(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102081
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】偏光回折素子および偏光解析装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20230714BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002431
(22)【出願日】2022-01-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和3年2月26日(抄録公開日1月27日) ウェブサイトのアドレス 講演予稿:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2021s/static/extendedabstracts 抄録:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2021s/subject/16p-Z08-3/classlist 〔刊行物等〕 開催日:令和3年3月16日 集会名:第68回応用物理学会春季学術講演会 〔刊行物等〕 掲載日:令和3年3月10日 ウェブサイトのアドレス:https://www.odf20.tw/site/page.aspx?pid=901&sid=1278&lang=en 〔刊行物等〕 開催日:令和3年6月2日 集会名:12th International Conference on Optics-photonics Design & Fabrication(略称ODF’20)(光学・光工学設計・製造に関する第12回国際会議) 〔刊行物等〕 論文公開日:令和3年11月1日 収録論文:OSA Continuum,Vol.4,No.11,2796-2804 〔刊行物等〕 掲載日:令和3年12月15日 ウェブサイトのアドレス:http://sensait.jp/19264
(71)【出願人】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】江本 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀成
(72)【発明者】
【氏名】古荘 信義
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
【Fターム(参考)】
2H149AB01
2H149AB26
2H149BA01
2H149FA23W
2H149FA58W
2H149FB08
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA43
2H249AA50
2H249AA55
2H249AA61
2H249AA68
(57)【要約】
【課題】短時間に測定される回折像から、偏光の軌跡を正確に決定し得る偏光回折素子および偏光解析装置を提供する。
【解決手段】
平面内における一点からの放射方向において、光学的異方性が周期的に変調する偏光回折格子としての特性を有する構造を有し、前記偏光回折格子の格子ベクトルの方向が前記一点を中心に、90~360°の所定の角度範囲で連続的に変化する、偏光回折素子、および、この偏光回折素子を備える偏光解析装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面内における一点からの放射方向において、光学的異方性が周期的に変調する偏光回折格子としての特性を有する構造を有し、
前記偏光回折格子の格子ベクトルの方向が前記一点を中心に、90~360°の所定の角度範囲で連続的に変化することを特徴とする、
偏光回折素子。
【請求項2】
光学的異方性を有する環状または円弧状の複数の領域と、
光学的等方性を有する環状または円弧状の複数の領域が、
前記一点を中心として同心状に交互に配置されている、
請求項1に記載の偏光回折素子。
【請求項3】
感光性を有する液晶性高分子を含む材料からなるフィルムを含み、前記液晶性高分子が所定方向に配向する領域と、前記液晶性高分子がランダムに配向する領域が交互に配置されている、
請求項1または2に記載の偏光回折素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の偏光回折素子と、前記偏光回折素子に平行な受光面を有する受光素子とを備え、前記受光面は、前記偏光回折素子の法線方向において、前記偏光回折素子から所定距離だけ離れた位置に配置されていることを特徴とする偏光解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光回折素子および、この偏光回折素子を備える偏光解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現代において光の電場の振動様式である偏光状態の測定は重要な技術である。例えば、光学的異方性を有する物質に入射した偏光は、光波の振動方向により位相のずれを生じ、透過光や反射光は、通常楕円偏光となるので(円偏光、直線偏光は楕円偏光の特殊な形態と見ることが出来る)、光を利用して物質の特性(膜厚や光学定数など)を分析する場合、楕円偏光の状態を正確に特定することが必要となる。また偏光は、光通信、光学記憶媒体、画像ディスプレイ、光圧の応用等の多様な分野で利用されており、偏光の状態を正確に解析する手段が求められている。
