IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 鹿児島大学の特許一覧 ▶ 株式会社 オールウェイズの特許一覧

<>
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図1
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図2
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図3
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図4
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図5
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図6
  • 特開-口腔内小帯挿入器具 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010206
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】口腔内小帯挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 13/00 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
A61B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114182
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】305028866
【氏名又は名称】株式会社 オールウェイズ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】橋口 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】稲田 絵美
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 要一
(72)【発明者】
【氏名】奥 猛志
(72)【発明者】
【氏名】小池 敏
(57)【要約】
【課題】汎用性が高められた口腔内小帯挿入器具を提供する。
【解決手段】口腔内小帯挿入器具10は、表面11と、厚さ方向に関して表面11とは反対側の裏面12とを有し、かつ厚さ方向に直角な一方向を長手方向とする平面形状を有する。第1二股状挿入部20は、口腔内小帯挿入器具10の長手方向の一端部に位置し、二股に先割れした部分を有する。第2二股状挿入部30は、口腔内小帯挿入器具10の長手方向の他端部に位置し、二股に先割れした部分を有する。中間部40は、第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30とをつないでいる。第1二股状挿入部20の幅方向の寸法W1は、第2二股状挿入部30の幅方向の寸法W2よりも大きく形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と、厚さ方向に関して前記表面とは反対側の裏面とを有し、かつ前記厚さ方向に直角な一方向を長手方向とする平面形状を有する口腔内小帯挿入器具であって、
前記長手方向の一端部に位置し、二股に先割れした部分を有する第1二股状挿入部と、
前記長手方向の他端部に位置し、二股に先割れした部分を有する第2二股状挿入部と、
前記第1二股状挿入部と前記第2二股状挿入部とをつないでいる中間部と、
を有し、
前記第1二股状挿入部の、前記長手方向及び前記厚さ方向に直角な幅方向の寸法が、前記第2二股状挿入部の前記幅方向の寸法よりも大きく形成されている、
口腔内小帯挿入器具。
【請求項2】
前記第1二股状挿入部が、
前記長手方向及び前記厚さ方向に平行な縦断面が前記表面から前記裏面に向かう方向に凸状に湾曲しており、かつ前記幅方向及び前記厚さ方向に平行な横断面も前記表面から前記裏面に向かう方向に凸状に湾曲しているスプーン形状、
を有する、請求項1に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項3】
前記第1二股状挿入部における前記裏面に、
前記第1二股状挿入部の前記二股に先割れした部分の根元から、前記中間部に向かって前記長手方向に延在している有底の溝部、
が形成されている、請求項1又は2に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項4】
