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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101929
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】管理システムおよび管理方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 49/00 20060101AFI20230714BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
F16K49/00 B
F16K51/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002176
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 史明
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
【テーマコード(参考)】
3H066
【Fターム(参考)】
3H066AA06
3H066BA38
(57)【要約】
【課題】バルブの固着防止の有効性を改善する。
【解決手段】管理システムは、バルブ本体に設けられた温度センサ1から温度データを取得する温度取得部3と、温度データを記憶する温度記憶部4と、過去の調査においてバルブ本体の固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を固着防止条件として記憶する固着防止条件記憶部5と、バルブ本体が設置された設備においてバルブ本体の加熱処理が再開されたときに、温度記憶部4に記憶されているデータのうち、加熱処理再開後のバルブ本体の温度と温度の継続時間とを固着防止条件と照合して、バルブ本体の昇温が十分かどうかを判定する昇温状態判定部6と、昇温状態判定部の判定結果を提示する判定結果提示部7とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ本体に設けられた温度センサから温度データを取得するように構成された温度取得部と、
前記温度データを記憶するように構成された温度記憶部と、
過去の調査において前記バルブ本体の固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を固着防止条件として記憶するように構成された固着防止条件記憶部と、
前記バルブ本体が設置された設備において前記バルブ本体の加熱処理が再開されたときに、前記温度記憶部に記憶されているデータのうち、加熱処理再開後のバルブ本体の温度と温度の継続時間とを前記固着防止条件と照合して、前記バルブ本体の昇温が十分かどうかを判定するように構成された昇温状態判定部と、
前記昇温状態判定部の判定結果を提示するように構成された判定結果提示部とを備えることを特徴とする管理システム。
【請求項2】
請求項1記載の管理システムにおいて、
前記バルブ本体の昇温が不十分であった場合に、再開後の加熱処理による加熱温度を通常のレベルの設定温度から上げるか、または再開後の加熱処理の継続時間を延長するように、加熱処理の制御装置に対して加熱指令を出力するように構成された加熱指令出力部をさらに備えることを特徴とする管理システム。
【請求項3】
請求項2記載の管理システムにおいて、
前記加熱指令出力部は、加熱処理再開後の前記バルブ本体の温度と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たす温度の継続時間を推定し、前記再開後の加熱処理の継続時間が前記推定した継続時間以上になるように前記加熱指令を出力することを特徴とする管理システム。
【請求項4】
請求項2記載の管理システムにおいて、
前記加熱指令出力部は、予め定められた加熱処理の継続時間と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たすバルブ本体の温度を推定し、前記再開後の加熱処理による加熱温度が前記推定した温度以上になるように前記加熱指令を出力することを特徴とする管理システム。
【請求項5】
バルブ本体に設けられた温度センサから温度データを取得する第1のステップと、
前記温度データを記憶する第2のステップと、
前記バルブ本体が設置された設備において前記バルブ本体の加熱処理が再開されたときに、過去の調査において前記バルブ本体の固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を固着防止条件として記憶する記憶部を参照し、前記第2のステップで記憶されたデータのうち、加熱処理再開後のバルブ本体の温度と温度の継続時間とを前記固着防止条件と照合して、前記バルブ本体の昇温が十分かどうかを判定する第3のステップと、
