IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本フイルコン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-工業用織物 図1
  • 特開-工業用織物 図2
  • 特開-工業用織物 図3
  • 特開-工業用織物 図4
  • 特開-工業用織物 図5
  • 特開-工業用織物 図6
  • 特開-工業用織物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101974
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】工業用織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/10 20060101AFI20230714BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230714BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20230714BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20230714BHJP
【FI】
D21F1/10
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
D03D15/283
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002239
(22)【出願日】2022-01-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】上田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 重信
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 努
(72)【発明者】
【氏名】野村 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 理貴
【テーマコード(参考)】
4L048
4L055
【Fターム(参考)】
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA24
4L048BA09
4L048DA24
4L048DA39
4L055CE32
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】上面側織物の表面は紙繊維の支持性を向上しつつ、下面側織物の表面の耐摩耗性を向上できる工業用織物を提供する。
【解決手段】上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側経糸毎に経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれとを有する。4本の並んだ上面側経糸によって形成されるナックルは、それぞれの上面側経糸毎に異なる上面側緯糸に形成され、下面側織物の表面には、下面側経糸によって、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の下面側緯糸の上側を通り、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、
前記上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備え、
前記上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記上面側経糸が前記上面側緯糸の上側を通ることで前記上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う前記上面側経糸同士で経方向に1本の前記上面側緯糸のずれと、2本の前記上面側緯糸のずれとを有するものを含み、
4本の並んだ前記上面側経糸によって形成されるナックルは、前記上面側経糸毎に異なる前記上面側緯糸に形成され、
前記下面側織物の表面には、前記下面側経糸によって、1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の前記下面側緯糸の上側を通り、1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の前記下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記上面側経糸および前記下面側経糸は、完全組織において8本ずつであり、
前記上面側緯糸は、完全組織において16本であり、
前記下面側緯糸は、完全組織において8本であり、
完全組織において8本の前記下面側経糸のうち2本は、前記上面側織物および前記下面側織物を接結する下面側接結糸として機能し、
複数の前記下面側接結糸は、接結糸でない3本の前記下面側経糸を挟んで等間隔に配置され、
前記下面側接結糸と上下に組をなす前記上面側経糸は、前記下面側接結糸が前記上面側緯糸の上側を通る位置で前記上面側緯糸の下側を通る崩し糸として機能し、
前記崩し糸は、順に1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通り、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通り、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する7本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成し、
前記下面側接結糸と前記崩し糸の組は、前記上面側織物の表面に1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成し、
完全組織における2本の前記下面側接結糸のそれぞれが前記上面側緯糸の上側を通る位置は、経方向において8本の前記上面側緯糸のずれがあり、
前記下面側接結糸は、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の前記下面側緯糸の上側を通る間で、前記上面側緯糸の上側を通って接結のためのナックルを形成し、
前記下面側経糸は、左側または右側に隣接する前記下面側経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通り、
前記下面側経糸は、左側に隣接する前記下面側経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する前記下面側経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設け、
前記下面側緯糸は、連続する6本の前記下面側経糸の下側を通ることを特徴とする工業用織物。
【請求項2】
上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、
前記上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備え、
前記上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記上面側経糸が前記上面側緯糸の上側を通ることで前記上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う前記上面側経糸同士で経方向に1本の前記上面側緯糸のずれと、2本の前記上面側緯糸のずれとを有するものを含み、
4本の並んだ前記上面側経糸によって形成されるナックルは、前記上面側経糸毎に異なる前記上面側緯糸に形成され、
前記下面側織物の表面には、前記下面側経糸によって、1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の前記下面側緯糸の上側を通り、1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の前記下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記上面側経糸および前記下面側経糸は、完全組織において8本ずつであり、
前記上面側緯糸は、完全組織において12本であり、
前記下面側緯糸は、完全組織において8本であり、
