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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102611
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】光学設計方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20230718BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20230718BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20230718BHJP
   G02B 3/08 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B5/18
G02B13/18
G02B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003206
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】稲 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】富永 修一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 潤
【テーマコード(参考)】
2H087
2H249
【Fターム(参考)】
2H087RA46
2H249AA55
(57)【要約】
【課題】回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計の容易化を図る光学設計方法を提供する。
【解決手段】決定ステップと、取得ステップと、設計ステップとを備えることを特徴とする。決定ステップは、従来レンズ2と併用するための回折光学素子1の光学特性を決定する。取得ステップは、光学特性に基づき、回折光学素子1の光学作用情報を取得する。設計ステップは、光学作用情報に基づき、従来レンズ2を設計する。例えば回折光学素子1は、メタレンズ又はフラットオプティクスであることを特徴とする。例えば決定ステップは、バイナリーオプティクスと、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて光学特性を決定することを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
従来レンズと併用するための回折光学素子の光学特性を決定する決定ステップと、
前記光学特性に基づき、前記回折光学素子の光学作用情報を取得する取得ステップと、
前記光学作用情報に基づき、前記従来レンズを設計する設計ステップと、
を備えること
を特徴とする光学設計方法。
【請求項2】
前記回折光学素子は、メタレンズ又はフラットオプティクスであること
を特徴とする請求項1記載の光学設計方法。
【請求項3】
前記決定ステップは、バイナリーオプティクスと、前記従来レンズとを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて前記光学特性を決定することを含むこと
を特徴とする請求項2記載の光学設計方法。
【請求項4】
前記決定ステップは、前記バイナリーオプティクスの線形成分における実効的屈折率と同じ値を示す前記メタレンズ又は前記フラットオプティクスの前記光学特性を決定することを含むこと
を特徴とする請求項3記載の光学設計方法。
【請求項5】
前記取得ステップは、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて、前記光学作用情報を取得することを含むこと
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の光学設計方法。
【請求項6】
前記決定ステップは、予め形成された回折光学素子製品を選択することを含み、
前記取得ステップは、前記回折光学素子製品の前記光学作用情報を計測することを含むこと
を特徴とする請求項1又は2記載の光学設計方法。
【請求項7】
前記設計ステップは、
前記光学作用情報と同等の光学作用情報を有する非球面レンズを設計し、
前記非球面レンズに基づき、前記従来レンズを設計すること
を含むこと
を特徴とする請求項5又は6記載の光学設計方法。
【請求項8】
前記設計ステップは、
前記光学作用情報に対し、多項式近似を用いて近似情報を取得し、
前記近似情報に基づき、前記従来レンズを設計すること
を含むこと
を特徴とする請求項5又は6記載の光学設計方法。
【請求項9】
前記光学作用情報に基づき、前記回折光学素子における微細パターンの形状を評価する評価ステップをさらに備えること
を特徴とする請求項1~8の何れか1項記載の光学設計方法。
【請求項10】
前記評価ステップは、
前記微細パターンの形状の変化に対する位相の変化分が、前記回折光学素子の製造誤差以下であるか否かを判定し、
前記判定の結果が製造誤差を超える場合、前記微細パターンの形状、ピッチ、フィルファクター、及び前記回折光学素子に用いる材料の少なくとも何れかを変更すること
を含むこと
を特徴とする請求項9記載の光学設計方法。
【請求項11】
前記取得ステップは、対象とする複数の波長毎に前記光学作用情報を取得することを含むこと
を特徴とする請求項1~10の何れか1項記載の光学設計方法。
【請求項12】
前記光学作用情報は、前記回折光学素子の透過波面又は反射波面の特徴を示す波面情報を含むこと
を特徴とする請求項1~11の何れか1項記載の光学設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回折光学素子に関する開発が注目を集めている。回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)は、回折作用を用いて光を制御する素子であり、屈折作用や反射作用を用いて光を制御する従来レンズとは異なる素子特性を示す。回折光学素子は、従来レンズと併用することで、色収差を補正することが知られており、コンパクトで軽量な構成の光学系を設計できる。回折光学素子に関連する開示技術として、例えば特許文献1~3、及び非特許文献1~3等が挙げられる。なお、以下の記載では、従来レンズや回折光学素子が、光を屈折させたり、光を反射させたりすることで、光束の状態を変化させる度合いを示す情報を「光学作用情報」と表現する。また、例えば光学作用情報の一例として、従来レンズや回折光学素子の透過波面又は反射波面の特徴を示す波面情報を用いて表現する場合がある。
【0003】