前記第3のステップの判定結果を提示する第4のステップとを含むことを特徴とする管理方法。
【請求項6】
請求項5記載の管理方法において、
前記バルブ本体の昇温が不十分であった場合に、再開後の加熱処理による加熱温度を通常のレベルの設定温度から上げるか、または再開後の加熱処理の継続時間を延長するように、加熱処理の制御装置に対して加熱指令を出力する第5のステップをさらに含むことを特徴とする管理方法。
【請求項7】
請求項6記載の管理方法において、
前記第5のステップは、加熱処理再開後の前記バルブ本体の温度と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たす温度の継続時間を推定し、前記再開後の加熱処理の継続時間が前記推定した継続時間以上になるように前記加熱指令を出力するステップを含むことを特徴とする管理方法。
【請求項8】
請求項6記載の管理方法において、
前記第5のステップは、予め定められた加熱処理の継続時間と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たすバルブ本体の温度を推定し、前記再開後の加熱処理による加熱温度が前記推定した温度以上になるように前記加熱指令を出力するステップを含むことを特徴とする管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブを管理する管理システムおよび管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油化学プラントなどで使用されるバルブ(例えば図8のコントロールバルブ)は、特に安全性に留意する必要があり、ゆえに定期的なメンテナンスが行なわれる。図8に示すコントロールバルブは、流体の流れる通路を開閉するバルブ本体100と、入力電気信号を空気圧に変換するポジショナ101と、ポジショナ101から供給される空気圧に応じてバルブ本体100を操作する操作器102とから構成される。
【0003】
図8に示したようなバルブが設置されているプラントにおいてバルブのメンテナンス作業効率を改善するために、バルブの摺動部におけるスティックスリップの発生を検出する技術(特許文献1参照)、バルブのハンチング状態を判定する技術(特許文献2参照)、バルブへのスケールの付着を検出する技術(特許文献3参照)などが提案されている。
【0004】
一方、開度を連続的に変化させることが可能なコントロールバルブとは別の種類のバルブとして、開度を全開/全閉の二位置しか取ることができないON-OFFバルブがあり、例えばボールバルブやバタフライバルブやゲートバルブがある。図9に示すON-OFFバルブ200は、ボールバルブを用いたものであり、弁体であるボール202をボールシートと呼ばれるシートリング203で挟み込む構造であり、ステム(弁棒)204を操作器206によって90度回転させることで、バルブを開いたり閉めたりすることができる。弁箱205内の流体が漏れることを防止するため、弁箱205とステム204との隙間にはパッキン207が設けられている。
【0005】
一般的なボールバルブでは、弁箱205とボール202との間にポケット部と呼ばれるデッドスペース(図9の208)があり、ポケット部208に流体が滞留する。このポケット部208に滞留して固着する流体が、バルブ本体201の固着という動作不良の原因になることがある。
【0006】
図10(A)はバルブ本体201の正常な全開状態を示し、図10(B)は正常な全閉状態を示している。一方、図10(C)はポケット部208にプロセス流体209が滞留して固着し、バルブ本体201が全開状態のまま閉まらない状態を示し、図10(D)は全閉状態のまま開かない状態を示している。
【0007】
特にポリマー樹脂などの常温において固形(粘度が高い)となるプロセス流体を扱っている設備においては、ON-OFFバルブ200の固着が発生する可能性が高くなる。例えば図11に示す例では、ON-OFFバルブ200-1,200-2を介して原料や溶媒等のプロセス流体を重合釜300に定量仕込み、重合釜300内で重合反応を開始させ、固形や半固形のポリマー樹脂を生成する。
【0008】
このような設備では、プロセス流体が固着しないように、配管やバルブ本体にスチームトレースを実施したり、電気トレースなどの加熱処理(昇温あるいは保温)を実施したりする。図12の例では、配管301-1~301-3とON-OFFバルブ200-1~200-3のバルブ本体201-1~201-3とに沿ってスチームトレース用のトレース配管302を配置した例を示している。しかしながら、スチームトレースや電気トレースでは、ON-OFFバルブの固着を十分に防止できないことがあり、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3254624号広報
