(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101845
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】歯車加工用転造工具
(51)【国際特許分類】
B21H 5/00 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
B21H5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002019
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嗣紀
(57)【要約】
【課題】アキシャル送りの内歯車同期転造加工において、転造荷重を低減して、高硬度の被加工物が加工できる歯車加工用転造工具を提供することを課題とする。
【解決手段】
回転軸Oと平行な断面において、加工歯10は歯先面が回転軸Oに対して所定の勾配をもって形成された第1テーパ加工部1、第1テーパ加工部1と同じ方向の勾配を持った第2テーパ加工部4、を有した歯車加工用転造工具100とする。第2テーパ加工部4における歯車加工用転造工具100の最小径D21を第1テーパ加工部1における歯車加工用転造工具100の最大径D12よりも小さくする。また、第2テーパ加工部4における歯車加工用転造工具100の最大径D22を第1テーパ加工部1における歯車加工用転造工具の最大径D12よりも大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転造加工を行う加工歯が回転軸を中心に円環状に複数配置された歯車加工用転造工具であって、前記回転軸と平行な断面において、前記加工歯は歯先面が前記回転軸に対して所定の勾配をもって形成された第1テーパ加工部と、前記第1テーパ加工部と同じ方向の勾配を持った第2テーパ加工部と、が前記回転軸に沿って形成されており、前記第2テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最小径は前記第1テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径よりも小さく、前記第2テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径は前記第1テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径よりも大きく、前記第1テーパ加工部と前記第2テーパ加工部の間には、前記第1テテーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径よりも前記歯車加工用転造工具の外径が小さく、かつ歯先面が所定の勾配をもったテーパ部が形成されていることを特徴とする歯車加工用転造工具。
【請求項2】
転造加工を行う加工歯が回転軸を中心に円環状に複数配置された歯車加工用転造工具であって、前記回転軸と平行な断面において、前記加工歯は歯先面が前記回転軸に対して所定の勾配をもって形成された第1テーパ加工部と、前記第1テーパ加工部と同じ方向の勾配を持った第2テーパ加工部と、が前記回転軸に沿って形成されており、前記第2テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最小径は前記第1テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径よりも小さく、前記第2テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径は前記第1テーパ加工部における前記歯車加工用転造工具の最大径よりも大きく、前記第1テーパ加工部と前記第2テーパ加工部の間には、前記歯先面が前記回転軸と平行である平行部が形成されていることを特徴とする歯車加工用転造工具。
【請求項3】
前記平行部は、前記第1テーパ加工部と隣接して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の歯車加工用転造工具。
【請求項4】
前記テーパ部は、前記第1テーパ加工部および第2テーパ加工部の歯先面と逆向きの勾配をもった歯先面を有しており、かつ前記平行部と隣接して配置されていることを特徴とする請求項3に記載の歯車加工用転造工具。
【請求項5】