完全組織において8本の前記下面側経糸のうち2本は、前記上面側織物および前記下面側織物を接結する下面側接結糸として機能し、
前記下面側接結糸は、接結糸でない3本の前記下面側経糸を挟んで等間隔に配置され、
前記下面側接結糸と上下に組をなす前記上面側経糸は、前記下面側接結糸が前記上面側緯糸の上側を通る位置で前記上面側緯糸の下側を通る崩し糸として機能し、
前記崩し糸は、順に1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通り、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する7本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成し、
前記下面側接結糸と前記崩し糸の組は、前記上面側織物の表面に1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成し、
完全組織での2つの前記下面側接結糸と前記崩し糸の組において、一方の前記下面側接結糸は、一方の前記崩し糸の右側に位置し、他方の前記下面側接結糸は、他方の前記崩し糸の左側に位置し、
完全組織における2本の前記下面側接結糸のそれぞれが前記上面側緯糸の上側を通る位置は、経方向において6本の前記上面側緯糸のずれがあり、
前記下面側接結糸は、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の前記下面側緯糸の上側を通る間で、前記上面側緯糸の上側を通って接結のためのナックルを形成し、
前記下面側経糸は、左側に隣接する前記下面側経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する前記下面側経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設け、
前記下面側緯糸は、連続する6本の前記下面側経糸の下側を通ることを特徴とする工業用織物。
【請求項3】
上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、
前記上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備え、
前記上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記下面側織物の表面には、下面側に位置する経糸によって、順に1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の前記下面側緯糸の上側を通り、1本の前記下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の前記下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成され、
前記上面側経糸および前記下面側経糸は、完全組織において8本ずつであり、
前記上面側緯糸は、完全組織において32本であり、
前記下面側緯糸は、完全組織において24本であり、
完全組織において8本ずつの前記上面側経糸および前記下面側経糸のうち4本ずつが接結糸として機能し、
上下に対向する前記接結糸の組と、前記接結糸でない前記上面側経糸および前記下面側経糸の組は、1組ずつ交互に配置され、
前記接結糸の組は、前記上面側織物の表面に、1本の前記上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の前記上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成し、
上面側に位置する前記接結糸および前記接結糸でない前記上面側経糸が前記上面側緯糸の上側を通ることで前記上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側に位置する経糸同士で経方向に1本の前記上面側緯糸のずれと、2本の前記上面側緯糸のずれとを有するものを含み、
4本の並んだ前記上面側に位置する経糸によって形成されるナックルは、前記上面側に位置する経糸毎に異なる前記上面側緯糸に形成され、
前記接結糸の組は、前記下面側織物の表面に1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成し、
下面側に位置する前記接結糸および前記接結糸でない前記下面側経糸は、左側に隣接する下面側に位置する経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側に位置する経糸とともに同じ前記下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設け、
前記下面側緯糸は、連続する6本の前記下面側経糸の下側を通ることを特徴とする工業用織物。
【請求項4】
前記下面側緯糸の線径は、前記上面側緯糸の線径に対して1.5倍から2.5倍の範囲に設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項5】
前記下面側緯糸は、ポリエチレンテレフタラート樹脂からなる線材と、ポリアミド樹脂からなる線材との交織で構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項6】
前記上面側緯糸のメッシュ数は、前記上面側経糸のメッシュ数よりも多いことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の工業用織物。
【請求項7】
前記下面側接結糸は、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の前記下面側緯糸の上側を通る領域の中央の位置で、前記上面側緯糸の上側を通って接結のためのナックルを形成することを特徴とする請求項1または2に記載の工業用織物。
【請求項8】
接結糸である上面側経糸および接結糸である下面側経糸は、上面側織物および下面側織物の表面に複数のナックルを形成することを特徴とする請求項3に記載の工業用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機に用いられる工業用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抄紙機に用いられる工業用織物として、経糸と緯糸を製織した抄紙網が広く使われている。抄紙網に求められる特性は様々であるが、例えば、特許文献1には、上層面側経糸と上層面側緯糸とからなる上層面側織物と、下層面側経糸と下層面側緯糸とからなる下層面側織物とからなる工業用二層織物が開示されている。この工業用二層織物は、上層面側緯糸を上層面側から織り込むべき部位で上層面側緯糸を1回織り込まずに上層面側と下層面側との間を通過する上層面側経糸と、該上層面側経糸が1回織り込まなかった部位で、該上層面側経糸が織り込まなかった上層面側緯糸を上層面側から織り込んで接結糸として機能する下層面側経糸とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-068168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工業用織物の上面側織物は、紙繊維を載置して搬送するため、上面側経糸の曲がりを抑えて上面側緯糸を多く打ち込めるようにし、紙繊維の支持性を向上することが好ましい。一方で、下面側織物は、抄紙機のロールと摩擦するため、耐摩耗性を向上することが好ましい。
【0005】
