(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101927
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】ポリウレタンフォームの分解処理方法及びポリウレタンフォームの分解処理装置
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002173
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 忠史
(72)【発明者】
【氏名】原 智隆
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA26
4F401AD09
4F401BA06
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401CB02
4F401CB15
4F401CB27
4F401EA60
4F401EA67
4F401EA77
4F401EA90
(57)【要約】
【課題】安定した品質のポリオールを得ることができるポリウレタンフォームの分解処理方法を提供する。
【解決手段】ポリウレタンフォームの分解処理方法は、ポリウレタンフォームの粉砕物11を加熱することなく撹拌し、粉砕物11に分解剤13を塗布する工程と、分解剤13が塗布された粉砕物11を加熱し、ポリオールを得る工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームの粉砕物を加熱することなく撹拌し、前記粉砕物に分解剤を塗布する工程と、
前記分解剤が塗布された前記粉砕物を加熱し、ポリオールを得る工程と、を備えるポリウレタンフォームの分解処理方法。
【請求項2】
前記粉砕物の加熱は、反応容器を用いて行われ、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を投入する投入口と、前記ポリオールを排出する排出口とを有しており、
前記反応容器に投入された前記粉砕物を、前記排出口付近において加熱する、請求項1に記載のポリウレタンフォームの分解処理方法。
【請求項3】
前記粉砕物の加熱は、反応容器を用いて行われ、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を投入する投入口と、前記ポリオールを排出する排出口とを有しており、
前記排出口は、前記反応容器の下端部において開口している、請求項1又は請求項2に記載のポリウレタンフォームの分解処理方法。
【請求項4】
前記反応容器の内面には、前記排出口に向かって下降する傾斜面が形成されている、請求項3に記載のポリウレタンフォームの分解処理方法。
【請求項5】
前記粉砕物の加熱は、反応容器を用いて行われ、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を投入する投入口と、前記ポリオールを排出する排出口とを有しており、
前記反応容器に投入された前記粉砕物に対して、せん断力を加えることなく前記排出口側に向けて力を付与する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のポリウレタンフォームの分解処理方法。
【請求項6】
ポリウレタンフォームの粉砕物を撹拌する撹拌機と、
前記撹拌機内の前記粉砕物に分解剤を塗布する塗布装置と、
前記分解剤が塗布された前記粉砕物を加熱し、ポリオールに分解する反応容器と、を備え、
前記撹拌機は発熱源を有しておらず、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を加熱するための発熱源を有している、ポリウレタンフォームの分解処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリウレタンフォームの分解処理方法及びポリウレタンフォームの分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硬質ウレタン樹脂の分解処理方法が開示されている。この方法は、硬質ウレタン樹脂及び分解剤としてアミン化合物を押出機に投入し140~300℃に加熱して該硬質ウレタン樹脂のウレタン結合の分解を進行させる分解処理工程を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押出機を用いて、ポリウレタンフォームと分解剤の混合と、ポリウレタンフォームの分解を行う場合には、ポリウレタンフォームと分解剤の混合状態のコントロールと、分解反応のコントロールが難しい。このため、未分解のポリウレタンフォームが押出機から強制的に排出される等、得られる分解生成物の品質が安定しないという課題がある。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、安定した品質のポリオールを得ることができるポリウレタンフォームの分解処理方法及びポリウレタンフォームの分解処理装置を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ポリウレタンフォームの粉砕物を加熱することなく撹拌し、前記粉砕物に分解剤を塗布する工程と、
