるPDA1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_011105である。
【0053】
本発明で使用されるPDA1は、PDA1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。PDA1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号33で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつピルビン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
【0054】
また、本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号33で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0055】
また、配列番号33で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号33で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号33で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号33で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号33で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつピルビン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0056】
本発明において、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来のPDA1(ピルビン酸脱水素酵素遺伝子1)は、配列番号34で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも含まれる。本発明では、サッカロマイセス・セレビシア由来のPDA1タンパク質またはそれらの変異体をコードするDNAも、PDA1(ピルビン酸脱水素酵素遺伝子1)に含まれる。
【0057】
また、本発明において、PDA1タンパク質の変異体には、例えば、配列番号34で示されるアミノ酸配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を含むタンパク質が含まれる。本発明の一実施態様によれば、PDA1タンパク質の変異体は、上記のいずれかの同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、ピルビン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質である。
【0058】
また、PDA1タンパク質の変異体は、(i) 配列番号34で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号34で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号34で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつピルビン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質等が挙げられる。
【0059】
ここで「ピルビン酸脱水素酵素活性」は、NAD+(またはNADP+)の存在下でピルビン酸をアセチル-CoA(アセチル補酵素A)に変換する活性を意味する。本発明において、PDA1タンパク質の変異体は、ピルビン酸脱水素酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号34で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するピルビン酸脱水素酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0060】
上記ハイブリダイズするDNA、およびハイブリダイズの条件等は、PDC1での説明が同様に適用できる。また、本発明において、PDA1は、PDC1に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0061】
(キシロース還元酵素をコードする遺伝子)
酵母の有するキシロース還元酵素をコードする遺伝子として、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wが知られている。したがって、本発明において、キシロース還元酵素をコードする遺伝子として、例えば、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1またはYDR124wを使用することができる。本明細書ではキシロース還元酵素をコードする遺伝子の例としてGRE3に関して説明するが、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wは、GRE3に関する本明細書での記載を適用し、本発明において同様に使用することができる。
【0062】
GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wの塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。以下にサッカロマイセス・セレビシアにおける各遺伝子の配列情報についてのアクセッション番号を示す。
GRE3:NM_001179234、YJR096w:NM_001181754、YPR1:NM_001180676、GCY1:NM_001183539、ARA1: NM_001178497、YDR124w: NM_001180432。
【0063】
本発明において、GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)は、アルド・ケト還元酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号35で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号36で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。GRE3によりコードされるタンパク質は、酵母においてキシロース還元酵素としても機能することが知られている。また、GRE3タンパク質は、シェファソマイセス・スティピティスのXYL1(キシロース還元酵素(XR))とアミノ酸配列の同一性(相同性)を有するタンパク質である。
【0064】
GRE3等のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるGRE3の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_011972である。
【0065】
本発明において、GRE3は、例えば、配列番号35で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、酵母ライブラリーまたはゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
【0066】
本発明で使用されるGRE3は、GRE3タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。GRE3タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、配列番号35で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシロース還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。キシロース還元酵素活性については後述する。
【0067】
GRE3タンパク質の変異体をコードするDNAは、配列番号35で示される塩基配列からなるDNAまたはその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーの作製方法については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Press(2012))等を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーを用いてもよい。
【0068】
ここで、ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
【0069】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法によって行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
【0070】
また、本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号35で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0071】
また、配列番号35で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号35で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号35で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号35で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号35で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつキシロース還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0072】
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0073】
