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特開2023-102253熱安定性が向上したクロラムフェニコール無毒化酵素、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102253
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】熱安定性が向上したクロラムフェニコール無毒化酵素、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20230714BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230714BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230714BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167553
(22)【出願日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022002013
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗宣
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050LL10
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
(57)【要約】
【課題】 熱安定性が向上したクロラムフェニコール無毒化酵素およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】配列番号1に示されるアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基をバリン残基、アラニン残基およびプロリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換すること、および/または、配列番号1に示されるアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基をセリン残基またはアラニン残基に置換すること、および/または、134番目のフェニルアラニン残基をアラニン残基またはメチオニン残基に置換すること、および/または、157番目のアスパラギン酸残基をシステイン残基、アラニン残基、グリシン残基、アスパラギン残基、ヒスチジン残基およびスレオニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換すること、および/または、198番目のグリシン残基をロイシン残基、システイン残基、スレオニン残基、バリン残基、アスパラギン残基、アラニン残基、イソロイシン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換すること、加えて、大腸菌を用いて当該クロラムフェニコール無毒化酵素を製造することにより、前記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)~(5)に記載のアミノ酸残基への置換をいずれか1つ以上含む、タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基の、バリン残基、アラニン残基およびプロリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基の、セリン残基またはアラニン残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の134番目のフェニルアラニン残基の、アラニン残基またはメチオニン残基への置換
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基の、システイン残基、アラニン残基、グリシン残基、アスパラギン残基、ヒスチジン残基およびスレオニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の198番目のグリシン残基の、ロイシン残基、システイン残基、スレオニン残基、バリン残基、アスパラギン残基、アラニン残基、イソロイシン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(b)前記(a)に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素のアミノ酸配列において、配列番号1の17番目、34番目、134番目、157番目および198番目のアミノ酸残基のいずれにも該当しないアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置においてのアミノ酸残基の置換、もしくは数個の位置において1もしくは数個のアミノ酸残基の欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を有するタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のいずれか1つ以上のアミノ酸配列について、アミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を有するタンパク質
【請求項2】
配列番号2から配列番号22のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
【請求項3】
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
【請求項4】
N末端の付加的なアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、請求項3に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素をコードするDNA。
【請求項6】
請求項5に記載の1項に記載のDNAを含有する発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した形質転換体であって、請求項1に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素を生産可能な形質転換体。
【請求項8】
宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
請求項7に記載の形質転換体を培養することによりクロラムフェニコール無毒化酵素を生産する工程、得られた培養物から生産されたクロラムフェニコール無毒化酵素を回収する工程、の2つの工程を含む、請求項1に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性が向上したクロラムフェニコール無毒化酵素である変異型クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌(Escherichia coli)などの細菌が産生するクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(Chloramphenicol acetyltransferase、CAT)は、細菌に対する抗生物質クロラムフェニコールにアセチル基を転移する酵素である。CATをコードする遺伝子(CAT遺伝子)を発現する細菌は、クロラムフェニコールに対する耐性を示すため、CAT遺伝子は遺伝子導入ベクターの選択マーカーや導入遺伝子の活性を測定するためのレポーター遺伝子として、クロラムフェニコール感受性の宿主細菌を用いた組換え生物の作製に広く使用されている。また、CAT自体の用途としては、CAT遺伝子の発現活性を測定する際の試薬として使用される。
【0003】
CAT遺伝子は様々な細菌由来の種々なアミノ酸配列のものが知られている。遺伝子導入ベクターの選択マーカーとして利用されるCAT遺伝子としては、大腸菌(Escherichia coli)のchloramphenicol acetyltransferase (Uniprot Accession number:P62577)などが知られている。
【0004】
前述した通り、CATは種々の生物内で発現し、クロラムフェニコールを無毒化し、宿主細菌にクロラムフェニコール耐性を付与するため、遺伝子組換え生物の作製や評価に有用である。しかし大腸菌等の常温性の細菌由来のCATは熱により失活や活性の低下が起きるため、発現させる宿主細菌の生育条件や、試薬としての製造や流通・保管条件に制約があった。熱安定性が向上したCATとして、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus由来のCATの138番目のアラニン残基をスレオニン残基等に置換することにより、CATの酵素活性を維持しながら熱安定性が向上することが知られている(非特許文献1)。また、当該変異型CATをコードする遺伝子をもつベクターにより形質転換した好熱性細菌が、高温培養下でクロラムフェニコール耐性を示すことから、好熱菌宿主細菌での選択マーカーとして有用であることが知られている(非特許文献2)。しかしながら、大腸菌をはじめとする細菌用のベクターの選択マーカーとして広く使用されている大腸菌由来のCATで、熱安定性が向上した変異型は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl. Microbiol. Biotechnol.、99巻、5563-5572頁、2015年
