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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102519
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】フランジカルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/68 20060101AFI20230718BHJP
【FI】
C07D307/68
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003050
(22)【出願日】2022-01-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】593045341
【氏名又は名称】明和製紙原料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511110441
【氏名又は名称】駒津 慎
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】岡田 達
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 久士
(72)【発明者】
【氏名】細谷 隆史
(57)【要約】
【課題】投入エネルギーが小さく、より簡易な条件でFDCAを生成するとともに、一連の工程でフラン化合物の酸化からFDCAの単離まで達成するFDCAの製造方法を提供する。
【解決手段】一実施形態によるFDCAの製造方法は、混合工程、酸化工程、除去工程、および分離工程を含む。混合工程は、フラン化合物、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウム、および酸化剤を、水および疎水性溶媒の混合溶媒と50℃以下で混合し、水相と疎水相とからなる反応液を生成する。酸化工程は、反応液を、反応温度を0~50℃、反応時間を0.5~20時間として、撹拌し、フラン化合物を酸化してFDCAを生成する。酸化工程の後、酸化剤を還元する還元剤を加え、酸化工程を停止する。除去工程は、反応液から、疎水相を除去する。分離工程は、疎水相が除去された水相に酸を加えて酸性にし、水相に溶解するFDCAを析出させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン化合物、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウム、および酸化剤を、水および疎水性溶媒の混合溶媒と50℃以下で混合し、水相と疎水相とからなる反応液を生成する混合工程と、
前記反応液を、反応温度を0~50℃、反応時間を0.5~20時間として、撹拌し、前記フラン化合物を酸化してフランジカルボン酸(FDCA)を生成する酸化工程と、
前記反応液から、前記疎水相を除去する除去工程と、
前記除去工程で前記疎水相が除去された前記水相に酸を加えて酸性にし、前記水相に溶解する前記FDCAを析出させる分離工程と、
を含むFDCAの製造方法。
【請求項2】
前記混合工程は、前記フラン化合物、前記TEMPO類縁体および前記炭酸水素ナトリウムを、前記混合溶媒に混合する第一混合工程と、
前記第一混合工程で混合された混合液に、前記酸化剤を加える第二混合工程と、
を含む請求項1記載のFDCAの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程は、前記TEMPO類縁体、前記炭酸水素ナトリウムおよび前記酸化剤を、前記混合溶媒に混合する第一混合工程と、
前記第一混合工程で混合された混合液に、前記フラン化合物の水溶液を加える第二混合工程と、
を含む請求項1記載のFDCAの製造方法。
【請求項4】
フラン化合物、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウム、および酸化剤を、水および親水性溶媒の混合溶媒と50℃以下で混合し、反応液を生成する混合工程と、
前記反応液を、反応温度を0~50℃、反応時間を0.5~20時間として、撹拌し、前記フラン化合物を酸化してフランジカルボン酸(FDCA)を生成する酸化工程と、
前記反応液に酸を加えて酸性にし、前記水相に溶解する前記FDCAを析出させる分離工程と、
を含むFDCAの製造方法。
【請求項5】
前記疎水相の体積は、前記水相の1/10~1倍である請求項1~3のいずれか一項記載のFDCAの製造方法。
【請求項6】
前記反応液のpHは、9.0未満である請求項1から5のいずれか一項記載のFDCAの製造方法。
【請求項7】
前記酸化工程における前記反応温度は、20~35℃の室温である請求項1~6のいずれか一項記載のFDCAの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フランジカルボン酸(FDCA:Furan-2,5-DiCarboxylic Acid)は、バイオプラスチックの原料として活用が研究されている。FDCAは、例えば生物由来の化合物であるヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF:5-HydroxyMethyl-2-Furaldehyade)などのフラン化合物を原料物質として、これを酸化することによって生成される。
【0003】
