(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101736
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】難燃性リヨセルフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 2/00 20060101AFI20230713BHJP
D01F 1/07 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
D01F1/07
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090512
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2020519769の分割
【原出願日】2018-10-08
(31)【優先権主張番号】17001649.7
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17001650.5
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】マリノウスキー、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ノイントイフェル、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】クルノジャ-コシック、マリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ビスジャーク、クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】アイヒンガー、ディエター
(72)【発明者】
【氏名】シュレンプ、クリストフ
(57)【要約】
【課題】本発明は、難燃性を有するフィラメント、さらにはその製造方法及びその使用に関する。
【解決手段】難燃性を有するフィラメントは、難燃剤及びセルロースを含む難燃性フィラメント(FRフィラメント)であって、前記フィラメントはリヨセルフィラメントであることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤及びセルロースを含む難燃性フィラメント(FRフィラメント)であって、前記フィラメントはリヨセルフィラメントであることを特徴とする、FRフィラメント。
【請求項2】
22cN/tex以上の平均乾燥引張強度を有する、請求項1に記載のFRフィラメント。
【請求項3】
11cN/tex以上の平均湿潤引張強度を有する、請求項1又は請求項2に記載のFRフィラメント。
【請求項4】
難燃剤の量が、2~50重量%である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のFRフィラメント。
【請求項5】
パルプ、N-メチルモルホリン N-オキシド、水、及び難燃剤を含む組成物を提供すること、並びに前記溶液を紡糸してフィラメントを製造すること、を含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のFRフィラメントを製造するための方法。
【請求項6】
前記紡糸溶液中の難燃剤及びパルプの量が、前記紡糸溶液の12~25%の範囲内である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
紡糸速度が、250~750m/分の範囲内である、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パルプが、亜硫酸セルロース及び硫酸セルロースを含む、請求項5~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
糸、布地、及びテキスタイル製品の製造のための、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のFRフィラメント又は請求項5~請求項8のいずれか一項に従って製造されたFRフィラメントの使用。
【請求項10】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のFRフィラメント又は請求項5~請求項8のいずれか一項に従って製造されたFRフィラメントを含む、糸、布地、又はテキスタイル製品。
【請求項11】
前記FRフィラメントが、他の種類の繊維とブレンドされる、請求項9又は請求項10に記載の使用又は製品。
【請求項12】
EN ISO 15025:2002 B法-下端着火、に従って試験された場合に、EN ISO 14 116分類「火炎伝播性インデックス3」に従う要求を満たしている、請求項9~請求項11のいずれか一項に記載の使用又は製品。
【請求項13】
マルチフィラメント糸である、請求項9~請求項12のいずれか一項に記載の使用又は製品。
【請求項14】
前記FRフィラメントが、樹脂仕上げ剤を含む、請求項9~請求項13のいずれか一項に記載の使用又は製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性リヨセルフィラメント、さらにはそれを製造するための方法、及び前記難燃性フィラメントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性繊維は、工業用布地から衣料品の上着まで、非常に様々な用途分野で用いられている。セルロース系繊維は、これらの用途分野で長い間使われてきたが、セルロース系フィラメントは、報告されているその不充分な寸法安定性及び低い湿潤強度のために、まだそれほど注目されておらず、この分野においてそれほど使用されていない。本明細書で用いられる場合、フィラメントという用語は、例えばBISFA(国際人工繊維標準化局(The International Bureau For The Standardization Of Man-Made Fibres))の専門用語(本明細書及び請求項で用いられるさらなる専門用語も、BISFAの刊行物において規定されている通りであり、以下も参照されたい)によると、連続的(エンドレス)と見なされる非常に長い繊維を規定するものであり、ステープル繊維、フロックなどのより短い種類の繊維のフィラメントとは区別される。そのようなより短い種類の繊維の場合、寸法安定性の懸念および強度の懸念は、重要度が低く、そのため、セルロース系ステープル繊維などは、難燃剤を含む添加剤を含有するバージョンにおいても、広く用いられてきた。しかし、フィラメントの場合、寸法安定性及び強度特性、特に湿潤強度に関する懸念は、より大きい問題である。これが、セルロース系フィラメント、特に難燃性フィラメントが依然として広く用いられていない理由の1つである。
