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特開2023-102581全固体電池用電極材料及びそれを用いた電極、全固体電池
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  • 特開-全固体電池用電極材料及びそれを用いた電極、全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102581
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】全固体電池用電極材料及びそれを用いた電極、全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20230718BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230718BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230718BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230718BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 A
H01M10/0562
H01M10/052
C01G23/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003150
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 友博
(72)【発明者】
【氏名】向原 彪亮
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
【テーマコード(参考)】
4G047
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G047CA01
4G047CA02
4G047CB08
4G047CC03
4G047CD04
4G047CD07
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL02
5H029AM12
5H029BJ13
5H029DJ16
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ13
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】酸化チタンを固体電解質又はその前駆体で被覆する工程を要さず、600℃よりも高温で焼結を行った場合でも副反応を抑制することができる酸化チタンを用いた電極材料を提供する。
【解決手段】酸化チタンを含んでなる全固体電池用電極材料であって、該酸化チタンは、リン成分による処理がされてなるものであって、酸化チタンの実表面積に対するP質量換算でのリン成分の含有割合[P(%)/TiOの実表面積(m)]が0.1~0.7%/mであり、比表面積から算出される粒子径が100~300nmであることを特徴とする全固体電池用電極材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを含んでなる全固体電池用電極材料であって、
該酸化チタンは、リン成分による処理がされてなるものであって、酸化チタンの実表面積に対するP質量換算でのリン成分の含有割合[P(%)/TiOの実表面積(m)]が0.1~0.7%/mであり、
比表面積から算出される粒子径が100~300nmであることを特徴とする全固体電池用電極材料。
【請求項2】
前記酸化チタンは、XRD測定におけるルチル型酸化チタンの回折ピーク(面指数110)のピーク高さIと、アナタース型酸化チタンの回折ピーク(面指数101)のピーク高さIにおいて、(I×1.32/(I+I×1.32))×100の値が30以下であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池用電極材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全固体電池用電極材料を用いて構成されてなることを特徴とする全固体電池用電極。
【請求項4】
請求項3に記載の全固体電池用電極を備えることを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池用電極材料及びそれを用いた電極、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題への関心の高まりを背景に、様々な産業分野で石油や石炭から電気へとエネルギー源の転換が進んでおり、携帯電話やノートパソコン等の電子機器だけでなく、自動車や航空機等の分野をはじめ、様々な分野で電池やキャパシタ等の蓄電装置の使用が広がりをみせている。蓄電装置としては現在、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質を用いた二次電池が広く利用されている。非水電解質を用いた二次電池としては電極に様々な材料を用いたものが提案されており、例えば負極としてチタン酸化物を用いたもの等が知られている(特許文献1参照)。なおチタン酸化物の一種である酸化チタンは電池の電極活物質以外の用途でも幅広く利用されており、例えば樹脂膜の屈折率調整等にも使用される(特許文献2参照)。このような非水電解質を用いた電池では、電解質に可燃性の有機溶媒を使用することから発火や爆発の危険性があり、また極低温環境下では電解質が凍結して電池として機能しなくなるという欠点がある。このため近年、固体電解質を用いる全固体電池が注目されており、研究開発が活発に行われている。
【0003】
全固体電池に用いられる固体電解質のうち無機材料からなる固体電解質は酸化物系のものと硫化物系のものに大別される。このうち酸化物系の固体電解質は一般的に固い材料であり粒界抵抗が大きいため、電極活物質の粉末と混合するだけでは十分な性能が得られない。このため電極活物質と固体電解質とを接合させるための焼結が行われるが、焼結時には界面で電池の性能低下の原因となる望ましくない反応が進行する場合がある。例えば、負極活物質として酸化チタンを用い、リン酸化物系の固体電解質を用いる全固体電池では焼結により副反応相が形成され、負極作動電位が高電位化してしまう不具合がある。この不具合に対し、酸化チタンの表面に固体電解質をコーティングすることで低温での焼結を可能とし、副反応相の形成を抑制する方法が提案されている(特許文献3、4参照)。なお、酸化チタンについてはリン酸を添加すると酸化チタン表面に安定なチタンのリン酸塩層が生成し、酸化チタン粒子表面を安定化することが報告されている(非特許文献1参照)。