【0003】
従来、偏光の解析では、特定の振動方向の光のみを透過する検光子を回転させ、各回転角における透過光の強度から楕円偏光の軌道が測定されている。例えば、エリプソメトリーでは、直線偏光に変換した光をフィルム状の試料に照射し、回転検光子を透過した反射光を受光して偏光状態を解析し、膜厚や光学定数などの物性測定を行っている。
【0004】
偏光を複数の振動方向で同時に検出する手段も検討されている。例えば、特許文献1(特開2007-263593号公報)は、透過偏光の方向が領域ごとに異なるようにパタ-ン化された偏光子と、各領域を通過した光の強度を独立に受光できる受光素子とを具備し、フィルム状の試料を透過した光の位相差および主軸方位を測定し得る装置を記載している。
【0005】
特許文献2(特許第5109112号明細書)は、分子配向構造を周期的に変調させることにより回折格子を形成した高分子の重合層において、複数の異なる方向の格子ベクトルを有する構成とすることにより、入射光の楕円偏光の方位角と楕円率を決定する偏光解析システムを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-263593号公報
【特許文献2】特許第5109112号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
楕円偏光の解析に回転検光子を利用する従来のシステムでは、装置構成を小型化することは難しく、また高価な光学素子を使用するため、コストの抑制も難しい。さらに、偏光状態の解析に一定の時間を要するため、動的に変化する偏光の解析には適さない。
【0008】
特許文献1は、パターン化された偏光子を使用し、基板またはフィルム状の試料を透過した光を測定しているが、装置構成上、試料には一定の面積が必要となる。また、測定値から楕円の軌跡を推定して位相差と主軸を求めることができるが、楕円の軌跡を直接測定することができない。
【0009】
特許文献2では、偏光の干渉露光により、分子の配向方向が一定で、配向秩序が周期的に変調された回折格子と、分子の配向方向が周期的に変調された回折格子を利用し、回折格子に入射する偏光の方位角と楕円率を測定し得ることを記載している。その際、多重露光により、方位の異なる複数の格子ベクトルを有する回折格子を形成し、回転検光子を利用した場合と同様に楕円の軌跡を決定しうることを示している。しかし、特許文献2の回折格子を形成するためには、製造時に複雑な露光光学系を使用する必要がある。また、特許文献2の作製方法では、複数の格子ベクトルを面内で高精度且つ高密度に多重化させることは難しい。さらに、楕円偏光の軌跡上の複数の点から軌跡を決定する場合には、測定値に誤差があれば、正確な軌跡を描くことができない。
【0010】
なお、測定される光が一定の幅の波長分布を有する場合には、偏光状態を波長ごとに決定し得ることが望ましい。
【0011】
本発明は、簡便な方法で製造でき、短時間の測定で偏光の軌跡を正確に測定できる、偏光回折素子、およびこの素子を備えた装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の構成は、平面内における一点からの放射方向において、光学的異方性が周期的に変調する偏光回折格子としての特性を有する構造を有し、
前記偏光回折格子の格子ベクトルの方向が前記一点を中心に、90~360°の所定の角度範囲で連続的に変化することを特徴とする、
偏光回折素子である。
【0013】
上記の偏光回折素子を用いれば、環状または円弧状の回折光が得られ、これを用いて楕円偏光の形状を正確に解析することができる。
【0014】
上記の偏光回折素子は、
光学的異方性を有する環状または円弧状の複数の領域と、
光学的等方性を有する環状または円弧状の複数の領域が、
前記一点を中心として同心状に交互に配置されている、
偏光回折素子であってもよい。
【0015】
上記の偏光回折素子は、
感光性を有する液晶性高分子を含む材料(液晶性高分子材料)からなるフィルムを含み、前記液晶性高分子が所定方向に配向する領域と、前記液晶性高分子がランダムに配向する領域が交互に配置されている、
偏光回折素子であってもよい。
【0016】
感光性を有する液晶性高分子の配向性を制御することにより、簡単な方法で、簡便な構成の偏光回折素子を提供することができる。
