(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101916
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法
(51)【国際特許分類】
E03F 3/04 20060101AFI20230714BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20230714BHJP
【FI】
E03F3/04 A
C02F3/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002154
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063BA01
2D063BA20
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、下水管渠内における硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方、その他の有機物分解反応を促進する環境を形成し、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷を低減することができる下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、光源と、光源からの光により光合成を行う光合成反応部とを備える下水管渠及び下水管渠に適用する下水管渠用光源、並びにこの下水管渠を利用した下水処理方法を提供する。
これによれば、下水管渠内部で光合成を行い、特に酸素発生型の光合成を進行させることで、下水管渠内が嫌気的な環境から好気的な環境となる。その結果、下水管渠内において、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させ、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光により光合成を行う光合成反応部と、を備えることを特徴とする、下水管渠。
【請求項2】
前記光合成反応部は、藻類を含むことを特徴とする、請求項1に記載の下水管渠。
【請求項3】
下水管渠内に設けられる下水管渠用光源であって、
前記下水管渠内で光合成を行う光合成反応部に対し、光を照射することを特徴とする、下水管渠用光源。
【請求項4】
前記下水管渠内の下水に光を照射し、前記下水管渠内に前記光合成反応部を形成することを特徴とする、請求項3に記載の下水管渠用光源。
【請求項5】
下水管渠内で光を照射する光照射工程と、
前記光照射工程からの光により、前記下水管渠内で光合成を行う光合成反応工程と、を備えることを特徴とする、下水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、家庭や工場などから排出される汚水と雨水を併せたものは、下水と呼ばれている。この下水は、下水を集める施設(下水管渠及びポンプ場)を介し、下水処理場に導入される。そして、下水処理場に導入された下水は、下水処理場にて処理を行った後、最終的に河川に放流されている。この下水を集める施設及び下水処理場を合わせたものが、下水道(下水道施設)と呼ばれる。
【0003】
ここで、下水管渠は、地下に埋設された地下構造物であり、この下水管渠内を下水が流下していく過程において、下水に含まれる微生物(細菌)の活動により、酸素が消費され、嫌気的な環境になるとともに、硫黄化合物(硫化水素など)のような酸性・腐食性を示す化合物が生成することが知られている。そして、生成した硫黄化合物は、下水道に係る設備の腐食を引き起こすため、その対策が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、下水道施設におけるコンクリート製の構造物や管路の腐食要因となる細菌のうち、特に硫黄酸化細菌、硫黄還元細菌、カルボン酸産生細菌に対して優れた抗菌効果を有するコンクリート用抗菌剤及びそのコンクリート用抗菌剤を用いた製品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、下水道に係る設備の材質面によって腐食に対応する場合、特に地下構造物である下水管渠については、既設の下水管渠から新たな下水管渠への交換が必要となるが、これは人員・費用の面で大きな負担となる。したがって、下水管渠の交換を伴わずに腐食が生じるまでの期間を延伸し、既設の下水管渠を長く使用するという下水管渠自体の長寿命化に係る技術が求められている。
【0007】
下水管渠の腐食は、下水管渠内が嫌気的な環境にあることで生成する腐食性の硫黄化合物(主に硫化水素)に起因することから、下水管渠自体の長寿命化技術の一例としては、下水管渠内に腐食性の硫黄化合物の生成が抑制される環境を形成する技術が検討されている。
【0008】
また、下水道における下水処理場では、下水に含まれる有機物の分解処理が行われるが、このときに多大なエネルギーを消費している。このため、下水発生源から下水処理場へ下水を移送させる移送手段の一部である下水管渠においても下水の処理を進行させることで、後段の下水処理場における負荷を軽減するという技術も検討されている。