また正極活物質であるLiCoPと固体電解質の界面反応を抑制することを目的として、LiCoPにLiを被覆する方法(特許文献5参照)や、負極活物質であるLiTi12と固体電解質との界面反応を抑制するためにリチウムリン酸塩、リチウムニオブ酸塩、及びリチウムケイ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を固体電解質として用いる方法(特許文献6参照)が提案されている。また電極活物質を固体電解質の被膜で覆うことで焼結時の正極活物質の酸化を抑制したり、電池の安定性を改善する方法(特許文献7、8参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-168265号公報
【特許文献2】特開2011-136871号公報
【特許文献3】特開2019-050083号公報
【特許文献4】特開2019-179669号公報
【特許文献5】特開2020-113376号公報
【特許文献6】特開2018-125286号公報
【特許文献7】特開2018-120724号公報
【特許文献8】特開2013-125750号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】陶山容子、加藤昭夫「TiO2の相転移に対する添加物の作用機構」、材料、第27巻、第298号、p.30-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記電極活物質と固体電解質とを接合させるための焼結時の不具合を抑制する種々の技術のうち、電極活物質として酸化チタンを用いた特許文献3、4には酸化チタンを固体電解質で被覆し、焼結温度を600℃にすることで副反応が起こらないことが確認されたと記載されているが、全固体電池の緻密性を向上させる観点からはより高温で焼結することが望ましい。また特許文献3、4の技術では酸化チタンを固体電解質又はその前駆体で被覆する工程を要するため、工程数削減の観点から改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、酸化チタンを固体電解質又はその前駆体で被覆する工程を要さず、600℃よりも高温で焼結を行った場合でも副反応を抑制することができる酸化チタンを用いた電極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化チタンを固体電解質又はその前駆体で被覆する工程を要さず、600℃よりも高温で焼結を行った場合でも副反応を抑制することができる酸化チタンを用いた電極材料について検討し、比表面積から算出される粒子径が100~300nmの酸化チタンに対し、酸化チタンの実表面積に対するリン成分の含有割合が所定の範囲となるようにリン成分による処理をして得られるリン成分処理酸化チタンを電極材料として用いると、固体電解質又はその前駆体で被覆する工程を行うことなく600℃よりも高温で焼結を行った場合でも副反応を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、酸化チタンを含んでなる全固体電池用電極材料であって、該酸化チタンは、リン成分による処理がされてなるものであって、酸化チタンの実表面積に対するP質量換算でのリン成分の含有割合[P(%)/TiOの実表面積(m)]が0.1~0.7%/mであり、比表面積から算出される粒子径が100~300nmであることを特徴とする全固体電池用電極材料である。
【0010】
上記酸化チタンは、XRD測定におけるルチル型酸化チタンの回折ピーク(面指数110)のピーク高さIと、アナタース型酸化チタンの回折ピーク(面指数101)のピーク高さIにおいて、I×1.32/(I+I×1.32)×100により表される値(ルチル化率)が30以下であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、本発明の全固体電池用電極材料を用いて構成されてなることを特徴とする全固体電池用電極、及び、該全固体電池用電極を備えることを特徴とする全固体電池でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の全固体電池用電極材料は、酸化チタンを固体電解質又はその前駆体で被覆する工程を要さず、600℃よりも高温で焼結を行った場合でも副反応を抑制することができるため、全固体電池の電極材料として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例6で作製した電極A1を備える電池の充電開始からの電圧(V)と充電容量(Q)との関係を示した図である。
図2】実施例6で作製した電極A1を備える電池の充電開始からのdV/dQの絶対値(|dV/dQ|)と充電容量(Q)との関係を示した図である。
図3】実施例17で作製した電極複合体を用いて構成した全固体ハーフセルの充電開始からの電圧(V)と充電容量(Q)との関係を示した図である。
図4】比較例25で作製した比較電極複合体B1を用いて構成した全固体ハーフセルの充電開始からの電圧(V)と充電容量(Q)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0015】
1.全固体電池用電極材料
本発明の全固体電池用電極材料は、酸化チタンの実表面積に対するP質量換算でのリン成分の含有割合[P(%)/TiOの実表面積(m)]が0.1~0.7%/mとなるようにリン成分による処理がされてなる。このような特定の粒子径の酸化チタンに対して酸化チタンの実表面積に対するリン成分の含有割合が上記範囲となるようにリン成分による処理を行うことで、600℃よりも高温で固体電解質との焼結を行った場合でも副反応が抑制された電極材料を得ることができる。
リン成分による処理は、酸化チタンに対してリン成分が作用をすることになる限りその方法は特に制限されず、例えば、酸化チタンの表面をリン成分で被覆すること、酸化チタンとリン成分との複合体を生成させること、酸化チタンの表面を酸化チタンとリン成分との複合体で被覆すること等が挙げられる。