回折光学素子として、例えばフレネルレンズや多段の階段上のバイナリーオプティクス(BO:Binary Optics)が提案、採用されている。バイナリーオプティクスと、従来レンズとを併用した構成の光学設計方法としては、等価屈折率法(高屈折率法とも呼ばれている)を使用する場合がある。上記光学設計方法では、例えば回折光学素子の回折光を表現し、その情報を使って従来レンズに対して光線追跡の光学設計ソフトウェアを使って実施される。光学設計ソフトウェアとしては、「CODE V(登録商標)」、「ZEMAX(登録商標)」、「OSLO」等が市販されている。上記ソフトウェアでは、主に等価屈折率法が使用されており、その計算例は、例えば非特許文献1に開示されている。
【0004】
ここで、回折光学素子の一つと分類できる「メタレンズ」(「フラットオプティクス」とも呼ばれている)に関しては、回折光学素子の中でも特に注目されており、活発に研究開発が行われている。メタレンズの特徴としては、バイナリーオプティクスの様に多段の階段形状とせずに、平坦なガラス等の基板に対して波長以下の微細パターンを形成することで、所望の回折作用を生じさせている。
【0005】
メタレンズは、例えばメタサーフェスと呼ばれる1回の露光及びエッチングで微細パターンを形成した構造のうち、レンズ作用を有する構造を示す。また、メタレンズの特徴として、平坦な形状を有する。このため、バイナリーオプティクスと比較した場合、コンパクトな構成が可能となり、様々な応用が期待されている。なお、メタレンズとして形成される微細パターンとしては、例えば特許文献1に開示された内容等が挙げられる。
【0006】
例えば図11(a)~図11(d)は、従来レンズ、フレネルレンズ、バイナリーオプティクス、及びメタレンズの関係を示す模式図であり、図11(a)が従来レンズ、図11(b)がフレネルレンズ、図11(c)がバイナリーオプティクス、図11(d)がメタレンズの構造を示す。
【0007】
図11(d)のメタレンズにおいて、第1パターンP1、第2パターンP2、第3パターンP3は、それぞれ異なる種類の微細パターンを示す例であり、第1パターンP1、第2パターンP2、第3パターンP3の順に、ガラス等のような素子材料の占有する領域が多い構成を示し、特許文献1に開示された「実効的屈折率」が同じ順で高い傾向を示す。なお、メタレンズの断面図を示す図11(d)を参照した場合、各パターンP1、P2、P3は面積に基づき比較されるが、実際には各パターンの体積に基づき比較することができる。
【0008】
各パターンP1、P2、P3は、使用する光学系の波長以下のサイズで設計される。なお、微細パターンを加工する際の難易度を低下させるためには、各寸法、幅のピッチが大きいほうが好ましい。例えばメタレンズを透過で使用する場合、回折格子の様な回折光がメタレンズから発生すると、回折しないで透過する光(ゼロ次光)の透過率が下がる。このため、微細パターンを加工する場合には、加工難易度と、ゼロ次光の透過率とのトレードオフを、用途に応じて最適化する必要がある。例えば回折格子からの1次回折光の角度が垂直入射の場合、90度となるのはピッチと波長が等しい場合であるが、斜入射の場合も考慮すると、透過率を優先する場合には波長の半分程度以下のピッチが好ましい。
【0009】
なお、特許文献1では、エッチング時に発生するパターン密度の差でエッチングされる形状が変わる、いわゆる「マイクロローディング」の影響を考慮したパターンを構成したメタレンズに関しての提案である。図11(d)においては第3パターンP3のみ「マイクロローディング」の影響を受けた例として、高さが低い場合を示す。また、メタレンズを使うと、バイナリーオプティクスで問題視されている「Shadowing Effect」を避けることができ、フレア光のない光学性能が優れた画像の形成をすることが可能となる。
【0010】
ここで、図12に「Shadowing Effect」の現象の一例を示す模式図を示す。階段状の垂直部を屈折した光(図12のL1)は、バイナリーオプティクスで回折して使用した光とは異なり、不要な光となり結像する場合の像に対するフレア光等になる。また、バイナリーオプティクスの平坦部には、反射防止コーティングを塗布することは困難である。このため、平坦部における反射光(図12のL2)も不要光として発生し得るため、光学特性の劣化の原因となる。これに対し、メタレンズでは、段差部の構造部からの屈折、反射光も含めての回折光を使用して、微細パターンの大きさが波長以下であり、いわゆる「構造性反射防止」の特性となる。このため、メタレンズでは、バイナリーオプティクスで発生する不要光を発生させないため、「Shadowing Effect」の発生を起こさないことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-86055号公報
【特許文献2】特開2018-31896号公報
【特許文献3】特開2021-71727号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】O plus E 2021年1・2月号(第477号)、43頁
【非特許文献2】光技術コンタクト、2021年11月号、26頁
【非特許文献3】Nature Communications volume 6, Article number: 7069 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、メタレンズの特徴として、メタレンズを構成する波長以下の微細パターンにより、光がトラップ(光トラップ)されることが知られている。この点、従来の等価屈折率法を用いた光学設計方法では、回折光を表現することを想定していない。このため、従来の等価屈折率法を用いた光学設計方法では、メタレンズのような回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の設計が難しい、という事情がある。なお「光トラップ」に関しては、後述する。
【0014】
上記根拠を明確にするため、先ずは「実行的屈折率」について説明する。例えば特許文献1に記載されている通り、メタレンズの様な波長以下の微細パターンの粗密における単位体積辺りのガラスの密度により、「実効的屈折率」を表すことができる。この点を踏まえ、図13(a)~図13(c)を使用して「実効的屈折率」の考え方を説明する。なお、図13(a)~図13(c)に記載された矢印は、光を示す。
【0015】
先ず、良く知られている様に、ある材質内を光が進む時の速さVは、真空中の光の速さC、その材質の屈折率Nとの間で下記の式(1)の関係にある。

V = C/N (1)

式(1)より、屈折率は、その材質内の光の速さを遅くする係数と考えることができる。材質が均一であれば上記で考えればよいが、例えば図13(a)の様に空気と屈折率Nの材質9との構成で、その両方の光の速さCを組合わせて考えるとすると、それぞれの平均値であると考えられるので、その速さを決定する係数として、「実効的屈折率」を考えることにする。
【0016】
例えば図13(a)の様に、空気と屈折率Nの材質9が同じ幅の場合は、平均値でよいが、図13(b)の様に、空気と屈折率Nの材質9の幅が異なる場合には、その幅の割合に応じて重みを掛けた「実効的屈折率」が決まると考える。
