(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101781
(43)【公開日】2023-07-21
(54)【発明の名称】プロテオグリカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20230713BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
C12P21/02 A
C07K14/435
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091551
(22)【出願日】2023-06-02
(62)【分割の表示】P 2020016006の分割
【原出願日】2020-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019021155
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達治
(72)【発明者】
【氏名】田中 友香
(57)【要約】
【課題】動物の軟骨組織から優れた生理作用を有するプロテオグリカンを効率的、かつ高純度に製造する。
【解決手段】pH5.5以下の酸性溶液中、その全量に対して1質量%以下のプロテアーゼの存在下で、動物の軟骨組織からプロテオグリカンを抽出して、プロテオグリカンを含む粗抽出液を得る工程と、粗抽出液から、脂質と、分子量5万以下の物質とを除去してプロテオグリカンを精製する工程と、を含むプロテオグリカンの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH5.5以下の酸性溶液中、その全量に対して1質量%以下のプロテアーゼの存在下で、動物の軟骨組織からプロテオグリカンを抽出して、当該プロテオグリカンを含む粗抽出液を得る工程と、
前記粗抽出液から、脂質と、分子量5万以下の物質とを除去して前記プロテオグリカンを精製する工程と、を含む、プロテオグリカンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の軟骨組織からプロテオグリカンをより効率的かつ高純度で抽出するプロテオグリカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカン(以下「PG」と称する場合がある。)は、1本のコアタンパク質にコンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸等のグリコサミノグリカンが数本から数十本、共有結合した糖タンパク質であり、細胞外マトリックスの一つとして皮膚や軟骨など体内に広く分布している。軟骨中のPGは、コラーゲンやヒアルロン酸と共に凝集体を形成しており、代表的な軟骨型PGは、アグリカンと称される。アグリカンはコアタンパク質に大量のグリコサミノグリカン糖鎖が結合すると共に、そのN末端側には、ヒアルロン酸およびリンクタンパク質の結合領域を有する。
【0003】
グリコサミノグリカンは分岐をもたない長い直鎖構造を持ち、多数の硫酸基とカルボシキル基を持つため負に荷電しており、その電気的反発力のために伸びた形状をとる。また、糖の持つ水親和性により、多量の水を保持し、弾力や衝撃への耐性といった軟骨特有の機能を担っている。さらに、PGには抗炎症作用、ヒアルロン酸合成促進作用、上皮細胞増殖因子(EGF)様作用等多くの生理機能を有することが明らかとなり、食品や化粧品への応用に期待が寄せられている。
【0004】
これまで、高純度のPGを効率よく製造する方法が研究されてきた。例えば、サケ鼻軟骨から酢酸を用いてPGを抽出する方法(特許文献1参照)や、酢酸溶液の抽出温度と撹拌速度を制御してPGを抽出する方法(特許文献2参照)が知られている。その他、クエン酸水溶液を用いてPGを抽出する方法(特許文献3参照)、サポニン若しくはスークロース脂肪酸エステル又はこれらの混合物の水溶液に浸漬して抽出する方法(特許文献4参照)などが報告されている。一方、粗精製したPGをタンパク質分解酵素で処理した低分子PGが、コラーゲンゲル収縮促進効果や抗糖化作用に優れ、皮膚の引きしめ効果を有すること(特許文献5参照)、およびサケ鼻軟骨PGをタンパク質分解酵素アクチナーゼEで消化して得られる低分子PGを有効成分とするチロシナーゼ活性阻害剤の報告もある(特許文献6参照)。
【0005】
