(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101844
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】二次電池の検査装置、二次電池の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/389 20190101AFI20230714BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20230714BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20230714BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230714BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20230714BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R31/382
G01R31/385
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002018
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】横山 進
(72)【発明者】
【氏名】池野 花菜
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA41
2G216BA51
2G216BB07
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CA16
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA09
5G503GD03
5G503GD06
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】製造した二次電池の検査に要する時間をより短縮する。
【解決手段】充電された検査対象の二次電池の開回路電圧を計測する電圧計測部101と、電源により前記二次電池に対し前記電圧計測部を介して計測した開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加する電圧印加部102と、前記電圧印加部102を介して前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加している状態で、二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を計測する電流計測部103と、前記電圧印加部102を介して前記二次電池に対し印加している電圧の値と、前記電流計測部103を介して計測している電流の変動が収まったときの電流の値とから、二次電池の自己放電抵抗の値を算出する自己放電抵抗算出部104とを具備する二次電池の検査装置1を構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電された検査対象の二次電池の開回路電圧を計測する電圧計測部と、
電源により前記二次電池に対し前記電圧計測部を介して計測した開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加する電圧印加部と、
前記電圧印加部を介して前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加している状態で、二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を計測する電流計測部と、
前記電圧印加部を介して前記二次電池に対し印加している電圧の値と、前記電流計測部を介して計測している電流の変動が収まったときの電流の値とから、二次電池の自己放電抵抗の値を算出する自己放電抵抗算出部と
を具備する二次電池の検査装置。
【請求項2】
前記電圧印加部が前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際し、充電された当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加える請求項1記載の二次電池の検査装置。
【請求項3】
検査対象の二次電池に充電を行う初期充電部と、
前記初期充電部が充電する前記二次電池の充電率を計測する充電率計測部とを具備し、
前記電圧印加部が前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際し、前記充電率計測部を介して計測した当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加える請求項2記載の二次電池の検査装置。
【請求項4】
前記電圧計測部を介して計測した二次電池の開回路電圧が所定の不良判定値未満である場合、当該二次電池に対しては、前記電圧印加部による電圧の印加、前記電流計測部による電流の計測、及び前記自己放電抵抗算出部による自己放電抵抗の算出を実行しない請求項1、2または3記載の二次電池の検査装置。
