(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102351
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/02 20060101AFI20230718BHJP
E03D 11/08 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
E03D11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002767
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横塚 裕也
(72)【発明者】
【氏名】林 佐登司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昭範
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA02
2D039AD00
2D039DB04
(57)【要約】
【課題】凹部内を満遍なく洗浄することができる大便器を提供する。
【解決手段】大便器1は、下端部に設けられた凹部11Cを具備した便鉢部11と、便鉢部11内に洗浄水を吐水する洗浄水分配管12と、を備えており、洗浄水分配管12から吐水され、凹部11Cに後方から流入した洗浄水は、凹部11Cの前側において上昇し、凹部11Cの上端縁Teの最も低い位置よりも高い位置に到達する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部に設けられた凹部を具備した便鉢部と、
前記便鉢部内に洗浄水を吐水する吐水部と、
を備えており、
前記吐水部から吐水され、前記凹部に後方から流入した前記洗浄水は、前記凹部の前側において上昇し、前記凹部の上端縁の最も低い位置よりも高い位置に到達する大便器。
【請求項2】
前記凹部に後方から流入した前記洗浄水は、前記凹部の前側において上昇し、前記凹部の上端縁の後端よりも高い位置に到達する請求項1に記載の大便器。
【請求項3】
前記凹部の前側において前記洗浄水が到達する最も高い位置は、この位置に最も近い前記凹部の上端縁よりも高い位置である請求項1から請求項2までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項4】
前記凹部の前側において上昇した前記洗浄水は、前記凹部の上端縁の全周の内の半分以上において、前記凹部の上端縁よりも高い位置に到達する請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項5】
一回の便器洗浄において、前記吐水部から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、前記凹部の前側において上昇した前記洗浄水が、前記凹部の上端縁の少なくとも一部よりも高い位置に到達している請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項6】
下端部に設けられた凹部を具備した便鉢部と、
前記便鉢部内に洗浄水を吐水する吐水部と、
を備えており、
前記吐水部から吐水され、前記凹部に後方から流入した前記洗浄水は、前記凹部の前側において上昇し、
一回の便器洗浄において、前記吐水部から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、前記凹部の前側において上昇した前記洗浄水が、前記凹部の上端縁の少なくとも一部よりも高い位置に到達している大便器。
【請求項7】
前記凹部は、流出口が形成された底壁面を有しており、
前記凹部の前側において上昇した前記洗浄水は、下降して前記流出口の2/3以上の領域を占めるように下流側に通過する請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項8】
前記流出口を通過する前記洗浄水の単位時間における水量は、前記流出口の左側よりも前記流出口の右側のほうが多い請求項7に記載の大便器。
【請求項9】
前記凹部の前側において上昇する前記洗浄水は、前記凹部における左右一方側に位置し、
前記洗浄水は、前記凹部における左右他方側の後方から束になって前記凹部に流入する請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項10】