ここで被覆するとは、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部を覆うことを意味する。
【0016】
上記酸化チタンは比表面積から算出される粒子径が100~300nmのものであればよいが、比表面積から算出される粒子径が120~250nmのものであることが好ましい。より好ましくは、135~200nmのものであり、更に好ましくは、150~180nmのものである。
酸化チタンの比表面積から算出される粒子径は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0017】
上記リン成分による処理に用いるリン成分は、リンの単体又はリン元素を含む化合物のいずれであってもよい。リン元素を含む化合物としては、リン酸、五酸化二リン、メタリン酸等が挙げられるが、これらの中でもリン酸が好ましい。
リン酸を用いて酸化チタンを処理することで、酸化チタンの表面にリン酸チタニルの保護層を形成することができ、この保護層の作用により固体電解質との焼結を600℃を超える高温で行った場合でも副反応を効果的に抑制することができると推定される。
【0018】
上記酸化チタンは、酸化チタンの実表面積(全表面積)に対するP質量換算でのリン成分の含有割合[P(%)/TiOの実表面積(m)]が0.1~0.7%/mである。リン成分の含有割合がこのような範囲である酸化チタンを含む電極材料を用いることで、固体電解質との焼結を行った際の副反応を効果的に抑制することができる。
上記[P(%)/TiOの実表面積(m)]は、好ましくは、0.15~0.6%/mであり、より好ましくは、0.19~0.55%/mである。
酸化チタンの実表面積、酸化チタンのリン成分の含有割合は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
上記酸化チタンは、XRD測定におけるルチル型酸化チタンの回折ピーク(面指数110)のピーク高さIと、アナタース型酸化チタンの回折ピーク(面指数101)のピーク高さIにおいて、I×1.32/(I+I×1.32)×100により表される値(ルチル化率)が30以下であることが好ましい。アナタース型酸化チタン粉末の回折ピーク(面指数101)のピーク高さIは、ルチル型酸化チタン粉末の回折ピーク(面指数110)のピーク高さIよりも1.32倍大きい値として検出されるため、上記計算式では1.32の係数を乗じる。
このようにルチル型酸化チタンの含有率が少ないものであると、酸化チタンを含む電極材料を用いて作製した全固体電池が充放電特性により優れたものとなる。上記ルチル化率は、より好ましくは、20以下であり、更に好ましくは、10以下である。
ルチル化率の値は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
2.リン成分による処理がされてなる酸化チタンの製造方法
本発明の全固体電池用電極材料に含まれる、酸化チタンの実表面積に対するリン成分の含有割合が上述した範囲となるようにリン成分による処理がされてなる酸化チタンを製造する方法は特に制限されないが、酸化チタン(酸化チタン原体)にリン成分を添加する添加工程、リン成分を添加した酸化チタンを焼成する工程を含む製造方法を好適に用いることができる。
【0021】
上記リン成分による処理がされてなる酸化チタンの製造に使用される酸化チタン原体は、Naの含有割合が200ppm以下、Kの含有割合が1500ppm以下、Mgの含有割合が500ppm以下、及び、Caの含有割合が200ppm以下であることが好ましい。上記製造方法によりリン成分による処理がされてなる酸化チタンを製造する場合、酸化チタンに含まれるこれらの元素の割合は酸化チタン原体から変化しない。含まれるNa、K、Mg及びCaの割合が上記の範囲外である酸化チタン原体を原料として得られたリン成分処理酸化チタンを活物質として用いた場合、活物質と固体電解質間、固体電解質と固体電解質間の円滑なリチウムイオン輸送が阻害され、電池特性が低下するおそれがある。
また酸化チタン原体は、Feの含有割合が100ppm以下であることが好ましい。上記製造方法によりリン成分による処理がされてなる酸化チタンを製造する場合、酸化チタンに含まれるFeの割合も酸化チタン原体から変化しない。含まれるFeの割合が上記の範囲外である酸化チタン原体を原料として得られたリン成分処理酸化チタンを活物質として用いた場合、充放電時の電位安定性が損なわれ、電池特性が低下するおそれがある。
酸化チタン原体に含まれるこれらの元素の含有割合は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
上記酸化チタンにリン成分を添加する添加工程は、酸化チタンの粉末に対してリン成分を添加する工程(乾式法による添加工程)であってもよく、酸化チタンを含むスラリーにリン成分を添加する工程(湿式法による添加工程)であってもよいが、粒子表面への均一なリン処理が容易である点から湿式法による添加工程であることが好ましい。
【0023】
上記酸化チタンにリン成分を添加する添加工程が湿式法による場合、使用される酸化チタン原体は、酸化チタンを含むスラリーを調製する際に使用される分散媒に分散させた際のメディアン径を比表面積から算出される粒子径で除することで表される凝集性が30未満であることが好ましい。当該酸化チタンの凝集性が30以上であると、湿式法によりリン成分を処理する際に酸化チタン粒子の凝集を解くことが困難となり、リン成分による被覆層の厚みが不均一となるおそれがある。不均一な厚みの被覆層は、電極部の良好なイオン伝導・電子伝導パスの形成を阻害し、電池特性の低下を招くおそれがある。凝集性は10未満であることがより好ましく、さらに好ましくは5未満である。
酸化チタンの比表面積から算出される粒子径は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
酸化チタンを分散媒に分散させた際のメディアン径は、後述する実施例に記載の方法と同様の方法で、適宜分散媒を変更して測定することができる。
【0024】
上記酸化チタンにリン成分を添加する添加工程が湿式法による場合、酸化チタンを含むスラリーを調製するために使用する分散媒は特に制限されず、純水の他、アルコール類、グリコール類等のいずれかの有機溶媒及びこれらの混合溶媒を使用することができ、使用するリン成分に応じて適宜選択することができる。リン成分としてリン酸を使用する場合は、純水が好ましい。