前記分解剤が塗布された前記粉砕物を加熱し、ポリオールを得る工程と、を備えるポリウレタンフォームの分解処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、安定した品質のポリオールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】粉砕物に分解剤を塗布する工程を説明する図である。
【
図2】分解剤が塗布された粉砕物の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】分解剤が塗布された粉砕物を加熱し、ポリオールを得る工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
・前記粉砕物の加熱は、反応容器を用いて行われ、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を投入する投入口と、前記ポリオールを排出する排出口とを有しており、
前記反応容器に投入された前記粉砕物を、前記排出口付近において加熱する、ポリウレタンフォームの分解処理方法。
・前記粉砕物の加熱は、反応容器を用いて行われ、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を投入する投入口と、前記ポリオールを排出する排出口とを有しており、
前記排出口は、前記反応容器の下端部において開口している、ポリウレタンフォームの分解処理方法。
・前記反応容器の内面には、前記排出口に向かって下降する傾斜面が形成されている、ポリウレタンフォームの分解処理方法。
・前記粉砕物の加熱は、反応容器を用いて行われ、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を投入する投入口と、前記ポリオールを排出する排出口とを有しており、
前記反応容器に投入された前記粉砕物に対して、せん断力を加えることなく前記排出口側に向けて力を付与する、ポリウレタンフォームの分解処理方法。
・ポリウレタンフォームの粉砕物を撹拌する撹拌機と、
前記撹拌機内の前記粉砕物に分解剤を塗布する塗布装置と、
前記分解剤が塗布された前記粉砕物を加熱し、ポリオールに分解する反応容器と、を備え、
前記撹拌機は発熱源を有しておらず、
前記反応容器は、前記分解剤が塗布された前記粉砕物を加熱するための発熱源を有している、ポリウレタンフォームの分解処理装置。
【0010】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0011】
本実施形態のポリウレタンフォームの分解処理方法は、ポリウレタンフォームの粉砕物11を加熱することなく撹拌し、粉砕物11に分解剤13を塗布する工程と、分解剤13が塗布された粉砕物11を加熱し、ポリオール15を得る工程と、を備える。
【0012】
ポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォーム、半硬質ポリウレタンフォーム、及び硬質ポリウレタンフォームのいずれであってもよい。ポリウレタンフォームは、連続気泡構造のポリウレタンフォームであってもよく、独立気泡構造のポリウレタンフォームであってもよい。ポリウレタンフォームの粉砕物11としては、例えば、ポリウレタンフォームの製造過程で排出される端材、又は、破棄される予定の使用済みポリウレタンフォームを粉砕して用いることができる。また、ポリウレタンフォームの粉砕物11は、ポリウレタンフォームの製造過程で排出されるポリウレタンフォームのカス又は屑を、そのまま用いてもよい。
【0013】
分解剤13としては、ウレタン結合を化学的に分解、液状化するものであれば、特に限定されるものではないが、反応性やコストの点から水酸基を有する化合物やアミン化合物が好ましい。
水酸基を有する化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの水酸基を有する化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。これらの中でも、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオールが好適である。