前記凹部の前側において上昇する前記洗浄水は、前記凹部の前側において盛り上がる請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項11】
平面視における前記凹部の前端部の上端の曲率半径は、15mm以上である請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の大便器。
【請求項12】
前記凹部の上端縁には、上方外向きに拡がる内側連結面が連続しており、
左右方向中央の鉛直断面形状における前記内側連結面の前端部の曲率半径は、20mm以下である請求項11に記載の大便器。
【請求項13】
左右方向中央の鉛直断面形状における前記内側連結面の前端部の曲率半径は、平面視における前記凹部の前端部の上端の曲率半径よりも小さい請求項12に記載の大便器。
【請求項14】
前記内側連結面の外縁は、外向きに拡がる汚物受け面に連続し、
前記汚物受け面の外縁は、外側連結面を介してリム内壁面が立ち上がって連続しており、
左右方向中央の鉛直断面形状における前記内側連結面の前端部の曲率半径は、左右方向中央の鉛直断面形状における前記外側連結面の前端部の曲率半径よりも小さい請求項12から請求項13までのいずれか一項に記載の大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前方から凹部に流入する洗浄水が凹部内において縦旋回流を形成する水洗大便器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における縦旋回流は、凹部内の前側を左右方向に旋回する流れである。このため、凹部内の後側においては、攪拌する作用が乏しいものと考えられる。
【0005】
本開示は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、凹部内を満遍なく洗浄することができる大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の開示の大便器は、
下端部に設けられた凹部を具備した便鉢部と、
前記便鉢部内に洗浄水を吐水する吐水部と、
を備えており、
前記吐水部から吐水され、前記凹部に後方から流入した前記洗浄水は、前記凹部の前側において上昇し、前記凹部の上端縁の後端よりも高い位置に到達する。
【0007】
第2の開示の大便器は、
下端部に設けられた凹部を具備した便鉢部と、
前記便鉢部内に洗浄水を吐水する吐水部と、
を備えており、
前記吐水部から吐水され、前記凹部に後方から流入した前記洗浄水は、前記凹部の前側において上昇し、
一回の便器洗浄において、前記吐水部から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、前記凹部の前側において上昇した前記洗浄水が、前記凹部の上端縁の少なくとも一部よりも高い位置に到達している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態1の大便器を上前方から見た斜視図である。
【
図3】実施形態1の大便器の一部破断平面図である。
【
図5】実施形態1の大便器の作用を説明するための一部破断平面図である。
【
図6】第1主流及び第2主流の流量の変化の一例を示すグラフである。
【
図7】実施形態1の大便器の作用を説明するための要部拡大平面図である。
【
図8】実施形態1の大便器の作用を説明するための要部拡大側断面図である。
【
図9】他の実施形態における大便器の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態1>
以下、本開示の大便器を具体化した実施形態1について
図1から
図8を参照しつつ説明する。
【0010】
実施形態1の大便器1は、
図1から
図3に示すように、便鉢部11と、給水部13と、吐水部である洗浄水分配管12と、を備えている。以下の説明において、上下方向は、大便器1を水平な設置面に設置した状態における上下方向である。前後方向は、大便器1を水平な設置面に設置した状態において、便鉢部11に対してタンク載置部13Bが設けられている方向が後方であり、その逆方向が前方である。左右方向は、大便器1を水平な設置面に設置した状態において、前方から見た左右方向である。
図1から
図5、
図7、
図8において、上方向はX軸の正方向、下方向をX軸の負方向、前方向はZ軸の正方向、後方向はZ軸の負方向、左方向はY軸の正方向、右方向はY軸の負方向である。
【0011】
<便鉢部の構成>