しかし、従来の下水管渠では、下水管渠内が嫌気的な環境となるため、微生物を利用する反応では腐食性の硫黄化合物の生成を伴う反応(以下、「硫化水素の生成を伴う反応」と呼ぶ)が進行することとなり、下水管渠の長寿命化との両立が困難となる。また、薬品を用いる手段では、添加した薬品が下水と共に流下していくことになるため、常に薬品を供給する必要が出てくることから、ランニングコストが膨大となるという問題が生じる。したがって、下水管渠内において、下水中の有機物分解に係る反応として、硫化水素の生成を伴う反応以外のものが進行する環境を形成する技術が求められている。
【0009】
本発明の課題は、下水管渠内における硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方、その他の有機物分解反応を促進する環境を形成し、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷を低減することができる下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、下水管渠内で光合成反応を行うことで、下水管渠内を嫌気的な環境から好気的な環境とし、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させ、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の下水管渠は、光源と、光源からの光により光合成を行う光合成反応部とを備えるという特徴を有する。
本発明の下水管渠は、内部に光合成を行う光合成反応部を備えることで、光合成反応の進行に伴い、腐食の要因となる硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する環境を下水管渠内に形成することが可能となる。特に、光合成反応部において、酸素発生型の光合成を進行させることで、下水管渠内で酸素を発生させ、下水管渠内の環境を嫌気的なものから好気的なものとすることが可能となる。これにより、下水管渠内において、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させ、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減が可能となる。
【0012】
また、本発明の下水管渠の一実施態様としては、光合成反応部は、藻類を含むという特徴を有する。
藻類は、主に水中に生息し、光によって酸素発生型の光合成が進行するとともに、有機物を栄養源として成長及び繁殖することができる。
そのため、この特徴によれば、下水に含まれる有機物と光源による光によって藻類の成長及び繁殖が促され、光合成反応部の形成のみならず、その拡張及び維持が容易となる。特に、下水中には様々な夾雑物が含まれることから、下水由来の藻類を成長及び繁殖させたものを光合成反応部とすることもできる。これにより、光合成反応部の形成に係るコストを抑えるとともに、下水管渠内を流下する下水の性質に応じた藻類が光合成反応部となるため、下水管渠内での光合成反応部の形成及び維持がより一層容易となる。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の下水管渠用光源としては、下水管渠内に設けられる下水管渠用光源であって、下水管渠内に設けられた光合成反応部に対して光を照射するという特徴を有する。
この特徴によれば、下水管渠内部での光合成反応を進行させるのに必要な光を照射し、光合成反応の進行に伴い、腐食の要因となる硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する環境を下水管渠内に形成することが可能となる。特に、酸素発生型の光合成を進行する光合成反応部に光を照射することで、下水管渠内で酸素を発生させ、下水管渠内の環境を嫌気的なものから好気的なものとすることが可能となる。これにより、下水管渠内において、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させ、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減が可能となる。
また、既設の下水管渠に適用することで、下水管渠自体を交換することなく、簡素な取り付け作業によって、下水管渠の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減を可能とする下水管渠に更新することができる。
【0014】
また、本発明の下水管渠用光源の一実施態様としては、下水管渠内の下水に光を照射し、下水管渠内に光合成反応部を形成するという特徴を有する。
この特徴によれば、下水管渠内における光合成反応部の形成に係る機能と、光合成反応部における光合成反応の促進に係る機能とを併せ持つことができ、光合成反応部の形成及び維持に係るコストを抑えることができる。特に、光合成反応部として下水由来の藻類を含むものを容易に形成及び維持することが可能となる。
