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  • 特開-2液硬化型接着剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102148
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】2液硬化型接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20230714BHJP
   C09J 175/02 20060101ALI20230714BHJP
   C09J 175/06 20060101ALI20230714BHJP
   C09J 175/08 20060101ALI20230714BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20230714BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20230714BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20230714BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20230714BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20230714BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J175/02
C09J175/06
C09J175/08
C09J11/00
C09J11/04
C08G18/10
C08G18/48
C08G18/42
C08G18/44
C08G18/48 054
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002550
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】山元 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】影山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】木村 和資
【テーマコード(参考)】
4J034
4J040
【Fターム(参考)】
4J034BA03
4J034CA04
4J034CA05
4J034DA01
4J034DF01
4J034DF02
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG06
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034JA01
4J034JA02
4J034MA02
4J034MA04
4J034QB13
4J034QB17
4J034RA08
4J040EF062
4J040EF111
4J040EF121
4J040EF131
4J040JA13
4J040KA16
4J040KA25
4J040KA29
4J040KA30
4J040KA31
4J040KA35
4J040KA38
4J040KA42
4J040LA05
4J040LA06
4J040LA08
4J040MA02
4J040MA12
4J040MA13
4J040NA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】破断強度、破断伸度等の引張特性に優れ、粘弾性特性の温度依存性が小さい硬化物が得られる2液硬化型接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】ウレタンプレポリマー(a1)を含む主剤(A)と、ポリオール化合物(b1)と、ポリアミン化合物(b2)と、を含む硬化剤(B)と、を有し、前記ウレタンプレポリマー(a1)は、原料ポリイソシアネートと、1分子中に少なくとも1つの水酸基を有する数平均分子量500以上のポリオール化合物(a2)とを、前記ポリオール化合物中の水酸基に対する前記原料ポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比を2.05~14として、前記ポリオール化合物(a2)のすべてが前記ウレタンプレポリマー(a1)の単量体単位となるよう反応させてなるものである、2液硬化型接着剤組成物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンプレポリマー(a1)を含む主剤(A)と、
ポリオール化合物(b1)と、ポリアミン化合物(b2)と、を含む硬化剤(B)と、を有し、
前記ウレタンプレポリマー(a1)は、原料ポリイソシアネートと、1分子中に少なくとも1つの水酸基を有する数平均分子量500以上のポリオール化合物(a2)とを、前記ポリオール化合物中の水酸基に対する前記原料ポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比を2.05~14として、前記ポリオール化合物(a2)のすべてが前記ウレタンプレポリマー(a1)の単量体単位となるよう反応させてなるものであり、
前記主剤(A)は、前記ウレタンプレポリマー(a1)のほか、前記ポリオール化合物(a2)と反応しなかった前記原料ポリイソシアネートの残部である残存ポリイソシアネート(a3)をさらに含み、
前記ポリオール化合物(b1)中の活性水素基に対する前記ポリアミン化合物(b2)中の活性水素基の当量比が1.5~6であり、
前記硬化剤(B)中の活性水素基に対する前記主剤(A)中のイソシアネート基の当量比が0.25~2である2液硬化型接着剤組成物であって、
前記ポリオール化合物(a2)及び前記ポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)が、互いに異なって、14.0~21.0(J/cm1/2である、前記2液硬化型接着剤組成物。