また、アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロパンジアミン、2-エチルヘキシルアミン、イソプロパノールアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、エチルアミノエタノール、アミノブタノール、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、n-アミルアミン、イソブチルアミン、メチルジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ピペラジン、ピペリジン、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、クロロアニリン、ピリジン、ピコリン、N-メチルモルフォリン、エチルモルフォリン、ピラゾール等が挙げられる。これらのアミン化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。これらの中でも、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好適である。
【0014】
分解剤13の添加量は、ポリウレタンフォーム100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であることが好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0015】
分解剤13を使用する分解反応において、必要に応じて、さらに分解触媒を添加し、反応速度を上げることができる。
添加する触媒としては、ウレタンフォームの製造時に使われるものが好ましく、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロパン1,3-ジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサン1,6-ジアミン、N,N,N’,N",N"-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N",N"-ペンタメチルジプロピレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、N,-メチル,N’-(2-ジメチルアミノ)エチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)-モルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、ヘキサメチレンテトラミン、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N-メチル-N’-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン、N-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3-ジメチル)-アミノプロピルエーテル、ジアザビシクロウンデセン、スタナスオクトエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマーカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルインジマレエート、ジオクチルチンマーカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクタン酸鉛、オクタン酸亜鉛、オクタン酸カルシウム、酢酸カリウム、オクタン酸カリウム等が挙げられる。これらの中でも、トリエチレンジアミン、ジアザビシクロウンデセン、酢酸カリウム、オクタン酸カリウムが好適である。
【0016】
触媒の添加量は、分解剤100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0017】
ここで、上述の製造方法を実現するために、好適な分解処理装置20の一例を
図1及び
図3を用いて説明する。分解処理装置20は、撹拌機21と、塗布装置27と、反応容器30と、を備えている。
図1は撹拌機21と塗布装置27を示す図であり、
図3は反応容器30を示す図である。分解処理装置20を説明する際には、分解処理装置20の設置状態における鉛直方向上方及び下方を、上方及び下方とする。
【0018】
撹拌機21は、ポリウレタンフォームの粉砕物11を撹拌する装置である。撹拌機21は、
図1に示すように、攪拌槽23と、攪拌槽23内の粉砕物11を攪拌する攪拌翼25(動力部の一例)と、を有する。攪拌翼25は、略水平方向に延びた軸周りに回転する。撹拌機21は、回転方式である。回転方式の撹拌機21によれば、分解剤13をポリウレタンフォームの粉砕物11の表面全体に好適に塗布できる。
【0019】
撹拌機21は発熱源を有していない。すなわち、撹拌機21は、攪拌槽23と動力部(攪拌翼25)とを少なくとも有し、攪拌槽23内の粉砕物11を加熱する発熱源を有していない。なお、撹拌機21が「発熱源を有していない」とは、ヒーター等の発熱源を有しないことを指し、駆動によって発熱する動力部等は有していてもよい。
【0020】
塗布装置27は、撹拌機21内の粉砕物11に分解剤13を塗布する装置である。塗布装置27は、分解剤13をスプレー塗布する方式である。