本発明の目的は、上面側織物の表面は紙繊維の支持性を向上しつつ、下面側織物の表面の耐摩耗性を向上できる工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の工業用織物は、上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備える。上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側経糸毎に経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれとを有する。4本の並んだ上面側経糸によって形成されるナックルは、それぞれの上面側経糸毎に異なる上面側緯糸に形成される。下面側織物の表面には、下面側経糸によって、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の下面側緯糸の上側を通り、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸および下面側経糸は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸は、完全組織において16本であり、下面側緯糸は、完全組織において8本である。完全組織において8本の下面側経糸のうち2本は、上面側織物および下面側織物を接結する下面側接結糸として機能する。複数の下面側接結糸は、接結糸でない3本の下面側経糸を挟んで等間隔に配置される。下面側接結糸と上下に組をなす上面側経糸は、下面側接結糸が上面側緯糸の上側を通る位置で上面側緯糸の下側を通る崩し糸として機能し、崩し糸は、順に1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通り、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通り、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する7本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。下面側接結糸と崩し糸の組は、上面側織物の表面に1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。完全組織における2本の下面側接結糸のそれぞれが上面側緯糸の上側を通る位置は、経方向において8本の上面側緯糸のずれがある。下面側接結糸は、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の下面側緯糸の上側を通る間で、上面側緯糸の上側を通って接結のためのナックルを形成する。下面側経糸は、左側または右側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通る。下面側経糸は、左側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設ける。下面側緯糸は、連続する6本の下面側経糸の下側を通る。
【0007】
本発明の別の態様もまた、工業用織物である。この工業用織物は、上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備える。上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側経糸毎に経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれとを有する。4本の並んだ上面側経糸によって形成されるナックルは、それぞれの上面側経糸毎に異なる上面側緯糸に形成される。下面側織物の表面には、下面側経糸によって、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の下面側緯糸の上側を通り、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸および下面側経糸は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸は、完全組織において12本であり、下面側緯糸は、完全組織において8本であり、完全組織において8本の下面側経糸のうち2本は、上面側織物および下面側織物を接結する下面側接結糸として機能する。下面側接結糸は、接結糸でない3本の下面側経糸を挟んで等間隔に配置される。下面側接結糸と上下に組をなす上面側経糸は、下面側接結糸が上面側緯糸の上側を通る位置で上面側緯糸の下側を通る崩し糸として機能する。崩し糸は、順に1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通り、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する7本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。下面側接結糸と崩し糸の組は、上面側織物の表面に1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。完全組織での2つの下面側接結糸と崩し糸の組において、一方の下面側接結糸は、一方の崩し糸の右側に位置し、他方の下面側接結糸は、他方の崩し糸の左側に位置し、完全組織における2本の下面側接結糸のそれぞれが上面側緯糸の上側を通る位置は、経方向において6本の上面側緯糸のずれがあり、下面側接結糸は、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の下面側緯糸の上側を通る間で、上面側緯糸の上側を通って接結のためのナックルを形成する。下面側経糸は、左側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設ける。下面側緯糸は、連続する6本の下面側経糸の下側を通る。
【0008】
本発明のさらに別の態様もまた、工業用織物である。この工業用織物は、上面側経糸および上面側緯糸からなる上面側織物と、上面側織物に接結され、下面側経糸および下面側緯糸からなる下面側織物と、を備える。上面側織物の表面には、上面側に位置する経糸によって、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成される。下面側織物の表面には、下面側に位置する経糸によって、順に1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する2本の下面側緯糸の上側を通り、1本の下面側緯糸の下側を通り、連続する4本の下面側緯糸の上側を通る1/2-1/4組織の織り込みパターンが繰り返し形成される。上面側経糸および下面側経糸は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸は、完全組織において32本であり、下面側緯糸は、完全組織において24本であり、完全組織において8本ずつの上面側経糸および下面側経糸のうち4本ずつが接結糸として機能する。上下に対向する接結糸の組と、接結糸でない上面側経糸および下面側経糸の組は、1組ずつ交互に配置され、接結糸の組は、上面側織物の表面に、1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。上面側に位置する接結糸および接結糸でない上面側経糸が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側に位置する経糸同士で経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれとを有するものを含む。4本の並んだ上面側に位置する経糸によって形成されるナックルは、上面側に位置する経糸毎に異なる上面側緯糸に形成される。接結糸の組は、下面側織物の表面に1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。下面側に位置する接結糸および接結糸でない下面側経糸は、左側に隣接する下面側に位置する経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側に位置する経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設ける。下面側緯糸は、連続する6本の下面側経糸の下側を通る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上面側織物の表面は紙繊維の支持性を向上しつつ、下面側織物の表面の耐摩耗性を向上できる工業用織物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る工業用織物の完全組織を示す意匠図である。
図2図1に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
図3】第2実施形態に係る工業用織物の完全組織を示す意匠図である。
図4図3に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
図5】第2実施例の工業用織物の意匠図であって、緯方向に展開した図である。
図6】第3実施形態に係る工業用織物の完全組織を示す意匠図である。
