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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102073
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20230714BHJP
   C21D 9/32 20060101ALI20230714BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20230714BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
H05B6/10 331
C21D9/32 B
C21D1/10 A
C21D1/10 G
C21D1/42 J
C21D1/42 F
C21D1/10 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002419
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】徳永 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕高
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AA16
3K059AB09
3K059AB20
3K059AB28
3K059AC37
3K059AC62
3K059CD48
3K059CD75
4K042AA18
4K042BA03
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC05
4K042DD02
4K042DD04
4K042DE02
4K042DF02
4K042EA01
4K042EA02
(57)【要約】
【課題】大型のワークに対する加熱処理が容易な高周波加熱装置を提供する。
【解決手段】高周波加熱装置1は、多軸ロボット10と、多軸ロボット10のアーム12の第1位置に取り付けられた加熱コイル20及び冷却ジャケット40と、アーム12の第1位置と異なる第2位置に取り付けられた全体が空芯状態でコイル状に巻かれて構成されている空芯トランス30と、加熱コイル20と空芯トランス302との間に設けられ、加熱コイル20と空芯トランス30とを電気的に接続する導電部材30AAと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多軸ロボットと、
前記多軸ロボットのアームの第1位置に取り付けられた加熱コイル及び冷却ジャケットと、
前記アームの第1位置と異なる第2位置に取り付けられた全体が空芯状態でコイル状に巻かれて構成されている空芯トランスと、
前記加熱コイルと前記空芯トランスとの間に設けられ、前記加熱コイルと前記空芯トランスとを電気的に接続する導電部材と、
を備える高周波加熱装置。
【請求項2】
前記加熱コイル及び前記冷却ジャケットの吐出口は、前記多軸ロボットによる前記アームの移動方向に連続して設けられている請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
前記第1位置は前記アームの先端部であり、前記第2位置は前記アームの先端部以外の部分である請求項1又は2に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
プローブと、
前記アームに前記加熱コイル及び前記プローブを選択的に装着する自動工具交換装置と、
をさらに備え、
前記アームに前記プローブを装着し、前記多軸ロボットを駆動することにより、ワークの形状を測定し、
前記アームに前記加熱コイルを装着し、前記ワークの形状の測定結果に基づいて前記多軸ロボットを駆動することにより、前記ワークに熱処理を施す請求項1~3いずれか1つに記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
ワークと前記加熱コイルとのクリアランスを測定するセンサーをさらに備え、
前記クリアランスが一定範囲内になるように、前記多軸ロボットを駆動する請求項1~4のいずれか1つに記載の高周波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークに焼入処理を施す場合には、ワークを加熱して冷却することが必要である。加熱手段として高周波加熱装置を使用する場合がある。ワークが小型である場合には、高周波加熱装置内にワークを装入することにより、ワークを加熱できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-263125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ワークが大型である場合には、高周波加熱装置内にワークを装入できないため、加熱処理が困難である。