前記第1二股状挿入部が、前記二股に先割れした部分を構成する一対の第1挿入片を有し、かつ一方の前記第1挿入片と他方の前記第1挿入片との間には、両者を前記幅方向に離間させる第1切り込みが前記長手方向に延在しており、
一対の前記第1挿入片の少なくとも一方に、前記第1切り込みに沿って前記長手方向の長さを表す第1深さ表示目盛りが付されており、
前記第1二股状挿入部の、前記長手方向に関して前記第1切り込みよりも前記中間部に近い部分に、前記幅方向の長さを表す第1幅表示目盛りが付されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項5】
前記第1切り込みの、前記中間部から遠い方の端部の幅が、前記第1切り込みの、前記中間部に近い方の端部の幅よりも小さい、
請求項4に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項6】
前記第2二股状挿入部が、前記二股に先割れした部分を構成する一対の第2挿入片を有し、かつ一方の前記第2挿入片と他方の前記第2挿入片との間には、両者を前記幅方向に離間させる第2切り込みが前記長手方向に延在しており、
一対の前記第2挿入片の少なくとも一方に、前記第2切り込みに沿って前記長手方向の長さを表す第2深さ表示目盛りが付されており、
前記第2二股状挿入部の、前記長手方向に関して前記第2切り込みよりも前記中間部に近い部分に、前記幅方向の長さを表す第2幅表示目盛りが付されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項7】
前記第2切り込みの、前記中間部から遠い方の端部の幅が、前記第2切り込みの、前記中間部に近い方の端部の幅よりも小さい、
請求項6に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項8】
前記中間部における前記裏面に、突起が形成されている、
請求項1から7のいずれか1項に記載の口腔内小帯挿入器具。
【請求項9】
少なくとも前記第1二股状挿入部及び前記第2二股状挿入部が、可視光に対して透明な素材で形成されている、
請求項1から8のいずれか1項に記載の口腔内小帯挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の小帯に挿入することができる口腔内小帯挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
人の口腔内において、舌と下顎の口腔底とは、舌小帯と呼ばれる膜状の組織でつながっている。この舌小帯が、先天的に舌の先に近い部分から歯茎に伸びていることがあり、その場合には、舌小帯によって舌の可動域が極度に制限されることとなる。そのような疾患を舌小帯短縮症という。舌小帯短縮症は、舌小帯を切除する手術により治癒する。
【0003】
特許文献1に開示されているように、舌小帯の切除手術を支援するものとして、患者の舌を上顎側に持ち上げる口腔内小帯挿入器具が知られている。
【0004】
この口腔内小帯挿入器具は、一方向を長手方向とする平面形状を有し、かつその長手方向の一端部に、二股に先割れした二股状挿入部を有する。医師は、二股状挿入部によって舌小帯が挟まれた状態となるように口腔内小帯挿入器具を患者の舌小帯に挿入したのち、その口腔内小帯挿入器具によって舌を持ち上げ、その状態で舌小帯の切除を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】登録実用新案第3224615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の口腔内小帯挿入器具の構成では、患者が乳幼児である場合と成人である場合とで、あるいは、舌又は舌小帯の大小に応じて、二股状挿入部のサイズが異なる口腔内小帯挿入器具を使い分けする必要があった。
【0007】
また、従来の口腔内小帯挿入器具は、舌小帯以外の口腔内小帯、例えば、上唇小帯の切除手術への適用については考慮されていない。このため、従来は、例えば上唇小帯の切除手術において上唇を持ち上げるための器具については、別途に製作しておく必要があった。以上の点で、従来の口腔内小帯挿入器具は汎用性に欠けていた。
【0008】
本発明の目的は、汎用性が高められた口腔内小帯挿入器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る口腔内小帯挿入器具は、
表面と、厚さ方向に関して前記表面とは反対側の裏面とを有し、かつ前記厚さ方向に直角な一方向を長手方向とする平面形状を有する口腔内小帯挿入器具であって、
