(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102541
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】コイル部品及びコイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20230718BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20230718BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20230718BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230718BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 D
H01F27/29 123
H01F1/147
H01F41/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003092
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
【テーマコード(参考)】
5E041
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041AA19
5E041BB01
5E062FF10
5E070AB01
5E070BA12
5E070BB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】めっき伸びが抑制されるとともに磁気特性の劣化も抑制するコイル部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コイル部品1は、複数の第1金属磁性粒子を含む基体10と、基体の内部に設けられているコイル導体25と、基体の表面に形成された絶縁性の複合材料層30と、めっき層と、を備える。コイル導体は、基体の表面から露出する端面を有しており、めっき層は、コイル導体の端面に設けられる。複合材料層は、コイル導体の端面を囲むように設けられており、複数の第2金属磁性粒子及びガラスを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1金属磁性粒子を含む基体と、
前記基体の内部に設けられており、前記基体の表面から露出する端面を有するコイル導体と、
めっき層を含み、前記端面に設けられた外部電極と、
前記基体の表面に前記コイル導体の前記端面を囲むように設けられており、複数の第2金属磁性粒子及びガラスを含む絶縁性の複合材料層と、
を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記複合材料層における前記ガラスの割合は、0.5vol%以上10vol%以下である、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記ガラスにおけるSiの原子割合は、70at%以上90at%以下である、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第1金属磁性粒子におけるSiの原子割合は、3at%以上10at%以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記第2金属磁性粒子におけるSiの原子割合は、3at%以上10at%以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記第2金属磁性粒子の平均粒径は前記第1金属磁性粒子の平均粒径より大きい、請求項1から5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記基体は、ガラス成分を含有しない、
請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記基体は、樹脂成分を含有しない、
請求項1から7のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記複合材料層は、前記コイル導体の前記端面を覆わないように、前記基体の表面に設けられる、
請求項1から8のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記基体は、直方体形状を呈し、
前記コイル導体は、前記基体の第1面から露出し、
前記複合材料層は、前記第1面の全体を覆うように前記基体に設けられる、
請求項1から9のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記基体は、直方体形状を呈し、
前記コイル導体は、前記基体の第1面から露出し、
前記複合材料層は、前記第1面の少なくとも一部及び前記第1面と接続されている第2面の少なくとも一部を覆うように前記基体に設けられる、
請求項1から10のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記複合材料層は、10μm以上の厚さを有する、
請求項1から11のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項13】
前記複数の第2金属磁性粒子のうちの一の第2金属磁性粒子は、前記一の第2金属磁性粒子に隣接する前記複数の第2金属磁性粒子のうちの他の第2金属磁性粒子と前記ガラスによって接合している、
請求項1から12のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項14】
前記複数の第2金属磁性粒子は、一の第2金属磁性粒子と前記一の第2金属磁性粒子に隣接する他の第2金属磁性粒子と、を含み、
前記一の第2金属磁性粒子及び前記他の第2金属磁性粒子の各々の表面には絶縁膜が設けられており、
前記一の第2金属磁性粒子と前記他の第2金属磁性粒子とは、各々の絶縁膜を介して接合している、
請求項1から13のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項15】
前記基体は、直方体形状を呈し、
前記コイル導体は、前記基体の第1面から露出し、
前記複数の第2金属磁性粒子の一部は、前記基体の前記第1面から露出している、
請求項1から14のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項16】
前記コイル導体の前記端面と前記めっき層との間に設けられた下地電極層をさらに備える、
請求項1から15のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項17】
前記コイル導体は、前記基体の第1面から露出し、
前記複合材料層は、前記第1面に垂直な方向から見た場合に前記下地電極層を囲むように設けられている、
請求項16に記載のコイル部品。
【請求項18】
複数の第1金属磁性粒子を含み、内部に導体部が設けられた構造体の表面に、複数の第2金属磁性粒子及び複数のガラス粒子を含み、前記構造体から露出する前記導体部の端面と対応する位置に貫通孔を有する絶縁性の絶縁膜を形成して積層体を形成する工程と、
前記積層体に加熱処理を行う工程と、
前記構造体の表面から露出する前記導体部の端面にめっき層を含む外部電極を形成する工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項19】
前記絶縁膜は、前記貫通孔が前記導体部の一部を収容するように前記構造体に形成される、
請求項19に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項20】
前記複数のガラス粉の平均粒径は、前記複数の第2金属磁性粒子の平均粒径の2分の1以下である、
請求項18又は19に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、コイル部品及びコイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品は、電子機器において用いられる受動素子である。コイル部品は、例えば、電源ラインや信号ラインにおいてノイズを除去するために用いられる。コイル部品は、基体と、基体の内部に端面が基体から露出するように設けられたコイル導体と、コイル導体の端面に接続される外部電極と、を備える。