【特許文献2】特開2015-114942号公報
【特許文献3】特開2015-114943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バルブの固着防止の有効性を改善するための管理システムおよび管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の管理システムは、バルブ本体に設けられた温度センサから温度データを取得するように構成された温度取得部と、前記温度データを記憶するように構成された温度記憶部と、過去の調査において前記バルブ本体の固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を固着防止条件として記憶するように構成された固着防止条件記憶部と、前記バルブ本体が設置された設備において前記バルブ本体の加熱処理が再開されたときに、前記温度記憶部に記憶されているデータのうち、加熱処理再開後のバルブ本体の温度と温度の継続時間とを前記固着防止条件と照合して、前記バルブ本体の昇温が十分かどうかを判定するように構成された昇温状態判定部と、前記昇温状態判定部の判定結果を提示するように構成された判定結果提示部とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の管理システムの1構成例は、前記バルブ本体の昇温が不十分であった場合に、再開後の加熱処理による加熱温度を通常のレベルの設定温度から上げるか、または再開後の加熱処理の継続時間を延長するように、加熱処理の制御装置に対して加熱指令を出力するように構成された加熱指令出力部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の管理システムの1構成例において、前記加熱指令出力部は、加熱処理再開後の前記バルブ本体の温度と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たす温度の継続時間を推定し、前記再開後の加熱処理の継続時間が前記推定した継続時間以上になるように前記加熱指令を出力することを特徴とするものである。
また、本発明の管理システムの1構成例において、前記加熱指令出力部は、予め定められた加熱処理の継続時間と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たすバルブ本体の温度を推定し、前記再開後の加熱処理による加熱温度が前記推定した温度以上になるように前記加熱指令を出力することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の管理方法は、バルブ本体に設けられた温度センサから温度データを取得する第1のステップと、前記温度データを記憶する第2のステップと、前記バルブ本体が設置された設備において前記バルブ本体の加熱処理が再開されたときに、過去の調査において前記バルブ本体の固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を固着防止条件として記憶する記憶部を参照し、前記第2のステップで記憶されたデータのうち、加熱処理再開後のバルブ本体の温度と温度の継続時間とを前記固着防止条件と照合して、前記バルブ本体の昇温が十分かどうかを判定する第3のステップと、前記第3のステップの判定結果を提示する第4のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の管理方法の1構成例は、前記バルブ本体の昇温が不十分であった場合に、再開後の加熱処理による加熱温度を通常のレベルの設定温度から上げるか、または再開後の加熱処理の継続時間を延長するように、加熱処理の制御装置に対して加熱指令を出力する第5のステップをさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明の管理方法の1構成例において、前記第5のステップは、加熱処理再開後の前記バルブ本体の温度と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たす温度の継続時間を推定し、前記再開後の加熱処理の継続時間が前記推定した継続時間以上になるように前記加熱指令を出力するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の管理方法の1構成例において、前記第5のステップは、予め定められた加熱処理の継続時間と前記固着防止条件とに基づいて、前記固着防止条件を満たすバルブ本体の温度を推定し、前記再開後の加熱処理による加熱温度が前記推定した温度以上になるように前記加熱指令を出力するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、温度取得部と温度記憶部と固着防止条件記憶部と昇温状態判定部とを設けることにより、前記バルブ本体の昇温が十分かどうかを判定することができ、判定結果に応じた対策をとることができるので、バルブの固着防止の有効性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施例に係る管理システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る管理システムの動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施例に係る温度センサの構成を示すブロック図である。
図4図4は、バルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を予め調査した結果の1例を示す図である。
図5図5は、本発明の実施例に係る温度センサの取付位置の例を示す図である。
図6図6は、本発明の実施例に係るトレース配管の取付位置の例を示す図である。
図7図7は、本発明の実施例に係る管理システムを実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図8図8は、コントロールバルブの1例を示す図である。
図9図9は、ON-OFFバルブの1例を示す図である。
図10図10は、ON-OFFバルブの固着による動作不良を説明する図である。
図11図11は、重合プロセス設備の1例を示す図である。
図12図12は、重合プロセス設備のスチームトレースについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の原理]
以降の説明では、スチームトレースを加熱処理の代表事例として記載する。ON-OFFバルブが設置されている設備自体の停止や、一時的にスチームトレースを止めることがあり、運転再開の際にスチームトレースも再開することになる。発明者は、スチームトレースを再開する際に、ON-OFFバルブ本体に十分な昇温がなされていないと、ON-OFFバルブが固着して動かなくなるケースがあることを突き止めた。
【0018】
そこで、発明者は、ON-OFFバルブにおいて、バルブ本体の温度を測定できるようにし、温度とその継続時間とがバルブ本体の固着とどのような関係になるかを予め把握することで、十分な昇温であるか否かを判定することに想到した。また、本発明では、結果的に昇温が不十分と判定されている場合には、スチームトレースの出力を上げるか継続時間を長くするかで対応すれば、固着防止の有効性(効果)を改善することができる。
【0019】
なお、バルブの開度と操作器空気圧力(トルク)とを検出することで、バルブの固着現象の発生・解消を確認してから、設備自体の本プロセスを再開するのが好ましい。
本発明は、固着の原因となるポケット部を有するバルブに特に有効である。ポケット部を有するバルブとしては、ボールバルブ以外に例えばプラグバルブがある。ただし、本発明は、ボールバルブやプラグバルブ以外のバルブにも適用可能である。
【0020】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係る管理システムの構成を示すブロック図である。本実施例では、説明を簡潔にするため、バルブのIDの事例などは、実際のプラントで利用されるものよりも単純なものとする。
【0021】
管理システムは、ON-OFFバルブの本体の温度を計測する温度センサ1と、温度センサ1を備えたON-OFFバルブのID(識別情報)を予め記憶するバルブID記憶部2と、温度センサ1から温度データを取得する温度取得部3と、温度データを送信元のON-OFFバルブのIDと共に記憶する温度記憶部4と、過去の調査においてバルブ本体の固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を固着防止条件として記憶する固着防止条件記憶部5と、ON-OFFバルブが設置された設備においてバルブ本体の加熱処理が再開されるときに、温度記憶部4に記憶されているデータのうち、直前に加熱処理が実施されたときのバルブ本体の温度と温度の継続時間とを固着防止条件と照合して、バルブ本体の昇温が十分であったかどうかを判定する昇温状態判定部6と、昇温状態判定部6の判定結果を提示する判定結果提示部7と、バルブ本体の昇温が不十分であった場合に、再開後の加熱処理による加熱温度を通常のレベルの設定温度から上げるか、または再開後の加熱処理の継続時間を延長するように、加熱処理の制御装置に対して加熱指令を出力する加熱指令出力部8とを備えている。
【0022】