前記長手方向の一端部に位置し、二股に先割れした部分を有する第1二股状挿入部と、
前記長手方向の他端部に位置し、二股に先割れした部分を有する第2二股状挿入部と、
前記第1二股状挿入部と前記第2二股状挿入部とをつないでいる中間部と、
を有し、
前記第1二股状挿入部の、前記長手方向及び前記厚さ方向に直角な幅方向の寸法が、前記第2二股状挿入部の前記幅方向の寸法よりも大きく形成されている。
【0010】
前記第1二股状挿入部が、
前記長手方向及び前記厚さ方向に平行な縦断面が前記表面から前記裏面に向かう方向に凸状に湾曲しており、かつ前記幅方向及び前記厚さ方向に平行な横断面も前記表面から前記裏面に向かう方向に凸状に湾曲しているスプーン形状、
を有していてもよい。
【0011】
前記第1二股状挿入部における前記裏面に、
前記第1二股状挿入部の前記二股に先割れした部分の根元から、前記中間部に向かって前記長手方向に延在している有底の溝部、
が形成されていてもよい。
【0012】
前記第1二股状挿入部が、前記二股に先割れした部分を構成する一対の第1挿入片を有し、かつ一方の前記第1挿入片と他方の前記第1挿入片との間には、両者を前記幅方向に離間させる第1切り込みが前記長手方向に延在しており、
一対の前記第1挿入片の少なくとも一方に、前記第1切り込みに沿って前記長手方向の長さを表す第1深さ表示目盛りが付されており、
前記第1二股状挿入部の、前記長手方向に関して前記第1切り込みよりも前記中間部に近い部分に、前記幅方向の長さを表す第1幅表示目盛りが付されていてもよい。
【0013】
前記第1切り込みの、前記中間部から遠い方の端部の幅が、前記第1切り込みの、前記中間部に近い方の端部の幅よりも小さくてもよい。
【0014】
前記第2二股状挿入部が、前記二股に先割れした部分を構成する一対の第2挿入片を有し、かつ一方の前記第2挿入片と他方の前記第2挿入片との間には、両者を前記幅方向に離間させる第2切り込みが前記長手方向に延在しており、
一対の前記第2挿入片の少なくとも一方に、前記第2切り込みに沿って前記長手方向の長さを表す第2深さ表示目盛りが付されており、
前記第2二股状挿入部の、前記長手方向に関して前記第2切り込みよりも前記中間部に近い部分に、前記幅方向の長さを表す第2幅表示目盛りが付されていてもよい。
【0015】
前記第2切り込みの、前記中間部から遠い方の端部の幅が、前記第2切り込みの、前記中間部に近い方の端部の幅よりも小さくてもよい。
【0016】
前記中間部における前記裏面に、突起が形成されていてもよい。
【0017】
少なくとも前記第1二股状挿入部及び前記第2二股状挿入部が、可視光に対して透明な素材で形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る口腔内小帯挿入器具によれば、第1二股状挿入部と第2二股状挿入部とのいずれも口腔内小帯への挿入に用いることができる。また、第1二股状挿入部の幅方向の寸法が第2二股状挿入部の幅方向の寸法よりも大きく形成されているので、例えば、第1二股状挿入部を舌小帯への挿入に用いる一方、第2二股状挿入部を上唇小帯への挿入に用いたり、第1二股状挿入部を成人の口腔内小帯への挿入に用いる一方、第2二股状挿入部を乳幼児の口腔内小帯への挿入に用いたりするといった、第1二股状挿入部と第2二股状挿入部との使い分けが可能である。このため、口腔内小帯挿入器具の汎用性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A):第1実施形態に係る口腔内小帯挿入器具の底面図。(B):同口腔内小帯挿入器具の平面図。(C):同口腔内小帯挿入器具の左側面図。
図2】(A):第1実施形態に係る口腔内小帯挿入器具の1つの使用態様を例示する写真。(B):同口腔内小帯挿入器具の他の使用態様を例示する写真。
図3】(A):第1実施形態に係る口腔内小帯挿入器具における第1二股状挿入部の、長手方向及び厚さ方向に平行な縦断面図。(B):同第1二股状挿入部の、幅方向及び厚さ方向に平行な横断面図。
図4】第2実施形態に係る口腔内小帯挿入器具の底面図。
図5】第2実施形態に係る口腔内小帯挿入器具の製法を例示する概念図。
図6】第3実施形態に係る口腔内小帯挿入器具の底面図。
図7】(A):第4実施形態に係る第1二股状挿入部の拡大平面図。(B):第4実施形態に係る第2二股状挿入部の拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、実施形態に係る口腔内小帯挿入器具について説明する。図中、同一又は対応する部分に同一の符号を付す。
【0021】
[第1実施形態]