【0017】
本発明の第2の構成は、上記の偏光回折素子と、前記偏光回折素子に平行な受光面を有する受光素子とを備え、前記受光面は、前記偏光回折素子の法線方向において、前記偏光回折素子から所定距離だけ離れた位置に配置されている偏光解析装置である。
【0018】
この偏光解析装置によれば、一回の撮像で、偏光回折素子に入射する偏光の状態を波長ごとに測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一回に撮像される回折像から偏光の状態を正確に解析でき、解析効率を向上できるとともに、偏光状態の経時的変化も観測でき、また解析装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解される。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきでない。この発明の範囲は添付のクレームによって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
【
図1】本発明の一実施形態に係る偏光回折素子の構成を模式的に示す平面図である。
【
図2A】液晶性高分子の配向性が1次元方向で周期的に変調する回折格子を示す模式図である。
【
図2B】
図2Aの回折格子における、屈折率の周期的変調を示す図である。
【
図3】
図2Aの回折格子による1次回折光を示す模式図である。
【
図4】
図2Aの回折格子における、回折効率の厚み依存性を示すグラフである。
【
図5】
図2Aの回折格子において、1次回折光の回折効率の、電界の振動方向と格子ベクトルのなす角度に応じた変化が、回折格子の厚みに応じて異なることを示すグラフである。
【
図6A】本発明の一実施形態に係る偏光回折素子の構成を模式的に示す平面図である。
【
図6B】
図6Bの偏光回折素子により生じる、環状の1次回折光を模式的に示す図である。
【
図7A】
図6Aとは異なる実施形態に係る偏光回折素子の構成を模式的に示す平面図である。
【
図7B】さらに別の実施形態に係る偏光回折素子の構成を模式的に示す平面図である。
【
図7C】さらに別の実施形態に係る偏光回折素子の構成を模式的に示す平面図である。
【
図8A】
図1に示す偏光回折素子の変形例として、円の分割体状の偏光回折素子を示す平面図である。
【
図8B】別の変形例として、半円形の偏光回折素子を示す平面図である。
【
図8C】さらに別の変形例として、扇形の偏光回折素子を示す平面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る偏光解析装置の構成を示す図である。
【
図10A】従来技術におけるエリプソメーターの光学系の構成を示す図である。
【
図10B】本発明の偏光解析装置を含むエリプソメーターの光学系の構成を示す図である。
【
図11A】実施例で作製した偏光回折素子の、偏光顕微鏡によるクロスニコル像である。
【
図11B】参照用に、
図11Aの偏光回折素子より、変調周期を大きくして作製した素子の、偏光顕微鏡によるクロスニコル像である。
【
図12】偏光回折素子の性能を検査するために用いた光学系の構成を示す図である。
【
図13】実施例の偏光回折素子による、(A)直線偏光、(B)楕円偏光、(C)円偏光の回折像を示す図である。
【
図14】
図13に示す回折像から得られる、方位角に対する回折光強度分布を示す図である。
【
図15A】LEDを光源とする偏光の回折像である。
【
図15B】
図15Aの回折像から得られる、方位角に対する回折光強度の分布を示すグラフである。
【
図16】偏光の波長による回折光強度分布の変化を示すグラフである。
【
図17】本発明の偏光解析装置を用いて表示される、偏光方位角に対する回折強度分布を波長で分散して3次元的に表示した俯瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[偏光回折素子]
本発明の偏光回折素子は、平面内における一点(放射中心)からの放射方向において、光学的異方性が周期的に変調する偏光回折格子としての特性を有する構造を有し、前記偏光回折格子の格子ベクトルの方向が前記一点を中心に、好ましくは90~360°の、所定の角度範囲で連続的に変化する、偏光回折素子である。
【0022】
この偏光回折素子は、光学的異方性を有する環状または円弧状の複数の領域と、光学的等方性を有する環状または円弧状の複数の領域が、前記一点を中心として同心状に交互に配置されている、偏光回折素子であってもよい。
【0023】
図1は、本発明の偏光回折素子1の構成を模式的に説明するための概略平面図である。図示される例では、偏光回折素子1は、1点Oを中心に、光学的異方性の異なる第1の領域Iと、第2の領域IIが、同心円状に交互に配置されている。例えば、第1の領域Iが光学的等方性を示し、第2の領域IIが光学的異方性を示すものであってもよい。点Oを通る直線上では、光学的異方性が周期的に変調する回折格子として機能し、その格子ベクトルkは、任意の回転角(図では、x軸方向からの回転角θで示す)の方向にとることができる。