【0003】
先行技術では、難燃剤を添加剤として用いてビスコースステープル繊維が製造されてきた。米国特許出願公開第2012/0156486(A1)号及び米国特許出願公開第2013/0149932(A1)号は、そのような先行技術のステープル繊維に関する明細書の例である。しかし、ビスコースフィラメントなどのセルロース系フィラメントは、難燃剤と共に製造された場合、寸法安定性、さらには充分な乾燥及び湿潤強度などの必要とされる特性を示してこなかった。これは、製織及び染色及び仕上げ、さらには破れた状態で洗濯又は使用した場合の縮みに関する適切なテキスタイル性能の実現などの要求の厳しいテキスタイル処理に耐えるために必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の問題に照らして、本発明の目的は、強度及び寸法安定性に関して高品質の基準を満たす難燃性フィラメント(FRフィラメント)を提供することである。難燃性フィラメントという用語は、本明細書で用いられる場合、単に難燃性材料がコーティングされたものではなく、フィラメントのマトリックス中に難燃剤が組み込まれたフィラメントを規定する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この問題は、後述の態様<1>に記載のフィラメントによって、本発明に従って解決される。好ましい実施形態は、後述の態様<2>~<5>に記載されている。本発明はさらに、後述の態様<6>に記載の方法も提供し、これに関するやはり好ましい実施形態は、後述の態様<7>~<9>に記載されている。最後に、本発明は、後述の態様<10>に記載の使用、及び後述の態様<11>に記載の製品を提供し、これらに関する好ましい実施形態は、後述の態様<12>~<15>に記載されている。さらなる拡張は、以下の記述に提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
驚くべきことに、難燃性リヨセルフィラメントが、先行技術の欠点、並びにビスコースフィラメントなどの難燃性セルロース系フィラメントに関する認識及び懸念を克服することが見出された。本明細書で述べるリヨセルフィラメントは、驚くべきことに、充分に高い特性のバランスを示し、難燃性フィラメントの形態で信頼性高く製造することができる。これらのFRフィラメントは、フィラメント糸、さらには本発明に従うフィラメント及び糸から製造される保護服用の布地、又は他の工業用途のための布地若しくは不織布を含む様々な製品の製造のために非常に有望である。
【0007】
リヨセル繊維は、本技術分野において公知であり、それを製造するための一般的な方法は、例えば、米国特許第4,246,221号及びBISFA(国際人工繊維標準化局)の刊行物「Terminology of Man-Made Fibres」の2009年版に開示されている。両参考文献共に、その全内容が参照により本明細書に含められる。
また、セルロースフィラメント糸の製造方法に関する国際公開第02/18682(A1)号及び国際公開第02/72929(A1)号も参照され、これらについても、その全内容が含められる。
【0008】
上記で示されるように、本発明に従うFRフィラメントは、リヨセルフィラメント、すなわち、リヨセルプロセスを用いて製造されるフィラメントである。このプロセスは、当業者に公知であり、したがって、本明細においてさらに詳細に述べることはしない。実施例、さらには本明細書で述べる特許文献が、このプロセスについての説明を提供する。前記フィラメントは、所望されるいかなる線密度を有していてもよく、適切な値は、0.6~4dtexの範囲内であり、好ましい値は、0.8~2dtexの範囲内である。本発明のFRフィラメントを製造するために用いられるセルロース原料品は、重要ではなく、リヨセルプロセスに適するいかなる種類の原料品が用いられてもよい。
【0009】
上記で示されるように、本発明は、特に、新規かつ進歩性のあるFRフィラメントが、乾燥状態さらには湿潤状態において、機械的(強度/引張強度)特性の驚くべき高いバランスを、及び加えて非常に満足のいく寸法安定性を呈することを特徴とする。同時に、所望される難燃性を、機械的特性を過剰に犠牲にすることのないフィラメントであっても、得ることができる。本発明のフィラメントで得ることのできる強度特性は、典型的には、コンディショニングされた状態で特定され、本発明のFRフィラメントの場合、これらの特性は、典型的には、以下の通りである:
少なくとも22cN/texの平均乾燥引張強度(FFk)。前記フィラメントの平均乾燥破断伸び(FDk)は、少なくとも6%、好ましくは6%~8%である。これらの特性は、以下の試験装置及びパラメータを用いて評価される。
試験装置:USTER(登録商標)Tensorapid 4 2.4.2 UTR4/500N:
試験長さ:500mm
クランプ速度:60mm/分
クランプ圧力:30%
予負荷:4.1cN
【0010】
本発明に従うフィラメントは、したがって、好ましい高い寸法安定性を示し、それから製造される糸及び布地に有益性をもたらす。このように、本発明のFRフィラメントを用いて、高品質の難燃性製品を製造することができる。