図7図6に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明において、「経糸」とは、製紙用の多層織物をループ状のベルトとした場合に、ウェブの搬送方向に沿って伸びている糸であり、「緯糸」とは、経糸に対して交差する方向に伸びている糸である。また、「上面側織物」とは、多層織物を抄紙網として利用する場合に、抄紙網の両面のうちウェブが搬送される表面側に位置する織物であり、「下面側織物」とは、抄紙用ベルトの両面のうち主として駆動ローラが当接する裏面側に位置する織物である。なお、単に「表面」とは、上面側織物や下面側織物の露出している側の面であり、上面側織物の「表面」とは、抄紙網における表面側に相当するが、下面側織物の「表面」とは、抄紙網における裏面側に相当する。
【0012】
また、「意匠図」とは織物組織の最小の繰り返し単位であって織物の完全組織に相当する。つまり、「完全組織」が前後左右に繰り返されて「織物」が形成される。また、「ナックル」とは経糸が1本又は複数本の緯糸の上、又は下を通って表面に露出した部分をいう。
【0013】
また、「接結糸」とは、上面側織物および下面側織物を構成する経糸の少なくとも一部の経糸であって、本来ならば下面側織物(又は上面側織物)の緯糸のみを織り込むべき経糸が、上面側織物(又は下面側織物)の緯糸を下面側(又は上面側)から織り込むことで、上面側織物と下面側織物を接結する糸である。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る工業用織物10の完全組織を示す意匠図である。図2は、図1に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
【0015】
意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示す。緯糸は、ダッシュを付したアラビア数字、例えば1'、2'、3'・・・で示す。上面側糸はUを付した数字、下面側糸はLを付した数字、例えば1'U、2'L等で示す。また、上面側織物と下面側織物とを接結する接結糸はBを付した数字で示し、例えば上面側経糸の接結糸はUB、下面側経糸の接結糸はLBと示す。
【0016】
また、意匠図において、×印は、上面側経糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示し、○印は、下面側経糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示し、△印は、上面側経糸の接結糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示し、▲印は、下面側経糸の接結糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示している。×印、○印、△印および▲印はナックルを示す。これらの表記は、図3以降でも同様に用いられる。
【0017】
図1に示す第1実施形態に係る工業用織物10は、上面側経糸(1U~8U)と上面側緯糸(1’U~16’U)を含んで構成される上面側織物と、下面側経糸(1L~8LB)と下面側緯糸(1’L,3’L,5’L,7’L,9’L,11’L,13’L,15’L)を含んで構成される下面側織物とが接結されたものである。
【0018】
上面側経糸(1U~8U)および下面側経糸(1L~8LB)は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸(1’U~16’U)は、完全組織において16本であり、下面側緯糸(1’L,3’L,5’L,7’L,9’L,11’L,13’L,15’L)は、完全組織において8本である。完全組織において8本の下面側経糸(1L~8LB)のうち2本は、上面側織物および下面側織物を接結する下面側接結糸(4LB,8LB)として機能する。
【0019】
次に、工業用織物10における各経糸と各緯糸との織り方について図2(a)および図2(b)を参照して説明する。図2(a)および図2(b)に示す上面側緯糸、下面側緯糸の配置は同じである。
【0020】
図2(a)は、上面側経糸3Uと下面側経糸3Lの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。図2(a)に示すように、上面側経糸3Uが1本の上面側緯糸(4’U,8’U,12’U,16’U)の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸(1’U~3’U,5’U~7’U,9’U~11’U,13’U~15’U)の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成され、いわゆる1/3組織の織り込みパターンを形成する。上面側経糸3Uが1本の上面側緯糸(4’U,8’U,12’U,16’U)の上側を通ることで上面側織物の表面に4つのナックルが形成される。
【0021】
上面側経糸(1U,2U,5U~7U)は、上面側経糸3Uとは織り込み位置が経方向にずれたものを含むものの、上面側経糸3Uと同じように、上面側緯糸(1’U~16’U)に織り込まれ、1/3組織の織り込みパターンを形成する。このように、上面側経糸(1U~3U,5U~7U)は、同じ1/3組織の織り込みパターンを形成し、上面側緯糸(1’U~16’U)に対して一定の間隔でナックルを形成し、表面組織を崩すことなく織り込まれる。上面側経糸(1U~8U)は、下面側緯糸を織り込まない。
【0022】
下面側経糸3Lは、1本の下面側緯糸5’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(7’L,9’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸11’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(1’L,3’L,13’L,15’L)の上側を通る、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。下面側経糸(1L,2L,5L~7L)は、下面側経糸3Lと織り込み位置が経方向にずれているものを含むものの、下面側経糸3Lと同様の織り込みパターンを有し、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。
【0023】
図2(b)は、上面側経糸4Uと下面側接結糸4LBとの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。上面側経糸4Uと下面側接結糸4LBは、上下に対向して組をなし、接結のため交差する。
【0024】
上面側経糸4Uは、上面側緯糸(2’U,10’U,14’U)の上側を通ってナックルをそれぞれ形成し、上面側緯糸(1’U,3’U~9’U,11’U~13’U,15’U,16’U)の下側を通る。つまり、上面側経糸4Uは、順に1本の上面側緯糸10’Uの上側を通り、連続する3本の上面側緯糸(11’U~13’U)の下側を通り、1本の上面側緯糸14’Uの上側を通り、連続する3本の上面側緯糸(1’U,15’U,16’U)の下側を通り、1本の上面側緯糸2’Uの上側を通り、連続する7本の前記上面側緯糸(3’U~9’U)の下側を通る織り込みパターンを形成する。上面側経糸8Uは、上面側経糸4Uと織り込み位置が経方向にずれているものの、上面側経糸4Uと同様の織り込みパターンを形成する。
【0025】
下面側接結糸4LBは、1本の下面側緯糸11’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(13’L,15’L)の下側を通り、1本の下面側緯糸1’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(3’L,5’L,7’L,9’L)の上側を通る、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。つまり、下面側接結糸4LBは、下面側織物の織り込みパターンを崩すことなく織り込まれる。下面側接結糸4LBは、接結のため、上面側緯糸6’Uの上側を通るナックルN1を形成し、上面側緯糸(1’U~5’U,7’U~16’U)の下側を通る。下面側接結糸8LBは、下面側接結糸4LBと織り込み位置が経方向にずれているものの、下面側経糸4LBと同様の織り込みパターンを形成する。
【0026】
下面側接結糸4LBと上下に組をなす上面側経糸4Uは、下面側接結糸4LBが上面側緯糸6’Uの上側を通る位置でその上面側緯糸6’Uの下側を通ってナックルを形成せず、崩し糸として機能する。また、下面側接結糸8LBと上下に組をなす上面側経糸8Uは、下面側接結糸8LBが上面側緯糸14’Uの上側を通る位置でその上面側緯糸14’Uの下側を通る崩し糸として機能する。