【0017】
例えば、図13(a)及び図13(b)の空気と、屈折率Nの材質9との幅が、透過する波長に比べて大きな場合には、光の速さに関して、2つの領域を合わせて考えるより、バイナリーオプティクスの様に、それぞれ別の速さとして、一方向に波面が変化するプリズム(レンズは複数の異なるプリズムの構成と考えられるが)による現象として捉えられる。他方、メタレンズの様な波長以下の微細パターンの場合には、上記のような2つの領域として区別ができない。このため、アンサンブル平均の併せた波面の挙動を考えるために、「実効的屈折率」としての考え方が有効である。特許文献1は、この「実効的屈折率」を「マイクロローディング」の影響を考慮した上での提案である。
【0018】
また、例えば図13(c)は、異なる2つの微細パターンの形状を有する材質9の一例を示す。材質9を空気内に配置した場合、材質9の素子材料(例えばガラス材)の占有率が高い領域では、素子材料の占有率が低い領域に比べて、光の位相が遅くなる。即ち、素子材料の占有率に比例して「実効的屈折率」の値が大きい傾向を示す。この材質9で決定される「実効的屈折率」の値を、「線形成分」と呼ぶこととする。また、メタレンズの様に、波長よりも細かい微細パターンの形状を透過する場合には、以下で説明する「非線形成分」も考慮する必要が生ずる点を、以下に説明する。
【0019】
例えば特許文献1では、線形成分のみを考慮した内容が開示されており、これから指摘する「非線形成分」については、考慮されていない。「非線形成分」を考慮する必要がある理由として、例えばメタレンズでは光導波路の様に光がトラップされ、その効果で光が遅延、位相遅れが発生するため、非線形成分が実効的な屈折率に影響する点が挙げられる。このような非線形成分が存在するため、メタレンズの光学設計を実施する際、等価屈折率法を使うことが困難とされている。
【0020】
ここで、上記光トラップに関して、特許文献2の記載を使用して説明する。特許文献2は、高速光通信用ルータ向けの光バッファー素子の提案であり、光の電磁界に共振する金属微細構造のメタマテリアルを形成することにより、比透磁率を変化させて「負の屈折率」となる現象を利用している。このメタマテリアルは、負の屈折率となり、負のグースヘンシェンシフト(Goos -Hanchen shift)により、光の進行速度を遅くすることが可能となる。この現象を「光トラップ効果」と呼んでいる。例えば、光導波路上にメタマテリアルを置くことにより、光の伝搬遅延を生じさせることが可能となる。この様にメタマテリアル構造を、シリコン光導波路上に装荷することにより可変遅延バッファーを得ることが可能となるが、これは光トラップよる遅延の現象を使用している。なお、「遅延」は光の進む速さを遅くすることなので、実効的屈折率は高い値を示す。
【0021】
なお、特許文献2では、メタマテリアルを対象として説明しているが、波長以下の微細パターンが光導波路として働くためメタサーフェスであるメタレンズでも、波長以下の微細パターンで形成されているので、同様に光トラップは発生する。このため、光トラップを考慮してのメタレンズの回折光を求めるためには、マックスウェルの方程式から厳密に計算するベクトルモデルの光学シミュレーション、有限要素法(FEM:Finite Element Method)や、有限差分時間領域法(FDTD method:Finite-difference time-domain method)等、を使用する必要がある。非特許文献1は、その一例を示すものである。
【0022】
更に、非特許文献3に記載内容のような、波長以下の微細パターンに対してのベクトルモデルの光学シミュレーションの結果を使用して、「光トラップ効果」による位相変化の「非線形成分」に関して説明する。非特許文献3のFig.1には、微細パターンの「メタ原子」の円柱直径を変えた時の透過率と位相の関係を、ベクトルモデルの光学シミュレーションをした結果が開示されている。この計算条件として、波長が1550nm、材質は屈折率が3.43のアモルファスシリコン、円柱の高さは940nmであり、上記条件に基づきFDTDを使用している(hexagonal and square lattice periodic HCTAsとの記載がされているが、パターン転写、エッチング後の形状は円の形状になるので「円柱」とここでは表現する)。
【0023】
なお、非特許文献3におけるFig.1の横軸は円柱直径であるが、「実効的屈折率」は円柱の体積で決定されるので、高さが一定であるので、横軸を円柱半径の二乗とした場合の縦軸の位相との関係を新たに求めたものを、図14(a)に示す。もし「線形成分」だけであれば「実効的屈折率」も線形で変わるので、円柱半径の二乗に変えた時の位相も、直線で変わることになる。しかしながら、図14(a)に示した通り、位相の変化は直線とはならずに非線形となる。この様に、波長以下の微細パターンの「実効的屈折率」は、「線形成分」だけでなく「非線形成分」の両方で決定される。
【0024】
また、特許文献3では、メタレンズと従来レンズとを併用した構成の光学系を挙げているが「同一位相遅延プロファイル」の記載はあるが、実際にどう光学設計を行うか等の記載はされておらず、上述した事情を解決することは難しい。
【0025】
また、非特許文献2では、スーパーコンピュータを用いたメタレンズの光学設計に関する技術が開示されている。しかしながら、メタレンズと、従来レンズとを併用した構成の光学設計については記載されておらず、上述した事情を解決することは難しい。
【0026】
従って、上述した特許文献1~3、及び非特許文献1~3の開示技術を踏まえたとしても、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計の容易化を図ることが難しい。
【0027】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計の容易化を図る光学設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
第1発明に係る光学設計方法は、従来レンズと併用するための回折光学素子の光学特性を決定する決定ステップと、前記光学特性に基づき、前記回折光学素子の光学作用情報を取得する取得ステップと、前記光学作用情報に基づき、前記従来レンズを設計する設計ステップと、を備えることを特徴とする。
【0029】
第2発明に係る光学設計方法は、第1発明において、前記回折光学素子は、メタレンズ又はフラットオプティクスであることを特徴とする。
【0030】
第3発明に係る光学設計方法は、第2発明において、前記決定ステップは、バイナリーオプティクスと、前記従来レンズとを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて前記光学特性を決定することを含むことを特徴とする。
【0031】