本発明において、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来のGRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)は、配列番号36で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも含まれる。本発明では、サッカロマイセス・セレビシア由来のGRE3タンパク質またはそれらの変異体をコードするDNAも、GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)に含まれる。
【0074】
GRE3タンパク質の変異体は、(i) 配列番号36で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号36で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号36で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシロース還元酵素活性を有するタンパク質等が挙げられる。
【0075】
ここで、「キシロース還元酵素活性」とは、NAD+(またはNADP+)の存在下でキシロースをキシリトールに変換する活性を意味する。本発明において、GRE3タンパク質の変異体は、キシロース還元酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号36で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するキシロース還元酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0076】
(キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子)
酵母の有するキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子として、SOR1、SOR2およびYLR070cが知られている。したがって、本発明において、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子として、例えば、SOR1、SOR2またはYLR070cを使用することができるが、好ましくはSOR1である。本明細書ではキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の例としてSOR1に関して説明するが、SOR2およびYLR070cはSOR1に関する本明細書での記載を適用することができる。なお、SOR1およびSOR2は互いに99.9%の遺伝子配列における同一性を有する。
【0077】
SOR1、SOR2およびYLR070cの塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。以下にサッカロマイセス・セレビシアにおける各遺伝子の配列情報についてのアクセッション番号を示す。
SOR1:NM_001181817、SOR2:NM_001180306、YLR070c: NM_001181957。
【0078】
本発明において、SOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)は、ソルビトール脱水素酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号37で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号38で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。SOR1によりコードされるタンパク質は、酵母においてキシリトール脱水素酵素としても機能することが知られている。また、SOR1タンパク質は、シェファソマイセス・スティピティスのXYL2(キシリトール脱水素酵素(XDH))とアミノ酸配列の同一性(相同性)(53%)を有するタンパク質である。
【0079】
SOR1等のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるSOR1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_012693である。
【0080】
本発明で使用されるSOR1は、SOR1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。SOR1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号37で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシリトール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
【0081】
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号37で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0082】
また、配列番号37で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号37で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号37で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号37で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号37で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつキシリトール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0083】
また、本発明で使用されるSOR1は、以下のSOR1タンパク質の変異体をコードするDNAであってもよい:(i) 配列番号38で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号38で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号38で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシリトール脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【0084】
ここで「キシリトール脱水素酵素活性」は、キシリトールをキシルロースに脱水素化する活性を意味する。本発明において、SOR1タンパク質の変異体は、キシリトール脱水素酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号38で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するキシリトール脱水素酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0085】
上記ハイブリダイズするDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、SOR1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0086】
(キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子)
本発明において、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子として、例えば、XKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子1)を使用することができる。XKS1の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアのXKS1のアクセッション番号は、NM_001181323である。
【0087】
本発明において、XKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子1)は、キシルロースリン酸化酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号39で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号40で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0088】
XKS1のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるXKS1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_011710である。
【0089】
本発明で使用されるXKS1は、XKS1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。XKS1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号39で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシルロースリン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
【0090】
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号39で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0091】
また、配列番号39で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号39で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号39で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号39で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号39で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつキシルロースリン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0092】