【請求項5】
充電された検査対象の二次電池の温度または当該二次電池の充電率に応じて、前記電流計測部が計測した電流の値または前記自己放電抵抗算出部が算出した自己放電抵抗の値を修正する請求項1、2、3または4記載の二次電池の検査装置。
【請求項6】
充電された検査対象の二次電池の開回路電圧を計測する電圧計測ステップと、
電源により前記二次電池に対し前記電圧計測ステップにて計測した開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加する電圧印加ステップと、
前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加している状態で、二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を計測する電流計測ステップと、
前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し印加している電圧の値と、前記電流計測ステップにて計測している電流の変動が収まったときの電流の値とから、二次電池の自己放電抵抗の値を算出する自己放電抵抗算出ステップと
を実行する二次電池の検査方法。
【請求項7】
前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際し、充電された当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加える請求項6記載の二次電池の検査方法。
【請求項8】
検査対象の二次電池に充電を行う初期充電ステップと、
前記初期充電ステップにて充電する前記二次電池の充電率を計測する充電率計測ステップとを実行し、
前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際し、前記充電率計測ステップにて計測した当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加える請求項7記載の二次電池の検査方法。
【請求項9】
前記電圧計測ステップにて計測した二次電池の開回路電圧が所定の不良判定値未満である場合、当該二次電池に対しては、前記電圧印加ステップ、前記電流計測ステップ、及び前記自己放電抵抗算出ステップを実行しない請求項6、7または8記載の二次電池の検査方法。
【請求項10】
充電された検査対象の二次電池の温度または当該二次電池の充電率に応じて、前記電流計測ステップにて計測した電流の値または前記自己放電抵抗算出ステップにて算出した自己放電抵抗の値を修正する請求項6、7、8または9記載の二次電池の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造される二次電池の性能を試験する検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、リチウムイオン電池に代表される、充電して繰り返し使用することのできる二次電池(化学電池)が、様々な電気機器や電池機器、ハイブリッド自動車、電気自動車等に採用されている。二次電池の技術開発は急速に進展しており、エネルギ密度の向上、小型化、軽量化、長寿命化が図られている。一方、その生産には非常に高い精度が要求されるようになってきており、信頼性の確保が重要になっている。
【0003】
一般に、リチウムイオン電池等は、単一の電池では出力電圧値が低くその用途が限られてしまうため、高出力を確保するために単電池(または、セル)を直列に組み合わせた組電池の状態で使用されることが多い。電池製造時の充放電試験では、組電池の中の一個の電池が不良である場合でも組電池全体の性能に影響が及ぶことから、個々の電池について全数検査している。また、こうした二次電池は、組立て後に内部の電極を活性化する必要があり、その意味でも充放電試験が個々の電池について実施される。
【0004】
二次電池の活性化や性能試験に用いられる充放電検査装置には、多数個の電池を一括に充電しまたは放電させることのできる機能が求められる。既知の充放電検査装置は、搬入されるトレー(または、パレット)に収容された多数個の電池の各々の電極に接続可能な多数のプローブを備えている(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の二次電池の充放電試験では、対象の二次電池をまず満充電し、しかる後当該二次電池をエイジング棚に収めて長期保管する。保管中、二次電池は自己放電し、蓄えている電荷量を減らす。その上で、保管の前後で当該二次電池の開回路電圧(開放電圧、Open Circuit Voltage)を計測し、保管中の自己放電による電圧降下の大きさを求めて、それに基づき二次電池の良否を検査する。電圧降下幅が明らかに大きい二次電池は、不良品であると判断される。
【0007】
この手法は、二次電池を保管するエイジング期間が著しく長い(リチウムイオン電池であれば、十四日間を超える)という問題を抱えている。エイジング期間が長いことは、二次電池の生産におけるタクトタイムまたはサイクルタイムの長大化に直結する。しかも、全数検査のために二次電池の保管場所を広大に確保しなければならず、コスト面の不利を招く。
