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特開2023-102338船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法及び船舶甲板用遮音性床構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102338
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法及び船舶甲板用遮音性床構造体
(51)【国際特許分類】
   B63B 3/48 20060101AFI20230718BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 28/06 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 111/62 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
B63B3/48
C04B22/14 B
C04B24/26 E
C04B24/38 B
C04B18/14 A
C04B24/32 A
C04B22/10
C04B24/06 A
C04B24/26 D
C04B24/26 C
C04B28/06
C04B111:62
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002744
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】宇部興産建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112MB23
4G112PA29
4G112PB08
4G112PB17
4G112PB30
4G112PB31
4G112PB36
4G112PB39
(57)【要約】
【課題】樹脂材料により制振材層を形成する場合において、制振材層と他の層との層間接着性に優れる船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法を提供すること。
【解決手段】船舶甲板床上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、制振材層を形成する工程と、制振材層の上面に、自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルを流し込み硬化させ、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する工程と、を備え、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が51~100質量部であり、合成樹脂がエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含む、船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶甲板床上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、制振材層を形成する工程と、
前記制振材層の上面に、自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルを流し込み硬化させ、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する工程と、を備え、
前記第一の樹脂モルタルにおいて、前記セメント組成物100質量部に対する前記合成樹脂の量が51~100質量部であり、かつ前記合成樹脂がエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含む、
船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法。
【請求項2】
前記船舶甲板床上面に、前記制振材層を形成する前記工程と、
前記制振材層の上面に、鋼板からなる拘束層を貼り付ける工程と、
前記拘束層の上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第二の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、接着材層を形成する工程と、
前記接着材層の上面に、自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルを流し込み硬化させ、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する工程と、を備え、
前記第二の樹脂モルタルにおいて、前記セメント組成物100質量部に対する前記合成樹脂の量が25~100質量部である、請求項1に記載の船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法。
【請求項3】
前記セメント組成物が、アルミナセメント100質量部に対して、細骨材150~300質量部及び無機充填材1~100質量部を含み、前記細骨材の最大粒子径が425μm以下である、請求項1又は2に記載の施工方法。
【請求項4】
前記自己流動性水硬性組成物が、セメント及び石膏からなる水硬性成分、細骨材、減水剤、並びに増粘剤と、無機微粉末、消泡剤、凝結調整剤、及び樹脂粉末からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の施工方法。
【請求項5】
船舶甲板床、制振材層、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を備え、
前記制振材層が、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルの硬化物であり、前記第一の樹脂モルタルにおいて、前記セメント組成物100質量部に対する前記合成樹脂の量が51~100質量部であり、かつ前記合成樹脂がエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含み、
前記モルタル硬化体下地層が自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルの硬化物である、船舶甲板用遮音性床構造体。