また、本発明で使用されるXKS1は、以下のXKS1タンパク質の変異体をコードするDNAであってもよい:(i) 配列番号40で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号40で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号40で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシルロースリン酸化酵素活性を有するタンパク質。
【0093】
ここで「キシルロースリン酸化酵素活性」は、キシルロースをリン酸化する活性を意味する。本発明において、XKS1タンパク質の変異体は、キシルロースリン酸化酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号40で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するキシルロースリン酸化酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0094】
上記ハイブリダイズするDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、XKS1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0095】
(トランスアルドラーゼをコードする遺伝子)
本発明において、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子として、例えば、TAL1(トランスアルドラーゼ遺伝子1)またはTAL2(トランスアルドラーゼ遺伝子2)を使用することができる。TAL1およびTAL2の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアのTAL1およびTAL2のアクセッション番号は、それぞれNM_001182243およびNM_001181172である。本明細書ではトランスアルドラーゼをコードする遺伝子の例としてTAL1に関して説明するが、TAL2についてもTAL1に関する本明細書での記載を同様に適用することができる。
【0096】
本発明において、TAL1(トランスアルドラーゼ遺伝子1)は、トランスアルドラーゼをコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号41で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0097】
TAL1およびTAL2のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるTAL1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_013458、TAL2のアクセッション番号は、NP_011557である。
【0098】
本発明で使用されるTAL1は、TAL1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。TAL1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号41で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつトランスアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
【0099】
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号41で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0100】
また、配列番号41で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号41で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号41で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号41で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号41で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつトランスアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0101】
また、本発明で使用されるTAL1は、以下のTAL1タンパク質の変異体をコードするDNAであってもよい:(i) 配列番号42で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号42で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号42で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつトランスアルドラーゼ活性を有するタンパク質。
【0102】
ここで「トランスアルドラーゼ活性」は、セドヘプツロース-7-リン酸+グリセルアルデヒド-3-リン酸⇔エリスロース-4-リン酸+フルクトース-6-リン酸の反応を触媒する活性を意味する。本発明において、TAL1タンパク質の変異体は、トランスアルドラーゼ活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するトランスアルドラーゼ活性は、公知の方法で測定することができる。
【0103】
上記ハイブリダイズするDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、TAL1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0104】
(トランスケトラーゼをコードする遺伝子)
本発明において、トランスケトラーゼをコードする遺伝子として、例えば、TKL1(トランスケトラーゼ遺伝子1)またはTKL2(トランスケトラーゼ遺伝子2)を使用することができる。TKL1およびTKL2の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアのTKL1およびTKL2のアクセッション番号は、それぞれNM_001184171およびNM_001178465である。本明細書ではトランスケトラーゼをコードする遺伝子の例としてTKL1を説明するが、TKL2についてもTKL1に関する本明細書での記載を同様に適用することができる。
【0105】
本発明において、TKL1(トランスケトラーゼ遺伝子1)は、トランスケトラーゼをコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号43で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0106】
TKL1およびTKL2のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるTKL1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_015399、TKL2のアクセッション番号は、NP_009675である。
【0107】
本発明で使用されるTKL1は、TKL1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。TKL1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号43で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
【0108】
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号43で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0109】
また、配列番号43で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号43で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号43で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号43で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号43で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0110】
また、本発明で使用されるTKL1は、以下のTKL1タンパク質の変異体をコードするDNAであってもよい:(i) 配列番号44で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号44で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号44で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
【0111】
ここで「トランスケトラーゼ活性」は、セドヘプツロース-7-リン酸+グリセルアルデヒド-3-リン酸⇔キシルロース-5-リン酸+リボース-5-リン酸の反応を触媒する活性を意味する。本発明において、TKL1タンパク質の変異体は、トランスケトラーゼ活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するトランスケトラーゼ活性は、公知の方法で測定することができる。
【0112】
上記ハイブリダイズするDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、TKL1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0113】