【0003】
特開2018-170429号公報(特許文献1)には、コイル導体の端面に形成されたNiめっき層と、このNiめっき層を覆うAuめっき層と、を備えるコイル部品が記載されている。めっき層は、Snを含有するSnめっき層とされることもある。
【0004】
金属磁性粒子から構成される基体は、フェライト材料から構成される基体よりも絶縁性が低い。このため、金属磁性粒子から構成される基体を有するコイル部品においては、基体の表面に望まれないめっき伸びが生じるおそれがある。コイル部品の技術分野において、めっき伸びは、外部電極の設置領域の外にまでめっきが伸び広がる現象を指す。めっき伸びは、コイル部品の外部電極間の短絡やコイル部品と他の電子部品との短絡の原因となるため望ましくない。
【0005】
特許文献1のコイル部品は、めっき層の外縁に沿ってコイル導体上に形成されたガラス層を有しており、このガラス層によりめっき伸びを抑制する。また、特開2013-254917号公報(特許文献2)には、基体の表面に設けられた絶縁性酸化物のコーティングを有するコイル部品が記載されている。この絶縁性酸化物は、例えばガラスである。特許文献2のコイル部品では、この絶縁性酸化物によりめっき伸びが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-170429号公報
【特許文献2】特開2013-254917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラス層は、めっき伸びの抑制に有効であるが、コイル部品の磁気特性を劣化させる原因となる。例えば、ガラスは、非磁性体なので、基体にガラスが含まれているとコイル部品の透磁率が劣化する。めっき伸びが抑制されるとともに、めっき伸び抑制の代償として起こる磁気特性の劣化が抑制されたコイル部品が望まれる。
【0008】
本発明の目的の一つは、めっき伸びが抑制されるとともに磁気特性の劣化も抑制されたコイル部品及びその製造方法を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。本明細書に開示される発明は、「発明を解決しようとする課題」の欄の記載以外から把握される課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に係るコイル部品は、複数の第1金属磁性粒子を含む基体と、基体の内部に設けられており、当該基体の表面から露出する端面を有するコイル導体と、コイル導体の端面に設けられた外部電極と、複数の第2金属磁性粒子及びガラスを含む絶縁性の複合材料層と、を備える。外部電極は、めっき層を含む。複合材料層は、基体の表面にコイル導体の端面を囲むように設けられる。
【0010】
一実施形態において、複合材料層におけるガラスの割合は、0.5vol%以上10vol%以下である。
【0011】
一実施形態において、ガラスにおけるSiの原子割合は、70at%以上90at%以下である。
【0012】
一実施形態において、第1金属磁性粒子におけるSiの原子割合は、3at%以上10at%以下である。
【0013】
一実施形態において、第2金属磁性粒子におけるSiの原子割合は、3at%以上10at%以下である。
【0014】
一実施形態において、第2金属磁性粒子の平均粒径は、第1金属磁性粒子の平均粒径より大きい。
【0015】
一実施形態において、基体は、ガラス成分を含有しない。
【0016】
一実施形態において、基体は、樹脂成分を含有しない。
【0017】
一実施形態において、複合材料層は、コイル導体の端面を覆わないように、基体の表面に設けられる。
【0018】
一実施形態において、基体は、直方体形状を呈する。一実施形態において、コイル導体は、基体の第1面から露出し、複合材料層は、第1面の全体を覆うように基体に設けられる。
【0019】
一実施形態において、複合材料層は、第1面の少なくとも一部及びこの第1面と接続されている第2面の少なくとも一部を覆うように基体に設けられる。
【0020】
一実施形態において、複合材料層は、10μm以上の厚さを有する。
【0021】
一実施形態において、複数の第2金属磁性粒子は、一の第2金属磁性粒子と、他の第2金属磁性粒子と、を含む。他の第2金属磁性粒子は、一の第2金属磁性粒子と隣接している。一の第2金属磁性粒子は、他の第2金属磁性粒子とガラスによって接合している。
【0022】
一実施形態において、一の第2金属磁性粒子及び他の第2金属磁性粒子の各々の表面には絶縁膜が設けられており、一の第2金属磁性粒子と他の第2金属磁性粒子とは、各々の絶縁膜を介して接合している。
【0023】
一実施形態において、コイル導体は、基体の第1面から露出し、複数の第2金属磁性粒子の一部は、基体の第1面から露出している。
【0024】
一実施形態に係るコイル部品は、コイル導体の端面とめっき層との間に設けられた下地電極層をさらに備える。
【0025】
一実施形態において、複合材料層は、基体の第1面に垂直な方向から見た場合に下地電極層を囲むように設けられている。
【0026】
本発明の一実施形態は、コイル部品の製造方法に関する。一実施形態に係るコイル部品の製造方法は、複数の第1金属磁性粒子を含み、内部に導体部が設けられた構造体の表面に、複数の第2金属磁性粒子及び複数のガラス粒子を含み、構造体から露出する導体部の端面と対応する位置に貫通孔を有する絶縁性の絶縁膜を形成して積層体を形成する工程と、積層体に加熱処理を行う工程と、構造体の表面から露出する導体部の端面にめっき層を含む外部電極を形成する工程と、を備える。
【0027】
一実施形態において、絶縁膜は、貫通孔が導体部の一部を収容するように構造体に形成される。
【0028】
一実施形態において、複数のガラス粉の平均粒径は、複数の第2金属磁性粒子の平均粒径の2分の1以下である。
【発明の効果】
【0029】
本明細書に記載されている発明の実施形態によれば、めっき伸びが抑制されるとともに磁気特性の劣化も抑制されたコイル部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図1のコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】
図3の領域Aを拡大して示す拡大断面図である。
【
図5a】基体に含まれる金属磁性粒子を説明するための模式図である。
【
図5b】複合材料層に含まれる金属磁性粒子を説明するための模式図である。
【
図6a】複合材料層に含まれる金属磁性粒子同士の結合を説明するための模式図である。
【
図6b】複合材料層に含まれる金属磁性粒子同士の結合を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の別の実施形態に係るコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図8】本発明の別の実施形態に係るコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】本発明の別の実施形態に係るコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図10】本発明の別の実施形態に係るコイル部品の断面を示す模式的に示す断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は、必ずしも特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0032】
図1から
図3を参照して本発明の一実施形態によるコイル部品1について説明する。
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、
図2は、
図1のI-I線に沿ってコイル部品1を切断したコイル部品1の模式的な断面図であり、
図3は、
図2の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。図示のように、コイル部品1は、基体10と、基体10の内部に設けられたコイル導体25と、基体10の表面に設けられた絶縁性の複合材料層30と、複合材料層30の表面に設けられた外部電極21と、複合材料層30の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。外部電極21は、コイル導体25の一端と電気的に接続されており、外部電極22は、コイル導体25の他端と電気的に接続されている。外部電極21及び外部電極22はそれぞれ、めっき層を含んでいる。めっき層の詳細については後述する。