【非特許文献2】Appl. Environ. Microbiol.、81巻、7625-7632頁、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、熱に対する安定性が向上したクロラムフェニコール無毒化酵素とその遺伝子、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、配列番号1に示されるアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基をバリン残基、アラニン残基およびプロリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換すること、および/または、配列番号1に示されるアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基をセリン残基またはアラニン残基に置換すること、および/または、134番目のフェニルアラニン残基をアラニン残基またはメチオニン残基に置換すること、および/または、157番目のアスパラギン酸残基をシステイン残基、アラニン残基、グリシン残基、アスパラギン残基、ヒスチジン残基およびスレオニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換すること、および/または、198番目のグリシン残基をロイシン残基、システイン残基、スレオニン残基、バリン残基、アスパラギン残基、アラニン残基、イソロイシン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換することにより、クロラムフェニコール無毒化酵素活性を維持しつつ、熱に対する安定性が向上したクロラムフェニコール無毒化酵素が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]から[9]に記載した発明を包含するものである。
[1]
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)~(5)に記載のアミノ酸残基への置換をいずれか1つ以上含む、タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基の、バリン残基、アラニン残基およびプロリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基の、セリン残基またはアラニン残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の134番目のフェニルアラニン残基の、アラニン残基またはメチオニン残基への置換
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基の、システイン残基、アラニン残基、グリシン残基、アスパラギン残基、ヒスチジン残基およびスレオニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の198番目のグリシン残基の、ロイシン残基、システイン残基、スレオニン残基、バリン残基、アスパラギン残基、アラニン残基、イソロイシン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(b)前記(a)に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素のアミノ酸配列において、配列番号1の17番目、34番目、134番目、157番目および198番目のアミノ酸残基のいずれにも該当しないアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置においてのアミノ酸残基の置換、もしくは数個の位置において1もしくは数個のアミノ酸残基の欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を有するタンパク質
(c)前記(a)または(b)に記載のいずれか1つ以上のアミノ酸配列について、アミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を有するタンパク質
[2]
配列番号2から配列番号22のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、前記[1]に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
[3]
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する、前記[1]または[2]に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
[4]
N末端の付加的なアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素。
[5]
[1]から[4]のいずれか1項に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素をコードするDNA。
[6]
前記[5]に記載のDNAを含有する発現ベクター。
[7]
前記[6]に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した形質転換体であって、[1]から[4]のいずれか1項に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素を生産可能な形質転換体。
[8] 宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、前記[7]に記載の形質転換体。
[9]前記[7]または[8]に記載の形質転換体を培養することによりクロラムフェニコール無毒化酵素を生産する工程、得られた培養物から生産されたクロラムフェニコール無毒化酵素を回収する工程、の2つの工程を含む、[1]から[4]のいずれか1項に記載のクロラムフェニコール無毒化酵素の製造方法。
【0009】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素は、大腸菌(Escherichia coli)由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(Chloramphenicol acetyltransferase、CAT)のアミノ酸配列である配列番号1で示される219アミノ酸残基(Uniprot Accession number:P62577)を少なくとも含み、LB培地などを用いた遺伝子工学で一般的に用いられる培養条件下で宿主細菌が増殖可能な程度にクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を保持する限り、CATのアミノ酸配列の特定の位置にあるアミノ酸残基を置換することにより変異を導入した変異型CATも含む。また、CATのアミノ酸配列のN末端側またはC末端側に酵素活性を有しないポリペプチドや分子が付加されていてもよい。
本明細書において変異型CATとは、配列番号1で示されるCATのアミノ酸配列の特定のアミノ酸残基に対して、後述する実施例で示すように、変異導入を行ったものである。具体的には、配列番号1に示されるアミノ酸配列のうち、17番目のヒスチジン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号2)、17番目のヒスチジン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号3)、17番目のヒスチジン残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号4)、34番目のアスパラギン残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号5)、34番目のアスパラギン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号6)、134番目のフェニルアラニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号7)、134番目のフェニルアラニン残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号8)、157番目のアスパラギン酸残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号9)、157番目のアスパラギン酸残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号10)、157番目のアスパラギン酸残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号11)、157番目のアスパラギン酸残基をアスパラギン