(アルコール脱水素酵素をコードする遺伝子)
本発明において、アルコール脱水素酵素をコードする遺伝子として、例えば、ADH1(アルコール脱水素酵素遺伝子1)を使用することができる。ADH1の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアのADH1のアクセッション番号は、NM_001183340である。
【0114】
本発明において、ADH1(アルコール脱水素酵素遺伝子1)は、アルコール脱水素酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号45で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号46で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0115】
ADH1のアミノ酸配列情報は、当業者であれば、Genbank等の公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアにおけるADH1の配列情報についてのアクセッション番号は、NP_014555である。
【0116】
本発明で使用されるADH1は、ADH1タンパク質の変異体をコードするDNAを含んでもよい。ADH1タンパク質の変異体をコードするDNAは、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号45で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
【0117】
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号45で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLAST等の公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0118】
また、配列番号45で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号45で示される塩基配列において1個または数個の核酸に欠失、置換または付加等の変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号45で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号45で示される塩基配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号45で示される塩基配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0119】
また、本発明で使用されるADH1は、以下のADH1タンパク質の変異体をコードするDNAであってもよい:(i) 配列番号46で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号46で示されるアミノ酸配列中の1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号46で示されるアミノ酸配列中に1~数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および (iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【0120】
ここで「アルコール脱水素酵素活性」は、アルコールを酸化してアルデヒドにする活性を意味する。本発明において、ADH1タンパク質の変異体は、アルコール脱水素酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号46で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するアルコール脱水素酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0121】
上記ハイブリダイズするDNAに含まれるDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、ADH1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0122】
さらに、本発明において、キシロース資化遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子といった、上記6種の遺伝子を当該遺伝子の由来と同種の酵母に予め導入することにより、親酵母として酵母自身の酵素活性が遺伝子導入前よりも向上することが好ましい。また、非組換え酵母を作製する場合は、親酵母に予め導入されている上記6種の遺伝子は、内在性の遺伝子であることが必要である。
【0123】
(形質転換酵母の特性)
本発明の形質転換酵母は、親酵母と同等のキシロース消費速度を好ましくは有することができる。ここで、同等とは、t検定を行った場合、有意差が付かないことをいう。したがって、本発明の形質転換酵母は、キシリトールの蓄積が抑制されるにもかかわらず、好ましくはキシロース消費速度が親酵母とほぼ同等とすることができる。かかるキシロース消費速度としては、グルコースおよびキシロース含有培地で培養した場合、例えば、0.1~1.0g/L/hであり、好ましくは0.2~0.8g/L/hであり、より好ましくは0.3~0.5g/L/hである。上記キシロース消費速度を特定する際の培養条件としては、OD600が15となるように植菌した後に、グルコースおよびキシロース含有培地で、30℃、140rpmでの24時間培養とされる。より具体的な条件は実施例7による。OD600(波長600nmにおける吸光度)は市販の分光光度計により測定することができる。
【0124】
本発明の形質転換酵母は親酵母に比べてキシリトールの蓄積が抑制されていることが好ましい。かかる形質転換酵母は、同一の培養条件で培養した親酵母と比してキシリトールの蓄積量を低減させることができる。かかるキシリトール蓄積量としては、グルコースおよびキシロース含有培地で培養した場合、例えば、0.1~1.0g/Lであり、好ましくは0.2~0.8g/Lであり、より好ましくは0.3~0.5g/Lであり、さらに好ましくは0.3~0.4g/Lである。かかるキシリトール蓄積量は実施例7の蓄積量を指標にして特定できる。また、同一の培養条件における本発明の形質転換酵母のキシリトールの蓄積量と親酵母のキシリトールの蓄積量との比率(本発明の形質転換酵母のキシリトールの蓄積量:親酵母のキシリトールの蓄積量)は、例えば、0.4~0.9:1、好ましくは0.5~0.8:1、より好ましくは0.6~0.8:1、さらに好ましくは0.6~0.7:1である。ここで、「同一の培養条件」とは、OD600が15となるように植菌した後に、グルコースおよびキシロース含有培地で、30℃、140rpmでの48時間培養とされる。より具体的な条件は実施例7による。
【0125】
通常、キシロースを消費し、エタノールを生産する酵母はグリセロールの生成が抑えられる傾向にある。しかしながら、本発明の形質転換酵母は、キシロースを消費し、エタノール生産量が親株と同等であるにもかかわらず、グリセロール生成量を好ましくは親酵母と同等にすることができる。ここで、同等とは、t検定を行った場合、有意差が付かないことをいう。かかるグリセロール生成量としては、グルコースおよびキシロース含有培地で培養した場合、例えば、3~18g/Lであり、好ましくは5~15g/Lであり、より好ましくは7~9g/Lである。培養条件としては、OD600が15となるように植菌した後に、グルコースおよびキシロース含有培地で、30℃、140rpmでの48時間の培養とされる。より具体的な条件は実施例7による。
【0126】
本発明の形質転換酵母は、親酵母と同等の増殖速度を有することが好ましい。かかる増殖速度としては、グルコースおよびキシロース含有培地で培養した場合の培養48~72時間以降の生菌数として、OD600が20~50に維持されることが挙げられ、30~40に維持されることが好ましい。培養条件としては、OD600が10~20となるように植菌した後に、グルコースおよびキシロース含有培地で、30℃、140rpmでの48時間培養とされる。より具体的な条件は実施例7による。
【0127】
<酵母への遺伝子の導入または酵母の遺伝子の改変>
本発明において、親酵母に、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子を発現可能に導入し、かつ/または、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を減弱化するように改変することにより、本発明の形質転換酵母を作製することができる。さらに、本発明において、親酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つを発現可能に予め導入することにより作製することができる。好ましくは、本発明において、親酵母は、キシロース資化遺伝子(例えば、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子)、ならびにトランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を発現可能に予め導入することにより作製することができる。また、これらの遺伝子のプロモーターを、遺伝子の発現量を増大させるプロモーターに置換することにより、本発明の形質転換酵母を作製することもできる。
【0128】
本発明の形質転換酵母は、例えば、PDC1が発現可能に導入されかつ/またはPDA1が減弱化されている酵母である。本発明の形質転換酵母は、好ましくは、PDC1が発現可能に導入されかつ/またはPDA1が減弱化されていると共に、GRE3、SOR1、XKS1、TAL1、TKL1およびADH1からなる群から選択される少なくとも一つがさらに発現可能に導入された酵母である。本発明の形質転換酵母は、より好ましくは、PDC1が発現可能に導入されかつ/またはPDA1が減弱化されていると共に、GRE3、SOR1、XKS1、TAL1、TKL1およびADH1がさらに発現可能に導入された酵母である。本発明において、「発現可能に(導入または挿入)」とは、導入または挿入された遺伝子が形質転換体において所定の条件で発現できるような形で導入または挿入されることを意味する。