【0025】
上記酸化チタンにリン成分を添加する添加工程において使用するリン成分の量は、酸化チタン100質量%に対して、P換算で0.5~10質量%となる量であることが好ましい。このような量であると、得られるリン成分で処理した酸化チタンを用いた全固体電池が充放電特性により優れたものとなる。添加するリン成分の量はより好ましくは、酸化チタン100質量%に対して、P換算で1.0~7.5質量%となる量であり、更に好ましくは、酸化チタン100質量%に対して、P換算で1.5~5.0質量%となる量である。
【0026】
上記酸化チタンにリン成分を添加する添加工程が湿式法による場合、得られたリン成分を添加した酸化チタンスラリーを焼成する工程の前に、スラリーを加熱して乾燥させる工程を行うことが好ましい。乾燥工程を行って予め溶媒を除去しておくことで、酸化チタン粒子表面に、より均一にリン成分を被覆することができる
乾燥工程を行う場合、乾燥温度は、リン成分を添加した酸化チタンが十分に乾燥される限り特に制限されないが、80~200℃であることが好ましい。より好ましくは、90~150℃であり、更に好ましくは、100~120℃である。
乾燥工程は、蒸発乾固による方法以外にスプレードライヤーによる乾燥を用いてもよい。
【0027】
上記酸化チタンにリン成分を添加する添加工程が乾式法による場合、酸化チタンにリン成分を添加した後、酸化チタンとリン成分とを十分に混合することが好ましい。これにより焼成後に酸化チタンの表面にリン酸チタニルの保護層を均一に形成することができる。
【0028】
上記リン成分を添加した酸化チタンを焼成する工程における焼成温度は、リン成分を添加した酸化チタンが十分に焼成される限り特に制限されないが、100~800℃であることが好ましい。より好ましくは、200~600℃であり、更に好ましくは、300~500℃である。
また焼成する時間も焼成が十分に行われる限り特に制限されないが、2~10時間であることが好ましい。より好ましくは、3~8時間であり、更に好ましくは、4~6時間である。
【0029】
上記リン成分による処理がされてなる酸化チタンを製造する方法は、上述した工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、焼成後のリン処理酸化チタン粒子の解砕工程、洗浄工程等が挙げられる。
【0030】
3.全固体電池用電極
本発明はまた、本発明の全固体電池用電極材料を用いて構成されてなることを特徴とする全固体電池用電極でもある。
本発明の全固体電池用電極は、本発明の電極材料を用いて構成されるものであるが、更に固体電解質を含むことが好ましい。固体電解質を含むものであると全固体電池における電極活物質に効率的にリチウムイオンが拡散し、その授受が円滑に行わるようになる。
本発明の全固体電池用電極が固体電解質を含む場合、固体電解質の含有割合は、電極に含まれる酸化チタン100質量%に対して1~70質量%であることが好ましい。より好ましくは、1~60質量%であり、更に好ましくは1~50質量%である。
【0031】
本発明の全固体電池用電極は、更に固体電解質以外のその他の成分を含むものであってもよい。その他の成分としては、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、アセチレンブラック等の導電助剤等が挙げられる。中でも、本発明の全固体電池用電極は、導電助剤を含むことが好ましい。
【0032】
本発明の全固体電池用電極が導電助剤を含む場合、導電助剤の含有割合は電極に含まれる酸化チタン100質量%に対して1~60質量%であることが好ましい。より好ましくは、1~40質量%であり、更に好ましくは1~30質量%である。
【0033】
本発明の全固体電池用電極は、本発明の電極材料、固体電解質、導電助剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、バインダー等が挙げられる。
バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、アクリルポリマー等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
本発明の全固体電池用電極における、本発明の電極材料、固体電解質、導電助剤以外のその他の成分の割合は、全固体電池用電極100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、35質量%以下であり、更に好ましくは、30質量%以下である。
【0035】
4.全固体電池用電極の作製方法
本発明の全固体電池用電極を作製する方法は特に制限されないが、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物を調製する工程、得られた電極材料組成物からなる膜を固体電解質上に形成する工程、該電極材料組成物からなる膜を有する固体電解質を焼成して電極と固体電解質とを焼結して複合化させる工程を含む方法等を用いることができる。
【0036】
上記方法において、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物は、更に固体電解質を含むものであることが好ましい。固体電解質を含む場合、固体電解質の割合は、電極材料組成物に含まれる酸化チタンに対する固体電解質の割合が上記本発明の全固体電池用電極が固体電解質を含む場合と同様であることが好ましい。
【0037】
上記方法において、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物は、更に導電助剤を含むものであることが好ましい。導電助剤を含む場合、導電助剤の割合は、電極材料組成物に含まれる酸化チタンに対する導電助剤の割合が上記本発明の全固体電池用電極が導電助剤を含む場合と同様であることが好ましい。
【0038】
上記方法において、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物が含むバインダーは、バインダーとして機能するものである限り特に制限されず、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0039】