【0011】
上記で述べたように、本発明のフィラメントは、FRフィラメント、すなわち、難燃剤が組み込まれたフィラメントである。本発明のフィラメントは、リヨセルフィラメントであることから、前記難燃剤の組み込みは、本明細書に含まれる実施例にさらに示されるように、前記難燃剤を適切な方法で紡糸溶液中に(又は、少なくとも前記フィラメントを紡糸する前の組成物中に)含めることによって実現することができる。難燃剤の種類は重要ではなく、典型的には前記難燃剤の溶液の形態で、好ましくは水溶液の形態で、特に前記紡糸溶液又は紡糸組成物中に含めることができればよい。しかし、前記難燃剤は、微粉砕粉末、又はそのような微粉砕粉末の分散体の形態で含められてもよい。難燃剤のそのような固体形態が用いられることになる場合、前記難燃剤の平均粒子径が、フィラメント径の50%以下であることが好ましく、より好ましくは前記フィラメント径の30%以下、さらにより好ましくは10%以下である。
【0012】
最終フィラメント中の難燃剤の量は、典型的には、前記フィラメントの2~50重量%、好ましくは10~40、さらにより好ましくは15~30重量%の範囲内である。この量は、必要に応じて(例えば、所望される難燃性の度合いに関連して)調整されてよく、前記紡糸溶液又は紡糸組成物中のセルロースと難燃剤との比によって調節することができる。
【0013】
難燃剤の種類は、上記で述べたように、重要ではない。しかし、窒素及びリン含有化合物に基づく難燃剤が好ましく、Aflammit(登録商標)の商標下で市販されているものなどである。特に、Aflammit KWBなどの有機リン化合物が好ましい。用いられるいずれの難燃剤も、典型的には目的とする前記フィラメント径に応じて、紡糸プロセスに適する粒子サイズを有する難燃剤を得るために(前記紡糸組成物中に可溶性でない場合)、ミリングなどの前処理に掛けられてよい。そのようなプロセスは、当業者に公知である。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、テトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩とアンモニアとの酸化縮合物である難燃剤、及び/又は1若しくは複数のアミン基を含有する窒素化合物である難燃剤は除外される。
【0015】
上記で概説したように、本発明に従うFRフィラメントは、リヨセルフィラメントである。したがって、本発明に従うフィラメントを製造するためのプロセスは、少なくともセルロース、水、NMMO、及び前記難燃剤を含む紡糸溶液の提供、並びに前記溶液を紡糸すること、並びに当業者に公知の方法で前記フィラメントを再生すること、を含む。本発明によると、300~600m/分、好ましくは350~450m/分などの約250~750m/分の紡糸速度が用いられ得ることが特定された。前記プロセスの過程で、染料及び顔料などのいずれかのさらなる必要とされる添加剤及び安定剤が、必要に応じて添加されてもよい。
【0016】
前記フィラメントは、当然、コーティング、仕上げなどの何らかの通常の紡糸後処理を受けてもよい。当業者であれば、前記FRフィラメントの意図される使用に応じて、適切なプロセスを選択することができる。しかし、様々なプロセス工程の詳細な概要を含む好ましい例示的な紡糸プロセスを、以下に概説する。
【0017】
本発明は、本明細書で述べるリヨセルフィラメントを、さらには例えばリヨセルマルチフィラメント糸を製造するためのプロセスを提供する。前記プロセスについて、個々のプロセス工程に言及して詳細に記載する。これらのプロセス工程及び対応する好ましい実施形態が、適宜組み合わされてもよいこと、並びに本出願が、これらの組み合わせを、本明細書で明示的に記載されていない場合であっても、包含し、開示することは理解されたい。
【0018】
・紡糸溶液の製造
以下の要件を満たすセルロース出発物質を用いることが好ましいことが見出された。
【0019】
公知のリヨセル紡糸溶液のレオロジー特性は、高速フィラメント糸製造の要求に適合していない場合がある。例えば、ステープル繊維製造において公知である紡糸溶液組成物を用いた場合、許容されない回数のフィラメント破断が発生する。これまでに開示されたものよりも広い分子量分布のセルロース原料を用いることで、すなわち、450~700ml/gの範囲内のスキャン粘度を有するセルロースの5~30重量%、好ましくは10~25重量%を、300~450ml/gの範囲内のスキャン粘度を有するセルロースの70~95重量%、好ましくは75~90重量%とブレンドすることによって、これら2つの画分が40ml/g以上、好ましくは100ml/g以上のスキャン粘度差を有する場合に、この問題が克服されることが見出された。スキャン粘度は、SCAN-CM 15:99に従って、カプリエチレンジアミン溶液中で特定され、当業者に公知であり、psl-rheotek製の装置Auto PulpIVA PSLRheotekなどの市販の装置で実施することができる手法である。
【0020】
必要とされる分子多分散性を実現するためのそのようなセルロース原料を得るために(例えば、木材パルプから)、異なる種類の出発物質のブレンドが用いられてよい。最適なブレンド比は、各ブレンド成分の実際の分子量、フィラメント製造条件、及び前記フィラメント糸の具体的な製品要件に依存することになる。別の選択肢として、必要とされるセルロース多分散性は、例えば、木材パルプの製造過程で、乾燥前にブレンドすることによって得ることも可能である。これにより、リヨセル製造の過程でパルプストックを注意深くモニタリングし、ブレンドするという必要性がなくなる。
【0021】
前記紡糸溶液中のセルロースの総含有量は、典型的には、10~20重量%、好ましくは10~16重量%であり、例えば12~14重量%などである。当業者であれば、リヨセルプロセスのための紡糸溶液に必要とされる成分が認識されることから、前記成分及び一般的製造方法についてのさらなる詳細な説明は、ここでは必要ではないと考えられる。これらに関しては、参照により本明細書に援用される米国特許第5,589,125号、国際公開第96/18760号、国際公開第02/18682号、及び国際公開第93/19230号を参照されたい。
