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特開2023-101884オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)を用いたナノファイバーマスク・フィルター製造方式
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  • 特開-オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)を用いたナノファイバーマスク・フィルター製造方式 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101884
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)を用いたナノファイバーマスク・フィルター製造方式
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20230714BHJP
   A62B 18/08 20060101ALI20230714BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20230714BHJP
   A61L 2/07 20060101ALI20230714BHJP
   A61L 2/28 20060101ALI20230714BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B01D39/16 A
A62B18/08 C
A62B18/02 C
A61L2/07
A61L2/28
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002089
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(71)【出願人】
【識別番号】521410810
【氏名又は名称】何乃繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】西村秀一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋光弘
【テーマコード(参考)】
2E185
4C058
4D019
【Fターム(参考)】
2E185BA16
2E185CB18
2E185CC32
4C058AA03
4C058BB05
4C058JJ16
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB03
4D019BC06
4D019DA01
4D019DA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】静電気を使用することなく、高い捕集効率を実現することができるマスク・フィルターを提供する。
【解決手段】溶融ポリマーをノズルから噴出させ、この噴出した溶融ポリマーをエアーノズルからの高温高速エアーによって延伸して直径400nm以下のナノファイバーとし、このナノファイバーを通気性シートに吹き付けて積層し、この上に別の通気性シートを重ねてシート材とし、更にオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理により高温高圧蒸気にてナノファイバーの捻じれがほぐされ、偏りが均一化されることで菌とウイルスの捕集効果が大幅に改善され圧力損失も低減、半永久的に使用できるマスク・フィルターとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電気を利用したN95などの高性能マスクでは使用できないオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)処理をマスク・フィルター製造工程にてナノファイバー加工で利用することで、ウイルスの捕集効率向上と殺菌、抗ウイルス不活化を行うことを目的とする製造方式である。
【請求項2】
請求項1に記載のマスク・フィルターにおいて、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理によりナノファイバーの捻じれがほぐされ、偏りが均一化されることを特徴とするマスク・フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のマスクにおいて、前記マスク・フィルターの面方向の繊維専有面積を厚み方向の繊維専有面積よりも小さくすることで、厚み方向の圧力損失を高くしエアーが流れ難くし、面方向ではエアーを流れ易くしスリップフロー現象により息苦しさを解消したことを特徴とするマスク・フィルター。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れかに記載のマスクにおいて、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理を5回行った条件での、0.3~0.5μm粒子の捕集効率が95%以上であることを特徴とするマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気を利用したN95などの高性能マスクでは静電気が蒸気で放電するため使用できないが、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理をすることでウイルスの捕集効率向上と殺菌、抗ウイルス不活化を行うことを可能とする製造方式に関するものである。
オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)とは、安全な水を2気圧、121度の蒸気を用いることで、完全な殺菌、抗ウイルス不活化を実行することができるものである。
【背景技術】
【0002】
感染症の細菌やウイルスの蔓延を防止・軽減するため、マスクの着用が半ば義務付けられている。ところが、市販されているマスクは一部が布マスクやウレタンマスクであるが、静電気をかけることができずに捕集効率が15%以下であり、ウイルスを除去できない。また、不織布マスクは静電気をかけて捕集効率を高めている高性能マスクであるが、これらは数時間しか使用することができず、静電気が放電し捕集効率が低下することで放電後は使い捨てにせざるを得ない。そのため、現在世界中で廃棄されるマスクは毎月1,290億枚と言われ、プラスチック廃棄による環境破壊が問題となっている。更にこれらの不織布は、ウイルスがマスクに付着している場合、廃棄することによって感染拡大の要因もなっている。