【0008】
本発明は、製造した二次電池の検査に要する時間をより短縮することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、
図1に示すように、充電された検査対象の二次電池の開回路電圧を計測する電圧計測部101と、電源により前記二次電池に対し前記電圧計測部を介して計測した開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加する電圧印加部102と、前記電圧印加部102を介して前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加している状態で、二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を計測する電流計測部103と、前記電圧印加部102を介して前記二次電池に対し印加している電圧の値と、前記電流計測部103を介して計測している電流の変動が収まったときの電流の値とから、二次電池の自己放電抵抗の値を算出する自己放電抵抗算出部104とを具備する二次電池の検査装置1を構成した。
【0010】
本発明によれば、初期充電した二次電池を長期保管して自己放電による電圧降下を待たずとも、検査対象の二次電池の自己放電抵抗の大きさ、換言すれば自己放電のしにくさ(自己放電抵抗の値が大きいことは、自己放電しにくいことを意味する)を精度よく見積もり、これを基に二次電池の良否を判断することができる。ひいては、製造した二次電池の検査に要する時間を大幅に短縮できる。
【0011】
前記電圧印加部102が前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際しては、充電された当該二次電池の充電率(State Of Charge)に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加えることが好ましい。
【0012】
本発明に係る検査装置1は、検査対象の二次電池に充電を行う初期充電部105と、前記初期充電部105が充電する前記二次電池の充電率を計測する充電率計測部106とを具備することがある。この場合、前記電圧印加部102が前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際し、前記充電率計測部106を介して計測した当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加えるものとなる。
【0013】
前記電圧計測部101を介して計測した二次電池の開回路電圧が所定の不良判定値未満である場合、当該二次電池に対しては、前記電圧印加部102による電圧の印加、前記電流計測部103による電流の計測、及び前記自己放電抵抗算出部104による自己放電抵抗の算出を実行しないようにしてよい。初期充電を完了した段階で開回路電圧が低い二次電池は、不良品であるとして即時的に排斥するのである。
【0014】
充電された二次電池の自己放電の度合いは、二次電池の温度や充電率による影響を受ける。リチウムイオン電池であれば、温度が高いほど自己放電電流が大きくなる、つまりは自己放電抵抗が小さくなる傾向にある。並びに、充電率が高いほど、自己放電電流が大きく、自己放電抵抗が小さくなる。要するに、自己放電抵抗には温度依存性、充電率依存性がある。そこで、充電された検査対象の二次電池の温度及び/または当該二次電池の充電率に応じて、前記電流計測部103が計測した電流の値または前記自己放電抵抗算出部104が算出した自己放電抵抗の値を修正することとし、二次電池の検査の精度の一層の向上を図るのである。
【0015】
本発明に係る二次電池の検査方法では、充電された検査対象の二次電池の開回路電圧を計測する電圧計測ステップと、電源により前記二次電池に対し前記電圧計測ステップにて計測した開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加する電圧印加ステップと、前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加している状態で、二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を計測する電流計測ステップと、前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し印加している電圧の値と、前記電流計測ステップにて計測している電流の変動が収まったときの電流の値とから、二次電池の自己放電抵抗の値を算出する自己放電抵抗算出ステップとを実行する。
【0016】
前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際しては、充電された当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加えることが好ましい。
【0017】