【0033】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。図示の明瞭さのために、
図1以外では、実装基板2a、ランド部3a、3bの図示を省略している。
【0034】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル、インダクタアレイ、及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1は、例えば、DC/DCコンバータに用いられるインダクタであってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0035】
基体10は、磁性材料で構成され、直方体形状を有する。本発明の一実施形態において、基体10は、L軸方向における寸法(長さ寸法)がW軸方向における寸法(幅寸法)及びT軸方向における寸法(高さ寸法)よりも大きくなるように構成されている。例えば、長さ寸法は、1.0mm~6.0mmの範囲にあり、幅寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にあり、高さ寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にある。基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0036】
基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。基体10は、これらの6つの面によってその外表面が画定されている。第1主面10aと第2主面10bとはそれぞれ基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ基体10の長さ方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ基体10の幅方向両端の面を成している。
図1に示されているように、第1主面10aは基体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」又は「底面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2主面10bが実装基板2aと対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。上面10aと下面10bとの間は基体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は基体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は基体10の幅寸法だけ離間している。
【0037】
基体10は、複数の金属磁性粒子を含む磁性材料から構成される。基体10に含まれる金属磁性粒子は、その表面に絶縁膜を有している。この絶縁膜は、基体10の金属磁性粒子に含まれる金属元素が酸化した酸化物を含む酸化膜であってもよい。基体10に含まれる金属磁性粒子のうち隣接するもの同士は、それらの表面に形成された絶縁膜を介して互いと結合する。基体10は、互いに異なる平均粒径を有する2種類以上の金属磁性粒子を含んでもよい。
【0038】
一実施形態において、基体10は、樹脂成分を含まない。基体に樹脂成分が含まれていると、基体における第1金属磁性粒子の充填率が低下し、その結果、基体の透磁率が劣化する。基体10が樹脂成分を含まないことにより、樹脂成分による基体10の透磁率の低下を防止することができ、これによりコイル部品1の透磁率を向上させることができる。
【0039】
一実施形態における基体10は、中心部にガラス成分を含まない。基体にガラス成分が含まれていると、基体における第1金属磁性粒子の充填率が低下し、その結果、基体の透磁率が劣化する。基体10が中心部にガラス成分を含まないことにより、ガラス成分による基体10の透磁率の低下を防止することができ、これによりコイル部品1の透磁率を向上させることができる。ガラス成分が含まれない基体の中心部は、例えば、
図2に示されている中心領域12であってもよい。中心領域12は、基体10のうち、T軸方向においてはコイル導体25の上面と下面との間にあり、LW平面においては、コイル導体25の後述する周回部25Aの外周面の内側の領域を指す。
【0040】
基体10が樹脂成分及びガラス成分を含まない場合、基体10に含まれる金属磁性粒子のうち隣接するもの同士は、それらの表面に形成された絶縁膜を介して互いと結合する。
【0041】
図2に示されているように、コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Axの周りに巻回されている周回部25Aと、周回部25Aの一端から基体10の下面10bまで延伸する引出部25Bと、周回部25Aの他端から基体10の下面10bまで延伸する引出部25Cと、を有する。
図3に示されているように、コイル導体25は、引出部25Bの端面25B1と引出部25Cの端面25C1のみが基体10から露出する。コイル導体25の端面25B1、25C1以外の部位は、基体10内に埋め込まれている。
【0042】
周回部25Aは、複数の導体パターンC11~C16を有している。複数の導体パターンC11~C16は、コイル軸Axに直交する平面方向に沿って延びると共に、コイル軸Axの方向において互いに離間している。導体パターンC11~C16の各々は、隣接する導体パターンと不図示のビアを介して電気的に接続されている。このように、コイル導体25の周回部25Aは、導体パターンC11~C16及びビアによって構成されている。導体パターンC11は、引出部25Cを介して外部電極22と電気的に接続され、導体C16は引出部25Bを介して外部電極21と電気的に接続される。
【0043】
図示の実施形態において、複合材料層30は、基体10の下面10bに設けられている。複合材料層30は、下面10bの一部又は全体を覆うように基体10に設けられる。図示の実施形態では、複合材料層30は、下面10bの全体を覆っている。
図3に示されているように、複合材料層30のうち引出部25Bの端面25B1と対向する位置には、複合材料層30をT軸方向に貫通する貫通孔30aが形成されている。同様に、複合材料層30のうち引出部25Cの端面25C1と対向する位置には、複合材料層30をT軸方向に貫通する貫通孔30bが設けられている。
【0044】
このように、複合材料層30は、コイル部品1を下面10b側から見たときに、引出部25Bの端面25B1の端面及び引出部25Cの端面25C1を囲むように、基体10の下面10bに設けられている。複合材料層30は、下面10bにおいて、外部電極21と外部電極22との間に介在する。複合材料層30は絶縁性であるため、外部電極21と外部電極22とは基体10の外部では互いから電気的に絶縁されている。図示されている複合材料層30は、一例である。複合材料層30は、下面10bの一部のみに設けられていてもよいし、基体10の下面10b以外の面にも設けられていてもよい。
【0045】
一実施形態において、外部電極21、22に含まれるめっき層は、複合材料層30の表面30Sに電解めっき法又は無電解めっき法により形成される。外部電極21は、2層以上のめっき層を含んでもよい。例えば、外部電極21は、複合材料層30の表面30Sに形成されたNiめっき層と、Niめっき層の表面に形成されたSnめっき層と、を有してもよい。外部電極22は、外部電極21と同様に構成され得る。一実施形態において、外部電極21は、引出部25Bの端面25B1においてコイル導体25に接続されており、外部電極22は、引出部25Cの端面25C1においてコイル導体25に接続されている。外部電極21に含まれるめっき層は、引出部25Bの端面25B1に直接接続されてもよいし、外部電極21に含まれる下地電極層を介して接続されてもよい。同様に、外部電極22に含まれるめっき層は、引出部25Cの端面25C1に直接接続されてもよいし、外部電極22に含まれる下地電極層を介して接続されてもよい。
【0046】
