(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010250
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】紙幣送り部材及び紙幣取扱い装置
(51)【国際特許分類】
G07D 11/16 20190101AFI20230113BHJP
A61L 2/232 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G07D11/16
A61L2/232
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114247
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000175559
【氏名又は名称】三共理化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(74)【代理人】
【識別番号】100112416
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 定信
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 厚子
(72)【発明者】
【氏名】柴 拓登
(72)【発明者】
【氏名】小川 冬馬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友範
【テーマコード(参考)】
3E141
4C058
【Fターム(参考)】
3E141AA01
3E141EA10
3E141FG03
3E141FG04
4C058AA30
4C058BB07
4C058EE29
4C058JJ04
4C058JJ21
(57)【要約】
【課題】 紙幣消毒機能を有する紙幣取扱い装置を提供するに当たり、装置の複雑化、大型化、コストアップ化を可及的に抑制できる手段を提供する。
【解決手段】 紙幣Pに密着して回転する紙幣送り部材1であって、紙幣Pへの接触面に消毒用のアルカリ物質2が設けられている紙幣送り部材とする。紙幣送り部材の具体例としてローラ又はベルトが挙げられ、前記アルカリ物質2の具体例として、水酸化カルシウムが挙げられる。また、前記紙幣送り部材1を搭載することにより、既存の紙幣取扱い装置を、紙幣消毒機能を有する紙幣取扱い装置とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣に密着して回転する紙幣送り部材であって、紙幣への接触面に消毒用のアルカリ物質が設けられている、紙幣送り部材。
【請求項2】
前記紙幣送り部材がローラ又はベルトである、請求項1に記載の紙幣送り部材。
【請求項3】
前記アルカリ物質が水酸化カルシウムである、請求項1又は2に記載の紙幣送り部材。
【請求項4】
紙幣への接触面に前記アルカリ物質と他の物質との混合物が設けられ、該混合物は前記アルカリ物質を50%以上含む、請求項1,2又は3に記載の紙幣送り部材。
【請求項5】
前記紙幣送り部材が本体部を備え、該本体部の表面に前記アルカリ物質が固着されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の紙幣送り部材。
【請求項6】
前記紙幣送り部材が本体部を備え、該本体部の表面に消毒用シートが固着され、該消毒用シートは、シート状の基材と、該基材の表面に固着された前記アルカリ物質と、を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の紙幣送り部材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の紙幣送り部材を少なくとも二つ備え、該少なくとも二つの紙幣送り部材に挟まれて紙幣が送られる、紙幣取扱い装置。
【請求項8】
紙幣送り部材の本体部に固着される消毒用シートであって、シート状の基材と、該基材の表面に固着される消毒用のアルカリ物質と、を備える、消毒用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣の消毒機能を有する紙幣送り部材に関するものである。本発明はまた、紙幣送り部材を備える紙幣取扱い装置に関するものである。本明細書において「消毒」とは、病原菌やウイルスを死滅化又は不活性化させ、感染を防止することをいう。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染が拡大している昨今、様々な感染対策が求められている。紙幣の上でウイルスが20日程度生存するといったデータもあり、紙幣を介して伝染するウイルスへの対策も必要である。そこで、紙幣に付着したウイルスや細菌を死滅又は不活性化させる機能を有する紙幣取扱い装置が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載の紙幣取扱い装置は、紙幣を加熱消毒するための加熱ローラを備える。この加熱ローラは、紙幣の搬送作用と消毒作用とを有する。すなわち、加熱ローラで紙幣を送る際に、紙幣に対して密着する加熱ローラの熱によって紙幣が消毒される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紙幣消毒機能を有する紙幣取扱い装置を提供するに当たっては、当然のことながら、従来の紙幣取扱い装置と比べた場合の、装置の複雑化、大型化、コストアップ化は可能な限り抑制することが好ましい。
【0006】