【0129】
<ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の減弱化>
「ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化」、「ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されるように改変された」とは、非改変酵母、例えば親酵母または野生株酵母に比べてピルビン酸脱水素酵素が正常に機能しないように改変したことを意味する。例えば、遺伝子組換えによりピルビン酸脱水素酵素遺伝子を改変することにより、親酵母、あるいは野生株酵母に対して細胞あたりのピルビン酸脱水素酵素の分子の数が減少した場合、またはピルビン酸脱水素酵素の分子が全く生成されなくなった場合、あるいはピルビン酸脱水素酵素の分子当たりの活性が低下または喪失した場合等が含まれる。ピルビン酸脱水素酵素の分子の数は、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の発現量を低下させることにより減少させることができる。ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の発現量の低下には、ピルビン酸脱水素酵素mRNAの転写量の低下、およびピルビン酸脱水素酵素mRNAの翻訳量の低下が含まれる。また、ピルビン酸脱水素酵素の分子を全く生成させなくすること、ピルビン酸脱水素酵素の分子数を減少させることあるいはピルビン酸脱水素酵素の分子当たりの活性を低下または喪失させることは、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を破壊することによって達成することができる。
酵母が二倍体である場合は、遺伝子の減弱化は一方の染色体で生じていればよく、他方の染色体は減弱化されていなくともよい。
【0130】
ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の減弱化のための改変は、具体的には、染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子コード領域の一部または全部を欠損させたり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすること等によって達成することができる。また、発現調節配列以外の非翻訳領域の改変によっても、遺伝子の発現量を低下させることができる。さらには、染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の前後の配列を含めて、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子全体を欠失させてもよい。また、遺伝子組換えにより、染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、また終始コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは一~二塩基付加・欠失するフレームシフト変異を導入することによっても達成できる。
【0131】
さらに、染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の発現調節配列、例えばプロモーター領域、またはコード領域、もしくは非コード領域の一部または全部を欠損させること、またはこれらの領域に他の核酸配列を挿入することによって、酵母内のピルビン酸脱水素酵素の活性を低下させることが好ましい。
【0132】
発現調節配列の改変は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上である。また、コード領域を欠失させる場合は、産生するピルビン酸脱水素酵素の機能が低下または欠失するのであれば、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域のいずれの領域であってもよく、コード領域全体であってよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実にピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を減弱化することができる。
【0133】
コード領域に他の核酸配列を挿入する場合も、挿入する位置はピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が、確実にピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を減弱化することができる。他の核酸配列としては、ピルビン酸脱水素酵素の機能を低下または欠損させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子やウラシル合成酵素等の核酸合成に必要な遺伝子等が挙げられる。
【0134】
染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を上記のように改変するには、例えば、以下の様に行うことができる。まず、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の部分配列を欠失し、正常にピルビン酸脱水素酵素を産生しないように改変した減弱化遺伝子、またはそのコード領域に抗生物質耐性遺伝子や核酸合成に必要な遺伝子等の他の核酸配列を挿入し、正常に機能するピルビン酸脱水素酵素を産生しないように改変した減弱化遺伝子を作製する。その後、得られた減弱化遺伝子と親酵母の染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上のピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を減弱化遺伝子に置換する。ここで、上記親酵母は、上記抗生物質耐性遺伝子や核酸合成に必要な遺伝子等が合成できない酵母が好ましい。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、温度感受性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、栄養要求性相補遺伝子や薬剤マーカーを含む融合遺伝子断片(DNA断片)を酢酸リチウム法等を用いて酵母に導入する方法等がある(例えば、米国特許第6303383号明細書、または特開平05-007491号公報)
【0135】
ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の転写量が低下したことの確認は、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子のmRNAの量を親酵母、野生株酵母、あるいは非改変酵母と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる。
【0136】
ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子がコードするタンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る。
【0137】
<ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子またはキシロース資化関連遺伝子の導入>
本発明において、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子は、好ましくは酵母の染色体上に発現可能に挿入される。また、本発明において、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子は、好ましくは酵母の染色体上に発現可能に挿入される。また、本発明において、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子は、好ましくは酵母の染色体上に発現可能に挿入される。すなわち、本発明において、酵母への遺伝子の導入は、好ましくは酵母の染色体上への遺伝子の挿入を含む。本発明の形質転換酵母は、好ましくは、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が染色体上に発現可能に挿入され、かつ/または、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されており、さらに、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つが染色体上に発現可能に挿入された酵母である。本発明の形質転換酵母は、より好ましくは、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が染色体上に発現可能に挿入され、かつ/または、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されており、さらに、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子が染色体上に発現可能に挿入された酵母である。また、本発明の形質転換酵母は、好ましくは、PDC1が染色体上に発現可能に挿入され、かつ/または、PDA1が減弱化されており、さらに、GRE3、SOR1、XKS1、TAL1、TKL1およびADH1からなる群より選択される少なくとも一つが染色体上に発現可能に挿入された酵母である。本発明の形質転換酵母は、より好ましくは、PDC1が染色体上に発現可能に挿入され、かつ/または、PDA1が減弱化されており、さらに、GRE3、SOR1、XKS1、TAL1、TKL1およびADH1が染色体上に発現可能に挿入された酵母である。
【0138】
本発明において、染色体に挿入されるそれぞれの遺伝子の個数は限定されず、例えば、1個または複数個である。また、染色体に挿入される各遺伝子の順番は特に限定されない。また、遺伝子を挿入する染色体の位置は、特に限定されないが、酵母内で機能していない部位が好ましく、例えば、XYL2部位(Genbankアクセッション番号Z73242)、HXT13部位、HXT17部位、AUR1部位等が挙げられる。遺伝子をコードしていない染色体上の部位に挿入することも可能である。遺伝子をコードしていない染色体上の部位としてTy因子の1つであるδ配列が挙げられる。δ配列は、酵母の染色体上に複数(約100コピー)存在することが知られている。酵母染色体におけるδ配列の位置および配列情報は、公知である(例えば、Science 265, 2077 (1994))。例えばδ配列の途中にキシロース資化関連遺伝子を挿入したプラスミドを酵母に導入することで、染色体上の目的の位置に1または複数コピーの当該遺伝子を挿入することができる。またδ配列のほかに同じくTy因子であるσ配列、τ配列に挿入することもできる。またNTS2等のリボソーム遺伝子部位に挿入することもできる。