【0005】
本発明の実施形態の目的は、大型のワークに対する加熱処理が容易な高周波加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る高周波加熱装置は、多軸ロボットと、前記多軸ロボットのアームの第1位置に取り付けられた加熱コイル及び冷却ジャケットと、前記アームの第1位置と異なる第2位置に取り付けられた全体が空芯状態でコイル状に巻かれて構成されている空芯トランスと、前記加熱コイルと前記空芯トランスとの間に設けられ、前記加熱コイルと前記空芯トランスとを電気的に接続する導電部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、大型のワークに対する加熱処理が容易な高周波加熱装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る高周波加熱装置を示す概念図である。
図2図2は、図1に示す加熱コイル20、空芯トランス30、冷却ジャケット40及びアーム12の先端部13近傍の具体的な態様を示す構成毎の分解概念図である。
図3図3は、図2に示す分解図を一体化させたときの概念図である。
図4図4(a)及び(b)は、第1の実施形態に用いられる空芯トランス30の一例を示す概念図であり、(a)は分解図、(b)は(a)が完成した場合の空芯トランスの等価回路図である。
図5図5は、図4(a)に示す空芯トランス30の分解図を完成させた完成斜視概念図である。
図6図2及び図3における加熱コイル20及び冷却ジャケット40によるワーク200の焼入れ方法を説明する図である。
図7図7は、第1の実施形態の変形例に係る高周波加熱装置を示す概念図である。
図8図8は、第2の実施形態に係る高周波加熱装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る高周波加熱装置を示す概念図である。
本実施形態に係る高周波加熱装置1は、例えば、高周波焼入に用いられる装置である。
【0010】
図1に示すように、高周波加熱装置1(以下、単に「装置1」という)は、床面100上に設置されている。装置1は、ワーク200に対して加熱処理、例えば、焼入処理を施す。ワーク200の種類は特に限定されないが、例えば、搬送が困難な大型のワークであり、例えば、大型のヘリカルギアである。ワーク200は支持台201上に載置されている。支持台201は、ワーク200を自転可能なターンテーブルであってもよい。
【0011】
装置1においては、多軸ロボット10、加熱コイル20、空芯トランス30、冷却ジャケット40、及び、高周波電源装置50が設けられている。多軸ロボット10には、基体部11とアーム12が設けられている。基体部11は床面100に固定されている。アーム12は基体部11から延出しており、基体部11によって制御され、多軸動作が可能である。加熱コイル20は、アーム12の先端部13に取り付けられている。
【0012】
また、空芯トランス30もアーム12の先端部13に取り付けられている。空芯トランス30は加熱コイル20に近接して配置されている。空芯トランス30は加熱コイル20に直接的又は間接的に接続されており、加熱コイル20に対して高周波電流を供給する。空芯トランス30が加熱コイル20に間接的に接続されている場合は、例えば、ブスバーを介して接続されている。
【0013】
更に、冷却ジャケット40もアーム12の先端部13に取り付けられている。すなわち、加熱コイル20、空芯トランス30及び冷却ジャケット40は、同じアーム12の同じ先端部13に取り付けられている。冷却ジャケット40は、外部から供給された冷却液を噴射する。
【0014】
高周波電源装置50は、多軸ロボット10には搭載されておらず、床面100上に配置されている。高周波電源装置50には、ブスバー51が接続されており、ブスバー51にはケーブル52が接続されている。ケーブル52は空芯トランス30に接続されている。ブスバー51は、例えば、銅板が組み合わされて構成されている。ケーブル52は、例えば、水冷ケーブルであってもよい。ケーブル52にはバネ等の補強部材が併設されてもよい。これにより、空芯トランス30の移動に伴ってケーブル52に印加される機械的な負荷を軽減することができる。
【0015】