【0024】
上記のような偏光回折素子1は、フィルム状または板状の部材において、表面上の一点Oを通る法線に対し、軸対称の光学構造を有するものであってもよい。このような光学素子は、例えば、感光性(光反応性)を有する液晶性高分子の配向性を制御することにより、容易に得ることができる。
【0025】
図2Aは、一つの格子ベクトルkの方向で、液晶性高分子の配向性の周期的変調により形成される回折格子を説明するための模式図である。図では、液晶性高分子Lが格子ベクトルkの方向に略平行に配向した配向領域Aと、液晶性高分子Lがランダムに配向したランダム領域Rが交互に、縞状に配列している。このような回折格子では、屈折率nは、
図2Bに示すように、矩形状に変調する。この回折格子に、法線方向(
図2Aのz方向)からレーザ光を入射させると、
図3に模式的に示すように、0次光の両側に液晶性高分子の配向周期に依存した正負の1次光回折光(以下、1次光という場合がある)を生じる。
【0026】
この回折格子に偏光を入射した際の、偏光方向や、回折格子の厚みに依存する回折効率の変化は、以下のように計算することができる。
【0027】
図2Aにおいて、一つの配向領域Aと一つのランダム領域Rをあわせた幅Λ(格子ベクトルkの基本ベクトル長)を一周期πとすると、
図2Aにおける格子ベクトルk方向(x軸方向)の任意の位置xは、
図2Bに示す座標では、δ=πx/Λとなる。
【0028】
図でx軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をnyとすると、ランダム配向領域Rでは、
nx = ny≡ naveとなる。
一方で、分子の配向方向がx軸方向に平行になるように配向した一軸配向領域Aでは、
nx > nave > nyとなる。
【0029】
この回折格子に光が入射することによって生じる1次光は、この矩形状格子(回折格子)の位相変調をフーリエ展開した際の第1空間周波数成分に対応しており、解析的には第1種ベッセル関数を用いて計算することができる。x軸方向の直線偏光(p偏光)が入射した場合に生じる正負の1次光の回折効率は、その位相差ΔΦ
xを
ΔΦ
x= k d Δn
xcos(δ)
として、
η
p= J
1
2(ΔΦ
x)
で表される。ここで、kは波数であり、入射光の波長λとの間にk = 2π/λなる関係にある。また、dは格子の厚さである。また、Δn
xは、矩形状の屈折率変調をフーリエ展開した際の第1空間周波数成分の振幅(または屈折率変化量)に相当する。同様に、y軸方向の直線偏光(s偏光)が入射した際に生じる正負1次光の回折効率は、その位相差ΔΦ
yを
ΔΦ
x= k d Δn
ycos(δ)
として、
η
s= J
1
2(ΔΦ
y)
で表される。尚、
図2Bに示す屈折率の周期的変調の関係から、Δn
xとΔn
yは互いに異符号となる。
【0030】
図4は、回折格子について、複屈折Δn (Δn
xとΔn
yの差)を0.16、波長を633nm、としたとき、入射光がp偏光およびs偏光の場合について上記のベッセル関数で計算される、回折効率の格子厚さdに対する依存性を示す図である。このように、周期的な配向分布を持つ回折格子における正負1次光の回折格子効率は、格子の厚さdが変化することで、s偏光入射時の方が高くなる場合と、p偏光入射時の方が高くなる場合がある。
【0031】
図5は、上記の回折特性に基づく、1次回折光の回折効率を示す図である。格子の厚さd
1が=0.5μmの場合には入射光の直線偏光の方位角が±90°の方向(x軸方向)の時に回折光強度が最大となり、0°方向(y軸方向)の時に最小となる。即ち、格子ベクトルkと偏光方向を示す電界ベクトルEがE//kの関係にある時、回折光強度が最大となる。また、格子の厚さd
2が、2.8μmの場合には入射光の直線偏光の方位角が0°方向(y軸方向)の時に回折光強度が最大となり、±90°方向(x軸方向)の時に最小となる。即ち、格子ベクトルkと電界ベクトルEがE⊥kの関係にある時、回折光強度が最大となる。また、両者の中間の角度では、緩やかな分布を取っていることが分かる。
【0032】
図6Aは、本発明の一実施形態に係る偏光回折素子1の構成を説明するための模式図である。この偏光回折素子1では、液晶性高分子Lがランダムに配向した領域Rと、放射方向(半径方向)に配向した領域Aとが、中心点Oの周りに同心円状に交互に配置されている。図では、簡略化しているが、実際には、液晶性高分子Lは各領域R,Oで稠密に分布しており、各領域の幅は狭い。そのため、中心点Oを通る直線上の任意の方向(図には、格子ベクトルk
1,k
2,k