第4発明に係る光学設計方法は、第3発明において、前記決定ステップは、前記バイナリーオプティクスの線形成分における実効的屈折率と同じ値を示す前記メタレンズ又は前記フラットオプティクスの前記光学特性を決定することを含むことを特徴とする。
【0032】
第5発明に係る光学設計方法は、第1発明~第4発明において、前記取得ステップは、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて、前記光学作用情報を取得することを含むことを特徴とする。
【0033】
第6発明に係る光学設計方法は、第1発明又は第2発明において、前記決定ステップは、予め形成された回折光学素子製品を選択することを含み、前記取得ステップは、前記回折光学素子製品の前記光学作用情報を計測することを含むことを特徴とする。
【0034】
第7発明に係る光学設計方法は、第5発明又は第6発明において、前記設計ステップは、前記光学作用情報と同等の光学作用情報を有する非球面レンズを設計し、前記非球面レンズに基づき、前記従来レンズを設計することを含むことを特徴とする。
【0035】
第8発明に係る光学設計方法は、第5発明又は第6発明において、前記設計ステップは、前記光学作用情報に対し、多項式近似を用いて近似情報を取得し、前記近似情報に基づき、前記従来レンズを設計することを含むことを特徴とする。
【0036】
第9発明に係る光学設計方法は、第1発明~第8発明の何れかにおいて、前記光学作用情報に基づき、前記回折光学素子における微細パターンの形状を評価する評価ステップをさらに備えることを特徴とする。
【0037】
第10発明に係る光学設計方法は、第9発明において、前記評価ステップは、前記微細パターンの形状の変化に対する位相の変化分が、前記回折光学素子の製造誤差以下であるか否かを判定し、前記判定の結果が製造誤差を超える場合、前記微細パターンの形状、ピッチ、フィルファクター、及び前記回折光学素子に用いる材料の少なくとも何れかを変更することを含むことを特徴とする。
【0038】
第11発明に係る光学設計方法は、第1発明~第10発明の何れかにおいて、前記取得ステップは、対象とする複数の波長毎に前記光学作用情報を取得することを含むことを特徴とする。
【0039】
第12発明に係る光学設計方法は、第1発明~第11発明の何れかにおいて、前記光学作用情報は、前記回折光学素子の透過波面又は反射波面の特徴を示す波面情報を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
第1発明~第12発明によれば、取得ステップは、光学特性に基づき、回折光学素子の光学作用情報を取得する。また、設計ステップは、光学作用情報に基づき、従来レンズを設計する。このため、回折光学素子の光学作用情報に適した従来レンズを設計することができる。これにより、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計の容易化を図ることが可能となる。
【0041】
特に、第2発明によれば、回折光学素子は、メタレンズ又はフラットオプティクスである。このため、メタレンズ又はフラットオプティクスのような複雑な光学特性を有する素子を対象とした場合においても、容易に光学設計を実現することが可能となる。
【0042】
特に、第3発明によれば、決定ステップは、バイナリーオプティクスと、従来レンズとを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて光学特性を決定することを含む。このため、メタレンズ等の回折光学素子の光学特性を、他の光学設計の条件を用いて決定することができる。これにより、回折光学素子の光学特性を、容易に決定することが可能となる。
【0043】
特に、第4発明によれば、決定ステップは、バイナリーオプティクスの線形成分における実効的屈折率と同じ値を示すメタレンズ又はフラットオプティクスの光学特性を決定することを含む。このため、メタレンズ等の回折光学素子の光学特性を決定する際、複雑な演算を実施せずに決定することができる。これにより光学特性の決定を容易に実現することが可能となる。
【0044】
特に、第5発明によれば、取得ステップは、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて、光学作用情報を取得することを含む。このため、回折光学素子の非線形成分を考慮した上で、光学作用情報を取得することができる。これにより、光学設計における設計精度の向上を図ることが可能となる。
【0045】
特に、第6発明によれば、取得ステップは、回折光学素子製品の光学作用情報を計測することを含む。このため、シミュレーション等により光学作用情報を取得する場合に比べて、回折光学素子製品の僅かな形成誤差等も踏まえた光学作用情報を取得することができる。これにより、回折光学素子製品を対象とした光学設計における設計精度の向上を図ることが可能となる。
【0046】
特に、第7発明によれば、設計ステップは、光学作用情報と同等の光学作用情報を有する非球面レンズを設計する。このため、非球面レンズの特徴を踏まえた従来の光学設計方法を用いることができる。これにより、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0047】
特に、第8発明によれば、設計ステップは、光学作用情報に対し、多項式近似を用いて近似情報を取得する。このため、近似情報を踏まえた従来の光学設計方法を用いることができる。これにより、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0048】
特に、第9発明によれば、評価ステップは、光学作用情報に基づき、回折光学素子における微細パターンの形状を評価する。このため、光学設計を進める途中において、微細パターンの形状の変更等を検討することができる。これにより、光学設計に費やす時間の削減を図ることが可能となる。
【0049】
特に、第10発明によれば、評価ステップは、微細パターンの形状の変化に対する位相の変化分が、回折光学素子の製造誤差以下であるか否かを判定する。このため、回折光学素子の製造誤差を踏まえた光学設計を実施することができる。これにより、光学設計における設計精度のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0050】
特に、第11発明によれば、取得ステップは、対象とする複数の波長毎に光学作用情報を取得することを含む。このため、用途に適した光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0051】
特に、第12発明によれば、光学作用情報は、回折光学素子の透過波面又は反射波面の特徴を示す波面情報を含む。このため、従来の光学設計に用いられる方法に近い方法により、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の光学設計を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、回折光学素子と、従来レンズとを併用した構成の一例を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態における光学設計方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、第1実施形態における決定ステップ、取得ステップ、及び設計ステップの一例を示すフローチャートである。
