(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101908
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】ホイスラー型金属系熱電材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/854 20230101AFI20230714BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20230714BHJP
【FI】
H01L35/20
H01L35/34
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002141
(22)【出願日】2022-01-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000176833
【氏名又は名称】三菱製鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晴一
(72)【発明者】
【氏名】青山 俊文
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲治
(57)【要約】
【課題】エネルギー変換効率に優れるホイスラー型金属系熱電材料を提供する。
【解決手段】ホイスラー型金属系熱電材料は、Fe、Co、Ga及び不可避的不純物から構成され、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe
2-XCo
1+XGaで表されるホイスラー型金属を含み、Xは0.2≦X≦0.3の範囲にあってもよく、ホイスラー型金属系熱電材料は鋳造法によって作製されてもよいし、粉末冶金法によって作製されてもよく、さらに均質化熱処理を施されてもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイスラー型金属系熱電材料であって、Fe、Co、Ga及び不可避的不純物から構成され、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を含む熱電材料。
【請求項2】
前記Xは、0.2≦X≦0.3の範囲にある請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
均質化熱処理を施された請求項1又は2に記載の熱電材料。
【請求項4】
ホイスラー型金属系熱電材料の製造方法であって、
Fe、Co及びGaを加熱して溶解し、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を作製する工程と、
前記作製されたホイスラー型金属を放熱により固化させる工程と
を含む方法。
【請求項5】
前記固化されたホイスラー型金属に均質化熱処理を施す工程をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ホイスラー型金属系熱電材料の製造方法であって、
-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を構成するように金属粉末を混錬する工程と、
前記混錬された金属粉末をプレスにより成形する工程と、
前記成形された金属粉末を焼結する工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記金属粉末を焼結する工程は、加熱炉により焼結する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属粉末を焼結する工程は、通電焼結により焼結する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記金属粉末を焼結した焼結体に均質化熱処理を施す工程をさらに含む請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
Fe、Co及びGaを加熱して溶解し、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を作製する工程と、
前記作製されたホイスラー型金属を放熱により固化させる工程と、
前記固化されたホイスラー型金属からアトマイズ法により金属粉末を作製する工程をさらに含む請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記混錬する金属粉末は、Fe、Co及びGaの金属粉末である請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属粉末をプレスにより成形する工程において使用するバインダー及び潤滑剤の少なくとも一方は、ステアリン酸を含む請求項6から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホイスラー型金属系熱電材料及びその製造方法に関し、詳しくはパワーファクターのような熱電特性に優れたホイスラー型金属系熱電材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルの観点から、鉄鋼業においても化石エネルギーの消費を削減し、エネルギー効率を向上させることが検討されている。例えば、わが国の転炉鋼及び電炉鋼におけるエネルギー効率を諸外国と比較した研究によると、わが国のエネルギー効率はインド、ロシアなどの新興国はいうまでもなく、韓国、ドイツなどの比較的技術が進んだ諸国に比べても高く、世界最高水準にある(非特許文献1、2を参照)。鉄鋼業においては、さらにエネルギー効率を向上させるため、エコプロセス、すなわちプロセスにおけるたゆまぬ従来の省エネによるCO2削減として、製鉄のプロセスで発生する中低温排熱を回収して利用する排熱回収が提唱されている(非特許文献3を参照)。