一実施形態において、複合材料層30は、端面25B1、25C1を覆わないように、基体10の表面に設けられる。つまり、複合材料層30は、端面25B1、25C1から離間した位置に配置されてもよい。一実施形態において、複合材料層30は、T軸方向から見た視点で、端面25B1及び端面25C1を囲むように設けられてもよい。端面25B1、25C1と貫通孔の位置が正確にアラインメントされていないと絶縁性の複合材料層30の一部が端面25B1、25C1を覆い、コイル導体25と外部電極21、22との間の電気抵抗が増加する要因となる。一実施形態においては、複合材料層30が端面25B1、25C1を覆わないように、端面25B1、25C1から離間して基体10に設けられるので、コイル導体25の端面25B1、25C1における直流抵抗の増加を防ぐことができる。
【0047】
複合材料層30は、金属磁性粒子及びガラスを含む。複合材料層30は、例えば、樹脂へ溶剤を加えて作成されたスラリーに、金属磁性粒子及びガラス粉を混合して複合材料ペーストを作成し、この複合材料をシート状にした複合材料シートから作製されてもよい。複合材料シートには貫通孔が設けられる。貫通孔には、外部電極21、22の一部分(例えば、下地電極層やめっき層)又は引出部25B、25Cの前駆体となる導電ペーストが充填されてもよい。外部電極21、22の一部分(例えば、下地電極層やめっき層)は、貫通孔を覆うように複合材料シートの基体10と反対側の面に設けられてもよい。複合材料シートは、基体10(又は基体10の前駆体)の表面に設けられる。基体10の表面に設けられた複合材料シートを加熱することで、複合材料層30が得られる。
【0048】
複合材料層30に含まれる金属磁性粒子は、その表面に絶縁膜を有していてもよい。この絶縁膜は、金属磁性粒子に含まれる金属元素が酸化した酸化物を含む酸化膜であってもよい。複合材料層30に含まれる金属磁性粒子のうち隣接するもの同士は、その表面の絶縁膜を介して互いと結合することができる。また、複合材料層30に含まれる金属磁性粒子は、基体10に含まれる金属磁性粒子と、各々の表面に形成されている絶縁膜を介して結合することができる。複合材料層30は、互いに異なる平均粒径を有する2種類以上の金属磁性粒子を含んでもよい。
【0049】
複合材料層30は、ガラスの含有比率を調整することにより、優れた絶縁性を呈するように構成される。複合材料層30が優れた絶縁性を有することにより、複合材料層30の表面に形成される外部電極21、22に含まれるめっき層のめっき伸びを抑制することができる。
【0050】
めっき伸びを抑制するために、コイル部品の基体にガラス成分を含有させたりコイル導体の露出面にガラス層(磁性材料を含まないガラスから成る層)を形成したりすることが提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、ガラスは非磁性材料であるため、ガラス層によりめっき伸びを抑制すると、このガラス層によりコイル部品の磁気特性が劣化してしまう。本発明の一実施形態においては、複合材料層30にガラスだけでなく磁性を発現する金属磁性粒子も含まれているので、複合材料層30によりめっき伸びを抑制するとともに透磁率の劣化を抑制することができる。複合材料層30の透磁率は、基体10の透磁率の50%以上とすることができ、また好ましくは80%以上とすることができる。
【0051】
一実施形態において、複合材料層30は、基体10の下面10bの全体に設けられている(ただし、コイル導体25の端面25B1、25C1は複合材料層30では覆われない。)。絶縁性の複合材料層30により基体10の下面10bの全体を覆うことにより、めっき伸びをより確実に抑制することができる。また、基体10の下面10bの全体に複合材料層30を設けても、複合材料層30に含まれている金属磁性粒子により、コイル部品1の磁気特性の劣化を抑制することができる。
【0052】
一実施形態において、複合材料層30は、1.5x109Ω・cm以上の比抵抗を有する。一実施形態において、複合材料層30におけるガラスの体積割合を0.5vol%以上10vol%以下とすることにより、1.5x109Ω・cm以上の比抵抗を実現することができる。ガラスは、表面に酸化膜を有する金属磁性粒子との親和性が高いので、複合材料層30の作成時に、溶融したガラスが複合材料層30内の金属磁性粒子の表面に沿ってぬれ広がりやすい。このため、複合材料層30に含まれるガラスは、0.5vol%以上10vol%以下という少量でも、金属磁性粒子の表面に沿って複合材料層30の全体に遍在することができ、これにより、金属磁性粒子同士の短絡を防止して複合材料層30に高い絶縁性を付与することができる。
【0053】
一実施形態において、複合材料層30の金属磁性粒子は、Siを含んでいることが望ましい。Siを含む金属磁性粒子の表面には、酸化ケイ素膜が形成されやすく、溶融ガラスは、この酸化ケイ素膜と特に親和性が高い。このため、複合材料層30の金属磁性粒子がSiを含む場合には、複合材料層30の高い絶縁性(例えば、1.5x109Ω・cm以上の比抵抗)をより確実に実現することができる。複合材料層30の金属磁性粒子は、Si以外の溶融ガラスと親和性が高い酸化物を生成する元素、例えば、Alを含むことができる。例えば、Zn、Sn、Pbなどの両性金属の酸化物は、溶融ガラスとの親和性が高い。このため、複合材料層30の金属磁性粒子は、Zn、Sn、及びPbのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0054】
複合材料層30におけるガラスの体積割合を低くすることにより、その分だけ複合材料層30における金属磁性粒子の体積割合を高くすることができる。複合材料層30におけるガラスの体積割合を0.5vol%以上10vol%以下とすることにより、複合材料層30における金属磁性粒子の体積割合を高くすることができ、これによりコイル部品の透磁率を向上させることができる。複合材料層30の透磁率は、基体10の透磁率の50%以上とすることができ、また好ましくは80%以上とすることができる。
【0055】
複合材料層30に含まれるガラスは、例えば、シリカガラス又はホウケイ酸ガラスであってもよい。複合材料層30に含まれるガラスとして、Siを含む任意のガラスを用いることができる。
【0056】
複合材料層30のガラスに含まれるSiは、基体10の第1金属磁性粒子に含まれるSiと酸素を介して結合する。この複合材料層30のガラスに含まれるSiと基体10の第1金属磁性粒子に含まれるSiとの酸素を介した結合により、複合材料層30と基体10との接合を強化することができる。複合材料層30のガラスにおけるSiの含有量が不足すると、複合材料層30のガラスに含まれるSiと基体10の第1金属磁性粒子に含まれるSiとの酸素を介した結合が少なくなり、複合材料層30の基体10に対する接合強度が低下する。他方、Siを過剰に含有するガラスは、難焼結性となる。複合材料層30に含まれるガラスが十分に焼結していないと、ガラスの強度不足により、複合材料層30又はその一部が基体10から剥離しやすくなる。本発明の一実施形態によれば、ガラスにおけるSiの原子割合を70at%以上90at%以下とすることにより、複合材料層30のガラスに含まれるSiと基体10の第1金属磁性粒子に含まれるSiとの酸素を介した結合を十分に確保するとともに、複合材料層30におけるガラスが難焼結性とならないようにして、複合材料層30又はその一部の基体10からの剥離を抑制することができる。
【0057】
複合材料層30のガラスに含まれるSiと基体10の第1金属磁性粒子に含まれるSiとの酸素を介した結合の強度を十分に確保するため、第1金属磁性粒子は、十分な量のSiを含有することが望ましい。他方、第1金属磁性粒子におけるSiの原子割合が過剰になると、第1金属磁性粒子におけるFeの原子割合が減るため、第1金属磁性粒子が発現する磁性が弱くなり、その結果、コイル部品1の透磁率が低下してしまう。一実施形態において、基体10の第1金属磁性粒子におけるSiの原子割合を3at%以上10at%以下とすることにより、複合材料層30のガラスに含まれるSiと基体10の第1金属磁性粒子に含まれるSiとの酸素を介した結合を十分に確保するとともに、高透磁率のコイル部品を実現することができる。
【0058】