【0027】
下面側接結糸(4LB,8LB)と崩し糸(4U,8U)の組は、上面側織物の表面に1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。つまり、下面側接結糸(4LB,8LB)と崩し糸(4U,8U)の組は、協働して上面側織物の表面に1/3組織の織り込みパターンを形成する。これによって、上面側織物の表面全体が1/3組織の織り込みパターンで形成することができる。上面側織物の表面に1/3組織の織り込みパターンを形成することで、上面側経糸が表面側に出る部分を減らし、摩耗の影響を抑えることができる。また、1/3組織は、平織り組織(1/1組織)よりも経糸の曲がりが少ないために、多くの上面側緯糸を打ち込むことができ、上面側緯糸を多くすることで、紙繊維の支持性が向上し、紙の歩留まりが向上し、良好な地合を得ることができる。
【0028】
上面側経糸4Uおよび下面側接結糸4LBが、互いに上面側織物の表面組織を補完することで、上面側経糸4U(崩し糸)以外の上面側経糸(1U~3U,5U~7U)と同様の表面組織を形成し、崩し糸4U以外の上面側経糸(1U~3U,5U~7U)と同じ数のナックルを上面側表面組織に形成する。このように、崩し糸4Uおよび下面側接結糸4LBの組は、互いに補完し合って上面側経糸1本分と下面側経糸1本分の織り込みパターンをそれぞれ形成する。また、崩し糸4Uと下面側接結糸4LBとの組によって接結をすることで、上下に接結経糸の組を設ける場合と比べて、表面性の低下を抑えられる。また、上面側経糸8Uおよび下面側接結糸8LBの組も上面側経糸4Uおよび下面側接結糸4LBの組と同様の効果を有する。
【0029】
上面側に位置する経糸、すなわち上面側経糸(1U~8U)および下面側接結糸(4LB,8LB)が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックル(図1の×印)は、斜め方向に一様に並んでいない。また、上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側経糸同士において経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれを有するものを含む。緯方向に4本の並んだ上面側経糸によって形成されるナックルは、それぞれの上面側経糸毎に異なる上面側緯糸に形成される。例えば、上面側経糸1Uおよび上面側緯糸1’Uによって形成されるナックルNaと、上面側経糸2Uおよび上面側緯糸3’Uによって形成されるナックルNbと、上面側経糸3Uおよび上面側緯糸4’Uによって形成されるナックルNcと、上面側経糸4Uおよび上面側緯糸2’Uによって形成されるナックルNdとは、いずれも異なる上面側緯糸に形成される。上面側経糸1UのナックルNaと上面側経糸2UのナックルNbは、経方向に2本の上面側緯糸のずれを有し、上面側経糸2UのナックルNbと上面側経糸3UのナックルNcは、経方向に1本の上面側緯糸のずれを有し、上面側経糸3UのナックルNcと上面側経糸4UのナックルNdは、経方向に2本の上面側緯糸のずれを有する。また、緯方向に4本の並んだ上面側経糸(1U~4U)は、いずれも異なる上面側緯糸にナックルを形成する。上面側織物の表面に形成されるナックルが斜めに揃っていないため、工業用織物10によって製造された物品に斜めのマークが生じることを抑えることができる。上面側織物の表面に1/3組織を崩した織り込みパターンを形成することで、上面側経糸および下面側経糸は4シャフトの倍数になり、8シャフトの倍数になる下面側織物の1/2-1/4組織の織り込みパターンと組み合わせることができる。これにより、上面側緯糸の本数を多くして繊維支持性および歩留まりを向上し、耐摩耗性に優れた織物を形成できる。
【0030】
下面側接結糸(4LB,8LB)と崩し糸(4U,8U)の組は、下面側織物の表面にも、他の下面側経糸(1L~3L,5L~7L)と同じ1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。これにより、下面側織物の表面に1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成することができる。これにより、下面側織物の表面に露出する下面側経糸の部分を減らし、摩耗の影響を抑えることができる。1/4組織では織り込んだ経糸の曲がりを抑えることができる。
【0031】
下面側接結糸4LBは、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の下面側緯糸(3’L,5’L,7’L,9’L)の上側を通る間で、上面側緯糸6’Uの上側を通って接結のためのナックルN1を形成する。特に、下面側接結糸4LBは、連続する4本の下面側緯糸(3’L,5’L,7’L,9’L)の領域の中央位置でナックルN1を形成する。これにより、下面側接結糸4LBが上面側緯糸6’Uを強く引き込むことを抑えることができる。下面側接結糸8LBも下面側接結糸4LBと同様の効果を有する。
【0032】
下面側経糸(1L~8LB)は、左側または右側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通る。つまり、図1に示す○印が、緯方向に2つ並んで配置される。また、下面側経糸(1L~8LB)は、左側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設ける。例えば、下面側経糸3Lは、左側に位置する下面側経糸2Lとともに同じ下面側緯糸5’Lを織り込み、次に、右側に位置する下面側経糸4LBとともに同じ下面側緯糸11’Lを織り込む。このように、下面側経糸が左右で組となって同じ下面側緯糸を織込んでいる。これによって、下面側経糸が下面側緯糸を織込む間隔が長くなり、下面側経糸が引き込まれる一方で、下面側緯糸が下面側織物の表面に大きく突出する構造となり、摩耗体積が大きくなり、耐摩耗性が向上する。
【0033】
複数の下面側接結糸(4LB,8LB)は、接結糸でない3本の下面側経糸(1L~3L,5L~7L)を挟んで等間隔に配置される。これにより、下面側接結糸(4LB,8LB)を均等に離れて配置して、緯方向の接結位置の偏りを抑えることができる。
【0034】
完全組織における2本の下面側接結糸(4LB,8LB)のそれぞれが上面側緯糸(6’U,14’U)の上側を通る位置は、経方向において8本の上面側緯糸のずれがある。つまり、下面側接結糸4LBが上面側緯糸6’Uに形成するナックルN1と、下面側接結糸8LBが上面側緯糸14’Uに形成するナックルN1とは、経方向において8本の上面側緯糸のずれがある。これにより、16本の上面側緯糸が設けられる工業用織物10において、接結位置を経方向に均等に離れて配置して、経方向の接結位置の偏りを抑えることができる。また、接結のためのナックルを均等に離しつつ、そのナックルの数を減らすことができる。このように接結位置を分散することで、表面性の低下を抑制し、抄造した紙の地合の乱れを抑制できる。
【0035】
例えば、下面側緯糸3’Lは、連続する6本の上面側経糸(1L~6L)の下側を通る。これにより、下面側緯糸を下面側織物の表面側に多く露出させて、耐摩耗性を高めることができる。
【0036】
下面側緯糸の線径は、上面側緯糸の線径に対して1.5倍から2.5倍の範囲に設定してもよい。これにより、下面側緯糸の線径を大きくして、耐摩耗性を向上できる。
【0037】
下面側緯糸は、ポリエチレンテレフタラート樹脂からなる線材と、ポリアミド樹脂からなる線材との交織で構成されてもよい。これにより、下面側織物の強度を高めつつ、耐摩耗性を向上できる。
【0038】
上面側緯糸のメッシュ数[本数/インチ]は、上面側経糸のメッシュ数[本数/インチ]よりも多くてもよい。これにより紙繊維の支持性が向上する。
【0039】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係る工業用織物20の完全組織を示す意匠図である。図4は、図3に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
【0040】
図3に示す第2実施形態に係る工業用織物20は、上面側経糸(1U~8U)と上面側緯糸(1’U~12’U)を含んで構成される上面側織物と、下面側経糸(1L~8LB)と下面側緯糸(1’L,2’L,4’L,5’L,7’L,8’L,10’L,11’L)を含んで構成される下面側織物とが接結されたものである。