3を例示する)で見ると、ランダム領域Rと配向領域Aが、交互に分布する回折格子としての機能を有し、その回折特性は、周方向の幅が微視的な領域で見れば、上で記載した縞状の回折格子(
図2A)と同様に説明できる。
【0033】
図6Bは、上記の偏光回折素子にレーザ光を入射させた場合の回折像を模式的に示す図である。この偏光回折素子1では、格子ベクトルkの方向が中心点Oからの放射方向、つまり点Oを中心とする円の半径方向となり、連続的に変化するので、各格子ベクトル方向(例えば、
図6Aに示すベクトルk
1,k
2,k
3の方向)における回折格子により形成される1次回折光の位置も回転方向に沿って連続的に変化し、1次回折光は、環状の回折光として観察される。
【0034】
偏光回折素子1に法線方向(
図6Aでは直上:z方向)から偏光を入射する場合、
図2Aで示したように、1次元方向に光学特性の周期的変調を示す回折格子では、偏光の振動方向が、格子ベクトルkに対し、平行または垂直の場合のみ、回折光強度が最大または最小となる。中間の強度では、偏光の振動方向が格子ベクトルkに対し傾いていることがわかっても、傾斜角の正負は判別できない。これに対し、
図6Aに示す偏光回折素子1では、図でk
1,k
2,k
3と例示するように、任意の方向に格子ベクトルをとることができるので、偏光の振動方向は、偏光回折素子1のいずれかの格子ベクトルに対し、平行または垂直となる。したがって、回折像(
図6B参照)において、いずれの回転角θの方向で、最大輝度が観測されるかを見ることにより、偏光の方位を特定することができる。
【0035】
[偏光回折素子の製造方法]
上記に説明した偏光回折素子1は、例えば、光反応性(光架橋性)の側鎖を有する液晶性高分子を用いることにより、簡便な製法で製造することができる。製法としては、まず、光反応性の液晶性高分子を含む材料を溶媒に溶解し、その溶液を透明基板に塗布・乾燥してフィルムを形成する。このフィルムに直線偏光性紫外線を照射すると、紫外光の偏光方向と平行な方向に軸選択的な光架橋を生じる。ついで、フィルムを固相から液晶相への転移温度でアニールすると、液晶性高分子の側鎖が架橋部分と平行に配向し、液晶性高分子を紫外光の偏光方向と平行に配列させることができる。
【0036】
図6Aに示す回折素子1を製造する場合、直線偏光性紫外線をラジアル偏光板(ラジアル偏光変換素子)により、ラジアル偏光に変換してフィルムに照射する。その際、同心円状のライン-スペースパターン(リング-スペースパターン)が形成されたマスクをフィルムとラジアル偏光板の間に配置し、上述の露光・アニール処理を経ることにより、マスクされた部分では液晶性高分子がランダムに配向し、紫外線を照射された部分では液晶性高分子が放射方向に配向した偏光回折素子1を得ることができる。
【0037】
上記の偏光回折素子1では、高分子材料の液晶性を利用して、高度に配向した状態を形成でき、大きな光学的異方性を発現することができる。さらに光反応による架橋構造を取ることによって光学素子として応用する際に必要な耐熱性を確保することが可能となる。
【0038】
[光反応性液晶高分子材料]
本発明の偏光回折素子の製造に使用される液晶性高分子材料(液晶性高分子を含む材料)は、特に限定されないが、例えば、光反応性基を有し、それらが少なくとも1つの水素結合部位により、2量体を形成する側鎖と、光反応性基を有さず、少なくとも1つの水素結合部位により、2量体を形成する側鎖とを含有する液晶性高分子を含む材料を使用してもよい。一例として、液晶性高分子材料は、下記の化学式1で示される側鎖を少なくとも1種と、下記の化学式2で示される側鎖を少なくとも1種含有する高分子からなる材料であってもよい。
【0039】
【化1】
ここでm=0,1、n=1~3、c=0,1、X=なし,O,CH2,N=N,C=C,C≡C,COO,OCO、R
1,R
2はそれぞれHないしはアルキル基,アルキルオキシ基,ハロゲンを示す。
【化2】
ここでp=0,1、d=0,1、Y=なし,O,CH2,N=N,C=C,C≡C,COO,OCO、R
3,R
4はそれぞれHないしはアルキル基,アルキルオキシ基,ハロゲンを示す。
【0040】
化学式1で示される構造を有する側鎖は、側鎖末端に光反応性のカルボキシル基を有する液晶性高分子である。この光反応性高分子は、側鎖末端のカルボキシル基の水素結合による2量化により、従来技術の材料のようなメソゲン基を構造に含まなくとも液晶相を発現する構造を有している。化学式2で示される構造を有する側鎖が好適に用いられ、この側鎖も側鎖末端にカルボキシル基を有し、側鎖末端のカルボキシル基の水素結合による2量化により液晶相を発現する構造を有する。
【0041】
光反応性の液晶性高分子材料は、上記の光反応性側鎖と、非光反応性側鎖の共重合体であってもよく、それぞれの重合体の混合物であってもよい。光反応性側鎖と、非光反応性側鎖は、例えば9:1~1:9のモル比で含まれていてもよい。また、液晶性を損なわない範囲で、耐熱性を向上させるための架橋剤を含んでもよく、非液晶性の単量体と共重合していてもよい。