図1(A)-(C)に、第1実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10を示す。図1(C)に示すように、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、表面11と、厚さ方向に関して表面11とは反対側の裏面12とを有する。また、図1(A)及び(B)に示すように、口腔内小帯挿入器具10は、全体として、厚さ方向に直角な一方向を長手方向とする平面形状を有する。
【0022】
なお、図1(A)-(C)には、Z軸が上記厚さ方向に平行で、Y軸が上記長手方向に平行な右手系のXYZ直交座標系を付記した。裏面12から表面11に向かう方向が、Z軸のプラス方向である。また、上記長手方向及び上記厚さ方向に直角な方向、即ち、X軸に平行な方向を、口腔内小帯挿入器具10の幅方向とする。
【0023】
図1(B)に示すように、口腔内小帯挿入器具10は、長手方向の一端部、具体的にはY軸プラス方向の端部に位置する第1二股状挿入部20と、長手方向の他端部、具体的にはY軸マイナス方向の端部に位置する第2二股状挿入部30と、第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30とをつなぐ中間部40とを有する。
【0024】
中間部40は平坦な平板状に形成されている。第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30との各々は、二股に先割れした部分を有する。
【0025】
具体的には、第1二股状挿入部20は、Y軸プラス方向に向かって二股に先割れした部分を構成する一対の第1挿入片21及び22を有する。一方の第1挿入片21と、他方の第1挿入片22との間には、両者21及び22を幅方向、即ちX軸方向に離間させる第1切り込み23が形成されている。第1切り込み23は、第1二股状挿入部20のY軸プラス方向の端部から中間部40に向かって、長手方向、即ちY軸方向に延在している。
【0026】
また、第2二股状挿入部30も同様に、Y軸マイナス方向に向かって二股に先割れした部分を構成する一対の第2挿入片31及び32を有する。一方の第2挿入片31と、他方の第2挿入片32との間には、両者31及び32を幅方向、即ちX軸方向に離間させる第2切り込み33が形成されている。第2切り込み33は、第2二股状挿入部30のY軸マイナス方向の端部から中間部40に向かって、長手方向、即ちY軸方向に延在している。
【0027】
なお、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、第1二股状挿入部20、第2二股状挿入部30、及び中間部40の全体が、可視光に対して透明な樹脂で形成されている。ここで“透明”とは、いわゆる半透明と称される概念も含むものとする。
【0028】
具体的には、口腔内小帯挿入器具10の、JIS K 7361-1に規定する全光線透過率は、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30とのいずれも口腔内小帯への挿入に利用できる点を最大の特徴としている。
【0030】
また、第1二股状挿入部20の、幅方向、即ちX軸方向の寸法W1は、第2二股状挿入部30の幅方向の寸法W2よりも大きい。このため、用途に応じた、第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30との使い分けが可能である。
【0031】
以下、第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30との使い分けの一例として、第1二股状挿入部20を舌小帯への挿入に用い、第2二股状挿入部30を上唇小帯への挿入に用いる実施例を述べる。
【0032】
図2(A)は、第1二股状挿入部20を舌小帯81への挿入に用いた様子を示す。ユーザは、中間部40及び図示せぬ第2二股状挿入部30を手に持った状態で、一方の第1挿入片21と他方の第1挿入片22との間に患者の舌小帯81が配置されるように、第1二股状挿入部20を舌小帯81に挿入する。
【0033】
なお、ここでいう“ユーザ”とは、具体的には、口腔内小帯の切除手術を行う歯科医師その他の医師、切除手術をサポートする助手その他の者を指す。
【0034】
次に、ユーザは、手に持っている中間部40及び図示せぬ第2二股状挿入部30を、患者の上顎に向けて持ち上げる。すると、患者の舌82が第1二股状挿入部20によって持ち上げられると同時に、舌小帯81が、上下に引き延ばされた状態で明示される。このため、ユーザはこの状態で舌小帯81の切除手術を行い易い。本実施例によれば、このようにして舌小帯短縮症の治療が支援される。