前記第2テーパ加工部の歯先面の角部には丸め加工が施されていることを特徴とする請求項4に記載の歯車加工用転造工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造加工により歯車を製作するための歯車加工用転造工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯車状の断面を持つ円柱形状の転造工具の少なくとも一方に外径上がり、あるいは歯形上がりの円錐面を設けた転造工具、内歯車を加工する円環状の被加工を5軸の工作機械で同期回転させながら、被加工物の回転軸方向に転造工具を送ることによって内歯車を転造する、いわゆるアキシャル送り内歯車同期転造加工法がある。
【0003】
この方法によれば、被加工物の内面を軸方向に歯車を順次形成することができるので、転造工具と被加工物の接触する面積を小さくでき、加工荷重を低減することが可能である。例えば、特許文献1によれば、小モジュールの内歯車を効率的に精度よく加工する転造工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている転造工具を被加工物に押し付けた際に、被加工物の変形抵抗によって転造工具は押し戻され、実際の被加工物の変形量は機械座標上の押しつけ量よりも小さくなる。このため、系全体の弾性変形分を補正し、押しつけ量を増加させる必要がある。変形抵抗の大きさは被加工物の硬さと工具と被加工物との接触面積に支配される。
【0006】
アキシャル送り同期転造加工法はラジアル送り同期転造と比較して工具と被工作物との接触面積を減らすことで加工荷重を低減しているが、それでもなお、被加工物の硬さが高い場合には加工荷重が大きく、より高い機械剛性や設備やジグの各部の強度が必要となり、加工コストが増大する原因となっていた。
【0007】
さらに、加工荷重を低減するには工具と被加工物の接触面積をさらに減らす必要がある。アキシャル送り同期転造加工用の工具は被加工物を順次押し潰すためのテーパ部と最大外径の平行部とを備えており、接触面積はこの二つの長さの和となる。テーパ部の長さは歯たけ(加工する深さ)とテーパ角で決まっており、テーパ部を短くするためには角度を大きくする必要がある。しかし、テーパ角が大きすぎると1回転当たりの加工体積が増大して加工が不可能になる。一方、平行部長さが短すぎると工具強度が不足し、破損しやすくなるという問題があった。
【0008】
こうした課題に対して、工具をアキシャル方向に動かして被加工歯車を通過させる1工程を1パスとみなすと、転造工具と被加工物との同期加工を保持した状態で押し付け量を順次増やして複数回のパスを行って一つの被加工物を加工することによって、1パス当たりの加工荷重を低減するとも可能である。このような方法は、歯形上がり工具を用いた場合には何の問題も生じない。しかし一方で、外径上がり工具で複数パス加工を行うと、加工面の品位が損なわれることが確認された。
【0009】
この現象について調査を進めた結果、原因は複数パス加工時に発生したバリであることが分かった。 すなわち、外径上がり工具で1パス目よりも2パス目の押し付け量を大きくした(工具を被加工物に近づけた)場合、被加工物の表面付近で1パス目よりも広くて浅い溝を形成することになるが、この際に1パス目で加工したより狭い空隙部分に2パス目で加工された被加工物が移動し、バリを形成する。このバリは順次深さ方向に追いやられるが、その工程でムシレや剥離を生じ、加工面が荒らされることが分かった。
【0010】
なお、歯形上がり(フォーム上がり)の工具では歯面全体を押し広げるためこのようなことは起こらない。しかし、一方では、フォーム上がりの工具は歯形形状そのものが傾斜しているため、断面形状が一様である外径上がり工具と比較すると工具製作にコストがかかる。
【0011】
言い換えると、外径上がり工具はワイヤ放電加工などの2次元的な製法で製造可能であるが、フォーム上がり工具は研削での製造が必要である。このことは、工具材料が高硬度になるほど影響が大きく、超硬合金製の工具であれば製造コストの差がさらに増大する要因となっていた。
【0012】
そこで、本発明はアキシャル送りの内歯車同期転造加工において、転造荷重を低減して、高硬度の被加工物も加工できる歯車加工用転造工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、この課題に対して転造工具と加工歯車の接触面積、すなわち同時に転造加工する領域を減らすことを第一義に考えた。そして、歯車を転造加工する領域を複数に分割して、一つの領域が転造加工する際に別の異なる領域を転造工具と被加工物が互いに接触しない構成にすることで、転造加工時の押し付け荷重を時間的に分散して低減できることに想到した。つまり、複数の加工領域を被加工歯車の歯幅よりも大きく離すことによって上記の状態が実現することを見出した。
【0014】
本発明では転造工具を、少なくとも2つの同一方向に傾いたテーパ部を有し2つのテーパ部の間には少なくとも1か所の両方の最大径よりも小径の部分を有し、これらの二つのテーパ部の最小径断面と最大径断面の距離が被加工物の歯幅よりも離れている構成とした。