【0042】
上記の光反応性の液晶性高分子材料を適切な溶媒(例えば1,4-ジオキサン)に溶解して透明基板に塗布、乾燥したのち、上記の方法で偏光紫外線を照射し、次いで110~140℃でアニールしたのち、冷却することにより、本発明の偏光回折素子を製造することができる。
【0043】
なお、本発明で使用される光反応性の液晶性高分子材料は、上記の例に限定はされず、例えば、側鎖に光架橋性のメソゲンを有する液晶性高分子を使用してもよい。光反応性高分子液晶を溶解する溶媒、濃度および溶解方法は特に限定されず、用いる基板や乾燥時間などによって適宜選択される。溶液を均一に塗布する方法としては、スピンコート法、グラビアコート法、コンマコート法などが考えられるが、特に限定されるものではなく、必要とされる面積、基板形状、精度などによって適宜選択される。基板は透明基板であれば特に限定されるものではないが、機能性高分子層の機能を最大限引き出すために、固有複屈折率の小さい透明基板材料が好ましい。このような性質を有する透明基板材料としては、各種ガラス、石英、などの無機材料、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ノルボルネン系高分子、セルロース系高分子、ポリエステル系高分子、などの有機材料を例示できる。基板の形態は特に限定するものではなく、板状、フィルム状などを用途によって適宜選択できる。
【0044】
[偏光回折素子の変形例]
上記の説明では、液晶高分子Lが放射方向に配向した配向領域Aと、ランダムに配向したランダム領域Rとが周期的に変調した偏光回折素子1について説明したが、本発明はこれに限定されず、種々の構成で光学特性が変調するものを用いることができる。
例えば、
図7Aは、液晶高分子の配向性の周期的変調を利用した偏光回折素子1の変形例であるが、配向領域Aでは、液晶高分子が、半径に直交する方向に配向し、全体的に見ると、ほぼ円周方向(厳密には、円の接線方向)に沿って配向している。このような偏光回折素子1は、上記に説明した製造方法においてフィルムに紫外線を露光する際、直線偏光を偏光変換素子でアジマス偏光に変換し、マスクを介して露光することにより形成できる。
【0045】
図7B、7Cは、偏光回折素子1の別の実施形態を示す概略図である。この例では、光学的等方体からなるフィルムまたはプレートに放射方向(
図7B)または周方向(
図7C)の溝を彫ることにより、偏光回折素子1を形成している。なお、実際には、レーザ加工、またはナノインプリントプロセスなどにより、構造性複屈折を発現するサブ波長周期の微細な溝間隔で溝を設ければよい。
【0046】
図8A、8B、8Cは、偏光回折素子1の別の実施形態を模式的に説明するための概略平面図である。
図1、
図6Aや
図7A~Cに示す偏光回折素子1では、各領域は円環状に形成されているが、必要に応じ、偏光回折素子1は、円の分割体(例えば、扇型、半円形など)の形状をとってもよい。格子ベクトルkが90°以上の方位角の範囲で連続的に分布していれば、回折素子1に入射する偏光の回折強度分布から偏光の方位角を決定することができる。
【0047】
上記本発明の偏光回折素子1において、放射方向の格子ベクトルkの基本ベクトル長(図で示す幅Λ)は、使用する光の波長に応じ適宜決定されるが、例えば1~100μmとすればよい。偏光回折素子1の半径は特に限定されないが、2~10mmでもよい。偏光回折素子1の厚みdは、(透明基板の厚みを除き)0.1~10μmでもよい。
【0048】
[光学装置]
本発明の光学装置は、上記本発明の偏光回折素子を光学系に備えるものである。一例として、本発明の偏光解析装置は、本発明の偏光回折素子と、前記偏光回折素子に平行な受光面を有する受光素子とを備え、前記受光面は、前記偏光回折素子の法線方向において、前記偏光回折素子から所定距離だけ離れた位置に配置されている装置である。例えば、
図9に示すように、この偏光解析装置100は、偏光回折素子1と、受光素子2と、偏光回折素子1で形成される回折光を受光素子2の受光面に結像するレンズ3と、受光素子2が受光した回折光の強度分布を解析し、必要に応じ表示する、処理装置4を備えていてもよい。
【0049】
この偏光解析装置100によれば、受光素子2が受光した回折光の強度分布から、偏光の状態を正確に決定することができる。この強度分布は、一回の撮像で得られるので、偏光の状態が経時的に変化する場合においても、その状態の変化を経時的に観測することができる。また、偏光が多波長の光からなる場合(偏光が一定幅の波長分布を有する場合)においても、必要に応じ、波長ごとに偏光の状態を解析することができる。
【0050】
この偏光解析装置100は、各種の用途に応用できる。例えば、