【0003】
このような排熱回収のために、温度差を電気に直接変換することができる熱電変換素子の技術が研究されている。熱電変換素子においては、効率的なエネルギー変換を可能にするために熱電材料の選択が重要であり、変換効率の高い熱電材料としてBi2Te3が広く使用されている。また、例えばFe2VAlのようなホイスラー型金属を基礎とする材料も提供されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「2015年時点の鉄鋼部門のエネルギー原単位の推計(鉄鋼部門-転炉鋼)」、[online]、平成30年10月26日、公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ、[令和3年11月10日検索]、インターネット(URL:https://www.rite.or.jp/system/global-warming-ouyou/download-data/EnergyEfficiency2015.pdf)
【非特許文献2】「2015年時点の鉄鋼部門のエネルギー原単位の推計(鉄鋼部門-スクラップ電炉鋼)」、[online]、平成30年10月26日、公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ、[令和3年11月10日検索]、インターネット(URL:https://www.rite.or.jp/system/global-warming-ouyou/download-data/EnergyEfficiency2015EAF.pdf)
【非特許文献3】「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた需要側の取組」、[online]、2021年2月19日、資源エネルギー庁p.54、[令和3年11月10日検索]、インターネット(URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/030_01_00.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Bi2Te3やホイスラー型金属によるFe2VAlを基礎とする熱電材料に限らず、ホイスラー型金属であってエネルギー変換効率の優れた他の種類の構成を有する熱電材料も探索されている。
【0007】
この発明は上述の実情に鑑みて提供されるものであって、ホイスラー型金属であってエネルギー変換効率に優れる熱電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、この出願に係るホイスラー型金属系熱電材料は、Fe、Co、Ga及び不可避的不純物から構成され、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を含む。Xは、0.2≦X≦0.3の範囲にあってもよい。均質化熱処理を施されてもよい。
【0009】
この出願に係るホイスラー型金属系熱電材料の製造方法は、Fe、Co及びGaを加熱して溶解し、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を作製する工程と、作製されたホイスラー型金属を放熱により固化させる工程とを含む。固化されたホイスラー型金属に均質化熱処理を施す工程をさらに含んでもよい。
【0010】
また、この出願に係るホイスラー型金属系熱電材料の製造方法は、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を構成するように、Fe、Co及びGaの金属粉末を混錬する工程と、混錬された金属粉末をプレスにより成形する工程と、成形された金属粉末を焼結する工程とを含む。金属粉末を焼結する工程は、加熱炉又は通電焼結により焼結してもよい。金属粉末を焼結した焼結体に均質化熱処理を施す工程をさらに含んでもよい。Fe、Co及びGaを加熱して溶解し、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を作製する工程と、作製されたホイスラー型金属を放熱により固化させる工程と、固化されたホイスラー型金属からアトマイズ法により金属粉末を作製する工程をさらに含んでもよい。混錬する金属粉末は、Fe、Co及びGaの金属粉末であってもよい。金属粉末をプレスにより成形する工程において使用するバインダー及び潤滑剤の少なくとも一方は、ステアリン酸を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の一連の工程を示すフローチャートである。
【
図2】実施例2によるパワーファクターの温度依存性を示す第1のグラフである。
【
図3】実施例2によるパワーファクターの温度依存性を示す第2のグラフである。
【
図4】実施例3の一連の工程を示すフローチャートである。
【
図5】実施例3によるパワーファクターの温度依存性を示すグラフである。
【
図6】実施例3及び実施例2のパワーファクターを対比するグラフである。
【
図7】実施例4によるパワーファクターの温度依存性を示すグラフである。
【
図8】実施例5の一連の工程を示すフローチャートである。
【
図9】実施例5によるパワーファクターの温度依存性を示すグラフである。
【
図10】実施例6によるパワーファクターの温度依存性を示すグラフである。
【
