(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102014
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】コンダクターロール
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20230714BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20230714BHJP
C23C 4/08 20160101ALI20230714BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20230714BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20230714BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C25D7/06 K
C25D5/26 D
C23C4/08
C23C28/02
B32B1/08 Z
B32B15/01 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002311
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】須惠 航
(72)【発明者】
【氏名】島田 英徳
(72)【発明者】
【氏名】内山 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】野本 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中尾 智大
(72)【発明者】
【氏名】田口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 政伸
【テーマコード(参考)】
4F100
4K024
4K031
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB04
4F100AB04A
4F100AB13
4F100AB13B
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DA11
4F100DA11A
4F100DA11B
4F100EH71
4F100EH71B
4F100JB02
4F100JK12
4F100JK12B
4K024AA02
4K024AB01
4K024BA04
4K024BB06
4K024BC04
4K031AA02
4K031AA06
4K031AB02
4K031FA06
4K044AA02
4K044AB03
4K044BA02
4K044BA06
4K044BB03
4K044BC05
4K044CA11
4K044CA18
(57)【要約】
【課題】腐食性の高いメッキ液内でも表面剥離発生が低減され、長期間の使用に耐えることが可能であり、且つ、安価なコンダクターロールを提供すること。
【解決手段】ロール基体上の溶射被膜と、前記溶射被膜上のメッキ層とを備え、前記溶射被膜はステンレスであり、前記メッキ層はクロムメッキ層であることを特徴とする、コンダクターロール。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール基体上の溶射被膜と、前記溶射被膜上のメッキ層とを備え、
前記溶射被膜はステンレスであり、前記メッキ層はクロムメッキ層であることを特徴とする、コンダクターロール。
【請求項2】
前記ステンレスがオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1に記載のコンダクターロール。
【請求項3】
前記クロムメッキ層は高硬度クロムメッキ層であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコンダクターロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性及び耐腐食性を必要とする電気メッキ用途に適した、コンダクターロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板の連続電気メッキ設備では、メッキ浴内を搬送される冷延鋼板に通電を行うコンダクターロールが複数配置されている。
【0003】
特許文献1では、コンダクターロールに耐食性を持たせる方法としては、鉄心ロール(ロール基体)の表面に形成された銅メッキ層上にニッケルメッキ層を形成し、そのニッケルメッキ層を下地としてクロムメッキ層を形成する方法が行われている。
【0004】
また、特許文献2では、ステンレス材をロール基材として表面にメッキを行う方法も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-89894号公報
【特許文献2】特開平8-27592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉄心ロールの表面に形成された銅メッキ層上にニッケルメッキ層を形成し、そのニッケルメッキ層を下地としてクロムメッキ層を形成する特許文献1の方法では、クロムメッキ用のメッキ液など腐食性が高いメッキ液内で表面のクロムメッキ層が短期間で剥離してしまう問題点があった。
【0007】
また、ステンレス材をロール基材として表面にメッキを行う特許文献2の方法は、ロール基材が高価である問題点があった。
【0008】
したがって、本発明は上記の問題を解決すべく、腐食性の高いメッキ液内でも表面剥離発生が低減され、長期間の使用に耐えることが可能であり、且つ、安価なコンダクターロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