検査対象の二次電池に充電を行う初期充電ステップと、前記初期充電ステップにて充電する前記二次電池の充電率を計測する充電率計測ステップとを実行する場合には、前記電圧印加ステップにて前記二次電池に対し前記開回路電圧と同等の大きさの電圧を印加するに際し、前記充電率計測ステップにて計測した当該二次電池の充電率に応じて、電圧を印加した当初に二次電池に流入しまたは二次電池から流出する電流を増減調整するような補正を加える。
【0018】
前記電圧計測ステップにて計測した二次電池の開回路電圧が所定の不良判定値未満である場合、当該二次電池に対しては、前記電圧印加ステップ、前記電流計測ステップ、及び前記自己放電抵抗算出ステップを実行しないようにしてよい。
【0019】
充電された検査対象の二次電池の温度及び/または当該二次電池の充電率に応じて、前記電流計測ステップにて計測した電流の値または前記自己放電抵抗算出ステップにて算出した自己放電抵抗の値を修正することも好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造した二次電池の検査に要する時間をより短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る二次電池の検査装置の機能ブロック図。
【
図2】本発明に係る二次電池の検査方法の骨子を説明する回路図。
【
図3】本発明の一実施形態の二次電池の検査装置のハードウェア資源構成を示す図。
【
図4】同実施形態の検査装置の要素である充電及び計測ユニットの構成を具体的に示す回路図。
【
図5】同実施形態の検査装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図6】同実施形態の検査装置が計測する電流の推移を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。はじめに、本実施形態の二次電池5の検査方法の骨子を述べる。検査対象の二次電池5は、一個の単電池セル、または複数個の単電池を直列接続してなるセルモジュールである。検査対象の二次電池5は、その検査に先んじて予め満充電または満充電近くまで初期充電される。
【0023】
その初期充電された二次電池5につき、開回路電圧(OCV)を計測する。OCVとは、二次電池5を、当該二次電池5に蓄えた電力を消費しまたは当該二次電池5に電力を供給する電気回路に接続せずに同二次電池の+極と-極との間を開放(遮断)したときの、+極と-極との間の電位差である。
【0024】
次いで、
図2に示すように、外部の電源102を二次電池5に接続し、電源102から二次電池5の電極に対して電圧V
0を印加する。印加電圧V
0は、検査対象の二次電池5のOCVと略等しくする。印加電圧V
0とOCVとの差(の絶対値)は、10μV以下に抑えることが望ましい。その状態で、二次電池5に流入しまたは二次電池から流出する電流I
0を計測する。
【0025】
図2に示す二次電池5の等価回路において、r
1及びr
2は二次電池5の内部抵抗、Cは二次電池5の実効容量、Rは二次電池5の自己放電抵抗である。仮に、二次電池5に電源102その他の電気回路を接続せず、二次電池5の+極と-極との間を開放したまま長期間放置しておくと、二次電池5内で自己放電電流I’が流れ、二次電池5に蓄えている電荷の量が減少する。自己放電抵抗Rは、この自己放電電流I’が流れるときの抵抗の大きさに該当する。自己放電抵抗Rが大きいほど、自己放電しにくい、性能の良好な二次電池5であると言える。翻って、自己放電抵抗Rが明らかに小さいものは、不良の製品である。内部抵抗r
1及びr
2は、自己放電抵抗Rに比して顕著に小さい。
【0026】
さて、充電された二次電池5のOCVと同等の電圧V0を電源102から印加することで、電源102から二次電池5に流れこむ電流I0により、自己放電電流I’を相殺することができる。即ち、二次電池5内で自己放電電流I’が生じて二次電池5に蓄えている電荷量が減少すると、当該二次電池5のOCVが低減し、電源102の印加電圧V0がこれを上回り、電源102及び二次電池5を還流する電流I0が流れるようになる。しかして、外部からの電流I0と内部の自己放電電流I’とが拮抗すると、二次電池5に蓄えている電荷の量が増えも減りもせず、電流I0が一定化して増減変動しなくなる。さすれば、対象の二次電池5の自己放電抵抗Rを、
R=V0/I0
として推算することが可能になる。
【0027】
図6に示すように、電源102により初期充電済みの二次電池5に対し電圧V
0の印加を開始する時点t
Sから、外部電流I
0と自己放電電流I’とが拮抗する時点t
Dまでの所要時間は、リチウムイオン電池で約一時間程度である。これは、自己放電に起因する電圧降下を観察する従前の検査手法におけるエイジング期間の十四日間に比して圧倒的に短い。
【0028】
因みに、時点tSから時点tDに至る期間中の二次電池5のOCVの降下量ΔVは、一個のリチウムイオン電池セルについて一桁μV程度である。対して、従前の検査手法におけるエイジング期間中の電圧降下量は、数十mV以上と大きい。時点tDにて流れる自己放電電流I’≒外部電流I0≒ΔIの大きさは、数百μAないし数十μA程度(特に、約100μA前後)である。無論、これらの値は、検査対象の二次電池5の仕様等により上下し得る。