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号12)、157番目のアスパラギン酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号13)、157番目のアスパラギン酸残基をスレオニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号14)、198番目のグリシン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号15)、198番目のグリシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号16)、198番目のグリシン残基をスレオニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号17)、198番目のグリシン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号18)、198番目のグリシン残基をアスパラギン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号19)、198番目のグリシン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号20)、198番目のグリシン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号21)および198番目のグリシン残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列(配列番号22)のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。これらの変異型CATを含むクロラムフェニコール無毒化酵素は、後述する実施例で示すように、クロラムフェニコールを無毒化し宿主細菌にクロラムフェニコール耐性を与える酵素活性を維持しながら、配列番号1で示される変異導入を行っていないCATのアミノ酸配列を含む野生型のクロラムフェニコール無毒化酵素と比較して熱に対する安定性が向上しており、熱安定性が最も高い点で、配列番号9で示される変異型CATを含むクロラムフェニコール無毒化酵素が好ましい。
【0011】
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素は、クロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(i)または(ii)のバリアント配列を有するタンパク質であってもよい。
(i)17番目のヒスチジン残基、34番目のアスパラギン残基、134番目のフェニルアラニン残基、157番目のアスパラギン酸残基および198番目のグリシン残基のいずれにも該当しないアミノ酸残基のいずれか1もしくは数個のアミノ酸残基が、任意のアミノ酸残基に置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有したタンパク質
(ii)(i)に記載のタンパク質のうち、アミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含むタンパク質。
【0012】
前記(i)において「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1個以上20個以下、1個以上10個以下、1個以上5個以下、1個以上3個以下のいずれかを意味する。また、「置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上」には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いなどに基づく、天然にも生じ得る変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0013】
前記(i)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上であればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本発明において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。アミノ酸配列間の同一性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の類似性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(Alignment program)を利用して決定できる。
【0014】
また、本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素は、宿主細菌が生育できる程度にクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、SUMO(small ubiquitin related modifier)タグ、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。中でも、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより組換えタンパク質の精製が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列が好ましい。
【0015】
本発明のポリヌクレオチドは、Polymerase Chain Reaction(PCR)法や化学合成法など当業者が通常行う方法で得ればよい。本発明のポリヌクレオチドとして、具体的には、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号26のポリヌクレオチドの配列、配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号28のポリヌクレオチドの配列、配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号30のポリヌクレオチドの配列、配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号32のポリヌクレオチド、配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号34のポリヌクレオチドの配列、配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号36のポリヌクレオチドの配列、配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号38のポリヌクレオチドの配列、配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号40のポリヌクレオチドの配列、配列番号10のアミノ酸配列をコードする配列番号42のポリヌクレオチドの配列、配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号44のポリヌクレオチドの配列、配列番号12のアミノ酸配列をコードする配列番号46のポリヌクレオチドの配列、配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号48のポリヌクレオチドの配列、配列番号14のアミノ酸配列をコードする配列番号50のポリヌクレオチドの配列、配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号52のポリヌクレオチドの配列、配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号54のポリヌクレオチドの配列、配列番号17のアミノ酸配列をコードする配列番号56のポリヌクレオチドの配列、配列番号18のアミノ酸配列をコードする配列番号58のポリヌクレオチドの配列、配列番号19のアミノ酸配列をコードする配列番号60のポリヌクレオチドの配列、配列番号20のアミノ酸配列をコードする配列番号62のポリヌクレオチドの配列、配列番号21のアミノ酸配列をコードする配列番号64のポリヌクレオチドの配列および配列番号22のアミノ酸配列をコードする配列番号66のポリヌクレオチドの配列の配列が挙げられる。
【0016】
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素を生産可能な形質転換体を得るには、当業者が通常用いる方法でよく、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入して当該タンパク質の発現ベクターを作製後、当該ベクターを用いて宿主を形質転換し、得ればよい。前記宿主は特に制限はないが、遺伝子工学に関する実験が容易な点で大腸菌(Escherichia coli)が好ましく、具体的には、大腸菌JM109株、大腸菌BL21株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌NiCo21(DE3)株、大腸菌W3110株が挙げられる。また、前記発現ベクターも特に制限はないが、実験が容易である点で、大腸菌宿主で使用可能な発現ベクターが好ましく、具体的には、pETベクター、pTrcベクター、pCDFベクター、pUCベクターおよびpBBRベクター等のプラスミドベクターが挙げられる。