【0139】
遺伝子を染色体上に挿入する場合、それぞれの遺伝子は個別に染色体上に挿入してもよいし、またはプロモーターの支配下に1の遺伝子を含む発現カセットもしくはプロモーターの支配下に2以上の遺伝子をタンデムに連結した発現カセットを作製して染色体上に挿入してもよい。タンデムに連結する場合、遺伝子の配置の順番および連結する遺伝子の数は特に限定されず、考えられる組合せのいずれでも良い。
【0140】
酵母への遺伝子の導入は、プラスミドまたは発現カセットを利用することができる。プラスミドまたは発現カセットは、本発明で使用する酵素遺伝子の1つ以上を含み得る。例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子をプラスミドまたは発現カセットに含有させることができる。また、例えば、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を1つのプラスミドまたは発現カセットに含有させることができる。また、例えば、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を1つのプラスミドまたは発現カセットに含有させることができる。複数の遺伝子が1つのプラスミドまたは発現カセットに含まれる場合、プラスミド上のそれぞれの遺伝子の順番および数は特に限定されない。本発明はこれらの遺伝子を含有するプラスミドまたは発現カセットを含む。このようなプラスミドまたは発現カセットの例として、プロモーターの支配下にPDC1を連結したプラスミドもしくは発現カセット、プロモーターの支配下にGRE3、SOR1およびXLS1を連結したプラスミドもしくは発現カセット、プロモーターの支配下にTAL1およびTKL1を連結したプラスミドもしくは発現カセット、またはプロモーターの支配下にTAL1、TKL1およびADH1を連結したプラスミドもしくは発現カセット等が挙げられる。複数の遺伝子は、例えば、酵母に導入された際、特に、染色体に挿入された際に、それぞれの遺伝子が発現可能となるように連結される。2つの遺伝子を連結し、融合遺伝子を作製する際に必要であれば、リンカー配列や制限酵素部位等を適宜付加してもよい。これらの操作は、当分野でよく知られている慣用の遺伝子操作技術を用いて行うことができる。これらのプラスミドまたは発現カセットを用いることによって、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子と共に、3種のキシロース資化遺伝子ならびに/またはトランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子および/もしくはアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子を酵母の染色体上に導入してもよい。
【0141】
本発明で使用されるプラスミドは、酵母発現用のベクターに上記遺伝子を発現可能に挿入することで作製することができる。ベクターへの遺伝子の挿入は、リガーゼ反応、トポイソメラーゼ反応等を利用することができる。例えば、精製したDNAを適当な制限酵素で切断し、得られたDNA断片を、ベクター中の適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイト等に挿入することでベクターに連結する方法等を採用することができる。
【0142】
本発明で使用されるプラスミドは、その基本となるベクターの由来には特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド等を使用することができる。例えば、pGADT7、pAUR135、pUC18等の市販のベクターを使用することもできる。親酵母由来のプラスミドを用いて本発明の形質転換酵母を調製する場合は、本発明の形質転換酵母は遺伝子組換え体に該当しない。
【0143】
本発明のプラスミドは、目的遺伝子を発現させ得る限り、マルチクローニングサイト、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選択マーカーカセット等を含んでもよい。また、DNAを挿入する際に必要であれば、適宜リンカーや制限酵素部位を付加してもよい。これらの操作は、当分野でよく知られている慣用の遺伝子操作技術を用いて行うことができる。
【0144】
プロモーターは、目的遺伝子の上流に組み込むことができる。プロモーターは、形質転換体において目的タンパク質を適切に発現できるものであれば、特に限定されないが、PGKプロモーター、ADHプロモーター、TDHプロモーター、ENOプロモーター、CITプロモーター、TEFプロモーター、CDCプロモーター、GPMプロモーターまたはPDCプロモーター等を使用することができる。
【0145】
ターミネーターは、目的遺伝子の下流に組み込むことができ、例えばPGKターミネーター、CITターミネーター、TEFターミネーター、CDCターミネーター、GPMターミネーターまたはPDCターミネーター等を使用することができる。
本発明において、酵母で目的遺伝子を効率よく発現させるために、PGKプロモーターおよび/またはPGKターミネーターを用いることが好ましい。
【0146】
選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ロイシン合成酵素遺伝子、ウラシル合成酵素遺伝子等を挙げることができる。ベクターにロイシン、ヒスチジン、トリプトファン等のアミノ酸合成遺伝子カセットまたはウラシル合成遺伝子カセットが含まれる場合は、当該アミノ酸またはウラシルを含まない培地で酵母を培養することにより、形質転換酵母を選択することができる。
【0147】
本発明のプラスミドや発現カセットを遺伝子導入対象の本発明の酵母に導入することで、形質転換酵母を作製することができる。
【0148】
酵母に本発明のプラスミドを導入する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法等の公知の方法が挙げられる。これらの方法により、本発明の形質転換酵母が提供される。
【0149】
また、本発明の形質転換酵母は、相同組換えにより目的遺伝子を親酵母の染色体上に組み込むことにより作製することもできる。当業者であれば、公知の方法により相同組換えにより本発明の形質転換酵母を作製することができる。
【0150】
五炭糖資化能を有していない酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を全て発現しないと、キシロース利用能が付与されない。したがって、上記のように遺伝子導入した酵母をキシロース含有培地、好ましくはグルコースおよびキシロース含有培地で培養することにより、少なくともキシロース資化酵素遺伝子が発現可能に導入された形質転換酵母を選択することができる。
【0151】
このように、例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子を発現可能に導入し、かつ/または、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されると共に、6つのキシロース資化関連遺伝子を酵母に発現可能に導入することで、本発明の形質転換酵母を作製することができる。好ましくは、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子を発現可能に導入し、かつ/または、ピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されると共に6つのキシロース資化関連遺伝子を酵母の染色体上に発現可能に導入することで、本発明の形質転換酵母を作製することができる。
【0152】
さらに、本発明の形質転換酵母としては、親酵母の有する、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子の発現が活性化されるか、かつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子の発現が減弱化されると共に、親酵母の有するキシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子、トランスアルドラーゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子およびアルコール脱水素酵素をコードする遺伝子の発現が活性化されたものであってもよい。すなわち、本発明は、親酵母の染色体上にもともと存在する上記遺伝子の発現量が増大した酵母も含まれる。外部からプロモーターを導入すること、または当該遺伝子自身の持つプロモーターをより強力なプロモーターに置換すること等によって、酵母がもともと有する遺伝子が発現可能な形で活性化され、目的タンパク質を適切に発現し得る。例えば、このように内在性遺伝子の発現を活性化させる方法としては、限定はされないが、目的タンパク質を適切に発現できるプロモーターを、公知の遺伝子組換え技術を用いて、染色体上に遺伝子置換により組み込む方法等が挙げられる。遺伝子置換の方法としては、Akada et al. Yeast 23: 399-405 (2006)(非特許文献)の方法を用いることができる。置換するプロモーターとしては、PGKプロモーター、ADHプロモーター、TDHプロモーター、ENOプロモーター、CITプロモーター、TEFプロモーター、CDCプロモーター、GPMプロモーターまたはPDCプロモーター等の公知のプロモーターを使用することができる。
【0153】
<エタノールの生産方法>