上記方法において、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物が含むバインダーの割合は、電極材料組成物100質量%に対して、0~60質量%であることが好ましい。より好ましくは、0~40質量%であり、更に好ましくは、0~30質量%である。
【0040】
上記方法において、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物は、本発明の全固体電池用電極材料、バインダー、固体電解質、導電助剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、溶媒等が挙げられる。
【0041】
上記溶媒としては、水、メタノール、エタノール、テ(タ)ーピネオール等のアルコール;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記溶媒等のその他の成分の含有量は、電極材料組成物100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、40質量%以下であり、更に好ましくは、30質量%以下である。
【0043】
上記方法の、電極材料組成物からなる膜を固体電解質上に形成する工程において、電極材料組成物からなる膜を固体電解質上に形成する方法は特に制限されず、電極材料組成物を固体電解質上に塗布し、乾燥する方法等を用いることができる。
乾燥する温度は特に制限されないが、80~200℃であることが好ましい。より好ましくは、100~150℃である。
また乾燥する時間は、6~48時間であることが好ましい。より好ましくは、12~24時間である。
【0044】
上記方法の、電極材料組成物からなる膜を有する固体電解質を焼成して電極と固体電解質とを焼結して複合化させる工程における焼成温度は、電極と固体電解質とが十分に複合化される限り特に制限されないが、500~800℃であることが好ましい。より好ましくは、550~700℃であり、更に好ましくは、600~650℃である。
また焼成する時間も電極と固体電解質との複合化が十分に行われる限り特に制限されないが、1~24時間であることが好ましい。より好ましくは、2~12時間であり、更に好ましくは、4~8時間である。
また導電助剤であるカーボン類の燃焼を防止する点から、焼成は、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は、真空下で行うことが好ましい。
【0045】
上記方法は、本発明の全固体電池用電極材料とバインダーとを含む電極材料組成物を調製する工程、得られた電極材料組成物からなる膜を固体電解質上に形成する工程、及び、該電極材料組成物からなる膜を有する固体電解質を焼成して電極と固体電解質とを焼結して複合化させる工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、電極材料組成物からなる膜を有する固体電解質に対して、その焼成前に加圧プレスや冷間等方圧加圧処理を行う工程等が挙げられる。
【0046】
本発明において用いる固体電解質は、酸化物系のものであれば特に制限されず、Li1+xAlGe2-x(PO、Li7+xLaZr2-y12(AはSc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Al、Si、Ga及びGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素を表す。)、LiLaNb12、LiLa(1-x)/3NbO、LiPOとLiSiO及びこれらの固溶体、LiSiO、LiSiO等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でもLi1+xAlGe2-x(PO(以下、LAGPともいう)が好ましい。
固体電解質としてLAGPを用いた場合、酸化チタンとの焼結の際に下記式(1)
TiO+ Li1+xAlGe2-x(PO
→ Li1+xAlTi2-x(PO + GeO (1)
の副反応が進行し、Li1+xAlTi2-x(PO(以下、LATPともいう)とGeOからなる副反応相が形成され、このうち、LATPが電極の作動電位の高電位化の原因となる。これに対し、本発明の全固体電池用電極材料を用いることで、このような副反応相の形成を効果的に抑制し、酸化チタンを電極活物質とする充放電反応が十分に進行するようにして作動電位の高電位化の発生を抑制することができる。このように固体電解質としてLAGPを用いた場合に、本発明の全固体電池用電極材料を用いることの効果がより十分に発揮されると考えられる。
【0047】
5.全固体電池
本発明はまた、本発明の全固体電池用電極を備えることを特徴とする全固体電池でもある。上述したとおり、本発明の全固体電池用電極材料を用いることで、固体電解質と焼結する際の副反応相の形成を抑制して電極の作動電位の高電位化を効果的に抑制し、充放電特性に優れた全固体電池(全固体二次電池)とすることができる。
【0048】
本発明の全固体電池において、本発明の全固体電池用電極材料を用いて構成された電極は正極として用いられても負極として用いられてもよいが、負極として用いられることが好ましい。負極として用いることで、種々のリチウム化合物や、その他のリチウムを吸蔵、放出することが可能な種々の金属化合物を正極活物質として用いることができる。
本発明の全固体電池用電極を負極として用いる場合、正極活物質としては、LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4(0<x≦1であり、0≦y≦1である)で表されるオリビン構造を有するリチウムのリン酸塩;リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、リチウムマンガンニッケル複合化合物、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等のリチウムと他の金属との複合酸化物等を用いることができる。
【0049】
上記正極活物質を用いて構成される正極は、正極活物質以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、アセチレンブラック等の導電助剤;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、アクリルポリマー等のバインダーが挙げられる。
【0050】
上記正極は、正極活物質を含む正極材料組成物からなる膜を集電体上に形成して作製されたものであってもよい。