従来、FDCAは、例えば5-HMFを、重金属を触媒として空気中の酸素を用いて酸化することが一般的であった。しかし、重金属の触媒は、高価であるだけでなく、環境や人体への影響も大きいことから、生成したFDCAの後処理が煩雑であるという問題がある。そこで、例えばTEMPO(2,2,6,6-TetraMethylPiperidine-1-Oxyl)などの有機触媒を用いてFDCAを酸化することが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の場合、親水性と疎水性の2つの液相において、臭化物や塩化物などのハロゲン化物の存在下で相間移動触媒を用いることを前提としている。また、特許文献1の場合、その条件として、pHが9を超える高いアルカリ環境下での反応が必要となる。そのため、特許文献1の場合、相間移動触媒の安定性の維持、あるいは疎水性の溶媒の加水分解の回避などの観点から、低温での酸化が求められる。その結果、冷却のために、投入エネルギーの増大を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2019/072920明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、投入エネルギーが小さく、より簡易な条件でFDCAを生成するとともに、一連の工程でフラン化合物の酸化からFDCAの単離まで達成するFDCAの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本実施形態では、炭酸水素ナトリウムを用いることにより、フラン化合物を含む反応液を弱アルカリ性としている。これにより、疎水性溶媒の加水分解や安定性の低下が抑制され、フラン化合物からFDCAへの酸化は、室温に近い温度でも実行可能となる。そして、酸化されたFDCAを含む反応液に酸を加えて酸性環境とすることにより、不溶となったFDCAは結晶となって析出する。そのため、生成したFDCAは、複雑な工程を招くことなく、簡単に単離される。したがって、投入エネルギーを小さくすることができ、より簡易な条件でFDCAを生成することができるとともに、フラン化合物の酸化からFDCAの単離までを一連の工程で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態によるFDCAの製造方法の手順を示す概略図
図2】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図3】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図4】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図5】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図6】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図7】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図8】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図9】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図10】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図11】一実施形態によるFDCAの製造方法の実施例を示す概略図
図12】一実施形態によるFDCAの製造方法の比較例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、FDCAの製造方法の一実施形態を説明する。
図1に示すように、一実施形態によるFDCAの製造方法は、混合工程(S101)、酸化工程(S102)、停止工程(S103)、除去工程(S104)および分離工程(S105)を含んでいる。これら混合工程、酸化工程、停止工程、除去工程および分離工程は、一連の工程として実行される。
【0010】
(混合工程)
混合工程は、フラン化合物、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウムおよび酸化剤を、水および疎水性溶媒の混合溶媒に混合する。TEMPO類縁体は、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリヂン-1-オキシルを代表とする化合物である。この他に、TEMPO類縁体としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシ-4-オル(TEMPOL)、l-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-on(TEMPON)、l-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-カルボキシル-ピペリジン(4-カルボキシ-TEMPO)、1-オキシル-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、l-オキソ-2,2,5,5-テトラメチル-3-カルボキシルピロリジン(3-カルボキシ-PROXYL)、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシドなどが挙げられる。
【0011】
フラン化合物は、例えば5-HMFが代表的に用いられる。フラン化合物は、5-HMFに限らず、例えば5-ホルミル-2-フランカルボン酸(FFCA)、2,5-フランジアルデヒド(FDAL)など、官能基の酸化によって最終的にFDCAを生成する中間体なども用いることができる。酸化剤は、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩の水溶液である。酸化剤は、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩の単体であってもよく、次亜塩素酸の水溶液または次亜塩素酸塩の水溶液であってもよい。酸化剤は、多くなるほどフラン化合物の酸化が促進されるものの、過剰に多くなると副反応が生じやすくなり、副反応物の生成および生成したFDCAの分解などが生じるおそれがある。そこで、酸化剤は、フラン化合物に対し、3~10モル当量を加えることが好ましく、3~5モル当量を加えることがより好ましい。
【0012】
これら、炭酸水素ナトリウム、TEMPO類縁体、フラン化合物および酸化剤は、水および疎水性溶媒の混合溶媒と混合される。これにより、水相と疎水相とからなる反応液が生成される。疎水性溶媒としては、例えば鎖式炭化水素、環式炭化水素、エステル、長鎖脂肪酸、長鎖アルコールなど、任意の物質を用いることができる。本実施形態の場合、疎水性溶媒は、エステル、芳香族炭化水素などを用いることが好ましい。混合溶媒における疎水相の体積は、水相の体積の0.1~5倍であることが好ましく、0.1~1倍であることがより好ましく、0.2~0.5倍に設定することがさらに好ましい。