図2は本実施例の管理システムの動作を説明するフローチャートである。本実施例では、例えばプラント内にON-OFFバルブが26個あるとして、これら26個のON-OFFバルブにそれぞれ“VA”,“VB”,“VC”,・・・,“VX”,“VY”,“VZ”という固有のIDが予め割り当てられているものとする。本実施例では、特にバルブID“VA”,“VC”,“VM”のON-OFFバルブがスチームトレースの対象のON-OFFバルブで、このID“VA”,“VC”,“VM”がバルブID記憶部2に予め記憶されているものとする。例えば、図11図12のON-OFFバルブ200-1のIDが“VA”,ON-OFFバルブ200-2のIDが“VC”,ON-OFFバルブ200-3のIDが“VMとする。
【0023】
図3はON-OFFバルブに取り付けられた温度センサ1の構成を示すブロック図である。温度センサ1は、ON-OFFバルブのバルブ本体の温度を計測する温度計測部10と、温度センサ1が取り付けられたON-OFFバルブに固有のバルブIDを記憶するバルブID記憶部11と、管理システムに対して温度データとバルブIDとを周期的に送信する送信部12とを備えている。
【0024】
管理システムの温度取得部3は、各ON-OFFバルブの温度センサ1から温度データを受信し(図2ステップS100)、受信した温度データとこの温度データに付加されていたバルブIDと温度データの受信時刻とを温度記憶部4に格納する(図2ステップS101)。こうして、各ON-OFFバルブの温度データの履歴が温度記憶部4に常時記憶される。
【0025】
管理システムの固着防止条件記憶部5には、事前の調査においてON-OFFバルブの固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度とその継続時間との関係が、固着防止条件として記憶されている。予め実施する調査においては、対象のON-OFFバルブ(温度センサ1が搭載され、バルブID記憶部2にIDが記憶されているON-OFFバルブ)について、スチームトレースの条件変更によってバルブ本体の温度と温度の継続時間とを適宜変更し、バルブ開度と操作器空気圧力(トルク)とを検出することで、ON-OFFバルブの固着の発生度合を調査すればよい。
【0026】
ON-OFFバルブに固着が発生した場合、図10(C)、図10(D)に示したように、全閉になる筈の操作器空気圧力になりながらもバルブ開度が全開の状態が継続するか、あるいは全開になる筈の操作器空気圧力になりながらもバルブ開度が全閉の状態が継続する。したがって、バルブ開度と操作器空気圧力とを検出することで、ON-OFFバルブが固着しているか否かを判定することができ、固着が発生したときのバルブ本体の温度と温度の継続時間と、固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度と温度の継続時間とを収集することができる。こうして、収集されたデータを基に、ON-OFFバルブの固着が発生しなかったときのバルブ本体の温度とその継続時間との関係を導き出すことができる。
【0027】
なお、実用上は固着が発生しない条件(温度と継続時間の関係)が確認できていれば問題ない。すなわち、必要なのは、固着が発生してしまう臨界的な条件を探索することではなく、固着が発生しない余裕のある条件を固着防止条件記憶部5に記憶させることができればよい。
【0028】
ON-OFFバルブの開度と、ON-OFFバルブの操作器に供給される操作器空気圧力とを検出する技術は、例えば特開2021-026268号公報などに開示されている。
【0029】
管理システムの昇温状態判定部6は、ON-OFFバルブが設置された設備においてスチームトレースが再開されたときに、温度記憶部4に記憶されているデータのうち、スチームトレース再開後のバルブ本体の温度と温度の継続時間とを、固着防止条件記憶部5に記憶されている固着防止条件と照合し、バルブ本体の昇温が十分かどうかをON-OFFバルブ毎に判定する(図2ステップS102)。
【0030】
昇温状態判定部6は、温度記憶部4に記憶されているデータのうち、現時点までの最新の、バルブ本体の最高温度Tmaxと最高温度Tmaxの継続時間とを、固着防止条件と照合すればよい。より具体的には、昇温状態判定部6は、バルブ本体の最新の最高温度Tmaxの前後の、Tmax~Tmax-α(αは所定温度)の範囲の温度の平均値と、その範囲の継続時間とを、固着防止条件と照合すればよい。
【0031】
管理システムの判定結果提示部7は、昇温状態判定部6の判定結果をオペレータに対して提示する(図2ステップS103)。判定結果提示部7は、バルブID記憶部2にバルブIDが登録されている全てのON-OFFバルブについて、「昇温が不十分」、「昇温に問題なし」のいずれかの情報を提示(表示)するようにしてもよいし、昇温が不十分なON-OFFバルブのIDをオペレータに対して提示(表示)するようにしてもよい。