【0029】
図3及び
図4に、本実施形態の二次電池5の検査装置1の具体的なハードウェア構成を示す。本実施形態の検査装置1は、複数個、例えば最大で六十四個の二次電池5を一時に検査できる能力を有する。
【0030】
検査対象である各二次電池5はそれぞれ、充電及び検査ユニット3に電気的に接続される。充電及び検査ユニット3は、計測制御システム300と、二次電池5に相対する計測回路301を内包する回路基板とを要素とする。回路基板上の計測回路301は、計測制御システム300と通信可能に接続されている。
【0031】
計測制御システム300は、CPU(Central Processing Unit)、メインメモリ、補助記憶デバイス、I/Oインタフェース等を備えた既知のコンピュータシステムである。補助記憶デバイスは、例えばハードディスクドライブ、不揮発性フラッシュメモリ、光学ディスクドライブ等である。計測制御システム300として、汎用のパーソナルコンピュータやワークステーション、PLC(Programable Logic Controller)等を用いても構わない。計測制御システム300において、CPUにより実行されるべきプログラムは補助記憶デバイスに格納されており、プログラムの実行の際には補助記憶デバイスからメインメモリに読み込まれ、CPUによって解読される。計測制御システム300は、プログラムに従いハードウェア資源を作動させて、計測回路301に接続された二次電池5の検査に必要な制御を遂行する。
【0032】
一つの計測制御システム300に接続されている回路基板は、複数の計測回路301を包有する。一つの計測回路301は、検査対象の一個の二次電池5に対応している。本実施形態では、一つの回路基板上に八つの計測回路301を並列に実装し、各計測回路301をそれぞれ一個の二次電池5に接続する。そして、八つの計測回路301で八個の二次電池5を互いに独立に充電及び検査し、その八つの計測回路301を介した八個の二次電池5の充電及び検査の制御を一つの計測制御システム300に担わせている。
【0033】
充電及び検査ユニット3の計測制御システム300は、上位システム4と通信可能に接続されている。上位システム4は、CPU、メインメモリ、補助記憶デバイス、I/Oインタフェース等を備えた既知のコンピュータシステムである。上位システム4として、汎用のパーソナルコンピュータやワークステーション、PLC等を用いても構わない。上位システム4において、CPUにより実行されるべきプログラムは補助記憶デバイスに格納されており、プログラムの実行の際には補助記憶デバイスからメインメモリに読み込まれ、CPUによって解読される。上位システム4は、プログラムに従いハードウェア資源を作動させて、各計測制御システム300を統御する。
【0034】
本実施形態では、八つの充電及び検査ユニット3を並列に配設している。一つのユニット3は、計測制御システム300と、八つの計測回路301を含む回路基板との組であり、八個の二次電池5を検査できる。総じて、六十四チャンネル、即ち六十四個の二次電池5を一時に検査可能な検査装置1が具現される。
【0035】
図5に、本実施形態の検査装置1(の上位システム4及び/または計測制御システム300)がプログラムに従い実行する処理の手順例を示す。まず、各ユニット3の計測回路301に接続されている接触子(端子、プローブ)201、202、203、204を、検査対象の二次電池5の電極に接触させる(ステップS1)。検査対象の複数個の二次電池5は、それら二次電池5を支持するトレー等に収められた状態で搬入される。個々の二次電池に相対する接触子201、202、203、204は、既知の動作機構(駆動機構)200により、二次電池5に対して接近または離間する。この動作機構200の制御は、PLC2が担う。上位システム4または計測制御システム300は、当該PLC2に指令を与え、動作機構200を作動させて、各二次電池5に相対する接触子201、202、203、204を当該二次電池5の電極に当接させる。
【0036】
接触子201、202、203、204に関して補足すると、接触子201、202は、検査対象の二次電池の+極に接続する。接触子203、204は、同二次電池5の-極に接続する。接触子201、203は、二次電池5に必要な電圧を印加してこれに通電するとともに、同二次電池5に流入しまたは同二次電池5から流出する電流を検出するために働く。接触子202、204は、二次電池5の±両極間の電圧を検出するために働く。
【0037】
また、このとき、検査対象の二次電池5の温度を検出するためのセンサ(特に、サーミスタ)205が、当該二次電池5の近傍に配置される。この温度センサ205は、例えば、一つの接触子203に接合しており、動作機構200を介して同接触子203とともに進退移動する。温度センサ205が、検査対象の二次電池5毎に個別に存在していることは言うまでもない。
【0038】
接触子201、202、203、204を二次電池5の電極に接続したならば、その二次電池5を初期充電する(ステップS2)。初期充電のステップS2では、計測制御システム300が、計測回路301上のディジタル-アナログ変換回路(Digital to Analog Converter)302に目標電圧値を指令信号として与え、かつDAC312に目標電流値を指令信号として与える。それにより、目標電圧及び目標電流と同等の電圧及び電流を二次電池5に印加して、二次電池5を充電する。ステップS2では、DAC303及びDAC313に対しては“0”を指令信号として与える。