【0051】
本発明において、電極の作製に用いる集電体としては、集電体として使用可能ないずれの材料であってもよいが、例えば、マグネシウム、チタン、亜鉛、ニッケル、マンガン、鉄、銅、アルミニウム、金等を用いることができる。
【実施例0052】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0053】
<酸化チタンの不純物元素の分析>
酸化チタンに含まれるK、Mg、Ca、Feの定量分析は、硫酸水溶液に溶解させた酸化チタン原体をICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス製SPS3100)を用いて、検量線法により分析することで算出した。
酸化チタンに含まれるNaの定量分析は、硫酸水溶液に溶解させた酸化チタンを原子吸光光度計(日立ハイテクサイエンス製Z-2300)を用いて、検量線法により分析することで算出した。
<酸化チタンのリン成分の含有割合>
蛍光X線分析(リガク製ZSX Primus II、XRF)を用いてEZスキャン法(測定範囲F~U)で測定を実施し、リン及びチタンを酸化物(P、TiO2)の状態としての全重量に対する質量%を算出した。
<比表面積>
比表面積はMacsorb HM-1200(マウンテック製)を用いてBET法により測定した。測定試料は、200℃で30分間、窒素雰囲気下で脱気処理したのち測定を行った。
<比表面積から算出される粒子径>
以下の式で算出した。
d=6/(ρ×S)
d:粒子径、ρ:密度、S:比表面積(SSA)
ルチル化率が5.0未満のアナタース型酸化チタンの密度を3.9g/cm
ルチル化率が5.0以上の酸化チタンの密度を4.1g/cmとした。
【0054】
<酸化チタンの実表面積>
酸化チタンの実表面積は、リン成分処理前の酸化チタン原体の比表面積と、リン成分処理を施した後のリン成分を含む酸化チタン全体に対する酸化チタンの存在比から、以下の計算式で求めた。
S=s×W/100
S:実表面積(m
s:酸化チタン原体の比表面積(m/g)
W:XRFから得られた酸化チタンの存在比(質量%)
<ルチル化率>
ルチル化率は、XRDスペクトルにおけるルチル型酸化チタンの回折ピーク(面指数110)のピーク強度Iと、アナタース型酸化チタンの回折ピーク(面指数101)のピーク強度Iにおいて、I×1.32/(I+I×1.32)×100により表される値である。なお、XRD測定にはリガク製RINT-TTRIIIを用い、平行ビーム法で行った。またX線出力は50kV、300mA、stepモード(step幅:0.01°)とした。解析において、XRDスペクトルのバックグラウンド除去や平滑化等特段の処理は行わず、生データを解析に用いた。
なお、酸化チタンのルチル化率の値はリン成分による処理前後で変化しない。
【0055】
調製例1(glass-LAGPの調製)
Li1.3Al0.3Ge1.7(POの結晶粒子25gを1200℃で1時間溶融させた後、急冷させた。200rpm×2時間の条件で遊星ボールミルにて粉砕した後、150μmの篩に通し、glass-LAGPを回収した。
【0056】
実施例において用いる各酸化チタン原体を表1に示す。表1に記載の凝集性は各酸化チタン原体を純水に分散させた際の凝集性であり、メディアン径は下記方法により測定した。
<メディアン径測定>
酸化チタン原体を分散媒に分散させた際のメディアン径は、堀場製作所製LA-950によって測定した。純水に少量の粉末を添加し、前処理として超音波ホモジナイザーで分散し、測定装置に供した。酸化チタン粒子の屈折率n=2.5、水の屈折率n=1.333として測定を行った。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1(リン成分で処理した酸化チタンの調製(TiO:SA-120))
TiO(A)(堺化学工業社製品:SA-120)を400g量り取り、純水2Lにリパルプした。得られたスラリーを撹拌しながら、85%リン酸を32.5g(P換算で20g)添加した。リン酸を添加したスラリーを30分程度撹拌した後、110℃で乾燥させた。乾燥粉体を回収し、400℃で4時間焼成(昇温速度:300℃/h)してリン成分で処理した酸化チタンを得た。
得られたリン成分処理酸化チタンについて、XRF分析により、Pの含有割合(質量割合)を評価した。XRF分析結果(実測値)を表2に示す。酸化チタンの実表面積から、実表面積に対するPの含有割合を算出したところ、0.31%/mであった。
【0059】
実施例2~5(リン成分で処理した酸化チタンの調製(TiO:SA-120))
リン酸の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして酸化チタンの実表面積に対するPの含有割合がそれぞれ、0.11%/m、0.19%/m、0.53%/m、及び、0.66%/mであるリン成分処理酸化チタンを調製した。XRF分析結果(実測値)を表2に示す。
【0060】
比較例1(酸化チタン(TiO:SA-120))
酸化チタンSA-120は原体が、実表面積に対するPの含有割合が0.01%/mとなる割合のリン成分を含んでいるため、これを比較例1の酸化チタンとした。XRF分析結果(実測値)を表2に示す。
【0061】
比較例2、3(リン成分で処理した酸化チタンの調製(TiO:SA-120))
リン酸の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして酸化チタンの実表面積に対するPの含有割合が0.06%/mであるリン成分処理酸化チタン、1.07%/mであるリン成分処理酸化チタンを調製し、これらを比較例2、3のリン成分処理酸化チタンとした。XRF分析結果(実測値)を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例6(全固体電池用電極Aの作製(TiO:SA-120))
調製例1で調製したglass-LAGPと実施例1で調製したリン成分で処理した酸化チタンとを重量比1:1の割合で加え、擂潰機で3時間混合した。その後、混合粉末を650℃で4時間焼成(昇温速度300℃/h)して、glass-LAGPとリン成分処理酸化チタンとを焼結させた。