図10Aは、従来技術で用いられているエリプソメーター200の光学系を示す概略側面図である。この装置では、光源からの光を偏光子6で偏光に変換して基台7上の薄膜試料8に照射し、回転検光子9を通した反射光を受光素子2で受光して処理装置4で偏光状態を解析し、屈折率と厚みの推定に用いるエリプソパラメータを導出するものである。これに対し、
図10Bに示すように、薄膜試料8からの反射光を、本発明の偏光回折素子1を備える偏光解析装置100で解析するようにすれば、回折像を一回撮像するだけで偏光の状態を解析できるので、短時間での測定が可能となるとともに、連続的に撮像したデータから偏光状態の経時的変化を解析することもできる。また多波長の光を使用する場合にも、波長ごとに解析が可能となる。
【実施例0051】
[光反応性液晶性材料の調製]
(単量体1)
p-クマル酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)桂皮酸を合成した。この生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、化学式3に示される単量体1を合成した。
【化3】
【0052】
(単量体2)
4-ヒドロキシ安息香酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸を合成した。次いでこの生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、化学式4に示される単量体2を合成した。
【化4】
【0053】
(重合体)
単量体1と単量体2をモル比1:9で1,4-ジオキサン中に溶解し、反応開始剤としてAIBNを添加して重合することにより感光性の重合体を得た。この重合体は液晶相を示した。
【0054】
[偏光回折素子の製造]
上記の重合体を1,4-ジオキサンに溶解し溶液を調整した。この溶液をガラス基板上にスピンコーターを用いて塗布して室温で乾燥し、膜厚2.9μmのフィルムを製造した。次いで、高圧水銀灯からの紫外光を、グランテーラープリズムを介して直線偏光性紫外線とし、さらにラジアル偏光板を介してラジアル偏光紫外線に変換し、同心円状のライン-スペースパターン(ライン幅/スペース幅:12.5μm/12.5μm)のマスクを介して基板に照射した。照射後、110℃で5分間加熱処理することにより、分子の自己組織的な配向を誘起し、室温まで冷却して本発明の偏光回折素子を得た。この偏光回折素子の正面位相差値は、波長633nmの場合、158.3nm、波長550nmの場合、137.5nmであった。なお、この回折素子は、格子ベクトルkと電界ベクトルEが直交する時(E⊥kの関係にある時)に、回折光強度が最大となる特性を有する。
【0055】
図11Aに上記の偏光回折素子の偏光顕微鏡によるクロスニコル像を示す。
図11Bには、参照のため、ライン-スペースパターンのライン幅/スペース幅を50μm/50μmとして作製した参照素子の偏光顕微鏡写真を示す。図中に白色の横棒で示したスケールの長さは1mmである。
どちらの図でも、横方向および縦方向(偏光子と検光子の方向)では、液晶高分子の配向方向が消光位にあるため、暗く見えている。ライン/スペース幅を広くとった参照素子の
図11Bでは、光学的異方性を有するために明るく見える配向領域Aと、光学的等方体となるために暗く見えるランダム領域Rが、一定周期で、同心円状に交互に配置されていることが確認できる。
【0056】
[偏光解析実験]
図12に、上記の偏光回折素子1による偏光状態の解析実験に用いた光学系の構成を示す。連続スペクトルを有する光源5(例えばタングステンハロゲンランプ)から放射された光をピンホール10に通し、f1の焦点距離を有するレンズ11を用いて平行光に調整した。この平行光を透過中心波長が633nmで半値幅が10nmの波長フィルタ12を用いて、単一波長の光に変換した。さらにこの光を透過軸が-45°方向に設定された直線偏光子13(検光子)で直線偏光に変換し、波長633nmに対応した1/4波長板14により直線偏光、楕円偏光、円偏光に調整した上で、上記の偏光回折素子1と、レンズ3と、受光素子2と、処理装置4とを含む偏光解析装置100に入射させた。これにより、光が偏光回折素子1に入射したことによって生じる環状回折光を、レンズ3のフーリエ変換作用によって、受光素子2の受光面2aで取得することができる。
【0057】
図13の右側の図は、直線偏光子13と1/4波長板14の間の角度を0°、22.5°、45°と変化させて、入射光を(図の左側に示すように)直線偏光・楕円偏光・円偏光に調整して入射した際に得られた回折像を示す。原図はRGBスケールであるが、グレーで表示した
図13でも、(C)円偏光の場合、一様な強度の環状回折光が得られること、(A)直線偏光と(B)楕円偏光の場合、回折光強度分布が異なることを観ることができる。
【0058】