本発明の形質転換酵母は、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入され、かつ/またはピルビン酸脱水素酵素をコードする遺伝子が減弱化されてなり、キシロースからエタノールを生産する能力を有するものであるため、本発明の形質転換酵母は、キシロースからエタノールを生産する際のキシリトール蓄積を抑制すると共に、高効率でエタノールを生産することができる。したがって、本発明の形質転換酵母は、キシロースからエタノールの生産方法に使用することができる。ここで、キシリトールの「蓄積」とは、キシロースからのキシリトールの生成の抑制によるもの、および/または、キシリトールからキシルロースへの生成促進によるものとされる。
【0154】
本発明の形質転換酵母は、酵母の培養に用いられる通常の方法に従って培養することができる。当業者であれば、SD培地、SCX培地、YPD培地、YPX培地、CBS培地等の公知の培地から適切な培地を選択し、好ましい培養条件の下で酵母を培養することができる。液体培地で酵母を培養する場合は、振盪培養が好ましい。
【0155】
本発明の形質転換酵母を培養し、得られる培養物からエタノールを採取することにより、エタノールを生産させることができる。エタノールを生産させる場合、上記培地において炭素源としてキシロースを例えば10~50g/L、好ましくは10~40g/Lの存在下で本発明の形質転換酵母を培養できる。炭素源としてキシロースに加え、さらに、グルコースを例えば40~300g/L、好ましくは60~200g/Lを含むことが好ましい。炭素源としてグルコースおよびキシロースの両方を含む場合、あわせて例えば40~300g/L、好ましくは60~200g/Lの存在下で本発明の形質転換酵母を培養できる。本発明の形質転換酵母は、炭素源である糖の追加供給を伴わないバッチ培養、糖を連続的/断続的に追加供給するフェドバッチ培養、または連続培養等、公知の培養方法を使用することができる。炭素源である糖を追加供給する場合、糖の濃度が上記の濃度範囲に維持されるようにモニターされ、糖の供給が制御されることが望ましい。
【0156】
本培養の前に、形質転換酵母を前培養しても良い。前培養は、例えば、本発明の形質転換酵母を少量の培地に接種し、12~72時間培養すればよい。例えば、本培養の培養量の0.1~10%、好ましくは1%の前培養液を本培養の培地に加え、本培養を開始することができる。または、前培養液から集菌した酵母を水等に懸濁して得られた酵母懸濁液を本培養の培地に加えて本培養を開始してもよい。ここで、本培養の培地に加える酵母懸濁液の量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、本培養の培地のOD600が10~20になるように添加することが好ましく、OD600が15になるように添加することがより好ましい。本培養は、キシロース含有培地、好ましくはキシロースおよびグルコース含有培地で、0.5~200時間、好ましくは10~150時間、より好ましくは24~137時間の培養時間で、20~40℃、好ましくは30℃で振盪培養してもよい。
【0157】
生産されたエタノールは、上記のように本発明の酵母を培養して得られる培養物から採取することができる。培養物とは、培養液(培養上清)、培養酵母または培養酵母の破砕物等を意味する。エタノールは公知の精製方法により培養物から精製し、採取することができる。本発明において、エタノールは形質転換酵母から主に培養上清中に分泌されるため、培養上清から採取することが好ましい。
【0158】
エタノールの生産量は、培地に含まれるエタノールを液体クロマトグラフィーで分析することで測定できる。具体的には、実施例7で用いた方法により、エタノールの生産量を測定することができる。
また、エタノールの生産量を測定することにより、本発明の形質転換酵母のエタノール生産能を確認することができる。
【0159】
キシリトールの蓄積量、キシロースの消費速度は、培地に含まれるキシリトール、キシロースの量を、液体クロマトグラフィーで分析することで測定することができる。具体的には、実施例7で用いた方法により、キシリトールの蓄積量、キシロースの消費速度を測定することができる。
【0160】
グリセロールの生成量は、培地に含まれるグリセロールの量を、液体クロマトグラフィーで分析することで測定することができる。具体的には、実施例7で用いた方法により、グリセロールの生成量を測定することができる。
【0161】
以下に本発明において配列番号で示される塩基配列またはアミノ酸配列について記述する。
配列番号1~30:実施例で使用されるプライマーの塩基配列を示す。
配列番号31:サッカロマイセス・セレビシアPDC1の塩基配列を示す。
配列番号32:サッカロマイセス・セレビシアPDC1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号33:サッカロマイセス・セレビシアPDA1の塩基配列を示す。
配列番号34:サッカロマイセス・セレビシアPDA1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号35:サッカロマイセス・セレビシアGRE3の塩基配列を示す。
配列番号36:サッカロマイセス・セレビシアGRE3タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号37:サッカロマイセス・セレビシアSOR1の塩基配列を示す。
配列番号38:サッカロマイセス・セレビシアSOR1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号39:サッカロマイセス・セレビシアXKS1の塩基配列を示す。
配列番号40:サッカロマイセス・セレビシアXKS1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号41:サッカロマイセス・セレビシアTAL1の塩基配列を示す。
配列番号42:サッカロマイセス・セレビシアTAL1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号43:サッカロマイセス・セレビシアTKL1の塩基配列を示す。
配列番号44:サッカロマイセス・セレビシアTKL1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号45:サッカロマイセス・セレビシアADH1の塩基配列を示す。
配列番号46:サッカロマイセス・セレビシアADH1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【実施例0162】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの例示に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本発明で用いられる全部のパーセンテージや比率は質量による。また、特に記載しない限り、本明細書に記載の単位や測定方法は日本工業規格(JIS)による。
【0163】
実施例1: GRE3, SOR1, XKS1, TAL1, TKL1, ADH1, PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターのPCRによる合成
表1に示すオリゴヌクレオチド1~16を合成し、PCR反応のためのプライマーとして使用し、GRE3, SOR1, XKS1, TAL1, TKL1, ADH1, PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターの各DNA断片(以下、GRE3等の遺伝子を含有するDNA断片を遺伝子断片ともいう)を得た。また、表1に示すオリゴヌクレオチド17~20を合成し、HXT17(前半および後半)のDNA断片を得た。PCR反応のテンプレートとしてサッカロマイセス・セレビシアCEN.PK2-1C株から抽出された染色体DNAを使用した。PCR反応は、PrimeSTAR HS DNA polymerase(タカラバイオ社)を用いて、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Gradient TP600(タカラバイオ社)で行った。PCRにおける増幅条件を表2に示す。PCRでは、94℃、2分の熱変性工程の後、熱変性、アニーリング、伸長工程を30サイクル繰り返した。
【0164】
GRE3, SOR1, XKS1, TAL1, TKL1, ADH1, PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターは、サッカロマイセス・セレビシア由来である。GRE3タンパク質は、シェファソマイセス・スティピティスのXYL1(キシロース還元酵素(XR))とアミノ酸配列の同一性(相同性)を有し、SOR1タンパク質は、シェファソマイセス・スティピティスのXYL2(キシリトール脱水素酵素(XDH))とアミノ酸配列の同一性(相同性)を有するタンパク質である。XKS1タンパク質はキシルロースリン酸化酵素、TAL1タンパク質はトランスアルドラーゼ、TKL1タンパク質はトランスケトラーゼ、ADH1タンパク質はアルコール脱水素酵素である。PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターは、サッカロマイセス・セレビシアにおいて機能することが知られている。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
実施例2:キシロース資化能付与酵母の作製
実施例1で増幅されたGRE3, SOR1, XKS1の各遺伝子断片を、PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターの支配下にGRE3, SOR1, XKS1の順に連結し、発現カセットIを作製した。
また、市販のベクターpUC18に部位特異的変異によりXho I, Bgl II切断部位を導入した。部位特異的変異にはPrimeSTAR Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社)を使用した。得られたpUC18のXho I, EcoR I切断部位に実施例1で増幅されたHXT17前半部分の遺伝子断片を挿入し、Sph I, Bgl II切断部位に実施例1で増幅されたHXT17後半部分の遺伝子断片を導入した。
得られた発現カセットIをEcoR I, Sph Iで切断し、HXT17前半部分と後半部分の遺伝子断片の間に挿入し、発現カセットIIを作製した。
【0168】
作製した発現カセットIIを用いて上記遺伝子を酢酸リチウム法により染色体上HXT17部位に導入し、キシロース資化能付与酵母を得た。キシロース資化能付与の酵母としては、サッカロマイセス・セレビシアの醸造酵母を用いた。