図4図4は、バイナリーオプティクスと、従来レンズとを併用して光学設計する際の構成の一例を示す模式図である。
図5図5は、バイナリーオプティクスと、メタレンズとの関係を示す模式図である。
図6図6(a)は、バイナリーオプティクスの段差の一例を示す模式図であり、図6(b)は、図6(a)における破線枠の拡大模式図であり、図6(c)は、図6(b)と等しい実効的屈折率を有するメタレンズの模式図であり、図6(d)は、図6(c)の周辺を示す模式図である。
図7図7(a)~図7(c)は、非球面レンズと、従来レンズとを併用して光学設計する際の構成の一例を示す模式図である。
図8図8は、第2実施形態における決定ステップ、取得ステップ、及び設計ステップの一例を示すフローチャートである。
図9図9は、フィゾー干渉計の一例を示す模式図である。
図10図10は、第3実施形態における決定ステップ、取得ステップ、及び設計ステップの一例を示すフローチャートである。
図11図11(a)は、従来レンズの一例を示す模式図であり、図11(b)は、フレネルレンズの一例を示す模式図であり、図11(c)は、バイナリーオプティクスの一例を示す模式図であり、図11(d)は、メタレンズの一例を示す模式図である。
図12図12は、バイナリーオプティクスに発生する「Shadowing Effect」の一例を示す模式図である。
図13図13(a)~図13(c)は、実効的屈折率の一例を示す模式図である。
図14図14(a)は、微細パターンの形状の体積と、位相との関係を示すグラフであり、図14(b)は、図14(a)の曲線に関し、半径の二乗に対して微分した結果と、位相の変化の絶対値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の実施形態としての光学設計方法の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、各図における構成は説明のため模式的に記載されており、構成毎における形状や厚さ等については、図とは異なってもよい。
【0054】
(第1実施形態)
図1は、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の一例を示す模式図である。図2は、本実施形態における光学設計方法の一例を示すフローチャートである。
【0055】
本実施形態における光学設計方法は、例えば図1に示すように、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計を実現するために用いられる。光学設計方法では、例えば絞り3、回折光学素子1、及び従来レンズ2の順に配置された構成に基づき、無限遠物体からの平行光4が入射したときの集光5に関する情報を取得することができる。
【0056】
回折光学素子1は、位相変調型光学素子とも呼ばれる素子を示し、例えばメタレンズ11又はフラットオプティクスである。従来レンズ2は、回折光学素子1とは異なる特徴を有し、屈折型レンズ、発散型レンズ、反射型レンズ等のようなレンズを示す。
【0057】
本実施形態における光学設計方法は、例えば図2に示すように、決定ステップS1と、取得ステップS2と、設計ステップS3とを備え、例えば評価ステップS4を備えてもよい。なお、例えば光学設計方法は、設計すべき仕様を確定する準備ステップS0を備えてもよい。
【0058】
決定ステップS1は、従来レンズ2と併用するための回折光学素子1の光学特性を決定する。決定ステップS1では、例えばメタレンズ11等のような回折光学素子1の光学特性に紐づくレンズの種類や形状等を決定してもよい。光学特性は、例えば波長、焦点距離、Fナンバー、許容各種収差量のようなパラメータを含み、後述する公知の光学追跡用光学設計ソフトウェアに対して入力する。
【0059】
取得ステップS2は、光学特性に基づき、回折光学素子1の光学作用情報を取得する。光学作用情報は、例えば公知の光学追跡用光学設計ソフトウェアで使用可能な情報を示す。光学作用情報は、例えば回折光学素子1の透過波面又は反射波面の特徴を示す波面情報を含む。
【0060】
設計ステップS3は、光学作用情報に基づき、従来レンズ2を設計する。設計ステップS3では、例えば公知の光学追跡用光学設計ソフトウェアを用いて、従来レンズ2を対象とした光学設計を実施する。
【0061】
光学設計方法では、特に取得ステップS2及び設計ステップS3を実施することで、回折光学素子1の光学作用情報に適した従来レンズ2を設計することができる。これにより、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計の容易化を図ることが可能となる。
【0062】
以下、光学設計方法の一例について、詳細に説明する。なお、以下では回折光学素子1の一例としてメタレンズ11を用いて説明する。
【0063】
図3は、本実施形態における決定ステップS1、取得ステップS2、及び設計ステップS3の一例を示すフローチャートである。図4は、バイナリーオプティクス21と、従来レンズ22とを併用して光学設計する際の構成の一例を示す模式図である。
【0064】
<決定ステップS1>
決定ステップS1は、従来レンズ2と併用するためのメタレンズ11の光学特性を決定する。決定ステップS1は、例えばバイナリーオプティクス21と、従来レンズ22とを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて前記光学特性を決定する。なお、ここでは軸上画角のみ収差を補正すればよい場合を説明する。なお、従来レンズ22の種類及び数は、任意である。
【0065】
決定ステップS1では、例えば図4に示すように、バイナリーオプティクス21と、従来レンズ22とを併用した構成を、公知の光追跡の光学設計ソフトウェアを用いて設計する。この際、例えば準備ステップS0で確定した仕様に基づき、上記構成を設計する。決定ステップS1は、例えば等価屈折法を用いて、上記構成を設計してもよい。
【0066】
その後、バイナリーオプティクス21から、メタレンズ11の線形成分に対応する光学特性を導出する。ここで、例えば図5に示すように、バイナリーオプティクス21に形成された階段の高さに対する実効的屈折率は、メタレンズ11に形成される微細パターンの実効屈折率に対応させることができる。この対応関係を踏まえ、メタレンズ11の光学特性の導出例を説明する。
【0067】
例えば図6(a)に示すように、バイナリーオプティクス21の段差dが下式(2)となる関係に設定された場合、バイナリーオプティクス21に対して垂直入射の平面波の光が透過すると、段差dの影響によりαλの位相差が生じる。