【請求項2】
前記数平均分子量500以上のポリオール化合物(a2)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項3】
前記ポリオール化合物(b1)の数平均分子量が500以上である、請求項1又は2に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項4】
前記ポリオール化合物(b1)が、分子内に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される少なくとも1種の単量体単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリアミン化合物(b2)が、数平均分子量が500未満であり、分子内に、少なくとも2つのアミノ基と、少なくとも1つの芳香族環とを有している、請求項1~4のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項6】
前記ポリオール化合物(a2)及び前記ポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)の差の絶対値が、0.1~4.0(J/cm1/2である、請求項1~5のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項7】
前記主剤(A)は、フィラー、老化防止剤、着色剤、粘度調整剤、シランカップリング剤、消泡剤、及び可塑剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項8】
前記硬化剤(B)は、フィラー、老化防止剤、着色剤、粘度調整剤、可塑剤、及び数平均分子量が500未満の多価アルコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項9】
前記主剤(A)と前記硬化剤(B)との質量比が3:7~7:3である、請求項1~8のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項10】
前記2液硬化型接着剤組成物を硬化させた硬化物の、-40℃における破断伸度(引張速度20m/秒)が100%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項11】
前記2液硬化型接着剤組成物を硬化させた硬化物の、JIS K6251に準拠した引張強さが15MPa以上であり、破断伸度が100%以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項12】
前記2液硬化型接着剤組成物を硬化させた硬化物の引張弾性率が10MPa以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【請求項13】
可使時間が30秒~60分である、請求項1~12のいずれか1項に記載の2液硬化型接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主剤と硬化剤とを有する2液硬化型接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディなどの構造体では、異種材料からなる部品同士が、接着剤を用いて接合されている場合がある。接着剤を介して接合されていることで、部品同士の熱膨張係数の差が大きくても、歪みや反りの発生を抑制できる。一方、このような用途で用いられる接着剤には、接着強度の目安として、硬化した状態での、破断強度、破断伸度等の引張特性が良好であることが求められる。
【0003】
破断伸度に優れた硬化物が得られる接着剤組成物として、ウレタンプレポリマーを含む主剤と、活性水素基を有する化合物を含んだ硬化剤と、を備える2液硬化型のポリウレタン系接着剤組成物が知られている。2液硬化型のポリウレタン系接着剤組成物では、一般に、主剤に含まれるイソシアネート基と、硬化剤に含まれるポリオール中の水酸基との当量比が1付近になるよう、主剤と硬化剤の配合比が調整される。しかし、イソシアネート基と水酸基とが等量に近いと、ウレタンプレポリマーの硬化速度が非常に遅い。このため、有機金属化合物、第三級アミン等の触媒を用いて、硬化速度を速めることが試みられている(特許文献1)。しかし、触媒を用いて接着剤組成物を速く硬化させると、発泡を生じる場合があり、それによって、硬化物の引張特性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-218539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これまでのポリウレタン系接着剤組成物の硬化物は、常温において良好な引張特性を呈するものであっても、低温にすると、特に高速引張試験による伸びが悪化するものがあった。
【0006】
そこで、本発明は、構成成分として、互いに高い相溶性を示す異なる2種のポリオールを用いることにより、ハードセグメントとソフトセグメントがミクロ相分離構造を自発的に取るような、常温での引張特性に優れかつ低温での引張特性も劣らない硬化物を形成することができる、2液硬化型接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、2液硬化型接着剤組成物であって、
ウレタンプレポリマー(a1)を含む主剤(A)と、
ポリオール化合物(b1)と、ポリアミン化合物(b2)と、を含む硬化剤(B)と、を有し、
前記ウレタンプレポリマー(a1)は、原料ポリイソシアネートと、1分子中に少なくとも1つの水酸基を有する数平均分子量500以上のポリオール化合物(a2)とを、前記ポリオール化合物中の水酸基に対する前記原料ポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比を2.05~14として、前記ポリオール化合物(a2)のすべてが前記ウレタンプレポリマー(a1)の単量体単位となるよう反応させてなるものであり、