【0169】
実施例3:TAL1・TKL1発現ベクターの作製
市販の発現ベクターpAUR135(タカラバイオ株式会社)のSmaI部位に、PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーター支配下に置いたTAL1の遺伝子断片を導入した。また、このようにTAL1の遺伝子断片を導入したpAUR135ベクターのSphI部位に、PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーター支配下に置いたTKL1の遺伝子断片を導入した。
【0170】
実施例4:親酵母(TAL1・TKL1・ADH1遺伝子導入株)の作製
実施例3で作製したTAL1・TKL1発現ベクターのEcoRI部位に、PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーター支配下に置いたADH1の遺伝子断片を導入した。得られた発現ベクターをStuIで切断して得られた遺伝子断片を、酢酸リチウム法により、実施例2で作製したキシロース資化能付与酵母の染色体上AUR1部位に導入した。得られた株をTAL1・TKL1・ADH1遺伝子導入株(親酵母)とした(以下、対照株ともいう)。
さらに、得られた対照株からURA3欠損株を作製した(以下、対照株のURA3欠損株ともいう)。具体的には、対照株のURA3欠損株は、対照株をUVにより変異処理をおこなった後、5-FOA(5-フルオロオロチン酸)で生育する株を選抜することで取得した。
【0171】
実施例5:形質転換酵母PDA1破壊株の作製
表3に示すオリゴヌクレオチド21~22を合成し、PCR反応のためのプライマーとして使用し、URA3のDNA断片を得た。また、表3に示すオリゴヌクレオチド23~26を合成し、PCR反応のためのプライマーとして使用し、PDA1(前半部および後半部)のDNA断片を得た。
【表3】
PCR反応のテンプレートとしてサッカロマイセス・セレビシアCEN.PK2-1C株から抽出された染色体DNAを使用した。PCR反応は、DNA増幅酵素として LA Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を用いて、Thermal Cycler DICE TP600(タカラバイオ社)で行った。反応条件は以下のようにおこなった。
(1)熱変性工程1: 94℃、2分間
(2)熱変性工程2: 94℃、20秒間
(3)アニーリング工程:50℃、30秒間
(4)伸長工程: 68℃、2.5分間
(1)の熱変性工程1の後、工程(2)~(4)を30サイクル繰り返した。
【0172】
PDA1、URA3は、サッカロマイセス・セレビシア由来である。PDA1タンパク質はピルビン酸脱水素酵素、URA3タンパク質はウラシル合成酵素である。
【0173】
上記で増幅されたURA3、PDA1前半部およびPDA1後半部の各遺伝子断片を、PDA1前半部、URA3、PDA1後半部の順に連結し、融合遺伝子断片を作製した。
上記融合遺伝子断片の具体的な作製方法としては、以下の通りにおこなった。PDA1前半部分断片(1~600bp)、URA3(1037bp)、PDA1後半部分断片(601~1263bp)を上述のようにそれぞれPCRで増幅し、増幅された各断片をFusion PCRにより連結した。
Fusion PCR反応において、プライマーはオリゴヌクレオチド23およびオリゴヌクレオチド26を用いた。DNA増幅酵素はTakara LA Taq polymerase(タカラバイオ)を使用した。PCRの反応条件は以下の通りである。
(1)熱変性工程1: 94℃、2分間
(2)熱変性工程2: 94℃、20秒間
(3)アニーリング工程:50℃、30秒間
(4)伸長工程: 68℃、2.5分間
(1)の熱変性工程1の後、工程(2)~(4)を30サイクル繰り返した。
【0174】
得られた融合遺伝子断片を酢酸リチウム法により、実施例4で得られた対照株のURA3欠損株の染色体上PDA1部位に導入した。得られた酵母は、ウラシルを欠損させたSD培地プレート(グルコース2%)に塗布され、30℃で3日間インキュベーションされた。
【0175】
実施例6:形質転換酵母PDC1導入株の作製
表4に示すオリゴヌクレオチド27および28を合成し、PCR反応のためのプライマーとして使用し、PDC1のDNA断片を得た。
【表4】
PDC1のPCR反応におけるテンプレートは、協会7号酵母染色体DNAを使用した。PCR反応は、DNA増幅酵素として PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ社)を用いて、Thermal Cycler DICE TP600(タカラバイオ社)で行った。反応条件は以下のようにおこなった。
(1)熱変性工程: 98℃、10秒
(2)アニーリング工程:55℃、5秒
(3)伸長工程: 72℃、3分
工程(1)~(3)を30サイクル繰り返した。
【0176】
実施例1で増幅されたPGK1プロモーターのDNA断片をpUC18のBamHI、SalI切断部位に組み込み、実施例1で増幅されたPGK1ターミネーターのDNA断片をSalI、PstI切断部位に組み込み、pUC-PGKPTを作製した。その後、pUC-PGKPTをSalIで切断し、上記で増幅したPDC1の遺伝子断片を組み込み、pUC-PDC1を作製した。
【0177】
上記で得られたpUC-PDC1をPCR反応のテンプレートとして使用し、表5に示すオリゴヌクレオチド29、30をPCR反応のためのプライマーとして使用し、PGK1プロモーター、PDC1、PGK1ターミネーターを含んだ形で増幅をおこなった。
【表5】
PCR反応は、DNA増幅酵素として PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ社)を用いて、Thermal Cycler DICE TP600(タカラバイオ社)で行った。反応条件は以下のようにおこなった。
(1)熱変性工程: 98℃、10秒
(2)アニーリング工程:55℃、5秒
(3)伸長工程: 72℃、3分
工程(1)~(3)を30サイクル繰り返した。
【0178】
PDC1、PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターは、サッカロマイセス・セレビシア由来である。PDC1タンパク質はピルビン酸脱炭酸酵素である。PGK1プロモーターおよびPGK1ターミネーターは、サッカロマイセス・セレビシアにおいて機能することが知られている。
【0179】
増幅した断片を制限酵素SmaIで切断した。得られた断片はアガロースゲル電気泳動に供した後にゲルから切り出し精製した。この断片とSmaIで切断したpAUR135プラスミドのライゲーションをおこない、酵母導入用プラスミドpAUR-PDC1を得た。
pAUR-PDC1をStuIで切断し、得られたPDC1遺伝子含有断片を、実施例4で得られた対照株に酢酸リチウム法により導入した。コントロールとして、StuIで切断したpAUR135を同様に導入した。得られた酵母は、オーレオバシジン含有(0.5mg/l)YPD培地プレートに塗布され、30℃で3日間インキュベーションされた。
【0180】
実施例7:発酵性能評価
500mlフラスコに200mlのYPD培地(ペプトン2%,酵母エキス1%,グルコース1%)を入れ、実施例5または6で得られた株を植菌した後20時間140rpm、30℃で前培養を行った。
前培養液から集菌後、滅菌蒸留水で2回洗浄し、滅菌蒸留水にてOD600を調製したものを酵母懸濁液とした。OD600は、UV1800(株式会社島津製作所)を用いて測定した。かかるOD600としては、実施例5の酵母ではOD600=300前後に、実施例6の酵母ではOD600=200前後に調製した。50ml三角フラスコにフタル酸含有改変CBS培地 (H. B. Klinke et al., Biotechnol. Bioeng., 2003年, Vol. 81, pp. 738-747:pH 5.0)(炭素源:グルコース8%、キシロース 1%、表6)と酵母懸濁液とを加え全量を15mlとし(初期OD600=15)、30℃、140rpmで48時間振とう培養し、経時的にサンプリングを行い発酵性能を評価した。
さらに、実施例5のPDA1破壊株の対照(以下、PDA1破壊対照株ともいう)として、実施例4の対照株を用い、上記発酵性能を評価した。実施例6のPDC1導入株の対照(以下、PDC1導入対照株ともいう)として、実施例4の対照株にStuIで切断したpAUR135を導入した酵母を用い、上記発酵性能を評価した。
【0181】
【表6】
【0182】
サンプリングした培養液を遠心分離して菌体を除き、上清を0.2μmポリプロピレン製フィルターでろ過し、測定サンプルとした。測定サンプル中のキシリトール、グリセロール、キシロース、およびエタノール量をHPLCにより定量した。HPLCでの分析条件を表7に示す。
【0183】
【表7】
【0184】
各株についての発酵性能評価結果を図1図3に示す。具体的には、図1は48時間培養後のキシリトールの蓄積量の結果を示す。図2は24時間培養後のキシロース消費速度の結果を示す。図3は48時間培養後のグリセロールの生成量の結果を示す。キシロース消費速度は、キシロース消費量/培養時間によって求めることができる。キシロースは48時間培養後にはすべて消費されているので、キシロース消費速度の算出には24時間培養後の消費量を用いた。図1~3は平均±標準偏差を示す(n=4)。
【0185】
図1に示される通り、PDA1破壊株、PDC1導入株では、それぞれの対照株に比べてキシリトールの蓄積量が有意に抑制された(t検定、*:p<0.01 vs PDA1破壊対照株、*:p<0.01 vs PDC1導入対照株)。また、図2、3に示される通り、キシロース消費速度およびグリセロール生成量については、PDA1破壊株、PDA1破壊対照株、PDC1導入株、PDC1導入対照株において、同等であった。
さらに、生成するエタノール量を測定し、エタノール収率(%)を評価した。エタノール収率は、生成したエタノール量が投与した基質量に理論収率(グルコース、キシロース共に0.51)を乗じて算出されるエタノール量と一致する場合を100%とした。その結果、エタノール収率については、PDA1破壊株、PDA1破壊対照株、PDC1導入株、PDC1導入対照株において、同等であった。
図1
図2
図3
【配列表】
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