【0035】
また、既述のとおり、第1二股状挿入部20が可視光に対して透明であるため、ユーザは、舌小帯81の切除手術に際し、第1挿入片21及び22を通して、患者の舌82の裏側を鮮明に視認できる。即ち、ユーザは、舌小帯81とその他の組織との関係性、具体的には、舌82に対する舌小帯81の位置、舌小帯81の根元における血管の走行状況等を鮮明に視認できる。このことも舌小帯81の切除手術の容易性の向上に寄与する。
【0036】
図2(B)は、第2二股状挿入部30を上唇小帯91への挿入に用いた様子を示す。ユーザは、中間部40及び図示せぬ第1二股状挿入部20を手に持った状態で、一方の第2挿入片31と他方の第2挿入片32との間に患者の上唇小帯91が配置されるように、第2二股状挿入部30を上唇小帯91に挿入する。
【0037】
次に、ユーザは、手に持っている中間部40及び図示せぬ第1二股状挿入部20を、患者の鼻に向けて持ち上げる。すると、患者の上唇92が第2二股状挿入部30によって持ち上げられると同時に、上唇小帯91が、上下に引き延ばされた状態で明示される。このため、ユーザはこの状態で上唇小帯91の切除手術を行い易い。本実施例によれば、このようにして上唇小帯短縮症の治療が支援される。
【0038】
また、既述のとおり、第2二股状挿入部30が可視光に対して透明であるため、ユーザは、上唇小帯91の切除手術に際し、第2挿入片31及び32を通して、患者の上唇92の裏側を鮮明に視認できる。即ち、ユーザは、上唇小帯91とその他の組織との関係性、具体的には、上唇92に対する上唇小帯91の位置、上唇小帯91の根元における血管の走行状況等を鮮明に視認できる。このことも、上唇小帯91の切除手術の容易性の向上に寄与する。
【0039】
以上、幅方向の寸法W1が相対的に大きい第1二股状挿入部20を舌小帯81への挿入に用いる一方、幅方向の寸法W2が相対的に小さい第2二股状挿入部30を上唇小帯91への挿入に用いる実施例について説明した。
【0040】
第1二股状挿入部20と第2二股状挿入部30との使い分けの仕方は、上記実施例に限られない。図示はしないが、幅方向の寸法W1が相対的に大きい第1二股状挿入部20を成人の口腔内小帯への挿入に用いる一方、幅方向の寸法W2が相対的に小さい第2二股状挿入部30を乳幼児の口腔内小帯への挿入に用いる使い分けも可能である。
【0041】
即ち、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、舌小帯にも上唇小帯にも用いることができるし、成人にも乳幼児にも用いることができる。このように、第1二股状挿入部20及び第2二股状挿入部30を備えたことにより、口腔内小帯挿入器具10の汎用性が高められる。
【0042】
なお、ここで“口腔内小帯挿入器具10の汎用性が高められる”とは、1つの口腔内小帯挿入器具10の用途の可能性が広げられることを意味し、同じ1つの口腔内小帯挿入器具10が上記各用途に再利用されることまでを限定する趣旨ではない。即ち、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、オートクレーブその他の洗浄処理を経て繰り返し使用されてもよいし、1回の使用毎に廃棄されてもよいことは当業者に理解できるであろう。
【0043】
以下、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10の詳細な構成について説明する。
【0044】
図1(A)-(C)に示すように、第2二股状挿入部30は、平坦に形成されている。第2二股状挿入部30が、平坦でかつ第1二股状挿入部20よりもコンパクトに形成されているので、第2二股状挿入部30を口腔内小帯への挿入に用いる場合には、患者に嘔吐反射その他の不快感が生じにくいという利点も得られる。
【0045】
また、第2二股状挿入部30の幅方向の寸法W2は、中間部40の幅方向の寸法と等しいか又は略等しい。このため、第1二股状挿入部20を小帯への挿入に用いる場合に、ユーザが第2二股状挿入部30及び中間部40を手で持ちやすいという利点も得られる。
【0046】
一方、第1二股状挿入部20は、スプーン状に湾曲した形状(以下、スプーン形状という。)を有する。このため、第1二股状挿入部20を口腔内小帯への挿入に用いる場合には、その口腔内小帯とつながっている舌82、上唇92等を第1二股状挿入部20で安定的に保持できるという利点が得られる。以下、第1二股状挿入部20のスプーン形状について具体的に説明する。
【0047】