複合材料層30に含まれる第2金属磁性粒子も、適切な原子割合でSiを含有することが望ましい。第2金属磁性粒子におけるSiの原子割合が不足すると、複合材料層30において第2金属磁性粒子に含まれるSiとガラスに含まれるSiとの酸素を介した結合が少なくなり、複合材料層30の強度が低下する。他方、第2金属磁性粒子におけるSiの原子割合が過剰になると、第2金属磁性粒子が発現する磁性が弱くなってしまい、コイル部品1の透磁率の低下につながる。本発明の一実施形態によれば、第2金属磁性粒子におけるSiの原子割合を3at%以上10at%以下とすることにより、複合材料層30の強度を十分に確保するとともに、高透磁率のコイル部品1を実現することができる。
【0059】
一実施形態において、複合材料層30の厚さT1は、10μm以上である。複合材料層30の厚さT1は、10μm以上50μm以下であってもよい。複合材料層30の厚さT1は、外部電極22の厚さT2より厚くともよい外部電極21の厚さは、外部電極22の厚さT2と同じであってもよい。複合材料層30の厚さを厚くすることにより、
図3に示されているように下面10bに沿って外部電極21、22を設ける場合に、第1端面10c、第2端面10dにおけるめっき伸びの発生をより確実に防止できる。また、絶縁性の複合材料層30に金属磁性粒子が含まれているので、複合材料層30の厚さT1が厚くても(例えば、10μm以上であっても)コイル部品1の磁気特性の劣化を抑制することができる。
【0060】
続いて、
図4をさらに参照して、基体10と複合材料層30との接合について説明する。
図4は、
図3の領域Aを拡大して示す拡大断面図である。
図3の領域Aは、基体10と複合材料層30に跨がる領域である。
【0061】
図4に示されているように、基体10は、複数の第1金属磁性粒子11を含んでいる。
図5aに示されているように、第1金属磁性粒子11は、磁性を発現する金属部11aと、この金属部11aの表面を覆う絶縁膜11bと、を有する。金属部11aは、軟磁性金属材料から構成される。
【0062】
複合材料層30は、複数の第2金属磁性粒子31とガラス32とを含んでいる。
図5bに示されているように、第2金属磁性粒子31は、磁性を発現する金属部31aと、この金属部31aの表面を覆う絶縁膜31bと、を有する。金属部31aは、軟磁性金属材料から構成される。第2金属磁性粒子31の一部は、複合材料層30の表面30Sにおいて外部に向かって露出している。このため、複合材料層30の表面30Sは、第2金属磁性粒子31に起因する凹凸を有する。
【0063】
一実施形態において、金属部11a及び金属部31a用の軟磁性金属材料は、Fe及びSiを含有する。金属部11a及び金属部31a用の軟磁性金属材料として、例えば、Fe-Si-Cr、Fe-Si-Al、Fe―Si-Cr-B-C、Fe-Si-B-Cr、Fe-Si-B-P-Cu、又はこれらの混合材料を用いることができる。金属部11a及び金属部31a用の軟磁性金属材料は、上述のものには限られない。例えば、金属部11a及び金属部31a用の軟磁性金属材料は、上記の元素以外に、Zr、Nb、又はこれら以外の元素を含むことができる。金属部11a及び金属部31aにおけるSiの原子割合を3at%以上10at%以下とすることができる。金属部11aの組成は、金属部31aの組成と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0064】
絶縁膜11bは、金属部11aに含まれる元素が酸化した酸化物を含むことができる。絶縁膜11bは、例えば、Siの酸化物である酸化ケイ素(SiO2)を含むことができる。同様に、絶縁膜31bは、金属部31aに含まれる元素が酸化した酸化物を含むことができ、Siの酸化物である酸化ケイ素(SiO2)を含むことができる。
【0065】
基体10に含まれている第1金属磁性粒子11のうち隣接するもの同士は、絶縁膜11bにおいて互いと結合する。基体10と複合材料層30との境界付近において、基体10に含まれている第1金属磁性粒子11と複合材料層30に含まれている第2金属磁性粒子31とは、それぞれの絶縁膜11b及び31bにおいて互いと結合する。この第1金属磁性粒子11と第2金属磁性粒子31との結合により、基体10からの複合材料層30の剥離を抑制することができる。
【0066】
複合材料層30に含まれている第2金属磁性粒子31のうち隣接するもの同士は、
図6aに示されているように、絶縁膜31bにおいて互いと結合してもよい。隣接する金属磁性粒子32同士が絶縁膜31bにおいて接合する場合、その接合位置の周囲の領域には、ガラス32が充填されていてもよい。第2金属磁性粒子31のうち隣接するもの同士は、
図6bに示されているように、ガラス32を介して結合してもよい。第2金属磁性粒子31はSiやSi以外の溶融ガラスと親和性が高い酸化物を生成する元素を含んでいるのでガラス32と強く接合することできる。
図6bにおいては、隣接する第2金属磁性粒子31同士は離間しているが、ガラス32により互いに接合されている。複合材料層30に含まれる多数の第2金属磁性粒子31のうち一部は、隣接する第2金属磁性粒子31と各々の絶縁膜31bにおいて接合されており、残部は、隣接する第2金属磁性粒子31とガラス32を介して接合されていてもよい。ガラス32は、第2金属磁性粒子31の間にある隙間を充填している。ガラス32は、複合材料層30の全体に遍在している。
【0067】
一実施形態において、第1金属磁性粒子11の平均粒径は、1μm~30μmである。第1金属磁性粒子11の平均粒径は、次のようにして定めることができる。すなわち、基体10をT軸方向に沿って切断して断面を露出させ、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により2000倍~5000倍の倍率で撮影してSEM像を取得し、このSEM像において、第1金属磁性粒子11の粒度分布を求め、この粒度分布の50%値を第1金属磁性粒子11の平均粒径とすることができる。
【0068】
一実施形態において、第2金属磁性粒子31の平均粒径は、1μm~30μmである。第2金属磁性粒子31の平均粒径は、第1金属磁性粒子11の平均粒径より大きくてもよい。被めっき表面にめっき層を形成する場合、被めっき層が平滑であるほどめっき伸びが生じやすい。被めっき表面の凹凸が大きくなると、めっき処理時に凹部を挟んで隣接する凸部間に電流が流れにくくなるので、その凸部間にはめっきが形成されにくくなる。このように、被めっき表面の凹凸を大きくすることによりめっき伸びが抑制される。第2金属磁性粒子31の平均粒径が大きくなると、複合材料層30の表面30Sの凹凸が大きくなるので、複合材料層30の表面へのめっきの形成を妨げることができる。第2金属磁性粒子31の平均粒径は、第1金属磁性粒子11の平均粒径と同様の方法で定めることができる。
【0069】
図4においては、基体10と複合材料層30との境界が明瞭に示されているが、基体10と複合材料層30との境界は視認できないことがある。基体10と複合材料層30との境界が視認できない場合には、観察領域のうち、金属磁性粒子間にガラスが存在している領域(金属磁性粒子とガラスとが混在している領域)を複合材料層30とし、存在していない領域を基体10とすることができる。
【0070】
続いて、
図7を参照して、他の実施形態を説明する。
図7は、他の実施形態に係るコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
図7に示されている実施形態において、複合材料層30の貫通孔30bは、その径が引出部25Cの端面25C1の径よりも大きくなるように形成されている。引出部25Cの端面25C1は基体10から露出しており、複合材料層30は、端面25C1を囲むように設けられている。これにより、複合材料層30を引出部25Cの端面25C1から離間させることができる。このため、複合材料層30が端面25C1を覆うことによってコイル導体25の直流抵抗が増加することを防止できる。図示は省略されているが、複合材料層30の貫通孔30aは、その径が引出部25Bの端面25B1の径よりも大きくなるように形成されてもよい。
【0071】
続いて、
図8を参照して、他の実施形態を説明する。
図8は、他の実施形態に係るコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