【0022】
本発明に従うプロセスをさらに制御するために、高いレベルのプロセスモニタリング及び制御を用いて、前記紡糸溶液の組成の均一性を確保することが好ましい。これには、紡糸溶液組成物/圧力/温度のインライン測定、粒子含有量のインライン測定、ジェット/ノズル中での紡糸溶液温度分布のインライン測定、及び定期的なオフラインクロスチェックが含まれ得る。
【0023】
本発明で用いられる前記リヨセル紡糸溶液の品質を制御し、必要であれば向上させることがさらに好ましく、なぜなら、大粒子が含まれると、個々のフィラメントが、形成される過程で許容されない破断を起こす結果となり得るからである。そのような粒子の例は、不純物であり、例えば、砂など、および、充分に溶解していないセルロースを含むゲル粒子である。そのような固体不純物の含有量を最小限に抑えるための1つの選択肢は、ろ過プロセスである。前記紡糸溶液の多段階ろ過は、固体不純物を最小限に抑えるための最適な方法である。当業者であれば、より細いフィラメント繊度のためには、より高いろ過ストリンジェンシーが必要とされることは理解される。典型的には、例えば、絶対阻止能が約20ミクロンである深層ろ過は、1.3デシテックスフィラメントに有効であることが見出された。より細いフィラメントデシテックスには、15ミクロンの絶対阻止能が好ましい。ろ過を実施するための装置及びプロセスパラメーターは、当業者に公知である。
加えて、前記紡糸溶液の粘度を、110℃、1.2(1/秒)のせん断速度で測定して、500~1350Pa・sの範囲に調節することが適切であることが見出された。
【0024】
前記紡糸溶液の、その製造中の温度は、典型的には、105~120℃、好ましくは105~115℃の範囲内である。実際の紡糸/押出しの前に、前記溶液は、所望に応じてろ過の後に、当業者に公知のプロセス及び装置を用いて、典型的には115~135℃、好ましくは120~130℃のより高い温度まで加熱される。このプロセスは、紡糸ノズルを通しての押出しに適する前記紡糸溶液(紡糸物と称される場合がある)を提供するために、ろ過工程と共に、前記紡糸溶液の均質性を、その初期製造後に高める。次に、好ましくは、この紡糸溶液は、押出し/紡糸の前に、110℃~135℃、好ましくは115℃~135℃の温度とされ、これは、中間冷却及び加熱ステージ、さらにはテンパリングステージ(前記紡糸溶液が、ある特定の時間にわたって所与の温度で維持されるステージ)を含んでよいプロセスである。そのようなプロセスは、当業者に公知である。
【0025】
・フィラメントの押出し
各紡糸口金ノズル孔を通る前記紡糸溶液の流量を均一かつ一定とすることは、前記プロセスをさらに改善し、個々のセルロースフィラメントに対する品質要件を、さらには結果としてマルチフィラメント糸に対する品質要件を満たす補助となることが見出された。これは、フィラメント及びフィラメント糸製造に必要とされる、200m/分以上の範囲である非常に速い生産速度の観点から特に適切である。本発明によると、200m/分以上の生産速度を実現することができ、400m/分以上、好ましくは700m/分以上、さらには最大1000m/分以上などである。適切な範囲は、200~1500m/分であり、400~1000m/分又は700~1000m/分などであり、700~1500m/分などの範囲を含む。
【0026】
リヨセル紡糸溶液の押出しに用いられる各紡糸口金部は、連続フィラメント糸に必要とされるフィラメントの数に対応した数のノズル孔を有する。例えば参照により本明細書に援用される国際公開第03014429(A1)号に開示されるように、複数の紡糸口金部を組み合わせて単一の紡糸口金プレートとすることによって、単一のジェットから複数の糸を押出すことができる。
【0027】
各フィラメント糸に対するノズル孔の数は、意図する糸の種類に応じて選択されてよいが、前記数は、典型的には、10~300、好ましくは20~200の範囲内であり、30~150などである。
【0028】
紡糸溶液流量の均一性は、前記紡糸口金及び前記個々のノズル内の良好な温度制御を提供することによって向上され得る。紡糸中の前記ノズル内及びノズル間の温度変動は、できる限り小さいことが好ましく、好ましくは±2℃以内である。これは、紡糸溶液の温度のいかなる局所的な相違も相殺することを可能として、前記紡糸溶液の温度を、各紡糸口金ノズルから押出される際に精密に制御するために、前記紡糸口金及び前記個々のノズルを一連の異なるゾーンで直接加熱する手段によって実現され得る。そのような温度制御手段の例は、参照により本明細書に援用される国際公開第02/072929号及び国際公開第01/81662号に開示されている。
【0029】
紡糸口金ノズルプロファイルは、好ましくは、前記ノズルを通る紡糸溶液のスムーズな加速を最大化し、同時に圧力損失は最小限に抑えるように設計される。前記ノズルの重要な設計の特徴としては、限定されないが、平滑な入口部表面、及びノズル出口部のシャープなエッジが挙げられる。
【0030】
・初期冷却
前記紡糸ノズルを出た後、前記個々のフィラメントは、典型的には、冷却プロセスに掛けられ、典型的には空気流が用いられる。したがって、この工程での前記フィラメントの冷却は、通風を、好ましくは、エアギャップでの制御された横通風(cross draught)を用いることによって行われることが好ましい。前記通風は、前記繊維の品質に有害な影響を及ぼすことなく所望される冷却効果を得るために、制御された湿度を有するべきである。適切な湿度値は、当業者に公知である。しかし、この工程に公知のリヨセルステープル繊維手順を直接適用してもうまく作用せず、なぜなら、これは、速いフィラメント生産速度を考慮に入れて、非常に長いエアギャップ(200mm超)を必要とするからである。しかし、そのようなエアギャップは、前記個々のフィラメントが動いて接触し、フィラメントの融合及び低い製品品質に繋がることから、実行できない。同じ理由から、ステープル繊維製造用に開示される高速の横通風も、問題を呈し得ることが見出された。加えて、フィラメント製品の場合は、ステープル繊維と比較して、延伸のより高い均一性及び一貫性が必要とされる。