【0013】
疎水性溶媒は、水に対する溶解度が低いTEMPOの溶媒として用いられる。また、疎水性溶媒は、フラン化合物の酸化反応によって生成した目的外の生成物の除去にも用いられる。混合工程では、これら反応液を室温に近い温度で撹拌することにより、混合される。混合工程は、0~50℃の範囲であればよく、室温である20~35℃の範囲がより好ましい。混合工程では、水相と疎水相とは不均一な状態で混合される。なお、混合工程における0℃とは、厳密な0℃ではなく、例えば2~3℃程度と氷で冷却できる10℃以下の温度であればよい。また、フラン化合物を含む反応液は、炭酸水素ナトリウムを加えることにより、水相がpH9.0未満の弱アルカリ性となる。なお、疎水性溶媒に代えて、親水性溶媒を用いることもできる。この場合、反応液は、水相と疎水相とに分離することなく、単一の液相となる。
【0014】
本実施形態の場合、混合工程は、混合方法Aまたは混合方法Bのいずれかを用いて実施される。
(混合方法A)
混合方法Aは、反応液に含まれる原料となるフラン化合物の濃度が比較的小さいときに用いられる。混合方法Aは、第一混合工程および第二混合工程に細分される。混合方法Aは、第一混合工程において、フラン化合物、TEMPO類縁体および炭酸水素ナトリウムを、水および疎水性溶媒の混合溶媒に混合する。第二混合工程では、第一混合工程で混合された混合液に、酸化剤が加えられる。この第二混合工程では、酸化剤は、混合液を0~50℃に保持した状態で撹拌しながら、混合液に加えられる。このように、混合方法Aの場合、酸化剤は、フラン化合物、TEMPO類縁体および炭酸水素ナトリウムを含む混合液に加えられる。混合方法Aにおいて第一混合工程と第二混合工程とによって生成した反応液は、水および水溶性の成分を含む水相と、疎水性溶媒および非水溶性の成分を含む疎水相とを含む。
【0015】
混合方法Aの場合、フラン化合物は、水相における濃度が0.01~5質量%である。特に、混合方法Aの場合、フラン化合物は、水相における濃度が0.1~1質量%であることが好ましい。また、TEMPO類縁体は、フラン化合物を含む水相100mlあたり、0.1~350mgが加えられる。特に、TEMPO類縁体は、水相100mlあたりの添加量が、1~35mgであることが好ましい。さらに、炭酸水素ナトリウムは、フラン化合物を含む水相100mlあたり、0.1~30gが加えられる。特に、炭酸水素ナトリウムは、水相100mlあたりの添加量が、1~10gであることが好ましい。
【0016】
(混合方法B)
混合方法Bは、反応液に含まれる原料となるフラン化合物の濃度が比較的高いときに用いられる。混合方法Bは、混合方法Aと同様に第一混合工程および第二混合工程に細分される。混合方法Bは、第一混合工程において、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウムおよび酸化剤を、水および疎水性溶媒の混合溶媒に混合する。第二混合工程では、第一混合工程において混合された混合液に、フラン化合物の水溶液が加えられる。この第二混合工程では、フラン化合物の水溶液は、混合液を0~50℃に保持した状態で撹拌しながら、混合液に加えられる。このように、混合方法Bの場合、フラン化合物の水溶液は、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウムおよび酸化剤を含む混合液に加えられる。混合方法Bにおいて第一混合工程と第二混合工程とによって生成した反応液は、水および水溶性の成分を含む水相と、疎水性溶媒および非水溶性の成分を含む疎水相とを含む。
【0017】
混合方法Bの場合、フラン化合物は、水相における濃度が0.1~95質量%の範囲とすることができ、5~95質量%であることが好ましい。特に、混合方法Bの場合、フラン化合物は、水相における濃度が5~50質量%であることがより好ましい。また、TEMPO類縁体は、フラン化合物を含む水相100mlあたり、30~3500mgが加えられる。炭酸水素ナトリウムは、フラン化合物を含む水相100mlあたり、1~120gが加えられる。
【0018】
混合方法Aまたは混合方法Bで生成された反応液は、過剰な炭酸水素ナトリウムを含んでいる。具体的には、反応液は、上記した割合で添加することにより、原料となるフラン化合物に対し、3~20当量の炭酸水素ナトリウムを添加すればよい。この場合、反応液は、フラン化合物に対し、5~10当量の炭酸水素ナトリウムを含むことが好ましい。また、混合方法Aまたは混合方法Bで生成された反応液は、上記した割合で添加することにより、原料となるフラン化合物に対し、0.01~1当量のTEMPOを含んでいる。この場合、反応液は、フラン化合物に対し、0.02~0.2当量のTEMPOを含むことが好ましい。
【0019】
(酸化工程)
酸化工程は、混合工程で生成された反応液に含まれるフラン化合物を酸化する工程である。酸化剤は、例えば上述のように次亜塩素酸(HOCl)または次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)が用いられる。酸化剤は、反応液に含まれるフラン化合物に対し、上記した割合で添加することにより、1~10モル当量が加えられる。酸化工程では、反応液に含まれるフラン化合物がTEMPO類縁体を触媒として酸化剤によって酸化される。すなわち、酸化工程では、フラン化合物の官能基として含まれるケトン基またはヒドロキシメチル基は、カルボキシル基に酸化される。これにより、フラン化合物は、酸化され、FDCAとなる。
【0020】
酸化工程は、反応温度が0~50℃に設定される。反応温度は、特に20~35℃程度の室温に設定することが好ましい。反応温度を20~35℃の室温に設定することにより、酸化工程において加熱や冷却が不要となり、投入エネルギーの低減が図られる。また、酸化工程は、反応時間が0.5~20時間に設定される。このように、酸化工程では、混合工程で混合された反応液が、0~50℃、好ましくは室温で0.5~20時間撹拌される。これにより、酸化工程では、フラン化合物がFDCAに酸化される。