本発明は前記のような事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、紙幣消毒機能を有する紙幣取扱い装置を提供するに当たり、装置の複雑化、大型化、コストアップ化を可及的に抑制できる手段を提供しようとするものである。本発明はまた、前記手段を適用した紙幣取扱い装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る紙幣送り部材は、紙幣に密着して回転する紙幣送り部材であって、紙幣への接触面に消毒用のアルカリ物質が設けられていることを特徴とする(請求項1)。本発明において「消毒」とは、病原菌やウイルスを死滅化又は不活性化させ、感染を防止することをいう。
【0008】
本発明によれば、紙幣送り部材が紙幣を送る際に、消毒用のアルカリ物質が紙幣に接触する。これにより、たとえ紙幣に病原菌やウイルスが付着していたとしても、それらが死滅化又は不活性化され、感染が防止される。
【0009】
実施の一形態として、前記紙幣送り部材がローラ又はベルトである態様を例示する(請求項2)。
【0010】
実施の一形態として、前記アルカリ物質が水酸化カルシウムである態様を例示する(請求項3)。
【0011】
実施の一形態として、紙幣への接触面に前記アルカリ物質と他の物質との混合物が設けられ、該混合物は前記アルカリ物質を50%以上含む態様としてもよい(請求項4)。
【0012】
実施の一形態として、前記紙幣送り部材は本体部を備え、該本体部の表面に前記アルカリ物質が固着されていてもよい(請求項5)。
【0013】
実施の一形態として、前記紙幣送り部材は本体部を備え、該本体部の表面に消毒用シートが固着され、該消毒用シートは、シート状の基材と、該基材の表面に固着された前記アルカリ物質と、を備える態様であってもよい(請求項6)。
【0014】
本発明に係る紙幣取扱い装置は、前記紙幣送り部材を少なくとも二つ備え、該少なくとも二つの紙幣送り部材に挟まれて紙幣が送られることを特徴とする(請求項7)。本発明の紙幣取扱い装置には、ATM(現金自動預け払い機)、キャシュレジスタ(金銭登録機、略称:レジ)、自動販売機、食券機、自動釣銭機、精算機等、紙幣送り機能を有する様々な装置が該当する。
【0015】
本発明に係る消毒用シートは、紙幣送り部材の本体部に固着される消毒用シートであって、シート状の基材と、該基材の表面に固着される消毒用のアルカリ物質と、を備えることを特徴とする(請求項8)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る紙幣送り部材の実施の一形態としての紙幣送りローラの断面図である。
【
図2】
図1の紙幣送りローラの表面付近の拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施の一形態に係る紙幣取扱い装置の要部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施の一形態に係る紙幣送り部材は、紙幣送りローラ1として具現化される。この紙幣送りローラ1は、紙幣に密着して回転するローラであって、紙幣への接触面に消毒用のアルカリ物質2が設けられている。このアルカリ物質2は、確実な消毒機能を奏するように、少なくともpH10.0以上の物質が好ましい。より好ましくは、pH12.0以上のアルカリ物質が採用される。このようなアルカリ物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物が該当し、代表的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが該当する。アルカリ物質2は、長期間劣化しないものがよい。具体的には、半年以上前記pHを維持できることが望ましく、少なくともひと月以上消毒機能を持続することが望ましい。また、安全性の観点から、毒物・劇物でないものが望ましい。これらの観点から、前記例示の物質の中でも特に、水酸化カルシウムを用いると好適である。
【0019】
前記アルカリ物質は当然そのまま使用しても良いが、消毒作用を阻害しない程度に他の物質と混合して用いても良い。この混合する物質は、本発明に係る他の材料と化学的に反応しない物質であれば何でも良い。例えば、紙幣送りローラ1の送り性向上のために滑り性を調整する物質、帯電を防止するための帯電防止剤、接着剤の密着性向上のための充填剤、外観を向上するための顔料などを用いてもよい。具体的には、滑り性調整物質として、滑り防止用には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、滑り性向上には、ステアリン酸カルシウム、帯電防止剤として、カーボンや導電性フィラー、接着剤の充填剤として、二酸化珪素、炭化ケイ素、アルミナ、ベントナイト、顔料として、二酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、などが挙げられる。
【0020】
前記アルカリ物質と前記他の物質の混合量はアルカリ物質が全体の50%以上であることが好ましい。アルカリ物質の割合が50%未満だと消毒作用が低下してしまう恐れがある。例えば、漆喰は、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムが混ざった状態で利用されることが多いが、水酸化カルシウムの割合が前記条件を満たせば本発明におけるアルカリ物質として、好適に用いることができる。
【0021】
図1の紙幣送りローラ1は、丸棒状の芯材3と、この芯材3の外周面に固着されるゴム製等の本体部4と、この本体部4の外周面に設けられる紙幣消毒用のアルカリ物質2と、を備える。紙幣送りローラ1は、紙幣に密着して回転することで紙幣を送る。そして、紙幣送り時にアルカリ物質2が紙幣に接触することで紙幣が消毒される。これにより、たとえ紙幣にウイルスや細菌等が付着していたとしても、それらが死滅又は不活性化される。
【0022】
図1に示すように、紙幣送りローラ1の本体部4の外周面には、アルカリ物質層5が形成される。このアルカリ物質層5は、