前記主剤(A)は、前記ウレタンプレポリマー(a1)のほか、前記ポリオール化合物(a2)と反応しなかった前記原料ポリイソシアネートの残部である残存ポリイソシアネート(a3)をさらに含み、
前記ポリオール化合物(b1)中の活性水素基に対する前記ポリアミン化合物(b2)中の活性水素基の当量比が1.5~6であり、
前記硬化剤(B)中の活性水素基に対する前記主剤(A)中のイソシアネート基の当量比が0.25~2である2液硬化型接着剤組成物であって、
前記ポリオール化合物(a2)及び前記ポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)が、互いに異なって、14.0~21.0(J/cm1/2である、ことを特徴とする。
【0008】
前記数平均分子量500以上のポリオール化合物(a2)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
前記ポリオール化合物(b1)の数平均分子量が500以上であることが好ましい。
【0010】
前記ポリオール化合物(b1)が、分子内に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される少なくとも1種の単量体単位を含むことが好ましい。
【0011】
前記ポリアミン化合物(b2)が、数平均分子量が500未満であり、分子内に、少なくとも2つのアミノ基と、少なくとも1つの芳香族環とを有していることが好ましい。
【0012】
前記ポリオール化合物(a2)及び前記ポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)の差の絶対値が、0.1~4.0(J/cm1/2であることが好ましい。
【0013】
前記主剤(A)は、フィラー、老化防止剤、着色剤、粘度調整剤、シランカップリング剤、消泡剤、及び可塑剤からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0014】
前記硬化剤(B)は、フィラー、老化防止剤、着色剤、粘度調整剤、可塑剤、及び数平均分子量が500未満の多価アルコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0015】
前記主剤(A)と前記硬化剤(B)との質量比が3:7~7:3であることが好ましい。
【0016】
前記2液硬化型接着剤組成物を硬化させた硬化物の、-40℃における破断伸度(引張速度20m/秒)が100%以上であることが好ましい。
【0017】
前記2液硬化型接着剤組成物を硬化させた硬化物の、JIS K6251に準拠した引張強さが15MPa以上であり、破断伸度が100%以上であることが好ましい。
【0018】
前記2液硬化型接着剤組成物を硬化させた硬化物の引張弾性率が10MPa以上であることが好ましい。
【0019】
また、2液硬化型接着剤組成物の可使時間が、30秒~60分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の2液硬化型接着剤組成物の硬化物は、常温での良好な引張特性と、低温高速引張試験における良好な伸びとを併せ持つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)~(c)は、2液硬化型接着剤組成物の硬化反応を概念的に説明する図である。
図2】低温高速引張試験に供する試験片の形状を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態の2液硬化型接着剤組成物について説明する。本実施形態には、後述する種々の実施形態が含まれる。
【0023】
(接着剤組成物)
本実施形態の2液硬化型接着剤組成物(以降、単に「接着剤組成物」とも云う。)は、主剤(A)と、硬化剤(B)と、を有する。本明細書にて「組成物」とは、混合物だけでなく、使用に際して混合すべき複数の物質を別々に含んだ、いわゆる「組み合わせ」の形態をも包含するものとする。したがって、主剤(A)と硬化剤(B)とを別々に有する状態も、主剤(A)と硬化剤(B)とを混合した状態も、本明細書ではいずれも「接着剤組成物」と呼ぶものとする。
【0024】
(主剤(A))
主剤(A)は、ウレタンプレポリマー(a1)を含む。
ウレタンプレポリマー(a1)は、原料ポリイソシアネートと、ポリオール化合物(a2)と、を反応させてなるものである。ウレタンプレポリマー(a1)は、ポリイソシアネート(a3)の単量体単位と、ポリオール化合物(a2)の単量体単位とを有する化合物を指す。この反応は、具体的に、ポリオール化合物(a2)中の水酸基に対する、原料ポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比(以降、インデックスともいう)を2.05~14として、ポリオール化合物(a2)のすべてがウレタンプレポリマー(a1)の単量体単位となるよう行われる。
【0025】
インデックスを2.05以上とすることで、破断強度に優れた硬化物、具体的には、破断強度が15MPa以上の硬化物を得やすくなる。なお、本明細書において、破断強度とは、JIS K6251に準拠した、引張強さを意味する。
また、インデックスを2.05以上とし、イソシアネート基を水酸基に対して大きく過剰にしたことで、原料ポリイソシアネートとポリオール化合物(a2)との反応後に残存するイソシアネート基を、硬化剤(B)と十分に反応させることができる。これにより、破断伸度に優れた硬化物、具体的には、破断伸度が100%以上の硬化物を得やすくなる。なお、本明細書において、破断伸度は、JIS K6251に準拠した切断時伸びを意味する。
【0026】
インデックスは、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。一方で、インデックスが大きすぎると、破断伸度が低くなりすぎる場合がある。このため、インデックスは、14以下であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。