図1においては、塗布装置27のノズルのみを描いている。撹拌機21及び塗布装置27は、分解剤13が塗布された粉砕物11を得るために用いられる。以下、分解剤13が塗布された粉砕物11を、単に複合物10とも称する。
【0021】
反応容器30は、分解剤13が塗布された粉砕物11(複合物10)を加熱し、ポリオール15に分解する容器である。反応容器30は、
図3に示すように、複合物10を投入する投入口31と、ポリオール15を排出する排出口32とを有している。排出口32は、反応容器30の下端部において開口している。排出口32には、未分解の粉砕物11を通過させず、ポリオール15を含む液状の分解生成物を通過させるスクリーン33が設けられている。反応容器30の内面には、排出口32に向かって下降する傾斜面35Aが形成されている。傾斜面35Aは、排出口32の周囲に設けられ、錐台の側面にあたる形状を有している。
【0022】
反応容器30の内径及び外径は、投入口31側よりも排出口32側の方が小さい。より具体的には、反応容器30は、上方から順に、第1筒状部34、縮径部35、及び第2筒状部36が同軸状に設けられている。第1筒状部34は、上下方向に沿って延びた筒状をなしている。第1筒状部34の上部には、投入口31が設けられている。縮径部35は、第1筒状部34の下端に連続して、下方に向かうにつれて内径が小さくなっている。傾斜面35Aは、縮径部35の内面に形成されている。第2筒状部36は、縮径部35の下端に連続して、第1筒状部34よりも内径及び外径が小さい筒状をなしている。第2筒状部36の下端は、下方に向けて開口している。排出口32は、第2筒状部36の下端に設けられている。このように、反応容器30は、排出口32の直上に、複合物10を収容するとともにポリウレタンフォームの分解反応を行うための空間が形成されている。
【0023】
反応容器30は、複合物10を加熱するためのヒーター38(発熱源の一例)を有している。反応容器30は、例えば金属製である。ヒーター38は、例えば電熱線であり、反応容器30の外側に配置されている。ヒーター38は、反応容器30を介して内側の複合物10を加熱する。ヒーター38は、傾斜面35Aが形成された部位(縮径部35)に設けられている。ヒーター38は、排出口32が設けられた部位(第2筒状部36)に設けられている。他方、ヒーター38は、投入口31が設けられた部位(第1筒状部34)には設けられていない。すなわち、反応容器30は、主に、排出口32側の部位において分解反応が行われ、投入口31側の部位において複合物10が貯留される構成となっている。
【0024】
なお、撹拌機21内の複合物10を、反応容器30の投入口31まで搬送する方法は特に限定されない。本実施形態では、撹拌機21内において加熱を行わないから、分解生成物に起因した複合物10のべたつきを抑制できる。このため、撹拌機21内の複合物10の取り扱いが容易であり、汎用の搬送方式を適宜採用できる。例えば、撹拌機21内の複合物10を、エアー搬送して反応容器30の投入口31に投入してもよい。また、反応容器の側面に投入口を設けて、スクリューコンベヤー等を用いて、撹拌機21内の複合物10を投入口に押し込んでもよい。
【0025】
続いて、ポリウレタンフォームの分解処理方法の一例について、
図1及び
図4を参照しつつ説明する。ポリウレタンフォームの粉砕物11を加熱することなく撹拌し、粉砕物11に分解剤13を塗布する工程(以下、塗布工程とも称する)は、
図1に示すように、撹拌機21及び塗布装置27を用いて行われる。塗布工程は、粉砕物11を転動させつつ攪拌する。塗布工程は、攪拌されている粉砕物11に対して、上方に離れた位置から分解剤13をスプレー塗布する。ポリウレタンフォームの分解反応を抑制する観点から、撹拌機21内における粉砕物11の温度は、0℃以上60℃以下であることが好ましい。塗布工程では、分解剤13が塗布された粉砕物11(複合物10)が得られる。
【0026】
塗布工程で得られる複合物10の構成は、特に限定されない。複合物10は、粉砕物11の大きさ、ポリウレタンフォームの気泡構造等によって、種々の構成を採り得る。複合物10は、少なくとも粉砕物11の表面に分解剤13が付着している。
図2に、連続気泡構造を有する粉砕物11に、分解剤13が塗布された複合物10の一例を示す。分解剤13の一部は、粉砕物11の表層に染み込んでいる。例えば、粉砕物11に含まれる単位体積当たりの分解剤13の量は、粉砕物11の内部よりも粉砕物11の表層の方が多い。
【0027】
複合物10を加熱し、ポリオール15を得る工程(以下、加熱工程とも称する)は、