【0021】
また、フラン化合物を含む反応液は、酸化工程におけるpHが9.0未満である。具体的には、酸化工程における水相のpHは、7.0~9.0であり、7.0~8.4であることが好ましい。これは、本実施形態では、反応液に炭酸水素ナトリウムを加えていることによるものである。つまり、フラン化合物を含む反応液に炭酸水素ナトリウムを加えることにより、この反応液は中性に近い弱アルカリ性となる。フラン化合物の酸化は、アルカリ性の環境下で進行する。一方、疎水性の溶媒として例えば酢酸エチルなどのエステルを用いる場合、pHが大きくなると加水分解を招く。特に、フラン化合物の酸化に好ましい室温以上の領域では、エステルの加水分解が進行しやすい。そのため、フラン化合物の酸化において、アルカリ性の環境を生成するために水酸化ナトリウムなどの強アルカリを用いる場合、反応温度を0℃以下の温度に制御する必要がある。
【0022】
これに対し、本実施形態では、炭酸水素ナトリウムを用いることにより、水相のpHを9.0未満の弱アルカリ性の環境とし、疎水性の溶媒としてエステルを用いることも可能としている。そして、弱アルカリ性の環境下でフラン化合物を酸化することにより、エステル類に限らず疎水性溶媒の安定性が向上することから、反応温度を室温に近い温度とすることができる。このように、本実施形態では、弱アルカリ性の環境下においてフラン化合物を酸化することにより、投入エネルギーの低減を図ることができる。
【0023】
(停止工程)
停止工程は、フラン化合物の酸化を停止する工程である。フラン化合物の酸化が過剰に進行すると、フラン化合物または生成したFDCAを由来とする目的外の副生成物などの不純物の生成を招く。そこで、停止工程では、還元剤を加えることにより、酸化工程を停止する。具体的には、停止工程で加える還元剤は、例えばハイポ(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)または亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)などを用いることができる。なお、停止工程は、省略することができる。すなわち、酸化剤の量を適切に設定することにより、酸化工程におけるフラン化合物の酸化によって酸化剤はすべて消費される。そのため、酸化剤の量を適切に設定した場合、還元剤の添加は省略することができる。
【0024】
(除去工程)
除去工程は、反応液から疎水相を除去する工程である。反応液を構成する溶媒である水と疎水性溶媒とは、撹拌による混合を停止すると、水相および疎水相の2つの液相に分離する。除去工程では、分離した2つの液相から疎水相を除去する。なお、反応液に親水性溶媒を用いる場合、反応液は単一の液相となり分離しない。そのため、親水性溶媒を用いる場合、除去工程は省略することができる。
【0025】
(分離工程)
分離工程は、水相に残留するFDCAを分離する工程である。フラン化合物の酸化によって生成したFDCAは、アルカリ性の環境下において反応液の水相に溶解している。反応液から疎水相を除去した後の水相を減圧下で濃縮し、これに酸を加えることにより、水相は酸性の環境となる。そのため、水相に溶解しているFDCAは、結晶となって析出する。このとき、用いる酸は、塩酸(HCl)や硫酸(HSO)など任意に用いることができる。析出したFDCAは、例えばろ過などによって収集される。収集されたFDCAは、例えば洗浄、再結晶、乾燥などの後工程を経て精製品となる。なお、反応液に親水性溶媒を用いる場合、反応液の全体を減圧下で濃縮し、これに酸を加えることとなる。
【0026】
(実施例)
以下、実施例および比較例について説明する。実施例および比較例では、用いる原料、触媒、溶媒、温度、反応時間などの条件を変更しながら、得られたFDCAの収率Yおよび純度Pを評価した。収率Yは、分離工程を経た後に最終的に単離された物質の質量W1、および化学反応として理論的に得られるFDCAの質量W2を用いて、Y=W1/W2×100として算出した。また、純度Pは、NMRを用いて観測された不純物をFFCAおよびDKHDCAとして、ピークの積分値の比率を案分することにより、
P=FDCA×156.09/(FDCA×156.09+FFCA×140.09+DKHDCA×172.09)
として算出した。ここで、FDCA(δ:7.3ppm)のピークの積分値は2Hとした。FFCA(δ:7.4、7.6、9.8ppm)のピークの積分値の平均値は1Hとした。DKHDCA(δ:6.7ppm)のピークの積分値は2Hとした。DKHDCAは、ジケトヘキセンジカルボン酸(Diketohexendicalboxylic Acid)である。
【0027】
(実施例1)
実施例1は、混合方法Aを用いた。実施例1は、図2に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0028】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例1におけるFDCAの収率は、48%であった。
【0029】
(実施例2)
実施例2は、混合方法Aを用いた。実施例2は、図2に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、20時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0030】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例2におけるFDCAの収率は、45%であった。
【0031】
(実施例3)
実施例3は、混合方法Aを用いた。実施例3は、図2に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、0.5時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0032】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例3におけるFDCAの収率は、65%であった。
【0033】