なお、多軸ロボット10は協働ロボットであることが好ましい。これにより、安全柵等により多軸ロボット10を作業者から隔離する必要がなくなる。この結果、作業者がワーク200に近づいて、ワーク200の焼入処理領域を目視で確認できる。
【0016】
また、装置1にはカメラ(図示せず)が設けられていてもよい。これにより、多軸ロボット10の制御部(図示せず)がカメラを介してワーク200の画像を取得し、加熱コイル20とワーク200との位置関係を認識することができる。この結果、例えば、加熱コイル20とワーク200との距離(クリアランス)を一定に保ったまま、多軸ロボット10を動作させることができる。
【0017】
次に、装置1の動作について説明する。
先ず、装置1をワーク200の近傍に設置する。多軸ロボット10がアーム12を駆動して、加熱コイル20及び冷却ジャケット40をワーク200の焼入予定領域に近接させる。高周波電源装置50は、ブスバー51及びケーブル52を介して、空芯トランス30に高周波電流を供給する。
【0018】
高周波電流の周波数は、例えば、0.3kHz~450kHzとする。空芯トランス30は高周波電流を増幅して、加熱コイル20に供給する。これにより、ワーク200における加熱コイル20に近接した領域が誘導加熱される。冷却ジャケット40は、外部から供給された冷却液をワーク200における加熱された領域に向けて噴射する。
【0019】
この結果、ワーク200の表面の一部が加熱された直後に急冷されて、焼入処理が施される。そして、多軸ロボット10がアーム12を移動させることにより、ワーク200の表面に連続的に焼入処理を施すことができる。このとき、支持台201はワーク200を自転させてもよい。これにより、ワーク200の表面におけるより広い領域に焼入処理を施すことができる。
【0020】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態においては、多軸ロボット10のアーム12の先端部13に加熱コイル20及び冷却ジャケット40を取り付けており、アーム12を駆動することにより、ワーク200に対する加熱コイル20及び冷却ジャケット40の相対的な位置を変化させることができる。これにより、大型のワーク200を動かすことなく、ワーク200に焼入処理を施すことができる。このため、大型のワーク200に対する加熱処理が容易である。
【0021】
更に、装置1においては、変成器として空芯トランス30を用いている。
ここでいう空芯トランスとは、全体が空芯状態でコイル状に巻かれて構成されているトランスのことを言う。すなわち、空芯トランス30には鉄芯が設けられていないため、鉄芯入りのトランスと比較して軽量である。一例では、鉄芯入りのトランスの重量は70~160kg程度であるが、同じ性能の空芯トランスの重量は20~30kg程度である。このため、多軸ロボット10の積載重量を低くすることができ、装置1の小型化及び低コスト化が可能となる。
【0022】
また、鉄心入りのトランスは、入力される高周波電流の周波数が定格周波数よりも低いと磁気飽和が懸念され、定格周波数よりも高いと鉄損による損失が大きくなるため、好適な周波数帯が狭い。これに対して、空芯トランスは磁気飽和しないため、好適な周波数帯が広い。このように、空芯トランスは鉄芯入りのトランスと比較して、より広い周波数帯に対応可能である。このため、空芯トランス30により、ワーク200に適した様々な周波数帯の高周波電流を用いることができる。
【0023】
図2は、図1に示す加熱コイル20、空芯トランス30、冷却ジャケット40及びアーム12の先端部13近傍の具体的な態様を示す構成毎の分解概念図である。図3は、図2に示す分解図を一体化させたときの概念図である。
装置1は、図1から図3に示すように、多軸ロボット10と、多軸ロボット10のアーム12の第1位置(好ましくはアーム12の先端部13)に取り付けられた加熱コイル20及び冷却ジャケット40と、アーム12の第1位置と異なる第2位置(好ましくはアーム12の先端部13以外)に取り付けられた全体が空芯状態でコイル状に巻かれて構成されている空芯トランス30と、加熱コイル20と空芯トランス30との間に設けられ、加熱コイル20と空芯トランス30とを電気的に接続する導電部材30AAと、を備える。
なお、ここでいう導電部材30AAは、例えばケーブル又はブスバーである(以下、本実施形態では、全ての導電部材をケーブルとして説明する)。
【0024】