【0003】
特許文献1には、試供物質(マスク)に対するウイルスの付着し難さを測定するために、測定前の試供物質をオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理し滅菌することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポリプロピレンなどの溶融ポリマーを吐出する噴出ノズルと、高速高温エアーを吹き出すエアーノズルとからなり、エアーノズルから吹き出した高速高温エアーで吐出した溶融ポリマーを延伸し、繊維径をナノファイバー化するナノファイバー発生手段が開示されている。
【0005】
特許文献3には、抗菌機能や抗ウイルス効果を備えたナノファイバーを用いたマスクについて記載されている。具体的には繊維径が400nm以下になると(ファンデルワールス力(分子間力)が強くなり、これによって菌やウイルスが繊維に固着されることが開示されている。
【0006】
特許文献4及び特許文献5には、100nm~1μmの極細のセルロースナノファイバーを用いることで、エアフィルタ用濾材中の単位体積あたりの繊維の本数が著しく増加し、気体中の粒子を捕捉しやすくなり、高い捕集性能を得ることが可能となる。また、スリップフロー効果によって、単繊維の通気抵抗が極めて低くなることが開示されている。
【0007】
特許文献4及び特許文献5に開示されたエアフィルタ用濾材の製造方法は、セルロースナノファイバーを水と有機溶媒からなる分散媒に混合し、この混合液を通気性を有する支持体に付着させ、次いで凍結乾燥させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-313415号公報
【特許文献2】特開2016-156114号公報
【特許文献3】WO2015/145880
【特許文献4】特開2017-177091号公報
【特許文献5】WO2017/022052
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
不織布マスクには静電気をかけて捕集効率を高めている高性能マスクあるが、これらは数時間しか使用することができず、静電気が放電し捕集効率が低下することで放電後は使い捨てにせざるを得ない。
【0010】
そのため、現在世界中で廃棄されるマスクは毎月1290億枚と言われ、プラスチック廃棄による環境破壊が問題となっている。
【0011】
更に使用後の不織布は、ウイルスがマスクに付着している場合、廃棄することによって感染拡大の要因もなっている。
【0012】
ナノファイバーマスクやフィルターは、N95のような静電気を使用した使い捨てマスクではなく洗濯を100回以上行っても高い捕集効率を維持できるが、製造工程上でナノファイバーの偏りやねじれが原因で品質が不安定である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解消するため、まず、本発明に係るマスクは、有害物質を含まない溶融ポリマーを延伸してナノファイバーとすることで静電気を使用することなく、高い捕集効率を実現することができる。
【0014】
更にナノファイバーの繊維径を400nmにすることで強いファンデルワールス力が発生し、細菌やウイルス、PM2.5 微粒子を固着することで抗菌、抗ウイルス不活化を行うことができるため、洗濯やオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)をかけても捕集効率を高いレベルに保持したまま、100回以上実施することができる。
【0015】
更に、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理により高温高圧蒸気にてナノファイバーの捻じれがほぐされ、偏りが均一化されることで捕集効率が改善され圧力損失も低減される。
【発明の効果】
【0016】
従来の市販の静電気を使ったマスク(N95マスク)では絶対に使用できないオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理を製造工程で実施することで、完全な殺菌、抗ウイルス不活化が行えるだけでなく、菌とウイルスの捕集効率を大幅に向上させることが可能となる。これによって100回以上洗濯やオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理ができるため、従来の高性能マスク(N95など)と違って半永久に使用できるマスク・フィルターを作ることが可能となる。
【0017】
ナノファイバーを用いることで空気(息)の流れがマスクの面方向になるため、菌やウイルスなどの微細粒子と繊維との接触機会が増大し、捕集効果が高くなる。
【0018】
また、本発明に係るマスクは、粒子を静電力で吸着するのではなくファンデルワールス力(分子間力)によって固着するのが主となるため、洗濯によって機能が低下することがなく、100回以上の洗濯に耐えることができる。このため、無駄な資源の廃棄及び環境破壊を抑制することができる。
【0019】
有害な有機溶媒を用いて紡糸していないため、製品としてのマスクに有機溶媒が残ることがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るマスクの製造工程を示す図
図2】本発明に係るマスクの拡大断面図
図3】(a)は本発明に係るマスクのSEM写真(1000倍)、(b)は従来のN95マスクのSEM写真(1000倍)
図4】本発明に係るマスク(5回オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理)の粒子除去率を他のマスクと比較したグラフ
図5】本発明に係るマスク(10回オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理)の粒子除去率を他のマスクと比較したグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施例を説明する。