【0031】
したがって、本発明は、フィラメント糸製造の品質要件を満たすために、前記フィラメント製造処理を調節する新規な手段を提供する。
【0032】
例えば、参照により本明細書に援用される国際公開第03014436(A1)号には、適切な横通風機構が開示されている。エアギャップの長さ全体にわたる均一なフィラメント冷却が好ましい。
【0033】
上記で概説したように、特に高生産速度を考慮した場合に一般的な紡糸プロセスの理解に従って必要であると見なされる前記長いエアギャップは、実行できない。しかし、約40~130mmなど、ステープル繊維製造に典型的に用いられるよりも長いエアギャップ長さが良好に用いられ得ることが見出された。好ましくは、前記エアギャップは、40~120mmの範囲内であり、50~100mmなどである。実施形態では、これは、紡糸口金面でのフィラメント間隔を広げること(リヨセルステープル繊維製造で用いられるノズル間隔の約2倍)と組み合わされ得る。そのような機構は、フィラメント製造に有益であることが見出された。このようにしてフィラメント間隔を広げることにより、フィラメントが接触する可能性が低減され、必要とされる均一なフィラメント冷却が実現可能となる。
【0034】
横通風速度は、リヨセルステープル繊維製造に用いられている速度よりも非常に低いことが好ましい。適切な値は、0.5~3m/秒、好ましくは1~2m/秒である。湿度値は、空気1kgあたり0.5~10gの水の範囲内であってよく、空気1kgあたり2~5gの水などである。風の温度は、好ましくは、20℃未満などの25℃未満の値に制御される。
【0035】
・フィラメントの初期凝固
前記紡糸口金ノズルを出て、前記エアギャップで冷却された後、製造された前記フィラメントは、さらに初期凝固のために処理される必要がある。これは、前記個々のフィラメントを、紡糸浴とも称される凝固浴中に入れることによって実現される。高度な製品品質の均一性を実現するためには、前記フィラメントのこのさらなる初期凝固が、狭い許容範囲内で、すなわち、ほんの僅かな変動で、好ましくは精密に同じ位置で行われることが好ましいことが見出された。
従来の紡糸浴設計は、速いフィラメント速度(約400m/分超)に起因する流体力が前記浴の液面を乱す結果として、不均一な初期凝固(及び不定のエアギャップサイズ)、さらにはフィラメントの融合及び他の損傷の可能性ももたらすことから、この目的に適さない場合が多いことが見出された。そのような問題に備えて、50mm未満の深さを有する浅い紡糸浴を用いることが好ましいことが特定された。
【0036】
そのような紡糸浴は、例えば、参照により本明細書に援用される国際公開第03014432(A1)号に開示されており、これには、5~40m、好ましくは5~30mm、より好ましくは10~20mmの範囲内の浅い紡糸浴深さが開示されている。そのような浅い紡糸浴を用いることにより、紡糸されたフィラメントと前記紡糸浴中の凝固溶液との接触位置を制御することが可能となり、それによって、従来の紡糸浴深さを用いた場合に発生し得る前記問題が回避される。
【0037】
加えて、前記紡糸浴中のアミンオキシドの濃度が、リヨセル繊維製造に典型的に用いられるよりも小さい値に制御される場合、フィラメントの品質も向上することができることが見出された。25重量%未満、より好ましくは20重量%未満のアミンオキシド、さらにより好ましくは15重量%未満の紡糸浴濃度が、フィラメントの品質を向上させることが見出された。前記アミンオキシド濃度の好ましい範囲は、5~25重量%であり、8~20重量%又は10~15重量%などである。これは、リヨセルステープル繊維製造に対して開示されている範囲よりも著しく低い。そのような低アミンオキシド濃度を維持可能とするために、前記紡糸浴の組成の連続的なモニタリングが好ましく、それによって、例えば、前記濃度の調節を、水の補充により、及び/又は過剰なアミンオキシドの選択的な除去により行うことができる。
この紡糸浴の温度は、典型的には、5~30℃、好ましくは8~16℃の範囲内である。
【0038】
前記紡糸溶液について上記で開示した好ましい実施形態と同様に、形成されたばかりの傷付き易いフィラメントが前記紡糸浴中の望ましくない固体不純物によって損傷を受ける可能性を最小限に抑えるために、高ストリンジェンシーな紡糸浴液ろ過が考えられる。これは、700m/分を超える非常に速い生産速度の場合に特に重要である。
【0039】
前記紡糸浴内で、前記紡糸浴からの出口部によって目的の最終糸の前記個々のフィラメントが一緒にされ、初期マルチフィラメント束にまとめられ、前記出口部は、典型的には、リング形状出口部であり、前記フィラメントを一緒にまとめ、さらには、前記フィラメント束と一緒に前記浴から排出される紡糸浴溶液の量を制御する働きも有する。適切な機構は、当業者に公知である。前記フィラメントの少なくとも一部は、前記リング形状出口部と接触することから、前記リング形状出口部の形状さらには材料の選択は、前記フィラメント束に掛かる張力に影響を与える。当業者であれば、前記フィラメント束に対するいかなる負の影響も最小限に抑えるための、前記紡糸浴からのこれらの出口部に適する材料及び形状が分かるであろう。
【0040】
したがって、本発明に従うプロセスの好ましい実施形態では、前記プロセスは、10~15重量%、好ましくは12~14重量%のセルロースを含むリヨセルプロセスに適する紡糸溶液を製造する工程を含み、前記セルロースは、異なるスキャン粘度値を有するセルロースの上述したブレンドである。このプロセスはさらに、押出しノズルを通るときの温度変動を±2℃以下に維持しながら、前記紡糸溶液を前記押出しノズルを通して押出す工程を含む。こうして製造されたフィラメントは、上述したように初期冷却に掛けられ、続いて、このようにして得られたフィラメントの前記初期凝固が、深さが50mm未満、好ましくは5~40mm、より好ましくは10~20mmである凝固浴(紡糸浴)中で行われる。