装置1は、より具体的には、多軸ロボット10のアーム12の第1位置に取り付けられた固定材21と、固定材21の一方の面(例えば、図2及び図3では紙面下部側の面)に第1断熱材24、加熱コイル20、第2断熱材26及び冷却ジャケット40がこの順で図示しない取り付け手段により一体に取り付けられた加熱冷却部20AAと、アーム12の第1位置と異なる第2位置に取り付けられた全体が空芯状態でコイル状に巻かれて構成されている空芯トランス30と、加熱コイル20と空芯トランス30との間に設けられ、加熱コイル20と空芯トランス30とを電気的に接続するケーブル30AAと、を備える。加熱コイル20の長手方向には、コア28が装着されている。
【0025】
固定材21は、図2及び図3に示すように、例えば、平板形状で構成されている。
固定材21の材質は、アーム12の先端部13に取り付けられ、かつ、空芯トランス30、第1断熱材24、加熱コイル20、第2断熱材26及び冷却ジャケット40が一体に取り付けられ、多軸ロボット10のアーム12によりこれらが三次元的に移動可能であれば、特に限定されない。
【0026】
固定材21の材質は、例えば、アングル鋼で構成されている。
第1断熱材24は、図2及び図3に示すように、例えば、平板形状で構成されており、下部に取り付けられた加熱コイル20からの輻射熱が空芯トランス30に伝熱することを抑制する。
第1断熱材24は、例えば、アルミナで構成されている。
加熱コイル20は、図2及び図3に示すように、例えば、屈曲形状で構成され、ケーブル30AA、空芯トランス30、ケーブル52及びブスバー51を介して、高周波電源装置50に接続されている。また、加熱コイル20は、冷却液を適宜循環させる図示しない冷却液循環経路を備えている。
加熱コイル20の材質としては、高周波加熱で一般的に用いられている導電材料を使用することができる。
【0027】
第2断熱材26は、図2に示すように、例えば、平板形状で構成され、上部に取り付けられた加熱コイル20からの輻射熱が冷却ジャケット40に伝熱することを抑制する。
第2断熱材26は、例えば、アルミナで構成されている。
冷却ジャケット40は、図2に示すように、例えば、角錐形状で構成され、下面側の冷却液導入管40aから図示しない内部空間に冷却液(水溶性ポリマーを用いた冷却液を含む)を供給すると共に、当該内部空間に供給された冷却液を側面側の吐出口40bから吐出させてワーク200にあてることで加熱したワーク200を冷却する。
冷却ジャケット40の材質としては、高周波加熱で一般的に用いられている導電材料を使用することができる。
【0028】
図4(a)及び(b)は、第1の実施形態に用いられる空芯トランス30の一例を示す概念図であり、(a)は分解図、(b)は(a)が完成した場合の空芯トランスの等価回路図である。
空芯トランス30は、図4(a)に示すように、導電箔膜31a、31b(例えば、アルミニウム箔)の両端に適切な大きさ及び長さの金属めっき等を施した鉄線や銅線等の端子またはリード線31e、31f、31g及び31hを、例えば、電気溶接等の周知技法で固定する。この導電箔膜31a、31bはポリエチレン、マイラー等の高誘電率、かつ、高絶縁耐圧を有するプラスチックフィルム31c、31dを介して重ね合わせ、巻線機械を用いて空芯状態に密に巻回する。フィルム31c、31dの厚さは、必要とするトランスの巻線間絶縁耐圧により決め、導電箔膜31a、31bの巻回数は必要とするインダクタンスと巻数比により決めることができる。
【0029】
図4(b)に示す図4(a)の空芯トランス30の等価回路図は、端子31e-31g間に一次巻線Wが導電箔膜31aにより形成され、端子31f-31h間に二次巻線Wが導電箔膜31bにより形成される。なお、両巻線W 、W間にはその対向する全長にわたりほぼ一定の分布静電容量Cが不可避的に形成される。
【0030】
図5は、図4(a)に示す空芯トランス30の分解図を完成させた完成斜視概念図である。第1の実施形態に用いられる空芯トランス30は、図5に示すように、導電箔膜31a、絶縁フィルムまたはテープ31c、導電箔膜31b、絶縁フィルムまたはテープ31dをこの順に積層して巻回することにより作製される。空芯トランス30は巻回した状態でそのまま使用するか、もしくは適当な圧力を加えてほぼ楕円形に変形させると共に、端子31e、31f、31g、31hを除き全体を、例えばエポキシ等の樹脂でコーティングして吸湿等による特性劣化を防止した上で使用する。なお、空芯トランス30には鉄芯(磁芯)が無いので押圧変形しやすく、両巻線W、W間の結合を一層密にして漏洩磁束による効率低下を防止するのに有効である。
【0031】
なお、図2及び図3において、また、図4及び図5において、端子31f,31hを含めた(一つにした)ものが図1のケーブル52であったり、図7で説明するケーブル52a、52bであったりする。更に、図4及び図5において、端子31e、31gは、ケーブル30AAを介して加熱コイル20に電気的に接続されている。