図3(A)は、第1二股状挿入部20の、長手方向及び厚さ方向に平行な縦断面を示す。図3(A)に示すように、スプーン形状を有する第1二股状挿入部20の縦断面は、舌82、上唇92等に接する表面11から裏面12に向かう方向、即ちZ軸のマイナス方向に凸状に湾曲している。このため、第1二股状挿入部20を口腔内小帯に挿入した際に、患者の舌82、上唇92等のY軸方向の位置を安定させ易く、ユーザが舌82、上唇92等を持ち上げる操作を行い易い。
【0048】
図3(B)は、第1二股状挿入部20の、幅方向及び厚さ方向に平行な横断面を示す。図3(B)に示すように、スプーン形状を有する第1二股状挿入部20の横断面も、舌82、上唇92等に接する表面11から裏面12に向かう方向に凸状に湾曲している。このため、第1二股状挿入部20を口腔内小帯に挿入した際に、患者の舌82、上唇92等のX軸方向の位置も安定させ易い。
【0049】
さらに、図3(B)に示すように、第1二股状挿入部20における裏面12には、有底の溝部24が形成されている。第1二股状挿入部20の横断面における凸状に湾曲した部分の頂部に第1切り込み23が位置しており、その第1切り込み23と有底の溝部24とが連続している。
【0050】
図1(A)に示すように、有底の溝部24は、第1二股状挿入部20のスプーン形状をなす部分の裏面12において、二股に先割れした部分の根元から、中間部40に向かって長手方向に延在している。
【0051】
この有底の溝部24は、口腔内小帯の切除手術において、歯科用バキュームの先端部の位置決めに利用することができる。具体的には、歯科用バキュームの先端部を有底の溝部24に当てがわせた状態で、例えば、口腔内に溜まる唾液、血液、又はレーザメスを用いた場合に生じる煙等を歯科用バキュームで吸い取りながら、口腔内小帯の切除手術を行うことができる。
【0052】
また、この有底の溝部24は、切除すべき口腔内小帯の奥行方向の寸法が大きい場合に、口腔内小帯の既に切除した根本部分を有底の溝部24に沿わせつつ第1二股状挿入部20を口腔に進入させること等にも利用できる。
【0053】
以上、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10の、口腔内小帯を切除する手術の支援器具としての用途を述べたが、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10の用途はこれに限られない。
【0054】
本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、例えば、口腔内小帯の切除手術の後において、切除部分に癒着が生じるのを防ぐために、舌82、上唇92等を持ち上げる挙上訓練の補助器具としても利用できる。その際、上記有底の溝部24は、切除部分を上記有底の溝部24に沿わせつつ第1二股状挿入部20を口腔に進入させることに利用できる。但し、第2二股状挿入部30も挙上訓練の補助器具として利用できるのは勿論である。
【0055】
また、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、舌82の表面を清掃する際に、舌82の裏側から舌82を支えるための清掃の補助器具としても利用できる。その際、第1二股状挿入部20の上述したスプーン形状が、清掃中の舌82を安定的に保持する役割を果たす。但し、第2二股状挿入部30も清掃の補助器具として利用できるのは勿論である。
【0056】
また、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、口腔内小帯の切除手術以外の手術又は診断にも用いることができる。例えば、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10を用いて舌82を挙上させることで、口腔底が明示された状態を維持できる。このため、その状態で、医師は、口腔底の腫瘍、嚢胞等の摘出術、口腔底の診察等を容易に行える。同様にして、上顎の歯茎等の手術、診察等にも本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10を役立てることができる。
【0057】
[第2実施形態]
以上説明した第1実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10に、物差しの機能を付加してもよい。以下、その具体例を述べる。
【0058】
図4に示すように、本実施形態では、第1二股状挿入部20における一対の第1挿入片21、22のそれぞれに、第1切り込み23に沿って第1深さ表示目盛り25、26が付されている。第1深さ表示目盛り25、26は、それぞれ長手方向、即ちY軸方向の長さ、具体的には、第1切り込み23の深さを表す。