【0027】
なお、本実施形態の接着剤組成物によれば、ポリイソシアネート(a3)がポリオール化合物(a2)と反応した後に、後述する硬化剤(B)中のポリオール化合物(b1)またはポリアミン化合物(b2)の各々の活性水素基と反応したものと、ポリイソシアネート(a3)がポリオール化合物(a2)と反応せず残存した後に、上記の硬化剤(B)の各々の活性水素基と反応したものとが硬化物中に形成される。これにより、性質の異なるポリマー相が混在したポリマーブレンドが形成される。
【0028】
原料ポリイソシアネートとしては、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであれば、特に限定されない。原料ポリイソシアネートとしては、従来公知のポリイソシアネート化合物を用いることができる。
原料ポリイソシアネートに使用されるポリイソシアネート化合物としては、具体的には、TDI(例えば、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI))、MDI(例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI))、1,4-フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネート;ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)のような脂肪族ポリイソシアネート;トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)のような脂環族ポリイソシアネート;これらのカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネート;等が挙げられる。
【0029】
このようなポリイソシアネート化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて実施形態の原料ポリイソシアネートとして使用することができる。
これらのうち、硬化性に優れる理由から、芳香族ポリイソシアネートを用いることが好ましく、特にMDIを用いることが好ましい。
【0030】
一実施形態によれば、原料ポリイソシアネートは、反応活性を良好にし、硬化した際の良好な強度を発現させる観点から、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックメタンジイソシアネート、及びイソシアヌレート基を含むイソシアネート化合物のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
ポリオール化合物(a2)は、1分子中に少なくとも2つの水酸基を有し、数平均分子量が500以上である。
【0032】
ポリオール化合物(a2)の数平均分子量が500未満であると、硬化物の破断伸度が低下し、硬化物が硬くなりすぎる場合がある。また、後述する当量比(ポリアミン化合物(b2)の活性水素基/ポリオール化合物(b1)の活性水素基)、あるいは、主剤(A)及び硬化剤(B)の混合比を調整しても、硬化物の引張弾性率(以降、単に弾性率ともいう)を調整することが難くなる。ポリオール化合物(a2)の数平均分子量の上限値は、例えば、3000である。
【0033】
ポリオール化合物(a2)には、硬化物の破断強度、破断伸度が効果的に向上させる観点から、好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールからなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
【0034】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子多価アルコール類と、多塩基性カルボン酸との縮合物(縮合系ポリエステルポリオール)が挙げられる。低分子多価アルコール類としては、具体的には、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1-トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,5-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの低分子ポリオール;ソルビトールなどの糖類;等が挙げられる。一方、縮合系ポリエステルポリオールを形成する多塩基性カルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、他の低分子カルボン酸、オリゴマー酸、ヒマシ油、ヒマシ油とエチレングリコール(もしくはプロピレングリコール)との反応生成物などのヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0035】
ポリカーボネートポリオールは、ポリオールとジメチルカーボネートとの脱メタノール縮合反応、ポリオールとジフェニルカーボネートの脱フェノール縮合反応、または、ポリオールとエチレンカーボネートの脱エチレングリコール縮合反応等の反応を経て生成される。これらの反応で使用されるポリオールとしては、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の飽和もしくは不飽和の各種グリコール類、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール等が挙げられる。
【0036】
ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、ε-メチル-ε-カプロラクトン等のラクトンを適当な重合開始剤で開環重合させたもので両末端に水酸基を有するものが挙げられる。
【0037】