図2に示すように、消毒用のアルカリ物質2と、このアルカリ物質2を本体部4の表面に固着する接着剤6と、で構成される。すなわち、
図2の例は、本体部4の外周面に接着剤6を直接塗布し、この接着剤6にアルカリ物質2を付着させたものである。
【0023】
接着剤6は、アルカリ物質2と化学反応せず、本体部4上でアルカリ物質2をしっかりと保持できるもののうち、できるだけ柔軟な接着剤が良い。具体的には、ウレタンやシリコンなどの、熱硬化性または紫外線硬化性の接着剤であって、硬化後のゴム硬度や鉛筆硬度が小さいものが良い。このような接着剤としては、前記のほか、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF)、不飽和ポリエステル(UP)等が挙げられる。ゴム硬度は、JISK6253-3に準拠して測定し、その硬度が90以下であることが望ましい。また、鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4:1999(引っかき硬度 鉛筆法)に準拠して測定でき、このときの鉛筆硬度はB以下となるものが望ましい。ゴム硬度が90よりも大きい場合、また、鉛筆硬度がBよりも大きい場合、接着剤の硬度が大きすぎて送りローラのゴムの風合いを損なってしまう。
【0024】
図2の代替例として、
図3のような構成を採用してもよい。
図3の例では、紙幣送りローラ1の本体部4の表面に消毒用シート7が固着される。この消毒用シート7は、シート状の基材8と、この基材8の表面に接着剤6によって固着された消毒用のアルカリ物質2と、を備える。すなわち、
図3の例は、あらかじめ形成された消毒用シート7を本体部4に巻き付けて固着したものである。本体部4への消毒用シート7の固着方法は、接着剤による接着であってもよいし、鋲等の固着具によるものであってもよい。また、消毒用シート7の基材8の裏面を予め粘着面として構成し、この粘着面には剥離シート(図示せず)で覆いをし、この剥離シートを剥ぎ取って消毒用シート7を本体部4に貼り付けてもよい。
【0025】
図3の例において、基材8にアルカリ物質2を固着する接着剤6は、
図2の接着剤と同じである。すなわち、アルカリ物質2と化学反応せず、基材8上でアルカリ物質2をしっかりと保持できるものであればよい。基材8は、アルカリ物質2と化学反応せず、本体部4に隙間なく巻き付き、紙幣に密着するものであれば何でもよい。具体的には、フィルムや不織布などのシート状の代表的な基材で良い。
【0026】
図2の例の場合、アルカリ物質2による消毒効果が低下しそうになったら、紙幣送りローラ1自体を交換することで、消毒機能を更新することができる。これに対し、
図3の例の場合、アルカリ物質2による消毒効果が低下しそうになったら、本体部4上の消毒用シート7を新しいものに張り替える。紙幣送りローラ1自体の交換に比べて作業性上もコスト上も有利である。
【0027】
図4には、本発明の実施の一形態に係る紙幣取扱い装置9の要部を構成する紙幣送り装置10が示されている。この紙幣送り装置10は、前述の紙幣送りローラ1を少なくとも二つ、具体的には最もシンプルな例として二つ備えている。これら二つの紙幣送りローラ1,1に挟まれて紙幣Pが送られる。二つの紙幣送りローラ1,1は紙幣Pの表裏両面に密着して回転する。これにより紙幣Pが搬送され、同時に、二つの紙幣送りローラ1,1のアルカリ物質2,2によって紙幣Pの両面が消毒される。
【0028】
本発明の紙幣取扱い装置9には、ATM(現金自動預け払い機)、キャシュレジスタ(金銭登録機、略称:レジ)、自動販売機、食券機、自動釣銭機、精算機等、紙幣送り装置10を内蔵する様々な装置が該当する。
【0029】
図4の紙幣取扱い装置9は、要部のみを示して他の構成を省略しているが、実際の紙幣取扱い装置は、例えば、装置の内部構造を収容する箱体に紙幣入口と紙幣出口とを備え、装置の内部には適宜の構成の紙幣搬送経路が配設される。この紙幣搬送経路は、紙幣送り用のローラやベルト等の組み合わせで構成され、これらのローラやベルトが回転駆動されることで紙幣が搬送される。紙幣搬送経路の少なくとも一部が前述の紙幣送りローラ1で構成されることにより、紙幣搬送作用と紙幣消毒作用が共に奏される。
【0030】
本発明の紙幣取扱い装置9は、従来の紙幣取扱い装置をそのまま利用して提供することができる。すなわち、従来の紙幣取扱い装置に含まれている紙幣送りローラを本発明の紙幣送りローラ1に取り換える。これにより、従来の紙幣取扱い装置を、紙幣消毒機能を有する本発明の紙幣取扱い装置9へと容易に転換させることができる。よって、紙幣消毒機能を有する紙幣取扱い装置9を低コストで容易に提供できる。
【0031】
本発明の紙幣取扱い装置9において、紙幣送りローラ1による消毒機能が低下しそうになったら、前記の方法にて消毒機能を更新させることができる。紙幣送りローラ1の取り換えや紙幣送りローラ1の表面の消毒用シート7の張り替えによって消毒機能を更新させることができるので、経済的である。
【0032】
以上の説明では本発明の実施の一形態として紙幣送りローラ1を例示したが、本発明の紙幣送り部材は、紙幣送りベルトとして具現化することもできる。この場合には、紙幣送りベルトの本体部の表面に紙幣消毒用のアルカリ物質が設けられる。紙幣送りベルトの場合も、前述した紙幣送りローラ1の場合と同様の種々の構成を採用することができ、前述の紙幣送りローラ1と同様の作用効果が奏される。
【0033】
図4の紙幣取扱い装置9の変形例として、紙幣送りローラと紙幣送りベルトとに挟まれて紙幣Pが送られる態様としても良いし、また、少なくとも二つの紙幣送りベルトに挟まれて紙幣Pが送られる態様としてもよい。
【0034】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 紙幣送りローラ(紙幣送り部材)
2 アルカリ物質
4 本体部
7 消毒用シート
8 基材
9 紙幣取扱い装置
P 紙幣