また、既設の下水管渠に適用することで、下水管渠の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減を可能とする下水管渠への更新を低コストで行うことができる。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の下水処理方法としては、下水管渠内で下水に光を照射する光照射工程と、光照射工程からの光により、下水管渠内で光合成を行う光合成反応工程とを備えるという特徴を有する。
本発明の下水処理方法は、下水管渠内部で光合成反応を進行させることで、腐食の要因となる硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する環境を下水管渠内に形成することが可能となる。特に、酸素発生型の光合成を進行させることで、下水管渠内の環境を嫌気的なものから好気的なものとすることが可能となる。これにより、下水管渠内において、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させ、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下水管渠内における硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方、その他の有機物分解反応を促進する環境を形成し、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷を低減することができる下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施態様における下水管渠を備える下水道の概略説明図である。
【
図2】本発明の第2の実施態様における下水管渠の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法については、本発明に係る下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明の下水管渠は、下水道の一部であり、下水処理場に対して下水を移送するための施設である。また、本発明の下水管渠は、主に地下に埋設されている地下構造物を指すものであるが、地上に設けられた部分や一部地上と接続する部分を有するものを含むものである。
なお、本発明の下水管渠と接続される下水処理場としては、下水を処理する汚水処理施設であれば特に限定されない。具体的な下水処理場の例としては、例えば、下水道法(平成28年4月1日施行)第2条第2号及び第6号で定められる法令上の下水道における汚水処理施設(終末処理場)のほか、農業集落排水施設、合併処理浄化槽、コミュニティ・プラントなどの汚水処理施設などが挙げられる。
【0020】
本発明の下水管渠に導入され、かつ本発明の下水処理方法で処理対象となる下水は、上述した下水処理場で処理する対象となるものであれば特に限定されない。具体的な下水の例としては、例えば、一般家庭から排出される生活排水や、農林漁業や工場等の産業活動に伴って排出される産業排水のような汚水のほか、雨水などが挙げられる。
【0021】
〔第1の実施態様〕
図1は、本発明の第1の実施態様における下水管渠を備える下水道を示す概略説明図である。
本実施態様における下水道100は、
図1に示すように、下水処理場10と、下水処理場10に下水Wを移送する下水管渠20Aを備える。なお、
図1の上部は、下水道100全体に係る概略説明図であり、
図1の下部は、本実施態様の下水管渠20Aに係る概略説明図となっている。
【0022】
図1に示すように、本実施態様の下水道100において、下水処理場10が設置された区域に整備された下水管渠20Aを介し、下水Wが導入される。そして、下水処理場10に導入された下水Wは、下水処理場10で処理されて、処理水W1として河川放流される。
【0023】
一般に、法令上の下水道に下水を流す場合には、下水道法第12条の2に基づき、政令又は区市町村の各自治体が定める下水道条例に基づく水質規制が適用される。ここで、下水道法や下水道法施行令等の政令、又は自治体の条例に基づき設定された下水道に放流可能な水質基準を、以下、下水排除基準という。
本実施態様における下水Wとしては、下水排除基準に適合するものであれば、特に限定されない。例えば、一般家庭や工場などから排出される汚水のほか、雨水などが挙げられる。
【0024】
本実施態様の下水処理場10は特に限定されないが、少なくとも下水Wを河川放流可能なレベルに処理する水処理プロセスを実施することが可能な下水処理設備を備えることが好ましい。例えば、水処理プロセスに用いる下水処理設備としては、最初沈殿池、反応槽、最終沈殿池、消毒設備などが挙げられる。
また、下水処理場10としては、水処理プロセスに用いる下水処理設備に加え、水処理プロセスで発生する汚泥を処理する汚泥処理プロセスを実施することが可能な下水処理設備や、汚泥処理プロセスで発生する消化ガスを利用する消化ガス発電プロセスを実施することが可能な下水処理設備を備えるものとしてもよい。例えば、汚泥処理プロセスに用いる下水処理設備として、濃縮設備、消化設備、脱水設備、焼却設備などが挙げられる。また、消化ガス発電プロセスに用いる下水処理設備として、脱硫装置、ガスホルダ、発電設備などが挙げられる。
【0025】