便鉢部11は、リム部11Aと、汚物受け面11Bと、凹部11Cと、を具備している。リム部11Aは、便鉢部11の上端部周縁を形成する。リム部11Aは、リム内壁面11Dを有している。リム内壁面11Dは、環状をなして立ち上がって形成されている。平面視において、リム内壁面11Dの前端部の曲率半径は、後端部の曲率半径よりも小さい。平面視において、リム内壁面11Dは、略楕円形状である。リム内壁面11Dの後端部の左側には、リム吐水口11Eが開口して形成されている(
図2参照)。リム吐水口11Eは、左右方向に長く形成されている(
図2参照)。
【0012】
汚物受け面11Bの外縁は、外側連結面C1を介してリム内壁面11Dの下端に連続している。汚物受け面11Bは、すり鉢状に形成されている。汚物受け面11Bは、上下方向の中央部及び左右方向の中央部に向けて下り傾斜して形成されている。外側連結面C1の前端部は、前後方向に連なる複数の異なる面で構成されている。大便器1を左右方向中央において上下方向に切断した側断面における外側連結面C1の曲率半径R3は、およそ8mmである。この曲率半径R3の値は、前後方向に連なる複数の異なる面を1つの曲面と仮定して求めたものである。
【0013】
凹部11Cは、
図1に示すように、便鉢部11の下端部に設けられている。凹部11Cは、下向きに窪んで形成されている。凹部11Cは、環状をなして立ち上がる側壁面11Fと、側壁面11Fの下端に連続して凹部11Cの底を形成する底壁面11Gと、を有している。側壁面11Fは、下方に向けて僅かに内側に傾斜している。平面視における側壁面11Fの前端部の上端の曲率半径R1は、およそ28mmである(
図3参照)。曲率半径R1は、15mm以上であればよく、20mm以上がより好ましく、25mm以上がさらにより好ましい。平面視における側壁面11Fの前端部の下端の曲率半径R4は、およそ22mmである(
図3参照)。曲率半径R1は、曲率半径R4よりも大きい。側壁面11Fの上端縁Teは、全周にわたって汚物受け面11Bの内周縁に内側連結面C2を介して連続している(
図3参照)。内側連結面C2の外縁は、外向きに拡がる汚物受け面11Bに連続している。凹部11Cの上端縁Teには、上方外向きに拡がる内側連結面C2が連続している。左右方向中央の鉛直断面形状における内側連結面C2の前端部の曲率半径R2は、およそ12mmである。曲率半径R2は、20mm以下であればよく、15mm以下がより好ましい。曲率半径R2は、曲率半径R1よりも小さい。曲率半径R2は、曲率半径R3よりも小さい。側壁面11Fの上端縁Teの上下方向の位置は、前端Feから後向きに徐々に高くなり、後端部において急激に低くなっている。側壁面11Fの上端縁Teにおいて、後端Reの上下方向の位置が最も低い。凹部11Cの底壁面11Gの後部には、流出口11Hが開口して形成されている。底壁面11Gは、流出口11Hに向けて(すなわち、後向きに)僅かに下向きに傾斜している。流出口11Hには、便器排水路11Jの上流端が連結している。凹部11Cには洗浄水による溜水部Rが形成される。凹部11Cに洗浄水が流入していないときの溜水部Rの溜水面Wは、上端縁Teよりも下方、且つ底壁面11Gよりも上方に位置し、上端縁Teよりも、底壁面11G寄りである。
【0014】
<給水部の構成>
給水部13は、便鉢部11よりも後方に設けられている。給水部13は、便鉢部11に洗浄水を供給するためのものであり、便鉢部11の上端部の後方に隣接している。給水部13内には、給水空間13Aが形成されている。給水空間13Aと便鉢部11とは、リム吐水口11Eを介して連なって通じている(
図3参照)。給水部13の後部には、図示しない洗浄タンクを載せるタンク載置部13Bが設けられている。
【0015】
<洗浄水分配管の構成>
吐水部である洗浄水分配管12は、給水空間13A内に配置されている。洗浄水分配管12は、タンク載置部13Bに乗せられた洗浄タンクから、便鉢部11に向けて洗浄水を吐水する。洗浄水分配管12は、
図3に示すように、管状をなした第1吐水部12Aと、管状をなした第2吐水部12Bと、を有している。第1吐水部12Aと、第2吐水部12Bとは、二又に分岐した形態とされている。
【0016】
第1吐水部12Aは、給水空間13Aの右側に前後方向に延びて配置されている。第1吐水部12Aの前端部は、左向きに屈曲して形成されている。第1吐水部12Aの屈曲した前端部の先端部は、給水空間13Aの左側に配置されている。第1吐水部12Aの前端には、洗浄水を吐水する第1吐水口12Cが開口して形成されている。
【0017】