【請求項6】
前記船舶甲板床、前記制振材層、鋼板からなる拘束層、接着材層、及び前記セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を備え、
前記接着材層が、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第二の樹脂モルタルの硬化物であり、前記第二の樹脂モルタルにおいて、前記セメント組成物100質量部に対する前記合成樹脂の量が25~100質量部である、請求項5に記載の、船舶甲板用遮音性床構造体。
【請求項7】
前記セメント組成物が、アルミナセメント100質量部に対して、細骨材150~300質量部及び無機充填材1~100質量部を含み、前記細骨材の最大粒子径が425μm以下である、請求項5又は6に記載の船舶甲板用遮音性床構造体。
【請求項8】
前記自己流動性水硬性組成物が、セメント及び石膏からなる水硬性成分、細骨材、減水剤、並びに増粘剤と、無機微粉末、消泡剤、凝結調整剤、及び樹脂粉末からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の船舶甲板用遮音性床構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法及び船舶甲板用遮音性床構造体に関する。本発明は、具体的には、船舶の居住区域等の一次甲板床張材として用いられる船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法及び船舶甲板用遮音性床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶においては、鋼板で形成される甲板上に一次甲板床張り材を施工し、その上に化粧タイルやカーペットなどの仕上げ材を施工し、船舶床を形成している。これにより、船舶内の居室、共用通路、食堂等の共用区域における歩行時の障害や騒音を抑制して、居住性を改善している。2012年に採択された騒音コードの改訂と義務化により、2018年以降の、引渡し船舶の居住区等の船内騒音に対し、改訂音響コードに基づく遮音材の設置が義務化され、仕切り材の防音性能の規制値が規定された。
【0003】
この居住性改善のため、床張り材の下にアクリル系やウレタン系樹脂からなる制振材層を設けて遮音性を向上させる試みがなされている。例えば特許文献1には、船舶の鋼板上に施工される層構造材であって、少なくとも制振層と下地層とからなり、該制振層がアクリル樹脂系エマルジョンを含む配合物からなり、該下地が合成ゴムラテックスを含有するセメントであることを特徴とする船舶用構造材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004‐249805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂材料を用いて制振材層を形成する場合、鋼板や船舶用レベリング材(デッキコンポジション)との接着性において改善の余地がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、樹脂材料により制振材層を形成する場合において、制振材層と他の層との層間接着性に優れる船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記層間接着性に優れる船舶甲板用遮音性床構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、船舶甲板床上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、制振材層を形成する工程と、制振材層の上面に、自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルを流し込み硬化させ、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する工程と、を備え、第一の樹脂モルタルにおいて、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が51~100質量部であり、かつ合成樹脂がエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含む、船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法を提供する。
【0008】
本開示の他の側面は、船舶甲板床、制振材層、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を備え、制振材層が、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルの硬化物であり、第一の樹脂モルタルにおいて、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が51~100質量部であり、かつ合成樹脂がエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含み、モルタル硬化体下地層が自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルの硬化物である、船舶甲板用遮音性床構造体を提供する。
【0009】
船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法の一態様は、船舶甲板床上面に、制振材層を形成する工程と、制振材層の上面に、鋼板からなる拘束層を貼り付ける工程と、拘束層の上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第二の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、接着材層を形成する工程と、接着材層の上面に、自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルを流し込み硬化させ、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する工程と、を備えてよい。また、第二の樹脂モルタルにおいて、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が25~100質量部であってよい。