【0032】
次に、図6を用いて、本実施形態に係る高周波加熱装置のワーク200に対する焼入方法の一例を説明する。
図6は、図2及び図3における加熱コイル20及び冷却ジャケット40によるワーク200の焼入れ方法を説明する図である。
多軸ロボット10によって、ワーク200(図4中の例では、ヘリカルラック)の側面200Aに対向する位置に加熱コイル20の平面P1及び冷却ジャケット40の側面P2をこの順で移動させる。なお、ワーク200が図6に示すようなヘリカルラックである場合は、外周のギヤの谷(凹部)に合わせて、ギヤの谷(凹部)に沿って、加熱コイル20及び冷却ジャケット40を移動させる。その際、加熱コイル20による高周波誘導加熱と冷却ジャケット40による冷却を例えば同時に行うことで、ワーク200の側面200Aを焼入れする。
なお、図6においては、理解を助けるために、各部の寸法比を実際とは異ならせている。実際には、ワーク200としてのヘリカルラックは、加熱コイル20及び冷却ジャケット40と比べて著しく大きい。
【0033】
上記のように、本実施形態に係る装置1は、加熱コイル20及び冷却ジャケット40と空芯トランス30が、それぞれ多軸ロボット10のアーム12の別の位置に取り付けられている。従って、加熱コイル20及び冷却ジャケット40を保持するアーム部分への荷重集中を低減(当該アーム部分の破損等を抑制)することができる。ましてや大型のワークに対する加熱処理が必要な高周波加熱装置では、加熱コイル20及び冷却ジャケット40も大型化する傾向があるため、当該荷重集中低減は大きい効果となる。
また、加熱コイル20と空芯トランス30は、それぞれアーム12の別の位置に取り付けられているため、加熱コイル20からの輻射熱が空芯トランス30に伝熱するのを抑制することができる。
【0034】
また、空芯トランス30には鉄芯が設けられていないため、鉄芯入りのトランスと比較して軽量である。このため、多軸ロボット10のアーム12に加熱コイル20や冷却ジャケット40を積載してもその重量を低くすることができるため、アーム12による移動負荷を低減することができる。
更に、軽量の空芯トランス30を用いるため、特許文献1に記載されているような高周波トランスを支持する滑車等のバランサーを設ける必要がない。従って、高周波加熱装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
加えて、空芯トランスは磁気飽和しないため、好適な周波数帯が広い。従って、より広い周波数帯に対応可能である。このため、空芯トランス30により、ワーク200に適した様々な周波数帯の高周波電流を用いることができる。
以上から、本発明の実施形態によれば、大型のワークに対する加熱処理が容易な高周波加熱装置を実現することができる。
【0035】
加熱コイル20及び冷却ジャケット40の吐出口40bは、多軸ロボット10によるアーム12の移動方向に連続して設けられていることが好ましい。
具体的には、加熱コイル20及び冷却ジャケット40の吐出口40bは、図2及び図3に示すように、多軸ロボット10によるアーム12の移動方向に、加熱コイル20の表面20a及び冷却ジャケット40の吐出口40bが連続して設けられていることが好ましい。アーム12の移動方向とは、例えば、ワーク200の焼入予定領域に沿って先端部13が移動する方向である。
このような構成とすることで、多軸ロボット10のアーム12による移動の際、各々の移動方向で連続して、焼入処理(加熱された直後に急冷)を施すことができるため好ましい。
【0036】
<第1の実施形態の変形例>
図7は、本変形例に係る高周波加熱装置を示す概念図である。
本変形例に係る高周波加熱装置1b(装置1b)も、例えば、高周波焼入装置である。
【0037】
図7に示すように、装置1bにおいては、1台の高周波電源装置50及び1組のブスバー51に対して、複数台の多軸ロボットが設けられている。それぞれの多軸ロボットのアームの先端部には、第1の実施形態と同様に、加熱コイル、空芯トランス及び冷却ジャケットが搭載されている。
【0038】
図7に示す例では、1台の高周波電源装置50に対して2台の多軸ロボット10a及び10bが設けられている。多軸ロボット10aにおいては、基体部11aからアーム12aが延出し、アーム12aの先端部13aに加熱コイル20a、空芯トランス30a及び冷却ジャケット40aが設けられている。空芯トランス30aには、高周波電源装置50からブスバー51及びケーブル52aを介して、高周波電流が供給される。多軸ロボット10aは、ワーク200aに対して焼入処理を施す。同様に、多軸ロボット10bにおいては、基体部11bからアーム12bが延出し、アーム12bの先端部13bに加熱コイル20b、空芯トランス30b及び冷却ジャケット40bが設けられている。空芯トランス30bには、高周波電源装置50からブスバー51及びケーブル52bを介して、高周波電流が供給される。多軸ロボット10bは、ワーク200bに対して焼入処理を施す。