【0059】
また、第1二股状挿入部20の、長手方向に関して第1切り込み23よりも中間部40に近い部分には、第1幅表示目盛り27が付されている。第1幅表示目盛り27は、幅方向、即ちX軸方向の長さを表す。
【0060】
第2二股状挿入部30においても同様に、一対の第2挿入片31、32のそれぞれに、第2切り込み33に沿って第2深さ表示目盛り34、35が付されている。第2深さ表示目盛り34、35は、それぞれ長手方向、即ちY軸方向の長さ、具体的には、第2切り込み33の深さを表す。
【0061】
また、第2二股状挿入部30の、長手方向に関して第2切り込み33よりも中間部40に近い部分には、第2幅表示目盛り36が付されている。第2幅表示目盛り36は、幅方向、即ちX軸方向の長さを表す。
【0062】
本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10によれば、ユーザは、口腔内小帯の切除手術中に、第1深さ表示目盛り25及び26、又は第2深さ表示目盛り34及び35によって、口腔内小帯を切り込んだ深さを計測できる。その計測結果は、例えば、切除手術が適切に行われたか否かの判断材料になる。
【0063】
また、既述のように、第1二股状挿入部20及び第2二股状挿入部30が可視光に対して透明であるため、ユーザは、口腔内小帯の切除手術において、第1二股状挿入部20又は第2二股状挿入部30を口腔内小帯に挿入した状態のままで、第1幅表示目盛り27、又は第2幅表示目盛り36によって、切除した部分の幅、即ちX軸方向の寸法を計測できる。その計測結果も、例えば、切除手術が適切に行われたか否かの判断材料になる。
【0064】
また、第1深さ表示目盛り25及び26、又は第2深さ表示目盛り34及び35は、口腔内小帯の切除手術の前において、口腔内小帯のY軸方向の寸法の計測に用いることもできる。その計測結果は、例えば、切除手術の必要性の有無を判断する材料となる。
【0065】
また、第1二股状挿入部20又は第2二股状挿入部30を口腔内小帯に挿入した状態の画像を取得した場合には、第1深さ表示目盛り25、26、第1幅表示目盛り27、第2深さ表示目盛り34、35、又は第2幅表示目盛り36によって、その画像にスケールが付されることとなる。このため、その画像に表示されている口腔内小帯のサイズが明瞭になる。そのような画像は、例えば、臨床研究に役立てることができる。
【0066】
図5を参照し、以下、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10の製法を述べる。
【0067】
本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、いずれも可視光に対して透明な素材よりなる第1パーツ10A及び第2パーツ10Bを、厚さ方向に接合することで得られる。第2パーツ10Bは、口腔内小帯挿入器具10の、舌82、上唇92等に接する表面11を構成する。一方、第1パーツ10Aは、口腔内小帯挿入器具10の、厚さ方向に関して表面11とは反対側の裏面12を構成する。
【0068】
まず、第1パーツ10Aが作製される。第1パーツ10Aの、厚さ方向に関して裏面12とは反対側の表面(以下、第1中間面という。)13には、インクを用いて、既述の第1深さ表示目盛り25、26、第1幅表示目盛り27、第2深さ表示目盛り34、35、及び第2幅表示目盛り36(以下、目盛り群という。)が印字されている。
【0069】
次に、第1パーツ10Aに、第2パーツ10Bが張り合わされた構造が形成される。これにより、第1パーツ10Aにおける目盛り群が印字された第1中間面13が、第2パーツ10Bにおける、厚さ方向に関して表面11とは反対側の裏面(以下、第2中間面という。)14で覆われる。
【0070】
このようにして、目盛り群を表すインクが第1パーツ10Aと第2パーツ10Bとで挟まれるので、目盛り群を表すインクを表面11及び裏面12のいずれにも露出させなくて済む。このため、オートクレーブその他の洗浄処理を口腔内小帯挿入器具10に施しても、目盛り群を表すインクが消えにくい。
【0071】
それにも関わらず、第1パーツ10A及び第2パーツ10Bのいずれもが可視光に対して透明な素材よりなるので、目盛り群は、口腔内小帯挿入器具10の裏面12から視認することができるし、表面11から視認することもできる。
【0072】
なお、第1パーツ10Aに第2パーツ10Bが張り合わされた構造は、例えば、インサート成形法によって形成することができる。即ち、第1パーツ10Aをインサート品として金型にセットしたのち、その金型におけるインサート品の周囲に樹脂を充填することにより、第1パーツ10Aに第2パーツ10Bが張り合わされた構造が得られる。