【0010】
船舶甲板用遮音性床構造体の一態様は、船舶甲板床、制振材層、鋼板からなる拘束層、接着材層、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を備えてよい。また、接着材層が、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第二の樹脂モルタルの硬化物であり、第二の樹脂モルタルにおいて、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が25~100質量部であってよい。
【0011】
一態様において、セメント組成物が、アルミナセメント100質量部に対して、細骨材150~300質量部及び無機充填材1~100質量部を含んでいてよく、また細骨材の最大粒子径が425μm以下であってよい。
【0012】
一態様において、自己流動性水硬性組成物が、セメント及び石膏からなる水硬性成分、細骨材、減水剤、並びに増粘剤と、無機微粉末、消泡剤、凝結調整剤、及び樹脂粉末からなる群より選択される少なくとも1種と、を含んでよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂材料により制振材層を形成する場合において、制振材層と他の層との層間接着性に優れる船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記層間接着性に優れる船舶甲板用遮音性床構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施形態に係る船舶甲板用遮音性床構造体の断面模式図である。
図2図2は、他の実施形態に係る船舶甲板用遮音性床構造体の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
<船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法>
船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法は、船舶甲板床上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、制振材層を形成する工程と(制振材層形成工程)、制振材層の上面に、自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルを流し込み硬化させ、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する工程と(モルタル硬化体下地層形成工程)、を備える。
【0017】
船舶甲板用遮音性床構造体の施工方法は、制振材層形成工程と、制振材層の上面に、鋼板からなる拘束層を貼り付ける工程と(拘束層貼付工程)、拘束層の上面に、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第二の樹脂モルタルを塗布して硬化させ、接着材層を形成する工程と(接着材層形成工程)、接着材層の上面にモルタル硬化体下地層を形成するモルタル硬化体下地層形成工程とを備えるものであってもよい。
【0018】
(制振材層形成工程)
セメント組成物は、アルミナセメント、細骨材及び無機充填材を含むことができる。
【0019】
アルミナセメントは、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、それらの主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。なかでも、2800~4000cm/gのブレーン比表面積を有するアルミナセメントを用いることが好ましい。
【0020】
細骨材としては、表面精度の面から7~8号のものを使用することが適当である。細骨材の最大粒子径は425μm以下であることが好ましく、細骨材100質量%中に300μm超の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含むことが好ましい。このような細骨材として、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類、スラグ細骨材、再生細骨材、から適宜選択して用いることができる。特に細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂及び砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
【0021】
無機充填材は、特に、酸化チタン等の無機顔料、又はタルク微粉末等の層状珪酸塩であるフィロケイ酸塩鉱物微粉末から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0022】
フィロケイ酸塩鉱物微粉末としては、タルク、蛇紋岩、雲母、パイロフィライトを使用することができるが、特にタルクが好ましい。さらに、作業性及び増粘性の面から5~20μm程度の平均粒子径を持つものの使用が好ましい。
【0023】
セメント組成物における細骨材の量は、強度、作業性、コスト等の観点から、アルミナセメント100質量部に対して、150~300質量部であることが好ましい。また、セメント組成物における無機充填材の量は、強度、作業性、コスト等の観点から、アルミナセメント100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましい。
【0024】
第一の樹脂モルタルにおいて、合成樹脂のエマルジョン(合成樹脂エマルジョン)は、分散質がエチレン・酢酸ビニル共重合体である分散系溶液である。合成樹脂は、作業性、コスト等の観点からエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含む。本発明の性質を損なわない範囲で、合成樹脂はエチレン・酢酸ビニル共重合体以外の樹脂を含むことができる。合成樹脂のエマルジョンは、合成樹脂を含む固形分を水に分散させたものである。合成樹脂のエマルジョン100質量%中の固形分量は、好ましくは40~70質量%である。また、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量(エマルジョン中の固形分量)は、51~100質量部であり、好ましくは60~85質量部であり、より好ましくは65~75質量部である。合成樹脂のガラス転移温度(Tg)は、低温下での下地追従性に優れる観点から、10℃以下であることが好ましい。