【0039】
ワーク200a及び200bの種類は特に限定されない。例えば、ワーク200a及び200bは別個のヘリカルギアであってもよく、1つのヘリカルギアの別の部分であってもよい。例えば、大型のヘリカルギアを挟む位置に、多軸ロボット10a及び10bが配置されていてもよい。又は、ワーク200a及び200bのうちの少なくとも一方は、ヘリカルギア以外の部品であってもよい。
【0040】
また、装置1bには、ブスバー51からケーブル52a及び52bに至る電流経路の途中に、スイッチ53が設けられている。スイッチ53を切り替えることにより、高周波電源装置50から出力された電流を、ブスバー51を介してケーブル52aのみに流すが、ブスバー51を介してケーブル52bのみに流すか、ブスバー51を介してケーブル52a及び52bの双方に流すかを、適宜選択することができる。なお、スイッチ53は設けられていなくてもよい。この場合は、ケーブル52a及び52bはブスバー51に固定的に接続される。
【0041】
次に、装置1bの動作について説明する。
装置1bにおいては、加熱コイル20a及び冷却ジャケット40aがワーク200aに対して焼入処理を施すのと同時に、加熱コイル20b及び冷却ジャケット40bがワーク200bに対して焼入処理を施してもよい。又は、加熱コイル20aがワーク200aを加熱している間に、冷却ジャケット40bがワーク200bを冷却し、加熱コイル20bがワーク200bを加熱している間に、冷却ジャケット40aがワーク200aを冷却してもよい。
【0042】
又は、加熱コイル20a及び冷却ジャケット40aがワーク200aに対して焼入処理を施している間は、加熱コイル20b及び冷却ジャケット40bを停止させ、加熱コイル20b及び冷却ジャケット40bがワーク200bに対して焼入処理を施している間は、加熱コイル20a及び冷却ジャケット40aを停止させてもよい。このように、一方のワークに対して焼入処理を施している間に、他方のワークに対する焼入処理を停止し、その間に、ワークを自転させるか多軸ロボットを移動させて、他方のワークと多軸ロボットとの位置関係を変更してもよい。
【0043】
次に、本変形例の効果について説明する。
本変形例においては、1台の高周波電源装置50が加熱コイル20a及び20bに対して電流を供給する。これにより、ワーク200a及び200bに対して焼入処理を連続して施すことができる。このため、装置1bは製品の生産性が高い。
【0044】
なお、図7においては、1台の高周波電源装置50に対して2台の多軸ロボット10a及び10bを設ける例を示したが、本発明はこれには限定されず、1台の高周波電源装置50に対して3台以上の多軸ロボットを設けてもよい。
本変形例における上記以外の構成、動作及び効果は、第1の実施形態と同様である。
【0045】
なお、上述の変形例においては、高周波電源装置50を1台のみ設ける例を示したが、高周波電源装置50は複数台設けてもよい。例えば、n台(nは2以上の整数)の高周波電源装置50に対してm台(mはn以上の整数)の多軸ロボット10を設けて、高周波電源装置50とこの高周波電源装置50が電流を供給する空芯トランス30との組み合わせを適宜切り替えてもよい。これにより、高周波加熱装置の柔軟な運用が可能となる。
【0046】
<第2の実施形態>
図8は、本実施形態に係る高周波加熱装置を示す概念図である。
図8に示すように、本実施形態に係る高周波加熱装置3(装置3)においては、第1の実施形態に係る装置1の構成に加えて、自動工具交換装置(Automatic Tool Changer:ATC)70、プローブ76及びセンサー79が設けられている。なお、図8においては、高周波電源装置50、ブスバー51及びケーブル52は、図示を省略している。
【0047】
自動工具交換装置70は、多軸ロボット10のアーム12に加熱コイル20及びプローブ76を選択的に装着するものである。自動工具交換装置70は、例えば、マガジン式ATCである。自動工具交換装置70においては、ツールマガジン71及びチェンジャーアーム72が設けられている。
【0048】
ツールマガジン71は、多軸ロボット10から独立して設置されており、加熱コイル20及びプローブ76を保持可能である。チェンジャーアーム72は多軸ロボット10のアーム12の先端部13に設けられている。チェンジャーアーム72は、ツールマガジン71から加熱コイル20又はプローブ76を選択的に取り出し、保持できる。すなわち、アーム12は、ツールマガジン71に保持された加熱コイル20及びプローブ76のうち、いずれか1つをチェンジャーアーム72を介して保持することができる。