Nd-d = αλ ・・・(2)

ここで、式(2)内の文字は下記の通りである。
λ:光の波長
N:バイナリーオプティクス21の材質の屈折率(例えば空気に対する相対屈折率)
α:任意の係数(仕様により異なる)
【0068】
上式(2)により、バイナリーオプティクス21における各階段の高さは、係数αを異なる値とすることで、仕様に適した位相差を得ることができる。例えばαを1とした場合には、位相差2πを満たす段差dを導出することができる。
【0069】
次に、例えば図6(b)に示すように、段差dの形成された階段面の一部の領域SBを設定する。領域SBの高さd1及び幅Pは、それぞれ任意に設定することができる。
【0070】
次に、例えば図6(c)に示すように、領域SBの体積に等しい体積を有する凸部SCを、メタレンズ11に形成される微細パターンとして導出する。凸部SCの導出には、例えば下式(3)が用いられる。

P×d1 = a×b ・・・(3)

ここで、式(3)内の各文字は下記の通りである。
P:領域SBの幅
a:凸部SCの幅
b:凹部の深さ

この際、領域SBの幅Pは、メタレンズ11に形成される微細パターンのピッチPmとし、凸部SCに隣接する凹部の深さbは、段差dと高さd1とを足し合わせた値に等しくする。なお、上式(3)では長さ(紙面奥行き)は1として示しているが、例えば左辺に領域SBの長さ、及び右辺に凸部SCの長さを、それぞれ掛け合わせてもよい。
【0071】
上式(3)の演算を、段差dの形成された階段面全体に亘って実施することで、例えば図6(d)に示すメタレンズ11に形成される微細パターンを導出することができる。なお、図6(d)の破線枠が、図6(c)に対応する。導出されたメタレンズ11の微細パターンにおける線形成分の実効的屈折率は、バイナリーオプティクス21における段差dの形成された部分(例えば図6(a))における線形成分の実効的屈折率と等しい。
【0072】
上式(2)及び上式(3)の演算を、バイナリーオプティクス21全体に亘って実施することで、メタレンズ11に形成される微細パターンを導出することができる。これにより、メタレンズ11の光学特性を導出することができる。
【0073】
なお、例えばメタレンズ11に形成される微細パターンとして、微細パターンのピッチPmを一定として、フィルファクター(凸部SCの幅aと、凹部の幅との比率と同様)の異なる複数種類の微細パターンが導出されてもよい。また、メタレンズ11に形成される微細パターンとして、フィルファクターを一定として、微細パターンのピッチPmの異なる複数種類の微細パターンが導出されてもよい。即ち、上述したバイナリーオプティクス21からメタレンズ11の光学特性を導出する際、実効的屈折率が等しくなる微細パターンを形成できれば、任意の方法により導出することができる。
【0074】
<取得ステップS2>
取得ステップS2は、光学特性に基づき、メタレンズ11の光学作用情報を取得する。取得ステップS2では、例えばFDTD等のベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて、メタレンズ11の光学作用情報を取得する。これにより、上述した線形成分の実効的屈折率に加え、非線形成分の情報を含む光学作用情報を取得することができる。なお、複数の波長に対して光学作用情報が異なる場合には、波長毎に光学作用情報を取得してもよい。取得ステップS2では、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いる際、例えば波長、焦点距離、Fナンバー、許容各種収差量のようなパラメータを入力して光学作用情報を取得する。
【0075】
<設計ステップS3>
設計ステップS3は、光学作用情報に基づき、従来レンズ2を設計する。設計ステップS3は、例えば光学作用情報と同等の光学作用情報を有する非球面レンズを設計する。非球面レンズは、例えば公知の光学追跡の光学設計ソフトウェアを用いて設計することができる。
【0076】
その後、設計された非球面レンズに基づき、従来レンズ2を設計する。従来レンズ2の設計は、例えば公知の光学追跡の光学設計ソフトウェアを用いて設計することができる。なお、設計された従来レンズ2は、例えば決定ステップS1にて設計された従来レンズ22と等しいほか、異なる特徴を有してもよい。設計ステップS3では、公知の光学設計ソフトウェアを用いる際、例えば波長、焦点距離、Fナンバー、許容各種収差量のようなパラメータを入力して従来レンズ2を設計する。
【0077】
ここで、屈折率は波長により変わるため、特定の形状における実効的屈折率も、波長により異なる。このため、複数の波長における収差補正が必要となる場合には、取得ステップS2において、複数の波長毎に対応する光学作用情報を求め、設計ステップS3において、各光学作用情報に対応する非球面レンズを設計する。
【0078】
例えば複数の波長として三波長を対象とした場合、例えば図7(a)~図7(c)に示すように、三波長の各波長に対応する非球面レンズ31、32、33を設計する。その後、各非球面レンズ31、32、33に基づき、それぞれに共通する従来レンズ2を設計することで、三波長に対応する従来レンズ2の設計を実現することができる。
【0079】
<評価ステップS4>
例えば図1に示すように、設計ステップS3のあと、評価ステップS4を実施してもよい。評価ステップS4は、設計された構成が、準備ステップS0等で確定された仕様を満たすか否かを判断し、満たす場合には終了(End)し、満たさない場合には決定ステップS1を再び実施する。なお、評価ステップS4は、例えば仕様を満たさない場合に、取得ステップS2又は設計ステップS3を再び実施するようにしてもよい。
【0080】
本実施形態によれば、例えば以下の様なことが可能となる。まず、メタレンズ11等の回折光学素子1単体の設計時間が短縮できる。メタレンズ11だけを結像系に使用を考えるとすると、メタレンズ11だけで光学性能を仕様内に追い込む最適化が必要となり、一条件、数時間掛かるベクトルモデルの光学シミュレーションを使った計算を複数回、実施する必要がある。これに対し、本実施形態によれば、メタレンズ11の光学性能は、従来レンズ2と併せて仕様内にすればよいので、メタレンズ11に対しての複数回の光学性能を収束させる様な最適化のためのベクトルモデルの光学シミュレーションを使った計算が不要となる。このため、従来レンズ2のみの最適化により目的を達成することが可能となる。
【0081】