【0025】
樹脂モルタルは、乾燥時間や流動性等を調整するため、本発明の特性を損なわない範囲でさらに添加剤を含むことができる。添加剤としては、一般的に用いられる凝結調整剤、消泡剤、増粘剤又は流動化剤などを挙げることができる。
【0026】
本工程では、上記の第一の樹脂モルタルを、例えば鋼製の船舶甲板床(鋼製の基盤)上面に塗布して硬化させ、接着性を有する制振材層を形成する。具体的には、船舶甲板床の表面へ、セメント組成物と合成樹脂のエマルジョンとを混練して調製した第一の樹脂モルタルを塗布する。混練にはハンドミキサーを用いることが好ましい。均質な混練物を得るべく、混練時間は少なくとも3分間であることが好ましい。樹脂モルタルは、ローラー、ゴム製や金属製のヘラ、コテなどを用いて、塗布することが好ましい。施工厚さは0.3~2.0mmが好ましく、0.5~1.5mmがより好ましい。樹脂モルタルを施工してから次の工程として、セルフレベリング性モルタルスラリーの流し込み工程に移行する場合の期間は、1.0時間以上であることが好ましい。次の工程として、拘束板設置工程に移行する場合の期間は、10分間~1.0時間であることが好ましい。
【0027】
(拘束層貼付工程)
拘束層としては金属製の平板、例えば鋼板、鉛板、ステンレス等の合金の板が挙げられる。必要に応じ拘束層を設けることにより、遮音性をより向上することができる。拘束層の厚さは特に制限されないが、0.5~6mmとすることができる。拘束層は、制振材層が有する接着性により制振材層に貼り付けられる。
【0028】
(接着材層形成工程)
セメント組成物は、アルミナセメント、細骨材及び無機充填材を含むことができる。セメント組成物の詳細については、制振材層形成工程の記載が適宜参照される。
【0029】
第二の樹脂モルタルにおいて、合成樹脂のエマルジョン(合成樹脂エマルジョン)は、分散質が合成樹脂である分散系溶液である。合成樹脂は、作業性、コスト等の観点から、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-ベオバ共重合体、スチレン-アクリル共重合体を含むことが好ましく、特にエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含むことがより好ましい。本発明の性質を損なわない範囲で、合成樹脂はエチレン・酢酸ビニル共重合体以外の樹脂を含むことができる。合成樹脂のエマルジョンは、合成樹脂を含む固形分を水に分散させたものである。合成樹脂のエマルジョン100質量%中の固形分量は、好ましくは40~70質量%である。また、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量(エマルジョン中の固形分量)は、25~100質量部であり、好ましくは30~85質量部であり、より好ましくは35~75質量部である。合成樹脂のガラス転移温度(Tg)は、低温下での下地追従性に優れる観点から、10℃以下であることが好ましい。
【0030】
第二の樹脂モルタルは、乾燥時間や流動性等を調整するため、本発明の特性を損なわない範囲でさらに添加剤を含むことができる。添加剤としては、一般的に用いられる凝結調整剤、消泡剤、増粘剤又は流動化剤などを挙げることができる。
【0031】
本工程は、拘束層を設ける場合に実施される。本工程では、上記の第二の樹脂モルタルを拘束層上面に塗布して硬化させ、接着材層(樹脂モルタル硬化層)を形成する。施工方法の詳細は、制振材層形成工程の記載が適宜参照される。
【0032】
(モルタル硬化体下地層形成工程)
自己流動性水硬性組成物は、セメント及び石膏からなる水硬性成分を含むことが好ましい。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメント、アルミナセメントを用いることができる。アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。セメントの含有量は、水硬性成分の全量を基準として、好ましくは65~85質量%である。
【0033】
水硬性成分は、ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏を含むことが好ましい。ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏を含む3成分系の水硬性成分を用いることで、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすい。
【0034】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏を一種単独で又は二種以上の混合物として使用できる。石膏は、モルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。石膏の含有量は、水硬性成分の全量を基準として、好ましくは15~35質量%である。
【0035】
自己流動性水硬性組成物は、上記の水硬性成分に加え、細骨材、減水剤、及び増粘剤を含むことが好ましい。
【0036】
自己流動性水硬性組成物は、細骨材を含むことが好ましい。細骨材は、一般にモルタルやコンクリートに使用されるものを用いることができ、例えば、市販の珪砂、石灰石砂その他、川砂、海砂、山砂、砕砂等を挙げることができる。細骨材の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは100~250質量部である。
【0037】
自己流動性水硬性組成物は、減水剤を含むことが好ましい。これにより、より優れたレベリング性や平滑性を有することが可能となる。減水剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸系等の市販の減水剤が、その種類を問わず用いることができる。減水剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.05~0.5質量部である。これにより、より優れた作業性を得ることができ、平滑性に優れた表面仕上げが容易となる。
【0038】