【0073】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10を示す。図6に示すように、本実施形態に係る口腔内小帯挿入器具10は、中間部40における裏面12に形成された複数の突起41、42をさらに有する。突起41、42は、中間部40の幅方向中央部において長手方向に並んでいる。突起41、42の各々は、全体として滑らかに湾曲した形状に形成されている。
【0074】
本実施形態によれば、突起41、42は、それが形成されている箇所が持つべき場所であることをユーザに明示する役割を果たすと共に、滑り止めの役割も果たす。仮に、口腔内小帯の切除手術中に患者の唾液その他の粘液、血液等が、持つべき場所である中間部40に付着したとしても、突起41、42の存在によって、ユーザの手が滑ることが抑制される。
【0075】
しかも、突起41、42は、裏面12に形成されているため、患者の舌82、上唇92等に当たることはない。なお、本実施形態に係る構成は、既述の第1実施形態及び第2実施形態のいずれにも適用可能である。
【0076】
[第4実施形態]
図7(A)は、第4実施形態に係る第1二股状挿入部20を拡大して示す。図7(A)に示すように、本実施形態では、第1切り込み23の、中間部40から遠い方の端部23aの幅が、第1切り込み23の、中間部40に近い方の端部23bの幅よりも小さい。
【0077】
このため、第1二股状挿入部20を口腔内小帯に挿入した際に、中間部40から遠い方の端部23aにおいて口腔内小帯をしっかりと挟み込むことができる。従って、第1二股状挿入部20のY軸方向及びZ軸方向の位置がずれにくい。
【0078】
なお、第1実施形態との対比を明示するために、図7(A)には、第1実施形態に係る第1二股状挿入部20の輪郭を破線で示した。
【0079】
図7(B)は、第4実施形態に係る第2二股状挿入部30を拡大して示す。図7(B)に示すように、本実施形態では、第2切り込み33の、中間部40から遠い方の端部33aの幅が、第2切り込み33の、中間部40に近い方の端部33bの幅よりも小さい。
【0080】
このため、第2二股状挿入部30を口腔内小帯に挿入した際に、中間部40から遠い方の端部33aにおいて口腔内小帯をしっかりと挟み込むことができる。従って、第2二股状挿入部30のY軸方向及びZ軸方向の位置がずれにくい。
【0081】
なお、第1実施形態との対比を明示するために、図7(B)には、第1実施形態に係る第2二股状挿入部30の輪郭を破線で示した。本実施形態に係る構成は、既述の第1-第3実施形態のいずれにも適用可能である。
【0082】
以上、第1-第4実施形態について説明した。以下に述べる変形も可能である。
【0083】
上記第1実施形態では、口腔内小帯挿入器具10を舌小帯81又は上唇小帯91に挿入する例について述べたが、口腔内小帯挿入器具10の用途はこれに限られない。口腔内小帯挿入器具10は、口腔内のあらゆる小帯への挿入に利用できる。本明細書において口腔内小帯とは、舌小帯81、上唇小帯91のみならず、頬小帯、下唇小帯といった、口腔内のあらゆる小帯を含む概念とする。
【0084】
上記第1-第4実施形態では、口腔内小帯挿入器具10の全体を可視光に対して透明な樹脂で形成する例について説明したが、口腔内小帯挿入器具10の構成はこれに限られない。口腔内小帯挿入器具10は、サージカルステンレスその他の金属で形成してもよい。また、第1二股状挿入部20及び第2二股状挿入部30は可視光に対して透明な樹脂で形成し、両者20及び30をつなぐ中間部40は金属で形成するといったように、複数の素材を複合的に用いてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…口腔内小帯挿入器具、
10A…第1パーツ、
10B…第2パーツ、
11…表面、
12…裏面、
13…第1中間面、
14…第2中間面、
20…第1二股状挿入部、
21,22…第1挿入片、
23…第1切り込み、
23a…中間部から遠い方の端部、
23b…中間部に近い方の端部、
24…有底の溝部、
25,26…第1深さ表示目盛り、
27…第1幅表示目盛り、
30…第2二股状挿入部、
31,32…第2挿入片、
33…第2切り込み、
33a…中間部から遠い方の端部、
33b…中間部に近い方の端部、
34,35…第2深さ表示目盛り、
36…第2幅表示目盛り、
40…中間部、
41,42…突起、
81…舌小帯、
82…舌、
91…上唇小帯、
92…上唇。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7