実施例1~実施例3は、酸化工程における反応時間がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例1~実施例3によると、酸化工程における反応時間は、FDCAの収率に与える影響が小さいことがわかる。酸化工程における反応時間が短いと、FFCAのような中間体が混入し、生成物の純度が低下する。また、酸化工程における反応時間が長くなると、酸化剤の量に応じて酸化反応が進行し、生成したFDCAの分解が進行すると考えられる。
【0034】
(実施例4)
実施例4は、混合方法Aを用いた。実施例4は、図3に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、50℃で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、50℃に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0035】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例4におけるFDCAの収率は、41%であった。
【0036】
(実施例5)
実施例5は、混合方法Aを用いた。実施例5は、図3に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、10℃以下の氷冷で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、氷冷で10℃以下に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0037】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例5におけるFDCAの収率は、80%であった。
【0038】
実施例4~実施例5は、酸化工程における反応温度がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例4~実施例5によると、酸化工程における反応温度が低くなるほど、FDCAの収率は高くなる傾向にあることがわかる。これは、酸化工程における反応温度が高くなると、FDCA以外の副生成物の生成が進むとともに、生成したFDCAの分解が進むためと考えられる。
【0039】
(実施例6)
実施例6は、混合方法Aを用いた。実施例6は、図4に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.9ml(3mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0040】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例6におけるFDCAの収率は、80%であった。
【0041】
(実施例7)
実施例7は、混合方法Aを用いた。実施例7は、図4に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2.2ml(3.5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0042】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例7におけるFDCAの収率は、92%であった。
【0043】
(実施例8)
実施例8は、混合方法Aを用いた。実施例8は、図4に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.2ml(10mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを8.0ml(7.7mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0044】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例8におけるFDCAの収率は、16%であった。
【0045】
実施例6~実施例8は、酸化工程で加える酸化剤の量がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例6~実施例8によると、酸化工程で加える酸化剤の量は、FDCAの収率に与える影響が大きいことがわかる。すなわち、5-HMFに対して酸化剤が3~5当量程度であるとき、FDCAの収率は大きくなる。一方、5-HMFに対して酸化剤が過剰になると、FDCAの収率は低下する。これは、酸化剤が過剰になると、FDCA以外の副生成物の生成が進むとともに、生成したFDCAの分解が進むためと考えられる。なお、実施例6~実施例8では、酸化剤の量に応じて、停止工程で添加する還元剤の量も変更している。
【0046】
(実施例9)
実施例9は、混合方法Aを用いた。実施例9は、図5に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを1.6mg(0.01mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0047】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例9におけるFDCAの収率は、42%であった。
【0048】
(実施例10)
実施例10は、混合方法Aを用いた。実施例10は、図5に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを7.8mg(0.05mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0049】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例10におけるFDCAの収率は、48%であった。
【0050】
実施例9~実施例10は、TEMPOの量がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例9~実施例10によると、TEMPOの量は、酸化工程における反応に寄与できる量であれば、FDCAの収率に与える影響が小さいことがわかる。