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素の製造は、当業者が通常行う方法でよく、前記形質転換体を用いて発現培養を行い、培養物から目的の組換えタンパク質を回収・精製すればよい。なお、本発明の培養物とは、培養された形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素の熱安定性の評価は、当業者が通常行う方法でよく、Thermal shift Assay法や示差走査熱量計により行うことができる。一例として、Thermal shift Assay法でタンパク質の構造変化をモニターする色素としてSYPRO Orangeを用いた方法を挙げることができる。
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素の酵素活性の評価は、当業者が通常行う方法でよく、クロラムフェニコールを含む培地での組換え細菌の生育を観察することにより行うことができる。一例として、クロラムフェニコールを添加した寒天培地に組換え細菌を塗抹した後に培養し、コロニーの出現の有無により酵素活性の有無を評価する方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクロラムフェニコール無毒化酵素は、特定の位置にあるアミノ酸残基を置換することにより、クロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を維持しながら熱安定性を向上させたものであり、当該酵素を用いることにより、温度変化による酵素活性の低下や失活を抑え、安定な酵素活性を発揮することができる。
【実施例0018】
以下、作製例、実施例、比較例および実験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
比較例1 野生型CATを含む組換えタンパク質6H-CATの作製
野生型CATを含む組換えタンパク質として6H-CATを設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>大腸菌由来のchloramphenicol acetyltransferase(CAT、Uniprot Accession number:P62577、219アミノ酸残基)(配列番号1)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号23)を含むポリヌクレオチドを、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、野生型CATを含む組換えタンパク質6H-CAT(配列番号24)を大腸菌で発現可能なベクターpET_6H-CATを作製した。作製した発現ベクターを表1に記載した。なお、形質転換体の作製は、後述の<2>に記載した。また実施例1から21および比較例2から10については、後述の作製例1から6に記載した。
【0019】
【表1】
【0020】
<2><1>で作製した発現ベクターpET_6H-CATで、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、組換え大腸菌(形質転換体)EC_6H-CATを得た。なお、大腸菌BL21(DE3)はCAT遺伝子を持たないため、クロラムフェニコール感受性である。
【0021】
<3>得られた形質転換体を30μg/mLのカナマイシンを添加したLB液体培地に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行なった。
【0022】
<4><3>の前培養液を30μg/mLのカナマイシンを添加したLB液体培地に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(OD600nm)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、IPTGを0.5mM添加した後、4時間培養することで、6H-CATを発現させた。
【0023】
<5>BugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて、メーカープロトコルに従い菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの6H-CATの精製は、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行なった。クロマトグラフィーの溶出は溶出用緩衝液(50mM リン酸ナトリウム緩衝液、150mM 塩化ナトリウム、250mMイミダゾール、pH8.0)により行った。
【0024】
作製例1 CATのアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基変異型の作製
野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の17番目のヒスチジン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の17番目のヒスチジン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターの作製は、比較例1<1>に記載と同様の方法で作製した。
【0025】
発現ベクターpET_6H-CAT(H17V)は組換えタンパク質6H-CAT(H17V)(配列番号25)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(H17V)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基をバリン残基に置換した変異型CATであるCAT(H17V)(配列番号2)を含む。発現ベクターの作製はCAT(H17V)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号26)を用いた。
【0026】
発現ベクターpET_6H-CAT(H17A)は組換えタンパク質6H-CAT(H17A)(配列番号27)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(H17A)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基をアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(H17A)(配列番号3)を含む。発現ベクターの作製はCAT(H17A)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号28)を用いた。
【0027】
発現ベクターpET_6H-CAT(H17P)は組換えタンパク質6H-CAT(H17P)(配列番号29)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(H17P)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の17番目のヒスチジン残基をプロリン残基に置換した変異型CATであるCAT(H17P)(配列番号4)を含む。発現ベクターの作製はCAT(H17P)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号30)を用いた。
【0028】
<2>比較例1<2>に記載と同様な方法で、前記<1>で作製した発現ベクターにより、変異型CATを含む組換えタンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。発現ベクターpET_6H-CAT(H17V)の形質転換体としてEC_6H-CAT(H17V)、発現ベクターpET_6H-CAT(H17A)の形質転換体としてEC_6H-CAT(H17A)、発現ベクターpET_6H-CAT(H17P)の形質転換体としてEC_6H-CAT(H17P)を取得した。取得した形質転換体を用いて、比較例1<3>から<5>に記載と同様な方法で変異型CATを含む組換えタンパク質溶液を得た。
【0029】
作製例2 CATのアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基変異型の作製
野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の34番目のアスパラギン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の34番目のアスパラギン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターの作製は、比較例1<1>に記載と同様の方法で作製した。