図4に示すように、反応容器30を用いて行う。加熱工程では、反応容器30に投入された粉砕物11を、排出口32付近において加熱する。「排出口32付近」とは、例えば、排出口32が設けられた部位(第2筒状部36)、及び排出口32に向かって下降する傾斜面35Aが形成された部位(縮径部35)の少なくとも一方である。さらに、加熱工程では、排出口32からポリウレタンフォームの分解反応時において粉砕物11が達する高さ(例えば、後述するH1/H0=2/3までの高さ)までの部位において、粉砕物11を加熱してもよい。なお、加熱工程では、上記の粉砕物11が達する高さよりも上方において、粉砕物11を加熱しないことが好ましい。上記の構成によれば、反応容器30における排出口32側においてはポリウレタンフォームの分解反応を促進しつつ、投入口31側においてはポリウレタンフォームの分解反応を抑制できる。このため、粉砕物11の投入時(粉砕物11の圧縮前)にポリウレタンフォームの分解反応が意図せず進行して、投入口31の周囲や粉砕物11を圧縮するための部材等に分解生成物が付着することを抑制できる。ポリウレタンフォームの分解処理において、安定した品質のポリオールを得るためには、処理するポリウレタンフォームの種類毎に、反応容器30を洗浄することが有効である。上述のように、反応容器30における加熱部位と非加熱部位を分けることによって、分解生成物の付着を制限でき、反応容器30の洗浄を容易にできる。また、ポリウレタンフォームの分解反応時(例えば、粉砕物11の圧縮時)において、粉砕物11がない部位を無駄に加熱しないことで、加熱工程におけるエネルギー効率を向上できる。
【0028】
複合物10の加熱温度は、特に限定されない。複合物10の加熱温度は、150℃以上250℃以下が好ましく、180℃以上230℃以下がより好ましい。なお、複合物10の加熱温度とは、反応容器30内の複合物10における最も高温の部位の温度である。本実施形態では、複合物10は、ヒーター38で熱せられた反応容器30に直接接触して加熱されるから、ヒーター38の設定温度を複合物10の加熱温度とみなしてもよい。
【0029】
加熱工程では、反応容器30に投入された複合物10に対して、せん断力を加えることなく排出口32側に向けて力を付与する。「せん断力を加えることなく」とは、押出機によって押し出す際に掛かるせん断力が掛からないことを意味する。せん断力を加えることなく力を付与する手段としては、粉砕物11が破断せず、一方向に圧縮されるように力を付与する手段が挙げられる。具体的には、重り39を用いて複合物10に荷重を掛ける手段が例示される。
【0030】
圧縮後の複合物10の高さH
1は、特に限定されない。圧縮後の複合物10の高さH
1は、略筒状の容器に自然落下により複合物10を充填した高さをH
0とし、略筒状の容器の筒軸方向に複合物10を圧縮した後の高さをH
1とした場合に、下記式(1)を満たすことが好ましい。
1/30≦H
1/H
0≦2/3 ・・・(1)
なお、H
1/H
0の値は、ポリウレタンフォームの空隙率、粉砕物11の大きさ等に応じて変化し得る。H
1/H
0の値は、複合物10に付与する力の大きさを変更して、調整できる。
図3及び
図4に示す反応容器30においては、縮径部35及び第2筒状部36の容積が第1筒状部34の容積に比して十分に小さいから、第1筒状部34を略筒状の容器とみなして高さH
0及びH
1を規定している。
【0031】
より具体的には、加熱工程は、以下のようにして行われる。反応容器30内の複合物10(粉砕物11)に対して排出口32側に向けて荷重を掛ける。粉砕物11は、第2筒状部36内に充填されるとともに、縮径部35の傾斜面35Aに押し付けられて圧縮される。ヒーター38を発熱させ、ヒーター38で熱せられた第2筒状部36及び縮径部35を介して粉砕物11を加熱する。この際、第1筒状部34においても、粉砕物11を加熱してもよい。第1筒状部34内で粉砕物11を予備的に加熱し、予備加熱された粉砕物11を縮径部35に押し付けつつ加熱することによって、粉砕物11を効率よく加熱できる。粉砕物11は分解剤13が付着した表層から徐々に分解され、液状の分解生成物が生成される。液状の分解生成物は、ポリウレタンフォームの原料由来のポリオール15、原料イソシアネート由来のアミン成分16等を含む。液状の分解生成物は、縮径部35の傾斜面35A及び第2筒状部36の内面を伝って排出口32に向かい、スクリーン33を通過して排出口32から排出される。液状の分解生成物を適宜回収する。例えば、排出口32の下方に回収容器40を配置して、排出口32から流下した分解生成物を回収容器40に回収する。回収した分解生成物から、公知の手法によりポリオール15を精製して、再生ポリオール15を得る。また、ポリオール15以外にも回収した分解生成物から種々の成分を精製して、再生原料を得てもよい。
【0032】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態のポリウレタンフォームの分解処理方法及び分解処理装置20は、非加熱で分解剤13の塗布を行い、分解剤13が塗布された粉砕物11を加熱して、ポリオール15を得る。このため、塗布工程、加熱工程をそれぞれ最適化して、安定した品質の分解生成物を得ることができる。さらに、ポリウレタンフォームの粉砕物11を加熱することなく撹拌し、粉砕物11に分解剤13を塗布するから、粉砕物11の表面に均一、かつ、高濃度に分解剤13を塗布できる。ポリウレタンフォームの粉砕物11は、自身の断熱性によって、内部よりも表層の方が加熱されやすい。本実施形態によれば、分解剤13の濃度が高く、加熱されやすい粉砕物11の表層から順次に粉砕物11を分解でき、分解効率が高い。