【0015】
すなわち、第1テーパ部と第2テーパ部で被加工歯車を順次加工する転造工具とし、第1テーパ部と第2テーパ部がそれぞれ別個に被加工歯車を転造加工することで、転造工具が受ける変形抵抗を時間的に分散して、その最大値を低減することができる。つまり、テーパ角を変えずに同時に接触する面積を減らすことができる。そして、第1テーパ部と第2テーパ部の間は被加工物と接触しないよう適度な逃げを持つことが好ましい。
【0016】
また、アキシャル送り同期転造加工用工具において、テーパ部の最小径部分と最大径部分の距離が、被加工物の歯幅よりも大きく、かつ、テーパ部の最小径部分と最大径部分の間に少なくとも1か所の被加工物を加工しない領域を設けるアキシャル送り同期転造加工用工具によって上記課題を解決した。
【0017】
より具体的には、本発明の歯車加工用転造工具は、転造加工を行う複数の部分から成る加工歯を同工具の回転軸と平行に形成して、同時にこれらの加工歯は同回転軸を中心に円環状に複数配置させる。また、この回転軸と平行な断面において、これらの加工歯を歯先面が回転軸に対して所定の勾配をもって形成された第1テーパ加工部およびこの第1テーパ加工部と同じ方向の勾配を持った第2テーパ加工部から構成する。
【0018】
この第2テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最小径は、第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも小さく、第2テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径は第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも大きく、第1テーパ加工部と第2テーパ加工部の間には第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも歯車加工用転造工具の外径が小さく、かつ歯先面が所定の勾配をもったテーパ部を形成する。
【0019】
また、別形態の歯車加工用転造工具の発明は、まず回転軸に沿って連続的に形成された加工歯をこの回転軸を中心に円環状に複数配置する。この回転軸と平行な断面において、これらの加工歯は歯先面が回転軸に対して所定の勾配をもって形成された第1テーパ加工部および、この第1テーパ加工部と同じ方向の勾配を持った第2テーパ加工部から構成する。
【0020】
この第2テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最小径を第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも小さくして、第2テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径を第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも大きくした上で、第1テーパ加工部と第2テーパ加工部の間に歯先面が回転軸と平行である平行部を形成する。
【0021】
なお、平行部を第1テーパ加工部と隣接して配置しても構わない。また、テーパ部に第1テーパ加工部および第2テーパ加工部の歯先面と逆向きの勾配をもった歯先面を付して、かつ平行部と隣接して配置することもできる。
【0022】
さらに、第2テーパ加工部の歯先面の角部には丸め加工を施すこともできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の歯車加工用転造工具は、回転軸と平行な断面において転造加工を行う加工歯を歯先面が回転軸に対して所定の勾配をもって形成された第1テーパ加工部と当該第1テーパ加工部と同じ方向の勾配を持った第2テーパ加工部から構成した上で、当該第2テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最小径を第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも小さくした。同時に、第2テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径を第1テーパ加工部における歯車加工用転造工具の最大径よりも大きくした。