図8に示されている実施形態においては、コイル導体25の引出部25Cの先端が基体10から突出しており、その突出している突出部25C2が複合材料層30の貫通孔30bに収容されている。複合材料層30を複合材料シートから形成する際に、複合材料シートを基体10の前駆体とともに加圧成型することで、引出部25Cの前駆体となる導電ペーストが複合材料シートの貫通孔に充填され、この貫通孔に充填された導電ペーストが突出部25C2となる。つまり、複合材料層30を複合材料シートから形成する際に、基体10の前駆体とともに加圧成型することで、引出部25Cの前駆体となる導電ペーストが複合材料シートの貫通孔に充填され、この貫通孔に充填された導電ペーストが突出部25C2となる。
【0072】
一実施形態においては、複合材料シートに外部電極21、22の一部分の前駆体を形成し、この外部電極21、22の一部分の前駆体を、複合材料シート及び基体10の前駆体とともに加圧成型してもよい。これにより、引出部25B、25Cの前駆体に接続された外部電極21、22の一部分(例えば、下地電極層)の前駆体を形成できる。この外部電極21、22の一部分の前駆体は、複合磁性材料シートに導電ペーストを塗布し、塗布された導電ペーストを複合材料シートに焼き付けることで形成され得る。外部電極21、22の一部分の前駆体は、複合材料シートに形成された貫通孔に充填されてもよい。
【0073】
続いて、
図9を参照して、外部電極21、22が下地電極層を含む実施形態を説明する。
図9は、他の実施形態に係るコイル部品の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
図9に示されている実施形態においては、外部電極22は、下地電極層22aと、めっき層22bと、を有する。下地電極層22aは、複合材料層30の表面30Sに設けられ、めっき層22bは、下地電極層22aの表面に設けられている。下地電極層22aは、例えば、ペースト状の導電材料(例えば、銀)を複合材料層30の表面30Sに塗布し、この塗布された導電材料を乾燥させることによって形成される。下地電極層22aは、複合材料層30の貫通孔30bを閉塞するように設けられてもよい。下地電極層22aは、引出部25Cの端面25C1に塗布されてもよい。下地電極層22aの一部は、複合材料層30の下面に沿って延伸している。
【0074】
一実施形態において、下地電極層22aの前駆体は、例えば、複合磁性層30の前駆体である複合材料シートに、導電ペーストを複合材料シートの貫通孔を覆うように塗布することで形成される。下地電極層22aの前駆体が形成された複合材料シートは、基体10の前駆体とともに加圧成型されてもよい。
【0075】
めっき層22bは、下地電極層22aの表面に、例えば電解めっき法により形成される。めっき層22bは、導電性の下地電極層22aに沿って、下地電極層22aの縁まで延伸する。一実施形態において、複合材料層30は、下地電極層22aを囲むように設けられる。つまり、T軸方向から見た場合に、下地電極層22aは、複合材料層30によって囲まれている。言い換えると、T軸方向から見た場合に、複合材料層30の少なくとも一部は、下地電極層22aの外縁よりも外側に配置されている。図示の実施形態では、複合材料層30の一部は、下地電極層22aのL軸方向における両端よりも、L軸方向のプラス側の位置及びマイナス側の位置に配置されている。複合材料層30の一部は、下地電極層22aのW軸方向における両端よりも、W軸方向のプラス側の位置及びマイナス側の位置に配置されていてもよい。下地電極層22aの外側には絶縁性の複合材料層30が配置されているため、めっき層22bは、下地電極層22aの縁まで延伸するが、それ以上外側へは延伸しない。
【0076】
下地電極層22aにより、めっき層22bとコイル導体25とをより確実に電気的に接続することができる。
【0077】
図示は省略されているが、外部電極21もめっき層と複合材料層30との間に設けられた下地電極層を有していてもよい。下地電極層22aに関する説明は、外部電極21に含まれる下地電極層にも当てはまる。
【0078】
続いて、
図10を参照して、他の実施形態を説明する。
図10は、他の実施形態に係るコイル部品の断面を模式的に示す断面図である。
図10に示されているコイル部品1は、複合材料層130を備えている。複合材料層130は、基体10の下面10b、第1端面10c、及び第2端面10に設けられている。図示の実施形態において、複合材料層130は、基体10の下面10bの全体と、第1端面10cの一部と、第2端面10dの一部と、を覆うように基体10に設けられている。
【0079】
複合材料層130は、複合材料層30と同様に、金属磁性粒子及びガラスを含む。外部電極21、22が、下面10bの第1端面10cとの境界及び第2端面10dとの境界までそれぞれ延伸している場合であっても、複合材料層130により、第1端面10c及び第2端面10dへ伸びるめっき伸びの発生を防止できる。また、複合材料層130に含まれている金属磁性粒子により、基体10の下面10bだけでなく第1端面10c及び第2端面10dにも複合材料層130を設けても、コイル部品1の磁気特性の劣化を抑制することができる。また、基体10本体部の下面10bだけでなく第1端面10c及び第2端面10dからの複合材料層130又はその一部からの剥離も抑制される。
【0080】
次に、
図11を参照して、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。まず、ステップS11において、コイル導体25となる導体部が埋め込まれた構造体の表面に複合材料層30となる複合材料シートが形成された積層体を作製する。この積層体に含まれる構造体は、例えば、シート積層法により作製することができる。以下の例では、構造体がシート積層法により作製される。
【0081】
まず、コイル導体25となる導体部が埋め込まれた構造体を作製するために、金属磁性粉を含有する磁性体シートを準備する。磁性体シートは、例えば、プラスチック製のベースフィルムの表面に金属磁性体ペーストを塗布して乾燥させ、乾燥後の金属磁性体ペーストを所定のサイズに切断することで得られる。金属磁性体ペーストは、例えば金属磁性粒子11となる金属磁性粉を含む樹脂材料に適量の溶剤を加えることで調製される。金属磁性粉は、Fe及びSiを含有する軟磁性金属材料から構成される粉体である。金属磁性粉の表面には予め絶縁膜が形成されていてもよい。金属磁性体ペースト用の樹脂材料としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等の公知の樹脂材料が用いられ得る。
【0082】
次に、複数の磁性体シートの所定の位置に、ビアを形成するための貫通孔を形成する。次に、貫通孔が形成された複数の磁性体シートの各々の表面に、スクリーン印刷等により導電ペーストを塗布することで、各磁性体シートに導体の前駆体パターンを形成する。この導電ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料を含む。磁性体シートに形成される導体の前駆体導体の前駆体パターンは、導体パターンC11~C16のいずれかに対応する形状を有する。導電ペーストを磁性体シートに塗布する際に、導電ペーストが磁性体シートの貫通孔に埋め込まれ、この貫通孔に埋め込まれた導電ペーストがビアの前駆体となる。ビアの前駆体の一部は、加熱処理後に引出部25B、25Cとなる。
【0083】