発現ベクターpET_6H-CAT(N34S)は組換えタンパク質6H-CAT(N34S)(配列番号31)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(N34S)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基をセリン残基に置換した変異型CATであるCAT(N34S)(配列番号5)を含む。発現ベクターの作製はCAT(N34S)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号32)を用いた。
【0030】
発現ベクターpET_6H-CAT(N34A)は組換えタンパク質6H-CAT(N34A)(配列番号33)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(N34A)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の34番目のアスパラギン残基をアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(N34A)(配列番号6)を含む。発現ベクターの作製はCAT(N34A)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号34)を用いた。
【0031】
<2>比較例1<2>に記載と同様な方法で、前記<1>で作製した発現ベクターにより、変異型CATを含む組換えタンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。発現ベクターpET_6H-CAT(N34S)の形質転換体としてEC_6H-CAT(N34S)、発現ベクターpET_6H-CAT(N34A)の形質転換体としてEC_6H-CAT(N34A)を取得した。取得した形質転換体を用いて、比較例1<3>から<5>に記載と同様な方法で変異型CATを含む組換えタンパク質溶液を得た。
【0032】
作製例3 CATのアミノ酸配列の134番目のフェニルアラニン残基変異型の作製
野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の134番目のフェニルアラニン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の134番目のフェニルアラニン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターの作製は、比較例1<1>に記載と同様の方法で作製した。
【0033】
発現ベクターpET_6H-CAT(F134A)は組換えタンパク質6H-CAT(F134A)(配列番号35)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(F134A)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の134番目のフェニルアラニン残基をアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(F134A)(配列番号7)を含む。発現ベクターの作製はCAT(F134A)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号36)を用いた。
【0034】
発現ベクターpET_6H-CAT(F134M)は組換えタンパク質6H-CAT(F134M)(配列番号37)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(F134M)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の134番目のフェニルアラニン残基をメチオニン残基に置換した変異型CATであるCAT(F134M)(配列番号8)を含む。発現ベクターの作製はCAT(F134M)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号38)を用いた。
【0035】
<2>比較例1<2>に記載と同様な方法で、前記<1>で作製した発現ベクターにより、変異型CATを含む組換えタンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。発現ベクターpET_6H-CAT(F134A)の形質転換体としてEC_6H-CAT(F134A)、発現ベクターpET_6H-CAT(F134M)の形質転換体としてEC_6H-CAT(F134M)を取得した。取得した形質転換体を用いて、比較例1<3>から<5>に記載と同様な方法で変異型CATを含む組換えタンパク質溶液を得た。
【0036】
作製例4 CATのアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基変異型の作製
野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の157番目のアスパラギン酸残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の157番目のアスパラギン酸残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターの作製は、比較例1<1>に記載と同様の方法で作製した。
【0037】
発現ベクターpET_6H-CAT(D157C)は組換えタンパク質6H-CAT(D157C)(配列番号39)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(D157C)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基をシステイン残基に置換した変異型CATであるCAT(D157C)(配列番号9)を含む。発現ベクターの作製はCAT(D157C)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号40)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(D157A)は組換えタンパク質6H-CAT(D157A)(配列番号41)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(D157A)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基をアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(D157A)(配列番号10)を含む。発現ベクターの作製はCAT(D157A)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号42)を用いた。
【0038】
発現ベクターpET_6H-CAT(D157G)は組換えタンパク質6H-CAT(D157G)(配列番号43)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(D157G)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基をグリシン残基に置換した変異型CATであるCAT(D157G)(配列番号11)を含む。発現ベクターの作製はCAT(D157G)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号44)を用いた。
【0039】
発現ベクターpET_6H-CAT(D157N)は組換えタンパク質6H-CAT(D157N)(配列番号45)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(D157N)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基をアスパラギン残基に置換した変異型CATであるCAT(D157N)(配列番号12)を含む。発現ベクターの作製はCAT(D157N)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号46)を用いた。
【0040】
発現ベクターpET_6H-CAT(D157H)は組換えタンパク質6H-CAT(D157H)(配列番号47)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(D157H)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基をヒスチジン残基に置換した変異型CATであるCAT(D157H)(配列番号13)を含む。発現ベクターの作製はCAT(D157H)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号48)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(D157T)は組換えタンパク質6H-CAT(D157T)(配列番号49)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(D157T)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の157番目のアスパラギン酸残基をスレオニン残基に置換した変異型CATであるCAT(D157T)(配列番号14)を含む。発現ベクターの作製はCAT(D157T)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号50)を用いた。