【0032】
提示された判定結果を確認したオペレータは、少なくとも1つのON-OFFバルブについて昇温が不十分な場合に、ON-OFFバルブが固着している可能性があると判断できる。そして、オペレータは、ON-OFFバルブの固着が解消されるように、スチームトレースによる加熱温度(蒸気の温度)を上げるか、あるいはスチームトレースの継続時間を長くするマニュアル操作を行なうことができる。
【0033】
また、オペレータがマニュアル操作を行なわない場合には、以下のようにON-OFFバルブの固着を解消する処理を自動で行なうようにしてもよい。
具体的には、管理システムの加熱指令出力部8は、昇温状態判定部6による判定の結果、少なくとも1つのON-OFFバルブについて昇温が不十分な場合(図2ステップS104においてYES)、スチームトレースによる加熱温度を通常のレベルの設定温度から所定の上昇幅だけ上げるか、あるいはスチームトレースの継続時間を延長するように、スチームトレースの制御装置に対して加熱指令を出力する(図2ステップS105)。
【0034】
上記のとおり、各ON-OFFバルブの温度データの履歴が温度記憶部4に常時蓄積されていくので、加熱指令出力部8からスチームトレースの制御装置に対して加熱指令が出力されたときに、昇温状態判定部6による判定を行なうことが可能である(図2ステップS106)。上記と同様に、昇温状態判定部6は、加熱指令が出力された後のバルブ本体の最高温度Tmaxと最高温度Tmaxの継続時間とを、固着防止条件と照合すればよい。より具体的には、昇温状態判定部6は、最高温度Tmaxの前後の、Tmax~Tmax-αの範囲の温度の平均値と、その範囲の継続時間とを、固着防止条件と照合すればよい。
【0035】
管理システムの加熱指令出力部8は、加熱指令を出力した後の昇温状態判定部6による判定の結果、バルブID記憶部2にバルブIDが登録されている全てのON-OFFバルブについて十分な昇温がなされているという判定結果が得られた場合(図2ステップS107においてYES)、スチームトレースを通常のレベルに戻すように、スチームトレースの制御装置に対して復帰指令を出力する(図2ステップS108)。
【0036】
先の加熱指令によってスチームトレースによる加熱温度を上げた場合には、通常のレベルの設定温度に戻り、予め定められたスチームトレースの継続時間が経過した時点で、スチームトレースの終了となる。また、予め定められたスチームトレースの継続時間を超えて時間を延長した場合には、加熱指令出力部8から復帰指令が出力された時点で、スチームトレースの終了となる。
こうして、スチームトレースが行なわれる度に、ステップS102~S108の処理が実施される。
【0037】
バルブ本体の温度と温度の継続時間との関係を予め調査した結果の1例を図4に示す。説明を簡易にするために架空のデータを示すが、実際に図4に示すようなデータが得られる。図4では、●印40はバルブの固着が発生しなかったケースであり、×印41は固着が発生したケースである。
【0038】
バルブ本体の温度をT、温度Tの継続時間をSとしたときに、固着防止条件は、AS+BT>1.0(A,Bはデータから得られる係数)のように与えられる。図4の例では、0.0221S+0.00426T>1.0が、バルブの固着が発生しなかったケースが含まれる領域を規定する条件である。バルブの固着が発生しなかったケースが含まれる領域と固着が発生したケースが含まれる領域とを分ける図4の直線42の式は、0.0221S+0.00426T=1.0となる。
【0039】
したがって、固着防止条件記憶部5には、少なくともこの直線の式が固着防止条件として記憶されていればよい。この場合、昇温状態判定部6は、温度記憶部4に記憶されている温度Tと継続時間Sとが0.0221S+0.00426T>1.0を満たすとき、バルブ本体の昇温が十分と判定し、0.0221S+0.00426T≦1.0が成立するとき、昇温が不十分と判定する。
【0040】
図4では、バルブの固着が発生しなかったケースが含まれる領域と固着が発生したケースが含まれる領域とを直線で分割できる例を示したが、高次関数のような曲線で領域分割するのが適当な場合は、高次関数式で固着防止条件を定義すればよい。
【0041】
スチームトレースによってバルブ本体の温度Tを上げることが容易でない場合には、固着防止条件を満たす継続時間Sを推定することが可能である。この場合、バルブ本体の温度Tは一定の値となり、固着防止条件からA,Bは既知の値となる。したがって、加熱指令出力部8は、S>(1.0-BT)/Aとなるように適正な継続時間Sを推定することができる。加熱指令出力部8は、スチームトレースの継続時間が、推定した値S以上になるように加熱指令を出力する。
【0042】