図14は、上記の回折像から得られる回折光強度分布を示す図である。横軸は、回転方向の方位角θ、縦軸は回折光強度であり、直線偏光については丸印で、楕円偏光については菱形で、円偏光については三角印でプロットした回折光強度分布が示されている。直線偏光の強度分布は実線で示す計算値と比較的良好にフィッティングされており、楕円偏光のグラフも、方位角はややシフトしているものの波形は計算値と一致している。従来、偏光の光強度分布を測定するためには、回転検光子を用いて時間をかけて測定を行う必要があったが、本発明の偏光回折素子1を備える解析装置100を用いることにより、一回に撮像される回折光の強度分布から偏光の状態を解析することができる。
なお、使用した偏光回折素子1は、電界Eの振動方向が格子ベクトルkと直交する場合に回折光強度が最大となるので、角度θと実際の偏光方位角は90°ずれている。
【0059】
図14に矢印で示す部分(θ=0.9radの近傍)では、プロットされたデータが曲線からずれて段差状となっている。特許文献3のように、不連続な方位角間隔で回折光強度を測定する場合、測定データに異常値があれば、正確な偏光状態の解析は難しかったが、本発明の解析装置100では、方位角θの連続的変化に対応するデータを採取できるため、一部の箇所に異常値があっても、他のデータから、偏光状態を正確に解析することができる。
【0060】
[偏光の解析]
本発明の偏光解析装置100を用い、LEDを光源とする偏光を解析した。但し、未だ偏光を発光するLEDは市販されていないので、
図12に示す装置構成から1/4波長板14を除いたものを用いて、白色LEDの光を直線偏光に変換した。すなわち、
図12に示す装置構成において、光源5を発光ピークが450nm付近にある白色LEDとし、光源から発した光をピンホール10にとおしたのち、レンズ11で平行光とし、波長フィルタ12には、450nm(±10nm)の波長フィルタ12を導入した。フィルタ12を透過した単波長の光を直線偏光子13でp偏光に変換し、偏光回折素子1を通して回折光強度分布を解析した。受光素子2にはCCDカメラを使用した。
図15Aに取得された回折像、
図15Bに1次回折光の強度分布を抽出して方位角θに対しプロットしたものを示す。
【0061】
使用した偏光回折素子1は、電界Eの振動方向が格子ベクトルkと直交する場合に回折光強度が最大となるので、角度θと実際の偏光方位角は90°ずれている。この点に留意して解析すると、偏光状態は、水平方向を向いた直線偏光(あるいはやや楕円偏光)であることが、簡単に検出できた。
【0062】
[偏光分光解析]
偏光回折素子1は、分光素子としての機能も備えている。例えば、
図12に示す装置において、波長フィルタ12を取り除くと、外側から赤色、緑色、青色となる虹色の多重リングからなる回折像が得られる。直線偏光子6と波長633nmに対応した1/4波長板7の間の角度を45°とする。このとき、多波長光に含まれる波長633nmの光は円偏光となり、それ以外の波長では楕円偏光となるため、この波長に依存した偏光状態の違いを検出すれば、多波長の光について、それぞれの波長の光の偏光状態を、環状の回折光強度分布から同時に検出できる。
【0063】
図16は、中心波長500nm、633nm、750nmの波長フィルタをそれぞれ適用した場合に、受光素子上に生じた環状回折光の円周上の光強度分布をプロットしたものである。633nmの強度分布は円偏光に近い強度分布を示すのに対し、500nmと750nmの偏光は、楕円偏光であり、位相シフトの違いに応じ、楕円の方向は互いに直交していた。図中、実線は予測される偏光状態であり、得られたデータから波長ごとの楕円偏光軌跡を推定できることを示している。
【0064】
処理装置を用い、極座標で示される回折光を直交座標に変換することも可能である。さらに、各波長における強度値を加え、
図17に例示するように、3次元的な俯瞰図の形で表示することもできる。
図17は方位角θと、回折円の半径を平面座標にとり、回折光強度を上下方向軸にとって三次元的に表示したものである。回折角の波長分散を伴うので、各波長の光強度は、半径軸上の特定の座標に示される。また、原図はカラー表示され、波長ごとの偏光の状態を一枚の図面から簡潔に把握することができる。
【0065】
このように、測定対象となる偏光回折素子に入射した多波長の光について、受光素子で取得された1枚の画像データを記録しておくことで、入射したすべての波長において、偏光状態を決定できることになるため、高速で変化する対象物から反射した光を、受光素子の性能に応じて高速に取得しておくことで、格納されたデータから、波長毎の偏光状態とその経時変化を決定できる。そのため、例えば、現行のエリプソメトリーおよび分光エリプソメトリーの高速測定に対応できない問題を解決できる。また、各種の光工学分野で利用される偏光の状態を正確に解析することができる。
本発明の偏光回折素子によれば、1回に撮像される回折像から、偏光の状態を正確に解析できるため、物性測定装置、表示装置、通信装置、光記憶装置等の、偏光を利用する各種の光学装置の性能の向上に寄与することができ、産業上の利用性が大きい。