第2吐水部12Bは、給水空間13Aの左側に前後方向に延びて配置されている。第2吐水部12Bの前端には、洗浄水を吐水する第2吐水口12Dが開口して形成されている。平面視において、第1吐水口12C及び第2吐水口12Dは、左前方に向けて開口している。平面視において、第2吐水口12Dが開口する向きは、第1吐水口12Cよりも前向きである。平面視において、第1吐水口12Cと、第2吐水口12Dとは、リム吐水口11Eの後方に位置している。平面視において、第1吐水口12Cは、第2吐水口12Dよりも前方に配置されている。平面視において、第1吐水口12Cと、第2吐水口12Dとは、給水空間13Aの左側に配置されている。
【0018】
第1吐水口12Cと、第2吐水口12Dとは、
図4に示すように、左右方向に並んで配置されている。第1吐水口12Cの下端と、第2吐水口12Dの下端とは、高さ方向の位置が異なっている。具体的には、第1吐水口12Cの下端は、第2吐水口12Dの下端よりも低い位置に配置されている。
【0019】
<便鉢部における洗浄水の流れ方>
洗浄水は、図示しない洗浄タンクに便鉢部11を一回洗浄し得る量が予め貯留されている。例えば、洗浄タンクに設けられた図示しない操作部を操作して、一回の便器洗浄が開始すると、
図5に示すように、第1吐水口12C及び第2吐水口12Dの各々から便鉢部11に向けて吐水される。
【0020】
第1吐水口12Cから吐水された洗浄水と、第2吐水口12Dから吐水された洗浄水とは、リム吐水口11Eの前方に位置する汚物受け面11Bにおいて交差するように流れる。具体的には、第1吐水口12Cから吐水された洗浄水は、リム吐水口11Eを通過して汚物受け面11Bに流れ、リム内壁面11Dに沿って反時計方向に旋回して流れる第1主流F1を形成する。つまり、第1吐水口12Cは、第1主流F1を吐水する。第1吐水口12Cから吐水された洗浄水のなかには、第1主流F1を形成せず、凹部11Cに向けて直接的に流下する流れF11も含まれる。
【0021】
第2吐水口12Dから吐水された洗浄水は、リム吐水口11Eを通過して汚物受け面11Bを経由して、凹部11Cに向けて束となって流れる第2主流F2を形成する。つまり、第2吐水口12Dは、第2主流F2を吐水する。第2吐水口12Dから吐水された洗浄水のなかには、第2主流F2を形成せず、リム内壁面11Dに沿って反時計方向に旋回する流れF21も含まれる。
【0022】
第1吐水口12Cの下端は、第2吐水口12Dの下端よりも低い位置である(
図4参照)。このため、第2吐水口12Dから吐水された第2主流F2は、第1吐水口12Cから吐水された第1主流F1よりも高い位置に吐水されて、リム吐水口11Eの前方に位置する汚物受け面11Bにおいて第1主流F1を覆うように流れる。このとき(すなわち、凹部11Cに流入する前において)、第2主流F2の一部は、第1主流F1に合流する流れF22をなし、リム内壁面11Dに沿って反時計方向に旋回して流れる。
【0023】
第1主流F1に合流する第2主流F2の水量(すなわち、流れF22の水量)は、第2吐水口12Dから吐水された第2主流F2の水量の内の50%以下である。第1主流F1の上方を流れる第2主流F2は、第1主流F1に合流せず、第1主流F1の上方を凹部11Cに向けて流れ、凹部11Cに直接的に流入する。このように、便鉢部11において凹部11Cに流入する前、第1主流F1と、第2主流F2とが交差して重なる部分において、第1主流F1と、第2主流F2とは上下方向の位置が異なって流れる。
【0024】
第2主流F2と交差した後の第1主流F1は、左側の汚物受け面11Bを前向きに流れ、リム内壁面11Dの前端部にぶつかり、流れる向きが後方右向きに変化して右側の汚物受け面11Bを後向きに流れる。右側の汚物受け面11Bを後向きに流れる第1主流F1の一部は、凹部11Cに向けた流れF12をなして凹部11Cの前端よりも後方の位置において凹部11Cに流入する。換言すると、右側の汚物受け面11Bを後向きに流れる第1主流F1の一部である流れF12は、右前方から凹部11Cに流入する。
【0025】
第1主流F1と交差した後の第2主流F2(すなわち、第1主流F1に合流しない第2主流F2)は、左側の汚物受け面11Bを前向きに流れて、凹部11Cの後端よりも前方の位置において凹部11Cに流入する。換言すると、左側の汚物受け面11Bを前向きに流れる第2主流F2は、左後方から凹部11Cに流入する。つまり、リム内壁面11Dに沿って旋回して汚物受け面11Bを後向きに流れる第1主流F1、及び汚物受け面11Bを前向きに流れる第2主流F2は、凹部11Cに対して前後方向に重なる位置から凹部11Cに流入する。こうして洗浄水分配管12(吐水部)から吐水された洗浄水は、第1主流F1と、第2主流F2と、の少なくとも2つの流れをなして、凹部11Cに流入する。