【0041】
<2>比較例1<2>に記載と同様な方法で、前記<1>で作製した発現ベクターにより、変異型CATを含む組換えタンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。発現ベクターpET_6H-CAT(D157C)の形質転換体としてEC_6H-CAT(D157C)、発現ベクターpET_6H-CAT(D157A)の形質転換体としてEC_6H-CAT(D157A)、発現ベクターpET_6H-CAT(D157G)の形質転換体としてEC_6H-CAT(D157G)、発現ベクターpET_6H-CAT(D157N)の形質転換体としてEC_6H-CAT(D157N)、発現ベクターpET_6H-CAT(D157H)の形質転換体としてEC_6H-CAT(D157H)、発現ベクターpET_6H-CAT(D157T)の形質転換体としてEC_6H-CAT(D157T)を取得した。取得した形質転換体を用いて、比較例1<3>から<5>に記載と同様な方法で変異型CATを含む組換えタンパク質溶液を得た。
【0042】
作製例5 CATのアミノ酸配列の198番目のグリシン残基変異型の作製
野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の198番目のグリシン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の198番目のグリシン残基を置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターの作製は、比較例1<1>に記載と同様の方法で作製した。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198L)は組換えタンパク質6H-CAT(G198L)(配列番号51)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198L)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をロイシン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198L)(配列番号15)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198L)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号52)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198C)は組換えタンパク質6H-CAT(G198C)(配列番号53)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198C)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をシステイン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198C)(配列番号16)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198C)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号54)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198T)は組換えタンパク質6H-CAT(G198T)(配列番号55)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198T)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をスレオニン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198T)(配列番号17)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198T)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号56)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198V)は組換えタンパク質6H-CAT(G198V)(配列番号57)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198V)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をバリン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198V)(配列番号18)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198V)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号58)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198N)は組換えタンパク質6H-CAT(G198N)(配列番号59)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198N)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をアスパラギン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198N)(配列番号19)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198N)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号60)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198A)は組換えタンパク質6H-CAT(G198A)(配列番号61)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198A)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198A)(配列番号20)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198A)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号62)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198I)は組換えタンパク質6H-CAT(G198I)(配列番号63)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198I)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をイソロイシン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198I)(配列番号21)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198I)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号64)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198S)は組換えタンパク質6H-CAT(G198S)(配列番号65)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198S)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をセリン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198S)(配列番号22)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198S)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号66)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198P)は組換えタンパク質6H-CAT(G198P)(配列番号67)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198P)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をプロリン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198P)(配列番号68)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