しかしながら、PGの原料である動物の軟骨組織の確保、保存などは必ずしも容易ではなく、従来法よりもさらに効率的なPGの抽出および精製方法が望まれている。また、軟骨や皮膚の細胞外マトリックスに存在するPGは、生体内ではコラーゲンやヒアルロン酸と会合構造をとることで組織を維持しているが、巨大なPGがどのような形で抽出されているのかを解析することは難しく、従来法により精製されたPG分子の実態と、これまで知られているPGの様々な生理機能との関係については十分に解明されていない。例えば、非特許文献1には、サケの鼻軟骨から抽出および分画した異なる分子量のPGについて、経口投与による生理作用を調べたところ、プロテアーゼによる分解を受けた低分子PGに比べて、分子量40万以上の高分子PGが、より効果的な皮膚の抗老化作用を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Goto, M., et al., Anti-aging effects of high molecular weight proteoglycan from salmon nasal cartilage in hairless mice. INTERNATIONAL JOURNAL OF MOLECULAR MEDICINE 29: 761-768, 2012
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3731150号公報
【特許文献2】特許第6317053号公報
【特許文献3】特許第5749067号公報
【特許文献4】特許第6006545号公報
【特許文献5】特開2017-155004号公報
【特許文献6】特開2018-127423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下においてなされたものであってその目的とするところは、動物の軟骨組織から優れた生理作用を有するプロテオグリカンを効率的、かつ高純度に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、動物の軟骨からプロテオグリカンを抽出する工程で、種々の酸性溶液を用いて抽出効率を検討した結果、特定の酸性溶液または所定濃度のプロテアーゼ存在下で抽出を行うことでプロテオグリカンを軟骨組織から効率的かつ高純度に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)pH5.5以下の酸性溶液中、その全量に対して1質量%以下のプロテアーゼの存在または非存在下で、動物の軟骨組織からプロテオグリカンを抽出して、プロテオグリカンを含む粗抽出液を得る工程と、この粗抽出液から、脂質と、分子量5万以下(より好ましくは分子量10万以下)の物質とを除去してプロテオグリカンを精製する工程と、を含む、プロテオグリカンの製造方法。
(2)軟骨組織が、サケ頭部の鼻軟骨組織である(1)に記載のプロテオグリカンの製造方法。
(3)プロテアーゼが、酸性プロテアーゼであり、酸性溶液中における含有量が、0.001質量%~0.5質量%である(1)または(2)に記載のプロテオグリカンの製造方法。
(4)酸性溶液が、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、およびアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液である(1)~(3)の何れかに記載のプロテオグリカンの製造方法。
(5)酸性溶液が、酸性電解水若しくは炭酸水またはこれらに酢酸、クエン酸、リンゴ酸、およびアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種を添加した水溶液である(1)~(3)の何れかに記載のプロテオグリカンの製造方法。
(6)酸性溶液中の酢酸、クエン酸、リンゴ酸、およびアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種の濃度が、0.1質量%~1質量%である(1)~(5)の何れかに記載のプロテオグリカンの製造方法。
(7)プロテオグリカンが、質量平均分子量40万~100万のアグリカンである(1)~(6)の何れかに記載のプロテオグリカンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプロテオグリカンの製造方法は、動物の軟骨組織から優れた生理作用を有するプロテオグリカンを効率的、かつ高純度に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、製造例1で得られたプロテオグリカンをHPLCで分析した結果を示す。