【0026】
右側の汚物受け面11Bを後向きに流れ、凹部11Cに流入しない第1主流F1(すなわち、流れF12を除いた第1主流F1)は、汚物受け面11Bの後端部に到達する。汚物受け面11Bの後端部に到達した第1主流F1は、リム内壁面11Dの後端部にぶつかり、流れる向きが前方左向きに変化する。前方左向きに流れる向きが変化した第1主流F1は、第1主流F1に合流しない第2主流F2に右方から徐々に近づいて合流し、凹部11Cに流入する。
【0027】
リム内壁面11Dに沿って旋回して汚物受け面11Bの後端部に到達し、汚物受け面11Bを前向きに流れる第1主流F1と、汚物受け面11Bを前向きに流れる第2主流F2と、がなす角度θは、平面視において、20度以下である。こうして、第1主流F1と、第2主流F2とは、20度以下で合流し、凹部11Cに流入する。
【0028】
第1主流F1の流量、及び第2主流F2の流量は、
図6に示すように、吐水を開始したとき(時刻T0)に急激に増加し、所定の流量をしばらくの間保持し、その後徐々に減少する。流量とは、任意の場所において単位時間当たりに通過する流体の量を意味する。一回の便器洗浄において、洗浄水分配管12(吐水部)から吐水する時間は、吐水を開始する時刻T0(以下、単に時刻T0ともいう)から吐水を終了する時刻T2(以下、単に時刻T2ともいう)までの間の時間t1である。時刻T1は、第1主流F1の流量と、第2主流F2の流量と、が同じになる時刻である。
【0029】
時刻T0から時刻T1までの間は、第1主流F1の流量が第2主流F2の流量よりも多い。時刻T1から時刻T2までの間は、第1主流F1の流量が第2主流F2の流量よりも少ない。時刻T0から時刻T1までの時間t0は、時刻T1から時刻T2までの時間t2以上である。つまり、一回の便器洗浄において、洗浄水分配管12(吐水部)から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、第1主流F1の流量が第2主流F2の流量よりも多い。
【0030】
<凹部における洗浄水の流れ方>
第1主流F1に合流しない第2主流F2は、左後方から束になって凹部11Cに流入し、凹部11C内で縦方向に旋回する。詳細には、
図7、8に示すように、左後方から凹部11Cに流れ込んだ第2主流F2は、凹部11Cの前側において底壁面11G及び側壁面11Fに沿って上昇して盛り上がる。これとともに、この第2主流F2は、凹部11Cの後側で再び下降流となるように縦方向に旋回して流出口11Hを通過して便器排水路11Jに流入する。
【0031】
凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2は、凹部11Cの側壁面11Fの上端縁Teの後端Reよりも高い(すなわち、最も低いよりも高い)位置に到達する。具体的には、凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2は、凹部11Cの側壁面11Fの上端縁Teの全周の内の半分以上の区間(
図7における点線の区間)において、凹部11Cの上端縁Teよりも高い位置に到達する。さらに、凹部11Cの前側において第2主流F2が到達する最も高い位置Pは、この位置Pに最も近い凹部11Cの上端縁Teにおける位置Nよりも高い位置である(
図7、8参照)。
【0032】
凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2は、束になって後向きに下降して流出口11Hの右側を通過し、便器排水路11Jに流入する。束になった第2主流F2は、下降して流出口11Hの右側を通過する(
図7参照)。このため、流出口11Hを通過する洗浄水の単位時間における水量は、流出口11Hの左側よりも流出口11Hの右側のほうが多くなる。このとき、後向きに下降する第2主流F2は、流出口11Hの2/3以上の領域を占めるように流出口11Hを下流側に向けて通過する(
図7参照)。
【0033】
一回の便器洗浄において、洗浄水分配管12から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、凹部11Cの前側において上昇した洗浄水が、凹部11Cの側壁面11Fの上端縁Teの少なくとも一部よりも高い位置に到達した状態が維持される。このように、凹部11Cの前側において上昇する第2主流F2は、凹部11Cにおける右側に位置し、凹部11Cにおける左側の後方から束になって凹部11Cに流入する。