一般に、下水処理場10に下水管渠20Aを介して流入した下水Wは、最初沈殿池、反応槽、最終沈殿池、消毒設備を経て、処理水W1として河川などに放流される。また、最初沈殿池及び最終沈殿池で排出した汚泥は、濃縮設備に送られて濃縮処理(固液分離処理)を行った後、消化設備で嫌気性消化を行い、消化ガスの回収を行う。消化処理後の汚泥は脱水設備により脱水処理され、焼却設備で焼却処分される。また、回収した消化ガスは脱硫装置を介しガスホルダに一時貯留され、発電設備にて電気と熱のエネルギーを回収することができる。
なお、回収したエネルギーのうち、電気エネルギーは下水処理場10内の水処理プロセスや汚泥処理プロセス等における各種設備で使用し、熱エネルギーは消化設備の加温に使用することができる。また、回収したエネルギーを下水処理場10外で利用するものであってもよい。
【0026】
本実施態様の下水処理場10は、新設の下水処理場であってもよく、既設の下水処理場を利用するものであってもよい。なお、設備投資などのコスト面を鑑みると、既設の下水処理場を利用することがより好ましい。
【0027】
[下水管渠]
本実施態様の下水管渠20Aは、各下水発生源からの下水W(各家庭や工場から排出された汚水及び降雨による雨水等)を下水処理場10まで移送するものである。また、本実施態様の下水管渠20Aは、下水Wの移送とともに、下水管渠20A内で下水Wの一部処理を行うものである。
【0028】
本実施態様の下水管渠20Aは、
図1の下部に示すように、配管21内に、光源30Aと、光合成反応部40(光合成反応部40a及び40b)とを備えるものである。なお、
図1下部の左側は、下水管渠20Aの縦断面(下水Wの流下方向と平行であり、配管21の高さ方向(上下方向)に幅を有する面)を示しており、
図1下部の右側は、下水管渠20Aの横断面(下水Wの流下方向に対し垂直に交わる面)を示すものである。
また、本実施態様の下水管渠20Aは、複数の配管21により管路網を形成するものであってもよく、配管21上あるいは配管21の合流点に、汚水ます、雨水ます、マンホール等の附属設備11を備えるものであってもよい。
【0029】
(配管)
配管21の材質及び形状は、下水Wを移送することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、下水管渠として一般的に用いられている材質及び形状とすることが挙げられる。具体的な例としては、鋼管(金属管)、塩ビ管と呼ばれるものなどが挙げられる。
【0030】
配管21には、下水管渠20Aから下水処理場10への下水Wの流入を円滑にするための手段を設け、後述する光合成反応部40の一部が配管21内を流下した場合に対応するものとしてもよい。例えば、配管21の下流側開口部(下水処理場10への下水Wの流入箇所に相当)に篩機能を有するもの(ネット、フィルターなど)や回転刃などを設けることが挙げられる。これにより、後述する光合成反応部40の一部が配管21内を流下した場合に、光合成反応部40が後段の下水処理場10へ意図せず大量に流入することを抑止することが可能となる。
【0031】
また、配管21には、配管21自体の閉塞を抑制するための閉塞抑制手段を設けるものとしてもよい。例えば、撹拌機や空気曝気装置等の撹拌機構を備えるものや、圧縮した液体又は気体を供給する圧縮流体供給装置等の押し出し機構を備えるもの等が挙げられる。これにより、配管21内で水流の加速あるいは乱流を起こすことが可能となり、下水W中の固形物や光合成反応部40が配管21内で堆積することを抑止し、配管21が閉塞状態となることを抑制することが可能となる。
ここで、閉塞抑制手段として、撹拌機や空気曝気装置を用いた場合、配管21内における下水W中に空気を含ませることが可能となり、後述する光合成反応部40における光合成反応と併せて配管21内に好気的な環境を形成することができる。
【0032】
(光源(下水管渠用光源))
光源30Aは、下水管渠20A内で光を照射する光照射工程を行うためのものであり、配管21内に設けられるものである。また、光源30Aは、後述する光合成反応部40における光合成反応の進行に必要な光を照射するためのものである。
【0033】
光源30Aは、光合成反応部40における光合成反応を進行させるために必要な光を照射できるものであればよく、特に光合成に有効な波長域として知られている400~700nmの波長(可視光領域)に係る光照射が可能なものを用いることが好ましい。さらに、光合成反応を促進する効果(補光効果)を示す700~800nmの波長(遠赤色光)に係る光を、併せて照射可能なものとすることがより好ましい。
本実施態様の光源30Aの具体例としては、単色LED(赤色、青色)、混色LED(白色)、蛍光灯、白熱灯など、可視光領域から遠赤色光までの光を照射できる光照射装置として公知のものが挙げられる。また、光源30Aの別の例としては、光ファイバー等の光伝送手段を介した太陽光を用いることが挙げられる。
【0034】
下水管渠20Aの配管21に取り付ける光源30Aの形態の一例として、
図1には、配管21の天井部に光照射装置の筐体を複数配置するものを挙げているが、これに限定されるものではない。光源30Aの形態に係る他の例としては、例えば、上述した光ファイバーのほか、給電用ケーブルに対し、所定間隔で光照射装置(蛍光電球、白熱電球、LED素子あるいは複数のLED素子をユニット化したもの等)を取り付けたケーブルライトなどが挙げられる。