【0033】
従来、ポリウレタンフォームの分解処理に多用されてきた押出機又は混練機は、装置自体が比較的高価であり、また、装置内の分解生成物の除去が煩雑であった。他方、本実施形態の撹拌機21は、押出機又は混練機よりも廉価で簡便な構成とすることができ、また、加熱を行わないから分解生成物が付着しにくい。さらに、反応容器30も押出機又は混練機よりも廉価で簡便な構成とすることができ、装置内の分解生成物の除去も容易である。
【0034】
また、本実施形態は、反応容器30に投入された粉砕物11を、排出口32付近において加熱する。この構成によれば、生成された分解生成物を、順次に排出口32から排出しやすい。さらに、反応容器30の内径が投入口31側よりも排出口32側の方が小さい場合には、粉砕物11を排出口32側の内面に押し付けつつ加熱することによって、粉砕物11における分解剤13が塗布された面を効率よく加熱できる。また、反応容器30の投入口31側において粉砕物11を予備的に加熱し、予備加熱された粉砕物11を排出口32側において加熱することによって、ポリウレタンフォームの分解効率を向上できる。
【0035】
また、本実施形態において、反応容器30の排出口32は、反応容器30の下端部において開口している。この構成によれば、生成した液状の分解生成物を排出口32から流下させて、簡便に、未分解の粉砕物11から分解生成物を分離できる。このため、押出機のように、内容物を強制的に押し出す構成に比して、未分解の粉砕物11が排出されにくい。
【0036】
また、本実施形態において、反応容器30の内面には、排出口32に向かって下降する傾斜面35Aが形成されている。この構成によれば、反応容器30内の粉砕物11を、傾斜面35Aに沿って排出口32に向けて送り易い。また、生成した液状の分解生成物を傾斜面35Aに沿って排出口32に向けて流下させて、好適に排出口32から排出できる。また、粉砕物11を傾斜面35Aに押し付けつつ加熱することによって、粉砕物11における分解剤13が塗布された面を効率よく加熱し、ポリウレタンフォームの分解効率を向上できる。
【0037】
また、本実施形態は、反応容器30に投入された粉砕物11に対して、せん断力を加えることなく排出口32側に向けて力を付与する。この構成によれば、粉砕物11を排出口32側に送りつつ、粉砕物11を圧縮することができる。このため、粉砕物11が非圧縮の場合に比して、粉砕物11の投入量を多くすることができる。また、粉砕物11が破断されにくいから、分解剤13が塗布されていない破断面が粉砕物11の表面に現れにくい。このため、粉砕物11における分解剤13が塗布された面から順次加熱して、粉砕物11を効率よく分解できる。さらに、排出口32側に向けて力を付与することによって、粉砕物11の表面を反応容器30の内面に密着させることができ、反応容器30から粉砕物11へ効率よく熱を伝達できる。
【0038】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
(1)攪拌機の攪拌方式は限定されない。撹拌機は、攪拌槽が回転する回転方式であってもよく、攪拌槽が往復動する往復動方式であってもよい。
(2)塗布装置による分解剤の塗布方式は限定されない。塗布装置は、分解剤をスプレー塗布する方式以外にも、分解剤を霧状にすることなくそのまま投入し、粉砕物と混合して塗布する方式等であってもよい。
(3)反応容器における加熱方式は限定されない。ヒーターは、電熱線以外にも、熱媒によって加熱する方式等であってもよい。また、発熱源は、反応容器の外側以外にも、内側に設けられてもよい。また、複合物(粉砕物)の加熱は、反応容器全体で行われてもよい。
(4)反応容器の構成は適宜変更可能である。反応容器は、軸方向を水平方向に向けて設置された筒状の容器であってもよい。排出口は、反応容器の側面に開口していてもよい。反応容器は第2筒状部が設けられておらず、縮径部の下端に排出口が設けられてもよい。
(5)せん断力を加えることなく力を付与する手段は限定されない。せん断力を加えることなく力を付与する手段は、機械的に複合物を押圧する手段等であってもよい。また、分解処理装置は反応容器に投入された粉砕物に対して力を付与する手段を備えず、粉砕物の自重や、分解生成物が流下する流れによって、粉砕物を排出口側に向けて送ってもよい。
【0039】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…複合物
11…粉砕物
13…分解剤
15…ポリオール
16…アミン成分
20…分解処理装置
21…撹拌機
23…攪拌槽
25…攪拌翼
27…塗布装置
30…反応容器
31…投入口
32…排出口
33…スクリーン
34…第1筒状部
35…縮径部
35A…傾斜面
36…第2筒状部
38…ヒーター
39…重り
40…回収容器