【0041】
この凝固浴に用いられる前記凝固液の組成物は、23重量%以下、より好ましくは20重量%未満、さらにより好ましくは15重量%未満のアミンオキシドの濃度を示す。このアミンオキシド含有量の調節は、アミンオキシドの選択的除去及び/又は新たな水の補充によって前記好ましい範囲に前記濃度を調節することによって実現することができる。
【0042】
そのようなプロセスにより、高品質の、及び特に高い均一性のフィラメントを確実に得ることができ、前記フィラメントは、特に、均一な凝固が確保され、したがって均一なフィラメント特性が確保される方法で前記凝固浴に投入される。加えて、上記で述べたプロセスの実施形態では、以下でさらに述べるように、標準的なリヨセルステープル繊維製造プロセスと比較して、例えばより広いノズル間隔を用いることによって、押出し時の前記個々のフィラメント間の距離を調節することが好ましい。これらの好ましいプロセスパラメータ及び条件により、本明細書で述べるように、高い均一性のリヨセルフィラメントの製造が可能となり、同時に、所望される速いプロセス速度(200m/分以上、より好ましくは400m/分以上、及び実施形態では、700m/分以上という速さの紡糸速度)も可能となる。これに関連して、上記で説明した前記プロセスパラメータ及び条件は、フィラメント及び糸の製造停止が必要となるフィラメントの破断などを回避することから、本発明はさらに、セルロースリヨセルフィラメント及び対応する糸の連続する長期間にわたる製造を可能とする。
【0043】
・フィラメントの延伸
前記紡糸浴を出た後、前記マルチフィラメント束は、典型的には、最終糸をもたらすことになる前記束を、洗浄、乾燥、及び巻き取りなどの次の処理ステージへ向けるガイドローラーによって引き取られる。この工程の過程では、好ましくは、前記フィラメント束の延伸は行われない。前記紡糸浴の前記出口部から前記ガイドローラーとの接触部までの距離は、必要に応じて選択されてよく、100~400mmなどの40~750mmの距離が適切であるとして示された。このプロセス工程が、製品品質を制御し、それに影響を与えるためのさらなる選択肢を提供可能であることが見出された。このプロセス工程では、例えば、フィラメントの結晶構造の調節が可能であり、それによって、リヨセル連続フィラメント糸の望ましい特性が実現される。上記で述べたように、及び後述の態様<1>の文言から誘導可能であるように、このプロセス工程での成功は、上記で述べたように、紡糸溶液のレオロジー及びノズルからの押出しの一貫性と密接に関連していることが見出された。
【0044】
上記で述べたように、ガイドローラーなどの手段が、フィラメントを引き取り、それを集めて初期糸を形成し、こうして得られた前記糸を、さらなる処理工程へ向けて誘導する。本発明によると、前記フィラメント束(糸)と前記ガイドローラーとの接触位置で前記フィラメント束に掛けられる最大張力は、(4.2×フィラメント数/フィラメント繊度)0.69(cN)以下であることが好ましい。この張力は、前記フィラメント/フィラメント束に対して、前記紡糸ノズルを出る位置から最初の接触位置まで、例えば前記凝固工程後に提供される前記ガイドローラーとの最初の接触位置までの間で掛けられる張力を意味する。上記で提供される式から、例示として、例えば60フィラメントで糸の繊度が80dtex(個々のフィラメントは1.33dtexの繊度を有する)のフィラメント束に対する前記最大張力が定められ、前記最大張力は、(4.2×60:1.33)0.69、したがって、37.3cNである。
【0045】
そのような特定の最大張力を維持することによって、高品質の糸を得ることができるようにフィラメント破断を確実に防止することができる。加えて、このことは、前記フィラメント製造プロセスを、障害を起こすことなく必要とされる時間にわたって確実に継続可能とする補助となる。当業者であれば、本明細書で言及される張力が、3本ロール試験装置(three roll testing apparatus)Schmidt-Zugspan-nungsmessgerat ETB-100を用いることによって、全体プロセスから取ったサンプルを用いて測定される張力であることは理解される。本明細書で言及される指定された接触位置でフィラメント及びフィラメント束に対して測定される前記張力は、上記で提供される式に従う値に前記張力値を調節する目的で、本発明に関して本明細書で開示されるプロセスパラメータを用いて、特に、前記紡糸溶液の組成、前記紡糸浴深さ及び前記紡糸浴液(凝固浴)組成、前記横通風、並びにノズル設計及びノズル間隔などの紡糸口金設計を調節することによって、製品品質及びプロセス安定性を制御するために用いることができる。
【0046】
・フィラメントの洗浄
初期凝固及び冷却後の前記フィラメントは、依然としてアミンオキシドを含有していることから、得られた前記フィラメント及び/又は糸は、典型的には、洗浄に掛けられる。アミンオキシドは、脱塩水又は他の適切な液体の向流を介して、典型的には70~80℃で、新たに形成された糸から除去することができる。ここまでのプロセス工程と同様に、トラフ(troughs)の使用を例とする従来の洗浄法は、約400m/分を超える速い生産速度の観点から問題を呈し得ることが見出された。加えて、高品質の製品を得るためには、各個々のフィラメントへの洗浄液の均一な適用が好ましい。同時に、目的の糸特性を実現するために前記フィラメントの完全性を維持する目的で、前記傷付き易いフィラメントと洗浄面との間の接触が最小限であることも好ましい。さらに、個々のフィラメント糸は、互いに近接して洗浄される必要があり、及びライン長さは、プロセスを経済面で実行可能とするために、最小限に抑えられるべきである。上記の観点から、好ましい洗浄プロセスは、以下を単独で、又は組み合わせて含むことが見出された。