その結果、本発明の歯車加工用転造工具はアキシャル送りの内歯車同期転造加工においても転造荷重を低減して、硬さの高い被加工物も加工できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態の歯車加工用転造工具100の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の歯車加工用転造工具100の左側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の歯車加工用転造工具100の右側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態の歯車加工用転造工具100の斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態の歯車加工用転造工具100の異なる斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。本発明の歯車加工用転造工具100の正面図を
図1、左側面図を
図2、右側面図を
図3にそれぞれ示す。また、
図2に示す歯車加工用転造工具100側からの斜視図を
図4、
図3に示す歯車加工用転造工具100側からの斜視図を
図5に示す。
【0026】
本発明の歯車加工用転造工具100は、
図1ないし
図3に示す様に回転軸Oを中心として複数の加工歯10が円環状に配列されている。これらの加工歯10は図示しない被加工物に対して接触、加圧することで転造加工を行う部分であり、各加工歯10は 一端面40側から他端面30側へ向けて、
図1に示す様に回転軸Oの軸方向に沿って形成されている。
【0027】
転造加工を行う際は、
図3に示す歯車加工用転造工具100の他端面30に設けられた溝50を図示しない工作機側の治具などに嵌め込んで使用される。なお、
図1ないし
図3に示す形態の歯車加工用転造工具100は、回転軸Oを中心に合計160個の加工歯10を有している。
【0028】
各加工歯10については、
図1に示す様に回転軸Oと平行に複数の部分に区分されている。これらの複数の部分を
図1に示す歯車加工用転造工具100の左側の端面40から右側の端面30へ向けて回転軸Oに沿って順に説明する。まず、加工歯10には、歯先面が回転軸Oに対して所定の勾配θ1を有する第1テーパ加工部1(
図4の第1テーパ加工部1A、
図5の第1テーパ加工部1Mに相当)が形成されている。
【0029】
当該第1テーパ加工部1は、被加工物に対して最初に転造加工を行う部分であり、勾配θ1の大きさによって被加工物に対する転造荷重を調整することができる。なお、勾配θ1は2°以上10°以下の範囲とすることが好ましい。
【0030】
次に、加工歯10には、第1テーパ加工部1に隣接して、加工歯10の歯先面が回転軸Oと平行である第1平行部2(
図4の第1テーパ加工部2A、
図5の第1テーパ加工部2Mに相当)が形成されている。この第1平行部2は、後述するテーパ部3(
図4の第1テーパ加工部3A、
図5の第1テーパ加工部3Mに相当)とも連続的に形成されており、いわば第1テーパ加工部1による被加工物への転造加工後に被加工物に対する転造荷重(負荷)を解放する役割を果たす。
【0031】
次に、加工歯10には、第1平行部2に隣接して、歯先面が所定の勾配θ10を伴うテーパ部3(
図4の第1テーパ加工部3A、
図5の第1テーパ加工部3Mに相当)が形成されている。当該テーパ部3も前述の第1平行部2と同様に転造加工後に被加工物に対する転造荷重を解放する役割を果たす。
【0032】
なお、テーパ部3の歯先面の勾配θ10は、第1テーパ加工部1の歯先面の勾配θ1よりも小さく、7°以下とすることが好ましい。また、テーパ部3の歯先面の勾配θ10の向きは、
図1、
図4およぶ
図5に示すように第1テーパ加工部1の歯先面の勾配θ1とは逆向きの勾配である。
【0033】
次に、加工歯10には、テーパ部3に隣接して、歯先面が所定の勾配θ2を伴っている第2テーパ加工部4(
図4の第1テーパ加工部4A、
図5の第1テーパ加工部4Mに相当)が形成されている。当該第2テーパ加工部4(
図4の第1テーパ加工部4A、
図5の第1テーパ加工部4Mに相当)は、第1テーパ加工部1による転造加工に引き続いて、被加工物に対する最終の転造加工を行う部分である。
【0034】
さらに、第1テーパ加工部1の勾配θ1の場合と同様に、第2テーパ加工部4の歯先面の勾配θ2の大きさによって被加工物に対する転造荷重を調整することができる。当該第2テーパ加工部4の歯先面の勾配θ2は、5°以上13°以下とすることが好ましい。
【0035】
加工歯10の最終端には、第2テーパ加工部4に隣接して、加工歯10の歯先面が回転軸Oと平行である第2平行部5(
図4の第1テーパ加工部5A、
図5の第1テーパ加工部5Mに相当)が形成されている。この第2平行部5は、前述の第1平行部2と同様に第2テーパ加工部4による転造加工後に被加工物に対する転造荷重(負荷)を解放する役割を果たす。
【0036】
次に、本発明の歯車加工用転造工具100の径方向の大きさ(直径)について説明する。歯車加工用転造工具100の径方向の直径は、