【0041】
上面側経糸(1U~8U)および下面側経糸(1L~8LB)は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸(1’U~12’U)は、完全組織において12本であり、下面側緯糸(1’L,2’L,4’L,5’L,7’L,8’L,10’L,11’L)は、完全組織において8本である。完全組織において8本の下面側経糸(1L~8LB)のうち2本は、上面側織物および下面側織物を接結する下面側接結糸(4LB,8LB)として機能する。
【0042】
次に、工業用織物20における各経糸と各緯糸との織り方について図4(a)および図4(b)を参照して説明する。図4(a)および図4(b)に示す上面側緯糸、下面側緯糸の配置は同じである。
【0043】
図4(a)は、上面側経糸3Uと下面側経糸3Lの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。図4(a)に示すように、上面側経糸3Uが1本の上面側緯糸(1’U,5’U,9’U)の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸(2’U~4’U,6’U~8’U,10’U~12’U)の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成され、いわゆる1/3組織の織り込みパターンを形成する。上面側経糸3Uが1本の上面側緯糸(1’U,5’U,9’U)の上側をそれぞれ通ることで上面側織物の表面に3つのナックルが形成される。
【0044】
上面側経糸(1U,2U,5U~7U)は、上面側経糸3Uとは織り込み位置が経方向にずれたものを含むものの、上面側経糸3Uと同じように、上面側緯糸(1’U~12’U)に織り込まれ、1/3組織の織り込みパターンを形成する。このように、上面側経糸(1U~3U,5U~7U)は、同じ1/3組織の織り込みパターンを形成し、上面側緯糸(1’U~12’U)に対して一定の間隔でナックルを形成し、表面組織を崩すことなく織り込まれる。上面側経糸(1U~8U)は、下面側緯糸を織り込まない。
【0045】
下面側経糸3Lは、1本の下面側緯糸5’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(7’L,8’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸10’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(1’L,2’L,4’L,11’L)の上側を通る、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。下面側経糸(1L,2L,5L~7L)は、下面側経糸3Lと織り込み位置が経方向にずれているものを含むものの、下面側経糸3Lと同様の織り込みパターンを有し、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。
【0046】
図4(b)は、上面側経糸4Uと下面側接結糸4LBとの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。上面側経糸4Uと下面側接結糸4LBは、上下に対向して組をなし、接結のため交差する。
【0047】
上面側経糸4Uは、上面側緯糸(2’U,6’U)の上側を通ってナックルをそれぞれ形成し、上面側緯糸(1’U,3’U~5’U,7’U~12’U)の下側を通る。つまり、上面側経糸4Uは、順に1本の上面側緯糸2’Uの上側を通り、連続する3本の上面側緯糸(3’U~5’U)の下側を通り、1本の上面側緯糸6’Uの上側を通り、連続する7本の上面側緯糸(1’U,7’U~12’U)の下側を通る織り込みパターンを形成する。
【0048】
下面側接結糸4LBは、1本の下面側緯糸1’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(2’L,4’L)の下側を通り、1本の下面側緯糸5’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(7’L,8’L,10’L,11’L)の上側を通る、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。つまり、下面側接結糸4LBは、下面側織物の織り込みパターンを崩すことなく織り込まれる。下面側接結糸4LBは、接結のため、上面側緯糸10’Uの上側を通るナックルN1を形成し、上面側緯糸(1’U~9’U,11’U~12’U)の下側を通る。下面側接結糸8LBは、下面側接結糸4LBと織り込み位置が経方向にずれているものの、下面側経糸4LBと同様の織り込みパターンを形成する。
【0049】
下面側接結糸4LBと上下に組をなす上面側経糸4Uは、下面側接結糸4LBが上面側緯糸10’Uの上側を通る位置でその上面側緯糸10’Uの下側を通ってナックルを形成せず、崩し糸として機能する。一方、下面側接結糸8LBは上面側経糸1Uと組をなす。下面側接結糸8LBと組をなす上面側経糸1Uについて新たな図面を参照して説明する。
【0050】
図5は、第2実施例の工業用織物20の意匠図であって、緯方向に展開した図である。図5では、上面側経糸と下面側経糸を交互に並べて示す。
【0051】
ところで、下面側接結糸(4LB,8LB)は、接結のため上面側経糸と交差し、隣り合う上面側経糸の間を通る。つまり、下面側接結糸(4LB,8LB)によって形成されるナックル(N1,N2)には左側に位置する上面側経糸と右側に位置する上面側経糸がある。
【0052】
下面側接結糸4LBは、左側に位置する上面側経糸4Uと組をなす一方で、下面側接結糸8LBは、右側に位置する上面側経糸1Uと組をなす。上面側経糸1Uは、上面側経糸4Uと織り込み位置が経方向にずれているものの、上面側経糸4Uと同様の織り込みパターンを形成し、下面側接結糸8LBが上面側緯糸4’Uの上側を通る位置でその上面側緯糸4’Uの下側を通る崩し糸として機能する。
【0053】
このように、完全組織での2つの下面側接結糸(4LB,8LB)と崩し糸(4U,1U)の組において、一方の下面側接結糸4LBは、一方の崩し糸4Uの右側に位置し、他方の下面側接結糸8LBは、他方の崩し糸1Uの左側に位置する。これにより、崩し糸を下面側接結糸の左右に配置できる。
【0054】
図4に戻る。下面側接結糸(4LB,8LB)と崩し糸(4U,1U)の組は、上面側織物の表面に1本の上面側緯糸の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸の下側を通る織り込みパターンを形成する。つまり、下面側接結糸(4LB,8LB)と崩し糸(1U,4U)の組は、協働して上面側織物の表面に1/3組織の織り込みパターンを形成する。これによって、上面側織物の表面全体が1/3組織の織り込みパターンで形成することができる。
【0055】
上面側経糸4Uおよび下面側接結糸4LBが、互いに上面側織物の表面組織を補完することで、上面側経糸4U(崩し糸)以外の上面側経糸(2U~3U,5U~8U)と同様の表面組織を形成し、崩し糸4U以外の上面側経糸(1U~3U,5U~7U)と同じ数のナックルを上面側表面組織に形成する。このように、崩し糸4Uおよび下面側接結糸4LBの組は、互いに補完し合って上面側経糸1本分と下面側経糸1本分の織り込みパターンをそれぞれ形成する。
【0056】
上面側に位置する経糸、すなわち上面側経糸(1U~8U)および下面側接結糸(4LB,8LB)が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、斜め方向に一様に並んでいない。また、上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側経糸同士において経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれを有するものを含む。4本の並んだ上面側経糸によって形成されるナックルは、それぞれの上面側経糸毎に異なる上面側緯糸に形成される。
【0057】
下面側接結糸4LBは、1/2-1/4組織の織り込みパターンのうち連続する4本の下面側緯糸(7’L,8’L,10’L,11’L)の上側を通る間で、上面側緯糸10’Uの上側を通って接結のためのナックルN1を形成する。また、下面側接結糸8LBも同様に、連続する4本の下面側緯糸(1’L,2’L,4’L,5’L)の上側を通る間で、上面側緯糸4’Uの上側を通って接結のためのナックルN2を形成する。