【
図2】
図2は、製造例2で得られたプロテオグリカンをHPLCで分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態において、プロテオグリカンを抽出するための材料は、例えば魚類、軟体動物、鳥類または哺乳類の軟骨組織、筋肉組織もしくは皮膚組織を使用することができるが、その中でも軟骨組織が好ましい。本実施形態で使用される軟骨組織は、魚類、軟体動物、鳥類もしくは哺乳類、特にそれらの廃棄部位のいずれでもよい。本明細書において軟骨組織とは、軟骨のみからなるだけでなく、軟骨周辺部位、例えば骨、筋肉組織、皮膚組織等を含む組織でもよい。
【0014】
本実施形態では、入手の容易性、及びコストの面などから、例えば、サケ科の魚の頭部に含まれる鼻軟骨組織由来のものが好適に用いられ、例えば、青森県沿岸や北海道沿岸等で漁獲されたサケ(主にシロサケ)が、様々な加工品として処理される際、排出される頭部を使用することができる。
【0015】
また本実施形態では、サケの他、マス、エイ、サメ、タラ等の魚類由来軟骨組織、イカ、タコ等の軟体動物由来表皮、ニワトリ等の鳥類由来軟骨組織、さらにウシやクジラ等の哺乳動物由来軟骨組織も利用することができる。
【0016】
本実施形態で使用する酸性溶液は、酸性電解水、炭酸水などの無機酸を含む酸性水溶液であるか、または、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、およびアスコルビン酸などの有機酸を含む酸性水溶液である。この酸性水溶液のpHは、5.5以下であることが好ましく、pHが2~4の酸性水溶液がさらに好ましい。なお、酸性溶液としては、これら以外に、乳酸、酒石酸、コハク酸、リン酸、グルコン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フィチン酸、塩酸、硫酸等を含む水溶液であってもよい。異なる実施形態では、これらの無機酸および有機酸の2種以上を組み合わせた酸性水溶液である。例えば、酸性電解水と酢酸またはクエン酸との組み合わせなどである。酸性溶液中の有機酸の濃度は、プロテオグリカンの使用目的によって適宜選択する。例えば、有機酸として酢酸を用いる場合の濃度の下限は、0.01質量%、好ましくは0.1質量%であり、有機酸として酢酸を用いる場合の濃度の上限は、10質量%、好ましくは5質量%、より好ましくは1質量%である。
【0017】
これらの酸性溶液による抽出工程は、例えば1~60℃の温度で行なうことができる。ある程度温度を上げることによって抽出時間をより短縮し、より抽出効率も上げることができることから、この酸性溶液による抽出工程に係る温度の下限は、好ましくは4℃、更に好ましくは20℃である。一方、プロテオグリカンの分解はほとんど起きないまま、糖タンパク質複合体として効率よく抽出することがよりできるように、この酸性溶液による抽出工程に係る温度の上限は、好ましくは55℃、更に好ましくは50℃、更に好ましくは40℃である。
【0018】
上記抽出工程は軟骨表面全体を酸性溶液が流動的に接触する条件で行い、この際の酸性溶液の流速が、0.04~10.0cm/秒となることが好ましい。より好ましくは流速が0.04~5.0cm/秒である。この流れはスターラーやミキサーによる水平方向の円運動だけでなく、液を循環させるなどの方法により垂直方向、さらに軟骨組織を置いた上に一方から他方へ液を流すような一定方向の流れなど何れでも構わないが、液が常に対流することで抽出効率の向上が可能である。酸性溶液が軟骨組織と流動的に接触する工程は、所望の収率または収量でプロテオグリカンを抽出するために十分な時間実施すればよく、抽出工程中連続して、所定の時間をおいて間欠的に、又は抽出工程の一部であってもよい。この流動的に接触する時間は、抽出温度や酸性溶液の流速に合わせて適宜設定することができる。抽出が終了した溶液はプロテオグリカンを抽出した後の残渣を多く含むことから、これらをろ過、遠心分離、その他の方法で取り除くことが好ましい。
【0019】