【0035】
光源30Aとして光照射装置を用いる場合、光照射装置に対する給電手段は特に限定されない。例えば、附属設備11を介し、地上部から給電用ケーブルを配管21内に引き込むとともに給電を行うことや、配管21内に持ち込み可能な給電装置(ポータブル電源装置、電池(蓄電池、乾電池)等)を用いた給電を行うことなどが挙げられる。
【0036】
(光合成反応部)
光合成反応部40は、光源30Aからの光により、下水管渠20A内で光合成を行う光合成反応工程を進行させるためのものである。また、光合成反応部40は、下水管渠20A内に設けられるものである。
【0037】
光合成反応部40は、光源30Aからの光によって光合成を行うことができるものから形成されているものであればよく、光合成反応部40を形成するものとしては、例えば、葉緑体を有する緑色植物(種子植物、シダ・コケ類、藻類など)、葉緑体を有しない光合成細菌(シアノバクテリア、紅色細菌、緑色細菌など)が挙げられる。
ここで、光合成反応部40として、酸素発生型の光合成が進行するもの(緑色植物や光合成細菌であるシアノバクテリア等)を用いた場合、光合成の進行に伴い下水管渠20内の酸素濃度が増加し、下水管渠20A内に好気的な環境を形成することが容易となる。一方、光合成反応部40として、酸素非発生型の光合成が進行するもの(シアノバクテリア以外の光合成細菌)を用いる場合、光合成が進行しても下水管渠20内の酸素濃度に変化は見られないが、光合成の過程で硫化水素を消費する。このため、いずれの場合においても、下水管渠20A内に、腐食の要因となる硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する環境を形成することが可能となり、下水管渠20Aの長寿命化を図ることが可能となる。
光合成反応部40としては、特に、酸素発生型の光合成が進行するものが含まれることが好ましい。これにより、下水管渠20A内に好気的な環境を形成し、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させることができる。すなわち、下水管渠20Aの長寿命化と併せて、下水処理場10における処理負荷の低減も可能となる。
【0038】
配管21内に光合成反応部40を設ける手段としては、下水管渠20Aの外部から、上述した光合成反応部40を形成するもの(緑色植物や光合成細菌等)を配管21内に投入することとしてもよいが、配管21内の下水W中には様々な夾雑物として、上述した光合成反応部40を形成するもの(緑色植物や光合成細菌等)が含まれ得ることから、下水W由来の緑色植物や光合成細菌を繁殖・増殖させたものを光合成反応部40とすることが好ましい。これにより、光合成反応部40の形成に係るコストを抑えるとともに、下水管渠20A内を流下する下水Wの性質に適した(下水W内で繁殖・増殖し得る)ものが光合成反応部40となるため、下水管渠20A内での光合成反応部40の形成及び維持がより一層容易となる。
なお、光合成反応部40として、下水W由来の緑色植物や光合成細菌を繁殖・増殖させる手段は特に限定されないが、光源30Aからの光を下水W(下水水面S)に向けて照射することで、下水W内に含まれる緑色植物や光合成細菌の繁殖・増殖を促すことが挙げられる。また、下水Wに対する効果的な光照射を行うために、光源30Aからの光が下水W(下水水面S)の一部領域に対して集中的に照射するための集光機構を設けるものとしてもよい。このような集光機構としては、例えば、光源30Aからの光を反射する反射板や、集光レンズなどが挙げられる。
【0039】
光合成反応部40を設ける箇所(光合成反応部40が形成される領域)については特に限定されない。例えば、
図1に示すように、下水水面Sの近傍に形成されるもの(光合成反応部40a)や下水W中に形成されるもの(光合成反応部40b)が挙げられる。
ここで、いずれの光合成反応部40a及び40bにおいても、光合成反応部40を形成するものが存在する状態にあればよく、下水W中や下水水面Sに浮遊する状態であってもよく、配管21の壁面に固着した状態であってもよい。このとき、光合成反応部40a及び40bを配管21の壁面に固着させる手段については特に限定されない。光合成反応部40を形成するものが固着しやすいような性質(材質、形状)を有する構造体を配管21の壁面に設けることや、光合成反応部40を形成するもののつくり(根、仮根、付着器等)を利用することなどが挙げられる。
また、光合成反応部40を設ける箇所については、
図1に示した光合成反応部40a及び40bに限定されるものではない。その他の例としては、例えば、下水水面S近傍から配管21の底面まで、下水Wが接している配管21の壁面全面に光合成反応部40を形成することや、下水Wが接していない配管21の壁面に光合成反応部40を形成することなどが挙げられる。
なお、光合成反応部40を形成するものが下水Wとともに流下し、下水処理場10に導入された場合、他の有機物と同様に処理されることになる。そのため、上述したように、光合成反応部40が下水処理場10へ大量流入することを抑制する手段を配管21の下流側開口部に設け、下水処理場10に係る負荷を低減するものとしてもよい。