【0039】
ステップS2では、計測回路301上の定電圧・定電流制御回路305に含まれる増幅器306、307、315、316の出力電圧により、半導体スイッチング素子(特に、Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)308が精密に制御されて、二次電池5が上記目標電圧及び電流に基づく所望の電荷量またはその近傍まで充電される。詳細には、現在の二次電池5の±両極間電圧が、計測回路301上の電圧検出回路311を介して検出され、それが増幅器306の負帰還側に入力される。並びに、現在の二次電池5の+電極に流れ込む電流が、計測回路301上の電流検出回路309を介して(シャント抵抗310の両端間電圧の形で)検出され、それが増幅器315の負帰還側に入力される。その帰結として、二次電池5が、目標電圧に沿った定電圧、かつ目標電流に沿った定電流で充電されることになる。
【0040】
このように、本実施形態では、充電及び検査ユニット3が、初期充電部105としての機能を発揮する。
【0041】
二次電池5の初期充電と並行して、ステップS2では、計測制御システム300が、初期充電された各二次電池5の充電率(SOC)の計測を行う。SOCは、
SOC=(現に二次電池5が蓄えている電荷量)/(同二次電池5の満充電時の容量)×100%
である。満充電ではSOC=100%、完全放電ではSOC=0%である。二次電池5が蓄えている電荷量は、電流検出回路309を介して検出される電流量を、計測制御部3において時間積分する(所定周期毎に計測した電流値を積算する)ことにより推算できる。
【0042】
満充電容量は、所定値即ち二次電池5の個体差を考慮しない理論容量としてもよいが、個々の二次電池5の満充電容量を実際に計測してもよい。例えば、対象の電池5を1C条件(Cレートは、充電/放電の速さを表す。電池5の理論容量を一時間で完全充電または完全放電させ得る電流の大きさを1Cと定義する。C/2は、電流の大きさが1Cの半分で、完全充電または完全放電に二時間を要することを意味する)で満充電ないしその近傍まで充電し、及び/または、満充電されたと思しき電池5を1C条件で完全放電ないしその近傍まで放電させることを通じて、対象の電池5の満充電容量を見積もることができる。
【0043】
なお、初期充電された二次電池5のSOCを求めるにあたり、計測制御システム300が、当該二次電池5のOCVを計測し、そのOCVの値を予め知得しているSOC-OCV曲線(OCVとSOCとの関係を規定するマップデータまたは関数式)に当てはめることで、二次電池5の現在のSOCを推算するものとしてもよい。二次電池5のOCVは、下記ステップS3にて計測する。
【0044】
このように、本実施形態では、充電及び検査ユニット3が、充電率計測部106としての機能を発揮する。ステップS2にて得た各二次電池5のSOCの値は、各二次電池5を識別する識別子に関連付けて、計測制御システム300及び/または上位システム4のメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに格納する。
【0045】
検査対象の二次電池5の初期充電を完了したならば、その二次電池5のOCVを計測する(ステップS3)。これは、二次電池5の内部の容量Cに蓄えられた電荷による電圧を測定することを意味する。ステップS3では、計測制御システム300が、DAC302、DAC303、DAC312、DAC313におしなべて“0”を指令信号として与え、MOSFET308を消弧したままとし、二次電池5に連なる電路を遮断してその+極と-極との間を開放する。
【0046】
二次電池5のOCVは、+極側の接触子202と-極側の接触子204との電位差として、電圧検出回路311を介して検出される。その実測のOCVは、計測回路301上のスイッチ317、増幅器318及びアナログ-ディジタル変換回路(Analog to Digital Converter)319を経由して、計測制御システム300に受信される。なお、スイッチ317は、計測制御システム300から制御信号を与えることにより随時その切換が可能である。
【0047】
このように、本実施形態では、充電及び検査ユニット3が、電圧計測部101としての機能を発揮する。ステップS3にて得た各二次電池5のOCVの値は、各二次電池5を識別する識別子に関連付けて、計測制御システム300及び/または上位システム4のメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに格納する。
【0048】
しかして、検査対象の各二次電池5について、ステップS3にて計測した初期充電直後のOCVが不良判定値を下回っていないかどうかを判断する(ステップS4)。ステップS4は、計測制御システム300または上位システム4において実行する。
【0049】