【0034】
上記のように構成された実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0035】
大便器1は、下端部に設けられた凹部11Cを具備した便鉢部11と、便鉢部11内に洗浄水を吐水する洗浄水分配管12と、を備えている。洗浄水分配管12から吐水され、凹部11Cに後方から流入した第2主流F2は、凹部11Cの前側において上昇し、凹部11Cの上端縁Teの最も低い位置よりも高い位置に到達する。この構成によれば、凹部11Cに後方から流入した第2主流F2が凹部11Cの前側において上昇し、凹部11Cの上端縁Teの最も低い位置よりも高い位置に到達するので、少なくとも、凹部11Cの上端縁Teの最も低い位置よりも低い領域において汚物を良好に攪拌することができる。
【0036】
大便器1は、下端部に設けられた凹部11Cを具備した便鉢部11と、便鉢部11内に洗浄水を吐水する洗浄水分配管12と、を備えている。洗浄水分配管12から吐水され、凹部11Cに後方から流入した第2主流F2は、凹部11Cの前側において上昇する。一回の便器洗浄において、洗浄水分配管12から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2が、凹部11Cの上端縁Teの少なくとも一部よりも高い位置に到達している。この構成によれば、凹部11C内において上下方向に洗浄水が流れる時間を洗浄水分配管12から一回吐水する時間の内の少なくとも半分の時間であるので、凹部11C内において汚物を攪拌する時間を確保することができ、これによって汚物を排出し易くすることができる。
【0037】
大便器1において、凹部11Cに後方から流入した第2主流F2は、凹部11Cの前側において上昇し、凹部11Cの上端縁Teの後端Reよりも高い位置に到達する。この構成によれば、凹部11Cに後方から流入した第2主流F2が凹部11Cの前側において上昇するので、凹部11Cの前後方向の全体にわたって満遍なく洗浄水が流れ、凹部11C内において汚物を良好に攪拌し、排出し易くすることができる。
【0038】
凹部11Cの前側において第2主流F2が到達する最も高い位置Pは、この位置Pに最も近い凹部11Cの上端縁Teにおける位置Nよりも高い位置である。この構成によれば、第2主流F2が流れる勢いを大きくすることができるので、凹部11C内において汚物をより良好に攪拌することができる。
【0039】
凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2は、凹部11Cの上端縁Teの全周の内の半分以上において、凹部11Cの上端縁Teよりも高い位置に到達する。この構成によれば、凹部11C内において洗浄水が上下方向に流れる勢いをより大きくできるので、凹部11C内において汚物を攪拌する作用をより強めることができる。
【0040】
一回の便器洗浄において、洗浄水分配管12から吐水する時間の内の少なくとも半分の時間は、凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2が、凹部11Cの上端縁Teの少なくとも一部よりも高い位置に到達している。この構成によれば、凹部11C内において上下方向に洗浄水が流れる時間を洗浄水分配管12から一回吐水する時間の内の少なくとも半分の時間とすることによって、凹部11C内において汚物を攪拌する時間を確保でき、これによって汚物を排出し易くすることができる。
【0041】
凹部11Cは、流出口11Hが形成された底壁面11Gを有しており、凹部11Cの前側において上昇した第2主流F2は、下降して流出口11Hの2/3以上の領域を占めるように下流側に通過する。この構成によれば、凹部11C内において攪拌した汚物を流出口11Hに押し込むように流すことができ、これによって汚物を排出し易くすることができる。
【0042】
流出口11Hを通過する洗浄水の単位時間における水量は、流出口11Hの左側よりも流出口11Hの右側のほうが多い。この構成によれば、凹部11C内における洗浄水の流れを複雑にすることができるので、凹部11C内において汚物を攪拌する効果を高めることができる。
【0043】
凹部11Cの前側において上昇する第2主流F2は、凹部11Cにおける右側に位置し、この第2主流F2は、凹部11Cにおける左側の後方から束になって凹部11Cに流入する。この構成によれば、凹部11C内を左右方向に横切るように洗浄水が流れるので、凹部11C内の左右において汚物を攪拌する効果に斑が生じることを抑えることができる。