【0058】
下面側経糸(1L~8LB)は、左側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設ける。
【0059】
複数の下面側接結糸(4LB,8LB)は、接結糸でない3本の下面側経糸(1L~3L,5L~7L)を挟んで等間隔に配置される。完全組織における2本の下面側接結糸(4LB,8LB)のそれぞれが上面側緯糸の上側を通る位置は、経方向において6本の上面側緯糸(4’U,10’U)のずれがある。このように接結位置を分散して配置できる。下面側緯糸は、連続する6本の下面側経糸の下側を通り、下面側緯糸を下面側織物の表面側に多く露出させる。
【0060】
下面側緯糸の線径は、上面側緯糸の線径に対して1.5倍から2.5倍の範囲に設定されてもよい。下面側緯糸は、ポリエチレンテレフタラート樹脂からなる線材と、ポリアミド樹脂からなる線材との交織で構成されてもよい。上面側緯糸のメッシュ数[本数/インチ]は、上面側経糸のメッシュ数[本数/インチ]よりも多くてもよい。
【0061】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態に係る工業用織物30の完全組織を示す意匠図である。図7は、図6に示す意匠図における経糸に沿った経方向の断面図である。
【0062】
図6に示す第3実施形態に係る工業用織物30は、上面側経糸(1UB~8U)と上面側緯糸(1’U~32’U)を含んで構成される上面側織物と、下面側経糸(1LB~8L)と下面側緯糸(1’L~3’L,5’L~7’L,9’L~11’L,13’L~15’L,17’L~19’L,21’L~23’L,25’L~27’L,29’L~31’L)を含んで構成される下面側織物とが接結されたものである。
【0063】
上面側経糸(1UB~8U)および下面側経糸(1LB~8L)は、完全組織において8本ずつであり、上面側緯糸(1’U~32’U)は、完全組織において32本であり、下面側緯糸(1’L~3’L,5’L~7’L,9’L~11’L,13’L~15’L,17’L~19’L,21’L~23’L,25’L~27’L,29’L~31’L)は、完全組織において24本である。
【0064】
8本の上面側経糸(1UB~8U)のうち4本が、上面側織物および下面側織物を接結する上面側接結糸(1UB,3UB,5UB,7UB)として機能する。8本の下面側経糸(1LB~8L)のうち4本が、上面側織物および下面側織物を接結する下面側接結糸(1LB,3LB,5LB,7LB)として機能する。上面側接結糸は、下面側接結糸よりも上面側に多くのナックルを形成し、下面側接結糸は、上面側接結糸よりも下面側に多くのナックルを形成する。
【0065】
次に、工業用織物30における各経糸と各緯糸との織り方について図7(a)および図7(b)を参照して説明する。図7(a)および図7(b)に示す上面側緯糸、下面側緯糸の配置は同じである。
【0066】
図7(b)には、上面側経糸2Uと下面側経糸2Lの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。図7(b)に示すように、上面側経糸2Uが1本の上面側緯糸(3’U,7’U,11’U,15’U,19’U,23’U,27’U,31’U)の上側を通り、連続する3本の上面側緯糸(1’U~2’Uおよび32’U,4’U~6’U,8’U~10’U,12’U~14’U,16’U~18’U,20’U~22’U,24’U~26’U,28’U~30’U)の下側を通る織り込みパターンが繰り返し形成され、いわゆる1/3組織の織り込みパターンを形成する。
【0067】
上面側経糸(4U,6U,8U)は、上面側経糸2Uとは織り込み位置が経方向にずれたものを含むもの、上面側経糸2Uと同じように、上面側緯糸(1’U~32’U)に織り込まれ、1/3組織の織り込みパターンを形成する。このように、上面側経糸(2U,4U,6U,8U)は、同じ1/3組織の織り込みパターンを形成し、上面側緯糸(1’U~32’U)に対して一定の間隔でナックルを形成し、表面組織を崩すことなく織り込まれる。
【0068】
下面側経糸2Lは、1本の下面側緯糸3’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(5’L,6’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸7’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(9’L~11’L,13’L)の上側を通る、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成し、続いて、1本の下面側緯糸14’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(15’L,17’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸18’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(19’L,21’L~23’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸25’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(26’L,27’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸29’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(30’L,31’L,1’L,2’L)の上側を通る。このように、下面側経糸2Lは、1/2-1/4組織の織り込みパターンを繰り返し形成する。下面側経糸(4L,6L,8L)は、下面側経糸2Lと織り込み位置が経方向にずれているものを含むものの、下面側経糸2Lと同様の織り込みパターンを有し、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。
【0069】
図7(a)は、上面側接結糸1UBと下面側接結糸1LBの組が上面側緯糸と下面側緯糸に織り込まれた形態を示す。上面側接結糸1UBと下面側接結糸1LBは、上下に対向して組をなし、接結のため交差する。
【0070】
上面側接結糸1UBは、上面側緯糸(4’U,8’U,12’U,28’U,32’U)の上側を通って5つのナックルを形成し、残りの上面側緯糸(1’U~3’U,5’U~7’U,9’U~11’U,13’U~27’U,29’U~31’U)の下側を通る。また、上面側接結糸1UBは、下面側緯糸(18’L,22’L)の下側を通って2つのナックルを形成し、下面側緯糸(18’L,22’L)以外の下面側緯糸の上側を通る。
【0071】
下面側接結糸1LBは、上面側緯糸(16’U,20’U,24’U)の上側を通って3つのナックルを形成し、残りの上面側緯糸(1’U~15’U,17’U~19’U,21’U~23’U,25’U~32’U)の下側を通る。また、下面側接結糸1LBは、下面側緯糸(1’L,7’L,11’L,29’L)の下側を通って4つのナックルを形成し、下面側緯糸(1’L,7’L,11’L,29’L)以外の下面側緯糸の上側を通る。上面側接結糸1UBおよび下面側接結糸1LBは、上面側織物および下面側織物の表面に複数のナックルを形成する。これにより、上面側織物および下面側織物を接結する力を向上できる。
【0072】
上面側接結糸1UBは、1本の下面側緯糸18’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(19’L,21’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸22’Lの下側を通る織り込みパターンを形成するとともに、下面側接結糸1LBは、下面側緯糸22’Lから4本離れた1本の下面側緯糸29’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(30’L,31’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸1’Lの下側を通り、連続する4本の下面側緯糸(2’L,3’L,5’L,6’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸7’Lの下側を通り、連続する2本の下面側緯糸(9’L,10’L)の上側を通り、1本の下面側緯糸11’Lの下側を通る織り込みパターンを繰り返して、下面側織物の表面に1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成する。