198P)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号69)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198M)は組換えタンパク質6H-CAT(G198M)(配列番号70)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198M)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をメチオニン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198M)(配列番号71)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198M)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号72)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198F)は組換えタンパク質6H-CAT(G198F)(配列番号73)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198F)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をフェニルアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198F)(配列番号74)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198F)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号75)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198Y)は組換えタンパク質6H-CAT(G198Y)(配列番号76)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198Y)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をチロシン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198Y)(配列番号77)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198Y)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号78)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198Q)は組換えタンパク質6H-CAT(G198Q)(配列番号79)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198Q)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をグルタミン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198Q)(配列番号80)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198Q)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号81)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198E)は組換えタンパク質6H-CAT(G198E)(配列番号82)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198E)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をグルタミン酸残基に置換した変異型CATであるCAT(G198E)(配列番号83)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198E)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号84)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198H)は組換えタンパク質6H-CAT(G198H)(配列番号85)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198H)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をヒスチジン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198H)(配列番号86)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198H)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号87)を用いた。
発現ベクターpET_6H-CAT(G198K)は組換えタンパク質6H-CAT(G198K)(配列番号88)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(G198K)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の198番目のグリシン残基をリジン残基に置換した変異型CATであるCAT(G198K)(配列番号89)を含む。発現ベクターの作製はCAT(G198K)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号90)を用いた。
【0043】
<2>比較例1<2>に記載と同様な方法で、前記<1>で作製した発現ベクターにより、変異型CATを含む組換えタンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。発現ベクターpET_6H-CAT(G198L)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198L)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198C)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198C)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198T)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198T)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198V)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198V)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198N)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198N)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198A)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198A)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198I)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198I)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198S)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198S)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198P)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198P)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198M)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198M)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198F)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198F)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198Y)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198Y)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198Q)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198Q)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198E)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198E)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198H)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198H)、発現ベクターpET_6H-CAT(G198K)の形質転換体としてEC_6H-CAT(G198K)を取得した。取得した形質転換体を用いて、比較例1<3>から<5>に記載と同様な方法で変異型CATを含む組換えタンパク質溶液を得た。