ウレタンプレポリマー(a1)の数平均分子量は、1000以上15000以下であることが好ましく、1000以上10000以下であることがより好ましい。
ここで、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography(GPC))により測定した数平均分子量(ポリスチレン換算)であり、測定にはテトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として用いるのが好ましい。
【0038】
主剤(A)は、ウレタンプレポリマー(a1)のほか、さらに、残存ポリイソシアネート(a3)を含む。
本明細書中で、残存ポリイソシアネート(a3)とは、ポリオール化合物(a2)と反応することなく、分子内のイソシアネート基が全て残っているポリイソシアネート化合物のことであり、すなわち、原料ポリイソシアネートと同じ化合物である。主剤(A)に、残存ポリイソシアネート(a3)が含まれていることで、速やかに硬化剤(B)との反応を行うことができる。これにより、硬化時間を短くできるとともに、残存ポリイソシアネート(a3)が水分と反応し発泡することを抑制でき、硬化物の破断強度、破断伸度等の引張特性の低下を抑制することができる。ウレタンプレポリマー(a1)は、上記の通り、ポリオール化合物(a2)中の水酸基に対する、原料ポリイソシアネート中のイソシアネート基のインデックスを2.05~14として、ポリオール化合物(a2)のすべてがウレタンプレポリマー(a1)の単量体単位となるよう反応して得られたものであるので、主剤(A)は、原料ポリイソシアネートに存在するイソシアネート基の総数の1/14~1/2.05にポリオール化合物(a2)が付加してなるウレタンプレポリマー(a1)と、残存ポリイソシアネート(a3)とが混合したものであると云える。
【0039】
(硬化剤(B))
硬化剤(B)は、ポリアミン化合物(b2)と、ポリオール化合物(b1)と、を含む。
【0040】
ポリアミン化合物(b2)は、ポリイソシアネートとの反応速度が速いため、主剤(A)に含まれている残存ポリイソシアネート(a3)との反応が速やかに進行する。また、ポリアミン(b2)は、ウレタンプレポリマー(a1)とも反応し、ウレタンプレポリマー(a1)を硬化させつつ、成長させる。主剤(A)及び硬化剤(B)を混合した接着剤組成物は、これらの反応に伴って発熱するので、ポリオール化合物(b1)と残存ポリイソシアネート(a3)との反応は一層促進される。これにより、硬化時間が短くなり、可使時間を短くする効果が得られる。
【0041】
ポリアミン化合物(b2)は、特に数平均分子量が500未満であり、分子内に少なくとも2つのアミノ基と、少なくとも1つの芳香族環とを有するものであれば、特に限定されず、従来公知のポリアミン化合物を用いることができる。ポリアミン化合物(b2)として、数平均分子量が500未満であり、1分子中に、少なくとも2つのアミノ基と、少なくとも1つの芳香族基と、を有しているポリアミン化合物を用いると、残存ポリイソシアネート(a3)との反応速度を速くなり好ましい。
【0042】
ポリアミン化合物(b2)としては、具体的には、メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジエチルメチルベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)、4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)、トリメチレン ビス(4-アミノベンゾアート)、ビス(4-アミノ-2,3-ジクロロフェニル)メタンなどの芳香族ポリアミン等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
ポリオール化合物(b1)は、1分子中に少なくとも2つの水酸基を有する化合物であって、数平均分子量が500以上であるものが好ましい。硬化剤(B)にポリオール化合物(b1)が含まれていると、接着剤組成物の硬化物の破断伸度が高まる。ポリオール化合物(b1)の数平均分子量が500未満であると、接着剤組成物の硬化物の破断伸度が低下し、硬化物が硬くなりすぎることがある。ポリオール化合物(b1)の数平均分子量の上限値は、例えば、3000である。
【0044】
また、接着剤組成物の硬化物には、原料ポリイソシアネートが、複数の種類の化合物、すなわち、ポリオール化合物(a2)、ポリオール化合物(b1)、ポリアミン化合物(b2)と反応した部分が形成されていることで、硬化物の粘弾性特性の温度依存性が小さくなる。このように、硬化物の骨格として種々の化合物が導入されていることで、硬化物の使用温度として想定される温度領域(例えば-40~180℃の範囲)での引張特性の温度変化が抑制され、安定することになる。
【0045】
また、ポリオール化合物(b1)は、ポリアミン化合物(b2)と比べ、ポリイソシアネートとの反応がゆっくりと進行するため、硬化時間が短すぎず、作業性の向上に寄与する。
【0046】
また、接着剤組成物の原料として、異なる種類のポリオール化合物(a2)、及びポリオール化合物(b1)を用いたことで、硬化物の引張弾性率を調整することができる。
【0047】