【0047】
洗浄は、好ましくは、一連の駆動ローラーを用いて行われ、各糸は、個々に一連の洗浄液含浸工程/洗浄液除去工程に掛けられる。
【0048】
各洗浄含浸工程の後に、前記傷付き易いフィラメントを損傷させることなく、各糸フィラメントから液体を均一に除去又は脱液する手段を提供することが有益であることが見出された。これは、例えば、適切に設計及び配置されたピンガイドを介して実現され得る。前記ピンガイドは、例えば、マットクローム処理で構築されていてよい。前記ガイドは、フィラメント糸の近接した間隔(約3mm)、フィラメントとの良好な接触を可能とし、均一な液体除去及びフィラメントの損傷を最小限に抑えるための低張力をもたらす。
【0049】
所望に応じて、前記フィラメントからの残留溶媒の除去効率を高めるために、アルカリ洗浄工程が含まれてもよい。
【0050】
使用済み洗浄液(第一のピンガイド後)は、典型的には、溶媒回収へ戻る前で、10~30%、好ましくは18~20%のアミンオキシドの濃度を有する。
【0051】
「柔軟仕上げ剤」が、さらなる処理の補助とするために適用されてよい。種類及び適用方法は、当業者に公知である。例えば、「リックローラー(lick-roller)」機構で前記フィラメント上に約1%の仕上げ剤を適用し、続いてニップローラーで乾燥機へ向かう糸の張力を制御することが効果的であることが見出された。
【0052】
・糸の乾燥
ここでも、この工程を良好に制御することが、最適な糸特性の発現及びフィラメント損傷の可能性の最小化を補助する。乾燥手段さらには乾燥パラメータは、当業者に公知である。好ましい実施形態は、以下に規定される。
【0053】
乾燥機は、例えば、約1m径の加熱ドラム12~30個から成る。フィラメントの張力が低く一定に、好ましくは10cN未満、好ましくは6cN未満で確実に維持されるように、個々の速度を制御することが好ましい。乾燥を通しての糸の間隔は、約2~6mmであってよい。
【0054】
乾燥機の初期温度は、約150℃である。前記乾燥プロセスの後期ステージでは、乾燥が進行するに従って温度がこれよりも低くてよい。
【0055】
乾燥後、当業者に公知の手段によって帯電防止剤及び/又は柔軟仕上げ剤が前記フィラメント糸に適用されてよい。
【0056】
糸の混紡、かさ高加工、交織を例とするさらなるプロセス工程が、当業者に公知のプロセスを用いて、乾燥後、回収前に適用されてよい。所望される場合、上記で示した工程の前に、前記糸に柔軟仕上げ剤が適用されてもよい。
【0057】
・糸の回収
糸は、標準的な巻き取り装置を用いて回収されてよい。適切な例は、一列のワインダーである。ワインダー速度を用いて、低く一定の糸張力を維持するために上流のプロセス速度が微細に調整される。
【0058】
当業者であれば、染料、抗菌製品、イオン交換製品、活性炭、ナノ粒子、ローション、難燃剤製品、高吸収剤、含浸剤、染料、仕上げ剤、架橋剤、グラフト剤、バインダー、及びこれらの混合物などの様々な改質剤が、前記紡糸溶液の製造過程で、又は前記洗浄ゾーンで添加されてもよいことは理解され、これらの添加が、前記紡糸プロセスを阻害しなければよい。このことにより、製造される前記フィラメント及び糸を、個々の製品要件を満たすように改質することが可能となる。当業者であれば、そのような上記で言及した物質を、前記リヨセルフィラメント糸製造プロセスの工程で添加する方法を良く認識している。これに関して、前記洗浄ステージで通常添加されることになる多くの望ましい改質剤が、速いライン速度、したがって短い滞留時間のために、前記フィラメント糸経路では有効ではないことが見出された。これらの改質剤を導入するための別の選択肢としての手法は、充分に洗浄されたが「まったく乾燥されていない」フィラメント糸を回収し、これらを、滞留時間が制限因子とはならないバッチ式のさらなる処理に供することである。
【0059】
本発明に従うFRフィラメントは、糸、布地、及び不織布などのさらなる製品を製造するために用いることができる。糸は、様々な数の本発明のフィラメントを含んでよく、適切な例は、15~150などの10~200フィラメントであり、実施形態では、25~100である。糸の繊度は、意図する使用分野に応じて広範囲を包含してよく、例えば、50~120デニールなどの30~150デニールの範囲内の繊度である。高い機械的強度及び少し低い破断伸びなどの特性の独特のバランスに起因して、本発明のフィラメントを用いて高い寸法安定性を有する高品質の製品を製造することができる。
【0060】
本発明のFRフィラメントは、さらなる(テキスタイル)製品を製造する場合、単独で用いられてよいが、また、前記フィラメントは、所望される特性プロファイルを有するフィラメント混合物を作り出すために、他の種類の繊維とブレンドされてよい。特に、本発明のFRフィラメントを他の繊維とブレンドすることは、意図する製品が高度な難燃性を必要としない場合に選択肢であり得る。別の選択肢は、高い強度の布地が所望される場合に、前記FRフィラメントを高強度のフィラメントとブレンドすることである。いずれの場合でも。したがって、本発明におけるFRフィラメントは、上記で説明したように、他の種類の繊維とのブレンドの場合でも、良好な特性を提供することが示された。
【0061】
以下の例は、本発明を例示する。
【実施例0062】
以下の例は、非難燃性のビスコース、キュプラ、及びリヨセルフィラメントと比較して本発明のFRリヨセルフィラメントの優れた特性を実証するものである。
実施例1は、本発明に従うFRリヨセルフィラメントの特性を示す。
比較例1~3は、それぞれ、ビスコースフィラメント、キュプラフィラメント、及びリヨセルフィラメントの特性を示し、これらはすべて難燃性成分を含有していない。
【0063】
実施例1における本発明に従うフィラメントは、以下のようにして作製した。