即ち、本実施形態によれば、取得ステップS2は、光学特性に基づき、回折光学素子1の光学作用情報を取得する。また、設計ステップS3は、光学作用情報に基づき、従来レンズ2を設計する。このため、回折光学素子1の光学作用情報に適した従来レンズ2を設計することができる。これにより、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計の容易化を図ることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態によれば、回折光学素子1は、メタレンズ11又はフラットオプティクスである。このため、メタレンズ11又はフラットオプティクスのような複雑な光学特性を有する素子を対象とした場合においても、容易に光学設計を実現することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態によれば、決定ステップS1は、バイナリーオプティクス21と、従来レンズ22とを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて光学特性を決定することを含む。このため、メタレンズ11等の回折光学素子1の光学特性を、他の光学設計の条件を用いて決定することができる。これにより、回折光学素子1の光学特性を、容易に決定することが可能となる。
【0084】
また、本実施形態によれば、決定ステップS1は、バイナリーオプティクス21の線形成分における実効的屈折率と同じ値を示すメタレンズ11又はフラットオプティクスの光学特性を決定することを含む。このため、メタレンズ11等の回折光学素子1の光学特性を決定する際、複雑な演算を実施せずに決定することができる。これにより光学特性の決定を容易に実現することが可能となる。
【0085】
また、本実施形態によれば、取得ステップS2は、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて、光学作用情報を取得することを含む。このため、回折光学素子1の非線形成分を考慮した上で、光学作用情報を取得することができる。これにより、光学設計における設計精度の向上を図ることが可能となる。
【0086】
また、本実施形態によれば、設計ステップS3は、光学作用情報と同等の光学作用情報を有する非球面レンズを設計する。このため、非球面レンズの特徴を踏まえた従来の光学設計方法を用いることができる。これにより、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0087】
また、本実施形態によれば、取得ステップS2は、対象とする複数の波長毎に光学作用情報を取得することを含む。このため、用途に適した光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0088】
また、本実施形態によれば、光学作用情報は、回折光学素子1の透過波面又は反射波面の特徴を示す波面情報を含む。このため、従来の光学設計に用いられる方法に近い方法により、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計を図ることが可能となる。
【0089】
なお、上述した実施形態では、光学作用情報のうち透過波面を用いて一部説明しているが、反射波面等のような他の光学作用情報を用いる場合においても、公知技術を踏まえて上記と同様のステップを行うことができる。
【0090】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態における光学設計方法の一例について説明する。図8は、本実施形態における決定ステップS1、取得ステップS2、及び設計ステップS3の一例を示すフローチャートである。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、光学作用情報を計測する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0091】
本実施形態の光学設計方法では、決定ステップS1は、予め形成された回折光学素子製品47を選択することで、光学特性を決定する。また、本実施形態の光学設計方法では、取得ステップS2は、回折光学素子製品47の光学作用情報を計測することで、光学作用情報を取得する。
【0092】
即ち、本実施形態では、回折光学素子1の光学作用情報を取得する際、上述したベクトルモデルの光学シミュレーションを用いない。その代わりに、物理的に存在する回折光学素子製品47を用いて、光学作用情報を計測する。なお、回折光学素子製品47の設計方法や製造方法については、任意である。このため、決定ステップS1では、例えば複数の回折光学素子製品47のうち、仕様に適した回折光学素子製品47を選択することで、光学特性を決定することができる。
【0093】
取得ステップS2は、例えば図9に示すように、公知の干渉計を用いて、回折光学素子製品47の光学作用情報を計測する。この場合、光学作用情報のうち、透過波面の特徴を示す波面情報を計測することができる。
【0094】
図9に示す干渉計は、異なる発振波長を出力する発振装置41、42、43を含むフィゾー干渉計である。この干渉計を用いた場合、それぞれ異なる光路を経由した第1光46及び第2光48により発生する干渉縞をCCDカメラ50で検出し、検出結果から回折光学素子製品47の透過波面の特徴を示す波面情報を取得する。第1光46は、反射参照面45で反射した光を示す。第2光48は、回折光学素子製品47を透過して集光したあと、凹面鏡反射鏡49で反射した光を示す。
【0095】
本実施形態の光学設計方法では、予め形成された回折光学素子製品47が用いられる。このため、上述したメタレンズ11又はフラットオプティクスのほか、物理的に存在するフレネルレンズや、バイナリーオプティクス21等も、回折光学素子1として選択することができる。
【0096】
本実施形態によれば、取得ステップS2は、回折光学素子製品47の光学作用情報を計測することを含む。このため、シミュレーション等により光学作用情報を取得する場合に比べて、回折光学素子製品47の僅かな形成誤差等も踏まえた光学作用情報を取得することができる。これにより、回折光学素子製品47を対象とした光学設計における設計精度の向上を図ることが可能となる。
【0097】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態における光学設計方法の一例について説明する。図10は、本実施形態における決定ステップS1、取得ステップS2、及び設計ステップS3の一例を示すフローチャートである。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、画角毎に非球面レンズを設計する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0098】
本実施形態の光学設計方法では、取得ステップS2は、画角毎に複数の光学作用情報を取得する。また、本実施形態の光学設計方法では、設計ステップS3は、複数の光学作用情報毎に紐づく複数の非球面レンズを設計し、各非球面レンズに基づき、それぞれに共通する従来レンズ2を設計する。このため、用途に適した光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0099】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態における光学設計方法の一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、光学作用情報に対し、多項式近似を用いる点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0100】