一実施形態によれば、ポリオール化合物(b1)は、硬化物の破断強度、破断伸度が効果的に向上させる観点から、分子内に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される少なくとも1種の単量体単位を含む化合物であることが好ましい。一実施形態によれば、ポリオール化合物(b1)は、ポリエチレングリコール、及び、ポリプロピレングリコールの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、一実施形態によれば、ポリオール化合物(b1)の末端は、反応活性を良好にする観点から、1級水酸基、2級水酸基、アミノ基、酸無水物変性基、及び、酸無水物変性基を開環した開環基の中から選択した少なくとも1種を含むことが好ましい。酸無水物変性基は、酸無水物を末端に付加させた基である。酸無水物は、2分子のカルボン酸を脱水縮合したものであればよく、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水シュウ酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水安息香酸等が挙げられる。酸無水物変性基を開環した開環基とは、酸無水物を、水、水酸基、アミノ基、エポキシ基等のいずれかと反応させて生じた官能基を意味する。開環基となる酸無水物変性基の酸無水物には、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が用いられる。一実施形態によれば、ポリオール化合物(b1)は、1級水酸基を末端に有するものが特に好ましい。
【0048】
ポリオール化合物(b1)中の活性水素基に対する上記のポリアミン化合物(b2)中の活性水素基の当量比(以下、「活性水素基(b2)/活性水素基(b1)」という。)は、1.5~6である。活性水素基(b2)/活性水素基(b1)が1.5未満であっても6を超えても、接着剤組成物の可使時間が適切な範囲ではなくなる。活性水素基(b2)/活性水素基(b1)は、好ましくは1.5~4である。
【0049】
また、硬化剤(B)中の活性水素基に対する、主剤(A)中のみなし残存イソシアネート基(ポリオール化合物(a2)の全てが原料ポリイソシアネートと反応してウレタンプレポリマー(a1)となった後、(a1)に残っているイソシアネート基と、残存しているポリイソシアネート(a3)中のイソシアネート基との合計、すなわち主剤(A)中の全ての未反応イソシアネート基みなし残基のことを指す。)の当量比(以下、「イソシアネート基みなし残基(A)/活性水素基(B)」という。)は、1~2である。イソシアネート基(A)/活性水素基(B)が1未満であると、接着剤組成物の硬化物がポリオール化合物(a2)とポリオール化合物(b1)の骨格を含んでいても、硬化物の粘弾性特性の温度依存性を小さくすることが難しくなる。一方、イソシアネート基(A)/活性水素基(B)が2を超えると、イソシアネート基とポリオール(b1)ならびにポリアミン化合物(b2)中の活性水素基とが反応する機会が減少し、未反応のイソシアネート基が多くなりすぎるため、接着剤組成物の硬化速度が遅くなり、発泡の可能性も高まる。
【0050】
上記のポリオール化合物(a2)及び上記のポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)は、互いに異なって、14.0~21.0(J/cm1/2であることが非常に好ましい。ここでFedors法とは、以下の式:
[数1]

SP=[Σ(Ecoh)/Σ(Va)]1/2

(式中、Ecohはポリマー繰り返し1単位の凝集エネルギー、Vaは体積を表す。)
である。
【0051】
一実施形態によれば、ポリオール化合物(a2)及びポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)は互いに異なることが好ましい。互いに高い相溶性を示す異なる2種のポリオールを用いることにより、ハードセグメントとソフトセグメントがミクロ相分離構造を自発的に取るような接着剤組成物の硬化物を形成することが可能となる。特にポリオール化合物(a2)及びポリオール化合物(b1)の、Fedors法により算出された溶解性パラメータ(SP値)の差の絶対値が、0.1~4.0(J/cm1/2であることが非常に好ましい。
【0052】
一実施形態によれば、主剤(A)と硬化剤(B)の質量比は3:7~7:3であることが好ましい。本実施形態の接着剤組成物によれば、主剤(A)と硬化剤(B)の混合比が、例えばこのような範囲内でずれていても、硬化物の破断強度及び破断伸度の大きさへの影響が極めて少ない。具体的には、上記質量比が1:1である場合の破断強度及び破断伸度に対して、破断強度及び破断伸度の変化率が±20%以内に抑えられる。一方で、上記質量比の範囲内で、引張弾性率の最大値を最小値の例えば3倍以上に調整できる。
【0053】
以上説明した主剤(A)及び硬化剤(B)は、それぞれ、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じてさらに、フィラー、硬化触媒、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤などの各種添加剤等を含有することができる。主剤(A)は、フィラー、老化防止剤、着色剤、粘度調整剤、シランカップリング剤、消泡剤、及び可塑剤からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。また硬化剤(B)は、フィラー、老化防止剤、着色剤、粘度調整剤、可塑剤、及び数平均分子量が500未満の多価アルコール類からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0054】
NCO基/全活性水素基比を0.5~4の範囲内で変化させると、硬化物の弾性率を調整でき、用途に応じて、目標とする弾性率を得ることができる。このようにNCO基/全活性水素基比を変化させても、硬化物の破断強度及び破断伸度は大きく変化しない。具体的には、主剤(A)及び硬化剤(B)の混合比(質量比)が1:1である場合の破断強度及び破断伸度に対して、破断強度及び破断伸度の変化率は±20%以内に抑えられる。このように、主剤(A)及び硬化剤(B)の混合比が1:1からずれていても、硬化物の破断強度及び破断伸度が大きく変化することがないので、高い破断強度及び破断伸度を維持しつつ、弾性率を調整することができる。このため、一実施形態によれば、主剤(A)と硬化剤(B)の混合比を3:7~7:3とすることができる。
【0055】
なお、実施形態の2液硬化型接着剤組成物は、有機金属化合物、第三級アミン等の触媒をあえて備える必要はない。実施形態の2液硬化型接着剤組成物は、主剤(A)と硬化剤(B)とを混合すると、常温で硬化反応を開始し、硬化物を形成する。