【0040】
本実施態様における光合成反応部40としては、藻類を含んで成るものが特に好ましい。藻類は、主に水中に生息し、光によって酸素発生型の光合成が進行するとともに、有機物を栄養源として成長及び繁殖することができる。そのため、下水Wに含まれる有機物と光源30Aによる光によって、藻類の成長及び繁殖が促され、光合成反応部40の形成のみならず、その拡張及び維持が容易となる。
また、藻類は種子植物とはつくりが異なり、根や枝を張らないため、成長や繁殖による配管21の破壊や閉塞が生じにくいという利点がある。
特に、下水W由来の藻類を成長及び繁殖させたものを光合成反応部40とすることで、光合成反応部40の形成に係るコストを抑えるとともに、下水管渠20A内を流下する下水Wの性質に応じた藻類が光合成反応部40となるため、下水管渠20A内での光合成反応部40の形成及び維持がより一層容易となる。
【0041】
以上のように、本実施態様における下水管渠及び下水処理方法は、下水管渠内部に光合成を行う光合成反応部を備え、光合成反応を進行させることで、腐食の要因となる硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する環境を下水管渠内に形成することが可能となる。特に、光合成反応部において、酸素発生型の光合成を進行させることで、下水管渠内で酸素を発生させ、下水管渠内の環境を嫌気的なものから好気的なものとすることが可能となる。これにより、下水管渠内において、硫化水素の生成を伴う反応進行を抑制する一方で、好気性微生物による有機物分解反応を促進させ、施設の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減が可能となる。
【0042】
なお、本実施態様における光源に係る構成は、本発明に係る下水管渠用光源として独立したものとすることができる。この下水管渠用光源は、既設の下水管渠に適用することができる。これにより、下水管渠自体を交換することなく、簡素な取り付け作業によって、下水管渠の長寿命化及び下水処理場における処理負荷の低減を可能とする下水管渠に更新することができる。
【0043】
〔第2の実施態様〕
図2は、本発明の第2の実施態様における下水管渠を示す概略説明図である。
第2の実施態様に係る下水管渠20Bは、第1の実施態様に係る下水管渠20Aの光源30Aのうち、特に下水W内に配置した光源30Bを設けるものである。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0044】
光源30Bは、第1の実施態様の光源30Aに対し、下水W中に配置するための機構・構造を備えるものである。光源30Bとしては、例えば、耐水・耐圧性を有する筐体内に光照射装置を収容したものや、光照射装置自体が耐水・耐圧性を有するものなどが挙げられる。
また、光源30Bからの光により、光合成反応部40(光合成反応部40b)を形成する場合、
図2に示すように、光源30Bの周囲に光合成反応部40bが形成されることになる。したがって、光源30B自体が光合成反応部40bに覆われ、光照射効率が低下することを抑制するため、光源30Bの周囲には、光合成反応部40bを形成するものが固着あるいは堆積しにくい性質(形状・材質)を有し、かつ光透過性を備える構造物を設けることが好ましい。
【0045】
本実施態様の光源30Bにより、配管21の天井側から光照射を行うよりも効果的に下水Wに光照射を行うことが可能となる。これにより、光合成反応部40における光合成反応を効果的に進行させるとともに、光合成反応部40の形成及び維持を効率的に行うことが可能となる。
【0046】
なお、上述した実施態様は、下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法の一例を示すものである。本発明に係る下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法を変形してもよい。
【0047】
例えば、本実施態様の下水管渠における光源は、下水管渠の配管内に設けられるものに限定されない。例えば、下水管渠の配管の一部に、配管外部からの光(太陽光あるいは光照射装置からの光)が透過可能な領域を設けるものとしてもよい。
より具体的な例としては、下水管渠の配管上に光透過可能な材質からなる領域(窓)を設けることや、下水管渠の配管に接続した附属設備(マンホール等)を光透過可能な材質とし、この附属設備を配管外部からの光を透過することができる領域として機能させることなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の下水管渠、下水管渠用光源及び下水処理方法は、下水を集約して下水処理場に移送する下水道において、好適に利用されるものである。特に、既設の下水道における下水管渠の長寿命化及び下水処理場の負荷低減に係る技術として好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0049】
100 下水道、10 下水処理場、11 附属設備、20A,20B 下水管渠、21 配管、30A,30B 光源、40,40a,40b 光合成反応部、S 下水水面、W 下水、W1 処理水