また、スチームトレースの継続時間を容易に変更できない場合には、固着防止条件を満たすバルブ本体の温度Tを推定することが可能である。この場合、温度Tの継続時間Sは適正な温度Tを推定しようとする時点からスチームトレースが終了するまでの既知の時間となり、固着防止条件からA,Bも既知の値となる。したがって、加熱指令出力部8は、T>(1.0-AS)/Bとなるように適正なバルブ本体の温度Tを推定することができる。加熱指令出力部8は、スチームトレースによる加熱温度が、推定した温度T以上になるように加熱指令を出力する。
【0043】
ただし、以上の推定方法は、説明を簡易にするためのシンプルな方法であり、実際にはバルブ本体の温度Tが変化することを考慮して適正な継続時間Sを推定することがより好ましい。この場合、スチームトレース再開後のバルブ本体の温度平均値Tmを基準にして、S>(1.0-BTm)/Aとなるように継続時間Sを推定すればよい。なお、温度平均値Tmは、スチームトレース再開後の単位計測時間毎のバルブ本体の温度を積算し、スチームトレースの履歴時間で割った値とするような算出方法が妥当である。
【0044】
具体的には、バルブ本体の温度Tが150℃で継続している場合(Tm=T=150)、下記の式(1)のように必要な継続時間Sが16.3時間(約16時間20分)と算出される。
S>(1.0-BT)/A=(1.0-0.00426×150)/0.0221
=16.3 ・・・(1)
【0045】
なお、ON-OFFバルブの種類(形状、大きさ)や設置状況などの条件によって、固着する状況や程度も異なるので、ON-OFFバルブ毎に個別に図4のようなデータを収集して固着防止条件を個別に設定しておくのが好ましい。ただし、種類や設置状況などの条件が類似している場合には、類似のON-OFFバルブから固着防止条件を流用してもよい。また、AS+BT>1.0のA,Bの値は、オペレータが手動で算出してもよいし、一般に周知の多変量解析手法などを適宜利用して算出してもよいことは言うまでもない。
【0046】
図5は本実施例の温度センサ1の取付位置の例を示す図である。温度センサ1は、ON-OFFバルブ200のバルブ本体201のステム204、弁箱205の内部、パッキン207、ポケット部208のうち少なくとも1箇所に設けるようにすればよい。
なお、複数の温度センサ1を設ける場合には、例えば複数の温度センサ1によって計測された温度の平均値を昇温状態判定部6による判定に使用してもよいし、複数の温度センサ1によって計測された温度のうち最も低い温度を判定に使用してもよい。
【0047】
図6はスチームトレース用のトレース配管302の取付位置の例を示す図である。図6に示すように、トレース配管302は、例えばON-OFFバルブ200のバルブ本体201に巻き付くように取り付けられている。
【0048】
なお、本実施例では、ON-OFFバルブ200を加熱する加熱装置として、トレース配管302に蒸気を供給して加熱する蒸気加熱装置(スチームトレース)を例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、ON-OFFバルブ200と配管301とに取り付けられた電気ヒータに電力を供給して加熱する加熱装置(電気トレース)を備えた設備に本発明を適用してもよい。
【0049】
本実施例で説明した管理システムは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図7に示す。コンピュータは、CPU400と、記憶装置401と、インタフェース装置(I/F)402とを備えている。I/F402には、例えば各ON-OFFバルブの温度センサ1や、ディスプレイ、加熱処理の制御装置等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の管理方法を実現させるためのプログラムは記憶装置401に格納される。CPU400は、記憶装置401に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、バルブの固着を防止する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…温度センサ、2…バルブID記憶部、3…温度取得部、4…温度記憶部、5…固着防止条件記憶部、6…昇温状態判定部、7…判定結果提示部、8…加熱指令出力部、10…温度計測部、11…バルブID記憶部、12…送信部。
図1
図2
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図4
図5
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図7
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図12