次に複合材料層30となる複合材料シートを準備する。複合材料シートは、例えば、プラスチック製のベースフィルムの表面に複合材料ペーストを塗布して乾燥させ、乾燥後の複合材料ペーストを所定のサイズに切断することで得られる。複合材料ペーストは、例えば金属磁性粒子11となる金属磁性粉及びガラス32となるガラス粉を含む樹脂材料に適量の溶剤を加えることで調製される。複合材料ペーストに含まれる金属磁性粉は、Fe及びSiを含有する軟磁性金属材料から構成される粉体である。複合材料ペーストに含まれる金属磁性粉の組成は、磁性体シートに含まれる金属磁性粉の組成と同じであってもよいし、異なっていてもよい。複合材料ペーストに含まれる金属磁性粉の平均粒径は、磁性体シートに含まれる金属磁性粉の平均粒径より大きくてもよい。ガラス粉は、例えば、シリカガラス粉、ホウケイ酸ガラス粉、又はこれら以外の公知のガラス粉である。一実施形態において、ガラス粉の平均粒径は、複合材料ペーストに含まれる金属磁性粉の平均粒径よりも小さい。ガラス粉の平均粒径は、例えば、複合材料ペーストに含まれる金属磁性粉の平均粒径の1/4~1/2とされる。複合材料ペースト用の樹脂材料としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等の公知の樹脂材料が用いられ得る。複合材料シートのうち、引出部25B、25Cに対応する位置には、貫通孔が形成される。貫通孔には、引出部25B、25C(例えば、突出部25C2)の前駆体となる導電ペーストが充填されてもよい。この導電ペーストは、磁性体シートの貫通孔に埋め込まれる導電ペーストと同じものであってもよい。貫通孔には、この導電ペーストが充填されなくてもよい。貫通孔の開口部は、引出部25B、25Cの端面25B1、25C1と同じ形状に形成されてもよく、端面25B1、25C1よりも大きく形成されてもよい。外部電極21、22が下地電極層を有する場合、貫通孔が形成された複合材料シートの貫通孔を含む表面に、スクリーン印刷等により導電ペーストを塗布することで、複合磁性材料シートに外部電極21、22の下地電極層の前駆体パターンを形成することもできる。この導電ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al、Ni又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料を含む。外部電極21、22の下地電極層の前駆体パターンは、加熱処理後に外部電極21、22の一部である下地電極層となる。導電ペーストを複合材料シートに塗布する際に、導電ペーストが複合材料シートの貫通孔に埋め込まれ、この貫通孔に埋め込まれた導電ペーストがビアの前駆体となってもよい。ビアの前駆体の一部は、加熱処理後に引出部25B、25Cとなる。
【0084】
次に、上記のようにして準備した導体の前駆体パターンが形成されている磁性体シート、導体の前駆体パターンが形成されておらずカバー層となる磁性体シート、及び複合材料シートを積層し、この積層された各シートを熱圧着することによりマザー積層体を得る。導体の前駆体パターンが形成されている磁性体シートは、当該各磁性体シートに形成されている導体の前駆体パターンの各々が隣接する導体の前駆体パターンとビアの前駆体を介して接続されるように積層される。複合材料シートは、カバー層となる磁性体シートの下面に積層される。複合材料シートは、その貫通孔と引出部25B、25Cに対応するビアの前駆体が位置合わせされるように磁性体シートと積層される。次に、ダイシング機やレーザ加工機などの切断機を用いてマザー積層体を個片化することでチップ積層体が得られる。
【0085】
ステップS11において、コイル導体25となる導体部が埋め込まれた構造体は、シート積層法以外の当業者に知られている方法、例えば圧縮成形法、スラリービルド法、又は薄膜プロセス法により作製されてもよい。
【0086】
次に、ステップS12において、チップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理する。チップ積層体への加熱処理は、例えば400℃~950℃で20分間~120分間行われる。加熱処理は、大気中で行われてもよい。加熱処理は、低酸素雰囲気で行われてもよい。
【0087】
この加熱処理により、導体の前駆体パターン及びビアの前駆体が焼結して、コイル導体25が形成される。また、加熱処理により、磁性体シートから樹脂及び溶剤が消失するとともに、磁性体シートに含まれる金属磁性粉が焼結して金属磁性粒子11となり、基体10が形成される。
【0088】
ステップS12の加熱処理ではさらに、複合材料シートから樹脂及び溶剤が消失するとともに、複合材料シートに含まれる金属磁性粉が焼結して金属磁性粒子31となり、また、ガラス粉が溶融して隣接する金属磁性粒子31間の隙間に流れ込み、金属磁性粒子31の間でガラス32となることにより、複合材料層30が形成される。複合材料シートにおけるガラス粉の平均粒径が金属磁性粉の平均粒径よりも小さい場合には、複合材料シートにおいてガラス粉が金属磁性粉の間に配置されやすい。このため、複合材料シートにおけるガラス粉の平均粒径が金属磁性粉の平均粒径よりも小さい場合には、ガラス32が複合材料層30の一部に凝集せず、複合材料層30において遍在しやすい。
【0089】
複合材料シートに外部電極21、22の下地電極層の前駆体が設けられている場合、この外部電極21、22の下地電極層の前駆体が、ステップS12において外部電極21、22の下地電極層となる。
【0090】
加熱処理は、二段階に分けて行われてもよい。第一段階の第1加熱処理では、複合材料シートに含まれるガラス粉の軟化温度以下の温度で加熱処理を行い、磁性体シート及び複合材料シートに含まれる金属磁性粉の表面に酸化膜を形成する。例えば、ガラス粉がホウケイ酸ガラス粉末である場合には、ホウケイ酸ガラスの軟化点である820℃より低い温度(例えば、400℃~700℃)で第1加熱処理が行われてもよい。この第1加熱処理により、各シートから樹脂及び溶剤が消失するとともに、金属磁性粒子11同士を結合させ、金属磁性粒子31同士を結合させ、また、金属磁性粒子11と金属磁性粒子31とを結合させることができる。第2段階目の第2加熱処理では、ガラス粉の軟化温度以上で、(例えば、上述した850℃~950℃で)第1加熱処理後のチップ積層体を加熱する。第2加熱処理により、ガラス分が溶融して隣接する金属磁性粒子31の隙間に移動する。一段階で加熱処理を行うと、複合材料シートに含まれる金属磁性粉の表面における酸化膜の形成、及び、この酸化膜を介しての金属磁性粒子31の結合と、ガラスの溶融とが並行して起こりえるため、金属磁性粒子31同士が結合せずに、隣接する金属磁性粒子31の間にガラス32が介在してしまう可能性がある。金属磁性粒子31の間にガラス32が介在すると、複合材料層30の強度低下の原因となり得る。上記のように二段階で加熱処理を行うことにより、金属磁性粒子31同士が結合した後にガラスの溶融が起こるため、金属磁性粒子31同士を結合させることができる。
【0091】
次に、ステップS13において、複合材料層30の表面に外部電極21、22を形成する。外部電極21、22に含まれるめっき層は、電解めっき法又は無電解めっき法により形成されてもよい。外部電極21、22は、複合材料層30の表面に沿って延び、また、貫通孔30a、30bを充填するように形成される。複合材料層30の表面及び貫通孔30a、30b内に導電性ペーストを塗布することで下地電極層(例えば、下地電極層22a)を形成し、この下地電極層22aの表面にめっき層(例えば、めっき層22b)を形成してもよい。この下地電極層を形成するために、ステップS11及びステップS12において、下地電極層の前駆体を予め形成しておいてもよい。ステップS11及びステップS12においては、引出部25B、25Cの前駆体の端部と接続されるように、下地電極層の前駆体が形成されてもよい。このように、ステップS11及びステップS12において下地電極層の前駆体を予め引出部25B、25Cの前駆体と接続しておくことにより、引出部25B、25Cと外部電極21、22との接続性を向上することができる。
【実施例0092】
複合材料層30におけるガラスの体積比率がめっき伸びの発生に与える影響を検証するために、以下のようにして7種類の試料を作製した。この7種類の試料は、
図11に示されている製造方法に従ってシート積層法により作製された。具体的には、まず、金属磁性粉(Fe-Si-Cr結晶質合金)を用いて複数の磁性体シートを作製した。金属磁性粉の組成は、Fe:93wt%、Si:5%、Cr:2wt%とした。磁性体シートには貫通孔を形成し、この貫通孔が形成された磁性体シートに銀を含む導電ペーストを塗布することで、各磁性体シートに導体の前駆体パターン及びビアの前駆体を形成した。
【0093】
また、金属磁性粉(Fe-Si-Cr結晶質合金、Fe:93wt%、Si:5%、Cr:2wt%)とガラス粉(ホウケイ酸ガラスの粉末)を用いて複合材料シートを作製した。また、ガラス粉におけるSiの原子割合は、80at%とした。複合材料シートにおける金属磁性粉とガラス粉との混合比率は、以下の表1の「ガラス材体積比」の列に記載のとおりとした。つまり、表1に記載されている混合比率で混合された金属磁性粉及びガラス粉が混合されている7種類の複合材料シートを作製した。複合材料シートのうち引出部25B、25Cと対応する位置に貫通孔を形成した。この磁性体シートと7種類の複合材料シートの1つを積層して熱圧着することにより積層体を作製した。7種類の複合材料シートの各々について、同様の方法で積層体を作製し、複合材料シートにおけるガラスの比率が異なる7種類の積層体を得た。
【0094】