自己流動性水硬性組成物は、増粘剤を含むことが好ましい。これにより、水硬性成分や細骨材などの分離抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面性状の改善により好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性をより向上させることができる。増粘剤としては、セルロース系、蛋白質系、スターチエーテル等の加工でん粉系、ラテックス系、水溶性ポリマー系及びベントナイト系の粘土鉱物微粉末などから選択した増粘剤を適宜併用して用いることができる。セルロース系増粘剤としては、その種類を問わず用いることができるが、特にヒドロキシエチルメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることが好ましい。増粘剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.02~1.0質量部である。
【0039】
自己流動性水硬性組成物は、さらに無機微粉末、消泡剤、凝結調整剤、及び樹脂粉末からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0040】
自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機微粉末を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることや、低コストで長期強度を増進させることができる。無機微粉末の含有量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10~200質量部である。高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0041】
自己流動性水硬性組成物は、消泡剤を含むことにより、より好ましい消泡効果を得ることが可能となる。消泡剤としては、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。消泡剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部である。
【0042】
自己流動性水硬性組成物は、有機酸及び/又は無機酸のナトリウム塩である凝結遅延剤を凝結調整剤として含むことにより、より優れた可使時間を有することが可能となる。凝結遅延剤としては、無機酸のナトリウム塩であるリン酸ナトリウム塩系や重炭酸ナトリウム塩系、有機酸のナトリウム塩である酒石酸やグルコン酸などのオキシカルボン酸のナトリウム塩系が好ましい。凝結遅延剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.2~2質量部である。これにより、より適切な作業時間を確保することができる。
【0043】
自己流動性水硬性組成物は、公知の凝結促進剤を凝結調整剤として用いることができる。例えば、凝結促進効果を有する炭酸リチウム等のリチウム塩、硫酸カリウムや硫酸アルミニウム等の硫酸塩、蟻酸カルシウム、及び塩化カルシウム等を好適に用いることができ、これらを数種組み合わせて用いてもよい。凝結促進剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.1~2質量部である。
【0044】
自己流動性水硬性組成物は、優れた表面強度や耐摩耗性を有し、優れた耐久性を有するモルタル硬化体および床構造体を得るために、樹脂粉末(再乳化形樹脂粉末)を含むことが好ましい。再乳化形樹脂粉末を用いることで、硬化体表面の乾燥の防止、又は、材料分離によるブリージング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果とを得易くなる。樹脂粉末の主成分としては、アクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルなどの成分を一種単独又は二種以上含むものを用いることができる。樹脂粉末の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは5~20質量部である。これにより、より優れた下地接着性や表面強度を得ることができる。
【0045】
本工程では、上記の自己流動性水硬性組成物及び水を混錬して得られるセルフレベリング性モルタルスラリーを、制振材層又は接着材層の上面に施工し(流し込み)、養生することで、セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を形成する。セルフベリング性モルタルは、厚さ3~40mmで打設することが好ましい。セルフベリング性モルタルは、水平面を有する床面や、0/1000を超えて50/1000以下の勾配を有する床面に打設することができる。打設された直後に、セルフベリング性モルタルスラリー表面を鏝やトンボを用いて均すことで、表面を均一化してもよい。セルフレベリング性モルタルスラリーは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工(流し込み)終了後30分~2時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って表面硬度が上昇し、モルタル硬化体下地層となる。
【0046】
<船舶甲板用遮音性床構造体>
上記製造方法により、船舶甲板用遮音性床構造体を得ることができる。具体的には、船舶甲板用遮音性床構造体は、船舶甲板床、制振材層、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を備える。当該構造体において、制振材層が、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第一の樹脂モルタルの硬化物であり、第一の樹脂モルタルにおいて、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が51~100質量部であり、かつ合成樹脂がエチレン・酢酸ビニル系共重合体を含み、モルタル硬化体下地層が自己流動性水硬性組成物及び水を含むセルフレベリング性モルタルの硬化物である。図1は、一実施形態に係る船舶甲板用遮音性床構造体の断面模式図である。図1に示すように、船舶甲板用遮音性床構造体10は、船舶甲板床1、制振材層2、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層3を備える。