OCVが不良判定値未満である二次電池5は、十分な電荷を蓄えることのできない不良品である。よって、そのような二次電池5に対しては、以降のステップS5ないしステップS11を実施しない(ステップS13)。
【0050】
一方、OCVが不良判定値以上に高い二次電池5に対しては、続いて、当該二次電池5のOCVと同等の電圧V0を印加する(ステップS5)。ステップS5にて、計測制御システム300は、DAC302、303に、対象の二次電池5のOCVを目標電圧値として指令する信号として与える。そのOCVの値は、ステップS3にて計測したものである。これにより、対象の二次電池5のOCVに極めて近い電圧V0を、当該二次電池5の電極に印加する。
【0051】
DAC302、303に関して補足すると、DAC302及びDAC303は何れも、ディジタル数値を計測制御システム300から受信し、その値に対応する大きさのアナログ電圧を出力するものである。DAC303が出力できる電圧の範囲(レンジ)は、DAC302が出力できる電圧の範囲よりも狭い(例えば、後者の範囲の1/4096)。DAC303に入力される値が一ビット変化するときの出力電圧の変化量は、DAC302に入力される値が一ビット変化するときの出力電圧の変化量よりも顕著に小さい(例えば、後者の変化量の1/4096)。DAC303は、DAC302と比較して出力電圧の解像度が高く、これを介して二次電池5に対する印加電圧をμVオーダーで増減調整することを可能にする。
【0052】
ステップS5にて、計測制御システム300は、電圧検出回路311を介して実測される二次電池5のOCVと、DAC302に指令している電圧値との電位差(偏差)を縮小するために加味するべき補正量を、DAC303に与える。二次電池5のOCVと、DAC302、303に指令する電圧値との電位差は、定電圧・定電流制御回路305に含まれる増幅器306から出力され、スイッチ317、バッファ318及びADC319を介して計測制御システム300に入力される。計測制御システム300は、これを参照してDAC303に与える電圧値を増減させる。計測回路301上に、DAC302とは別に電圧補正用のDAC303を並設していることで、充電された二次電池5のOCVに極めて近似した大きさの電圧V0を、当該二次電池5の電極に印加することができる。OCVと印加電圧V0との偏差の絶対値は、10μV以下に抑えられる。
【0053】
さらに、初期充電直後の二次電池5のSOCに応じた補正を、当該二次電池5への印加電圧V0に加えてもよい(ステップS6)。リチウムイオン電池5では、SOC(または、OCV)が高いほど、自己放電電流I’の量が多く、自己放電抵抗Rが低くなる傾向にある。故に、検査対象の二次電池5のSOCが高いほど印加電圧または印加電流を大きくすることが、下記ステップS7にて計測する外部電流I0の収束を早めるために効果的であると言える。
【0054】
DAC312、313に関して補足すると、DAC312及びDAC313は何れも、ディジタル数値を計測制御システム300から受信し、その値に対応する大きさのアナログ電圧を出力するものである。DAC313が出力できる電圧の範囲は、DAC312が出力できる電圧の範囲よりも狭い(例えば、後者の範囲の1/4096)。DAC313に入力される値が一ビット変化するときの出力電圧の変化量は、DAC312に入力される値が一ビット変化するときの出力電圧の変化量よりも顕著に小さい(例えば、後者の変化量の1/4096)。DAC313は、DAC312と比較して出力電圧の解像度が高く、これを介して二次電池5に対する印加電圧をμVオーダーで増減調整することを可能にする。
【0055】
ステップS6にて、計測制御システム300は、ステップS3で計測されメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに記憶保持している、検査対象の二次電池5のSOCに応じた補正量を、DAC313に指令信号として与える。その補正量の値は、当該二次電池5のSOCが高いほど増加させる。DAC313に与える補正量が増すと、二次電池5に印加する電圧V0が増大する。計測回路301上に、DAC312とは別に電流補正用のDAC313を並設していることで、充電された二次電池5の自己放電電流I’に極めて近似した大きさの外部電流I0を、当該二次電池5の電極に印加することができる。
【0056】
このように、本実施形態では、充電及び検査ユニット3が、電圧印加部102としての機能を発揮する。
【0057】
初期充電された二次電池5に対して電圧V0の印加(ステップS5、S6)を開始した時点tS後、計測制御システム300は、外部から二次電池5に流れ込み、または二次電池5から外部に流れ出る電流I0を反復的に計測し続ける。外部電流I0は、接触子201に連なる電流検出回路310を介して検出される。その実測の外部電流I0は、スイッチ317、増幅器318及びADC319を経由して、計測制御システム300に受信される。
【0058】
このように、本実施形態では、充電及び検査ユニット3が、電流計測部103としての機能を発揮する。
【0059】