次に、7種類の積層体の各々を900℃で60分間加熱することで、内部にコイル導体25を含み表面に複合材料層が形成された基体を得た。次に、複合材料層の表面に、複合材料層の2つの貫通孔の各々を充填するように、Ag粒子に樹脂及び溶剤を加えて生成した導電ペーストを塗布し、この導電ペーストを複合材料層に600℃で焼き付けることで下地電極層を形成した。次に、この下地電極層の表面に、電解めっき法によりNiを含有するめっき層を形成し、これにより下地電極層とめっき層とを含む外部電極を形成した。
【0095】
以上のようにして、7種類のコイル部品(試料1~試料7)を1020個ずつ作製した。試料1~7の各々について10個ずつ、市販のインピーダンスアナライザーを用いてインダクタンスを測定し、測定されたインピーダンスを透磁率に換算した。試料1~7の各々について、10個の試料から求めた透磁率の平均を以下の表1において「透磁率」の列に記載した。
【0096】
また、試料1~7から10個ずつ比抵抗の測定用の試料を選択し、この選択された試料の各々の表面に比抵抗測定用の電極を付与し、市販の抵抗計を用いて、この電極が付与された試料の各々について複合材料層の比抵抗を測定した。試料1~7の各々について、10個の試料から求めた比抵抗の平均を以下の表1において「比抵抗」の列に記載した。
【0097】
また、試料1~7の各々の残り1000個の試料について、その側面から(
図1のW軸方向から)複合材料層を光学顕微鏡で観察し、複合材料層が基体から20μm以上の長さにわたって剥離していることが確認された試料の割合を以下の表1において「剥離発生率」の列に記載した。
【0098】
また、当該1000個の試料の各々について複合材料層が形成された面を光学顕微鏡で観察し、めっき伸びの有無を確認した。この観察において、めっきの伸びが30μm以上の場合に、望まれないめっき伸びが発生したと判断した。試料1~7の各々について、めっき伸びが発生したと判断された割合を以下の表1において「めっき伸び発生率」の列に記載した。
【0099】
【0100】
表1に示されている測定結果から、絶縁性の複合材料層に含まれるガラスの体積比率が0.5vol%以上のときに、絶縁性の複合材料層の表面におけるめっき伸びがほとんど発生しないことが確認できた。また、絶縁性の複合材料層に含まれるガラスの体積比率が10vol%以下のときに20以上の高透磁率を実現できることが確認できた。さらに、絶縁性の複合材料層におけるガラスの体積比率が0.5vol%以上10vol%以下の範囲においては、絶縁性の複合材料層を基体と強固に接合できることが確認できた。
【0101】
次に、以下のようにして、試料8~11の4種類の試料を作製した。試料8~11の作製においては、複合材料シートにおけるガラス粉の体積割合を5vol%とした。磁性体シートに用いられる金属磁性粉(Fe-Si-Cr結晶質合金)におけるSiの原子割合を、以下の表2の「金属磁性粉におけるSi比」の列に記載のとおりとした。つまり、表2に記載されている原子割合でSiを含有する金属磁性粉を用いて4種類の磁性体シートを作製した。これら以外の磁性体シート及び複合材料シートの材料は、試料1~7と同じとした。この4種類の磁性体シートの1つと複合材料シートとを積層して熱圧着することにより積層体を作製した。4種類の磁性体シートの各々について、同様の方法で積層体を作製し、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が異なる4種類の積層体を得た。次に、4種類の積層体の各々に対して試料1~試料7と同様の方法で加熱処理を行い、また、加熱処理後の積層体に対して試料1~試料7と同様の方法で下地電極層とめっき層を形成し外部電極を形成した。以上のようにして、4種類のコイル部品(試料8~試料11)を作製した。試料8~11の各々を、1020個ずつ作製した。試料8~11の各々について、試料1~7同様にして、透磁率、比抵抗、剥離発生率、めっき伸び発生率を測定した。その測定結果は、以下のとおりである。
【0102】
【0103】
表2に示されている測定結果から、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が3at%以上の場合に、絶縁性の複合材料層が基体からほとんど剥離しないことが確認できた。他方、試料8から、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が2at%の場合には、20ppmの割合で剥離が発生した。磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が低い場合に絶縁性の複合材料層が基体から剥離しやすくなるのは、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合(すなわち、基体の第1金属磁性粒子11におけるSiの原子割合)が不足すると、基体の第1金属磁性粒子に含まれるSiと絶縁性の複合材料層のガラスに含まれるSiとの酸素を介した結合が少なくなり、基体に対する絶縁性の複合材料層の接合強度が劣化するためと考えられる。また、表2の測定結果から、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が10at%以下の場合に、20以上の高透磁率を実現できることが確認できた。さらに、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が3at%以上10at%以下の場合に、めっき伸びはほとんど発生しないことが確認された。
【0104】
次に、以下のようにして、試料12~15の4種類の試料を作製した。試料12~15の作製においては、複合材料シートにおけるガラス粉の体積割合を5vol%とした。複合材料シートに含まれるガラス粉(ホウケイ酸ガラスの粉末)におけるSiの原子割合を、以下の表3の「ガラス粉におけるSi比」の列に記載のとおりとした。つまり、表3に記載されている原子割合でSiを含有するガラス粉を用いて4種類の複合材料シートを作製した。これら以外の磁性体シート及び複合材料シートの材料は、試料1~7と同じとした。磁性体シートと4種類の複合材料シートの1つとを積層して熱圧着することにより積層体を作製した。4種類の複合材料シートの各々について、同様の方法で積層体を作製し、複合材料シートに含まれるガラス粉におけるSiの原子割合が異なる4種類の積層体を得た。次に、4種類の積層体の各々に対して試料1~試料7と同様の方法で加熱処理を行い、また、加熱処理後の積層体に対して試料1~試料7と同様の方法で下地電極層とめっき層を形成し外部電極を形成した。以上のようにして、4種類のコイル部品(試料12~試料15)を作製した。試料12~15の各々を、xx個ずつ作製した。試料12~15の各々について、試料1~7同様にして、透磁率、比抵抗、剥離発生率、めっき伸び発生率を測定した。その測定結果は、以下のとおりである。
【0105】
【0106】
表3に示されている測定結果から、磁性体シートに含まれる金属磁性粉におけるSiの原子割合が70at%以上90at%以下の場合に、複合材料層が基体からほとんど剥離しないことが確認できた。他方、試料12から、ガラス粉におけるSiの原子割合が65at%の場合には、42ppmの割合で剥離が発生した。ガラス粉におけるSiの原子割合(すなわち、ガラス32におけるSiの原子割合)が低い場合に複合材料層が基体から剥離しやすくなるのは、絶縁性の複合材料層中のガラスにおけるSiの原子割合が低くなると、このガラスに含まれるSiと基体の第1金属磁性粒子に含まれるSiとの酸素を介した結合が少なくなり、基体に対する絶縁性の複合材料層の接合強度が劣化するためと考えられる。また、ガラス粉におけるSiの原子割合が高い場合に複合材料層が基体から剥離しやすくなるのは、Siを過剰に含有するガラスは難焼結性で低強度であり、複合材料層に含まれるガラスが十分に焼結していないと、当該ガラスの強度不足により、絶縁性の複合材料層又はその一部が基体から剥離しやすくなるためと考えられる。
【0107】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0108】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0109】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。