図1等に示す様に回転軸Oを中心として相対する加工歯10同士の距離に相当するので、加工歯10を形成する歯先面の形状によって変化する。
【0037】
つまり、本発明の歯車加工用転造工具100は、
図1および
図2に示すように端面20側における加工歯10の第1テーパ加工部1同士の距離である直径D11から第1平行部2へ向けて徐々に大きくなり、第1平行部2同士の距離である直径D12まで変化する。
【0038】
また、加工歯10がテーパ部3は、第1テーパ加工部1とは逆向きの勾配であるためにテーパ部3と第2テーパ加工部4の境界における直径D21が、第1平行部2同士の距離である直径D12よりも小さくなる。
【0039】
一方、第2テーパ加工部4の歯先面は
図1等に示す様に、第1テーパ加工部1と同じ向きの勾配であり、第2テーパ加工部4の最大径および平行部5が最終的な加工歯車に転写される形状であるため、歯車加工用転造工具100の端面30側の直径D22が最大径となる。
【実施例0040】
本発明の歯車加工用転造工具(発明品)と比較例として本発明外の歯車加工用転造工具(比較品)の2種類の転造加工工具をそれぞれ使用して、アキシャル送りで内歯車を同期転造加工することで内歯車を製作する転造加工試験を行い、加工歯車(被加工材)のBBDおよび転造加工時に発生する転造加工工具の押し付け荷重を測定したので、その試験結果について説明する。
【0041】
まず、本転造加工試験に使用した本発明品および転造加工する歯車の各諸元は以下の通りとした。
(本発明品の諸元)
・歯数:114
・歯幅(工具長さ):17mm
・歯たけ:0.6mm
・ねじれ角:0°
・材質:高速度工具鋼(SKH51)
・第1および第2テーパ部の傾斜角度(θ1、θ2):10°
・第1テーパ部の長さ:2.5mm
・第2テーパ部の長さ:2.6mm(実効長さ0.9mm)
【0042】
(歯車の諸元)
・モジュール:0.25
・ねじれ角:0°
・歯たけ:0.44
・歯数:202
・歯幅:10mm
・材質:球状黒鉛鋳鉄(FCD600)
【0043】
次に、転造加工条件および加工試験結果を以下に示す。
(転造加工条件)
・加工速度:100m/分
・押し付け量:0.57mm
・発明品の移動方向:被加工材の軸方向(アキシャル方向)
・発明品の送り速度:0.023mm/REV
・発明品の移動量:30mm
(試験結果)
・転造加工歯車のBBD:基準値-0.003mm(3μm)
・押し付け荷重の最大値:2.9kN
【0044】
なお、本実施例では第1テーパ角と第2テーパ角が等しいが、それぞれ異なる角度であっても構わない。また、第3テーパ部や第4テーパ部等の異なるテーパ部を形成することもできる。この場合、第1のテーパ部と最も離れたテーパ部が被加工歯車の歯幅よりも離間していれば同時に接触する面積が減少するので、本実施例で使用した歯車加工用転造工具と同様の効果を奏する。
【0045】
(比較例)
次に、比較例として本発明品とは異なる転造加工工具(以下、比較品という)を使用し、実施例と同様の転造加工試験(アキシャル送りで内歯車を同期転造加工することで内歯車を製作する)を行ったので、その試験結果についても説明する。まず、本比較例の試験で使用した比較品の諸元および転造加工試験の試験条件を以下に示す。なお、転造加工する歯車の各諸元は前述の実施例の場合と同様とした。
【0046】
(比較品の諸元)
・歯数:114
・歯幅(工具長さ):17mm
・歯丈:0.6mm
・ねじれ角:0°
・材質:高速度工具鋼(SKH51)
・テーパ部の傾斜角度(θ1):10°
・テーパ部の長さ:3.4mm
【0047】
(転造加工条件)
・加工速度:100m/分
・押し付け量:0.59mm
・工具の移動方向:被加工材の軸方向(アキシャル方向)
・工具の送り速度:0.023mm/REV
・工具の移動量:30mm
【0048】
次に、転造加工試験の結果を示す。
(試験結果)
転造加工歯車のBBD:基準値-0.042mm(42μm)
押し付け荷重の最大値:5.5kN
【0049】
以上の試験結果より、比較例の転造加工試験で使用した比較品(転造加工工具)には、テーパ部が1段のみであるため、そのような形態の転造加工工具を用いた転造加工においては、転造加工時に発生する変形抵抗を被加工材が一度に受ける。その結果、転造加工時の加工荷重が大きくなり、これにより転造加工工具を支える工具軸がたわむため、転造加工された歯車のBBDが狙い値よりも小さくなる。
【0050】
これに対して、例えば
図1に示す発明品の様に転造加工工具の加工歯において、軸方向に異なる2カ所のテーパ加工部を有する転造加工工具を用いて転造加工を行うと、転造加工時の変形抵抗が分散された結果、転造加工時の加工荷重が低減して、被加工材のBBD値も基準値に近い値となった。