本発明にあっては、図1に示すように、溶融ポリマーを調整する。ポリマーの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ナイロン6などのポリアミド、ポリエチレンなどのポリオレフィンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
上記の溶融ポリマーをノズルから噴出させ、この噴出した溶融ポリマーをエアーノズルからの高温高速エアーによって延伸して直径400nm以下のナノファイバーとし、このナノファイバーを通気性シートに吹き付けて積層し、この上に別の通気性シートを重ねてシート材とする。
【0023】
次いで、上記シート材をオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)で処理する。オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理の条件は、例えば、121℃で20分とする。このオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理により、細菌、ウイルス、胞子などが殆ど殺菌、抗ウイルス化される。
また、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理によってナノファイバーのストレス(捻じれや偏り)が解消され、スリップフロー現象が助長され、菌及びウイルスの捕集効率が高まりかつ圧力損失の減少の効果が発現する。
【0024】
上記のオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理後のシート材を裁断してマスクとする。このマスクは図2に示すように、表側通気性シート1と裏側通気性シート2と、これら表側通気性シート1と裏側通気性シート2との間に保持されるナノファイバー層3から構成され、スリップフロー現象を利用するために厚みが通常のマスクより厚く、0.5mm~5mmである。
【0025】
上記にあっては、裁断する前の工程でオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理を行っているが、裁断後のマスクとなった状態でオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理を行うことがより効果的である。
【0026】
本発明に係るマスクは従来のマスクに比較して厚みが大きく、表側基材シート1と裏側基材シート2との間のナノファイバー層3が挟まれる空間をマスクの面方向に沿った空気の流通空間としている。
【0027】
前記ナノファイバー層3の厚み方向から見た繊維専有面積割合は非常に高いことで圧力損失が高く、面方向から見た繊維専有面積割合は低いことで圧力損失が低いものになっている。
【0028】
ナノファイバー層3は、厚み方向から見た繊維専有面積の方が面方向から見た繊維専有面積より大きくなっているため、呼気の際にはマスクの裏面中央部分に吐き出された空気は、裏側基材シート2の中央部分からナノファイバー層3が挟まれる空間に入り、スリップフロー効果によってマスクの面方向に沿って流れ、表側基材シート1の全面から外部に排出される。このため圧力損失が小さくなり呼吸が楽になる。
【0029】
このように、呼気はナノファイバーと接触する機会が多く、またナノファイバーは400nmと細いため、ファンデルワールス力(分子間力)によって呼気中に含まれるウイルスなどの微細粒子はファンデルワールス力でナノファイバー表面に捕捉される。吸気の場合も同様に空気が流れ、空気中のPM2.5などの微粒子はナノファイバー表面に捕捉される。
【0030】
図3(a)は本発明に係るマスクのナノファイバー層3のSEM写真(1000倍)、(b)は従来の市販マスクのSEM写真(1000倍)であり、このSEM写真から本発明に係るマスクはナノファイバーが密に積層しており、空気がマスクと直交する方向(厚み方向)には通過しにくいことが分かる。
【0031】
図4は本発明に係るマスク(5回オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理)の粒子除去率を他のマスクと比較したグラフである。
オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理は121℃、20分間の処理を5回繰り返した。
洗濯処理は、容器の水2リットル、洗剤07gを入れ、5分間浸し置き、マスク素材が浮いてくると裏返して更に5分間浸し置き、その後押し洗いとすすぎを行い、水気切りを行った後、乾燥させた。
【0032】
図4に示すように、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理を5回行った本発明に係るマスクは、0.3~0.5μmの粒子の98.2%が捕捉され、1.8%の粒子が透過した。この結果は従来のマスク(5回洗濯、無処理)に比較して大幅に向上していることが分かる。
【0033】
浮遊量子透過率は以下のようにして行った。
クラス10のクリーン度に保った環境試験室内で浮遊量子数濃度を測定した。測定には、グローブ操作可能な作業台に置かれたリオン製パーティクルカウンターKC-52を用いた。また、マスクろ材サンプルの浮遊量子透過率は、ろ材サンプルを張り付けたホルダをKC-52に接続し、ホルダを透過した粒子数濃度と、ホルダを外して吸引した環境試験室内の浮遊量子数濃度を比較して算出した。尚、浮遊量子数濃度の測定中の上流側粒子数個数濃度は、0.3μm以上の大きさの粒子が常に5万~10万個/LAirとなる条件下で実施した。
【0034】
図5は本発明に係るマスク(10回オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理)の粒子除去率を他のマスクと比較したグラフである。
10回オートクレーブ処理した場合でも、5回のオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)処理よりは若干低いものの、0.3~0.5μmの粒子の97.8%が捕捉されたことが分かる。この捕捉率は従来のマスクと比較して大幅に向上している。
【符号の説明】
【0035】
1…表側基材シート、2…裏側基材シート、3…ナノファイバー層。

図1
図2
図3
図4
図5