図11】実施例6及び実施例3のパワーファクターを対比するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してホイスラー型金属系熱電材料の実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態のホイスラー型金属系熱電材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ガリウム(Ga)及び不可避的不純物から構成されるものであって、-1≦X≦1の範囲にあるXについて、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属を含むものである。Xは、0≦X≦0.5の範囲にあってもよく、0.1≦X≦0.4の範囲にあってもよく、0.2≦X≦0.3の範囲にあってもよく、0.22≦X≦0.28の範囲にあってもよく、0.23≦X≦0.27の範囲にあってもよく、0.24≦X≦0.26の範囲にあってもよく、又はX=0.25を含む適切な範囲にあってもよい。なお、以下の本明細書中では、ホイスラー型金属のことをホイスラー合金と称することもある。
【0013】
本実施の形態のホイスラー型金属系熱電材料は鋳造法によって作製してもよく、粉末冶金法によって合金粉末を焼結することにより作製してもよい。粉末冶金法は、プレス成形した合金粉末の成形体を加熱炉で焼結するものであってもよいし、放電プラズマ焼結(spark plasma sintering:SPS)法のように通電焼結するものであってもよい。なお、本明細書中においては、特記する場合を除いて、粉末冶金法はプレス成形した合金粉末の成形体を加熱炉で焼結して作製するものとする。鋳造法により得られた合金又は粉末冶金法により得られた焼結体に後工程の均質化熱処理をさらに施してもよい。
【0014】
ホイスラー型金属の各種の材料の熱電特性を測定したところ、Fe2-XCo1+XGaで表されるホイスラー型金属が高い熱電特性を有することが明らかになった。特に鋳造法により作製したFe1.75Co1.25Gaにおいては、パワーファクター(power factor:PF)が4000μW/m・K2と高い熱電特性を示した。さらに均質化熱処理の後工程を加えることで最大パワーファクターが4500μW/m・K2もの高い値を示した。表1に示すように、Fe1.75Co1.25Gaは、熱電材料として知られているBi2Te3及びFe2VAlにパワーファクターが匹敵するほどの優れた熱電特性を有していることが観察される。
【0015】
【0016】
一方、粉末冶金法によってもFe1.75Co1.25Gaの焼結体を作製することができる。粉末冶金法においては、合金粉末をプレス成形する際に合金粉末を混錬するバインダー及び混錬した合金粉末をプレスする潤滑剤としてステアリン酸を使用している。このため、加熱炉による焼結時にステアリン酸に由来するCOによる還元反応により不純物を除去することが可能である。焼結体においては、COの含有量が小さいことが観察される。
【0017】
加熱炉による焼結及び放電プラズマ焼結法による粉末冶金法により作製したFe1.75Co1.25Gaの焼結体は、鋳造法により作製したFe1.75Co1.25Gaには及ばないが、いずれも3500μW/m・K2という高い熱電特性を有している。加熱炉により焼結して作製したFe1.75Co1.25Gaには均質化熱処理によりパワーファクターの顕著な向上が観察されたが、鋳造法により作製して均質化熱処理を施したFe1.75Co1.25のパワーファクターには及ばなかった。放電プラズマ焼結法により作製したFe1.75Co1.25Gaにも均質化熱処理を施したが、パワーファクターの顕著な向上は観察されなかった。粉末冶金法により作製したFe1.75Co1.25Gaの熱電特性が鋳造法により作製したFe1.75Co1.25Gaに及ばないのは、焼結体中に存在する無数の微小な間隙により電気抵抗が増加したためであると考えられる。
【実施例0018】
実施例1においては、ホイスラー合金のFe2CoGaのパワーファクターを測定した。また、比較例として、同じくホイスラー合金のFe2TiSn、Fe2TiSi、Fe2CoAl、Fe2NiAl及びFe2NiGaについてもパワーファクターを測定した。
【0019】
図1は、実施例1の一連の工程を示すフローチャートである。最初のステップS11にでは、測定対象となる材料について試験片の原材料を準備した。このため、材料を構成する各種の金属を用意し、これらの金属が重量%で適切な比率で含有されるように構成比を調整した。ステップS12では、ステップS11で準備した材料を坩堝に入れて高周波の電磁場により加熱して溶解して合金とした後、鋳型に注入して固化させ、合金インゴットを作製した。ステップS12では、作製した合金インゴットをさらに切断や研削などにより寸法を調整し、試験片の形状に形成した。試験片の形状は、径3mm、高さ10mmの円柱であった。ステップS13では、ステップS12で作製した試験片を用いてパワーファクターの特性を評価した。パワーファクターの測定には、アドバンス理工株式会社製の熱電測定装置ZEM3を用いた。測定温度範囲は、300~600Kとし、雰囲気はHeとした。
【0020】
表2に、パワーファクターの測定結果を示した。パワーファクターの値は、測定温度範囲における測定値の分布範囲、又は最大値などの典型値を示している。表2に示すように、Fe2CoGaのパワーファクターは、2500μW/m・K2であった。比較例のFe2TiSn、Fe2TiSi、Fe2CoAl、Fe2NiAl及びFe2NiGaの測定結果と比較すると、Fe2CoGaが高いパワーファクターを有していることが観察される。なお、比較例のFe2TiSiは準安定相のため鋳造法では作製できなかった。表2には、参考値としてBi2Te3及びFe2VAlのパワーファクターとして知られている値も記載した。Fe2CoGaのパワーファクターは、参考値として示されたBi2Te3及びFe2VAlには及ばないが、比較例の測定値に比べると高いことが観察される。
【0021】