【0049】
但し、自動工具交換装置70の構成はこれには限定されず、例えば、アーム12の先端部13のみに設けられていてもよい。この場合、自動工具交換装置70は加熱コイル20及びプローブ76の双方を保持し、自動工具交換装置70が回転することにより、加熱コイル20及びプローブ76のうちいずれか一方をワーク200に向けてもよい。
【0050】
センサー79は、ワーク200と加熱コイル20とのクリアランスを測定する。センサー79は、例えば、アーム12に取り付けられている。センサー79は、例えば、ワーク200に接触し、接触時の力を測定する力覚センサー、ワーク200に対して接触せずにワーク200との距離を測定する距離センサー、又は、ワーク200と加熱コイル20の画像を取得してクリアランスを評価する画像センサー等である。
【0051】
次に、装置3の動作について説明する。
初期状態において、ツールマガジン71には、加熱コイル20及びプローブ76が保持されている。多軸ロボット10はアーム12を駆動して、ツールマガジン71に保持されていたプローブ76をチェンジャーアーム72を介して装着する。次に、支持台201によりワーク200を自転させながら、アーム12を駆動することにより、プローブ76の先端部をワーク200の表面に沿って移動させる。これにより、ワーク200の形状を測定し、測定結果を記憶する。
【0052】
なお、ワーク200の形状の概略を示すデータがある場合には、予め多軸ロボット10の制御部に入力しておき、プローブ76の大まかな軌跡を設定しておくことが好ましい。これにより、ワーク200の形状を効率的に精度良く計測することができる。例えば、ワーク200がヘリカルギアである場合には、ワーク200の形状の概略を示すデータは例えばヘリカルギアの諸元であり、例えば、歯先円直径、歯底円直径、モジュール(ピッチ円直径/歯数)、歯数、ピッチ円直径、ねじれ角、圧力角、歯幅、歯車の種類等である。
【0053】
次に、アーム12を駆動させて、チェンジャーアーム72に保持されていたプローブ76をツールマガジン71に戻し、ツールマガジン71に保持されていた加熱コイル20をチェンジャーアーム72を介して装着する。そして、高周波電源装置50が空芯トランス30を介して加熱コイル20に高周波電流を供給する。
【0054】
この状態で、ワーク200の形状の測定結果に基づいてアーム12を駆動することにより、加熱コイル20をワーク200の表面に沿って移動させる。このとき、センサー79がワーク200と加熱コイル20とのクリアランスを測定し、クリアランスが一定範囲内になるように、多軸ロボット10の動作を制御する。これにより、ワーク200に対して加熱処理を施す。
【0055】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態によれば、プローブ76を用いて予めワーク200の形状を測定することにより、ワーク200の形状が複雑であっても、自動的に加熱処理を施すことができる。また、センサー79がワーク200と加熱コイル20とのクリアランスを測定し、クリアランスが一定範囲内になるように多軸ロボット10を制御することにより、より精度が高い加熱処理が可能となる。なお、プローブ76によるワーク200の形状測定の精度が十分に高い場合には、センサー79は設けなくてもよい。
【0056】
本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、第1の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0057】
1、1b、3:高周波加熱装置
10、10a、10b:多軸ロボット
11、11a、11b:基体部
12、12a、12b:アーム
13、13a、13b:先端部
20、20a、20b:加熱コイル
21:固定材
24:第1断熱材
26:第2断熱材
30、30a、30b:空芯トランス
30AA:導電部材(ケーブル)
40、40a、40b:冷却ジャケット
50:高周波電源装置
51:ブスバー
52、52a、52b:ケーブル
53:スイッチ
70:自動工具交換装置(ATC)
71:ツールマガジン
72:チェンジャーアーム
76:プローブ
79:センサー
100:床面
200、200a、200b:ワーク
201、201a、201b:支持台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8