【0051】
(実施例11)
実施例11は、混合方法Aを用いた。実施例11は、図6に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水5mlおよび酢酸エチル2mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0052】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例11におけるFDCAの収率は、41%であった。
【0053】
(実施例12)
実施例12は、混合方法Aを用いた。実施例12は、図6に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水500mlおよび酢酸エチル50mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0054】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例12におけるFDCAの収率は、71%であった。
【0055】
実施例11~実施例12は、5-HMFの濃度がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例11~実施例12によると、5-HMFの濃度は、FDCAの収率に与える影響が比較的大きいことがわかる。すなわち、5-HMFの濃度が小さくなるほどFDCAの収率は高くなる傾向にあることがわかる。これは、5-HMFの濃度が小さくなると、FDCA以外の副生成物の生成が抑制されるためと考えられる。
【0056】
(実施例13)
実施例13は、混合方法Bを用いた。実施例13は、図7に示すように12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.2ml(5mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、酢酸エチル2mlとともに混合溶媒として室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、10℃以下の氷冷で撹拌しながら、フラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)加えた。このとき、5-HMFは、25.2質量%の水溶液として加えた。反応液は、10℃以下に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0057】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例13におけるFDCAの収率は、23%であった。
【0058】
(実施例14)
実施例14は、混合方法Bを用いた。実施例14は、図7に示すように12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液2.2ml(3.5mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、フラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)加えた。このとき、5-HMFは、25.2質量%の水溶液として0.5mlを加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0059】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例13におけるFDCAの収率は、75%であった。
【0060】
実施例13~実施例14は、上述の実施例11~実施例12と同様に5-HMFの濃度がFDCAの収率に与える影響を考察している。また、実施例13~実施例14では、5-HMFの濃度が大きくても混合が容易な混合方法Bを採用した。これら実施例13~実施例14によると、5-HMFの濃度は、FDCAの収率に与える影響が比較的大きいことがわかる。すなわち、5-HMFの濃度が低い方がFDCAの収率は高くなる傾向にあることがわかる。これは、5-HMFの濃度が高くなると、FDCA以外の副生成物の生成が進むためと考えられる。また、実施例13~実施例14は、混合方法がFDCAの収率に与える影響が小さいことを示している。したがって、混合方法Aまたは混合方法Bは、原料となるフラン化合物の濃度に応じて任意に選択することができる。
【0061】
(実施例15)
実施例15は、混合方法Aを用いた。実施例15は、図8に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよびトルエン20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0062】
反応液からトルエンの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例15におけるFDCAの収率は、30%であった。
【0063】
(実施例16)
実施例16は、混合方法Aを用いた。実施例16は、図8に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび塩化メチレン20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0064】
反応液から塩化メチレンの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例16におけるFDCAの収率は、13%であった。
【0065】
(実施例17)
実施例17は、混合方法Aを用いた。実施例17は、図8に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸ブチル10mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2.5ml(4mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0066】