筆者らは鋭意調査した結果、鉄などの安価な材料で作成したロール基体にステンレスの溶射被膜を形成した後、それを下地としてクロムメッキ被膜を形成することにより、腐食性の高いメッキ液内であっても表面被膜の剥離発生が低減できることを知見した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
[1]ロール基体上の溶射被膜と、前記溶射被膜上のメッキ層とを備え、前記溶射被膜はステンレスであり、前記メッキ層はクロムメッキ層であることを特徴とする、コンダクターロール。
[2]前記ステンレスはオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする、[1]に記載のコンダクターロール。
[3]前記クロムメッキ層は高硬度クロムメッキ層であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のコンダクターロール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐食性を持った下地としてステンレスの溶射被膜を用いることで腐食性の高いメッキ液内での表面剥離発生が低減され、長期間の使用に耐えることができる。また、ロール基体に鉄などの安価な材料を用いることができるため、ステンレスを基材としたロールより安価に製作・補修することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の対象である電気メッキ用コンダクターロールの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明のコンダクターロールについて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態には、当業者が容易に置換可能なもの、あるいは実質的に同一のものも含まれる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態を示すコンダクターロールを長手方向に沿って切断した断面図である。ロール基体1の両端部にはシャフト2が嵌合している。また、本発明によれば、耐食性、耐摩耗性が要求される電気メッキ用コンダクターロールのロール基体1の表面に、耐食性の高いステンレスの溶射被膜3を施している。さらにその表面には、耐摩耗性の高いクロムメッキ層4を被覆することにより、コンダクターロールの耐久性を延ばすことができる。また、コンダクターロール表面のみの改造を行うことから、大部分は安価な材料を用いることができるため、安価な電気メッキ用コンダクターロールを提供することができる。
【0015】
特に、鋼板にクロムメッキを行うラインで用いられるコンダクターロールは、硬度の高い鋼板上のクロムメッキと接するため摩耗が激しく、同程度の硬度を持つ表面処理が必要である。硬度の高い表面処理の中で通電を妨げず、鋼板へのメッキに影響が出ないものとしてクロムメッキが用いられる。
【0016】
クロムメッキは電気メッキを施した際に内部応力が大きくなるという特性を有しており、コンダクターロール表面のクロムメッキ層には内部応力によって微細なクラックが生じる。このクラックは、クロムメッキ層の厚みとともに大きくなることがわかっており、大きなクラックの発生を防ぐために、クロムメッキ層の厚みは0.15mm以下が好ましい。また、より良好な耐久性を発揮するためには0.10mm以上が好ましい。
【0017】
しかしながら、0.15mm以下の厚みとしたコンダクターロール表面のクロムメッキ層にも微細なクラックが存在するため、腐食性の高いメッキ液がクラック内に侵入し、クロムメッキ層の下地層にまで到達する場合がある。従来のコンダクターロールの下地層に用いられるニッケルメッキでは腐食が発生し、クロムメッキ層が剥離していた。このメッキ液による腐食の対策として、異種金属接触部の腐食のしやすさの指標となる電位差がクロムとニッケルの組み合わせよりも小さくなる、クロムとステンレスの組み合わせに変更することで、腐食の発生を抑制し、コンダクターロールの耐食性を向上することができる。
【0018】
溶射被膜3として使用するステンレスは、オーステナイト系ステンレス鋼が好ましく、このようなステンレス鋼の一例として、SUS316Lが挙げられる。
【0019】
また、クロムメッキ層4を高硬度のクロムメッキ層とすることが好ましい。高硬度クロムメッキ層とは、JIS H8615に準拠し、0.1mm以上の膜厚のビッカース硬度がHv1050以上を言う。メッキ浴、メッキ条件は高硬度クロムメッキの常法に従えば良い。
【実施例0020】
図1に示すコンダクターロールを作成した。このコンダクターロールはSM490A(溶接構造用圧延鋼材)で形成された中空円筒のロール基体1を基体として構成した。このロール基体1の両端部にはシャフト2を嵌合した。ロール基体1の表面には耐食性に優れるSUS316Lの溶射被膜3を施した。その溶射被膜3の表面には耐摩耗性に優れるクロムメッキ層4を施した。その溶射被膜3の表面には耐摩耗性に優れるクロムメッキ4を施した。
【0021】
本発明に従い、鉄鋼表面処理鋼板設備の連続クロムメッキ設備の電気クロムメッキ用コンダクターロールとして、中空円筒のロール基体(SM490A製)上に1.5mmのSUS316Lの溶射被膜を形成したのち、封孔処理を行った。更にその上に、0.1mmのクロムメッキ層を被覆した後、クロムメッキ層の表面粗さをRz14±1μm、Ry18μm以下にして使用した。
【0022】
その結果、中空円筒のロール基体(SM490A製)上に1mmの銅メッキを被覆した後、0.15mmのニッケルメッキを被覆し、さらにその上に0.1mmのクロムメッキを被覆した後、クロムメッキ層の表面粗さをRz14±1μm、Ry18μm以下にした従来の電気メッキ用コンダクターロールと比較して、本発明の電気メッキ用コンダクターロールは耐食性に優れることが判明した。つまり、目視で表面のクロムメッキの剥離が確認されず、コンダクターロール取り換え周期が現状の3カ月から9カ月に延長し、耐久性が向上したことが、判明した。