メノウ乳鉢に、得られた焼結粉末、アセチレンブラック、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をそれぞれ重量比80:10:10の割合で加え、アセトンを滴下しながら1時間よく混合し、ペーストを作製した。作製したペーストをニッケルメッシュに貼り付け、真空下で120℃で乾燥させ、電極A1を作製した。
【0064】
実施例7~10(全固体電池用電極Aの作製(TiO:SA-120))
実施例1で調製したリン成分処理酸化チタンの代わりに、実施例2~5で調製したリン成分処理酸化チタンを使用したこと以外は実施例6と同様にして電極A2~A5を作製した。
【0065】
比較例4~6(比較全固体電池用電極Aの作製(TiO:SA-120))
実施例1で調製したリン成分処理酸化チタンの代わりに、比較例1の酸化チタン、比較例2、3で調製したリン成分処理酸化チタンを使用したこと以外は実施例6と同様にして比較電極A1~A3を作製した。
【0066】
電極性能評価1
負極ボディ上に、銅箔、実施例6で作製した電極A1、セパレータ、金属Li箔、銅箔の順に重ね、最後に正極ボディを被せてねじ締めを行った。電解液には1mol/L LiPF EC:DEC(1:1v/v%)を使用し、電極性能評価用の電池を構成した。以下の方法により、電極性能評価を行った。
実施例7~10で作製した電極A2~A5および比較例4~6で作製した比較電極A1~A3についても同様にして電極性能評価を行った。結果を表3に示す。
充放電試験は、OCVで12時間放置した後、0.05Cで3サイクル行った。なお、ここでは、下式の通り、酸化チタンへのリチウムの挿入反応を充電、リチウムの脱離反応を放電と定義した。
《充電》
TiO(A)+Li+e→LiTiO
《放電》
LiTiO→TiO(A)+Li+e
各条件について、充電はCC充電で1-2cycleは1.6V終止、3cycle目は1.0V終止、放電はCC放電で3.0V終止とした。3サイクル目の充電曲線を用いて、次に示す電極性能の解析を行った。
[電極性能評価方法]
実施例6で作製した電極A1を備える電池の充電開始からの電圧(V)と充電容量Q(mAh/g)との関係を図1に、dV/dQの絶対値(|dV/dQ|)と充電容量との関係を図2に示す。
電池の充電開始から充電容量が100mAh/gに至る充電終了までの領域は以下の3つに分けることができる。
(1)領域1:充電開始から1.6V付近で|dV/dQ|=0.0025となる点まで
領域1はTiOを活物質とする本来の電極反応、リン処理によりTiO表面に形成されたリン酸チタニル等のリン成分の他、TiOとLAGPとの副反応によって生成するLATPによる充電反応も進行する領域である。
(2)領域2:領域1以降で|dV/dQ|≦0.0025の範囲
領域2はLATPによる充電反応が進行しない一方、アナタース型TiOに由来する可逆的な充電反応が進行する領域である。
(3)領域3:領域2以降で充電終了まで
各成分の充電反応が十分に進行した領域である。
これら各領域での充電容量を測定し、(領域1での充電容量)/(領域1+領域2での充電容量)の値(C値と呼ぶ)から、酸化チタン電極における副反応の程度を評価する。C値は、同じ原体間での比較、つまりリン成分を処理していないものと、規程量処理しているものとの比較で評価する。なお、領域3はアナタース型TiOにおいて電気化学的な不可逆相が形成される領域であるため、電極性能評価では使用しない。
【0067】
【表3】
表3中、充電容量は、領域1及び2での充電容量の合計である。表5、7、9、10においても同様である。
【0068】
実施例11~13(リン成分で処理した酸化チタンの調製(TiO:SA-1L))
原体であるTiO(A)を表1に記載のTiO(A)(堺化学工業社製品:SA-1L)に変更し、各原体について、実施例1と同様の方法で酸化チタンの実表面積に対するPの含有割合が表4に記載の値となるようにリン酸の使用量を調整して実施例11~13のリン成分処理酸化チタンを調製した。これらのXRF分析結果(実測値)を表4に示す。
【0069】
比較例7(酸化チタン(TiO:SA-1L))
酸化チタンSA-1Lは原体が実表面積に対するPの含有割合が0.02%/mとなる割合のリン成分を含んでいるため、これを比較例7の酸化チタンとした。XRF分析結果(実測値)を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
実施例14~16、比較例8(全固体電池用電極A、比較全固体電池用電極Aの作製(TiO:SA-1L))
実施例11~13で得られたリン成分処理酸化チタンを使用したこと以外は実施例6と同様にして電極A11~A13を作製した。同様に、比較例7の酸化チタンを使用したこと以外は実施例6と同様にして比較電極A7を作製した。
得られた電極を用いて、上記電極性能評価1の方法により電極性能の評価を行った。
結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
比較例9(リン成分で処理した酸化チタンの調製(TiO:SSP-M))
原体であるTiO(A)を表1に記載のTiO(A)(堺化学工業社製品:SSP-M)に変更し、実施例1と同様の方法で、酸化チタンの実表面積に対するPの含有割合が表6に記載の値となるようにリン酸の使用量を調整してリン成分処理酸化チタンを調製し、比較例9のリン成分処理酸化チタンとした。XRF分析結果(実測値)を表6に示す。
【0074】
比較例10(酸化チタン(TiO:SSP-M))
リン酸による処理を行わない原体のままの酸化チタンSSP-Mを比較例10の酸化チタンとした。XRF分析結果(実測値)を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
比較例11、12(比較全固体電池用電極Aの作製(TiO:SSP-M))
比較例9で得られたリン成分処理酸化チタン、比較例10の酸化チタンを用いて実施例6と同様にして比較電極A9、A10を作製した。
得られた電極を用いて、上記電極性能評価1の方法により電極性能の評価を行った。
結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
比較例13~17(リン成分で処理した酸化チタンの調製(TiO:調製品1))
原体であるTiO(A)を表1に記載の調製品1に変更し、実施例1と同様の方法で、酸化チタンの実表面積に対するPの含有割合が表8に記載の値となるようにリン酸の使用量を調整して比較例13~17のリン成分処理酸化チタンを調製した。XRF分析結果(実測値)を表8に示す。