反応液から酢酸ブチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例17におけるFDCAの収率は、56%であった。
【0067】
(実施例18)
実施例18は、混合方法Aを用いた。実施例18は、図9に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸イソプロピル10mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2.5ml(4mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0068】
反応液から酢酸イソプロピルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例18におけるFDCAの収率は、73%であった。
【0069】
(実施例19)
実施例19は、混合方法Aを用いた。実施例19は、図9に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよびアセトニトリル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2.5ml(4mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0070】
親水性溶媒であるアセトニトリルは水相との分離が困難であることから、反応液は全体を減圧下で濃縮した。濃縮された反応液の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、反応液には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例19におけるFDCAの収率は、51%であった。
【0071】
(実施例20)
実施例20は、混合方法Aを用いた。実施例20は、図9に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよびテトラヒドロフラン(THF)20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2.5ml(4mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1.5ml(1.4mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0072】
親水性溶媒であるTHFは水相との分離が困難であることから、反応液は全体を減圧下で濃縮した。濃縮された反応液の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、反応液には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例20におけるFDCAの収率は、50%であった。
【0073】
実施例15~実施例20は、混合工程および酸化工程で用いる疎水性溶媒および親水性溶媒がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例15~実施例20によると、疎水性溶媒だけでなく、アセトニトリルやTHFのような親水性溶媒も含む、多様な疎水性溶媒および親水性溶媒を使用可能であることがわかる。その中でも疎水性溶媒が疎水相を形成し、収率が比較的高く、特に、酢酸ブチルおよび酢酸イソプロピルなどのエステル類は、FDCAの収率がより高いことがわかる。
【0074】
(実施例21)
実施例21は、混合方法Aを用いた。実施例21は、図10に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル5mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0075】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例21におけるFDCAの収率は、37%であった。
【0076】
(実施例22)
実施例22は、混合方法Aを用いた。実施例22は、図10に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル10mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0077】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例22におけるFDCAの収率は、38%であった。
【0078】
実施例21~実施例22は、混合工程および酸化工程で用いる酢酸エチルの量がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例21~実施例22によると、混合工程および酸化工程で用いる酢酸エチルの量がFDCAの収率に与える影響は、比較的小さいことがわかる。
【0079】
(実施例23)
実施例23は、混合方法Aを用いた。実施例23は、図11に示すようにフラン化合物としてFFCAを140mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.0ml(1.6mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1ml(0.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0080】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例23におけるFDCAの収率は、75%であった。
【0081】
(実施例24)
実施例24は、混合方法Aを用いた。実施例24は、図11に示すようにフラン化合物としてFDALを124mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、炭酸水素ナトリウム590mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.5ml(2.4mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを1ml(0.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0082】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。実施例23におけるFDCAの収率は、81%であった。