外部電流I0は、二次電池5内部で生じる自己放電電流I’を相殺する。外部電流I0と自己放電電流I’とが拮抗すると、二次電池5に蓄えている電荷の量が増えも減りもせず、電流I0が一定化して増減変動しなくなる。計測制御システム300は、二次電池5に電圧V0を印加しながら、外部電流I0の変動の収束を待つ(ステップS7)。ステップS7では、外部電流I0の単位時間あたりの増加量または減少量の絶対値が0となり、または0に近い閾値以下に縮小したことを以て、その変動が収束したと判断する。
【0060】
外部電流I0がほぼ一定に収束したならば、その時点tDで印加している電圧値V0及び計測した電流値I0を、各二次電池5を識別する識別子に関連付けて、計測制御システム300及び/または上位システム4のメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに格納する。そして、計測制御システム300または上位システム4において、それら電圧値V0及び電流値I0を基に、検査対象の二次電池5の各々の自己放電抵抗Rを算定する(ステップS9)。既に述べた通り、二次電池5の自己放電抵抗Rは、
R=V0/I0
として求められる。
【0061】
なお、自己放電抵抗Rを推算(ステップS9)する際に用いる外部電流I0の値を、対象の二次電池5の温度及び/または二次電池5のSOCに応じて修正してもよい(ステップS8)。リチウムイオン電池5では、その温度が高いほど自己放電電流I’が大きくなる傾向にある。そこで、温度センサ205を介して検出される二次電池5の温度が高いほど、電流値I0を低く修正した上で自己放電抵抗値Rを算定する。同様に、対象の二次電池5のSOCが高いほど、電流値I0を低く修正した上で自己放電抵抗値Rを算定する。
【0062】
あるいは、ステップS9にて、一旦は外部電流値I0に修正を施すことなく自己放電抵抗値Rを算出し、その自己放電抵抗値Rを、対象の二次電池5の温度及び/または二次電池5のSOCに応じて修正することも考えられる。この場合には、二次電池5の温度が高いほど自己放電抵抗値Rを高く修正し、二次電池5のSOCが高いほど自己放電抵抗値Rを高く修正する。
【0063】
何れにせよ、自己放電電流I0の温度依存性を考慮に入れて、検査対象の二次電池5の品質または性能を示唆する自己放電抵抗Rの値を精確に見積もることができるようになる。ひいては、二次電池5の検査の精度がより一層向上する。
【0064】
このように、本実施形態では、充電及び検査ユニット3または上位システム4が、自己放電抵抗算出部104としての機能を発揮する。
【0065】
それから、上位システム4または計測制御システム300は、当該PLC2に指令を与え、動作機構200を作動させて、各二次電池5に相対する接触子201、202、203、204を二次電池5の電極から離反させる(ステップS10)。
【0066】
ステップS7ないしステップS9を経て算出した、各二次電池5毎の自己放電抵抗Rの値は、当該二次電池5を識別する識別子に関連付けて、計測制御システム300及び/または上位システム4のメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに格納する。
【0067】
最後に、上位システム4または計測制御システム300において、各二次電池5の自己放電抵抗Rの値が所定の許容範囲内にあるか否かを判断し(ステップS11)、許容範囲内にある二次電池5は正常品であると判定し(ステップS12)、許容範囲内にない二次電池は不良品であると判定する(ステップS13)。個々の二次電池5の正常/不良の判定結果は、当該二次電池5を識別する識別子に関連付けて、計測制御システム300及び/または上位システム4のメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに格納する。
【0068】
本実施形態によれば、従前の検査手法に比して、製造した二次電池5の検査に要する時間を大きく短縮することが可能である。
【0069】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、検査装置1自体で二次電池5の検査前の初期充電を遂行していたが、検査装置1以外の充電装置を用いて初期充電を完了した二次電池を検査装置1に搬入して、当該検査装置1による検査を実行することもできる。この場合、
図1に示す初期充電部105及び充電率計測部106の機能が不要となる。並びに、
図5に示す初期充電及びSOC計測のステップを省略できる。初期充電された検査対象の二次電池5のSOCの値は、充電装置等から電気通信回線を介して送信され、上位システム4及び/または計測制御システム300がこれを受信し、二次電池5を識別する識別子に関連付けてメインメモリ若しくは補助記憶デバイスに格納することとなる。
【0070】
その他、各部の具体的構成や処理の手順は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、二次電池を充電及び/または放電して二次電池の活性化や性能試験を行う検査装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…検査装置
101…電圧計測部
102…電圧印加部
103…電流計測部
104…自己放電抵抗算出部
105…初期充電部
106…充電率計測部
5…二次電池