この抽出工程において、上記酸性溶液の全量に対して1質量%以下の濃度で酸性プロテアーゼを共存させることが好ましい。酸性溶液中におけるこの酸性プロテアーゼの濃度は、1質量%を超えると抽出されたプロテオグリカン分子がさらに分解されて低分子化する可能性があること、および製造コストが上がるため好ましくない。したがって、酸性溶液中への酸性プロテアーゼの添加量の上限は、0.5質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。一方、下限は、0質量%を超えれば好ましく、0.0001質量%以上がより好ましく、0.001質量%以上がさらに好ましい。本明細書における酸性プロテアーゼとは、植物、動物または細菌を起源とするタンパク質分解酵素でタンパク質分解活性の至適pH(最大活性を示すpH)が6.0以下にあるものであれば、特に限定されるものではないが、タンパク質分解活性の至適pHが2.0以上5.0以下にあるものが酸性溶液中で働く点で好ましい。また、pHが7.0以上で失活することが分解反応を制御する上で好ましい。タンパク質分解活性の至適pHが2.0未満では、タンパク質の変性が大きく、分解反応の制御が困難であるという問題がある。
【0020】
これらの酸性プロテアーゼとしては、エンドペプチダーゼ等の酸性プロテアーゼが知られており、特にアスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)を起源とするタンパク質分解酵素が挙げられる。このタンパク質分解酵素としては、市販されているものを使用することができる。市販されているタンパク質分解酵素としては、製品名「ニューラーゼF3G」(天野エンザイム社製)、製品名「プロテアーゼM「アマノ」SD」(天野エンザイム社製)、製品名「モルシンF」(キッコーマンバイオケミファ社製)、製品名「スミチームAP」(新日本化学工業社製)、製品名「デナプシン2P」(ナガセケムテックス社製)、製品名「グリンドアミルPR59」(ダニスコジャパン社製)、製品名「オリエンターゼAY」(エイチビィアイ社製)、製品名「テトラーゼS」(エイチビィアイ社製)、製品名「ブリューワーズクラレックス」(ディー・エス・エムジャパン社製)、製品名「プロテアーゼYP-SS」(ヤクルト薬品工業社製)などの酸性プロテアーゼが挙げられる。
【0021】
次に、プロテオグリカン抽出液を粉末セルロース及び/又は吸油マットなどを用いることにより、混入すると考えられる脂質成分を簡便に吸着除去する。脂質除去後の液から得られるプロテオグリカンは適当な分画分子量を有する分離膜等で固液分離することにより、抽出液を回収する。この操作において、5万以上の分離膜等を使用すれば液相から低分子量の夾雑物(コラーゲン等)も除去することができ、プロテオグリカンの純度を上げることが可能である。好ましくは、10万以上の分離膜等を用いることが望ましい。さらに、得られた分画液は真空凍結乾燥機を用いて固形物にしてもよい。あるいは、スプレードライヤーで乾燥させ、粉末状固形分とすることもできる。
【0022】
このようにして得られるプロテオグリカンは、軟骨由来の典型的なプロテオグリカンでありアグリカン(Aggrecan)と称される。アグリカンは多数のグルコサミノグリカンと結合し、ヒアルロン酸やリンクタンパク質と凝集しているため巨大分子を形成するが、本実施形態の方法で得られるアグリカンは40万~100万(好ましくは40万~90万、より好ましくは40万~70万、更に好ましくは40万~60万)の質量平均分子量を有するため、コアタンパク質部分が分解されることなく低分子化していないインタクトなプロテオグリカンであると考えられる。その一方で、他のタンパク質との結合や凝集物が除かれているためプロテオグリカンとしての純度が向上し、生理活性のより発現しやすい完全なプロテオグリカン分子が得られると推測される。なお、本明細書において質量平均分子量とは、ゲルろ過クロマトグラフィー(Gel Filtration Chromatography、GFCともいう)分析を行った場合のプルラン換算の質量平均分子量をいう。なお、質量平均分子量の測定法は特に限定されるものではないが、一例としては、分子量が既知なプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール等を用い、2点以上の任意の濃度で、示差屈折検出器により校正曲線を作成する。次いで、検体(濃度は任意)を測定し、その保持時間から先の校正曲線を用いて相対分子量(プルラン、デキストランまたはポリエチレングリコール換算の分子量)を算出するのが一般的である。
【0023】