【0083】
実施例23~実施例24は、原料物質であるフラン化合物がFDCAの収率に与える影響を考察している。これら実施例23~実施例24によると、5-HMFに限らず、その他のフラン化合物も本実施形態に適用可能であることがわかる。
【0084】
(比較例1)
比較例1は、混合方法Aを用いた。比較例1は、図12に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。すなわち、比較例1は、水相を弱アルカリ性とする炭酸水素ナトリウムを含んでいない。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0085】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。これにより、水相には、FDCAが結晶として析出した。析出した結晶は、ろ過によって収集した後、水1mlで2回洗浄を行ない、減圧乾燥してFDCAを得た。比較例1におけるFDCAの収率は、10%であった。
【0086】
このように、炭酸水素ナトリウムを添加しない比較例1は、収率が低下することがわかる。これは、炭酸水素ナトリウムを添加しない場合、水相のpHが7.0より小さな酸性になりやすく、5-HMFの酸化が妨げられるためと考えられる。
【0087】
(比較例2)
比較例2は、混合方法Aを用いた。比較例2は、図12に示すようにフラン化合物として5-HMFを126mg(1mmol)、TEMPO類縁体としてTEMPOを15.6mg(0.1mmol)、水酸化ナトリウム280mg(7mmol)を、水50mlおよび酢酸エチル20mlの混合溶媒に室温で撹拌しながら混合し、反応液とした。すなわち、比較例2は、炭酸水素ナトリウムに代えて水酸化ナトリウムを含んでいる。そのため、比較例2の場合、水相は、pHが10以上の強アルカリの環境となる。反応液は、室温で撹拌しながら、酸化剤として12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を3.2ml(5mmol)加えた。反応液は、室温に維持したまま、1時間、撹拌し、還元剤として10質量%の亜硫酸水素ナトリウムを3ml(2.9mmol)加えて、酸化工程における反応を停止させた。
【0088】
反応液から酢酸エチルの疎水相を分離するとともに、分離した疎水相を5mlの水で洗浄した。反応液から疎水相が分離された水相は、疎水相を洗浄した水とあわせて減圧下で濃縮した。濃縮された水相の残液は、水を用いて10mlに調整し、濃塩酸を1ml加えて酸性にした。比較例2の場合、酸性の環境下としても、水相には結晶が析出しない。そのため、残った水相を減圧濃縮して乾固した後、エタノール10mlを加えて不溶の無機塩類を分離した。さらに、エタノールを溶媒とするろ液を減圧濃縮し、残渣にアセトン10mlを加えて不溶物を除去した後、このアセトンを溶媒とするろ液を減圧濃縮して褐色の粉末を得た。この褐色の粉末は、FDCAと思われるNMRのピークが含まれていたものの微量であり、多成分の混合物であった。
【0089】
このように、アルカリ源として水酸化ナトリウムを用いた比較例2は、FDCAがほとんど得られなかった。これは、水酸化ナトリウムを添加した比較例2は、疎水性溶媒である酢酸エチルの加水分解が進行し、5-HMFの酸化よりも、副反応が優位に進行したためと考えられる。
【0090】
以上の通り、比較例1および比較例2から、本実施形態のように炭酸水素ナトリウムを用いて水相をpH9.0未満の弱アルカリ性の環境とすることにより、5-HMFの所望の酸化が促進され、FDCAの収率が向上することがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-03-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン化合物、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウム、および酸化剤を、水および疎水性溶媒の混合溶媒と50℃以下で混合し、水相と疎水相とからなる反応液を生成する混合工程と、
前記反応液を、反応温度を20~35℃の室温、pHを9.0未満、反応時間を0.5~20時間として、撹拌し、前記フラン化合物を酸化してフランジカルボン酸(FDCA)を生成する酸化工程と、
前記反応液から、前記疎水相を除去する除去工程と、
前記除去工程で前記疎水相が除去された前記水相に酸を加えて酸性にし、前記水相に溶解する前記FDCAを析出させる分離工程と、
を含むFDCAの製造方法。
【請求項2】
前記混合工程は、前記フラン化合物、前記TEMPO類縁体および前記炭酸水素ナトリウムを、前記混合溶媒に混合する第一混合工程と、
前記第一混合工程で混合された混合液に、前記酸化剤を加える第二混合工程と、
を含む請求項1記載のFDCAの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程は、前記TEMPO類縁体、前記炭酸水素ナトリウムおよび前記酸化剤を、前記混合溶媒に混合する第一混合工程と、
前記第一混合工程で混合された混合液に、前記フラン化合物の水溶液を加える第二混合工程と、
を含む請求項1記載のFDCAの製造方法。
【請求項4】
フラン化合物、TEMPO類縁体、炭酸水素ナトリウム、および酸化剤を、水および親水性溶媒の混合溶媒と50℃以下で混合し、反応液を生成する混合工程と、
前記反応液を、反応温度を20~30℃の室温、pHを9.0未満、反応時間を0.5~20時間として、撹拌し、前記フラン化合物を酸化してフランジカルボン酸(FDCA)を生成する酸化工程と、
前記反応液に酸を加えて酸性にし、前記水相に溶解する前記FDCAを析出させる分離工程と、
を含むFDCAの製造方法。
【請求項5】
前記疎水相の体積は、前記水相の1/10~1倍である請求項1~3のいずれか一項記載のFDCAの製造方法