【0056】
ここで、図1を参照して、接着剤組成物の硬化反応を概念的に説明する。典型的には、図1(a)に示す2液の混合時点の状態から、図1(b)に示す硬化反応の途中の状態を経て、図1(c)に示す最終形態(符号1で示す硬化物)に至る。主剤(A)及び硬化剤(B)の混合比によって、最終形態は、図1(a)~図1(c)のいずれかに示したような状態となりうる。典型的には、主剤(A)に含まれるウレタンプレポリマー(a1)(符号a1)および残存ポリイソシアネート(a3)は、硬化剤(B)に含まれるポリアミン化合物(b2)と反応し、硬い粒子状物を形成し、成長していく(符号3)。一方、硬化剤(B)に含まれるポリオール化合物(b1)は、主剤(A)に含まれる残存ポリイソシアネート(a3)とポリアミン化合物(b2)との反応より遅れて反応し、マトリックス(符号5)を多く形成していく。主剤(A)と硬化剤(B)の混合比に応じて、形成される粒子の数や大きさが変化し、球晶レベルからミクロンレベルの微粒子の間で変化する。その変化が硬化物の弾性率に反映されると考えられる。一方、硬化物の破断強度、破断伸度は、ポリオール化合物(a2)及びポリオール化合物(b1)の分子量、及び、これらのポリオール化合物、ポリイソシアネート、ポリアミン化合物(b2)の間で規定される上記した当量比が上述の範囲内に規定されることで調整される。
【0057】
本実施形態の接着剤組成物によれば、破断強度、破断伸度等の引張特性に優れ、粘弾性特性の温度依存性が小さい硬化物が得られるとともに、発泡を抑制できる。
引張特性には、破断強度、破断伸度、引張弾性率が含まれる。具体的に、引張特性に優れた硬化物として、破断強度が15MPa以上であり、破断伸度が100%以上であり、引張弾性率が10MPa以上である硬化物が得られる。引張特性は、JIS K6251に準拠して測定することができる。このような引張特性は、破断伸度が、従来のポリウレタン系接着剤と同等でありながら、破断強度が、エポキシ樹脂系接着剤の破断強度に準じる大きさである。また、粘弾性特性の温度依存性が小さい硬化物として、硬化物の-40℃における破断伸度(引張速度20m/秒)が100%以上である硬化物が得られる。一般的にウレタン系の接着剤は、常温で良好な引張特性を有していても、低温かつ高速での引張試験において良好な伸びを呈するものは少なかった。本実施形態の接着剤組成物から得られる硬化物は、その傾向が改善され、温度依存性が極めて少ない特性を有している。このような特性を備える硬化物は、自動車のボディ等の構造体の部品同士を接合するのに適していると云える。
【0058】
破断強度は、好ましくは20MPa以上であり、より好ましくは25MPa以上である。破断強度の上限値は、特に制限されないが、例えば、100MPa程度である。
破断伸度は、好ましくは150%以上であり、より好ましくは200%以上である。破断伸度の上限値は、特に制限されないが、例えば、500%程度である。
引張弾性率は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上である。引張弾性率の上限値は、特に制限されないが、例えば、500MPa程度である。
-40℃における破断伸度(引張速度20m/秒)は、好ましくは150%以上であり、より好ましくは200%以上である。
【0059】
本実施形態によれば、接着剤組成物の可使時間は30秒~60分となる。ここで可使時間とは、主剤(A)と硬化剤(B)を混ぜ始めてから、ハンドリングできなくなるまでの時間を意味する。実施形態の接着剤組成物の可使時間は比較的広い範囲で調整可能であるため、作業性に優れ、発泡の抑も可能である。可使時間が30秒以上であると、硬化時間が短すぎず、作業性に優れる。可使時間は、好ましくは40分以内であり、より好ましくは30分以内であり、さらに特に好ましくは10分以内である。
【0060】
本実施形態の接着剤組成物は、例えば、自動車のボディに制限されず、種々の構造体の部品同士の接合に用いられる。また、本実施形態の接着剤組成物は、接着剤として用いられるほか、例えば、塗料、防水材、床材、エラストマー、人工皮革、スパンデックスなどとして用いることができる。
【0061】
(接着剤組成物の製造方法)
接着剤組成物の製造方法は、主剤(A)を作製するステップと、硬化剤(B)を作製するステップと、を備える。
【0062】
主剤(A)を作製するステップでは、原料ポリイソシアネートとポリオール化合物(a2)とを、インデックスを2.05~14として、ポリオール化合物(a2)のすべてがウレタンプレポリマー(a1)の単量体単位となるよう反応させてウレタンプレポリマー(a1)を作製する。これにより、ウレタンプレポリマー(a1)及び残存ポリイソシアネート(a3)を含む主剤(A)が作製される。ここで、原料ポリイソシアネート、ポリオール化合物(a2)、ウレタンプレポリマー(a1)、残存ポリイソシアネート(a3)は、それぞれ、上記説明した、原料ポリイソシアネート、ポリオール化合物(a2)、ウレタンプレポリマー(a1)、残存ポリイソシアネート(a3)と同様に構成される。
【0063】
硬化剤(B)を作製するステップでは、ポリオール化合物(b1)と、ポリアミン化合物(b2)と、を含む硬化剤(B)を作製する。ここで、ポリオール化合物(b1)、ポリアミン化合物(b2)は、上記説明した、ポリオール化合物(b1)、ポリアミン化合物(b2)と同様に構成される。
【0064】
以上の製造方法を用いて、上記説明した接着剤組成物を作製することができる。
【実施例0065】
本発明の効果を調べるために、表1および表2に示した配合量に従って接着剤組成物を作製し、発泡性、可使時間、硬化物の破断強度、破断伸度、及び貯蔵弾性率を測定した。
【0066】
下記要領でウレタンプレポリマー1~4を作製し、表中に示した添加剤を加え、主剤を作製した。また、表中に示した原料を混合して硬化剤を作製した。
【0067】
<ウレタンプレポリマー1の合成>