なお調製品1の酸化チタンは、以下の方法により調製されたものである。
<調製品1の調製>
メタチタン酸スラリーに対し,TiO換算でKSOが10wt%となるよう80g/L KSO水溶液を添加・混合し、乾燥させた。その後,900℃で4時間焼成後、0.1M HClで洗浄し、乾燥した。
【0079】
比較例18(TiO:R.C.50%TiO
XRD測定において、ルチル型酸化チタンの回折ピーク高さIとアナタース型酸化チタンの回折ピーク高さIにおいて(I×1.32/(I+I×1.32))×100の値が50である(ルチル型酸化チタンの割合が50%)酸化チタン(R.C.50%TiO)は原体が実表面積に対するPの含有割合が0.01%/mとなる割合のリン成分を含んでいるため、これを比較例18の酸化チタンとした。XRF分析結果(実測値)を表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
比較例19~24(比較全固体電池用電極Aの作製(TiO:調製品1、R.C.50%TiO))
比較例13~17で得られたリン成分処理酸化チタン、比較例18の酸化チタンを用いて実施例6と同様にして比較電極A13~A18を作製した。
得られた電極を用いて、上記電極性能評価1の方法により電極性能の評価を行った。
結果を表9に示す。
【0082】
【表9】
【0083】
実施例17(全固体電池用電極Bの作製)
調製例1で調製したglass-LAGP、実施例1で調製したリン成分で処理した酸化チタン、及び、ケッチェンブラックを体積比で1:1:0.2となるよう計量し、イソプロピルアルコール(IPA)を分散媒として1時間混合した。これを100℃で乾固させ、合材電極粉を作製した。合材電極粉とバインダー(互応化学社製、KFA-406)を重量比で2:1となるよう計量し、アセトンを溶媒として1時間混錬し、合材電極ペーストを作製した。
調製例1で調製したglass-LAGPを800℃で焼結させたペレット(1mmΦ、厚み800μm)を合材電極ペースト中に浸した後、100℃で乾燥させた。これをN気流下(400mL/min)で650℃で4時間焼結し、合材電極をglass-LAGPペレット上に複合化させた。
焼結させたペレットの側面及び背面を研磨し、余分な合材電極を取り除いた。合材電極の付いている面に、集電体としてAu電極をスパッタリングで取り付け、電極B1を作製した。
【0084】
比較例25(比較全固体電池用電極Bの作製)
実施例1で調製したリン成分で処理した酸化チタンに代えて、比較例1で調製したリン成分で処理した酸化チタンを用いた以外は実施例17と同様にして比較電極複合体B1を作製した。
【0085】
電極性能評価2
Li金属箔を溶融させたものを銅箔上に塗布し対極用のLi電極とした。
負極ボディ上に、銅箔|Li|ポリマー電解質フィルム(大阪ソーダ社製)|glass-LAGPペレット|実施例17で作製した電極複合体B1|Au、となるよう重ねた。正極ボディを取り付け、ネジ締めを行い、全固体ハーフセルを構成した。
以下の条件により、上述した電極性能評価1の[電極性能評価方法]と同じ方法で電極性能評価を行った。また、実施例17で作製した電極複合体に代えて比較例25で作製した比較電極複合体B1を用いて構成した全固体ハーフセルについても同様の評価を行った。結果を表10に示す。また、これらの全固体ハーフセルの充電初期からの電圧-充電容量の測定結果を図3、4に示す。
45℃に保持した恒温槽中で全固体ハーフセルの充放電試験を実施した。充放電試験はOCVで12時間放置した後、0.01Cで3サイクル行った。1-2cycleの充電過程はCCで1.6V終止、3cycleの充電過程はCCで1.0V終止とした。放電過程は全サイクルCCで3.0V終止とした。
【0086】
【表10】
【0087】
全固体電池用電極Aを用いた電極性能評価1の場合(表3)に比べて全固体電池用電極Bを用いた電極性能評価2(表10)においてリン成分処理量の少ない比較例1の酸化チタンを用いた場合の充電容量が低下しているのは、酸化チタンと固体電解質(LAGP)とによる上述した式(1)の副反応がより進行したためである。全固体電池用電極Bでは固体電解質上に電極層を形成した後に焼結しており、酸化チタンに対して固体電解質が多い条件での焼結となること、及び、塗布により電極層を形成しているため粒子同士がより密着した状態で焼結が行われたことから、固体電池用電極Aの場合に比べて酸化チタンと固体電解質との反応がより進行したと考えられる。一方、リン成分処理酸化チタンを用いた場合については電極性能評価1の場合(表3の実施例6)に比べて電極性能評価2(表10の実施例17)のほうが充電容量が多くなっているが、これは電極性能評価2のほうが低電流(低レート)で評価をしているためである。
実施例17で作製した電極複合体を用いた図3では領域2が確認されたのに対し、比較例23で作製した比較電極複合体を用いた図4では、領域2がほぼ存在しない結果となった。なお、図3、4において領域2以降でなだらかに電位が低下しているのはGeOの充電挙動によるものである。
【0088】
表3、5、10に示したとおり、所定の粒子径の酸化チタンを、リン成分処理後の酸化チタンの実表面積に対するリン成分の含有割合が所定の範囲となるようにリン成分で処理することで、処理しないものに比べてC値が低くなっており、固体電解質との焼結を650℃で行った場合でも副反応を抑制できていることが確認された。
更に表3、5、10と表7、9との比較から、このようなリン成分で処理することによる効果は比表面積から算出される粒子径が100~300nmの酸化チタンに対して有効であることが確認された。
活物質としての機能を充分に発揮させる点からは活物質粒子の表面積が大きいほうが好ましく、粒子径が小さいものを用いるほうが好ましい。しかし粒子径が100nmよりも小さい酸化チタンを活物質として用いた場合、活物質とバインダーとを含む電極組成物を調製する工程において酸化チタン粒子の凝集を解くことが困難である。このため、そのような電極組成物からなる膜を固体電解質上に形成すると酸化チタンの凝集部が発生して電極部のイオン伝導・電子伝導パスの形成が不十分となり、全固体電池における電池特性が低下する。このような理由から電極材料に使用する酸化チタンとして粒径が100~300nmのものを使用することが好ましい。上記リン成分による処理はこのような粒子径の酸化チタンに対して有効なものである点で、技術的意義の大きいものである。
図1
図2
図3
図4