さらに、本発明で得られたプロテオグリカンを用いて、線維芽細胞増殖作用、コラーゲンゲル収縮促進作用等を評価した結果、いずれの試験においても従来の酢酸を使用して低温で浸漬抽出されたプロテオグリカンと同等以上の効果が得られ、従来法で得られるプロテオグリカンに比べ純度の高い品質を有することが確認された。以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0024】
[製造例1]
-30℃で冷凍保管したシロサケの頭部から摘出した鼻軟骨を400g用意し、出発原料とした。0.4質量%の酢酸水溶液2000gに出発原料およびプロテアーゼM(アマノ)SDを2g投入し、抽出温度50℃で24時間抽出した。
【0025】
この抽出液の温度を80℃に上昇させ、30分間加温してプロテアーゼを失活させた後、溶出液をステンレススチールメッシュ(150μm)でろ過し、不溶物を除去した。次に、吸油マット(前田工繊社製、商品名「油吸着シートSP-1300N(DX)」で液上層の油を吸着させた後、粉末セルロース(日本製紙社製、商品名「KCフロックW-400G」)を加え30分撹拌後ろ過した。ろ液を分画分子量5万の中空糸膜を用いて液量が1/10になるまで濃縮した。さらに水で希釈しながら濃縮と精製とを繰り返し、最終的に112gの濃縮液(pH6~7)を得た。そして、得られた濃縮液を凍結乾燥し、約8.6gのプロテオグリカンを得た。
【0026】
[製造例2]
上記製造例1で用いた酢酸水溶液の濃度を4質量%に変更した以外は製造例1と同様の条件で抽出、精製をおこない、約7.7gのプロテオグリカンを得た。
【0027】
(プロテオグリカンの定量)
製造例1および2で得た凍結乾燥品約1gを精密に量り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて正確に10 mLとしたものを試料溶液とした。各試料を0.45μmメンブレンフィルターを通した後、以下の操作条件でHPLCを行い標準品の検量線からプロテオグリカン量を求めた。なお、検量線の作成は、プロテオグリカン標準品(サケ鼻軟骨由来、和光純薬工業製)を、室温減圧デシケーター(シリカゲル)で3時間乾燥してから採取したものを精密に量り取り、試料と同じリン酸緩衝液に溶解して検量線作成用標準液を調製した。また、分子量マーカーとして、Shodex STANDARD P-82(昭和電工社製)を用いて作成した検量線からピークトップの分子量を求めた。
【0028】
操作条件
分析計 :HPLC分析装置
検出器 :示差屈折率検出器(RID-10A 島津製作所製)
カラム :ゲルろ過カラム(東ソー株式会社製TSKgel G5000PWXL)
カラム温度:40℃
試料注入量:50 μL
移動相 :リン酸緩衝液(pH6.8)
流量 :0.5 mL/min
【0029】
その結果を
図1および
図2に示す。
図1は製造例1で得られた試料であり、
図2は製造例2で得られた試料の分析結果である。いずれも単一ピークからなる純度の高いプロテオグリカンであることを示す。また、カラムの保持時間から計算したピークトップの分子量は、
図1では約46万であり、
図2では約48万であった。
【0030】
[製造例3~12]
製造例1と同様のサケ鼻軟骨をスライス処理したもの約40gと、表1に示した各種抽出液とを250ml容器に入れ密封した。これを37℃の水浴中でゆっくりと攪拌しながら72時間インキュベートした。抽出終了以後、各抽出液を100メッシュのふるいでろ過し、油吸着マットで処理し、さらにKCフロックろ過したろ液を凍結乾燥した。回収された凍結乾燥粉末の質量と、製造例1と同様の方法で定量したPG量を測定し、PGの収率および平均分子量を求めた。その結果を表1に示す。なお、抽出液として用いた電解水は、ORPウォーター酸性イオン水(バイバイバクテリア、ヤマシタキカク社製)を、炭酸水は、伊賀の天然水 炭酸水(日本サンガリア社製)を用いた。
【0031】
【0032】
表1の結果より、抽出液として酸性電解水のみまたは炭酸水のみを用いた場合でも、収率は若干低いものの高純度のPGが得られることが分かった。酸性電解水または炭酸水にクエン酸を5%添加した場合は、固形分収率は上がるものの得られたPGの純度は低下していた。一方、リンゴ酸、アスコルビン酸を単独でまたは炭酸水と組み合わせて抽出した場合は収率および純度ともに優れていた。
【0033】
[試験例1]コラーゲンゲル収縮試験
製造例1で得られたプロテオグリカンについてのコラーゲンゲル収縮の効果の有無を評価した。当該効果の有無は、標準品が発揮する効果と比較して表した。本試験例1では、標準品として、鮭鼻軟骨由来プロテオグリカン(富士フイルム和光純薬会社(商品コード:162-22131、168-22133))を用いた。