【0044】
作製例6 CATのアミノ酸配列の152番目のセリン残基変異型の作製
野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の152番目のセリン残基をアラニン残基に置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を設計し、当該タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて作製した。
<1>野生型CATのアミノ酸配列(配列番号1)の152番目のセリン残基をアラニン残基に置換した変異型CATを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターの作製は、比較例1<1>に記載と同様の方法で作製した。
【0045】
発現ベクターpET_6H-CAT(S152A)は組換えタンパク質6H-CAT(S152A)(配列番号91)を発現可能なベクターであり、組換えタンパク質6H-CAT(S152A)は、CAT(配列番号1)のアミノ酸配列の152番目のセリン残基をアラニン残基に置換した変異型CATであるCAT(S152A)(配列番号92)を含む。発現ベクターの作製はCAT(S152A)をコードするポリヌクレオチドの配列(配列番号93)を用いた。
【0046】
<2>比較例1<2>に記載と同様な方法で、前記<1>で作製した発現ベクターにより、変異型CATを含む組換えタンパク質を発現可能な形質転換体を取得した。発現ベクターpET_6H-CAT(S152A)の形質転換体としてEC_6H-CAT(S152A)を取得した。取得した形質転換体を用いて、比較例1<3>から<5>に記載と同様な方法で変異型CATを含む組換えタンパク質溶液を得た。
実験例1 組換えタンパク質の熱安定性評価
作製した組換えタンパク質のうち、比較例1の野生型CATを含む組換えタンパク質、および作製例1,2,4および6の変異型CATを含む組換えタンパク質のうち置換後のアミノ酸残基がアラニン残基である変異型の熱安定性評価は、組換えタンパク質のニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィー溶出液を使用してThermal shift Assay法により行った。Thermal shift AssayはリアルタイムPCR装置QuantStudio1(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を使用し、反応液の組成は、作製例1、2、4および6、比較例1で作製した組換えタンパク質溶液を終濃度15%(v/v)(タンパク質溶液の280nmの紫外線吸光度がおおよそ0.5~2)、20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 8.0)、150mM 塩化ナトリウム、0.5%(v/v)SYPRO Orangeとし、昇温温度40℃から90℃、昇温速度0.05℃/sで反応させた。得られた蛍光強度のグラフから、ピークの中点にあたる温度を変性中点温度(Tm)とした。測定は2回以上行い、平均値を記載した。
【0047】
表2に、比較例1で作製した野生型CATを含む組換えタンパク質および作製例1,2,4および6で作製した変異型CATを含む組換えタンパク質のうちアラニン残基に置換した変異型である実施例2,5,9,比較例10の熱安定性評価の結果を示した。実施例2,5,9,比較例10の組換えタンパク質はすべて比較例1の野生型CATを含む組換えタンパク質6H-CATより高い変性中点温度を示した。なお、酵素活性の評価は、後述の実験例3に記載した。
【0048】
【表2】
【0049】
実験例2 組換えタンパク質の濃度を一律にした反応液での熱安定性評価
作製した組換えタンパク質を限外ろ過膜によりバッファー交換を行い、タンパク質濃度を一律にした反応液を用いてThermal shift Assay法により熱安定性評価を行った。変性中点温度は解析ソフトを用いて算出した。
【0050】
作製例1から6および比較例1で作製した組換えタンパク質溶液は限外ろ過膜を用いて精製タンパク質緩衝液(50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、150mM 塩化ナトリウム、2mM DTT、10%グリセロール)にバッファー交換を行い、紫外線吸光光度法によりタンパク質濃度を測定し、濃度が1または2mg/mLになるよう調整した。濃度の補正はA280=1を0.634mg/mLとした。補正値の算出は、
https://web.expasy.org/protparam/により野生型CATを含む6H-CATのアミノ酸配列(配列番号24)から決定した。Thermal shift Assay法の組成液は、0.3mg/mL 組換えタンパク質、50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、150mM 塩化ナトリウム、2mM DTT、3%(v/v)グリセロール、0.5%(v/v)SYPRO orangeとし、昇温温度40℃から98℃、昇温速度0.05℃/sで反応させた。得られた蛍光強度のグラフを解析ソフトProtein Thermal Shift Software(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)で解析し、ピークの中点にあたる温度である変性中点温度(Tm)を決定した。測定は2回以上行い、平均値を記載した。
表2に、実施例1から21、比較例1から10の組換えタンパク質の濃度を0.3 mg/mLに調製して測定した熱安定性評価の結果を示した。比較例2から9および実施例1から21はすべて比較例1の野生型CATを含む組換えタンパク質6H-CATより高い変性中点温度を示した。一方、比較例10の組換えタンパク質6H―CAT(S152A)は、比較例1より低い変性中点温度を示し、熱安定性の向上は確認できなかった。実験例1と実験例2では、変性中点温度に若干の差があるが、実験例2の方がタンパク質濃度を一律にした精度の高い測定法であるため、熱安定性の判断は実験例2の測定値に従った。なお、酵素活性の評価は、後述の実験例3に記載した。
実験例3 組換えタンパク質の酵素活性の評価
クロラムフェニコール無毒化酵素活性の評価は、野生型または変異型CATを含む組換えタンパク質を生産可能な組換え細菌(形質転換体)の、クロラムフェニコールを含む寒天培地上での生育の有無により行った。比較例1<2>または作製例1<2>で得られた組換え大腸菌を30μg/mLのカナマイシンを添加したLB寒天培地に塗抹し、37℃で一昼夜培養してコロニーを形成させた。次に、30μg/mLのクロラムフェニコールと30μg/mLのカナマイシンを添加したLB寒天培地に、カナマイシンを添加した培地で得られたコロニーを塗抹し、37℃で一昼夜培養してコロニー形成の有無を観察した。なお、比較例11として、CAT遺伝子を導入していないpET28a(+)(メルク製)の形質転換体EC_vectorを比較例1<2>に記載と同様な方法で作製し、同様に評価した。
表2に示す通り、比較例1から10および実施例1から21で作製した組換えタンパク質を発現可能な組換え細菌のうち、比較例1,10,実施例1から21がクロラムフェニコールを含む寒天培地上でコロニーを形成した。一方、CAT遺伝子を持たない形質転換体EC_vectorを用いた比較例11はコロニーを形成しなかった。以上の結果より、実施例1から21の変異型CATを含む組換えタンパク質は、比較例1の野生型CATタンパク質を含む組換えタンパク質と同様にクロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を維持しており、かつ、実験例2の結果から、比較例1の野生型CATタンパク質を含む組換えタンパク質より高い熱安定性を示すことが示唆される。一方、比較例2から10の変異型CATを含む組換えタンパク質は、クロラムフェニコールを無毒化する酵素活性を失っているか、または、実験例2の結果から、比較例1の野生型CATタンパク質を含む組換えタンパク質より低い熱安定性であることが示唆された。
【配列表】
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