パルプ(セルロース)を、78%のN-メチルモルホリン N-オキシド(NMMO)水溶液及び少量の安定剤で含浸した。得られた懸濁液は、11.6%のセルロース、68%のNMMO、20.4%の水、及び安定剤GPEを含有していた。前記パルプは、亜硫酸セルロースと硫酸セルロースとの混合物から成っていた。難燃剤(Aflammit KWB、50%のNMMO水溶液中、20%の粉砕Aflammit KWBの懸濁液)を添加して、最終紡糸溶液を調製し、せん断及び加熱下でスラリーから過剰の水を除去して、12.7%のセルロース、73.8%のNMMO、10.7%の水、及び2.8%の難燃剤を含む繊維フリーの紡糸溶液を得た(%はすべて全組成物に対する重量基準)。
前記紡糸溶液をろ過し、乾湿式プロセスにより、114℃で、ノズルを通してエアギャップ中へ押出した。前記押出しプロセスを安定化させるために、前記エアギャップに空気流を提供した。紡糸速度は、400m/分であった。
前記エアギャップを通過した後、前記セルロースを、10%のNMMOを含有し、残りは水である紡糸浴中で析出させた。
こうして得たエンドレスフィラメントを水で洗浄し、仕上げ剤で含浸し、乾燥し、ボビンに巻き取った。洗浄は、完全な脱塩水により向流で行った。乾燥については、接触乾燥機を用い、湿度を10.5%に低下させた。
これらのフィラメントを用いて、単一フィラメントから成るマルチフィラメントを作製した。前記マルチフィラメントから、無撚りフィラメント糸を製造した。前記フィラメント糸から、布地を製造することができる。製造した前記糸の線密度は、20~200dtex、好ましくは50~150dtexであった。
【0064】
前記製造プロセスの他の詳細については、米国特許第4,246,221号、国際公開第02/18682(A1)号、及び国際公開第02/72929(A1)号が参照される。
【0065】
フィラメントの比較例1~3を、従来のプロセスを用いて製造し、前記リヨセルフィラメントは、難燃剤成分を用いないこと以外は実施例1で記載した実験設定を用いて製造した。
それぞれの特性を以下に報告する。
【0066】
【0067】
【0068】
比較例1及び2は、ビスコースフィラメント及びキュプラフィラメントが、難燃剤を添加しない場合であっても、まったく不充分な特性を呈することを示している。他方、FRリヨセルフィラメントは、機械的特性については、比較例3、すなわち非FRリヨセルフィラメントと比較して少し低いものの、非常に満足のいく特性を呈している。しかし、本発明に従うFRリヨセルフィラメントの前記特性は、前記非FRビスコース及びキュプラフィラメントと比較して、大きく改善されている。他の種類のセルロースフィラメントを用いた前記比較例は、機械的特性が大きくバランスを欠いているという問題点を有し、そのため、これらのフィラメントから寸法安定性のある製品を製造することはできない。同時に、本発明の難燃性フィラメントは、非常に満足のいく難燃性を示すことに加えて、機械的特性の優れたバランスも示す。
【0069】
難燃性ライニング
本発明のFRリヨセルフィラメントを用いて得た糸(den90/40(40のフィラメントを有する全繊度90デニールのマルチフィラメント)、糸の繊度dtex100f40)から、75g/m2のライニングを製造した。このライニングを用いて、水分バリア(積層体、148g/m2、50%メタアラミド/50%Lenzing FR(難燃性ビスコースステープル繊維)/PU膜)、外布(260g/m2;50%Lenzing FR、38%パラアラミド、12%PA)を備える三層のアセンブリとし、上記で識別されるライニング(100%FRリヨセルフィラメント)を、難燃性に関して評価した。前記三層アセンブリは、EN ISO 15025:2002 A法(外布への着火試験さらにはライニングへの着火試験)に従う火炎伝播性試験に合格し、EN469(EN533インデックス3)に従うすべての要件を満足していた。
本発明は以下の態様を含む。
<1> 難燃剤及びセルロースを含む難燃性フィラメント(FRフィラメント)であって、前記フィラメントはリヨセルフィラメントであることを特徴とする、FRフィラメント。
<2> 22cN/tex以上の平均乾燥引張強度を有する、<1>に記載のFRフィラメント。
<3> 11cN/tex以上の平均湿潤引張強度を有する、<1>又は<2>に記載のFRフィラメント。
<4> 難燃剤の量が、2~50重量%である、<1>~<4>のいずれか一項に記載のFRフィラメント。
<5> パルプ、N-メチルモルホリン N-オキシド、水、及び難燃剤を含む組成物を提供すること、並びに前記溶液を紡糸してフィラメントを製造すること、を含む、<1>~<4>のいずれか一項に記載のFRフィラメントを製造するための方法。
<6> 前記紡糸溶液中の難燃剤及びパルプの量が、前記紡糸溶液の12~25%の範囲内である、<5>に記載の方法。
<7> 紡糸速度が、250~750m/分の範囲内である、<5>又は<6>に記載の方法。
<8> 前記パルプが、亜硫酸セルロース及び硫酸セルロースを含む、<5>~<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9> 糸、布地、及びテキスタイル製品の製造のための、<1>~<4>のいずれか一項に記載のFRフィラメント又は<5>~<8>のいずれか一項に従って製造されたFRフィラメントの使用。
<10> <1>~<4>のいずれか一項に記載のFRフィラメント又は<5>~<8>のいずれか一項に従って製造されたFRフィラメントを含む、糸、布地、又はテキスタイル製品。
<11> 前記FRフィラメントが、他の種類の繊維とブレンドされる、<9>又は<10>に記載の使用又は製品。
<12> EN ISO 15025:2002 B法-下端着火、に従って試験された場合に、EN ISO 14 116分類「火炎伝播性インデックス3」に従う要求を満たしている、<9>~<11>のいずれか一項に記載の使用又は製品。
<13> マルチフィラメント糸である、<9>~<12>のいずれか一項に記載の使用又は製品。
<14> 前記FRフィラメントが、樹脂仕上げ剤を含む、<9>~<13>のいずれか一項に記載の使用又は製品。