本実施形態の光学設計方法では、設計ステップS3は、光学作用情報に対し、多項式近似を用いて近似情報を取得し、近似情報に基づき、従来レンズ2を設計する。
【0101】
即ち、本実施形態では、光学作用情報に対する非球面レンズを設計しない。その代わりに、多項式近似を用いて算出された近似情報を取得する。多項式近似として、ゼルニケ多項式が用いられるほか、例えばルジャンドル多項式、チェビシェフ多項式、エルミート多項式、Forbes多項式等のような公知の多項式近似が用いられてもよい。
【0102】
本実施形態によれば、設計ステップS3は、光学作用情報に対し、多項式近似を用いて近似情報を取得する。このため、近似情報を踏まえた従来の光学設計方法を用いることができる。これにより、回折光学素子1と、従来レンズ2とを併用した構成の光学設計のさらなる容易化を図ることが可能となる。
【0103】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態における光学設計方法の一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、回折光学素子1における微細パターンの形状を評価する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0104】
本実施形態の光学設計方法では、評価ステップS4は、光学作用情報に基づき、回折光学素子1における微細パターンの形状を評価する。また、本実施形態の光学設計方法では、例えば評価ステップS4は、微細パターンの形状の変化に対する位相の変化分が、回折光学素子1の製造誤差以下であるか否かを判定する。そして、判定の結果が製造誤差を超える場合、微細パターンの形状、ピッチPm、フィルファクター、及び回折光学素子1に用いる材料の少なくとも何れかを変更する。
【0105】
即ち、本実施形態では、設計ステップS3の結果のような光学設計全体に対する評価のほか、回折光学素子1単体に関する評価も実施することができる。なお、評価ステップS4は、設計ステップS3の後に実施するほか、取得ステップS2の後に実施してもよい。
【0106】
例えば評価ステップS4を設計ステップS3の後に実施する場合、評価ステップS4は、判定の結果が製造誤差以下の場合、光学設計方法を終了してもよい。また、例えば評価ステップS4を取得ステップS2の後に実施する場合、評価ステップS4は、判定の結果が製造誤差以下の場合、設計ステップS3を実施してもよい。
【0107】
なお、製造誤差は、規格に対して許容可能な誤差範囲内を示し、規格に応じて任意に設定できる。製造誤差として、例えば微細パターンの形状の変化に対する位相の変化分が、5%以下の有限値が用いられる。
【0108】
光学作用情報は、例えば図14(a)に示すように、メタレンズ11における微細パターンの体積と、位相との関係で示すことができる。また、例えば図14(b)のグラフは、図14(a)の曲線に関し、半径の二乗に対して微分した結果と、位相の変化の絶対値との関係を示す。
【0109】
図14(a)及び図14(b)に示す通り、位相の変化が急峻に変化する領域があるが、それに対応する円柱直径とすると製造誤差等により所望の円柱直径とならないので、位相も変化することとなる。
【0110】
そのため、メタレンズ11の微細パターンを設計する場合には、位相の変化が急峻に変化する領域を避ける様にすることが有効である。しかしながら、例えば位相の変化が急峻に変化する領域を選択しなければ、バイナリーオプティクス21から、メタレンズ11の線形成分に対応する光学特性を導出できない場合がある。この場合には、微細パターンのピッチPm等を変えることで、位相の変化が急峻に変化する領域を避けることも有効である。
【0111】
即ち、図14(a)に記載した破線丸枠内の領域のように、急峻に位相が変化する部分を考慮することを意味する。この領域における微細パターンの半径は、213nm程度(図14(a)の横軸は半径の二乗値)とすると、材料の誤差や製造誤差により設計の屈折率、微細パターンの形状から異なる場合には、位相が設計の値から大きく変化し、所望の光学特性を得ることができない可能性がある。そのため、図14(a)の微分系である図14(b)の縦軸が、0.05(5%)以下の値の半径となることが好ましい。
【0112】
そのため、例えば図11(c)に示したバイナリーオプティクス21は、3段の場合であるが、更に多段の、例えば8段等の場合(不図示)では、段毎の段差量が小さな値となる。このため、図11(d)のメタレンズ11に換算した場合には、図14(a)の丸部の領域の急峻に位相が変化する様な半径になる可能性がある。この場合には、メタレンズ11における微細パターンのピッチPm等を部分的に変えることで、急峻に位相が変化することを避けることで、本発明を有効に実現化できる。なお、微細パターンのピッチPm等を変えても最適化できない場合は材質も変えてもよい。それでも問題の場合は、バイナリーオプティクス21の設計まで戻って設計を行ってもよい。
【0113】
本実施形態によれば、評価ステップS4は、光学作用情報に基づき、回折光学素子1における微細パターンの形状を評価する。このため、光学設計を進める途中において、微細パターンの形状の変更等を検討することができる。これにより、光学設計に費やす時間の削減を図ることが可能となる。
【0114】
また、本実施形態によれば、評価ステップS4は、微細パターンの形状の変化に対する位相の変化分が、回折光学素子1の製造誤差以下であるか否かを判定する。このため、回折光学素子1の製造誤差を踏まえた光学設計を実施することができる。これにより、光学設計における設計精度のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0115】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0116】
1 :回折光学素子
2 :従来レンズ
3 :絞り
4 :平行光
5 :集光
11 :メタレンズ
21 :バイナリーオプティクス
22 :従来レンズ
31 :非球面レンズ
32 :非球面レンズ
33 :非球面レンズ
41 :発振装置
42 :発振装置
43 :発振装置
45 :反射参照面
46 :第1光
47 :回折光学素子製品
48 :第2光
49 :凹面鏡反射鏡
50 :CCDカメラ
S0 :準備ステップ
S1 :決定ステップ
S2 :取得ステップ
S3 :設計ステップ
S4 :評価ステップ
SB :領域
SC :凸部
d :段差
d1 :高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14