【0047】
船舶甲板用遮音性床構造体は、船舶甲板床、制振材層、鋼板からなる拘束層、接着材層、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層を備えるものであってもよい。当該構造体において、接着材層が、セメント組成物及び合成樹脂のエマルジョンを含む第二の樹脂モルタルの硬化物であり、第二の樹脂モルタルにおいて、セメント組成物100質量部に対する合成樹脂の量が25~100質量部である。図2は、他の実施形態に係る船舶甲板用遮音性床構造体の断面模式図である。図2に示すように、船舶甲板用遮音性床構造体20は、船舶甲板床1、制振材層2、拘束層4、接着材層5、及びセルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層3を備える。
【0048】
船舶甲板用遮音性床構造体は、硬化後のモルタル硬化体下地層を素地のまま使用することも可能であるが、モルタル硬化体下地層上に、カーペット、タイル、フローリング、塗り床材(防塵塗料)等の仕上げ材をさらに備えてもよい。
【実施例0049】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0050】
(A)セルフレベリング性モルタル(デッキコンポジション)
・船舶用超速硬型セメント系セルフレベリング材:水硬性成分としてセメント74質量%、石膏26質量%を含む。また、水硬性成分100質量部に対して細骨材200質量部、減水剤0.1質量部、増粘剤0.2質量部、無機微粉末100質量部、消泡剤0.15質量部、凝結調整剤0.8質量部、樹脂粉末8.0質量部を含む。各成分の詳細は以下のとおりである。
セメント:ポルトランドセメント及びアルミナセメント
石膏:フッ酸無水石膏
細骨材:6号珪砂
減水剤:ポリカルボン酸系減水剤
増粘剤:ヒドロキシエチルメチルセルロース
無機微粉末:高炉スラグ微粉末
消泡剤:ポリエーテル系消泡剤
凝結調整剤:炭酸リチウム、酒石酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムの混合物
樹脂粉末:アクリル系再乳化形樹脂粉末
【0051】
(B)第一の樹脂モルタル(制振材層)
・樹脂セメントモルタル:エチレン酢酸ビニル樹脂エマルション液と速硬性セメントからなる。エチレン酢酸ビニル樹脂エマルション中のエチレン酢酸ビニル樹脂の量は、速硬性セメント100質量部に対して70質量部である。速硬性セメントは、アルミナセメント100質量部に対して、細骨材216質量部及び無機充填材39質量部を含むセメント組成物である。各成分の詳細は以下のとおりである。
細骨材:7号珪砂(最大粒子径が300μm)
無機充填材:タルク
【0052】
(C)拘束層
・鋼板(厚さ3.2mm)
【0053】
(D)第二の樹脂モルタル(接着材層)
・第一の樹脂モルタルと同じ樹脂セメントモルタル
【0054】
(E)基盤(船舶甲板床に相当)
・鋼板(厚さ6mm)
【0055】
[遮音性床構造体の施工:引張強度測定]
(実施例)
25kgの上記セルフレベリング性モルタルに水6.3kgを加え、ハンドミキサー(1100rpm)を用いて3分間混練することによって、セルフレベリング性モルタルスラリーを調製した。この調製は、温度20℃、湿度65%RHに設定した恒温恒湿室内で行った。
【0056】
基盤となる鋼板上に、第一の樹脂モルタルを1mm厚となるように塗布して、24時間乾燥させて硬化させることで、制振材層を設けた。
制振材層上に、40×40mmサイズの樹脂製の型枠を設置した。そこへセルフレベリング性モルタルスラリーを10mm厚にて流し込み、硬化させて20℃、RH65%の恒温室にて14日間養生した。これにより、制振材層上に外寸40×40mmサイズのモルタル硬化体下地層を設けた。
養生後に型枠を外し、モルタル硬化体下地層の側面端部に沿って、制振材層に、鋼板表面までカッターナイフで切込みを入れた。モルタル硬化体下地層表面にエポキシ樹脂接着剤を用いてアタッチメントを接着し、引張強度測定用サンプルを得た。
【0057】
(比較例)
第一の樹脂モルタルに代えて、ウレタン樹脂系ゴム組成物(2液型)を用いて制振材層を形成したこと以外は、実施例と同様にしてサンプルを得た。
【0058】
(引張強度測定)
各例で得られたサンプルを用いて、引張強度を測定した。引張強度の測定はJIS A 6916に準拠して行った。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[遮音性床構造体の施工:遮音性試験]
(実施例(3層品))
外寸985×985mmサイズとしたことと、セルフレベリング性モルタルスラリーを12mm厚で流し込んだこと以外は、引張強度測定と同様にして、制振材層上にモルタル硬化体下地層を設けた。これにより遮音性試験用サンプルを得た。
【0061】
(実施例(5層品))
基盤となる鋼板上に、第一の樹脂モルタルを1mm厚となるように塗布して、24時間乾燥させて硬化させることで、制振材層を設けた。
制振材層上に、拘束層となる鋼板を貼り付けた。
拘束層上に、第二の樹脂モルタルを1mm厚となるように塗布して、24時間乾燥させて硬化させることで、接着材層を設けた。
接着材層上に、セルフレベリング性モルタルスラリーを12mm厚にて流し込み、硬化させて20℃、RH65%の恒温室にて14日間養生した。これにより、制振材層上にモルタル硬化体下地層を設けた。これにより、外寸985×985mmサイズの遮音性試験用サンプルを得た。
【0062】
(比較例(3層品))
第一の樹脂モルタルに代えて、ウレタン樹脂系ゴム組成物(2液型)を用いて制振材層を形成したこと以外は、実施例(3層品)と同様にしてサンプルを得た。
【0063】
(遮音性試験)
各例で得られたサンプルを用いて、日本音響エンジニアリング社にて音響透過損失を測定し、その結果より重み付き音響透過損失Rw値を算出した。結果を表2に示す。
・小型残響室(音源室)-無響室(受音室)にて音響インテンシティ法による音響透過損失を測定(JIS A 1441準拠)。
【0064】
【表2】
【符号の説明】
【0065】
1…船舶甲板床、2…制振材層、3…セルフレベリング性を有するモルタル硬化体下地層、4…拘束層、5…接着材層、10,20…船舶甲板用遮音性床構造体。
図1
図2