【0044】
凹部11Cの前側において上昇する第2主流F2は、凹部11Cの前側において盛り上がる。この構成によれば、凹部11C内において、洗浄水が前後方向に移動する作用を生じさせることができるので、凹部11C内の前後において汚物を攪拌する効果に斑が生じることを抑えることができる。
【0045】
平面視における凹部11Cの前端部の上端の曲率半径R1は、15mm以上である。この構成によれば、凹部11Cの前端部を清掃する際に、凹部11Cの前端部に清掃器具を接触させ易くできるので、容易に清掃することができる。
【0046】
凹部11Cの上端縁Teには、上方外向きに拡がる内側連結面C2が連続しており、左右方向中央の鉛直断面形状における内側連結面C2の前端部の曲率半径R2は、20mm以下である。この構成によれば、曲率半径R2を20mm以下にする(すなわち、より小さくする)ことによって、凹部11Cの側壁面11Fの高さをより大きくすることができ、汚物を攪拌する領域を大きくできるので、汚物をより良好に攪拌することができる。
【0047】
左右方向中央の鉛直断面形状における内側連結面C2の前端部の曲率半径R2は、平面視における凹部11Cの前端部の上端の曲率半径R1よりも小さい。この構成によれば、凹部11Cの前端部を清掃する際に、凹部11Cの前端部に清掃器具を接触させ易くできるとともに、曲率半径R2を20mm以下にする(すなわち、より小さくする)ことによって、凹部11Cの側壁面11Fの高さをより大きくすることができ、汚物を攪拌する領域を大きくし、汚物をより良好に攪拌することができる。
【0048】
内側連結面C2の外縁は、外向きに拡がる汚物受け面11Bに連続し、汚物受け面11Bの外縁は、外側連結面C1を介してリム内壁面11Dが立ち上がって連続しており、左右方向中央の鉛直断面形状における内側連結面C2の前端部の曲率半径R2は、左右方向中央の鉛直断面形状における外側連結面C1の前端部の曲率半径R3よりも小さい。この構成によれば、リム内壁面11Dと汚物受け面11Bとを清掃する際に、外側連結面C1に清掃器具を接触させ易くできるので、清掃し易くすることができるとともに、曲率半径R2を20mm以下にする(すなわち、より小さくする)ことによって、凹部11Cの側壁面11Fの高さをより大きくすることができ、汚物を攪拌する領域を大きくし、汚物をより良好に攪拌することができる。
【0049】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態1の開示に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も含まれる。
(1)実施形態1とは異なり、リム吐水口を2以上設けてもよい。例えば、一方のリム吐水口から第1主流を吐水し、他方のリム吐水口から第2主流を吐水する構成が考えられる。
(2)リム吐水口の位置は実施形態1に限定されない。リム吐水口からの洗浄水の吐出方向やそれによる便鉢部内の旋回方向も限定されない。したがって、凹部の前側において上昇する第2主流が凹部における左側に位置し、凹部における右側の後方から束になって凹部に流入する構成としてもよい。つまり、凹部の前側において上昇する洗浄水は、凹部における左右一方側に位置し、この洗浄水は、凹部における左右他方側の後方から束になって凹部に流入すればよい。
(3)実施形態1とは異なり、凹部の前側において上昇した第2主流は、凹部の上端縁の全周の内の3/4以上において、凹部の上端縁よりも高い位置に到達する構成としてもよい。さらに、凹部の前側において上昇した第2主流は、凹部の上端縁の全周にわたって、凹部の上端縁よりも高い位置に到達する構成としてもよい。
(4)
図9に示すように、リム内壁面11Dの前後方向中央よりも前側、且つ左右方向中央よりも右側の領域Hにリム吐水口を開口して形成してもよい。この場合、リム吐水口から吐水される洗浄水は、右側の汚物受け面11Bを後向きに流れる。
【符号の説明】
【0050】
1…大便器、11…便鉢部、11A…リム部、11B…汚物受け面、11C…凹部、11D…リム内壁面、11G…底壁面、11H…流出口、12…洗浄水分配管(吐水部)、C1…外側連結面、C2…内側連結面、F2…第2主流(凹部に後方から流入した洗浄水)(凹部の前側において上昇する洗浄水)、R1…平面視における凹部の前端部の上端の曲率半径、R2…左右方向中央の鉛直断面形状における内側連結面の前端部の曲率半径、R3…左右方向中央の鉛直断面形状における外側連結面の前端部の曲率半径、Te…凹部の上端縁