【0073】
このように、上面側接結糸1UBおよび下面側接結糸1LBは、互いに上面側織物の表面組織を補完することで、上面側経糸(2U,4U,6U,8U)と同様の1/3組織の織り込みパターンを形成し、上面側経糸(2U,4U,6U,8U)と同じ数のナックルを上面側表面に形成する。また、上面側接結糸1UBおよび下面側接結糸1LBは、互いに下面側織物の表面を補完することで、1/2-1/4組織の織り込みパターンを形成し、下面側組織を崩すことなく織り込まれる。なお、上面側接結糸(3UB,5UB,7UB)および下面側接結糸(3LB,5LB,7LB)は、上面側接結糸1UBおよび下面側接結糸1LBと交差する位置は経方向にずれているが、同様の織り込みパターンを有するため、同様の機能を発揮する。上面側経糸と下面側経糸のうち、半数が接結糸として機能することで、上面側織物と下面側織物の接結力が向上し、上面側織物と下面側織物の裏面側が擦れることで発生する内部摩耗を抑制することができる。
【0074】
上面側接結糸(1UB,3UB,5UB,7UB)および下面側接結糸(1LB,3LB,5LB,7LB)の組と、接結糸でない上面側経糸(2U,4U,6U,8U)および下面側経糸(2L,4L,6L,8L)の組は、1組ずつ交互に配置される。これにより、接結糸を均等に分散して配置できる。
【0075】
上面側に位置する経糸、すなわち上面側経糸(1UB~8U)および下面側接結糸(2LB,4LB,6LB,8LB)が上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、斜め方向に一様に並んでいない。上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側経糸毎に経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれを有するものを含む。また、上面側に位置する上面側接結糸および下面側接結糸と接結糸でない上面側経糸とが上面側緯糸の上側を通ることで上面側織物の表面に形成されるナックルは、隣り合う上面側に位置する経糸同士で経方向に1本の上面側緯糸のずれと、2本の上面側緯糸のずれとを有するものを含む。上面側に位置する経糸は、接結糸でない上面側経糸だけでなく、上面側に表出する上面側接結糸および下面側接結糸の一部を含む。4本の並んだ上面側に位置する経糸(上面側経糸および下面側接結糸を含む)によって形成されるナックルは、上面側に位置する経糸毎に異なる上面側緯糸に形成される。
【0076】
下面側経糸(1L~8LB)および上面側接結糸は、左側に隣接する上面側接結糸または下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックル(図6の○印および△印)と、右側に隣接する上面側接結糸または下面側経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックル(図6の○印および△印)と、を交互に設ける。すなわち、下面側に位置する上面側接結糸および下面側接結糸と接結糸でない下面側経糸とは、左側に隣接する下面側に位置する経糸(下面側経糸および上面側接結糸を含む)とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、右側に隣接する下面側に位置する経糸とともに同じ下面側緯糸の下側を通って形成するナックルと、を交互に設ける。下面側緯糸は、連続する6本の下面側経糸の下側を通り、下面側緯糸を下面側織物の表面側に多く露出させる。
【0077】
下面側緯糸の線径は、上面側緯糸の線径に対して1.5倍から2.5倍の範囲に設定されてもよい。下面側緯糸は、ポリエチレンテレフタラート樹脂からなる線材と、ポリアミド樹脂からなる線材との交織で構成されてもよい。上面側緯糸のメッシュ数[本数/インチ]は、上面側経糸のメッシュ数[本数/インチ]よりも多くてもよい。
【0078】
上述の各実施形態に係る工業用織物は、以下の加工を施してもよい。例えば、表面の平滑性を向上させるために、工業用織物の表面側が0.02~0.05mmの範囲で研磨加工が施されていてもよい。特に表面側が0.02mm又は0.03mm研磨加工されているとよい。
【0079】
また、網(工業用織物)端部の糸がほつれるのを抑制するために、網端部から5mm~30mmの範囲(特に5mm、10mm、20mmまでの範囲)をポリウレタン樹脂でコーティングすることにより、補強されていてもよい。網端部のコーティングは片側でも両側でもよい。樹脂はホットメルトのポリウレタンであってもよい。
【0080】
網端部の耐摩耗性を向上させるために、網端部から20mm~500mm離れた範囲(特に25,50,75,100,150,250,300,350,400mm離れた範囲)を、巾が7mm程度の3本~16本(特に3,4,7,8,10,12,15,16本)の帯状の樹脂により全長さに亘ってコーティングしてもよい。前述の複数本のポリウレタン樹脂は網の両端部に塗布されていてもよく、片側のみでもよい。樹脂はホットメルトのポリウレタンであってもよい。
【0081】
また、防汚性を向上させるために、網全体に樹脂によるコーティングがなされていてもよい。また、網端部付近で紙の抄造巾をトリミングできるように、網端部から10mm~500mm離れた範囲(特に10,15,20,25,30,40,50,75,100,150,200,250,300,350,400mm)を、巾が3,5,7,10,15,20mm程度の1本の帯状の樹脂により全長さに亘ってコーティングしていてもよい。前述の樹脂は網の両端部に塗布されていてもよく、片側のみでもよい。樹脂はポリウレタンであってよく、ホットメルトでもよい。また、使用中に網の筋曲がりが分かるように、全巾に亘って巾25mm又は50mm程度の線が網にひかれていてもよい。
【0082】
工業用織物の好ましい要素の範囲について列挙する。経糸の線径は0.10~1.0mmが好ましく、0.1~0.5mmが更に好ましく、特に0.11~0.35mmが好ましい。下面側経糸の線径は、上面側経糸の線径と同じであってよく、上面側経糸の線径の1.1倍から1.2倍の大きさで設定されてもよい。また、緯糸の線径は、0.10~1.0mmが好ましく、0.12~0.6mmが更に好ましく、特に0.12~0.55mmが好ましい。下面側緯糸の線径は、上面側緯糸の線径よりも大きいことが望ましく、上面側緯糸の線径の1.1倍から3.0倍の大きさであってよく、より好ましくは1.2倍から2.0倍の大きさであってよい。
【0083】
上面側緯糸は、PET線のみ、ポリアミド線のみ、又はPET線とポリアミド線を交互に織り込んだものであってもよい。下面側緯糸は、PET線のみ、ポリアミド線のみであってよく、PET線とポリアミド線を交互に織り込んだものであってもよい。また、機械の駆動負荷を低減するために、低摩擦糸を下面側緯糸に織り込んでもよい。
【0084】
通気度は、100cm3/cm2/s~600cm3/cm2/sが好ましく、120cm3/cm2/s~300cm3/cm2/sが更に好ましい。
【0085】
網厚は0.3mm~3.0mmが好ましく、0.5mm~2.5mmが更に好ましく、0.5mm~1.0mmが特に好ましい。使用用途としては、主に抄紙用や不織布用ベルトとして使用され、特に抄紙用脱水ベルト、スパンボンド不織布搬送用ベルトとして使用されてよい。
【0086】
上述の各実施の形態に係る経糸や緯糸の断面形状は円形に限らず、四角形状や星型等の糸や、楕円形状、中空、芯鞘構造等の糸が使用できる。特に下経糸の断面形状を正方形又は長方形又は楕円形状にすることで、糸の断面積が増加し、伸び耐性や剛性を向上できる。
【0087】
また、糸の材質としても、目的の特性を満たす範囲で自由に選択でき、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じて様々な物質をブレンドしたり含有させた糸を使用したりしてもよい。一般的に工業用織物を構成する糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。
【符号の説明】
【0088】
1’L 下面側緯糸、 1’U 上面側緯糸、 1L 下面側経糸、 1U 上面側経糸、 10 工業用織物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7