ポリテトラメチレンエーテルグリコール100gと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート100g(インデックス4.0)を、窒素雰囲気下、80℃で4時間撹拌を行い、反応させて、ウレタンプレポリマー1を合成した。
【0068】
<ウレタンプレポリマー2の合成>
ポリテトラメチレンエーテルグリコール100gと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート150g(インデックス6.0)を窒素雰囲気下、80℃で4時間撹拌を行い、反応させて、ウレタンプレポリマー2を合成した。
【0069】
<ウレタンプレポリマー3の合成>
ポリカーボネートジオール100gと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート100g(インデックス4.0)を窒素雰囲気下、80℃で4時間撹拌を行い、反応させて、ウレタンプレポリマー3を合成した。
【0070】
<ウレタンプレポリマー4の合成>
ポリテトラメチレンエーテルグリコール100gと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50g(インデックス2.0)を窒素雰囲気下、80℃で4時間撹拌を行い、反応させて、ウレタンプレポリマー4を合成した。
【0071】
以上のウレタンプレポリマー1~4の作製に用いた、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートジオール、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートには、下記に示すものを使用した。
・ポリテトラメチレンエーテルグリコール:
PTMG1000(重量平均分子量1000)、三菱ケミカル社製
・ポリカーボネートジオール:
デュラノールT6001(重量平均分子量1000)、旭化成社製
・4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート:
ミリオネートMT(重量平均分子量250)、東ソー社製
【0072】
表中、ウレタンプレポリマー1~4の値は、ウレタンプレポリマー(a1)及び残存ポリイソシアネート(a2)の合計量を示す。表中に示したウレタンプレポリマー1~4以外の原料には、下記に示すものを使用した。表中、原料の量は、質量部で示される。
・カーボンブラック:200MP、新日化カーボン社製
・炭酸カルシウム1:重質炭酸カルシウム、スーパーS、丸尾カルシウム社製
・可塑剤:フタル酸ジイソノニル、ジェイプラス社製
・ポリオール1:ポリプロピレングリコール、サンニックスGL-3000、三洋化成社製
・ポリオール2:ポリブタジエンポリオール、Poly bd R-45HT、出光興産社製
・ポリオール3:両末端カルビノール変性シリコーンオイル、KF-6002、信越化学社製
・ポリアミン:ジエチルメチルベンゼンジアミン、DETDA、三井化学ファイン社製
・炭酸カルシウム2:軽質炭酸カルシウム、カルファイン200、丸尾カルシウム社製
・シリカ:レオロシールQS-102S、トクヤマ社製
なお、表中、「主剤(A)/硬化剤(B)比」は、主剤と硬化剤の質量比を意味する。
表中に示さないが、アミノ基/水酸基比は、1.5~6の範囲内で調整した。
【0073】
作製した主剤及び硬化剤を、表中に示した主剤(A)/硬化剤(B)比で混合し、下記要領で、可使時間を評価するとともに、破断強度、破断伸度、低温高速での破断伸度を測定した。表中に、活性水素基(b2)/活性水素基(b1)、及びイソシアネートみなし残基(A)/活性水素基(B)も示す。
【0074】
<SP値>
SP値は、以下のFedors法により算出した:
[数2]

SP=[Σ(Ecoh)/Σ(Va)]1/2

(式中、Ecoh:ポリマー繰り返し1単位の凝集エネルギー、Va:体積を表す。)
【0075】
<破断強度、破断伸度>
硬化物をダンベル状3号形試験片とし、JIS K6251に準拠して引張試験を行い、温度20℃、クロスヘッドスピード(引張速さ)200mm/分の条件で、引張強さ(破断強度)および破断伸度(切断時伸び)を測定した。破断伸度測定用の標線は20mmの間隔で付けた。この結果、破断強度が15MPa以上であった場合を破断強度に優れ、破断伸度が100%以上であった場合を破断伸度に優れると評価した。
【0076】
<破断伸度(低温高速)>
硬化物を図2に記載のような低温高速引張試験片とし、JIS K6251に準拠して引張試験を行い、温度-40℃、クロスヘッドスピード(引張速さ)20m/秒の条件で、破断伸度(切断時伸び)を測定した。破断伸度測定用の標線は5mmの間隔で付けた。この結果、破断伸度が100%以上であった場合を破断伸度に優れると評価した。
【0077】
<可使時間>
可使時間は、主剤と硬化剤を混合後、ハンドリングできなくなるまでの時間、すなわち、接着剤として流動性が著しく失われるに至るまでの時間とした。可使時間が30秒~60分であり使用に適したものをA、それ以外のものをBと評価した。このうち、Aを、可使時間が適切であると評価した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
(考察)
本発明の範囲を満たす実施例の2液硬化型接着剤組成物は、破断強度、破断伸度(常温、低温高速のいずれも)が大きく、可使時間も適切な範囲のものであった。
比較例1は、インデックスが小さく、活性水素基(b2)/活性水素基(b1)の値、およびイソシアネートみなし残基(A)/活性水素基(B)の値がともに本発明の範囲外である組成物であり、破断強度や破断伸度がやや劣る。また比較例2は(a2)と(b1)のSP値の差が大きい組成物であり、破断強度や破断伸度が著しく劣っている。
【0081】
以上、本発明の2液硬化型接着剤組成物について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0082】
1 硬化物
3 粒子状物
5 マトリックス
図1
図2