【0034】
コラーゲン酸性溶液(IPC-30、高研株式会社)、希塩酸(pH調整用として利用、pH3.0)、10×MEMハンクス(新田ゼラチン株式会社)及び再構成緩衝液(Cellmatrix、新田ゼラチン株式会社)を用いて、氷冷下で1.2mg/mlの濃度になるように調製コラーゲン酸性溶液を準備した。準備した調製コラーゲン酸性溶液を24ウェルプレートに各ウェル0.4mlずつ注入した。当該注入後、37℃でコラーゲンをゲル化させた。当該ゲル化の後、正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ)を、各ウェルに0.6×105個/wellの細胞数となるように、各ウェルへ播種した。当該播種の翌日(翌日までは37℃、5%CO2の環境下でウェルを静置)に、以下試料(試料1~試料5)を各ウェルに投与し、ゲル周囲を剥離した。以下試料添加後48時間後のゲル収縮の評価を、画像処理ソフト(ChemiDocTMイメージングシステム、BIORAD)を用いてコラーゲンゲルの面積を測定することにより行った。当該測定は、各群(試料1から試料5の群)において6サンプルずつ行った。以下表2では、各群において6サンプルの平均値を算出した結果を示す。
【0035】
・試料1の群:コントロールとして、所定量の精製水を投与。
・試料2の群:最終濃度1mg/mlとなるように、製造例1で得られたプロテオグリカンを投与。
・試料3の群:最終濃度0.5mg/mlとなるように、製造例1で得られたプロテオグリカンを投与。
・試料4の群:最終濃度1mg/mlとなるように、標準品を投与。
・試料5の群:最終濃度0.5mg/mlとなるように、標準品を投与。
【0036】
評価結果を表2に示す。表2で示すように、試料1の群と比べ、試料2と試料3の群(本発明に係る実施例の1つである製造例1で得られたプロテオグリカンの投与群)では、コラーゲンゲルの面積の縮小が確認できた。なお、試料2と試料3の群の評価結果は、試料4と試料5の群(標準品の投与群)と同様の結果であった。
【0037】
【0038】
[試験例2]ヒト線維芽細胞増殖試験
製造例1で得られたプロテオグリカンについてのヒト線維芽細胞増殖能の有無を評価した。
5%FBS(Thermo Trace製)を含むDMEM培地が各ウェルに存在した96ウェルプレートを準備した。正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ)を、各ウェルに4×103個/wellの細胞数となるように、当該準備した96ウェルプレートに播種した。この播種後、37℃、5%CO2の環境下で、24時間、当該正常ヒト皮膚線維芽細胞を培養した。その後、5%FBS(Thermo Trace製)を含むDMEM培地から0.25%FBSを含むDMEM培地へ置換して、置換後、以下試料を各ウェルに投与し、37℃、5%CO2の環境下で、3日間、当該正常ヒト皮膚線維芽細胞を培養した。3日間の培養後、Cell Counting Kit-8(DOJINDO)を用いて、各群(試料1から試料5の群)の正常ヒト皮膚線維芽細胞数を測定した。当該測定は、各群(試料1から試料5の群)において10サンプルずつ行った。以下表3では、各群において10サンプルの平均値を算出した結果を用いての以下相対値を示す。
【0039】
・試料1の群:コントロールとして、所定量の精製水を投与。
・試料2の群:最終濃度0.5mg/mlとなるように、製造例1で得られたプロテオグリカンを投与。
・試料3の群:最終濃度0.1mg/mlとなるように、製造例1で得られたプロテオグリカンを投与。
・試料4の群:最終濃度0.5mg/mlとなるように、試験例1と同じ標準品を投与。
・試料5の群:最終濃度0.1mg/mlとなるように、試験例1と同じ標準品を投与。
【0040】
測定結果を以下記載する。以下表3で示す測定結果は、試料1の群(コントロールの群)の細胞数を100として、試料2から試料5の群では試料1の群と比べての相対値を示す。表3で示すように、試料1の群と比べ、試料2と試料3の群(本発明に係る実施例の1つである製造例1で得られたプロテオグリカンの投与群)では、製造例1で得られたプロテオグリカンの投与により、正常ヒト皮膚線維芽細胞の増殖が確認できた。なお、試料2と試料3の群の評価結果は、試料4と試料5の群(標準品の投与群)と同様の結果であった。
【0041】